説明

撮像システム

本発明は、符号化開口撮像と同じ原理を用いる撮像システムに関する。高い角解像度の符号化開口イメージャには、小さい開口サイズ、および符号化開口アレイと検出器との間の比較的広い間隔が必要である。このような高解像度で回折効果が支配的になり始め、画像を劣化させることがある。本発明は、符号化回折マスク6を経てシーン4からの放射を受ける検出器アレイ8を備えている。符号化回折マスクは、関心対象である波長帯でのマスクの回折パターンが、低いサイドローブを伴う強い自己相関関数を有する、良条件の符号化強度パターンであるように設計される。したがって、検出器アレイに到達する放射は回折マスク6によって回折されるが、それは規定された態様でなされ、符号化をもたらすのはマスクの回折パターンである。次いで、従来の符号化開口撮像と同じ技術を使用するが、開口関数としてマスクの回折パターンを使用してシーン画像を再構成することができる。符号化回折マスクはバイナリまたはグレイスケールマスクでよく、反射性または透過性で動作してもよく、振幅または位相変調マスクでよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、符号化撮像システムに関し、特に回折パターンを使用する符号化撮像システムに関する。
【背景技術】
【0002】
シーン(scene)を観察するための光学系は、CCTVセキュリティシステムから監視/偵察システムにおよぶ広範な状況で使用されている。これらのシステムは、例えば解像度または画像更新速度に関してシステムの撮像性能を調整できることが必要であることが多い。別の例は、イメージャが広い動眼視野(FOR)にわたって走査される必要がある場合であり、FORは瞬間の視野(FOV)よりも何倍も広い。
【0003】
光学系の機械的走査はよく知られており、例えばレンズまたはミラー構成を移動するとFOR内のFOVを変更可能であり、または撮像システム全体を移動してもよい。しかし、光学コンポーネントを移動するには一般に嵩張る重い機械的移動手段が必要であり、用途によってはサイズおよび重さを最小限にすることが重要である。さらに機械的に走査されるシステムは不都合な振動を発生することがあり、これが取得された画像を歪ませることがある。さらに、慣性モーメントが大きいことがある大型で重い光学コンポーネントまたはシステム全体を急激に移動することも問題になり得る。
【0004】
走査を達成するために回折パターンをディスプレーするため、空間光変調器(SLM)を使用することも知られている。例えば、発行されているPCT出願、国際公開第2000/17810号パンフレットを参照されたい。シーンの異なる部分から検出器への放射を収束する異なる回折パターンをディスプレーすることができる。それによって、移動部品を使用せずに走査が達成され、それによって光学系の重さと嵩張りを軽減可能であるが、このような回折レンズの手法も効率的ではないことが多い。
【0005】
最近、本発明者らは、再構成可能な符号化開口マスク手段を有する再構成可能な符号化開口イメージャを使用することを提案している。出願人の同時係属の英国特許出願第0510470.8号明細書を参照されたい。
【0006】
符号化開口撮像は、適切なレンズ材料が基本的に存在しないX線またはγ線撮像などの高エネルギ撮像で主として使用される、知られている撮像技術である。例えば、E.FenimoreおよびT.M.Cannon「Coded Aperture imaging with uniformly redundant arrays」、Applied Optics、第17巻、第3号、337−347ページ、1978年2月1日、を参照されたい。さらに、三次元撮像も提案されている。例えば「Tomographical imaging using uniformity redundant arrays」 Cannon TM、Fenimore EE、Applied Optics、第18巻、第7号、1052−1057ページ、(1979年)を参照されたい。
【0007】
符号化開口撮像はピンホールカメラと同じ原理を利用するものであるが、単一の小さい開口を有するのではなく、開口のアレイを有する符号化された開口マスクを使用する。開口のサイズが小さい結果として角解像度は高まるが、開口数が増大すると検出器に到達する放射が増大し、ひいては信号対雑音比が高まる。各開口がシーン画像を検出器アレイに送るので、検出器アレイにおけるパターンは重複する一連の画像となり、シーンとして認識し得ない。記録されたデータから元のシーン画像を再構成する処理が必要である。
【0008】
再構成工程には、使用される開口アレイおよびシステム構成の情報が必要であり、選択される開口アレイは、後の良質な画像の再構成を可能にするため符号化されることが多い。処理工程は設定された位置での特定のアレイの数学モデルを使用して実行される。
【0009】
符号化開口撮像は形状撮像技術であると考えることができ、通常使用される用途、例えば天文学では、回折は無視できる程度である。
【0010】
再構成可能な符号化開口マスク手段を使用することによって、異なる時間に異なる符号化開口マスクをディスプレーすることができる。それによって例えば、移動部品を必要とせずに撮像システムの方向およびFOVを変更できる。さらに、符号化開口マスク手段上にディスプレーされる符号化開口マスクを変更することによって、撮像システムの解像度も変更できる。
【0011】
符号化開口マスク手段上にディスプレーされるパターンは符号化開口マスクであり、符号化開口マスクの少なくとも一部は符号化開口アレイである。すなわち、マスク手段上にディスプレーされるパターン全体が符号化開口アレイであるか、パターンの一部だけが符号化開口アレイである。誤解を避けるため、本明細書で用いられる開口という用語は、マスク手段内の物理的な穴を意味するものではなく、放射が検出器に到達し得るパターンの領域を意味するに過ぎない。
【0012】
前述のように、再構成可能なマスク手段は、マスク手段上の異なる位置に多様な符号化開口アレイを有する多様な符号化開口マスクをディスプレーすることができる。検出器に対する符号化開口マスクのアレイ上の位置を変更することによって、撮像システムの視野を変更可能であり、符号化開口アレイのサイズを変更することによって解像度を変更可能である。ディスプレーされる特定のアレイ、およびその位置の情報は、シーン画像を再構成する上で固定式の符号化開口の場合と同様に利用される。
【0013】
英国特許出願第510470.8号明細書は、移動部品なしで異なる視野または解像度を有するように迅速に構成可能である汎用で軽量の撮像システムを教示している。それによって従来の光学系の必要がなくなり、等角撮像能力が得られ、無限の被写界深度を有することができ、画像の復号には使用される符号化開口の情報が必要であるため生来の無電力による暗号化が得られる。当明細書に記載の撮像装置は特に、可視光線、赤外線または紫外線波長帯での幾つかの撮像および偵察の用途に適している。
【0014】
しかし、高解像度の撮像には開口サイズが小さく、検出器からマスクまでの光路が長いことが必要であり、そのため回折効果が高まる。回折によって、検出器アレイ上のマスクによって形成されるパターンのぶれが生じ、符号化が低減し、良質の画像の復号が困難になる。極端な場合は、画像の再構成ができないほど検出器アレイ上でのパターンがぶれることがある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
したがって、本発明の目的は、上記の欠点を軽減し、形状(陰影付け)モードではなく主として回折モードで動作する符号化撮像システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
したがって、本発明により、使用時に符号化回折マスクを経てシーンからの放射を受けるように配置された検出器アレイを備える、符号化イメージャが提供される。
【0017】
符号化回折マスクは、関心対象である波長帯の入射放射を回折させるパターンを有し、良条件の符号化パターンである回折パターンを検出器アレイ上に生成するマスクである。すなわち、検出器アレイに形成される回折パターンは、システムがシーンからの単一のポイントを撮像する際に僅かなサイドローブしか生じないで鋭い自己相関関数を有する。
【0018】
したがって、本発明は、シーン画像を再構成するために復号可能である符号化パターンを生成する点では従来の符号化開口撮像と同様である。
【0019】
しかし、マスクパターンが良条件であり、回折が最小限であり、マスクによる回折効果が処理工程で補償されることが保証されるように設計される従来の符号化開口撮像とは異なり、本発明は、回折を生ずるが、回折したパターン自体が良条件であることを保証するマスクパターンを意図的に使用するものである。したがって、本発明は、従来教示されてきたように回折を抑止しようとするのではなく、撮像工程の一部として回折を利用し、符号化開口イメージャが最近まで可能であると考えられてきたよりも高い角解像度で動作することを可能にする。
【0020】
伝統的な符号化開口イメージャの場合は、撮像システムの角解像度は光軸に沿ったマスクと検出器との間隔、および符号化開口マスクと検出器アレイの素子のフィーチャーサイズのうちの大きいほうによって決定付けられる。高解像度の符号化開口イメージャには小さい開口サイズと、比較的大きいマスクから検出器までの間隔とが必要である。開口が小さいと回折が顕著なものになり、マスクと検出器との比較的大きい間隔とあいまって、回折効果は検出器アレイでの符号化情報を破壊することがある。回折効果を低減するにはより大きい符号化開口、およびより小さいマスクと検出器との間隔を用いる必要があり、これに対応して角解像度は低下する。
【0021】
本発明は回折を利用し、検出器アレイでのパターンが良条件になるように符号化回折パターンを設計する。したがって、本発明は存在する回折を活用し、かつ信号内の情報を保護する。このことはさらに、角解像度を決定付けるのは検出器アレイ上の回折パターンのフィーチャーサイズであることを意味する。これは(標準的な符号化開口撮像の場合のように)符号化回折マスクのフィーチャーサイズには必ずしも直接関連せず、したがって、本発明によって設計上の自由度はある程度大きくなる。
【0022】
本発明は、国際公開第2000/17810号パンフレットに記載されているような回折レンズを使用する手法とは全く異なることに留意されたい。回折レンズを使用するイメージャは、従来のレンズの代わりに同じ機能性を有する回折素子を使用する。したがって、これらのシステムは、放射を収束して検出器面で画像を形成する回折レンズを教示している。本発明の符号化回折マスクは放射を収束せず、検出器面に画像を生成しない。回折レンズを有するイメージャによって撮像される点光源は検出器アレイ上にポイントを生成するであろう。同じポイントを撮像するように配置された本発明は、良条件にされた検出器アレイ(またはその大部分)上に符号化された強度パターンを生成するであろう。画像を再構成するには、この強度パターンが復号される必要があろう。
【0023】
回折マスクが検出器アレイで良条件のパターンを生成するものと想定すれば、従来の符号化開口撮像と同様に回折パターンに基づいて簡単な復号アルゴリズムを使用できる。解像度を高めるためにより高度の復号技術を使用してもよい。したがって、本装置はシーン画像を再構成するために検出器アレイ上の強度パターンに復号アルゴリズムを適用するためのプロセッサをさらに備えてもよい。
【0024】
回折マスクは幾つかの形態のどれを採ってもよい。回折マスクは例えば、従来の符号化開口撮像システムと同類の開口アレイのようなバイナリ振幅マスクでもよく、その他のバイナリ回折パターンでもよいであろう。しかし、回折原理が利用されているので、その他のマスク技術を利用してもよい。例えば、アナログまたはグレイスケールマスク、すなわち非バイナリ変調度を有するマスクを使用してもよいであろう。バイナリ位相変調マスク、またはアナログ位相変調マスクのいずれかの位相変調マスクを使用することもできよう。位相変調マスクを使用することは、適宜の位相変調を伴ってアレイへ入射する放射のより高い割合が検出器アレイに送られ得ることを意味し、したがって符号化回折位相変調マスクを使用したイメージャの集光効率は振幅変調マスクを使用したイメージャよりも高いことがあり得る。マスクは透過性で動作しても反射性で動作してもよい。回折素子の設計に関連する、コンピュータによって生成されるホログラムの設計に応用可能な技術などの多様な技術も使用できる。例えば、「Iterative approaches to computer−generated holography」、Jennison,Brian K.;Allebach,Jan P.;Sweeney,Donald W.、Optical Engineering(ISSN 0091−3286)、第28巻、1989年6月、629−637ページ、を参照されたい。さらに、システムの帯域幅を広げるために、多色回折技術を活用してもよいであろう。例えばWood AP,Rogers PJ「Hybrid optics in dual waveband infrared system」、Proc.SPIE 3482、602−618ページ(1998年)を参照されたい。
【0025】
符号化回折マスクは固定マスク、すなわち固定パターンを有するものでもよく、または再構成可能な符号化回折マスク手段によって供給されてもよい。前述のように、英国特許出願第0510470.8号明細書は、例えば異なる視野および/または異なる解像度を有する異なる符号化開口マスクを供給するために再構成可能なマスク手段を使用することの利点を教示している。符号化回折マスクも同様に再構成可能であろう。マスク手段上の符号化回折マスクの位置およびサイズはシステムの視野を画定し、回折されたフィーチャーサイズは部分的にイメージャの解像度を決定付ける。
【0026】
当業者は、再構成可能なマスク手段を備えることができる幾つかの異なる技術をよく知っており、例えば液晶デバイス、超小型光電子機械システム(MOEMS)変調器アレイ、マイクロミラーデバイスなどを再構成可能な振幅または位相変調マスク手段として使用可能であろう。
【0027】
符号化回折マスクには多様な符号化を使用できる。符号化回折マスクはコンピュータによって生成されるホログラム(CGH)と同様であり、所望の回折パターンを検出器アレイ上に投影する符号化回折マスクパターンの設計を可能にする幾つかのCGH設計技術が知られている。
【0028】
回折効果は波長と共に変化し、したがってマスクの設計、および符号化開口システムのその他のパラメータを斟酌しなければ波長範囲が広い動作がコントラストを低下させることが理解されよう。ある用途では、入射放射は狭い波長範囲しか有しておらず、散乱効果はさほど重要ではなくなる。一般に、符号化回折マスクパターンは関心対象の波長範囲に対して設計される。
【0029】
したがって本装置は、関心対象の波長範囲で動作する比較的狭い波長の検出器アレイを備えていてもよい。この場合は、符号化回折マスクは明らかにこの動作波長帯内で良条件のパターンが得られるように設計される。それに加えて、またはその代わりに、装置は、動作波長帯を規定するために少なくとも1つのフィルタ手段を備えてもよく、この場合も、使用されるマスクはその波長帯にとって適したものである。
【0030】
装置は、異なる波長で一連のシーン画像を撮像するように配置可能であり、各画像はその波長に適した符号化回折マスクによって得られる。連続的なフィルタ、例えばフィルタホイールまたは同調可能フィルタと共に広帯域検出器アレイを使用することもできよう。したがって、フィルタ手段の通過帯域は好ましくは、一定の継続性をもって、または制御信号に応答して制御可能に、周期的に変化するようになされている。装置はフィルタ手段の異なる通過帯域ごとに異なる符号化回折マスクを供給するようになされてもよい。したがって、本発明のイメージャは、画像が複数の波長または波長帯で取得されるハイパースペクトルまたはマルチスペクトルイメージャで有用に使用できよう。前述のように、各波長帯内で使用される符号化回折パターンは、その波長帯用の良条件のパターンを生成するように設計可能であろう。符号化回折マスクの設計はその他の制約を加えることができる。例えば、これらの符号化回折マスクは、シーン内の多色点光源が適切な各波長帯内で正確に同じパターンを投影することを保証し、または異なる波長で異なるパターンを付与するように設計することもできよう。
【0031】
マスクおよびシステムを入念に設計することによって、検出器アレイで良条件のパターンを生成する波長範囲が比較的大きいマスクが得られることに留意されたい。
【0032】
したがって本発明は、意図的に回折が利用される符号化撮像の方法を提供するものである。したがって、本発明の別の態様では、マスク手段を経てシーンからの放射を受けるように検出器アレイを配置するステップを含む撮像方法であって、マスク手段が良条件の回折パターンを検出器アレイ上に生成する符号化回折マスクを備える方法が提供される。
【0033】
本発明の方法は、本発明の第1の態様に関連して前述したものと同じ利点と実施形態の全てを享受する。
【0034】
特に、この方法は好ましくは、シーン画像を再構成するために検出器アレイ上の強度パターンを復号するステップをさらに含んでいる。この方法はさらに、異なる視野および異なる解像度の少なくとも1つを供給するように、符号化回折マスクを周期的に再構成するステップをも含むことができる。この方法はさらに、入射放射の異なる波長ごとに最適化されたマスクを供給するために、符号化回折マスクを再構成するステップを含むことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
次に以下の図面に関連して、本発明を単に例示を目的として説明する。
【0036】
符号化開口撮像(CAI)はピンホールカメラと同じ原理に基づくものである。ピンホールカメラでは、色収差がない画像がピンホールから離れている全ての距離で形成され、大幅に大きい視野深度を有する、よりコンパクトな撮像システムを展望することが可能になる。しかし、主要な不利点は、ピンホールの光収集特性が低いことによる低い強度処理能力にある。それにも関らず、回折効果を考慮に入れなければならないにせよ、カメラはピンホールの直径によって決定される解像度を有する画像を生成することができる。システムの光処理能力はピンホールのアレイを使用することによって、角解像度を保ちつつ数倍にも増大することができる。各検出器素子は、シーンの各々の視野に対応する様々なピンホールからの貢献の総和の結果を受ける。
【0037】
従来のCAIの動作原理を理解する別の方法は、これが純然たる形状撮像技術であることに注目することである。システムの動眼視野(FOR)内のシーン内の全ての点光源からの光は検出器アレイ上に符号化開口の陰影を付す。検出器はこれらの陰影の強度合計を測定する。符号化開口は、極めて少ないサイドローブを伴って、その自己相関関数が鋭くなるように特別に設計される。典型的には、検出器の強度パターンのデコンボリューションまたは非関数化がシーン内の点光源分布の良好な近似を生み出す(例えばE,FenimoreおよびT.M.Cannon、「Coded aperture imaging with uniformly redundant arrays」、Applied Optics、第17巻、第3号、337−347ページ、1978年2月1日、に記載されているような)擬似ランダムまたは均一冗長アレイ(URA)が使用される。
【0038】
従来のCAIシステムは一般に、回折効果が最小である用途で使用されてきた。例えば、符号化開口撮像は天文撮像に使用されることが多かった。しかし、符号化開口撮像技術のある種の用途では、角解像度を大幅に高める必要がある。それは特に、例えば可視光線、赤外線または紫外線の波長帯、または高解像度の画像を必要とするその他の波長帯での動作時に該当する。検出器のピクセルが符号化開口アレイのフィーチャーサイズpよりも小さいものと想定すると、角解像度はtan−1(p/s)によって決定され、但しsはマスクと検出器アレイとの間の光学距離である。したがって、イメージャの解像度を高めるには開口のサイズを縮小するか、マスクと検出器との距離を増大するか、またはその両方が必要である。開口が比較的小さく、かつ/またはマスクと検出器との距離が大きいと、回折効果は顕著なものになり始める。回折によるぶれ効果は、検出器アレイ上に投影されるパターンに事実上スミア現象が生じ(パターンのコントラストが減少し)、それによってマスクの符号化効果が低下し、ひいては画質が低下することを意味する。回折効果が増大すると、最終的にはほとんど全ての符号化開口情報が失われる。本発明は回折を最小にすることを試みるのではなく、符号化開口撮像の基本原理を依然として用いつつ、回折効果を利用する。したがって、検出器アレイ上に形成されるパターンは依然として符号化された情報パターンであり、復号される必要がある。したがって本発明は、符号化開口撮像システムのあらゆる利点をもたらすが、回折の悪影響を軽減または除去し、それは高解像度のイメージャにとって特に有用である。
【0039】
図1は、全体として2で示された本発明の符号化撮像システムの例を概略的に示す。シーン4内の点光源からの光線は、特定の符号化回折アレイをディスプレーする再構成可能なマスク手段6に当たる。再構成可能なマスクを使用することによって多用性が得られ、異なる波長帯で撮像するために有利であり得る。しかし、固定的なシーンイメージャ用には固定マスクを使用することもできよう。
【0040】
図1に示すように、このマスクは透過性の動作を行うバイナリ振幅マスクである。すなわち、アレイの各々の別個の領域、すなわちピクセルは完全に透過性であるか、完全に不透過性である。しかし、他のタイプのマスクを使用することもできよう。例えば、振幅または位相変調マスクを使用できよう。マスクはバイナリの性質のものでもよく、より多くの固定的な変調レベルを有していてもよく、または実質的にアナログでもよいであろう。
【0041】
符号化アレイは、良条件の回折パターンを有する回折スクリーンとして機能するように設計される。言い換えると、回折格子は、装置の動作波長での視野内の単一の点光源が、最小のサイドローブを伴う鋭い自己相関関数を有する符号化回折パターンを検出器アレイ上に生成するように設計される。したがって、視野内のこのような点光源のどれもが検出器アレイ上に良好に規定された符号化強度パターンを生成し、したがって、従来の符号化開口イメージャと同様に検出器アレイ8上に一連の重複する符号化画像が生成される。
【0042】
検出器アレイ上の各ピクセルで、重複する符号化画像からの強度が加算される。検出器アレイ8からの出力はプロセッサ10に送られ、そこでシーン画像は次いで多様なディジタル信号処理技術を用いて検出器信号から復号される。復号工程は、復号ステップでマスクパターンを使用するのではなく、それが復号で使用されるマスクによって投影される回折パターンであることを除いては、従来の符号化開口アレイイメージャと全く同様である。
【0043】
符号化マスク手段はコントローラ12によって制御され、これは異なる符号化開口マスクをディスプレーするように再構成可能なマスク手段を制御する。視野は、再構成可能なマスク手段上にディスプレーされる符号化アレイのサイズと位置とによって決定されることが明らかであろう。マスク手段上の小さいアレイの位置を変更すると、視野が変わる。したがって、符号化開口アレイの位置を変更するために単にマスク手段を再構成することによって、撮像システムの視野を容易に操作することができる。同様に画像の解像度も制御可能である。
【0044】
したがって本発明は符号化開口撮像の原理を応用するが、付随する利点、すなわち軽量の撮像システム、従来の視野深度の解消、移動部品を必要とせず再構成可能であることを伴い、しかも回折に伴う問題を克服するものである。
【0045】
検出器アレイ上の強度パターンをD(x,y)とし、大気を通過後のシーンの強度分布をS(x,y,λ)とすると(但しλは波長)、従来の回折を伴う符号化開口イメージャの場合、下記となる。
【数1】

但し、
【数2】

は畳み込みを表し、Ωは回折演算子であり、P(x,y)はマスク内の個々の微細開口の透過率であり、A(x,y)はマスク内の微細開口の中心位置を示すマスク関数である。N(x,y)はノイズ項である。撮像される波長帯にわたって積分が行われる。近似は、上記式において近軸性を想定したことによる。ある構成では近軸性はさらに近似値になり、畳み込みが近似値であることを意味する。より高い精度が必要ならば、より精密な(畳み込みではない)記述を用いることができる。
【0046】
非回折の等価式は下記となる。
【数3】

【0047】
但し、Mは(回折があまりないCAIシステムの場合のような)マスクパターン、または言い換えるとマスクパターンの検出器上の非回折投影である。
【0048】
したがって、検出器アレイに良条件のパターンを付与するための本発明の回折パターンの設計によって、非回折CAIの場合と同様の画像再構成が可能であることが明らかであろう。
【0049】
回折マスクの設計は、コンピュータにより生成されるホログラム(CGH)の作成に含まれるものと同じ原理の幾つかを使用できる。コンピュータにより生成されるホログラムは、その名称が示唆するように、空間内に、またはある任意の面、もしくはその近傍に所望の波面または画像を供給するように計算された、空間光変調器(SLM)上に表示されるホログラムである。CGHによって特に、外見的に三次元の物体をディスプレーすることが可能になる。ホログラムは、適正な回折を付与するために決定される必要があるSLM上の回折パターンとして形成される。CGHおよび様々な技術への様々な手法が開発されてきた。例えば、「Iterative approaches to computer−generated holography」、Jennison,Brian K;Allebach,Jan P;Sweeney,Donald W、Optical Engineering(ISSN 0091−3286)、第28巻、1989年6月、629−637ページ、を参照されたい。本発明の符号化回折マスクの設計に同じ原理の幾つかを応用できる。これらの技術は特定の回折パターン(例えば擬似ランダムバイナリパターン、またはURAパターン)を得るためにマスクを設計するために使用することができ、または必要な特性、例えば少ないサイドローブを伴って鋭い自己相関関数を有する回折パターンを生成するコスト関数に基づいてパターンを設計するために使用することができる。
【0050】
符号化回折マスク用のパターンはもちろん、事前に計算され、メモリに記憶されることができる。メモリは、例えば視野、解像度、動作波長帯などの異なる特性を有する様々な異なるマスクを記憶することができる。再構成可能なマスク手段は、特定の状況に適するように、または制御信号に応答してメモリから適切なマスクパターンを選択し、適切なマスクを供給するように再構成可能なマスク手段を再構成するコントローラを有することができる。
【0051】
本発明は良条件の回折パターンを有するように設計された開口アレイを使用することができるが、本発明のマスクはこのような開口アレイに限定されないことに留意されたい。適切な回折マスクをディスプレーする任意の振幅変調パターンを使用することができよう。振幅変調格子はバイナリの性質のものでもよいであろう。すなわち各ピクセルは完全に透過性であるか、完全に不透過性であり(あるいは反射を利用したシステムの場合は反射性、または非反射性であり)、または、アナログ(グレイスケール)であってもよいであろう。動作波長に応じて様々な適切なマスク技術がある。液晶ディスプレーはバイナリまたはアナログ振幅変調器として動作することができる。マイクロミラーデバイス、またはMOEMS(超小型光電子機械システム)変調器アレイも使用できよう。用途と波長帯に応じてその他の変調器技術を使用してもよい。
【0052】
あるいは、位相格子を使用することもできよう。すなわち、各ピクセルがそれを透過する、またはそれから反射する放射の位相を変調する。位相変調器を回折格子として使用できることはよく知られている。さらに、適切な再構成可能な位相格子を供給するために液晶デバイスまたはMOEMS変調器を使用することもできよう。位相変調器は反射性、または透過性で動作するバイナリ位相変調器またはアナログ位相変調器であってよいであろう。用途と波長帯に応じてその他の位相変調器技術を使用してもよい。
【0053】
回折マスクとして位相格子を使用することで、必然的にある程度の放射が検出器に到達することを阻止する振幅変調マスクに伴う強度の大幅な損失が回避される。したがってこれらはイメージャの光子効率を高めることができる。
【0054】
回折マスクを供給するために再構成可能な位相変調器が使用される場合、再構成可能な振幅変調マスクをイメージャの視野を選択するためのシャッタとして動作させる必要があることがある。したがって、振幅変調マスクは放射がシーンの一部からしか検出器に送られることができないようにすることができ、シーンのこの部分からの放射も位相変調回折マスクによって変調される。
【0055】
再構成可能なマスク手段は、回折マスクの位置と特性とを変更することによってイメージャの視野および/または解像度を変更することに加えて、各々が異なる波長で良条件の回折パターンを供給するように設計された一連の異なる符号化回折マスクをディスプレーすることもできる。マスクの入念な設計がある特定の波長範囲を最大限にすることができるものの、回折は波長に依存するので、どの特定のマスクもこの特定の波長範囲内で良条件の回折パターンを供給することが明らかであろう。したがって、イメージャは光学フィルタ、または電子フィルタ、あるいは光路内に導入可能である一連のフィルタである同調可能なフィルタをも使用してもよく、各々が異なる狭い波長帯にあるシーンの一連のスナップショット(または取り込みフレーム)を撮像してもよい。シーンのこれらのスナップショットは各々の波長帯ごとの画像を生成するために処理することができる。これらの別個の波長帯の画像は、必要ならば結合して単一のシーン画像にしてもよい。したがって本発明は便利なことに、ハイパースペクトルまたはマルチスペクトルイメージャとして使用するのに適している。
【0056】
図2は、符号化回折マスクの例、および回折マスクがシーン内の単一の点光源から照射されると、検出器アレイ上に形成されるはずのシミュレートされたパターンを示す。符号化回折マスクはアナログ位相回折マスクである。このマスクアレイの各ピクセルは入射放射に位相変調を施す。位相変調の度合いは0ラジアンの位相変調を表すホワイトピクセルから2πの変調を表すブラックピクセルまで変化するグレイスケール陰影によって表される。マスクはMOEMS変調器アレイなどのいずれかの適宜のピクセル化された位相変調器上にディスプレーされることができよう。
【0057】
この特定の例では、回折符号化マスクは検出器アレイでランダムバイナリ強度パターン(またはCAIで使用される他のタイプのパターン、例えばURA)を生成するように設計される。すなわち、符号化回折マスクを照射する点光源は(理想的には)1または0である強度で検出器アレイの各部分を照射し、検出器アレイ上に形成される符号化パターン内の1および0の分布はランダムパターンの基準を満たす。図示した例では、レイリーゾンマーフェルト回折を組み込んだ制約されたセットへの投影が使用されてもよいであろう。Jennisonらの論文を参照されたい。図2bは点光源の照射およびマスクと検出器アレイとの適正な間隔をシミュレートすることによって形成されたパターンの一部を示している。パターンは鋭角を有する良条件のパターンであることが分かる。図2cは、シミュレートされた強度パターンの列にわたる強度変化を示している。強度は理想的な{0,1}の値から極めて僅かしか変化しないことが分かる。したがってシーンからのパターンは、高画質で高解像度の画像を生ずるために標準的な符号化開口撮像式の処理技術を使用して復元可能な、一連の重複する、良好に画定され、かつ良条件の符号化パターンとなろう。
【0058】
図2aに示した符号化回折マスク内の各ピクセルが光を検出器アレイに送り、したがってこのような符号化開口マスクの光学的効率が高いことが理解されよう。
【0059】
図4は別のマスクパターン、および回折された強度の例を示す。図4aは実際のマスクパターンを示し、図4bは、この例の表示されたライン回折されたパターンにわたる強度パターンのコントラストを示すラインスキャンと共に、波長帯域(3.5μm−4.5μm)にわたって積分された、検出器上に形成された回折されたパターンを示す。
【0060】
本発明はさらに、光路内の追加の光学素子の使用をも活用することができる。最も簡単な形態では、平面ミラーを回折マスクと検出器アレイとの間に挿入して、図3に示すように光路をマスクと検出器アレイとの間で曲折させることができよう。それによって、よりコンパクトなシステムの実施形態が可能になる。それに加えて、またはその代わりに、マスクおよび検出器と組み合わせて倍率を有する光学素子(レンズ、湾曲ミラー)を使用することもできよう。これらはマスクと検出器との間、または回折マスクの直前でよい。これらによって、マスク上に投影される回折パターンをさらに制御することが可能になる。例えば、適宜に湾曲したミラー、および/またはレンズによって、回折パターンの倍率を調整可能である。別の例では、レンズまたはミラーはマスクパターンの光学的フーリエ変換を行い、それによってマスクパターンの計算が簡単になるという利点が得られる。
【0061】
本発明はさらに、平面、湾曲、またはファセットである複数の回折マスクの使用をも活用できる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の符号化撮像システムの概略図である。
【図2】シミュレートされた位相変調マスクおよび検出器アレイ上に形成されたパターンを示す図である。
【図3】曲折した光学配置を示す図である。
【図4】マスクパターンおよび検出器アレイ上に形成された回折パターンの別の例を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用時に符号化回折マスクを経てシーンからの放射を受けるように配置された検出器アレイを備える、符号化イメージャ。
【請求項2】
符号化回折マスクが、動作波長帯において良条件の符号化パターンである回折パターンを検出器アレイ上に生成する、請求項1に記載の符号化イメージャ。
【請求項3】
シーン画像を再構成するため、検出器アレイ上の強度パターンに復号アルゴリズムを適用するためのプロセッサをさらに備える、請求項1または請求項2に記載の符号化イメージャ。
【請求項4】
回折マスクがバイナリ振幅マスク、アナログ振幅マスク、バイナリ位相変調マスク、およびアナログ位相変調マスクのうちの1つである、請求項に記載の符号化イメージャ。
【請求項5】
符号化回折マスクが反射性マスクおよび透過性マスクのうちの1つである、請求項1から4のいずれかに記載の符号化イメージャ。
【請求項6】
符号化回折マスクが、再構成可能な符号化回折マスク手段によって提供される、請求項1から5のいずれかに記載の符号化イメージャ。
【請求項7】
検出器アレイが狭波長域で動作する、請求項1から6のいずれかに記載の符号化イメージャ。
【請求項8】
検出器アレイに到達する放射光路内に位置する1つまたは複数の光学素子をさらに備える、請求項1から7のいずれかに記載の符号化イメージャ。
【請求項9】
少なくとも1つの光学素子が符号化回折マスクと検出器アレイとの間の光路内に位置する、請求項8に記載の符号化イメージャ。
【請求項10】
複数の回折符号化マスクが同時に使用される、請求項1から9のいずれかに記載の符号化イメージャ。
【請求項11】
少なくとも1つのフィルタ手段をさらに備える、請求項1から10のいずれかに記載の符号化イメージャ。
【請求項12】
フィルタ手段の通過帯域が変更可能である、請求項7に記載の符号化イメージャ。
【請求項13】
フィルタの通過帯域が、周期的に、非周期的に、および制御信号に応答してのうちの少なくとも1つの方式で変更されるようになされた、請求項12に記載の符号化イメージャ。
【請求項14】
装置が、フィルタ手段の異なる通過帯域で異なる符号化回折マスクを備えるようになされた、請求項12または請求項13に記載の符号化開口。
【請求項15】
マスク手段を経てシーンからの放射を受けるように検出器アレイを配置するステップを含む符号化撮像方法であって、マスク手段が良条件の回折パターンを検出器アレイ上に投影する符号化回折マスクを備える、符号化撮像方法。
【請求項16】
シーン画像を再構成するため、検出器アレイ上の強度パターンを復号するステップをさらに含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
異なる視野および異なる解像度の少なくとも1つを供給するように、符号化回折マスクを周期的に再構成するステップをさらに含む、請求項15または請求項16に記載の方法。
【請求項18】
入射放射の異なる波長帯ごとに最適化されたマスクを供給するために、符号化回折マスクを再構成するステップをさらに含む、請求項15から17のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2009−529160(P2009−529160A)
【公表日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−552892(P2008−552892)
【出願日】平成19年2月6日(2007.2.6)
【国際出願番号】PCT/GB2007/000411
【国際公開番号】WO2007/091051
【国際公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【出願人】(501352882)キネテイツク・リミテツド (93)
【Fターム(参考)】