説明

攪拌装置

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、化学・薬品・食品工業等における少量多品種生産での多様な粘性流体のバッチ処理や、運転時、反応又は溶解等により液粘性が広範囲に変化して槽内流動が乱流から層流まで変化するプロセスにおいて使用できる攪拌装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】攪拌槽内の液流動特性は、低粘度領域(乱流域)と高粘度領域(層流域)とでは大きく異なり、その流動・混合形態も変化する。特に、低粘度領域では、流体と翼との共回り現象により軸部に固体的回転部が形成され混合不良が生じるため、一般的に、槽内に邪魔板を設置することが不可欠とされている。しかし、低粘度領域では不可欠である邪魔板も、液粘度の増大によりその結果が低下し、高粘度領域(層流域)では邪魔板背面部の滞留・付着を誘発する原因となる。また、低濃度スラリ−液の場合に邪魔板は固体粒子の均一分散性に極めて有効となるが、スラリ−濃度増大時には槽壁部での固体粒子の滞留・堆積・固化を助長する原因となってしまう。
【0003】従って、従来、広範囲の粘性変化が生じるプロセス等の場合は、低・中・高の各粘度領域毎に攪拌槽内に邪魔板を設置するか否かを決定し、適宜適当な形状の攪拌翼を選定していた。また、攪拌槽を多段化することにより対応していた。そして、攪拌翼の形状により対応する場合、例えば図6に示す如く、攪拌槽1内にその側壁内面に沿って回転可能なヘリカルリボン翼12を配設し、攪拌槽1内中心部に設けられた攪拌軸13に、前記ヘリカルリボン翼12と逆方向に回転可能なパドル翼13を放射状に設けている(特開昭57−45332号公報参照)。
【0004】また、邪魔板の使用及び攪拌翼の形状により対応する場合、例えば図7に示す如く、攪拌槽1内中心部に設けられた攪拌軸2の下部に攪拌槽1の底壁内面に沿った平板状翼6を設け、この平板状翼に連続した格子状翼7を前記攪拌軸2の上部に設けると共に、攪拌槽1の側壁内面に下部から上部まで軸方向に沿う複数本の邪魔板14を間隔を置いて設けている(特公平1−37173号公報参照)。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】ヘリカルリボン翼12及びパドル翼13を攪拌翼として使用した前者の攪拌装置では、複雑な攪拌翼により仕込み・抜き出し・移送等の工程が煩雑化し、トラブル発生の原因となる。槽底部に有効な翼が配置されていないから、槽底部での液流動が極端に悪化する。また、少量仕込みからの運転が不可能である。ヘリカルリボン翼12より内側のパドル翼13は多段に設けられているから、各段のパドル翼13により発生した循環流は各段間の中間面で衝突して滞留部が形成され、そこを境として各段間の混合が悪くなる。液レベルの変化時、液面位置と翼取付け位置との関係が変化するから、液レベルの変化により混合状況に差が生じる。パドル翼13による槽半径方向の吐出し流が、外側のヘリカルリボン翼12の下降流を阻害するから、結果として全体循環流が低下するという不都合を免れなかった。
【0006】また、平板状翼6とこれに連続した格子状翼7を攪拌翼として使用し、かつ、邪魔板14を併用した後者の攪拌装置では、前者の攪拌装置のような不都合はなく、攪拌翼の有する流動特性により混合時間の短縮、適用粘度領域の広さ等の面で優れているが、前述したように邪魔板14が液粘度上昇時に邪魔板背面部での滞留部形成の原因となったり、高粘度領域では流動不良の原因となる。また、スラリ−濃度増大時に槽壁部での滞留・堆積・固化の原因となってしまうという不都合を免れなかった。
【0007】この発明は前記後者の攪拌装置が有する課題を解決するためになしたもので、高粘度・高濃度時にも液混合性に有効に働くようにして単一装置での適用領域を飛躍的に拡大すると共に、高濃度時における槽側壁部での滞留・堆積・固化を防止することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】前記目的を達成するために、図1又は図2に示す如く、この発明は、攪拌槽1内中心部に設けられた攪拌軸2に、攪拌槽1の底壁内面に沿った平板状翼6を有し、かつ、この平板状翼6に連続した格子状翼7を有する攪拌翼を装着すると共に、前記攪拌槽1内に、攪拌翼の回りを攪拌槽1の側壁内面に沿って回転可能な上下方向に延在した邪魔板10を配設し、この邪魔板10と前記攪拌翼を互いに独立して回転可能に設けたものである。
【0009】
【実施例】以下、この発明の実施例により説明する。図1R>1において、図中1は円筒形攪拌槽で、この攪拌槽1内の中心部には底壁付近まで延在する内側攪拌軸2と、液面レベルより上方の位置まで延在する外側攪拌軸3とが相対的に回転可能に嵌合状態で配設されている。これら攪拌軸2,3は攪拌槽1の頂壁上部に設けた駆動装置4,5により夫々互いに独立して停止・回転可能である。また、夫々の攪拌軸2,3の回転方向及び速度をも個別に制御可能となっている。
【0010】6は前記攪拌槽1の底壁内面に沿って設けた平板状翼で、内側攪拌軸2の下部に装着されると共に、攪拌槽1の底壁内面と摺接している。この平板状翼6は、従来公知のパドル翼と馬蹄型翼、アンカ−型翼の両特性(吐出、剪断掻取り)、つまり液を槽半径方向に吐出するパドル翼の特性と、壁面付着物の掻取り、飛散、浮遊させる馬蹄型翼、アンカ−型翼の特性とを併せ備えている。
【0011】7は前記平板状翼6に連続して設けた格子状翼で、平板状翼6と同様に内側攪拌軸2に装着されている。この格子状翼7は、槽半径方向に延在する板棒状の横リブ8と、この横リブ8と直角に上下方向に延在する板棒状縦ストリップ9とから構成されており、回転時、各構成部材端で液を剪断し細分化すると共に、各構成部材の後側で発生する微小の渦により前記細分化された液を混合する特性を備えている。
【0012】従って、前記平板状翼6と格子状翼7は一体として攪拌翼を形成する。以下、両者を併せて攪拌翼という。尚、前記格子状翼7は、横リブ8の全部に跨がって縦ストリップ9を設けた例について説明したが、夫々の横リブ8に互いに独立して縦ストリップ9を設けても良い。また、横リブ8は格子状翼7を補強するためのものであり、その本数は翼の寸法により定められ実施例のように2本に限られないことは勿論である。
【0013】10は邪魔板で、外側撹拌軸3に設けた連結リブ11の先端に着脱可能に取り付けられ、図2に示す如く、撹拌翼6、7の回転範囲の外側で撹拌槽1の側壁内面と摺接するように上下方向に延設されている。即ち、図2(a)は、邪魔板10を撹拌槽1の側壁に沿って、上下方向にストレートに配設した場合の例である。この邪魔板10の断面形状は種のものが考えられるが、一般的には図3(a)に示す如く、断面矩形の平板状とする場合が多いが、図3(b)に示すような断面3角形状のもの、3(c)に示すような断面半円形状のもの或いは図3()に示すような断面T字状のものであってもよい。
【0014】また、図2(b),(c)は邪魔板に迎えをつけた場合の例を示すもので、図2(b)は攪拌槽の長さを基準として0.5ピッチの迎え角をつけた場合、図2(c)は同じく1.0ピッチの迎え角をつけた場合の例を示している。なお、この迎え角はあまり多いと効果が小さく1.5ピッチ以下であることが望ましい。この邪魔板10,10’,10”は、前記平板状翼6の回転により攪拌槽の半径方向に吐き出された吐出流を槽側壁内面に沿って上昇させて槽内に循環流を形成する特性と、壁面付着物を掻取り,飛散,浮遊させる特性と、粘度増大時、滞留しないように液を押して槽側壁部での流速低下を低減する特性とを備えている。尚、前記邪魔板10,10’,10”は、複数枚使用した例について説明したが、使用条件に応じて邪魔板10,10’,10”の枚数を適宜加減(1枚でも可)変更しても良い。
【0015】図5は本発明の他の実施例を示すものである。図5に示したものは、前記した図1の例では、攪拌軸を内側攪拌軸2と外側攪拌軸3の二重軸で構成していたものを、内側攪拌軸2に相当する攪拌翼用攪拌軸2’を攪拌槽1の頂壁上部に設けた駆動装置4’によって駆動し、外側攪拌軸3に相当する邪魔板用攪拌軸3’を攪拌槽1の底部に設けた駆動装置5’によって駆動するようにしている点に相違するが、その他の構成は図1に示したものと同一であるので、詳細な説明は割愛する。
【0016】また、図示は省略するが、図1に示した攪拌軸2,3を二重軸としたもので駆動装置4,5を攪拌槽1の底部に設け、下部から駆動してもよいし、図5に示した例で攪拌翼用攪拌軸2’の駆動装置4’を攪拌槽1の下部に設け、邪魔板用攪拌軸3’の駆動装置5’を攪拌槽1の頂壁上部に設けるようにしてもよい。
【0017】以上の構成において、攪拌翼6,7が装着された攪拌軸2,2’と、邪魔板10,10’,10”が装着された攪拌軸3,3’とは駆動装置4,4’、5,5’(外部駆動系)により夫々異なった速度で回転され、かつ、回転方向も対象液・操作目的により適宜設定される。また、両攪拌軸2,2’、3,3’の回転比は液特性により適宜設定変更される。内側攪拌軸2により攪拌翼6,7を回転させ、かつ、攪拌軸3,3’により邪魔板10,10’,10”を回転させると、攪拌槽1内には次のような流動が形成される。
【0018】図4は横軸を攪拌する液の粘度(POISE)を、縦軸を攪拌翼の回転数の絶対値(N1)と邪魔板の回転数の絶対値(N2)との回転数比をとり、粘度と攪拌翼及び邪魔板の回転数との関係を示したものである。攪拌する材料(液)の性質によっても異なるが、一般的に、低粘度領域では、攪拌翼6,7と邪魔板10,10’,10”が大きな回転数比をもって回転される。この場合、攪拌翼下部の平板状翼6により液が槽低壁内面への付着を防止されつつ槽半径方向に吐出され、この吐出流は邪魔板10,10’,10”との干渉により円運動を抑制されて槽側壁内面に沿い槽上部へと上昇させられ、次いで槽上部の側壁側から中心側へと移動して攪拌軸2,2’に沿って下方に移動し、平板状翼6の所に戻る大きな循環流が攪拌槽1内に形成される。また、攪拌翼上部の格子状翼7の横リブ8及び縦ストリップ9により前記循環流の内、攪拌軸2,2’に沿って下降する下降流に対して垂直に剪断が行われ、低動力で液は細分化されると共に、前記横リブ8及び縦ストリップ9の後側に生じる微小の渦により前記細分化された液が混合され、短時間で均一混合が行われる。
【0019】一方、高粘度領域では、攪拌翼6,7と邪魔板10,10’,10”は比較的小さな回転数比をもって回転される。この場合、邪魔板10,10’,10”により壁面付着物が掻取られ飛散、浮遊させられると共に、粘度増大時、槽側壁部での液流速の低下が低減される。また、回転する邪魔板10.10’,10”の背面部には滞留・停滞部が生じない。従って、均一混合に必要な前記循環流の形成、液の細分化・混合が良好に行われ、また壁面付着物の掻取りによって槽側壁部での滞留・付着が大幅に減少する。更に、高濃度スラリ−液のような場合、回転する邪魔板10,10’,10”により壁面堆積物が凝集・固化前に掻取られて更新される。
【0020】
【発明の効果】この発明は以上の構成よりなり、次の効果を奏するものである。■ 攪拌翼と邪魔板を速度差をもって回転させることによって攪拌槽内に循環流を形成できると共に、攪拌翼上部の格子状翼により前記循環流のうち、内側攪拌軸に沿って下降する下降流を剪断して液を細分化し、この細分化された液を格子状翼の各構成部材の後側に生じる微小の渦により効率良く混合できる。特に問題となる高粘度・高濃度時でも、邪魔板より背面部に滞留・付着を生じさせることなく槽側壁部での滞留・堆積・固化・付着・融着(スラリ−液加熱時)を防止して飛散浮遊させ、未溶解物の溶解を促進し、かつ、槽側壁部での液流速低下を低減させるから、前記のような液混合性を確保できる。従って、均一混合性能、良好な伝熱・分散性能の維持向上が可能となり、また低粘度領域(乱流域)から高粘度領域(層流域)まで安定した混合特性を得ることができるから、反応槽として有効である。
【0021】■ 前述のような優れた液混合性から晶析・乳化重合・高凝集性スラリ−等の攪拌に際して極めて低い翼回転・動力での運転が可能となる。
【0022】■ 邪魔板の流れ方向に対して迎え角をつけることによって高粘度時の槽側壁内面に沿った上昇循環流を増加させることができる。
【0023】■ 攪拌翼の回転速度及び方向に対して邪魔板の回転速度及び方向を調整することによって攪拌槽内の液に与える剪断力を制御可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例を示す正断面図である。
【図2】本発明の邪魔板の例を示す概略図である。
【図3】本発明の邪魔板の断面形状を示す図である。
【図4】本発明の液粘度と攪拌翼と邪魔板の回転比の関係を示す図である。
【図5】本発明の他の実施例を示す正断面図である。
【図6】従来例を示す正断面図である。
【図7】従来例を示す正断面図である。
【符号の説明】
1 円筒形攪拌槽
2 内側攪拌軸
3 外側攪拌軸
4 駆動装置
5 駆動装置
6 平板状翼
7 格子状翼
8 横リブ
9 縦ストリップ
10 邪魔板
11 連結リブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】 攪拌槽内中心部に設けられた攪拌軸に、攪拌槽底壁内面に沿った平板状翼を有し、かつ、この平板状翼に連続した格子状翼を有する攪拌翼を装着すると共に、前記攪拌槽内に、攪拌翼の回りを攪拌槽側壁内面に沿って回転可能な上下方向に延在した邪魔板を配設し、この邪魔板と前記攪拌翼を互いに独立して回転可能に設けたことを特徴とする攪拌装置。
【請求項2】 攪拌翼用の攪拌軸を攪拌槽の上部又は下部に突出させ、邪魔板用の攪拌軸を攪拌槽の下部又は上部に突出させたことを特徴とする請求項1に記載の攪拌装置。
【請求項3】 攪拌軸を二重軸として攪拌槽の上部又は下部に突出させ、かつ、内側の軸を攪拌翼回転用とし、外側の軸を邪魔板回転用としたことを特徴とする請求項1に記載の攪拌装置。
【請求項4】 邪魔板を攪拌槽の側壁に沿ったストレ−ト板としたことを特徴とする請求項1乃至3に記載の攪拌装置。
【請求項5】 邪魔板に攪拌槽の長さを基準として1.5ピッチ以下の迎え角をつけたことを特徴とする請求項1乃至3に記載の攪拌装置。

【図2】
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【図3】
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【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【特許番号】特許第3110781号(P3110781)
【登録日】平成12年9月14日(2000.9.14)
【発行日】平成12年11月20日(2000.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−65705
【出願日】平成3年3月5日(1991.3.5)
【公開番号】特開平4−215829
【公開日】平成4年8月6日(1992.8.6)
【審査請求日】平成8年7月11日(1996.7.11)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【参考文献】
【文献】特開 平2−95426(JP,A)
【文献】特公 平1−37173(JP,B2)