説明

撮影レンズ・ユニットおよびその動作制御方法

【課題】メインCPU基板が存在しなくともカメラ本体と撮影レンズ・ユニットが通信する撮影レンズ・ユニットおよびその動作制御方法を提供する。
【解決手段】撮影レンズ・ユニット1にはネットワーク・ラインを介して互いに通信する複数のCPU基板11−22が含まれている。これらの複数のCPU基板11−22は互いに独立であり,それぞれにCPUが実装されている。カメラ通信CPU基板11はカメラ本体41と接続されている。カメラ本体41から送信されてくるコマンドはカメラ通信CPU基板11において撮影レンズ・ユニット内の通信プロトコルに変換される。変換されたコマンドが,CPU基板11−22のいずれかの基板に送信される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は,撮影レンズ・ユニットおよびその動作制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カメラ用交換レンズには,複数のマイクロコンピュータを備えているものがある(特許文献1)。複数のマイクロコンピュータのうちカメラとのデータのやり取りを行うマイクロコンピュータが選ばれる。また,カメラ本体とレンズ本体との電気的な通信を行うものもある(特許文献2)。さらに,カメラ本体と交換レンズ間に中間アクセサリが装着された場合に誤った補正が行われることを防止するものもある(特許文献3)。さらに,テレビレンズ装置の電力不足によるノイズの混入を防止するものもある(特許文献4)。
【0003】
図8は,従来の撮影レンズ・ユニットの電気的構成を示している。
【0004】
従来の撮影レンズ・ユニットには,メイン基板120にメインCPU121が実装されている。撮影レンズ・ユニットに装着されるカメラ本体122およびCG(コンピュータ・グラフィック)などを行うためのバーチャル・システム123とメインCPU121とはRS232Cケーブルによってそれぞれ接続されている。また,外部装置からのズーム要求信号およびフォーカス要求信号はRS485ケーブルまたはアナログ信号ケーブルによってメインCPU121に与えられる。撮影レンズ・ユニットには,スイッチ134,135,表示装置136,137なども設けられており,これらのスイッチ134,135,表示装置136,137はアナログ信号ケーブルによってメインCPU121と接続されている。
【0005】
さらに,RS485ケーブルまたはアナログ信号ケーブルによってズーム・モータ125を制御するズーム・サーボ・モジュール基板124およびフォーカス・モータ128を制御するフォーカス・サーボ・モジュール基板127がメインCPU121と接続されている。さらに,ズーム・レンズの位置を検出するセンサ126,フォーカス・レンズの位置を検出するセンサ129,アイリス・モータ129,アイリスの絞り値を検出するセンサ131もアナログ信号ケーブルによってメインCPU121と接続されている。さらに,防振レンズを制御する防振ユニット基板132および合焦位置を算出するPFユニット基板133はRS232CケーブルによってメインCPU121と接続されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7-199318号公報
【特許文献2】特開2008-111980号公報
【特許文献3】特開2006-171392号公報
【特許文献4】特開平7-99599号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の撮影レンズ・ユニットでは,撮影レンズ・ユニットが制御する対象からの信号がすべてメインCPU121に入力している。メインCPU121が撮影レンズ・ユニットのすべての制御を統括するので,管理が難しいし,機能,性能を拡張すると処理時間が不足する可能性がある。また,メインCPU121に接続されるラインの数が多く,複雑とならざるを得ないし,機能拡張には高密度のメイン基板の変更が必要となってしまう。
【0008】
メインCPU121に接続されるラインの数を少なくするために独立した複数の制御基板をネットワーク・ラインで通信可能に接続することが考えられる。ところが,複数の制御基板をネットワーク・ラインで通信可能に接続した場合においても,撮影レンズ・ユニットのすべての制御を統括するメインCPU基板が設けられると,複数の制御基板をネットワーク・ラインで通信可能に接続したメリットが半減してしまう。
【0009】
この発明は,複数の制御基板をネットワーク・ラインで通信可能に接続した場合に,メインCPU基板が存在しなくともカメラ本体と通信できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明による撮影レンズ・ユニットは,それぞれが独立している複数の制御基板のそれぞれに撮像装置による撮像を制御する制御回路が実装されており,かつ少なくとも2つ以上の制御基板の構造が同じであり,制御基板同士がネットワーク・ラインにより接続されている複数の制御基板,および上記複数の制御基板に含まれており,撮像装置と接続されるカメラ通信制御基板であって,撮像装置との通信に用いられる外部通信プロトコルと,ネットワーク・ラインを利用した撮影レンズ・ユニット内の制御基板との通信に用いられる内部通信プロトコルと,の間のプロトコル変換を行うカメラ通信制御基板を備えていることを特徴とする。
【0011】
この発明は,上記撮影レンズ・ユニットに適した動作制御方法も提供している。すなわち,この方法は,それぞれが独立している複数の制御基板のそれぞれに撮像装置による撮像を制御する制御回路が実装されており,かつ少なくとも2つ以上の制御基板の構造が同じであり,制御基板同士がネットワーク・ラインにより接続されている複数の制御基板を設け,上記複数の制御基板に含まれており,撮像装置と接続されるカメラ通信制御基板が,撮像装置との通信に用いられる外部通信プロトコルと,ネットワーク・ラインを利用した撮影レンズ・ユニット内の制御基板との通信に用いられる内部通信プロトコルと,の間のプロトコル変換を行うものである。
【0012】
この発明によると,それぞれが独立している複数の制御基板のそれぞれに撮像装置による撮像を制御する制御回路が実装されており,かつ少なくとも2つ以上の制御基板の構造が同じであり,制御基板同士がネットワーク・ラインにより接続されている複数の制御基板が設けられている。これらの複数の制御基板には,撮像装置と接続され,かつ撮像装置との通信に用いられる外部通信プロトコルと,ネットワーク・ラインを利用した撮影レンズ・ユニット内の制御基板との通信に用いられる内部通信プロトコルと,の間のプロトコル変換を行うカメラ通信制御基板が含まれている。カメラ通信制御基板により,撮像装置との通信に用いられる外部通信プロトコルと,ネットワーク・ラインを利用した撮影レンズ・ユニット内の制御基板との通信に用いられる内部通信プロトコルと,の間のプロトコル変換が行われるので,制御基板同士をネットワーク・ラインにより接続して通信させる場合において,外部通信プロトコルと内部通信プロトコルとのプロトコルが異なる場合であっても,撮影レンズ・ユニットとカメラ本体とを通信させることができる。カメラ本体から送信されたデータを撮影レンズ・ユニット内の各制御基板にネットワーク・ラインを介して送信できるようになる。
【0013】
上記カメラ通信制御基板は,たとえば,撮像装置から外部通信プロトコルによって送信された制御信号を,内部通信プロトコルに変換し,内部通信プロトコルに変換された制御信号を上記複数の制御基板のうち,一または複数の制御基板に送信するものである。
【0014】
上記カメラ通信制御基板は,上記複数の制御基板のそれぞれが制御する制御対象の状況を表わす状況データを周期的に検出し,検出された制御対象の状況を表わす状況データを記憶するメモリを備え,撮像装置から送信された制御信号に応じて,上記メモリに記憶されている状況データを外部通信プロトコルによって撮像装置に送信するものでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】撮影レンズ・ユニットの電気的構成を示している。
【図2】CPU基板の電気的構成を示すブロック図である。
【図3】メモリに記憶されている内容を示している。
【図4】CAN通信のデータ構造を示している。
【図5】カメラ通信CPU基板の処理手順を示すフローチャートである。
【図6】プロトコル変換/カメラ本体への返信処理手順を示すフローチャートである。
【図7】プロトコル変換/カメラ本体への返信処理手順を示すフローチャートである。
【図8】従来の撮影レンズ・ユニットの電気的構成を示している。
【実施例】
【0016】
図1は,撮影レンズ・ユニット1の電気的構成を示すブロック図である。
【0017】
撮影レンズ・ユニット1には,それぞれが独立している(別々の基板)多数のCPU基板11−22(相互に着脱自在である)が含まれている。これらのCPU基板11−22のそれぞれにはCPUが実装されている。従来の撮影レンズ・ユニット1では,一つのCPUによって多数の処理が制御されているために,多数の処理を並行して行うことができないが,この実施例では,基板のそれぞれにCPUが実装されているので,それぞれの基板に実装されているCPUを同時に駆動することにより多数の処理を同時に行うことができる。
【0018】
バーチャル・システムCPU基板12と防振ユニットCPU基板13とズーム制御CPU基板17,防振ユニットCPU基板13とPFユニットCPU基板14,PFユニットCPU基板14とスイッチCPU基板15,表示制御CPU基板16とカメラ通信CPU基板11は,それぞれネットワーク・ラインにより着脱自在に接続(バス接続)されている。
【0019】
また,ズーム制御CPU基板17とフォーカス制御CPU基板18,フォーカス制御CPU基板18とズーム要求CPU基板19,ズーム要求CPU基板19とフォーカス要求CPU基板20,フォーカス要求CPU基板20とアイリス制御CPU基板21,アイリス制御CPU基板21とエクステンダ制御CPU基板22もそれぞれネットワーク・ラインにより着脱自在に接続されている。
【0020】
撮影レンズ・ユニット1に含まれるCPU基板11−22同士は,詳しくは後述するようにCAN(Controller Area Network)通信が利用される。
【0021】
カメラ通信CPU基板11にはカメラ本体41がRS232Cケーブルによって接続されている。カメラ通信CPU基板11には,カメラ本体41から,画像データ,コマンド等がRS232Cケーブルを介して入力する。カメラ本体41とカメラ通信CPU基板11とはRS232Cケーブルで接続され,RS232Cにもとづくデータ通信が行われるのに対し,カメラ通信CPU基板11と撮影レンズ・ユニット1内のCPU基板12−22との通信はCAN通信である。このために,カメラ本体41からカメラ通信CPU基板11に入力するコマンド等はカメラ通信CPU基板11においてRS232Cにもとづくプロトコル(外部通信プロトコル)からCAN通信にもとづくプロトコル(内部通信プロトコル)に変換される。また,カメラ通信CPU基板11からカメラ本体41にデータ通信が行われる場合には,カメラ通信CPU基板11においてCAN通信にもとづくプロトコルからRS232Cにもとづくプロトコルに変換される。
【0022】
CG(コンピュータ・グラフィック)処理を行うバーチャル・システム42などからの各種信号は,RS232Cケーブルなどによりバーチャル・システムCPU基板12に入力する。
【0023】
防振ユニットCPU基板13は,振れ方向に応じて振れ補正する防振レンズ(図示略)をシフトするものである。
【0024】
PFユニットCPU基板21は,カメラ本体41に設けられている撮像用CCDの光学的距離から少し短い第1のAF用CCDと少し長い第2のAF用CCDと(いずれも図示略)から得られるAF評価値とフォーカス・レンズの位置との関係を表わす二つのグラフを生成し,その交点である合焦位置を算出するものである。
【0025】
スイッチ制御CPU基板15は,各種スイッチ31,32からの信号にもとづいてスイッチ制御を行うものである。表示制御CPU基板16は,表示装置(インジケータ)33,34の表示を制御するものである。
【0026】
ズーム制御CPU基板17には,ズーム・サーボ・モジュールCPU基板61および位置センサ51が接続されている。ズーム制御CPU基板17とズーム・サーボ・モジュールCPU基板61とはRS485ケーブルによって接続されている。ズーム制御CPU基板17と位置センサ51とはアナログ・ラインによって接続されている。もっとも,ズーム制御CPU基板17とズーム・サーボ・モジュールCPU基板61ともアナログ・ラインによって接続してもよい。ズーム・サーボ・モジュールCPU基板61には,ズーム・レンズ(図示略)を駆動するズーム・モータ22が接続されている。
【0027】
ズーム制御CPU基板17により,ズーム・サーボ・モジュールCPU基板61が制御される。ズーム・サーボ・モジュールCPU基板61によってズーム・モータ62が駆動され,ズーム・レンズが制御される。ズーム・レンズの位置は,位置センサ51によって検出される。
【0028】
フォーカス制御CPU基板18には,フォーカス・サーボ・モジュールCPU基板63および位置センサ52が接続されている。フォーカス制御CPU基板18とフォーカス・サーボ・モジュールCPU基板63とはRS485ケーブルによって接続されている。フォーカス制御CPU基板18と位置センサ52とはアナログ・ラインによって接続されている。もっとも,フォーカス制御CPU基板18とフォーカス・サーボ・モジュールCPU基板63ともアナログ・ラインによって接続してもよい。フォーカス・サーボ・モジュールCPU基板63には,フォーカス・レンズ(図示略)を駆動するフォーカス・モータ64が接続されている。
【0029】
フォーカス制御CPU基板18により,フォーカス・サーボ・モジュールCPU基板63が制御される。フォーカス・サーボ・モジュールCPU基板63によってフォーカス・モータ64が駆動され,フォーカス・レンズが制御される。フォーカス・レンズの位置は,位置センサ52によって検出される。
【0030】
撮影レンズ・ユニット1に与えられるズーム要求信号およびフォーカス要求信号は,ズーム要求CPU基板19およびフォーカス要求CPU基板20にそれぞれ与えられる。
【0031】
ズーム要求CPU基板19は,RS485ケーブル(またはアナログ・ライン)から与えられるズーム要求信号を受信して他の基板に送信するものである。フォーカス要求CPU基板20は,RS485ケーブル(またはアナログ・ライン)から与えられるフォーカス要求信号を受信して他の基板に送信するものである。
【0032】
アイリス制御CPU基板21には,アイリス(図示略)を駆動するアイリス・モータ53が接続されている。所望の絞り値となるように,アイリス制御CPU基板21により,アイリス・モータ53が駆動され,アイリスが制御される。アイリスの絞り値は,センサ54によって検出される。
【0033】
これらのCPU基板11−21のうち,防振ユニットCPU基板13,PFユニットCPU基板14,ズーム制御CPU基板17,フォーカス制御CPU基板18,アイリス制御CPU基板21およびエクステンダ制御CPU基板22の構成は同じとされている。もっとも,これらのCPU基板13,14,17,18,21および22のすべての構成を同じとせずに少なくとも二つ以上のCPU基板の構成を同じとすればよい。CPU基板の共通化を図ることができるので,コスト・ダウンとなる。また,カメラ通信CPU基板11およびバーチャル・システムCPU基板12の構成,ズーム要求CPU基板19およびフォーカス要求CPU基板20の構成,スイッチ制御CPU基板15および表示制御CPU基板16の構成もそれぞれ同じである。
【0034】
カメラ通信CPU基板11におけるプロトコル変換と同様に,バーチャル・システム42とバーチャル・システムCPU基板12との通信においてもRS232CケーブルとCAN通信とのプロトコル変換がバーチャル・システムCPU基板12において行われる。また,ズーム制御基板17とズーム・サーボ・モジュールCPU基板61との間,フォーカス制御CPU基板18とフォーカス・サーボ・モジュールCPU基板63との間,ズーム要求CPU基板19に与えられるズーム要求信号,フォーカス要求CPU基板20に与えられるフォーカス要求信号はRS485にもとづくプロトコルとCAN通信のプロトコルとのプロトコル変換が行われる。
【0035】
上述したようにRS232Cにもとづく通信とCAN通信との間のプロトコル変換およびRS485にもとづく通信とCAN通信との間のプロトコル変換は,公知のプロトコル変換技術を利用して実現できるのはいうまでもない。
【0036】
図2は,カメラ通信CPU基板11等の電気的構成を示すブロック図である。
【0037】
カメラ通信CPU基板11には,制御を統括するCPU(制御回路)70が実装されている。上述のようにRS232Cにもとづく通信とCAN通信とのプロトコル変換はCPU70によって行われる。CPU70にはタイマ73およびメモリ74が接続されている。
【0038】
また,カメラ通信CPU基板11には,ネットワーク・ラインを介して他のCPU基板12−22とCAN通信するための第1のトランシーバ71およびカメラ本体41とRS232Cにもとづく通信をするための第2のトランシーバ72が含まれている。ネットワーク・ラインを介してCPU基板12−22から送信されたデータは第1のトランシーバ71において受信され,CPU70においてプロトコル変換が行われて第2のトランシーバ72からRS232Cケーブルを介してカメラ本体41に送信される。RS232Cケーブルを介してカメラ本体41から送信されたデータは第2のトランシーバ72において受信され,CPU70においてプロトコル変換が行われて第1のトランシーバ71からCPU基板12−22に送信される。
【0039】
アイリス制御基板21にも制御を統括するCPU80が実装されている。CPU80にはメモリ85が接続されている。
【0040】
アイリス制御基板21にも撮影ユニット・レンズ1内のCPU基板11−20,22とCAN通信するためのトランシーバ81が実装されている。アイリスの位置を示すデータがアイリス制御CPU基板21において受信されると,そのデータにもとづいてCPU80においてアイリス・モータ53の駆動データが生成される。生成された駆動データは,CPU80からディジタル/アナログ変換回路82においてアナログ駆動信号に変換される。変換されたアナログ駆動信号がドライバ83に与えられると,ドライバ83によってアイリス・モータ53が駆動させられる。また,アイリスの位置は位置センサ54によって検出される。位置センサ54からの検出信号はアナログ/ディジタル変換回路84においてディジタル位置データに変換されCPU80に入力する。
【0041】
上述したように,バーチャル・システムCPU基板12,ズーム要求CPU基板19およびフォーカス要求CPU基板20は,カメラ通信CPU基板11と同じ構成であり,防振ユニットCPU基板13,PFユニットCPU基板14,ズーム制御CPU基板17,フォーカス制御CPU基板18およびエクステンダ制御CPU基板22は,アイリス制御CPU基板21と同じ構成である。スイッチ制御CPU基板15は,CPU,上述したようにネットワーク・ラインを介して通信するためのトランシーバ,スイッチ31,32等からの信号を入力しディジタル・データに変換するアナログ/ディジタル変換回路,メモリなどが実装されている。表示制御CPU基板16は,CPU,上述したようにネットワーク・ラインを介して通信するためのトランシーバ,CPUからのディジタル・データを変換し表示装置33,34などに表示制御信号を出力するディジタル/アナログ変換回路,メモリなどが実装されている。
【0042】
図3は,カメラ通信CPU基板11に実装されているメモリ74に記憶されている通信データ(状況データ)の一例である。
【0043】
上述したように,この実施例では,撮影レンズ・ユニット1内のCPU基板11−22同士のデータ通信はCAN通信が利用される。CAN通信では,複数のCPU基板11−22が共通のネットワーク・ラインを利用するから,送信するデータに送信対象となるCPU基板11−22のIDが含まれる。CPU基板11−22がネットワーク・ライン上を通信しているデータを受信した場合に,受信したデータに自分のIDが含まれていれば,自分宛のデータであることが認識される。受信したデータにもとづく制御が行われる。
【0044】
この実施例においては,カメラ通信CPU基板11は,ネットワーク・ライン上に通信されるすべてのデータを受信し,自分宛のデータとしてメモリ74に記憶する。カメラ通信CPU基板11は,撮影レンズ・ユニット1に含まれているCPU基板11−22のいずれかに送信されたデータを自分宛のデータとみなしてメモリ74に記憶する。カメラ本体41からのデータの要求があった場合に,その要求に応じたCPU基板にデータを転送することなく,メモリ74に記憶されているデータをカメラ本体41に送信できる。
【0045】
メモリ74には,カメラ通信CPU基板11においてネットワーク・ライン上を通信しており受信した通信データが,メモリ74に記憶された時間に対応して記憶されている。
【0046】
たとえば,ある時間において,アイリス制御CPU基板21からアイリスの位置I1を示すデータがネットワーク・ライン上に送信されたとすると,そのアイリスの位置I1を示すデータがカメラ通信CPU基板11において受信され,メモリ74に記憶される。同様に,ある時間において,ズーム位置Z1,フォーカス位置F1などを示すデータがネットワーク・ライン上に送信されたとすると,それらのズーム位置Z1,フォーカス位置F1などを示すデータがメモリ74に記憶される。
【0047】
一定周期で,カメラ通信CPU基板11から他のCPU基板12−22にデータを要求し,その要求に応じて他のCPU基板12−22から送信されるデータを受信し,メモリ74に記憶するようにしてもよい。重複している種類のデータは最新のデータのみをメモリ74に残すようにデータの更新処理が行われる。
【0048】
図4は,CAN通信においてデータを送信する転送フォーマットであるデータ・フレームの構造を示している。
【0049】
データ・フレームは,リセッシブまたはドミナントのいずれかとなる。各部の数字はビット数を示している。また,通信が行われていない場合,バスはリセッシブとなっている(バス・アイドル)。
【0050】
データ・フレームには,スタート・オブ・フレーム,識別子フィールド,RTR,コントロール・フィールド,データ・フィールド,CRCシーケンス,CRCデリミタ,ACKスロット,ACKデリミタ,エンド・オブ・フレームが含まれ,その順で送信される。
【0051】
スタート・オブ・フレームは,データ・フレームの開始を表わすものであり,ドミナント状態とされる。スタート・オブ・フレームがバス・アイドルのリセッシブからドミナントへ変化することにより受信側のCPU基板(受信ノード)は同期を行うことができる。
【0052】
識別子フィールドは,データ内容や送信側のCPU基板(送信ノード)を識別するために使用される。受信側のCPU基板は,識別子フィールドに記述されている内容(上述したID)を検出することにより,自分が使用するデータ・フレームかどうかを判断できる。識別子フィールドは通信調停の優先順位を決定することもある。CPU制御基板11−22のうち,カメラ通信CPU基板11以外のCPU基板12−22は,識別フィールドに記述されている内容が自分宛のものであれば,自分宛のデータとして受信する。カメラ通信CPU基板11は,CPU基板11−22のいずれ宛のデータであっても,自分宛のデータとして受信し,上述のようにメモリ74にその内容を記憶する。
【0053】
RTR(Remote Transmission Request )は,データを送信するデータ・フレームとデータの送信を要求するリモート・フレームとを識別するために使用される。データ・フレームの場合には,RTRはドミナントとなっている。RTRも識別子フィールドと同様に通信調停に使用される。
【0054】
コントロール・フィールドは,次のデータ・フィールド内で何バイト送信されるかを示すものである。
【0055】
データ・フィールドは,データ・フレームで送信されるデータの部分である。
【0056】
CRC(Cyclic Redundancy Check )シーケンスは,データ送信時のデータ破壊をチェックするものである。
【0057】
CRCデリミタは,CRCシーケンスの終了を表す区切り記号で,1ビット長のリセッシブ固定である。
【0058】
ACK(Acknowledgement)スロットは,正常受信確認のためのフィールドである。
【0059】
ACKデリミタは,ACKスロットの終了を表す区切り記号で、1ビット長のリセッシブ固定である。
【0060】
エンド・オブ・フレームは,送信または受信の終了を示すものであり,リセッシブ固定となっている。
【0061】
複数のCPU基板から同時にデータ・フレームが送信されてしまう場合,通信調停が行われる。たとえば,二つのデータ・フレームが送信された場合,それらの二つのデータ・フレームのそれぞれの識別子フィールドに記述されているデータ1ビットずつ比較され,最初に相違したデータがドミナントとなっていた方のデータ・フレームが優先して送信される。
【0062】
図5は,カメラ通信CPU基板11の処理手順を示すフローチャートである。
【0063】
カメラ本体41が撮影レンズ・ユニット1に装着され,カメラ本体41から撮像レンズ・ユニット1に電源が供給される。すると,カメラ通信CPU基板11において初期設定が行われる(ステップ91)。
【0064】
上述のように,カメラ通信CPU基板11は,撮影レンズ・ユニット1のネットワーク・ライン上のデータ通信を監視しており,CPU基板11−22宛のいずれのCPU基板に送信されるデータも受信し,メモリ74に記憶する(ステップ92)。
【0065】
カメラ通信CPU基板11がカメラ本体41からのコマンドを正常に受信すると(ステップ93および94でいずれもYES),プロトコル変換/カメラ本体への返信処理が行われる(ステップ95)。このステップ95の処理は後述する。カメラ本体41からの電源の供給が停止し,撮影レンズ・ユニット1がオフとなるまでステップ92から95の処理が繰り返される(ステップ96)。
【0066】
図6および図7は,プロトコル変換/カメラ本体への返信処理手順(図5ステップ95の処理手順)を示すフローチャートである。
【0067】
カメラ本体41から送信されたコマンドが正常に受信されると,その受信したコマンドがコントロール・コマンド,アイリスなどの位置データの要求コマンド,その他のコマンドに分類される(図6ステップ101)。
【0068】
カメラ本体41から送信されたデータがコントロール・コマンドであり,そのコントロール・コマンドがカメラ通信CPU基板11において受信されると(図6ステップ102でYES),アイリス,ズームまたはフォーカスのコントロール・コマンドを受信したかどうかが判定される(図6ステップ103)。
【0069】
アイリス,ズームまたはフォーカスのコントロール・コマンドには,はアイリス,ズームまたはフォーカスの位置を指定する位置データが含まれている。カメラ通信CPU基板11が,アイリス,ズームまたはフォーカスのコントロール・コマンドを受信した場合には(図6ステップ103でYES),そのコントロール・コマンドに含まれている位置データは,カメラ本体41内でカメラ本体41用に生成されたものであり,撮影レンズ・ユニット1にそのまま適用できない。このために,カメラ本体41用に生成された位置データが撮影レンズ・ユニット1に適したものなるように位置データを変換する演算処理が行われる(図6ステップ104)。上述したようにカメラ本体41とカメラ通信CPU基板11との間はRS232Cにもとづく通信であるのに対し,撮影レンズ・ユニット1内はCAN通信であるので,演算された位置データがRS232Cケーブルにもとづく通信プロトコルからCAN通信プロトコルに変換も行われる。変換された位置データがアイリス制御CPU基板21,ズーム制御CPU基板17またはフォーカス制御CPU基板18に送信される(図6ステップ105)。
【0070】
アイリス制御CPU基板21,ズーム制御CPU基板17またはフォーカス制御CPU基板18のうち,カメラ通信CPU基板11から送信された位置データを受信したCPU基板21,17または18が,受信した位置データによって指定される位置となるようにアイリス,ズーム・レンズまたはフォーカス・レンズを制御することとなる。
【0071】
カメラ通信CPU基板11において受信したコマンドがコントロール・コマンドではあるが(図6ステップ102でYES),アイリス,ズームまたはフォーカスのコントロール・コマンドではない場合(たとえば,エクステンダが倍率1または倍率2のいずれかの位置コントロールするコマンドの場合)には(図6ステップ103でNO),受信したデータがカメラ通信CPU基板11から対象となるCPU基板(たとえば,エクステンダ制御CPU基板20)に送信される(図6ステップ106)。対象となるCPU基板に送信されるデータは,CAN通信のプロトコルからRS232Cにもとづく通信プロトコルに変換されて送信されるのはいうまでもない。
【0072】
カメラ本体41から送信され,カメラ通信CPU基板11において受信しコマンドがコントロール・コマンドでなければ(図6ステップ102でNO),受信したコマンドがアイリス,ズームまたはフォーカスの要求コマンドかどうかが判定される(図7ステップ107)。
【0073】
受信したコマンドがアイリス,ズームまたはフォーカスの要求コマンドであると(図7ステップ107でYES),カメラ通信CPU基板11のメモリ74に記憶されているデータのうち,要求されているデータが読み取られる。読み取られたデータは撮影レンズ・ユニット1内においてアイリス,ズームまたはフォーカスの位置を示すデータであるから,カメラ本体41での位置を示すデータとなるように演算される(図7ステップ108)。また,CAN通信のプロトコルからRS232Cケーブルにもとづく通信プロトコルに,その位置を示すデータが変換される。変換された位置データがカメラ通信CPU基板11からカメラ本体41に送信される(図7ステップ109)。
【0074】
要求されているデータがカメラ通信CPU基板11のメモリ74に記憶されていない場合には,アイリス制御CPU基板21,ズーム制御CPU基板19またはフォーカス制御CPU基板18のうち,位置データが必要な基板にカメラ通信CPU基板11から要求コマンドが直接に送信される。また,カメラ通信CPU基板11のメモリ74に記憶されているデータの記憶時間が要求コマンドの受信から一定時間以上経過している場合には,アイリス,フォーカス,またはズームの位置が,メモリ74に記憶されているデータによって示される位置から代わっている可能性がある。そのような場合にもアイリス制御CPU基板21,ズーム制御CPU基板19またはフォーカス制御CPU基板18のうち,位置データが必要な基板にカメラ通信CPU基板11から要求コマンドが送信され,最新のデータが取得される。取得されたデータについての上記演算,プロトコル変換が行われるのはいうまでもない。
【0075】
カメラ通信CPU基板11において受信したコマンドがアイリス,ズームまたはフォーカスの位置データの要求コマンドでもない場合(たとえば,エクステンダが倍率1または倍率2のいずれの位置にあるかを認識するための要求コマンド)には(図7ステップ107でNO),カメラ通信CPU基板11のメモリ74から要求されたデータが読み取られる。読み取られたデータがカメラ通信CPU基板11からカメラ本体41に送信される(図7ステップ110)。
【0076】
上述の実施例では,カメラ本体41から送信されるコマンドは,カメラ通信CPU基板11からCPU基板12−22のうちのいずれか一つのCPU基板に送信されているが,二つ以上のCPU基板に送信されるようにしてもよい。二つ以上のCPU基板に送信するためには上述したようにCAN通信の識別子フィールドに送信対象の二つ以上のCPU基板のIDを記述すればよい。
【0077】
バーチャル・システムでは,実写映像とコンピュータ・グラフィック映像とが合成される。ズーム位置に応じてコンピュータ・グラフィック映像を小さくする必要がある。また,PFユニットCPU基板14においては,焦点距離が近いときには被写界深度が深く,ピントがあっているように見えるので,合焦制御を止めることがある。このために,ズーム位置を認識する必要がある。さらに,防振ユニットCPU基板13ではズーム位置に応じて補正度合いを変えることがあり,カメラ通信CPU基板11では上述のようにカメラ本体41からズーム位置の要求があった場合には,その要求に応じる必要がある。このように,たとえば,ズーム・レンズの位置データは,複数のCPU基板においてズーム位置データが必要となることがある。その場合には,複数のCPU基板宛にズーム位置データが送信されることとなる。
【0078】
上述した実施例では,CAN通信が利用されているがCAN通信以外のネットワーク技術を利用してもよい。たとえば,PROFIBUS,CC-Link,Interbus,EC-NETなどを利用することもできる。
【0079】
上述した実施例では,CPU基板11−22がネットワーク・ラインにより接続されているが,これらのCPU基板11−22とネットワーク・ラインとはコネクタ等により着脱自在に接続される。
【0080】
カメラ通信CPU基板11とバーチャル・システムCPU基板12とは同じ構成である。また,ズーム制御CPU基板17,フォーカス制御CPU基板18,アイリス制御CPU基板21およびエクステンダCPU基板22は同じ構成であり,基板の共通化が図られている。また,ズーム要求CPU基板19およびフォーカス要求CPU基板20はいずれもCPUが実装されており,ズーム要求信号またはフォーカス要求信号がアナログ/ディジタル変換回路を介してズーム要求CPU基板19またはフォーカス要求CPU基板20に実装されているCPUに入力する。さらに,スイッチ制御CPU基板15と表示制御CPU基板16も同じ構成であり,スイッチ31,32などから入力する信号がアナログ/ディジタル変換回路を介してスイッチ制御CPU基板15のCPUに入力し,表示制御CPU基板16のCPUからの制御データがディジタル/アナログ変換回路においてアナログ制御信号に変換されて表示装置33,34に入力する。さらに,PFユニットCPU基板14と防振ユニットCPU基板13との構成も同じである。
【0081】
CPU制御基板51−64にはCPUおよびネットワーク・ラインを介して通信するための通信回路(トランシーバ)が共通に実装されているので,それらの回路についての共通化を図ることもできる。
【符号の説明】
【0082】
1 撮影レンズ・ユニット
11 カメラ通信CPU基板(カメラ通信制御基板)
11−22 CPU基板
41 カメラ本体
70,80 CPU(制御回路)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれが独立している複数の制御基板のそれぞれに撮像装置による撮像を制御する制御回路が実装されており,かつ少なくとも2つ以上の制御基板の構造が同じであり,制御基板同士がネットワーク・ラインにより接続されている複数の制御基板,および
上記複数の制御基板に含まれており,撮像装置と接続されるカメラ通信制御基板であって,撮像装置との通信に用いられる外部通信プロトコルと,ネットワーク・ラインを利用した撮影レンズ・ユニット内の制御基板との通信に用いられる内部通信プロトコルと,の間のプロトコル変換を行うカメラ通信制御基板,
を備えた撮影レンズ・ユニット。
【請求項2】
上記カメラ通信制御基板は,
撮像装置から外部通信プロトコルによって送信された制御信号を,内部通信プロトコルに変換し,内部通信プロトコルに変換された制御信号を上記複数の制御基板のうち,一または複数の制御基板に送信するものである,
請求項1に記載の撮影レンズ・ユニット。
【請求項3】
上記カメラ通信制御基板は,
上記複数の制御基板のそれぞれが制御する制御対象の状況を表わす状況データを周期的に検出し,
検出された制御対象の状況を表わす状況データを記憶するメモリを備え,
撮像装置から送信された制御信号に応じて,上記メモリに記憶されている状況データを外部通信プロトコルによって撮像装置に送信するものである,
請求項1または2に記載の撮影レンズ・ユニット。
【請求項4】
それぞれが独立している複数の制御基板のそれぞれに撮像装置による撮像を制御する制御回路が実装されており,かつ少なくとも2つ以上の制御基板の構造が同じであり,制御基板同士がネットワーク・ラインにより接続されている複数の制御基板を設け,
上記複数の制御基板に含まれており,撮像装置と接続されるカメラ通信制御基板が,撮像装置との通信に用いられる外部通信プロトコルと,ネットワーク・ラインを利用した撮影レンズ・ユニット内の制御基板との通信に用いられる内部通信プロトコルと,の間のプロトコル変換を行う,
撮影レンズ・ユニットの動作制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−30945(P2013−30945A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−164946(P2011−164946)
【出願日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】