説明

擬似エンジン音発生装置

【課題】擬似エンジン音の雑音感を減らすとともに、擬似エンジン音が環境騒音にマスキングされる不具合を回避して車両の存在を歩行者に知らせることのできる擬似エンジン音発生装置を提供する。
【解決手段】擬似エンジン音作成部は、「8Hz間隔で連続する多数の周波数信号」を発生させて擬似エンジン音を作成する。このため、擬似エンジン音を作成するためのデータを簡素化できるとともに、演算負荷を小さく抑えることができる。また、擬似エンジン音作成部は、擬似エンジン音発生帯域内に信号欠如域Xを設けることで、人の感じる雑音感を減らすことができる。さらに、「擬似エンジン音発生帯域内」に複数残される「信号グループY」を「倍音関係」に設けて擬似エンジン音を単音化することで、環境騒音中において擬似エンジン音の認知性を高めることができ、環境騒音の中でも車両の存在を歩行者に知らせることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、擬似エンジン音を発生させる擬似エンジン音発生装置に関し、特に車両の外部に擬似エンジン音を発生させて車両の存在を知らせる車両存在報知装置に用いて好適な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
「車両存在報知装置」を用いて背景技術を説明する。
電気自動車、燃料電池車、ハイブリッド車など、通電により回転動力を発生する電動モータによって走行する車両は、エンジン(内燃機関)を動力源とする車両に比較して、車両から外部に発生する音が小さい。
このため、車両の存在が周囲の人々に気付かれ難い。
そこで、車両から報知音を発生させて車両の存在を知らせる車両存在報知装置が提案されている。
【0003】
車両存在報知装置では、車両の存在を知らせる報知音として「擬似エンジン音」を用いることが提案されている。
しかしながら、擬似エンジン音を作成するのは容易なことではない。
具体的に擬似エンジン音の作成を行なう従来技術として、実際のエンジン音を測定記憶し、記憶したエンジン音を車両の運転状態に応じて再生させるものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
この特許文献1の技術は、実際のエンジン音を、アクセル開度を変化させて録音し、録音したエンジン音の波形データを「1回の爆発を1単位とした波形データ」に分離し、分離した「1単位の波形データ」をアクセル開度の変化に対応させて記憶させる必要があり、多大な手間と膨大な記憶データを必要とする。
また、擬似エンジン音を作り出すためには、「1単位の波形データ」を連続するようにつなぎ合わせ、それらを複数重ね合わせて擬似エンジン音を合成する。この処理は、演算量が極めて多いため、疑似エンジン音を造り出すための演算負荷が非常に大きくなってしまう。
【0005】
これに対し、本願発明者は、1Hz〜10Hzの間から選ばれた選択周波数をAHz(例えば、4Hz等)とし、このAHz間隔で連続する多数の周波数信号を同時に発生させることで擬似エンジン音を作成できることを見出した。
この技術により、記憶データの簡素化が可能になるとともに、擬似エンジン音を作成するための演算負荷を小さくすることができる(周知技術ではない)。
【0006】
この技術を用いて所定の擬似エンジン音発生帯域内(例えば、250Hz〜4kHz等)に擬似エンジン音を発生させることで、実エンジン音(実際のエンジン音)に近い音を発生させることができる。
ここで、実エンジン音は、人為的に操作することが困難な作動音であるため、人が不快と感じる雑音が多く含まれ、人が感じる雑音感が大きい。
このため、実際のエンジン音に近い擬似エンジン音を作成すると、擬似エンジン音における雑音感も大きく感じられてしまう。
【0007】
実エンジン音であれば、雑音感が大きくても対処のしようがない。
しかしながら、擬似エンジン音は、意図的に作り出す音であるため、意図的に作成される音に雑音感が大きいと、擬似エンジン音を聞く人(歩行者等)に不快を感じさせる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−115166号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、擬似エンジン音の雑音感を減らして、擬似エンジン音による不快感を低減可能な擬似エンジン音発生装置の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
〔請求項1の手段〕
請求項1の擬似エンジン音発生装置は、「AHzの間隔で連続する多数の周波数信号」を発生させて擬似エンジン音を作成するものであるため、記憶データの簡素化を行なうことができるとともに、擬似エンジン音を作成するための演算負荷を小さく抑えることができる。
また、擬似エンジン音作成部は、擬似エンジン音発生帯域内において「AHz間隔の周波数信号を欠如させてなる信号欠如域」を作成する。
擬似エンジン音発生帯域内に「信号欠如域」を設けることで、人が不快と感じる雑音を減らすことができ、擬似エンジン音発生装置の発生する擬似エンジン音の不快感を抑えることができる。
【0011】
〔請求項2の手段〕
請求項2の擬似エンジン音発生装置は、「AHz間隔で連続する複数の周波数信号よりなる信号グループ」を「異なる複数の周波数帯域」で発生させて擬似エンジン音を作成するものであるため、記憶データの簡素化を行なうことができるとともに、擬似エンジン音を作成するための演算負荷を小さく抑えることができる。
また、請求項2の擬似エンジン音発生装置は、「AHz間隔で連続する複数の周波数信号よりなる信号グループ」を「異なる複数の周波数帯域」で発生するものであるため、信号グループと他の信号グループとの間に「請求項1の手段における信号欠如域」が形成される。このように、「信号欠如域」が設けられることで、人が不快と感じる雑音を減らすことができ、擬似エンジン音発生装置の発生する擬似エンジン音の不快感を抑えることができる。
【0012】
〔請求項3および請求項4の手段〕
請求項3および請求項4の手段の擬似エンジン音発生装置は、「複数の信号グループ」が、「倍音関係」、「平均律音階から選ばれた複数の音階」、「和音関係」のいずれかを成すものである。
これにより、擬似エンジン音を環境騒音の中において際立たせることができ、擬似エンジン音が環境騒音にマスキングされる不具合を回避できる。
即ち、環境騒音中において擬似エンジン音の認知性を高めることができ、環境騒音中においても車両の存在を歩行者に知らせることが可能になる。
また、下記の効果を得ることができる。
・「複数の信号グループ」を「倍音関係」にすることで、擬似エンジン音を単音化することができる。
・「複数の信号グループ」を「平均律音階から選ばれた複数の音階」にすることで、擬似エンジン音による不快感を無くすことができる。あるいは、「複数の音階」の擬似エンジン音によって曲を演奏することが可能になる。
・「複数の信号グループ」を「和音関係」にすることで、擬似エンジン音の好感度を高めることができる。
【0013】
〔請求項5の手段〕
請求項5の手段の擬似エンジン音発生装置は、擬似エンジン音をパラメトリックスピーカにより車外へ向けて放出するものである。
パラメトリックスピーカは、指向性が強く、且つ車両から離れた位置において擬似エンジン音の発生を行なうことができるため、「車両の存在を報知したい所定の範囲」のみに擬似エンジン音を発生させることができる。このため、車両の存在を報知する必要のない範囲への擬似エンジン音の発生を防ぐことができ、結果的に車両周囲への車両騒音を抑えることができる。
【0014】
〔請求項6の手段〕
請求項6の手段のパラメトリックスピーカは、超音波を発生可能な超音波スピーカと、擬似エンジン音作成部で作成する擬似エンジンを成す周波数信号を、超音波周波数に変調して発生する超音波振幅変調部と、この超音波振幅変調部で変調された超音波周波数信号によって超音波スピーカを駆動する超音波スピーカアンプとで構成されるものである。
【0015】
〔請求項7の手段〕
請求項7の手段の擬似エンジン音発生装置は、パラメトリックスピーカとは別に、可聴音を直接発生させるダイナミックスピーカからも擬似エンジン音を車外へ向けて放出するものである。
パラメトリックスピーカにダイナミックスピーカを組み合わせることで、パラメトリックスピーカのみにより擬似エンジン音を発生させる際の欠点である「近い範囲の低音不足」をダイナミックスピーカで補うことができる。
また、ダイナミックスピーカのみを用いる際の欠点である「車両乗員に聞こえる擬似エンジン音の音圧上昇」を、擬似エンジン音を遠くへ飛ばすことのできるパラメトリックスピーカで抑えることができる。
【0016】
〔請求項8の手段〕
請求項8の手段のダイナミックスピーカは、電磁式の車両用ホーンであり、自励電圧より低い他励電圧で車両用ホーンを駆動して車両用ホーンから擬似エンジン音を発生させる。
ダイナミックスピーカとして車両ホーンを用いることで、搭載性の確保を行なうことができるとともに、コストを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】擬似エンジン音の説明図である(実施例1)。
【図2】擬似エンジン音発生装置の概略構成図である。
【図3】車両用ホーンの具体的な一例を示す断面図である。
【図4】車両用ホーンを自励により作動させた場合、および他励により作動させた場合の周波数特性を示すグラフである。
【図5】超音波スピーカの正面図および上視図である。
【図6】擬似エンジン音の到達分布を示す説明図である。
【図7】擬似エンジン音の作成を示す説明図である。
【図8】パラメトリックスピーカの原理説明図である。
【図9】距離と音圧の関係を示す説明図である。
【図10】擬似エンジン音の説明図である(実施例2)。
【発明を実施するための形態】
【0018】
擬似エンジン音発生装置の擬似エンジン音作成部(コンピュータにおける音響ソフト)は、
(i)1Hz〜10Hzの間から選ばれた選択周波数を「AHz」とし、
(ii)この「AHz」の間隔で連続する多数の周波数信号を同時に発生させて擬似エンジン音を作成する。
【0019】
「第1の形態」における擬似エンジン音作成部は、擬似エンジン音発生帯域内(例えば、250Hz〜4kHz)において「AHz間隔の周波数信号を欠如させてなる信号欠如域」を、1つまたは複数作成するように設けられている。
「第2の形態」における擬似エンジン音作成部は、「AHz間隔で連続する複数の周波数信号よりなる信号グループ」を「異なる複数の周波数帯域」で発生させて擬似エンジン音を作成するように設けられ、「信号グループ」と「他の信号グループ」との間に「信号欠如域」が形成されるものである。
即ち、「第1の形態」は、周波数信号を「間引き」することで「信号欠如域」を設けるものであり、「第2の形態」は、「複数の周波数信号で構成される信号グループ」を複数設けてその間に「信号欠如域」を設けるものである。
【0020】
擬似エンジン音は、
・パラメトリックスピーカを用いて、車両から離れた場所で可聴音よりなる擬似エンジン音を発生させるものであっても良いし、
・可聴音を直接発生するダイナミックスピーカを用いて、車両から可聴音よりなる擬似エンジン音を発生させるものであっても良い。
・もちろん、パラメトリックスピーカとダイナミックスピーカを組み合わせて擬似エンジン音を発生させるものであっても良い。
【0021】
擬似エンジン音を成す「AHz」は、
・一定の周波数(例えば、4Hzや8Hz)に固定されるものであっても良いし、
・車両の乗員によって操作されるアクセル開度や車速等に応じて、所定の周波数範囲(例えば、1Hz〜10Hz)において変化するものであっても良いし、
・所定の周波数範囲内(例えば、3.5Hz〜4.5Hz)で揺らぐものであっても良い。
【0022】
擬似エンジン音の音圧レベルは、
(i)一定の音圧レベルに固定されるものであっても良いし、
(ii)環境騒音の音圧レベルに応じて自動調整されるものであっても良いし、
(iii)アクセル開度など車両の運転状態の変化に伴って、音圧レベルを連続的または段階的に変化させるものであっても良い。
【実施例1】
【0023】
擬似エンジン音発生装置を車両存在報知装置に適用した実施例1を、図1〜図9を参照して説明する。なお、以下で説明する実施例は、具体的な一例を示すものであって、限定されるものではない。
〔実施例1の構成〕
この実施例1の車両存在報知装置は、擬似エンジン音によって車両の存在を車両の周囲に知らせるものであり、図2に示すように、ダイナミックスピーカとして利用する電磁式の車両用ホーン1と、パラメトリックスピーカ2において超音波を放射する超音波スピーカ3と、車両用ホーン1および超音波スピーカ3の作動制御を行なう本体装置4とを備える。
【0024】
(車両用ホーン1の説明)
車両用ホーン1は、車外へ向けて警報音を発生する周知構造の電磁式の警報音発生機であり、警報音を車外へ向けて放出するように車両の例えば前部等に装着されるものである。
車両用ホーン1の具体的な一例を図3を参照して説明する。
【0025】
車両用ホーン1は、ステー11を介して車両に取り付けられるものであり、
通電により磁力を発生するコイル12と、
コイル12の発生する磁力により磁気吸引力を発生する固定鉄心(磁気吸引コア)13と、
振動板(ダイヤフラム)14の中心部に支持されて固定鉄心13に向かって移動可能に支持される可動鉄心(可動コア)15と、
この可動鉄心15の移動に連動し、可動鉄心15が固定鉄心13に向かって移動することにより固定接点16から離れてコイル12の通電を遮断する可動接点17と、
を備える。
【0026】
そして、車両用ホーン1の通電端子(コイル12の両端に接続される端子)に、直流で閾値以上の自励電圧(8V以上の電圧)が与えられることによって、
(i)コイル12の通電により可動鉄心15が固定鉄心13に磁気吸引される吸引動作と、
(ii)この吸引動作によって固定接点16から可動接点17が離れてコイル12の通電が停止して可動鉄心15と可動接点17が元に戻る復元動作と、
を連続して繰り返す。
【0027】
このように、コイル12の通電の断続(固定鉄心13の磁気吸引力の発生の断続)が発生することで可動鉄心15とともに振動板14が振動して車両用ホーン1が警報音を発生する。
車両用ホーン1は、警報音の基音周波数が400Hz前後の低い周波数に設定される場合が多く、小型であっても低周波を発生可能に設けられている。
車両用ホーン1の発生する警報音(自励電圧が与えられた場合の作動音)の周波数特性を図4の実線Aに示す。この図4の実線Aから明らかなように、車両用ホーン1の発生する警報音(自励電圧が与えられた場合の作動音)は、基音周波数(可動接点17のON−OFF間隔で設定される周波数)と、その倍音周波数とで構成される。
【0028】
なお、図3(a)の車両用ホーン1は、振動板14の振動による警報音をホーン部材(図面では渦巻状のラッパ部材)18によって増強させて車外へ放出するものである。また、図3(b)の車両用ホーン1は、振動板14の振動による警報音によって共振板19を共振させ、その共振音によって増強された警報音を車外へ放出するものである。
以下では、具体的な一例として、ホーン部材18を備えた車両用ホーン1を用いて実施例を説明するが、限定されるものではない。
【0029】
(超音波スピーカ3の説明)
超音波スピーカ3は、発生する超音波を車両の前方に向けて放出するように、上述した車両用ホーン1と同様、車両の例えば前部等に装着されるものであり、好ましくは車両用ホーン1に隣接(接近)した位置に取り付けられるものである。
【0030】
超音波スピーカ3の具体的な構造例を図5に示す。なお、図5に示す超音波スピーカ3の構造は一例であって、限定されるものではない。
超音波スピーカ3は、人間の可聴帯域よりも高い周波数(20kHz以上)の空気振動を発生させる超音波発生器である。
この実施例の超音波スピーカ3は、超音波再生に適した圧電スピーカ(セラミックスピーカ、ピエゾスピーカ等)21を複数配置してスピーカアレイとして用いたものである。 なお、この実施例に用いられる圧電スピーカ21は、印加電圧(充放電)に応じて伸縮するピエゾ素子と、このピエゾ素子の伸縮によって空気に振動を与える振動板14とを備えて構成される周知構造のものである。
【0031】
超音波スピーカ3は、使用する圧電スピーカ21の数と配置により、発生する超音波のエネルギー量と、圧電スピーカ21から放出される超音波の指向範囲とをコントロールすることができる。また、図5に示す指向コントロール部材(ホーン部材)22を用いることによっても、超音波の指向範囲をコントロールすることができる。
なお、この実施例では、超音波を発生するスピーカの一例として圧電スピーカ21を用いる例を示すが、これは一例であって限定されるものではなく、超音波を再生可能であれば他の形式の超音波発生手段を用いても良い。
【0032】
ここで、図6(a)においてパラメトリックスピーカ2による擬似エンジン音の到達範囲αを示し、図6(b)において車両用ホーン1による擬似エンジン音の到達範囲βを示す。なお、図6は、擬似エンジン音の音圧が50dBの到達範囲を示すものである。
このように、この実施例1の超音波スピーカ3は、超音波を車両の前方へ向けて放射するように設けられている。
また、車両用ホーン1は、車両を上から見て、擬似エンジン音が車両用ホーン1の周囲に均等に届くように設けられている。具体的には、車両用ホーン1におけるホーン部材18の開口が、車両の下方(路面)に向けられて取り付けられるものである。なお、ホーン部材18の開口の方向は、一例であって限定されるものではない。
【0033】
(本体装置4の説明)
次に、車両用ホーン1および超音波スピーカ3から擬似エンジン音を発生させる本体装置4を説明する。なお、以下に説明する本体装置4の構成は、一例であって限定されるものではない。
本体装置4は、
(a)擬似エンジン音を成す周波数信号を作成する擬似エンジン音作成部23と、
(b)擬似エンジン音の周波数信号(擬似エンジン音を成す電気信号)によって車両用ホーン1を駆動するホーン駆動アンプ24(パワーアンプ)と、
(c)擬似エンジン音の周波数信号(擬似エンジン音を成す電気信号)を超音波周波数に変調する超音波振幅変調部25と、
(d)変調された超音波周波数によって超音波スピーカ3を駆動する超音波スピーカアンプ26とを備える。
そして、本体装置4は、例えばECU(エンジン・コントロール・ユニットの略)等から作動信号(擬似エンジン音の発生指示信号)が与えられることによって作動するものである。
【0034】
以下において、本体装置4に搭載される上記(a)〜(d)の手段を説明する。
(擬似エンジン音作成部23の説明)
擬似エンジン音作成部23は、演算処理を行なうCPU、プログラムを保存する記憶手段(メモリ)、入力回路、出力回路などを含む周知構造のコンピュータによって構成される。記憶手段には、デジタル技術によって「擬似エンジン音を成す電気信号」を作成するエンジン音生成プログラム(音響ソフト)が記憶されている。
【0035】
擬似エンジン音作成部23による擬似エンジン音の作成(エンジン音生成プログラム)について説明する。
擬似エンジン音作成部23は、コンピュータが搭載する基準クロック(水晶発振器)の発生するクロック信号に基づき擬似エンジン音を成す周波数信号(波形信号)を作成するものであり、
(i)所定周波数(例えば、1Hz〜10Hzの間から選ばれた選択周波数)を「AHz」とし、
(ii)「AHz」の間隔で連続する多数の周波数信号を同時に発生させて擬似エンジン音を作成するものである。
【0036】
具体的な一例として、この実施例では、「AHz」として「8Hz」の固定周波数を用いる例を示す。なお、「8Hz」は具体的な一例であって、例えば半分の「4Hz」を用いても良い。あるいは、小数点を含む固定周波数(例えば、「7.5Hz〜8.5Hz」または「3.5Hz〜4.5Hz」の間から選んだ周波数)を用いても良い。
【0037】
一方、擬似エンジン音作成部23には、「8Hzの間隔で連続する多数の周波数信号(擬似エンジン音を成す周波数信号)」を、所定の周波数帯域よりなる「擬似エンジン音発生域(周波数範囲)」で発生させる周波数範囲特定手段(プログラム)が設けられている。
ここで、「擬似エンジン音発生域」の選択例を説明する。
実エンジン音の周波数特性が、図7(a)の実線Eの特性を示す場合、人の耳に聞こえているエンジン音の周波数範囲は、「最大音圧から−10dB下がった音圧」までの「主要周波数L(Δ10dB内の周波数範囲)」であり、「主要周波数L」から外れた音(音圧の低い音)は、「主要周波数L」の音にマスキングされてほとんど認識されなくなる。
【0038】
そこで、擬似エンジン音作成部23のエンジン音生成プログラムは、人の耳にはエンジン音のうちの「主要周波数L」だけが聞こえることを利用して、図7(b)に示すように、「8Hzの間隔で連続する多数の周波数信号(擬似エンジン音を成す周波数信号)」を、「主要周波数Lのみ」で発生させるように設けられている。
【0039】
このことを具体的に説明する。
擬似エンジン音を「特定車種の実エンジン音」に似せる場合、「特定車種の実エンジン音」を測定する。
測定エンジン音における「最大音圧から−10dB下がった音圧までの周波数範囲」を測定する。この測定範囲が上述した「主要周波数L」である。この主要周波数Lは、人間の音感度の高い周波数範囲(約250Hz〜4kHz)にほぼ合致する。このため、エンジン音生成プログラムは、図7(b)に示すように、「擬似エンジン音を成す周波数信号」を、「250Hz〜4kHz(主要周波数L)」のみで発生するように設けられている。
【0040】
この実施例1のエンジン音生成プログラムには、「8Hzの間隔で連続する多数の周波数信号(擬似エンジン音を成す周波数信号)」の周波数特性を加工(特徴付け)する周波数特性加工手段(プログラム)が設けられている。
【0041】
擬似エンジン音を「特定車種の実際のエンジン音」に似せる場合、特定車種のエンジン音の周波数特性が、図7(a)の実線Eの特性を示したとする。
その場合、特定車種の周波数特性{図7(a)の実線Eの特性}に合致するように、「擬似エンジン音を成す周波数信号」の周波数特性(多数の周波数信号のそれぞれの音圧レベルが描く特性)を、図7(c)の破線Eに示す周波数特性に加工するものである。
【0042】
さらに、擬似エンジン音作成部23のエンジン音生成プログラムには、「擬似エンジン音発生帯域内」において「8Hz間隔の周波数信号を欠如させてなる信号欠如域X(欠如範囲グループ)」を1つあるいは複数作成する欠如域生成手段(プログラム)が設けられている。
この欠如域生成手段を、図1を参照して説明する。なお、図1(a)は、上述した周波数範囲特定手段および周波数特性加工手段で加工された「8Hzの間隔で連続する多数の周波数信号(擬似エンジン音を成す周波数信号)」を示すものである。
【0043】
欠如域生成手段は、上述したように、「擬似エンジン音発生帯域内」に「信号欠如域X(8Hz間隔の周波数信号を欠如させた範囲)」を1つまたは複数設けるものであって、
・図1(b)は、「擬似エンジン音発生帯域内」に「1つの信号欠如域X」を設ける例であり、
・図1(c)は、「擬似エンジン音発生帯域内」に「2つの信号欠如域X」を設ける例であり、
・図1(d)は、「擬似エンジン音発生帯域内」に「3つの信号欠如域X」を設ける例である。
【0044】
このように、「信号欠如域X」の数を増やすことで、擬似エンジン音に感じられる雑音感を減らすことができる。なお、「信号欠如域X」の数が少なくとも「信号欠如域Xの範囲」を大きく設定することで、擬似エンジン音に感じられる雑音感を減らすことができる。
【0045】
一方、「擬似エンジン音発生帯域内」に「信号欠如域X」を1つまたは複数設けることで、「擬似エンジン音発生帯域内」には、「8Hz間隔で連続する複数の周波数信号よりなる信号グループY」が複数残される。
「擬似エンジン音発生帯域内」に残される「複数の信号グループY」は、
・倍音関係、
・平均律音階から選ばれた複数の音階、
・和音関係、
のいずれかを成すことが望ましい。
【0046】
具体的に、
・図1(c)は、高音側の「2つ信号グループY」を4kHzと2kHzの倍音関係に設ける例であり、
・図1(d)は、高音側の「3つ信号グループY」を4kHzと2kHzと1kHzの倍音関係に設ける例である。
このように、「複数の信号グループY」を「倍音関係」にすることで、擬似エンジン音を単音化することができ、擬似エンジン音をスッキリさせることができる。
【0047】
なお、「倍音関係を成すそれぞれの信号グループY」あるいは「音階や和音を成すそれぞれの信号グループY」は、「比較的小さな所定幅の周波数範囲」で設けられる。
具体的に、各信号グループYは、「8Hz間隔で連続する3つ〜5つの周波数信号」で構成されるものである。
即ち、各信号グループYは、
・「所定周波数」+「所定周波数±AHz(8Hz)」、
・あるいは、「所定周波数」+「所定周波数±AHz(8Hz)」+「所定周波数±AHz(16Hz)」、
で構成されるものである。
【0048】
具体的な一例を説明すると、
・4kHzの信号グループYは、「3984Hzの周波数信号」+「3992Hzの周波数信号」+「4kHzの周波数信号」+「4008Hzの周波数信号」+「4016Hzの周波数信号」で構成され、
・2kHzの信号グループYは、「1984Hzの周波数信号」+「1992Hzの周波数信号」+「2kHzの周波数信号」+「2008Hzの周波数信号」+「2016Hzの周波数信号」で構成され、
・1kHzの信号グループYは、「984Hzの周波数信号」+「992Hzの周波数信号」+「1kHzの周波数信号」+「1008Hzの周波数信号」+「1016Hzの周波数信号」で構成されるものである。
【0049】
(ホーン駆動アンプ24の説明)
ホーン駆動アンプ24は、車両用ホーン1をダイナミックスピーカとして作動させるためのパワーアンプ(電力増幅回路)であり、擬似エンジン音作成部23が出力する波形信号(擬似エンジン音を成す電気信号)の「電圧の増減変化」を増幅して、車両用ホーン1の通電端子(コイル12の両端に接続される端子)に付与するものである。
なお、ホーン駆動アンプ24の最大出力(擬似エンジン音を発生させるための最大出力)は、8V未満(他励電圧)に制限されており、擬似エンジン音を発生させるための電圧出力によって車両用ホーン1が警報音を発生しないように設けられている。
【0050】
(超音波振幅変調部25の説明)
超音波振幅変調部25は、超音波周波数(即ち、20kHzを超える周波数:一例としては25kHz等)で発振可能な超音波発振器を備えており、擬似エンジン音作成部23が出力する波形信号(擬似エンジン音を成す電気信号)の「電圧の増減変化」を、超音波周波数の「発振電圧の振幅変化」に変調するものである。
なお、この実施例では、理解補助のために、超音波振幅変調部25を独立して設ける例を示すが、上述したコンピュータのプログラム中に、超音波振幅変調部25の機能を盛り込んでも良い。
【0051】
超音波振幅変調部25による超音波変調(「擬似エンジン音を成す周波数信号」を「発振電圧の振幅変化」に変調すること)を、図8を参照して説明する。
例えば、超音波振幅変調部25に入力された「擬似エンジン音を成す周波数信号」が、図8(a)に示す電圧変化であるとする(なお、図中では理解補助のために単一周波数の波形を示すが、実際には8Hz間隔の合成周波数の信号波形である)。
一方、超音波振幅変調部25の搭載する超音波発振器は、図8(b)に示す超音波周波数で発振するものとする。
【0052】
すると、超音波振幅変調部25は、図8(c)に示すように、
(i)擬似エンジン音を成す周波数の信号電圧が大きくなるに従い、超音波振動による電圧の振幅を大きくし、
(ii)擬似エンジン音を成す周波数の信号電圧が小さくなるに従い、超音波振動による電圧の振幅を小さくする。
このようにして、超音波振幅変調部25は、擬似エンジン音作成部23から入力された「擬似エンジン音を成す周波数信号」を、超音波周波数の「発振電圧の振幅変化」に変調するものである。
【0053】
なお、この実施例では、超音波振幅変調部25の一例として、擬似エンジン音を成す周波数の信号電圧の変化を、図8(c)に示すように「電圧の大きさの幅」に変化させる例を示した。これに対し、この図8(c)とは異なり、擬似エンジン音を成す周波数の信号電圧の変化を、PWM変調の技術を用いて「電圧の発生時間の幅」に変化させるように設けても良い。
【0054】
(超音波スピーカアンプ26の説明)
超音波スピーカアンプ26は、「擬似エンジン音を成す周波数信号を振幅変調した超音波信号(超音波振幅変調部25の出力信号)」に基づいて各圧電スピーカ21を駆動するものであり、各圧電スピーカ21の印加電圧(充放電状態)を制御することで、各圧電スピーカ21から「擬似エンジン音を成す周波数信号を振幅変調した超音波」を発生させるものである。
具体的な一例を示すと、超音波スピーカアンプ26は、各圧電スピーカ21に、正電圧または負電圧を切り替えて印加可能な電荷切替回路(または、ピエゾ素子の充放電回路)であり、超音波振幅変調部25から超音波スピーカアンプ26に、図8(c)に示す波形信号を与える場合、超音波スピーカアンプ26は図8(c)に示す波形電圧を超音波スピーカ3に与えて、各圧電スピーカ21から図8(c)に示す出力波形の超音波を発生させるものである。
【0055】
(車両用ホーン1およびパラメトリックスピーカ2の音圧設定の説明)
この実施例における車両存在報知装置は、
(i)予め設定した近距離範囲(例えば、車両の前端から前方へ0m〜5m)において「車両用ホーン1による擬似エンジン音」と「パラメトリックスピーカ2による擬似エンジン音」とを合成させて、近距離範囲において大きな音圧の擬似エンジン音を発生させるとともに、
(ii)予め設定した遠距離範囲(例えば、車両の前端から前方へ5m〜10m)において「パラメトリックスピーカ2による擬似エンジン音」を発生させるように、
上述した「使用する圧電スピーカ21の数」および「ホーン駆動アンプ24と超音波スピーカアンプ26の増幅ゲイン(アンプゲイン)」の設定が行なわれている。
【0056】
具体的な一例を、図9を参照して説明する。
まず、遠距離範囲の設定を行なうべく、報知音を届ける目標到達距離の設定を行なう。この実施例では目標到達距離を10mとする。
また、目標到達距離における音の音圧レベルの設定を行なう。この実施例では目標到達距離における音圧レベルを50dBとする。
その場合、パラメトリックスピーカ2によって目標到達距離10mにおいて音圧レベル50dBが達成できるように、使用する圧電スピーカ21の数と配置の設定を行なうとともに、超音波スピーカアンプ26の増幅ゲインの設定を行なう(図9の二点鎖線B参照)。
【0057】
次に、近距離範囲の設定を行なう。この実施例では、大きな音圧の擬似エンジン音を発生させる範囲(より確実に歩行者に車両の存在を知らせる範囲)を、5m以内に設定する。
その場合、5m以内において「車両用ホーン1による擬似エンジン音」と「パラメトリックスピーカ2による擬似エンジン音」との合成によって音圧が大きくなるように(図9の実線C)、ホーン駆動アンプ24の増幅ゲインの設定を行なう(図9の一点鎖線A参照)。
このように、車両存在報知装置は、図9の実線Cに示すように、距離に対する擬似エンジン音(報知音)の音圧特性がV字特性を示すものである。
【0058】
〔実施例1の作動〕
実施例1の車両存在報知装置の作動を説明する。
この車両存在報知装置は、上述したように、例えばECU等から作動信号が与えられることで作動するものであり、具体的な一例を示すと、
(i)車両の走行中(例えば、前進走行中)において常時作動するもの、
(ii)車両の走行速度が所定速度範囲の場合にのみ作動するもの、
(iii)車両の走行中で、車両の走行方向に人の存在が「人の認知システム(図示しない)」によって確認された場合にのみ作動するものである。
【0059】
車両存在報知装置が作動すると、車両用ホーン1に擬似エンジン音を発生させるための他励電圧による電気信号が与えられる。
電磁式の車両用ホーン1は、他励電圧以下では、可動接点17が固定接点16に接してコイル12が通電状態になっている。このため、車両用ホーン1のコイル12に「擬似エンジン音を成す電気信号」が与えられると、「擬似エンジン音を成す電気信号」に応じた磁力変化が生じ、振動板14と可動鉄心15が「擬似エンジン音を成す電気信号」に応じて振動する。
このようにして、電磁式の車両用ホーン1をダイナミックスピーカとして用いることができ、車両用ホーン1から擬似エンジン音を発生させることができる。
【0060】
車両用ホーン1をダイナミックスピーカとして用いる場合における車両用ホーン1の周波数特性を図4の破線Bに示す。この破線Bは、車両用ホーン1に1Vのサイン波のスイープ信号(低周波数から高周波数への可変信号)を与えた場合における周波数特性である。
この図4の破線Bから明らかなように、車両用ホーン1をダイナミックスピーカとして用いることができる。
【0061】
また、車両存在報知装置が作動すると、超音波スピーカ3は、図8(c)に示すように、擬似エンジン音の信号波形を振幅変調した超音波(聞こえない音波)を放射する。
すると、図8(d)に示すように、空気中を超音波が伝播するにつれて、空気の粘性等によって波長の短い超音波が歪んで鈍(なま)される。
その結果、図8(e)に示すように、伝播途中の空気中において超音波に含まれていた振幅成分が自己復調され、結果的に超音波の発生源(超音波スピーカ3を搭載する車両)から離れた場所で擬似エンジン音が発生する。
【0062】
〔実施例1の効果1〕
実施例1の車両存在報知装置は、上述したように、「8Hz(AHzの一例)の間隔で連続する多数の周波数信号」を発生させて擬似エンジン音を作成するものであるため、記憶データの簡素化を行なうことができるとともに、擬似エンジン作成部において擬似エンジン音を作成するための演算負荷を小さくすることができる。
特に、「擬似エンジン音発生帯域内」に1つまたは複数の「信号欠如域X」を設けることにより、擬似エンジン音を成す「周波数信号の数」を減らすことができる。このため、記憶データの簡素化がさらに可能になり、擬似エンジン作成部における演算負荷を下げることができる。
【0063】
また、擬似エンジン音作成部23は、「擬似エンジン音発生帯域内」に1つまたは複数の「信号欠如域X」を設けることで、人が不快と感じる雑音を減らすことができ、車両存在報知装置の発生する擬似エンジン音による不快感を抑えることができる。
特に、この実施例では、「複数の信号グループY」を「倍音関係」に設けて擬似エンジン音を単音化しているため、擬似エンジン音をスッキリさせて、擬似エンジン音による不快感を抑えるとともに、擬似エンジン音を環境騒音の中において際立たせることができる。
これにより、環境騒音中において擬似エンジン音の認知性を高めることができ、擬似エンジン音が環境騒音にマスキングされる不具合を回避して、環境騒音中においても車両の存在を歩行者に知らせることができる。
【0064】
〔実施例1の効果2〕
実施例1の車両存在報知装置は、上述したように、「ダイナミックスピーカとして用いる車両用ホーン1」と「パラメトリックスピーカ2」の両方から擬似エンジン音を発生させるものである。
このため、次の(a)〜(c)の作用効果を得ることができる。
【0065】
(a)「近距離範囲(0m〜5m)」では、「ダイナミックスピーカとして用いる車両用ホーン1による擬似エンジン音(図9の一点鎖線A)」と、「パラメトリックスピーカ2による擬似エンジン音(図9の二点鎖線B)」とが合成されて、大きな音圧の擬似エンジン音(図9の実線C)を発生させることができる。
このため、車両と歩行者の距離が「近距離範囲(0m〜5m)」では、歩行者に対して大きな音圧の擬似エンジン音を与えることができ、より確実に歩行者に対して車両の存在を知らせることができる。
【0066】
(b)「遠距離範囲(5m〜10m)」には、図9の二点鎖線Bに示すように、パラメトリックスピーカ2の発する報知音を届けることができる。
このため、車両と歩行者の距離が離れていても、歩行者に対して擬似エンジン音を届けることができ、遠く離れた歩行者に対して車両の存在を知らせることができる。
【0067】
(c)パラメトリックスピーカ2は、車両から離れた空気中で超音波が自己変調されて可聴音に変換されるものであるため、パラメトリックスピーカ2によって発生される擬似エンジン音は車両乗員(ドライバ等)には聞こえ難い。
このため、車両乗員に聞こえる擬似エンジン音の音圧を抑えることができる。
【0068】
即ち、この実施例の車両存在報知装置は、
・近くの歩行者には大きな音圧の擬似エンジン音を発生し、
・遠くの歩行者にも擬似エンジン音を届け、
・車両乗員(ドライバ等)に聞こえる擬似エンジン音の音圧を下げることができる。
即ち、車両存在報知装置は、車両乗員(ドライバ等)には聞こえ難く、歩行者には気付きやすい擬似エンジン音を発生させることができる。
【0069】
〔実施例1の効果3〕
この実施例1の車両用ホーン1は、ホーンスイッチが乗員によってONされた際に自励電圧が与えられて警報音を発生するように設けられるものである。即ち、実施例1の車両用ホーン1は、「警報音を発生する車両用ホーン1」と「擬似エンジン音を発生する車両用ホーン1」とを共用するものである。
これにより、「擬似エンジン音を発生させる専用のダイナミックスピーカ」を別途搭載する必要がなく、車両存在報知装置のコストを抑えることができるとともに、搭載スペースの確保を容易に行なうことができる。
【実施例2】
【0070】
図10を参照して実施例2を説明する。なお、実施例2において、上記実施例1と同一の符号は同一機能物を示すものである。
上記実施例1は、擬似エンジン音を成す「AHzの間隔で連続する多数の周波数信号」に、1つまたは複数の「信号欠如域X」を設ける例を示した。
即ち、上記実施例1は、周波数信号を間引きすることで「信号欠如域X」を設ける例を示した。
【0071】
これに対し、この実施例2は、「AHz間隔で連続する複数の周波数信号よりなる信号グループY」を「異なる複数の周波数帯域」で発生させて擬似エンジン音を作成するものである。
即ち、この実施例2は、「信号グループY」と「他の信号グループY」との間に「信号欠如域X」を設けるものであって、上記実施例1と「信号欠如域X」の「作り方が異なる」ものである。
【0072】
具体的に、擬似エンジン音作成部23には、「複数の信号グループY」のそれぞれにおいて「音階」を発生させる音階作成手段(プログラム)が設けられている。
この音階作成手段は、図10に示すように、「複数の信号グループY」のそれぞれが、平均律音階(ド、ド♯、レ、レ♯、ミ、ファ、ファ♯、ソ、ソ♯、ラ、ラ♯、シの12音階)から選ばれた1つの音階を発生させるものであって、
・図10(a)は、「2つの信号グループY」により1オクターブ異なる2つの「ド」の音を同時に発生させる例であり、
・図10(b)は、「4つの信号グループY」により「ド、ミ、ソ、ド」よりなる和音を発生させる例であり、
・図10(c)は、「8つの信号グループY」により「ド、レ、ミ、ファ、ソ、ラ、シ、ド」の8音階を同時に発生させる例であり、
・図10(d)は、「12の信号グループY」により「ド、ド♯、レ、レ♯、ミ、ファ、ファ♯、ソ、ソ♯、ラ、ラ♯、シ」の12音階を同時に発生させる例である。
【0073】
なお、それぞれの「信号グループY」は、実施例1と同様、「比較的小さな所定幅の周波数範囲」で設けられるものであり、例えば、図10(d)に示すように、各信号グループYによって、「ド、ド♯、レ、レ♯、ミ、ファ、ファ♯、ソ、ソ♯、ラ、ラ♯、シ」の12音階を同時に発生させた場合であっても、各信号グループYにおいて隣接する信号グループYとの間に「信号欠如域X」が形成されるものである。
具体的な一例を示すと、それぞれの「信号グループY」は、実施例1と同様、「8Hz間隔で連続する3つ〜5つの周波数信号」で構成されるものである。
【0074】
〔実施例2の効果〕
この実施例2に示すように、「複数の信号グループY」によって擬似エンジン音を作成し、「信号グループY」と「他の信号グループY」との間に「信号欠如域X」を設けることで、実施例1と同様の効果(擬似エンジン音に感じられる雑音感を減らすことができる)を得ることができる。
また、この実施例2では、「複数の信号グループY」のそれぞれが「音階」や「和音」を成す。つまり、擬似エンジン音を人が好ましいと感じる音色に加工できる。このため、車両存在報知装置の発生する擬似エンジン音の好感度を高めることができる。
【0075】
なお、図10(c)では、「8つの信号グループY」により「ド、レ、ミ、ファ、ソ、ラ、シ、ド」の8音階を同時に発生させる例を示したが、この8音階を用いて曲を奏でたり、和音を奏でるように設けても良い。
同様に、図10(d)では、「12つの信号グループY」により「ド、ド♯、レ、レ♯、ミ、ファ、ファ♯、ソ、ソ♯、ラ、ラ♯、シ」の12音階を同時に発生させる例を示したが、この12音階を用いて曲を奏でたり、和音を奏でるように設けても良い。
【産業上の利用可能性】
【0076】
上記の実施例では、車両の前進走行時に車両の前方へ擬似エンジン音を発生させる例を示したが、車両の後退走行時に車両の後方および後方周囲へ擬似エンジン音を発生させるように設けても良い。
上記の実施例では、ダイレクトスピーカ(実施例では車両用ホーン1)とパラメトリックスピーカ2の両方を用いて擬似エンジン音を発生させる例を示したが、ダイレクトスピーカ(例えば、車両用ホーン1)またはパラメトリックスピーカ2の一方から擬似エンジン音を発生させても良い。
【0077】
上記の実施例では擬似エンジン音を成す「AHz」を「8Hz」に固定する例を示したが、アクセル開度や車速に応じて変動するように設けても良い。あるいは、実際のエンジン音の周波数成分に時間的な揺らぎ(変動)があるように、「AHzの値が時間的に揺らぐ」ように設けても良い。
上記の実施例では、擬似エンジン音の音圧レベルを、環境騒音に応じて自動調整したり、アクセル開度や車速に応じて増減させるように設けても良い。あるいは、実際のエンジン音の音圧成分に時間的な揺らぎ(変動)があるように、「擬似エンジン音の音圧レベルが時間的に揺らぐ」ように設けても良い。
なお、「AHzの値」および「擬似エンジン音の音圧」を「揺らぐ」ように設ける場合は、「1/f揺らぎ」など「不等間隔の揺らぎ」であることが望ましい。
【0078】
上記の実施例では、車両存在報知装置に本発明を適用する例を示したが、車室内に擬似エンジン音を発生させるように設けても良い。具体的な一例を示すと、電動モータ駆動車の運転に不慣れな運転者等(エンジン駆動車の運転に熟知した運転者など)に対して、動作音フィードバック用として擬似エンジン音を与える運転補助装置に本発明を用いても良い。あるいは、レーシングゲームやドライビングシュミレータなどに本発明を適用しても良い。
【符号の説明】
【0079】
1 車両用ホーン(ダイナミックスピーカ)
2 パラメトリックスピーカ
3 超音波スピーカ
23 擬似エンジン音作成部
24 ホーン駆動アンプ
25 超音波振幅変調部
26 超音波スピーカアンプ
X 信号欠如域
Y 信号グループ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
擬似エンジン音を発生させる擬似エンジン音発生装置において、
この擬似エンジン音発生装置は、
1Hz〜10Hzの間から選ばれた選択周波数をAHzとし、
このAHz間隔で連続する多数の周波数信号を、所定の周波数帯域よりなる擬似エンジン音発生帯域内で発生させて擬似エンジン音を作成する擬似エンジン音作成部(23)を備え、
この擬似エンジン音作成部(23)は、前記擬似エンジン音発生帯域内において「前記AHz間隔の周波数信号を欠如させてなる信号欠如域(X)」を作成することを特徴とする擬似エンジン音発生装置。
【請求項2】
擬似エンジン音を発生させる擬似エンジン音発生装置において、
この擬似エンジン音発生装置は、
1Hz〜10Hzの間から選ばれた選択周波数をAHzとし、
「このAHz間隔で連続する複数の周波数信号よりなる信号グループ(Y)」を「異なる複数の周波数帯域」で発生させて擬似エンジン音を作成する擬似エンジン音作成部(23)を備えることを特徴とする擬似エンジン音発生装置。
【請求項3】
請求項1に記載の擬似エンジン音発生装置において、
前記信号欠如域(X)が前記擬似エンジン音発生帯域内において複数形成されることで、前記擬似エンジン音発生帯域内には、「前記AHz間隔で連続する複数の周波数信号よりなる信号グループ(Y)」が複数残され、
複数の前記信号グループ(Y)は、倍音関係、または平均律音階から選ばれた複数の音階、あるいは和音関係を成すことを特徴とする擬似エンジン音発生装置。
【請求項4】
請求項2に記載の擬似エンジン音発生装置において、
複数の前記信号グループ(Y)は、倍音関係、または平均律音階から選ばれた複数の音階、あるいは和音関係を成すことを特徴とする擬似エンジン音発生装置。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれかに記載の擬似エンジン音発生装置において、
この擬似エンジン音発生装置は、擬似エンジン音をパラメトリックスピーカ(2)により車外へ向けて放出することを特徴とする擬似エンジン音発生装置。
【請求項6】
請求項5に記載の擬似エンジン音発生装置において、
前記パラメトリックスピーカ(2)は、
超音波を発生可能な超音波スピーカ(3)と、
前記擬似エンジン音作成部(23)で作成する擬似エンジンを成す周波数信号を、超音波周波数に変調して発生する超音波振幅変調部(25)と、
この超音波振幅変調部(25)で変調された超音波周波数信号によって前記超音波スピーカ(3)を駆動する超音波スピーカアンプ(26)と、
を具備することを特徴とする擬似エンジン音発生装置。
【請求項7】
請求項5または請求項6に記載の擬似エンジン音発生装置において、
この擬似エンジン音発生装置は、前記パラメトリックスピーカ(2)とは別に、可聴音を直接発生させるダイナミックスピーカ(1)からも擬似エンジン音を車外へ向けて放出することを特徴とする擬似エンジン音発生装置。
【請求項8】
請求項7に記載の擬似エンジン音発生装置において、
前記ダイナミックスピーカ(1)は、直流で閾値以上の自励電圧を与えることで警報音を発生する電磁式の車両用ホーン(1)であり、
前記自励電圧より低い他励電圧による擬似エンジン音を成す周波数信号の電気信号を前記車両用ホーン(1)に与えることで、前記車両用ホーン(1)から擬似エンジン音を発生させることを特徴とする擬似エンジン音発生装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2012−3134(P2012−3134A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−139544(P2010−139544)
【出願日】平成22年6月18日(2010.6.18)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】