説明

支承装置および支承構造

【課題】水平変位が大きくなり過ぎるのを防止しつつ、低コスト化および小型化を実現でき、かつ、コンクリートを確実に充填できる支承装置を提供すること。
【解決手段】平板状の基部50と、この基部50の表面に沿って移動可能に設けられた移動部60と、この移動部に回転可能に支持された70回転部と、を備え、基部50および移動部60の互いに当接する面には、それぞれ、フッ素樹脂シート52、63が貼り付けられている。この発明によれば、鉄骨梁20が撓んでも、鉄骨柱11と鉄骨梁20との接合部分に大きい曲げモーメントや大きい水平力が加わるのを防止できる。また、基部50と移動部60との当接面にフッ素樹脂シート52、63を貼り付けて、互いに摺動する滑り支承とした。よって、従来のようにローラを設けないので、低コストであり、さらに、コンクリートを打設する際にコンクリートを確実に充填できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、支承装置および支承構造に関する。例えば、鉄骨柱と鉄骨梁との間に設けられる支承装置およびこの支承装置を用いた支承構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、大スパンの空間を構築するために、例えば、所定間隔離れて配置された複数の柱と、これら柱間に架設されたアーチ状やトラス状の鉄骨梁と、を備える構造物が知られている。
【0003】
しかしながら、鉄骨梁上にコンクリートスラブを構築すると、鉄骨梁が下方に撓むため、柱頭と鉄骨梁との接合部分に曲げモーメントや水平力が発生する、という問題があった。
【0004】
この問題を解決するため、鉄骨柱の柱頭と鉄骨梁との取合い部分に、ピン・ローラ支承を設けることが提案されている(特許文献1参照)。
このピン・ローラ支承は、平板状の底板と、この底板に対して水平移動可能に設けられた下シューと、この下シューに回転可能に支持された上シューと、を備える。底板と下シューとの間には、高硬度の複数のローラが設けられており、このローラが回転することにより、下シューは底板に対して水平移動する。
よって、柱頭と鉄骨梁との接合部分に大きい曲げモーメントや大きい水平力が加わるのを防止できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−1403号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、以上のローラ支承は、接合部分に加わる水平力を低減する効果は高いものの、水平変位が大きくなり過ぎる場合があった。
また、ローラ支承は鉛直荷重支持面積つまり接触面積が小さいため、鉛直荷重を支持するために、支承を大型化する必要があった。
底板と下シューとの隙間が狭いため、柱頭と鉄骨梁との接合部分にコンクリートを打設する必要がある場合には、ローラの周囲にコンクリートが十分に廻らないおそれがあった。
また、高耐荷重のローラ支承は、ローラや支圧板を精度良く加工する必要があるため、製造コストが上昇するという問題があった。
また、ローラの可動方向を導くガイドが必要となるため、製作コストが上昇するうえに支承が大型化する、という問題があった。
【0007】
本発明は、水平変位が大きくなり過ぎるのを防止しつつ、低コスト化および小型化を実現でき、かつ、コンクリートを確実に充填できる支承装置および支承構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の支承装置は、平板状の基部と、当該基部の表面に沿って滑ることにより移動可能に設けられた移動部と、当該移動部に回転可能に支持された回転部と、を備え、前記基部および前記移動部の互いに当接する面のうち少なくとも一方には、低摩擦シートが貼り付けられていることを特徴とする。
【0009】
この発明によれば、基部を鉄骨柱の柱頭部に接合し、回転部を鉄骨梁に接合することで、鉄骨梁が撓んでも、鉄骨柱と鉄骨梁との接合部分に大きい曲げモーメントや大きい水平力が加わるのを防止できる。
また、基部と移動部との当接面のうち少なくとも一方に低摩擦シートを貼り付けて、互いに摺動する滑り支承とした。よって、従来のようにローラを設けないので、低コストであり、さらに、コンクリートを打設する際にコンクリートを確実に充填できる。
また、滑り支承としたので、ローラ支承のように水平変位が大きくなり過ぎるのを防止できる。
また、滑り支承はローラ支承に比べて鉛直荷重支持面積つまり接触面積が大きいため、支承を小型化できる。
【0010】
なお、低摩擦シートの耐久性はそれほど高くないが、このような低摩擦シートを用いても、構造上の問題はない。その理由は、以下の通りである。
すなわち、構造物を以下の手順で施工する。まず、鉄骨柱および鉄骨梁の建方を行う。その後、鉄骨柱を支承装置の周囲以外の部分のコンクリートを打設し、その後、鉄骨梁に鉛直荷重を作用させる。この荷重により支承装置が動作した後、支承装置の周囲のコンクリートを打設する。
【0011】
ここで、支承装置は、柱頭部に設置されているため、コンクリート打設により柱躯体の内部に埋もれてしまう。そのため、従来のような高硬度のローラは不要であり、鉄骨建方を行った後に、支承装置の周囲のコンクリートを打設するまでの期間だけ、滑り支承装置が機能すれば十分であるからである。
【0012】
請求項2に記載の支承装置は、前記低摩擦シートには、潤滑材が塗布されていることを特徴とする。
【0013】
この発明によれば、低摩擦シートに潤滑材を塗布したので、摺動面の摩擦抵抗を低減でき、円滑に摺動できる。
【0014】
請求項3の支承構造は、鉄骨鉄筋コンクリート造の柱と、当該柱の上端に支持される鉄骨梁と、を備える支承構造であって、前記柱内の鉄骨柱と前記鉄骨梁の接合部分には、上述の支承装置が組み込まれることを特徴とする。
【0015】
請求項4の支承構造は、前記支承装置を組み込んで鉄骨建方を行って、当該支承装置の回転および滑りを可能とし、次に、前記支承装置の周囲にコンクリートを打設することにより、前記支承装置の回転および滑りを固定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、基部を鉄骨柱の柱頭部に接合し、回転部を鉄骨梁に接合することで、鉄骨梁が撓んでも、鉄骨柱と鉄骨梁との接合部分に大きい曲げモーメントや大きい水平力が加わるのを防止できる。また、基部と移動部との当接面のうち少なくとも一方に低摩擦シートを貼り付けて、互いに摺動する滑り支承とした。よって、従来のようにローラを設けないので、低コストであり、さらに、コンクリートを打設する際にコンクリートを確実に充填できる。また、滑り支承としたので、ローラ支承のように水平変位が大きくなり過ぎるのを防止できる。また、滑り支承はローラ支承に比べて鉛直荷重支持面積つまり接触面積が大きいため、支承を小型化できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態に係る支承装置が適用された建物の構造体の側面図である。
【図2】前記実施形態に係る支承装置の側面図である。
【図3】前記実施形態に係る支承装置の別の側面図である。
【図4】前記実施形態に係る建物を構築する手順を説明するための側面図(その1)である。
【図5】前記実施形態に係る建物を構築する手順を説明するための側面図(その2)である。
【図6】前記実施形態に係る建物を構築する手順を説明するための側面図(その3)である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る支承装置が適用された建物1の構造体の側面図である。
建物1は、鉄骨鉄筋コンクリート造であり、地下躯体2と、この地下躯体2の上に構築された大空間を有する地上躯体3と、を備える。
地上躯体3は、所定間隔で離れて配置された鉄骨鉄筋コンクリート造の柱10と、これら柱10の間に架設されたトラス状の鉄骨梁20と、この鉄骨梁20上に設けられた屋上スラブ30と、を備える。屋上スラブ30上には、植栽31が設けられている。
柱10は、鉄骨柱11の周囲にコンクリート打設して構築されており、鉄骨柱11の柱頭と鉄骨梁20との接合部分には、支承装置40が設けられている。
【0019】
図2は、支承装置40の側面図であり、図3は、支承装置40の別の側面図である。
支承装置40は、平板状の基部50と、この基部50の表面に沿って移動可能に設けられた平板状の移動部60と、この移動部60に回転可能に支持された回転部70と、基部50を支持しつつ移動部60および回転部70の移動を規制する規制部80と、を備える。
【0020】
規制部80は、鉄骨柱11の柱頭部から上方に向かって延びる8本のボルト81と、このボルト81の異なる高さ位置に螺合された下ナット82、中間ナット83、上ナット84と、を備える。
【0021】
基部50は、8箇所に円形の貫通孔53が形成された平板状の基部プレート51と、基部プレート51の上面に貼り付けられた低摩擦シートとしてのフッ素樹脂シート52と、を備える。
この基部プレート51の貫通孔53には、上述のボルト81が挿通されており、基部プレート51の下端面には、下ナット82が当接している。これにより、基部50は下ナット82に支持されている。
【0022】
移動部60は、平板状の移動部プレート61と、この移動部プレート61から上方に突出する6つの突出部62と、移動部プレート61の下面に貼り付けられた低摩擦シートとしてのフッ素樹脂シート63と、を備える。
移動部プレート61には、8箇所に長孔64が形成されている。
6つの突出部62には、それぞれ、同軸上に位置する貫通孔65が形成されている。
【0023】
移動部プレート61の長孔64には、上述のボルト81が挿通されており、この状態で、移動部60のフッ素樹脂シート63は、基部50のフッ素樹脂シート52に当接している。これらフッ素樹脂シート52、63には、潤滑材としてのシリコーン系のグリスが塗布されている。
これにより、移動部60は、長孔64の幅寸法の範囲内で、基部50の表面に沿って滑ることにより移動可能となっている。
【0024】
回転部70は、平板状の回転部プレート71と、この回転部プレート71から下方に突出する4つの突出部72と、を備える。
回転部プレート71には、8箇所に長孔73が形成されている。
4つの突出部72には、それぞれに、同軸上に位置する貫通孔74が形成されている。
【0025】
移動部プレート61の長孔64には、上述のボルト81が挿通されている。また、突出部72は、移動部60の突出部62同士の隙間に挿入されて、移動部60の突出部62の貫通孔65と回転部70の突出部72の貫通孔74とは、同軸となっている。この状態で、貫通孔65および貫通孔74には、軸部75が挿入されており、これにより、回転部70は、移動部60に回転可能に支持される。
【0026】
鉄骨梁20の両端部には、接合プレート21が設けられており、この接合プレート21は、回転部70の回転部プレート71の上面に接合している。
接合プレート21には、8箇所に長孔22が形成されている。
【0027】
回転部プレート71の長孔73および接合プレート21の長孔22には、上述のボルト81が挿通されて、この状態で、回転部プレート71および接合プレート21は、中間ナット83および上ナット84で挟まれて支持されている。
【0028】
以上の支承装置40によれば、規制部80により規制された所定の範囲内で、鉄骨梁20に接合された回転部70は、鉄骨柱11の柱頭に設けられた基部50に対して、水平方向に移動可能かつ回転可能となっている。
【0029】
以上のような建物1は、以下の手順で構築される。
まず、図4に示すように、地下躯体2を構築し、鉄骨柱11および鉄骨梁20の建方を行う。このとき、支承装置40を鉄骨柱11の柱頭と鉄骨梁20との接合部分に組み込んで、回転部70の基部50に対する回転および滑りを可能としておく。
おく。続いて、この支承装置40の周囲を除いて、鉄骨柱11にコンクリートを打設する。
【0030】
次に、図5に示すように、屋上スラブ30を構築して、植栽31を設ける。屋上スラブ30は、具体的には、以下の手順で構築される。まず、鉄骨梁20の上にデッキプレート32を敷設し、床コンクリート33を打設する。次に、パラペット34を含む立上がりコンクリートを打設する。その後、防水工事を行い、押えコンクリート35を打設する。
これにより、鉄骨梁20に屋上スラブ30および植栽31の荷重が作用するので、支承装置40の回転部70が基部50に対して滑り移動および回転して、鉄骨柱11の柱頭と鉄骨梁20との接合部分に大きい曲げモーメントや大きい水平力が加わるのを防止できる。
【0031】
次に、図6に示すように、鉄骨柱11の支承装置40の周囲にコンクリートを打設して、柱10を完成させる。これにより、回転部70の基部50に対する回転および滑りを固定する。
【0032】
ここで、事前にフッ素樹脂シートにシリコーン系のグリスを塗って、鉄骨梁、スラブ、植栽の荷重を想定して15t、45t、90tの荷重を加える実験を行った。その結果、いずれの荷重においても、動摩擦係数は、0.02から0.03となった。
【0033】
本実施形態によれば、以下のような効果がある。
(1)鉄骨梁20が撓んでも、鉄骨柱11と鉄骨梁20との接合部分に大きい曲げモーメントや大きい水平力が加わるのを防止できる。
また、基部50と移動部60との当接面にフッ素樹脂シート52、63を貼り付けて、互いに摺動する滑り支承とした。よって、従来のようにローラを設けないので、低コストであり、さらに、コンクリートを打設する際にコンクリートを確実に充填できる。
また、滑り支承としたので、ローラ支承のように水平変位が大きくなり過ぎるのを防止できる。また、滑り支承はローラ支承に比べて鉛直荷重支持面積つまり接触面積が大きいため、支承を小型化できる。
【0034】
(2)フッ素樹脂シート52、63にシリコーン系のグリスを塗布したので、摺動面の摩擦抵抗を低減でき、円滑に摺動できる。
【0035】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0036】
1…建物
2…地下躯体
3…地上躯体
10…柱
11…鉄骨柱
20…鉄骨梁
21…接合プレート
22…長孔
30…屋上スラブ
31…植栽
32…デッキプレート
33…床コンクリート
34…パラペット
35…コンクリート
40…支承装置
50…基部
51…基部プレート
52…フッ素樹脂シート(低摩擦シート)
53…貫通孔
60…移動部
61…移動部プレート
62…突出部
63…フッ素樹脂シート(低摩擦シート)
64…長孔
65…貫通孔
70…回転部
71…回転部プレート
72…突出部
73…長孔
74…貫通孔
75…軸部
80…規制部
81…ボルト
82…下ナット
83…中間ナット
84…上ナット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板状の基部と、
当該基部の表面に沿って滑ることにより移動可能に設けられた移動部と、
当該移動部に回転可能に支持された回転部と、を備え、
前記基部および前記移動部の互いに当接する面のうち少なくとも一方には、低摩擦シートが貼り付けられていることを特徴とする支承装置。
【請求項2】
前記低摩擦シートには、潤滑材が塗布されていることを特徴とする請求項1に記載の支承装置。
【請求項3】
鉄骨鉄筋コンクリート造の柱と、当該柱の上端に支持される鉄骨梁と、を備える支承構造であって、
前記柱内の鉄骨柱と前記鉄骨梁の接合部分には、請求項1または2に記載の支承装置が組み込まれることを特徴とする支承構造。
【請求項4】
前記支承装置を組み込んで鉄骨建方を行って、当該支承装置の回転および滑りを可能とし、
次に、前記支承装置の周囲にコンクリートを打設することにより、前記支承装置の回転および滑りを固定することを特徴とする請求項3に記載の支承構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−162893(P2012−162893A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−23026(P2011−23026)
【出願日】平成23年2月4日(2011.2.4)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】