説明

撹拌具

【課題】上部開口が広い容器内で撹拌を実施しても撹拌対象物が飛散し難いようにする。
【解決手段】チクソ性を備えた撹拌対象物1を撹拌する撹拌具であって、縦軸芯Z周りに回転自在な回転駆動軸2と、回転駆動軸2の下端部に一体に備えた撹拌部3とを設け、回転駆動軸2に対する回転駆動力を撹拌対象物1の表面を下方に押圧する押圧力に変換する傾斜部5を、回転駆動軸2の上下中間部に設けてある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チクソ性を備えた撹拌対象物を撹拌する撹拌具に関する。
【背景技術】
【0002】
撹拌対象物として、乱されない状態では粘度が高く、撹拌によって粘度が低下する性質(チクソ性)を備えたものが、例えば、シール剤や接着剤や塗料等の一部にある。
これらの撹拌対象物は、例えば、塗布や注入といった形態で使用する前に撹拌を行うことで、高かった粘度が適度な値に低下して、取扱性が向上することが知られている。
このような撹拌対象物を撹拌する撹拌具としては、例えば、一斗缶等の容器に入れられた状態の撹拌対象物を対象として、容器の狭い口から容器内に下端部の撹拌部を挿入して、容器内で撹拌できるように構成したものがあった(例えば、特許文献1参照)。
具体的には、図6に示すように、縦軸芯Z周りに回転自在な回転駆動軸2と、その回転駆動軸2の下端部に一体に備えた撹拌部3(通常時は小径の状態)とを設けて構成され、狭い口から容器V内に撹拌部3を挿入すると共に、電動回転工具Kによって回転駆動軸2を回転させることで、撹拌部3が遠心力で拡径して撹拌対象物1を撹拌するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−280700号公報(図1〜4)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した従来の撹拌具によれば、撹拌に伴って撹拌対象物の粘度が低下する過程で、回転駆動軸の外周面に付着する撹拌対象物が、軸に沿って螺旋を描きながら引っ張り上げられ、やがて遠心力によって周囲に飛散することが確認された。
この飛散現象は、一斗缶のような口の狭い容器内で発生しても、飛散した撹拌対象物が容器の外に漏れることはないから殆ど問題になることはない。
しかしながら、撹拌対象物を上部開口が広い容器に移した状態で撹拌を実施するような場合には、回転駆動軸に沿って上昇して周囲に飛散する撹拌対象物が、容器の上部開口から外方に飛び出る虞があり、周囲を汚すと共に、飛び出た材料のロスによってコストアップにつながる問題点がある。
【0005】
従って、本発明の目的は、上記問題点を解消し、上部開口が広い容器内で撹拌を実施しても撹拌対象物が飛散し難い撹拌具を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の特徴構成は、チクソ性を備えた撹拌対象物を撹拌する撹拌具であって、
縦軸芯周りに回転自在な回転駆動軸と、
前記回転駆動軸の下端部に一体に備えた撹拌部とを設け、
前記回転駆動軸に対する回転駆動力を前記撹拌対象物の表面を下方に押圧する押圧力に変換する傾斜部を、前記回転駆動軸の上下中間部に設けてあるところにある。
【0007】
本発明の第1の特徴構成によれば、傾斜部を回転駆動軸の上下中間部に設けてあるから、撹拌具を容器内の撹拌対象物に浸す際に、傾斜部を撹拌対象物の液面部分に簡単に位置させることができる。
そして、傾斜部を撹拌対象物の液面部分に位置させた状態で回転駆動軸を縦軸芯周りに回転駆動させると、その回転駆動力が、傾斜部によって撹拌対象物の表面を下方に押圧する押圧力に変換される。
従って、回転駆動軸の外周面に沿って撹拌対象物が引っ張り上げられるのを、傾斜部による下方への押圧力によって防止することができる。
その結果、撹拌に伴う撹拌対象物の飛散を防止できるようになり、上が大きく開放した容器内で撹拌対象物を撹拌しても、周りへ飛散し難い状態で綺麗に撹拌することができる。
即ち、容器の種類に拘わらず、飛散し難い状態で撹拌対象物の撹拌を実施できるようになる。
【0008】
本発明の第2の特徴構成は、前記傾斜部は、前記回転駆動軸の上下中間部を前記縦軸芯を中心にした螺線形状に形成して構成してあるところにある。
【0009】
撹拌対象物の飛散を防止することを叶える比較例としては、例えば、図3に示すように、回転駆動軸2の上下中間部に円錐形の傘部20を設け、傘部20の裏面部分で飛散する撹拌対象物を遮蔽して容器外に飛び出すのを防止するものが考えられるが、この場合は、構成部品として、回転駆動軸2の他に傘部20が必要となり、部材コストや製作コストが高くなる問題点や、回転駆動軸2から飛散して傘部20の裏面部分に付着した撹拌対象物を、使用後に除去する手間がかかる等の問題点が考えられる。
本発明の第2の特徴構成によれば、回転駆動軸となる軸部材を、単に螺旋形状に加工するだけの簡単な形状によって傾斜部を構成できるから、製作コストの低減を図ることができる。
また、形状が簡単であるから、撹拌後に付着した撹拌対象物を除去する際に簡単に実施し易く、メンテナンス性の向上を図ることができる。
【0010】
本発明の第3の特徴構成は、前記傾斜部は、部材横断面形状が円形の前記回転駆動軸で構成してあるところにある。
【0011】
本発明の第3の特徴構成によれば、回転駆動軸部材の断面形状が円形断面であるから、回転駆動軸の外周面に尖った部分が無く、更には、表面積を矩形断面のものに比べて小さくできるから、撹拌対象物が傾斜部表面にまとわり付き難くでき、液上がりやそれに伴う液飛散をより防止しやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】撹拌具の使用状況を示す側面視説明図
【図2】傾斜部の作用を示す要部説明図
【図3】比較例の撹拌具の使用状況を示す側面視断面図
【図4】別実施例の傾斜部を示す要部説明図
【図5】別実施例の傾斜部を示す要部説明図
【図6】従来の撹拌具の使用状況を示す斜視図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。尚、図面において従来例と同一の符号で表示した部分は、同一又は相当の部分を示している。
【0014】
図1は、本発明の撹拌具の一実施形態品を示すもので、この撹拌具Mは、例えば、塩化ビニル樹脂系シール剤を撹拌対象物1として撹拌を実施するものである。
前記撹拌対象物1は、温度が一定の状態では、撹拌力を作用させると見掛粘度が小さくなり、静止すると粘度が大きくなる流動特性(チクソ性)を有している。
【0015】
撹拌具Mは、縦軸芯Z周りに回転自在な回転駆動軸2と、その回転駆動軸2の下端部に一体に備えた撹拌部3とを設けて構成してある。
また、回転駆動軸2の上端部は、電動回転工具Kへの取付部4として構成されている。
回転駆動軸2の上下中間部には、回転駆動軸2に対する回転駆動力を撹拌対象物1の表面を下方に押圧する押圧力に変換する傾斜部5が形成されている。
【0016】
回転駆動軸2は、断面形状が円形の金属棒によって構成してある。
【0017】
撹拌部3は、回転駆動軸2の金属棒を三角形となるように屈曲加工して構成されている。
三角形は、底辺が縦軸芯Zに直交し、図形の中心が縦軸芯Z上に位置するように形成されている。
回転駆動軸2を縦軸芯Z周りに回転させることで、撹拌部3の金属棒の表面で撹拌対象物1を掻き回し、その撹拌作用によって撹拌対象物1の粘度を低下させることができる。
【0018】
取付部4は、その横断面形状を、電動回転工具Kの撹拌具装着筒部Kaの内空断面に合わせた多角形形状(例えば、六角柱形状)として構成してある。
従って、取付部4を電動回転工具Kの撹拌具装着筒部Kaに挿入することで両者が嵌合し、縦軸芯Z周りの回転駆動力が電動回転工具Kから取付部4を介して撹拌具Mに伝達することができる。
【0019】
前記傾斜部5は、回転駆動軸2を構成する金属棒の上下中間部を縦軸芯Zを中心にした螺線形状に屈曲加工して構成してある。
螺旋の巻方向は、螺旋部分の金属棒下面の傾斜面5aが、縦軸芯Z周りの回転駆動軸2の回転方向に対して昇り勾配となるように設定されている。
従って、図2に示すように、回転駆動軸2の回転に伴って、前記傾斜面5aは、水平方向に沿って作用する回転駆動力Xを、傾斜面5aの垂線方向の押圧力X1に変換して撹拌対象物1に作用させることができる。即ち、撹拌対象物1に作用する前記押圧力X1によって撹拌対象物1の表面を下方側に押圧し、撹拌対象物1が回転駆動軸2に沿って上昇するのを防止することができる。その結果、撹拌対象物1が回転駆動軸2の周囲に飛散することを防止できる。
【0020】
本実施形態の撹拌具Mによれば、図1に示すように、螺旋形状の傾斜部5が、容器Vに入れた撹拌対象物1の表面を挟んだ上下に位置する状態に配置し、傾斜面5aによって撹拌対象物1の表面を下方に押圧する方向に回転駆動させることで、撹拌対象物1の飛散を防止しながら撹拌することができる。
従って、撹拌対象物1の容器の形状に拘わらず、周囲を撹拌対象物1で汚さない状態に撹拌を実施できる。
更には、撹拌具Mの使用後は、回転駆動軸2に付着した撹拌対象物1を螺旋形状に沿って簡単に拭き取ることができる。
また、全体的に簡単な構造であるから、製作コストの低減化を図れると共に、メンテナンス性も向上する。
【0021】
〔別実施形態〕
以下に他の実施の形態を説明する。
【0022】
〈1〉 撹拌対象物1は、先の実施形態で説明したものに限るものではなく、塩化ビニル樹脂系シール剤以外のものであってもよい。要するに、撹拌に伴って撹拌対象物の粘度が変化する過程で、回転駆動軸の外周面に対する付着が強くなり、回転駆動軸周りに撹拌対象物が上がり易い性質を備えたものが対象となる。
〈2〉 撹拌部3は、先の実施形態で説明した三角形の形状に構成されたものに限るものではなく、撹拌対象物を撹拌できる機能を備えておればよく、他の形状を採用することも可能である。
〈3〉 傾斜部5は、先の実施形態で説明した回転駆動軸2を構成する断面円形の棒部材を螺旋形状に形成した構成に限るものではなく、例えば、図4に示すように、螺旋形状の部分を、偏平な帯板部材で構成するものであってもよい。
また、図5に示すように、回転駆動軸2の上下中間部を、スクリュー形状に形成した傾斜部5で構成することも可能である。この場合は、スクリューの下面の傾斜面5aによって撹拌対象物1を下方へ押圧することができる。
〈4〉 回転駆動軸2は、先の実施形態で説明した金属材によって形成されるものに限るものではなく、例えば、合成樹脂によって構成してあってもよい。
【0023】
尚、上述のように、図面との対照を便利にするために符号を記したが、該記入により本発明は添付図面の構成に限定されるものではない。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0024】
1 撹拌対象物
2 回転駆動軸
3 撹拌部
5 傾斜部
Z 縦軸芯

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チクソ性を備えた撹拌対象物を撹拌する撹拌具であって、
縦軸芯周りに回転自在な回転駆動軸と、
前記回転駆動軸の下端部に一体に備えた撹拌部とを設け、
前記回転駆動軸に対する回転駆動力を前記撹拌対象物の表面を下方に押圧する押圧力に変換する傾斜部を、前記回転駆動軸の上下中間部に設けてある撹拌具。
【請求項2】
前記傾斜部は、前記回転駆動軸の上下中間部を前記縦軸芯を中心にした螺線形状に形成して構成してある請求項1に記載の撹拌具。
【請求項3】
前記傾斜部は、部材横断面形状が円形の前記回転駆動軸で構成してある請求項2に記載の撹拌具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−250196(P2012−250196A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−125574(P2011−125574)
【出願日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(000178619)アーキヤマデ株式会社 (39)
【Fターム(参考)】