説明

撮影用照明装置

【課題】定量分析に使用できる画像データを得るために、発光管の長さが短い蛍光ランプを用いてTLCプレートや電気泳動ゲルなどの平面被写体を90%以上の照度比で均一に照明することができ、小型で安価な撮影用照明装置を提供することにある。
【解決手段】平面被写体の左右上方に前記平面被写体と平行に配置された少なくとも1対の発光管長210mm以上330mm以下の直管型蛍光ランプと、前記平面被写体の前後に前記蛍光ランプの軸線および前記平面被写体に対して垂直に配置された1対のリフレクターを具備していることを特徴とする撮影用照明装置により解決することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はTLCや電気泳動などの定量分析に用いることができる撮影用照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、脂質や糖などの簡便で安価な分離分析としてTLC分析が盛んに行われている。TLC分析では、ガラス板やアルミニウム板の表面にシリカゲルなどの粒子を石膏などのバインダーとともにコーティングしたTLCプレートが専ら使用されている。分析対象試料をTLCプレート上にスポットした後、適当な移動相(例えば、各種有機溶媒、水、酸、アルカリ、又はそれらの混合物)を毛細管現象により移動展開し、分析対象試料を各成分に分離する。続いて、様々な呈色試薬や蛍光試薬をスプレーによりTLCプレートに吹きかけ、分離成分を可視化する。
【0003】
一方、たんぱく質や核酸などの簡便で安価な分離分析として電気泳動分析が盛んに行われている。電気泳動分析では、2枚のガラス板やプラスチック板に挟まれたスラブ状のポリアクリルアミドゲルやアガロースゲルなどが専ら使用されている。分析対象試料をゲルの溝に流し込み、適当な泳動用緩衝液(例えば、トリス−グリシン、TAE、TBE緩衝液など)中で直流電流を流し分析対象試料を分子量の大きさや、荷電の差などにより分離する。続いて、ゲルをクマシーブリリアントブルー染色、銀染色あるいはエチジウムブロマイド染色などで分離成分を可視化する。
【0004】
可視化された前記TLCプレートや前記電気泳動ゲルは、専用のスキャナーなどを用い、紫外線や可視光を前記TLCプレートや前記電気泳動ゲルに照射して各分離成分の蛍光あるいは反射光強度を読み取り数値化することで定量分析が行われている。専用のスキャナーは大変に高価な装置であり、多くの実験者は専用スキャナーを用いた定量分析を行うことができないのが現状である。
【0005】
一方、TLCプレートや電気泳動ゲルをデジタルカメラで撮影するための安価な暗箱も市販されている。前記暗箱の中には紫外線や白色蛍光ランプが取付けられており、これらの照明によりTLCプレートや電気泳動ゲルなどの平面被写体をデジタルカメラで撮影して画像データを得ることができる。しかしながら前記暗箱にて撮影した画像データは、定量分析用の画像データとして用いるには以下の理由から不適切である。安価な前記暗箱は、単に画像による記録が目的であって、前記平面被写体の平面全体を均一に照明することが十分に考慮されていないので、高い精度が要求される定量分析用の画像データは得られない。特にTLCプレートの場合、標準寸法は200mm×200mmと非常に大きな寸法であり、前記TLCプレート面を均一にむらなく照明しなければならない。均一照明の定量的指標として照度比がある。これは、最も暗い部分を最も明るい部分の照度に対する割合で示した数値で、定量分析に用いる画像データを得るには、少なくとも照度比が90%以上の均一照明が必要と考えられる。
【0006】
前記TLCプレートのような広い面を様々な制約の中で均一に照明することは容易なことではない。例えば、蛍光灯とシリンドリカルレンズを用いて被写体をその両側から斜め照射する方法が開示されている(特許文献1参照)。この場合、蛍光灯の光をシリンドリカルレンズにて配光制御しているが、照度比が77%と低い値となっており、TLCプレートや電気泳動ゲルの定量分析には適用することはできない。
【0007】
さらに装置自体の寸法上の問題は大きな障害となる。蛍光ランプの照度分布は、発光管の軸に対し垂直な断面においては、全く均一な照度分布をもつことから、蛍光ランプ背面に設置するリフレクター形状をランプの位置などの装置定数に合わせて適切に設計することにより配光制御は可能である。一方、図3は蛍光ランプの長手方向の照度分布の1例を示している。図3の横軸は、発光管の全長を100%として長さの割合で発光管の位置を示しており、縦軸は照度を示している。図3で示すように発光管の軸方向においては発光管の両端側に光量落ちが観られる。これは発光管の両端には電極があり電極付近には放電暗部が存在するためである。従って、前記TLCプレートと同程度の長さの発光管を持つ蛍光ランプで前記TLCプレートを照射すると、当然のことながら前記TLCプレートの中央部は明るく、両端は暗くなってしまう。
【0008】
図3で示すように、発光管の均一発光領域は25〜75%の位置で、これは全発光管長のわずか50%である。そしてこの均一発光領域のみを使用して照明すれば均一照明が得られる。前記TLCプレートの一辺の長さは200mmであるから、400mm以上の発光管長を持つ蛍光ランプを使用すれば良いことになる。しかしながら、蛍光ランプの全長および電極ソケットの長さ、さらにそれを筐体に組み込むことを考慮すると、少なくとも一辺の長さが500mmの大きな装置にならざるを得ない。このような大きなものは、装置の使用者に好まれないばかりか製造コストも高くなってしまう。
【特許文献1】特公平8−161917
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記のように、專用のスキャナーは大変に高価な装置であり、また従来の安価な撮影用暗箱では、均一照明が得られないために定量分析用の画像データを得ることができない。そして均一照明を達成するためには、長い発光管長を持つ蛍光ランプを使用しなければならず、装置の大型化と製造コストの増大を招くことは明らかである。したがって本発明の課題は、定量分析に使用できる画像データを得るために、発光管の長さが短い蛍光ランプを用いてTLCプレートや電気泳動ゲルなどの平面被写体を90%以上の照度比で均一に照明することができ、しかも小型で安価な撮影用照明装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以上の課題を解決するために、前記平面被写体の左右上方に前記平面被写体と平行に配置された少なくとも1対の発光管長210mm以上330mm以下の直管型蛍光ランプと、前記平面被写体の前後に前記蛍光ランプの軸線および前記平面被写体に対して垂直に配置された1対のリフレクターを具備していることを特徴とする撮影用照明装置により解決することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、平面被写体に対して垂直に配置された1対のリフレクターにより発光管両端の光量落ちを補強するように配光を制御でき、発光管の長さが210mm〜330mmの短い蛍光ランプであっても、200mm×200mmの平面被写体を照度比90%以上で均一に照射できるため、この照明装置を用いてデジタルカメラで撮影した画像は、定量分析に用いることが十分可能となる。また蛍光管の発光管長が短いために装置の小型化が可能で、その結果安価な装置を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。図1は、本発明の撮影用照明装置の一態様を模式的に示す説明図であり、図2は、蛍光ランプの放射光とリフレクターで反射される反射光の光路を示す説明図である。
【0013】
図1の態様は、平面被写体1、左右蛍光ランプ2aと2b、前後リフレクター3aと3b、ランプ用リフレクター4およびデジタルカメラ5より構成されている。平面被写体1は、200m×200mmのTLCプレート、電気泳動ゲルまたはそれらからブロッティングされたPVDFやニトロセルロースなどのメンブレンシートである。蛍光ランプ2aと2bは、水銀入りの熱陰極または冷陰極放電ランプであって、発光管の内側に蛍光物質がコーティングされているランプ、発光管が可視光をカットする所謂ブラックライトおよび発光管が紫外線透過ガラス製の所謂UVランプを意味している。図1では、左右一対の蛍光ランプ2aと2bが示されているが、複数本の蛍光ランプを左右対称に配置することも可能である。
【0014】
前記蛍光ランプの内、市販の熱陰極蛍光ランプは6形(発光管長:210mm)、8形(発光管長:287mm)および10形(発光管長:330mm)のいずれも使用することができる。しかし6形より短い4形(発光管長:134.5mm)は、均一照明には短すぎて不向きである。また、10形より長い15形(発光管長:436)は長すぎて装置が大型化するため本発明の目的からは乖離する。また、210mmから330mmの任意の発光管長を持つ熱陰極または冷陰極蛍光ランプを製作し使用することも可能であるが、製造コストの面から市販品の特に熱陰極蛍光ランプの使用が好ましい。
【0015】
前後リフレクター3aと3bは、平面被写体1側の光反射面が効率よく左右蛍光ランプ2aと2bの放射光を反射すればどのような物でも用いることができるが、前記光反射面が紫外線反射率の高いアルミニウム製であり、その表面は鏡面であることが特に好ましい。また、装置内に平面被写体1を容易に出し入れ可能なように、リフレクター3aと3bのどちらか一方の側に開閉可能な扉を設け、リフレクター3aと3bのどちらかは、前記扉の内側に配置することも可能である。ランプ用リフレクター4は、説明のために図1では左側の蛍光ランプ2aのみに存在するが、基本的には左右対称であることが好ましい。またランプ用リフレクター4は、装置の立体的条件によって必ずしも必要とするものではない。デジタルカメラ5は、撮像素子がCCDやCMOSなどのスチールカメラやビデオカメラなどを使用することができる。
【0016】
次にリフレクターによる配光制御の原理を説明する。図2は、蛍光ランプの放射光とリフレクターで反射される正反射光の光路を示す。ここで蛍光ランプ2から放射された光の内、実線で示した光路はリフレクター3の下方で正反射し、平面被写体1の端に到達している。一方、破線で示した光路はリフレクター3の上方で正反射して、平面被写体1の中央部に到達している。
【0017】
仮に、リフレクター3を2点破線Aで示した低い高さに設定した場合、破線で示した光路の光はリフレクター3に当たらず通過し、実線で示した光路の光はリフレクター3で正反射し、平面被写体1の端側だけを照射することになる。2点破線Aの位置をさらに下げていくと、徐々に光路の長さが長い光のみがリフレクター3で反射するようになることから、平面被写体1の端側に照射される光は徐々に弱くなる。従って、リフレクター3の高さを変化させることで蛍光管の軸方向の配光を自由に制御でき、蛍光ランプの両端の光量落ちを装置定数に合わせて補強できる。例えば6形蛍光ランプの場合には両端の光量落ちが大きいので、リフレクター3の高さは高めに設定し、10形蛍光ランプの場合はその逆でリフレクター3の高さは低めに設定すれば良い。このようにして平面被写体1の均一照明が可能となる。
【実施例】
【0018】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
「実施例1」
本実施例では図1に示す本発明の撮影用照明装置の一態様を用い、平面被写体1は200mm×200mmのTLCプレートを使用した。蛍光ランプ2は東芝製6形の昼光色蛍光ランプFL6Dを使用し、平面被写体1の中心から半径175mmの円上で、θ1、θ2が45°になる位置にそれぞれ設置した。点灯回路はインバーター方式を用いた。リフレクター3は高さを60mmに設定した幅200mmのアルミニウム製鏡面板で、平面被写体の端から10mm離れた位置にそれぞれ垂直に設置した。
【0019】
ランプ用リフレクター4は鏡面仕上げのアルミニウム製で直径40mmの半円筒状のものを用い、図1の4で示したように蛍光ランプ2aおよび2bの背後にそれぞれ取付けた。デジタルカメラ5はCMOSデジタルカメラを用い、平面被写体1の中心線とレンズの光軸が一致する位置に平面被写体1より350mm離して設置した。デジタルカメラの撮像素子特性は、入射光に対してリニアに応答することをあらかじめ検証しておいた。
【0020】
蛍光ランプを点灯させ、放射光強度が安定するまで30分間放置した後、照度計を用いて平面被写体1の照度を測定し、照度比を求めたところ92.5%であった。因みにリフレクター3が存在しない場合の照度比は75%であった。次にデジタルカメラ5の撮像素子のダイナミックレンジ内に露出を設定して平面被写体1の撮影を行った。得られた画像データを画像処理ソフトウエアに取込み、画像の階調、つまり濃淡を数値で求め、照度比と同じように最も階調が高い部分と最も低い部分の割合を求めたところ93.7%で、ほとんど階調にむらがない良好な画像データが得られた。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の撮影用照明装置の一態様を模式的に示す説明図である。
【図2】蛍光ランプの放射光とリフレクターで反射される反射光の光路を示す説明図である。
【図3】発光管の長手方向の照度分布の1例を示した図である。
【符号の説明】
【0022】
1・・・平面被写体;2・・・蛍光ランプ;2a・・・左蛍光ランプ;2b・・・右蛍光ランプ;3・・・リフレクター;3a・・・前リフレクター;3b・・・後リフレクター;4・・・ランプ用リフレクター;5・・・デジタルカメラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
TLCプレートや電気泳動ゲルなどの平面被写体をデジタルカメラにて撮影するために用いる撮影用照明装置であって、
前記平面被写体の左右上方に前記平面被写体と平行に配置された少なくとも1対の発光管長210mm以上330mm以下の直管型蛍光ランプと、前記平面被写体の前後に前記蛍光ランプの軸線および前記平面被写体に対して垂直に配置された1対のリフレクターを具備していることを特徴とする撮影用照明装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−14684(P2010−14684A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−200192(P2008−200192)
【出願日】平成20年7月7日(2008.7.7)
【特許番号】特許第4363536号(P4363536)
【特許公報発行日】平成21年11月11日(2009.11.11)
【出願人】(508041781)株式会社リポニクス (4)
【Fターム(参考)】