説明

撹拌混合装置

【課題】流体や粉体を撹拌混合でき且つケーシングの内部空間の密閉性を向上できる撹拌混合装置を提供すること。
【解決手段】撹拌混合装置10は、内部に流路21を有するケーシング20と、このケーシング20内部に配置された軸部31及びこの軸部31の周囲に設けられた撹拌羽根32を有する撹拌体30と、を備える。撹拌体30には円板状の板磁石33が固着されており、撹拌混合装置10は、板磁石33に磁場の印加をするステータ40と、このステータ40の段部41a〜41cに電流を供給する電源51と、を更に備える。軸部31は、全体がケーシング20内部に格納され、電源からの電流が段部41a〜41cに順次供給されると、磁場の変化に伴って撹拌体30がケーシング20内部を運動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体又は粉体を撹拌し混合する撹拌混合装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ケーシング外部に配置された振動モータに連結された撹拌体を、ケーシング内部で上下振動させることで、流体や粉体の撹拌混合を行う装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図15は、このような従来例に係る撹拌混合装置90の概略構成を示した図である。
撹拌混合装置90は、内部に流路を有するケーシング91を有し、このケーシング91の内部には撹拌体95が配置されている。この撹拌体95の振動軸93の周囲には螺旋状の撹拌羽根94が設けられている。
【0004】
また、ケーシング91の上壁には振動軸93が嵌合可能な嵌合孔96が形成されており、この嵌合孔96を介して、振動軸93がケーシング91外部へと延出している。そして、振動軸93は、ケーシング91外部に配置された振動モータ92に連結されている。
【0005】
このような撹拌混合装置90によれば、振動軸93を振動モータ92に連結したので、振動モータ92を駆動すると、振動軸93の振動に伴って、撹拌体95がケーシング91内で上下動し、流体や粉体を撹拌混合できる。
【特許文献1】特開平10−328547号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前述した撹拌混合装置によれば、ケーシングに嵌合孔を形成したので、この嵌合孔を完全には閉塞しきれずに、ケーシングの内部空間の密閉性が不充分となる場合があった。
【0007】
これにより、撹拌混合された流体や粉体がケーシング外部へと漏出したり、外部環境からの汚染物質が侵入したりといった問題が発生するおそれがある。
【0008】
本発明は、以上のような問題に鑑みてなされたものであり、流体や粉体を撹拌混合でき且つケーシングの内部空間の密閉性を向上できる撹拌混合装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、撹拌体に有磁部を設け、この有磁部を磁場の変化で移動させることで、振動軸をケーシング外部の振動源へと連結することなく、撹拌体をケーシング内部で運動させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
(1) 内部に流路を有するケーシングと、このケーシング内部に配置され軸方向に往復運動可能な軸部及びこの軸部の周囲に設けられた撹拌羽根を有する撹拌体と、を備える撹拌混合装置であって、前記撹拌体には、有磁性部材で形成された有磁部が固着されており、前記撹拌混合装置は、前記有磁部に対して磁場の印加をするとともに、この磁場の変化をさせる磁場誘導手段を更に備え、前記軸部は、全体が前記ケーシング内部に格納され、前記磁場誘導手段による磁場の変化に伴って前記撹拌体が前記ケーシング内部を運動する撹拌混合装置。
【0011】
(1)の発明によれば、撹拌体が磁場誘導手段による磁場の変化に伴ってケーシング内部を運動するので、これにつれて、撹拌体の撹拌羽根もケーシング内部を運動する。このため、ケーシング内部で流体や粉体の渦流が発生され、流体や粉体を撹拌混合できる。
【0012】
しかも、磁場誘導手段により撹拌体を運動させるので、軸部をケーシング外部へと延出させて、ケーシング外部に配置された振動源に連結する必要がなく、軸部の全体をケーシング内部に格納できる。これにより、ケーシングの壁に嵌合孔を形成する必要がないので、ケーシングの内部空間の密閉性を向上できる。
【0013】
「磁場の変化」の形式は、撹拌体を移動可能である限りにおいて、特に限定されないが、例えば、磁場の位置、強度、方向等を変化させてよい。
【0014】
(2) (1)記載の撹拌混合装置において、前記磁場誘導手段による磁場の変化は、前記有磁部を前記撹拌体の軸方向に振動させるものである撹拌混合装置。
【0015】
(2)の発明によれば、有磁部が撹拌体の軸方向に振動されるので、有磁部が固着された撹拌体の撹拌羽根も軸方向にケーシング内部を運動する。このため、ケーシング内部で流体や粉体の強力な渦流が発生されるから、流体や粉体を均一且つ迅速に撹拌混合できる。
【0016】
(3) (1)又は(2)記載の撹拌混合装置において、前記ケーシングは、磁場を透過させる無磁性部材で形成され、前記磁場誘導手段は、前記ケーシングの外部に配置された撹拌混合装置。
【0017】
ケーシング内部では、撹拌体の運動により流体や粉体の渦流が発生するため、ケーシング内部に配置された構成要素の消耗が懸念される。そこで、(3)の発明によれば、磁場誘導手段をケーシング外部に配置したので、磁場誘導手段の消耗を抑制できる。
【0018】
しかも、ケーシングを無磁性部材で形成したので、ケーシング外部の磁場誘導手段により生成された磁場が、ケーシングを透過し、内部の有磁部に印加される。よって、この磁場を磁場誘導手段により変化させることで、有磁部を運動させることができ、更に、運動の方向をケーシングの軸方向に設定することで、流体や粉体を撹拌混合できる。
【0019】
(4) (1)から(3)いずれか記載の撹拌混合装置において、前記撹拌体の運動を所定領域に限定する運動限定手段を更に備える撹拌混合装置。
【0020】
(4)の発明によれば、運動限定手段を設けたので、撹拌体の運動が所定領域に限定される。このため、移動する撹拌体がケーシング内壁に接近するのが妨害されるため、衝突を予防でき、消耗や不具合の発生を抑制できる。
【0021】
(5) (4)記載の撹拌混合装置において、前記運動限定手段は、前記有磁部の前記永久磁石と同極同士が対向するように配置された永久磁石で形成された磁気的限定手段を備える撹拌混合装置。
【0022】
(5)の発明によれば、磁気的限定手段を設けたので、有磁部が接近すると、同極同士が反発して、接近を阻害する。これにより、移動する撹拌体がケーシング内壁に接近するのが妨害されるため、衝突を予防でき、消耗や不具合の発生を抑制できる。
【0023】
なお、運動限定手段は、接近を阻害するように付勢する部材である限りにおいて限定されず、磁気的限定手段の他、バネ部材であってもよい。しかし、磁気的限定手段は、永久磁石で形成されているので、運動を限定する作用の消耗を抑制できる点でより好ましい。
【0024】
(6) (5)記載の撹拌混合装置において、前記磁気的限定手段は、前記有磁部を前記撹拌体の軸方向に共振させるものである撹拌混合装置。
【0025】
(6)の発明によれば、撹拌体が軸方向に共振するので、撹拌体の運動速度が上昇し、流体や粉体の混合撹拌効率をより向上できる。
【0026】
(7) (1)から(6)いずれか記載の撹拌混合装置において、前記撹拌体が所定領域を運動するように、前記磁場誘導手段を制御する領域調整手段を更に備える撹拌混合装置。
【0027】
(7)の発明によれば、領域調整手段を設けたので、磁場誘導手段が制御されて撹拌体が所定領域を運動し、これにつれて、撹拌体の撹拌羽根も所定領域を運動する。このため、所定領域を適宜設定することで、流体や粉体が撹拌混合される程度を調節できる。
【0028】
ここで、「所定領域」は、流体や粉体を所望の程度に撹拌混合できるよう、撹拌体が運動する必要がある領域を指す。即ち、要求される撹拌混合の程度に応じ、流体や粉体の組成、量及び粘度、並びに、撹拌体及びケーシングの形状等を考慮して、適宜設定されてよい。なお、「所定領域」を狭く設定しすぎると、一般に撹拌混合の程度が不充分となる一方、広く設定しすぎると、移動する撹拌体がケーシング内壁に衝突することで、消耗や不具合が生じる場合がある点を考慮することが好ましい。
【0029】
(8) (7)記載の撹拌混合装置において、前記磁場誘導手段は、前記ケーシングを介して前記有磁部と対向配置されたステータを有し、このステータは、前記有磁部に向かって突出し且つ前記撹拌体の軸方向に沿って配置された複数の段部を有し、これら段部の各々には、電源に電気的に接続及び遮断可能に連通された電線が巻回され、前記段部同士の間隔は、前記有磁部同士の間隔と異なり、前記領域調整手段は、互いに隣り合う複数個の前記段部を往復単位とし、前記電源に電気的に接続される前記電線を順次切り換え、この電線が巻回され電磁石化される段部を、各往復単位の中で往復させる印加往復手段を備える撹拌混合装置。
【0030】
(8)の発明によれば、電磁石化した段部が有磁部を引き寄せ又は遠ざけ、これに伴って、有磁部が運動する。ここで、印加往復手段が電磁石化する段部を往復単位の中で往復させるので、往復単位の幅を適宜設定することで、有磁部及びこの有磁部が固着された撹拌体が運動する範囲が所定領域に調節される。
このように、電源に電気的に接続される電線を順次切り換えるだけで、撹拌体が運動する範囲を調節できるため、構造を簡素化できる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、撹拌体が磁場誘導手段による磁場の変化に伴ってケーシング内部を運動するので、これにつれて、撹拌体の撹拌羽根もケーシング内部を運動する。このため、ケーシング内部で流体や粉体の渦流が発生されるから、流体や粉体を撹拌混合できる。
【0032】
しかも、磁場誘導手段により撹拌体を運動させるので、軸部をケーシング外部へと延出させて、ケーシング外部に配置された振動源に連結する必要がなく、軸部の全体をケーシング内部に格納できる。これにより、ケーシングの壁に嵌合孔を形成する必要がないので、ケーシングの内部空間の密閉性を向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、第1実施形態以外の各実施形態の説明において、第1実施形態と共通するものについては、同一符号を付し、その説明を省略する。
【0034】
<第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態に係る撹拌混合装置10の概略構成図である。図2は、撹拌体30を構成する撹拌羽根32の形状を示す要部拡大図である。図3は、軸部31及び軸受25の拡大分解斜視図である。図4は、撹拌混合装置10のブロック図である。
【0035】
図1に示されるように、本実施形態に係る撹拌混合装置10は、内部に流路21を有するケーシング20と、このケーシング20の内部に配置された撹拌体30と、ケーシング20の外部に配置されたステータ40と、このステータ40に接続された磁場変化部50と、を備える。これらステータ40及び磁場変化部50は、磁場誘導手段を構成する。
【0036】
[ケーシング]
ケーシング20は、無磁性部材(例えば、オーステナイト系ステンレス SUS304等)で形成された筒状体であり、内部空間が仕切り板22により仕切られることで、複数の撹拌室23a〜23d及び振動室24が形成されている。また、仕切り板22の中央には挿通孔221が形成されるとともに、ケーシング20の上下壁の中央には軸受25a、25bがそれぞれ設けられている。
【0037】
また、撹拌室23aには導入口26が形成され、この導入口26を介して、導入口26に連通する供給路261から供給された流体が導入される。一方、撹拌室23dにはフィルタ231が設けられており、このフィルタ231で流体はろ過され、未溶解物又は未溶融物が除去される。また、撹拌室23dには、フィルタ231によって被覆された排出口232も設けられており、フィルタ231でろ過された流体は排出口232から排出される。
【0038】
ここで、導入される流体は、液体、気体、超臨界液体等あらゆるものであってよい。なお、本実施形態では、流体が導入される構成としたが、これに限られず、粉体であってもよい。
【0039】
図4に示されるように、ケーシング20には、撹拌体30の位置を検出する位置検出部62と、撹拌体30の移動時間を計測する計時部63が設けられている。これら位置検出部62及び計時部63は、後述する制御部61に接続されている。
【0040】
[撹拌体]
撹拌体30は、棒状の軸部31を有し、この軸部31の周囲には、螺旋状の撹拌羽根32(螺旋羽根)と、有磁部を形成する円板状の板磁石33が設けられている。これら板磁石33は、撹拌体30に固着された永久磁石である。図4に示されるように、本実施形態では、板磁石33は9個設けられ、互いに間隔hを空けて配置されている。なお、説明の便宜上、図4の上側から順に、板磁石33a、33b、33c、33d、33a、33b、33c、33d、33aとする。
【0041】
また、軸部31は、挿通孔221に挿通されるとともに、上下端が軸受25a、25bに摺動可能に支持されている。これにより、撹拌羽根32は撹拌室23a〜23cの各々に配置され、板磁石33は振動室24に配置され、軸部31はケーシングの軸方向に往復運動可能となっている。
【0042】
図2に示されるように、撹拌羽根32には、流体が流通可能な流通孔321が複数形成されており、これら流通孔321は、互いに重ならない位置に形成されている。
【0043】
軸部31の周囲には、板状の板磁石33が設けられている。この板磁石33は、振動室24に配置され、本実施形態ではS極がステータ40側に位置している。
【0044】
一方、撹拌体30を構成する軸部31及び撹拌羽根32は、磁性を有しない無磁性部材で形成されている。これにより、磁場変化部50による撹拌体30の移動は、板磁石33の移動に依存することになる。
【0045】
図3に示されるように、軸部31は、略円柱状の軸本体部311の外周の四方から、凸部312が突出した構成を備える。一方、軸受25a及び25bには、軸部31の断面と略同じ形状の嵌合穴253が形成されている。具体的には、軸受25a及び25bの各々は、筒状の軸受本体部251の内壁の四方に設けられ、凸部312に対応する凹部252を有する。これにより、軸部31は、軸受25a及び25bに対して、摺動可能且つ回転不能に支持されている。このため、軸部31の周囲に設けられた板磁石33は、S極が、常にステータ40側に位置するように、配置されることとなる。即ち、凸部312及び凹部252は、軸部31の回転を抑制する回転抑制手段を構成する。
【0046】
[ステータ]
振動室24の外部にはステータ40が配置され、このステータ40は、ケーシング20を介して板磁石33に対向している。また、ステータ40は、有磁部に向かって突出する7個の段部41を有し、これら段部41は、撹拌体30の軸方向に沿って配置されている。段部41の各々には電線42が巻回され、これら電線42は、電源51に電気的に接続及び遮断可能に連通されている。
【0047】
図4に示されるように、段部41は7個で構成され、互いに間隔hを空けて配置されている。段部41は、互いに隣り合う3個を往復単位とし、各往復単位には、図4の上側から順に段部41a、41b、41cが属する。
【0048】
なお、本実施形態では、各往復単位を3個の段部41a、41b、41cで構成したが、これに限られず、撹拌体30が往復運動することを意図する幅にあわせて、適宜の個数で構成すればよい。換言すれば、撹拌体30の往復運動の幅を種々変更できる点で、ステータ40は段部41を少なくとも3個備えていることが好ましいことになる。
【0049】
間隔hと間隔hとは互いに異なっており、例えば間隔hが20mm、間隔hが15mmである。これにより、板磁石33のいずれかが段部41と正対したときに、他の板磁石33は段部41のいずれとも正対しないことになる。
【0050】
[磁場変化部]
磁場変化部50は、電源51と、変圧部52と、切換部53と、を備える。電源51から供給される電流は、変圧部52で変圧される。そして、電線42a〜42cのうち、切換部53で電気的に接続された電線へと流通される。
【0051】
なお、変圧部52としては、例えば、公知のインバータ等が使用できる。また、本実施形態では、電源51から変圧部52を経て切換部53へと電流が流れる構成としたが、電源51から切換部53を経て変圧部52へと電流が流れる構成としてもよい。
【0052】
変圧部52によって、電流の電圧(例えば、実効電圧)が増加されると、ステータ40から板磁石33に印加される磁場が強くなるため、板磁石33の移動速度が上昇する一方、低下されると、ステータ40から板磁石33に印加される磁場が弱くなるため、板磁石33の移動速度が下降する。
【0053】
切換部53は、電線42a〜42cの中から1つを選択し、電源51と電気的に接続する。ここで、例えば、電線42aを選択した場合、3個の電線42aのすべてが電源51へと接続される。
【0054】
このような撹拌混合装置10の動作を、図5を参照しながら説明する。
【0055】
まず、供給路261から供給された流体が導入口26を介して撹拌室23aに導入される。
【0056】
ここで、切換部53が、電源51から電線42aへと電流を供給する。すると、電線42aが巻かれている向きに依存して、段部41aの一端側がN極、他端側がS極となる。本実施形態では、図5に示されるように、段部41aの先端側がN極となり、基端側がS極となっている。これにより、板磁石33aの各々は段部41aと正対するとともに、板磁石33b〜33dの各々は段部41のいずれとも正対していない。
【0057】
続いて、図6に示されるように、切換部53が、電線42aへの電流の供給を停止するとともに、電線42aへの電流の供給を開始する。すると、段部41bの先端側がN極となり、基端側がS極となる。これにより、板磁石33bの各々が段部41bへと引き寄せられて正対し、その過程で、撹拌体30がその軸方向(図6における下方向)へと運動させられる。このとき、板磁石33a、33c、33dの各々は段部41のいずれとも正対していない。
【0058】
次に、図7に示されるように、切換部53が、電線42bへの電流の供給を停止するとともに、電線42cへの電流の供給を開始する。すると、段部41cの先端側がN極となり、基端側がS極となる。これにより、板磁石33cの各々が段部41cへと引き寄せられて正対し、その過程で、撹拌体30がその軸方向(図7における下方向)へと運動させられる。このとき、板磁石33a、33b、33dの各々は段部41のいずれとも正対していない。
【0059】
この動作を逆の順序で行う、即ち、電線42c、42b、42aへと電流を順次供給することで、撹拌体30が反対方向(図4〜図7における上方向)へと運動させられる。
【0060】
以上の動作を反復することで、板磁石33が、段部41a〜41cの幅(即ち、hの2倍)で振動室24内を往復運動する。これにつれて撹拌体30の撹拌羽根32がケーシング20内を往復運動することで、流体に渦流が発生して、流体が撹拌混合される。
【0061】
このようにして、流体は、流通孔321を通過しながら、撹拌混合され、撹拌室23b、23cへと順次移動した後、撹拌室23dへと流れる。撹拌室23dへ流れた流体は、フィルタ231でろ過され、未溶解物又は未溶融物が除去された後、供給路261を介して排出される。
【0062】
[制御装置]
本実施形態に係る撹拌混合装置10は、任意の構成要素として、制御装置60を更に備える。
【0063】
図8は、制御装置60のブロック図である。図8に示されるように、制御装置60は、制御部61と、位置検出部62と、計時部63と、を備える。
【0064】
位置検出部62は、撹拌体30の位置を検出し、制御部61へ送信する。ここで、位置検出部62は、例えば、撹拌体30の定点の初期位置と、ある時点における撹拌体30の定点の位置と、の間の距離を連続的に検出することで、撹拌体30の位置を検出する。一方、計時部63は、撹拌体30の移動時間を計測し、制御部61へ送信する。
【0065】
制御部61は、移動領域特定手段としての移動領域特定部611と、移動速度算出手段としての移動速度算出部612と、領域調整手段としての領域調整部613と、速度調整手段としての速度調整部614と、を有する。
【0066】
移動領域特定部611は、位置検出部62で検出された撹拌体30の位置に基づいて、撹拌体30の移動領域を特定する。例えば、撹拌体30の定点の初期位置と、ある時点における撹拌体30の定点の位置と、の間の最大距離決定し、この最大距離以下の距離だけ初期位置から離れた位置の集合を、撹拌体30の移動領域として特定する。
【0067】
領域調整部613は、移動領域特定部611で特定された移動領域に基づいて、撹拌体30が所定領域を往復運動するように、ステータ40及び磁場変化部50を制御する。具体的には、予め設定された設定領域(所定領域の一例)に比べて、撹拌体30の移動領域が広い又は狭い場合には、変圧部52に電圧を変化させる且つ/又は切換部53に切換速度を変化させて、板磁石33の移動領域を調整することを通じて、撹拌体30の移動領域を設定領域に適合させる。
【0068】
移動速度算出部612は、位置検出部62で検出された撹拌体30の位置及び計時部63で検出された移動時間に基づいて、板磁石33の移動速度を算出する。具体的には、連続的に検出される撹拌体30の位置に基づいて、撹拌体30の移動距離を算出し、この移動距離を移動時間で除すことで、撹拌体30の移動速度を算出する。
【0069】
速度調整部614は、移動速度算出部612で算出された移動速度に基づいて、板磁石33が所定速度で往復運動するように、磁場変化部50を制御する。具体的には、予め設定された設定速度(所定速度の一例)に比べて、移動速度が高い又は低い場合には、変圧部52に電圧を変化させて、板磁石33の移動速度を調整することを通じて、撹拌体30の移動速度を設定速度に適合させる。
【0070】
ここで、「所定速度」は、流体や粉体を所望の程度に撹拌混合できるよう、撹拌体が移動する必要がある速度を指す。即ち、要求される撹拌混合の程度に応じ、流体や粉体の組成、量及び粘度、並びに、撹拌体及びケーシングの形状等を考慮して、適宜設定されてよい。なお、「所定速度」を低く設定しすぎると、一般に撹拌混合の程度が不充分となる一方、高く設定しすぎると、装置の稼動コストが嵩むとともに、流体や粉体が変質するおそれがある点を考慮することが好ましい。
【0071】
図9は、制御装置60のメインフローチャートである。この図9に基づいて、以上の制御装置60の動作を説明する。
【0072】
まず、位置検出部62が撹拌体30の位置を検出し(ST1)、検出された撹拌体30の位置に基づいて、移動領域特定部611が撹拌体30の移動領域を特定する(ST2)。続いて、領域調整部613は、撹拌体30の移動領域の調整を行う(ST3)。ST3の具体的手順について、図10を参照しながら説明する。
【0073】
まず、領域調整部613は、撹拌体30の移動領域が設定領域より狭いか否かを判別する(ST31)。この判別が“YES”であった場合、領域調整部613は、変圧部52に電流の切換速度を低減させる且つ/又は切換部53に電流の電圧を増加させる制御を行った(ST32)後、ST31へと戻る。
【0074】
一方、ST31での判別が“NO”であった場合、領域調整部613は、撹拌体30の移動領域が設定領域より広いか否かを判別する(ST33)。この判別が“YES”であった場合、領域調整部613は、変圧部52に電流の切換速度を増加させる且つ/又は切換部53に電流の電圧を低減させる制御を行った(ST34)後、ST33へと戻る。一方、ST33での判別が“NO”であった場合、ST4の処理へと移る。
【0075】
ST4では、移動速度算出部612が、位置検出部62で検出された撹拌体30の位置及び計時部63で検出された移動時間に基づいて、撹拌体30の移動速度を算出する。続いて、速度調整部614は、撹拌体30の移動速度の調整を行う(ST5)。ST5の具体的手順について、図11を参照しながら説明する。
【0076】
まず、速度調整部614は、撹拌体30の移動速度が設定速度の下限値より低いか否かを判別する(ST51)。この判別が“YES”であった場合、速度調整部614は、切換部53に電圧を増加させた(ST52)後、ST51へと戻る。
【0077】
一方、ST51での判別が“NO”であった場合、速度調整部614は、撹拌体30の移動速度が設定速度の上限値より高いか否かを判別する(ST53)。この判別が“YES”であった場合、速度調整部614は、変圧部52に電圧を低減させた(ST54)後、ST53へと戻る。一方、ST53での判別が“NO”であった場合には、再びST1へと戻って、ST1〜ST5を繰り返す。
【0078】
[作用効果]
本実施形態によれば、以下のような作用効果が得られる。
【0079】
磁場変化部50による磁場の変化に伴って、板磁石33がケーシング20内部を撹拌体30の軸方向に往復運動するので、板磁石33が固着された撹拌体30の撹拌羽根32もケーシング20内部を往復運動する。このため、ケーシング20内部で流体の渦流が強力に発生され、流体を均一且つ迅速に撹拌混合できる。
【0080】
ステータ40及び磁場変化部50により撹拌体30を運動させるので、軸部31をケーシング20外部に配置された振動源に連結する必要がなく、軸部31の全体をケーシング20内部に格納できる。これにより、ケーシング20の壁に嵌合孔を形成する必要がないので、ケーシング20の内部空間の密閉性を向上できる。これにより、撹拌混合装置10は、高度の密閉性が要求される、超臨界液体や生物学的材料を含む種々の物質の撹拌混合に適用できることになる。
【0081】
ステータ40及び磁場変化部50をケーシング20の外部に配置したので、ステータ40及び磁場変化部50の消耗を抑制できる。しかも、ケーシング20を無磁性部材で形成したので、ケーシング20外部のステータ40により生成された磁場が、ケーシング20内部の板磁石33に印加される。よって、この磁場を磁場変化部50により変化させることで、板磁石33を運動させることができ、更に、運動の方向をケーシング20の軸方向に設定することで、流体や粉体を撹拌混合できる。
【0082】
領域調整部613を設けたので、撹拌体30が設定領域を往復運動することを通じて、撹拌羽根32が設定領域を往復運動する。よって、流体が撹拌混合される程度を調節できる。
【0083】
速度調整部614を設けたので、撹拌体30が設定速度で往復運動することを通じて、撹拌羽根も所定速度で往復運動する。よって、流体が撹拌混合される程度を調節できる。
【0084】
ケーシング20の内部空間を仕切って撹拌室23a〜23dを形成したので、流体が狭小な各撹拌室23a〜23dにおいて混合撹拌される。このため、流体が迅速且つ充分に撹拌混合されるから、均一に溶解又は溶融された撹拌混合物を迅速に得ることができる。
【0085】
撹拌羽根32の互いに重ならない位置に流通孔321を形成したので、撹拌混合されながら流通する流体の流れが複雑化される。このため、流体が充分に撹拌混合されるから、均一に溶解又は溶融された撹拌混合物を得ることができる。
【0086】
凸部312及び凹部252を設けたので、軸部31の回転が抑制されて、板磁石33のN極/S極配置の変化が抑制される。このため、板磁石33のS極がステータ40側に位置する状態が保持されるから、ステータ40に供給される電流を調節することで、板磁石33を意図通りに移動できる。
【0087】
<第2実施形態>
図12は、本発明の第2実施形態に係る撹拌混合装置10Aの概略構成図である。本実施形態では、撹拌体30Aの構成が第1実施形態と異なる。
【0088】
即ち、撹拌体30Aは、永久磁石で形成された内接近妨害部27’a、27’bを更に備え、これら内接近妨害部27’a、27’bの各々は、軸部31の両端近傍に固着されている。一方、ケーシング20の外部には、同じく永久磁石で形成された外接近妨害部27a、27bが配置されており、これら外接近妨害部27a、27bの各々は、ケーシング20を挟んで内接近妨害部27’a、27’bに対向している。
【0089】
内接近妨害部27’a、27’bと、外接近妨害部27a、27bとは、同極が対向するように配置されており、本実施形態では、互いのN極が対向している。これにより、撹拌体30の運動に伴って内接近妨害部27’a、27’bが、外接近妨害部27a、27bに接近すると、N極同士が反発し、内接近妨害部27’a、27’bが反接近方向へと付勢される。このように、外接近妨害部27a、27bは、その磁気的な反発力から、仮想的なバネのように、撹拌体30の運動に共振を付与できる。
【0090】
内接近妨害部27’a、27’bは、板磁石33とともに有磁部を構成し、外接近妨害部27a、27bは磁気的制限手段を構成する。
【0091】
[作用効果]
本実施形態によれば、前述した第1実施形態による作用効果に加えて、以下のような作用効果が得られる。
【0092】
外接近妨害部27a、27bを設けたので、内接近妨害部27’a、27’bが接近すると、そのN極同士が反発して、接近を阻害する。これにより、移動する撹拌体30Aがケーシング20内壁に接近するのが妨害されるため、衝突を予防でき、消耗や不具合の発生を抑制できる。
【0093】
外接近妨害部27a、27bを永久磁石で形成したので、撹拌体30Aの運動範囲を限定する作用の消耗を抑制できる。
【0094】
撹拌体30Aがその軸方向に共振するので、撹拌体30Aの運動速度が上昇し、流体の混合撹拌効率をより向上できる。
【0095】
<第3実施形態>
図13は、本発明の第3実施形態に係る撹拌混合装置10Bの概略構成図である。本実施形態では、ケーシング20Bの構成において、第2実施形態と異なる。
【0096】
即ち、気的限定手段としての接近妨害部27Ba及び27Bbは、ケーシング20Bの内部に設けられ、仕切り板22への接近を妨害している。本実施形態においては、接近妨害部27Ba及び27Bbは、板磁石33の上下において仕切り板22に設けられている。
【0097】
より具体的には、接近妨害部27Baは、板磁石33aのS極の上下に設けられ、板磁石33aに対してS極を向けているのに対して、接近妨害部27Bbは、板磁石33aのN極の上下に設けられ、板磁石33に対してN極を向けている。これにより、接近妨害部27Ba及び27Bbは、板磁石33aの接近を妨害する。
【0098】
[作用効果]
本実施形態によれば、前述した第2実施形態と同様の作用効果が得られる。
【0099】
<第4実施形態>
図14は、本発明の第4実施形態に係る撹拌混合装置10Cの概略構成図である。本実施形態では、ケーシング20C及び撹拌体30Cの構造、並びにステータ40Cの構成において、第1実施形態と異なる。
【0100】
即ち、撹拌体30Cの板磁石33Cは、2個の板磁石33Ca、33Cbで構成され、これら板磁石33Ca、33Cbは、軸部31の両端近傍に固着されている。これに伴い、ケーシング20Cの内部は、複数の撹拌室23a〜23dが隣接して配置されている。なお、本実施形態では仕切り板22で仕切られた振動室24を設けてはいないが、ケーシング20Cの上下端部分に仕切り板で密閉された振動室を設けてもよい。
【0101】
また、ケーシング20Cの外部には、同じく永久磁石で形成されたステータ40Ca、40Cbが配置され、これらステータ40Ca、40Cbはそれぞれ振動モータ55a、55bに連結されている。これら振動モータ55a、55bは、互いに同調して駆動するように制御されている。これにより、振動モータ55a、55bを駆動すると、ステータ40Ca、40Cbが撹拌体30Cの軸方向に往復運動することになる。
【0102】
ここで、ステータ40Ca、40Cbの各々は、ケーシング20Cを挟んで板磁石33Ca、33Cbに対向し、それぞれの同極、本実施形態では、互いのN極が対向している。このため、振動モータ55a、55bでステータ40Ca、40Cbが移動すると、磁気的な反発力により、板磁石33Ca、33Cbが運動することになる。
【0103】
なお、本実施形態では、振動モータをステータ40Ca、40Cbの双方に連結する構成としたが、これに限られず、ステータ40Ca、40Cbのいずれか一方にのみ連結する構成であってもよい。
【0104】
[作用効果]
本実施形態によれば、前述した第1実施形態と同様の作用効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】本発明の第1実施形態に係る撹拌混合装置の概略構成図である。
【図2】前記実施形態に係る撹拌混合装置を構成する撹拌体の部分拡大図である。
【図3】前記実施形態に係る撹拌混合装置を構成する軸部の形状を示す分解斜視図である。
【図4】前記実施形態に係る撹拌混合装置のブロック図である。
【図5】前記実施形態に係る撹拌混合装置の動作における第1段階を示す図である。
【図6】前記実施形態に係る撹拌混合装置の動作における第2段階を示す図である。
【図7】前記実施形態に係る撹拌混合装置の動作における第3段階を示す図である。
【図8】前記実施形態に係る撹拌混合装置を構成する制御手段のブロック図である。
【図9】前記実施形態に係る撹拌混合装置を構成する制御手段のメインフローチャートである。
【図10】前記実施形態に係る撹拌混合装置を構成する制御手段のサブフローチャートである。
【図11】前記実施形態に係る撹拌混合装置を構成する制御手段のサブフローチャートである。
【図12】本発明の第2実施形態に係る撹拌混合装置の概略構成図である。
【図13】本発明の第3実施形態に係る撹拌混合装置の概略構成図である。
【図14】本発明の第4実施形態に係る撹拌混合装置の概略構成図である。
【図15】従来例に係る撹拌混合装置の概略構成図である。
【符号の説明】
【0106】
10、10A、10B、10C 撹拌混合装置
20、20A、20B、20C ケーシング
24、24B、24C 振動室
27、27B 接近妨害部(運動限定手段、磁気的限定手段)
27’ 内接近妨害部(有磁部)
30、30A、30C 撹拌体
32 撹拌羽根(螺旋羽根)
33、33C 板磁石(有磁部)
40、40C ステータ(磁場誘導手段)
41 段部
42 電線
50、50C 磁場変化部(磁場誘導手段)
51 電源
55 振動モータ(磁場誘導手段)
613 領域調整部(領域調整手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に流路を有するケーシングと、このケーシング内部に配置され軸方向に往復運動可能な軸部及びこの軸部の周囲に設けられた撹拌羽根を有する撹拌体と、を備える撹拌混合装置であって、
前記撹拌体には、永久磁石で形成された有磁部が固着されており、
前記撹拌混合装置は、前記有磁部に対して磁場の印加をするとともに、この磁場の変化をさせる磁場誘導手段を更に備え、
前記軸部は、全体が前記ケーシング内部に格納され、
前記磁場誘導手段による磁場の変化に伴って前記撹拌体が前記ケーシング内部を運動する撹拌混合装置。
【請求項2】
請求項1記載の撹拌混合装置において、
前記磁場誘導手段による磁場の変化は、前記有磁部を前記撹拌体の軸方向に振動させるものである撹拌混合装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の撹拌混合装置において、
前記ケーシングは、磁場を透過させる無磁性部材で形成され、
前記磁場誘導手段は、前記ケーシングの外部に配置された撹拌混合装置。
【請求項4】
請求項1から3いずれか記載の撹拌混合装置において、
前記撹拌体の運動を所定領域に限定する運動限定手段を更に備える撹拌混合装置。
【請求項5】
請求項4記載の撹拌混合装置において、
前記運動限定手段は、前記有磁部の前記永久磁石と同極同士が対向するように配置された永久磁石で形成された磁気的限定手段を備える撹拌混合装置。
【請求項6】
請求項5記載の撹拌混合装置において、
前記磁気的限定手段は、前記有磁部を前記撹拌体の軸方向に共振させるものである撹拌混合装置。
【請求項7】
請求項1から6いずれか記載の撹拌混合装置において、
前記撹拌体が所定領域を運動するように、前記磁場誘導手段を制御する領域調整手段を更に備える撹拌混合装置。
【請求項8】
請求項7記載の撹拌混合装置において、
前記磁場誘導手段は、前記ケーシングを介して前記有磁部と対向配置されたステータを有し、このステータは、前記有磁部に向かって突出し且つ前記撹拌体の軸方向に沿って配置された複数の段部を有し、これら段部の各々には、電源に電気的に接続及び遮断可能に連通された電線が巻回され、
前記段部同士の間隔は、前記有磁部同士の間隔と異なり、
前記領域調整手段は、互いに隣り合う複数個の前記段部を往復単位とし、前記電源に電気的に接続される前記電線を順次切り換え、この電線が巻回され電磁石化される段部を、各往復単位の中で往復させる印加往復手段を備える撹拌混合装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2008−229454(P2008−229454A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−71019(P2007−71019)
【出願日】平成19年3月19日(2007.3.19)
【出願人】(000251211)冷化工業株式会社 (20)
【出願人】(504224153)国立大学法人 宮崎大学 (239)
【Fターム(参考)】