説明

撮像素子検査装置

【課題】撮像素子における欠陥画素を確実に検出するとともに、補正処理された撮像素子を効率的に検査することが可能な撮像素子検査装置を提供することを目的とする。
【解決手段】撮像素子検査装置20は、画素データを取得する画素データ取得部21と、信頼区間の区間幅Wcを演算する区間幅演算部22と、基準画素値Svから区間幅Wcを差し引いた閾値Thを用いて欠陥画素を検出する欠陥画素検出部23と、点滅画素が出力する下側画素値の変化特性を算出する変化特性算出部24とを備える。画素データ取得部21は、補正処理される撮像素子12を用いて、変化特性において基準画素値Svに対応する露光時間Ts以上となる露光時間Tiに設定された撮像条件で撮像して画素データを取得する。撮像素子検査装置20は、閾値Thと補正処理された画素データの各画素値とを比較して、当該補正処理の適否を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撮像素子における欠陥画素を検出し、検出結果に基づいて補正処理された撮像素子を検査する撮像素子検査装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
撮像素子検査装置は、デジタルスチルカメラまたはデジタルビデオカメラ等のカメラ装置に用いられるCCD(Charge Coupled Device)やCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)等の被写体光を光電交換する撮像素子を対象として、欠陥画素の検出および補正処理の適否を判定するものである。この撮像素子は、多数の画素を格子状に配置して構成され、当該画素のうち正常に動作しない欠陥画素によりノイズを発生させることがある。欠陥画素によるノイズは、固定パターンノイズとランダムノイズに大別される。
【0003】
固定パターンノイズは、例えば撮像素子がCMOSイメージセンサである場合には、各画素に設けられた増幅器の出力値のバラツキによって発生するノイズである。そのため、固定パターンノイズを有する撮像素子は、異なる時刻に撮像しても、上記のバラツキに基づく特定のパターンで高い信号を出力することになる。ランダムノイズは、同じ撮像条件であっても時刻によって異なる信号を出力する点滅画素によって発生するノイズである。そのため、ランダムノイズを有する撮像素子は、異なる時刻に撮像すると、異なるパターン(ランダム)で高い信号を出力することになる。
【0004】
何れのノイズであっても撮像素子に欠陥画素が含まれていると、カメラ装置が取得する画像データの品質に影響することになる。そこで、例えば、ノイズの発生自体を抑制する方法や、欠陥画素を無効画素として周辺の正常な画素により補間する補正処理などが知られている。このように、画像データの品質を向上させるためには、撮像素子において各ノイズを発生させる欠陥画素を確実に検出することが望まれる。そして、特許文献1,2には、固定パターンノイズまたはランダムノイズを発生させる欠陥画素の検出方法がそれぞれ開示されている。
【0005】
ここで、固定パターンノイズを発生させる欠陥画素は、上述したように、正常な画素よりも定常的に高い信号を出力する特性がある。そのため、撮像時に各画素が出力する信号電荷(以下、「画素値」とも称する)に対して、当該画素が欠陥であるか判定する基準画素値が予め定められている。この基準画素値は、所定露光時間および所定光源輝度での撮像を条件として、例えば、撮像素子の提供元により示される値である。また、撮像素子の各画素が出力する画素値は、撮像素子の温度変化に伴って発生する暗電流により変動することになる。そこで、特許文献1のように撮像素子の温度に応じた基準画素値を取得することにより、温度変化を勘案した欠陥画素の検出が可能とされている。
【0006】
また、ランダムノイズを発生させる欠陥画素(点滅画素)は、複数回に亘って撮像すると、同じ撮像条件であっても複数の画素値が上下に振動するように出力する特性がある。そして、この点滅画素は、画素値の振動についても周期が不定であることから、非定常的な振る舞いをすることになるため、固定パターンノイズを発生させる欠陥画素と同様の方法による検出が困難となる。そこで、少なくとも画素値の時間的変動が生じるような露光時間とフレーム数に撮像条件を設定することで、非定常的に動作する点滅画素の検出が可能とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−268448号公報
【特許文献2】特開2003−298949号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように、特許文献1,2に記載されているようなノイズの検出方法においては、検出時における外的な影響を低減するために、撮像素子を一定の温度に保持しつつ同一の撮像条件で撮像を行って複数の画素値を取得している。しかしながら、正常な画素であっても画素値が所定の揺らぎをもって分散するため、固定パターンノイズを発生させる欠陥画素においては、当該欠陥画素により出力される画素値が基準画素値の付近で揺らぐことがある。そうすると、撮像条件や検出条件などによっては、欠陥画素であるにも関わらず正常な画素と誤判定されるおそれがあった。
【0009】
また、ランダムノイズの検出方法においては、上述したように、点滅画素により出力される画素値の時間的変動が生じるような撮像条件とするため、検出時間にある程度の時間を要することになる。さらに、欠陥画素を補間するような補正処理を行った場合には、当該補正処理が妥当であるか製品検査することがある。このような補正処理された撮像素子の製品検査においては、点滅画素により出力される画素値の振動が生じている状態で当該補正処理の適否を判定する必要がある。そのため、製品検査においてもランダムノイズの検出と同様に、画素値の振動が生じうる露光時間とフレーム数の撮像条件に設定することになるため、ある程度の時間を要することになる。撮像素子を含むカメラ装置の生産性の向上を図るためには、欠陥画素の検出および製品検査に要する時間の短縮が望まれる。
【0010】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、撮像素子における欠陥画素を確実に検出するとともに、補正処理された撮像素子を効率的に検査することが可能な撮像素子検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決するために、請求項1に係る発明によると、所定露光時間および所定光源輝度に設定された撮像条件で複数回に亘って撮像し、撮像素子の各画素が出力する複数の画素値を画素データとして取得する画素データ取得部と、前記画素データにおける画素値の分布状態に基づいて所定の信頼区間の区間幅を演算する区間幅演算部と、前記画素が欠陥であるか判定する基準の画素値として予め設定されている基準画素値から前記区間幅を差し引いた閾値と前記画素データの各画素値とを比較して、前記撮像素子における欠陥画素を検出する欠陥画素検出部と、前記欠陥画素のうち複数の画素値が上下に振動する点滅画素を抽出し、前記撮像条件および前記所定露光時間と異なる露光時間に設定された撮像条件でそれぞれ撮像した場合に前記点滅画素が出力する複数の画素値に基づいて、当該点滅画素により出力され振動する画素値のうち下側画素値の露光時間に対する変化特性を算出する変化特性算出部と、を備え、
前記画素データ取得部は、前記欠陥画素検出部による検出結果に基づいて前記欠陥画素を補正処理される前記撮像素子を用いて、前記変化特性において前記基準画素値に対応する露光時間以上となる露光時間に設定された撮像条件で撮像し、補正処理された前記画素データを取得し、前記欠陥画素検出部が前記閾値と補正処理された前記画素データの各画素値とを比較して、当該補正処理の適否を判定することにより前記撮像素子を検査する。
【0012】
請求項2に係る発明によると、請求項1において、前記区間幅演算部は、前記画素データにおける画素値の標準偏差を算出し、当該標準偏差に基づいて前記信頼区間の区間幅を演算する。
【0013】
請求項3に係る発明によると、請求項1または2において、前記画素データ取得部は、遮光状態とされた前記撮像素子を用いて、前記所定光源輝度がゼロに設定された撮像条件で撮像する。
【0014】
請求項4に係る発明によると、請求項1〜3の何れか一項において、前記変化特性算出部は、前記欠陥画素検出部により複数の前記点滅画素が検出された場合に、露光時間に対して前記下側画素値の変化割合が最小の前記点滅画素に係る前記変化特性を算出する。
【0015】
請求項5に係る発明によると、請求項1〜4の何れか一項において、前記画素データ取得部は、補正処理される前記撮像素子を用いて撮像する際に、前記変化特性において画素値が前記基準画素値となる露光時間に予め設定された誤差許容時間を付加した露光時間に設定された撮像条件とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に係る発明によると、撮像素子検査装置は、閾値と補正処理された画素データの各画素値とを比較して、補正処理の適否を判定することにより撮像素子を検査するものとしている。また、補正処理では、閾値と画素データの各画素値とを比較することにより検出された点滅画素を含む欠陥画素を対象としている。そして、撮像素子の検査および欠陥画素の検出に使用される閾値は、基準画素値から信頼区間の区間幅を差し引いた値としている。
【0017】
上述したように、同じ撮像条件で複数回に亘って撮像すると、正常な画素であっても所定の揺らぎをもって分散する。そこで、区間幅演算部は、画素データにおける画素値の分布状態に基づいて所定の信頼区間の区間幅を演算している。これにより、例えば、99%信頼区間が設定され、300フレームの撮像を行った場合には、ある画素値が99%の確率で含まれる閉区間の区間幅が算出される。当該閉区間には少なくとも297フレーム分(99%)の画素値が含まれるものと推定される。そして、基準画素値から区間幅を差し引いた閾値を用いることにより、基準画素値の付近で画素値が揺らいでいる欠陥画素についても確実に検出することが可能となり、欠陥画素の検出における誤判定を低減できる。
【0018】
また、撮像素子の検査において、閾値と比較される補正処理された画素データは、所定の露光時間(以下、「検査用Ti」とも称する)に設定された撮像条件で撮像して取得される。この検査用Tiは、点滅画素により出力される画素値と基準画素値に基づいて求められる時間である。ここで、点滅画素は、出力する複数の画素値が上下に振動する他に、同じ光源輝度であっても露光時間を長く設定するほど高い画素値を出力するという特性がある。そこで、振動する画素値のうち下側画素値の露光時間に対する変化特性を算出し、この変化特性において基準画素値に対応する露光時間(以下、「基準Ts」とも称する)を求める。
【0019】
そして、検査用Tiを基準Ts以上に設定した撮像条件で撮像すると、点滅画素が出力する画素値は、下側画素値であっても基準画素値を超えることになる。従来、撮像素子の検査においては、ランダムノイズを発生させる点滅画素の画素値が非定常的な振る舞いをすることから、画素値の振動が生じうる露光時間とフレーム数の検査条件に設定する必要があった。これに対して、本発明では、上記のように検査用Tiを算出することで、仮に1フレームであっても点滅画素について補正処理が適正に行われているかを判定することができる。
【0020】
また、正常な画素および固定パターンノイズを発生させる定常画素は、同じ光源輝度であれば露光時間を長く設定しても、暗電流による影響分はあるものの、ほぼ一定の画素値を出力するという特性がある。そのため、上記のように、撮像素子の検査において露光時間を検査用Tiに設定しても、正常な画素は閾値を下回る画素値を出力し、定常画素は閾値を上回る画素値を出力することになる。従って、撮像素子検査装置は、欠陥画素検出部により検出された欠陥画素(点滅画素および定常画素)を対象とした補正処理の適否を判定することが可能となる。さらに、補正処理された撮像素子の検査に好適な検査用Tiを設定することで、検査に要する時間を短縮することができるので、効率的に検査することが可能となる。
【0021】
請求項2に係る発明によると、区間幅演算部は、画素データにおける画素値の標準偏差σに基づいて信頼区間の区間幅を演算する構成としている。ここで、画素値の揺らぎ幅を閾値に勘案する場合に、揺らぎ幅を小さくし過ぎると欠陥画素を正常な画素と誤判定する要因となり、反対に揺らぎ幅を大きくし過ぎると正常な画素を欠陥画素と誤判定する要因となる。そのため、揺らぎ幅を適切に把握する必要があるが、この揺らぎ幅は個々の撮像素子によって異なる値となるものと考えられる。
【0022】
そこで、本発明では、上記の構成のように、その撮像素子が出力する複数の画素値から統計的な指標である標準偏差σを用いて信頼区間の区間幅を算出するようにしている。この標準偏差σは、画素値の揺らぎをもった分散の度合いを示す値であって、例えば、複数の画素から正常な画素を抽出して、当該画素が出力した複数の画素値が正規分布に従うものとして算出することが可能である。よって、例えば、99.7%信頼区間が設定されている場合には、6σ(即ち、±3σ)程度が区間幅として算出される。これにより、撮像素子における欠陥画素を検出する際に、画素値の揺らぎを勘案した好適な閾値を設定することができるので、欠陥画素の検出精度を向上できる。
【0023】
請求項3に係る発明によると、画素データ取得部は、光源輝度をゼロに設定された撮像条件で撮像し、各画素が出力する複数の画素値を画素データとして取得する。これにより、外的な影響を低減し、より高精度に欠陥画素の検出および撮像素子の検査を行うことができる。
【0024】
請求項4に係る発明によると、変化特性算出部は、欠陥画素検出部により複数の点滅画素が検出された場合には、特定の点滅画素を抽出して、当該点滅画素に係る変化特性を算出する。上述したように、点滅画素は、同じ光源輝度であっても露光時間によって画素値が変動するという特性がある。さらに、異なる露光時間に設定した複数の撮像条件で撮像すると、それぞれの点滅画素によっても画素値の変動幅が異なることが分かった。
【0025】
そこで、複数の点滅画素が検出された場合には、露光時間によって下側画素値の変動幅が小さい点滅画素、即ち露光時間に対して下側画素値の変化割合が最小の点滅画素を特定する。そして、変化割合が最小の点滅画素に係る変化特性を算出することにより、補正処理された撮像素子の検査において、全ての点滅画素の下側画素値が閾値を超えるような検査用Tiを設定することができる。これにより、撮像素子の検査をより高精度に行うことが可能となる。
【0026】
請求項5に係る発明によると、補正処理される撮像素子を用いて撮像する際の撮像条件の検査用Tiを、基準Tsに予め設定された誤差許容時間を付加した露光時間に設定する構成としている。画素値の揺らぎ幅は、個々の撮像素子によっても異なるが、同一の撮像素子においても画素によって異なる。また、撮像条件によっても変動することが想定されるため、この変動分を揺らぎ幅の誤差として、この誤差を許容すべく予め設定された誤差許容時間を基準Tsに付加する。これにより、検査用Tiに設定された撮像条件で撮像した場合に、点滅画素の下側画素値が確実に閾値を超えることになるため、より高精度に補正処理の適否を判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施形態におけるカメラ装置および検査装置を示す全体図である。
【図2】CMOSイメージセンサにおける各画素の配置を示す図である。
【図3】固定パターンノイズを発生させる定常画素の出力特性を示すグラフである。
【図4】ランダムノイズを発生させる点滅画素の出力特性を示すグラフである。
【図5】点滅画素の非定常的な出力特性を示すグラフである。
【図6】撮像素子における欠陥画素の検出工程を示すフローチャートである。
【図7】正常画素による画素値の分布を示すヒストグラムである。
【図8】閾値付近の画素値を出力する欠陥画素の出力特性を示すグラフである。
【図9】補正処理された撮像素子の検査工程を示すフローチャートである。
【図10】点滅画素の変化特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の撮像素子検査装置を具体化した実施形態について図面を参照して説明する。この撮像素子検査装置は、デジタルスチルカメラまたはデジタルビデオカメラ等のカメラ装置に用いられるCCDやCMOS等の撮像素子を対象として、撮像素子における欠陥画素の検出および補正処理の適否を判定するものである。
【0029】
<実施形態>
(カメラ装置10および撮像素子検査装置20の構成)
カメラ装置10および撮像素子検査装置20の構成について、図1および図2を参照して説明する。カメラ装置10は、工業分野などの様々な分野で使用されるデジタルカメラであって、図1に示すように、レンズ部11と、撮像素子12と、撮像制御部13と、補正部14を有する。レンズ部11は、被写体光を結像する光学系であり、図示しないレンズやレンズ保持部材などによって構成される。また、レンズ部11は、メカニカルシャッターおよび絞りなどを有し、撮像制御部13による制御信号に基づいて、所定の露光時間(シャッタースピード)だけ所定量の入射光を集光可能となっている。
【0030】
撮像素子12は、撮像面がレンズ部11の光軸に対して直角となるように配置されている。そして、撮像素子12は、レンズ部11により撮像面に結像された光の強弱に応じて信号電荷を発生させるイメージセンサである。撮像素子12は、本実施形態ではCMOSイメージセンサとしている。このCMOSイメージセンサである撮像素子12は、図2に示すように、多数の画素を格子状に配置して構成されている。各画素は、図示しないフォトダイオード、増幅器、およびゲートスイッチ(トランジスタ)を有する単位セルにより構成されている。各画素は、行方向および列方向に延びる走査線により駆動回路に連結されている。そして、駆動回路の駆動信号によって選択的に所定のアドレスに位置する画素のフォトダイオードに蓄積された信号電荷が読み出されるようになっている。
【0031】
撮像制御部13は、撮像指令に基づいてレンズ部11および撮像素子12を制御し、被写体を撮像する回路部である。この撮像制御部13は、撮像素子12から入力する電気信号をデジタル信号に変換して画像データを取得する。また、撮像制御部13は、外部機器と通信可能な通信部を有し、本実施形態では、撮像素子検査装置20から指令された所定の撮像条件および撮像指令に基づいた撮像を行う。補正部14は、撮像制御部13により入力された画像データに対して種々の補正処理を行う回路部である。この補正処理には、撮像素子の温度変化に伴って発生する暗電流の影響を補正する処理や、指定されたアドレスに位置する欠陥画素を無効画素として周辺の正常な画素により補間する処理などが含まれる。
【0032】
撮像素子検査装置20は、カメラ装置10の撮像素子12における欠陥画素の検出および補正処理の適否を判定するものである。この撮像素子検査装置20は、各画素により出力される信号電荷(本発明の「画素値」に相当する)が所定の揺らぎをもって分散することを勘案した欠陥画素の検出工程を実行するものである。また、撮像素子12における欠陥画素には、固定パターンノイズを発生させる定常画素と、ランダムノイズを発生させる点滅画素が含まれる。そこで、撮像素子検査装置20は、これらの欠陥画素の出力特性が異なることに着目し、補正処理された撮像素子の検査工程において、上記の出力特性に基づく検査条件を用いる構成としている。
【0033】
この撮像素子検査装置20は、図1に示すように、画素データ取得部21と、区間幅演算部22と、欠陥画素検出部23と、変化特性算出部24を備える。画素データ取得部21は、カメラ装置10に対して撮像指令を送出するとともに、カメラ装置10によって撮像された画像データを入力する。この画像データは、撮像素子12における欠陥画素の検出工程で使用されるものである。そのため、画素データ取得部21は、所定露光時間および所定光源輝度に設定された撮像条件で撮像するように、カメラ装置10に対して複数回に亘って撮像指令を送出する。これにより、画素データ取得部21は、撮像素子12の各画素が出力する複数の画素値を画素データとして取得する。つまり、300フレームの撮像を行った場合には、撮像素子12の撮像面において所定のアドレスに位置する画素が出力した300回分の信号電荷(画素値)を、当該画素の画素データとして取得している。そして、画素データ取得部21は、この画素データを撮像面における画素数分だけ取得し、撮像素子検査装置20の図示しないメモリ部に記憶させる。
【0034】
この画素データ取得部21による撮像および画素データの取得は、欠陥画素の検出工程および補正処理された撮像素子12の検査工程において、それぞれ実行される。欠陥画素の検出工程においては、画素データ取得部21は、同じ光源輝度で少なくとも2種類の露光時間に設定された撮像条件の下で撮像するようにしている。本実施形態においては、カメラ装置10のレンズ部11を遮光状態として、光源輝度がゼロとなるように設定している。また、補正処理された撮像素子12の検査工程においては、画素データ取得部21は、特に欠陥画素である点滅画素の出力特性に基づいた検査条件で撮像するようにしている。欠陥画素の検出工程、および撮像素子の検査工程の詳細については後述する。
【0035】
区間幅演算部22は、画素データにおける画素値の分布状態に基づいて所定の信頼区間の区間幅を演算する。各画素により出力される画素値は、上述したように、正常画素または欠陥画素であるかに関わらず、同じ撮像条件でも所定の揺らぎをもって分散する。この画素値の揺らぎ幅は、個々の撮像素子によって変動するものである。また、信頼区間は、画素データが正規分布に従うものとし、ある画素値が所定の確率で含まれる閉区間として予め定められている。つまり、区間幅演算部22は、実際にサンプリングした画素値を用いて、その撮像素子12における画素値の揺らぎ幅を算出している。また、区間幅演算部22は、本実施形態においては、画素データにおける画素値の標準偏差σを算出し、当該標準偏差σに基づいて信頼区間の区間幅を演算するものとしている。標準偏差σは、画素値の揺らぎをもった分散の度合いを示す値であって、分散の正の平方根として算出される。このように、個々の撮像素子12に応じた揺らぎ幅を算出するようにしている。
【0036】
欠陥画素検出部23は、閾値Thと画素データの各画素値とを比較して、欠陥画素を検出する。この閾値Thは、画素が欠陥であるか判定する基準の画素値として予め設定されている基準画素値Svから信頼区間の区間幅を差し引いた値としている。また、この基準画素値Svは、所定露光時間および所定光源輝度での撮像を条件として、例えば、撮像素子の提供元により示される値である。これにより、閾値Thが画素値の揺らぎ幅を考慮した値となり、欠陥画素検出部23は、基準画素値Svの付近で揺らいでいる欠陥画素を検出可能としている。欠陥画素の検出工程において欠陥画素が検出されると、当該欠陥画素に係るアドレスがカメラ装置10の補正部14に引き渡されて補正対象となる。撮像素子の検査工程では、閾値Thと補正処理された画素データの各画素値を比較し、閾値Thを上回る画素値の有無をもって補正処理の適否を判定する。
【0037】
変化特性算出部24は、欠陥画素検出部23が検出した点滅画素により出力された画素値の変化特性を算出する。ここで、欠陥画素には定常画素と点滅画素が含まれているが、ランダムノイズを発生させる点滅画素は、出力する複数の画素値が上下に振動するという特性がある。さらに、この点滅画素により出力される複数の画素値は、同じ光源輝度であっても露光時間を長く設定するほど高い画素値を出力するという特性がある。そして、変化特性算出部24は、上下に振動する画素値のうち下側画素値の露光時間に対する変化特性を算出する構成としている。より具体的には、例えば、同じ光源輝度で2種類の露光時間に設定された撮像条件の下で複数回に亘って撮像し、各撮像条件で取得した最小画素値を通る一次式を求めることで上記の変化特性を得られる。
【0038】
このような変化特性を算出するために、変化特性算出部24は、先ず、検出された欠陥画素から画素値が振動する点滅画素を抽出している。この時、多くの場合には複数の点滅画素が検出されるので、変化特性算出部24は、露光時間に対して下側画素値の変化割合が最小の点滅画素に係る変化特性を算出するようにしている。撮像素子12における点滅画素の出力特性は、上述したように、画素値が上下に振動するとともに、露光時間の増加に伴って高い画素値を出力するものである。しかしながら、各点滅画素は、このような出力特性を示す傾向については一致するが、個々の点滅画素によっては振動の振幅や周期、および平均値なども異なっている。このような複数の点滅画素に対して、変化特性算出部24は、変化割合が最小の点滅画素を対象とするものとしている。これは、補正処理された撮像素子12の検査工程において、より正確に且つ効率的に検査を行うことを目的としたものであり、詳細については後述する。
【0039】
(撮像素子における欠陥画素の特性)
撮像素子12における欠陥画素の特性について、図3〜図5を参照して説明する。撮像素子12は、撮像面に多数配置された画素のうち正常に動作しない欠陥画素により、固定パターンノイズまたはランダムノイズを発生させることがある。固定パターンノイズは、各画素を構成する単位セルの増幅器の増幅率が個々で異なることに起因するノイズである。また、固定パターンノイズを発生させる欠陥画素は、正常な画素よりも定常的に高い信号電荷を出力する定常画素である。ランダムノイズは、同じ撮像条件であっても時刻によって異なる信号電荷を出力する点滅画素によって発生するノイズである。
【0040】
ここで、CMOSイメージセンサである撮像素子において定常画素の画素データを取得すると、図3に示すような出力特性を得られる。この画素データの取得においては、遮光状態として光源輝度がゼロとなるようにし、複数種類の露光時間に設定された撮像条件としている。そして、各露光時間においても複数回に亘って撮像を行うことで画素データを取得している。図3において、LNは正常画素値を示し、LC1およびLC2は異なる定常画素値を示している。添え字の「max」および「min」は、各露光時間において取得された画素データのうち最大値および最小値を示している。
【0041】
そして、正常画素は、図3の正常画素値LNに示すように、何れの露光時間においても、ほぼ一定の低い画素値を出力している。また、正常画素値の最大値LNmaxと最小値LNmixとの差が、所定の露光時間における画素データの揺らぎ幅に相当するものである。異なる2つの定常画素は、図3の定常画素値LC1,LC2に示すように、何れに露光時間においても、ほぼ一定の高い画素値を出力している。また、一方の定常画素の最大値LC1maxと最小値LC1minとの差、および他方の定常画素の最大値LC2maxと最小値LC2minとの差は、画素データの揺らぎ幅に相当するものであり、共に正常画素における揺らぎ幅と同程度となっている。このように、固定パターンノイズを発生させる定常画素は、露光時間に関わらずほぼ一定の高い画素値を出力するという特性がある。さらに、定常画素により出力される画素値は、個々の定常画素によって異なる値となり、正常画素と同様の揺らぎ幅を有している。
【0042】
次に、CMOSイメージセンサである撮像素子において点滅画素の画素データを取得すると、図4に示すような出力特性が得られる。この画素データの取得においては、定常画素の画素データの取得の場合と同様の撮像条件とし、各露光時間においても複数回に亘って撮像を行っている。図4において、LNは正常画素値を示し、LB1,LB2は異なる点滅画素値を示している。添え字の「max」および「min」は、各露光時間において取得された画素データのうち最大値および最小値を示している。
【0043】
異なる2つの点滅画素は、図4の点滅画素値LB1,LB2に示すように、同じ露光時間であっても複数の画素値が上下に振動するように出力している。さらに、振動する画素値は、露光時間が長くなるに従って高くなるように変動する。また、一方の点滅画素の最大値LB1maxと最小値LB1minとの差、および他方の点滅画素の最大値LB2maxと最小値LB2minとの差は、振動する画素値の振幅ΔG1,ΔG2に相当するものであり、露光時間が長くなるに従って大きくなるように変動する。
【0044】
ここで、図5は、一方の点滅画素が所定の撮像条件において出力した画素データである。この画素データにより示されるように、点滅画素が出力する画素値は、周期が不定であり非定常的な振る舞いをしている。また、図5に示すように、上側画素値および下側画素値は、それぞれ正常画素と同様の揺らぎ幅で分散している。このように、ランダムノイズを発生させる点滅画素は、不定の周期で振動する画素値を出力するという特性がある。さらに、点滅画素により出力される画素値は露光時間によって最大値、最小値、および振幅が変動し、当該振幅は個々の点滅画素によって異なる値となる。
【0045】
(欠陥画素の検出工程)
撮像素子検査装置20による欠陥画素の検出工程について、図6〜図8を参照して説明する。ここでは、撮像素子12において、補正処理の対象となる欠陥画素(定常画素および点滅画素)を検出することを目的としている。そのため、カメラ装置10は、撮像素子検査装置20から指令された所定の撮像条件および撮像指令に基づいた撮像を行い、補正部14による補正処理を行うことなく撮像素子検査装置20に画像データを出力する。また、温度変化に伴って暗電流が発生すると出力する画素値に影響があるため、カメラ装置10を恒温槽に設置して撮像素子が一定の温度に保持されるようにしている。さらに、カメラ装置10のレンズ部11を覆蓋することで遮光状態としている。
【0046】
欠陥画素の検出工程では、先ず、撮像条件の設定を行う(S10)。ここでは、上述したように、カメラ装置10は遮光状態となっているため、光源輝度はゼロに設定されている。また、最初の露光時間として、0.1[ms]が設定される。このような撮像条件の下、画素データ取得部21は、カメラ装置10に対して撮像指令を所定間隔で数分間に亘って送出し続ける。これにより、カメラ装置10による撮像が行われ、画素データ取得部21は、撮像素子12の各画素が出力する複数の画素値を画素データとして取得する(S11)。また、画素データ取得部21は、撮像素子12の撮像面における画素数分の画素データをメモリ部に記憶させる。
【0047】
次に、全ての撮像条件での撮像が終了したか否かを判定する(S12)。本実施形態においては、2種類の露光時間に撮像条件を設定するため、ここでは画素データ取得が終了していないものとして(S12:No)、S10に戻り撮像条件を再び設定する。ここでは、光源輝度がゼロに設定されるとともに、2回目の露光時間として、300[ms]が設定される。このような撮像条件の下、画素データ取得部21は、初回と同様に撮像指令を送出して撮像を行い、複数の画素値を画素データとして取得し(S11)、メモリ部に記憶させる。そして、2種類の露光時間での撮像を終えたため、全ての撮像条件での撮像が終了したものとし(S12:Yes)、S13に移行する。
【0048】
続いて、区間幅演算部22により画素データにおける画素値の分布状態に基づいて所定の信頼区間の区間幅Wcを演算する(S13)。より詳細には、区間幅演算部22は、先ず、露光時間が300[ms]に設定された撮像条件で取得された画素データをメモリ部から読み出す。そして、画素データのうち何れかの正常画素により出力された画素データを抽出する。正常画素の抽出方法については、任意に抽出した画素が正常であるかを判定するようにしてもよいし、所定領域に含まれる複数の画素のうち画素値が中央値である画素を抽出するようにしてもよい。
【0049】
ここで、抽出された正常画素が出力した複数の画素値は、図7に示すように、正規分布に従う状態となる。区間幅演算部22は、画素データにおける画素値の標準偏差σを算出する。次に、区間幅演算部22は、メモリ部から予め設定されている信頼区間を読み出し、当該信頼区間の区間幅Wcを標準偏差σに基づいて演算する。例えば、99.7%信頼区間が設定されている場合には、図7に示すように、6σ(即ち、±3σ)が区間幅Wcとして算出される。この区間幅Wcは、信頼区間が一定であっても取得した画素データの分布状態によって変動するものであり、つまり個々の撮像素子によって変動するものである。
【0050】
次に、欠陥画素検出部23は、画素が欠陥であるか判定する基準の画素値として予め設定されている基準画素値Svから信頼区間の区間幅Wcを差し引いて、閾値Thを算出する(S14)。欠陥画素検出部23は、この閾値Thと画素データを比較して、撮像素子における欠陥画素を検出する(S15)。ここで、欠陥画素には、図3の定常画素値LC1のように基準画素値Svの付近で揺らいでいる定常画素が含まれていることがある。そこで、上記のような閾値Thを用いた検出をすることにより、図8に示すように、何れの定常画素も出力する画素値が閾値Thを上回るようにしている。そのため、欠陥画素検出部23は、全ての画素値が閾値Thを超えている画素を定常画素として検出する。
【0051】
また、図4の点滅画素値LB1のように基準画素値Svを跨ぐように振動する点滅画素は、図8に示すように、閾値Thも跨ぐように振動する画素値を出力する。そのため、欠陥画素検出部23は、1回でも画素値が閾値Thを超えている画素のうち定常画素を除いた画素を点滅画素として検出する。そして、欠陥画素検出部23は、検出された定常画素および点滅画素のアドレスをメモリ部に記憶させる。
【0052】
続いて、撮像素子検査装置20から欠陥画素に係るアドレスがカメラ装置10の補正部14に転送し(S16)、欠陥画素の検出工程を終了する。また、補正部14は、補正処理の実行を指令されると、画像処理部が取得した画像データに対して、転送されたアドレスに位置する欠陥画素を無効画素として周辺の正常な画素により補間するように補正処理を行う。
【0053】
(撮像素子の検査工程)
撮像素子検査装置20による撮像素子の検査工程について、図9および図10を参照して説明する。ここでは、欠陥画素の検出工程における検出結果に基づいて補正部14が補正処理を実行した場合に、その補正処理の適否を判定することを目的としている。そのため、カメラ装置10は、撮像素子検査装置20から指令された所定の撮像条件および撮像指令に基づいて撮像を行い、補正部14による補正処理を実行して撮像素子検査装置20に画像データを出力する。また、欠陥画素の検出工程と同様に、カメラ装置10を恒温槽にて一定の温度に保持されるようにするとともに、カメラ装置10のレンズ部11を覆蓋して遮光状態としている。
【0054】
撮像素子の検査工程では、先ず、変化特性算出部24が点滅画素により出力された画素値の変化特性を算出する(S20)。そのため、変化特性算出部24は、検出された複数の点滅がそのうち、露光時間に対して下側画素値の変化割合が最小の点滅画素を特定し、この点滅画素に係る変化特性を算出するようにしている。例えば、図4に示すような点滅画素値LB1,LB2を出力する異なる点滅画素が検出されたものとする。このような場合には、一方の点滅画素値LB1minの方が、他方の点滅画素値LB2minよりも露光時間に対する変化割合が小さい。よって、変化特性算出部24は、一方の点滅画素値LB1minを出力する点滅画素について変化特性を算出する。
【0055】
ここでは、欠陥画素の検出工程において、2種類の露光時間で撮像を行っているため、図10に示すように、各撮像条件で取得した最小画素値を通る一次式を求めることで変化特性F(t)を算出している。本実施形態では、2種類の露光時間としたため、このような方法で変化特性F(t)を算出したが、その他に、さらに異なる露光時間に設定した撮像条件により画素データを取得し、3点以上の最小画素値に基づいて最小自乗法により近似式を求めるようにしてもよい。
【0056】
続いて、撮像素子検査装置20は、算出された変化特性F(t)において基準画素値Svに対応する露光時間である基準Tsを求める(S21)。この基準Tsは、この露光時間に設定した撮像条件で撮像すると、検査対象の撮像素子12における何れの点滅画素が不定の周期で振動する画素値を出力したとしても、当該画素値の最小値が少なくとも基準画素値Sv以上となる露光時間である。
【0057】
次に、撮像素子検査装置20は、予め設定された誤差許容時間Teを取得する(S22)。そして、基準Tsに誤差許容時間Teを付加して検査用Tiを算出する(S23)。この検査用Tiは、撮像素子12の検査工程において、閾値Thと比較される画素データを取得するための撮像を行う際の撮像条件である露光時間である。上述したように、点滅画素に係る変化特性F(t)から基準Tsを算出るものとしたが、画素値の揺らぎや近似による誤差が生じるおそれがある。そこで、このような誤差を許容するために、図10に示すように、基準Tsに誤差許容時間Teを付加して検査用Tiを算出するようにしている。
【0058】
そして、撮像素子検査装置20は、撮像条件の設定を行う(S24)。ここでは、上述したように、カメラ装置10は遮光状態となっているため、光源輝度はゼロに設定されている。また、露光時間として、S23で算出された検査用Tiが設定される。このような撮像条件の下、画素データ取得部21は、カメラ装置に対して撮像指令を数回だけ送出する。これにより、カメラ装置10による撮像が行われ、画素データ取得部21は、補正処理された撮像素子12の各画素が出力する数回分の画素値を画素データとして取得する(S25)し、当該画素データをメモリ部に記憶させる。
【0059】
最後に、欠陥画素検出部23は、閾値Thと補正処理された画素データの各画素を比較し、閾値Thを上回る画素値の有無をもって補正処理の適否を判定する(S26)。ここで、固定パターンノイズを発生させる定常画素は、揺らぎ幅のうち最小値となるような画素値を出力したとしても、少なくとも閾値Thを信頼水準(99.7%)の確率で上回るものと考えられる。また、ランダムノイズを発生させる点滅画素は、振動により最小値となるような画素値を出力したとしても、少なくとも基準画素値Svを上回ることになる。従って、撮像素子の検査工程において、数回分の画素データであっても、補正処理が適正に行われていない場合には、何れの欠陥画素であっても検出することが可能となっている。そして、撮像素子検査装置20は、補正処理の適否の判定結果を表示し、当該検査工程を終了する。
【0060】
(撮像素子検査装置20による効果)
上記のように説明した撮像素子検査装置20は、基準画素値Svから信頼区間の区間幅Wcを差し引いた閾値Thを用いて、欠陥画素の検出工程および撮像素子12の検査工程を行うものとした。これにより、基準画素値Svの付近で画素値が揺らいでいる欠陥画素についても確実に検出することが可能となり、欠陥画素の検出工程における誤判定を低減することができる。
【0061】
また、撮像素子の検査工程において、閾値Thと比較される補正処理された画素データは、露光時間を検査用Ti以上に設定された撮像条件で撮像して取得されるものとした。そして、この検査用Tiは、点滅画素の出力特性に基づいて算出された基準Ts以上に設定された露光時間である。このような露光時間に設定した撮像条件で撮像すると、点滅画素が出力する画素値は、下側画素値であっても基準画素値Svを上回ることになる。これにより、撮像素子の検査工程では、仮に1フレームであっても点滅画素について補正処理が適正に行われているかを判定することができる。
【0062】
ここで、正常な画素および固定パターンノイズを発生させる定常画素は、同じ光源輝度であれば露光時間を長く設定しても、暗電流による影響分はあるものの、ほぼ一定の画素値を出力するという特性がある。そのため、撮像素子の検査において露光時間を検査用Tiに設定しても、正常な画素は閾値Thを下回る画素値を出力し、定常画素は閾値Thを上回る画素値を出力することになる。従って、撮像素子検査装置20は、欠陥画素検出部23により検出された欠陥画素(点滅画素および定常画素)を対象とした補正処理の適否を判定することが可能となる。さらに、補正処理された撮像素子の検査に好適な検査用Tiを設定することで、検査工程における撮像回数を低減することができるので、検査に要する時間を短縮し、効率的に検査することが可能となる。
【0063】
さらに、区間幅演算部22は、画素データにおける画素値の標準偏差σに基づいて信頼区間の区間幅Wcを演算する構成としている。ここで、画素値の揺らぎ幅を閾値Thに勘案する場合に、揺らぎ幅を小さくし過ぎると欠陥画素を正常な画素と誤判定する要因となり、反対に揺らぎ幅を大きくし過ぎると正常な画素を欠陥画素と誤判定する要因となる。そのため、揺らぎ幅を適切に把握する必要があるが、この揺らぎ幅は個々の撮像素子によって異なる値となるものと考えられる。
【0064】
そこで、本実施形態の撮像素子検査装置20では、撮像素子12が出力する複数の画素値から統計的な指標である標準偏差σを用いて信頼区間の区間幅Wcを算出するようにしている。よって、信頼区間の区間幅Wcを簡易に算出することが可能となる。これにより、撮像素子における欠陥画素を検出する際に、画素値の揺らぎを勘案した好適な閾値Thを設定することができるので、欠陥画素の検出精度を向上できる。
【0065】
また、画素データ取得部21は、カメラ装置10のレンズ部11を遮光状態とし、光源輝度をゼロに設定された撮像条件で撮像し、各画素が出力する複数の画素値を画素データとして取得するものとした。これにより、外的な影響を低減し、より高精度に欠陥画素の検出および撮像素子の検査を行うことができる。
【0066】
また、変化特性算出部24は、複数の点滅画素が検出された場合に、露光時間に対して下側画素値の変化割合が最小の点滅画素に係る変化特性を算出するものとした。これにより、補正処理された撮像素子の検査工程において、全ての点滅画素の下側画素値が閾値Thを超えるような検査用Tiを設定することができる。これにより、撮像素子の検査をより高精度に行うことが可能となる。
【0067】
さらに、補正処理される撮像素子の検査工程において、基準Tsに誤差許容時間Teを付加した検査用Tiを露光時間に設定した撮像条件で撮像するものとした。これにより、画素値の揺らぎや、点滅画素に係る変化特性F(t)を算出する際の近似による誤差を許容する検査用Tiを設定することができる。よって、点滅画素の下側画素値が確実に閾値Thを超えることになるため、より高精度に補正処理の適否を判定することができる。
【0068】
<実施形態の変形態様>
本実施形態では、欠陥画素の検出工程および撮像素子の検査工程において、撮像を行う際の光源輝度をゼロに設定した。これに対して、光源輝度は、画像全体の平均輝度が所定の値となるように調整するように、ゼロ以外のもの設定してもよい。同様に、説明を簡易にするために、1種類の光源輝度で撮像して、画素データを取得するものとしたが、複数種類の光源輝度で撮像するようにしてもよい。これにより、光源輝度によって画素値が変動する特性がある場合に、この特性を加味した欠陥画素の検出または撮像素子の検査が可能となる。
【0069】
また、本実施形態において、点滅画素に係る変化特性F(t)を算出する際には、2点を通る一次式を求めるものとした。ここで、変化特性F(t)は、図10のように、露光時間と画素値との関係を示す平面上において、当該変化特性F(t)の直線ないし曲線によって区分された一方の領域に、何れの点滅画素により出力される画素値が位置するように、特定の点滅画素の画素値に基づいて算出している。そのため、点滅画素に係る変化特性F(t)は、上述したように、最小自乗法により一次または二次の近似式を求めるようにしてもよい。
【0070】
また、本実施形態において、検査用Tiは、基準Tsに誤差許容時間Teを付加した時間とした。この誤差許容時間Teは、画素値の揺らぎや計算上発生する誤差などを許容することを目的とするものであり、長くすると撮像素子の検査工程に要する時間が長くなるため、これらを勘案して適宜設定される値とすることが好ましい。このようなことから、誤差許容時間Teをゼロにして、検査用Tiを基準Tsと等しい時間としてもよい。
【符号の説明】
【0071】
10:カメラ装置、 11:レンズ部、 12:撮像素子、 13:撮像制御部
14:補正部
20:撮像素子検査装置 21:画素データ取得部、 22:区間幅演算部
23:欠陥画素検出部、 24:変化特性算出部
Sv:基準画素値、 Th:閾値、 σ:標準偏差、 Wc:区間幅
Ts:基準(露光時間)、 Ti:検査用(露光時間)、 Te:誤差許容時間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定露光時間および所定光源輝度に設定された撮像条件で複数回に亘って撮像し、撮像素子の各画素が出力する複数の画素値を画素データとして取得する画素データ取得部と、
前記画素データにおける画素値の分布状態に基づいて所定の信頼区間の区間幅を演算する区間幅演算部と、
前記画素が欠陥であるか判定する基準の画素値として予め設定されている基準画素値から前記区間幅を差し引いた閾値と前記画素データの各画素値とを比較して、前記撮像素子における欠陥画素を検出する欠陥画素検出部と、
前記欠陥画素のうち複数の画素値が上下に振動する点滅画素を抽出し、前記撮像条件および前記所定露光時間と異なる露光時間に設定された撮像条件でそれぞれ撮像した場合に前記点滅画素が出力する複数の画素値に基づいて、当該点滅画素により出力され振動する画素値のうち下側画素値の露光時間に対する変化特性を算出する変化特性算出部と、
を備え、
前記画素データ取得部は、前記欠陥画素検出部による検出結果に基づいて前記欠陥画素を補正処理される前記撮像素子を用いて、前記変化特性において前記基準画素値に対応する露光時間以上となる露光時間に設定された撮像条件で撮像し、補正処理された前記画素データを取得し、
前記欠陥画素検出部が前記閾値と補正処理された前記画素データの各画素値とを比較して、当該補正処理の適否を判定することにより前記撮像素子を検査する撮像素子検査装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記区間幅演算部は、前記画素データにおける画素値の標準偏差を算出し、当該標準偏差に基づいて前記信頼区間の区間幅を演算する撮像素子検査装置。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記画素データ取得部は、遮光状態とされた前記撮像素子を用いて、前記所定光源輝度がゼロに設定された撮像条件で撮像する撮像素子検査装置。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一項において、
前記変化特性算出部は、前記欠陥画素検出部により複数の前記点滅画素が検出された場合に、露光時間に対して前記下側画素値の変化割合が最小の前記点滅画素に係る前記変化特性を算出する撮像素子検査装置。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか一項において、
前記画素データ取得部は、補正処理される前記撮像素子を用いて撮像する際に、前記変化特性において画素値が前記基準画素値となる露光時間に予め設定された誤差許容時間を付加した露光時間に設定された撮像条件とする撮像素子検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−98690(P2013−98690A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−238574(P2011−238574)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【出願人】(000237271)富士機械製造株式会社 (775)
【Fターム(参考)】