説明

撥水性表面を有する樹脂製品の製造方法

【課題】短時間で効率的に撥水処理液を浸透させて撥水性を付与することができ、撥水処理の耐久性にも優れた、撥水性表面を有する樹脂製品の製造方法を提供する。
【解決手段】樹脂製品を加熱成形した後、樹脂製品の温度が前記加熱成形の温度の近傍である状態で樹脂製品に撥水処理液を供給することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撥水性表面を有する樹脂製品の製造方法に関するものであり、さらに詳しくは、樹脂製品への浸透性を有する撥水処理液により撥水処理する樹脂製品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、洗面ユニットやキッチンユニットのカウンター用人造大理石等のような水廻りに用いる樹脂製品は、その表面に撥水性を付与することが行われている。
【0003】
このような樹脂製品の表面に撥水性を付与するための処理としては、撥水処理コーティングが一般的である。
【0004】
しかしながら、撥水処理コーティングは、塗装、乾燥硬化等の工程が必要であり、樹脂製品の製造のために工程数と時間とエネルギーを要していた。
【0005】
この問題点を改善する技術として、樹脂製品の表面に浸透性を有する撥水処理液を供給し、樹脂製品の表面を改質する方法が提案されている(特許文献1)。この方法では、樹脂製品の表面に浸透性を有する撥水処理液を塗布して供給した後、自然乾燥または加熱乾燥し、浸透せずに表面で乾いた撥水処理液の膜を中性洗剤等で拭き取ることにより仕上げている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4289284号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の方法も、樹脂製品に撥水処理液を供給した後、乾燥するまでに比較的長時間を要し、例えば自然乾燥の場合1〜24時間を要する。
【0008】
この乾燥時間を短縮するために、乾燥工程を導入することも考えられるが、強制的に乾燥することにより撥水処理液の浸透が抑制されてしまう。その結果、撥水処理の耐久性が低下し、樹脂製品の用途範囲を狭めてしまうという問題点があった。
【0009】
本発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、短時間で効率的に撥水処理液を浸透させて撥水性を付与することができ、撥水処理の耐久性にも優れた、撥水性表面を有する樹脂製品の製造方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の樹脂製品の製造方法は、撥水性表面を有する樹脂製品の製造方法において、樹脂製品を加熱成形した後、樹脂製品の温度が前記加熱成形の温度の近傍である状態で樹脂製品に撥水処理液を供給することを特徴とする。
【0011】
この樹脂製品の製造方法において、樹脂製品は、充填剤を含有する成形品であることが好ましい。
【0012】
この樹脂製品の製造方法において、撥水処理液を、80℃以上の所定の温度で樹脂製品を加熱成形した後、脱型時の温度から20℃低下するまでの間に樹脂製品に供給することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、短時間で効率的に撥水処理液を浸透させて撥水性を付与することができ、撥水処理の耐久性にも優れている。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明について詳細に説明する。
【0015】
本発明は、樹脂製品の製造における撥水性の付与に際して、樹脂製品を加熱成形した後、樹脂製品の温度が加熱成形の温度の近傍である状態で樹脂製品に撥水処理液を供給することを特徴としている。
【0016】
このように、成形直後の温度に近い状態であるため、樹脂製品が熱軟化している状態で撥水処理液が供給される。そのため、樹脂製品の内部まで撥水処理液を十分に浸透させることができ、撥水性を付与することができる。さらに撥水処理液が樹脂製品の内部の深くまで浸透するため、長期間の間撥水性を保持することができ、撥水処理の耐久性にも優れている。
【0017】
本発明において、樹脂製品としては、特に限定されるものではないが、例えば、熱硬化性樹脂等を用いることができる。
【0018】
熱硬化性樹脂としては、特に限定されるものではないが、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂等を用いることができる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0019】
樹脂製品は、充填剤を含有する成形品であることが好ましい。充填剤を含有する成形品は、本発明の樹脂製品の製造方法により撥水処理の時間、効率、および耐久性等を大幅に向上させることができる。
【0020】
充填剤を含有する成形品としては、特に限定されるものではないが、例えば、シートモールディングコンパウンド(SMC)やバルクモールディングコンパウンド(BMC)により作製され、ガラス繊維等の強化繊維を配合した繊維強化プラスチック等を用いることができる。
【0021】
中でも、本発明の樹脂製品の製造方法は、洗面ユニットやキッチンユニットのカウンター等のように、水や洗剤、あるいは化粧品等との接触機会の多い部分に用いられる樹脂製品に好適である。このような樹脂製品としては、例えば、不飽和ポリエステル樹脂やビニルエステル樹脂等による人造大理石等が挙げられる。
【0022】
不飽和ポリエステル樹脂を用いたSMCまたはBMC用のコンパウンド(樹脂組成物)としては、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、重合性単量体、低収縮剤、充填剤、および強化繊維を配合したものを用いることができる。
【0023】
不飽和ポリエステル樹脂としては、例えば、脂肪族不飽和ポリカルボン酸、脂肪族飽和ポリカルボン酸、芳香族ポリカルボン酸等の不飽和または飽和のポリカルボン酸と、ジオール、トリオール、テトラオール等の有機ポリオールとの縮合反応により得られる熱硬化性樹脂等を用いることができる。
【0024】
重合性単量体としては、特に限定されるものではないが、例えば、スチレン等の架橋可能な不飽和単量体等を用いることができる。
【0025】
低収縮剤としては、不飽和ポリエステル樹脂の硬化収縮を低減させる目的で配合されるものであれば、特に限定されるものではないが、例えば、ポリスチレンや、ポリスチレン酢酸ビニル共重合体等のポリスチレン変性共重合体等の熱可塑性樹脂等を用いることができる。
【0026】
充填剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、シリカ、マイカ、ガラスビーズ等の無機物を用いることができる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0027】
強化繊維としては、例えば、従来より不飽和ポリエステル樹脂による繊維強化プラスチックの強化繊維として用いられているガラス繊維等を用いることができる。
【0028】
不飽和ポリエステル樹脂を用いたコンパウンドには、上記の成分以外に、必要に応じて他の成分を配合することができる。このような他の成分としては、例えば、増粘剤、不飽和ポリエステル樹脂の硬化条件を調整するための硬化剤、硬化促進剤、重合禁止剤等が挙げられる。その他、着色剤、離型剤等の有機系、無機系の添加剤を必要に応じて配合することができる。
【0029】
本発明において、以上に説明したような樹脂製品を加熱成形する際には、加熱成形の方法は特に限定されるものではないが、例えば、圧縮成形、射出成形等を適用できる。
【0030】
そして本発明では、樹脂製品を加熱成形した後、樹脂製品の温度が加熱成形の温度の近傍である状態で樹脂製品に撥水処理液を供給する。
【0031】
撥水処理液としては、特に限定されるものではないが、例えば、撥水処理剤を樹脂製品に対して浸透性のある溶剤で希釈したもの等を用いることができる。このような溶剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、酢酸ブチル等の炭素数5〜10のエステルや、当該エステルと、これと相溶性のある溶剤との混合物等を用いることができる。
【0032】
撥水処理剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、シリコーンオイル系、フッ素系等の撥水処理剤等を用いることができる。具体的には、例えば、メチルフェニルシリコーンオイル、フルオロアルキル基を有する低分子化合物、フルオロアルキル基を有する化合物の超微粒子(例えば平均粒径1μm以下)等が挙げられる。これらは市販品を用いることもでき、調剤として調製したものを用いることもできる。
【0033】
溶剤への撥水処理剤の溶解または分散による濃度は、樹脂製品の材料や撥水性の度合等を考慮して設定することができる。
【0034】
樹脂製品に撥水処理液を供給する際には、樹脂製品の温度が加熱成形の温度の近傍である状態で行う。ここで加熱成形の温度(金型温度)は、通常の熱硬化性樹脂の成形温度であれば特に限定されないが、通常は80℃以上、好ましくは80〜200℃である。
【0035】
樹脂製品の温度が加熱成形の温度の近傍である状態で樹脂製品に撥水処理液を供給することで、樹脂製品が熱軟化している状態で撥水処理液が供給される。そのため、樹脂製品の内部まで撥水処理液を十分に浸透させることができ、撥水性を付与することができる。さらに撥水処理液が樹脂製品の内部の深くまで浸透するため、長期間の間撥水性を保持することができ、撥水処理の耐久性にも優れている。このような点を考慮すると、80℃以上の所定の温度で樹脂製品を加熱成形した後、脱型時の温度から20℃低下するまでの間に樹脂製品に撥水処理液を供給することが好ましい。脱型時からの温度低下が大き過ぎると、撥水処理液が浸透しにくくなる場合がある。
【実施例】
【0036】
以下に、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
<実施例1>
不飽和ポリエステル樹脂のSMCを用いて成形品を作製した。SMC用のコンパウンドの材料およびガラス繊維として次のものを用いた。
・不飽和ポリエステル樹脂:昭和高分子株式会社製「M580」
・重合性単量体:スチレン、三菱化学株式会社製、CAS{00−42−5}準拠スチレンモノマー
・低収縮剤:ポリスチレンポリ酢酸ビニル共重合体(組成比50/50)、日本油脂株式会社製「モディパーS501」
・充填剤:炭酸カルシウム、白石工業株式会社製「ホワイトンSB青」
・硬化剤:t−アミルパーオキシイソプロピルカーボネート
・離型剤:ステアリン酸亜鉛、川村化成工業株式会社製
・重合禁止剤:p−ベンゾキノン
・増粘剤:酸化マグネシウム、協和化学株式会社製「キョーマグ#40」
・ガラス繊維:日東紡績株式会社製「RS480PB−549」
不飽和ポリエステル樹脂80質量部、低収縮剤/重合性単量体(ポリスチレン/スチレン)溶液15質量部(質量比35/65)、充填剤150質量部、硬化剤1質量部、離型剤5質量部、重合禁止剤0.05質量部、および増粘剤1質量部を混合し、これにガラス繊維を含浸させた。その後、40℃で24時間養生させてSMCを得た。
【0037】
このSMCを用いて、プレス機により140℃で加熱成形を行い、200mm角、厚み3mmの評価板を得た。
【0038】
金型から取り出した直後の評価板に、撥水処理剤(石材保護剤、ダイキン工業株式会社製「エフトーンGM105D」)を溶剤の酢酸ブチルで10倍希釈した撥水処理液を塗布して供給した。5分後に中性洗剤で評価板の表面を洗浄し、撥水処理を完了した。評価板の温度は撥水処理開始時が140℃、撥水処理完了時が110℃であった。
【0039】
この評価板について、中性洗剤を滴下しながらスポンジ磨耗処理20000回を行った。このスポンジ磨耗処理の前後の室温での水接触角を測定し、撥水処理の耐久性を確認した。
<比較例1>
撥水処理を施さなかった以外は実施例1と同様にして評価板を得た。この評価板について、中性洗剤を滴下しながらスポンジ磨耗処理20000回を行った。このスポンジ磨耗処理の前後の室温での水接触角を測定し、撥水処理の耐久性を確認した。
<比較例2>
実施例1と同様にして評価板を成形し、評価板が室温になった後、実施例1で用いた撥水処理液を塗布して供給した。常温で1時間乾燥後、120℃で1時間加熱し、室温まで放冷した後、中性洗剤で評価板の表面を洗浄し、撥水処理を完了した。
【0040】
この評価板について、中性洗剤を滴下しながらスポンジ磨耗処理20000回を行った。このスポンジ磨耗処理の前後の室温での水接触角を測定し、撥水処理の耐久性を確認した。
<比較例3>
実施例1と同様にして評価板を成形し、金型から取り出した後の評価板に、温度が脱型時の140℃から110℃になった時点で、実施例1で用いた撥水処理液を塗布して供給し、撥水処理を行った。評価板の撥水処理完了時の温度は90℃であった。撥水処理後の評価板は、室温まで放冷後に表面を中性洗剤で洗浄した。
【0041】
この評価板について、中性洗剤を滴下しながらスポンジ磨耗処理20000回を行った。このスポンジ磨耗処理の前後の室温での水接触角を測定し、撥水処理の耐久性を確認した。
【0042】
実施例1および比較例1〜3の水接触角の測定結果を表1に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
表1より、評価板を加熱成形した後、その温度が加熱成形の温度の近傍である状態で、特に脱型時の温度から20℃低下するまでの間に撥水処理液を供給した場合には、実施例1に見られるように撥水処理およびその耐久性の両方について大幅な向上が確認された。そして撥水処理のために要する時間も従来に比べて大幅に短縮できた。
【0045】
一方、撥水処理を施さなかった比較例1では撥水性がなく、室温で撥水処理液を供給した比較例2では初期の撥水性は得られたものの耐久性が低いものであった。また、金型から取り出した後の評価板に、温度が脱型時の140℃の近傍から大きく下がった時点で撥水処理液を供給した比較例3も、比較例2と同様に初期の撥水性は得られたものの耐久性が低いものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
撥水性表面を有する樹脂製品の製造方法において、前記樹脂製品を加熱成形した後、前記樹脂製品の温度が前記加熱成形の温度の近傍である状態で前記樹脂製品に撥水処理液を供給することを特徴とする樹脂製品の製造方法。
【請求項2】
前記樹脂製品は、充填剤を含有する成形品であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂製品の製造方法。
【請求項3】
前記撥水処理液を、80℃以上の所定の温度で前記樹脂製品を加熱成形した後、脱型時の温度から20℃低下するまでの間に前記樹脂製品に供給することを特徴とする請求項1または2に記載の樹脂製品の製造方法。

【公開番号】特開2012−45486(P2012−45486A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−189895(P2010−189895)
【出願日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】