説明

攪拌方法、攪拌装置及びアダプター

【課題】複数本のマイクロチューブ内の溶液を1つの工程で攪拌する。
【解決手段】マイクロチューブに試薬Bを入れ、蓋または壁面に試料Aを付着させる。蓋をしたマイクロチューブを、公転自転運動をする遊星式の攪拌装置の容器受けにセットする。マイクロチューブの蓋に付着した試料Aが遠心力によりとばされ、試薬Bと混ざる。同時に、公転自転運動により試料Aと試薬Bが攪拌される。このようにして、試薬Bを試料Aに混ぜる工程と試料Aと試薬Bとを攪拌する工程を一つの工程で行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
マイクロチューブを用いて複数の試薬の反応を分析する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
マイクロチューブ(例えばPCRチューブ等)を用いて、試薬の反応の分析を行う場合に一般的には、以下のような方法が用いられている。
PCRチューブの場合、まず、PCRチューブ1のチューブ内に試薬Bを適量入れる。また、PCRチューブ1の蓋または壁面に試料Aを一滴たらし付着させる。これを必要な本数のPCRチューブ1で用意をし、PCRチューブ1の蓋を閉める。
次に、用意したPCRチューブ1を遠心器にかける。遠心器により、蓋または壁面に張り付いた試料Aに遠心力がかかり、試料Aは試薬Bの中へ振り落とされる。
次に先ほどの、試料Aと試薬Bが混ざったPCRチューブを振動ミキサーに必要な本数セットする。振動ミキサーの振動によりPCRチューブ内の試料Aと試薬Bとが攪拌される。
このようにすることにより、複数のPCRチューブで試料Aと試薬Bとが混ざるタイミングが同一となり、また、攪拌時間も同一となる。従って、複数のPCRチューブにおいて、ほぼ反応時間を同一にすることができる。
場合によっては、上記試料Aと試薬Bとが逆になる場合もある。なお、この明細書で「試料」とはDNA等の生体試料、「試薬」と、試料と反応する反応試薬のことを言う。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来の方法では、遠心器にかけるという工程と、振動ミキサーにかけるという工程の、2つの工程が必要である。従って手間と時間がかかってしまう。
【0004】
本発明は、このような従来有していた問題を解決しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そして、本発明の攪拌方法は、上記目的を達成する為に、試薬または試料を入れたマイクロチューブの壁面または蓋部に試料または試薬を付着させ、当該マイクロチューブに公転及び自転による回転作用を供与することにより、試料及び試薬を撹拌することを特徴とする。
【0006】
また、本発明の撹拌装置は、公転駆動するアーム体と、該アーム体に自転するように設けられた略円筒状の回転容器受けとからなる攪拌装置であって、前記容器受けには、マイクロチューブを保持する保持部が装着されてなることを特徴とする。
【0007】
さらに、本発明のアダプターは、公転駆動するアーム体と、該アーム体に自転するように設けられた略円筒状の回転容器受けとからなる撹拌装置の当該回転容器受けに着脱可能なアダプターであって、マイクロチューブを保持する保持部を装着可能なことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
このように、従来では、複数のマイクロチューブ内の試薬と試料とを同時に攪拌するためには、遠心器へのセットとミキサーへのセットという2回の工程が必要であったが、本発明の実施の形態では、公自転が可能な攪拌装置にセットする一工程だけでよく、従来より工程数が少なくてすむ。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
まず、本発明の実施の形態に用いる攪拌装置について説明をする。本発明に用いる攪拌装置はいわゆる遊星式の攪拌装置を基にしている。遊星式の攪拌装置自体は公知の装置なので、主要な構成のみを開示、説明する。
攪拌装置5は、装置の下端部に設けられた駆動モーター9と、該駆動モーター9により回転駆動(公転)する逆アーチ状に形成されたアーム体7と、該アーム体7の両端側近傍で、回転自在な支軸8に設けられた略円筒状の容器受け6とから構成されている。容器受け6はアーム体7に対して傾きを持って設けられている(図2参照)。図3の如く駆動モーターによって、アーム体7が回転をし(公転)、かつ円筒状の容器受け6が支軸8を中心に回転する(自転)。
【0010】
前記容器受け6の回転数は、例えば、容器受け6の回転駆動伝達手段の一部に設けられた変速機構としての電磁パウダブレーキ等を用いることで、段階的な回転数の制御(減速制御)を可能にすることが望ましい。
【0011】
次に、上述の攪拌装置を用いてマイクロチューブ内の試料Aと試薬Bとを攪拌する工程について説明をする。
マイクロチューブは、主に0.2ml溶〜2.0ml溶のものがあるが、特にDNA研究のポリメラーゼ連鎖反応(PCR反応)においては、0.2ml溶及び0.5ml溶のマイクロチューブ(ここではPCRチューブという)を使用する。PCR反応を行う場合、(1)反応試薬をPCRチューブに入れる、(2)生体試料であるDNA等を蓋又は壁面に付着させる、(3)撹拌装置で上記反応試薬及び生体試料を混合する、という操作の手順でPCR反応を行う。これらの手順について詳しく説明をする
まず、従来と同様に、PCRチューブ1のチューブ内に試薬Bを適量入れる。また、PCRチューブ1の蓋2または壁面に試料Aを一滴たらし付着させる。これを必要な本数のPCRチューブで用意をし、PCRチューブの蓋を閉める。場合によっては上記試料Aと試薬Bとが逆の場合もある。
次に、PCRチューブ1を保持部10(図4)の孔に差し込む。保持部10の詳細については、後ほど説明をする。
PCRチューブを差し込んだ保持部10は、攪拌装置5の容器受け6に設置される(図5)。
【0012】
保持部10を容器受け6に設置後、駆動モーター9を作動し、アーム体7を回転駆動(公転)しながら、容器受け6を回転駆動(自転)することで、PCRチューブを公転及び自転する。(図3参照)
【0013】
PCRチューブ1内の試料A及び試薬Bを攪拌した後、駆動モーター9を停止し保持部10を取り出す。
【0014】
これにより、PCRチューブ1の溶液には、公転による均一な遠心力が加えられることとなり、PCRチューブ1の蓋2または壁面に付着していた試料Aが試薬Bの中にまたは試薬Bが試料Aの中に落ちる。また、前記各PCRチューブ1の溶液に、公転とともに、自転による均一な回転作用を加えられることにより、溶液が渦流をおこして攪拌される。よって、試料Aと試薬Bとが攪拌されることとなる。このようにすることにより、複数のPCRチューブで試料Aと試薬Bとの反応時間を共通にすることができる。
【0015】
そして、従来では、複数のPCRチューブ内の試料Aと試薬Bとを同時に攪拌するためには、遠心器へのセットとミキサーへのセットという2回の工程が必要であったが、本発明の実施の形態では、攪拌装置にセットする一工程だけでよい。
【0016】
さらに、試料Aが試薬B内に、または試薬Bが試料A内に、落ちるとほぼ同時に試料Aと試薬Bとの攪拌が始まるので、PCRチューブごとの反応時間の個体差が、従来よりもさらに少なくなる。
【0017】
尚、容器受け6の回転数(自転)は、変速機構としての電磁パウダブレーキを用いる構成とし、アーム体7の回転数(公転)に対して段階的に減速回転できるようにすると、PCRチューブの種類、溶液の種類、目的等に応じて、自在に制御することが可能となる。
【0018】
次に、PCRチューブを保持する保持部について詳しく説明をする。保持部10は、図4の如く、PCRチューブ1を差し込む孔11が開いたプレートである。図4の(1)は、保持部の斜視図、(2)は上方向から見た図、(3)はA−A'の断面図である。PCRチューブを確実に固定する為には、図4の(3)のように、PCRチューブを通すプレートが2枚以上あるのが望ましい。
【0019】
保持部の各孔には、攪拌装置を回転したときにPCRチューブが保持部内で回転しないように、しっかりと固定をする部材があることが望ましい。たとえば、滑り止めのゴムを保持部の孔の周りに設けておくことで実現できる。
【0020】
前記容器受け6内には、横設した保持部10を嵌入し、且つ嵌入された保持部10を拘止するために、保持部10の縦、横の径と平面視略同一形状に形成された上部開口の凹部12が設けられている。前記凹部12の対向する側壁13には、容器受け6の外側より、凹部12側まで及び上面14より凹部12の底面15まで直線状に欠切した一対の案内溝部16が形成されている(図5、図6参照)
【0021】
保持部10は、攪拌装置5の容器受け6に形成された一対の案内溝部16に沿って、上面14側より底面15に到達するまで移動することで、上部開口の凹部12に嵌入される。また、保持部10を容器受け6から取り出す場合は、保持部10の対向する側面を挟持した後、容器受け6の案内溝部16に沿って、底面15より上面14側に移動することで、凹部12より保持部10を取り出すことができる。
【0022】
上記で説明をした保持部及び容器受けの開口部は四角形であるが、例えば丸型でもよい。丸型の保持部の場合、攪拌装置を回転したときに容器受け6内で保持部が回転しないように、容器受けと保持部とに回転止めを設けておくのが望ましい。たとえば、容器受けの底の内面に凸部を、保持部の底の外面に凹部を設けることにより、回転止めとすることができる(図示せず)。
【0023】
発明の実施の形態1においては、凹部12の平面視の形状を保持部10と略同一形状に形成することで、保持部10を凹部12内に拘止したが、本実施の形態において、保持部10を凹部12内に拘止する方法はこれに限定されるものではなく、例えば、保持部10の四隅部分のみ略同一形状とすることで保持部10を凹部12に拘止してもよく、又凹部12の側壁に拘止手段(例えば、ゴム、軟質樹脂等)を設けることで保持部10を凹部12内に拘止してもよい。
【0024】
また、上記各実施の形態においては、凹部12を上面開口とすることで、保持部10を上方より凹部12に嵌入したが、本発明において保持部10の凹部12への嵌入方法はこれに限定されるものではなく、例えば、凹部12の開口部を側面に設けることで、横方向より保持部10をスライドして嵌入することも可能である。
【0025】
また、上記各実施の形態においては、案内溝部16を対向する側壁に一対形成したが、本発明において、案内溝部16の形成方法はこれに限定されるものではなく、保持部10の凹部12への嵌入及び取り出しをさらにスムーズにすべく対向する側壁それぞれに一対の案内溝部16を形成することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】は、PCRチューブを示す図
【図2】は、遊星式攪泡装置を示す概略説明側面図。
【図3】は、遊星式攪泡装置の公転及び自転運動を示す概略説明平面図。
【図4】は、保持部を示す図。
【図5】は、図6のB−B'による概略一部断面側面図。
【図6】は、遊星式攪拌脱泡装置に容器受を示す概略平面図。
【符号の説明】
【0027】
1.PCRチューブ
2.蓋
3.試薬B
4.試料A
5.攪拌装置
6.容器受け
7.アーム体
8.支軸
9.駆動モーター
10.保持部
11.差込み孔
12.凹部
13.側壁
14.上面
15.底面
16.案内溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試薬または試料を入れたマイクロチューブの壁面または蓋部に試料または試薬を付着させ、当該マイクロチューブに公転及び自転による回転作用を供与することにより、試料及び試薬を撹拌することを特徴とする撹拌方法。
【請求項2】
公転駆動するアーム体と、該アーム体に自転するように設けられた略円筒状の回転容器受けとからなる攪拌装置であって、
前記容器受けには、
マイクロチューブを保持する保持部が装着されてなることを特徴とする攪拌装置。
【請求項3】
公転駆動するアーム体と、該アーム体に自転するように設けられた略円筒状の回転容器受けとからなる撹拌装置の当該回転容器受けに着脱可能なアダプターであって、
マイクロチューブを保持する保持部を装着可能なことを特徴とするアダプター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−226245(P2009−226245A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−71287(P2008−71287)
【出願日】平成20年3月19日(2008.3.19)
【出願人】(504203147)▲榊▼電業株式会社 (2)
【出願人】(000145286)株式会社写真化学 (7)
【出願人】(000001926)塩野義製薬株式会社 (229)
【Fターム(参考)】