説明

操作用被覆ワイヤロープ

【課題】樹脂コーティング層の密着性を向上させた操作用被覆ワイヤロープを得る。
【解決手段】芯ストランド1の周囲に複数本の側ストランド2,3を撚り合わせた芯ワイヤロープ4の外周に、樹脂コーティング層5を設けた操作用被覆ワイヤロープにおいて、側ストランド2,3が、ストランド径D,Dの異なる複数種類のものからなるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、機械器具の操作や、窓・扉の開閉操作に使用する操作用被覆ワイヤロープ、特に、自動車のパワースライドドアの開閉操作に使用して好適な操作用被覆ワイヤロープに関する。
【背景技術】
【0002】
機械器具の操作や、窓・扉の開閉操作に使用する操作用ワイヤロープは、一般に、プーリに巻き掛けられた状態で動力を伝達し、曲げ伸ばしに対する耐久性が求められる。
【0003】
この種の操作用ワイヤロープとして、芯ストランドの周囲に複数本の側ストランドを撚り合わせた芯ワイヤロープの外周に、樹脂コーティング層を設けた被覆ワイヤロープを使用することが多い。
【0004】
この操作用被覆ワイヤロープは、樹脂コーティング層が芯ワイヤロープの外周を覆っているので、芯ワイヤロープが腐食しにくい。また、操作用被覆ワイヤロープをプーリに巻き掛けたときに、芯ワイヤロープが、樹脂コーティング層を介して間接的にプーリに接触するので、芯ワイヤロープが摩耗しにくく、耐久性に優れる。
【0005】
また、この操作用被覆ワイヤロープをはじめとする従来の操作用ワイヤロープは、芯ストランドの周囲の側ストランドを、すべて同じストランドで構成しており、これにより、操作用被覆ワイヤロープに作用する引張荷重を、それぞれの側ストランドに均一に分散させている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記の操作用被覆ワイヤロープは、樹脂コーティング層が剥がれて芯ワイヤロープが露出すると、芯ワイヤロープの腐食や摩耗が進行しやすくなり、耐久性が低下する。そのため、操作用被覆ワイヤロープにおいては、樹脂コーティング層の密着性がより高いものが求められていた。
【0007】
特に、高品質の自動車のパワースライドドアに使用する操作用被覆ワイヤロープにおいては、長期にわたり安定した性能を発揮することが求められており、樹脂コーティング層の密着性を向上させたいという要求がある。
【0008】
この発明が解決しようとする課題は、樹脂コーティング層の密着性を向上させた操作用被覆ワイヤロープを得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、この発明の発明者は、芯ストランドの周囲に複数本の側ストランドを撚り合わせた芯ワイヤロープの外周に、樹脂コーティング層を設けた操作用被覆ワイヤロープとして、前記複数本の側ストランドが、ストランド径または素線本数の異なる複数種類の側ストランドからなるものを採用すると、樹脂コーティング層の密着強度が向上し、操作用被覆ワイヤロープの曲げ伸ばしを繰り返したときにも、樹脂コーティング層が剥がれにくくなることを見出したのである。
【0010】
樹脂コーティング層の密着性が向上する理由は、側ストランドのストランド径または素線本数を異ならせたときに、芯ワイヤロープの外周の凹凸が均一でなくなり、樹脂コーティング層が芯ワイヤロープの外周にかみ合うためと思われる。
【0011】
上記構成を採用した操作用被覆ワイヤロープは、前記複数種類の側ストランドを2種類の側ストランドとし、その2種類の側ストランドを周方向に交互に配置することができる。このようにすると、操作用被覆ワイヤロープに引張荷重が作用したときに、その引張荷重を各種類の側ストランドにバランスよく分散することができる。
【0012】
上記樹脂コーティング層を形成する樹脂としては、熱可塑性樹脂、例えば、ポリアミド樹脂(ナイロン11、ナイロン12、ナイロン66など)やポリエチレンを使用することができる。
【発明の効果】
【0013】
この発明の操作用被覆ワイヤロープは、樹脂コーティング層が芯ワイヤロープから剥がれにくく、長期にわたり安定した性能を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1〜図6に、この発明に係る操作用被覆ワイヤロープの各実施形態を示す。これらの操作用被覆ワイヤロープは、複数本の素線を撚り合わせた芯ストランド1の周囲に、複数本の素線を拠り合わせた2種類の側ストランド2,3を撚り合わせて芯ワイヤロープ4を形成し、その芯ワイヤロープ4の外周に樹脂コーティング層5を設けたものである。側ストランド2と側ストランド3は、周方向に交互に配置されている。
【0015】
図1に示す操作用被覆ワイヤロープは、芯ワイヤロープ4が、素線本数が19本の芯ストランド1と、素線本数が7本の側ストランド2と、素線本数が7本の側ストランド3とからなり、側ストランド2の本数と側ストランド3の本数とがいずれも4本のW(19)+{4×7+4×7}タイプの操作用被覆ワイヤロープである。側ストランド2と側ストランド3は、いずれも7本撚りであるが、側ストランド2のストランド径(D)と側ストランド3のストランド径(D)が互いに異なる。
【0016】
図2に示す操作用被覆ワイヤロープは、芯ワイヤロープ4が、素線本数が19本の芯ストランド1と、素線本数が7本の側ストランド2と、素線本数が3本の側ストランド3とからなり、側ストランド2の本数と側ストランド3の本数とがいずれも4本のW(19)+{4×7+4×3}タイプの操作用被覆ワイヤロープである。側ストランド2と側ストランド3は、ストランド径(D,D)が同一であるが、素線本数が異なる。
【0017】
図3に示す操作用被覆ワイヤロープは、図2に示す操作用被覆ワイヤロープと同じW(19)+{4×7+4×3}タイプの操作用被覆ワイヤロープであるが、側ストランド2と側ストランド3は、ストランド径(D,D)も、素線本数も異なる。
【0018】
図4に示す操作用被覆ワイヤロープは、芯ワイヤロープ4が、素線本数が19本の芯ストランド1と、素線本数が19本の側ストランド2と、素線本数が19本の側ストランド3とからなり、側ストランド2の本数と側ストランド3の本数とがいずれも3本の1×19+{3×19+3×19}タイプの操作用被覆ワイヤロープである。側ストランド2と側ストランド3は、いずれも19本撚りであるが、ストランド径(D,D)が互いに異なる。
【0019】
図5に示す操作用被覆ワイヤロープは、芯ワイヤロープ4が、素線本数が19本の芯ストランド1と、素線本数が19本の側ストランド2と、素線本数が3本の側ストランド3とからなり、側ストランド2の本数と側ストランド3の本数とがいずれも3本の1×19+{3×19+3×3}タイプの操作用被覆ワイヤロープである。側ストランド2と側ストランド3は、ストランド径(D,D)が同一であるが、素線本数が異なる。
【0020】
図6に示す操作用被覆ワイヤロープは、図5に示す操作用被覆ワイヤロープと同じ1×19+{3×19+3×3}タイプの操作用被覆ワイヤロープであるが、側ストランド2と側ストランド3は、ストランド径(D,D)も、素線本数も異なる。
【0021】
上述した各操作用被覆ワイヤロープは、芯ストランド1を構成する素線、側ストランド2,3を構成する素線として、硬鋼線やステンレス鋼線を使用することができ、また、樹脂コーティング層5を形成する樹脂として、ポリアミド樹脂(ナイロン11、ナイロン12、ナイロン66など)やポリエチレンを使用することができる。
【0022】
図1〜図6に示す各実施例の操作用被覆ワイヤロープと、図7、図8に示す比較例の操作用被覆ワイヤロープとについて、樹脂コーティング層5の密着強度を、次の方法で測定した。
【0023】
まず、図9に示すように、150mmの長さの操作用被覆ワイヤロープから、10mmの長さを残して樹脂コーティング層5を剥ぎ取って芯ワイヤロープ4を露出させ、その芯ワイヤロープ4を固定板6の貫通孔7に挿入する。このとき、芯ワイヤロープ4は貫通孔7を貫通するが、樹脂コーティング層5は貫通孔7の縁で係止される。
【0024】
次に、芯ワイヤロープ4の先端部分をチャック8で把持し、そのチャック8を一定速度で上昇させて、芯ワイヤロープ4と樹脂コーティング層5が相対移動するまで芯ワイヤロープ4を引っ張る。このときの引張荷重のピーク値を、樹脂コーティング層5の密着強度とする。
【0025】
固定板6は超硬合金製とし、貫通孔7の内径は1.6mm、芯ワイヤロープ4の引張速度は30mm/分とした。
【0026】
この条件で、樹脂コーティング層5の密着強度を測定した結果、表1に示すように、側ストランド2,3のストランド径(D,D)を互いに異ならせた実施例1の操作用被覆ワイヤロープ、側ストランド2,3の素線本数を互いに異ならせた実施例2の操作用被覆ワイヤロープ、側ストランド2,3のストランド径(D,D)と素線本数をいずれも異ならせた実施例3の操作用被覆ワイヤロープは、側ストランド2,3のストランド径(D,D)と素線本数がいずれも同じである比較例1,2の操作用被覆ワイヤロープと比較して、樹脂コーティング層5の密着強度が50%程度大きいことが分かった。
【0027】
また、表2に示すように、側ストランド2,3のストランド径(D,D)を互いに異ならせた実施例4の操作用被覆ワイヤロープ、側ストランド2,3の素線本数を互いに異ならせた実施例5の操作用被覆ワイヤロープ、側ストランド2,3のストランド径(D,D)と素線本数をいずれも異ならせた実施例6の操作用被覆ワイヤロープも、側ストランド2,3のストランド径(D,D)と素線本数がいずれも同じである比較例3,4の操作用被覆ワイヤロープと比較して、樹脂コーティング層の密着強度が60%以上大きいことが分かった。
【0028】
表1、2において、芯ストランド径(D)は、芯ストランド1の外接円の直径、側ストランド径(D)は、側ストランド2の外接円の直径、側ストランド径(D)は、側ストランド3の外接円の直径、芯ワイヤロープ径(D)は、側ストランド2の位置での芯ワイヤロープ4の外接円の直径、芯ワイヤロープ径(D)は、側ストランド3の位置での芯ワイヤロープ4の外接円の直径、コート外径(D)は、樹脂コーティング層5の外径である。
【0029】
表1において、素線径(d1,d2)は、側ストランド2の中心の素線(芯線)の直径と、その芯線の周りの素線(側線)の直径であり、素線径(d3,d4)は、側ストランド3の芯線の直径と、その芯線の周りの側線の直径である。
【0030】
表2において、素線径(d1,d2,d3)は、側ストランド2の芯線の直径と、その芯線の周りの一層目の側線の直径と、芯線の周りの二層目の側線の直径であり、素線径(d4,d5,d6)は、側ストランド3の芯線の直径と、その芯線の周りの一層目の側線の直径と、芯線の周りの二層目の側線の直径である。
【0031】
また、図1〜図6に示す各実施例の操作用被覆ワイヤロープと、図7、図8に示す比較例の操作用被覆ワイヤロープとについて、樹脂コーティング層5の剥がれ耐久試験を、次の方法で行なった。
【0032】
図10に示すように、操作用被覆ワイヤロープAの一端を固定し、その操作用被覆ワイヤロープAを、下側プーリ9、中間プーリ10、上側プーリ11に順に掛け渡して水平に引き出し、その引き出した操作用被覆ワイヤロープAをガイドプーリ12に巻き掛けて鉛直に下ろし、その操作用被覆ワイヤロープAの下端に重り13を吊り下げる。その状態で、中間プーリ10を水平に往復移動させて重り13を昇降させ、樹脂コーティング層5が剥がれるまでの中間プーリ10の往復回数を、樹脂コーティング層5の剥がれ耐久回数とする。
【0033】
下側プーリ9、中間プーリ10、上側プーリ11の外周には、操作用被覆ワイヤロープAを案内する平溝を形成し、その平溝の溝底径は、26.5mmとした。また、中間プーリ10の移動ストロークは100mm、中間プーリ10の移動速度は30往復/分、重り13の重量は40kgとした。
【0034】
この条件で、樹脂コーティング層5の剥がれ耐久回数を測定した結果、表1に示すように、実施例1〜3の操作用被覆ワイヤロープは、比較例1,2の操作用被覆ワイヤロープと比較して、樹脂コーティング層5の剥がれ耐久回数が、約2倍に向上したことが分かった。また、表2に示すように、実施例4〜6の操作用被覆ワイヤロープも、比較例3,4の操作用被覆ワイヤロープと比較して、樹脂コーティング層5の剥がれ耐久回数が、約2倍に向上したことが分かった。
【0035】
なお、実施例1〜6、比較例1〜4の操作用被覆ワイヤロープの芯ストランド1と側ストランド2,3は、素線として硬鋼線(材質はSWRS62A)を使用し、樹脂コーティング層5を形成する樹脂としてナイロン11を使用した。
【0036】
以上の各試験結果により、側ストランド2,3のストランド径(D,D)または素線本数が互いに異なる操作用被覆ワイヤロープは、側ストランド2,3のストランド径(D,D)と素線本数がいずれも同じである操作用被覆ワイヤロープよりも、樹脂コーティング層5の密着性が大きく優れていることを確認することができた。
【0037】
側ストランド2,3のストランド径(D,D)または素線本数を異ならせたときに、樹脂コーティング層5の密着性が向上する理由は、側ストランド2,3のストランド径(D,D)と素線本数がいずれも同じである場合よりも、芯ワイヤロープ4の外周の凹凸が均一でなくなり、樹脂コーティング層5が芯ワイヤロープ4の外周にかみ合うためと思われる。
【0038】
また、図1〜6に示す操作用被覆ワイヤロープは、2種類の側ストランド2,3を周方向に交互に配置しているので、操作用被覆ワイヤロープに引張荷重が作用したときに、その引張荷重を側ストランド2,3にバランスよく分散することができ、耐久性に優れる。
【0039】
【表1】

【0040】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】この発明をW(19)+{4×7+4×7}タイプの操作用被覆ワイヤロープに適用した実施形態を示す操作用被覆ワイヤロープの断面構成図である。
【図2】この発明をW(19)+{4×7+4×3}タイプの操作用被覆ワイヤロープに適用した実施形態を示す操作用被覆ワイヤロープの断面構成図である。
【図3】この発明をW(19)+{4×7+4×3}タイプの操作用被覆ワイヤロープに適用した他の実施形態を示す操作用被覆ワイヤロープの断面構成図である。
【図4】この発明を1×19+{3×19+3×19}タイプの操作用被覆ワイヤロープに適用した実施形態を示す操作用被覆ワイヤロープの断面構成図である。
【図5】この発明を1×19+{3×19+3×3}タイプの操作用被覆ワイヤロープに適用した実施形態を示す操作用被覆ワイヤロープの断面構成図である。
【図6】この発明を1×19+{3×19+3×3}タイプの操作用被覆ワイヤロープに適用した他の実施形態を示す操作用被覆ワイヤロープの断面構成図である。
【図7】W(19)+8×7タイプの比較例を示す操作用被覆ワイヤロープの断面構成図である。
【図8】7×19タイプの比較例を示す操作用被覆ワイヤロープの断面構成図である。
【図9】樹脂コーティング層の密着強度の測定方法を示す概略図である。
【図10】樹脂コーティング層の剥がれ耐久回数の測定方法を示す概略図である。
【符号の説明】
【0042】
1 芯ストランド
2,3 側ストランド
4 芯ワイヤロープ
5 樹脂コーティング層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯ストランド(1)の周囲に複数本の側ストランド(2,3)を撚り合わせた芯ワイヤロープ(4)の外周に、樹脂コーティング層(5)を設けた操作用被覆ワイヤロープにおいて、前記複数本の側ストランド(2,3)が、ストランド径(D,D)または素線本数の異なる複数種類の側ストランドからなることを特徴とする操作用被覆ワイヤロープ。
【請求項2】
前記複数種類の側ストランドが2種類の側ストランド(2,3)であり、その2種類の側ストランド(2,3)を周方向に交互に配置した請求項1に記載の操作用被覆ワイヤロープ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−303493(P2008−303493A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−151466(P2007−151466)
【出願日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【出願人】(392025652)クリサンセマム株式会社 (3)
【Fターム(参考)】