説明

擬革

【課題】従来品の擬革と遜色がなく、表面の耐擦傷性、耐磨耗性、耐薬品性、耐熱性に優れると共に、二酸化炭素を樹脂中に取り込んで固定した材料を利用して擬革を製造することで、地球温暖化ガスとして世界的に問題視されている二酸化炭素削減に寄与し得る、地球環境保全の観点からも優れた環境対応製品として有用な擬革の提供。
【解決手段】5員環環状カーボネート化合物とアミン化合物との反応から誘導された、その構造中にマスキングされたイソシアネート基を有する自己架橋型ポリヒドロキシポリウレタン樹脂を主成分とする樹脂組成物を、基布に充填或いは積層せしめたことを特徴とする擬革。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自己架橋型ポリヒドロキシポリウレタン樹脂を主成分とする樹脂組成物を用いて得られる擬革に関する。さらに詳しくは、耐擦傷性、耐磨耗性、耐薬品性、耐熱性に優れ、しかも、主成分として使用する樹脂が二酸化炭素を構造中に固定したものであるため、地球環境破壊を阻止する観点からも有用な擬革に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、袋物、鞄、靴、家具、衣料、車両内装材、電化製品などに擬革が使用されているが、この擬革用樹脂としてポリウレタン系樹脂が広く使用されている。上記「擬革」とは、天然皮革に似せて製造される皮革状製品の総称で、一般的には、人工皮革、合成皮革、塩化ビニルレザーに大別される。
【0003】
人工皮革は、擬革の中でも天然皮革に最も近似した構造をもつが、基布に不織布を使用する。一般的な人工皮革の製造方法としては、以下の方法がある。先ず、ポリウレタン系樹脂のジメチルホルムアミド(以下、DMF)溶液に不織布を含浸後、湿式成膜(水中凝固)により多孔質状に凝固・乾燥する。その後、表面にさらにポリウレタン系樹脂をコーティング或いはラミネートによる層を設けてスムース調とする場合と、表面を研削して起毛することによるスエード調とする方法がある。
【0004】
一方、合成皮革は、基布に織布や起毛布などの布地を使用するが、一般的には乾式合成皮革と湿式合成皮革に大別される。さらに、乾式合成皮革を製造する方法としては、基布に直接ポリウレタン系樹脂を塗布し乾燥する方法と、離型紙上にポリウレタン系樹脂を塗布後、乾燥・フィルム化し、接着剤で基布と貼り合わせる方法がある。また、湿式合成皮革は、前述したポリウレタン系樹脂のDMF溶液を用いて、基布に含浸または塗布した後、水中凝固・乾燥させて多孔質層を形成させることで製造できる。さらに、上記のようにして乾式或いは湿式の各方法で得られたそれぞれの表面に、ポリウレタン系樹脂を塗布あるいはラミネートによる層を設けてスムース調とする方法や、表面を研削して起毛することによるスエード調とする方法がある。
【0005】
一方、近年、増加の一途をたどる二酸化炭素の排出に起因すると考えられている地球の温暖化現象は世界的な問題となっており、二酸化炭素の排出量低減は、全世界的に重要な課題となっている。さらに、枯渇性石化資源(石油)問題の観点からも、バイオマス、メタンなどの再生可能資源への転換が世界的潮流となっている(非特許文献1、2)。
【0006】
上記したような背景下、擬革の分野においても、環境対策に積極的に取り組むメーカーが多くなり、環境保全性に優れた材料を用いて擬革製品を構成する動きがある。例えば、有機溶剤を使用するポリウレタン系樹脂の代わりに、水系媒体に分散又は乳化可能なポリウレタン樹脂を使用し、VOC(揮発性有機化合物)排出量をできるだけ抑制することの検討や、カーボンニュートラルの観点から植物由来原料を使用することの検討も盛んに行われている。しかしながら、従来製品と比べて性能に差があり実用化に問題があるといえ、また、現在の地球規模での環境保全を実現するといった面からも、まだ不十分である(特許文献1〜3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−144313公報
【特許文献2】特開2007−270373公報
【特許文献3】特開2005−154580公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】N.Kihara,T.Endo,J.Org.Chem.,1993,58,6198
【非特許文献2】N.Kihara,T.Endo,J.Polymer Sci.,PartA Polmer Chem.,1993,31(12),2765
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このような状況下、擬革に関しても、より一層の表面の耐擦傷性、耐磨耗性、耐薬品性、耐熱性に優れると共に、地球規模での環境保全対策に資する優れた環境対応製品の開発が要望されている。
【0010】
従って、本発明の目的は、特に、従来品の擬革と遜色がなく、表面の耐擦傷性、耐磨耗性、耐薬品性、耐熱性に優れると共に、二酸化炭素を樹脂中に取り込んで固定した材料を利用して擬革を製造することで、地球温暖化ガスとして世界的に問題視されている二酸化炭素削減に寄与し得る、地球環境保全の観点からも優れた環境対応製品として有用な擬革を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的は以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、5員環環状カーボネート化合物とアミン化合物との反応から誘導された、その構造中にマスキングされたイソシアネート基を有する自己架橋型ポリヒドロキシポリウレタン樹脂を主成分とする樹脂組成物を、基布に充填或いは積層せしめたことを特徴とする擬革を提供する。
【0012】
本発明の好ましい形態としては、下記のものが挙げられる。前記5員環環状カーボネート化合物が、エポキシ化合物と二酸化炭素との反応物であって、かつ、前記自己架橋型ポリヒドロキシポリウレタン樹脂の構造中に二酸化炭素を1〜25質量%の範囲で含んでなる上記の擬革。前記マスキングされたイソシアネート基は、有機ポリイソシアネート基とマスキング剤との反応生成物であって、熱処理することによりマスキングされた部分が解離されてイソシアネート基を生成し、自己架橋型ポリヒドロキシポリウレタン樹脂の構造中の水酸基と反応して自己架橋するものである上記の擬革。前記樹脂組成物が、さらに他の樹脂を含む上記の擬革。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、従来品の擬革と遜色がなく、表面の耐擦傷性、耐磨耗性、耐薬品性、耐熱性に優れると共に、二酸化炭素を樹脂中に取り込んで固定した材料を擬革の形成材料に利用して製造することで、地球温暖化ガスとして世界的に問題視されている二酸化炭素削減に寄与し得る、地球環境保全の観点からも優れた環境対応製品である有用な擬革が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、好ましい実施の形態を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。
本発明の擬革は、5員環環状カーボネート化合物とアミン化合物との反応から誘導された、その構造中にマスキングされたイソシアネート基を有する自己架橋型ポリヒドロキシポリウレタン樹脂を主成分とする樹脂組成物を、基布に充填或いは積層せしめたことを特徴とする。該樹脂のマスキングされたイソシアネート基は、有機ポリイソシアネート基とマスキング剤との反応生成物であり、熱処理することによりマスキングされた部分が解離されてイソシアネート基を生成し、自己架橋型ポリヒドロキシポリウレタン樹脂の構造中の水酸基と反応して自己架橋するものである。このため、該樹脂を用いることで、表面の耐擦傷性、耐磨耗性、耐薬品性、耐熱性に優れる擬革を得ることができる。本発明で使用する地球環境保全の観点から特に好適な自己架橋型ポリヒドロキシポリウレタン樹脂は、5員環環状カーボネート化合物が、エポキシ化合物と二酸化炭素との反応物であり、かつ、その構造中に二酸化炭素を1〜25質量%の範囲で含むものである。
【0015】
(自己架橋型ポリヒドロキシポリウレタン樹脂)
本発明で使用する自己架橋型ポリヒドロキシポリウレタン樹脂は、少なくとも一個の遊離のイソシアネート基と、マスキングされたイソシアネート基とを有する変性剤を用い、該変性剤の遊離のイソシアネート基を、5員環環状カーボネート化合物とアミン化合物との反応から誘導されたポリヒドロキシポリウレタン樹脂中の水酸基と反応させて容易に得られる。この際に使用する変性剤としては、有機ポリイソシアネート化合物とマスキング剤との反応生成物を用いればよい。以下に、各成分について説明する。
【0016】
<有機ポリイソシアネート化合物>
本発明に使用する有機ポリイソシアネート化合物は、脂肪族或いは芳香族化合物中に少なくとも2個のイソシアネート基を有する化合物であって、従来からポリウレタン樹脂の合成原料として広く使用されている。これらの公知の有機ポリイソシアネート化合物はいずれも本発明において有用である。特に好ましい有機ポリイソシアネート化合物を挙げれば、以下の通りである。
【0017】
1,4−テトラメチレンジイソシアネート、1,5−ペンタメチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、3−イソシアネートメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルイソシアネート(イソホロンジイソシアネート)、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネートが挙げられる。さらに、これらの有機ポリイソシアネート化合物と他の化合物との付加体、例えば下記構造式のものが挙げられるがこれらに限定されない。
【0018】

【0019】
<マスキング剤>
本発明で使用する変性剤は、上記した有機ポリイソシアネート化合物とマスキング剤との反応生成物であるが、マスキング剤としては、下記のものが使用できる。アルコール系、フェノール系、活性メチレン系、酸アミド系、イミダゾール系、尿素系、オキシム系、ピリジン系の化合物などであり、これらを単独あるいは混合して使用してもよい。具体的なマスキング剤としては下記の通りである。
【0020】
アルコール系として、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、2−エチルヘキサノール、メチルセロソルブ、シクロヘキサノールなどが挙げられる。フェノール系として、フェノール、クレゾール、エチルフェノール、ノニルフェノールなどが挙げられる。活性メチレン系として、マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセチルアセトンなどが挙げられる。酸アミド系として、アセトアニリド、酢酸アミド、カプロラクタム、γ−ブチロラクタムなどが挙げられる。イミダゾール系として、イミダゾール、2−メチルイミダゾールなどが挙げられる。尿素系として、尿素、チオ尿素、エチレン尿素などが挙げられる。オキシム系として、ホルムアミドオキシム、アセトオキシム、メチルエチルケトオキシム、シクロヘキサノンオキシムなどが挙げられる。ピリジン系として、2−ヒドロキシピリジン、2−ヒドロキシキノリンなどが挙げられる。
【0021】
<変性剤の合成方法>
上記に列挙した有機ポリイソシアネート化合物と、上記に列挙したマスキング剤とを反応させて、本発明で用いる、少なくとも一個の遊離イソシアネート基と、マスキングされたイソシアネート基とを有する変性剤を合成する。合成方法は特に限定されないが、上記の如きマスキング剤と上記有機ポリイソシアネート化合物とを、1分子中でイソシアネート基が1個以上過剰になる官能基比で、有機溶媒および触媒の存在下または不存在下で、0〜150℃、好ましくは20〜80℃の温度で、30分〜3時間反応させることによって容易に得ることができる。
【0022】
<ポリヒドロキシポリウレタン樹脂>
上記したような特定の変性剤によって変性されるポリヒドロキシポリウレタン樹脂は、5員環環状カーボネート化合物とアミン化合物との反応により得られる。以下に、この際に用いる各成分について説明する。
【0023】
[5員環環状カーボネート化合物]
本発明で使用する5員環環状カーボネート化合物は、下記[式−A]で示されるように、エポキシ化合物と二酸化炭素とを反応させて製造することができる。さらに詳しくは、エポキシ化合物を、有機溶媒の存在下または不存在下、および触媒の存在下、40℃〜150℃の温度で、常圧または僅かに高められた圧力下、10〜20時間二酸化炭素と反応させることによって得られる。
【0024】

【0025】
上記で使用し得る、エポキシ化合物としては、例えば、次の如き化合物が挙げられる。
【0026】


【0027】
以上列記したエポキシ化合物は、本発明において使用する好ましい化合物であって、本発明はこれらの例示の化合物に限定されるものではない。従って、上述の例示の化合物のみならず、その他現在市販されており、市場から容易に入手し得る化合物は、いずれも本発明において使用することができる。
【0028】
上記したようなエポキシ化合物と、二酸化炭素の反応において使用できる触媒としては、塩基触媒およびルイス酸触媒が挙げられる。
塩基触媒としては、トリエチルアミン、トリブチルアミンなどの第三級アミン類、ジアザビシクロウンデセン、ジアザビシクロオクタンおよびピリジンなどの環状アミン類、リチウムクロライド、リチウムブロマイド、フッ化リチウム、塩化ナトリウムなどのアルカリ金属塩類、塩化カルシウムなどのアルカリ土類金属塩類、テトラブチルアンモニウムクロライド、テトラエチルアンモニウムブロマイド、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、などの四級アンモニウム塩類、炭酸カリウム、炭酸ナトリウムなどの炭酸塩類、酢酸亜鉛、酢酸鉛、酢酸銅、酢酸鉄などの金属酢酸塩類、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛などの金属酸化物、テトラブチルホスホニウムクロリドなどのホスホニウム塩類が挙げられる。
【0029】
ルイス酸触媒としては、テトラブチル錫、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫オクトエートなどの錫化合物が挙げられる。
【0030】
上記触媒の量は、エポキシ化合物50質量部当たり、0.1〜100質量部程度、好ましくは0.3〜20質量部とすればよい。上記使用量が0.1質量部未満では、触媒としての効果が小さく、100質量部を超えると最終樹脂の諸性能を低下させる場合があるので好ましくない。しかし、残留触媒が重大な性能低下を引き起こすような場合は、純水で洗浄して除去する構成としてもよい。
【0031】
エポキシ化合物と二酸化炭素の反応において、使用できる有機溶媒としては、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホオキシド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、N−エチルピロリドン、テトラヒドロフランなどが挙げられる。また、これら有機溶剤と他の貧溶剤、例えば、メチルエチルケトン、キシレン、トルエン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、シクロヘキサノンなどの混合系で使用してもよい。
【0032】
本発明で用いるポリヒドロキシポリウレタン樹脂は、下記[式−B]で示されるように、上記のようにして得られた5員環環状カーボネート化合物と、アミン化合物とを、有機溶媒の存在下、20℃〜150℃の温度下で反応させることで得ることができる。
【0033】

【0034】
[アミン化合物]
上記反応に使用するアミン化合物としては、ジアミンが好ましく、従来ポリウレタン樹脂の製造に使用されているものがいずれも使用でき、特に限定されない。例えば、メチレンジアミン、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、ヘキサメチレンジアミン、オクタメチレンジアミンなどの脂肪族ジアミン;フェニレンジアミン、3,3’−ジクロロ−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−メチレンビス(フェニルアミン)、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミンなどの芳香族ジアミン;1,4−シクロヘキサンジアミン、4,4’−ジアミノシクロヘキシルメタン、1,4’−ジアミノメチルシクロヘキサン、イソホロンジアミンなどの脂環族ジアミン;モノエタノールジアミン、エチルアミノエタノールアミン、ヒドロキシエチルアミノプロピルアミンなどのアルカノールジアミンが挙げられる。
【0035】
以上列記したアミン化合物は、本発明において使用する好ましい化合物であって、本発明はこれらの例示の化合物に限定されるものではない。従って、上述の例示の化合物のみならず、その他現在市販されており、市場から容易に入手し得る化合物は、いずれも本発明において使用することができる。
【0036】
[物性]
また、本発明で用いるポリヒドロキシポリウレタン樹脂は、その数平均分子量(GPCで測定した標準ポリスチレン換算値)が、2,000〜100,000程度であることが好ましく、より好ましくは5,000〜70,000程度である。
【0037】
本発明で用いるポリヒドロキシポリウレタン樹脂の水酸基価20〜300mgKOH/gであることが好ましい。水酸基含有量が上記範囲未満であると、二酸化炭素削減効果が不足であり、一方、上記範囲を超えると、高分子化合物としての諸物性不足となる。
【0038】
<自己架橋型ポリヒドロキシポリウレタン樹脂の製造>
本発明で使用する自己架橋型ポリヒドロキシポリウレタン樹脂は、それぞれ上述のようにして得られた、変性剤と、ポリヒドロキシポリウレタン樹脂とを反応させることによって得られる。詳しくは、上記ポリヒドロキシポリウレタン樹脂中の水酸基と、該変性剤中の少なくとも一個の遊離したイソシアネート基とが反応することによって得られる。
【0039】
本発明で使用する自己架橋型ポリヒドロキシポリウレタン樹脂の変性剤による変性率は、2〜60%の変性率が好ましい。この変性率の割合により熱処理後の耐磨耗性、耐薬品性、耐熱性などの性能をある程度制御できるが、変性率が2%未満であると、十分な架橋が起こらず、擬革の製造に用いた場合に、耐熱性、耐薬品性などが不足するおそれがあるので好ましくない。一方で、変性率が60%を超えると、過架橋により擬革の風合いを損なうとともに、解離したイソシアネート基が反応せずに残存する可能性が増すので、好ましくない。なお、変性率は下記のようにして算出する。
変性率(%)={1−(変性後の樹脂の水酸基÷変性前の樹脂の水酸基)}×100
【0040】
変性剤とポリヒドロキシポリウレタン樹脂との反応は、有機溶媒および触媒の存在下または不存在下で、0〜150℃、好ましくは20〜80℃の温度で、30分〜3時間反応させることによって容易に得ることができる。但し、反応時にはマスキング剤の解離温度より低い温度で反応させる点に注意し、反応後のポリヒドロキシポリウレタン樹脂が、その構造中にマスキングされたイソシアネート基を有するものとなるようにする必要がある。
【0041】
上記に述べたように、本発明に用いる自己架橋型ポリヒドロキシポリウレタン樹脂を主成分とする樹脂組成物は、擬革の製造に際し、有機溶剤溶液または水分散体の形態で使用する。該樹脂組成物を有機溶剤溶液の形態で使用する場合、以下の有機溶剤を使用することが好ましい。例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、N−エチルピロリドンなどが挙げられる。また、該有機溶剤溶液100質量%中における樹脂濃度は、10〜60質量%であることが好ましい。樹脂濃度が10質量%未満では、湿式成膜での成膜性に劣るとともに、皮膜の厚みが不足し、そのため、得られる擬革の強度不足が生じるおそれがあるので好ましくない。一方、樹脂濃度が60質量%を超えると、湿式成膜での多孔質層の形成が不完全であるとともに、膜中に有機溶剤が残留するなどの問題を生じるおそれがあり、VOC対策の観点からも好ましくない。
【0042】
本発明に用いる自己架橋型ポリヒドロキシポリウレタン樹脂を主成分とする樹脂組成物を、水分散体の形態で用いる場合には、以下のようにして使用することが好ましい。すなわち、自己架橋型ポリヒドロキシポリウレタン樹脂中の、水酸基またはNH基を酸無水物で半エステル化または半アミド化することにより、該樹脂中にカルボキシル基を導入する。その後、該カルボキシル基をアンモニア、有機アミン化合物、無機塩基などで中和し、カルボン酸塩を形成して自己乳化型の水分散体として使用することが好ましい。ここで使用する酸無水物としては、例えば、無水フタル酸、無水トリメリット酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸などが挙げられる。また、有機アミン化合物としては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、アミノエチルエタノールアミンなどが挙げられる。また、自己架橋型ポリヒドロキシポリウレタン樹脂を主成分とする樹脂組成物は、常法に従って界面活性剤により水中に乳化させた水分散体であってもよい。
【0043】
<その他の成分>
また、本発明で用いる自己架橋型ポリヒドロキシポリウレタン樹脂を主成分とする樹脂組成物は、含浸、塗布、被覆などの作業適正や、得られる擬革の風合いや諸性能の調整のために、上記樹脂に加えて従来公知の各種の他の樹脂を混合して使用することができる。混合使用する他の樹脂は、自己架橋型ポリヒドロキシポリウレタン樹脂中のマスキングされたイソシアネート基が、加熱等することで解離して生成するイソシアネート基と化学的に反応し得るものが好ましい。しかしこれに限らず、反応性を有していない樹脂も本発明では使用することができる。
【0044】
自己架橋型ポリヒドロキシポリウレタン樹脂と併用する樹脂としては、擬革の形成材料として従来から用いられているポリウレタン系樹脂が好ましいが、特に限定されない。例えば、その他、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリブタジエン樹脂、シリコーン樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、フェノキシ樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル樹脂、セルロース樹脂、アルキッド樹脂、変性セルロース樹脂、フッ素樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂なども使用することができる。また、これらの樹脂を併用する場合、その使用量は本発明のポリヒドロキシポリウレタン樹脂100質量部に対して5〜90質量部である。勿論、本発明の自己架橋型ポリヒドロキシポリウレタン樹脂の使用割合が多いほど、得られる擬革は、より好ましい環境対応製品となる。
【0045】
また、本発明で用いる自己架橋型ポリヒドロキシポリウレタン樹脂を主成分とする樹脂組成物には、上記各種樹脂以外に、酸化防止剤、紫外線吸収剤、加水分解防止剤、顔料、染料、難燃剤、充填材などの各種添加剤を配合してもよい。
【0046】
<擬革>
本発明の擬革は、上記で説明したその構造中にマスキングされたイソシアネート基を有する自己架橋型ポリヒドロキシポリウレタン樹脂を主成分とする樹脂組成物を、基布に充填或いは積層せしめたことを特徴とする。本発明の擬革の製造方法については、本発明の範囲内であれば何ら限定されるものではなく、公知の人工皮革、合成皮革の製法を利用できる。また、本発明の擬革には、基布の上に可塑剤入りの塩化ビニル樹脂層を設け、これを基材シートとし、該基材シートの上に本発明を特徴づける自己架橋型ポリヒドロキシポリウレタン樹脂を主成分とする樹脂組成物からなる層を形成したものも含まれる。
【0047】
本発明の擬革を構成する基布(基材シート)としては、擬革製造に従来から使用されている基布(基材シート)がいずれも使用でき、特に制限されない。
【0048】
本発明の擬革の形成に用いる本発明を特徴づける自己架橋型ポリヒドロキシポリウレタン樹脂は、熱処理することによりマスキングされたイソシアネート基のマスキング部分が解離してイソシアネート基を生成する。そして、その生成したイソシアネート基とポリヒドロキシポリウレタン樹脂中の水酸基とが反応して、自己架橋することで架橋樹脂を生成するため、基布(基材シート)と界面で強く相互作用する。これにより、基材シートに対する樹脂の優れた接着性や可とう性、および形成される樹脂層に帯電防止効果が付与されるという優れた性能を得ることができ、擬革の性能向上が図られる。形成された擬革は、優れた耐擦傷性、耐磨耗性、耐薬品性、耐熱性を有するものとなる。また、本発明で使用する自己架橋型ポリヒドロキシポリウレタン樹脂を合成する場合に使用するポリヒドロキシポリウレタン樹脂は、5員環環状カーボネート化合物を用いて合成されるが、前記したように、該5員環環状カーボネート化合物は、エポキシ化合物と二酸化炭素を反応させて得られるものであるため、樹脂中に二酸化炭素を取り入れ、固定することができる。このことは、本発明によって、温暖化ガス削減の観点からも有用な、従来品では到達できなかった環境保全対応製品としての擬革が提供可能となることを意味している。
【実施例】
【0049】
次に、具体的な製造例、重合例、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、以下の各例における「部」および「%」は特に断りのない限り質量基準である。
【0050】
<製造例1>(変性剤の製造)
トリメチロールプロパンとヘキサメチレンジイソシアネート3量体付加物(コロネートHL(商品名)、日本ポリウレタン社製NCO=12.9%、固形分75%)100部、酢酸エチルを24.5部、100℃でよく攪拌しながら、ε−カプロラクタムを25.5部添加し、5時間反応させた。得られた変性剤の赤外吸収スペクトル(堀場製作所 FT−720)によれば、2,270cm-1に遊離イソシアネート基による吸収は残っており、この遊離イソシアネート基を定量すると、固形分50%で理論値が2.1%であるのに対し実測値は1.8%であった。
【0051】
上記で得られた変性剤の主たる化合物の構造は、下記式と推定される。

【0052】
<製造例2>(変性剤の製造)
ヘキサメチレンジイソシアネートと水の付加体(ジュラネート24A−100(商品名)、旭化成社製、NCO=23.0%)100部、酢酸エチルを80℃でよく攪拌しながら、メチルエチルケトオキシム32部を添加し、5時間反応させた。得られた変性剤の赤外吸収スペクトルによれば、2,270cm-1に遊離イソシアネート基による吸収は残っており、この遊離イソシアネート基を定量すると、固形分50%で理論値が2.9%であるのに対し、実測値は2.6%であった。
【0053】
上記で得られた変性剤の主たる化合物の構造は、下記式と推定される。

【0054】
<製造例3>(変性剤の製造)
トリメチロールプロパンとトリレンジイソシアネート3量体付加物(コロネートHL(商品名)、日本ポリウレタン社製、NCO=12.5%、固形分75%)100部、酢酸エチルを67.3部、80℃でよく攪拌しながら、メチルエチルケトオキシムを17.3部添加し、5時間反応させた。得られた変性剤の赤外吸収スペクトルによれば、2,270cm-1に遊離イソシアネート基による吸収は残っており、この遊離イソシアネート基を定量すると、固形分50%で理論値が2.3%であるのに対し、実測値は2.0%であった。
【0055】
上記で得られた変性剤の主たる化合物の構造は、下記式と推定される。

【0056】
<製造例4>(5員環環状カーボネート化合物の製造)
攪拌機、温度計、ガス導入管および還流冷却器を備えた反応容器中に、下記式Aで表される2価エポキシ化合物(エピコート828(商品名)、ジャパンエポキシレジン(株)製、エポキシ当量187g/mol)100部、N−メチルピロリドンを100部、ヨウ化ナトリウムを1.5部加え、均一に溶解させた。
【0057】

【0058】
その後、炭酸ガスを0.5リッター/分の速度でバブリングしながら80℃で30時間加熱攪拌した。反応終了後、得られた溶液を300部のn−ヘキサン中に300rpmで高速攪拌しながら徐々に添加し、生成した粉末状生成物をフィルターでろ過、更にメタノールで洗浄し、N−メチルピロリドンおよびヨウ化ナトリウムを除去した。粉末を乾燥機中で乾燥し、白色粉末の5員環環状カーボネート化合物(1−A)118部(収率95%)を得た。
【0059】
得られた生成物の赤外吸収スペクトルは、910cm-1付近の原料のエポキシ基由来のピークが生成物ではほぼ消滅し、1,800cm-1付近に原料には存在しない環状カーボネート基のカルボニル基の吸収が確認された。また、生成物の数平均分子量は414(ポリスチレン換算、東ソー;GPC−8220)であった。得られた5員環環状カーボネート化合物(1−A)中には、19%の二酸化炭素が固定化されていた。
【0060】
<製造例5>(5員環環状カーボネート化合物の製造)
製造例4で用いた2価エポキシ化合物Aの代わりに、下記式B(EX−212(商品名)、ナガセケムテックス(株)製、エポキシ当量151g/mol)を使い製造例4と同様に反応させ、無色透明の液状5員環環状カーボネート化合物(1−B)111部(収率86%)を得た。
【0061】

生成物は製造例4の場合と同様に、赤外吸収スペクトル、GPC、NMRで確認した。得られた5員環環状カーボネート基化合物(1−B)中には、22.5%の二酸化炭素が固定化されている。
【0062】
<重合例1>(自己架橋型ポリヒドロキシポリウレタン樹脂の製造)
攪拌機、温度計、ガス導入管および還流冷却器を備えた反応容器を窒素置換し、これに製造例4で得られた5員環環状カーボネート化合物100部を、固形分が35%になるようにN−メチルピロリドンを加え均一に溶解した。次に、ヘキサメチレンジアミンを27.1部加え、90℃の温度で10時間攪拌し、ヘキサメチレンジアミンが確認できなくなるまで反応させた。次に製造例1の変性剤を20部(固形分50%)添加し、90℃で3時間反応させた。赤外吸収スペクトルによるイソシアネート基の吸収が消失したことを確認し、自己架橋型ポリヒドロキシポリウレタン樹脂溶液を得た。
【0063】
<重合例2〜4>(自己架橋型ポリヒドロキシポリウレタン樹脂の製造)
以下、重合例1と同様に、5員環環状カーボネート化合物、ポリアミン化合物、変性剤を組み合わせて実施例1と同様の方法で反応させて、表1に記載の重合例2〜4の自己架橋型ポリヒドロキシポリウレタン樹脂溶液を得た。
【0064】
<比較重合例1>(ポリヒドロキシポリウレタン樹脂の製造)
重合例1で用いた製造例1の変性剤を使用しない以外は同様にして、ポリヒドロキシポリウレタン樹脂溶液を使用した。
【0065】

【0066】
<比較重合例2>(ポリエステルウレタン樹脂)
下記のようにして、比較例で用いるポリエステルポリウレタン樹脂を合成した。攪拌機、温度計、ガス導入管および還流冷却器を備えた反応容器を窒素置換し、平均分子量約2,000のポリブチレンアジペート150部と、1,4−ブタンジオール15部とを、250部のジメチルホルムアミド中に溶解した。その後、60℃でよく攪拌しながら62部の水添加MDI(メチレンビス(1,4−シクロヘキサン)−ジイソシアネート)を、171部のジメチルホルムアミドに溶解したものを徐々に滴下し、滴下終了後80℃で6時間反応させた。
この溶液は固形分35%で3.2MPa・s(25℃)の粘度を有していた。また、この溶液から得られたフィルムは破断強度45MPaで、破断伸度480%を有し、熱軟化温度は110℃であった。
【0067】
<比較重合例3>(ポリカーボネートポリウレタン樹脂)
下記のようにして、比較例で用いるポリカーボネートポリウレタン樹脂を合成した。比較重合例2と同様に、平均分子量約2,000のポリカーボネートジオール(宇部興産(株)製)150部と、1,4−ブタンジオール15部とを、250部のジメチルホルムアミド中に溶解した。その後、60℃でよく攪拌しながら62部の水添加MDIを171部のジメチルホルムアミドに溶解したものを徐々に滴下し、滴下終了後80℃で6時間反応させた。この溶液は固形分35%で1.6MPa・s(25℃)の粘度を有していた。また、この溶液から得られたフィルムは破断強度21MPaで、破断伸度250%を有し、熱軟化温度は135℃であった。
【0068】
<実施例1〜6、比較例1〜4>
重合例1〜4、比較重合例1〜3の樹脂をそれぞれ使用し、表2、3に記載の配合にて表皮用塗料を作成し、下記の方法で評価した。
【0069】
(人工皮革)
重合例および比較重合例の樹脂を、厚さ1mmとなるように、ポリスチレン−ポリエステル繊維からなる不織布上に塗布し、25℃のDMF10%の水溶液中に浸漬し凝固させた。洗浄後、加熱乾燥(150℃/10分)し、多孔層シートを有する人工皮革を得た。
【0070】
(合成皮革)
織布上に接着剤層としてポリウレタン系樹脂溶液(レザミンUD−602S(商品名)、大日精化工業(株)製)を、乾燥時の厚さが10μmとなるように塗布および加熱乾燥して、擬革用基材シートを作成した。一方、重合例1〜4および比較重合例1〜3で得た樹脂溶液を、それぞれ離型紙上に塗布および加熱乾燥(150℃/10分)させ、約15μmの厚さのフィルムを形成し、これを上記で得た基材シートに貼り合せて合成皮革を得た。
【0071】
[評価]
上記で得た各人工皮革及び各合成皮革の各擬革を用いて、下記の方法及び基準で評価した。
(風合い)
各擬革について、手の感触により判定した。結果を表2、3に示した。
○;軟らかい
△;やや硬い
×;硬い
【0072】
(耐薬品性)
上記で得た各合成皮革表面に、トルエンをそれぞれ滴下し、常に濡れている状態を保つため溶剤を追加滴下し、1時間後に拭き取った。結果を表3に示した。
○;塗布面に滴下痕が全く見られない
△;僅かに滴下痕や膨潤など変化が認められるが目立たない
×;表面状態(膨潤など)の変化が明らかに認められる
【0073】
(耐表面磨耗性)
上記で得た各合成皮革について、平面磨耗試験機を用い、6号帆布を荷重1kgfで、擦り傷が発生するまでの回数を測定した。結果を表3に示した。
○;5000回以上
△;2000回以上〜5000回未満
×;2000回未満
【0074】
(熱軟化点)
上記した合成皮革の作成時、離型紙上に塗布および加熱乾燥(150℃/10分)させて得られたフィルムを、JIS K7206(ビカット軟化点測定法)に準じて測定した。結果を表3に示した。
【0075】
(環境対応性)
各擬革について、使用した樹脂中における二酸化炭素の固定化の有無によって、○×で評価した。結果を表2、3に示した。
【0076】

【0077】

【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の擬革は、自己架橋型ポリヒドロキシポリウレタン樹脂を主成分とする樹脂組成物を用いることにより、その構造中にある熱によって解離するマスキングされたイソシアネート基と、当該樹脂内のポリヒドロキシポリウレタン樹脂の水酸基とが反応し、架橋樹脂となるので、耐擦傷性、耐磨耗性、耐薬品性、耐熱性に優れた擬革を得ることができる。
また、本発明で使用する樹脂組成物の主成分であるポリヒドロキシポリウレタン樹脂は、二酸化炭素を樹脂中に取り入れて固定した、地球温暖化、資源枯渇などの問題解決に資すると有用な材料であるため、これを用いて得られる擬革も、従来品では到達できなかった環境保全対応の製品の提供を可能とする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
5員環環状カーボネート化合物とアミン化合物との反応から誘導された、その構造中にマスキングされたイソシアネート基を有する自己架橋型ポリヒドロキシポリウレタン樹脂を主成分とする樹脂組成物を、基布に充填或いは積層せしめたことを特徴とする擬革。
【請求項2】
前記5員環環状カーボネート化合物が、エポキシ化合物と二酸化炭素との反応物であって、かつ、前記自己架橋型ポリヒドロキシポリウレタン樹脂の構造中に二酸化炭素を1〜25質量%の範囲で含んでなる請求項1に記載の擬革。
【請求項3】
前記マスキングされたイソシアネート基は、有機ポリイソシアネート基とマスキング剤との反応生成物であって、熱処理することによりマスキングされた部分が解離されてイソシアネート基を生成し、自己架橋型ポリヒドロキシポリウレタン樹脂の構造中の水酸基と反応して自己架橋するものである請求項1又は2に記載の擬革。
【請求項4】
前記樹脂組成物が、さらに他の樹脂を含む請求項1乃至3のいずれか1項に記載の擬革。

【公開番号】特開2012−7264(P2012−7264A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−143813(P2010−143813)
【出願日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【出願人】(000002820)大日精化工業株式会社 (387)
【出願人】(000238256)浮間合成株式会社 (99)
【Fターム(参考)】