説明

擁壁及びその施工方法

【課題】大形基礎フーチングの施工を省略し、施工の容易性、工期の短縮等を図るとともに、高さ3m以上の擁壁を構造的に安定させる擁壁構造を提供する。
【解決手段】擁壁(1)は、鉄筋コンクリート構造の壁体(4)と、水平土圧に抗する安定モーメントを壁体に与える地中梁形態の錘形基礎(6)とを有する。第1及び第2鋼管杭(2、3)が高地盤(HG)に並列に配列され、地中梁(5)の両端部が錘形基礎及び壁体に接合される。第1及び第2鋼管杭の杭頭部(22、23)は壁体の高さ(h1)の1/2以上の高さ位置(h4)に配置される。第1及び第2鋼管杭の各杭頭部は、壁体内及び錘形基礎内に夫々埋設され、壁体及び錘形基礎と一体化するとともに、壁体、地中梁及び錘形基礎の交差部に配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、擁壁及びその施工方法に関するものであり、より詳細には、大型フーチングを備えずに高い安定性及び剛性を発揮することができる擁壁及びその施工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高さ2mを超える切土、或いは、高さ1mを超える盛土等によって生じる崖や、急傾斜地又は水路等の如く高低差が生じる地盤においては、地盤の崩壊を阻止すべく擁壁を設置する必要が生じる。擁壁は、鉄筋コンクリート構造の壁体、或いは、プレキャストコンクリート製品又はコンクリートブロック等を組積した壁体からなる。
【0003】
このような擁壁は、通常は、全体的にL字型断面又は逆T字型断面に設計され、比較的大型の基礎フーチングが擁壁底部に形成される。基礎フーチングは、擁壁に作用する荷重(土圧)及び擁壁の自重を支持地盤に伝達する広範な接地面積を確保するとともに、擁壁の転倒を防止するように機能する。
【0004】
基礎フーチングは、高地盤側に比較的大きく延びるので、擁壁施工時に高地盤を広範囲に掘削し、擁壁施工後に掘削部分を埋戻す必要が生じる。しかし、広範な高地盤の掘削及び埋戻しは、多大な掘削工事の労力、移動土量の増加、埋戻し土の非安定性等の問題を生じさせる。また、一般には、大型の基礎フーチングは、厚さ500mm〜600mm程度のコンクリート版からなり、施工において多量のコンクリート及び鉄筋を使用する必要があるので、多額の工事費を要する傾向がある。更には、施工現場の環境、条件又は地形によっては、大型の基礎フーチングを施工し難い状態が生じることもある。
【0005】
このような基礎フーチング施工の問題を解消すべく、支柱を構成する鋼製親杭に予め非転倒側の曲げモーメントを付与するように構成された乾式工法の擁壁構造が、特許第2824217号掲載公報に開示されている。
【0006】
本発明者は、このような擁壁構造において、杭の直上に配置された鉄筋コンクリート構造の立柱と、壁体の鉛直荷重を支持する鉄筋コンクリート構造の地中梁形基礎とを一体化するとともに、鉄筋コンクリート構造のバットレスを擁壁の背後に突設し、地中梁形態の錘形基礎をバットレス先端部に連結した構成を有する擁壁を特願2005-113760号(特開2006-291575号公報)において提案している。
【0007】
このように鉄筋コンクリート構造のバットレス及び錘形基礎を備えた擁壁においては、バットレス及び錘形基礎の自重によって擁壁の重心を高地盤側に変位させるとともに、バットレス壁面及び地盤の間の摩擦力や、錘形基礎及び地盤の間の摩擦力によって擁壁の転倒を効果的に阻止することができる。
【0008】
また、本発明者は、擁壁の壁芯位置に配置した鋼管杭によって鉄筋コンクリート構造の壁体を支持する擁壁構造を特願2006-136071号(特開2007-308876号公報)等において提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第2824217号掲載公報
【特許文献2】特開2006-291575号公報
【特許文献3】特開2007-308876号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
バットレス及び錘形基礎を用いた前述の擁壁構造、或いは、鋼管杭を用いた前述の擁壁構造を高さ3m未満の擁壁に適用した場合、大形基礎フーチングの施工を省略し、掘削土量の低減、工事作業の軽減等の所期の目的を達成したが、このような構造を高さ3m以上の擁壁に対して適用した場合には、構造上の不利や、構造上の特別の考慮等が必要となり、施工の困難性、工期の長期化、掘削土量の増大、コンクリート量及び鉄筋量の増大、工事費の増額等の問題が生じた。
【0011】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、大形基礎フーチングの施工を省略し、施工の容易性、工期の短縮、掘削土量の削減、コンクリート量及び鉄筋量の削減、工事費の低廉化等を図り、しかも、高さ3m以上の擁壁を構造的に安定させることができる擁壁及びその施工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成すべく、本発明は、鉄筋コンクリート構造の壁体と、水平土圧に抗する安定モーメントを壁体に与える鉄筋コンクリート構造且つ地中梁形態の錘形基礎とを有する擁壁において、
高地盤に並列に配列された第1及び第2鋼管杭と、前記錘形基礎と前記壁体との間に延び且つ両端部が前記錘形基礎及び前記壁体に接合された鉄筋コンクリート構造の地中梁とを有し、
前記第1及び第2鋼管杭の杭頭部は、低地盤面から測定した前記壁体の高さの1/2以上の高さ位置に配置され、
前記第1鋼管杭の杭頭部は、前記壁体内に埋設され且つ前記壁体と一体化するとともに、前記壁体と前記地中梁との交差部に配置され、
前記第2鋼管杭の杭頭部は、前記錘形基礎内に埋設され且つ該錘形基礎と一体化するとともに、前記錘形基礎と前記地中梁との交差部に配置されることを特徴とする擁壁を提供する。
【0013】
本発明は又、上記構成の擁壁の施工方法であって、前記第1及び第2鋼管杭を高地盤に施工する杭工程と、
前記錘形基礎、地中梁及び壁体のコンクリート型枠を施工すべく高地盤を掘削する掘削工程と、
前記錘形基礎、地中梁及び壁体のコンクリート型枠及び配筋を施工する型枠・配筋工程と、
前記型枠内にコンクリートを打設し、前記型枠内の空間と、前記第1鋼管杭及び第2鋼管杭の内部にコンクリートを充填するコンクリート打設工程とを有することを特徴とする擁壁の施工方法を提供する。
【0014】
本発明の上記構成によれば、擁壁の重心を非転倒側に変位させる鉛直荷重が、地中梁及び錘形基礎によって壁体の背後に作用するとともに、擁壁の転倒に抗する摩擦力が、地中梁及び錘形基礎と地盤との間に作用する。従って、本発明によれば、従来の大形基礎フーチングの施工を省略し、掘削土量の削減、コンクリート量及び鉄筋量の削減、工期の短縮、工事費の低廉化等を図ることができる。
【0015】
また、上記擁壁構造によれば、上記地中梁は、垂直軸組部材を構成する鋼管杭の杭頭同士を相互連結する水平軸組部材を構成し、地中梁及び鋼管杭からなるラーメン構造の構造体が壁体の背後に形成される。錘形基礎は、離間したラーメン構造の構造体同士を相互連結するので、高さ3m以上の擁壁を構造的に安定させる立体的な方形骨組が壁体の背後に構築される。しかも、鋼管杭、錘形基礎及び地中梁は、高地盤を大きく掘削することなく高地盤に施工されるので、施工が容易である。
【0016】
更に、並列配置された多数の鋼管杭は、高地盤を安定させるとともに、杭重量(自重)、引抜き抵抗、地盤との摩擦等によって、擁壁の転倒又は滑動や、地中梁及び錘形基礎の浮き上がりを効果的に防止するので、錘形基礎を比較的高い位置、即ち、高地盤側の地盤面からの掘削深さが浅い位置に位置決めし、掘削土量の削減、工事費の低廉化等を図ることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の擁壁及びその施工方法によれば、大形基礎フーチングの施工を省略し、施工の容易性、工期の短縮、掘削土量の削減、コンクリート量及び鉄筋量の削減、工事費の低廉化等を図り、しかも、高さ3m以上の擁壁を構造的に安定させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本発明に係る擁壁の基本構成を示す斜視図である。
【図2】図2は、本発明の擁壁の構造を示す横断面図である。
【図3】図3は、擁壁の低地盤側の部分正面図である。
【図4】図4は、図1のI−I線における断面図である。
【図5】図5は、図1のII−II線における断面図である。
【図6】図6は、擁壁の軸組構造を概念的に示す斜視図である。
【図7】図7は、擁壁を施工すべき地盤の地形を示す縦断面図である。
【図8】図8は、杭施工工程における地盤の掘削範囲を示す縦断面図である。
【図9】図9は、鋼管杭を地盤に圧入した状態を示す縦断面図である。
【図10】図10は、鋼管杭を地盤に圧入した状態を示す平面図である。
【図11】図11は、壁体及び地中梁の型枠・配筋工程を示す縦断面図である。
【図12】図12は、壁体及び地中梁の型枠・配筋工程を示す平面図である。
【図13】図13は、コンクリート打設直後の状態を示す縦断面図である。
【図14】図14は、コンクリート養生及び型枠解体・撤去を行った後の状態を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0019】
1 擁壁
2、3 鋼管杭
4 壁体
5、6 地中梁
7 コンクリート
8 骨組
HG 高地盤
Ha 高地盤面
LG 低地盤
La 低地盤面
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の好適に実施形態によれば、第1及び第2鋼管杭の杭頭部の高さは、低地盤面から測定した壁体の高さの2/3以上の高さ位置に配置され、壁体、地中梁及び錘形基礎は、平面視格子状に配置される。
【0021】
好ましくは、第1及び第2鋼管杭の内部中空域には、錘形基礎、地中梁及び壁体のコンクリートと連続するコンクリートが充填される。
【0022】
本発明の更に好適に実施形態によれば、鋼管杭は、高地盤を掘削しない状態で高地盤に施工され、掘削工程は、杭頭部の高さ位置まで高地盤を掘削する工程を含む。変形例として、杭工程は、鋼管杭の施工前に杭頭部の高さ位置まで高地盤を掘削する工程を含む。
【実施例1】
【0023】
以下、添付図面を参照して本発明の好適な実施例について詳細に説明する。
【0024】
図1は、本発明に係る擁壁の基本構成を示す斜視図である。図2は、本発明の擁壁の構造を示す横断面図であり、図3は、擁壁の低地盤側の部分正面図である。図1及び図2には、壁体の壁芯方向がX方向として示され、壁芯と直交する方向がY方向として示されている。
【0025】
擁壁1は、低地盤LG側への高地盤HGの崩壊又は崩落を阻止するように高地盤HGの地形に相応して配置される。擁壁1は、X方向(壁芯方向)に所定間隔を隔てて整列配置された鋼管杭2と、鋼管杭2の高地盤側に鋼管杭2から距離e1の間隔を隔ててX方向に整列配置された鋼管杭3と、鋼管杭2の杭列に沿ってX方向に延在する鉄筋コンクリート構造の壁体4と、鋼管杭2、3の杭頭間においてY方向(壁芯と直交する方向)に延在する地中梁5と、鋼管杭3の杭列に沿ってX方向に延在する地中梁6とから構成され、高地盤HGの土圧に耐える一体的な土留め壁を構成する。地盤の高低差は3m〜6m、例えば、約5mであり、低地盤面Laから壁体4の天端面までの距離h1は、実質的に地盤の高低差と等しく、約5mである。
【0026】
擁壁1の自重は、壁体4及び地中梁5、6の接地地盤の支持力と、鋼管杭2、3と地盤との摩擦力、更には、鋼管杭2、3に対する支持層Sの支持力等によって支持される。擁壁1に作用する土圧、地震力等の水平荷重は、壁体4及び地中梁5、6と地盤との間に作用する摩擦力、地中梁5、6の自重に起因する擁壁1の安定モーメント、鋼管杭2、3の引抜き耐力等によって支持される。
【0027】
鋼管杭2は壁体4及び地中梁5の交点に配置され、鋼管杭3は地中梁5、6の交点に配置される。鋼管杭2、3及び地中梁5は、直線的な軸組部材を長方形に剛接合してなるラーメン構造を構成し、外力により各軸組部材(鋼管杭2、3及び地中梁5)に発生した曲げモーメントは、各軸組部材を介して地盤等に伝達する。
【0028】
図4及び図5は、図2のI−I線及びII−II線における断面図であり、図6は、擁壁の軸組構造を概念的に示す斜視図である。
【0029】
鋼管杭2、3は均一な円形断面の鋼管からなり、地盤に鉛直に埋入される。鋼管杭2、3の下端部は、好ましくは、N値10以上の支持層Sに達する。鋼管杭2、3の下端開口は、円形盲板21、31によって閉塞される。
【0030】
鋼管杭2、3の上端開口22、32の高さレベルは実質的に同一であり、壁体4の天端レベルよりも所定距離h2だけ低い位置に設定される。低地盤面Laから測定した上端開口22、32の高さh4(=h1−h2)は、低地盤面Laから測定した壁体4の天端面の高さh1の1/2以上、好ましくは、2/3以上に寸法に設定される。本例においては、h1=5mであるので、h4≧2.50m、h2≦2.50mに設定され、好ましくは、h4≧3.33m、h2≦1.67mに設定される。
【0031】
また、地中梁5、6の天端位置は実質的に同一であり、上端開口22、32の位置よりも若干上方に設定される。地中梁5、6の天端位置は、壁体4の天端レベルよりも所定距離h3だけ低い位置に設定される。
【0032】
好ましくは、距離h2は800〜1600mmの範囲に設定され、距離h3は、500〜1200mmの範囲内に設定される。図4に仮想線(二点鎖線)で示すように木構造建築物等の建物Bが擁壁1の近傍に建設される場合、距離h3は、建物Bの基礎を地中梁5、6の上側に施工可能な寸法、例えば、少なくとも700mm程度に設定される。擁壁1の近傍の高地盤HGが空地、緑地、舗装路等として使用される場合には、距離h3は、地中梁5、6の埋設状態を維持し得る最小限の寸法、例えば、500mm程度に設定することができる。本例においては、距離h2は1300mmに設定され、距離h3は、1000mmに設定される。
【0033】
図5に示す如く、鋼管杭2、3の内部中空域には、壁体4及び地中梁5、6のコンクリートと連続するコンクリートが充填される。鋼管杭2、3を構成する鋼管の直径は、好ましくは、100mm〜400mmの範囲に設定される。コンクリート充填の施工性を考慮し、鋼管の直径を200mm以上に設定することが望ましい。本例では、鋼管の直径は、約250mmに設定されている。
【0034】
鋼管杭2の上部は壁体4の壁芯位置において壁体4内に埋設され、鋼管杭2の下部は地中に貫入し、鋼管杭2の先端部(下端部)は、前述の如く支持層Sに達する。鋼管杭3の杭頭部(上端部)は地中梁6の中心部に埋設され、地中に貫入し、鋼管杭3の先端部(下端部)は、前述の如く支持層Sに達する。
【0035】
壁体4は、縦横の壁筋(図示せず)を配筋した鉄筋コンクリート構造の壁体からなる。壁体4の壁厚は、好ましくは、400mm〜750mmの範囲に設定される。本例では、壁体4の壁厚は、約500mmに設定されている。壁筋として、D10〜D25程度の汎用の異形鉄筋が使用され、壁筋間隔は、100mm〜300mm程度の寸法に設定される。本例では、壁筋として、D13の異形鉄筋が使用され、壁筋の間隔は、250mm に設定されている。
【0036】
地中梁5、6は鉄筋コンクリート構造の水平横架材からなり、方形断面を有する。地中梁5、6の断面寸法は、450mm×450mm〜1000mm×1000mm程度の寸法の正方形断面又は長方形断面に設定される。本例において、地中梁5、6は、600mm×600mmの正方形断面を有する。地中梁5、6は、自重によって擁壁1の重心位置を高地盤HGの側に変位させる。擁壁1の重心位置の変位により、擁壁1の転倒を防止するように作用する安定モーメントが得られる。
【0037】
地中梁5の梁主筋(図示せず)は地中梁5の軸線方向に地中梁5内に配筋される。地中梁5の梁主筋の端部は、壁体4及び地中梁6内に延び、壁体4及び地中梁6のコンクリートに定着する。地中梁5の梁主筋(図示せず)として、D16〜D29程度の汎用の異形鉄筋を好ましく使用し得る。また、地中梁5のスタラップ筋(図示せず)として、D13〜D19程度の汎用の異形鉄筋を好ましく使用し得る。スタラップ筋は、例えば、150mm〜250mm程度の間隔に配置される。
【0038】
地中梁6の梁主筋(図示せず)は、地中梁6の軸線方向に地中梁6内に配筋される。梁主筋として、D16〜D29程度の汎用の異形鉄筋を好ましく使用し得る。また、地中梁6のスタラップ筋(図示せず)として、D13〜D19程度の汎用の異形鉄筋を好ましく使用し得る。スタラップ筋は、例えば、150mm〜250mm程度の間隔に配置される。
【0039】
本例においては、少なくとも2本の上端筋(図示せず)と、少なくとも2本の下端筋(図示せず)とが梁主筋として地中梁5、6に配筋されており、上端筋及び下端筋としてD19の異形鉄筋が使用されている。また、本例では、地中梁5、6のスタラップ筋としてD13の異形鉄筋が200mm間隔に配筋されている。
【0040】
図6には、擁壁1を構成する軸組構造が概念的に示されている。
【0041】
擁壁1は、鋼管杭2、3及び地中梁5からなるラーメン構造の骨組8を有する。骨組8は、2〜4m程度に設定された所定間隔を互いに隔てて配置される。各骨組8は、壁体4及び地中梁6によって相互連結され、骨組8、壁体4及び地中梁6は、全体として立体的構造体を構成する。
【0042】
地中梁5、6の自重と、鋼管杭3の引抜き抵抗とは、擁壁1の転倒モーメントに抗する安定モーメントとして働く。Y方向に壁体4に作用する高地盤HGの土圧は、図6に実線矢印で示す骨組8の反力によって支持される。
【0043】
高地盤HGの土圧とは反対方向の外力(地震力等)が壁体4に作用した場合、外力は、図6に破線矢印で示す骨組8の反力によって支持される。
【0044】
また、X方向に作用する外力(地震力等)が壁体4に作用した場合、外力は壁体4及び骨組8に分散し、壁体4及び骨組8の反力によって支持される。
【0045】
次に、擁壁1の施工方法について説明する。
【0046】
図7は、擁壁1を施工すべき地盤の地形を示す縦断面図である。地盤の高低差h5は約5mであり、擁壁1の高さh1(図1)と実質的に同一である。地盤は、かなり急勾配の法面(傾斜面)Gaを有し、地盤面La、Haに対する法面Gaの傾斜角度は、60度〜90度、例えば、70度である。
【0047】
図8は、杭施工工程における地盤の掘削範囲を示す縦断面図であり、図9及び図10は、鋼管杭2、3を地盤に圧入した状態を示す縦断面図及び平面図である。
【0048】
鋼管杭2、3の打設のために掘削される高地盤HGの掘削範囲Hbが図8に破線で示されている。掘削範囲Hbは、鋼管杭2、3及び地中梁5、6を施工可能な最小限の範囲に限定される。即ち、擁壁1の施工においては、従来の擁壁施工方法と異なり、大形フーチング施工のために高地盤HGを大きく掘削することを要しない。
【0049】
高地盤HGの掘削地盤面Hcには、オーガ併用の杭打ち機等によって杭孔(図示せず)が削孔され、鋼管杭2、3が地盤に圧入される。杭孔を削孔せずに、杭打ち機によって鋼管杭2、3を地盤に圧入するようにしても良い。鋼管杭2、3は、円形盲板21、31を有する先端部が支持層Sに若干喰込む位置まで地中に埋入される。鋼管杭2、3の杭頭部(上端開口22、32)は、頂面開口を開放した状態で掘削地盤面Hcから僅かに上方に突出し、或いは、掘削地盤面Hcと同等の高さレベルに位置する。鋼管杭2、3として、先端部に掘削刃(先端スクリュー)を備えた回転貫入式の埋設杭を使用し、鋼管杭2、3をパイルドライバ等の重機によって施工しても良い。
【0050】
所望により、高地盤HGを掘削する前に鋼管杭2、3を施工しても良い。この場合、鋼管杭2、3の杭頭部は、掘削地盤面Hcの僅かに上方又は同等のレベルまで杭打ち機械の治具によって地中に圧入される。掘削範囲Hbは、後述する型枠・配筋工程における掘削作業によって掘削される。
【0051】
変形例として、鋼管杭2、3の杭頭部が高地盤HGの地盤面Haから僅かに上方に突出し、或いは、地盤面Haと同等のレベルに位置するように鋼管杭2、3を施工することも可能である。この場合、掘削範囲Hbは、後述する型枠・配筋工程における掘削作業によって掘削され、上端開口22、32の位置よりも上方に位置する鋼管杭2、3の部分は切断・除去される。
【0052】
図11及び図12は、壁体4及び地中梁5、6の型枠・配筋工程を示す縦断面図及び平面図である。
【0053】
高地盤HG及び低地盤LGは、壁体4及び地中梁5、6の施工のために掘削される。高地盤HG及び低地盤LGは、壁体4及び地中梁5、6の施工のために必要とされる最小限の範囲に限定される。壁体4及び地中梁5、6の接地部分は、捨てコンクリート及び採石等によって整地され、壁体4及び地中梁5、6のコンクリート打設用型枠11、51、61が所定位置に建て込まれる。壁体4及び地中梁5、6の壁筋、梁主筋及びスタラップ筋(図示せず)が型枠11、51、61内に配筋される。配筋・型枠の施工が完了した後、流動状態のコンクリートC(図13)が型枠11、51、61内に流し込まれる。
【0054】
図13は、コンクリート打設直後の状態を示す縦断面図であり、図14は、コンクリート養生、型枠解体・撤去及び掘削土埋戻しを行った後の状態を示す縦断面図である。
【0055】
図13に示す如く、コンクリートCは、型枠11、51、61内に充填されるとともに、鋼管杭2、3の上端開口22、32を介して鋼管杭2、3内に流入し、鋼管杭2、3の内部中空域に充填される。所定の養生期間を経た後、型枠11、51、61が解体・撤去され、高地盤HG及び低地盤LGの掘削土が埋戻される。
【0056】
図14には、高地盤HGの埋戻し工程を完了した状態が示されている。低地盤LGは、壁体4の施工のために必要最小限の範囲を掘削されたにすぎないので、比較的少量の埋戻し土によって低地盤LGを埋戻すことができる。高地盤HGも又、鋼管杭2、3及び地中梁5、6の施工のために必要最小限の範囲を掘削されたにすぎず、従って、大形フーチング施工のために高地盤HGを大きく掘削する従来の擁壁施工方法に比べ、かなり少量の埋戻し土によって高地盤HGを埋戻すことができる。即ち、本発明の擁壁構造によれば、掘削土、廃土及び埋戻し土の量を大幅に削減することができる。
【0057】
このような掘削土の埋戻しにより、擁壁1の工事が完了するが、かくして施工された擁壁1によれば、地中梁5は、垂直軸組部材を構成する鋼管杭2、3の杭頭同士を相互連結する水平軸組部材を構成し、地中梁6は、地中梁5及び鋼管杭2、3からなるラーメン構造の構造体を相互連結するので、立体的な方形骨組が壁体4の背後に構築される。
【0058】
擁壁1の重心を非転倒側に変位させる鉛直荷重が、地中梁5、6の自重によって壁体4の背後に作用するとともに、擁壁1の転倒に抗する摩擦力が、地中梁5、6と高地盤HGとの間に作用する。
【0059】
また、鋼管杭3は、高地盤HGを安定させるとともに、杭重量(自重)、引抜き抵抗、地盤との摩擦等によって、擁壁1の転倒又は滑動や、地中梁5、6の浮き上がり等を効果的に防止する。
【0060】
以上、本発明の好適な実施例について詳細に説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の範囲内で種々の変形又は変更が可能であることはいうまでもない。
【0061】
例えば、上記実施例は、直線的な壁体4を有する擁壁に関するのものであるが、湾曲した平面形態の擁壁、或いは、角度をなして複雑に屈曲する擁壁等の各種平面形態の擁壁に対して本発明を適用しても良い。
【0062】
また、上記実施例においては、鋼管杭3の杭列は壁体4と平行に配置され、地中梁5は壁体4と直交する方向に配向されているが、鋼管杭3の杭列を壁体4に対して所定角度をなす方向又は不規則に配列しても良く、地中梁5を壁体4と所定角度をなす方向に配向しても良い。
【0063】
更に、上記実施例では、円形断面の鋼管杭2、3を使用しているが、方形、多角形、楕円形、長円形等の断面の鋼管を鋼管杭2、3として使用しても良い。
【0064】
更に又、上記実施例の地中梁5、6の断面形状は、任意に設定し得るものであり、例えば、地中梁5、6を方形断面以外の断面に設計しても良い。
【0065】
なお、擁壁には、水抜孔等を適所に配設しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、崖、急傾斜地又は水路等に施工される擁壁に適用される。本発明の擁壁は、大型フーチングの施工を要しないので、擁壁の施工性は、大きく改善する。また、本発明によれば、高地盤の掘削量を削減し得るので、従来の擁壁構造では擁壁の施工が困難であった地盤においても擁壁を施工することができる。更に、本発明によれば、壁体の高地盤側に構築された立体的な方形骨組によって、高さ3m以上の擁壁を構造的に安定させることができるので、その実用的効果は顕著である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋コンクリート構造の壁体と、水平土圧に抗する安定モーメントを壁体に与える鉄筋コンクリート構造且つ地中梁形態の錘形基礎とを有する擁壁において、
高地盤に並列に配列された第1及び第2鋼管杭と、前記錘形基礎と前記壁体との間に延び且つ両端部が前記錘形基礎及び前記壁体に接合された鉄筋コンクリート構造の地中梁とを有し、
前記第1及び第2鋼管杭の杭頭部は、低地盤面から測定した前記壁体の高さの1/2以上の高さ位置に配置され、
前記第1鋼管杭の杭頭部は、前記壁体内に埋設され且つ前記壁体と一体化するとともに、前記壁体と前記地中梁との交差部に配置され、
前記第2鋼管杭の杭頭部は、前記錘形基礎内に埋設され且つ該錘形基礎と一体化するとともに、前記錘形基礎と前記地中梁との交差部に配置されることを特徴とする擁壁。
【請求項2】
前記第1及び第2鋼管杭の杭頭部の高さは、低地盤面から測定した前記壁体の高さの2/3以上の高さ位置に配置されることを特徴とする請求項1に記載の擁壁。
【請求項3】
前記壁体、地中梁及び錘形基礎は、平面視格子状に配置されることを特徴とする請求項1又は2に記載の擁壁。
【請求項4】
前記第1及び第2鋼管杭の内部中空域には、前記錘形基礎、地中梁及び壁体のコンクリートと連続するコンクリートが充填されたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の擁壁。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載された擁壁の施工方法であって、
前記第1及び第2鋼管杭を高地盤に施工する杭工程と、
前記錘形基礎、地中梁及び壁体のコンクリート型枠を施工すべく高地盤を掘削する掘削工程と、
前記錘形基礎、地中梁及び壁体のコンクリート型枠及び配筋を施工する型枠・配筋工程と、
前記型枠内にコンクリートを打設し、前記型枠内の空間と、前記第1鋼管杭及び第2鋼管杭の内部にコンクリートを充填するコンクリート打設工程とを有することを特徴とする擁壁の施工方法。
【請求項6】
前記杭工程は、前記鋼管杭の施工前に前記杭頭部の高さ位置まで高地盤を掘削する工程を含むことを特徴とする請求項5に記載の施工方法。
【請求項7】
前記鋼管杭は、高地盤を掘削しない状態で高地盤に施工され、前記掘削工程は、前記杭頭部の高さ位置まで高地盤を掘削する工程を含むことを特徴とする請求項5に記載の施工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−236571(P2011−236571A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−106795(P2010−106795)
【出願日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【出願人】(505132792)有限会社カヌカデザイン (7)
【Fターム(参考)】