説明

擬似接着用紙

【課題】擬似接着用紙に要求される接着・剥離特性を満足しつつ、オフセット印刷適性、及び、インクジェット記録における記録濃度、印字のにじみ(フェザリング)、インクの乾燥・吸収性、インクの耐水性、加圧接着時の印字部の転写性が改善された擬似接着用紙とする。
【解決手段】基材シートの一方の面に所定の条件を加えることにより剥離可能に接着する擬似接着層を有している擬似接着用紙について、前記擬似接着層が、天然ゴムを主剤とする非剥離性接着剤、完全ケン化ポリビニルアルコール、及び、微粒子充填剤を含有し、この微粒子充填剤が、沈降法合成シリカ及びゲル法合成シリカを主成分とし、かつ、前記沈降法合成シリカと前記ゲル法合成シリカとの配合質量比が、9:1〜7:3である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、擬似接着用紙、すなわち、通常では接着せず、加圧、加温等の所定の条件が加えられると剥離可能に接着する擬似接着層を有する擬似接着用紙に関するものである。より詳細には、例えば、擬似接着剤を基材シートの情報隠蔽面の少なくとも一部に塗布した折り畳み型擬似接着用紙、重ね合せ型擬似接着用紙、その他の親展性を有する情報隠蔽用紙、親展性葉書、親展性封筒などとして好適に利用される擬似接着用紙に関するものである。
【背景技術】
【0002】
郵便法の改正に伴い、親展性をもつ葉書システムが実用化され、普及し始めている。この親展性をもつ葉書システムは、個人情報などの各種情報が折り畳み内面に記載された往復葉書状の葉書を折り畳み、重ね合わせた部分を擬似接着して情報を隠蔽したのち、郵送し、受取人が擬似接着部分を剥離して隠蔽情報を読み取るシステムである。
【0003】
これら親展情報などを擬似接着用紙に記録する場合、インパクトプリンタによる印刷から、コンピュータからの信号に基づいてインクジェット記録を行う方式にシフトしつつある。インクジェット記録方式は、ディフレクション方式、キャビティ方式、サーモジェット方式、バブルジェット(登録商標)方式、サーマルインクジェット方式、スリットジェット方式、スパークジェット方式などに代表される種々の作動原理により、インクの微小液滴を飛翔させて擬似接着用紙に付着させ、画像・文字などの記録を行うものである。このインクジェット記録方式は、高速、低騒音、多色化が容易、記録パターンの融通性が大きい、現像−定着が不要などの長所があり、漢字を含め各種図形、カラー画像などの記録装置として種々の用途において急速に普及している。また、水や親水性溶剤などの溶媒中にイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックなどの色材を各々含有させた多色インクを用いるインクジェット記録方式により形成された画像は、製版方式による多色印刷に比較して遜色のない記録画像を得ることが可能である。さらに、インクジェット記録方式は、作成部数が少なくて済む用途において、銀塩写真による現像よりも安価であることから、フルカラー画像記録分野にまで広く応用されつつある。
【0004】
一般的にインクジェット記録用紙に要求される記録特性としては、(1)記録濃度が高い、(2)インク吸収速度が速い、(3)インク吸収容量が多い、(4)適度な大きさのインクドットが得られる、(5)インクの裏抜けがない、(6)インクドットのにじみがない、(7)隣接するインクのブリーディングがない、(8)鮮明な画像が得られる、(9)耐水性に優れる、(10)耐候性・画像の保存性に優れる、などがある。
【0005】
インクジェット記録可能な擬似接着用紙の擬似接着層中には、バインダー樹脂や微粒子充填剤を含有させるが、これらのうちバインダー樹脂としては、部分ケン化ポリビニルアルコール及びスチレン‐ブタジエン系、エチレン‐酢酸ビニル系等の有機合成樹脂を使用することが多く、この点に関しては多くの先行技術が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。また、微粒子充填剤としては、合成シリカを使用することが多く、沈降法合成シリカやゲル法合成シリカを使用する点について、開示されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0006】
しかしながら、部分ケン化ポリビニルアルコールを使用すると、インクジェット記録を行う場合において、インクの吸収性が良好であるために印字速度を速くできるという点で優位であるが、擬似接着層の親水性が強くなるため、加圧接着後に浸水した場合に、印字部が対面に転写する場合がある。加えて、オフセット印刷を行う場合においては、擬似接着層の皮膜の弱さからくる、ブランケット汚れや紙粉の発生などの問題がある。これを補うため、前述したようにスチレン‐ブタジエン系、エチレン‐酢酸ビニル系等の有機合成樹脂を含有するのが一般的である。しかしながら、これらの有機合成樹脂(疎水性)を含有した場合は、インクの乾燥性が著しく劣る結果となり、印字速度の調整が必要になる。また、インクの浸透が悪いことから、加圧接着後に対面に印字部が転写してしまう問題がある。
【特許文献1】特開2006‐77060号公報
【特許文献2】特開2002‐129135号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする主たる課題は、擬似接着用紙に要求される接着・剥離特性を満足しつつ、オフセット印刷適性、及び、インクジェット記録における記録濃度、印字のにじみ(フェザリング)、インクの乾燥・吸収性、インクの耐水性、加圧接着時の印字部の転写性が改善された擬似接着用紙を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題を解決した本発明は、次のとおりである。
〔請求項1記載の発明〕
基材シートの少なくとも一方の面に所定の条件を加えることにより剥離可能に接着する擬似接着層を有している擬似接着用紙であって、
前記擬似接着層が、天然ゴムを主剤とする非剥離性接着剤、完全ケン化ポリビニルアルコール、及び、微粒子充填剤を含有し、この微粒子充填剤が、沈降法合成シリカ及びゲル法合成シリカを主成分とし、かつ、前記沈降法合成シリカと前記ゲル法合成シリカとの配合質量比が、9:1〜7:3である、
ことを特徴とする擬似接着用紙。
【0009】
〔請求項2記載の発明〕
前記完全ケン化ポリビニルアルコールが、ケン化度98mol%以上で、重合度1700以下である、
請求項1記載の擬似接着用紙。
【0010】
〔請求項3記載の発明〕
前記擬似接着層が、カチオン性樹脂を含有する、
請求項1又は請求項2記載の擬似接着用紙。
【0011】
(主な作用効果)
・ 本発明の擬似接着用紙は、オフセット印刷用途のほか、インクジェット記録用途にも好適に用いることができる。
【0012】
・ 本発明の擬似接着用紙は、完全ケン化ポリビニルアルコールを使用することで、皮膜強度が向上し、有機合成樹脂の添加量を微量とすることができ、擬似接着層全体での疎水性を有する成分の削減をすることが可能となり、インクジェット記録における記録濃度、印字のにじみ(フェザリング)、インクの乾燥・吸収性、インクの耐水性、加圧接着時の印字部の転写性を維持することが可能となる。
【0013】
・ 微粒子充填剤として沈降法合成シリカを使用すると、これがポーラスな凝集構造を形成しているため、隙間に非剥離性接着剤が入り込み、加圧により当該凝集構造が変化した際に非剥離性接着剤同士が接触して接着するために、擬似接着用紙の接着性に優れる。他方、微粒子充填剤として沈降法合成シリカのほかゲル法合成シリカをも使用することにより、これが密な凝集構造を形成しているため、擬似接着用紙の接着性については阻害要因となるものの、ゲル法合成シリカ自体の細孔ヘインクが良好に吸着されるために、インクジェット記録特性を高める。また、カチオン性樹脂を使用することにより、インクジェットインクの定着性能が向上する。これらは、本発明で規定する数値範囲内において満足する。この点、前述特許文献1では、接着剤層が、アクリル酸エステル系共重合体樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体/アクリル酸エステル共重合体複合樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体樹脂、塩化ビニル系樹脂、塩化ビニリデン系樹脂から選ばれる接着剤が用いられ、段落0025(特許文献1)において、ポリビニルアルコールのケン化度が95%を超えると、カチオン性樹脂の混和性低下、水酸基増加、塗料粘度上昇、ハンドリング性低下などの問題が生じるとし、そこで、ケン化度60〜95モル%のポリビニルアルコールを使用するとしている。しかしながら、これらの問題は、本発明においては、天然ゴムを主剤(50質量%以上)とする非剥離性接着剤と、微粒子充填剤を含有し、この微粒子充填剤が沈降法合成シリカ及びゲル法合成シリカを主成分とし、かつ、当該沈降法合成シリカとゲル法合成シリカとの配合質量比が、9:1〜7:3とすること、更に好適には、重合度を1700以下とするポリビニルアルコールと組合わせ使用することにより解決される。ポリビニルアルコールの重合度が1700を超える場合、塗料粘度の上昇傾向が著しく、カチオン性樹脂の混和性が低下するおそれもある。
【0014】
・ 本発明の擬似接着用紙は、擬似接着用紙に要求される接着・剥離特性を満足しつつ、特にインクジェット記録における記録濃度、フェザリング、インク耐水性に優れるものとなる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、擬似接着用紙に要求される接着・剥離特性を満足しつつ、オフセット印刷適性、及び、インクジェット記録における記録濃度、印字のにじみ(フェザリング)、インクの乾燥・吸収性、インクの耐水性、加圧接着時の印字部の転写性が改善された擬似接着用紙となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に、本発明の実施の形態について詳説する。
本形態の擬似接着用紙は、基材シートの少なくとも一方の面に加圧、加温等の所定の条件を加えることにより剥離可能に接着する擬似接着層を有する。この擬似接着層は、非剥離性接着剤、完全ケン化ポリビニルアルコール、及び、微粒子充填剤を含有し、この微粒子充填剤が、沈降法合成シリカ及びゲル法合成シリカを主成分とする。
【0017】
〔非剥離性接着剤〕
本形態の非剥離性接着剤としては、ラテックス、具体的には天然ゴム、合成ゴム等の従来通常の擬似接着用紙に使用されているものの中から任意に選択して使用することができるが、特に天然ゴムを無硫黄加硫し、メタアクリル酸メチルと混合した天然ゴムラテックス、天然ゴムにメタアクリル酸メチルをグラフト重合させて得られた天然ゴムラテックスを主成分(50質量%以上)とし、その他のアクリル変性ゴムラテックス、ゴムラテックスと保護コロイド系アクリル共重合エマルジョンとの混合物等の含有量が全擬似接着層中に10質量%未満であることが好ましく、更に好ましくは含有しないことが、インクの吸収・乾燥性の点で優位である。
【0018】
天然ゴムラテックスが50質量%未満であると、接着性が十分に得られず、擬似接着用紙としての用途を十分に満たせないことが考えられる。また、その他のアクリル変性ゴムラテックス、ゴムラテックスと保護コロイド系アクリル共重合エマルジョンとの混合物等の含有量が全擬似接着層中に10質量%以上であると、疎水性の強い樹脂層が塗工層中に形成され、インクジェットインクの吸収・乾燥性を損なうおそれがある。
【0019】
〔微粒子充填剤〕
擬似接着層が含有する微粒子充填剤として、本形態においては、沈降法合成シリカ及びゲル法合成シリカを主成分(50質量%以上)とする。
【0020】
(沈降法合成シリカ)
沈降法合成シリカは、ポーラスな凝集構造を形成しているため、加圧に対して緩衝効果を有する微粒子充填剤であり、外圧がかかるとその形状を変化させる。その結果、擬似接着剤層に外圧がかかったとき、擬似接着層表面の凹凸が少なくなる。このため、擬似接着剤同士の接触面積が大きくなり、擬似接着層の接着力を高める効果を発揮する。
【0021】
しかしながら、一方で沈降法合成シリカの配合は、擬似接着用紙が剥離不能となったり、基材シートに印字された文字のブロッキングが発生したりするといった問題の原因となることがある。しかるに、ゲル法合成シリカを併用すると、これが密な凝集構造を形成しているため、加圧に対して緩衝効果を有しない。その結果、外圧がかかった場合でもその変形量が小さいので、この微粒子充填剤を添加した擬似接着層の表面粗さ及び接着剤同士の接着面積は、緩衝効果を有する微粒子充填剤(沈降法合成シリカ)の変化量に留まり、それ以上変化することがなく、したがって、疑似接着剤層に過度の外圧が生じた場合でも、接着力の過剰な上昇を抑制することができる。
【0022】
本発明者等の知見では、疑似接着層に付与される加圧に対し、緩衝効果を有する微粒子充填剤(沈降法合成シリカ)及び緩衝効果を有しない微粒子充填剤(ゲル法合成シリカ)を擬似接着剤に添加して擬似接着層を生成し、このとき各微粒子充填剤の添加量をそれぞれ適宜調整することによって、擬似接着層の再剥離可能な接着力(例えば、220〜250g/50mm)に容易に調整することができる。したがって、加圧接着時にある程度大きな圧力(例えば、2〜5kg/cm2)によって加圧接着することによって、情報隠蔽用紙などとして使用される際の輸送時などにおける接着面が剥離する問題を解消でき、一方、擬似接着層の接着力が、一定の接着力以上とはならないため、上記した剥離不能やブロッキングといった問題が発生するのを防止することができる。
【0023】
本形態の沈降法合成シリカは、いわゆる「湿式法」のうち、アルカリ性領域(好ましくはpH7〜10)で反応を行う「沈降法」によって製造されたものであれば、特に限定されるものではない。
【0024】
本形態の沈降法合成シリカとしては、比表面積が180〜300m2/g、平均粒子径が6.0〜14.0μm(コールターカウンター法、アパチャー100μm)、吸油量180〜210ml/100gのものが望ましい。また、平均粒子径が6.0μmより小さくなる場合は、印刷適性(表面強度)の劣化を誘発し、他方、平均粒子径が14.0μmを超える場合は、インクジェット印字のフェザリング適性が低下する。さらに、吸油量が180ml/100gより小さい場合は、インクジェットインキの吸収性が低下し、他方、吸油量が210ml/100gを超える場合は、インクジェット印字時の印字濃度が低下する。
【0025】
(ゲル法合成シリカ)
ゲル法合成シリカは、密な凝集構造を形成しているため、加圧に対して緩衝効果を有しない。その結果、外圧がかかった場合でもその変形量が小さいので、この微粒子充填剤を添加した擬似接着層の表面粗さ及び接着剤同士の接着面積は、緩衝効果を有する微粒子充填剤(沈降法合成シリカ)の変化量に留まり、それ以上変化することがなく、したがって、外圧が大きくなった場合でも、接着力の向上を抑制することができる。また、ゲル法合成シリカ単体が、広い細孔を有しており、自身がインクの吸収を行うため,記録濃度が出やすく、フェザリングも起きにくい。
【0026】
本形態のゲル法合成シリカの製造方法は、いわゆる「湿式法」のうち酸性領域(好ましくはpH3〜4)で反応を行う「ゲル法」によって製造されたものであれば、特に限定されるものではない。
【0027】
本形態のゲル法合成シリカとしては、平均粒子径が2.4〜8.0μm(コールターカウンター法、アパチャー50μm)、吸油量280〜330ml/100gのものが好適に使用できる。また、平均粒子径が2.4μmより小さくなる場合は、印刷適性(表面強度)の劣化、且つ接着強度の低下を招き、他方、平均粒子径が8.0μmを超える場合は、インクジェット印字のフェザリング適性が低下する。さらに、吸油量が280ml/100gより小さい場合は、インクジェットインキの吸収性が低下し、他方、吸油量が330ml/100gを超える場合は、インクジェット印字時の印字濃度が低下する。
【0028】
(沈降法合成シリカとゲル法合成シリカとの質量比)
沈降法合成シリカとゲル法合成シリカとの配合質量比は、好ましくは9:1〜7:3、より好ましくは8:2〜7:3である。
【0029】
本発明においては、天然ゴムを主剤とする非剥離性接着剤と完全ケン化ポリビニールアルコールを疑似接着層の構成として用い、微粒子充填剤として沈降法合成シリカとゲル法合成シリカを前記配合質量比で用いることで、天然ゴムの特有のゴム弾性と自着性を比較的疎水性の完全ケン化ポリビニルアルコールとの組合わせにより均質なに発現させることが可能になり、更に、緻密に疑似接着層に充填される沈降法合成シリカとゲル法合成シリカにより、より均等な疑似接着性を発現させることができる。
【0030】
本発明者等の知見においては、特に完全ケン化ポリビニルアルコールを用いること、強いては、完全ケン化ポリビニルアルコールが、ケン化度98mol%以上で、重合度1700以下のものと、沈降法合成シリカとゲル法合成シリカを用いることで、擬似接着用紙に要求される接着・剥離特性を満足しつつ、オフセット印刷適性、及び、インクジェット記録における記録濃度、印字のにじみ(フェザリング)、インクの乾燥・吸収性、インクの耐水性、加圧接着時の印字部の転写性の改善を図ることがきるものの、より好適には、沈降法合成シリカとゲル法合成シリカとを9:1〜7:3、より好ましくは8:2〜7:3の組合わせで用いることで、より高い効果を得ることができることを見出している。
【0031】
本発明においては、沈降法合成シリカの割合が、ゲル法合成シリカとの割合において、7:3未満では、沈降法シリカに由来の緩衝効果が充分でないため、擬似接着性の調整機能が低下すると共に、インクの吸収・乾燥性が低下するとともに、沈降法合成シリカとゲル法合成シリカの割合が、9:1を超えるとインクジェット記録濃度の低下及びフェザリング、オフセット印刷時のブランケット汚れを生じ易くなる。
【0032】
具体的には、沈降法合成シリカの配合割合が90%を超えると、擬似接着層がポーラスになるため、インクジェットインクの吸収・乾燥性は良好となるが、吸収性が大きくなり過ぎるため印字濃度が低下し、また、オフセット印刷時のブランケット汚れ、紙粉の発生を誘発する場合がある。ゲル法合成シリカの配合割合が30%を超えると、擬似接着層が密になるため、オフセット印刷時のブランケット汚れ、紙粉等の問題はないが、インクジェットインクの吸収・乾燥性が低下する。また、擬似接着層のクッション性が失われるため、接着力が得られにくくなる。
【0033】
また、本形態の擬似接着層は、微粒子充填剤が、天然ゴムを主剤とする非剥離性接着剤100質量部に対して、固形分で70〜120質量部、好ましくは90〜100質量部含有される。微粒子充填剤の配合割合が70質量部より少ないとインクの乾燥性が低下し、フェザリングが生じ易くなる。他方、微粒子充填剤の配合割合が120質量部を超えると、擬似接着層がポーラスになり、オフセット印刷時のブランケット汚れ、紙粉の発生を誘発し、表面強度が低下する問題が発生する。
【0034】
〔ポリビニルアルコール〕
ポリビニルアルコールには、部分ケン化ポリビニルアルコールと完全ケン化ポリビニルアルコールとがあるものの、部分ケン化ポリビニルアルコールは被膜形成時の親水性が良好なため、インクジェットインキの吸収・乾燥性がよく、したがって、部分ケン化ポリビニルアルコールが使用された(前述特許文献1参照)。しかしながら、部分ケン化ポリビニルアルコールは、被膜形成時の親水性が良好なことにより、オフセット印刷時の湿し水等が付着した場合、塗工層強度が劣化し、ブランケット汚れ、紙粉発生等を誘発する。従来は、これを補うため、スチレン‐ブタジエンゴム、アクリロニトリル‐ブタジエンゴムなどの合成ゴム、エチレン‐酢酸ビニル共重合体樹脂、アクリル酸エステル樹脂、塩化ビニル系樹脂、塩化ビニリデン系樹脂などの溶液あるいはエマルジョンの形で用いられる有機合成ラテックスを添加することで、親水性を抑制し、オフセット印刷適性の改善を図ることが試みられていた。しかしながら、親水性を抑制する有機合成ラテックスの添加は、インクジェットインクの吸収・乾燥性を低下させる問題を誘発する。また、部分ケン化ポリビニルアルコールを添加した場合は、加圧接着後、水に浸した際に、擬似接着層表面が水により膨潤し、剥離した際にインクジェット印字部が対面に転写してしまう問題がある。これに対し、完全ケン化ポリビニルアルコールは、有機合成ラテックスと比較した場合、疎水性は低く、インクジェットインクの吸収・乾燥については優位であり、部分ケン化ポリビニルアルコールと比べてインクの吸収・乾燥性が劣る問題を有するものの、水に浸した場合、水により擬似接着層強度が劣化することがないため好適である。
【0035】
前述特許文献1では、接着剤層が、アクリル酸エステル系共重合体樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体/アクリル酸エステル共重合体複合樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体樹脂、塩化ビニル系樹脂、塩化ビニリデン系樹脂から選ばれる接着剤が用いられ、段落0025(特許文献1)において、ポリビニルアルコールのケン化度が95%を超えると、カチオン性樹脂の混和性低下、水酸基増加、塗料粘度上昇、ハンドリング性低下などの問題が生じるとし、そこで、ケン化度60〜95モル%のポリビニルアルコールを使用するとしている。
【0036】
しかしながら、これら、カチオン性樹脂の混和性低下、水酸基増加、塗料粘度上昇、ハンドリング性低下などの問題は、本発明においては、天然ゴムを主剤とする非剥離性接着剤と完全ケン化ポリビニルアルコール、及び、微粒子充填剤を含有し、この微粒子充填剤が、沈降法合成シリカ及びゲル法合成シリカを主成分とすることで解決され、更に好適には、非剥離性接着剤固形分100部に対し、完全ケン化ポリビニールアルコールが21重量部〜35重量部、好適には24重量部〜30重量部用いられ、前記完全ケン化ポリビニルアルコールの重合度を1700以下とすることにより解決される。
【0037】
非剥離性接着剤固形分100部に対し21重量部未満では、完全ケン化ポリビニルアルコールに起因する親水性を充分に発揮させることが困難であり、35重量部を超える配合部数では、塗液の粘度上昇および接着性の低下となる恐れがある。
【0038】
特有のゴム弾性、自着性を有する天然ゴムを主剤とする非剥離性接着剤と重合度を1700以下とするポリビニルアルコールとを組合わせることで混和性、塗料粘度の上昇が軽減でき、かつハンドリング性の低下もない。また、水酸基の増加については、溶液状態では水酸基が増加するが、水酸基同士が被膜形成時に水素結合することで、被膜強度が得られるため、水酸基の増加は、印刷適性を向上させることになり、品質の悪化要因とはならない。
【0039】
完全ケン化ポリビニルアルコールは、完全ケン化(ケン化度:98〜99mol%)のものであれば種類は問わず、例えば、変性ポリビニルアルコール等も選択でき、その重合度が1700以下、好ましくは500〜1000であると、接着性能、インクジェット適性、オフセット適性の面で優位である。重合度が1700を超えると、擬似接着層皮膜の強度が硬くなり、クッション性がなくなるため、本来得られなければならない接着性能が低下する。重合度が500を下回ると、皮膜強度が低下し、オフセット印刷時のブランケット汚れ、紙粉発生の問題が生じる可能性がある。
【0040】
〔カチオン性樹脂〕
本発明における擬似接着用紙は、天然ゴムを主剤とする非剥離性接着剤を用いるため、インクジェット記録において、天然ゴム由来の親水基により水に濡れるとインクジェットインクのにじみが生じることがある。この問題の解決のために、カチオン性樹脂を擬似接着層中に固形分で1質量%以上、好適には5〜13質量%添加するのが好ましい。
【0041】
カチオン性樹脂としては、水に溶解したとき解離してカチオン性を呈する1級〜3級アミン又は4級アンモニウム塩のモノマー、オリゴマー、ポリマーであり、好ましくは、オリゴマー又はポリマーである。特に、カチオン性樹脂は、ジメチルアミン・エピハロヒドリン重縮合物、アクリルアミド・ジアリルアミン共重合物、ポリビニルアミン共重合物、ジシアンジアミド、ジメチル・ジアリル・アンモニウムクロライドを主成分とする化合物、ジメチルアミン・エピクロルヒドリン重縮合物であるのが好ましく、さらに好ましくは、ポリアミン・エピクロルヒドリン、ジアリルジメチルアンモニウムクロライドである。
【0042】
カチオン性樹脂が擬似接着層中に固形分で5質量%未満であると、インクジェットインクの十分な定着性、インク乾燥性を得られない。他方、13質量%を超えると、インクジェットインクの定着効果が頭打ちになり、費用対効果が劣るだけでなく、過剰のカチオン性樹脂の影響で接着性が低下する原因となる。
【0043】
〔その他〕
本形態の擬似接着用紙において、擬似接着層の厚さは、特に限定されないが、5〜20μmとするのが好ましく、10〜15μmとするのがより好ましい。擬似接着層の厚さが5μm未満では、十分な擬似接着層のクッション性が得られないため接着力のバラツキが生じる問題を惹き起こし、また、インクジェット適性についても、インク吸収力が不足し、吸収・乾燥性が低下するおそれがある。他方、擬似接着層の厚さが20μmを超えると、コストアップになると共に、特にオフセット印刷における印刷適性低下の原因となるおそれがある。
【0044】
本形態において、擬似接着層を形成するにあたっては、均一な擬似接着面及びインクジェット記録適性を得るために、ベントブレード、コンマ、リップ、エアーナイフ等による塗工を行い、擬似接着層表面を10〜40kg/cm2の圧力で平坦化処理し、擬似接着層表面の過度の突出を平坦にすることが好ましい。
【0045】
本形態の基材シートは、その構成成分、配合割合、厚さ等が特に限定されるものではなく、例えば、セルロース繊維を主体とする上質紙や、各種合成紙など種々のものを用いることができる。
【0046】
また、本形態の擬似接着用紙の用途は、特に限定されず、前述特許文献2(特開2002‐129135号公報)などに例示されるのと同様の用途がある。もちろん、これら折り畳み形態、重ね合せ形態のほかにも、例えば、各種葉書、封書、報告書などに広く利用することができ、また、擬似接着剤を基材シートの一部のみに塗布し、一部非塗布部を設けることで再剥離を容易にすることも可能である。
【実施例】
【0047】
次に、本発明の実施例を説明する。
本発明で用いる重量部は、全て固形分の重量部である。
【0048】
天然ゴムを主剤とする非剥離性接着剤として、天然ゴムを無硫黄加硫しメタアクリル酸メチルと混合した天然ゴムラテックスを用い、この非剥離性接着剤を100部とし、これにポリビニルアルコール、合成樹脂、微粒子充填剤(沈降法合成シリカ及びゲル法合成シリカ)、カチオン性樹脂を、表1に記載の割合で添加したものを、基材シート(大王製紙社製 ニューブライトフォーム 104.7g/m2)の片面に塗布して試験片を作成し、各種試験を行った。
【0049】
尚、比較例3においては、天然ゴムを主剤とする非剥離性接着剤に置換えて、非剥離性接着剤として合成接着剤であるスチレンーブタジエン共重合体接着剤(Lx−110、日本ゼオン社製)を使用した。
【0050】
また、本発明の実施例において、合成樹脂としては日本ゼオン社製のLX407F38を、カチオン性樹脂としては、以下のものを使用した。
ポリアミン・エピクロルヒドリン系樹脂 :四日市合成社製「カチオマスターPDT−2」
ジアリルジメチルアンモニウムクロライド:ナルコ社製「CP‐261‐LV」
ポリビニルアルコールとしては、以下のものを使用した。
実施例1〜5、実施例16:ケン化度98.0〜99.0mol% 重合度500:クラレ社製「PVA105」
実施例6〜10、実施例17、比較例1、2:ケン化度98.0〜99.0mol% 重合度1000:クラレ社製「PVA110」
実施例11〜15、実施例18:ケン化度98.0〜99.0mol% 重合度1700:クラレ社製「PVA117」
比較例3:ケン化度98.0〜99.0mol% 重合度2400:クラレ社製「PVA124」
比較例4:ケン化度98.0〜99.0mol% 重合度3500:クラレ社製「PVA135」
比較例5、7:ケン化度78.5〜82mol% 重合度500:日本合成化学社製「KL05」
比較例6、8:ケン化度86.5〜89mol% 重合度500:日本合成化学社製「GL05」
【0051】
沈降法合成シリカとしては、以下のものを使用した。
2.0μm:東ソー・シリカ社製、NipsilK300(比表面積200m2/g、平均粒子径2.0μm、吸油量260cm3/100g)
4.0μm:東ソー・シリカ社製、NipsilE150J(比表面積95m2/g、平均粒子径4.0μm、吸油量200cm3/100g)
4.5μm:東ソー・シリカ社製、NipsilE150K(比表面積95m2/g、平均粒子径4.5μm、吸油量180cm3/100g)
6.2μm:富士シリシア社製、サイリシア440(比表面積300m2/g、平均粒子径6.2μm、吸油量210cm3/100g)
8.0μm:富士シリシア社製、サイリシア450(比表面積300m2/g、平均粒子径8.0μm、吸油量200cm3/100g)
10.0μm:東ソー・シリカ社製、トクシールUSA(比表面積191m2/g、平均粒子径10.0μm、吸油量200cm3/100g)
14.0μm:東ソー・シリカ社製、トクシールU(比表面積186m2/g、平均粒子径14.0μm、吸油量180cm3/100g)
15.0μm:東ソー・シリカ社製、トクシールGU(比表面積119m2/g、平均粒子径15.0μm、吸油量160cm3/100g)
【0052】
ゲル法合成シリカとしては、以下のものを使用した。
1.9μm:東ソー・シリカ社製、NipgelBY200(比表面積426m2/g、平均粒子径1.9μm、吸油量225cm3/100g)
2.4μm:東ソー・シリカ社製、NipgelAY200(比表面積291m2/g、平均粒子径2.4μm、吸油量280cm3/100g)
4.5μm:東ソー・シリカ社製、NipgelG0018(比表面積285m2/g、平均粒子径4.5μm、吸油量330cm3/100g)
6.0μm:東ソー・シリカ社製、NipgelG0021(比表面積290m2/g、平均粒子径6.0μm、吸油量310cm3/100g)
7.9μm:東ソー・シリカ社製、NipgelG0105(比表面積357m2/g、平均粒子径7.9μm、吸油量240cm3/100g)
14.0μm:東ソー・シリカ社製、NipgelBY001(比表面積437m2/g、平均粒子径14.0μm、吸油量200cm3/100g)
【0053】
結果を表1に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
評価方法は次記のとおりである。
【0056】
[接着力]
試験片を23℃、50%RHの環境下に12時間放置した後、メールシーラー(MS−9100:大日本印刷社製)を用いてロールギャップ17(170μm)で加圧接着させ、その5分後にT型剥離試験を行い、測定値を記載し、剥離強度が100gf/50mm以上のものを○、それ未満のものを×とした。
【0057】
[印刷適性]
JIS K 5701に記載の、転色試験機(明製作所:RI−II型)を用い、インキタック26の2回刷り条件で、擬似接着層取られの有無を目視にて判定した。表中の記号は、○が取られが全くない、△が部分的に取られが発生する、×が一面に取られが発生する、である。
【0058】
[乾燥性]
23℃、50%RHの環境下で、インクジェットプリンタ(PM800C、セイコーエプソン社製)を用いて、各試験片に、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラックの各色のベタ印字(各大きさ3.0cm×3.0cm)し、試験片排出後5秒後に印字部をティッシュペーパーで擦った際のティッシュペーパーの汚れ程度を目視にて判定した。表中の記号は、○が汚れが殆どない、△が僅かに擦れ汚れが見られる、×が一面に汚れが見られる、をそれぞれ表している。
【0059】
[耐水性]
23℃、50%RHの環境下で、インクジェットプリンタ(PM800C、セイコーエプソン社製)を用い、シアン、マゼンタ、イエローの各インクによる重ね色で構成される赤、緑、紫を、それぞれベタ印字(大きさ3.0cm×3.0cm)し、印字後30分経過後のインク浸透が安定した状態で、20℃の水道水に30秒浸漬し、インクのにじみ出しが生じた度合いを評価した。表中の記号は、○がインクのにじみが全くない、△がインクのにじみが若干見られる、×がインクのにじみがはっきりと見られる、をそれぞれ表している。
【0060】
[転写性]
23℃、50%RHの環境下で、インクジェットプリンタ(PM800C、セイコーエプソン社製)を用いて、各試験片にイエロー、シアン、マゼンタ、ブラックの4色にて、1cm×5cmのベタ印字にて、長方図形を記録し、印字終了後、23℃、50%RHの環境下に12時間放置した後、メールシーラー(MS−9100:大日本印刷社製)を用いてロールギャップ17(170μm)で加圧接着させ、20℃の水道水に2時間浸漬し、23℃、50%RHの環境下で乾燥後剥離した際の、印字部の対面への転写度合いを評価した。表中の記号は、○がインクの転写がない、△がインクの転写が若干見られる、×がインクの転写がはっきりと確認できる、をそれぞれ表記している。
【0061】
[フェザリング]
23℃、50%RHの環境下で、インクジェットプリンタ(PM800C、セイコーエプソン社製)を用いて、各試験片にイエロー、シアン、マゼンタ、ブラックの各色による太さ0.5ポイントの実線を10cm記録(紙の流れの直交(幅)方向)し、記録された実線の任意の5箇所において、1cm間に生じているヒゲ状のにじみ数を目視にて数え、最大値と最小値を除いた3箇所の平均値を算出した。表中の記号は、○がにじみ数の平均が10未満であり、フェザリングが非常に生じづらい、△がにじみ数の平均が10〜30未満であり、フェザリングが生じづらい、×がにじみ数の平均が30以上であり、フェザリングが生じやすい、をそれぞれ表している。
【0062】
[濃度]
23℃、50%RHの環境下で、インクジェットプリンタ(PM800C、セイコーエプソン社製)を用い、前記インクジェットプリンタのインクジェットカートリッジにサイテックス社製業務用高速インクジェットプリンタのブラック(型番:BK−1069)インクを充填し、温度23℃、湿度50%条件下で、ベタ印字(大きさ3.0cm×3.0cm)を行い、マクベス濃度計により記録濃度を測定し、表中の記号は、○がインク濃度が1.20以上であり、△がインク濃度が1.00〜1.19であり、×がインク濃度が1.00未満であるとし、△以上を許容範囲とした。
【0063】
表1から明らかなように、本発明の配合形態が擬似接着用紙としての特性を満足させつつ、インクジェット記録特性に優れたものとなる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、擬似接着用紙、すなわち、通常では接着せず、加圧、加温等の所定の条件が加えられると剥離可能に接着する擬似接着層を有する擬似接着用紙として適用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材シートの少なくとも一方の面に所定の条件を加えることにより剥離可能に接着する擬似接着層を有している擬似接着用紙であって、
前記擬似接着層が、天然ゴムを主剤とする非剥離性接着剤、完全ケン化ポリビニルアルコール、及び、微粒子充填剤を含有し、この微粒子充填剤が、沈降法合成シリカ及びゲル法合成シリカを主成分とし、かつ、前記沈降法合成シリカと前記ゲル法合成シリカとの配合質量比が、9:1〜7:3である、
ことを特徴とする擬似接着用紙。
【請求項2】
前記完全ケン化ポリビニルアルコールが、ケン化度98mol%以上で、重合度1700以下である、
請求項1記載の擬似接着用紙。
【請求項3】
前記擬似接着層が、カチオン性樹脂を含有する、
請求項1又は請求項2記載の擬似接着用紙。

【公開番号】特開2009−249745(P2009−249745A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−95887(P2008−95887)
【出願日】平成20年4月2日(2008.4.2)
【出願人】(390029148)大王製紙株式会社 (2,041)
【Fターム(参考)】