説明

操作型抗TSLP抗体本出願は、米国特許仮出願第61/297,008号(2010年1月21日出願)、および米国特許仮出願第61/258,051号(2009年11月4日出願)の利益を主張し、該仮出願は各々、引用によりその全体が本明細書に組み込まれる。

本発明は、ヒトTSLPに特異的に結合する結合性化合物、ならびに、例えば炎症性障害およびアレルギー性炎症応答の処置におけるその使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して胸腺間質性リンパ球新生因子(TSLP)特異的抗体、および特に炎症およびアレルギー性炎症性障害におけるその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
TSLPは、樹状細胞媒介性CD4T細胞応答を誘発する免疫サイトカインであり、TSLPによって活性化されたプロアロジェニック(proallogenic)表現型DCは、ナイーブT細胞がTh2細胞となって、アレルギー性炎症の重要なメディエーターIl−4、IL−5およびIL−13を生成するように指令するアレルギー促進性(proallergenic)サイトカイン、ケモカインおよび共刺激分子の生成により、アレルギー性炎症性のTh2および肥満細胞応答の誘導および維持に重要な役割を果たす。アトピー性皮膚炎(AtD)、ネザートン症候群および喘息におけるTSLPの過剰発現は、このようなアレルギー性炎症性疾患の病因におけるこのサイトカインの重要な役割を示す。これは、皮膚または肺におけるTSLPのトランスジェニック過剰発現および遺伝子標的化によるTSLPの負の調節因子の除去によりヒトアトピー性皮膚炎または喘息と非常によく似たアレルギー性炎症性疾患引き起こすという動物モデルによって裏付けられている。本発明は、操作型TSLP抗体、および炎症、特にアレルギー性炎症性障害、例えば、喘息およびアトピー性皮膚炎を処置するためのその使用を提供する。
【0003】
本発明は、先行技術の抗体の潜在的脱アミド化の問題を回避する。Asn(N)残基の脱アミド化は、よく見られるタンパク質の劣化であり、タンパク質の構造と機能に有意な影響を及ぼすことがあり得る。抗体では、CDR内に存在するAsn(N)が急速な脱アミド化を受け、そして抗体−抗原相互作用の変化がもたらされることがあり得、したがって、抗体ベースの治療薬開発の際の大きな懸念である。例えば、Vlaskaら,Analytical Biochemistry 392:145−154(2009)参照。したがって、ヒトへの使用のための開発が意図される抗体において、このような潜在的脱アミド化の問題を回避することは重要である。さらに、抗体の重要な特徴(結合親和性など)を変更することなく、このような問題を回避することが重要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Vlaskaら,Analytical Biochemistry 392:145−154(2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、少なくとも1つの抗体重鎖可変領域またはそのTSLP結合断片を含む、ヒトTSLPに特異的に結合する結合性化合物であって、前記重鎖可変領域が配列番号2を含む結合性化合物を提供する。
【0006】
また、本発明は、少なくとも1つの抗体重鎖可変領域またはそのTSLP結合断片を含む、ヒトTSLPに特異的に結合する結合性化合物であって、前記重鎖可変領域が、少なくとも配列番号2と配列番号1、または配列番号2と配列番号3を含む結合性化合物を提供する。
【0007】
また、本発明は、少なくとも1つの抗体重鎖可変領域またはそのTSLP結合断片を含む、ヒトTSLPに特異的に結合する結合性化合物であって、前記重鎖可変領域が配列番号1、配列番号2および配列番号3を含む結合性化合物を提供する。
【0008】
本発明の結合性化合物は、さらに、1つの抗体軽鎖可変領域またはそのTSLP結合断片を含むものであり得る。一実施形態において、抗体軽鎖可変領域またはそのTSLP結合断片は、配列番号4、5および6からなる群より選択される少なくとも1つの配列を含む。別の実施形態では、抗体軽鎖可変領域またはそのTSLP結合断片は、配列番号4、5および6からなる群より選択される少なくとも2つの配列を含む。他の実施形態では、抗体軽鎖可変領域またはそのTSLP結合断片は、配列番号4、5および6に示された3つの配列を有する。
【0009】
上記の結合性化合物の一部の実施形態では、該重鎖可変領域の残りの全部または実質的に全部が、ヒトIg領域の全部または実質的に全部であり;該軽鎖可変領域(variable region variable region)の残りの全部または実質的に全部が、ヒトIg領域の全部または実質的に全部である。好ましい実施形態では、該重鎖可変領域の残りはヒト重鎖アミノ酸配列であり;該軽鎖可変領域の残りはヒト軽鎖アミノ酸配列である。
【0010】
また、本発明は、(i)配列番号7;(ii)配列番号7、または3個までの修飾アミノ酸残基を含むバリアント;および(iii)配列番号7と少なくとも97%の相同性を有する配列からなる群より選択される配列を含む重鎖可変領域を含む、ヒトTSLPに特異的に結合する結合性化合物を提供する。一実施形態において、重鎖可変領域は、配列番号7に示す配列を含む。一部の実施形態では、本発明の結合性化合物は、さらに軽鎖可変領域を含む。一実施形態において、軽鎖可変領域は、(i)配列番号8;(ii)配列番号8、または3個までの修飾アミノ酸残基を含むバリアント;および(iii)配列番号8と少なくとも97%の相同性を有する配列、からなる群より選択される配列を含む。一実施形態において、軽鎖可変領域は、配列番号8に示す配列を含む。
【0011】
好ましい実施形態において、結合性化合物は、配列番号7に示す配列を含む重鎖可変領域と配列番号8に示す配列を含む軽鎖可変領域を含む。
【0012】
一部の実施形態では、本発明の結合性化合物は、重鎖定常領域および/または軽鎖定常領域も含む。一部の実施形態では、重鎖定常領域が、γ1、γ2、γ3またはγ4ヒト重鎖定常領域またはそのバリアントを含む。他の実施形態では、軽鎖定常領域が、λまたはκヒト軽鎖定常領域を含む。
【0013】
一部の実施形態では、本発明の結合性化合物は抗体またはその抗原結合断片である。種々の実施形態において、本発明の抗体またはその断片は、ポリクローナル、モノクローナル、キメラ、cyno化、ヒト化または完全ヒト型である。好ましい実施形態において、該抗体はヒト化抗体またはその断片である。
【0014】
また、本発明では、該結合断片が、Fab、Fab’、Fab’−SH、Fv、scFv、F(ab’)およびダイアボディからなる群より選択される抗体断片であることを意図する。また、本発明では、結合性化合物がナノボディ、アビマーまたはアプティマー(aptimer)であることを意図する。
【0015】
一実施形態において、結合性化合物は、配列番号11を含む重鎖を含む抗体である。一実施形態において、結合性化合物は、配列番号11を含む重鎖と配列番号12を含む軽鎖を含む。
【0016】
別の好ましい実施形態では、本発明の結合性化合物は、ヒトおよびcyno TSLPに結合する。
【0017】
一実施形態において、本発明の結合性化合物は、ATCC寄託番号PTA−10482で寄託された発現ベクターで発現させることができる。
【0018】
別の実施形態では、本発明の結合性化合物は、ATCC寄託番号PTA−10482で寄託された発現ベクターで発現させることができる重鎖および軽鎖を含む。別の実施形態では、本発明の結合性化合物は、ATCC寄託番号PTA−10482で寄託された発現ベクターで発現させることができる重鎖可変領域と軽鎖可変領域を含む。別の実施形態では、本発明の結合性化合物は、ATCC寄託番号PTA−10482で寄託された発現ベクターによって発現させた抗体のCDR−H1、CDR−H2およびCDR−H3、ならびにCDR−L1、CDR−L2およびCDR−L3領域を含む。
【0019】
別の実施形態では、本発明の結合性化合物は、ATCC寄託番号PTA−10482で寄託された発現ベクターで発現させることができる重鎖を含む。別の実施形態では、本発明の結合性化合物は、ATCC寄託番号PTA−10482で寄託された発現ベクターで発現させることができる重鎖可変領域を含む。別の実施形態では、本発明の結合性化合物は、ATCC寄託番号PTA−10482で寄託された発現ベクターによって発現させた抗体のCDR−H1、CDR−H2およびCDR−H3領域を含む。
【0020】
また、本発明は、本発明の結合性化合物をコードする単離された核酸を提供する。一実施形態において、本発明は、本発明の結合性化合物(例えば、抗体または抗体断片)の重鎖可変領域をコードする核酸を含む。別の実施形態では、本発明は、重鎖可変領域を含む結合性化合物をコードする核酸であって、前記重鎖可変領域が配列番号1、配列番号2および配列番号3を含む。別の実施形態では、本発明は、配列番号7をコードする核酸を含む。別の実施形態では、本発明は、配列番号2をコードする核酸を含む。一実施形態において、本発明は、ATCC寄託番号PTA−10482で寄託された発現ベクターにコードされた重鎖可変領域をコードする核酸を含む。また、本発明は、宿主細胞がベクターにトランスフェクトされると、該宿主細胞によって認識される、制御配列に機能し得るように連結された、本発明の核酸を含む発現ベクターを提供する。一実施形態において、本発明は、ATCC寄託番号PTA−10482で寄託された発現ベクターを提供する。また、該発現ベクターを含む宿主細胞、およびポリペプチドの作製のための該発現ベクターの使用方法も提供する。一実施形態において、宿主細胞は、ATCC寄託番号PTA−10482で寄託された発現ベクターを含む。該ポリペプチドの作製方法は、該宿主細胞を培養培地中で該核酸配列が発現される条件下で培養し、それにより軽鎖および重鎖の可変領域を含むポリペプチドを生成させる工程;および該ポリペプチドを宿主細胞または培養培地から回収する工程を含む。一実施形態において、本発明は、ATCC寄託番号PTA−10482で寄託された発現ベクターを含む宿主細胞を培養培地中で、該ベクターが発現される条件下で培養し、それにより、軽鎖および重鎖の可変領域を含むポリペプチドを生成させる工程;および該ポリペプチドを宿主細胞または培養培地から回収する工程を含む、ポリペプチドの作製方法を含む。
【0021】
本発明は、ヒト被験者において免疫応答を抑制する方法であって、それを必要とする被験者に、ヒトTSLPに特異的に結合する本発明の結合性化合物をTSLPの生物学的活性がブロックされるのに有効な量で投与することを含む方法を包含する。また、本発明は、さらなる免疫抑制剤または抗炎症剤の投与を意図する。好ましい実施形態において、免疫応答は喘息である。別の好ましい実施形態では、免疫応答はアレルギー性炎症である。別の好ましい実施形態では、アレルギー性炎症は、アレルギー性鼻副鼻腔炎、アレルギー性喘息、アレルギー性結膜炎またはアトピー性皮膚炎である。別の好ましい実施形態では、免疫応答は、線維症、炎症性腸疾患またはホジキンリンパ腫である。別の好ましい実施形態では、結合性化合物は別の免疫調節剤と併用して投与される。
【0022】
本発明の結合性化合物は、本発明の結合性化合物(例えば、抗体またはその断片)を薬学的に許容され得る担体または希釈剤と組合せて含む組成物の状態であってもよい。さらなる実施形態では、該組成物は、さらに、免疫抑制剤または抗炎症剤を含む。
【0023】
種々の実施形態において、本発明は、本発明の結合性化合物(例えば、抗体またはその断片)を含む医薬に関する。例えば、本発明は、免疫応答を抑制するための医薬の調製のためのヒトTSLPに特異的に結合する結合性化合物の使用を包含する。本発明は、喘息を処置するための医薬の調製のためのヒトTSLPに特異的に結合する結合性化合物(例えば、本発明の結合性化合物の任意の1種類)の使用を包含する。本発明は、炎症性障害を処置するための医薬の調製のためのヒトTSLPに特異的に結合する結合性化合物の使用を包含する。一実施形態において、炎症性障害はアレルギー性炎症性障害である。一実施形態において、アレルギー性炎症性障害はアレルギー性鼻副鼻腔炎、アレルギー性喘息、アレルギー性結膜炎またはアトピー性皮膚炎である。好ましい実施形態では、アレルギー性炎症性障害はアレルギー性喘息である。別の好ましい実施形態では、アレルギー性炎症性障害はアトピー性皮膚炎である。例えば、本発明の抗体および断片はヒトを処置するために使用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】国際公開第2008/076321号の配列番号14と対比させた本出願書類の配列番号11のアライメントである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本明細書(添付の特許請求の範囲を含む)で用いる場合、「a」、「an」および「the」などの単語の単数形は、本文中で特に明白な記載のない限り、その対応する複数の指示対象物を含む。本明細書で挙げた参考文献はすべて、引用により、個々の各刊行物、特許出願または特許が、あたかも具体的に個々に引用により組み込まれて示されているのと同程度に本明細書に組み込まれる。
【0026】
I.定義
「活性化」、「刺激」および「処置」は、細胞または受容体に適用される場合、別途記載または明示がない限り、例えば、リガンドによる細胞または受容体の活性化、刺激または処理と同じ意味を有し得る。「リガンド」は、天然および合成のリガンド、例えば、サイトカイン、サイトカインバリアント、類似体、ムテイン、および抗体から誘導される結合性組成物を包含する。また、「リガンド」は、小分子、例えば、サイトカインのペプチド模倣物および抗体のペプチド模倣物も包含する。「活性化」は、内部機構および外部因子または環境因子によって調節される細胞活性化を示すこともあり得る。例えば、細胞、組織、器官または生物体の「応答」は、生化学的または生理学的挙動、例えば、生物学的区画内での濃度、密度、接着もしくは遊走、遺伝子発現速度、または分化状態の変化を包含し、ここで、該変化は、該活性化、刺激もしくは処置、または内部機構(遺伝的プログラミングなど)と相関している。
【0027】
分子の「活性」は、リガンドまたは受容体に対する分子の結合、触媒活性;遺伝子発現または細胞のシグナル伝達、分化もしくは成熟を刺激する能力;抗原活性、他の分子の活性のモジュレーションなどを記載または言及するものであり得る。また、「活性」は、特異的活性、例えば、[触媒活性]/[mgタンパク質]、または[免疫学的活性]/[mgタンパク質]、生物学的区画内での濃度などを意味する場合もあり得る。
【0028】
「投与」および「処置」は、動物、ヒト、実験被験者、細胞、組織、器官、または生体液に適用され、動物、ヒト、被験者、細胞、組織、器官または生体液に対する外因性の医薬用、治療用、診断用の薬剤または組成物の接触をいう。「投与」および「処置」は、例えば、治療、薬物動態、診断、研究および実験の方法を示すものであり得る。細胞の処理は、細胞に対する試薬の接触、および液に対する試薬の接触(ここで、該液は細胞と接触している)を包含する。また、「投与」および「処置/処理」は、例えば、試薬、診断薬、結合性組成物による、または別の細胞による細胞のインビトロおよびエキソビボ処理を意味する。「処置」は、ヒト被験者、獣医学的被験者または研究用被験者に適用される場合、研究および診断適用に対する治療的処置、予防的(「prophylactic」または「preventative」)手段をいう。
【0029】
「結合性化合物」は、ヒトTSLPに特異的に結合する1つ以上のアミノ酸配列を含む分子をいう。好ましい一実施形態において、結合性化合物は、抗体、好ましくは単離された抗体である。別の好ましい実施形態では、結合性化合物は、抗体の抗原結合断片を含む。
【0030】
「結合性組成物」は、安定剤、賦形剤、塩、バッファー、溶媒または添加剤と組み合わせたTSLP−結合性化合物であって、標的に結合し得るものをいう。
【0031】
また、本発明の範囲には、TSLPポリペプチドまたはその抗原性断片と複合体化された、本発明の任意の抗体またはその抗原結合断片を含む複合体も含まれる。該複合体は、該抗体またはその断片をTSLPポリペプチドまたはその抗原断片と接触させることにより調製され得る。
【0032】
本明細書で用いる場合、用語「抗体」は、所望の生物学的活性を示す任意の形態の抗体またはその断片をいう。したがって、これは、最も広い意味で使用しており、所望の生物学的活性を示す限り、特にモノクローナル抗体(例えば、完全長モノクローナル抗体)、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、および抗体断片を包含する。「単離された抗体」は、結合性化合物が精製された状態をいい、かかる状況において、分子が他の生物学的分子(核酸、タンパク質、脂質、糖質など)、または他の物質(細胞残屑および増殖培地など)を実質的に含有していないことを意味する。一般的に、用語「単離された」は、これらが本明細書に記載の結合性化合物の実験的または治療的使用を実質的に妨げない量では存在しないのであれば、かかる物質の完全な非存在、または水、バッファーもしくは塩の非存在を示すことを意図するものでない。
【0033】
「Fab断片」は、1つの軽鎖とCH1と1つの重鎖の可変領域を含む。Fab分子の重鎖は別の重鎖分子とジスルフィド結合を形成することができない。
【0034】
「Fc」領域は、抗体のCH2およびCH3ドメインを含む2つの重鎖断片を含む。この2つの重鎖断片は、2つ以上のジスルフィド結合とCH3ドメインの疎水性相互作用によって一緒に保持されている。
【0035】
「Fab’断片」は1つの軽鎖と1つの重鎖の一部分または断片を含み、該重鎖の一部分または断片には、VHドメインおよびCH1ドメインが含まれ、また、CH1ドメインとCH2ドメイン間の領域が、2つのFab’断片の重鎖間に鎖間ジスルフィド結合が形成されてF(ab’)2分子が形成され得るように含まれている。
【0036】
「F(ab’)2断片」は、2つの軽鎖と、CH1ドメインとCH2ドメイン間の定常領域の一部分を含む2つの重鎖を含み、鎖間ジスルフィド結合は2つの重鎖の間に形成される。したがって、F(ab’)2断片は、2つの重鎖間のジスルフィド結合によって互いに保持された2つのFab’断片で構成されている。
【0037】
「Fv領域」は、重鎖と軽鎖の両方の可変領域を含むが、定常領域を欠く。
【0038】
本明細書で用いる場合、用語「TSLP結合断片」または「その結合断片」は、抗体(または別の結合性物質)の断片または誘導体であって、TSLP活性を阻害する生物学的活性をなお実質的に保持しているものを包含する。したがって、用語「抗体断片」またはTSLP結合断片は、完全長抗体の一部分、一般的にはその抗原結合領域または可変領域をいう。抗体断片の例としては、Fab、Fab’、F(ab’)、およびFv断片;ダイアボディ;線形抗体;単鎖抗体分子、例えば、sc−Fv;ドメイン抗体;および抗体断片から形成された多重特異性抗体が挙げられる。典型的には、該結合断片または誘導体は、TSLP阻害活性の少なくとも10%を保持している。所望の生物学的効果が奏されるのに充分な親和性を有する任意の結合断片が有用であるが、好ましくは、該結合断片または誘導体は、TSLP阻害活性の少なくとも25%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、99%または100%(またはそれ以上)を保持している。また、TSLP結合断片は、その生物学的活性を実質的に改変しない保存的なアミノ酸置換を含み得ることも意図する。
【0039】
用語「モノクローナル抗体」は、本明細書で用いる場合、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体をいい、すなわち、該集団を含む個々の抗体は、微量で存在し得る天然の変異が存在し得ること以外は同一である。モノクローナル抗体は高度に特異的であり、単一の抗原エピトープに指向される。対照的に、慣用的な(ポリクローナル)抗体調製物は、典型的には、異なるエピトープに指向される(または特異的な)多様な抗体を含む。修飾語句「モノクローナル」は、実質的に均一な抗体集団から得られるものであるという抗体の性質を示しており、なんら特定の方法による抗体の作製を必要とするものと解釈されるべきでない。例えば、本発明に従って使用されるモノクローナル抗体は、ハイブリドーマ法(最初に、Kohlerら,(1975)Nature 256:495に報告)によって作製され得るか、または組換えDNA法(例えば、米国特許第4,816,567号参照)によって作製され得る。また、「モノクローナル抗体」はファージ抗体ライブラリーから、例えば、Clacksonら,(1991)Nature 352:624−628 and Marksら,(1991)J.Mol.Biol.222:581−597に記載された手法を用いて単離されたものであってもよい。
【0040】
本明細書におけるモノクローナル抗体としては、具体的には、「キメラ」抗体(免疫グロブリン)が挙げられ、ここで、重鎖および/または軽鎖の一部分は特定の種に由来する抗体または特定の抗体クラスもしくはサブクラスに属する抗体の対応配列と同一または相同であるが、該鎖(1つまたは複数)の残部は別の種に由来する抗体または別の抗体クラスもしくはサブクラスに属する抗体、およびかかる抗体の断片(ただし、所望の生物学的活性を示すものとする)の対応配列と同一または相同である(米国特許第4,816,567号;およびMorrisonら,(1984)Proc.Natl.Acad Sci.USA 81:6851−6855)。
【0041】
「ドメイン抗体」は、重鎖の可変領域または軽鎖の可変領域のみを含む免疫学的機能性の免疫グロブリン断片である。一例として、2つ以上のV領域が共有結合によりペプチドリンカーと連接され、二価ドメイン抗体となったものである。二価ドメイン抗体のこの2つのV領域は、同一または異なった抗原を標的化するものであってもよい。
【0042】
「二価抗体」は、2つの抗原結合部位を含む。一例として、該2つの結合部位は同じ抗原特異性を有する。しかしながら、二価抗体は二重特異性であってもよい。
【0043】
本明細書で用いる場合、用語「単鎖Fv」または「scFv」抗体は、抗体のVおよびVドメインを含む抗体断片をいい、これらのドメインが単一のポリペプチド鎖内に存在する。一般的に、Fvポリペプチドには、さらに、VドメインとVドメインの間にポリペプチドリンカーが含まれており、これにより、sFvが抗原結合のための所望の構造を形成することが可能である。sFvの概説については、Pluckthun(1994)THE PHARMACOLOGY OF MONOCLONAL ANTIBODIES,第113巻,RosenburgおよびMoore編.Springer−Verlag,New York,pp.269−315を参照のこと。
【0044】
また、本明細書におけるモノクローナル抗体として、ラクダ化(camelized)単一ドメイン抗体も挙げられる。例えば、Muyldermansら(2001)Trends Biochem.Sci.26:230;Reichmannら(1999)J.Immunol.Methods 231:25;国際公開第94/04678号;同第94/25591号;米国特許第6,005,079号(これらは引用によりその全体が本明細書に組み込まれる)参照。一実施形態として、本発明は、単一ドメイン抗体が形成されるような修飾を有する2つのVドメインを含む単一ドメイン抗体を提供する。
【0045】
本明細書で用いる場合、用語「ダイアボディ」は、2つの抗原結合部位を有する抗体小断片であって、該断片は、同じポリペプチド鎖(V−VまたはV−V)内で軽鎖可変ドメイン(V)に連結された重鎖可変ドメイン(V)を含む。同じ鎖上において2つのドメイン間の対合を可能にするには短すぎるリンカーを使用することにより、該ドメインは強制的に別の鎖の相補的なドメインと対合され、2つの抗原結合部位が作出される。ダイアボディは、例えば、欧州特許第404,097号;国際公開第93/11161号;およびHolligerら(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:6444−6448に、より充分に記載されている。操作型抗体バリアントの概説については、一般的には、HolligerおよびHudson(2005)Nat.Biotechnol.23:1126−1136を参照のこと。
【0046】
本明細書で用いる場合、用語「ヒト化抗体」は、非ヒト(例えば、マウス)抗体由来の配列およびヒト抗体由来の配列を含む抗体の形態をいう。かかる抗体は、非ヒト免疫グロブリン由来の最小の配列を含む。一般に、ヒト化抗体は、少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインの実質的に全部を含むものであり、超可変ループの全部または実質的に全部が非ヒト免疫グロブリンのものに対応し、FR領域の全部または実質的に全部がヒト免疫グロブリン配列のものである。また、ヒト化抗体は、場合により免疫グロブリンの定常領域(Fc)(典型的にはヒト免疫グロブリンのもの)の少なくとも一部分も含む。接頭辞「h」、「hu」または「hum」は、ヒト化抗体(例えば、「hu23B12」)を親齧歯類抗体(例えば、ラット23B12、または「r23B12」)と区別することが必要である場合、抗体クローンの指示物に付加している。齧歯類抗体のヒト化形態は、一般的には、親齧歯類抗体と同じCDR配列を含むものであるが、親和性を増大させるため、またはヒト化抗体の安定性を増大させるために特定のアミノ酸置換を含めてもよい。
【0047】
また、本発明の抗体は、エフェクター機能の改変をもたらす修飾(またはブロック)Fc領域を有する抗体も含む。例えば、米国特許第5,624,821号;国際公開第2003/086310号;同第2005/120571号;同第2006/0057702号;Presta(2006)Adv.Drug Delivery Rev.58:640−656参照。かかる修飾は、免疫機構の種々の反応を増強または抑制するために使用され得、診断および治療において有益な効果の可能性を伴う。Fc領域の改変としては、アミノ酸変化(置換、欠失および挿入)、グリコシル化または脱グリコシル化および多数のFcの付加が挙げられる。また、Fcに対する変化により、治療用抗体では抗体の半減期が改変され得、半減期が長くなると投与頻度が少なくなり得、付随して簡便性が増大し、物質使用が低減される。Presta(2005)J.Allergy Clin.Immunol.l l6:131の734−35頁参照。
【0048】
用語「完全ヒト型抗体」は、ヒト免疫グロブリンタンパク質の配列のみを含む抗体をいう。完全ヒト型抗体は、マウス、マウス細胞またはマウス細胞由来のハイブリドーマにおいて生成させた場合、マウス糖鎖を含むことがあり得る。同様に、「マウス抗体」は、マウス免疫グロブリンの配列のみを含む抗体をいう。
【0049】
本明細書で用いる場合、用語「超可変領域」は、抗原結合を担う抗体のアミノ酸残基をいう。超可変領域は、「相補性決定領域」または「CDR」由来のアミノ酸残基(例えば、軽鎖可変ドメインの残基24〜34(CDRL1)、50〜56(CDRL2)および89〜97(CDRL3)、および重鎖可変ドメインの残基31〜35(CDRH1)、50〜65(CDRH2)および95〜102(CDRH3);Kabatら,(1991)Sequences of Proteins of Immunological Interest,第5版.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,Md.)、および/または「超可変ループ」由来の残基(すなわち、軽鎖可変ドメインの残基26〜32(L1)、50〜52(L2)および91〜96(L3)、ならびに重鎖可変ドメインの26〜32(H1)、53〜55(H2)および96〜101(H3);ChothiaおよびLesk,(1987)J.Mol.Biol.196:901−917)を含む。本明細書で用いる場合、用語「フレームワーク」または「FR」残基は、本明細書においてCDR残基と定義した超可変領域残基以外の可変ドメイン残基をいう。上記の残基の番号付けはKabat番号付けシステムに関連しているが、必ずしも添付の配列表の配列の番号付けとは詳細に対応していない。
【0050】
「結合(する)」は結合性組成物と標的との会合であって、結合性組成物が溶液中に溶解または懸濁され得る場合は結合性組成物の通常のブラウン運動の低減がもたらされる会合をいう。
【0051】
「保存的な修飾バリアント」または「保存的置換」は、当業者に知られており、一般的に、得られる分子の生物学的活性が改変されることなく行われ得るアミノ酸置換をいう。当業者には、一般に、ポリペプチドの非必須領域における単一アミノ酸置換が生物学的活性を実質的に改変しないことは認識されよう(例えば、Watsonら,Molecular Biology of the Gene,The Benjamin/Cummings Pub.Co.,p.224(第4版 1987)参照)。例示的なかかる置換は、好ましくは、以下の表1に示したものに従って行われる。
【表1】

【0052】
「有効量」は、医学的症状の兆候または前兆が改善または予防されるのに充分な量を包含する。また、有効量は診断を可能または容易にするのに充分な量も意味する。具体的な患者または獣医学的被験者に対する有効量は、治療対象の病状、患者の全体的な健康状態、投与の経路および用量ならびに副作用の重症度などの要素に応じて異なり得る(例えば、Nettiらに発行された米国特許第5,888,530号参照)。有効量は、有意な副作用または毒性効果が回避される最大用量または投与プロトコルであり得る。その効果は、通常の被験者によって示される診断パラメータを100%と規定した場合、診断測定値またはパラメータの改善が少なくとも5%、通常、少なくとも10%、より通常では少なくとも20%、最も通常では少なくとも30%、好ましくは少なくとも40%、より好ましくは少なくとも50%、最も好ましくは少なくとも60%、理想的には少なくとも70%、より理想的には少なくとも80%、最も理想的には少なくとも90%となるものである(例えば、Maynardら(1996)A Handbook of SOPs for Good Clinical Practice,Interpharm Press,Boca Raton,FL;Dent(2001)Good Laboratory and Good Clinical Practice,Urch Publ.,London,UK参照)。
【0053】
本明細書で用いる場合、用語「単離された核酸分子」は、同定され、抗体の核酸の天然供給源では元々会合している少なくとも1種類の夾雑核酸分子から分離された核酸分子をいう。単離された核酸分子は、自然界に見出される形態または状況以外のものである。したがって、単離された核酸分子は、天然細胞に存在している核酸分子とは区別される。しかしながら、単離された核酸分子は、例えば、該核酸分子が天然細胞とは異なる染色体位置に存在しているような、抗体を通常に発現する細胞中に含有された核酸分子を包含する。
【0054】
表現「制御配列」は、特定の宿主生物体において、機能し得るように連結されたコード配列の発現に必要なDNA配列をいう。原核生物に適した制御配列としては、例えば、プロモーター、任意選択でオペレーター配列、およびリボソーム結合部位が挙げられる。真核生物細胞では、プロモーター、ポリアデニル化シグナル、およびエンハンサーが使用されることが知られている。
【0055】
核酸は、別の核酸配列と機能的関係で配置されている場合、「機能し得るように連結」されている。例えば、プレ配列または分泌性リーダー配列のDNAは、ポリペプチドの分泌に関与するプレタンパク質として発現される場合、該ポリペプチドのDNAに機能し得るように連結されており;プロモーターまたはエンハンサーは、コード配列の転写に影響を及ぼす場合、該配列に機能し得るように連結されており;またはリボソーム結合部位が、翻訳が助長されるような位置にある場合、コード配列に機能し得るように連結されている。一般的に、「機能し得るように連結されている」とは、連結されたDNA配列が隣接していること、および、分泌性リーダー配列の場合は、隣接し、かつ読み枠(reading phase)にあることを意味する。しかしながら、エンハンサーは、隣接していなくてもよい。連結は、簡便な制限部位でのライゲーションによって行われる。かかる部位が存在しない場合は、合成オリゴヌクレオチドアダプターまたはリンカーが、慣用実務に従って使用される。
【0056】
本明細書で用いる場合、表現「細胞」、「細胞株」および「細胞培養物」は互換的に使用しており、かかる表示はすべて、子孫を含む。したがって、文言「形質転換体」および「形質転換細胞」は、被験者の一次細胞および該一次細胞に由来する培養物(移し変えの回数は関係なし)を含む。また、意図的または偶発的な変異のため、すべての子孫のDNA含有量が厳密に同一でないことがあり得ることを理解されたい。最初の形質転換細胞におけるスクリーニングにより同じ機能または生物学的活性を有する変異型子孫が包含される。相違する指示物が意図される場合は文脈から明白である。
【0057】
本明細書で用いる場合、「ポリメラーゼ連鎖反応」または「PCR」は、微量の特定の核酸、RNAおよび/またはDNA片を、例えば、米国特許第4,683,195号に記載のようにして増幅させる手順または手法をいう。一般的に、対象領域の末端または離れた(beyond)配列情報が、オリゴヌクレオチドプライマーが設計され得るように入手可能である必要があり;このようなプライマーは、配列が増幅対象の鋳型の反対鎖と同一または類似のものである。2つのプライマーの5’末端ヌクレオチドが増幅物質の末端と一致し得る。PCRは、特定のRNA配列、特定のDNA配列を、全ゲノムDNA、および全細胞内RNA、バクテリオファージまたはプラスミド配列から転写したcDNAなどから増幅させるために使用され得る。概要は、Mullisら(1987)Cold Spring Harbor Symp.Quant.Biol.51:263;Erlich編,(1989)PCR TECHNOLOGY(Stockton Press,N.Y.)を参照のこと。本明細書で用いる場合、PCRは、プライマーとして既知の核酸および特定の核酸片を増幅または生成させるための核酸ポリメラーゼの使用を含む、核酸試験試料の増幅のための核酸ポリメラーゼ反応法の一例(だが唯一の例ではない)とみなす。
【0058】
本明細書で用いる場合、用語「生殖細胞系配列」は、再配列されていない免疫グロブリンDNA配列の配列をいう。再配列されていない免疫グロブリンDNAの任意の適当な供給源が使用され得る。
【0059】
「阻害薬」は、例えば、遺伝子、タンパク質、リガンド、受容体または細胞を減少、ブロック、抑制、活性化を遅延、不活化、脱感作または下方調節する化合物である。また、阻害薬は、構成的活性を低減、ブロックまたは不活化する組成物とも定義され得る。「アンタゴニスト」は、アゴニストの作用に対抗する化合物である。アンタゴニストは、アゴニストの活性を抑制、低減、阻害または中和する。また、アンタゴニストは、同定されたアゴニストがない場合であっても、標的(例えば、標的受容体)の構成的活性を抑制、阻害または低減するものであり得る。
【0060】
阻害の程度を調べるため、例えば、所与の、例えば、タンパク質、遺伝子、細胞または生物体を含む試料またはアッセイを潜在的活性化剤または阻害剤で処理し、該薬剤なしでの対照試料と比較する。対照試料(すなわち、薬剤での処理なし)を相対活性値100%とする。対照に対する活性値が約90%以下、典型的には85%以下、より典型的には80%以下、最も典型的には75%以下、一般的には70%以下、より一般的には65%以下、最も一般的には60%以下、典型的には55%以下、通常、50%以下、より通常では45%以下、最も通常では40%以下、好ましくは35%以下、より好ましくは30%以下、さらにより好ましくは25%以下、最も好ましくは25%未満である場合、阻害がなされている。
【0061】
阻害のエンドポイントは、以下のようにしてモニタリングされ得る。例えば、細胞、生理学的液体、組織、器官および動物またはヒト被験者の阻害、および処置に対する応答は、エンドポイントによってモニタリングされ得る。エンドポイントには、例えば、所定量または割合の炎症徴候(indicia)、発癌性あるいは細胞の脱顆粒または分泌(サイトカイン、毒性酸素もしくはプロテアーゼの放出など)が含まれ得る。エンドポイントには、例えば、所定量のイオン流出または輸送;細胞遊走;細胞接着;細胞増殖;転移の可能性;細胞分化;および表現型の変化、例えば、炎症、アポトーシス、形質転換、細胞周期もしくは転移に関連している遺伝子の発現の変化が含まれ得る(例えば、Knight(2000)Ann.Clin.Lab.Sci.30:145−158;HoodおよびCheresh(2002)Nature Rev.Cancer 2:91−100;Timmeら(2003)Curr.Drug Targets 4:251−261;RobbinsおよびItzkowitz(2002)Med.Clin.North Am.86:1467−1495;GradyおよびMarkowitz(2002)Annu.Rev.Genomics Hum.Genet.3:101−128;Bauerら(2001)Glia 36:235−243;StanimirovicおよびSatoh(2000)Brain Pathol.10:113−126参照)。
【0062】
阻害のエンドポイントは、一般的には対照の75%以下、好ましくは対照の50%以下、より好ましくは対照の25%以下、最も好ましくは対照の10%以下である。一般的に、活性化のエンドポイントは、対照の少なくとも150%、好ましくは対照の少なくとも2倍、より好ましくは対照の少なくとも4倍、最も好ましくは対照の少なくとも10倍である。
【0063】
「特異的に」または「選択的に」結合するとは、リガンド/受容体、抗体/抗原または他の結合ペアに言及している場合、タンパク質および/または他の生物学的物質の不均一な集団においてタンパク質(例えば、TSLP)の存在を決定するような結合反応を示す。したがって、指定された条件下では、特定のリガンド/抗原は特定の受容体/抗体に結合し、試料中に存在する他のタンパク質には有意な量で結合しない。
【0064】
意図される方法の、抗体または抗体の抗原結合部位から誘導した結合性組成物は、その抗原に、無関連抗原との親和性よりも少なくとも10倍、より好ましくは少なくとも20倍、最も好ましくは少なくとも50倍大きい親和性で結合する。好ましい実施形態では、該抗体は、例えば、Scatchard解析(Munsenら(1980)Analyt.Biochem.107:220−239)によって測定したとき、約10リットル/molより大きい親和性を有する。
【0065】
本明細書で用いる場合、用語「炎症性障害」は、損傷部位または感染部位における局所炎症を特徴とする任意の疾患または障害をいい、限定されないが、アレルギー性炎症、自己免疫疾患、および局所組織部位における望ましくない免疫細胞の蓄積を特徴とする他の障害を含む。
【0066】
本明細書で用いる場合、用語「免疫調節剤」は、免疫応答を抑制またはモジュレートする天然または合成の薬剤をいう。免疫応答は、体液性応答または細胞性応答であってもよい。免疫調節剤は、免疫抑制剤または抗炎症剤を包含する。
【0067】
「免疫抑制剤」、「免疫抑制薬(「immunosuppressive drug」または「immunosuppressant」)」は、本明細書で用いる場合、免疫抑制療法において免疫機構の活動を抑止または抑制するために使用される治療薬である。臨床的には、これは、移植された器官および組織(例えば、骨髄、心臓、腎臓、肝臓)の拒絶を抑制するため、および/またはおそらく自己免疫が起源の自己免疫疾患(1種類もしくは複数種)(例えば、関節リウマチ、重症筋無力症、全身性エリテマトーデス、潰瘍性結腸炎、多発性硬化症)の処置において使用される。免疫抑制薬は、4つの群:グルココルチコイド系細胞増殖抑制薬;抗体(例えば、生物学的応答改良薬またはDMARD);イムノフィリンに作用する薬物;他の薬物(例えば、増殖性障害の処置に使用される既知の化学療法剤を含む)に分類され得る。多発性硬化症では、特に、本発明の抗体は、コパクソン(copaxone)として知られた新しい類型のミエリン結合タンパク質様治療薬とともに投与され得る。
【0068】
「抗炎症剤」または「抗炎症薬」は、ステロイド系および非ステロイド系の両方の治療薬を表すために用いている。ステロイドは、コルチコステロイドとしても知られており、コルチゾールとよく似た薬物であり、副腎によって天然に生成されるホルモンである。ステロイドは、特定の炎症性の病状、例えば:全身性血管炎(血管の炎症);および筋炎(筋肉の炎症)に対する主な処置薬として使用されている。また、ステロイドは、炎症性の病状、例えば:関節リウマチ(身体の両側の関節に起こる慢性の炎症性の関節炎);全身性エリテマトーデス(免疫機構の異常機能によって引き起こされる全身性疾患);シェーグレン症候群(目の乾燥および口渇を引き起こす慢性障害)を処置するためにも選択的に使用されることがあり得る。
【0069】
非ステロイド系抗炎症薬は、通常、NSAIDと略記され、鎮痛性、解熱性および抗炎症性効果を有する薬物であり、これは、痛み、発熱および炎症を低減させる。用語「非ステロイド系」は、この薬物をステロイド系のもの(これは、(広範な効果の中でも、特に)類似したエイコサノイド抑制性抗炎症作用を有する)と区別するために用いている。NSAIDは、一般的には、下記の病状:関節リウマチ;変形性関節症;炎症性関節症(例えば、強直性脊椎炎、乾癬性関節炎、ライター症候群);急性痛風;ジスメノレア(dysmenorrhoea);転移部骨痛;頭痛および偏頭痛;術後疼痛;炎症および組織損傷による軽度から中等度の痛み;発熱;および腎仙痛;の症状の緩和のために指示される。NSAIDとしては、サリチラート、アリールアルカン酸、2−アリールプロピオン酸(プロフェン)、N−アリールアンスラニル酸(フェナム酸)、オキシカム、コキシブ(選択的COX−2阻害薬)、スルホンアニリド、ジクロフェナク、ジフルニサル、エトドラク、フェノプロフェン、フルルビプロフェン、イブプロフェン、インドメタシン、ケトプロフェン、ケトロラク、メフェナム酸、メロキシカム、ナブメトン、ナプロキセン、オキサプロジン、ピロキシカム、サルサラート、スリンダクまたはトルメチンが挙げられる。
【0070】
II.総論
本発明は、操作型抗TSLP抗体、および炎症、特にアレルギー性炎症性障害を処置するための使用を提供する。好ましい実施形態において、炎症性障害は喘息である。好ましい実施形態において、アレルギー性炎症性障害はアレルギー性鼻副鼻腔炎、アレルギー性喘息、アレルギー性結膜炎またはアトピー性皮膚炎である。また、本発明は、線維症、炎症性腸疾患またはホジキンリンパ腫を処置するための操作型抗TSLP抗体を提供する。
【0071】
本明細書で用いる場合、用語「TSLP」は、TSLPのバリアント、アイソフォーム、ホモログ、オルソログおよびパラログを包含する。ヒトTSLPのアミノ酸配列は、国際出願公開公報国際公開第00/17362号の配列番号4に示されている。
【0072】
III.本発明の操作型TSLP特異的抗体
本発明は、特定のCDR領域を含む操作型抗TSLP抗体に関する。
【0073】
組換えによる抗体の操作方法は、例えば、Bossら(米国特許第4,816,397号)、Cabillyら(米国特許第4,816,567号)、Lawら(欧州特許出願公開第438310号)およびWinter(欧州特許出願公開第239400号)に記載されている。
【0074】
本発明の操作型抗体としては、VHおよび/またはVL内のフレームワーク残基に対して、例えば、抗体の性質を改善するための修飾がなされたものが挙げられる。典型的には、かかるフレームワーク修飾は、抗体の免疫原性を減少させるためになされる。例えば、アプローチの一例は、1つ以上のフレームワーク残基を対応する生殖細胞系配列に「復帰変異する」ことである。より詳しくは、体細胞変異が行われた抗体には、該抗体を誘導した生殖細胞系配列と異なるフレームワーク残基が含有され得る。かかる残基は、該抗体フレームワーク配列を、抗体を誘導した生殖細胞系配列と比較することにより同定され得る。
【0075】
別の型のフレームワーク修飾は、フレームワーク領域内、さらには1つ以上のCDR領域内の1つ以上の残基を変異させてT細胞エピトープを除去することを伴うものであり、それにより、抗体の潜在的免疫原性が低減される。このアプローチは「脱免疫化」とも称され、米国特許公開第20030153043号に、さらに詳細に記載されている。
【0076】
フレームワーク領域またはCDR領域に行われる修飾に加えて、または択一的に、本発明の抗体はFc領域内に、典型的には、抗体の1つ以上の機能的特性、例えば、血清半減期、補体結合、Fc受容体結合、および/または抗原依存性細胞性細胞毒性が改変される修飾が含まれるように操作してもよい。さらに、本発明の抗体は、化学修飾してもよく(例えば、1つ以上の化学部分が該抗体に結合され得る)、またはそのグリコシル化が改変され、該抗体の1つ以上の機能的特性が改変されるように修飾してもよい。このような実施形態の各々を、以下にさらに詳細に記載する。Fc領域内の残基の番号付けは、Kabatの欧州インデックスのものである。
【0077】
一実施形態において、該抗体は、重鎖定常領域のヒンジ領域内の228位(S228P;欧州インデックス)に対応する位置にセリンからプロリンへの変異を含むIgG4アイソタイプ抗体である。この変異は、ヒンジ領域内の重鎖間ジスルフィド結合の不均一性を無効にするという報告がされている(Angalら 上掲;241位はKabat番号付けシステムに基づく)。
【0078】
一実施形態において、CH1のヒンジ領域は、ヒンジ領域内のシステイン残基の数が改変される(例えば、増加または減少する)ように修飾される。このアプローチは、米国特許第5,677,425号にさらに記載されている。CH1のヒンジ領域内のシステイン残基の数は、例えば、軽鎖および重鎖の合成が助長されるようにまたは抗体の安定性が増大もしくは減少するように改変される。
【0079】
別の実施形態では、抗体のFcヒンジ領域は、抗体の生物学的半減期が減少するように変異される。より詳しくは、1つ以上のアミノ酸変異をFc−ヒンジ断片のCH2−CH3ドメインの境界領域内に、抗体が、天然Fc−ヒンジドメインSpAの結合と比べて損なわれたStaphylococcylタンパク質A(SpA)結合を有するように導入する。このアプローチは、米国特許第6,165,745号に、さらに詳細に記載されている。
【0080】
別の実施形態では、抗体は、生物学的半減期が増大するように修飾される。種々のアプローチが可能である。例えば、米国特許第6,277,375号に記載のように、下記の変異:T252L、T254S、T256Fの1つ以上が導入され得る。あるいは、生物学的半減期を増大させるため、米国特許第5,869,046号および同第6,121,022号に記載のように、IgGのFc領域のCH2ドメインの2つのループから採取したサルベージ受容体結合エピトープがCH1またはCL領域内に含まれるように抗体を改変してもよい。
【0081】
また他の実施形態では、少なくとも1つのアミノ酸残基を異なるアミノ酸残基で置き換えることによりFc領域を改変し、抗体のエフェクター機能(1つまたは複数)を改変する。例えば、アミノ酸残基234、235、236、237、297、318、320および322から選択される1つ以上のアミノ酸を、異なるアミノ酸残基で抗体がエフェクターリガンドに対して改変された親和性を有するが親抗体の抗原結合能は保持されるように置き換えられ得る。親和性の改変対象のエフェクターリガンドは、例えば、Fc受容体または補体のC1成分であり得る。このアプローチは、米国特許第5,624,821号および同第5,648,260号に、さらに詳細に記載されている。
【0082】
別の例では、アミノ酸残基329、331および322から選択される1つ以上のアミノ酸が、抗体がC1q結合を改変し、および/または補体依存性細胞毒性(CDC)を低減もしくは無効にするように、異なるアミノ酸残基で置き換えられ得る。このアプローチは、米国特許第6,194,551号にさらに詳細に記載されている。
【0083】
別の例では、231位および239位のアミノ酸の1つ以上のアミノ酸残基を改変し、それにより、抗体の補体結合能を改変する。このアプローチは、PCT公開公報国際公開第94/29351号にさらに記載されている。
【0084】
また別の例では、Fc領域は、抗体が抗体依存性細胞性細胞毒性(ADCC)を媒介する能力が増大するように、および/または下記の位置:238、239、248、249、252、254、255、256、258、265、267、268、269、270、272、276、278、280、283、285、286、289、290、292、293、294、295、296、298、301、303、305、307、309、312、315、320、322、324、326、327、329、330、331、333、334、335、337、338、340、360、373、376、378、382、388、389、398、414、416、419、430、434、435、437、438もしくは439の1つ以上のアミノ酸を修飾することによりFcγ受容体に対する抗体の親和性が増大するように修飾される。このアプローチは、PCT公開公報国際公開第00/42072号にさらに記載されている。さらに、FcγR1、FcγRII、FcγRIIIおよびFcRnに対するヒトIgG1上の結合部位はマッピングされており、改善された結合性を有するバリアントが報告されている(Shieldsら(2001)J.Biol.Chem.276:6591−6604参照)。256、290、298、333、334および339位の特定の変異により、FcγRIIIに対する結合性が改善されることが示された。さらに、下記の組合せの変異型:T256A/S298A、S298A/E333A、S298A/K224AおよびS298A/E333A/K334Aでは、FcγRIII結合性が改善されることが示された。
【0085】
さらに別の実施形態では、抗体のグリコシル化を修飾または改変し、抗体の糖鎖部分を欠失または付加する。例えば、無グリコシル抗体が作製され得る(すなわち、抗体にはグリコシル化がない)。グリコシル化は、例えば、抗原に対する抗体の親和性が増大するように改変され得る。かかる糖鎖修飾は、例えば、抗体配列内の1つ以上のグリコシル化部位を改変することによりなされ得る。例えば、1つ以上の可変領域のフレームワークグリコシル化部位の除去がもたらされる1つ以上のアミノ酸置換を行い、それにより、該部位のグリコシル化を除去することができる。かかる無グリコシル化により、抗原に対する抗体の親和性が増大され得る。例えば、米国特許第5,714,350号および同第6,350,861号参照。
【0086】
さらにまたはあるいは、抗体は、改変された型のグリコシル化を有するようにする、例えば、フコシル残基の量を減少させた低フコシル化抗体、または分岐型GlcNac構造を増大させた抗体とすることができる。かかる改変型グリコシル化パターンでは、抗体のADCC能が増大することが示されている。かかる糖鎖修飾は、例えば、抗体を改変されたグリコシル化機構を有する宿主細胞内で発現させることによりなされ得る。改変されたグリコシル化機構を有する細胞は、当該技術分野において報告されており、これは、本発明の組換え抗体を発現し、それにより、グリコシル化が改変された抗体を産生する宿主細胞として使用され得る。例えば、細胞株Ms704、Ms705、およびMs709は、フコシルトランスフェラーゼ遺伝子FUT8(α(1,6)−フコシルトランスフェラーゼ)が欠損しており、そのため、Ms704、Ms705およびMs709細胞株で発現させた抗体は糖鎖においてフコースが欠損している。Ms704、Ms705およびMs709 FUT8−/−細胞株は、2種類の置換ベクターを使用し、CHO/DG44細胞においてFUT8遺伝子の標的化破壊によって作出した(米国特許出願公開公報番号20040110704およびYamane−Ohnukiら(2004)Biotechnol Bioeng 87:614−22参照)。別の例として、欧州特許第1,176,195号には、フコシルトランスフェラーゼをコードするFUT8遺伝子の機能が破壊された細胞株が記載されており、かかる細胞株で発現させた抗体は、α−1,6結合関連酵素の減少または除去により低フコシル化を示すものとなる。また、欧州特許第1,176,195号には、抗体のFc領域に結合するN−アセチルグルコサミンにフコースを付加する酵素活性が低い細胞株、または該酵素活性をもたない細胞株、例えば、ラット骨髄腫細胞株YB2/0(ATCC CRL 1662)が記載されている。PCT公開公報国際公開第03/035835号には、フコースをAsn(297)結合糖鎖に結合させる能力を低下させるバリアントCHO細胞株であるLec13細胞が記載されており、同様に該宿主細胞で発現される抗体の低フコシル化をもたらす(Shieldsら(2002)J.Biol.Chem.277:26733−26740も参照のこと)。また、改良されたグリコシル化プロフィールを有する抗体は、PCT公開公報国際公開第06/089231号に記載のように、ニワトリの卵においても作製することができる。あるいは、改良されたグリコシル化プロフィールを有する抗体は、Lemnaなどの植物細胞でも作製することができる。PCT公開公報国際公開第99/54342号には、糖タンパク質修飾グリコシルトランスフェラーゼ(例えば、β(1,4)−N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼIII(GnTIII))を発現するように操作された細胞株が記載されており、この操作型細胞株で発現させた抗体は、分岐型GlcNac構造が増大を示すものとなり、抗体のADCC活性が増大する(Umanaら(1999)Nat.Biotech.17:176−180も参照のこと)。あるいは、抗体のフコース残基を、フコシダーゼ酵素を用いて切除してもよく;例えば、フコシダーゼα−L−フコシダーゼは、フコシル残基を抗体から除去する(Tarentinoら(1975)Biochem.14:5516−23)。
【0087】
本開示によって意図される、本明細書における抗体に対する別の修飾はペグ化である。抗体は、例えば、抗体の生物学的(例えば、血清)半減期が増大するようにペグ化され得る。抗体をペグ化するには、抗体またはその断片を、典型的には、ポリエチレングリコール(PEG)(PEGの反応性エステルまたはアルデヒド誘導体など)と、1つ以上のPEG基が該抗体または該抗体の断片と結合される条件下で反応させる。好ましくは、ペグ化は、反応性PEG分子(または同様の反応性水溶性ポリマー)とのアシル化反応またはアルキル化反応によって行われる。本明細書で用いる場合、用語「ポリエチレングリコール」は、他のタンパク質の誘導体化に使用されている任意の形態のPEG(例えば、モノ(C1〜C10)アルコキシ−もしくはアリールオキシ−ポリエチレングリコールまたはポリエチレングリコール−マレイミドなど)を包含することを意図する。一部の特定の実施形態では、ペグ化される抗体は、無グリコシル化抗体である。タンパク質のペグ化方法は当該技術分野で知られており、本発明の抗体に適用され得る。例えば、欧州特許第0154316号および同第0401384号参照。
【0088】
本発明のヒト化抗TSLP抗体のアミノ酸配列バリアントは、ヒト化抗TSLP抗体のDNAに適切なヌクレオチド変化を導入することにより、またはペプチド合成によって調製され得る。かかるバリアントとしては、例えば、本明細書に開示し、特許請求の範囲に記載したヒト化抗TSLP抗体について示したアミノ酸配列内における残基の欠失および/または挿入および/または置換が挙げられる。最終構築物を得るために欠失、挿入および置換の任意の組合せが行われ得るが、最終構築物は所望の特性を有しているものとする。上記に論考したように、アミノ酸変化は、ヒト化抗TSLP抗体の翻訳後プロセスを改変するもの(グリコシル化部位の数または位置の変更など)であってもよい。
【0089】
変異誘発に好ましい位置であるヒト化抗TSLP抗体のポリペプチドの特定の残基または領域の特定に有用な方法は、CunninghamおよびWells(1989)Science 244:1081−1085に記載の「アラニンスキャニング変異誘発」と称される。この場合、アミノ酸とTSLP抗原との相互作用に影響を及ぼすよう、残基または標的残基群を特定し(例えば、Arg、Asp、His、Lys、およびGluなどの電荷残基)、中性または負電荷アミノ酸(最も好ましくはアラニンまたはポリアラニン)で置き換える。次いで、該置換部位にさらなるバリアントまたは他のバリアントを導入することにより、置換に対して機能的感受性を示すアミノ酸残基を絞り込む。したがって、アミノ酸配列の変異を導入するための部位は予め決められているが、該変異自体の性質は予め決められている必要はない。例えば、所与の部位における変異の機能を解析するため、標的コドンまたは標的領域においてAlaスキャニングまたはランダム変異誘発を実施し、発現されたヒト化抗TSLP抗体バリアントを所望の活性についてスクリーニングする。
【0090】
アミノ酸配列の挿入体には、長さが、1残基のものから100残基以上を含むポリペプチドまでにわたるアミノ−および/またはカルボキシル−末端融合体、ならびに単一または多数のアミノ酸残基の配列内挿入体が含まれる。末端挿入体の例としては、N−末端メチオニル残基を有するヒト化抗TSLP抗体またはエピトープタグに融合させた抗体が含まれる。ヒト化抗TSLP抗体分子の他の挿入バリアントとしては、抗体の血清半減期を増大させる、酵素またはポリペプチドとのヒト化抗TSLP抗体のN−またはC−末端との融合体が含まれる。
【0091】
別の型のバリアントはアミノ酸置換バリアントである。このようなバリアントは、ヒト化抗TSLP抗体分子において、少なくとも1つのアミノ酸残基が除去され、代わりに異なる残基が挿入されたものである。置換変異誘発に最も重要な部位としては超可変ループが挙げられるが、FRの改変も意図される。抗原結合に関与している超可変領域の残基またはFR残基は、一般的に、比較的保存的様式で置換される。
【0092】
アミノ酸バリアントのまた別の型は、最終のヒト化抗体に、より大きな化学的安定性をもたらす残基の置換である。
【0093】
一部の特定の実施形態では、最終の抗体に、より大きな化学的安定性をもたらすため、以下のようにして、露出側鎖を含有する特定のアミノ酸を別のアミノ酸残基に変化させることが望ましい。例えば、アスパラギン(Asn)残基をGlnまたはAlaに変えると、CDR内の任意のAsn−Gly配列においてイソアスパルテートが形成される可能性が低減され得る。同様の問題がAsp−Gly配列でも起こり得る。ReissnerおよびAswad(2003)Cell.Mol.Life Sci.60:1281。イソアスパルテートが形成されると、抗体のその標的抗原への結合が減弱され得るか、または完全に消去され得る。Presta(2005)J.Allergy Clin.Immunol.116:731 at 734参照。一実施形態では、アスパラギンをグルタミン(Gln)に変える。また、小さいアミノ酸がアスパラギンまたはグルタミンに隣接して存在している場合に高率で起こる脱アミド化の可能性を低減させるため、アスパラギン(Asn)またはグルタミン(Gln)残基に隣接しているアミノ酸を改変することが望ましい場合があり得る。Bischoff & Kolbe(1994)J.Chromatog.662:261参照。また、メチオニンのイオウが酸化され得る可能性(これは、抗原結合親和性を低下させ、また、最終抗体調製物の分子不均一性に寄与し得る)を低減させるため、CDR内のメチオニン残基(典型的には溶媒に曝露したMet)はLys、Leu、AlaまたはPheに変更され得る(同上)。一実施形態では、メチオニンをアラニン(Ala)に変える。さらに、Asn−Proペプチド結合が切れ易いという可能性を抑制または最小限にするため、CDR内に見られる任意のAsn−Proの組合せをGln−Pro、Ala−ProまたはAsn−Alaに改変することが望ましい場合があり得る。かかる置換を有する抗体は、続いて、該置換によってTSLP結合親和性または他の所望の生物学的活性が許容され得ないレベルまで減少しないことを確認するためにスクリーニングされる。
【表2】

【0094】
また、メチオニンのイオウが酸化され得る可能性(これは、抗原結合親和性を低下させ、また、最終抗体調製物の分子不均一性に寄与し得る)を低減させるために、齧歯類CDR内のメチオニン残基を変えてもよい(同上)。一実施形態では、メチオニンをアラニン(A)に変える。かかる置換を有する抗体は、続いて、該置換によってTSLP結合親和性が許容され得ないレベルまで減少しないことを確認するためにスクリーニングされる。
【0095】
ヒト化TSLP特異的抗体のアミノ酸配列バリアントをコードする核酸分子は、当該技術分野で知られたさまざまな方法によって調製される。このような方法としては、限定されないが、天然供給源からの単離(天然に存在するアミノ酸配列バリアントの場合)、または先に調製したバリアントもしくはヒト化抗TSLP抗体の非バリアント型のオリゴヌクレオチド媒介性(もしくは部位特異的)変異誘発、PCR変異誘発およびカセット変異誘発による調製が挙げられる。
【0096】
通常、ヒト化抗TSLP抗体のアミノ酸配列バリアントは、重鎖または軽鎖いずれかの元のヒト化抗体アミノ酸配列と少なくとも97%、より好ましくは少なくとも98%、より好ましくは少なくとも99%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を有する。この配列に関する同一性または相同性は、本明細書において、配列をアライメントし、最大の配列同一性パーセントが得られるようにギャップを導入した(必要であれば)後の、任意の保存的置換が配列同一性の一部としてはみなされない、ヒト化抗TSLP残基と同一である候補配列内のアミノ酸残基の割合と定義する。抗体配列内へのN−末端、C−末端もしくは内部伸長部、欠失または挿入はいずれも、配列の同一性または相同性に影響しないものとする。
【0097】
ヒト化抗体は、任意の免疫グロブリンクラス、例えば、IgM、IgG、IgD、IgAおよびIgEから選択され得る。好ましくは、抗体はIgG抗体である。IgGの任意のアイソタイプ、例えば、IgG、IgG、IgGおよびIgGが使用され得る。また、IgGアイソタイプのバリアントも意図される。ヒト化抗体は、1種類より多くのクラスまたはアイソタイプに由来する配列を含むものであってもよい。所望の生物学的活性を得るために必要な定常ドメイン配列の最適化は、以下に記載する生物学的アッセイで抗体をスクリーニングすることにより容易に行われる。
【0098】
同様に、いずれのクラスの軽鎖を本明細書における組成物および方法に使用してもよい。具体的には、κ、λまたはそのバリアントが本発明の組成物および方法に有用である。
【0099】
非ヒト抗体由来のCDR配列の任意の適当な部分が使用され得る。該CDR配列は、該CDR配列が、使用されるヒトおよび非ヒト抗体の配列と相違するものとなるように少なくとも1つの残基の置換、挿入または欠失によって変異誘発され得る。かかる変異は、最小限であり得ることが意図される。典型的には、ヒト化抗体の残基の少なくとも95%、最も好ましくは97%より多くが非ヒトCDR残基のものに対応する。
【0100】
ヒト抗体由来のFR配列の任意の適当な部分が使用され得る。該FR配列は、該FR配列が使用されるヒトおよび非ヒト抗体の配列と相違するものとなるように、少なくとも1つの残基の置換、挿入または欠失によって変異化され得る。かかる変異は、最小限であり得ることが意図される。典型的には、ヒト化抗体の残基の少なくとも75%、より多くの場合では90%、最も好ましくは95%より多くがヒトFR残基のものに対応する。
【0101】
CDR残基およびFR残基は、Kabatの標準的な配列規定法に従って決定される。Kabatら,Sequences of Proteins of Immunological Interest,National Institutes of Health,Bethesda Md.(1987)。
【0102】
好ましい実施形態において、本発明の結合性組成物は、以下の配列の1つ以上を含む。
【0103】
CDR−H1配列 GYIFTDYAMH(配列番号1)
CDR−H2配列 TFIPLLDTSDYAQKFQG(配列番号2)
CDR−H3配列 MGVTHSYVMDA(配列番号3)
CDR−L1配列 RASQPISISVH(配列番号4)
CDR−L2配列 FASQSIS(配列番号5)
CDR−L3配列 QQTFSLPYT(配列番号6)
配列番号7に示した可変重鎖アミノ酸配列
配列番号8に示した可変軽鎖アミノ酸配列
配列番号9に示した可変重鎖をコードする核酸配列
配列番号10に示した可変軽鎖をコードする核酸配列
配列番号11に示した重鎖アミノ酸配列(この配列は、さらに、下記のリーダー配列:MAVLGLLFCLVTFPSCVLS(配列番号15)を含んでいてもよい)
配列番号12に示した軽鎖アミノ酸配列(この配列は、さらに、下記のリーダー配列:MAPVQLLGLLVLFLPAMRC(配列番号16)を含んでいてもよい)
該重鎖をコードする核酸配列を配列番号13に示す(この配列は、さらに、リーダー配列、好ましくは下記のリーダー配列:MAVLGLLFCLVTFPSCVLS(配列番号15)をコードする配列を含んでいてもよい)
該軽鎖をコードする核酸配列を配列番号14に示す(この配列は、さらに、リーダー配列、好ましくは下記のリーダー配列:MAPVQLLGLLVLFLPAMRC(配列番号16)をコードする配列を含んでいてもよい)
例えば、本発明は、CDR−L1、CDR−L2およびCDR−L3(上記に表示)を含む軽鎖免疫グロブリンと、CDR−H1、CDR−H2およびCDR−H3(上記に表示)を含む重鎖免疫グロブリンを含む、単離された抗体またはその抗原結合断片を含む。また、本発明は、配列番号8または12に示したアミノ酸配列を含む軽鎖免疫グロブリン可変領域と、配列番号7および11に示したアミノ酸配列を含む重鎖免疫グロブリン可変領域を含む(例えば、配列番号7が配列番号8と対合;または配列番号11が配列番号12と対合)、単離された抗体またはその抗原結合断片を含む。かかる抗体または断片は、本発明の一実施形態において、IgGなどの免疫グロブリン定常ドメイン(例えば、IgG、IgG、IgGまたはIgG)に連結され得る。また、前記抗体または断片および薬学的に許容され得る担体を含むその医薬組成物も本発明の一部である。
【0104】
一部の実施形態では、異なる定常ドメインが、本明細書において提供するヒト化VおよびV領域に付加され得る。例えば、本発明の抗体(または断片)に意図される具体的な使用にエフェクター機能の改変が必要とされる場合、IgG1以外の重鎖定常ドメインが使用され得る。IgG1抗体では、長い半減期およびエフェクター機能(補体活性化および抗体依存性細胞性細胞毒性など)がもたらされるが、かかる活性が該抗体のすべての使用に望ましいとは限らない。かかる場合では、例えば、IgG4定常ドメインが使用され得る。
【0105】
IV.抗体コンジュゲート
本発明の結合性化合物、例えば、本発明の抗体または抗体断片はまた、化学部分とコンジュゲートさせてもよい。化学部分は、とりわけ、ポリマー、放射性核種または細胞毒性因子であり得る。好ましくは、化学部分は、被験者の体内で抗体分子の半減期を増大させるポリマーである。好適なポリマーとしては、限定されないが、ポリエチレングリコール(PEG)(例えば、2kDa、5kDa、10kDa、12kDa、20kDa、30kDaまたは40kDaの分子量を有するPEG)、デキストランおよびモノメトキシポリエチレングリコール(mPEG)が挙げられる。Leeら,(1999)(Bioconj.Chem.10:973−981)には、PEGコンジュゲート一本鎖抗体が開示されている。Wenら,(2001)(Bioconj.Chem.12:545−553)には、放射性金属キレート剤(ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA))に結合させたPEGとコンジュゲートさせた抗体が開示されている。
【0106】
また、本発明の抗体および抗体断片を、99Tc、90Y、111In、32P、14C、125I、H、131I、11C、15O、13N、18F、35S、51Cr、57To、226Ra、60Co、59Fe、57Se、152Eu、67CU、217Ci、211At、212Pb、47Sc、109Pd、234Th、および40K、157Gd、55Mn、52Trおよび56Feなどの標識とコンジュゲートさせてもよい。
【0107】
また、本発明の抗体および抗体断片を、フルオロフォア、例えば、希土類キレート剤、フルオレセインおよびその誘導体、ローダミンおよびその誘導体、イソチオシアネート、フィコエリトリン、フィコシアニン、アロフィコシアニン、o−フタルアルデヒド、フルオレサミン、152Eu、ダンシル、ウンベリフェロン、ルシフェリン、ルミナール標識、イソルミナール標識、芳香族アクリジニウムエステル標識、イミダゾール標識、アクリジニウム塩標識、シュウ酸エステル標識、エクオリン標識、2,3−ジヒドロフタルアジンジオン、ビオチン/アビジン、スピン標識および安定なフリーラジカルなどの蛍光標識または化学発光標識とコンジュゲートさせてもよい。
【0108】
また、該抗体分子を、ジフテリア毒素、緑膿菌外毒素A鎖、リシンA鎖、アブリンA鎖、モデシンA鎖、α−サリシン、Aleurites fordiiタンパク質および化合物(例えば、脂肪酸)、ジアンシンタンパク質、Phytolacca americanaタンパク質PAPI,PAPIIおよびPAP−S、ニガウリ(momordica charantia)阻害薬、クルシン、クロチン、ザボウソウ(saponaria officinalis)阻害薬、ミトギリン、レストリクトシン、フェノマイシン、およびネオマイシン(enomycin)などの細胞毒性因子にコンジュゲートさせてもよい。
【0109】
本発明の抗体分子を種々の部分にコンジュゲートさせるために当該技術分野で知られた任意の方法が使用され得、Hunterら,(1962)Nature 144:945;Davidら,(1974)Biochemistry 13:1014;Painら,(1981)J.Immunol.Meth.40:219;およびNygren,J.,(1982)Histochem.and Cytochem.30:407に記載された方法が含まれる。抗体をコンジュゲートさせるための方法は慣用的であり、当該技術分野で非常によく知られている。
【0110】
また他の実施形態では、異なる定常ドメインが、本明細書において提供するCDR由来のヒト化VおよびV領域に付加され得る。例えば、本発明の抗体(または断片)に意図される具体的な使用にエフェクター機能の改変が必要とされる場合、IgG1以外の重鎖定常ドメインが使用され得るか、またはハイブリッドIgG1/IgG4が使用され得る。
【0111】
IgG1抗体では、長い半減期およびエフェクター機能(補体活性化および抗体依存性細胞性細胞毒性など)がもたらされるが、かかる活性が該抗体のすべての使用に望ましいとは限らない。かかる場合では、例えば、IgG4定常ドメインが使用され得る。hu Mab8D5では、IgG4定常ドメインは、天然ヒトIgG4定常ドメイン(Swiss−Prot受託番号P01861.1、その開示は引用により本明細書に組み込まれる)とは108位が異なっており、適正な鎖内ジスルフィド結合の形成が妨げられ得るCysl06とCysl09間の鎖間ジスルフィド結合の可能性を抑制するため、天然Serl08がProで置き換えられている。Angalら(1993)Mol Imunol 30:105参照。
【0112】
V.本発明の結合性化合物の生物学的活性
ヒト化抗TSLP抗体においてここで望ましいと特定した特徴を有する結合性化合物は、インビトロでの生物学的阻害活性または適当な結合親和性についてスクリーニングされ得る。
【0113】
抗体親和性(例えば、ヒトTSLPに対する)は、標準的な解析を用いて測定され得る。好ましいヒト化抗体は、ヒトTSLPに約1×10−7M未満;好ましくは約1×10−8M未満;より好ましくは約1x10−9M未満;および最も好ましくは約1×10−10M未満のK値で結合する。
【0114】
本発明の組成物および方法に有用な抗体およびその断片は、生物学的に活性な抗体および断片である。本明細書で用いる場合、用語「生物学的に活性な」は、抗体または抗体断片が所望の抗原エピトープに結合し、直接または間接的に生物学的効果を奏することができることをいう。典型的には、このような効果は、TSLPがその受容体に結合しないことにより生じる。一実施形態において、本発明の組成物および方法に有用な抗体およびその断片は、hTSLP−受容体およびIL−7RαでトランスフェクトしたBaf−3細胞株のhTSLP誘発性増殖;TSLP−受容体およびルシフェラーゼレポーター系でトランスフェクトしたBaf−3細胞株からのhTSLP誘発性ルシフェラーゼの発現;PBMCから単離したヒト一次単球からのhTSLP誘発性TARC分泌;およびTh2の分化誘導を阻害する。
【0115】
本明細書で用いる場合、用語「特異的」は、標的抗原エピトープに対する抗体の選択的結合をいう。抗体は、TSLPに対する結合を無関連の抗原または抗原混合物に対する結合と所定のセットの条件下で比較することにより、結合特異性について試験され得る。抗体は、TSLPに対して、無関連の抗原または抗原混合物よりも少なくとも10倍、好ましくは20または50倍多く結合する場合、特異的であるとみなす。TSLPに「特異的に結合する」抗体は、TSLP由来配列を含まないタンパク質に結合せず、すなわち、「特異性」は、本明細書で用いる場合、TSLP特異性に関連するものであり、対象タンパク質に存在し得る任意の他の配列に関連するものではない。
【0116】
例えば、本明細書で用いる場合、TSLPに「特異的に結合する」抗体は、典型的には、TSLPとFLAG(登録商標)ペプチドタグを含む融合タンパク質であるFLAG−h TSLPには結合するが、FLAG(登録商標)ペプチドタグ単独、またはTSLP以外のタンパク質に融合させた場合には結合しない。
【0117】
VI.医薬組成物
医薬組成物または滅菌組成物を調製するため、該抗体またはその断片を薬学的に許容され得る担体または賦形剤と混合する。例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences and U.S.Pharmacopeia:National Formulary,Mack Publishing Company,Easton,PA(1984)参照。治療用および診断用薬剤の製剤は、例えば、凍結乾燥粉末、スラリー、水溶液または水性懸濁液の形態で、薬理学的に許容され得る担体、賦形剤または安定剤と混合することにより調製され得る(例えば、Hardmanら(2001)GoodmanおよびOilman’s The Pharmacological Basis of Therapeutics,McGraw−Hill,New York,NY;Gennaro(2000)Remington:The Science and Practice of Pharmacy,Lippincott,Williams,およびWilkins,New York,NY;Avisら(編)(1993)Pharmaceutical Dosage Forms:Parenteral Medications,Marcel Dekker,NY;Liebermanら(編)(1990)Pharmaceutical Dosage Forms:Tablets,Marcel Dekker,NY;Liebermanら(編)(1990)Pharmaceutical Dosage Forms:Disperse Systems,Marcel Dekker,NY;WeinerおよびKotkoskie(2000)Excipient Toxicity and Safety,Marcel Dekker,Inc.,New York,NY参照)。
【0118】
単独または免疫抑制剤と併用して投与される抗体組成物の毒性および治療有効性は、標準的な製薬手順によって細胞培養物または実験動物において測定され得、例えば、LD50(集団の50%に対して致死性の用量)およびED50(集団の50%において治療が有効な用量)が測定される。毒性と治療の効果の用量比は治療指数であり、LD50とED50の比で示され得る。高い治療指数を示す抗体が好ましい。このような細胞培養アッセイおよび動物試験で得られたデータは、ヒトにおける使用のための用量範囲の設定に使用され得る。かかる化合物の投薬量は、好ましくは、ED50を含み、毒性がほとんどまたは全くない範囲の循環濃度内にある。投薬量は、使用される投薬形態および使用される投与経路に応じて、この範囲内で異なり得る。
【0119】
好適な投与経路としては、非経口投与、例えば、筋肉内、静脈内または皮下投与が含まれる。医薬組成物において、または本発明の方法を実施するために使用される抗体の投与は、さまざまな慣用的な様式で、例えば、経口摂取、吸入、局所適用または経皮、皮下、腹腔内、非経口、動脈内または静脈内注射にて行われ得る。一実施形態において、本発明の結合性化合物は静脈内投与される。別の実施形態では、本発明の結合性化合物は皮下投与される。
【0120】
あるいは、該抗体を、全身性様式ではなく局所様式で、例えば、関節炎の関節内または病原体誘発性の免疫病理性を特徴とする病変内に、抗体を直接注射することによって(多くの場合、デポーまたは徐放製剤にて)投与してもよい。さらに、該抗体を、標的化薬物送達系にて、例えば、関節炎の関節または病原体誘発性の免疫病理性を特徴とする病変を標的化する組織特異的抗体でコーティングしたリポソームなどにて投与してもよい。リポソームは罹患組織に標的化され、該組織に選択的に取り込まれる。
【0121】
治療薬の投与レジメの選択は、いくつかの要素、例えば、具体物の血清または組織ターンオーバー速度、症状のレベル、具体物の免疫原性、および生物学的マトリックス中での標的細胞への到達可能性に依存する。好ましくは、投与レジメは、患者送達される治療薬の量が、副作用レベルの許容性と矛盾なく最大となる。したがって、送達される該生物製剤の量は、一部において、具体的な存在体および処置対象の病状の重症度に依存する。抗体、サイトカインおよび小分子の適切な用量の選択の指針は入手可能である(例えば、Wawrzynczak(1996)Antibody Therapy,Bios Scientific Pub.Ltd,Oxfordshire,UK;Kresina(編)(1991)Monoclonal Antibodies,Cytokines and Arthritis,Marcel Dekker,New York,NY;Bach(編)(1993)Monoclonal Antibodies and Peptide Therapy in Autoimmune Diseases,Marcel Dekker,New York,NY;Baertら(2003)New Engl.J.Med.348:601−608;Milgromら(1999)New Engl.J.Med.341:1966−1973;Slamonら(2001)New Engl.J.Med.344:783−792;Beniaminovitzら(2000)New Engl.J.Med.342:613−619;Ghoshら(2003)New Engl.J.Med.348:24−32;Lipskyら(2000)New Engl.J.Med.343:1594−1602)参照。
【0122】
適切な用量の決定は、医師により、例えば、当該技術分野において治療に影響することがわかっている、もしくは影響することが疑われる、または治療に影響することが予測されるパラメータまたは要素を用いて行われる。一般的に、用量は、至適用量より幾分少ない量から始め、その後、負の副作用よりも所望の効果または至適効果が得られるまで少しずつ増やす。重要な診断の尺度としては、例えば、炎症の症状または生成される炎症サイトカインレベルが挙げられる。好ましくは、使用される生物製剤は処置対象の動物と同じ種に由来するものであり、それにより、該試薬に対する炎症性、自己免疫性または増殖性の応答が最小限となる。
【0123】
抗体、抗体断片およびサイトカインは、連続注入によって供給してもよく、間隔をあけた投与(例えば、1日、1週間、または週1〜7回)によって供給してもよい。投与は、静脈内、皮下、局所、経口、経鼻、経直腸、筋肉内、脳内、髄腔内または吸入によって供給され得る。好ましい投与プロトコルは、有意な望ましくない副作用が回避される最大投与または投与頻度を伴う。週総投与量は、一般的には少なくとも0.05μg/kg体重、より一般的には少なくとも0.2μg/kg、最も一般的には少なくとも0.5μg/kg、典型的には少なくとも1μg/kg、より典型的には少なくとも10μg/kg、最も典型的には少なくとも100μg/kg、好ましくは少なくとも0.2mg/kg、より好ましくは少なくとも1.0mg/kg、最も好ましくは少なくとも2.0mg/kg、最適には少なくとも10mg/kg、より最適には少なくとも25mg/kg、最も最適には少なくとも50mg/kgである(例えば、Yangら(2003)New Engl.J.Med.349:427−434;Heroldら(2002)New Engl.J.Med.346:1692−1698;Liuら(1999)J.Neurol.Neurosurg.Psych.67:451−456;Portieljiら(20003)Cancer Immunol.Immunother.52:133−144参照)。小分子治療薬(例えば、ペプチド模倣物、天然産物または有機化学物質)の所望の用量は、モル/kg基準で、抗体またはポリペプチドとほぼ同じである。
【0124】
本明細書で用いる場合、「阻害する」または「処置する」または「処置」は、自己免疫疾患もしくは病原体誘発性免疫病理と関連する症状の発現の遅延、および/または発現もしくは発現が予測されるかかる症状の重症度の低減を包含する。該用語は、さらに、既に存在している制御不能なもしくは好ましくない自己免疫関連または病原体誘発性免疫病理の症状の改善、さらなる症状の予防、およびかかる症状の根底の原因の改善または予防を包含する。したがって、該用語は、炎症性疾患を有する脊椎動物被験者に有益な結果がもたらされたことを表す。
【0125】
本明細書で用いる場合、用語「治療有効量」または「有効量」は、単独またはさらなる治療用薬剤と併用して細胞、組織または被験者に投与したとき、自己免疫疾患または病原体誘発性免疫病理関連疾患もしくは病状あるいは該疾患の進行の抑制または改善に有効である抗TSLP抗体またはその断片の量をいう。さらに、治療有効用量は、症状の改善、例えば、関連疾病状態の処置、治癒、予防もしくは改善、またはかかる病状の処置、治癒、予防もしくは改善速度の増大がもたらされるのに充分である該化合物の量をいう。単独で投与される個々の活性成分に対して適用される場合、治療有効用量は、該成分単独のものをいう。組合せに対して適用される場合、治療有効用量は、治療効果がもたらされる活性成分の合計量をいう(併用、逐次または同時のいずれで投与される場合でも)。治療薬の有効量は、症状を、典型的には少なくとも10%;通常、少なくとも20%;好ましくは少なくとも約30%;より好ましくは少なくとも40%、最も好ましくは少なくとも50%低減させる量である。
【0126】
本発明の抗TSLP抗体またはその抗原結合断片と、第2の治療用薬剤(例えば、サイトカイン、ステロイド、化学療法剤、抗生物質または放射線(または本明細書において論考した任意のかかる薬剤)を用いた共投与または処置のための方法は、本発明の一部を構成する。概要は、例えば、Hardmanら(編)(2001)GoodmanおよびOilmanのThe Pharmacological Basis of Therapeutics,第10版,McGraw−Hill,New York,NY;PooleおよびPeterson(編)(2001)Pharmacotherapeutics for Advanced Practice:A Practical Approach,Lippincott,Williams & Wilkins,Phila.,PA;ChabnerおよびLongo(編)(2001)Cancer Chemotherapy and Biotherapy,Lippincott,Williams & Wilkins,Phila.,PAを参照のこと。また、本発明の抗体およびその抗原結合断片ならびにその医薬組成物には、他の免疫抑制剤または免疫調節剤が含まれていてもよい。任意の適切な免疫抑制剤が使用され得、限定されないが、抗炎症剤、コルチコステロイド、シクロスポリン、タクロリムス(すなわち、FK−506)、シロリムス、インターフェロン、可溶性サイトカイン受容体(例えば、sTNRFおよびsIL−lR)、サイトカイン活性を中和する薬剤(例えば、インフリキシマブ、アダリムマブ、ゴリマブ、エタネルセプト)、ミコフェノール酸モフェチル、15−デオキシスペルグアリン、サリドマイド、グラチラマー、アザチオプリン、レフルノミド、シクロホスファミド、メトトレキサートなどを含む。また、非ステロイド系抗炎症薬を、本発明の抗体もしくはその抗原結合断片またはその医薬組成物とともに供給してもよい。また、該医薬組成物を、他の治療様式(光線療法および放射線など)とともに使用することもできる。本発明の範囲は、本発明の任意の抗体またはその抗原結合断片と、任意の第2の治療用薬剤を含む組成物を含む(例えば、本明細書において論考したように、該抗体または断片を第2の治療用薬剤とは別に製剤化する場合、または一緒に製剤化する場合など)。
【0127】
典型的な獣医学用、実験用または研究用の被験者としては、サル、イヌ、ネコ、ラット、マウス、ウサギ、モルモット、ウマおよびヒトが挙げられる。
【0128】
VII.抗体の作製
本発明の抗体の組換え作製では、該2つの鎖をコードする核酸を単離し、1つ以上の複製可能なベクター内に挿入し、さらにクローニング(DNAの増幅)するか、または発現させる。モノクローナル抗体をコードするDNAは、慣用的な手順を用いて容易に単離され、配列決定される(例えば、該抗体の重鎖および軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合し得るオリゴヌクレオチドプローブを使用することにより)。多くのベクターが利用可能である。ベクター成分としては、一般的には、限定されないが、以下:シグナル配列、複製起点、1種類以上のマーカー遺伝子、エンハンサーエレメント、プロモーター、および転写終結配列の1種類以上を含む。一実施形態において、本発明のヒト化抗TSLP抗体の軽鎖および重鎖はともに、同じベクター(例えば、プラスミドまたはアデノウイルスベクター)で発現される。
【0129】
本発明の抗体および抗原結合断片は、当該技術分野で知られた任意の方法によって作製され得る。一実施形態において、抗体は、培地中、哺乳動物または昆虫細胞(例えば、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、ヒト胚性腎臓(HEK)293細胞、マウス骨髄腫NSO細胞、ベビーハムスター腎臓(BHK)細胞、ヨウトガ卵巣(Sf9)細胞など)で発現させる。本発明の一実施形態において、抗体およびその抗原結合断片は、真菌細胞、例えば、ピキア(Pichia)細胞、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)細胞、ピキア・フルンランディカ(Pichia flnlandica)細胞、ピキア・トレハロフィラ(Pichia trehalophila)細胞、ピキア・コクラマエ(Pichia koclamae)細胞、ピキア・メンブラナエファシエンス(Pichia membranaefaciens)細胞、ピキア・ミヌタ(Pichia minuta)細胞(オガタエア・ミヌタ(Ogataea minuta)、ピキア・リンドネリ(Pichia lindneri))、ピキア・オプンチアエ(Pichia opuntiae)細胞、ピキア・サーモトレランス(Pichia thermotolerans)細胞、ピキア・サリクタリア(Pichia salictaria)細胞、ピキア・ピキア・グエルキュウム(Pichia guercuum)細胞、ピキア・ピペリ(Pichia pijperi)細胞、ピキア・スチプチス(Pichia stiptis)細胞、ピキア・メタノリカ(Pichia methanolica)細胞、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)細胞、サッカロミセス細胞、ハンセヌラ・ポリモルファ(Hansβnula polymorpha)細胞、クルイウェロマイセス(Kluyveromyces)細胞、クルイウェロマイセス・ラクティス(Kluyveromyces lactis)細胞、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)細胞、アスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)細胞、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)細胞、アスぺルギルス・オリザエ(Aspergillus oryzae)細胞、トリコデルマ・レッセイ(Trichoderma reesei)細胞、クリソスポリウム・ルックノウエンス(Chrysosporium lucknowense)細胞、フザリウム(Fusarivm)細胞、フザリウム・グラミネウム(Fusarium gramineum)細胞、フザリウム・ベネナツム(Fusarium venenatum)細胞またはニューロスポラ・クラッサ(Neuraspora crassa)細胞において生成させる。
【0130】
一実施形態では、CHO細胞から分泌された抗体を回収し、プロテインA、カチオン交換、アニオン交換、疎水性相互作用、およびヒドロキシアパタイトクロマトグラフィーなどの標準的なクロマトグラフィー法によって精製する。得られた抗体は濃縮し、20mM酢酸ナトリウム(pH5.5)中で保存する。
【0131】
別の実施形態では、本発明の抗体を、国際公開第2005/040395号に記載の方法に従って酵母において生成させる。簡単には、対象の抗体の個々の軽鎖または重鎖をコードするベクターを異なる酵母一倍体細胞(例えば、異なる接合型の酵母ピキア・パストリス、この酵母一倍体細胞は、任意選択で相補的な栄養素要求株である)内に導入する。次いで、形質転換された一倍体酵母細胞を接合または融合させると、重鎖と軽鎖の両方を産生し得る二倍体酵母細胞が得られ得る。そのため、この二倍体株は、完全合成された生物学的に活性な抗体分泌することができる。この2つの鎖の相対発現レベルは、例えば、異なるコピー数でベクターを使用すること、異なる強度の転写プロモーターを使用すること、または該鎖の一方もしくは両方をコードする遺伝子の転写を駆動する誘導プロモーターで発現を誘導することにより最適化され得る。
【0132】
一実施形態において、抗TSLP抗体の重鎖および軽鎖のそれぞれを酵母一倍体細胞内に導入し、複数の軽鎖を発現する1種類の接合型の一倍体酵母株のライブラリーと、複数の重鎖を発現する異なる接合型の一倍体酵母株のライブラリーを作出する。これらの一倍体株のライブラリーを接合(またはスフェロプラストとして融合)させると、可能な種々の組合せの軽鎖および重鎖を含む抗体のコンビナトリアルライブラリーを発現する一連の二倍体酵母細胞が作製され得る。次いで、この抗体コンビナトリアルライブラリーをスクリーニングし、いずれかの抗体が、元の抗体のものよりも優れた性質(例えば、TSLPに対して、より高い親和性)を有するかどうかが判定され得る。例えば、国際公開第2005/040395号参照。
【0133】
別の実施形態では、本発明の抗体は、抗体の可変ドメインの一部分を分子量およそ13kDaのポリペプチド内に連結させたヒトドメイン抗体である。例えば、米国特許公開第2004/0110941号参照。かかる単一ドメインの低分子量薬剤では、合成の容易さ、安定性および投与経路の観点から数多くの利点がもたらされる。
【0134】
VIII.使用
本発明は、炎症性障害の処置および診断のために操作型抗TSLPを使用(例えば、ヒトなどの哺乳動物において)する方法を提供する。
【0135】
好ましい実施形態において、炎症性障害は喘息である。
【0136】
別の好ましい実施形態では、炎症性障害はアレルギー性炎症性障害である。好ましい実施形態では、アレルギー性炎症性障害はアレルギー性鼻副鼻腔炎、アレルギー性喘息、アレルギー性結膜炎またはアトピー性皮膚炎である。
【0137】
本発明は、線維症、炎症性腸疾患、ホジキンリンパ腫、呼吸器系ウイルス感染もしくは他のウイルス感染、関節リウマチ、または損傷部位における炎症を特徴とする他の障害の処置および診断のために操作型抗TSLPを使用する方法を提供する。
【0138】
以下の実施例の参照により、本発明の最も広い範囲を最良に理解されたい。実施例は、本発明を具体的な実施形態に限定することを意図するものではない。
【0139】
本明細書において挙げたものはすべて、引用により、個々の各刊行物または特許出願があたかも具体的に個々に示されて引用により組み込まれているのと同程度に本明細書に組み込まれる。
【0140】
本発明の多くの修正および変形が、その精神および範囲を逸脱することなく行われ得、これらは当業者に自明であろう。本明細書に記載した具体的な実施形態は、一例として示したものにすぎず、本発明は、添付の特許請求の範囲の用語およびかかる特許請求の範囲によって権利付与される均等物の全範囲によって限定され;本発明は、本明細書において一例として提示した具体的な実施形態によっては限定されない。
【0141】
実施例
実施例1
一般法
分子生物学における標準的な方法が記載されている(Maniatisら(1982)Molecular Cloning,A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY;Sambrook and Russell(2001)Molecular Cloning,第3版,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY;Wu(1993)Recombinant DNA,第217巻,Academic Press,San Diego,CA)。また、標準的な方法は、Ausbelら(2001)Current Protocols in Molecular Biology,第1〜4巻,John Wiley and Sons,Inc.New York,NYにも見られ、これには、細菌細胞におけるクローニングおよびDNA変異誘発(第1巻)、哺乳動物細胞および酵母におけるクローニング(第2巻)、グリココンジュゲートおよびタンパク質発現(第3巻)、およびバイオインフォマティクス(第4巻)が記載されている。
【0142】
タンパク質精製のための方法、例えば、免疫沈降、クロマトグラフィー、電気泳動、遠心分離、および晶出が記載されている(Coliganら(2000)Current Protocols in Protein Science,第1巻,John Wiley and Sons,Inc.,New York)。化学分析、化学修飾、翻訳後修飾、融合タンパク質の作製、タンパク質のグリコシル化が記載されている(例えば、Coliganら(2000)Current Protocols in Protein Science,第2巻,John Wiley and Sons,Inc.,New York;Ausubelら(2001)Current Protocols in Molecular Biology,第3巻,John Wiley and Sons,Inc.,NY,NY,pp.16.0.5−16.22.17;Sigma−Aldrich,Co.(2001)Products for Life Science Research,St.Louis,MO;pp.45−89;Amersham Pharmacia Biotech(2001)BioDirectory,Piscataway,N.J.,pp.384−391参照)。ポリクローナルおよびモノクローナル抗体の作製、精製および断片化が記載されている(Coliganら(2001)Current Protcols in Immunology,第1巻,John Wiley and Sons,Inc.,New York;HarlowおよびLane(1999)Using Antibodies,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY;HarlowおよびLane,上掲)。リガンド/受容体相互作用の特性評価のための標準的な手法が利用可能である(例えば、Coliganら(2001)Current Protcols in Immunology,第4巻,John Wiley,Inc.,New York参照)。
【0143】
単鎖抗体およびダイアボディが記載されている(例えば、Maleckiら(2002)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 99:213−218;Conrathら(2001)J.Biol.Chem.276:7346−7350;Desmyterら(2001)J.Biol.Chem.276:26285−26290;HudsonおよびKortt(1999)J.Immunol.Methods 231:177−189;および米国特許第4,946,778号参照)。二官能性抗体が示されている(例えば、Mackら(1995)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 92:7021−7025;Carter(2001)J.Immunol.Methods 248:7−15;Volkelら(2001)Protein Engineering 14:815−823;Segalら(2001)J.Immunol.Methods 248:1−6;Brennanら(1985)Science 229:81−83;Rasoら(1997)J.Biol.Chem.272:27623;Morrison(1985)Science 229:1202−1207;Trauneckerら(1991)EMBO J.10:3655−3659;および米国特許第5,932,448号、同第5,532,210号、および同第6,129,914号参照)。
【0144】
また、二重特異性抗体も示されている(例えば、Azzoniら(1998)J.Immunol.161:3493;Kitaら(1999)J.Immunol.162:6901;Merchantら(2000)J.Biol.Chem.74:9115;Pandeyら(2000)J.Biol.Chem.275:38633;Zhengら(2001)J.Biol Chem.276:12999;Propstら(2000)J.Immunol.165:2214;Long(1999)Ann.Rev.Immunol.17:875参照)。
【0145】
該抗体は、例えば、小分子薬物(small drug molecules)、酵素、リポソーム、ポリエチレングリコール(PEG)にコンジュゲートさせ得る。該抗体は、治療、診断、キットまたは他の目的に有用であり、例えば、色素、放射性同位体、酵素、または金属(例えば、コロイド状の金)にカップリングさせた抗体が挙げられる(例えば、Le Doussalら(1991)J.Immunol.146:169−175;Gibelliniら(1998)J.Immunol.160:3891−3898;HsingおよびBishop(1999)J.Immunol.162:2804−2811;Evertsら(2002)J.Immunol.168:883−889参照)。
【0146】
フローサイトメトリー(例えば、蛍光標示式細胞分取(FACS))のための方法が利用可能である(例えば、Owensら(1994)Flow Cytometry Principles for Clinical Laboratory Practice,John Wiley and Sons,Hoboken,NJ;Givan(2001)Flow Cytometry,第2版;Wiley−Liss,Hoboken,NJ;Shapiro(2003)Practical Flow Cytometry,John Wiley and Sons,Hoboken,NJ参照)。例えば、診断用試薬としての使用のための核酸、例えば、核酸プライマーおよびプローブ、ポリペプチドおよび抗体の修飾に適した蛍光試薬が利用可能である(Molecular Probes(2003)Catalogue,Molecular Probes,Inc.,Eugene,OR;Sigma−Aldrich(2003)Catalogue,St.Louis,MO)。
【0147】
免疫機構の組織学検査の標準的な方法が記載されている(例えば、Muller−Harmelink(編)(1986)Human Thymus:Histopathology and Pathology,Springer Verlag,New York,NY;Hiattら(2000)Color Atlas of Histology,Lippincott,Williams,およびWilkins,Phila,PA;Louisら(2002)Basic Histology:Text and Atlas,McGraw−Hill,New York,NY参照)。
【0148】
例えば、抗原性断片、リーダー配列、タンパク質折り畳み、機能性ドメイン、グリコシル化部位、および配列アライメントを調べるためのソフトウェアパッケージおよびデータベースが利用可能である(例えば、GenBank,Vector NTI(登録商標)Suite(Informax,Inc,Bethesda,MD);GCG Wisconsin Package(Accelrys,Inc.,San Diego,CA);DeCypher(登録商標)(TimeLogic Corp.,Crystal Bay,Nevada);Menneら(2000)Bioinformatics 16:741−742;Menneら(2000)Bioinformatics Applications Note 16:741−742;Wrenら(2002)Comput.Methods Programs Biomed.68:177−181;von Heijne(1983)Eur.J.Biochem.133:17−21;von Heijne(1986)Nucleic Acids Res.14:4683−4690参照)。
【0149】
実施例2
脱アミド化の問題を回避するための抗TSLP抗体の配列の最適化
ヒトおよびcyno TSLPに結合するヒト化抗体は、国際出願公開公報国際公開第2008/076321号に開示されている。この配列をさらに解析し、本発明者は、この抗体のCDR−H2には国際公開第2008/076321号の配列番号4の61位と63位に2つのアスパラギン(N)残基が含まれていることを確認し、潜在的にこれが脱アミド化され、それにより抗体の構造が破壊され、抗体の安全性および/または有効性に影響を及ぼすという意図しない深刻な問題を引き起こすであろう。このような問題を回避するため、本発明者らは、このような脱アミド化の問題が回避され、ヒトおよびcyno TSLPに対する親和性が保持され、免疫原性に関するさらなる問題も回避される、改善された抗体を作出した。この改善された抗体は、配列番号7の可変重鎖アミノ酸配列を含む。このアミノ酸配列のCDR−H2は配列番号2に対応する。
【0150】
図1は、国際公開第2008/076321号の配列番号14と対比させた本出願書類の配列番号11のアライメント(すなわち、本明細書の特許請求の範囲に示した抗体の重鎖と国際公開第2008/076321号に開示された抗体のアライメント)を示す。図1において、「配列1」は本出願書類の配列番号11に対応し、「配列2」は国際公開第2008/076321号の配列番号14に対応する。本明細書の特許請求の範囲に示した抗体では、国際公開第2008/076321号の配列番号14の61位の位置のアスパラギン(N)をアラニン(A)に変更し、配列番号14の63位のアスパラギンをリジン(K)に変更した。これらの変更は、これらの残基の脱アミド化の可能性を回避するために行った。さらに、国際公開第2008/076321号の配列番号4の65位のリジン(K)をグルタミン(Q)に変更した。この変更は、免疫原性が生じる可能性を減少させるために行った。国際公開第2008/076321号の配列番号14の72位に、トレオニン(T)をアラニン(A)に変更するさらなる変更を行った。この変更は、抗体の結合親和性を改善するために行った。
【0151】
驚くべきことに、CDR−H2中での変更は、得られる抗体の結合親和性に実質的に影響しないことがわかった。
【0152】
本明細書において開示した抗体の重鎖および軽鎖をコードする遺伝子を含むベクターは、2009年11月17日に、ATCC,10801 University Blvd.,Manassas,VA 20110−2209に寄託し、ATCC寄託番号PTA−10482で受領された。この寄託は、ブダペスト条約に示された条件の下に行った。軽鎖および重鎖(シグナルペプチドを含む)をコードする核酸配列は単一のプラスミドであり、両方の遺伝子が、ヒトサイトメガロウイルス(CMV)プロモーターで発現される。また、このプラスミドには、哺乳動物細胞内での選定用のアンピシリン耐性遺伝子および遺伝子増幅用のDHFR遺伝子を含む。
【0153】
実施例3
KinExA技術を用いたヒト化抗ヒトTSLPに関する平衡解離定数(K)の測定
平衡解離定数(K)を、KinExA 3000機器(Sapidyne Instruments Inc.,www.sapidyne.com)を用いて測定した。KinExAでは、抗体、抗原および抗体−抗原複合体の混合物中の非複合体形成抗体の濃度の測定に基づいたKinetic Exclusion Assay法の原理を使用する。遊離抗体の濃度は、非常に短い時間、該混合物を固相固定化抗原に曝露することにより測定される。実際には、これは、液相の抗原−抗体混合物をフローセルに捕捉させた抗原コート粒子を通過するように流すことにより行われる。この機器によって得られたデータを、カスタムソフトウェアを用いて解析する。平衡定数は、以下の仮定:
1.結合は、平衡の可逆的結合の式:
on[Ab][Ag]=koff[AbAg]
に従う、
2.抗体と抗原は1:1で結合し、全抗体=抗原−抗体複合体+遊離抗体である、
3.機器のシグナルは遊離抗体濃度と直線的関係である、
に基づいた数学的理論を用いて計算される。
【0154】
材料
抗体:
抗体1:親ラット抗体23B12
抗体2:ヒト化抗hu TSLP mAb 23B12(国際公開第2008/076321号の配列番号14の重鎖と配列番号16の軽鎖を含む)
抗体3:ヒト化抗hu TSLP mAb 23B12(国際公開第2008/076321号の配列番号14の72位にTからAへの変異を有する重鎖と配列番号16の軽鎖を含む)
抗体4:ヒト化抗hu TSLP mAb 23B12(本出願書類の配列番号11の重鎖と配列番号12の軽鎖を含む)
抗原:
組換えヒトTSLP
ビオチン化抗原:
ビオチン化ヒトTSLP
他の試薬:
PMMA粒子,98ミクロン(Sapidyne,カタログ番号440198)
ニュートラビジン(Pierce,カタログ番号31000)
Cy5コンジュゲートヤギ抗ラットIgG(H+L)(Jackson Immunoresearch Laboratoriesカタログ番号112−175−167,ロット60306)
Cy5コンジュゲートヤギ抗HuIgG(H+L)(Jackson Immunoresearch Laboratoriesカタログ番号109−175−088,ロット49069およびロット58552)
実験条件
PMMA粒子をビオチン化ヒトTSLPで、Sapidyne「Protocol for coating PMMA particles with biotinylated ligands having short or nonexistent linker arms」に従ってコーティングした。実験手順はすべて、KinExA 3000マニュアルに従って行った。実験はすべて重複して行った。
【0155】
以下の条件を使用した:
試料容量:2mL
試料流速:0.25mL/分
標識容量:1mL
標識流速:0.25mL/分
抗体濃度:0.1nM
最高抗原濃度:10nM
最低抗原濃度:10pM
抗原の2倍連続希釈物を調製し、定濃度の抗体と混合した。この混合物を25℃で2時間インキュベートし、平衡化させた。
【表3】

【0156】
実施例4
ヒトおよびCyno TSLPに対する抗体の親和性
ヒト(hu)TSLPおよびカニクイザル(cyno)TSLPの両方に対する親ラットおよび種々のヒト化誘導体の抗ヒトTSLP抗体の速度論的結合活性を、表面プラズモン共鳴により、BIAcore T100システム(BIAcore AB,Upsalla,Sweden)を用いて測定した。およそ100RUのヒトTSLPまたはcyno TSLPを、アミンカップリング化学反応によって、Sensor Chip CM5(研究等級,BR−1006−68)上に固定化した。HBS−EPバッファー(BR−1006−69)を、泳動バッファーとして30μL/分の流速で使用した。0.82〜600nMの範囲の種々の濃度のラットおよびヒト化23B12抗体を、固定化huまたはcyno TSLPの表面上に30μL/分の流速で注入した。各注入サイクル後、一連の溶液(それぞれ、10mMグリシン(pH1.5)および25mM NaOH)を75μL/分の流速で用いてCM5チップ表面を再生させた。
【0157】
バックグラウンドを差し引いた結合センサーグラムを、会合(ka)および解離(kd)の速度定数ならびに平衡解離定数Kの解析に使用した。得られたデータセットを、BIAevaluationソフトウェア(バージョン1.0)を用いて二価解析物モデルにフィットさせた。種々の抗体について測定されたKを表4に示す。個々の実験の結果を個別の列に示す。
【表4】

【0158】
実施例5
中和抗TSLP抗体の評価のための増殖バイオアッセイ
種々の抗TSLP抗体のヒトおよびcyno TSLPを生物学的に中和する能力を、組換えヒトおよびcyno TSLP受容体を発現する細胞を用いた短期間増殖バイオアッセイを適用することによって評価した。トランスフェクタントBa/F3−TSLPR−IL7Ra細胞はTSLPに応答して増殖し、その応答は中和抗TSLP抗体によって阻害され得る。各抗体を、TSLP用量応答曲線の線形領域内、平坦部付近およびTSLP EC50より上から選択したTSLP濃度に対して滴定した。増殖またはその欠如を比色手段により、増殖インジケータ色素AlamarBlueを用いて代謝活性の検出に基づいて測定する。抗体がTSLPを中和する能力は、そのEC50値、またはTSLP増殖の最大の半分の阻害を誘発する抗体の濃度によって評価する。
【0159】
Ba/F3トランスフェクタントは、RPMI−1640培地、10%ウシ胎仔血清、50μΜ 2−メルカプトエタノール、2mM L−グルタミン、50μg/mLペニシリン−ストレプトマイシン、および10ng/mLマウスIL−3中で維持する。
【0160】
Ba/F3 増殖バイオアッセイは、RPMI−1640培地、10%ウシ胎仔血清、50μΜ 2−メルカプトエタノール、2mM L−グルタミン、および50μg/mLペニシリン−ストレプトマイシン中で行う。
【0161】
このアッセイは、96ウェル平底プレート(Falcon 3072または類似物)において行う。すべての試薬および細胞懸濁液の調製は、適切なバイオアッセイ培地を使用する。アッセイ容量は150μL/ウェルとする。抗TSLP抗体の滴定物をTSLPとともに室温で30〜60分間プレインキュベートし、この間に細胞を調製する。抗体−サイトカインのプレインキュベーション後に細胞をプレートに添加する。バイオアッセイプレートを、加湿組織培養チャンバ内(37C、5%CO)で40〜48時間インキュベートする。培養時間の終了時、Alamar Blue(Biosourceカタログ番号DAL1100)を添加し、8〜12時間放置する。次いで、吸光度を570nmおよび600nmにおいて読取り(VERSAmax Microplate Reader,Molecular Probes)、OD570−600 を得る。二重または三重を推奨する。
【0162】
細胞は、健常増殖状態で一般的には3〜8×10/mLの密度で使用する。細胞を計数し、ペレット化し、バイオアッセイ培地中で2回洗浄し、プレーティングに適切な密度で懸濁させる。
【0163】
TSLPを作業濃度で調製し、第1のウェルに75μLで添加した。ウェル全体においてバイオアッセイ培地中で25:50μLを滴定し、50μL/ウェルにすることにより1:3の連続希釈物を作製した。細胞を、100μL/ウェルでのプレーティングに適切な密度に懸濁させた。
【0164】
抗体を作業濃度で調製し、第1のウェルに75μLで添加した。ウェル全体においてバイオアッセイ培地中で25:50μLを滴定し、50μL/ウェルにすることにより1:3の連続希釈物を作製した。適切な濃度のTSLPを50μL/ウェルで、滴定抗体を含むウェルに添加した。細胞を、50μL/ウェルでのプレーティングに適切な密度に懸濁させ、抗体−サイトカインのプレインキュベーション後に添加した。
【0165】
GraphPad Prism 3.0ソフトウェアを使用し、吸光度をサイトカインまたは抗体の濃度に対してプロットし、シグモイド用量−応答の非線形回帰(曲線フィット)を用いてEC50値を求めた。
【0166】
アッセイの結果を表5に示す。個々の実験の結果を個別の列に示す。
【表5】

【0167】
平均値およびSD(標準偏差)を含む、表5に示した結果のまとめを表6に示す(表6に示した値の計算には、HEK293細胞で発現させたTSLPを用いて得られた値のみを使用した)。
【表6】

【0168】
実施例6
ヒト一次樹状細胞によるTSLP誘発性TARC産生に対する抗TSLPの中和活性
末梢血単核細胞(PBMC)を、健常血液ドナー(Stanford Medical School Blood Center,Stanford,CA)から得た軟膜からFicoll遠心分離によって単離し、CDllc+樹状細胞は、MACS(Miltenyi Biotech,Auburn,CA)によって、陰性選択し、続いてFACSを用いた細胞分取を用いて得た。系統陰性(Lin)細胞を、PBMC由来のT細胞、B細胞、NK細胞、赤血球および単球のMACS枯渇により、マウス抗ヒトCD3 mAb(OKT3、DNAX)およびマウス抗CD16 mAbおよびヤギ抗マウスIgGコート磁性ビーズ(Miltenyi Biotech)を用いて、および抗CD19、CD56およびCD14 mAb(Miltenyi Biotech)を直接コーティングした磁性ビーズを用いて得た。続いて、Lin細胞を、TC−抗CD4(Caltag,Burlingame,CA)、PE−抗CD11cおよびFITC−抗CD3、−CD14、−CD19、−CD56、−CD16、および−CD20(すべて、BD Biosciences,San Diego,CA)で染色し、CD11c+ DCをVantage FACsorter(商標)(BD Biosciences)でCD11c CD4 Lin細胞を>99%の純度まで分取した。
【0169】
CD11c CD4 DCを、分取直後に、10%FCSおよび1%ピルベート(Mediatech)、HEPES(Invitrogen,Grand Island,NY)およびペニシリン−ストレプトマイシン(Mediatech)を含有するRPMI(Mediatech,Herndon,VA)中で培養した。細胞を0.5×10/mlで平底96ウェルプレート内に、培地単独、TSLP(15ng/ml、DNAX)、またはTSLPと中和抗TSLP mAb(クローン23B12)の組合せ、または抗TSLPR モノクローナル抗体またはアイソタイプ対照ラットIgG2a(R&D Systems,Minneapolis,MN)の存在下で播種した。培養の24時間後にDC培養上清みを収集し、−20℃で凍結保存し、TARCタンパク質レベルについてELISA(R&D Systems)によって解析した。
【0170】
結果を表7にまとめる。個々の実験の結果を個別の列に示す。
【表7】

【0171】
平均値およびSD(標準偏差)を含む、表7に示した結果のまとめを表8に示す。
【表8】

【0172】
実施例7
カニクイザル脾細胞によるTSLP誘発性MDC産生に対する抗TSLP抗体の中和活性
全脾細胞懸濁液をカニクイザルの脾臓から、組織を破壊し、これを50メッシュのステンレス鋼組織篩(Bellco)に通した後、70マイクロメートルNylon Cellストレーナー(BD Falcon)に通すことによって調製した。細胞懸濁液を遠心分離によってDPBS中で洗浄し、予備加温した37℃のACK溶解バッファー(BioWhittaker)中に細胞ペレットを再懸濁させて赤血球を溶解させ、37℃で5分間インキュベートした。細胞をDPBS中で希釈し、培養培地中で2回洗浄して再懸濁させた。
【0173】
脾細胞を、10%FCSおよび1%ピルベート(Mediatech)、HEPES(Invitrogen,Grand Island,NY)およびペニシリン−ストレプトマイシン(Mediatech)を含有するRPMI(Mediatech,Herndon,VA)中で培養した。細胞を1.0×10/mlで平底96ウェルプレート内に、培地単独、TSLP(0.1ng/ml)、またはTSLPと中和抗TSLP mAb(抗体1もしくは抗体4)の組合せの存在下で播種した。培養の120時間後に脾細胞培養上清みを収集し、−20℃で凍結保存し、MDCタンパク質レベルについてヒトMDC ELISA(R&D Systems)によって解析した。
【0174】
結果を表9にまとめる。個々の実験の結果を個別の列に示す。
【表9】

【0175】
本発明の多くの修正および変形がその精神および範囲を逸脱することなく行われ得、これらは当業者に自明であろう。本明細書に記載した具体的な実施形態は、一例として示したものにすぎず、本発明は、添付の特許請求の範囲の用語およびかかる特許請求の範囲によって権利付与される均等物の全範囲によって限定され;本発明は、本明細書において一例として提示した具体的な実施形態によっては限定されない。
【0176】
上記の刊行物または文献の引用は、それがいずれも該当先行技術であることの容認を意図するものではなく、これらの刊行物または文献の内容またはデータに関してなんら容認を構成するものでもない。本明細書において言及した米国特許および他の刊行物は引用により本明細書に組み込まれる。
【0177】
配列表
本発明は、それぞれ、以下のいずれかのアミノ酸またはヌクレオチド配列を含む任意の単離されたポリペプチドまたは単離された核酸を含む。
【表10】



【特許請求の範囲】
【請求項1】
重鎖可変領域またはそのTSLP結合断片を含む、ヒトTSLPに特異的に結合する結合性化合物であって、前記重鎖可変領域が配列番号2を含むCDR−H2配列を含み;
そして場合により第2の治療用薬剤を含む、結合性化合物。
【請求項2】
さらに、
(i)配列番号1を含むCDR−H1配列;および
(ii)配列番号3を含むCDR−H3配列、
を含む、請求項1に記載の結合性化合物。
【請求項3】
さらに、抗体軽鎖可変領域またはそのTSLP結合断片を含む、請求項1に記載の結合性化合物。
【請求項4】
前記軽鎖可変領域が、
(i)配列番号4を含むCDR−L1配列;
(ii)配列番号5を含むCDR−L2配列;および
(iii)配列番号6を含むCDR−L3配列、
を含む、請求項3に記載の結合性化合物。
【請求項5】
(i)配列番号7;
(ii)配列番号7またはそのバリアント;および
(iii)配列番号7と少なくとも97%の相同性を有する配列、
からなる群より選択される配列を含む重鎖可変領域を含む、ヒトTSLPに特異的に結合する結合性化合物。
【請求項6】
前記バリアントが3個までの修飾アミノ酸残基を含む、請求項5に記載の結合性化合物。
【請求項7】
前記重鎖可変領域が配列番号7のアミノ酸配列を含む、請求項5に記載の結合性化合物。
【請求項8】
さらに、軽鎖可変領域を含む、請求項5に記載の結合性化合物。
【請求項9】
前記軽鎖可変領域が、
(i)配列番号8;
(ii)配列番号8またはそのバリアント;および
(iii)配列番号8と少なくとも97%の相同性を有する配列、
からなる群より選択される配列を含む、請求項8に記載の結合性化合物。
【請求項10】
前記軽鎖可変領域が配列番号8を含む、請求項8に記載の結合性化合物。
【請求項11】
請求項1に記載の結合性化合物の重鎖可変領域をコードする単離された核酸。
【請求項12】
宿主細胞がベクターにトランスフェクトされると、該宿主細胞によって認識される、制御配列に機能し得るように連結された、請求項11に記載の核酸を含む発現ベクター。
【請求項13】
請求項12に記載の発現ベクターを含む宿主細胞。
【請求項14】
請求項13に記載の宿主細胞を、培養培地中、核酸配列が発現される条件下で培養し、それにより軽鎖および重鎖の可変領域を含むポリペプチドを生成させ;そして
該ポリペプチドを宿主細胞または培養培地から回収すること、
を含む、ポリペプチドの作製方法。
【請求項15】
結合性化合物が、ヒト化抗体またはそのTSLP結合断片である、請求項1に記載の結合性化合物。
【請求項16】
結合性化合物が、Fab、Fab’、Fab’−SH、Fv、scFv、F(ab’)およびダイアボディからなる群より選択されるTSLP結合抗体断片である、請求項1に記載の結合性化合物。
【請求項17】
ヒト被験者において免疫応答を抑制する方法であって、それを必要とする被験者に請求項1に記載の結合性化合物またはそのTSLP結合断片を、TSLPの生物学的活性をブロックするのに有効な量で投与することを含む方法。
【請求項18】
免疫応答が炎症応答である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
被験者が、アレルギー性鼻副鼻腔炎、アレルギー性喘息、アレルギー性結膜炎またはアトピー性皮膚炎からなる群より選択される障害を有する、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
被験者が喘息を有する、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
請求項1に記載の結合性化合物を、薬学的に許容され得る担体または希釈剤と組合せて含む組成物。
【請求項22】
結合性化合物が、TSLP媒介性活性をブロックするものである、請求項1に記載の結合性化合物。
【請求項23】
結合性化合物が、交差ブロックアッセイにおいてTSLPRに対するTSLPの結合をブロックし得るものである、請求項1に記載の結合性化合物。
【請求項24】
免疫応答を抑制する医薬の調製のための、請求項1に記載の結合性化合物またはそのTSLP結合断片の使用。
【請求項25】
炎症を処置する医薬の調製のための、請求項1に記載の結合性化合物またはそのTSLP結合断片の使用。
【請求項26】
アレルギー性炎症を処置する医薬の調製のための、請求項1に記載の結合性化合物またはそのTSLP結合断片の使用。
【請求項27】
アレルギー性鼻副鼻腔炎、アレルギー性喘息、アレルギー性結膜炎またはアトピー性皮膚炎を処置する医薬の調製のための、請求項1に記載の結合性化合物またはそのTSLP結合断片の使用。
【請求項28】
喘息を処置する医薬の調製のための、請求項1に記載の結合性化合物またはそのTSLP結合断片の使用。
【請求項29】
結合性化合物が、配列番号11および配列番号12を含む抗体である、請求項1に記載の結合性化合物。
【請求項30】
結合性化合物が、ATCC寄託番号PTA−10482で寄託されたベクターで発現させることができる、請求項1に記載の結合性化合物。
【請求項31】
結合性化合物が、ATCC寄託番号PTA−10482で寄託されたベクターで発現させることができる重鎖を含む、請求項1に記載の結合性化合物。
【請求項32】
結合性化合物が、ATCC寄託番号PTA−10482で寄託されたベクターで発現させることができる重鎖可変領域を含む、請求項1に記載の結合性化合物。
【請求項33】
結合性化合物が、ATCC寄託番号PTA−10482で寄託されたベクターにより発現される抗体のCDR−H1、CDR−H2およびCDR−H3領域を含む、請求項1に記載の結合性化合物。
【請求項34】
ATCC寄託番号PTA−10482で寄託されたベクターにコードされた重鎖可変領域をコードする、請求項11に記載の単離された核酸。
【請求項35】
ATCC寄託番号PTA−10482で寄託された発現ベクター。
【請求項36】
請求項35に記載の発現ベクターを含む宿主細胞。
【請求項37】
配列番号7、8、11または12に示したアミノ酸配列を含む、単離されたポリペプチド。

【図1】
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【公表番号】特表2013−509862(P2013−509862A)
【公表日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−537186(P2012−537186)
【出願日】平成22年11月2日(2010.11.2)
【国際出願番号】PCT/US2010/055062
【国際公開番号】WO2011/056772
【国際公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(596129215)メルク・シャープ・アンド・ドーム・コーポレーション (785)
【氏名又は名称原語表記】Merck Sharp & Dohme Corp.
【住所又は居所原語表記】126 East Lincoln Avenue,Rahway,New Jersey 07065−0907 U.S.A.
【Fターム(参考)】