説明

撥水撥油防汚性部材とその製造方法及びそれを用いた物品

【課題】加工時や廃棄時に環境負荷が少なく、かつ安価に製造できる撥水撥油防汚性部材とその製造方法及びそれらを用いた物品を提供する。
【解決手段】撥水撥油防汚性部材10は、水素原子の一部又は全部がフッ素原子及びフッ化炭素基14のいずれか一方又は双方で置換された炭化水素基11を基材12の表面に有する。撥水撥油防汚性部材10は、フッ化炭素基を含む化合物のガス雰囲気中で、表面に炭化水素基を有する基材12を低圧プラズマ処理することにより製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撥水撥油防汚性部材とその製造方法及びそれを用いた物品に関し、さらに詳しくは、耐久性が高く、安価に製造することができ、人体及び環境に対する安全性が高い撥水撥油防汚性部材とその製造方法及びそれを用いた物品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生活レベルの向上及び衛生意識の高揚に伴い、身の回りの物品、特にプラスチックを部材とする物品の汚れ対策が要望されている。
【0003】
汚れを防止する手段として、部材表面に表面エネルギーが小さな被膜を形成する方法や部材そのものの表面の表面エネルギーを小さくする表面処理方法があるが、それらの中でも、加工時の環境負荷が少ない技術、また、製品を廃棄する際の環境破壊が少ない製造技術が求められている。
【0004】
例えば、特許文献1には、部材の表面に、省資源かつ省エネルギーで表面エネルギーの小さな単分子膜を形成する技術として、フロートガラスのトップ面上にフルオロアルキル基とシロキサン結合を有する膜を形成したガラスを窓ガラスとして、膜面が調理側になるように設置したことを特徴とする調理器が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、フッ素ガスを用いて部材表面そのものを防汚処理する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−137132号公報
【特許文献2】特開2005−290118号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、表面に膜を形成する基材が、表面に活性水素基を有しない樹脂等の場合、予め表面を酸化して活性水素を導入する必要がある。また、被膜形成時に溶媒を必要とするため、環境負荷が大きいという問題を有している。
一方、特許文献2に記載の方法では、被膜形成時に溶媒を必要としないが、反応に長時間(数時間)を必要とするので効率が悪いという問題を有している。
【0008】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、加工時や廃棄時に環境負荷が少なく、かつ安価に製造できる撥水撥油防汚性部材とその製造方法及びそれらを用いた物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の態様は、水素原子の一部又は全部がフッ素原子及びフッ化炭素基のいずれか一方又は双方で置換された炭化水素基を基材の表面に有することを特徴とする撥水撥油防汚性部材を提供することにより上記課題を解決するものである。
基材の表面に、水素原子の一部又は全部がフッ素原子及びフッ化炭素基のいずれか一方又は双方で置換された炭化水素基を有するため、表面エネルギーが低下し、撥水撥油性を向上できると共に、汚れの元となる有機物等も付着しにくくなるため、防汚性も併せて向上できる。
【0010】
本発明の第1の態様に係る撥水撥油防汚性部材において、前記基材が透明樹脂であってもよい。
【0011】
第1の態様に係る撥水撥油防汚性部材において、表面粗さが10nm以上900μm以下であることが好ましい。
表面粗さを上記範囲内とすることにより、平坦な表面の場合よりも基材表面の見かけ上の表面エネルギーを大幅に低減でき、高性能の撥水撥油防汚性を付与できる。
【0012】
或いは、第1の態様に係る撥水撥油防汚性部材において、表面粗さが10nm以上400nm以下であってもよい。
基材の表面粗さが可視光の最短波長である400nm以下であれば、基材が透明樹脂の場合でも、基材の透明度を損なうことなく高い撥水撥油防汚性を付与できる。
【0013】
本発明の第2の態様は、フッ化炭素基を含む化合物のガス雰囲気中で、表面に炭化水素基を有する基材を低圧プラズマ処理することを特徴とする撥水撥油防汚性部材の製造方法を提供することにより上記課題を解決するものである。
フッ化炭素基を含む化合物は、プラズマ処理条件下で、フッ素ラジカル(・F)又は・CF等のフッ化炭素ラジカルを発生する。これが基材の表面に存在する炭化水素基の水素原子と置換することにより、溶媒を用いずに基材の表面にフッ化炭素基を導入し、基材の表面エネルギーを低減できる。
【0014】
本発明の第2の態様に係る撥水撥油防汚性部材の製造方法において、前記フッ化炭素基を含む化合物のガスと酸素ガスの混合雰囲気中で前記基材を低圧プラズマ処理してもよい。
フッ化炭素基を含む化合物のガスと酸素ガスの混合雰囲気中で基材を低圧プラズマ処理すると、より効率よく、かつ耐久性の高い撥水撥油防汚性部材を提供できる。
【0015】
或いは、本発明の第2の態様に係る撥水撥油防汚性部材の製造方法において、あらかじめ、酸素ガス雰囲気中で前記基材の低圧プラズマ処理を行った後、前記フッ化炭素基を含む化合物のガス雰囲気中で前記基材を低圧プラズマ処理してもよい。
あらかじめ、酸素ガス雰囲気中で基材の低圧プラズマ処理を行った後、フッ化炭素基を含むガス雰囲気中で基材を低圧プラズマ処理すると、防汚性が高く、かつ耐久性の高い撥水撥油防汚性部材を効率よく提供できる。
【0016】
本発明の第2の態様に係る撥水撥油防汚性部材の製造方法において、前記フッ化炭素基を含む化合物として、テトラフルオロメタン(CF)、ヘキサフルオロエタン(C)、テトラフルオロエチレン(C)、及びトリフルオロメタン(CHF)のうち1又は複数を用いることが好ましい。
これらのフッ化炭素基を含む化合物は比較的安価に入手可能であるため、撥水撥油防汚性部材の製造コストを低減できる。
【0017】
本発明の第3の態様は、本発明の第1の態様に係る撥水撥油防汚性部材を用いた物品を提供することにより上記課題を解決するものである。
【0018】
本発明の第3の態様に係る物品において、前記撥水撥油防汚性部材が、建築物、自動車、船舶、航空機、列車、アパレル製品、装飾品、及び各種日用品のいずれか、又はそれらに使用される部材であってもよい。
これらの物品又はそれらに使用される部材は、いずれも人体に接触することの多い物品に用いられるものであり、特に、建築物、自動車、船舶、航空機、及び列車については、公共の場で多くの人が触れる機会が多い。したがって、防汚性が強く求められており、本発明を好適に適用することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によると、加工時や廃棄時に環境負荷が少なく、かつ安価に製造できる撥水撥油防汚性部財及びその製造方法並びにそれらを用いた物品が提供される。また、本発明の撥水撥油防汚性部材の製造方法によると、表面に炭化水素基を有する種々の基材の最表面にのみ、省資源、省エネルギー、かつ低コストで撥水撥油防汚機能を付与することが可能である。
【0020】
本発明に係る撥水撥油防汚性部材及びそれを用いた物品は、高い防汚性、耐久性、人体及び環境に対する安全性を併せ持ち、半永久的に防汚性を発揮できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施の形態に係る撥水撥油防汚性部材の断面構造の説明図である。
【図2】同撥水撥油防汚性部材の製造方法の説明図で、(a)及び(b)は、それぞれ、フッ化炭素基を有する化合物のガス雰囲気中での低圧プラズマ処理前及び処理後の基材の表面近傍を分子レベルまで拡大して模式的に表した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
【0023】
本発明の一実施の形態に係る撥水撥油防汚性部材10は、水素原子の一部又は全部がフッ素原子及びフッ化炭素基のいずれか一方又は双方で置換された炭化水素基11(図1中では、模式的に網かけを付している)を基材の一例であるアクリル基材12の表面に有する。アクリル基材12は、図2(a)に示すように、表面が炭化水素基13で被われている。低圧プラズマ処理後の撥水撥油防汚性部材10の表面において、図2(b)に示すように、低圧プラズマ処理前のアクリル基材12の表面を被う炭化水素基13の水素原子の一部が、フッ化炭素基の一例であるトリフルオロメチル基14で置換されている。
【0024】
撥水撥油防汚性部材10は、フッ化炭素基を含む化合物のガス雰囲気中で、アクリル基材12を低圧プラズマ処理することにより製造される。
フッ化炭素基を含む化合物のガス雰囲気中で高周波放電によりプラズマを発生させると、フッ素ラジカル(・F)や、トリフルオロメチルラジカル(・CF)等のフッ化炭素ラジカルが生成する。これらのラジカルが、アクリル基材12の表面の炭化水素基の水素原子をトリフルオロメチル基14で置換する(図2(b))。或いは、テトラフルオロエチレン等の不飽和結合を有する化合物のガスを用いる場合には、プラズマ重合により炭素数の大きいパーフルオロアルキル基も生成しうる。
【0025】
低圧プラズマ処理には、プラズマ表面処理や低温灰化等に使用可能な任意のプラズマ処理装置を用いることができる。チャンバーの形態の具体例としては、流通管型、ベルジャー型等が挙げられ、講習は放電のための電極の形態としては、平行平板型、同軸円筒型、円筒、球等の曲面対向平板型、双曲面対向平板型、複数の細線対向平板型等の電極が挙げられる。高周波電流は、容量結合形式、外部電極を用いた誘導形式のいずれによっても印加可能である。高周波電源の出力は、基材の材質及び大きさ、用いられるフッ化炭素基を含む化合物の種類、添加されるガスの種類及び体積分率、チャンバーの容量及び圧力等によって適宜調節されるが、例えば10〜250Wである。
【0026】
なお、使用可能なことを確認できたフッ化炭素基を含む化合物としては、CF、C,C、CHF等がある。原理的には、CF基を含み常温常圧で液体である化合物であっても、低圧プラズマ処理条件下でガス化できれば使用可能である。なお、このとき、微量(0.1〜5体積%)のArやHe等を混合しておくと、放電を安定化させる効果がある。
【0027】
また、酸素を微量(0.1〜15体積%)含ませておくと、樹脂表面を酸化しながらCF基で置換することになり、処理効率を上げる効果がある。或いは、予め酸素ガス雰囲気中で低圧プラズマ処理を行い、表面の酸化エッチングを行った後にフッ化炭素基を含む化合物のガス雰囲気中で低圧プラズマ処理を行ってもよい。
【0028】
また、本実施の形態では、基材としてアクリル樹脂製のアクリル基材12を例に挙げて説明したが、基材としては、表面に炭化水素基を含む樹脂を有するものであればどのようなものでも使用可能である。樹脂の具体例としては、ポリウレタン、ポリエステル、ポリエチレン、ポリフェニレンスルファイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリ酢酸ビニル、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリフッ化ビニリデン、ポリプロピレン、ポリマーアロイ、ポリメチルペンテン、アイオノマー樹脂、アクリル樹脂、アセチルセルロース、アルキド樹脂、AS樹脂、液晶ポリマー、エチレンプロピレンゴム、ABS樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂、その他エンジニアリングプラスチック等が挙げられる。また、樹脂以外にも、炭化水素基を含む任意の材質のものを基材として使用できる。樹脂以外の基材の具体例としては、天然及び合成皮革、天然及び合成繊維(綿、麻、絹、羊毛、ナイロン、アクリル繊維、ポリエステル等)、木質材料、紙等が挙げられる。これらの材質は、少なくとも表面近傍に用いられていればよく、それ以外の部分が金属、セラミックス等の炭化水素基を含まない材質からなるものであってもよい。
【0029】
撥水撥油防汚性部材10の表面粗さは、10nm以上900μm以下である。撥水撥油防汚性部材10表面の凹凸の形状は、入射光の回折や乱反射等によりアクリル基材12の光学的特性を損なわない限り特に制限されず、規則的な形状であっても、不規則な形状であってもよい。一般に表面粗さが前記範囲内であれば、アクリル基材12の表面特性を悪化させることなく、低圧プラズマ処理後の表面の疎水性を更に向上できる。アクリル基材12の表面粗さは、好ましくは可視光の最短波長以下の400nm以下、より好ましくは360nm以下、更により好ましくは300nm以下である。表面粗さが前記範囲内であれば、アクリル基材12の透明度等の可視光に対する光学特性を損なうことがない。表面粗さは、表面粗さ計、3次元計測器等の任意の公知の方法を用いて測定することができる。また、凹凸の大きさについては、実体顕微鏡又は電子顕微鏡写真を用いた画像解析により測定することもできる。
【0030】
アクリル基材12の表面を、上記範囲内の表面粗さ及び凹凸の大きさを有するように粗面化する方法としては、サンドブラスト、機械研磨、クロム酸混液、リン酸、アルカリ等による化学処理等の任意の公知の方法を用いて予め粗面化しておいてもよいが、酸素ガスを含む雰囲気中で低圧プラズマ処理を行う際に、所望の表面粗さ及び凹凸の大きさを有する表面が得られるようにプラズマ処理の条件を適宜調節してもよい。
【0031】
撥水撥油防汚性部材10が用いられる物品としては、建築物、自動車、船舶、航空機、列車、アパレル製品、装飾品、及び各種日用品のいずれか、又はそれらに使用される部材が挙げられる。以下に物品の具体例を示す。
【0032】
(a)建材の例
外壁材としては木材(加工木材を含む)、プラスチック材料(カーポート等の屋根材、雨樋等)等。内装材としては木材(加工木材を含む)、プラスチック材料、紙、繊維等。
【0033】
(b)自動車、船舶、航空機、列車等の交通機関の部品の例
(1)ABS樹脂:ランプカバー、インストルメントパネル、内装部品、オートバイのプロテクター、(2)セルロースプラスチック:自動車のマーク、ハンドル、(3)FRP(繊維強化樹脂):外板バンパー、エンジンカバー、(4)フェノール樹脂:ブレーキ、(5)ポリアセタール:ワイパーギヤ、ガスバルブ、キャブレター部品、(6)ポリアミド:ラジエータファン、(7)ポリアリレート:方向指示レンズ、計器板レンズ、リレーハウジング、(8)ポリブチレンテレフタレート(PBT):リヤエンド、フロントフェンダ、(9)ポリアミノビスマレイミド:エンジン部品、ギヤボックス、ホイール、サスペンジョンドライブシステム、(10)メタクリル樹脂:ランプカバーレンズ、計器板とカバー、センターマーク、(11)ポリプロピレン:バンパー、(12)ポリフェニレンオキシド:ラジエーターグリル、ホイールキャップ、(13)ポリウレタン:バンパー、フェンダー、インストルメントパネル、ファン、(14)不飽和ポリエステル樹脂:ボディ、燃料タンク、ヒーターハウジング、計器板。
【0034】
(c)アパレル製品の例
一般の天然繊維製品、化学繊維、合成繊維製品、毛皮製品、皮革製品、紙製品も含む。具体的には、衣類、帽子、ネクタイ、靴、鞄、傘、レインコート、スポーツ衣類、壁用クロス、カーテン、ジュータン、家具、乗り物の内装、シート類、生理用品、紙おしめ、寝具、シーツ、漁網等。
【0035】
(d)装飾品の例
腕時計、メガネフレーム、指輪、腕輪、ブローチ、ネクタイピン、イヤリング、ネックレス等に用いられる樹脂又は皮革製の部材。
【0036】
(e)各種日用品の例
(1)グラビア紙、撥水撥油紙、ポスター紙、高級パンフレット紙等の紙製品、(2)テレビジョン、ラジオ、テープレコーダー、オーディオ、CD、冷凍関係機器の冷蔵庫、冷凍庫、エアコン、ジューサー、ミキサー、扇風機の羽根、照明器具、文字盤、パーマ用ドライヤー等の家電機器、(3)スキー、釣竿、棒高跳び用のポール、ボート、ヨット、ジェットスキー、サーフボード、ゴルフボール、ボーリングのボール、釣糸、魚網、釣り浮き等のスポーツ用品、(4)万年筆、ボールペン、シャ−プペンシル、筆入れ、バインダー、机、椅子、本棚、ラック、電話台、物差し、製図用具、コンピュータ、携帯電話等の文具及び事務用品、(5)バイオリン、ビオラ、チェロ、コントラバス、ギター、マンドリン、ピアノ、電子オルガン、シンセサイザー、メトロノーム等の楽器及び周辺機器の本体又は部品、(6)マイクロホン、スピーカ、イヤホーン、PA機器等の音響機器の筐体及び部品。
【実施例】
【0037】
本発明の特徴及び作用効果を確認するために行った実施例について以下に説明する。
実施例1:透明アクリル樹脂基板を基材とする撥水撥油防汚性部材の製造
まず、基材である透明アクリル樹脂基板をエタノールで洗浄後、表1に示す条件(条件1)の下で、酸素ガス雰囲気中での低圧プラズマ処理(Oプラズマ処理)を行った。次いで、表2に示す条件(条件2)の下で、酸素を含むテトラフルオロメタン(CF)雰囲気中でプラズマ処理を行った。なお、表1及び表2において流量の単位として用いているsccmは非SI単位であり、1sccm=1.69×10−4Pa・m/secである。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】

【0040】
このようにして得られた撥水撥油防汚性部材の水滴接触角を測定した。測定は、同一サンプル上の異なる5点(I〜V)で行った。測定結果は下記の表3に示すとおりである。なお、表3において、「C.A.」は接触角(contact angle)を意味し、「Avg.」及び「S.D.」はそれぞれ、平均値及び標準偏差を意味する。なお、処理前のアクリル樹脂基板の水滴接触角は75.0度であった。
【0041】
【表3】

【0042】
全てのサンプルについて水滴接触角の著しい増大が観測された。これは、図2(b)に示した様に、アクリル樹脂基板表面の炭化水素基が、プラズマ中で発生した・CFラジカルと反応して、水素原子が−CF基と置換され、表面に多数のCF基が結合したことにより、表面の撥水性が向上したことによると考えられる。
【0043】
なお、ここで、Oプラズマ処理は、アクリル樹脂基板表面をクリーニングする作用と、部材表面を粗面化する作用があり、高周波電源のパワーや処理時間を任意に制御することで、表面粗さを数ナノメートルから数百ミクロンの範囲で制御でき、それによっても最終の水滴接触角を165〜100度程度まで制御できた。特に、水滴接触角を150度以上になる様に制御しておけば、極めて表面エネルギーが低く、高性能な撥油防汚性部材を製造できた。また、表面粗さを、可視光の波長以下(例えば、400nm)にしておくと、基材として用いたアクリル樹脂基板の透明度を損なうことはなかった。
【0044】
また、CF以外にも、C、C、CHF等のCF基又はCF基を含む化合物が同様に使用できた。
【0045】
使用可能な部材は、炭化水素基を含む任意の材質のものであり、合成樹脂、合成皮革、合成繊維等の人工素材に加え、木質材料、紙、羊毛等の天然素材に対しても同様に処理できた。他の樹脂材料として、PETについて同様の処理を行った例を実施例2に示す。
【0046】
実施例2:透明ポリエチレンテレフタレート樹脂基板を基材とする撥水撥油防汚性部材の製造
実施例1と同様に、先ず、透明PET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂基板をエタノールで洗浄後、表1に示した条件(条件1)の下で、Oプラズマ処理を行った。次いで、フッ化炭素基を含む化合物としてヘキサフルオロエタン(C)を用い、高周波電源のパワーを250W、処理時間を5分とした以外は、表2に示したのと同様の条件下で、低圧プラズマ処理を行った。その後、接触角を測定してみると、サンプルの水滴接触角は、147度であった。
なお、他のフッ化炭素基を含む化合物を用いた場合でも、CF基又はCF基を含めば、同様の効果があることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明に係る撥水撥油防汚性部材の製造方法は、表面に炭化水素基を含む部材が用いられているものであれば、どのような物についても適用可能である。具体的には、身の回りの建築物、自動車、船舶、航空機、列車、アパレル製品、装飾品、日用雑貨、及び装飾品のいずれにでも使用でき、表面に撥水撥油防汚性を付与できる。それにより、撥水撥油防汚性部材表面への有機物の付着が抑制されるので、細菌、真菌等の有害微生物の繁殖も抑制でき、その表面を清潔に保つことができる。
【符号の説明】
【0048】
10:撥水撥油防汚性部材
11:水素原子の一部一部又は全部がフッ素原子及びフッ化炭素基のいずれか一方又は双方で置換された炭化水素基
12:アクリル基材
13:炭化水素基
14:トリフルオロメチル基

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素原子の一部又は全部がフッ素原子及びフッ化炭素基のいずれか一方又は双方で置換された炭化水素基を基材の表面に有することを特徴とする撥水撥油防汚性部材。
【請求項2】
前記基材が透明樹脂であることを特徴とする請求項1記載の撥水撥油防汚性部材。
【請求項3】
表面粗さが10nm以上900μm以下であることを特徴とする請求項1及び2のいずれか1項記載の撥水撥油防汚性部材。
【請求項4】
表面粗さが10nm以上400nm以下であることを特徴とする請求項1及び2のいずれか1項記載の撥水撥油防汚性部材。
【請求項5】
フッ化炭素基を含む化合物のガス雰囲気中で、表面に炭化水素基を有する基材を低圧プラズマ処理することを特徴とする撥水撥油防汚性部材の製造方法。
【請求項6】
前記フッ化炭素基を含む化合物のガスと酸素ガスの混合雰囲気中で前記基材を低圧プラズマ処理することを特徴とする請求項5記載の撥水撥油防汚性部材の製造方法。
【請求項7】
あらかじめ、酸素ガス雰囲気中で前記基材の低圧プラズマ処理を行った後、前記フッ化炭素基を含む化合物のガス雰囲気中で前記基材を低圧プラズマ処理することを特徴とする請求項5記載の撥水撥油防汚性部材の製造方法。
【請求項8】
前記フッ化炭素基を含む化合物として、CF、C、C、及びCHFのうち1又は複数を用いることを特徴とする請求項5〜7のいずれか1項記載の撥水撥油防汚性部材の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜4のいずれか1項記載の撥水撥油防汚性部材を用いた物品。
【請求項10】
前記撥水撥油防汚性部材が、建築物、自動車、船舶、航空機、列車、アパレル製品、装飾品、及び各種日用品のいずれか、又はそれらに使用される部材であることを特徴とする請求項9記載の物品。

【図1】
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【図2】
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