説明

撹拌装置

【課題】エネルギー効率が高く、さらに回転流をより小さくして軸流をより大きくすることができる、撹拌装置を提供する。
【解決手段】動物細胞培養槽1内に配設される撹拌装置2である。鉛直方向に沿って同軸上に配置される第1の駆動軸3および第2の駆動軸4と、第1の駆動軸3に取り付けられた第1のプロペラ5と、第2の駆動軸4に取り付けられて第1のプロペラ5に対向する第2のプロペラ6と、第1の駆動軸3を介して第1のプロペラ5を回転させる第1の駆動手段7と、第2の駆動軸4を介して第2のプロペラ6を第1のプロペラ5と反対方向に回転させる第2の駆動手段8と、を備えてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動物細胞培養槽に用いられる撹拌装置に関する。
【背景技術】
【0002】
混合槽での混合操作は、化学工業等において重要な操作の一つである。すなわち、食品、化粧品、医薬、製薬、塗料等の現場では、反応・抽出・吸収・混合などの種々の処理において、混合操作が利用されている。
例えば、バイオリアクターなどの動物細胞培養槽においても、槽内に酸素供給原の気泡や栄養原などを供給し、これを均一に混合させるため、槽内を撹拌して混合する必要がある(例えば、特許文献1〜4参照)。
【0003】
このような動物細胞培養槽においては、特に培養槽が大きくなり、鉛直方向の高さが高くなると、槽内をより均一に混合するためには、撹拌によって培養槽内に鉛直方向の流れとなる大きな軸流を生じさせる必要がある。
また、一般に密度差のある材料を均一に混合したい場合、これら材料はその密度差によって上下に分離し易いため、やはり撹拌によって混合槽内に大きな軸流を生じさせる必要がある。特に、固液混合の場合では、密度差が大きくなって固形分が沈降し易いため、撹拌により軸流を生じさせ、この軸流によって槽内を鉛直方向に撹拌することが一層必要になる。
【0004】
ところで、混合槽においてより高い混合度を得るためには、撹拌装置として高性能のものを用いる必要がある。特に、動物細胞培養槽では、撹拌によって動物細胞が破壊・死滅するのを抑制するため、撹拌回転数が小さく、かつ、混合性能の高い撹拌装置を用いる必要がある。
このような高性能な撹拌装置として、従来ではエレファントイヤーと呼ばれる特殊な形状の撹拌翼を用いた撹拌装置が知られている。エレファントイヤーは、比較的大きな形状のもので、代表的なタービン翼やプロペラ翼やパドル翼に比べて低回転数で混合性能が良好である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2808036号公報
【特許文献2】特開2004−261659号公報
【特許文献3】特開平3−297375号公報
【特許文献2】特公平7−4227号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記のエレファントイヤーや一般的なタービン翼、プロペラ翼やパドル翼では、撹拌による回転流が大きく、その分、軸流が小さくなってしまう。そのため、前述したような密度差のある材料の混合や、動物細胞培養槽などに適用しようとした場合、槽内を鉛直方向に撹拌するべく、十分な軸流を生じさせようとすると、同時に回転流も大きくなってしまう。すなわち、この撹拌装置は大きなエネルギーを必要とし、結果的に撹拌効率が悪いものとなってしまう。また、全体の消費エネルギーを抑えようとすると、同時に軸流も小さくなり、良好な混合度を得るのが困難になってしまう。
【0007】
また、特に動物細胞培養槽の混合に関しては、撹拌による回転流が増大し、せん断力が大きくなるため、動物細胞が破壊・死滅する問題があり、したがって回転流をより小さくし、かつ、軸流をより大きくする撹拌装置の提供が望まれている。
本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、エネルギー効率が高く、さらに回転流をより小さくして軸流をより大きくすることができる、撹拌装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の撹拌装置は、動物細胞培養槽内に配設される撹拌装置であって、鉛直方向に沿って同軸上に配置される第1の駆動軸および第2の駆動軸と、前記第1の駆動軸に取り付けられた第1のプロペラと、前記第2の駆動軸に取り付けられて前記第1のプロペラに対向する第2のプロペラと、前記第1の駆動軸を介して前記第1のプロペラを回転させる第1の駆動手段と、前記第2の駆動軸を介して前記第2のプロペラを前記第1のプロペラと反対方向に回転させる第2の駆動手段と、を備えることを特徴としている。
【0009】
この撹拌装置によれば、第1のプロペラと、この第1のプロペラに対向する第2のプロペラとを有し、これら第1のプロペラと第2のプロペラとを互いに反対の方向に回転させるようにした、二重反転プロペラを採用したので、例えば鉛直方向下方に向かって軸流を生じさせるよう、各プロペラを下向きにして配設することにより、エネルギー効率が高くなる。すなわち、上下に配置されるプロペラが互いに逆方向に回転することにより、上側のプロペラの回転流のエネルギーが下側のプロペラに回収されて下降力(推進力)に変換され、これによってエネルギー効率が高くなる。
【0010】
また、この二重反転プロペラを、その回転軸となる駆動軸が鉛直方向に沿うように配置するので、混合槽の水平方向に回転する回転流が前記したように鉛直方向の下降力に変換されことにより、回転流が小さく、軸流が大きい撹拌流れが得られる。
また、動物細胞培養槽に前記二重反転プロペラを採用したので、回転流が小さく、軸流が大きい撹拌流れが得られるので、特に回転流が小さくなることでせん断力が小さくなり、せん断力によって動物細胞が破壊・死滅してしまうことが抑制される。
【0011】
また、前記撹拌装置においては、前記第1の駆動軸と第2の駆動軸とは、一方が他方に内挿されたことによって同軸上に配置されてなり、かつ、これら第1の駆動軸および第2の駆動軸は、それぞれの一端側に前記第1のプロペラあるいは第2のプロペラが設けられ、他端側にて前記第1の駆動手段あるいは第2の駆動手段に接続されているのが好ましい。
このようにすれば、第1のプロペラや第2のプロペラが設けられる駆動軸の一端側のみを混合槽内に入れればよく、したがって混合槽への取り付けが容易になる。
【0012】
また、前記撹拌装置においては、前記第1のプロペラと前記第2のプロペラとの間にガスを供給するための、ガス供給手段を備えるのが好ましい。
このようにすれば、第1のプロペラ又は第2のプロペラによる回転流の剪断力により、これらの間に供給したガスの気泡を微細化することができる。したがって、ガスの単位量あたりの界面の面積を増やして、動物細胞培養槽内の液中への溶解速度を高め、これによって単位時間あたりの溶解量を増加することが可能になる。また、気泡を微細化することにより、気泡の、前記液中での滞留時間を長くすることができ、これにより、液中へのガスの溶解量を増加することが可能になる。
【0013】
また、前記撹拌装置においては、前記第1のプロペラと前記第2のプロペラとは、軸流を下方に向けて生じさせるように配置されているのが好ましい。
このようにすれば、第1のプロペラや第2のプロペラによって微細化された気泡を、一旦下降させた後に培養槽の内壁面に沿って上昇させるので、気泡が液面にまで上昇する時間を遅くすることができる。したがって、液中での滞留時間を長くすることができ、これにより、液中へのガスの溶解量を増加することが可能になる。
【0014】
また、前記撹拌装置においては、前記第1の駆動軸又は前記第2の駆動軸は内部孔を有する管状に形成されてなり、該第1の駆動軸又は第2の駆動軸は前記内部孔に連通してガスを噴射するための噴射口を、前記第1のプロペラと前記第2のプロペラとの間に有し、前記内部孔にはガス供給源が接続されてなることで、前記ガス供給手段が構成されているのが好ましい。
このようにすれば、撹拌装置による流れを乱すことなく、動物細胞培養槽内にガス供給手段を配置することが可能になる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の撹拌装置にあっては、二重反転プロペラを採用したことにより、エネルギー効率が高く、さらに回転流をより小さくして軸流をより大きくすることができるものとなる。また、このように軸流を大きくできることにより、特に密度差のある材料を均一に混合したい場合や、動物細胞培養槽の撹拌装置に適用した場合に好適なものとなる。
さらに、前記のガス供給手段を備えることにより、動物細胞の栄養源となる酸素(空気)等のガスを、より効率的に液中に溶解させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の撹拌装置の第1実施形態を備えた動物細胞培養槽の概略構成図である。
【図2】本発明の撹拌装置の第1実施形態の概略構成図である。
【図3】本発明の撹拌装置の第2実施形態を備えた動物細胞培養槽の概略構成図である。
【図4】本発明の撹拌装置の第3実施形態を備えた動物細胞培養槽の概略構成図である。
【図5】本発明の撹拌装置の第3実施形態の概略構成図である。
【図6】本発明の撹拌装置の第4実施形態を備えた動物細胞培養槽の概略構成図である。
【図7】本発明の撹拌装置の第4実施形態に係る噴射管の平面図である。
【図8】本発明の撹拌装置の第5実施形態を備えた動物細胞培養槽の概略構成図である。
【図9】本発明の撹拌装置の第5実施形態に係る噴射管の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の撹拌装置を詳しく説明する。
(第1実施形態)
図1は、本発明の撹拌装置を備えた動物細胞培養槽の第1の例を示す図であり、図1中符号1は動物細胞培養槽である。なお、以下の図面では、各部材の認識を容易にするため、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0018】
動物細胞培養槽1は、例えば医薬抗体の生成に用いられるもので、微生物、動・植物、あるいはそれらの細胞から単離した酵素などの種々の生体触媒を用い、動物細胞の培養を行うものである。すなわち、この動物細胞培養槽1は、図示しない通気手段や栄養源供給手段を有することにより、培養液L中に酸素供給原の気泡や栄養原などを供給しつつ、動物細胞の培養を行うものである。
【0019】
このような動物細胞培養槽1には、気泡や栄養原などを均一に混合させるため、撹拌装置2が設けられている。この撹拌装置2は、本発明の第1実施形態となるもので、図2に示すように第1の駆動軸3および第2の駆動軸4と、第1の駆動軸3に取り付けられた第1のプロペラ5と、第2の駆動軸4に取り付けられた第2のプロペラ6と、第1の駆動軸3を介して第1のプロペラ5を回転させる第1の駆動手段7と、前記第2の駆動軸4を介して第2のプロペラ6を回転させる第2の駆動手段8と、を備えて構成されている。
【0020】
第2の駆動軸4は円管状に形成されており、第1の駆動軸3は、この第2の駆動軸4の孔内に回転自在に内挿されている。このような構成によって第1の駆動軸3と第2の駆動軸4とは、同一軸上(同軸上)に配置されたものとなっている。また、第1の駆動軸3は第2の駆動軸4より長く形成され、その両端がいずれも第2の駆動軸4から突出して配置されている。
【0021】
第1のプロペラ5は、第1の駆動軸3の下端部(一端側)、すなわち第2の駆動軸4から下方に突出した部位に取り付け固定されたもので、第1の駆動軸3に外挿してこれに固定される取付筒9と、取付筒9の外周面に固定された複数(例えば4つ)のプロペラ翼10とからなるものである。取付筒9には回り止め(図示せず)が設けられており、さらにこの取付筒9の下側はキャップ11によって固定されている。このような構成によって第1のプロペラ5は、第1の駆動軸3に一体に固定され、第1の駆動軸3とともに回転するようになっている。プロペラ翼10は、第1の駆動軸3と直交する面上を回転することにより、その軸流が第1の駆動軸3の下方に向けて生じるよう設計され、配設されたものである。
【0022】
第2のプロペラ6は、第2の駆動軸4の下端部(一端側)に取り付け固定され、したがって前記第1のプロペラ5に対向して配置され、かつ、第1のプロペラ5に僅かな間隙をあけて配置されたもので、第2の駆動軸4に外挿してこれに固定される取付筒12と、取付筒12の外周面に固定された複数(例えば4つ)のプロペラ翼13とからなるものである。取付筒12には回り止め(図示せず)が設けられており、さらにこの取付筒12の下側はキャップ14によって固定されている。このような構成によって第2のプロペラ6も、第2の駆動軸4に一体に固定され、第2の駆動軸4とともに回転するようになっている。
【0023】
ただし、この第2のプロペラ6は、後述するように第2の駆動軸4が第1の駆動軸3と反対に回転させられることにより、第1のプロペラ5と反対方向に回転させられるようになっている。プロペラ翼13は、第2の駆動軸4と直交する面上を回転することにより、その軸流が第2の駆動軸4の下方に向けて生じるよう設計され、配設されたものである。このような構成によって第1のプロペラ5と第2のプロペラ6とは、二重反転プロペラを形成している。なお、このプロペラ翼13の回転方向は、前記したようにプロペラ翼10と反対になっている。また、プロペラ翼13は、本実施形態では第1のプロペラ5のプロペラ翼10と同じ長さになっている。
【0024】
また、第1の駆動軸3には、第2の駆動軸4より上側に突出した上端部において、ギア等のリンク機構を介してモータ等からなる第1の駆動手段7が接続されている。同様に、第2の駆動軸3には、その上端部において、ギア等のリンク機構を介してモータ等からなる第2の駆動手段8が接続されている。
これら駆動手段7、8は、第1の駆動軸3、あるいは第2の駆動軸4を予め設定された回転数で回転させるようになっている。ただし、第1の駆動軸3と第2の駆動軸4とが互いに異なる方向に回転するように駆動するのは、前述したとおりである。
【0025】
このような構成からなる撹拌装置2は、図1に示すように第1の駆動軸3、第2の駆動軸4がそれぞれ鉛直方向に沿って配置されるよう、動物細胞培養槽1内において立てて配置され、その上端側が動物細胞培養槽1の蓋体15に回転可能に保持固定されている。また、第1のプロペラ5は動物細胞培養槽1の底部に配置され、したがって第2のプロペラ6はこの第1のプロペラ5より僅かに上方に配置されている。
【0026】
このような撹拌装置2を用いて動物細胞培養槽1を稼働させるには、図示しない通気手段や栄養源供給手段によって培養液L中に酸素供給原の気泡や栄養原などを供給する。また、このような供給に並行して、撹拌装置2を駆動させる。すなわち、第1の駆動手段7、第2の駆動手段8を同時に駆動させ、第1の駆動軸3、第2の駆動軸4を介して第1のプロペラ5、第2のプロペラ6を同時に回転させる。
【0027】
すると、第1のプロペラ5および第2のプロペラ6は、いずれもそのプロペラ翼10(13)が、駆動軸3(4)と直交する面上を回転することによってその軸流が駆動軸3(4)の下方に向けて生じるよう設計されているので、動物細胞培養槽1内においてその内壁面に沿って鉛直方向上方に向かって軸流を生じさせるようになる。また、これら第1のプロペラ5および第2のプロペラ6は、互いに反対方向に回転することで二重反転プロペラとなっていることから、培養液Lを水平方向に回転させる回転流が小さく、図1中矢印Aで示すように鉛直方向下方に向かう軸流が大きい、撹拌流れを生じるようになる。
【0028】
すなわち、上下に配置された第1のプロペラ5と第2のプロペラ6とが互いに逆方向に回転することにより、上側の第2のプロペラ6の回転流のエネルギーが下側の第1のプロペラ5に回収されて下降力(推進力)に変換され、これによってエネルギー効率が高くなる。つまり、培養液Lの撹拌により有効な軸流が大きくなり、回転流が小さくなるので、一定の消費エネルギーでより大きな撹拌効果が得られるようになる。
【0029】
また、このように回転流が小さくなり、軸流が大きくなるので、特に回転流が小さくなることでせん断力が小さくなり、せん断力によって動物細胞が破壊・死滅してしまうことが抑制される。
【0030】
このように本実施形態の撹拌装置1は、二重反転プロペラを採用したことにより、エネルギー効率が高く、さらに回転流をより小さくして軸流をより大きくすることができる。したがって、動物細胞培養槽1に適用した場合に、せん断力によって動物細胞が破壊・死滅してしまうことをより良好に抑制することができる。
また、この撹拌装置1は、第1のプロペラ5および第2のプロペラ6を駆動軸3、4によって上からつり下げた状態に配設しているので、動物細胞培養槽1の上方にて駆動軸3、4を保持固定するだけで、動物細胞培養槽1に容易に取り付けることができる。
【0031】
なお、前記実施形態では撹拌装置1を、動物細胞培養槽1の上方からつり下げることで該動物細胞培養槽1に取り付けるようにしたが、逆に、動物細胞培養槽1の底部側から動物細胞培養槽1内に突き出した状態で、撹拌装置を取り付けるようにしてもよい。
【0032】
(第2実施形態)
図3は、本発明の撹拌装置を備えた動物細胞培養槽の第2の例を示す図であって、図3中符号20は、動物細胞培養槽1の底部側から撹拌装置を動物細胞培養槽1内に突き出して取り付けた撹拌装置である。
この撹拌装置20は、本発明の第2実施形態となるもので、第1の駆動軸21および第2の駆動軸22と、第1の駆動軸21に取り付けられた第1のプロペラ23と、第2の駆動軸22に取り付けられた第2のプロペラ24と、第1の駆動軸21を介して第1のプロペラ23を回転させる第1の駆動手段25と、前記第2の駆動軸22を介して第2のプロペラ24を回転させる第2の駆動手段26と、を備えて構成されている。
【0033】
本実施形態では、第1の駆動軸21が円管状に形成されており、第2の駆動軸22はこの第1の駆動軸22の孔内に回転自在に内挿されている。このような構成によって第1の駆動軸21と第2の駆動軸22とは、同一軸上(同軸上)に配置されたものとなっている。また、第2の駆動軸22は第1の駆動軸23より長く形成され、その両端がいずれも第1の駆動軸22から突出して配置されている。
【0034】
第1のプロペラ23は、前記第1のプロペラ5と同様の構成からなるもので、第1の駆動軸21の上端部(一端側)に取り付け固定されたものである。なお、この第1のプロペラ23のプロペラも、第1の駆動軸21と直交する面上を回転することにより、その軸流が第1の駆動軸21の下方に向けて生じるよう設計され、配設されている。
【0035】
第2のプロペラ24は、前記第2のプロペラ6と同様の構成からなるもので、第2の駆動軸22の上端部(一端側)、すなわち第1の駆動軸21から上方に突出した部位に取り付け固定され、したがって前記第1のプロペラ23に対向して配置され、かつ、第1のプロペラ23に僅かな間隙をあけて配置されたものである。なお、この第2のプロペラ24のプロペラも、第2の駆動軸22と直交する面上を回転することにより、その軸流が第2の駆動軸22の下方に向けて生じるよう設計され、配設されている。ただし、この第2のプロペラ24も、第1のプロペラ23と反対方向に回転させられるようになっており、これによって第1のプロペラ23と第2のプロペラ24とは、二重反転プロペラを形成している。また、本実施形態でも、第2のプロペラ24と第1のプロペラ23とは同じ径に形成されている。
【0036】
また、この撹拌装置20は、動物細胞培養槽1の下方に配置されている。そして、第1の駆動軸21とこれに内挿された第2の駆動軸22とが、動物細胞培養槽1の底板部に形成された孔部27内に挿通され、パッキン等の図示しない液密手段によって回転可能かつ液密に保持されている。このような構成によって撹拌装置20は、動物細胞培養槽1の下側から槽内に突き出て取り付けられたものとなっている。
【0037】
このような構成からなる撹拌装置20は、前記撹拌装置1と同様に二重反転プロペラを採用しているので、エネルギー効率が高く、さらに回転流をより小さくして軸流をより大きくすることができる。したがって、動物細胞培養槽1に適用した場合に、せん断力によって動物細胞が破壊・死滅してしまうことをより良好に抑制することができる。
また、この撹拌装置20は、動物細胞培養槽1の下側から各駆動軸21、22とこれに取り付けられた各プロペラ23、24とを槽内に突き出した状態に取り付けられているので、動物細胞培養槽1内をこの撹拌装置20自体で占有する割合が少なくなり、槽内の有効容積を大きくすることができる。
【0038】
(第3実施形態)
図4は、本発明の撹拌装置を備えた動物細胞培養槽の第3の例を示す図である。図4中符号30は、図1に示した撹拌装置2と同様に配置された撹拌装置であり、本発明の第3実施形態である。この撹拌装置30が、図1に示した撹拌装置2と異なるところは、培養液L中に酸素(空気)等のガスを供給するための機構として、特に第1のプロペラ5と第2のプロペラ6との間にガスを供給するようにした、ガス供給手段31を備えている点である。
【0039】
すなわち、図4に示した撹拌装置30には、第1のプロペラ5と第2のプロペラ6との間に、ガスを噴射するための噴射口32を多数形成した、円環状(リング状)の噴射管33が配設されている。また、この撹拌装置30においては、図5に示すように、第1の駆動軸34が管状に形成されており、この第1の駆動軸34の内部孔35に、前記噴射管33が連通して接続されている。
【0040】
第1の駆動軸34の内部孔35には、図4に示すように、その上端側において、送気ポンプや酸素等のガスを充填したシリンダーなどからなるガス供給源36が、配管(図示せず)を介して接続されている。また、図5に示すように第1の駆動軸34の下端側には、その外周面に設けられた複数の分岐管(図示せず)を介して、前記噴射管33が接続されている。
【0041】
分岐管は、前記第1の駆動軸34に、その径方向に沿って配設されたもので、その内部孔が、前記第1の駆動軸34の内部孔35に連通した状態に、設けられたものである。
噴射管33は、前記分岐管に接続したことによって第1の駆動軸34に支持されたもので、その環状の内部孔37が分岐管の内部孔に連通したことにより、第1の駆動軸34の内部孔35に連通したものとなっている。そして、この噴射管33には、その半径方向外側で、かつ下方に向く周面に、前記の噴射口32が等間隔で多数形成配置されており、これら噴射口32は、噴射管33の内部孔36に連通している。
【0042】
このような構成の撹拌装置30にあっては、第1のプロペラ5と第2のプロペラとにより、図1に示した撹拌装置2と同様の作用効果を奏するようになる。
また、ガス供給手段31を備えているので、第1のプロペラ5と第2のプロペラとを回転させている際に、これらプロペラ5、6間に酸素等のガスを供給することができる。
【0043】
すると、第2のプロペラ6による回転流の剪断力や第1のプロペラ5による回転流の剪断力により、供給したガスの気泡を微細化することができる。したがって、ガスの単位量あたりの界面の面積を増やして、培養液L中への溶解速度を高め、これによって単位時間あたりの溶解量を増加することができる。また、気泡を微細化することにより、気泡の、前記培養液L中での滞留時間を長くすることができ、これにより、培養液L中へのガスの溶解量を増加させることができる。よって、動物細胞の栄養源となる酸素(空気)等のガスを、より効率的に培養液L中に溶解させることができる。
【0044】
また、第1のプロペラ5及び第2のプロペラ6の軸流を下方に向けて生じさせているので、第1のプロペラ5や第2のプロペラ6によって微細化された気泡を、軸流に同伴させて一旦下降させた後、培養槽1の内壁面に沿って上昇させることができ、したがって気泡が液面にまで上昇する時間を遅くすることができる。よって、培養液L中での滞留時間を長くすることができ、これにより、培養液L中へのガスの溶解量を増加させることができる。
【0045】
また、管状に形成した第1の駆動軸34の内部孔35を介して、噴射管33の噴射口32からガスを噴射するように構成したので、撹拌装置30による培養液Lの流れを乱すことなく、動物細胞培養槽1内にガス供給手段31を配置することができる。
さらに、噴射管33を、第1の駆動軸34の半径方向外方で、かつ下方に向けてガスを噴射するように構成したので、第1のプロペラ5と第2のプロペラ6とによる流れを乱すことなく、動物細胞培養槽内にガスを均一に供給することができる。
【0046】
(第4実施形態)
図6は、本発明の撹拌装置を備えた動物細胞培養槽の第4の例を示す図であって、図6中符号40は、本発明の第4実施形態となる撹拌装置である。この撹拌装置40が、図4に示した撹拌装置30と異なるところは、ガス供給手段41が、内部孔35を有した第1の駆動軸34を備えるのに代えて、別に供給管42を備えた点である。
【0047】
すなわち、図6に示した撹拌装置40においては、第1の駆動軸3とこれに取り付けられた第1のプロペラ5、及び第2の駆動軸4とこれに取り付けられた第2のプロペラ6等の構成については、図1に示した第1実施形態と同一である。そして、本実施形態では、この第1実施形態の構成に加えて、ガス供給手段41を設けている。
【0048】
このガス供給手段41は、第1のプロペラ5や第2のプロペラ6の外方に配置されたL字状の供給管42と、この供給管42の一方に接続されたガス供給源36と、他方に接続された噴射管33とからなっている。
供給管42は、その一方側が培養液Lの液面上に引き出され、さらに蓋体15を通って外側に引き出された状態に配設されている。また、他方側は、一方側に対して略直角に折曲され、前記第1の駆動軸3側に延びて形成配置されている。
【0049】
ガス供給源36は、蓋体15の外側にて、前記供給管42の一方側に接続されたもので、第3実施形態におけるガス供給源36と同様に、送気ポンプやガスシリンダーなどから構成されたものである。
噴射管33は、前記供給管42の他方側に接続されたもので、第3実施形態と同様の構成のものである。ただし、本実施形態では図7の平面図に示すように、供給管42の内部孔43に連通した状態に、噴射管33が設けられている。
【0050】
このような構成の撹拌装置40にあっても、第1のプロペラ5と第2のプロペラとにより、図1に示した撹拌装置2と同様の作用効果を奏する。
また、ガス供給手段41により、図4、図5に示した撹拌装置30と同様の作用効果を奏する。
さらに、第1の駆動軸34とは別に噴射管33を設けているので、噴射管33が第1の駆動軸3に連動して回転することがなく、したがって構造上この噴射管33に加わる負荷を小さくすることができる。また、第1の駆動軸34の構造自体も簡易に構成できることにより、撹拌装置40の加工性や組み立て性を容易にすることができる。
【0051】
(第5実施形態)
図8は、本発明の撹拌装置を備えた動物細胞培養槽の第5の例を示す図であって、図8中符号50は、本発明の第5実施形態となる撹拌装置である。この撹拌装置50が、図6に示した撹拌装置40と異なるところは、ガス供給手段51の供給管52が複数(本実施形態では2本)設けられ、これら供給管52が、動物細胞培養槽1の底部側から動物細胞培養槽1内に突き出した状態で、配設されている点である。
【0052】
すなわち、図8に示した撹拌装置50においても、第1の駆動軸3とこれに取り付けられた第1のプロペラ5、及び第2の駆動軸4とこれに取り付けられた第2のプロペラ6等の構成については、図1に示した第1実施形態と同一である。そして、本実施形態でも、この第1実施形態の構成に加えて、ガス供給手段51を設けている。
【0053】
このガス供給手段51は、第1のプロペラ5や第2のプロペラ6の外方に配置された複数(2本)のL字状の供給管52と、これら供給管52に接続されたガス供給源36、及び噴射管33からなっている。
供給管52は、その一方側が動物細胞培養槽1の底部からその外側(下側)に引き出された状態に配設されている。また、他方側は、一方側に対して略直角に折曲され、前記第1の駆動軸3側に延びて形成配置されている。
【0054】
ガス供給源36は、動物細胞培養槽1の外側にて、前記供給管52のそれぞれの一方側に接続されたもので、第3実施形態におけるガス供給源36と同様に、送気ポンプやガスシリンダーなどから構成されたものである。
噴射管33は、前記供給管52のそれぞれの他方側に接続されたもので、第3実施形態と同様の構成のものである。なお、本実施形態では図9の平面図に示すように、供給管52のそれぞれの内部孔53に連通した状態に、噴射管33が設けられている。
【0055】
このような構成の撹拌装置50にあっても、第1のプロペラ5と第2のプロペラとにより、図1に示した撹拌装置2と同様の作用効果を奏する。
また、ガス供給手段51により、図6、図7に示した撹拌装置40と同様の作用効果を奏する。
さらに、複数の供給管52によって噴射管33を支持しているので、噴射管33を安定した状態に固定することができる。
【0056】
なお、本発明は前記実施形態に限定されることなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。例えば、図3に示したように動物細胞培養槽1の底部側からその内部に突き出して取り付けた撹拌装置に対して、図4、図5に示した第3実施形態のガス供給手段31や、図6、図7に示した第4実施形態のガス供給手段41、図8、図9に示した第5実施形態のガス供給手段51を組み合わせて、本発明の撹拌装置とすることもできる。
【符号の説明】
【0057】
1…動物細胞培養槽、2、20、30、40、50…撹拌装置、3、21、34…第1の駆動軸、4、22…第2の駆動軸、5、23…第1のプロペラ、6、24…第2のプロペラ、7、25…第1の駆動手段、8、26…第2の駆動手段、31、41、51…ガス供給手段、32…噴射口、33…噴射管、35…内部孔、36…ガス供給源、37…内部孔、42、52…供給管、43、53…内部孔、L…培養液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物細胞培養槽内に配設される撹拌装置であって、
鉛直方向に沿って同軸上に配置される第1の駆動軸および第2の駆動軸と、前記第1の駆動軸に取り付けられた第1のプロペラと、前記第2の駆動軸に取り付けられて前記第1のプロペラに対向する第2のプロペラと、前記第1の駆動軸を介して前記第1のプロペラを回転させる第1の駆動手段と、前記第2の駆動軸を介して前記第2のプロペラを前記第1のプロペラと反対方向に回転させる第2の駆動手段と、を備えることを特徴とする撹拌装置。
【請求項2】
前記第1の駆動軸と第2の駆動軸とは、一方が他方に内挿されたことによって同軸上に配置されてなり、かつ、これら第1の駆動軸および第2の駆動軸は、それぞれの一端側に前記第1のプロペラあるいは第2のプロペラが設けられ、他端側にて前記第1の駆動手段あるいは第2の駆動手段に接続されていることを特徴とする請求項1記載の撹拌装置。
【請求項3】
前記第1のプロペラと前記第2のプロペラとの間にガスを供給するための、ガス供給手段を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の撹拌装置。
【請求項4】
前記第1のプロペラと前記第2のプロペラとは、軸流を下方に向けて生じさせるように配置されていることを特徴とする請求項3記載の撹拌装置。
【請求項5】
前記第1の駆動軸又は前記第2の駆動軸は内部孔を有する管状に形成されてなり、該第1の駆動軸又は第2の駆動軸は前記内部孔に連通してガスを噴射するための噴射口を、前記第1のプロペラと前記第2のプロペラとの間に有し、前記内部孔にはガス供給源が接続されてなることで、前記ガス供給手段が構成されていることを特徴とする請求項3又は4に記載の撹拌装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−178734(P2010−178734A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−235474(P2009−235474)
【出願日】平成21年10月9日(2009.10.9)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】