説明

操作感触付与型トラックボール装置

【課題】制動時に球体がスライド移動する虞のない操作感触付与型トラックボール装置を提供する。
【解決手段】トラックボール装置1は、球体2に制動力(摩擦力)を加えるブレーキ手段として、球体2の頂部を露出させる開口部5bを有して揺動可能に支持された摩擦板5と、摩擦板5を下方へ駆動可能なアクチュエータ6とを配設している。アクチュエータ6によって摩擦板5が駆動されると、摩擦板5は開口部5bの周縁部が上方から球体2に圧接する。球体2を自転可能に保持している支持部材は、球体2に点接触する複数の支持小球4と、これら支持小球4を周方向に分散して配設したベース部材3とによって構成され、このベース部材3が摩擦板5を揺動可能に支持している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種電子機器や車載電装品などの入力デバイスとして好適な操作感触付与型トラックボール装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、支持部材上に自転可能に支持された球体(トラックボール)をユーザが回転操作すると、この球体の回転方向や回転量をセンサが検出して所定の信号を出力すると共に、センサの検出結果に基づく制御によって球体に制動力が加えられるようにした操作感触付与型のトラックボール装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。この種のトラックボール装置では、制御手段の制御によってブレーキ手段が球体に制動力を加えたときに、球体を回転させるために必要な回転操作力が増大するため、センサの検出結果を反映した適宜タイミングでクリック感等の操作感触をユーザに付与することができる。
【0003】
図7は特許文献1に開示された従来のブレーキ手段を説明するためのものであり、同図に示すトラックボール装置20では、球体21が支持部材22の凹面上に搭載されて自転可能に支持されており、ソレノイド等のアクチュエータ23がプランジャ23aを介して支持部材22を上下方向に駆動できるようになっている。球体21は頂部が摩擦部材24の開口24aの上方に露出している。摩擦部材24は摩擦抵抗を生じやすい材料からなる円環状の部材であり、ハウジングの一部をなす上蓋25に固定されている。ユーザに回転操作される球体21の回転状態(回転方向や回転量)はセンサ26によって検出され、その検出信号は図示せぬ制御手段にて処理される。また、この制御手段はアクチュエータ23を制御し、必要時にプランジャ23aを上方へ駆動する。
【0004】
すなわち、図7に示す従来のトラックボール装置20のブレーキ手段は、支持部材22を上下動可能なアクチュエータ23と、支持部材22と協働して球体21を挟圧可能な摩擦部材24とによって構成されている。そして、アクチュエータ23がプランジャ23aを介して支持部材22を上向きに駆動すると、球体21がその露出部分の周囲で摩擦部材24に圧接されて摩擦力が生じるため、この摩擦力によって回転操作時の球体21に制動が加えられるようになっている。このようなブレーキ手段を採用すると、比較的大きな制動力を容易に生成することができ、構造もさほど複雑化しないという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−128963号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、図7に示すようなブレーキ手段を採用している従来のトラックボール装置20では、回転操作時の球体21に制動力(摩擦力)を加える際に、支持部材22が球体21を押し上げて摩擦部材24に圧接させるため、摩擦部材24の開口24a内に露出している球体21が上向きに若干スライド移動する。このスライド移動量自体は特に大きなものではないが、球体21を回転操作しているユーザの手指には、かかる球体21のスライド移動(上方移動)が明瞭に知覚されてしまう。そのため、かかる球体21のスライド移動は、操作中のユーザに違和感や不快感を抱かせて操作品位を低下させる要因となっていた。
【0007】
本発明は、このような従来技術の実情に鑑みてなされたもので、その目的は、制動時に球体がスライド移動する虞のない操作感触付与型トラックボール装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明は、球体と、この球体を自転可能に保持している支持部材と、前記球体に制動力を印加可能なブレーキ手段と、前記球体の回転状態を検出して検出信号を出力するセンサと、前記検出信号に基づいて前記ブレーキ手段を駆動制御する制御手段とを備え、頂部を露出させた前記球体が回転操作される操作感触付与型トラックボール装置において、前記ブレーキ手段が、前記球体の一部を上方に露出させる開口部を有する摩擦部材と、この摩擦部材を下方へ駆動可能なアクチュエータとによって構成され、前記アクチュエータが前記摩擦部材を下方へ駆動することにより、前記開口部の周縁部が前記球体に対して上方から圧接されるように構成にした。
【0009】
このように構成されたトラックボール装置では、アクチュエータが摩擦部材を下方へ駆動したときに、支持部材に保持されている球体に摩擦部材の開口部の周縁部が上方から圧接して、この球体に回転操作力に抗する制動力(摩擦力)が加えられる。すなわち、支持部材を固定したまま摩擦部材を下動させることにより、これら両部材に球体が挟圧されて制動されるようになっているため、球体は制動時にも非制動時と同じ位置に保持される。したがって、球体を回転操作中のユーザに違和感や不快感を抱かせる虞がなく、常に良好な操作品位を維持することができる。
【0010】
上記の構成において、摩擦部材が一側部を回動中心として揺動可能に支持された板状体からなると共に、この摩擦部材の他側部がアクチュエータに連結されており、摩擦部材の揺動に伴ってその開口部が略上下方向に移動するようにしてあると、板状の摩擦部材(摩擦板)の移動スペースを抑制できるため、トラックボール装置を容易に小型化できるて好ましい。この場合において、支持部材が、球体に点接触する複数の支持小球と、これら支持小球を周方向に分散して配設したベース部材とによって構成され、このベース部材が摩擦部材を揺動可能に支持していると、球体を常に安定的に保持できると共に、球体に対する摩擦部材の位置精度が高めやすくなって好ましい。
【0011】
また、上記の構成において、摩擦部材を覆う位置に固定された蓋体を備えており、この蓋体に摩擦部材の開口部よりも小径な上部開口を有していると共に、この上部開口が開口部の上方に同心状に配置されていると、制動時に摩擦部材の位置が変化してもユーザに目視される虞がなくなるため好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の操作感触付与型トラックボール装置によれば、支持部材を固定したまま摩擦部材を下動させることにより、これら両部材で球体を挟圧して制動力(摩擦力)を加えることができるため、球体は制動時にも非制動時と同じ位置に保持されることになる。それゆえ、制動時に懸念される球体のスライド移動を回避できて常に良好な操作品位が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態例に係るトラックボール装置の外観形状を示す斜視図である。
【図2】図1のトラックボール装置から蓋体を取り外した状態を示す斜視図である。
【図3】図2のトラックボール装置からハウジングを取り外した状態を示す斜視図である。
【図4】該トラックボール装置の分解斜視図である。
【図5】該トラックボール装置の長手方向に沿う縦断面図である。
【図6】該トラックボール装置の短手方向に沿う縦断面図である。
【図7】従来例を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態例を図1〜図6を参照しながら説明する。これらの図に示すトラックボール装置1は、各種電子機器(コンピュータ機器やオーディオ機器等)の入力デバイス、あるいはカーナビゲーション装置等の車載電装品の入力デバイスなどとして利用することができる。このトラックボール装置1には、金属製や合成樹脂製の球体2が自転(球の中心周りの回転)可能に組み込まれており、この球体2をユーザが回転操作することによって、球体2の回転状態(回転方向や回転量)に応じた信号が出力されるようになっている。
【0015】
まず、トラックボール装置1の基本的な構成について説明すると、球体2は、ほぼ下半分がベース部材3の中空部3aに挿入されており、この中空部3aのすり鉢状の内壁面に分散して配設されている複数個の支持小球4が球体2に点接触している。これら支持小球4は合成樹脂製または金属製であり、本実施形態例では3個の支持小球4を周方向に等間隔に配設しているが、支持小球4が4個以上であってもよい。ベース部材3の一側部上面には一対の軸受部3bが立設されており、これら軸受部3bに摩擦板5の支軸5aが軸着されている。また、ベース部材3の他側部にはソレノイドからなるアクチュエータ6が取り付けられており、ベース部材3の底部には画像センサ7が取り付けられている。なお、ベース部材3と各支持小球4によって、球体2を自転可能に保持する支持部材が構成されている。
【0016】
摩擦板5は摩擦抵抗を生じやすい材料からなる板状部材であり、その一側部に突設された一対の支軸5aを回動軸としてベース部材3に揺動可能に支持されている。摩擦板5には、これら支軸5aのほかに開口部5bとばね受け部5cおよび被駆動部5dとが設けられており、球体2の頂部は開口部5bから露出して上方へ突出している。摩擦板5のばね受け部5cには一対のコイルばね8の上端部がそれぞれ挿入されており、これらコイルばね8の弾発力によって摩擦板5は常時上方へ付勢されている。また、摩擦板5の被駆動部5dにはアクチュエータ6のプランジャ6aの上端部が係着されており、この被駆動部5dは摩擦板5の支軸5a側とは逆側の側部でプランジャ6aに連結されている。図5と図6に示すように、アクチュエータ6に通電されていないときには、コイルばね8の弾発力を受けて上方へ付勢されている摩擦板5は球体2に対して非接触な略水平姿勢に保持されている。そして、アクチュエータ6に通電されてプランジャ6aが下動すると、摩擦板5はプランジャ6aによって図5の矢印方向へ駆動されるため、図6の2点鎖線で示すように、開口部5bの周縁部が球体2に対して上方から圧接して制動力(摩擦力)を加えるようになっている。すなわち、摩擦板5とアクチュエータ6とによって、球体2に制動力を印加するためのブレーキ手段が構成されている。
【0017】
画像センサ7は、レンズ7aを介して球体2の表面に検出光を照射し、その反射光をレンズ7aを介して受光することによって、球体2の自転する方向(回転方向)と回転量をリアルタイムに検出するという公知の光学式センサである。
【0018】
図3に示すように、支持部材(ベース部材3と各支持小球4)に保持された球体2と、ベース部材3に取り付けられた摩擦板5と、アクチュエータ6および画像センサ7とはユニット化されている。そして、蓋体9を有するハウジング10にこのユニット品を収納することによって、球体2の頂部を蓋体9の上部開口9aから外部に突出させているため、ユーザは上部開口9aから突出する球体2の頂部を手指で回転操作することができる。なお、蓋体9の上部開口9aは摩擦板5の開口部5bよりも小径であり、開口部5bの上方に上部開口9aが同心状に配置されている。
【0019】
また、図3に示すように、アクチュエータ6と画像センサ7は図示せぬケーブルなどを介して制御手段11と接続されている。この制御手段11は、中央演算処理装置(CPU)やROMやRAM等を有するマイクロコンピュータである。画像センサ7で検出した信号が制御手段11で処理されることにより、球体2に対して行われた回転操作の内容が認識される。また、この制御手段11は、アクチュエータ6を駆動制御して必要時にプランジャ6aを下動させることができる。
【0020】
このように構成されたトラックボール装置1は、蓋体9の上部開口9a上に突出する球体2の頂部をユーザが回転操作すると、画像センサ7が球体2の回転状態(回転方向や回転量)を検出して制御手段11に検出信号を出力する。制御手段11は、この検出信号を信号処理してユーザによる球体2の回転操作内容を認識し、その処理結果に基づく制御信号をトラックボール装置1を入力デバイスとして利用している電子機器や車載電装品に出力する。したがって、球体2に対する回転操作に応じて、例えばディスプレイに表示されるカーソルの位置を変化させる等の入力操作が行える。
【0021】
また、このトラックボール装置1は、制御手段11が、画像センサ7の検出結果を反映した適宜タイミングで、アクチュエータ6を通電状態となしてプランジャ6aを下動させるため、その際、プランジャ6aに駆動された摩擦板5が球体2に圧接して、回転操作力に抗する制動力(摩擦力)が生成される。それゆえ、例えばディスプレイ上のカーソルが所定位置へ移動したときに球体2に制動力を加えることによって、クリック感等の操作感触をユーザの手指に感得させることができる。なお、前述したように、アクチュエータ6に通電されていないときには、コイルばね8の付勢力によって摩擦板5は球体2に対して非接触な略水平姿勢に保持されている。
【0022】
以上説明したように、本実施形態例に係るトラックボール装置1では、アクチュエータ6のプランジャ6aが摩擦板5を下方へ駆動したときに、支持部材(ベース部材3と各支持小球4)に保持されている球体2に摩擦板5の開口部5bの周縁部が上方から圧接して、この球体2に回転操作力に抗する制動力(摩擦力)が加えられるようになっている。すなわち、支持部材を固定したまま摩擦板5を下動させることにより、球体2が各支持小球4と摩擦板5との間に挟圧されて制動されるようになっているため、球体2は制動時にも非制動時と同じ位置に保持される。したがって、球体が制動時に上動して操作中のユーザに違和感や不快感を抱かせることはなく、このトラックボール装置1は常に良好な操作品位を維持することができる。
【0023】
また、本実施形態例に係るトラックボール装置1は、板状体である摩擦板5がその一側部に設けられた支軸5aを回動中心として揺動可能に支持されていると共に、支軸5aと逆側の他側部(被駆動部5d)がアクチュエータ6のプランジャ6aに連結され、摩擦板5の揺動に伴ってその開口部5bが略上下方向に移動するようにしてあるため、摩擦板5の移動スペースを抑制できて、トラックボール装置1の小型化が容易である。
【0024】
しかも、本実施形態例に係るトラックボール装置1は、球体2を自転可能に保持する支持部材が、球体2に点接触する複数の支持小球4と、これら支持小球4を周方向に分散して配設したベース部材3とによって構成され、このベース部材3が摩擦板5を揺動可能に支持しているため、球体2を常に安定的に保持できると共に、球体2に対する摩擦板5の位置精度が高めやすくなっている。
【0025】
また、本実施形態例に係るトラックボール装置1では、開口部5bよりも小径な上部開口9aを有する蓋体9が摩擦板5を覆う位置に固定されており、この上部開口9aが開口部5bの上方に同心状に配置されているため、制動時に摩擦板5の位置が変化してもユーザに目視される虞がなく、視覚的な違和感も回避されている。
【0026】
なお、上記の実施形態例では、球体2の回転状態を検出するセンサとして画像センサ7を使用しているが、他の光学式センサや磁気式センサ等を使用することも可能である。
【0027】
また、上記の実施形態例では、球体2に圧接させる摩擦部材として揺動可能な摩擦板5を使用しているが、板状でない摩擦部材を使用したり、揺動可能でなく上下動可能な摩擦部材を使用するという構成も可能である。
【符号の説明】
【0028】
1 トラックボール装置
2 球体
3 ベース部材(支持部材)
3b 軸受部
4 支持小球(支持部材)
5 摩擦板(摩擦部材)
5a 支軸
5b 開口部
5d 被駆動部
6 アクチュエータ
6a プランジャ
7 画像センサ
8 コイルばね
9 蓋体
9a 上部開口
10 ハウジング
11 制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
球体と、この球体を自転可能に保持している支持部材と、前記球体に制動力を印加可能なブレーキ手段と、前記球体の回転状態を検出して検出信号を出力するセンサと、前記検出信号に基づいて前記ブレーキ手段を駆動制御する制御手段とを備え、頂部を露出させた前記球体が回転操作される操作感触付与型トラックボール装置であって、
前記ブレーキ手段が、前記球体の一部を上方に露出させる開口部を有する摩擦部材と、この摩擦部材を下方へ駆動可能なアクチュエータとによって構成され、前記アクチュエータが前記摩擦部材を下方へ駆動することにより、前記開口部の周縁部が前記球体に対して上方から圧接されることを特徴とする操作感触付与型トラックボール装置。
【請求項2】
請求項1の記載において、前記摩擦部材が一側部を回動中心として揺動可能に支持された板状体からなると共に、この摩擦部材の他側部が前記アクチュエータに連結されており、前記摩擦部材の揺動に伴って前記開口部が略上下方向に移動することを特徴とする操作感触付与型トラックボール装置。
【請求項3】
請求項2の記載において、前記支持部材が、前記球体に点接触する複数の支持小球と、これら支持小球を周方向に分散して配設したベース部材とによって構成され、このベース部材が前記摩擦部材を揺動可能に支持していることを特徴とする操作感触付与型トラックボール装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項の記載において、前記摩擦部材を覆う位置に固定された蓋体を備えており、この蓋体が前記開口部よりも小径な上部開口を有していると共に、この上部開口が前記開口部の上方に同心状に配置されていることを特徴とする操作感触付与型トラックボール装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate