説明

撥油防水性通気フィルタおよびその製造方法

【課題】環境負荷が小さく、かつケトン系溶剤およびエステル系溶剤に対する優れた撥液性を有する撥油防水性通気フィルタ、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】連続多孔質構造を有する基材が、ペルフルオロアルキル基を有する含フッ素重合体を含む被覆材料によって被覆された撥油防水性通気フィルタであって、前記含フッ素重合体が、α位が塩素原子であり、炭素数1〜6のペルフルオロアルキル基を有するアクリレートに基づく構成単位を有し、該構成単位の割合が全構成単位において40〜100質量%である撥油防水性通気フィルタ。また、前記基材を、前記被覆材料と媒体とを含む撥油防水剤組成物によって処理し、前記媒体を除去する撥油防水性通気フィルタの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撥油防水性通気フィルタおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
精密機器である自動車の排ガスセンサ、インクジェットプリンタのインクカートリッジ等において、通気口を必要とする場合には、精密機器の性能を保護・維持するために、水や塵の侵入を防止する必要がある。また、電池やガソリンタンクでは、内部で発生する引火性ガスを換気し、かつ浸水を防止する必要がある。このような場合、多孔質ポリテトラフルオロエチレン(以下、「PTFE」と記す。)樹脂シート、多孔質ポリオレフィン樹脂シートのような疎水性多孔質膜や、不織布、メッシュ等にPTFE樹脂の防水コーティングを施したものが、防水性の通気膜(通気フィルタ)として使用できる。
【0003】
一方、自動車に搭載された電装品の防水通気フィルタは、エンジンルーム内のエンジンオイル、トルコンオイル、パワステオイル等の各種自動車オイルの油蒸気分が付着したり、シャーシ下回りに使用される有機溶剤を含んだ防錆剤等が付着したり、自動車洗車機用洗剤が付着することが考えられる。前記した通気フィルタは、油分や界面活性剤がたとえ少量でも接触すると、フィルタの耐水性、通気性がほとんど消失し、本来的に必要とされる防水性と通気性が得られなくなる。そのため、油分や界面活性剤が付着するおそれが高い用途では、撥油防水性が付与された通気フィルタが使用されている。
【0004】
撥油防水性通気フィルタとしては、PTFEからなる基材に、ペルフルオロアルキル基(以下、「R基」と記す。)を有する含フッ素重合体を被覆したものが知られている。前記含フッ素重合体としては、α位が水素原子またはメチル基で、R基を有するアルキルアクリレートまたはアルキルメタクリレートを重合した含フッ素重合体が知られている(特許文献1)。前記含フッ素重合体は、炭素数8以上のR基を有する重合体を使用することが知られている。
【0005】
しかし、炭素数8以上のR基を有する含フッ素重合体は、環境、生体中で分解し、分解生成物が蓄積するおそれがある点、すなわち環境負荷が高い点で懸念がある。そのため、炭素数6以下のR基を有し、炭素数8以上のR基を有さない含フッ素重合体を使用することが要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−206422号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、炭素数6以下のR基を有し、炭素数8以上のR基を有さない含フッ素重合体の使用した撥油防水性通気フィルタについて本発明者らが検討したところ、該撥油防水性通気フィルタは、ケトン系溶剤およびエステル系溶剤に対する撥液性が不充分であることがわかった。
【0008】
本発明は、環境負荷が小さく、かつケトン系溶剤およびエステル系溶剤に対する優れた撥液性を有する撥油防水性通気フィルタ、およびその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の撥油防水性通気フィルタは、連続多孔質構造を有する基材が、R基を有する含フッ素重合体を含む被覆材料によって被覆された撥油防水性通気フィルタであって、前記含フッ素重合体が、下記単量体(a)に基づく構成単位を有し、該構成単位の割合が全構成単位において40〜100質量%であることを特徴とする。
単量体(a):α位が塩素原子であり、炭素数1〜6のR基を有するアクリレート。
【0010】
本発明の撥油防水性通気フィルタは、前記単量体(a)が、α位が塩素原子であり、炭素数6のR基を有するアクリレートであることが好ましい。
また、前記基材がPTFEからなることが好ましい。
【0011】
本発明の撥油防水性通気フィルタの製造方法は、連続多孔質構造を有する基材を、R基を有する含フッ素重合体を含む被覆材料と媒体とを含む撥油防水剤組成物で処理し、前記媒体を除去する方法であって、前記含フッ素重合体が、下記単量体(a)に基づく構成単位を有し、該構成単位の割合が全構成単位において40〜100質量%であることを特徴とする。
単量体(a):α位が塩素原子であり、炭素数1〜6のR基を有するアクリレート。
【0012】
本発明の撥油防水性通気フィルタの製造方法は、前記基材がPTFEからなることが好ましい。
また、前記媒体が、ハイドロフルオロカーボンおよびハイドロフルオロエーテルからなる群から選ばれる1種以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の撥油防水性通気フィルタは、環境負荷が小さく、かつケトン系溶剤およびエステル系溶剤に対する優れた撥液性を有する。
また、本発明の撥油防水性通気フィルタの製造方法によれば、環境負荷が小さく、かつケトン系溶剤およびエステル系溶剤に対する撥液性が優れた撥油防水性通気フィルタが得られる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書においては、式(1)で表される化合物を化合物(1)と記す。他の式で表される化合物も同様に記す。また、本明細書における(メタ)アクリレートは、アクリレートまたはメタクリレートを意味し、その他の化合物についても同様である。また、本明細書における単量体は、重合性不飽和基を有する化合物を意味する。また、本明細書におけるR基は、アルキル基の水素原子のすべてがフッ素原子に置換された基である。
【0015】
<撥油防水性通気フィルタ>
本発明の撥油防水性通気フィルタは、連続多孔質構造を有する基材に、R基を有する含フッ素重合体を含む被覆材料によって被覆されたフィルタであって、前記含フッ素重合体が、後述する単量体(a)に基づく構成単位を有し、該構成単位の割合が全構成単位において40〜100質量%の含フッ素重合体(以下、「含フッ素重合体(A)」と記す。)であることを特徴とする。
【0016】
[基材]
本発明における連続多孔質構造を有する基材は、気体透過性材料からなる基材であり、気体、特に空気を通すものであればよい。気体透過性材料としては、天然、合成素材のいずれでもよく、織布、編布、不織布、ネット、フェルト、多孔質ポリマーシート、セルロース紙、ガラス繊維紙、またはこれらを適宜組み合せた複合品等が挙げられる。
基材の形態としては、シート状、チューブ状、プラグ型が好ましい。
基材の連続多孔質構造としては、基材の両面に貫通する連続孔を有するものが好ましい。例えば、ネット状、メッシュ状、多孔質等が挙げられる。
【0017】
多孔質ポリマーシートの材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリイミド、含フッ素樹脂等が挙げられ、防水性に優れる点から、含フッ素樹脂が好ましく、PTFEがより好ましい。基材としては、防滴性に優れ、水滴、油滴、塵埃の侵入を防止しつつ電気装置の内外に通気性を持たせやすい点から、多孔質PTFEシートが好ましく、延伸多孔質PTFEシートが特に好ましい。
延伸多孔質PTFEシートは、PTFEのファインパウダーを成形助剤と混合してペーストの成形体を得た後、該成形体から成形助剤を除去し、高温高速度で延伸し、さらに必要に応じて焼成することにより得られる。延伸多孔質PTFEシートは、一軸延伸多孔質PTFEシートであってもよく、二軸延伸多孔質PTFEシートであってもよい。
【0018】
延伸多孔質PTFEシートの微細構造は、フィブリルと呼ばれる微細な小繊維と、これらフィブリルを結び付けているノードと呼ばれる粒状の結節から構成されており、フィブリルとノードとの間に極めて微細な空孔が相互に連続した状態で存在し、いわゆる連続多孔質構造を形成している。具体的には、一軸延伸の場合、ノード(折り畳み結晶)が延伸方向に対して直角に細い島状となっていて、このノード間を繋ぐようにすだれ状にフィブリル(折り畳み結晶が延伸により解けて引出された直鎖状の分子束)が延伸方向に配向している。そして、フィブリル間、またはフィブリルとノードとで画される空間が空孔となった繊維質構造となっている。また、二軸延伸の場合、フィブリルが放射状に広がり、フィブリルを繋ぐノードが島状に点在して、フィブリルとノードとで画された空間が多数存在する蜘蛛の巣状の繊維質構造となっている。
基材は、延伸多孔質PTFEシート単独で(単層で)使用できるだけの強度を有することが好ましいが、延伸多孔質PTFEシートを、不織布、織物や編物等のネット等、伸縮性を持つ通気性の補強層と積層して使用してもよい。
【0019】
基材のガレー数(測定法等はJIS P8117に準拠する。)は、1,000秒以下が好ましく、600秒以下がより好ましい。基材が延伸多孔質PTFEシートの場合は、孔径0.01〜15μmのシートが好ましい。
基材には、悪影響を及ぼさない範囲内で、紫外線安定剤、着色剤、可塑剤、静電防止剤、抗菌剤等の各種の添加剤が添加されていてもよい。
【0020】
本発明の撥油防水性通気フィルタは、前記基材を覆うように被覆材料が存在しているが、基材の孔径に対する被覆材料の皮膜の厚みは小さく、被覆材料を被覆した状態でも空間が依然として存在しており、連続多孔質構造を維持している。
【0021】
[被覆材料]
(含フッ素重合体(A))
含フッ素重合体(A)は、単量体(a)に基づく構成単位(以下、「単位(α)」と記す。)を必須とし、必要に応じて単量体(b)に基づく構成単位(以下、「単位(β)」と記す。)、単量体(c)に基づく構成単位(以下、「単位(γ)」と記す。)を有する。
単量体(a)は、α位が塩素原子であり、炭素数1〜6のR基を有するアクリレートである。単量体(a)としては、下記化合物(1)が好ましい。
(Z−Y)−OC(O)CCl=CH ・・・(1)。
【0022】
Zは、炭素数1〜6のR基(ただし、該R基はエーテル性の酸素原子を含んでいてもよい。)である。Zとしては、たとえば、下記の基が挙げられる。
F(CF−、
F(CF−、
F(CF−、
(CFCF(CF−等。
【0023】
Yは、2価有機基(ただし、ペルフルオロアルキレン基を除く。)または単結合である。
2価有機基としては、アルキレン基が好ましい。アルキレン基は、直鎖状であってもよく、分岐状であってもよい。さらに、2価有機基には、アルキレン基と共に、−O−、−NH−、−CO−、−S−、−SO−、−CD=CD−(ただし、D、Dは、それぞれ独立に水素原子またはメチル基である。)等を有していてもよい。
【0024】
Yとしては、下記の基が挙げられる。
−CH−、
−CHCH
−(CH−、
−CHCHCH(CH)−、
−CH=CH−CH−、
−S−CHCH−、
−CHCH−S−CHCH−、
−CHCH−SO−CHCH−、
−W−OC(O)NH−A−NHC(O)O−(C2p)−等。
ただし、pは、2〜30の整数である。
Aは、分岐のない対照的なアルキレン基、アリレン基またはアラルキレン基であり、−C12−、−φ−CH−φ−、−φ−(ただし、φはフェニレン基である。)が好ましい。
Wは、下記の基のいずれかである。
−SON(R)−C2d−、
−CONHC2d−、
−CH(RF1)−C2e−、
−C2q−。
ただし、Rは、水素原子または炭素数1〜4のアルキル基であり、dは、2〜8の整数であり、RF1は、炭素数1〜20のR基であり、eは、0〜6の整数であり、qは、1〜20の整数である。RF1としては、炭素数1〜6のR基が好ましく、炭素数4または6のR基がより好ましい。
【0025】
化合物(1)としては、他の単量体との重合性、含フッ素重合体(A)を含む皮膜の柔軟性、基材に対する含フッ素重合体(A)の接着性、媒体に対する溶解性、重合の容易性等の点から、炭素数が4〜6のR基を有するα−クロロアクリレートが好ましく、炭素数が6のR基を有するα−クロロアクリレートがより好ましい。
また、化合物(1)としては、Zが炭素数4〜6のR基であり、Yが炭素数1〜4のアルキレン基である化合物がさらに好ましく、Zが炭素数6のR基であり、Yが炭素数1〜4のアルキレン基である化合物が特に好ましい。
単量体(a)は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0026】
単量体(b)は、α位が水素原子またはメチル基であり、炭素数1〜6のR基を有するアクリレートである。単量体(b)を使用すれば、含フッ素重合体(A)の造膜性が向上し、含フッ素重合体(A)を含む被覆材料を塗布した後の撥液性能が向上する。
【0027】
単量体(b)としては、α位が水素原子またはメチル基である以外は、単量体(a)で挙げたものと同じものが挙げられる。好ましい単量体(b)は、α位が水素原子またはメチル基である以外は前記好ましい単量体(a)と同じものが挙げられ、下記化合物(2)が特に好ましい。
−Y−OC(O)CR=CH ・・・(2)。
ただし、Zは、炭素数4〜6のR基であり、Yは、炭素数1〜4のアルキレン基であり、Rは水素原子またはメチル基である。
単量体(b)は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0028】
単量体(c)は、単量体(a)および単量体(b)以外の単量体であり、単量体(a)および単量体(b)と共重合可能な単量体である。単量体(c)を使用すれば、含フッ素重合体(A)を含む皮膜の基材への接着性が向上し、またコストを低減できる。
単量体(c)としては、たとえば、R基を有さない(メタ)アクリレート類、(メタ)アクリルアミド類、(メタ)アクリロニトリル類、ビニル類、オレフィン類等が挙げられる。具体的には、たとえば、下記の化合物が挙げられる。
2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、ポリオキシアルキレン(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソシアナートエチル(メタ)アクリレート、アジリジニル(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、ポリシロキサン部分を有する(メタ)アクリレート。
(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、メチロール化(メタ)アクリルアミド、酢酸ビニル、塩化ビニル、フッ化ビニル、ビニルアルキルエーテル、ハロゲン化アルキルビニルエーテル、ビニルアルキルケトン、N−ビニルカルバゾール、エチレン、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、無水マレイン酸等。
単量体(c)は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0029】
含フッ素重合体(A)における単位(α)の割合は、全構成単位において40〜100質量%であり、55〜100質量%が好ましく、70〜100質量%がより好ましく、100質量%が特に好ましい。単位(α)の割合が前記下限値以上であれば、ケトン系溶剤およびエステル系溶剤に対する優れた撥液性が得られる。
含フッ素重合体(A)における単位(β)の割合は、全構成単位において、0〜60質量%が好ましく、0〜30質量%がより好ましい。単位(β)の割合が0質量%とは、単位(β)を有さないことを意味する。単位(β)の割合が前記上限値以下であれば、ケトン系溶剤およびエステル系溶剤に対する撥液性に優れ、かつ造膜性に優れる。また、ガラス転移温度が低下し、低温での造膜性に優れる点では、単位(β)の割合は10質量%以上が好ましい。
含フッ素重合体(A)における単位(γ)の割合は、全構成単位において、0〜30質量%が好ましく、0〜10質量%がより好ましく、0質量%が特に好ましい。単位(γ)の割合が前記上限値以下であれば、ケトン系溶剤およびエステル系溶剤に対する撥液性に優れる。
【0030】
本発明における単量体に基づく構成単位の割合は、NMR分析および元素分析から求める。なお、NMR分析および元素分析から求められない場合は、含フッ素重合体の製造時の単量体の仕込み量に基づいて算出してもよい。
【0031】
含フッ素重合体(A)の数平均分子量(Mn)は、1,000〜200,000が好ましく、10,000〜50,000がより好ましい。含フッ素重合体(A)の数平均分子量(Mn)が前記下限値以上であれば、ケトン系溶剤およびエステル系溶剤に対する撥液性が向上する。含フッ素重合体(A)の数平均分子量(Mn)が前記上限値以下であれば、造膜性が良好となり、その結果、ケトン系溶剤およびエステル系溶剤に対する充分な撥液性が得られる。
含フッ素重合体(A)の数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される、ポリメタクリル酸メチル換算の分子量である。
【0032】
含フッ素重合体(A)は、単量体(a)と、必要に応じて使用する単量体(b)および単量体(c)を重合することにより製造される。重合法としては、フッ素系媒体中での溶液重合、水性媒体中での乳化重合、水性媒体中での懸濁重合等が挙げられ、フッ素系媒体中での溶液重合が好ましい。
【0033】
重合開始剤としては、熱重合開始剤、光重合開始剤、放射線重合開始剤、ラジカル重合開始剤、イオン性重合開始剤等が挙げられ、水溶性または油溶性のラジカル重合開始剤が好ましい。
ラジカル重合開始剤としては、アゾ系重合開始剤、過酸化物系重合開始剤、レドックス系開始剤等の汎用の開始剤が、重合温度に応じて使用される。ラジカル重合開始剤としては、アゾ系化合物が特に好ましい。重合温度は30〜80℃が好ましい。
重合開始剤の添加量は、重合に使用する単量体の総量100質量部に対して、0.01〜10質量部が好ましく、0.1〜5質量部がより好ましい。
【0034】
単量体(a)の割合は、重合に使用する全単量体(100質量%)のうち、ケトン系溶剤およびエステル系溶剤に対する撥液性の点から、40〜100質量%であり、55〜100質量%が好ましく、70〜100質量%がより好ましく、100質量%が特に好ましい。
単量体(b)の割合は、重合に使用する全単量体(100質量%)のうち、単量体混合物(100質量%)のうち、0〜60質量%が好ましく、0〜45質量%がより好ましく、0〜30質量%が特に好ましい。
単量体(c)の割合は、重合に使用する全単量体(100質量%)のうち、0〜30質量%が好ましく、0〜10質量%がより好ましく、0質量%が特に好ましい。
【0035】
本発明の撥油防水性通気フィルタの基材に被覆する被覆材料は、含フッ素重合体(A)以外の含フッ素重合体を含んでもよい。含フッ素重合体(A)以外の含フッ素重合体としては、含フッ素重合体(A)以外のR基を有する含フッ素重合体(以下、「含フッ素重合体(B)」と記す。)、主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有する含フッ素重合体(以下、「含フッ素重合体(C)」と記す。)が挙げられる。
【0036】
(含フッ素重合体(B))
含フッ素重合体(B)としては、前記単位(α)を有し、該単位(α)の割合が全構成単位において40質量%未満の含フッ素重合体、前記単位(α)を有さず、前記単位(β)を必須とし、必要に応じて前記単位(γ)を有する含フッ素重合体が好ましい。
【0037】
含フッ素重合体(B)の数平均分子量(Mn)は、1,000〜200,000が好ましく、5,000〜50,000がより好ましい。含フッ素重合体(B)の数平均分子量(Mn)が前記下限値以上であれば、ケトン系溶剤およびエステル系溶剤に対する撥液性が向上する。含フッ素重合体(B)の数平均分子量(Mn)が前記上限値以下であれば、造膜性が良好となり、その結果、ケトン系溶剤およびエステル系溶剤に対する充分な撥液性が得られる。
含フッ素重合体(B)の数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される、ポリメタクリル酸メチル換算の分子量である。
【0038】
含フッ素重合体(B)は、単量体(a)、単量体(b)および単量体(c)の使用量以外は、含フッ素重合体(A)と同じ方法で製造できる。
【0039】
(含フッ素重合体(C))
含フッ素重合体(C)としては、含フッ素環構造を有する単量体を重合して得られる含フッ素重合体、または、少なくとも2つの重合性二重結合を有する含フッ素単量体を環化重合して得られる、主鎖に環構造を有する含フッ素重合体が好ましい。これら含フッ素重合体としては、たとえば、特許第2854223号公報に記載の重合体が挙げられる。
【0040】
含フッ素重合体(B)の割合は、含フッ素重合体(A)の100質量部に対して、0〜20質量部が好ましく、0〜10質量部がより好ましい。
含フッ素重合体(C)の割合は、含フッ素重合体(A)の100質量部に対して、0〜20質量部が好ましく、0〜10質量部がより好ましい。
【0041】
<撥油防水性通気フィルタの製造方法>
本発明の撥油防水性通気フィルタは、連続多孔質構造を有する基材を、前述した含フッ素重合体(A)を必須成分として含む被覆材料と、媒体とを含む撥油防水剤組成物によって処理し、前記媒体を除去する方法によって製造される。
【0042】
撥油防水剤組成物の媒体としては、フッ素系の媒体が好ましく、ハイドロフルオロカーボン(以下、「HFC」と記す。)、ハイドロフルオロエーテル(以下、「HFE」と記す。)がより好ましい。HFCは、炭化水素の水素原子の一部がフッ素原子で置換された、炭素原子、水素原子、フッ素原子のみから構成される化合物である。HFCは、炭素数が4以上で、常温・常圧で液体であるHFCが好ましい。HFEは、HFCの炭素−炭素原子間にエーテル性の酸素原子を含む化合物である。HFEは、炭素数が4以上で、常温・常圧で液体であるHFEが好ましい。本明細書における常温・常圧とは、25℃、1気圧を意味する。
HFC、HFEの分子構造は、直鎖状でも分岐鎖状でもよく、直鎖状が好ましい。HFE1分子中に含まれるエーテル性の酸素原子の数は、1個であってもよく、2個以上であってもよい。媒体として使いやすい沸点である点、安定性の点から、1個または2個が好ましく、1個がより好ましい。
【0043】
HFCの具体例としては、たとえば、以下の化合物が挙げられる。
1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン(CFCHCFCH)、
1,1,1,2,2,3,4,5,5,5−デカフルオロペンタン(CFCFCHFCHFCF)、
1H−モノデカフルオロペンタン(C11H)、
3H−モノデカフルオロペンタン(C11H)、
1H−トリデカフルオロヘキサン(C13H)、
1H−ペンタデカフルオロヘプタン(C15H)、
3H−ペンタデカフルオロヘプタン(C15H)、
1H−ヘプタデカフルオロオクタン(C17H)、
1H−ノナデカフルオロノナン(C19H)、
1H−パーフルオロデカン(C1021H)、
1,1,1,2,2,3,3,4,4−ノナフルオロヘキサン(CCHCH)、
1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6、−トリデカフルオロオクタン(C13CHCH)、
1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6、7,7,8,8−ヘプタデカフルオロデカン(C17CHCH)等。
【0044】
HFCとしては、1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6、−トリデカフルオロオクタン、1H−トリデカフルオロヘキサンが好ましく、1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6、−トリデカフルオロオクタンがより好ましい。
【0045】
HFEの具体例としては、たとえば、以下の化合物が挙げられる。
メチルパーフルオロブチルエーテル(COCH)、
エチルパーフルオロブチルエーテル(COCHCH)、
メチルパーフルオロペンチルエーテル(C11OCH)、
エチルパーフルオロペンチルエーテル(C11OCHCH)、
メチルパーフルオロヘキシルエーテル(C13OCH)、
エチルパーフルオロヘキシルエーテル(C13OCHCH)、
メチルパーフルオロヘプチルエーテル(C15OCH)、
エチルパーフルオロへプチルエーテル(C15OCHCH)、
メチルパーフルオロオクチルエーテル(C17OCH)、
エチルパーフルオロオクチルエーテル(C17OCHCH)、
メチルパーフルオロノニルエール(C19OCH)、
エチルパーフルオロノニルエーテル(C19OCHCH)、
メチルパーフルオロデシルエーテル(C1021OCH)、
エチルパーフルオロデシルエーテル(C1021OCHCH)、
1,1,2,2−テトラフルオロエチル−2,2,2−トリフルオロエチルエーテル(CFCHOCFCFH)、
1,2,2,2−テトラフルオロエチル−2,2,2−トリフルオロエチルエーテル(CFCHFOCHCF)、
1,1,2,3,3,3−ヘキサフルオロプロピル−2,2,2−トリフルオロエチルエーテル(CFCHOCFCFHCF)、
1,1,2,2−テトラフルオロエチル−2,2,3,3−テトラフルオロプロピルエーテル(CHFCFCHOCFCFH)、
1,1,2,2,3,3、−ヘキサフルオロ−1−(1,2,2,2,−テトラフルオロエトキシ)プロピル−パーフルオロプロピルエーテル(COCOCFHCF)、
1,1,1,2,3,4,4,5,5,5−デカフルオロ−2−(トリフルオロメチル)−3−(メトキシ)ペンタン(CFCF(CF)CF(OCH)CFCF)、
1,1,1,2,3,4,4,5,5,5−デカフルオロ−2−(トリフルオロメチル)−3−(エトキシ)ペンタン(CFCF(CF)CF(OC)CFCF)、
1,1,2,2,−テトラフルオロ−1−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)エタン(CF(OCHCF)CFH)、
1,1,2,3,3,3−ヘキサフルオロ−1−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)プロパン(CF(OCHCF)CFHCF)、
1,1,2,2,−テトラフルオロ−1−(2,2,3,3−テトラフルオロプロポキシ)エタン(CF(OCHCFCFH)CFH)、
1,1,2,3,3,3−ヘキサフルオロ−1−(2,2,3,3−テトラフルオロプロポキシ)プロパン(CF(OCHCFCFH)CFHCF)等。
【0046】
HFEとしては、メチルパーフルオロヘキシルエーテル、エチルパーフルオロブチルエーテル、メチルパーフルオロブチルエーテルが好ましく、メチルパーフルオロヘキシルエーテルがより好ましい。
【0047】
媒体は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。媒体は、含フッ素重合体(A)等の重合に使用した媒体を、必要に応じて希釈して使用してもよい。
媒体の割合は、含フッ素重合体(A)〜(C)の合計量(100質量部)に対して、100〜50,000質量部が好ましく、500〜10,000質量部がより好ましい。媒体の割合が前記下限値以上であれば、処理効率が向上する。媒体の割合が前記上限値以下であれば、媒体の除去効率が向上する。
【0048】
基材を撥油防水剤組成物で処理する方法としては、たとえば、ディップコート、スプレーコートが挙げられる。
媒体を除去する方法としては、たとえば、風乾、または熱処理により媒体を蒸発させる方法が挙げられる。媒体を除去する際の温度は、50〜200℃が好ましく、撥油性能が向上する点から、100〜150℃がより好ましい。
【0049】
以上説明した本発明の撥油防水性通気フィルタにあっては、連続多孔質構造を有する基材に、含フッ素重合体(A)を含む被覆材料を被覆していることで、ケトン系溶剤およびエステル系溶剤に対する優れた撥液性を有する。また、炭素数8以上のR基を有する単量体を使用しなくても、ケトン系溶剤およびエステル系溶剤に対する充分な撥液性が得られるため、環境負荷も小さくできる。また、本発明の撥油防水性通気フィルタは、充分な撥油性および撥水性を有している。
【実施例】
【0050】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の記載によっては限定されない。以下、「部」とあるのは「質量部」を意味し、「MEK」とあるのは「メチルエチルケトン」を意味する。例8、9、13〜15、17、18は実施例であり、例10〜12、16は比較例であり、例19、20は参考例である。
[数平均分子量(Mn)]
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC:東ソーHLC−8220、カラム:ポリマーラボラトリーPLgel MIXED−C(5μm)、溶媒:アサヒクリンAK−225(旭硝子社製)/ヘキサフルオロイソプロパノール=99/1(体積比)の混合溶媒、カラム温度:40℃、ポリメタクリル酸メチル換算)により、含フッ素重合体の数平均分子量(Mn)を測定した。
【0051】
[フッ素重量分率]
含フッ素重合体のフッ素重量分率は、燃焼・ピロヒドロリシス法(燃焼条件はM. Noshiro, T. Yarita, Japan analyst 1977, 26, 721-723に準ずる。フッ素イオン濃度測定:堀場製作所 カスタニーLABpHメーター F−23、フッ素イオン電極:堀場製作所 6561−10C)により測定した。
【0052】
<含フッ素重合体の製造例>
[例1]
単量体(a)であるα−クロロペルフルオロアルキルアクリレート(CH=CClCOOCHCH13)(以下、「α−ClC6FA」と記す。)の5g、アサヒクリンAK−225(旭硝子社製)の45g、および重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルの0.05gを耐圧ガラスアンプル(100mL)に入れた。系内を3回窒素で置換した後、65℃で15時間重合を行った。その結果、R基を有する含フッ素重合体A1を10質量%含む溶液を得た。前記溶液を、ヘプタンの500gを入れた1Lのガラス製フラスコに撹拌しながら投入し、その後、上澄み液をデカンテーションにより取り除くことで、含フッ素重合体A1を含む固形物を得た。該固形物を乾燥することで含フッ素重合体A1を4.5g得た。
含フッ素重合体A1の数平均分子量は17,000であった。また、含フッ素重合体A1のフッ素重量分率を測定したところ54.5質量%(理論値54.6質量%)であった。
【0053】
[例2]
単量体(b)であるペルフルオロアルキルメタクリレート(CH=CCHCOOCHCH13)(以下、「C6FMA」と記す。)の20g、アサヒクリンAK−225の46.7g、および重合開始剤として2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)の0.11gを耐圧ガラスアンプル(100mL)に入れた。系内を3回窒素で置換した後、50℃で48時間重合を行った。その結果、R基を有する含フッ素重合体B1を10質量%含む溶液を得た。前記溶液を、メタノールの1,000gを入れた2Lのガラス製フラスコに撹拌しながら投入した。その後、沈殿物を含む混合物を濾過し、含フッ素重合体B1を含む固形物を得た。該固形物を乾燥することで含フッ素重合体B1を19g得た。
含フッ素重合体B1の数平均分子量は33,000であった。また、含フッ素重合体B1のフッ素重量分率を測定したところ57.7質量%(理論値57.2質量%)であった。
【0054】
[例3]
単量体(a)であるα−ClC6FAの8g、アサヒクリンAC−6000(旭硝子社製、C13、フッ素重量分率:71.0質量%)の72g、および重合開始剤として2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)の0.24gを耐圧ガラスアンプル(100mL)に入れた。系内を3回窒素で置換した後、50℃で48時間重合を行った。その結果、R基を有する含フッ素重合体A2を10質量%含む溶液を80g得た。含フッ素重合体A2の数平均分子量は17,000であった。
【0055】
[例4]
単量体(a)であるα−ClC6FAの7.2g、単量体(b)であるC6FMAの0.8g、アサヒクリンAC−6000の72g、および重合開始剤として2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)の0.24gを耐圧ガラスアンプル(100mL)に入れた。系内を3回窒素で置換した後、50℃で48時間重合を行った。その結果、R基を有する含フッ素重合体A3を10質量%含む溶液を80g得た。含フッ素重合体A3の数平均分子量は17,000であった。
【0056】
[例5]
単量体(a)であるα−ClC6FAの4.8g、単量体(b)であるC6FMAの3.2g、アサヒクリンAC−6000の72g、および重合開始剤として2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)の0.24gを耐圧ガラスアンプル(100mL)に入れた。系内を3回窒素で置換した後、50℃で48時間重合を行った。その結果、R基を有する含フッ素重合体A4を10質量%含む溶液を80g得た。含フッ素重合体A4の数平均分子量は15,000であった。
【0057】
[例6]
単量体(a)であるα−ClC6FAの2.4g、単量体(b)であるC6FMAの5.6g、アサヒクリンAC−6000の72g、および重合開始剤として2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)の0.24gを耐圧ガラスアンプル(100mL)に入れた。系内を3回窒素で置換した後、50℃で48時間重合を行った。その結果R基を有する含フッ素重合体B2を10質量%含む溶液を80g得た。含フッ素重合体B2の数平均分子量は12,000であった。
【0058】
[例7]
サイトップCTX−109AE(旭硝子社製)をPTFE製の容器に入れ、200℃で1時間乾燥させることにより、主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有する含フッ素重合体C1を得た。
例1〜6の単量体組成および含フッ素重合体の数平均分子量(Mn)を表1に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
<濡れ性の評価>
[例8]
例1で得た含フッ素重合体A1の2.0部を、媒体であるアサヒクリンAC−6000(HFC)の100部に溶解して撥油防水剤組成物を調製した。その後、ディップコート(引き上げ速度:5mm/秒)により、基材である延伸多孔質PTFEシート(孔径1μm、厚さ300μm、空孔率60%(共に公称値))を前記撥油防水剤組成物によって処理し、150℃で10分間乾燥して媒体を除去して試料1を得た。得られた試料1について、濡れ性試験を行った。
【0061】
[例9]
例1で得た含フッ素重合体A1の1.98部および例7で得た含フッ素重合体C1の0.02部を、媒体であるアサヒクリンAC−6000の100部に溶解して撥油防水剤組成物を調製した以外は、例8と同様にして試料2を作製した。得られた試料2について、濡れ性試験を行った。
【0062】
[例10]
例2で得た含フッ素重合体B1の2.0部を、媒体であるアサヒクリンAC−6000の100部に溶解して撥油防水剤組成物を調製した以外は、例8と同様にして試料3を作製した。得られた試料3について、濡れ性試験を行った。
【0063】
[例11]
例2で得た含フッ素重合体B1の1.98部および例7で得た含フッ素重合体C1の0.02部を、媒体であるアサヒクリンAC−6000の100部に溶解して撥油防水剤組成物を調製した以外は、例8と同様にして試料4を作製した。得られた試料4について、濡れ性試験を行った。
【0064】
[例12]
基材である延伸多孔質PTFEシートを未処理のまま試料5とし、濡れ性試験を行った。
【0065】
[濡れ性試験]
水平に置いた試料の表面に、ピペットを使用して試験用液体(n−ヘキサン、n−デカン、アセトン、MEK、エタノール)を液滴状(1滴が約10〜50μL)に静かに垂らし、目視により濡れの状態、浸透の有無を観察した。一般に濡れた多孔質試料は半透明から透明に変化する。試験は同一条件で作成した2枚の試料に対して、それぞれの試料表面に試験用液体を3ヵ所ずつ合計6ヵ所滴下し、滴下30秒後の濡れ性を以下の基準で評価した。
「○」:6ヶ所すべてにおいて濡れまたは浸透がなかった。
「△」:1ヵ所以上で濡れまたは浸透があるものの、試験用液体が液滴の形状を保っていた。
「×」:1ヵ所以上で試験用液体が液滴形状を保てない程度の濡れまたは浸透があった。
例8〜12における濡れ性試験の結果を表2に示す。
【0066】
【表2】

【0067】
表2に示すように、含フッ素重合体(A)を被覆していない例10および例11がアセトン、MEKに対する撥液性が悪いのに対し、含フッ素重合体(A)を被覆した例8および例9の試料は、n−ヘキサン、n−デカン、エタノール、アセトンおよびMEKすべてに対して撥液性が優れていた。
【0068】
[例13]
例3で得た含フッ素重合体A2の10質量%溶液の20部に、さらにアサヒクリンAC−6000の80部を加えて希釈して撥油防水剤組成物を調製した以外は、例8と同様にして試料6を得た。得られた試料6について、濡れ性試験を行った。
【0069】
[例14]
例4で得た含フッ素重合体A3の10質量%溶液の20部に、さらにアサヒクリンAC−6000の80部を加えて希釈して撥油防水剤組成物を調製した以外は、例8と同様にして試料7を得た。得られた試料7について、濡れ性試験を行った。
【0070】
[例15]
例5で得た含フッ素重合体A4の10質量%溶液の20部に、さらにアサヒクリンAC−6000の80部を加えて希釈して撥油防水剤組成物を調製した以外は、例8と同様にして試料8を得た。得られた試料8について、濡れ性試験を行った。
【0071】
[例16]
例6で得た含フッ素重合体B2の10質量%溶液の20部に、さらにアサヒクリンAC−6000の80部を加えて希釈して撥油防水剤組成物を調製した以外は、例8と同様にして試料9を得た。得られた試料9について、濡れ性試験を行った。
例10および例13〜16における濡れ性試験の結果を表3に示す。
【0072】
【表3】

【0073】
表3に示すように、単量体(a)に基づく単位の割合が40質量%未満の含フッ素重合体(B)のみを使用した例16は、MEKに対する撥液性が悪いのに対し、単量体(a)に基づく単位の割合が40質量%以上の含フッ素重合体(A)を使用した例13〜15は、n−ヘキサン、n−デカン、エタノール、アセトンおよびMEKすべてに対して撥液性が優れていた。
【0074】
[例17]
例3で得た含フッ素重合体A2の10質量%溶液の10gを、メタノールの200gを入れた500mLのガラス製フラスコに撹拌しながら投入した後、上澄み液をデカンテーションにより取り除くことで、含フッ素重合体A2を含む固形物を得た。その後、該固形物を乾燥することでペルフルオロアルキル基を有する含フッ素重合体A2(数平均分子量17,000)を0.9g得た。
得られた含フッ素重合体A2の2.0部をHFE−7300(住友スリーエム社製、C13OCH、フッ素重量分率:70.6質量%)の100部に溶解して撥油防水剤組成物を調製した。得られた撥油防水剤組成物を使用して、例8と同様にして試料10を得た。得られた試料10について、濡れ性試験を行った。
【0075】
[例18]
例3で得た含フッ素重合体A2の10質量%溶液の代わりに、例4で得た含フッ素重合体A3の10質量%溶液を使用した以外は、例17と同様にして撥油防水剤組成物を調製した。その後、得られた撥油防水剤組成物を使用して、例8と同様にして試料11を得た。得られた試料11について、濡れ性試験を行った。
例17および例18における濡れ性試験の結果を表4に示す。
【0076】
【表4】

【0077】
表4に示すように、媒体としてHFCの代わりにHFEを使用しても、n−ヘキサン、n−デカン、エタノール、アセトンおよびMEKすべてに対して優れた撥液性が得られた。
【0078】
<参考例>
[例19]
例1で得た含フッ素重合体A1の10質量%溶液の20部に、さらにアサヒクリンAC−6000の80部を加えて希釈して撥油防水剤組成物を調製した。その後、ディップコート(引き上げ速度:5mm/秒)により、ガラス基板を前記撥油防水剤組成物によって処理し、150℃で1時間乾燥して試料12を得た。得られた試料12について、接触角測定(1秒後、21秒後)を行った。
【0079】
[例20]
例1で得た含フッ素重合体A1の10質量%溶液の代わりに、例2で得た含フッ素重合体B1の10質量%溶液を使用した以外は、例19と同様にして試料13を得た。得られた試料13について、接触角測定を行った。
【0080】
[接触角]
下記装置および条件によって試験用液体(酢酸エチル、酢酸ブチル、MEK、水、n−デカン)の接触角を測定した。
手法:液滴法
使用装置:自動接触角計 DM−500(協和界面科学株式会社)
液滴量:1.8−2.2μL
解析法:θ/2法
例19および例20における接触角測定の結果を表5に示す。
【0081】
【表5】

【0082】
表5に示すように、含フッ素重合体(A)を使用していない例20では、滴下後21秒経過した後の接触角が小さく、撥液性が悪いのに対し、含フッ素重合体(A)を使用した例19では、エステル系溶剤である酢酸エチルおよび酢酸ブチルと、ケトン系溶剤であるMEKのいずれに対しても優れた撥液性を示した。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明の撥油防水性通気フィルタは、自動車の排ガスセンサ、インクジェットプリンタのインクカートリッジ等に使用されるフィルタとして有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続多孔質構造を有する基材が、ペルフルオロアルキル基を有する含フッ素重合体を含む被覆材料によって被覆された撥油防水性通気フィルタであって、
前記含フッ素重合体が、下記単量体(a)に基づく構成単位を有し、該構成単位の割合が全構成単位において40〜100質量%であることを特徴とする撥油防水性通気フィルタ。
単量体(a):α位が塩素原子であり、炭素数1〜6のペルフルオロアルキル基を有するアクリレート。
【請求項2】
前記単量体(a)が、α位が塩素原子であり、炭素数6のペルフルオロアルキル基を有するアクリレートである請求項1に記載の撥油防水性通気フィルタ。
【請求項3】
前記基材がポリテトラフルオロエチレンからなる請求項1または2に記載の撥油防水性通気フィルタ。
【請求項4】
連続多孔質構造を有する基材を、ペルフルオロアルキル基を有する含フッ素重合体を含む被覆材料と媒体とを含む撥油防水剤組成物によって処理し、前記媒体を除去する撥油防水性通気フィルタの製造方法であって、
前記含フッ素重合体が、下記単量体(a)に基づく構成単位を有し、該構成単位の割合が全構成単位において40〜100質量%であることを特徴とする撥油防水性通気フィルタの製造方法。
単量体(a):α位が塩素原子であり、炭素数1〜6のペルフルオロアルキル基を有するアクリレート。
【請求項5】
前記基材がポリテトラフルオロエチレンからなる請求項4に記載の撥油防水性通気フィルタの製造方法。
【請求項6】
前記媒体が、ハイドロフルオロカーボンおよびハイドロフルオロエーテルからなる群から選ばれる1種以上である請求項4または5に記載の撥油防水性通気フィルタの製造方法。

【公開番号】特開2012−130885(P2012−130885A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−286566(P2010−286566)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【出願人】(000107387)日本ゴア株式会社 (121)
【Fターム(参考)】