説明

攪拌素子、攪拌方法、電気化学デバイス及びフローデバイス

【課題】液体にコンタミネーションの問題を生じることなく、単純な構造で効率良い攪拌処理を可能とする撹拌素子及び撹拌方法、撹拌素子を備えた電気化学デバイス、フローデバイス及び電気化学測定方法を提供する。
【解決手段】圧電基板1と、圧電基板1の同一面上に設けられた一対の近接対向する電極パターン2(ただし櫛歯形状を除く。)とを備える。電極パターン2を構成する辺のうち1辺のみが、他方の電極パターン2における対応する辺に近接対向する。電極パターン2の少なくとも互いに近接対向する対向部2aの形状が長方形状であり、対向部2aの長辺が互いに近接対向するとともに略平行に配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を攪拌するための攪拌素子、及び前記攪拌素子を用いた攪拌方法に関する。また、本発明は、前記攪拌素子を備える電気化学デバイス、及び前記攪拌素子を備えるフローデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
液体試料の電気化学的測定においては電極表面の近傍数十Åまでの酸化還元反応しか検出できない。このため、液体試料全体について検出を行う場合には、液体を攪拌することによって液体中の電気化学的に活性な物質を電極表面に供給する必要がある。液体を攪拌する方法としては、液体中にプロペラ状や磁石を封入した棒状の攪拌子を入れ、その攪拌子を回転させる方法が一般的に知られている。しかし攪拌子を用いる方法においては、液体に攪拌子を入れる必要があるため操作が煩雑になるばかりか、コンタミネーションの問題も生じる。
【0003】
そこで、攪拌子を用いることなく液体を攪拌処理するための装置が各種提案されている。例えば超音波を利用する技術として、圧電デバイスにより超音波を発生させて攪拌混合を行う分析装置が特許文献1及び特許文献2に記載されている。また、圧電デバイスを攪拌混合に用いる機器が特許文献3に記載されている。
【0004】
一方、固体の表面に櫛歯電極を設けてなる弾性表面波素子(sueface acoustic wave device(SAW))を利用して攪拌混合を行う技術が、特許文献4〜特許文献7に記載されている。例えば特許文献4には、液体が流入する流路の周壁の外側の少なくとも一面に櫛歯電極を備えた攪拌素子が記載されている。特許文献5及び特許文献6には、櫛歯電極を備えた音波発生部材(弾性表面波素子)が一体に設けられた攪拌容器が記載されている。特許文献7には、音波発生体から発生した音波を伝達するとともに少なくとも一部が液体と接触し、液体に向けて音波を放出する伝達部を有する液体攪拌デバイスが記載されている。特許文献4〜特許文献7において用いられる弾性表面波素子は、外部から入力された電気信号を弾性表面波に変換し、固体表面を振動させることにより目的の液体を攪拌している。さらに、特許文献8には、溶液の攪拌が可能な表面弾性波素子及びこれを備えたバイオセンサー装置が記載されている。
【特許文献1】国際公開第01/077691号パンフレット
【特許文献2】特開2001−242177号公報
【特許文献3】特開2005−319407号公報
【特許文献4】特開2005−164549号公報
【特許文献5】特開2006−090791号公報
【特許文献6】特開2006−119125号公報
【特許文献7】特開2005−257406号公報
【特許文献8】特開2005−351799号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2記載の発明では、攪拌したい液体を容器に入れ、さらに水を媒体としてその容器に超音波を照射するような構造であるため、装置の構造が複雑且つ大型になってしまう。また、特許文献1及び特許文献2記載の発明では、液体と圧電デバイスとの配置を工夫しなければならない。特許文献3で用いる圧電デバイスは、板状の圧電材料を一対の電極で挟み込んだ構成を有しており、本発明に係る攪拌装置とは構成が異なる。また、基板に載せた少量の液滴の攪拌には応用が難しい。
【0006】
特許文献4〜特許文献7記載の発明においては、弾性表面波を発生させるための櫛歯電極を例えば数十μmピッチで数μm精度の非常に微細なパターンに形成しなければならないため、作製にはEB(Electron Beam)描画装置のような高価な装置が必要である。また、特許文献4〜特許文献7記載の発明において利用する弾性表面波のエネルギーは固体表面に集中するため、例えば電極と反対面に配置した液体を攪拌するために固体基板を透過させた場合、減衰する可能性がある。なお、特許文献4〜特許文献7では、音波発生手段として櫛歯電極を備える弾性表面波素子しか例示されておらず、弾性表面波素子以外の音波発生手段の具体的な構成は不明である。さらに、特許文献8においても、攪拌のための縦波用励振部として、幅及び間隔がそれぞれ10μmの微細な櫛形電極しか記載されていない。
【0007】
本発明はこのような従来の実情に鑑みて提案されたものであり、液体にコンタミネーションの問題を生じることなく、単純な構造で効率良い攪拌処理が可能な攪拌素子及び攪拌方法を提供することを目的とする。また、本発明は、前記攪拌素子を備えた電気化学デバイスを提供することを目的とする。また、本発明は、前記攪拌素子を備えたフローデバイスを提供することを目的とする。さらに、本発明は、前記攪拌素子を用いた電気化学測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述の課題を解決するために本発明者らが検討を重ねた結果、圧電基板の同一面上に単純な形状の電極パターンの対を配置し、交流電場を印加することにより、液体の攪拌に十分な機械的振動を得られることを見いだし本発明を完成するに至った。すなわち、本発明に係る攪拌素子は、圧電基板と、前記圧電基板の同一面上に設けられた一対の近接対向する電極パターン(ただし櫛歯形状を除く。)とを備えることを特徴とする。
【0009】
以上のような攪拌素子の電極パターン間に交流電場を印加すると、対向する電極それぞれに逆向きの力が作用することで圧電基板に振動が発生するため、これを液体に伝搬させて液体の攪拌を行う。圧電基板上に形成する電極パターンを微細で複雑な櫛歯形状以外の形状としたので、弾性表面波を利用するために微細な櫛歯電極を有する従来の攪拌素子に比較して、素子構造が単純なものとなる。また、本発明においては弾性表面波を利用しないので、弾性表面波素子に場合に比べてエネルギーの伝搬効率に優れ、効率良い攪拌が実現される。
【0010】
本発明に係る攪拌方法は、前記攪拌素子を用い、前記攪拌素子を構成する前記圧電基板の前記電極パターンが形成された主面と反対の主面側に攪拌する液体を配置することを特徴とする。電極パターンと反対側に攪拌する液体を配置することにより、電極パターンの汚染又は破損を防止することができる。
【0011】
また、本発明に係る攪拌方法は、前記攪拌素子を用いて液滴を攪拌することを特徴とする。前記攪拌素子を構成する電極パターンは、微細な櫛歯形状以外の単純な構造とされているため、素子の小型化が容易である。したがって、微少量の液滴の攪拌を実現することができる。
【0012】
さらに、本発明に係る攪拌方法は、前記攪拌素子を用い、容器に収容された液体を攪拌することを特徴とする。前記攪拌素子によれば、素子上に滴下した液滴のみならず、容器に収容された液体の攪拌も可能である。
【0013】
本発明に係る電気化学デバイスは、圧電基板と、前記圧電基板の面上に絶縁材料層を介して設けられた電気化学検出用電極パターンと、前記圧電基板の前記電気化学検出用電極パターンとは反対側の面上に設けられた前記圧電基板の同一面上に設けられた一対の近接対向する電極パターン(ただし櫛歯形状を除く。)とを備えることを特徴とする。
以上の電気化学デバイスによれば、電気化学測定と同時に液体を攪拌することができるため、検出時間の短縮を図ることができる。また、構造が単純であるため、デバイスの大型化を招くことがない。
【0014】
本発明に係るフローデバイスは、断面10mm以下の微小流路を備え、前記微小流路中を液体が送液されるフローデバイスであって、前記攪拌素子が前記微小流路の内壁、微小流路近傍の少なくとも一方に配置されることを特徴とする。
微小流路の内壁、微小流路近傍の少なくとも一方に前記攪拌素子を配置することにより、微小流路内の液体の送液と攪拌とを同時に行うことができる。また、前記攪拌素子は単純な構造であるため、攪拌素子を集積してもフローデバイスの大型化を抑えることができる。
【0015】
本発明に係る電気化学測定方法は、前記攪拌素子のいずれかの面上に電気化学検出用電極パターンを備える電気化学デバイスを載せ、電気化学検出と液体の攪拌とを同時に行うことを特徴とする。
電気化学デバイス上の液体試料を攪拌しながら電気化学検出を行うので、液体試料全体について検出を行う必要がある場合、測定時間を短縮することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、弾性表面波素子に比べて電極パターンの形状が単純化され製造コストが安価でありながら、効率よい攪拌処理を実現することができる。また、構造が単純であるため、液滴のような少量の液体の攪拌も容易に行うことができる。加えて、攪拌子を利用しないので、コンタミネーションの問題を発生させることもなく、また、装置の小型化も容易である。
【0017】
また、本発明によれば、構造が単純であるため製造コストが安価であり、また、攪拌と測定とを同時に実現できることから、短時間での検出が可能な電気化学デバイスを提供することができる。また、本発明によれば、微少量の液体の送液と攪拌とを同時に実現可能なフローデバイスを提供することができる。さらに、前記攪拌素子は、入力する電力を高めることにより加湿器やネブライザーへの応用が可能であり、さらに入力電力を高めることにより、ポンプやインクジェットプリンタへの応用も可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を適用した攪拌素子、攪拌方法、電気化学デバイス、フローデバイス及び電気化学測定方法について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0019】
先ず、本発明を適用した攪拌素子の一例について、図1〜図4を参照して説明する。本発明を適用した攪拌素子は、圧電基板と、圧電基板の同一面上に配置された、近接対向する一対の電極パターンとを有して構成される。電極パターンの形状は長方形状や正方形等の多角形状、円形状、円環状等、種種に設定することができるが、本発明では、弾性表面波を発生する微細な櫛歯状(Interdigital Transducer:IDT)は除外する。なお、以下では振動用電極パターンの形状及び配置について具体的に説明するが、これらは単なる例示であり、櫛歯状を除いては種種の形状に設定することができる。
【0020】
図1に示す攪拌素子においては、平板状の圧電基板1の一方の主面A上に、一対の電極パターン(以下、振動用電極パターンと称する。)2が設けられている。圧電基板1は例えばニオブ酸リチウム(LiNbO)等の圧電材料から構成される。圧電基板1の厚みは例えば520μm〜530μmである。
【0021】
振動用電極パターン2は金等の導電性材料から構成される。図1中の振動用電極パターン2は、他方の振動用電極パターン2と最も近接対向する部分である長方形状の対向部2aと、対向部2aから互いに離隔する方向に延び、対向部2aより幅狭の端子部2bとから構成される。端子部2bは交流電源に接続される。振動用電極パターン2においては、対向部2aを構成する辺のうち1辺のみが、他方の電極パターン2における対応する辺に近接対向している。本発明の攪拌素子では振動用電極パターン2間の距離を対向部2a間で最も狭くし、ここで圧電基板1に変形を発生させる。したがって、対向部2a同士の間隔Gを端子部2b同士の間隔G以下、すなわちG≦Gに設定する。より好ましくはG<Gに設定する。
【0022】
長方形状の対向部2aは、その長辺が近接対向するとともに略平行となるように配置されている。対向部2aの長辺同士を近づけ、且つ、略平行に配置することにより、大きな機械的振動が得られる。なお、本発明において長辺が略平行に配置されるとは、完全に平行である必要はなく、僅かな傾きは許容されることを意味する。しかし、傾きの大きさに比例して効率が低下することから、例えば±5°以内の傾きに抑えることが好ましい。
【0023】
図1に示す振動用電極パターン2の対向部2a同士の間隔Gは例えば10mm以下とされる。長方形状の対向部2aの寸法は、例えば短辺方向の長さである電極幅Wが50mm以下、長辺方向の長さ電極長Lが100mm以下程度とされる。
【0024】
対向部2aの電極幅Wは、対向部2a同士の間隔Gと同じかそれより大きいことが好ましい。すなわちW≧Gの関係にあることが好ましい。電極幅Wを間隔Gと同じかそれより大きく設定することにより、大きな出力が得られるからである。
【0025】
図1に示す攪拌素子の振動用電極パターン2間に圧電基板1の厚みで決まる周波数(例えば32MHz〜34MHz)の交流電場を印加すると、圧電基板1のうち振動用電極パターン2とその周辺領域に振動が生じるので、この振動を液体に伝搬させ、液体を攪拌する。
【0026】
本発明の攪拌素子は、0.1μl〜100μl程度の微少量の液滴の攪拌に用いられて好適である。例えば図2に示すように、振動用電極パターン2が形成された主面Aを下方に向け、反対側の主面B上の振動用電極パターン2と重なる位置に攪拌したい液滴Lを置き、振動用電極パターン2に交流電場を印加すると、振動用電極パターン2とその周辺に振動が生じ、液滴Lに伝搬するので、液滴Lを攪拌することができる。なお、圧電基板1の汚れを防ぐために、図3に示すように例えばシリコン基板等の薄板11を介して液滴Lを圧電基板1の主面B上に置いてもよい。ただし、図3に示す場合にはシリコン基板等の薄板11と圧電基板1とで音響インピーダンスのマッチングを取る必要があるため、例えば圧電基板1上に超音波カップリングゲルを塗布し、その上に薄板11を載せることが好ましい。
【0027】
また、本発明の攪拌素子は、容器に収容した液体を攪拌することもできる。図4に示すように、圧電基板1の振動用電極パターン2と反対側の主面B上に攪拌したい液体Lを収容した容器12を置き、交流電場を印加すると、振動用電極パターン2とその周辺領域振動が生じ、容器12を介して液体Lに振動が伝搬するので、液体Lを攪拌することができる。この場合も、前述と同じく、圧電基板1と容器12の音響インピーダンスマッチングを取る必要がある。
【0028】
攪拌させる液体は、圧電基板1の主面A、主面Bのいずれに配置してもよいが、圧電基板1の振動用電極パターン2と反対側の主面B側に配置することが好ましい。攪拌させる液体を液滴の状態で攪拌素子上に載せる場合には、液体が振動用電極パターン2に直接接触することに起因する振動用電極パターン2の汚染を回避できるからである。また、攪拌させる液体を容器に収容した状態で攪拌素子上に載せる場合には、容器との摩擦に起因する振動用電極パターン2の破損を回避できるからである。
【0029】
次に、本発明の攪拌素子が有する振動用電極パターン2の変形例について説明する。例えば図5に示すように、図1に示す振動用電極パターン2から端子部2bを取り除いた長方形状の対向部のみからなるような形状でもよい。ただし、対向部に対応する部分の形状及び配置が同一である場合には、図1に示すように端子部を備える形状の方が、端子部の無い振動用電極パターンに比べて大きな振動を得ることができる。
【0030】
また、近接対向する振動用電極パターン2の対が組み合わされて配置されてもよい。例えば図6に示すように、振動用電極パターン2の対が互いに直交するように配されてもよい。
【0031】
さらに、図7に示すように、一方の振動用電極パターン2を円形状、他方の振動用電極パターン2を円環状とし、これらを同心円状に配置してもよい。なお、少なくとも外側の振動用電極パターンが環状であれば、内側の振動用電極パターンは円形状、円環状のいずれでもよい。
【0032】
振動用電極パターンを同心円状に配置する場合において、外側に配置する環状の振動用電極パターン2の径方向長さをD、振動用電極パターン2同士の間隔をGとしたとき、D≧Gの関係にあることが好ましい。これにより、振動用電極パターン2同士の間隔Gが振動用電極パターン2の径方向長さDより大きい場合(D<G)に比較して、大きな振動が得られる。
【0033】
次に、本発明を適用した攪拌素子の変形例について、図8を参照して説明する。同図に示す攪拌素子においては、1枚の圧電基板1の同一面上に1対の互いに近接対向する振動用電極パターン2が所定の間隔を有してマトリクス状に複数配列されている。同図に示す攪拌素子は、平板状のプレート22に複数の凹部23がマトリクス状に形成されたマイクロプレート21の、凹部23内に収容された液体Lの攪拌に用いられて好適である。図9に示すように、マイクロプレート21の凹部23に重なるように振動用電極パターン2の位置及び数を設定しておけば、複数の凹部23内の液体Lを同時に攪拌できるため、攪拌処理を短時間で完了させることができる。なお、本例では振動用電極パターン2の対がマトリクス状に配置された攪拌素子を示したが、振動用電極パターン2の対の配置及び数はこれに限らず任意に設定することができる。
【0034】
以下、本発明の攪拌素子を備えた攪拌機能付き電気化学デバイスについて、図10及び図11を参照して説明する。
【0035】
図10及び図11に示すプレーナ形の電気化学デバイス51においては、短冊状の圧電基板52の表面A上に、絶縁材料層59を介して、例えばカーボンペースト等の導電性ペーストを印刷してなる導電性パターンが3つ独立して形成されている。各導電性パターンの一端は電気化学測定用の測定電極パターンである作用極53、対極54及び参照極55を構成し、他端はコネクタとの接続部である端子部とされている。プレーナ形印刷電極デバイス51においては、レジストからなる絶縁被膜56に設けられた略円形の開口部56aの内側に作用極53が露出し、作用極53の外周の少なくとも一部を取り囲むように対極54が配置される。また、絶縁被膜56に設けられた矩形状の開口部56bに露出するように参照極55が配置される。この電気化学デバイス1においては、作用極53、絶縁被膜56及び圧電基板52の各表面における疎水性の差を利用して、作用極53上であって絶縁被膜56の開口部56bの内側に測定対象の液滴が載るようになっている。作用極53、対極54及び参照極55が形成された端部とコネクタ側との端部との間には、絶縁被膜56より疎水性の高い表面を有する帯状のダム構造部材57が印刷電極デバイス51のほぼ全幅に亘って絶縁被膜56上に積層されている。これにより、作用極53等の測定電極パターン上に置かれた液体がコネクタとの接続部分へ到達することを防いでいる。なお、本例においては圧電基板52の表面Aの全面に絶縁材料層59を形成しているが、絶縁材料層59は電気化学測定用の測定電極パターンである作用極53、対極54及び参照極55下に少なくとも存在していればよい。
【0036】
一方、圧電基板52の裏面Bには、互いに対向近接する一対の振動用電極パターン58が形成されている。この振動用電極パターン58は、他方の振動用電極パターン58と近接対向する長方形状の対向部58aと、対向部58aから互いに離隔し且つコネクタとの接続部分方向へ延びる端子部58bとから構成される。振動用電極パターン58の対向部58aで挟まれる領域は、表面A側に設けられた作用極53と平面視で重なる位置に配置される。
【0037】
この電気化学デバイスを用いて電気化学測定を行う際、裏面B側の振動用電極パターン58間に交流電場を印加することにより、圧電基板52の対向部58aで挟まれる領域に振動を生じさせる。生じた振動が表面A側の作用極53上に置いた液滴に伝搬するので、液滴を攪拌しながら電気化学測定を行うことが可能となる。
【0038】
なお、前述の電気化学デバイスは、電気化学検出と液体の攪拌との同時処理を、電気化学検出用電極パターンと振動用電極パターンとで支持基板(圧電基板)を共有する構成によって実現したものであるが、電気化学デバイスと攪拌素子とを別個のデバイスとした場合であっても同様に実現できる。図12に示すように、図1に示す構成の攪拌素子の裏面B上に電気化学デバイスを載せることにより、電気化学デバイスの電気化学検出用パターン上の液滴を攪拌しながら電気化学測定を行うことができる。用いる電気化学デバイスとしては特に限定されないが、例えば図10に示す平面形状を有するプレーナ形電気化学デバイスを用いることができる。ただし、本例の場合、電気化学デバイスを構成する基板52は圧電基板である必要はなく、例えば絶縁材料からなる支持基板でよい。なお、攪拌素子と電気化学デバイスとの間に音響インピーダンスをマッチングさせるためのカップリングゲルを介在させることが好ましい。
【0039】
本発明の攪拌素子は、前述の電気化学デバイスに限定されることなく、様々なデバイスに応用することが可能である。例えば、断面10mm以下の微小流路を備えるフローデバイスに適用して好適である。フローデバイスにおいて微小流路の内壁、微小流路近傍の少なくとも一方に、本発明に係る攪拌素子を設けることにより、微小流路内に液体を送液しながら、当該液体に対して攪拌を行うことができ、均一な処理又は反応が可能となる。
【0040】
さらに、本発明の攪拌素子に入力する電力を上げることによって、素子上に滴下した液体の表面が盛り上がり、その盛り上がった液滴に表面波が発生し液滴の噴霧化が起こる。これを利用することによって、加湿器やネブライザーを構成することが可能である。さらに、出力を大きくすると液滴がデバイス中心部から垂直方向に飛散するため、ポンプやインクジェットを構成することも可能である。
【0041】
なお、前述の実施形態においては、攪拌素子における振動用電極パターンの形状及び配置について図を用いて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明の振動用電極パターンの形状及び配置は、弾性表面波を発生する微細な櫛歯状の電極を除いては、少なくとも近接対向する一対の振動用電極パターンを有していれば任意に設定可能である。
【実施例】
【0042】
以下、本発明を適用した実施例について実験結果に基づいて説明する。
【0043】
(実施例1)
ニオブ酸リチウム(LiNbO)からなる圧電基板と、一対の振動用電極パターンとからなる攪拌素子を作製した。圧電基板の厚みは0.5mmである。振動用電極パターンは基板側から厚み100nmのクロム(Cr)と、厚み300nmの金(Au)とが積層されてなる。本例の振動用電極パターンの形状を図13(a)に示す。本例で用いた振動用電極パターンは、幅1mm、長さ3mmの長方形状である。振動用電極パターン間の距離は1mmである。
【0044】
次に、振動用電極パターンの形成面と反対側の面に、振動用電極パターンの対と重なるように200μlの水滴を置いた。その後、振動用電極パターン対にバイポールの33.4MHz,15Wのパルス信号を入力して水滴を攪拌した。攪拌中の水滴の写真を図13(b)に示す。
【0045】
(実施例2)
振動用電極パターンの平面形状を異ならせたこと以外は実施例1と同様にして攪拌素子を作製し、実施例1と同様の条件で水滴を攪拌した。本例の振動用電極パターンの形状を図14(a)に示す。本例で用いた振動用電極パターンは、幅1mm、長さ2mmの長方形状である。振動用電極パターン間の距離は1mmである。攪拌中の水滴の写真を図14(b)に示す。
【0046】
(実施例3)
振動用電極パターンの平面形状を異ならせたこと以外は実施例1と同様にして攪拌素子を作製し、実施例1と同様の条件で水滴を攪拌した。本例の振動用電極パターンの形状を図15(a)に示す。本例で用いた振動用電極パターンは、幅1mm、長さ1mmの長方形状である。振動用電極パターン間の距離は1mmである。攪拌中の水滴の写真を図15(b)に示す。
【0047】
(実施例4)
振動用電極パターンの平面形状及び配置を異ならせたこと以外は実施例1と同様にして攪拌素子を作製し、実施例1と同様の条件で水滴を攪拌した。本例の振動用電極パターンの形状を図16(a)に示す。本例で用いた振動用電極パターンは、幅1mm、長さ1mmの長方形状である。振動用電極パターン間の距離は0.5mmである。攪拌中の水滴の写真を図16(b)に示す。
【0048】
(実施例5)
振動用電極パターンの平面形状及び配置を異ならせたこと以外は実施例1と同様にして攪拌素子を作製し、実施例1と同様の条件で水滴を攪拌した。本例の振動用電極パターンの形状を図17(a)に示す。本例で用いた振動用電極パターンは、幅1mm、長さ1mmの長方形状である。振動用電極パターン間の距離は1.5mmである。攪拌中の水滴の写真を図17(b)に示す。
【0049】
(実施例6)
振動用電極パターンの平面形状及び配置を異ならせたこと以外は実施例1と同様にして攪拌素子を作製し、実施例1と同様の条件で水滴を攪拌した。本例の振動用電極パターンの形状を図18(a)に示す。本例で用いた振動用電極パターンは、幅2mm、長さ2mmの長方形状である。振動用電極パターン間の距離1mmである。攪拌中の水滴の写真を図18(b)に示す。
【0050】
(実施例7)
振動用電極パターンの平面形状及び配置を異ならせたこと以外は実施例1と同様にして攪拌素子を作製し、実施例1と同様の条件で水滴を攪拌した。本例の振動用電極パターンの形状を図19(a)に示す。本例で用いた振動用電極パターンは、直径2mmの円形状である。振動用電極パターン間の距離は1mmである。攪拌中の水滴の写真を図19(b)に示す。
【0051】
(実施例8)
振動用電極パターンの平面形状及び配置を異ならせたこと以外は実施例1と同様にして攪拌素子を作製し、入力した電力が10Wであること以外は実施例1と同様の条件で水滴を攪拌した。本例において入力電圧を実施例1より小さくした理由は、本例の振動用電極パターンは振動効率が高く、小さい入力電圧で大きな出力が得られるからである。本例の振動用電極パターンの形状を図20(a)に示す。本例で用いた振動用電極パターンは、一方が直径1mmの円形状、他方が幅1mmの円環状である。これら振動用電極パターンは同心円状に配置した。振動用電極パターン間の距離は0.5mmである。攪拌中の水滴の写真を図20(b)に示す。
【0052】
(実施例9)
振動用電極パターンの平面形状及び配置を異ならせたこと以外は実施例1と同様にして攪拌素子を作製し、入力した電力が10Wであること以外は実施例1と同様の条件で水滴を攪拌した。本例において入力電圧を実施例1より小さくした理由は、本例の振動用電極パターンは振動効率が高く、小さい入力電圧で大きな出力が得られるからである。本例の振動用電極パターンの形状を図21(a)に示す。本例で用いた振動用電極パターンは、一方が内径1mmであり幅0.5mmの円環状、他方が幅0.5mmの円環状である。これら振動用電極パターンは同心円状に配置した。振動用電極パターン間の距離は0.5mmである。攪拌中の水滴の写真を図21(b)に示す。
【0053】
(実施例10)
振動用電極パターンの平面形状及び配置を異ならせたこと以外は実施例1と同様にして攪拌素子を作製し、実施例1と同様の条件で水滴を攪拌した。本例の振動用電極パターンの形状を図22(a)に示す。本例で用いた振動用電極パターンは、一方が直径1mmの円形状、他方が幅0.5mmの円環状である。これら振動用電極パターンは同心円状に配置した。振動用電極パターン間の距離は1mmである。攪拌中の水滴の写真を図22(b)に示す。
【0054】
以上の実施例1〜実施例10のいずれにおいても、近接対向する振動用電極パターンで挟まれる領域の圧電基板に振動が生じており、素子上に置いた水滴を攪拌することができた。
【0055】
また、振動用電極パターンの長さが異なる実施例1〜実施例3(図13〜図15)で出力を比較したところ、実施例1が最も強く、実施例3が最も弱かった。振動用電極パターン間の距離を異ならせた実施例4(図16)と実施例5(図17)とで出力を比較したところ、パターン間隔の狭い実施例4でより強い出力が得られた。なお、振動によって水滴の上部に隆起するパターンは、振動用電極パターンの平面形状に類似していた。
【0056】
実施例1〜実施例5に比較して振動用電極パターンの面積を大きくした実施例6(図18)と実施例7(図19)の出力については、実施例1〜実施例5の出力と大差なかった。したがって、振動用電極パターンの面積を大きくしても単純に出力が強くなるわけではないことがわかった。
【0057】
振動用電極パターンを同心円状に配置した実施例8(図20)〜実施例10(図22)で出力を比較すると、振動用電極パターンの周囲のうち他方の振動用電極パターンと対向する部分の長さが長く、振動用電極パターン間の距離が狭い実施例8(図20)で最も大きい出力が得られた。なお、一方の振動用電極パターンの幅よりも振動用電極パターン間の距離が広い実施例10(図22)の出力は最も弱かった。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明を適用した攪拌素子の一実施形態を示す斜視図である。
【図2】攪拌素子の使用状態の一例を示す断面図である。
【図3】攪拌素子の使用状態の一例を示す断面図である。
【図4】攪拌素子の使用状態の一例を示す断面図である。
【図5】振動用電極パターン対の変形例を示す平面図である。
【図6】振動用電極パターン対の変形例を示す平面図である。
【図7】振動用電極パターン対の変形例を示す平面図である。
【図8】本発明を適用した攪拌素子の他の実施形態を示す平面図である。
【図9】図8に示す攪拌素子の使用状態を示す断面図である。
【図10】攪拌素子を備えるプレーナ形電気化学デバイスを示す平面図である。
【図11】図10に示す電気化学デバイスの断面図である。
【図12】図1に示す攪拌素子上に電気化学デバイスを載せた状態を示す断面図である。
【図13】(a)は実施例1の振動用電極パターンの平面図であり、(b)は実施例1の攪拌素子を用いて液滴を攪拌した状態の写真である。
【図14】(a)は実施例2の振動用電極パターンの平面図であり、(b)は実施例2の攪拌素子を用いて液滴を攪拌した状態の写真である。
【図15】(a)は実施例3の振動用電極パターンの平面図であり、(b)は実施例3の攪拌素子を用いて液滴を攪拌した状態の写真である。
【図16】(a)は実施例4の振動用電極パターンの平面図であり、(b)は実施例4の攪拌素子を用いて液滴を攪拌した状態の写真である。
【図17】(a)は実施例5の振動用電極パターンの平面図であり、(b)は実施例5の攪拌素子を用いて液滴を攪拌した状態の写真である。
【図18】(a)は実施例6の振動用電極パターンの平面図であり、(b)は実施例6の攪拌素子を用いて液滴を攪拌した状態の写真である。
【図19】(a)は実施例7の振動用電極パターンの平面図であり、(b)は実施例7の攪拌素子を用いて液滴を攪拌した状態の写真である。
【図20】(a)は実施例8の振動用電極パターンの平面図であり、(b)は実施例8の攪拌素子を用いて液滴を攪拌した状態の写真である。
【図21】(a)は実施例9の振動用電極パターンの平面図であり、(b)は実施例9の攪拌素子を用いて液滴を攪拌した状態の写真である。
【図22】(a)は実施例10の振動用電極パターンの平面図であり、(b)は実施例10の攪拌素子を用いて液滴を攪拌した状態の写真である。
【符号の説明】
【0059】
1 圧電基板、2 振動用電極パターン、2a 対向部、2b 端子部、4 電極パターン対、11 薄板、12 容器、21 マイクロプレート、22 プレート、23 凹部、51 プレーナ形電気化学デバイス、52 圧電基板、53 作用極、54 対極、55 参照極、56 絶縁被膜、57 ダム構造部材、58 振動用電極パターン、58a 対向部、58b 端子部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板と、前記圧電基板の同一面上に設けられた一対の近接対向する電極パターン(ただし櫛歯形状を除く。)とを備えることを特徴とする攪拌素子。
【請求項2】
前記電極パターンを構成する辺のうち1辺のみが、他方の電極パターンにおける対応する辺に近接対向することを特徴とする請求項1記載の攪拌素子。
【請求項3】
前記電極パターンの少なくとも互いに近接対向する対向部の形状が長方形状であり、
前記対向部の長辺が互いに近接対向するとともに略平行に配置されていることを特徴とする請求項2記載の攪拌素子。
【請求項4】
前記電極パターンの前記対向部の短辺方向の長さをW、前記電極パターンの前記対向部同士の間隔をGとしたとき、W≧Gの関係にあることを特徴とする請求項3記載の攪拌素子。
【請求項5】
前記電極パターンは前記対向部と当該対向部の長手方向に延びる端子部とを有し、
前記電極パターンの前記対向部同士の間隔をG、前記端子部同士の間隔をGとしたとき、G≦Gの関係にあることを特徴とする請求項3記載の攪拌素子。
【請求項6】
少なくとも一方の電極パターンが環状であり、各電極パターンが同心円状に配置されていることを特徴とする請求項1記載の攪拌素子。
【請求項7】
外側の前記電極パターンの径方向の長さをD、前記電極パターン同士の間隔をGとしたとき、D≧Gの関係にあることを特徴とする請求項6記載の攪拌素子。
【請求項8】
前記圧電基板の一方の主面上に前記電極パターンの対が複数設けられていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項記載の攪拌素子。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項記載の攪拌素子を用い、前記攪拌素子を構成する前記圧電基板の前記電極パターンが形成された主面と反対の主面側に攪拌する液体を配置することを特徴とする攪拌方法。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか1項記載の攪拌素子を用いて液滴を攪拌することを特徴とする攪拌方法。
【請求項11】
請求項1〜8のいずれか1項記載の攪拌素子を用いて容器に収容された液体を攪拌することを特徴とする攪拌方法。
【請求項12】
圧電基板と、
前記圧電基板の面上に絶縁材料層を介して設けられた電気化学検出用電極パターンと、
前記圧電基板の前記電気化学検出用電極パターンとは反対側の面上に設けられた一対の近接対向する電極パターン(ただし櫛歯形状を除く。)とを備えることを特徴とする電気化学デバイス。
【請求項13】
前記電極パターンの対で挟まれる領域と前記電気化学検出用電極パターンとが平面視で重なることを特徴とする請求項12記載の電気化学デバイス。
【請求項14】
断面10mm以下の微小流路を備え、前記微小流路中を液体が送液されるフローデバイスであって、
請求項1〜8のいずれか1項記載の攪拌素子が前記微小流路の内壁、微小流路近傍の少なくとも一方に配置されることを特徴とするフローデバイス。
【請求項15】
請求項1〜8のいずれか1項記載の攪拌素子のいずれかの面上に電気化学検出用電極パターンを備える電気化学デバイスを載せ、電気化学検出と液体の攪拌とを同時に行うことを特徴とする電気化学測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2008−307505(P2008−307505A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−160252(P2007−160252)
【出願日】平成19年6月18日(2007.6.18)
【出願人】(304024430)国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学 (169)
【出願人】(591040236)石川県 (70)
【Fターム(参考)】