撥水撥油剤で処理された化学繊維からなる布中の炭素数が20以下である低分子の有機化合物の分析方法

【課題】撥水撥油剤で処理された化学繊維からなる布中に微量に存在する炭素数が20以下である低分子の有機化合物を精度よく分析できる方法を提供する。
【解決手段】(a)撥水撥油剤で処理された化学繊維からなる布を、該布を構成する樹脂を溶解し得る溶媒に溶解させて溶液を得る工程と、(b)前記溶液と、前記樹脂を凝集させ得る溶媒とを混合し、前記樹脂を凝集させて樹脂の凝集物を含む液を得る工程と、(c)前記樹脂の凝集物を含む液を固液分離し、液相を得る工程と、(d)液体クロマトグラフ−質量分析計、液体クロマトグラフ−タンデム質量分析計、ガスクロマトグラフ−質量分析計またはガスクロマトグラフ−タンデム質量分析計を用いて、前記液相中の炭素数が20以下である低分子の有機化合物の濃度を測定する工程とを有する分析方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撥水撥油剤で処理された化学繊維からなる布中の炭素数が20以下である低分子の有機化合物の分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パーフルオロアルキル基を有する化合物に基づく繰り返し単位を有する含フッ素重合体を含む撥水撥油剤によって、物品(繊維製品、紙製品等。)を処理し、物品の表面に撥水撥油性を付与することが行われている。
【0003】
最近、パーフルオロオクタン酸(以下、PFOAと記す。)やパーフルオロオクタンスルホン酸(以下、PFOSと記す。)が、自然環境や生活環境中(野生生物や人の血液、河川等。)から検出されることがわかり、そのリスクについて懸念されるようになっている(たとえば、非特許文献1、2等。)。現在、PFOA、PFOSについて米国のEPAを中心として、リスク評価が実施されているが、現時点ではその結論は明らかになっていない。
【0004】
一方、生分解等によりPFOAを生成しうる前駆体として、(パーフルオロオクチル)エチルアルコール、(パーフルオロオクチル)エチルアイオダイド、(パーフルオロオクチル)エテンおよびパーフルオロオクチルアイオダイド(以下、これらをまとめてPFOA前駆体類と記す。)が挙げられる。PFOA前駆体類も同様にリスクが懸念されている。
【0005】
PFOA、PFOSおよびPFOA前駆体類は、前記撥水撥油剤にも意図しない不純物として極微量含まれることがあることがわかっている。そのため、PFOA、PFOSおよびPFOA前駆体類フリーの撥水撥油剤の開発が進められ、これに伴い、撥水撥油剤および撥水撥油剤で処理された布中のPFOA、PFOSおよびPFOA前駆体類の分析方法の確立も望まれている。
【0006】
撥水撥油剤で処理された布に残存するPFOA等の分析方法としては、アルコール等による固液抽出方法が知られている(非特許文献3参照。)。
撥水撥油剤で処理された布が綿である場合、該方法によれば、布に残存するPFOA等を正確に定量できる。しかし、撥水撥油剤で処理された布が化学繊維からなる布(ナイロン布、ポリエステル布等。)の場合、該方法では、布に残存するPFOA等を正確に定量できない。
【非特許文献1】仲田尚生他、「オンライン固相抽出−高速液体クロマトグラフィー/タンデム質量分析計を用いるヒト血しょう中有機フッ素系化合物の一斉分析法の開発」、分析化学、社団法人日本分析化学会、2005年、第54巻、第9号、p.877−884
【非特許文献2】勝又常信他、「超臨界流体−高速液体クロマトグラフィー/タンデム質量分析法によるハウスダスト中パーフルオロ化合物の定量」、分析化学、社団法人日本分析化学会、2006年、第55巻、第12号、p.955−965
【非特許文献3】M.Stadalius、外7名、「A method for the low−level (ng g−1) determination of perfluorooctanoate in paper and textile by liquid chromatography with tandem mass spectrometry」、Journal of Chromatography A、2006年、第1123巻、p.10−14
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、撥水撥油剤で処理された化学繊維からなる布中に微量に存在する炭素数が20以下である低分子の有機化合物を精度よく分析できる方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の撥水撥油剤で処理された化学繊維からなる布中の炭素数が20以下である低分子の有機化合物の分析方法は、下記工程を有することを特徴とする。
(a)撥水撥油剤で処理された化学繊維からなる布を、該布を構成する樹脂を溶解し得る溶媒に溶解させて溶液を得る工程。
(b)前記溶液と、前記樹脂を凝集させ得る溶媒とを混合し、前記樹脂を凝集させて樹脂の凝集物を含む液を得る工程。
(c)前記樹脂の凝集物を含む液を固液分離し、液相を得る工程。
(d)液体クロマトグラフ−質量分析計、液体クロマトグラフ−タンデム質量分析計、ガスクロマトグラフ−質量分析計またはガスクロマトグラフ−タンデム質量分析計を用いて、前記液相中の炭素数が20以下である低分子の有機化合物の濃度を測定する工程。
【0009】
本発明の分析方法は、前記撥水撥油剤が、パーフルオロアルキル基を有する化合物に基づく繰り返し単位を有する含フッ素重合体を含む場合に適している。
前記化学繊維からなる布を構成する樹脂を溶解し得る溶媒は、1,1,1,6,6,6−ヘキサフルオロ−2−プロパノールを含むことが好ましい。
前記樹脂を凝集させ得る溶媒は、炭素数が1〜5のアルコールを含むことが好ましい。
本発明の分析方法は、前記炭素数が20以下である低分子の有機化合物が、パーフルオロカルボン酸および/またはパーフルオロスルホン酸である場合に適しており、前記炭素数が20以下である低分子の有機化合物が、PFOAおよび/またはPFOSおよび/またはPFOA前駆体類である場合により適している。
本発明の分析方法は、化学繊維が、ポリエステル系合成繊維、ナイロン等のポリアミド系合成繊維、アクリロニトリルまたはアクリレートを主原料とするアクリル系合成繊維、ポリウレタン系合成繊維、セルロース系の半合成繊維またはセルロース系再生繊維である場合により適している。
また、本発明の分析方法は、化学繊維が天然繊維との混紡糸からなる場合にも適用できる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の分析方法によれば、撥水撥油剤で処理された化学繊維からなる布中の炭素数が20以下である低分子の有機化合物を精度よく分析できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例3〜6の分析結果
【図2】LC−MS/MSの一例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本明細書においては、式(1)で表される化合物を化合物(1)と記す。他の式で表される化合物も同様に記す。
また、本明細書における(メタ)アクリレートは、アクリレートまたはメタクリレートを意味する。
【0013】
(撥水撥油剤)
撥水撥油剤は、通常、撥水撥油剤を媒体(分散媒または溶媒)に分散または溶解させた撥水撥油剤組成物の状態にして用いられる。
撥水撥油剤としては、フッ素系撥水撥油剤、シリコーン系撥水撥油剤等が挙げられる。
本発明の分析方法は、撥水撥油剤がフッ素系撥水撥油剤の場合に適している。
【0014】
フッ素系撥水撥油剤は、主として、パーフルオロアルキル基を有する化合物に基づく繰り返し単位を有する含フッ素重合体、またはパーフルオロアルキル基を有する化合物に基づく繰り返し単位および塩基性基を有する化合物に基づく繰り返し単位を有する含フッ素重合体からなるものである。
【0015】
パーフルオロアルキル基とは、アルキル基の水素原子がすべてフッ素原子に置換された基である。パーフルオロアルキル基は、エーテル性の酸素原子を有していてもよい。また、パーフルオロアルキル基は、フッ素原子を有さないアルキレン基に結合していてもよい。
塩基性基とは、プロトン酸基とイオン結合し得る基である。塩基性基としては、−NR、−N(O)R、=NR基、−NR−基、=NH基、−NH−基、ピペリジノ基、ピロリジニル基、モルホリノ基等が挙げられる。ここで、R、R、Rはそれぞれ独立に、ベンジル基、炭素数が1〜8のアルキル基、アルキレン基または水素原子の一部が水酸基で置換された炭素数が2〜3のアルキル基である。R、Rとしては、炭素数1〜4のアルキル基が好ましい。
【0016】
含フッ素重合体としては、低分子量タイプと高分子量タイプとが挙げられる。
低分子量タイプとしては、含フッ素ウレタン化合物、含フッ素エステル化合物等が挙げられる。
含フッ素ウレタン化合物は、パーフルオロアルキル基を有するアルコールとイソシアネートとの反応生成物である。
含フッ素エステル化合物は、パーフルオロアルキル基を有するアルコールと酸基を有する化合物(リン酸、ピロメット酸等。)との反応生成物である。
【0017】
高分子量タイプとしては、含フッ素ビニル系重合体が挙げられる。
含フッ素ビニル系重合体としては、パーフルオロアルキル基を有する(メタ)アクリレートの共重合体が好ましい。パーフルオロアルキル基を有する(メタ)アクリレートとしては、炭素数が4〜16のパーフルオロアルキル基を有する(メタ)アクリレートが好ましく、炭素数が4〜6のパーフルオロアルキル基を有する(メタ)アクリレートがより好ましい。具体的には、C13OCOCH=CH、C13OCOC(CH)=CH、C13OCOCCl=CHが挙げられる。
【0018】
パーフルオロアルキル基を有する(メタ)アクリレートと共重合させる単量体としては、下記の単量体が挙げられる。
塩化ビニル、塩化ビニリデン、エチレン、フッ化ビニリデン、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、イソブタン酸ビニル、イソデカノン酸ビニル、ステアリル酸ビニル、セチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、2−クロロエチルビニルエーテル、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、クロロメチルスチレン、メチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、炭素数が12〜24のアルキル基を有する(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、グリシジルエチルメタクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド。
【0019】
2−イソシアナトエチルメタクリレートのブロック化合物(ブロック化剤はメチルエチルケトオキシム、ブタノンオキシム、イプシロンカプロラクタム、ピラゾール、3−メチルピラゾール、3、5−ジメチルピラゾールなどイソシアネートと反応しうる化合物)、3−フェノキシ−2−ヒドロキシプロピルアクリレートのヘキサメチレンジイソシアネート付加物、N、N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、ビニルアルキルケトン、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン、ベンジル(メタ)アクリレート、ポリシロキサンを有する(メタ)アクリレート、酢酸アリル、N−ビニルカルバゾール、マレイミド、N−メチルマレイミド、(メタ)アクリル酸、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、ヒドロキシルプロピル(メタ)アクリレート。
【0020】
メタクリル酸2−ヒドロキシエチルとε−カプロラクトンとの付加物、ポリエチレンオキシドジ(メタ)アクリレート、ポリエチレンオキシド−ポリプロピレンオキシド−ポリエチレンオキシドジ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシドジグリシジルエーテルジ(メタ)アクリレート、トリプロピレンオキシドジグリシジルエーテルジ(メタ)アクリレート、グリセリンジグリシジルエーテルジ(メタ)アクリレート。
【0021】
N、N−ジメチルアミノ(メタ)アクリレート、N、N−ジエチルアミノ(メタ)アクリレート、N、N−ジイソプロピルアミノ(メタ)アクリレート、N−モルホリノ(メタ)アクリレート、N−ペピリジノ(メタ)アクリレート、N、N−ジメチルアミノオキシド(メタ)アクリレート、N、N−ジエチルアミノオキシド(メタ)アクリレート等の塩基性基を有するビニル系単量体。
N、N、N−トリメチル−n−(2−ヒドロキシ−3−メタクリロイルオキシプロピル)アンモニウムクロライド等のアンモニウム基を有する単量体。
【0022】
撥水撥油剤は、2種以上の含フッ素重合体を含んでいてもよく、含フッ素重合体と他の重合体とを含んでいてもよい。たとえば、撥水撥油剤は、含フッ素ビニル系重合体と含フッ素ウレタン化合物とを含んでいてもよく、含フッ素ビニル系重合体とポリシロキサンとを含んでいてもよい。
【0023】
媒体としては、水を主成分とする媒体が好ましく、たとえば、水;水と有機溶媒との混合液等が挙げられる。媒体における水の含有割合は、30質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましい。
有機溶剤としては、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等が挙げられる。
【0024】
(化学繊維からなる布)
本発明における化学繊維としては、合成繊維、半合成繊維、再生繊維が挙げられ、具体的には、ポリエステル系合成繊維、ナイロン等のポリアミド系合成繊維、アクリロニトリルまたはアクリレートを主原料とするアクリル系合成繊維、ポリウレタン系合成繊維、セルロース系の半合成繊維、セルロース系再生繊維が挙げられる。
ポリエステル系合成繊維としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等からなるものが挙げられる。ナイロンとしては、ナイロン6、ナイロン66等が挙げられる。ポリウレタン系合成繊維としては、ポリエーテル系やポリエステル系の合成繊維が挙げられる。再生セルロースとしては、レーヨン、セルロースアセテート等が挙げられる。
上記化学繊維は1種のみからなるものであってもよく、2種以上の繊維の混紡糸からなるものであってもよい。また、化学繊維と、綿、絹、羊毛等の天然繊維との混紡糸からなるものであってもよい。
本発明における布は織布、不織布を問わない。また、厚みに制限はないためカーペット等であってもよい。
撥水撥油剤で処理された化学繊維からなる布は、たとえば、化学繊維からなる布を撥水撥油剤組成物の入った浴に浸した後、乾燥させることにより得られる。乾燥温度は、通常、100〜200℃の範囲である。
【0025】
(分析方法)
下記工程を有する方法によって、撥水撥油剤で処理された化学繊維からなる布中の炭素数が20以下である低分子の有機化合物の分析を行う。
(a)撥水撥油剤で処理された化学繊維からなる布を、該布を構成する樹脂を溶解し得る溶媒(以下、溶解用溶媒と記す。)に溶解させて溶液を得る工程。
(b)前記溶液と、前記樹脂を凝集させ得る溶媒(以下、凝集用溶媒と記す。)とを混合し、前記樹脂を凝集させて樹脂の凝集物を含む液を得る工程。
(c)前記樹脂の凝集物を含む液を固液分離し、液相を得る工程。
(d)液体クロマトグラフ−質量分析計(以下、LC−MSと記す。)、液体クロマトグラフ−タンデム質量分析計(以下、LC−MS/MSと記す。)、ガスクロマトグラフ−質量分析計(以下、GC−MSと記す。)またはガスクロマトグラフ−タンデム質量分析計(以下、GC−MS/MSと記す。)を用いて、前記液相中の炭素数が20以下である低分子の有機化合物の濃度を測定する工程。
【0026】
工程(a):
工程(a)は、撥水撥油剤で処理された化学繊維からなる布を、溶解用溶媒に溶解させ、繊維の奥にまで取り込まれている炭素数が20以下である低分子の有機化合物を溶出させる工程である。
【0027】
溶解用溶媒としては、化学繊維からなる布を構成する樹脂および分析対象の有機化合物を溶解させ得る溶媒が挙げられ、前記布を構成する樹脂がナイロン、ポリエステルまたはアクリル樹脂である場合の溶解用溶媒としては、フッ素系溶媒(ただし、分析対象であるPFOA、PFOSおよびPFOA前駆体類は除く。)、強酸性溶媒(ギ酸、トリフルオロ酢酸等。)、高沸点溶媒(m−クレゾール、N,N−ジメチルホルムアミド等。)等が挙げられ、工程(d)における不具合(クロマトグラフにおける分離状態への影響、溶媒除去不良等。)等が生じにくい点から、フッ素系溶媒が好ましく、炭素数が1〜4の含フッ素アルコールがより好ましく、2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,3,3−テトラフルオロ−1−プロパノール、1,1,1,6,6,6−ヘキサフルオロ−2−プロパノール、2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロ−1−ペンタノールがさらに好ましく、1,1,1,6,6,6−ヘキサフルオロ−2−プロパノールが特に好ましい。
【0028】
溶解用溶媒の量は、得られる溶液の粘度を低くし、かつ炭素数が20以下である低分子の有機化合物の希釈率を低く抑える点から、化学繊維からなる布100質量部に対し、100〜5000質量部が好ましく、500〜3000質量部がより好ましい。
また、溶解用溶媒がフッ素系溶媒である場合、フッ素系溶媒以外の溶媒との混合溶媒を溶解用溶媒として用いてもよい。その他の溶媒としては、クロロホルム、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、アセトン、ジメチルスルホキシドが挙げられる。その他の溶媒との混合溶媒を用いる場合、その他の溶媒の量は、フッ素系溶媒100質量部に対し、1〜10000質量部が好ましく、10〜100質量部がより好ましい。
【0029】
工程(b):
工程(b)は、工程(a)で得られた溶液と凝集用溶媒とを混合し、化学繊維からなる布を構成する樹脂の凝集物を含む液を得る工程である。
【0030】
凝集用溶媒としては、溶解用溶媒に溶解した樹脂を凝集させ、かつ分析対象の有機化合物を溶解させ得る溶媒が挙げられ、水と容易に混合する点から、炭素数が1〜5のアルコール(ただし、含フッ素アルコールを除く。)を含む溶媒が好ましく、炭素数が1〜5のアルコールと水との混合溶媒がより好ましい。炭素数が1〜5のアルコールとしては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、2−ブタノール、2−メチル−2−プロパノール、1−ペンタノール、3−メチル−1−ブタノール、2−メチル−1−ブタノール、2、2−ジメチル−1−プロパノール、2−ペンタノール、3−メチル−2−ブタノール、3−ペンタノール、2−メチル−2−ブタノール等が挙げられる。
凝集用溶媒の量は、炭素数が20以下である低分子の有機化合物の希釈率を低く抑える点から、工程(a)で得られた溶液100質量部に対し、100〜5000質量部が好ましく、500〜1000質量部がより好ましい。
【0031】
工程(c):
工程(c)は、工程(b)で得られた樹脂の凝集物を含む液を固液分離し、液相のみを採取する工程である。
【0032】
固液分離方法としては、たとえば、下記(c−1)〜(c−3)の方法が挙げられる。
(c−1)樹脂の凝集物を含む液を静置して、樹脂の凝集物を沈殿させ、上澄み液(液相)を採取する方法。
(c−2)遠心分離機を用いて、樹脂の凝集物を含む液を固液分離し、上澄み液(液相)を採取する方法。
(c−3)樹脂の凝集物を含む液をろ過処理し、ろ液(液相)を採取する方法。
【0033】
ろ過処理に用いるフィルタとしては、ポリオレフィン系フィルタまたはセルロース系フィルタが好ましい。フッ素樹脂系フィルタは、乳化剤として用いたパーフルオロカルボン酸を含む場合があり、好ましくない。フィルタの孔径は、0.2μm以下が好ましい。
【0034】
工程(d):
工程(d)は、LC−MS、LC−MS/MS、GC−MSまたはGC−MS/MSを用いて、工程(c)で得られた液相中の炭素数が20以下である低分子の有機化合物の濃度を測定する工程である。
【0035】
炭素数が20以下である低分子の有機化合物が、パーフルオロカルボン酸および/またはパーフルオロスルホン酸である場合の濃度の測定装置としては、特定の化合物を選択性高く、かつ高感度で分析できる点から、LC−MS/MSが好ましい。一方、炭素数が20以下である低分子の有機化合物がPFOAの前駆体類である場合の濃度の測定装置としては、GC−MSが好ましい。
【0036】
図2は、LC−MS/MSの一例を示す概略構成図である。該LC−MS/MSは、試料混合物(液相)を各成分に分離する高速液体クロマトグラフ10(HPLC)と、高速液体クロマトグラフ10で分離した成分をイオン化するイオン化室12と、イオン化室12で発生したイオンから特定のイオンを選択する第1の質量分析計14(MS)と、第1の質量分析計14で選択されたイオンにアルゴン等を衝突させてイオンを解離させ、新しいイオン群を発生させる衝突解離室16と、衝突解離室16で発生したイオン群を分析する第2の質量分析計18(MS)と、検出器20とを具備する。
【0037】
測定対象の炭素数が20以下である低分子の有機化合物としては、パーフルオロカルボン酸、パーフルオロスルホン酸、(パーフルオロアルキル)エチルアルコール、(パーフルオロアルキル)エチルアイオダイド、(パーフルオロアルキル)エテンおよびパーフルオロアルキルアイオダイドが挙げられる。
【0038】
パーフルオロカルボン酸としては、化合物(1)が挙げられる。
2n+1COOH ・・・(1)。
ただし、nは、1以上の整数であり、3〜11が好ましい。
本発明の分析方法は、パーフルオロカルボン酸がPFOA(C15COOH)およびパーフルオロアルキル基の炭素数が8以上のパーフルオロカルボン酸の場合に好適である。
【0039】
パーフルオロスルホン酸としては、化合物(2)が挙げられる。
2m+1SOH ・・・(2)。
ただし、mは、1以上の整数であり、4〜12が好ましい。
本発明の分析方法は、パーフルオロスルホン酸がPFOS(C17SOH)およびパーフルオロアルキル基の炭素数が9以上のパーフルオロスルホン酸の場合に好適である。
【0040】
(パーフルオロアルキル)エチルアルコールとしては、化合物(3)が挙げられる。
2m+1CHCHOH ・・・(3)。
ただし、mは、1以上の整数であり、4〜12が好ましい。
本発明の分析方法は、(パーフルオロアルキル)エチルアルコールがパーフルオロオクチルエチルアルコール(C17CHCHOH)およびパーフルオロアルキル基の炭素数が9以上の(パーフルオロアルキル)エチルアルコールの場合に好適である。
【0041】
(パーフルオロアルキル)エチルアイオダイドとしては、化合物(4)が挙げられる。
2m+1CHCHI ・・・(4)。
ただし、mは、1以上の整数であり、4〜12が好ましい。
本発明の分析方法は、(パーフルオロアルキル)エチルアイオダイドが(パーフルオロオクチル)エチルアイオダイド(C17CHCHI)および炭パーフルオロアルキル基の素数が9以上の(パーフルオロアルキル)エチルアイオダイドの場合に好適である。
【0042】
(パーフルオロアルキル)エテンとしては、化合物(5)が挙げられる。
2m+1CH=CH ・・・(5)。
ただし、mは、1以上の整数であり、4〜12が好ましい。
本発明の分析方法は、(パーフルオロアルキル)エテンが(パーフルオロオクチル)エテン(C17CH=CH)およびパーフルオロアルキル基の炭素数が9以上の(パーフルオロアルキル)エテンの場合に好適である。
【0043】
パーフルオロアルキルアイオダイドとしては、化合物(6)が挙げられる。
2m+1I ・・・(6)。
ただし、mは、1以上の整数であり、4〜12が好ましい。
本発明の分析方法は、パーフルオロアルキルアイオダイドがパーフルオロオクチルアイオダイド(C17I)およびパーフルオロアルキル基の炭素数が9以上のパーフルオロアルキルアイオダイドの場合に好適である。
【0044】
以上説明した本発明の分析方法によれば、工程(a)によって撥水撥油剤で処理された化学繊維からなる布の繊維の奥にまで取り込まれている炭素数が20以下である低分子の有機化合物を溶出させているため、撥水撥油剤で処理された前記布に残存するPFOA等を正確に定量分析できる。
また、工程(b)〜(c)によって化学繊維からなる布を構成する樹脂を取り除いた状態で、工程(d)においてLC−MS、LC−MS/MS、GC−MSまたはGC−MS/MSを用いて、炭素数が20以下である低分子の有機化合物の濃度を測定できる。そのため、液体クロマトグラフのカラムが目詰まりすることおよびガスクロマトグラフの注入口を汚染することがないため、測定のたびに濃度が大きくばらつくことがない。
以上の結果、撥水撥油剤で処理された化学繊維からなる布中に微量に存在する炭素数が20以下である低分子の有機化合物を精度よく分析できる。
【実施例】
【0045】
<PFOAの定量>
下記LC−MS/MSを用い、下記測定条件にてPFOAの濃度の測定(定量)を行った。定量値の計算には、標準添加法を用いた。
【0046】
(LC−MS/MS)
HPLC:資生堂社製、ナノスペースSI−2。
MS/MS:サーモフィッシャーサイエンティフック社製、TSQ Quantum Discovery MAX。
【0047】
(HPLC測定条件)
カラム:サーモフィッシャーサイエンティフック社製、Hypersil GOLD、2.1mm×50mm、1.9μm。
移動相:(A液)0.01v/v%酢酸水溶液、(B液)LC−MS用メタノール。
グラジエント:
【0048】
【表1】

【0049】
サンプル注入量:5.0μL。
流速:200L/分。
カラム温度:40℃。
【0050】
(MS測定条件)
イオン化法:Negative ESI。
スプレー電圧:1500V。
ベイポライザ温度:100℃。
イオントランスファーチューブ温度:240℃。
Source CID:0V。
コリージョンガス:Ar、1.2mTorr。
分解能(FWHM):0.4Da(ユニット分解能)。
SRMモニターイオン:413.0→369.0。
Collision Energy:10V。
【0051】
〔合成例1〕
ガラス製ビーカーに、C13OCOC(CH)=CHの76.6g、ステアリルアクリレートの13.5g、2−イソシアナトエチルメタクリレートの3,5−ジメチルピラゾール付加体の4.1g、乳化剤のポリオキシエチレンオレイルエーテル(エチレンオキシド約26モル付加物)の10%水溶液の25.9g、ステアリルトリメチルアンモニウムクロリドの10%水溶液の5.2g、エチレンオキシドプロピレンオキシド重合物(エチレンオキシド40%含有)の10%水溶液の5.2g、イオン交換水の123g、ジプロピレングリコールの31.0g、n−ドデシルメルカプタンの1.0gを入れて、50℃で30分間加温した後、ホモミキサー(日本精機製作所社製、バイオミキサー)を用いて混合して混合液を得た。得られた混合液を、50℃に保ちながら高圧乳化機(APVラニエ社製、ミニラボ)を用いて、40MPaで処理して乳化液を得た。得られた乳化液の300gをステンレス製反応容器に入れ、開始剤のジメチル2、2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イルプロパン)酢酸塩の10%水溶液の5.2gを加えて、30℃以下に冷却した。気相を窒素置換し、塩化ビニルモノマーの9.3gを導入した後、撹拌しながら65℃で15時間重合反応を行い、固形分濃度34.0質量%のエマルション(PFOA:検出限界以下。)を得た。該エマルションにPFOAを1ppm添加した後、該エマルションを水で5%に希釈し、撥水撥油剤組成物を得た。
【0052】
〔実施例1〕
合成例1で得た撥水撥油剤組成物の21.44gを、ナイロン布(平岡産業(株)製)の57.46gに含浸させた。撥水撥油剤組成物を含浸させたナイロン布を、110℃で1.5分間乾燥させ、さらに170℃で1分間加熱し、撥水撥油剤で処理されたナイロン布を得た。
【0053】
撥水撥油剤で処理されたナイロン布中のPFOAの予想含有量(計算値)は、下記の通りである。
PFOAの予想含有量(計算値)=1(μg/g)×5(%)÷100×21.44(g)÷57.46(g)=18.7(ng/g)。
【0054】
撥水撥油剤で処理されたナイロン布の0.3gをバイアル瓶に採取した。該バイアル瓶にヘキサフルオロイソプロパノールの3mLを添加し、ナイロン布を溶解させて溶液を得た。
該溶液を、メタノール/純水(1/1(質量比))の混合溶媒の30mLに添加して、樹脂を凝集、析出させて樹脂の凝集物を含む液を得た。
樹脂の凝集物を含む液を静置して樹脂の凝集物を沈降させ、上澄み液を孔径0.2μmのクロマトディスクを用いてろ過しながら、HPLCオートサンプラー用バイアルに採取し、LC−MS/MSを用いてサンプル液中のPFOAの濃度を測定した。
以上の操作を合計で3回行った。結果を表2に示す。定量結果は、予想含有量に近かった。
【0055】
【表2】

【0056】
〔実施例2〕
合成例1で得た撥水撥油剤組成物の13.38gを、ポリエステル布の13.54gに含浸させた以外は、実施例1と同様にして撥水撥油剤で処理されたポリエステル布を得て、分析を行った。ただし、PFOAの濃度の測定は2回とした。結果を表3に示す。
【0057】
撥水撥油剤で処理されたポリエステル布中のPFOAの予想含有量(計算値)は、下記の通りである。
PFOAの予想含有量(計算値)=1(μg/g)×5(%)÷100×13.38(g)÷13.54(g)=49.4(ng/g)。
【0058】
【表3】

【0059】
〔比較例1〕
実施例1と同様にして撥水撥油剤で処理されたナイロン布を得た。
撥水撥油剤で処理されたナイロン布の3gをバイアル瓶に採取した。該バイアル瓶にエタノールの30mLを添加し、2時間振とうして固液抽出を行った。
抽出液をメタノール/純水(1/1(質量比))の混合溶媒で10倍に希釈した。希釈液を孔径0.2μmのクロマトディスクを用いてろ過しながら、HPLCオートサンプラー用バイアルに採取し、LC−MS/MSを用いてサンプル液中のPFOAの濃度を測定した。結果を表4に示す。定量結果は予想含有量の10%であり、本発明の分析方法の方が優れていた。
【0060】
【表4】

【0061】
〔比較例2〕
実施例2と同様にして撥水撥油剤で処理されたポリエステル布を得た。
撥水撥油剤で処理されたポリエステル布の3gをバイアル瓶に採取した。該バイアル瓶にエタノールの30mLを添加し、2時間振とうして固液抽出を行った。
抽出液をメタノール/純水(1/1(質量比))の混合溶媒で10倍に希釈した。希釈液を孔径0.2μmのクロマトディスクを用いてろ過しながら、HPLCオートサンプラー用バイアルに採取し、LC−MS/MSを用いてサンプル液中のPFOAの濃度を測定した。結果を表4に示す。定量結果は予想含有量の10%であり、本発明の分析方法の方が優れていた。
【0062】
【表5】

【0063】
〔実施例3〜6〕
合成例1で得た撥水撥油剤組成物の21.44gを、ナイロン布(平岡産業(株)製)の57.46gに含浸させた。撥水撥油剤組成物を含浸させたナイロン布を、110℃で1.5分間乾燥させた(実施例3)。
実施例3で得られたナイロン布をさらに130℃で1分間加熱したもの(実施例4)、実施例3で得られたナイロン布をさらに150℃で1分間加熱したもの(実施例5)、実施例3で得られたナイロン布をさらに170℃で1分間加熱したもの(実施例6)を得た。
この4種類のナイロン布について、実施例1および比較例1と同様の分析法にてPFOAの濃度を測定した。3回の測定の上限値および下限値を棒線で平均値を丸印で表した結果を図1に示す。比較例1に従った従来法はバラツキが大きく、加熱温度が高くなると定量値が低くなる傾向が見られた。実施例1に従う本発明の分析方法の方が乾燥後の加熱温度に影響なく安定した定量結果が得られ、優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の分析方法は、撥水撥油剤で処理された化学繊維からなる布中の炭素数が20以下である低分子の有機化合物の定量方法として有用である。
なお、2008年6月30日に出願された日本特許出願2008−171204号の明細書、特許請求の範囲及び要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。
【符号の説明】
【0065】
10 高速液体クロマトグラフ(HPLC)
14 第1の質量分析計(MS)
18 第2の質量分析計(MS)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程を有する、撥水撥油剤で処理された化学繊維からなる布中の炭素数が20以下である低分子の有機化合物の分析方法。
(a)撥水撥油剤で処理された化学繊維からなる布を、該布を構成する樹脂を溶解し得る溶媒に溶解させて溶液を得る工程。
(b)前記溶液と、前記樹脂を凝集させ得る溶媒とを混合し、前記樹脂を凝集させて樹脂の凝集物を含む液を得る工程。
(c)前記樹脂の凝集物を含む液を固液分離し、液相を得る工程。
(d)液体クロマトグラフ−質量分析計、液体クロマトグラフ−タンデム質量分析計、ガスクロマトグラフ−質量分析計またはガスクロマトグラフ−タンデム質量分析計を用いて、前記液相中の炭素数が20以下である低分子の有機化合物の濃度を測定する工程。
【請求項2】
前記撥水撥油剤が、パーフルオロアルキル基を有する化合物に基づく繰り返し単位を有する含フッ素重合体を含む、請求項1に記載の撥水撥油剤で処理された化学繊維からなる布中の炭素数が20以下である低分子の有機化合物の分析方法。
【請求項3】
前記化学繊維からなる布を構成する樹脂を溶解し得る溶媒が、1,1,1,6,6,6−ヘキサフルオロ−2−プロパノールを含む、請求項1または2に記載の撥水撥油剤で処理された化学繊維からなる布中の炭素数が20以下である低分子の有機化合物の分析方法。
【請求項4】
前記樹脂を凝集させ得る溶媒が、炭素数が1〜5のアルコールを含む、請求項1〜3のいずれかに記載の撥水撥油剤で処理された化学繊維からなる布中の炭素数が20以下である低分子の有機化合物の分析方法。
【請求項5】
前記炭素数が20以下である低分子の有機化合物が、パーフルオロカルボン酸またはパーフルオロスルホン酸である、請求項1〜4のいずれかに記載の撥水撥油剤で処理された化学繊維からなる布中の炭素数が20以下である低分子の有機化合物の分析方法。
【請求項6】
前記炭素数が20以下である低分子の有機化合物が、(パーフルオロアルキル)エチルアルコール、(パーフルオロアルキル)エチルアイオダイド、(パーフルオロアルキル)エテンまたはパーフルオロアルキルアイオダイドである、請求項1〜4のいずれかに記載の撥水撥油剤で処理された化学繊維からなる布中の炭素数が20以下である低分子の有機化合物の分析方法。
【請求項7】
前記化学繊維が、ポリエステル系合成繊維、ナイロン等のポリアミド系合成繊維、アクリロニトリルまたはアクリレートを主原料とするアクリル系合成繊維、ポリウレタン系合成繊維、セルロース系の半合成繊維またはセルロース系再生繊維である請求項1〜6のいずれかに記載の撥水撥油剤で処理された化学繊維からなる布中の炭素数が20以下である低分子の有機化合物の分析方法。
【請求項8】
上記化学繊維が天然繊維との混紡糸からなる、請求項1〜7のいずれかに記載の撥水撥油剤で処理された化学繊維からなる布中の炭素数が20以下である低分子の有機化合物の分析方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2011−526675(P2011−526675A)
【公表日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−550765(P2010−550765)
【出願日】平成21年6月30日(2009.6.30)
【国際出願番号】PCT/JP2009/062254
【国際公開番号】WO2010/002024
【国際公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】