説明

撹拌ユニット

【課題】 発振子を底部に配したQCMセンサーセルにおいて、液状物が注入された容器の内部において、不要な振動を低減させて、微量の液状物の測定時のノイズ原因をなくすことができる撹拌ユニットを提供する。
【解決手段】 開口部を備える容器の底部に発振子を設け、前記容器に注入された液状物を撹拌するための撹拌ユニットであって、前記容器の開口部から回転可能に軸支された磁性を有する撹拌部材と、前記開口部から前記撹拌部材を磁界を介して回転させるための駆動源とを備え、前記撹拌部材は、回転時に前記容器内面に接触しないようにして軸支されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶液の攪拌、特に水晶振動子マイクロバランス法により溶液中の物質検知或いは測定に用いられる撹拌ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
水晶振動子マイクロバランス法(以下QCMと略記する)は発振子の発振・共振の周波数が、前記素子表面へ物質が付着したとき変化する事を利用した、微量な物質質量の検知・測定方法として広く知られている技術である。
QCMにおいて実用上のセンサー感度を有する感応部は、前記振動子電極部と表面位置的にほぼ一致するため、前記電極部そのものの表面を直接、或いは、少なくとも前記電極部表面を含む領域への膜付着や化学的処理などの修飾を行うことにより、検出部として用いられてきている(非特許文献1参照)。
前記センサーを小容量のサンプル溶液に対して用いる場合においては、例えば、特許文献1乃至特許文献3に示すように、フローセルの形状をとるのが一般的であるが、サンプルによっては複数の因子からなる反応を経てようやく目的物が結合するような系も珍しくなく、一方複数反応のステップをQCMで個別に計測したいとの需要も多い。このとき溶液槽がフローセルの形状であると因子別の逐次添加が困難で、バッチ方式の小容量測定槽が求められてきた。
また、バッチ法でこうした微少結合重量の測定を高感度に計測したい場合、被測定対象である添加溶液が極力希釈されない事が重要であるが、測定槽容量が大きい場合、必然的に希釈倍率が大きくなってしまい、結果的にその倍率分だけ高濃度の被測定溶液でなければ検出ができない事になり、より小容量の測定槽が求められている。
【0003】
通常、前記攪拌は、金属片をフッ素系樹脂で包埋したマグネチック攪拌子と呼ばれる部品を被攪拌溶液中に入れ、外部から回転する磁界を与えることにより前記攪拌子を溶液中で誘導回転させることによりなされるが、これが磁力によるものであるがため、同時に前記攪拌子と外部磁極との間に引力も発生し、なおかつ金属片を包埋している事情でその比重も大きく、結果的に前記攪拌子は溶液槽の底に押しつけられる状態になっている。
水晶振動子を検出素子として用いたバッチ式のQCMによる反応測定系において、測定溶液の小容量化を行う場合、前記水晶振動子は重力方向に対し水平でなおかつ、溶液槽の底に設置するのが接液面積不変で最も効率的な配置であると考えられるが、ここで前記攪拌子による攪拌を実施すると非常に敏感な水晶板上で、押しつけられてこれと接する形で物体が機械的に回転することとなり、結果として測定周波数に大きなノイズが載る形となってしまっていた。
【0004】
このため、特許文献4において、撹拌のための部材が発振子に接触しないようにすることが提案されている。
しかしながら、前記提案では、撹拌のための部材とこれを規制する部材とが容器の溶液内で接合されるので、同様に、測定への悪影響が生じるという問題があった。
【0005】
【特許文献1】特許第2851510号公報
【特許文献2】特許第2856653号公報
【特許文献3】特許第2905064号公報
【特許文献4】特開2005−257680号公報
【非特許文献1】Sauerbrey, G.著 Zeitschrift fur Physik, 1959. 155: p. 206-222.掲載 Use of quartz vibration for weighing thin films on a microbalance.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、発振子を底部に配したQCMセンサーセルにおいて、液状物が注入された容器の内部において、不要な振動を低減させて、微量の液状物の測定時のノイズ原因をなくすことができる撹拌ユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明者等は、容器開口部側から回転可能に軸支された磁性を有する撹拌部材を、容器底部側から磁界を与えて容器内面に接触しないようにして回転させることにより、撹拌すべき液状物内において、部材同士が接触して意図しない振動を抑えることができるという知見に基づき、下記の通り解決手段を見いだした。
即ち、本発明の撹拌ユニットは、請求項1に記載の通り、開口部を備える容器の底部に発振子を設け、前記容器に注入された液状物を撹拌するための撹拌ユニットであって、前記容器の開口部から回転可能に軸支された磁性を有する撹拌部材と、前記開口部から前記撹拌部材を磁界を介して回転させるための駆動源とを備え、前記撹拌部材は、回転時に前記容器内面に接触しないようにして軸支されることを特徴とする。
また、請求項2に記載の撹拌ユニットは、請求項1に記載の撹拌ユニットにおいて、前記開口部は、前記容器の上面に形成され、前記撹拌部材は、前記開口部を覆うための蓋に軸支されていることを特徴とする。
また、請求項3に記載の撹拌ユニットは、請求項2に記載の撹拌ユニットにおいて、前記蓋は、透明な部材により形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、容器の内面において攪拌部材を接触させることなく、また、撹拌部材が回転時にブレが生じても軸支することにより安定して回転させることができる。また、撹拌ユニットの支持部材は、測定時に装着すればよいので、撹拌ユニットの取り外しや容器の洗浄が容易に行うことができる。
更に、容器の開口部に蓋をして、この蓋に撹拌部材を支持することにより、微量の液体の蒸発を防止することができ、液状物の濃度を維持することができる。
更に、前記蓋を透明な部材により構成すれば、容器内を確認しやすいので、例えば、試料を添加する際に有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面を参照し、本発明の一実施の形態について説明する。尚、本発明は、この実施の形態に制限されるものではない。
本実施の形態の説明において使用するセンサは、図1に示されるように、平面形状が矩形状のガラスやセラミック等により形成された基板1の一端側に、発振子2を設けることにより構成される。発振子2は、水晶等を円形状に形成した圧電板3とその両面の内側(略中央部)に同じく円形状に形成された電極4,5とを備えている。各電極4,5からは、互いに反対方向となるように、圧電板3の外周方向に向かってリード線6,7が設けられており、リード線6,7の外縁部には円弧状に形成された接続端子8,9が形成されている。尚、図示されるように、圧電板3の表側のリード線6は、裏側に回り込み、接続端子8は圧電板3の裏側に配置されている。
また、圧電板3の裏側の電極5は、所定の空間10を有するようにして、基板1により被覆されている。詳細には、図2に図1のA−A断面に示されるように、基板1の一端側の端部に、圧電板3をはめ込むことができる程度の円形状の凹部11が設けられており、この凹部11の内周面は階段状に形成されて、圧電板3の裏側の電極5が基板1に接触しないようになっている。
前記凹部11の内周面の階段の平坦部12にも接続端子13,14が設けられ、これらと、圧電板3に設けられた接続端子8,9は、エポキシ樹脂等の導電性接着剤15を介して接着されることになる。
尚、基板1に設けられた接続端子8,9は、基板1内部に設けられた配線16を介して、圧電板3とは反対側の端部において、外部電源に接続されることになる。
また、前述の通り、圧電板3は、基板1の凹部11により囲繞されており、図2に示すように、圧電板3と基板1の凹部11の内周面との間にはシール剤17が設けられている。
【0010】
本実施の形態では、説明を分かりやすくするために、図3に断面図を示すように、上記構成のセンサ30の発振子2の上方に、発振子2の周りを囲繞するように円筒状の囲い1を設け、上部に開口を備える容器18として構成し、ここに液状物(液体のみのものも含む。)を注入して、撹拌するようにした撹拌ユニットについて説明する。
同図に示すように、撹拌ユニットは、アクリル板等の透明な部材により、容器の開口を覆うように蓋体として構成された支持部材19と、前記支持部材19から発振子2の方向に設けられた軸部材20と、前記軸部材20の軸方向に垂直に交わるようにして設けられた円板状の磁性を有する撹拌部材21と、発振子2の下方に設けられ、前記撹拌部材21を磁界により回転させるための磁石22とを備えている。
前記軸部材20は、前記支持部材19に挿通され、支持部材19の上方の円板状の部材23に接続され、前記支持部材19に対して回転自在となるように支持されている。また、軸部材20は、その反対側の端部において、円板状の撹拌部材21の中心部に固定され、撹拌部材21の外縁部は、回転時に容器18の内面に当接することがないように、その直径を、容器18の内径よりも小さく設定している。
上記構成により、容器18内に測定対象となる液状物を注入して、発振子2の下方に設けられた磁石23を駆動させ、この磁力により撹拌部材21を回転させて液状物を撹拌し、圧電板3の電極4,5に対して交流電圧を印加して振動させ、公知の方法により振動周波数等の変化の測定を行う。
【0011】
尚、本発明において、撹拌部材21は、回転時に容器18の内面に当接することがないように、例えば、撹拌部材21の回転時の最大外径が、前記最大外径の部分と対向することになる容器18の内面の内径よりも小さくなるように形成されていれば、その形状についての板状のものに制限するものではない。
また、図示したものでは、容器18の開口部は、容器18の上面に設けているが、必ずしも開口部は上面に設ける必要はなく、容器18内の液状物が撹拌した際に漏れ等を生じない範囲で容器18の側面に設けることも可能である。尚、この場合には、撹拌部材21は、傾斜した軸により支持されることになる。
また、撹拌部材21を板形状とする場合には、例えば、撹拌部材の外周面に凹凸を設けたり、板面に貫通孔を設けたりしてもよい。また、必ずしも、また、撹拌部材と軸部材との接続についても同様であり、軸部材は、撹拌部材の中心に必ずしも接続される必要はなく、偏心させてもよい。
【0012】
また、本実施の形態では、容器18の底部側に撹拌部材21を回転するための駆動源として磁石22を配置したが、撹拌部材21を磁界を介して回転できるものであれば、制限するものではなく、電磁石等を駆動源として使用することも当然可能である。
【産業上の利用可能性】
【0013】
本発明は、分子間相互作用の測定をより少量のサンプルによって実施でき、創薬、食品衛生、環境ホルモン評価等の分野においても利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の説明のために使用するセンサの平面図
【図2】同A−A断面図
【図3】本発明の一実施の形態の撹拌ユニットの断面図
【符号の説明】
【0015】
1 基板
2 発振子
3 圧電板
4 電極
5 電極
6 リード線
7 リード線
8 接続端子
9 接続端子
10 空間
11 凹部
12 平坦部
13 接続端子
14 接続端子
15 導電性接着剤
16 配線
17 シール剤
18 容器
19 支持部材
20 軸部材
21 撹拌部材
22 磁石
23 円板状の部材
30 センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部を備える容器の底部に発振子を設け、前記容器に注入された液状物を撹拌するための撹拌ユニットであって、前記容器の開口部から回転可能に軸支された磁性を有する撹拌部材と、前記開口部から前記撹拌部材を磁界を介して回転させるための駆動源とを備え、前記撹拌部材は、回転時に前記容器内面に接触しないようにして軸支されることを特徴とする撹拌ユニット。
【請求項2】
前記開口部は、前記容器の上面に形成され、前記撹拌部材は、前記開口部を覆うための蓋に軸支されていることを特徴とする請求項1に記載の撹拌ユニット。
【請求項3】
前記蓋は、透明な部材により形成されていることを特徴とする請求項2に記載の撹拌ユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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