説明

操業品質予測装置、操業品質予測方法、コンピュータプログラムおよびコンピュータ読み取り可能な記憶媒体

【課題】複数のチャートデータから抽出された特徴量である独立成分の中から、操業品質トラブルの予兆に有効な独立成分を選定し、選定された独立成分の関連性から操業品質トラブルを予測・検出することが可能な操業品質予測装置を提供する。
【解決手段】本発明の操業品質予測装置は、製造プロセスから抽出された操業データを時系列に並べた複数のチャートデータから当該チャートデータの形状特徴量を抽出する形状特徴量抽出部と、形状特徴量を時系列に並べた形状特徴量のチャートデータから時系列特徴量を抽出する時系列特徴量抽出部と、時系列特徴量に基づいて、製造プロセスにおける操業トラブルおよび/または品質トラブルである操業品質トラブルと関連性の高い有効特徴量を特定する有効特徴量特定部と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製造プロセスにおける操業品質予測装置、操業品質予測方法、コンピュータプログラムおよびコンピュータ読み取り可能な記憶媒体に関し、より詳細には、複数のチャートデータから抽出される特徴量に基づいて操業トラブルおよび/または品質トラブルである操業品質トラブルの関連性を明らかにし、当該関連性から操業品質トラブルを予測・検出する操業品質予測装置、操業品質予測方法、コンピュータプログラムおよびコンピュータ読み取り可能な記憶媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、製造プロセスの操業において、操業に異常が発生すると、過去の事例に対する知見を活用して操業改善対応が行われていた。この際、蓄積された過去の事例データは人間の記憶や人手による探索により活用されていたため、作業者の経験や主観によって過去の事例データに基づきとられる対応が相違することもあった。
【0003】
このような問題に対して、過去の事例データを分析する手法が提案されている。操業の安定・品質の向上のためには、日々の操業データや品質データである操業品質のデータを解析して、操業品質トラブル(操業品質トラブルとは、操業トラブルおよび品質トラブルのうち少なくともいずれか一方をいう。)の原因を解明し、対策を立案することが重要である。このため、データ解析技術が必要不可欠である。従来、データ解析は、問題毎あるいは担当者毎に、個別のアプローチで行われている。例えば、製品長手方向のチャートデータからは板厚や板幅、温度履歴を解析し、設備チャートデータからはモータ電流値を解析し、疵などの品質データからはスリ疵やロール疵等を解析することができる。これらのデータが時系列となればデータ量は膨大となり、複雑多岐な鉄鋼プロセスにおいては時系列データの解析手法が必要となる。
【0004】
時系列データ解析の基本的な考えとしては、まず、時系列データをデータ解析して有効な操業品質データを選定し、選定した操業品質データから特徴量を抽出する。そして、抽出した特徴量を分類して操業品質トラブルの要因を判別する判別モデルを作成する。この判別モデルから、操業品質トラブルを予測することが可能となる。
【0005】
時系列データを解析する技術として、例えば、特許文献1には、独立成分分析(Independent Component Analysis;ICA)を用いて時系列データの波形構成成分に対応する強さと操業結果との相関関係を解析してモデルを構築し、操業の予測に利用する操業分析装置が開示されている。また、特許文献2には、独立成分分析の類似手法として、ウェーブレット解析を利用した操業プロセスの操業結果解析装置が開示されている。さらに、特許文献3には、高速ICAを用いて算出されたプロセス変数値の独立変数値を用いて、プロセスの時系列データベースから過去のプロセスの状態類似事例を探索する方法が開示されている。
【0006】
また、特許文献4には、主成分分析(Principal Component Analysis;PCA)、独立成分分析、またはPLS(Partial Least Square)の特徴量をモデル変数として、Just In Time(JIT)モデルへ組み込み、品質の予測を行う品質予測装置が開示されている。そして、特許文献5には、設計関連情報となるキーワードを含む資料を検索し、その検索結果を設計者へ知見情報として提供する設計支援装置が開示されている。かかる設計支援装置では、キーワードと資料との関連性の分析に対応分析を用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−312430号公報
【特許文献2】特開2004−288144号公報
【特許文献3】特開2005−135010号公報
【特許文献4】特開2009−70227号公報
【特許文献5】特開2010−198259号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述のように、独立成分分析を用いた手法は多く提案されているが、着目する基底波形および独立信号を特定する手法については確立されていない。また、複数の対応チャートに対する独立成分分析の利用方法とその最良な独立信号を選定する方法は存在していない。
【0009】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、複数のチャートデータから抽出された特徴量である独立成分の中から、操業品質トラブルの予兆に有効な独立成分を選定し、選定された独立成分の関連性から操業品質トラブルを予測・検出することが可能な、新規かつ改良された操業品質予測装置、操業品質予測方法、コンピュータプログラムおよびコンピュータ読み取り可能な記憶媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、製造プロセスから抽出された操業データを時系列に並べた複数のチャートデータから当該チャートデータの形状特徴量を抽出する形状特徴量抽出部と、形状特徴量を時系列に並べた形状特徴量のチャートデータから時系列特徴量を抽出する時系列特徴量抽出部と、時系列特徴量に基づいて、製造プロセスにおける操業トラブルおよび/または品質トラブルである操業品質トラブルと関連性の高い有効特徴量を特定する有効特徴量特定部と、を備えることを特徴とする、操業品質予測装置が提供される。
【0011】
本発明によれば、まず、一段目の特徴量抽出として、操業品質トラブルの予兆が含まれていると考えられる教師データとなる複数のチャートデータから、各チャートデータの形状特徴量が抽出される。次いで、二段目の特徴量抽出として、形状特徴量を時系列に並べた時系列特徴量のチャートデータから時系列変化を判断するための時系列特徴量が抽出される。そして、時系列特徴量に基づいて、操業品質トラブルの予兆を検出する際に注目すべき有効特徴量が特定される。これにより、操業品質トラブル発生の有無を監視する各監視対象について、操業品質トラブルの予兆を検出する際に注目すべき有効特徴量を選定することができる。
【0012】
有効特徴量特定部は、時系列特徴量の時系列変化に対する定量的評価に基づいて、有効特徴量を特定してもよい。
【0013】
このとき、時系列特徴量抽出部は、形状特徴量の時系列変化を線形近似して近似回帰直線を算出し、当該近似回帰直線の傾きおよび切片に基づいて定量的評価を取得してもよい。
【0014】
また、有効特徴量特定部は、時系列特徴量の時系列変化に対するユーザの定性的評価に基づいて、有効特徴量を特定してもよい。
【0015】
時系列特徴量の時系列変化に対する定量的評価または定性的評価は、時系列特徴量の分解能を下げた情報としてもよい。
【0016】
形状特徴量抽出部は、独立成分分析を用いて形状特徴量を抽出してもよい。
【0017】
また、有効特徴量特定部は、時系列特徴量の時系列変化を、対応分析を用いて解析し、解析結果より有効特徴量を特定してもよい。
【0018】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、製造プロセスから抽出された操業データを時系列に並べた複数のチャートデータから当該チャートデータの形状特徴量を抽出する形状特徴量抽出ステップと、形状特徴量を時系列に並べた形状特徴量のチャートデータから時系列特徴量を抽出する時系列特徴量抽出ステップと、時系列特徴量に基づいて、製造プロセスにおける操業トラブルおよび/または品質トラブルである操業品質トラブルと関連性の高い有効特徴量を特定する有効特徴量特定ステップと、を含むことを特徴とする、操業品質予測方法が提供される。
【0019】
さらに、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、コンピュータを、製造プロセスから抽出された操業データを時系列に並べた複数のチャートデータから当該チャートデータの形状特徴量を抽出する形状特徴量抽出部と、形状特徴量を時系列に並べた形状特徴量のチャートデータから時系列特徴量を抽出する時系列特徴量抽出部と、時系列特徴量に基づいて、製造プロセスにおける操業トラブルおよび/または品質トラブルである操業品質トラブルと関連性の高い有効特徴量を特定する有効特徴量特定部と、を備える操業品質予測装置として機能させることを特徴とする、コンピュータプログラムが提供される。
【0020】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、コンピュータに、製造プロセスから抽出された操業データを時系列に並べた複数のチャートデータから当該チャートデータの形状特徴量を抽出する形状特徴量抽出部と、形状特徴量を時系列に並べた形状特徴量のチャートデータから時系列特徴量を抽出する時系列特徴量抽出部と、時系列特徴量に基づいて、製造プロセスにおける操業トラブルおよび/または品質トラブルである操業品質トラブルと関連性の高い有効特徴量を特定する有効特徴量特定部と、を備えることを特徴とする操業品質予測装置として機能させるためのプログラムを記憶する、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体が提供される。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように本発明によれば、複数のチャートデータから抽出された特徴量である独立成分の中から、操業品質トラブルの予兆に有効な独立成分を選定し、選定された独立成分の関連性から操業品質トラブルを予測・検出することが可能な操業品質予測装置、操業品質予測方法、コンピュータプログラムおよびコンピュータ読み取り可能な記憶媒体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】操業正常時におけるコークス炉の炭化室から製造したコークスを押出機により押出す際の押出力を示すチャートデータを示す。
【図2】操業トラブル発生時におけるコークス炉の炭化室から製造したコークスを押出機により押出す際の押出力を示すチャートデータを示す。
【図3】本発明の実施形態に係る操業品質予測装置による操業品質解析処理の概要を示す説明図である。
【図4】同実施形態に係る操業品質予測装置の機能構成を示す機能ブロック図である。
【図5】同実施形態に係る操業品質予測装置による操業品質解析処理を示すフローチャートである。
【図6】データ蓄積部に蓄積されている操業チャートデータ群の一例を示す説明図である。
【図7】操業トラブル予兆を含むチャートデータの変化パターン例を示す説明図である。
【図8】独立成分分析による形状特徴量(第1の特徴量)である基底波形およびその基底波形に対する重みの抽出を説明するための説明図である。
【図9】後半上昇パターンの教師データについて、形状特徴量と時系列特徴量との関係を説明する説明図である。
【図10】人為による時系列特徴量の評価結果の一例を示す説明図である。
【図11】操業品質予測装置による近似回帰直線を用いた増加傾向の評価の概要を説明する説明図である。
【図12】時系列特徴量の時系列変化を線形近似した回帰直線を利用した時系列特徴量の増加傾向の評価方法を示す説明図である。
【図13】トラブルに至るまでの時系列特徴量を線形近似する回帰直線を利用した時系列特徴量の増加傾向の評価方法を示す説明図である。
【図14】対応分析による整理前の教師データの時系列特徴量の増加傾向の評価結果を示す表である。
【図15】図14の表を対応分析により整理した後の教師データの時系列特徴量の増加傾向の評価結果を示す表である。
【図16】図15に示す教師データの時系列特徴量の増加傾向の評価結果の定量化を説明する説明図である。
【図17】図15に示す教師データのグループ分けする一方法を説明する説明図である。
【図18】クラスタリングによる教師データのグループ分けする一方法を説明する説明図である。
【図19】操業品質予測装置による窯の押詰まり状態の予兆の検出を説明する説明図である。
【図20】同実施形態に係る操業品質予測装置のハードウェア構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0024】
<1.コークス炉押出力チャートデータの解析>
まず、図1および図2を参照して、本発明の実施形態に係る操業品質予測装置を用いて操業品質トラブルのうちの操業トラブルの予測を行う対象であるコークス炉の操業と、コークス炉において発生する操業トラブルの一例について説明する。なお、図1は、操業正常時におけるコークス炉の炭化室から製造したコークスを押出機により押出す際の押出力を示すチャートデータを示す。図2は、操業トラブル発生時におけるコークス炉の炭化室から製造したコークスを押出機により押出す際の押出力を示すチャートデータを示す。
【0025】
コークス炉は、石炭を乾留してコークスを製造する高温炉であり、炉を加熱するための燃焼室とコークスを生成する炭化室とが交互に水平に配置されて炉団を構成している。炭化室に入れられた石炭が乾留されコークスとなると、押出機により炭化室の一側から排出先の他側に向かって押し出される。このとき、正常状態であれば、図1に示すように、押出機の押出力によってコークスが圧縮された後、コークスは排出先へ移動する。押出機がコークスの押出方向に移動するにつれて炭化室内のコークスは減少するので、押出機の押出力は徐々に減少する。
【0026】
一方、コークス炉に操業トラブルが発生した場合、炭化室内のコークスが詰まってしまい、コークスを正常に押し出せなくなる押詰まり状態がある。このような押詰まり状態が生じると、コークス炉の操業を中断して人力により対応する必要があり、時間のロスや作業負荷の増大によって生産性が低下してしまう。
【0027】
押詰まり状態におけるコークスを押し出す際の押出機の押出力は、図2に示すように、炭化室のコークスが移動しないため、押出機によってコークスを押し出すにつれて押出力は徐々に増加する。その後、押出機はコークスを押し出せず停止してしまう。押詰まり状態は、正常時に平滑であった炭化室内のレンガ炉壁が減肉陥没したりレンガ炉壁にカーボンが付着したりして平滑ではない部分が拡大し、押出負荷が増加することで発生する。そこで、本実施形態では、コークス炉における操業トラブルの予測に操業品質予測装置を適用し、コークス炉の窯の押出毎にチャートデータとして保存される押出機の押出力の時系列データを解析することで、押出負荷の増加傾向(予兆)を捉え、操業トラブルの予測を行うことについて説明する。
【0028】
<2.操業品質予測装置による操業品質解析処理>
[2−1.解析フロー概要]
まず、図3に基づいて、本実施形態に係る操業品質予測装置により操業や品質の解析を行う処理得ある操業品質解析処理の概要を説明する。図3は、本実施形態に係る操業品質予測装置による操業品質解析処理の概要を示す説明図である。
【0029】
本実施形態に係る操業品質予測装置は、操業データから特徴量を抽出し、操業トラブルを予測する装置である。当該操業品質予測装置は、操業データからの特徴量抽出を二段階で行うことを特徴とする。具体的には、操業品質予測装置による操業品質解析処理は、図3に示すように、以下のSTEP1〜STEP4の処理から構成される。STEP1〜STEP4の処理の概要は以下のとおりである。なお、各処理の詳細については後述する。
【0030】
STEP1:操業データの選定
押出チャートデータの中からチャートデータの第1の特徴量である形状特徴量を抽出するための教師データが選定される。
STEP2:特徴量抽出
教師データに独立成分分析を適用し、チャート形状の特徴を示す基底波形およびその基底波形の強さを表す独立信号を算出する。STEP2により、教師データのチャートの形状特徴量(第1の特徴量)を取得する。
STEP3:特徴量の分類/判別
STEP2の結果に基づいて、押出毎の独立信号の変化から押詰まりの操業トラブルの予兆と推測される基底波形およびその独立信号の変化を第2の特徴量である時系列特徴量として特定する。時系列特徴量を、対応分析を用いて整理し分類することによって、トラブル予兆の検出のための有効特徴量を抽出する。
STEP4:特徴量の評価
STEP3までの解析結果を教師データ以外で評価し、有効特徴量に基づいて押詰まりの操業トラブルの予兆を検出する。
【0031】
本実施形態に係る操業品質予測装置は、操業トラブルの結果と独立成分(「独立信号」ともいう。)の時系列変化を対応付けて分類することにより、各監視対象で注目すべき独立成分を選定する。そして、選定された独立成分の時系列変化を監視することで、操業トラブルの予兆を検出し、トラブルの発生を未然に防ぐことを可能にする。以下、操業品質予測装置の機能構成と、これによる操業品質解析処理について、詳細に説明していく。
【0032】
[2−2.操業品質予測装置の機能構成]
図4に、本実施形態に係る操業品質予測装置100の機能構成を示す。操業品質予測装置100は、図4に示すように、データ取得部110と、特徴量抽出部120と、有効特徴量特定部130と、評価部140とからなる。
【0033】
データ取得部110は、操業データの履歴を記憶するデータ蓄積部200から教師データとして利用する操業データを取得する。データ蓄積部200は、所定期間(例えば、直近3カ月)分の操業チャートデータを記憶する記憶部である。データ蓄積部200は、図3に示すように操業品質予測装置100とは別のサーバに設けてもよく、操業品質予測装置100に設けてもよい。データ取得部110は、ユーザから入力された、教師データとして利用する操業データを特定するデータ選定情報に基づいて、データ蓄積部200より該当する操業データを取得する。データ蓄積部200から取得された操業データは、特徴量抽出部120へ出力される。
【0034】
特徴量抽出部120は、教師データからデータの特徴を表す特徴量を抽出する機能部であって、第1の特徴量である形状特徴量を抽出する形状特徴量抽出部122と、第2の特徴量である時系列特徴量を抽出する時系列特徴量抽出部124と、からなる。
【0035】
形状特徴量抽出部122は、教師データに対して独立成分分析(ICA)を適用し、チャート形状の特徴を示す基底波形およびチャートにおける基底波形の寄与を表す独立信号を算出する。操業チャートデータの形状特徴量の抽出技術に独立成分分析を利用することで、操業チャートデータを複数の基底波形とその基底波形に対する重み(独立信号)の積との線形和として表現することができる。この結果をベースとして押出毎の基底波形に対する重みの変化を見ることで、操業トラブルの予兆を見出す。
【0036】
時系列特徴量抽出部124は、形状特徴量抽出部122により算出された各教師データの基底波形およびその独立信号に基づいて、押出毎の基底波形に対する独立信号の変化を第2の特徴量である時系列特徴量として抽出する。そして、時系列特徴量抽出部124は、特定の基底波形に対応する独立信号の時系列変化(時系列特徴量)を評価する。時系列特徴量の評価手法の詳細については後述するが、時系列特徴量抽出部124は、時系列特徴量を評価して、監視対象を評価結果に基づき分類する。
【0037】
有効特徴量特定部130は、時系列特徴量抽出部124により分類された各監視対象について、操業トラブル発生時に時系列的変化が現れる独立信号を有効特徴量として特定する。各監視対象には個体差があり、操業トラブルが発生したときに変化が現れる時系列特徴量はそれぞれ異なる。有効特徴量は、各監視対象に操業トラブル発生の予兆があるかを評価するために用いる特徴量であり、後述する評価部140で評価される。
【0038】
評価部140は、教師データに基づき特定された各監視対象の有効特徴量に基づいて、監視対象それぞれについて操業トラブルの予兆の有無を評価する。評価部140は、有効特徴量の時系列変化に着目して操業トラブルの予兆を検出することで、確実かつ効率的に評価を行うことができ、操業トラブルの発生を未然に防止することが可能となる。
【0039】
[2−3.操業品質解析処理]
次に、コークス炉の押詰まり状態の診断を例として、本実施形態に係る操業品質予測装置100による操業品質解析処理について、図3および図5に沿って、図6〜図18を参照しながら説明する。
【0040】
(STEP1:操業データの選定)
操業品質予測装置100による操業品質解析処理は、図5に示すように、まず、データ取得部110によりデータ蓄積部200から教師データとなる操業チャートデータを取得することから開始する(S100)。教師データは、操業トラブルの予兆が含まれているデータであり、ユーザによりデータ蓄積部200に蓄積された押出履歴(操業チャートデータ)から選定される。
【0041】
操業チャートデータは、1日に1〜2回各窯からそれぞれ得られるデータである。以下、1日に1回各窯から操業チャートデータが得られる場合を例として記載する。データ蓄積部200には、例えば図6に示すように、各窯について押出機の押出位置と押出力の関係を示す操業チャートデータが所定期間(例えば、直近3カ月)分蓄積されている。ユーザは、データ蓄積部200に蓄積されている操業チャートデータをディスプレイ等の表示装置に表示させて確認し、チャート形状に特徴のある操業チャートデータを教師データとして選定する。
【0042】
コークス炉の押詰まりの直前においては、操業チャートデータのチャート形状に、例えば図7に示すような変化が現れる。図7は、操業トラブル予兆を含むチャートデータの変化パターン例を示す説明図である。例えば、パターンAとして、押出機によるコークスの押出毎にピーク点(コークスケーキにて静止摩擦から動摩擦へ変化するときの点)が上昇する場合に押詰まり状態となる場合がある。パターンAでは、図7に示すように、押詰まり状態となるn回前の操業チャートデータから押詰まり状態となるまでの操業チャートデータを見ると、ピーク点が徐々に上昇する。
【0043】
また、例えば、パターンBとして、押出機によるコークスの押出毎に押出位置の後半で押出力が上昇する場合に押詰まり状態となる場合がある。パターンBでは、図7に示すように、押詰まり状態となるn回前の操業チャートデータから押詰まり状態となるまでの操業チャートデータを見ると、押出位置が大きくなるにつれて低下していた押出力が徐々に低下しなくなり、押詰まり状態となったときには押出力は上昇するようになっている。
【0044】
さらに、パターンCとして、押詰まり状態となる直前に、チャート波形中盤に振動が現われる場合に押詰まり状態となる場合がある。パターンCでは、図7に示すように、押詰まり状態となるn回前の操業チャートデータから押詰まり状態となるまでの操業チャートデータを見ると、操業チャートデータの中盤のチャート波形の振動が、徐々に大きくなっている。
【0045】
このように、操業トラブルが発生する直前には操業チャートデータのチャート形状に変化が生じる場合が多い。このような操業チャートデータを教師データとして選定し解析することで、操業トラブルの予兆に有効な独立信号を抽出できる。
【0046】
ユーザは、データ蓄積部200に蓄積された操業チャートデータから、コークス炉の窯毎に複数件(例えば50件)を教師データとして選定する。1つの教師データは、押詰まり状態等の操業トラブルが発生する直前n回の操業チャートデータからなる。操業チャートデータ数nは、複数であり、例えば1週間の操業チャートデータを分析する場合には6とすることができる。教師データには、図7に示したような3つのパターンを含め、図7のそれぞれのパターンにて、押詰まりに至るまでのチャートデータ(図7の点線枠で示すデータ群a〜c)を利用するとよい。
【0047】
また、図7では押詰まりが発生したときの教師データについて述べているが、押詰まり状態には至っていないチャートデータも教師データとして含めてもよい。例えば、通常のチャート形状からはかけ離れて押出力の高い、後半上昇パターン(パターンB)の操業チャートデータを異常波形パターン(図7でいえば押詰まりトラブル発生の1回前のチャートデータのような波形)として定義し、異常波形パターンに至るまでのチャートデータを教師データに含めてもよい。
【0048】
ユーザは、操業品質予測装置100を操作する操作入力装置(図示せず。)により、教師データとして使用する操業チャートデータを特定するデータ選定情報を入力する。データ選定情報を受けた操業品質予測装置100のデータ取得部110は、データ選定情報に基づき、該当する操業チャートデータを取得し、特徴量抽出部120へ出力する。
【0049】
(STEP2:特徴量抽出)
STEP1(S100)にて教師データが選定され、データ蓄積部200から取得すると、特徴量算出部120により教師データである操業チャートデータから特徴量の抽出が行われる。本実施形態に係る操業品質予測装置100では、操業チャートデータから2段階で特徴量を抽出する。まず、形状特徴量抽出部122により、第1の特徴量であるチャート形状の形状特徴量が抽出される(S110)。
【0050】
本実施形態では、操業チャートデータの形状特徴量の抽出技術に独立成分分析(ICA)を用いる。独立成分分析を用いることで、押出力に関する操業チャートデータを図8に示すように複数の基底波形(A)とその基底波形に対する重み(独立信号s(t)、押出回数t)の積との線形和として表現することができる。図8は、独立成分分析による形状特徴量(第1の特徴量)である基底波形およびその基底波形に対する重みの抽出を説明するための説明図である。なお、図8では、説明を簡単にするため3成分の独立信号の場合について示しているが、任意の成分数を設定することができる。
【0051】
具体的に説明すると、下記式1のようにn個の操業チャートデータからなる教師データx(t)=[x1(t) x2(t) ・・・ xn(t)]を基底波形(n×pの混合行列)Aと統計的に独立なp個の独立信号s(t)=[s1(t) s2(t) ・・・ sp(t)]の線形結合(すなわち、x(t)=As(t))と仮定する。なお、tは押出回数である。
【0052】
【数1】

【0053】
行列Aの列要素が操業チャートデータの基底波形に相当し、上記のように各基底波形と独立信号との積の線形和によって、教師データであるの一つ一つ操業チャートデータが近似的に表現される(各押出回数tのx(t)に対して、s(t)の値がそれぞれ特定される)。形状特徴量抽出部122は、この線形結合の結果より、各教師データについて、基底波形Aに対する重み、すなわち独立信号s(t)を形状特徴量としてそれぞれ取得する。
【0054】
(STEP3:特徴量の分類/判別)
STEP2(S110)にて各教師データについて形状特徴量が抽出されると、次いで、時系列特徴量抽出部124により、各教師データにつき、当該教師データを構成する操業チャートデータそれぞれについて取得された押出機による押出毎の基底波形に対する独立信号s(t)の変化を取得する(S120)。この独立信号s(t)の変化が時系列特徴量となる。
【0055】
例えば、図9に示すように、押出機によるコークスの押出毎に押出位置の後半で押出力が上昇する場合に押詰まり状態となる後半上昇パターン(図7のパターンB)の教師データについての時系列特徴量を考える。押出日時t1〜t6の6つの操業チャートデータについて、後半上昇パターンの基底波形の独立信号s1(t)を時系列順に並べると、図9に示すように、基底波形のチャート波形の変化と特定の形状特徴量(ここでは、独立信号s1(t))の強さとがともに上昇しており、対応していることがわかる。このような形状特徴量の時系列変化である時系列特徴量の変化(増加または減少)を評価することで、操業トラブルの予兆を見出すことができる。
【0056】
時系列特徴量の評価方法としては、人為による評価と、操業品質予測装置100による評価とが考えられる。
【0057】
(a)人為による評価
まず、図10に基づいて、人為による時系列特徴量の評価方法を説明する。図10は、人為による時系列特徴量の評価結果の一例を示す説明図である。時系列特徴量の評価は、各教師データの各形状特徴量の変化の有無を定性的に判断することによって行われる。本実施形態では、形状特徴量に増加傾向があるか否かを複数段階で評価する。例えば、増加傾向あり(○)、増加傾向ややあり(△)、増加傾向なし(×)の3段階で評価することができる。
【0058】
図10のケース1、2は、独立信号s1についての2つの時系列特徴量である。ケース1では、押出機によりコークスが押出される毎に独立信号s1の値は大きくなり、この独立信号s1に対応する基底波形の形状特徴量が強くなっている。これより、ケース1の時系列特徴量は増加傾向にあると評価することができる。一方、ケース2では、押出機によるコークスの押出が繰り返し行われても独立信号s1の値に大きな変化はなく、この独立信号s1に対応する基底波形の形状特徴量が強くなっている傾向もない。これより、ケース2の時系列特徴量は増加傾向なしと評価することができる。
【0059】
また、図10のケース3、4は、独立信号s2についての2つの時系列特徴量である。ケース3では、しばらくは独立信号s2の値に大きな変化はなかったが直近の押出機によるコークスの押出にて独立信号s2の値が大きくなっている。これより、ケース3の時系列特徴量は、増加傾向がややあると評価することができる。一方、ケース4では、中盤で独立信号s2の値が大きくなり、その後直近の押出まで独立信号s2の値が大きくなっている。これより、ケース4の時系列特徴量は増加傾向にあると評価することができる。
【0060】
(b)操業品質予測装置による評価
操業品質予測装置100による時系列特徴量の評価は、例えば時系列特徴量の増加傾向について定量的に評価することが考えられる。具体的には、図11左に示すように、上記(a)に記載した人為による評価で、増加傾向ありとされた独立信号s1、s2についての時系列特徴量は、押出機によるコークスの押出が行われる毎に独立信号s1、s2が強くなる傾向がある。そこで、操業品質予測装置100は、各時系列特徴量について、時系列変化を線形近似する回帰直線(y=kz+l)を算出する。zは押出回数、yは基底波形の強さ(すなわち、独立信号)である。そして、操業品質予測装置100は、当該回帰直線の傾きkと切片lについて、所定の条件で増加傾向の有無を判定する。これにより、上記(a)に記載した人為による評価と同様の評価が可能になる。
【0061】
操業品質予測装置100による時系列特徴量の評価方法としては、例えば以下の2つの方法が考えられる。
【0062】
(方法1:時系列特徴量の時系列変化を線形近似した回帰直線を利用)
方法1では、時系列特徴量を線形近似した回帰直線の傾きkおよび切片lを利用して、当該時系列特徴量の増加傾向を評価する。例えば図12に示すように、時系列特徴量として、6回のコークス押出についてのある基底波形の独立信号の強さyの変化を用い、これを線形近似する。時系列特徴量の近似回帰直線をy=k1・z+l1としたとき、下記式2に示す評価基準に基づき、時系列特徴量の増加傾向を評価する。
【0063】
(k1×7+l1)/yz=1≧2 → 増加傾向あり(○)
(k1×7+l1)/yz=1≧1.5 → 増加傾向ややあり(△)
(k1×7+l1)/yz=1<1.5 → 増加傾向なし(×)
・・・(式2)
【0064】
この評価基準は、7回のコークス押出、すなわち1週間の操業において、押出回数7回時(z=7)の独立信号の強さがz=1の時の基底波形の独立信号の強さyz=1に比べて2倍以上変化している場合に増加傾向ありと評価するものである。そして、1週間の操業において独立信号の強さがz=1の時の基底波形の独立信号の強さyz=1に比べて1.5倍以上変化している場合に増加傾向ややありと評価し、独立信号の強さの変化がz=1の時の基底波形の独立信号の強さyz=1に比べて1.5倍未満である場合には増加傾向なしと評価する。このように、時系列特徴量から近似回帰直線を算出することで、操業品質予測装置100によって時系列特徴量の増加傾向を評価することができる。
【0065】
(方法2:トラブルに至るまでの時系列特徴量を線形近似する複数の回帰直線を利用)
方法2では、トラブル発生の押出回数1〜3回前の独立信号の強さの変化の影響に重みを置いて評価基準と比較する評価値を算出する。つまり、方法2は、方法1のような押詰まりn回前から1回前の操業チャートデータの全体的な時系列変化を評価するのではなく、例えば押詰まり3回前までといった局所的な時系列変化を重視する場合に使う評価指標である。
【0066】
例えば、図13に示すように、時系列特徴量として、図12の場合と同様、6回のコークス押出についてのある基底波形の独立信号の強さyの変化を用いるとき、この時系列特徴量から複数の近似回帰直線を求める。ここで、時系列特徴量の構成する各データのうちトラブル発生前に近い押出日時のデータを多く用いて近似回帰直線を求める。例えば、トラブル発生前6回の時系列変化、トラブル発生前5回の時系列変化、トラブル発生前4回の時系列変化、トラブル発生前3回の時系列変化、およびトラブル発生前2回の時系列変化、のようにトラブル発生前の1〜3回前の押出チャートデータに現れる時系列変化の情報を重複して足し合わせることで、評価基準にてトラブル発生前、特に、1〜3回前の時系列特徴量の増加傾向を重視することができる。
【0067】
図13に示す例では、トラブル発生前6回の時系列変化、トラブル発生前5回の時系列変化、およびトラブル発生前4回の時系列変化に基づく3つの近似回帰直線を求めている。各近似回帰直線を、y=k1・z+l1、y=k2・z+l2、およびy=k3・z+l3としたとき、方法2では、これらの近似回帰直線の傾きの平均値K*=(k1+k2+k3)/3、および切片の平均値l*=(l1+l2+l3)/3を用いて、下記式3に示す評価基準に基づき時系列特徴量の増加傾向を評価する。
【0068】
(K*×7+l*)/yz=1≧2 → 増加傾向あり(○)
(K*×7+l*)/yz=1≧1.5 → 増加傾向ややあり(△)
(K*×7+l*)/yz=1<1.5 → 増加傾向なし(×)
・・・(式3)
【0069】
この評価基準も、方法1と同様、7回のコークス押出、すなわち1週間の操業において、押出回数7回時(z=7)の独立信号の強さがz=1の時の基底波形の独立信号の強さyz=1に比べて2倍以上変化している場合に増加傾向ありと評価するものである。そして、1週間の操業において独立信号の強さがz=1の時の基底波形の独立信号の強さyz=1に比べて1.5倍以上変化している場合に増加傾向ややありと評価し、独立信号の強さの変化がz=1の時の基底波形の独立信号の強さyz=1に比べて1.5倍未満である場合には増加傾向なしと評価する。このように、時系列特徴量から近似回帰直線を算出することで、操業品質予測装置100によって時系列特徴量の増加傾向を評価することができる。
【0070】
なお、時系列特徴量の増加傾向を評価するにあたり、定性的評価あるいは定量的評価のいずれを用いる場合であっても、これらの評価によって時系列特徴量の有する情報の分解能を下げている。例えば、上記実施形態では、時系列特徴量を、増加傾向あり(○)、増加傾向ややあり(△)、増加傾向なし(×)の3つに分類している。このように、時系列特徴量の有する情報の分解能を下げることで、後述の処理で有効特徴量を特定する際の情報を見易くすることができる。また、ユーザの判断といった定性的な判断も有効特徴量の特定に用いることが可能となる。
【0071】
ステップS120で抽出した時系列特徴量の増加傾向を上述した方法を用いて評価した結果を表にまとめると、図14のようになる。図14は、教師データである各操業チャートデータについて、窯番とイベント(ここでは、何らかの操業トラブルの発生や操業チャートデータの異常波形の発生等をいう。)発生直前のコークスの押出日時、イベントの内容、および独立成分分析により抽出された各形状特徴量についての時系列特徴量の評価結果をまとめた表である。例えば、No.1の窯番20(イベント発生直前押出日時:7月22日)の操業チャートデータを見ると、独立信号S5に増加傾向がみられ、他の独立信号は変化には増加傾向はないと評価されたことがわかる。
【0072】
このように人為や操業品質予測装置100により時系列特徴量の評価が行われると、操業品質予測装置100は、有効特徴量特定部130により、操業トラブルの予兆の検出において注目すべき独立信号を特定する(S130)。本実施形態では、注目すべき独立変数を特定するため、対応分析を用いて時系列特徴量の評価を整理する。対応分析は、表形式で表されたデータを、行の項目と列の項目との相関が最大になるように、行と列との双方を並び変えるデータの解析方法である。
【0073】
本実施形態では、図14に示すような押詰まり状態および異常波形の窯毎の独立信号の変化とその発生した窯の対応関係を、対応分析を用いて整理して、行と列との関連性を見ることにより、各窯で注目すべき独立信号を特定する。対応分析を用いて図14の表を整理すると、図15に示すように対角線上に評価値が多く並ぶようになる。整理された表では、列方向に隣り合う列同士の基底波形の共通点を見ることができ、行方向に隣り合う行同士の窯番の操業チャートデータの変化(すなわち、時系列特徴量)の共通点を見ることができる。
【0074】
対応分析を用いて図14から図15のように表を整理すると、有効特徴量特定部130は、関連性のある列データをグループ分けする。グループ分けの方法としては、例えば、列評価の集中度合いを定量化してグループ分けする方法がある。かかる方法では、各窯の独立信号の評価結果に基づいて、各行でどの列に評価が集中しているのかを定量化する。
【0075】
例えば、図14に示す表について考えると、増加傾向なし(×、図14では空セル)の場合に「0」、増加傾向あり(○)の場合に「1.5」、増加傾向ややあり(△)の場合に「0.5」の重みを割り当てる。そして、その重みに基づき、各操業チャートデータの重心を算出し、各窯について増加傾向のある評価が集中する列を抽出する。例えば、図14のNo.7の操業チャートデータ(窯番21、イベント発生直前押出日時:5月13日、図15〜図17では、対応分析を用いた時系列特徴量の評価の整理によって表における位置が変更され、No.1に対応する)についての重心は、下記式4に示す計算式により算出される。
【0076】
(No.7の重心)=[1 2 3 4 5 6 7 8 9 10]
×[0 1.5 0.5 0 0 0 0.5 0 0 0]
/(0+1.5+0.5+0+0+0+0.5+0+0+0)
=3.2
・・・(式4)
【0077】
同様に各操業チャートデータについて重心をそれぞれ算出する。図15に示す整理された表について、評価結果に重みを割り当て、各操業チャートデータの重心を算出すると、図16に示すようになる。次いで、有効特徴量特定部130は、表の1行目から順に、隣接する行の重心の差分diffを取り、差分diffが所定値以上となる部分で行を区分する。
【0078】
図17に、操業チャートデータのグループ分けの手順を示す。図17の表の1行目から昇順に、隣接する行の重心の差分diffをとり、その差分diffが所定値、例えば1以下であるか否かを確認する。そして、連続して差分diff<1となる行を類似の特徴量を有する操業チャートデータであるとして、1つのグループにまとめる。例えば、操業チャートデータNo.1とNo.2との差分diffは0、操業チャートデータNo.2とNo.3との差分diffは0.2、操業チャートデータNo.3とNo.4との差分diffは3.1である。したがって、隣接する行の重心の差分diffが1以内である操業チャートデータNo.1、No.2およびNo.3が1つのグループに区分される。
【0079】
また、図17において、操業チャートデータNo.4とNo.5との差分diffは0.8、操業チャートデータNo.5とNo.6との差分diffは1.1となっており、操業チャートデータNo.5とNo.6との間で差分diffが1を超えている。したがって、操業チャートデータNo.6から次のグループが開始する。このような処理を繰り返すことで、図17に示す表については、1行目〜3行目(グループA)、6行目〜10行目(グループB)、そして13行目〜18行目(グループC)の3つのグループに分けられる。
【0080】
次に、切り分けられた各グループについて、評価結果が増加傾向あり(○、重み1.5)となっている範囲から各グループでの注目すべき独立信号の列範囲を決定する。図15および図17を見ると、グループAは1列目〜5列目(独立信号S2、S9、S6、S7、S3)までの範囲、グループBは4列目〜8列目(独立信号S7、S3、S8、S1、S5)までの範囲、グループCは7列目〜9列目(独立信号S1、S5、S4)までの範囲で、評価結果が増加傾向あり(○、重み1.5)となっている。これより、図15及び図17に示すように、注目すべき独立信号を踏まえた3つのグループが特定される。
【0081】
ここで、図14〜図17では対応分析を用いた操業チャートデータのグループ分けについて説明したが、例えば、一般的なクラスタリング手法を用いて操業チャートデータをグループ分けすることもできる。
【0082】
まず、各窯の押詰まり状態の教師データi(i:各窯に対応付けたインデックス)について、独立信号数をpとするベクトル表示として、教師データiでの独立信号の時系列特徴量の評価結果を示す評価ベクトルqを下記式1のように定義する。式1において、e1、e2、・・、epは、各独立信号についての定量的な評価値とする。eには、例えば近似回帰直線の傾きや1週間分の独立信号の変化量等を当てはめる。
【0083】
qi=[e1 e2 ・・ ep] ・・・(式5)
【0084】
また、教師データのケースiと教師データのケースjとの類似度の指標を下記式2のように定義する。
【0085】
Lij=f(qi、qj) ・・・(式6)
【0086】
関数fは、例えば下記式7に示すユークリッドノルム距離とすることができる。その他にも、例えばベクトル内積、マハラノビス距離等も用いることができる。
【0087】
Lij=(qi qj1/2 ・・・(式7)
【0088】
この類似度の指標Lijに基づき、例えばk−mean法等のクラスタリング手法によって、評価の類似度の高いデータのグループ分け、すなわち押詰まり状態の予兆が似ている窯の集合の分類が行われる。グループ分けされた操業チャートデータは、各グループにて共通する有効特徴量を抽出する。ここでは、増加傾向ありと評価される独立信号を有効特徴量として抽出する。有効特徴量の抽出は、例えば図18に示すように、グループr(r:グループを特定するインデックス)に属する評価ベクトルqで、各ベクトル成分の平均値をとり、その中で上位となる値を注目すべき独立信号(有効特徴量)とすることができる。
【0089】
(STEP4:特徴量の評価)
STEP3(S120、S130)にて時系列特徴量を抽出し、抽出した時系列特徴量を用いて有効特徴量が抽出されると、評価部140により、教師データとして採用された以外の操業チャートデータが評価され、有効特徴量に基づく操業品質予測が行われる(S140)。
【0090】
例えば、図15の窯番4の押詰まり状態の予兆の検出を、図19に基づき説明する。まず図15をみると、窯番4は、グループBに属しており、有効特徴量として、独立信号S7、S3、S8、S1およびS5が特定されている。図19左には、教師データとして用いた操業チャートデータのうち、独立信号S1およびS8に関する時系列の変化を示している。一方、図19右には、教師データ以外の一操業チャートデータの独立信号S1およびS8に関する時系列の変化を示す。図19の各チャートデータには、操業トラブルとして押詰まり状態の発生した時点を破線で示している。
【0091】
図19左の教師データでは、押詰まり状態発生前に、有効特徴量である独立信号S1およびS8ともに増加傾向にある。一方、図19右の操業チャートデータでは、独立信号S1については押詰まり状態発生前においても独立信号S1については増加傾向がみられない。このため、独立信号S1の時系列変化のみを監視していると、押詰まり状態発生の予兆を検出することができない。しかし、独立信号S8については、押詰まり状態発生前に増加傾向が表れていることから、独立信号S8の時系列変化も監視することで、当該窯での押詰まり状態の発生の予兆を検出することが可能となる。
【0092】
このように、各窯について特定された1または複数の有効特徴量の時系列変化を組み合わせて監視することにより、教師データ領域以外の押詰め状態の予兆も見出すことが可能となる。なお、図19の例では、独立信号S1およびS8についてのみ説明したが、当該窯の属するグループの有効特徴量全てについてその時系列変化を監視することで、押詰め状態の予兆をより確実に検出することもできる。
【0093】
<3.操業品質予測装置のハードウェア構成例>
次に、図20を参照しながら、本発明の実施形態に係る操業品質予測装置100のハードウェア構成について、詳細に説明する。図20は、本発明の実施形態に係る操業品質予測装置100のハードウェア構成例を示すブロック図である。
【0094】
操業品質予測装置100は、主に、CPU901と、ROM903と、RAM905と、を備える。また、操業品質予測装置100は、更に、バス907と、入力装置909と、出力装置911と、ストレージ装置913と、ドライブ915と、接続ポート917と、通信装置919とを備える。
【0095】
CPU901は、演算処理装置および制御装置として機能し、ROM903、RAM905、ストレージ装置913、またはリムーバブル記録媒体921に記録された各種プログラムに従って、操業品質予測装置100内の動作全般またはその一部を制御する。ROM903は、CPU901が使用するプログラムや演算パラメータ等を記憶する。RAM905は、CPU901が使用するプログラムや、プログラムの実行において適宜変化するパラメータ等を一次記憶する。これらはCPUバス等の内部バスにより構成されるバス907により相互に接続されている。
【0096】
バス907は、ブリッジを介して、PCI(Peripheral Component Interconnect/Interface)バスなどの外部バスに接続されている。
【0097】
入力装置909は、例えば、マウス、キーボード、タッチパネル、ボタン、スイッチおよびレバーなどユーザが操作する操作手段である。また、入力装置909は、例えば、赤外線やその他の電波を利用したリモートコントロール手段(いわゆる、リモコン)であってもよいし、操業品質予測装置100の操作に対応したPDA等の外部接続機器923であってもよい。さらに、入力装置909は、例えば、上記の操作手段を用いてユーザにより入力された情報に基づいて入力信号を生成し、CPU901に出力する入力制御回路などから構成されている。操業品質予測装置100のユーザは、この入力装置909を操作することにより、操業品質予測装置100に対して各種のデータを入力したり処理動作を指示したりすることができる。
【0098】
出力装置911は、取得した情報をユーザに対して視覚的または聴覚的に通知することが可能な装置で構成される。このような装置として、CRTディスプレイ装置、液晶ディスプレイ装置、プラズマディスプレイ装置、ELディスプレイ装置およびランプなどの表示装置や、スピーカおよびヘッドホンなどの音声出力装置や、プリンタ装置、携帯電話、ファクシミリなどがある。出力装置911は、例えば、操業品質予測装置100が行った各種処理により得られた結果を出力する。具体的には、表示装置は、操業品質予測装置100が行った各種処理により得られた結果を、テキストまたはイメージで表示する。他方、音声出力装置は、再生された音声データや音響データ等からなるオーディオ信号をアナログ信号に変換して出力する。なお、本発明の実施形態では、出力装置911は、操業品質予測装置100とは別体の表示装置40として設けられている。
【0099】
ストレージ装置913は、操業品質予測装置100の記憶部の一例として構成されたデータ格納用の装置である。ストレージ装置913は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)等の磁気記憶部デバイス、半導体記憶デバイス、光記憶デバイス、または光磁気記憶デバイス等により構成される。このストレージ装置913は、CPU901が実行するプログラムや各種データ、および外部から取得した各種のデータなどを格納する。
【0100】
ドライブ915は、記録媒体用リーダライタであり、操業品質予測装置100に内蔵、あるいは外付けされる。ドライブ915は、装着されている磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、または半導体メモリ等のリムーバブル記録媒体921に記録されている情報を読み出して、RAM905に出力する。また、ドライブ915は、装着されている磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、または半導体メモリ等のリムーバブル記録媒体921に記録を書き込むことも可能である。リムーバブル記録媒体921は、例えば、CDメディア、DVDメディア、Blu−rayメディア等である。また、リムーバブル記録媒体921は、コンパクトフラッシュ(登録商標)(CompactFlash:CF)、フラッシュメモリ、または、SDメモリカード(Secure Digital memory card)等であってもよい。また、リムーバブル記録媒体921は、例えば、非接触型ICチップを搭載したICカード(Integrated Circuit card)または電子機器等であってもよい。
【0101】
接続ポート917は、機器を操業品質予測装置100に直接接続するためのポートである。接続ポート917の一例として、USB(Universal Serial Bus)ポート、IEEE1394ポート、SCSI(Small Computer System Interface)ポート、RS−232Cポート等がある。この接続ポート917に外部接続機器923を接続することで、操業品質予測装置100は、外部接続機器923から直接各種のデータを取得したり、外部接続機器923に各種のデータを提供したりする。
【0102】
通信装置919は、例えば、通信網925に接続するための通信デバイス等で構成された通信インタフェースである。通信装置919は、例えば、有線または無線LAN(Local Area Network)、Bluetooth(登録商標)、またはWUSB(Wireless USB)用の通信カード等である。また、通信装置919は、光通信用のルータ、ADSL(Asymmetric Digital Subscriber Line)用のルータ、または、各種通信用のモデム等であってもよい。この通信装置919は、例えば、インターネットや他の通信機器との間で、例えばTCP/IP等の所定のプロトコルに則して信号等を送受信することができる。また、通信装置919に接続される通信網925は、有線または無線によって接続されたネットワーク等により構成され、例えば、インターネット、家庭内LAN、赤外線通信、ラジオ波通信または衛星通信等であってもよい。
【0103】
以上、本発明の実施形態に係る操業品質予測装置100の機能を実現可能なハードウェア構成の一例を示した。上記の各構成要素は、汎用的な部材を用いて構成されていてもよいし、各構成要素の機能に特化したハードウェアにより構成されていてもよい。従って、本実施形態を実施する時々の技術レベルに応じて、適宜、利用するハードウェア構成を変更することが可能である。
【0104】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0105】
例えば、上記実施形態では、形状特徴量抽出部による形状特徴量の抽出には独立成分分析を用いたが、本発明はかかる例に限定されない。例えば、主成分分析やウェーブレット、PLS等を用いて形状特徴量を抽出してもよい。
【符号の説明】
【0106】
100 操業品質予測装置
110 データ取得部
120 特徴量抽出部
122 形状特徴量抽出部
124 時系列特徴量抽出部
130 有効特徴量特定部
140 評価部
200 データ蓄積部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
製造プロセスから抽出された操業データを時系列に並べた複数のチャートデータから当該チャートデータの形状特徴量を抽出する形状特徴量抽出部と、
前記形状特徴量を時系列に並べた形状特徴量のチャートデータから時系列特徴量を抽出する時系列特徴量抽出部と、
前記時系列特徴量に基づいて、前記製造プロセスにおける操業トラブルおよび/または品質トラブルである操業品質トラブルと関連性の高い有効特徴量を特定する有効特徴量特定部と、
を備えることを特徴とする、操業品質予測装置。
【請求項2】
前記有効特徴量特定部は、前記時系列特徴量の時系列変化に対する定量的評価に基づいて、前記有効特徴量を特定することを特徴とする、請求項1に記載の操業品質予測装置。
【請求項3】
前記時系列特徴量抽出部は、前記形状特徴量の時系列変化を線形近似して近似回帰直線を算出し、当該近似回帰直線の傾きおよび切片に基づいて前記定量的評価を取得することを特徴とする、請求項2に記載の操業品質予測装置。
【請求項4】
前記有効特徴量特定部は、前記時系列特徴量の時系列変化に対するユーザの定性的評価に基づいて、前記有効特徴量を特定することを特徴とする、請求項1に記載の操業品質予測装置。
【請求項5】
前記時系列特徴量の時系列変化に対する定量的評価または定性的評価は、前記時系列特徴量の分解能を下げた情報であることを特徴とする、請求項2〜4のいずれか1項に記載の操業品質予測装置。
【請求項6】
前記形状特徴量抽出部は、独立成分分析を用いて前記形状特徴量を抽出することを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の操業品質予測装置。
【請求項7】
前記有効特徴量特定部は、前記時系列特徴量の時系列変化を、対応分析を用いて解析し、前記解析結果より前記有効特徴量を特定することを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の操業品質予測装置。
【請求項8】
製造プロセスから抽出された操業データを時系列に並べた複数のチャートデータから当該チャートデータの形状特徴量を抽出する形状特徴量抽出ステップと、
前記形状特徴量を時系列に並べた形状特徴量のチャートデータから時系列特徴量を抽出する時系列特徴量抽出ステップと、
前記時系列特徴量に基づいて、前記製造プロセスにおける操業トラブルおよび/または品質トラブルである操業品質トラブルと関連性の高い有効特徴量を特定する有効特徴量特定ステップと、
を含むことを特徴とする、操業品質予測方法。
【請求項9】
コンピュータを、
製造プロセスから抽出された操業データを時系列に並べた複数のチャートデータから当該チャートデータの形状特徴量を抽出する形状特徴量抽出部と、
前記形状特徴量を時系列に並べた形状特徴量のチャートデータから時系列特徴量を抽出する時系列特徴量抽出部と、
前記時系列特徴量に基づいて、前記製造プロセスにおける操業トラブルおよび/または品質トラブルである操業品質トラブルと関連性の高い有効特徴量を特定する有効特徴量特定部と、
を備える操業品質予測装置として機能させることを特徴とする、コンピュータプログラム。
【請求項10】
コンピュータに、
製造プロセスから抽出された操業データを時系列に並べた複数のチャートデータから当該チャートデータの形状特徴量を抽出する形状特徴量抽出部と、
前記形状特徴量を時系列に並べた形状特徴量のチャートデータから時系列特徴量を抽出する時系列特徴量抽出部と、
前記時系列特徴量に基づいて、前記製造プロセスにおける操業トラブルおよび/または品質トラブルである操業品質トラブルと関連性の高い有効特徴量を特定する有効特徴量特定部と、
を備えることを特徴とする操業品質予測装置として機能させるためのプログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な記憶媒体。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2013−114362(P2013−114362A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−258433(P2011−258433)
【出願日】平成23年11月28日(2011.11.28)
【出願人】(000006655)新日鐵住金株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】