説明

撮像装置

【課題】必要なときにのみ赤外光撮影用光学フィルタを用いて撮影することにより、プライバシーの侵害を最小限にしつつ犯罪捜査等に有益な情報を得る。
【解決手段】照度と画像認識による判定を行い、所定の照度より大きい場合に、画像認識により赤外光撮影が必要であるかを判定し、赤外光撮影が必要な場合、撮像素子の前面に配置する光学フィルタを可視光撮影用光学フィルタから赤外光撮影用光学フィルタに切り替え、赤外光撮影用光学フィルタを用いて所定の時間以上連続して撮影する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学フィルタ切り替え機能を備えた監視カメラなどの撮像装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、撮像装置の一種である監視カメラとして、高照度環境および低照度環境のいずれにおいても鮮明な映像を得るために、光学フィルタの切り替え機能を備えた監視カメラ装置が知られている(例えば特許文献1,特許文献2)。従来の監視カメラでは、例えばCCDセンサやCMOSセンサ等の撮像素子の前面に、撮影環境の明るさに応じて切り替える光学フィルタが配置されている。
【0003】
撮像素子として用いられるCCDセンサおよびCMOSセンサは、人間の目と比べると、赤外領域の感度が高い。このため、レンズを通して監視カメラに入射した光をそのまま受光すると、可視光領域以外の光も受光してしまう。すると、映像信号は人間の目と異なる分光特性になり、正しい色情報が得られない。そこで、撮像素子の前面には、入射光が撮像素子に到達する前に赤外光を除去するIRカットフィルタが配置されている。高照度環境では、正しい色情報を得るため、IRカットフィルタを配置した状態で撮影を行う。すなわち、IRカットフィルタを可視光撮影用光学フィルタとして用いる。
【0004】
但し、可視光と赤外光を両方受光した場合は、正しい色情報は得られないものの、感度が上がる。低照度環境では感度が重視されるため、撮像素子の前面にはIRノンカットフィルタに切り替えて撮影する。すなわち、IRノンカットフィルタを赤外光撮影用光学フィルタとして用いる。赤外光撮影用光学フィルタで撮影を行うときは、正しい色情報が得られないので、映像信号処理によって白黒映像に変換して出力する。このように、色情報よりも感度を優先する場合に、赤外光撮影用光学フィルタを用いて撮影を行う。
【0005】
通常、光学フィルタの切り替えは、映像信号レベルに応じて自動で行われる。また、光学フィルタの切り替えと同時に、画像処理設定,露光制御,オートフォーカス制御等も、各フィルタに応じた設定に切り替える制御が一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−75140号公報
【特許文献2】特開2007−300374号公報
【特許文献3】特開2005−123798号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、従来の監視カメラにおいて、可視光撮影用光学フィルタと赤外光撮影用光学フィルタとの間の切り替えは撮影環境の照度のみに応じて行われており、赤外光撮影用光学フィルタは、低照度撮影時のみ使用されていた。
【0008】
しかしながら、高照度環境においても赤外光撮影用光学フィルタを用いた方が良い場合も考えられる。例えば、ヘルメットやマスク等で隠された顔を撮影する場合である。監視カメラの役割の一つは、犯罪発生時、現場を撮影することで、捜査時に有益な情報を提供することである。しかし、犯行時に犯人がヘルメットやマスク等で顔を隠していた場合、有益な情報が得られない。
【0009】
このとき、赤外光撮影用光学フィルタを用いて撮影すると、ヘルメットやマスク等で隠された顔を撮影することができる。人体から発する赤外光は可視光よりも波長が長いため、衣服等の薄い膜を透過する特徴がある。このため、赤外光を撮影すると、衣服等で隠された部分を撮影することができる。
【0010】
但し、高照度環境においては、正しい色情報を得るために、通常は可視光撮影用光学フィルタを用いて撮影することが望ましい。また、赤外光撮影時は衣服で隠された部分を撮影するため、常時用いると、プライバシーの侵害になる恐れもある。このため、高照度環境において、必要なときにのみ赤外光撮影用光学フィルタに切り替える手段が望まれる。
【0011】
ここで、特許文献3では、撮影時は常に、赤外光撮影用光学フィルタと、可視光撮影用光学フィルタとを、定期的に入れ替えて、赤外光撮影と可視光撮影を同時に行う方法が記載されている。この方法では、画像認識によって、光学フィルタの入れ替え頻度を変化させ、可視光撮影nフレーム毎に赤外光撮影1フレームが混ざるようにしている。
【0012】
しかし、光学フィルタは厚さ1mm前後のガラス板であるため、入れ替えに一定時間を要する。このため、例えば1フレーム(1/60sec)単位のように、高速で入れ替えることは難しい。また、可視光撮影と赤外光撮影を常に切り替えると、映像がパラパラして視聴者に不快感を与える。また、常に赤外光撮影を行うことで、プライバシーの侵害が発生する場合もある。
【0013】
本発明は、上記従来の問題を解決するためになされたもので、照度と画像認識による判定を行うことで、所定の照度より大きい場合に、赤外光撮影が必要な被写体を撮影するときにのみ、光学フィルタを赤外光撮影用光学フィルタに切り替え、所定の時間以上連続して撮影することのできる撮像装置を提供することを目的とする。
【0014】
尚、上記した課題以外のその他の課題は、本願明細書全体の記載または図面から明らかにされる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の撮像装置では、照度と画像認識による判定を行い、所定の照度より大きい場合に、画像認識により赤外光撮影が必要であるかを判定し、赤外光撮影が必要な場合、撮像素子の前面に配置する光学フィルタを可視光撮影用光学フィルタから赤外光撮影用光学フィルタに切り替え、赤外光撮影用光学フィルタを用いて所定の時間以上連続して撮影する。
【0016】
尚、上記した構成はあくまで一例であり、本発明は、技術思想を逸脱しない範囲内で適宜変更が可能である。また、上記した構成以外の本発明の構成の例は、本願明細書全体の記載または図面から明らかにされる。
【発明の効果】
【0017】
必要なときにのみ赤外光撮影用光学フィルタを用いて撮影することにより、プライバシーの侵害を最小限にしつつ犯罪捜査等に有益な情報を得ることができる。
【0018】
本発明のその他の効果については、明細書全体の記載から明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本実施例の撮像装置の制御系を示すブロック図。
【図2】本実施例の画像認識パターン例。
【図3】本実施例の画像認識パターン例。
【図4】本実施例の撮像装置の光学フィルタの切り替え方法を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施例を、図面を参照しながら説明する。尚、各図において、同一又は類似の構成要素には同じ符号を付し、説明を省略する。
【0021】
ここでは、撮像装置の一種である監視カメラを例に用い、高照度環境において、被写体として顔が隠された人物を撮影する場合を例示する。
【0022】
本実施例の撮像装置の制御システムについて、図1〜図3を用いて説明する。図1は、本実施例の監視カメラの制御系を示すブロック図である。レンズ1から入射した光は、光学フィルタ2を通って、CCDセンサやCMOSセンサ等の撮像素子3に到達する。
【0023】
撮像素子3で光電変換された映像信号は、映像信号処理部4へ入力され、各種画像処理が行われる。映像信号処理部4内の照度判定部4−1では、撮影環境の照度を判定する。また、映像信号処理部4内の画像認識部4−2では、入力された映像信号から画像認識を行う。画像認識は、例えば、映像信号と、認識画像格納用メモリ5に予め格納されてある画像パターンとを照合することによって行う。認識画像格納用メモリ5に予め格納されてある画像パターンとは、例えば、図2のような、ヘルメットで隠された人物の顔のパターンや、図3のような、マスクで隠された人物の顔のパターンなどである。
【0024】
映像信号処理部4では、照度判定部4−1と画像認識部4−2の結果によって、撮影に使用する光学フィルタが決定され、光学フィルタ制御部6に伝達される。光学フィルタ制御部6は、撮影に使用するべき光学フィルタ2が撮像素子3の前面に配置されるように、フィルタ切り替えモータ8を動作させる。一方、映像信号は、映像信号処理部4を経たあとに、液晶ディスプレイ等の映像出力部7に出力される。
【0025】
次に、光学フィルタ切り替え判定方法について、図4を用いて説明する。光学フィルタ切り替え判定は、照度判定(S1)と画像認識(S3)によって行う。まず、映像信号処理部4に入力された映像信号から、撮影環境の照度を判定する(S1)。照度は、例えば、映像信号の中の輝度信号から撮影環境の照度を計算で算出する。あるいは、撮像装置に組み込まれた照度センサを用いて照度を測定してもよい。そして、照度が所定の基準値(光学フィルタ切り替え基準値)以下であったら、撮影環境は低照度であると判断する(S2でYES)。この場合は、映像信号処理部4は、赤外光撮影が必要であると判定し、感度が向上する赤外光撮影用光学フィルタを選択する(S2)。
【0026】
S2において、照度が所定の基準値(光学フィルタ切り替え基準値)より大きい場合(S2でNO)は、さらに画像認識による判定を行う(S3)。画像認識部4−2は、映像信号と認識画像格納用メモリ5に格納された画像認識パターンとを照合し、撮影したい被写体の少なくとも一部(例えば顔)が隠された人物を撮影していると判断した場合は、映像信号処理部4は、赤外光撮影が必要であると判定し(S4でYES)、赤外光撮影用光学フィルタを選択する(S6)。その他の場合は、赤外光撮影が不要であると判定し(S4でNO)、可視光撮影用光学フィルタを選択する(S5)。
【0027】
映像信号処理部4において赤外光撮影が必要であると判定された場合は、光学フィルタ制御部6は、撮像素子3の前面に配置する光学フィルタ2を赤外光撮影用光学フィルタに切り替え、赤外光撮影用光学フィルタを用いて所定の時間以上連続して撮影する。これにより、顔が隠されている場合でも赤外光撮影により隠された部分を撮影することができ、犯罪捜査等に有益な情報を得ることができる。
【0028】
また、常に赤外光撮影を行うのではなく、赤外光撮影が必要な場合のみ行うことができるので、プライバシーの侵害を最小限にしつつ犯罪捜査等に有益な情報を得ることができる。
【0029】
さらに、赤外光撮影用光学フィルタを用いて所定の時間以上(例えば1秒以上)連続して撮影することで、光学フィルタ2を頻繁に切り替える必要がなくなり、撮影した映像が安定するとともに、フィルタ切り替えモータの寿命を長くすることができる。
【0030】
尚、照度の判定閾値は1点ではなく、低照度判定閾値,中照度判定閾値,高照度判定閾値等と複数設定しても良い。また、画像認識パターンは顔を隠した人物だけではなく、車,ロゴマークなどでもよい。例えば、パンチルト動作によって屋外と屋内とを交互に撮影するカメラの場合に、屋外では車を、室内では顔を隠した人物を赤外線で撮影したいときには、高照度判定閾値より大で車を認識したとき、または、中照度判定閾値より大きく高照度判定閾値以下で顔を隠した人物を認識したときに、赤外光撮影用光学フィルタに切り替えるようにしても良い。このように、赤外光撮影が必要だと判断される所定の照度の範囲と画像認識パターン(画像認識部で画像認識される画像認識パターン)との組み合わせを、複数設定することで、より撮影環境に適した光学フィルタを選択することができる。
【0031】
また、赤外光撮影用光学フィルタが選択されて赤外光撮影を行う場合に、被写体をより鮮明に撮影するため、撮像装置に組み込まれた赤外線LED等で被写体を赤外線を照射してもよい。また、画像認識を行う場合に、画像認識パターンと合致した部分が適切な大きさで撮影されるよう、撮像装置のズーム位置や本体角度を制御してもよい。また、画像認識を行う場合に、認識した被写体(画像認識パターンと合致した部分)に自動でフォーカスや露光を合わせるように制御してもよい。
【0032】
以上、本発明を実施例を用いて説明してきたが、これまでの実施例で説明した構成はあくまで一例であり、本発明は、技術思想を逸脱しない範囲内で適宜変更が可能である。また、実施例で説明したそれぞれの構成は、互いに矛盾しない限り、組み合わせて用いても良い。
【符号の説明】
【0033】
1 レンズ
2 光学フィルタ
3 撮像素子
4 映像信号処理部
4−1 照度判定部
4−2 画像認識部
5 認識画像格納用メモリ
6 光学フィルタ制御部
7 映像出力部
8 フィルタ切り替えモータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
撮像素子と、可視光撮影用光学フィルタと赤外光撮影用光学フィルタとを切り替える光学フィルタ制御部と、前記撮像素子からの映像信号を処理する映像信号処理部とを備える撮像装置であって、
前記映像信号処理部は、撮影された映像の画像認識を行う画像認識部を備えるとともに、前記映像信号処理部は、前記撮影された映像が所定の照度より大きい場合に、前記画像認識部の画像認識によって赤外光撮影が必要であるかを判定し、
前記光学フィルタ制御部は、前記映像信号処理部において赤外光撮影が必要であると判定された場合に、前記撮像素子の前面に配置する光学フィルタを前記赤外光撮影用光学フィルタに切り替え、前記赤外光撮影用光学フィルタを用いて所定の時間以上連続して撮影することを特徴とする撮像装置。
【請求項2】
請求項1において、前記映像信号処理部は、前記画像認識部の画像認識によって撮影したい被写体の少なくとも一部が隠されていると判断された場合に、前記赤外光撮影が必要であると判定することを特徴とする撮像装置。
【請求項3】
請求項2において、前記映像信号処理部は、前記画像認識部の画像認識によって前記被写体の顔が隠されていると判断された場合に、前記赤外光撮影が必要であると判定することを特徴とする撮像装置。
【請求項4】
請求項1から3の何れかにおいて、前記所定の時間は1秒以上であることを特徴とする撮像装置。
【請求項5】
請求項1から4の何れかにおいて、前記赤外光撮影を行う場合に、被写体に赤外光を照射することを特徴とする撮像装置。
【請求項6】
請求項1から5の何れかにおいて、前記画像認識を行う場合に、ズーム位置を変更し、認識した被写体が撮影に最適な大きさになるように制御することを特徴とする撮像装置。
【請求項7】
請求項1から6の何れかにおいて、前記画像認識を行う場合に、認識した被写体にフォーカスを合わせるように制御することを特徴とする撮像装置。
【請求項8】
請求項1から7の何れかにおいて、前記画像認識を行う場合に、認識した被写体に露光を合わせるように制御することを特徴とする撮像装置。
【請求項9】
請求項1から8の何れかにおいて、前記赤外光撮影が必要だと判断される所定の照度の範囲と前記画像認識部で画像認識される画像認識パターンとの組み合わせが、複数設定されていることを特徴とする撮像装置。
【請求項10】
請求項1から9の何れかにおいて、前記映像信号処理部は、前記撮影された映像が所定の照度以下である場合に、赤外光撮影が必要であると判定することを特徴とする撮像装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−94946(P2012−94946A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−238111(P2010−238111)
【出願日】平成22年10月25日(2010.10.25)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】