説明

擬革

【課題】柔軟性、滑性、擦傷性、耐摩耗性、耐薬品性、基布シートに対する優れた接着性や可とう性、及び帯電防止効果が付与されるという優れた性能を有し、温暖化ガス削減の観点から環境対応の擬革を提供すること。
【解決手段】下記一般式(1)で表される5員環環状カーボネートポリシロキサン化合物とアミン化合物との反応から誘導されたポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂を主成分とする樹脂組成物を、基布に充填ないしは積層せしめてなる擬革。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、擬革に関する。さらに詳しくは、ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂を主成分とする組成物を使用することで、風合い、滑性、耐擦傷性、耐摩耗性、耐薬品性に優れ、しかも、主成分とする樹脂が二酸化炭素を原料とし、その構造中に固定できるため、地球環境破壊を阻止する観点からも有用な擬革に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、袋物、鞄、靴、家具、衣料、車両内装材、電化製品などに擬革が使用されているが、この擬革用樹脂として、広くポリウレタン系樹脂が使用されている。この「擬革」とは、天然皮革に似せて製造される皮革状製品の総称で、一般的には、人工皮革、合成皮革、塩化ビニルレザーに大別される。
【0003】
人工皮革は、擬革中で天然皮革に最も近似した構造を持ち、基布に不織布を使用する。一般的な人工皮革の製造方法としては、以下の方法がある。先ず、ポリウレタン系樹脂のジメチルホルムアミド(以下、DMF)溶液を不織布に含浸後、湿式成膜(水中凝固)により多孔質状に凝固・乾燥する。その後、表面にさらにポリウレタン系樹脂をコーティングあるいはラミネートによる層を設けてスムース調とする場合と、表面を研削して起毛することによるスエード調とする方法がある。
【0004】
一方、合成皮革は、基布に織布や起毛布などの布地を使用し、一般的には乾式合成皮革と湿式合成皮革に大別される。ここで、乾式合成皮革を製造する方法としては、基布に直接ポリウレタン系樹脂を塗布し乾燥する方法と、離型紙上にポリウレタン系樹脂を塗布後、乾燥・フィルム化し、接着剤で基布と貼り合わせる方法がある。また、湿式合成皮革は、前述したポリウレタン系樹脂のDMF溶液を用いて、基布に含浸又は塗布した後、水中凝固・乾燥させて多孔質層を形成させることにより製造できる。さらに、上記のようにして乾式或いは湿式の各方法で得られたそれぞれの表面に、ポリウレタン系樹脂を塗布あるいはラミネートによる層を設けてスムース調とする方法や、表面を研削して起毛することによるスエード調とする方法がある。
【0005】
近年、増加の一途をたどる二酸化炭素の排出に起因すると考えられる地球の温暖化現象が、世界的な問題となっており、二酸化炭素の排出量低減は、全世界的に重要な課題であり、二酸化炭素を製造原料とできる技術は待望されている。さらに、枯渇性石化資源(石油)問題の観点からも、バイオマス、メタンなどの再生可能資源への転換が世界的潮流となっている。
【0006】
このような背景下、最近では、擬革製品の分野においても環境対策に積極的に取り組むメーカーが多くなり、環境保全性に優れた材料を用いて擬革製品を構成する動きがある。例えば、ポリウレタン系樹脂に有機溶剤の代わりに水系媒体に分散又は乳化可能なポリウレタン樹脂を使用して、VOC(揮発性有機化合物)排出量をできるだけ抑制する検討や、カーボンニュートラルの観点から植物由来原料を使用する検討も盛んに行われている。しかしながら、従来製品と比べて性能に差があり実用化に問題があるといえ、また、現在の地球規模での環境保全を実現するといった面からも、未だ不十分である(特許文献1〜3)。
【0007】
非特許文献1、2に見られるように、二酸化炭素を原料とするポリヒドロキシポリウレタン樹脂については以前から知られているが、その応用展開は進んでいないのが実情である。それは、従来から知られている上記の樹脂は、その特性面で、従来の石化系の高分子化合物(石化プラスチック)のポリウレタン系樹脂に比べて特性面で明らかに劣るからである(特許文献4、5参照)。
【0008】
近年における、二酸化炭素の排出量低減が世界的な課題となっている背景下、再び、このポリヒドロキシポリウレタン樹脂が見直されている。すなわち、この樹脂を構成する5員環環状カーボネート化合物の原料である二酸化炭素は、容易に入手可能かつ持続可能な炭素資源であり、石油資源に代替した二酸化炭素を炭素原料とできるプラスチックは、上記した地球温暖化、資源枯渇などの問題を解決する有効な手段となり得るからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−144313号公報
【特許文献2】特開2007−270373号公報
【特許文献3】特開2005−154580号公報
【特許文献4】米国特許第3,072,613号明細書
【特許文献5】特開2000−319504号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】N.Kihara,T.Endo,J.Org.Chem.,1993,58,6198
【非特許文献2】N.Kihara,T.Endo,J.Polymer Sci.,PartA Polmer Chem.,1993,31(11),2765
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記したような状況下、擬革に関し、より一層の柔軟性、さらには表面の滑性、耐擦傷性、耐摩耗性、耐薬品性に優れると共に、地球規模での環境保全性を持った環境対応製品の開発が要望されている。
したがって、本発明の目的は、上記した優れた特性を有する擬革であることに加え、二酸化炭素を炭素原料にすることができる、環境対応製品としても優れた擬革を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的は以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、下記一般式(1)で表される5員環環状カーボネートポリシロキサン化合物とアミン化合物との反応から誘導されたポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂を主成分とする樹脂組成物を、基布に充填ないしは積層せしめてなることを特徴とする擬革を提供する。

式中のR1は炭素数1〜12のアルキレン基(該基中にO、S、またはNの各元素による連結及び/又は−(C24O)b−による連結を有していてもよい)を表す。式中のR2は、ないか、または、炭素数2〜20のアルキレン基を表し、R2は、脂環族基または芳香族基に連結していてもよい。bは1〜300の数を表わし、aは1〜300の数を表す。]
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、従来品の擬革と遜色がない風合いを持ち、さらに、表面の滑性、耐擦傷性、耐摩耗性、耐薬品性に優れる擬革が提供される。これと共に、二酸化炭素を樹脂中に取り入れ固定した樹脂を擬革の形成材料に利用して製造することが可能であり、温暖化ガスとして世界的に問題視されている二酸化炭素削減にも寄与することができる、環境対応製品である地球環境保全の観点からも優れた擬革が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】エポキシ変性ポリシロキサンの赤外吸収スペクトル。
【図2】5員環環状カーボネートポリシロキサンの赤外吸収スペクトル。
【図3】5員環環状カーボネートポリシロキサンのGPC溶出曲線(移動相:THF、カラム:TSK−Gel GMHXL+G2000HXL+G3000HXL、検出器:IR)。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、好ましい実施の形態を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。
本発明の擬革は、下記一般式(1)で表される5員環環状カーボネートポリシロキサン化合物とアミン化合物との反応から誘導されたポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂(以下、単に「本発明で使用する樹脂」或いは「本発明の樹脂」とも呼ぶ)を主成分とする樹脂組成物を、基布に充填ないしは積層せしめてなることを特徴とする。
【0016】

式中のR1は炭素数1〜12のアルキレン基(該基中にO、S、またはNの各元素による連結及び/又は−(C24O)b−による連結を有していてもよい)を表す。式中のR2は、ないか、または、炭素数2〜20のアルキレン基を表し、R2は、脂環族基または芳香族基に連結していてもよい。bは1〜300の数を表わし、aは1〜300の数を表す。]
【0017】
本発明で使用される上記一般式(1)で表される5員環環状カーボネートポリシロキサン化合物は、例えば、下記[式−A]で示されるように、エポキシ変性ポリシロキサン化合物と二酸化炭素とを反応させて製造することができる。更に詳しくは、エポキシ変性ポリシロキサン化合物を、有機溶媒の存在下又は不存在下及び触媒の存在下、40℃〜150℃の温度で常圧又は僅かに高められた圧力下、10〜20時間、二酸化炭素と反応させることによって得ることができる。
【0018】

【0019】
本発明で使用するエポキシ変性ポリシロキサン化合物としては、例えば、次の如き化合物が挙げられる。
【0020】

【0021】
ここで列記したエポキシ変性ポリシロキサン化合物は、本発明において使用する好ましい化合物であって、本発明はこれらの例示の化合物に限定されるものではない。従って、上述の例示の化合物のみならず、その他現在市販されており、市場から容易に入手し得る化合物は、いずれも本発明において使用することができる。
【0022】
本発明に用いる5員環環状カーボネートポリシロキサン化合物は、上記のようなエポキシ変性ポリシロキサン化合物と、二酸化炭素との反応によって得ることができる。この反応に使用できる触媒として、塩基触媒及びルイス酸触媒が挙げられる。上記塩基触媒としては、トリエチルアミン、トリブチルアミンなどの第三級アミン類、ジアザビシクロウンデセン、ジアザビシクロオクタン、ピリジンなどの環状アミン類、リチウムクロライド、リチウムブロマイド、フッ化リチウム、塩化ナトリウムなどのアルカリ金属塩類、塩化カルシウムなどのアルカリ土類金属塩類、テトラブチルアンモニウムクロライド、テトラエチルアンモニウムブロマイド、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、などの四級アンモニウム塩類、炭酸カリウム、炭酸ナトリウムなどの炭酸塩類、酢酸亜鉛、酢酸鉛、酢酸銅、酢酸鉄などの金属酢酸塩類、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛などの金属酸化物、テトラブチルホスホニウムクロリドなどのホスホニウム塩類が挙げられる。
【0023】
また、ルイス酸触媒としては、テトラブチル錫、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫オクトエートなどの錫化合物が挙げられる。
【0024】
これらの触媒の使用量は、エポキシ変性ポリシロキサン化合物50質量部当たり、0.1〜100質量部、好ましくは0.3〜20質量部とすればよい。上記の使用量が0.1質量部未満では、触媒としての効果が小さく、多過ぎると最終樹脂の諸性能を低下させるおそれがあるので好ましくない。従って、残留触媒が重大な性能低下を引き起こすような場合は、純水で洗浄して残留触媒を除去する構成としてもよい。
【0025】
エポキシ変性ポリシロキサン化合物と二酸化炭素の反応において、使用できる有機溶媒としては、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホオキシド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、N−エチルピロリドン、テトラヒドロフランなどが挙げられる。また、これら有機溶剤と他の貧溶剤、例えば、メチルエチルケトン、キシレン、トルエン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、シクロヘキサノンなどの混合系で使用してもよい。
【0026】
本発明で使用する樹脂は、下記[式−B]で示されるように、例えば、上記反応で得た5員環環状カーボネートポリシロキサン化合物と、アミン化合物とを、有機溶媒の存在下、20℃〜150℃の温度下で反応させることで得ることができる。
【0027】

【0028】
上記反応に使用するアミン化合物としては、例えば、ジアミンが好ましく、従来ポリウレタン樹脂の製造に使用されているものがいずれも使用でき、特に限定されない。例えば、メチレンジアミン、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、ヘキサメチレンジアミン、オクタメチレンジアミンなどの脂肪族ジアミン;フェニレンジアミン、3,3’−ジクロロ−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−メチレンビス(フェニルアミン)、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミンなどの芳香族ジアミン;1,4−シクロヘキサンジアミン、4,4’−ジアミノシクロヘキシルメタン、1,4’−ジアミノメチルシクロヘキサン、イソホロンジアミンなどの脂環族ジアミン;モノエタノールジアミン、エチルアミノエタノールアミン、ヒドロキシエチルアミノプロピルアミンなどのアルカノールジアミンが挙げられる。更にその他現在市販されており、市場から容易に入手し得る化合物は、いずれも本発明において使用することができる。
【0029】
本発明で使用する、上記のようにして得ることができるポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂は、樹脂中におけるポリシロキサンセグメントの占める割合が、樹脂分子に対する該セグメントの含有量で、1〜75質量%となるものであることが好ましい。すなわち、1質量%未満ではポリシロキサンセグメントに基づく表面エネルギーに伴う機能の発現が不十分となるので好ましくない。また、75質量%を超えると、ポリヒドロキシウレタン樹脂の機械強度、耐摩耗性などの性能が不十分となるので好ましくない。より好ましくは、2〜60質量%であり、さらには5〜30質量%であることがより好ましい。
【0030】
また、本発明で用いる上記樹脂は、その数平均分子量(GPCで測定した、標準ポリスチレン換算値)が、2,000〜100,000程度であることが好ましく、より好ましくは5,000〜70,000程度である。
【0031】
本発明で用いるポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂は、前記した一般式(1)で表される5員環環状カーボネートポリシロキサン化合物と、アミン変性ポリシロキサン化合物との反応から誘導されるが、これにより、該樹脂中には、従来のポリウレタン系樹脂では不可能であった水酸基が生成する。下記に述べるように、この水酸基に起因し、得られた樹脂は、高分子材料としての更なる性能の向上をもたらす。すなわち、水酸基は親水性を有しているため、基布に対しての接着性を向上させると共に、従来品では達成できなかった帯電防止効果も得ることができる。また、該樹脂の構造中の水酸基と、該樹脂に添加した架橋剤などとの反応を利用すれば、擬革製品において、更なる耐擦傷性、耐摩耗性、耐薬品性などの向上を図ることができる。
【0032】
本発明で用いるポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂の水酸基価は、20〜300mgKOH/gであることが好ましい。水酸基価が上記範囲未満であると、二酸化炭素削減効果が不足であり、一方、上記範囲を超えると、高分子化合物としての諸物性不足となる。
【0033】
本発明の擬革を得る場合、ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂を主成分とする樹脂組成物を、基布に充填ないしは積層せしめるが、該樹脂からなる被膜をそのままで使用してもよいが、架橋剤を用いて架橋被膜として使用することもできる。この際に使用可能な架橋剤としては、樹脂構造中の水酸基と反応するような架橋剤であればすべて使用できる。例えば、アルキルチタネート化合物やポリイソシアネート化合物などが挙げられる。従来、ポリウレタン樹脂の架橋に使用されている公知の架橋剤であれば特に限定されない。例えば、下記のような構造式のポリイソシアネートと他の化合物との付加体などが挙げられる。
【0034】

【0035】
また、本発明で用いるポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂を主成分とする樹脂組成物は、含浸や塗布や被覆などの作業適性や、得られる擬革の風合いや諸性能の調整のために、従来公知の各種樹脂を混合して使用することができる。混合使用する他の樹脂は、上記のポリイソシアネート付加物などの架橋剤と化学的に反応し得るものが好ましいが、反応性を有していないものでも本発明では使用することができる。
【0036】
上記樹脂と併用する樹脂としては、擬革の形成材料に従来から用いられているポリウレタン系樹脂が好ましいが、特に限定されない。例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリブタジエン樹脂、シリコーン樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、フェノキシ樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル樹脂、セルロース樹脂、アルキッド樹脂、変性セルロース樹脂、フッ素樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂などを使用することができる。また、各種樹脂をシリコーンやフッ素で変性した樹脂なども使用することができる。これらの樹脂を併用する場合、その使用量は、その使用量は、ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂100質量部に対して5〜90質量%、より好ましくは、10〜60質量部程度の範囲で用いるとよい。
【0037】
また、本発明で用いる樹脂組成物には、上記各種樹脂以外に、酸化防止剤、紫外線吸収剤、加水分解防止剤、顔料、染料、難燃剤、充填材などの各種添加剤を配合してもよい。
【0038】
本発明の擬革は、上記で説明したポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂を主成分とする樹脂組成物を、基布に充填ないしは積層せしめたことを特徴とする。本発明の擬革を製造する方法については、何ら限定されるものではなく、公知の人工皮革、合成皮革の製法を利用できる。また、本発明の擬革には、基布シートの上に可塑剤入りの塩化ビニル樹脂層を設け、その上に本発明を特徴づけるポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂を主成分とする樹脂層を形成したものも含まれる。
【0039】
本発明の擬革の基布(基材シート)としては、擬革製造に従来から使用されている基布(基材シート)がいずれも使用でき、特に制限されない。
【0040】
本発明の擬革は、前記したように、特定のポリロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂を主成分として用いることにより、柔軟性、滑性、耐擦傷性、耐摩耗性、耐薬品性優れた擬革を提供できる。それと共に、該ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂の有する水酸基が、基布(基材シート)と界面で強く相互作用することにより、基布に対する優れた接着性や可とう性、及び帯電防止効果が付与されるという優れた性能を得ることができ、擬革の性能向上が図られる。また、本発明で使用する樹脂の合成に用いられる5員環環状カーボネートポリシロキサン化合物は、二酸化炭素を製造原料とすることで、樹脂中に二酸化炭素を取り入れることができる。このため、本発明によって、地球温暖化の原因とされている二酸化炭素の削減の観点からも有用な、従来品では到達できなかった環境対応材料製品としての擬革の提供が可能になる。
【実施例】
【0041】
次に、具体的な製造例、重合例、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、以下の各例における「部」及び「%」は特に断りのない限り質量基準である。
【0042】
<製造例1>(5員環環状カーボネートポリシロキサン化合物の製造)
攪拌機、温度計、ガス導入管及び還流冷却器を備えた反応容器中に、下記式Aで表される2価エポキシ変性ポリシロキサンを100部、N−メチルピロリドン100部、ヨウ化ナトリウム1.2部を加え均一に溶解させた後、炭酸ガスを0.5リッター/分の速度でバブリングしながら80℃で30時間加熱攪拌させた。上記で使用した2価エポキシ変性シロキサンは、信越化学工業(株)製、X−22−163(エポキシ当量198g/mol)であり、図1にその赤外吸収スペクトルを示した。
【0043】

【0044】
反応終了後、得られた溶液に100部のn−ヘキサンを加えて希釈した後、分液ロートにて80部の純水で3回洗浄し、N−メチルピロリドン及びヨウ化ナトリウムを除去した。その後、n−ヘキサン液を硫酸マグネシウムで脱水後、濃縮し、無色透明の液状5員環環状カーボネートポリシロキサン化合物(1−A)92部(収率89.7%)を得た。
【0045】
得られた生成物(1−A)の赤外吸収スペクトル(堀場製作所 FT−720)では、図2に示したように、1,800cm-1付近に原料には存在しない環状カーボネート基のカルボニル基の吸収が確認された。また、生成物の数平均分子量は、図3に示したように、2,450(ポリスチレン換算、東ソー;GPC−8220)であった。得られた5員環環状カーボネートポリシロキサン化合物(1−A)中には、18.1%の二酸化炭素が固定化されていた。
【0046】
<製造例2>(5員環環状カーボネートポリシロキサン化合物の製造)
本製造例では、先の製造例1で用いた2価エポキシ変性ポリシロキサンAの代わりに、下記式Bで示される2価エポキシ変性ポリシロキサンB(信越化学工業(株)製、KF−105;エポキシ当量485g/mol)を用いた。そして、これ以外は、製造例1と同様に反応させて、無色透明の液状5員環環状カーボネートポリシロキサン化合物(1−B)99部(収率91%)を得た。生成物(1−B)を、製造例1の場合と同様に、赤外吸収スペクトル、GPC、NMRで確認した。得られた5員環環状カーボネートポリシロキサン化合物(1−B)中には、8.3%の二酸化炭素が固定化されていた。
【0047】

【0048】
<製造例3>(5員環環状カーボネートポリシロキサン化合物の製造)
本製造例では、先の製造例1で用いた2価エポキシ変性ポリシロキサンAの代わりに、下記式Cで示される2価エポキシ変性ポリシロキサンC(信越化学工業(株)製、X−22−169AS;エポキシ当量533g/mol)を用いた。そして、これ以外は、製造例1と同様に反応させて、無色透明の液状5員環環状カーボネートポリシロキサン化合物(1−C)71部(収率68%)を得た。生成物は、製造例1の場合と同様に、赤外吸収スペクトル、GPC、NMRで確認した。得られた5員環環状カーボネートポリシロキサン化合物(1−C)中には、7.6%の二酸化炭素が固定化されていた。
【0049】

【0050】
<比較製造例1>(5員環環状カーボネート化合物の製造)
本比較製造例では、先の製造例1で用いた2価エポキシ変性ポリシロキサンAの代わりに、下記式Dで表される2価エポキシ化合物D(ジャパンエポキシレジン(株)製、エピコート828;エポキシ当量187g/mol)を使用した。そして、これ以外は、製造例1と同様に反応させ、白色粉末の5員環環状カーボネート化合物(1−D)118部(収率95%)を得た。生成物は赤外吸収スペクトル、GPC、NMRで確認した。得られた5員環環状カーボネート化合物(1−D)中には、19%の二酸化炭素が固定化されていた。
【0051】

【0052】
<重合例1〜3>(ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂の製造)
製造例1〜3で得られた、5員環環状カーボネートポリシロキサン化合物をそれぞれ用いて、下記のような手順で、実施例で用いるポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂を合成した。攪拌機、温度計、ガス導入管及び還流冷却器を備えた反応容器を窒素置換し、これに製造例1〜3で得られた5員環環状カーボネートポリシロキサン化合物を加え、更に固形分が35%になるようにジメチルホルムアミドを加え均一に溶解した。次に、表1に記載のアミン化合物を所定当量加え、90℃の温度で10時間攪拌し、アミン化合物が確認できなくなるまで反応させた。得られた3種類のポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂の性状は表1に記載の通りであった。
【0053】
<比較重合例1>(ポリヒドロキシポリウレタン樹脂の製造)
下記のようにして、比較例で用いるポリヒドロキシポリウレタン樹脂を合成した。攪拌機、温度計、ガス導入管及び還流冷却器を備えた反応容器を窒素置換し、これに比較製造例1で得られた5員環環状カーボネート化合物を加え、更に固形分が35%になるようにジメチルホルムアミドを加え均一に溶解した。次に、ヘキサメチレンジアミンを所定当量加え、90℃の温度で10時間攪拌し、アミン化合物が確認できなくなるまで反応させた。得られたポリヒドロキシポリウレタン樹脂の性状は表1に記載の通りであった。
【0054】

【0055】
<比較重合例2>(ポリエステルウレタン樹脂の製造)
下記のようにして、比較重合例2として、ポリエステルとジオールとジアミンとから従来のポリウレタン樹脂を合成した。攪拌機、温度計、ガス導入管及び還流冷却器を備えた反応容器を窒素置換し、該容器内に、平均分子量約2,000のポリブチレンアジペート150部と、1,4−ブタンジオール15部とを、250部のジメチルホルムアミドからなる溶剤中に溶解した。その後、60℃でよく攪拌しながら62部の水添加MDIを、171部のジメチルホルムアミドに溶解したものを徐々に滴下し、滴下終了後80℃で6時間反応させた。
この溶液は固形分35%で3.2MPa・s(25℃)の粘度を有していた。この溶液から得られたフィルムは破断強度45MPaで破断伸度480%を有し、熱軟化温度は110℃であった。
【0056】
<比較重合例3>(ポリシロキサン変性ポリウレタン樹脂の製造)
下記のようにして、比較例で用いるポリシロキサン変性ポリウレタン樹脂を、ジオールとジアミンとから合成した。下記式(E)で表され、且つ平均分子量が約3,200であるポリジメチルシロキサンジオール150部及び1,4−ブタンジオール10部を、250部のジメチルホルムアミド溶媒を加え、また、40部の水添加MDIを120部のジメチルホルムアミドに溶解したものを徐々に滴下し、滴下終了後80℃で6時間反応させた。この溶液は、固形分35%で1.6MPa・s(25℃)の粘度を有し、この溶液から得られたフィルムは、破断強度21MPaで破断伸度250%を有し、熱軟化温度は135℃であった。
【0057】

【0058】
<実施例1〜6、比較例1〜6>
[擬革の製造]
重合例1〜3、比較重合例1〜3の各樹脂溶液をそれぞれ使用し、表2、3に記載の配合にて擬革用塗料を作製し、これを用いて人工皮革と合成皮革を作製し、これらを下記の方法で評価した。
【0059】
(人工皮革)
重合例及び比較重合例の各樹脂をそれぞれに含有する擬革用塗料を用い、厚さ1mmとなるように、ポリスチレン−ポリエステル繊維からなる不織布上に塗布し、25℃のDMF10%の水溶液中に浸漬し凝固させた。洗浄後、加熱乾燥し、多孔層シートを有する人工皮革を得た。
【0060】
(合成皮革)
織布上に接着剤層としてポリウレタン系樹脂溶液(商品名:レザミンUD−602S、大日精化工業(株)製)を、乾燥時の厚さが10μmとなるように塗布及び乾燥して、擬革用基布シートを作成した。一方、重合例1〜3及び比較重合例1〜3で得た樹脂溶液を含む擬革用塗料を、それぞれ離型紙上に塗布及び乾燥させ、約15μmの厚さのフィルムを形成した。得られたフィルムを上記基布シートに貼り合せて、各合成皮革を得た。
【0061】
[評価]
上記で得た各人工皮革及び合成皮革の各擬革を用いて、下記の方法及び基準で評価した。結果を表2、3にまとめて示した。
(風合い)
各擬革について、手の感触により判定し、下記の基準で評価した。
○:軟らかい
△:やや硬い
×:硬い
【0062】
(摩擦係数)
上記で得た各人工皮革表面の摩擦係数を、表面性試験機(新東科学製)を用いて測定し、評価した。
【0063】
(耐薬品性)
上記で得た各合成皮革表面に、トルエンをそれぞれ滴下し、常に濡れている状態を保つため溶剤を追加滴下し、1時間後に拭き取った。拭き取った滴下部分を目視で観察して、下記の基準で評価した。
○:塗布面に滴下痕が全く見られない
△:僅かに滴下痕が認められるが目立たない
×:滴下痕が明らかに認められる
【0064】
(耐表面摩耗性)
上記で得た各合成皮革について、平面摩耗試験機を用い、6号帆布を荷重1kgfで、擦り傷が発生するまでの回数を測定した。
○:5000回以上
△:2000回以上〜5000回未満
×:2000回未満
【0065】
(環境対応性)
各擬革について、使用した樹脂中における二酸化炭素の固定化の有無によって、○×判断した。
【0066】

【0067】

【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の擬革は、特有のポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂主成分とする樹脂組成物を用いることにより、柔軟性、滑性、耐擦傷性、耐摩耗性、耐薬品性優れたものとできる。それと共に、ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂の構造中の水酸基が、基布(基材シート)と界面で強く相互作用することにより、基布に対する優れた接着性や可とう性、及び帯電防止効果が付与されるという優れた性能を得ることができる。また、本発明で使用するポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂は、二酸化炭素を樹脂中に取り入れ、固定化できるので、地球温暖化ガス削減の観点からも優れたものである。したがって、該樹脂を用いて得られる擬革も、従来品では到達できなかった環境保全に対応した擬革となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される5員環環状カーボネートポリシロキサン化合物とアミン化合物との反応から誘導されたポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂を主成分とする樹脂組成物を、基布に充填ないしは積層せしめてなることを特徴とする擬革。

式中のR1は炭素数1〜12のアルキレン基(該基中にO、S、またはNの各元素による連結及び/又は−(C24O)b−による連結を有していてもよい)を表す。式中のR2は、ないか、または、炭素数2〜20のアルキレン基を表し、R2は、脂環族基または芳香族基に連結していてもよい。bは1〜300の数を表わし、aは1〜300の数を表す。]
【請求項2】
前記ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂を構成する前記5員環環状カーボネートポリシロキサン化合物が、エポキシ変性ポリシロキサン化合物と二酸化炭素とを反応させて得られたものである請求項1に記載の擬革。
【請求項3】
前記ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂が、原料由来の二酸化炭素を1〜25質量%含有するものである請求項2に記載の擬革。
【請求項4】
前記ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂の分子中に占めるポリシロキサンセグメントの含有量が1〜75質量%である請求項1乃至3のいずれか1項に記載の擬革。
【請求項5】
前記樹脂組成物が、さらに他の樹脂を含む請求項1乃至4のいずれか1項に記載の擬革。
【請求項6】
基布に充填ないしは積層せしめた前記樹脂組成物中の前記ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂が、該樹脂の構造中に存在する水酸基と、該水酸基と反応する架橋剤との反応によって架橋されている請求項1乃至5のいずれか1項に記載の擬革。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−132652(P2011−132652A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−262359(P2010−262359)
【出願日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【出願人】(000002820)大日精化工業株式会社 (387)
【出願人】(000238256)浮間合成株式会社 (99)
【Fターム(参考)】