説明

撮影装置及びプログラム

【課題】 事故当事者のプライバシー侵害対策を講じる。
【解決手段】 衝突の発生またはそのおそれが高いことを検出する衝突検出手段(13)、衝突の発生またはそのおそれが高いことが検出されたときにその時点前後の映像をカメラで撮影して保存する第1の映像保存手段(17)、衝突の発生またはそのおそれが高いことが検出されたときに無線により撮影依頼信号を送信する第1の送信手段(15)、撮影依頼信号を受信する第1の受信手段(15)、撮影依頼信号を受信したときその時点前後の映像をカメラで撮影し暗号化して保存する第2の映像保存手段(17)、暗号化された映像を無線により送信する第2の送信手段(15)、暗号化された映像を受信する第2の受信手段(15)、暗号化された映像を受信したときその暗号化された映像を保存する第3の映像保存手段(17)を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両事故(典型的には衝突事故)が発生したときまたはそのおそれがあるときに、その時点前後の映像を記録する、いわゆるドライブレコーダとも称される撮影装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
ドライブレコーダは、たとえば、信号無視の車と衝突した時などに、自分自身に過失がないことを立証する道具として使用することができ、また、信号無視に限らず、事故前後の情報を映像として記録するので、事故の原因を特定するための手段としても大きな可能性が期待されている。しかしながら、ドライブレコーダは、事故が起きたときに自車前方の映像を記録するものであるが、その撮影範囲(ドライブレコーダの撮影画角)は、たとえ、広角レンズを使用したとしても自車前方の限られた範囲であるから、たとえば、見通しの悪い交差点で突然真横から飛び出してきた車両に側面衝突された場合などにおいて、相手車両が映像に写り込まないことがあり、このような場合、事故状況を正確に記録できないという欠点がある。
【0003】
そこで、下記の特許文献1には、自車以外の他の車両に搭載された撮影装置または信号機等の固定構造物に設置された撮影装置と協力して、事故状況を多方向から正確に記録できるようにした技術(以下、従来技術という。)が記載されている。
【0004】
図7は、従来技術における事故状況を示す図である。この従来技術では、事故状況の一例として、交差点に進入しようとする自車(以下、C1)と、自車C1と交差するように当該交差点に左から侵入しようとする暴走車(以下、C5)と、当該交差点に進入しようとする他の車両(以下、C2、C4)とが示されており、暴走車C5以外の車両、すなわち、自車C1と他の車両C2、C4には、それぞれ、無線によって相互に通信可能なドライブレコーダが搭載されている。ここで、上記の他の車両C2、C4は、自車C1からの依頼によって撮影の協力をする車両という意味で、以下、「協力車」ということにする。
【0005】
なお、従来技術においては、当該交差点に設置された信号機(以下、C3)にも、前記のドライブレコーダ(無線によって相互に通信可能なもの)と同様の機能を有する事故状況記録装置が設けられているとされている。
【0006】
今、自車C1と暴走車C5が衝突すると、その衝突の衝撃により、自車C1に搭載されたドライブレコーダが、事故発生の所定時間前からの映像記録を開始すると同時に、自車C1の近くにいる他の車両(ここでは、二台の協力車C2、C4)や、信号機C3(の事故状況記録装置)に対して無線信号1により撮影協力の依頼を行う。協力車C2、C4と信号機C3は、この依頼に応答して当該依頼の所定時間前からの映像記録を開始し、所定時間後に記録を完了すると、その記録データ(つまり、事故発生時前後の映像データ)を無線信号2〜4により自車C1に送信する。
【0007】
以上の経緯により、自車C1のドライブレコーダには、自車前方の映像データのみならず、二台の協力車C2、C4と信号機C3から送信された各々の映像データも一緒に保存される。その結果、多方向から撮影された死角の少ない事故映像記録を保存することができ、事故原因の調査や裁判の証拠等に有益な情報を残すことができる。
【0008】
【特許文献1】特開2006−231942号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来技術にあっては、事故当事者(自車C1の乗員)に対するプライバシー侵害の対策が不十分である。
【0010】
従来技術の特に段落〔0122〕によれば、協力車C2、C4や信号機C3から自車C1に送信される映像データは暗号化されるとされており、所定のキー情報がなければ再生できないとされているので、当該映像データについてのプライバシー対策は講じられている。しかし、協力車C2、C4や信号機C3に残された映像データ(以下、残置映像データという。)の暗号化については何ら言及されておらず、したがって、この残置映像データは、生データのまま協力車C2、C4や信号機C3の記憶部に保存されるものと認められる。
【0011】
してみれば、この残置映像データは「生データ」であるので、誰でも見ることができる状態にあり、たとえば、協力車の乗員等に勝手に閲覧されたり、さらには、インターネットなどを介して広く公開されてしまう可能性を否定することができないから、事故当事者(自車C1の乗員)のプライバシーが侵されてしまうという問題点があり、結局の所、この問題点の本質は、協力車C2、C4や信号機C3の元に、生のままの映像データが残されてしまうことにある。
【0012】
そこで本発明は、事故当事者のプライバシー侵害対策を講じた撮影装置及びプログラムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1記載の発明は、衝突の発生またはそのおそれが高いことを検出する衝突検出手段と、前記衝突検出手段によって衝突の発生またはそのおそれが高いことが検出されたときにその時点前後の映像をカメラで撮影して保存する第1の映像保存手段と、前記衝突検出手段によって衝突の発生またはそのおそれが高いことが検出されたときに無線により撮影依頼信号を送信する第1の送信手段と、前記撮影依頼信号を受信する第1の受信手段と、前記第1の受信手段によって撮影依頼信号が受信されたときその時点前後の映像をカメラで撮影し暗号化して保存する第2の映像保存手段と、前記暗号化された映像を無線により送信する第2の送信手段と、前記暗号化された映像を受信する第2の受信手段と、前記第2の受信手段によって、暗号化された映像が受信されたときその暗号化された映像を保存する第3の映像保存手段とを備えたことを特徴とする撮影装置である。
請求項2記載の発明は、前記衝突検出手段は、車両に加えられる衝撃の大きさから衝突を検出することを特徴とする請求項1記載の撮影装置である。
請求項3記載の発明は、前記衝突検出手段は、車両に搭載されたエアバックの作動信号から衝突を検出することを特徴とする請求項1記載の撮影装置である。
請求項4記載の発明は、前記衝突検出手段は、車両に搭載されたプリクラッシュセーフティシステムによってプリクラッシュが判定されたときに衝突するおそれが高いことを検出することを特徴とする請求項1記載の撮影装置である。
請求項5記載の発明は、さらに、前記第3の映像保存手段によって、暗号化された映像が正常に保存されたときにその旨を示す保存完了信号を送信する第3の送信手段と、前記保存完了信号を受信する第3の受信手段と、前記第3の受信手段によって保存完了信号が受信されたときに前記第2の映像保存手段によって保存された映像を削除する削除手段とを備えたことを特徴とする請求項1記載の撮影装置である。
請求項6記載の発明は、前記第3の受信手段によって保存完了信号が受信されなかったときに前記第2の映像保存手段によって保存された映像に対して所定の保存期間を設定する保存期間設定手段を備え、且つ、前記削除手段は、当該保存期間の経過後に前記第2の映像保存手段によって保存された映像を削除することを特徴とする請求項5記載の撮影装置である。
請求項7記載の発明は、前記保存期間設定手段は、前記の所定の保存期間として二つの期間(第一の期間及びこの第一の期間よりも長い第二の期間)を設定し、前記削除手段は、前記第一の期間が経過するまでの間、前記第2の映像保存手段によって保存された映像の削除と上書きを禁止し、また、前記第二の期間が経過するまでの間、当該映像の保存先の空き容量に余裕がある場合に当該映像の削除と上書きを禁止すると共に、前記第二の期間の経過後に当該映像を削除することを特徴とする請求項6記載の撮影装置である。
請求項8記載の発明は、コンピュータを、衝突の発生またはそのおそれが高いことを検出する衝突検出手段と、前記衝突検出手段によって衝突の発生またはそのおそれが高いことが検出されたときにその時点前後の映像をカメラで撮影して保存する第1の映像保存手段と、前記衝突検出手段によって衝突の発生またはそのおそれが高いことが検出されたときに無線により撮影依頼信号を送信する第1の送信手段と、前記撮影依頼信号を受信する第1の受信手段と、前記第1の受信手段によって撮影依頼信号が受信されたときその時点前後の映像をカメラで撮影し暗号化して保存する第2の映像保存手段と、前記暗号化された映像を無線により送信する第2の送信手段と、前記暗号化された映像を受信する第2の受信手段と、前記第2の受信手段によって、暗号化された映像が受信されたときその暗号化された映像を保存する第3の映像保存手段として機能させることを特徴とするプログラムである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、撮影依頼信号を受信すると、その時点前後の映像をカメラで撮影し暗号化して保存すると共に、暗号化された映像を無線により送信するので、撮影依頼先に残された映像を暗号化して閲覧不可とすることができ、事故当事者のプライバシー侵害対策を講じた撮影装置及びプログラムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1(a)は、実施の形態に係る撮影装置を搭載した車両を示す図である。この図において、車両10の前面、たとえば、不図示のルームミラー裏側のフロントガラスなどに取り付けられた、ドライブレコーダとも称される撮影装置11は、その垂直方向の撮影範囲をα、水平方向の撮影範囲をβ(図1(b)参照)としたとき、αの中心を車両10の進行方向前方の所定距離(先行車等の障害物を十二分に撮影できる距離)の地点に設定すると共に、βの中心を車両10の車幅中心の延長線上に設定し、これにより、車両10の進行方向全体を満遍なく撮影できるようにしている。
【0016】
図1(b)は、撮影装置11の簡略ブロック図である。この図において、撮影装置11は、少なくとも、カメラ12と、振動センサ13と、制御部14と、通信部15と、アンテナ16と、記憶部17とを備える。
【0017】
カメラ12は、毎秒数十フレーム(一般的には30フレーム/秒)の周期で動きのある画像(つまり映像)を撮影して出力する二次元イメージセンサ、典型的にはCCDカメラやCMOSカメラであり、振動センサ13は、この撮影装置11に加えられた振動を検出する、たとえば、加速度センサ(Gセンサ)である。なお、車両10に既存の振動センサ(たとえば、エアバッグシステム20の振動センサなど)が設けられている場合は、その振動センサを撮影装置11に流用してもよい。この場合、当然ながら図示の振動センサ13は不要になる。
【0018】
制御部14は、特にそれに限定されないが、マイクロプログラム制御方式のコンピュータによって構成されており、通常は、カメラ12から時々刻々と出力される映像データを所定容量のリングバッファメモリ14aに一時保存する。リングバッファメモリ14aは、後で詳述するように、記憶容量が映像データで一杯になると、一時保存中の古いフレーム画像を新しいフレーム画像で上書きするという処理(以下、通常処理という。)を繰り返し実行する。
【0019】
図2は、リングバッファメモリ14aの概念構造を示す模式図である。この図に示すように、リングバッファメモリ14aは、映像データを所定時間(ここではn秒とする)記憶できる容量を有すると共に、二つのポインタ(W:書き込みポインタ、R:読み出しポインタ)を有している。ポインタを動かしながらデータ(ここでは映像データ)を書き込み、また、読み出しを行う。二つのポインタは、常に書き込みポインタWが先行するようになっており、具体的に説明すれば、図示の例では、円環状に描いたリングバッファメモリ14aの書き込み方向(ここでは便宜的に時計回り方向とする)に対して常に書き込みポインタWが先行して動き、読み出しポインタRはその後を所定の時間差(例:n/m)(mは1を越える数値)で追随するようになっている。
【0020】
撮影装置11の電源がオンになっているとき、カメラ12で撮影された映像データがリングバッファメモリ14aに継続的に書き込まれる。(a)は、その初期の様子、すなわち、電源がオンになった後、書き込みポインタWがn/m秒だけ動いたときの様子を示している。斜めハッチングで示す部分が映像データの書き込み箇所であり、図示の例ではリングバッファメモリ14aの丁度半分にデータが書き込まれている。
【0021】
(b)は、書き込みポインタWが一巡し、さらに少し進んだときの様子を示している。書き込みポインタWが一巡した時点でリングバッファメモリ14aが一杯になり、その後に書き込まれる映像データは古い映像データに上書きされていく。クロスハッチングで示す部分は上書き箇所を示している。
【0022】
さて、事故が発生したときは、その時点の読み出しポインタRの位置からデータが読み出されていくが、前記のとおり、リングバッファメモリ14aの記憶容量は映像データをn秒間保存できる大きさであり、且つ、書き込みポインタWと読み出しポインタRの時間差はn/m秒であるので、このリングバッファメモリ14aからはn/m秒前に遡った過去の時点からの映像データが読み出されることになる。なお、最後に読み出される映像データは、事故発生後、ある時間が経過したときの映像データになるので、特にそれに限定されないものの、この“ある時間”を前記のn/m秒と同じとすれば、読み出しポインタRの位置がさらにn/m秒進んた時点で映像データの読み出しを完了すればよい。このようにすれば、事故発生前後の映像データ、つまり、事故発生時点のn/m秒前から同時点のn/m秒後までの連続した映像データをリングバッファメモリ14aから読み出すことができる。
【0023】
本明細書では、説明の便宜上、前記のnを15秒とすることにする。すなわち、リングバッファメモリ14aの容量が15秒間の映像データを保存できる大きさであるものとする。加えて、書き込みポインタWと読み出しポインタRの時間差(n/m)を5秒とし、さらに、このリングバッファメモリ14aから読み出される映像データを、事故発生時点の10秒前から同時点の5秒後までの連続した映像データであるものとする。
【0024】
制御部14は、振動センサ13の検出結果を常時(または周期的に若しくは割り込みにより)モニタし、この振動センサ13の検出結果が所定の大きさを超えたとき、つまり、撮影装置11に所定値を超える振動が加えられたときに、衝突等の車両事故が発生したものと判断し、事故発生時点の10秒前から同時点の5秒後までの連続した映像データをリングバッファメモリ14aから読み出して一つの映像ファイルとし、その映像ファイルを記憶部17に書き込んで保存するという処理(以下、第1の保存処理という。)を実行する。
【0025】
ここで、記憶部17には、電源をオフにした後も記憶内容をそのまま保持する記憶要素(不揮発性メモリ)を用いるが、リングバッファメモリ14aの記憶要素には、電源をオフにした後、その記憶内容を保持しない揮発性メモリを用いることが望ましい。リングバッファメモリ14a内には、暗号化されないままの生データが存在するため、電源を切った際に内容が消失する揮発性メモリのほうが望ましく、一方、記憶部17内の映像データは電源が切れた場合であっても継続的に保存される必要があるためである。
【0026】
また、この制御部14は、振動センサ13の検出結果が所定の大きさを超えたとき、つまり、衝突等の車両事故が発生したと判断されたときに、通信部15とアンテナ16を介して、他の車両に搭載された撮影装置11や、最寄りの事故状況記録装置に対し、事故状況の撮影を依頼する信号(以下、撮影依頼信号という。)18Aを送信するという処理(以下、撮影依頼処理という。)を実行する。
【0027】
また、この制御部14は、前記の撮影依頼信号18Aを受信したとき、当該信号の受信時点の10秒前から同時点の5秒後までの連続した映像データをリングバッファメモリ14aから読み出して一つの映像ファイルとし、その映像ファイルを暗号化すると共に、この暗号化された映像ファイルを含む応答データ19を、通信部15とアンテナ16を介して、依頼元の車両10に送信するという処理(以下、応答処理という。)を実行する。
【0028】
さらに、この制御部14は、前記の応答データ19を受信したとき、当該応答データ19に含まれる、暗号化された映像ファイル(他の車両に搭載された撮影装置11や最寄りの事故状況記録装置で撮影された事故発生前後の暗号化済みの映像データからなる映像ファイル)を記憶部17に書き込んで保存すると共に、その映像ファイルの正常受信と正常保存を通知するための信号(以下、保存完了信号という。)18Bを送信するという処理(以下、第2の保存処理という。)を実行する。
【0029】
なお、制御部14における衝突等の事故発生の判定は、振動センサ13の検出結果に基づくものだけでなく、たとえば、エアバックシステム20の作動信号(エアバックの展開信号)に基づいて行ってもよく、あるいは、プリクラッシュセーフティシステム21のプリクラッシュ判定信号(先行車等の障害物との衝突が不可避と判定されたときに当該システムから出力される信号)に基づいて行ってもよい。振動センサ13の検出結果またはエアバックシステム20の作動信号に基づいて行われる事故発生の判定は、実際に発生した事故を示す点で共通するが、プリクラッシュ判定信号に基づく判定は、事故発生の予測を示す(すなわち、事故発生のおそれが高いことを示す)点で相違する。
【0030】
次に、本実施の形態の具体的な動作を説明する。
図3は、本実施の形態の事故発生例を示す図である。この図において、今、十字路の交差点30の図面上下方向の道路31、32に設けられた信号機(不図示)が「青」(進行可)であり、左右方向の道路33、34に設けられた信号機(不図示)が「赤」(進行不可)であるとする。進行可の道路31、32には、青信号に従って図面の下から上に交差点30に侵入しようとする車両35が存在し、また、同様に青信号に従って上から下に交差点30に侵入しようとする車両36が存在する。一方、進行不可の道路33、34には赤信号に従って停止中の車両37が存在するとともに、赤信号を無視して交差点30に左方から侵入しようとする車両38が存在する。
【0031】
車両35、36、37には、本実施の形態の撮影装置11が搭載されており、また、交差点30を見下ろす、たとえば、ビル39の屋上には、本実施の形態の撮影装置11と類似の機能を有する事故状況記録装置11´が設置されている。“類似の機能”とは、少なくとも、本実施の形態の撮影装置11の「通常処理」と「応答処理」とを実行することができる機能のことをいう。また、これらの「通常処理」と「応答処理」に加えて、たとえば、マイクロホンで拾った衝撃音から交差点30における事故発生を検知し、その事故発生時点前後の映像データを記録できる機能(前記の「第1の保存処理」に類似する機能)を備えていてもよい。
【0032】
ここで、車両35を「自車」、車両36、37を「協力車」、車両38を「暴走車」ということにすると、図示の状況の場合、青信号に従って交差点30に侵入した自車35と、信号無視の暴走車38との衝突事故が発生する可能性がある。
【0033】
図4は、事故発生時の信号の送受信概念図である。
事故発生時点において、自車35に搭載された撮影装置11は、前記の「第1の保存処理」と「撮影依頼処理」を実行する。すなわち、事故発生時点の10秒前から同時点の5秒後までの連続した映像データをリングバッファメモリ14aから読み出して一つの映像ファイルとし、その映像ファイルを記憶部17に書き込んで保存するという処理(第1の保存処理)を実行するとともに、通信部15とアンテナ16を介して、協力車36、37に搭載された撮影装置11や、ビル39の屋上に設置された、最寄りの事故状況記録装置11´に対し、事故状況の撮影を依頼する信号(撮影依頼信号18A)を送信するという処理(撮影依頼処理)を実行する。
【0034】
一方、協力車36、37に搭載された撮影装置11(及びビル39の屋上の事故状況記録装置11´)は、前記の「応答処理」を実行する。すなわち、撮影依頼信号18Aを受信したとき、その受信時点の10秒前から同時点の5秒後までの連続した映像データをリングバッファメモリ14aから読み出して一つの映像ファイルとするとともに暗号化を行う。そして、その暗号化済みの映像ファイルを記憶部17に保存すると共に、その暗号化済みの映像ファイルを含む応答データ19を、通信部15とアンテナ16を介して、依頼元の車両10(この場合、自車35)に送信するという処理(応答処理)を実行する。
【0035】
さらに、自車35に搭載された撮影装置11は、上記の応答データ19を受けて、前記の「第2の保存処理」を実行する。すなわち、応答データ19を受信したとき、当該応答データ19に含まれる映像ファイル(協力車36、37に搭載された撮影装置11や最寄りの事故状況記録装置11´で撮影された事故発生前後の映像データからなる映像ファイル)を記憶部17に書き込んで保存すると共に、映像ファイルの正常受信と正常保存を通知するための保存完了信号18Bを送信するという処理(第2の保存処理)を実行する。
【0036】
なお、ここでは、撮影依頼信号を送受信する(第一の)通信部と、映像データを送受信する(第二の)通信部とを共通のもの(通信部15)として説明したが、これに限らず、撮影依頼信号を送受信する第一の通信部を微弱無線等の近距離通信部とし、一方、映像データを送受信する第二の通信部を遠距離の通信が可能なものとすることが望ましい。
【0037】
なぜならば、撮影を依頼する対象(協力車等)は、自車の近隣に存在する車両等で足りるからである。より詳しくは、仮に撮影依頼信号が遠方まで届いたとしても、自車と遠方の協力車との間に他の車両などの障害物が入り込む可能性が高く、そのような場合、障害物に邪魔されて自車周辺の状況を撮影できないおそれがあるからである。
【0038】
また、障害物が存在しない場合であっても、遠方からの撮影になるため、その映像に写し込まれる事故状況が小さく見にくくなって事故の詳細を把握できず、撮影する価値が低下するためである。
【0039】
これに対し、映像データは、できるだけ遠方まで到達すべきである。撮影依頼を受け、有効な映像を撮影した場合であっても、第三者である協力車がその場にとどまっている保障はなく、走り去る可能性が高いため映像データを正常に受信するためには、可能な限り遠方まで到達する能力を有する通信部が必要となるからである。このような観点から、望ましくは、図示の通信部15は、撮影依頼信号を送受信する第一の通信部と、映像データを送受信する第二の通信部とに分け、且つ、第一の通信部を近距離通信用(たとえば、省電力無線)とすると共に、第二の通信部を遠距離通信用(たとえば、携帯電話等のパケット通信方式を用いたもの)とすることが好ましい。
【0040】
このように、本実施の形態の撮影装置11では、事故発生前後の映像データを記憶保存することができるとともに、他の車両に対して撮影協力を依頼することができ、その依頼先から送られてきた映像データも一緒に記憶保存することができる。すなわち、図4の例では、自車35に搭載された撮影装置11の映像データのみならず、二台の協力車36、37に搭載された撮影装置11の各々の映像データと、さらには、ビル39の屋上に設置された事故状況記録装置11´の映像データとを一緒に保存することができるので、死角をなくして事故状況を多方向から撮影記録することができ、事故原因の調査や裁判の証拠として役立つ有益な情報を得ることができるという効果が得られる。
【0041】
本実施の形態では、上記の効果に加えて、さらに、撮影の依頼先に残される映像データ、および、送受信中の映像データを第三者が閲覧できないようにして、事故当事者のプライバシーを守ることができるという特有の効果が得られる。
【0042】
図5は、制御部14で実行される制御プログラムの概略フローを示す図である。このフローにおいて、制御部14は、まず、振動センサ13の検出信号や、エアバックシステム20の作動信号、あるいは、プリクラッシュセーフティーシステム21からのプリクラッシュ判定信号に基づき、衝突の発生またはそのおそれを判定する(ステップS1)。そして、衝突の発生またはそのおそれを判定しなかった場合は、次に、撮影依頼信号18Aを受信したか否かを判定し(ステップS2)、撮影依頼信号18Aを受信しなかった場合は、保存期間を超過した映像データがあるか否かを判定する(ステップS3)。保存期間については後述する。保存期間を超過した映像データがなかった場合は、そのままフローを終了し、保存期間を超過した映像データがある場合は、その映像データを削除(ステップS4)してからフローを終了する。
【0043】
一方、衝突の発生またはそのおそれを判定した場合は、撮影依頼信号18Aを送信(ステップS5)すると共に、その判定時点の10秒前から同時点の5秒後までの連続した映像データをリングバッファメモリ14aから読み出して(ステップS6)、記憶部17に保存(ステップS7)する。次いで、映像データの受信を判定し(ステップS8)、映像データを受信しなかった場合は、そのままフローを終了し、映像データを受信した場合は、その映像データを記憶部17に保存(ステップS9)すると共に、保存完了信号18Bを送信(ステップS10)してフローを終了する。
【0044】
ステップS2において、撮影依頼信号18Aを受信した場合は、依頼時点の10秒前から同時点の5秒後までの連続した映像データをリングバッファメモリ14aから読み出し(ステップS11)、その映像データを暗号化(ステップS12)して、その暗号化した映像データを記憶部17に保存(ステップS13)すると共に、依頼元の撮影装置11に、暗号化した映像データを送信(ステップS14)する。
【0045】
ここで、映像データの暗号化には様々な手法を用いることができる。たとえば、公開鍵暗号方式や秘密鍵暗号方式あるいはその他の方式を用いてもよい。暗号化に要する処理コスト及び要求されるデータの保全レベルに応じて適切な方式を選択すればよい。
【0046】
次いで、保存完了信号18Bの受信を判定し(ステップS15)、受信を判定した場合は、該当する映像データ(撮影依頼信号18Aに応答して送信した暗号化済みの映像データ)を削除し(ステップS16)、受信を判定しなかった場合は、該当する映像データ(同)に所定の保存期間を設定(ステップS17)した後、フローを終了する。
【0047】
ここで、“所定の保存期間”とは、データの上書きと削除を禁止する期間のことをいう。つまり、保存完了信号18Bを受信しなかった場合は、協力車36、37からの映像データの送信失敗、または自車35による映像データの受信失敗、若しくは保存失敗のいずれかの不具合が生じているため、事後の要求(たとえば、警察等からの情報提供要求)があるまで協力車36、37等で映像データを保存しておく必要があるからであり、その間、映像データの喪失を防止するためにデータの上書きと削除を禁止する必要があるからである。
【0048】
したがって、この所定の保存期間は、事後の要求に対応可能な過不足のない日数とすべきである。また、所定の期間を二つの期間(第一の期間と、この第一の期間よりも長い第二の期間)としてもよい。この場合、第一の期間は該当する映像データの上書きと削除を無条件で禁止する期間であり、第二の期間は条件付きで削除や上書きを許容する保存期間である。この条件としては、記憶部17が満杯でない、または、事故の発生を判定していないというものである。保存期間を経過した該当する映像データは自動的に削除することが望ましい。
【0049】
このようにすれば、少なくとも、第一の期間だけ映像データを確実に保存することができ、事後のデータ提供要求に応えることができる。また、記憶部17が満杯でない、または、事故の発生を判定していないという条件が満たされている限りにおいては、第一の期間よりも長い第二の期間だけ引き続いて映像データを保存することもでき、さらに長期にわたってデータの提供要求に応えることができるようになる。
【0050】
図6は、本実施形態のタイムシーケンスを示す図である。この図において、自車35で事故が発生すると、自車35において、事故発生時点の10秒前から同時点の5秒後までの連続した映像データを一つの映像ファイルとして、記憶部17に保存すると共に、最寄りの協力車36、37等に対して撮影依頼信号18Aを送信する。
【0051】
撮影依頼信号18Aを受信した協力車36、37等は、当該信号の受信時点の10秒前から同時点の5秒後までの連続した映像データを一つの映像ファイルとして、その映像ファイルを暗号化し、記憶部17に保存すると共に、暗号化した映像ファイルを含む応答データ19を送信する。自車35はこの応答データ19を受信すると、その応答データ19に含まれる暗号化された映像データを記憶部17に保存すると共に、保存完了信号18Bを送信する。
【0052】
このとき、自車35は、衝突などの衝撃を受けており、それに伴い撮影装置11が損傷している可能性があるので、映像データが記憶部17に正常に記憶されていることを確認した後に保存完了信号18Bを送信することが望ましい。正常に記憶されていないにもかかわらず、保存完了信号を送信すると、協力車側の元データが削除されてしまうからである。
【0053】
協力車36、37等は、その保存完了信号18Bの受信を判定すると(ステップS15)、該当する映像データ(自車35に送信した暗号化した映像データ)を記憶部17から直ちに削除する(ステップS16)が、保存完了信号18Bの受信を判定しなかった場合は、事後の要求(映像データの提出要求)に応えるために、所定の保存期間を設定し(ステップS17)、以降、保存期間の超過を判定し(ステップS3)、保存期間が超過した映像データを削除する(ステップS4)。
【0054】
以上のとおり、本実施の形態によれば、死角をなくして事故状況を多方向から撮影記録することができ、事故原因の調査や裁判の証拠として役立つ有益な情報を得ることができるという効果の他に、さらに、撮影の依頼先(前記の例示では協力車36、37の撮影装置11やビル39上の事故状況記録装置11´)に残される映像データを第三者が閲覧できないようにして、事故当事者のプライバシーを守ることができるという特有の効果が得られる。
【0055】
すなわち、撮影依頼先においては、映像データが暗号化されて保存されるので、それらの撮影依頼先で勝手に映像を閲覧することができず、また、仮に、撮影依頼先の映像データが、たとえば、インターネット上に流出したとしても、その映像データは暗号化されているので、事故当事者が写った映像が公開されるおそれもなく、結局、事故当事者のプライバシーが確実に保たれるという特有の効果が得られる。なお、撮影依頼先から自車35に対して暗号化された映像データが送られてくるが、この映像データの復号(暗号解読)は、たとえば、警察や保険会社等の事故調査機関において、正規の手続きで入手した解除鍵を用いて行えばよく、むしろ、当該機関においてのみ復号を許可するようにしておけば、映像データの改ざんが不可能になり、裁判等における証拠価値が高まるから望ましい。
【0056】
加えて、保存完了信号18Bの受信に応答して、暗号化された映像データを直ちに削除するので、不要なデータを残置しないようにでき、より一層、プライバシー保護を図ることができる。さらに、保存完了信号18Bを受信できなかった場合は、所定の保存期間を設定し、その期間経過後にデータを削除するので、たとえば、所定の期間内であれば事後における警察等からのデータ提供要求にも柔軟に応えることができる。
【0057】
この説明では、自ら撮影した映像データは暗号化しない構成としているが、暗号化するようにしてもよい。長期保存のためにパソコンなどにコピーした際に、インターネットなどに流出した場合であっても映像の公開を防ぐことが出来るからである。
【0058】
これに加え、自ら保存した映像データ及び、協力車から受信した映像データに保存期間を設定して自動的に削除する構成としてもよい。
【0059】
また、この説明では、協力車とのデータ授受の際の手順に関しては詳細な説明をしていないが、データ送受信のために自車や協力車を特定するために識別子の管理や、後日のデータ提供に対応するために協力車の識別子を保存しておく構成も必要となるが、これらは、公知の従来技術で実現できる。
【0060】
さらには、事故発生の予測をする装置としてプリクラッシュセーフティシステム21を示したが、これに限定されるものではなく、たとえば、スキール音や衝突音を検出することにより事故発生を予測する音声分析装置を用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】(a)は実施の形態に係る撮影装置を搭載した車両を示す図、(b)は撮影装置11の簡略ブロック図である。
【図2】リングバッファメモリ14aの概念構造を示す模式図である。
【図3】本実施の形態の事故発生例を示す図である。
【図4】事故発生時の信号の送受信概念図である。
【図5】制御部14で実行される制御プログラムの概略フローを示す図である。
【図6】本実施形態のタイムシーケンスを示す図である。
【図7】従来技術における事故状況を示す図である。
【符号の説明】
【0062】
10 車両
11 撮影装置
12 カメラ
13 振動センサ(衝突検出手段)
14 制御部(削除手段、保存期間設定手段、コンピュータ)
15 通信部(第1の送信手段、第1の受信手段、第2の送信手段、第2の受信手段、第3の送信手段、第3の受信手段)
17 記憶部(第1の映像保存手段、第2の映像保存手段、第3の映像保存手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
衝突の発生またはそのおそれが高いことを検出する衝突検出手段と、
前記衝突検出手段によって衝突の発生またはそのおそれが高いことが検出されたときにその時点前後の映像をカメラで撮影して保存する第1の映像保存手段と、
前記衝突検出手段によって衝突の発生またはそのおそれが高いことが検出されたときに無線により撮影依頼信号を送信する第1の送信手段と、
前記撮影依頼信号を受信する第1の受信手段と、
前記第1の受信手段によって撮影依頼信号が受信されたときその時点前後の映像をカメラで撮影し暗号化して保存する第2の映像保存手段と、
前記暗号化された映像を無線により送信する第2の送信手段と、
前記暗号化された映像を受信する第2の受信手段と、
前記第2の受信手段によって、暗号化された映像が受信されたときその暗号化された映像を保存する第3の映像保存手段と
を備えたことを特徴とする撮影装置。
【請求項2】
前記衝突検出手段は、車両に加えられる衝撃の大きさから衝突を検出することを特徴とする請求項1記載の撮影装置。
【請求項3】
前記衝突検出手段は、車両に搭載されたエアバックの作動信号から衝突を検出することを特徴とする請求項1記載の撮影装置。
【請求項4】
前記衝突検出手段は、車両に搭載されたプリクラッシュセーフティシステムによってプリクラッシュが判定されたときに衝突するおそれが高いことを検出することを特徴とする請求項1記載の撮影装置。
【請求項5】
さらに、前記第3の映像保存手段によって、暗号化された映像が正常に保存されたときにその旨を示す保存完了信号を送信する第3の送信手段と、
前記保存完了信号を受信する第3の受信手段と、
前記第3の受信手段によって保存完了信号が受信されたときに前記第2の映像保存手段によって保存された映像を削除する削除手段とを備えたことを特徴とする請求項1記載の撮影装置。
【請求項6】
前記第3の受信手段によって保存完了信号が受信されなかったときに前記第2の映像保存手段によって保存された映像に対して所定の保存期間を設定する保存期間設定手段を備え、且つ、前記削除手段は、当該保存期間の経過後に前記第2の映像保存手段によって保存された映像を削除することを特徴とする請求項5記載の撮影装置。
【請求項7】
前記保存期間設定手段は、前記の所定の保存期間として二つの期間(第一の期間及びこの第一の期間よりも長い第二の期間)を設定し、前記削除手段は、前記第一の期間が経過するまでの間、前記第2の映像保存手段によって保存された映像の削除と上書きを禁止し、また、前記第二の期間が経過するまでの間、当該映像の保存先の空き容量に余裕がある場合に当該映像の削除と上書きを禁止すると共に、前記第二の期間の経過後に当該映像を削除することを特徴とする請求項6記載の撮影装置。
【請求項8】
コンピュータを、
衝突の発生またはそのおそれが高いことを検出する衝突検出手段と、
前記衝突検出手段によって衝突の発生またはそのおそれが高いことが検出されたときにその時点前後の映像をカメラで撮影して保存する第1の映像保存手段と、
前記衝突検出手段によって衝突の発生またはそのおそれが高いことが検出されたときに無線により撮影依頼信号を送信する第1の送信手段と、
前記撮影依頼信号を受信する第1の受信手段と、
前記第1の受信手段によって撮影依頼信号が受信されたときその時点前後の映像をカメラで撮影し暗号化して保存する第2の映像保存手段と、
前記暗号化された映像を無線により送信する第2の送信手段と、
前記暗号化された映像を受信する第2の受信手段と、
前記第2の受信手段によって、暗号化された映像が受信されたときその暗号化された映像を保存する第3の映像保存手段と
して機能させることを特徴とするプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−157554(P2009−157554A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−333705(P2007−333705)
【出願日】平成19年12月26日(2007.12.26)
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【Fターム(参考)】