説明

支持アーチ構造物構築方法

アーチ形状の支持構造物(例えば橋あるいは建築物屋根)の構築方法において、第一端部(12)及び該第一端部に対向する第二端部(14)を備え、当初真っ直ぐか、あるいは予め曲げられたフレーム構造物(10)が、該第一及び第二端部において旋回可能に支持され、これら第一及び第二端部が互いに対して押し付けられて該第一及び第二端部の互いに対する転位が果たされる。前記第一及び第二端部間の間隔が減じられることによりそれらの旋回が引き起こされ、及び前記フレーム構造物がその反発応力に抗して徐々にかつ柔軟に曲げられて最終アーチ形状とされる。前記第一及び第二端部の転位はそれら第一及び第二端部間の当初の間隔の少なくとも1%に達するように選定される。次いで第一及び第二端部はそれらの転位位置において互いに対して固定されることによりフレーム構造物がその最終アーチ形状に保持される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広義には、アーチ形状に形状化された支持建築構造物あるいは構造フレームの構築方法に関する。本発明は、主たる構造上の応力が圧縮応力に変換される、格子形状あるいは骨組形状のアーチ構造物、とりわけアーチ橋(例えば支持デッキアーチ橋、吊り橋デッキアーチ橋、つなぎ梁型アーチ橋、その他)、及び大形アーチ建築物、トンネル、柱廊、及び一時的支持構造物に広く適用可能である。
【背景技術】
【0002】
本発明の目的において、用語「支持構造物」及び「構造フレーム」とは、建築物(アーチ構造物)の荷重耐久サブシステム、すなわち相互連結された構造上の構成要素あるいは部材を通して主たる荷重を転移させ、かつおそらく吸収する建築物の部分をいう。
【0003】
支持アーチ構造物、特にアーチ橋は最も古い建築工学方式に属し、最新科学の発展の土台となる役割を果たしてきたものである。何世紀にも亘ってアーチ橋は、産業革命の到来においても最初の鉄橋がアーチ(すなわち圧縮型荷重支持)構造に建造されるほどに、建築様式及び方法に必要とされた石工技術によって建造されてきた。新材料の導入により、長スパン(支間)方式による橋へのアーチ橋の採用が可能となった。20世紀における高強度伸張性スチールの開発によって、特に橋台から離れた橋デッキ自体へ反発応力を転移させる手法を用いることにより、数百メートルのスパンから成るアーチ橋(タイドアーチ橋)を建造することが可能となった。
【0004】
建造物構成部分に用いられる伝統的建造材料としてコンクリートやスチールが用いられてきたが、近年では木材も頻度はより少ないが使用されている。20世紀後半になって、新材料である繊維強化ポリマーあるいはプラスチック(FRP)が、コンクリート、木材、及びスチール建造物の限界に向けて建築材料としての有力な候補として次第に認識され出した。このような複合材料は、高強度、軽量性、及び高耐腐食性等の特長ゆえに、建築業界にとって最も興味のあるものである。それにも拘わらず、主要材料コストが継続的に低下し、このコスト的ハンディキャップが長期的観点から見て全般的ライフサイクルコストが概して低額となることで相殺されても、FRPは猶相対的に高価である。
【0005】
橋建設においてFRPを使用することにより、例えばUS6,108,998、US 6,170,105及びUS 6,455,131に記載されているデッキシステムについて多数の重要な解決策が提供される。長スパン橋にFRP材料が使用できる可能性は極めて高いが、現状での材料価格と、許容できる市場価格で大きなコンポーネントを製造できる製造方法がないことから、橋建設、特に単スパンが10mを越える橋建設へのFRP材料の普及は限定されている。原則として、短スパン橋あるいは長歩行橋に関しては安価なFRP(グラスファイバー強化複合材料、GFRP)を使用することは可能であるが、GFRPは特定の係数がかなり低いため、数10メートルを超えるスパンが常に要求される剛性支配的な橋に使用することは不可能である。もちろん支持体を増やせばFRP製の長い橋を建造することは可能であるが、多数の支持体を用いることは物理的に必ずしも可能ではなく、またそのように実施すれば費用が掛かり過ぎてしまう。このような理由から、現在の建設及び架設の実場面では、FRPは中程度スパン橋、あるいは短い単スパンのビーム橋にのみ用いられている。
【0006】
土木工学用途においては、特に中程度スパン及び長スパンにおいて、支持構造物を建設するためのコスト効果的構築方法が必要とされている。
【0007】
WO90/13715A1には、一端において相互に旋回可能に連結される軽量伸長フレームを用いて、フレームを同時に持ち上げて旋回連結によってビル構造の棟を構築するアーチ形建築構造物の構築方法が開示されている。前記フレームの自由端は橋台に固定され、他方これらフレームは持ち上げられた位置に保持されて3ピンアーチフレーム建築構造物を形成する。US4,143,502には、別のアーチ型建築構造物の構築方法が記載されている。この方法では、細長い構造フレームの中央部が持ち上げられて放物線形状に曲げられ、その対向両端部が橋台上に固定される。これら両端部が固定される場合、橋台により曲げられたフレーム自体によって該フレームが支持される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はアーチ形状支持構造物を建設するためのコスト効果的代替方法を提供することを目的とする。本目的は請求項1項記載の方法によって達成される。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、アーチ形状の(例えば橋あるいはビル屋根等の建築建造物の)支持構造物の構築方法において、当初真っ直ぐな、あるいは予め曲げられたフレーム構造物であって、第一端部と該第一端部と対向する第二端部をもつ該フレーム構造物は、その第一及び第二端部において旋回可能に支持され、それによって前記第一及び第二端部が互いに対して押し付けられて、第一及び第二端部の互いに対する転位が達成される。前記第一端部と第二端部間の間隔を減ずることによってこれら端部の旋回が引き起こされ、かつ前記フレーム構造物の反発応力に抗してフレーム構造物が徐々にかつ柔軟に曲げられて最終アーチ形状とされる。第一端部と第二端部の互いに対する転位は、当初の第一端部と第二端部間の間隔の少なくとも1%に達するように選定される。次いで第一端部及び第二端部は、前記フレーム構造物の最終アーチ形状が保持されるように、互いに対して固定される。アーチ形状化された支持構造物は、橋台(あるいは建築物土台)におけるアーチ反発応力の適切な抑制によって、あるいはタイドアーチの場合は前記フレーム構造物の第一端部と第二端部を連結させる構造コンポーネント(タイドアーチ橋の場合はデッキ)中の張力によって適所に保持される。本発明方法に従って建設されたアーチ形状支持構造物は、その構成構造コンポーネントによって作動された機構によって付与される応力が加えられるとアーチが生ずる意味において「展開可能型」支持構造物と考えることができる。前記フレーム構造物は、好ましくは該フレーム構造物の両端部間のほぼ全長に亘って曲げが生ずるように形状化される。
【0010】
本願において用いられる用語「フレーム構造物」には、特に桁、桁組立体、ビーム(梁)、ビーム組立体、あるいは上述したようなアーチ形状に曲げられて荷重支持構造物として機能できるあらゆる構造物が含まれるように意図されていることに注意すべきである。
【0011】
本発明によって達成可能なアーチ形状支持構造物は最終建造物あるいは建築物の一部となる可能性があることにも注意すべきである。しかしながら、前記支持構造物は、例えば足場のように建設段階において一時的にのみ使用されることもある。
【0012】
本発明方法の好ましい変形例においては、少なくとも2つのフレーム構造物(以下において第一及び第二フレーム構造物、場合によっては第三フレーム構造物、等々と称する)がアーチ形状に曲げられる。この変形例においては、第一フレーム構造物及び第二フレーム構造物はそれぞれアーチ背面(すなわちフレーム構造物を曲げた時に外側へ向けて放射状に広がる面)とアーチ腹面(すなわちフレーム構造物を曲げた時に内側へ向けて放射状に位置する面)から成る。第二フレーム構造物は、第一フレーム構造物が最終アーチ形状となる最も遅い時点で、第一フレーム構造物のアーチ背面及びアーチ腹面のいずれか一方が第二フレーム構造物のアーチ背面及びアーチ腹面の他方と接触するように、第一フレーム構造物に付随して徐々に曲げられる。次いで、フレーム構造物同士での相対移動を防止できるように、第二フレーム構造物は第一フレーム構造物との接触面において該第一フレーム構造物へ固定される。このような第二フレーム構造物の第一フレーム構造物への固定は好ましくは接着剤及び又はフランジを用いて行われる。前記第二フレーム構造物は好ましくは第一フレーム構造物と同一形状に形状化される。従って、フレーム構造物について言及する場合において、少なくとも2つのフレーム構造物のいずれを意味するか特定されていない場合は、文脈から特定される場合を除き、少なくとも2つのフレーム構造物のいずれかあるいは双方を指している。当業者が認識するように、一緒に接合された比較的薄いフレーム構造物を用いることにより、かなり高い座屈強度(buckling capacity)を得ることが可能である。他方、数個が接合された薄いフレーム構造物に匹敵する寸法をもつ単一フレーム構造物を用いた場合は、該構造物の材料は許容レベルを超えるアーチ腹面及び又はアーチ背面において曲げ歪みによってずっと早く座屈する。
【0013】
本発明の本変形例による好ましい実施態様では、曲げ作業に先立って、第一及び第二フレーム構造物は、第一フレーム構造物のアーチ腹面及びアーチ背面のいずれか一方が第二フレーム構造物のアーチ腹面及びアーチ背面の他方と隣接するように配置され、この隣接面へ接着剤層が取り付けられる。第一フレーム構造物及び第二フレーム構造物がそれらが曲げられているうちにそれらの長手方向に沿ってスライドできるように、前記接着剤がまだ固まらないうちに前記フレーム構造物の曲げ作業が実施される。前記第一フレーム構造物への第二フレーム構造物の固定は、第一フレーム構造物が最終アーチ形状となった時に、第一及び第二フレーム構造物が互いに対して接着剤層で不動状態となるようにされる。
【0014】
本発明方法の好ましい実施態様に従って、前記フレーム構造物は前記第一端部から第二端部まで延びる強化ポリマー成分から作製される。他の建築材料に比べて、FRPsは極めて高い歪み破壊限界値を示す。ガラス繊維強化複合物(GFRC)等のFRPsであれば競合可能な価格となる。当業者には、アーチ形状に曲げた時にフレーム構造物中に生ずるかなりの曲げストレスにも耐えることができれば、他の材料を選択できることも理解できよう。FRP製成分は種々技術を用いて製造可能であるが、最も魅力的(かつ安価)な解決方法は、フィラメント巻き法あるいは引抜成形法のそれぞれを用いて容易に製造できるチューブあるいはプリズム状形材を用いる方法である。また、建設現場に平らに組み立てられ、クロスレース形成され、次いで所望される湾曲形状に曲げられるサンドイッチパネルから前記フレーム構造物を作製することも可能である。
【0015】
実験及び分析計算結果から、曲げられたFRPアーチ部材は、スチールあるいは強化コンクリート部材の限界を超えて、歪みに対してて十分支持できることが示されている。例えば、FRPから成る曲げられたアーチ部材は、賦課された曲げからその0.2〜0.3%オーダーの無荷重歪みにさらされ得るのに対し、建築用スチールは約0.1%の歪みに屈してしまい、塑性変形を生ずることなく所望の曲げを生ずることは不可能である。最大荷重下において、支持構造物には、使用歪みは0.3〜0.4%オーダー、破壊歪みは適当な安全限界であると考えられる1%を超える数値が期待されている。
【0016】
事前に曲げられたフレーム構造物を用いる場合、同一の型を用いて作製された均質な湾曲体の複数部片から該フレーム構造物を作製することが可能である。それら部片を建設現場において連結して当初から曲げられたフレーム構造物を作製することが可能である。当初からアーチ形状化されたフレーム構造物を用いることにより、当初ストレートであるフレーム構造物を用いるよりも明らかに高さのあるアーチを作製することが可能である。支持構造物の両端間の当初の距離は該両端間のストレートな部分に沿って(当初のアーチに沿ってではなく)測られることに注意すべきである。
【0017】
FRP製支持構造物は、原則として、コンクリート、スチールあるいは木材等の伝統的材料から作製される支持体よりも軽量であるので、FRP製支持構造物は建設費用を大幅に減ずることができ、さらに標準的建設ではより広範かつ費用を要する土地基盤作りを要する土地条件にも適用できる可能性がある。
【0018】
FRP部材を接合するフレーム構造物の作製は、例えば真空補助型樹脂トランスファー成形(VARTM)技術を用いて、あるいは形材の場合は当業者に既知である標準的連結技術を用いて引き抜かれた形材を接続することによって実施可能である。
【0019】
本発明の特に有利な変形例においては、前記フレーム構造物はコンクリートあるいは高強度モルタル用の中空繊維強化ポリマー型枠として提供される。前記第一及び第二端部がそれらが転位された位置において互いに対して固定された場合、その型枠中にコンクリートを注入することが可能である。コンクリートを設置することにより、アーチ形状化された支持構造物の全体的性能及び安定性が増大される。このような変形例は特に支持構造物が大きな荷重を支えなければならない用途において用いられる。タイ(引張部材)は破砕危険性のある部材として分類されるため、タイドアーチ橋には安全性に関して幾分懸念があった。破砕危険性部材は、それが破砕した際には橋が崩壊する可能性がある材料である。タイはタイドアーチの水平方向圧力に耐えるので、殆どのタイドアーチはタイが失われれば崩壊する。アーチ橋システムに関してこの種の崩壊可能性を減ずる一つの解決策として、例えばコンクリートが注入充満された中空管状部材を型枠として用いることによってアーチの全体的性能及び安定性を増大させることが挙げられる。このような型枠はコンクリートあるいはモルタルの打ち込み後に適所へそのまま残存させることができ(この場合、完成支持構造物には打ち込まれたコンクリート又はモルタルと型枠の両方が含まれる)、あるいは、コンクリート構造物だけとなるように取り除くこともできることに注意すべきである。
【0020】
本発明の本変形例の好ましい実施態様では、フレーム構造物はその型枠内にスチール及び又は繊維強化ポリマー強化筋が含まれて構成される。中に置かれる形材及び筋材は同時に曲げ処理される。強化材は、本方法の持ち上げ段階で曲がりに従って型材中に閉じ込められる。一旦アーチが建設され固定されたら、型枠へコンクリートあるいは高強度モルタルを詰め込むことが可能である。さらに、型枠はコンクリートあるいはモルタルの硬化後に取外し可能であり、また適所に残存させることも可能である。
【0021】
前記第一及び第二端部は、好ましくは第一及び第二旋回軸をそれぞれ中心として旋回可能に支持される。これらの旋回軸は互いにほぼ平行であり、第一及び第二端部の互いに対する転位に対してほぼ垂直である。かかる構成において、フレーム構造物の曲がりは前記旋回軸に対して垂直な平面に対して平行となる。前記旋回軸は水平であってもよいが(垂直アーチを生ずる)、前記水平面に対して傾斜していてもよい(この場合、アーチはフレーム構造物の第一及び第二端部を含む前記垂直面に対して傾斜する)。好ましくは、前記第一及び第二端部を互いの方へ向けて押しつけるように作用する応力は、旋回軸を介してフレーム構造物へ移される。
【0022】
好ましくは、第一端部は第一橋台の一部として与えられる第一静止スイベル(回り継手)によって旋回可能に支持され、他方第二端部は作動可能なスイベルを用いて旋回可能に支持され、第二端部を押しつけるこの作動可能スイベルによって第一及び第二端部は互いの方へと押しつけられ、さらに前記静止スイベルによって第一端部に対し反対の反発応力が働く。作動可能スイベルの作動に適した作動装置としては、例えばプッシュフォーワード橋進水技術において現在用いられている作動装置が挙げられる。好ましくは、作動可能スイベルはレール上をガイドされる(基礎上へ固定される)。第二端部がその所望の位置に達した時に、作動可能スイベルは好ましくは第一橋台に対向する第二橋台の一部となるように静止位置に固定される。
好ましくは、第一及び第二端部の互いに対する転位は、第一端部と第二端部の当初の間隔の少なくとも2%、好ましくは少なくとも3%、さらに好ましくは少なくとも5%、可能であれば少なくとも10%〜少なくとも15%に達する。最も好ましくは、前記相対転位は約5%、例えば前記端部間の当初の間隔の2%〜8%に達する。得られるアーチの高さを知るため、下記表1には、当初ストレートで水平なフレーム構造物が完全に放物線形状に曲げられた場合に、前記端部の互いに対する転位によって生ずるフレーム構造物の中心の上昇について示している。
【0023】
【表1】

【0024】
従って、両端部間において圧迫力が加えられる箇所間の長さが100mであり、得られたアーチが完全な放物線形状を呈する真っ直ぐで水平なフレーム構造物を仮定した場合、端部の相互に対する相対転位が約5mであれば、フレーム構造物の中心が約14m持ち上げられるであろう。なお、材料の破砕を防止するため、所望される曲がりに従ってフレーム構造物材料の柔軟性が選定されなければならないことは当然である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】アーチ形状に曲げられる前のストレートなビーム(梁)の側面図である。
【図2】アーチ形状に曲げられた時の図1のビームの側面図である。
【図3】ブレース型構造物に適用される本発明方法について示した図である。
【図4】図3のブレース型構造物のT接合部を拡大した透視図である。
【図5】図4のT接合部の展開透視図である。
【図6】アーチ形状に曲げられるフレーム構造物の端部を固定するためのスイベルの透視図である。
【図7】FRP製ビーム及び差し込み型FRP製サンドイッチパネルから作製されるモジュール複合材デッキの透視図である。
【図8】FRP製型枠へのコンクリート充填を示す図である。
【図9】複数のフレーム構造物の積層組立体をアーチ形状に曲げる処理について説明するための略図である。
【図10】本発明に従って曲げられるフレーム構造物へ使用可能なFRP製Iビームの側面図である。
【図11】曲げられた状態にある図10のIビームの側面図である。
【図12】2本のIビーム成分を連結するボルト式接合部の透視図である。
【発明を実施するための手段】
【0026】
本発明のさらなる詳細及び利点について、添付図面を参照しながら以下に記載された非限定的実施態様により明らかにする。
図1及び図2は、アーチ形状支持構造体の構築方法の基礎となる全体的概念を示した図である。管状(矩形、円形、台形、その他)の断面をもつ当初ストレートなビーム10がその端部12、14において取り付けられ、旋回可能に支持される。旋回軸16は、互いに平行であり、かつビームの縦軸18に対して垂直である。(図1及び図2に縦軸18と水平となる旋回軸16を示す。但し、水平であることは通常必要でない。)静止スイベル20によってビーム10の第一端部12が旋回可能に支持される。静止スイベル20は、建設されるアーチ形状支持構造物の第一橋台を形成するために基礎へ堅固に固定される。ビーム10の第二端部14は可動スイベル22によって旋回可能に支持され、レール(図1及び図2には図示せず)上をガイドされてビームの縦軸18の方向に沿って延びていく。可動スイベル22をビーム10の第一端部12において静止スイベル20の方向へ押すための作動装置24(例えば水圧作動装置、あるいはインクリメント橋進水技術において通常用いられる他の作動装置)が取り付けられる。
【0027】
可動スイベル22を押し付ける前に、ビーム10には、(もし既になければ)小さな初期曲がりが生ずる。この初期曲がりは、この曲がりが所望される方向となるように選定される。作動装置24によって可動スイベル22が静止スイベル20の方向へ押し付けられ、すなわちビーム10の第二端部14が第一端部12の方へ押し付けられると、これら端部12、14間の間隔が減じられる。ビーム10の長さはほぼ同じままであるため、ビーム10は加えられた荷重によってで曲がりアーチ形状を呈する。第一端部12と第二端部14との間の間隔は両旋回軸16間で測定される。第一端部12と第二端部14の互いに対する転位は、所望されるスパン、アーチの高さ、及び定位要求に従って予め計算される。両端部12、14の相対転位は、単に、弛みモーメントを補うためにアーチ形状コンクリート建造物において通常用いられるようなビーム10へのプレストレスを引き起こす転位だけではなく、ビーム中心が縦軸18から離れる大きな転位を生ずる意味において重要であることを強調したい。特に、両端部の相対転位は第一端部12及び第二端部14間の初期間隔の少なくとも1%にも達する。第一端部12及び第二端部14の互いへ向かう転位過程は、ピストンのストローク長よりも長い場合は段階的に実施することができ、その際、作動装置24が近くに運ばれる間、可動スイベル22は一時的に基礎に固定されるか、あるいは適所に保持される。次いで、可動スイベル22が再度解放された後、次の押出し工程が前の工程とほぼ同じ方法で実施される。
【0028】
所望のアーチ形状まで曲げられたら、可動スイベル22はビーム10の他端にあるスイベル20に対して静止位置に固定される。この作業は、前もって準備され地面に堅固に固定されている基礎、礎台、あるいは他の支持体へ可動スイベル22を固定することによって遂行される。さらに追加により、あるいは代替として、スイベル20、22を、例えば(タイドアーチ橋の場合と同様に)アーチ形状化されたビームの両端部間の直線に沿って延びるタイビームを介して互いに連結することが可能である。タイドアーチの場合、アーチの外側へ向う水平方向の応力は、アーチ形状化された支持構造物が置かれている地面、基礎、あるいは他の支持体によるよりも、むしろ少なくともタイビームによる張力となる。
【0029】
フレーム構造物(上記例では管状ビーム)は、好ましくは例えばガラス繊維、炭素繊維あるいはアラミド繊維強化複合材から成る部材などの繊維強化ポリマー(FRP)部材から作製される。アーチ腹面/アーチ背面付随面を用いる変形として作製されるアーチの場合は、高強度アルミニウムあるいはスチール合金、あるいは曲げ歪みに適応可能な他の材料を用いることも可能である。
【0030】
図3は本発明方法の変形例を示した図である。フレーム構造物は、互いに平行に配置された2本の当初ストレートな縦方向ビーム32と、該縦方向ビーム32を連結する複数の横方向ビーム34から成るブレース型構造30から成っている。この枠組みは、枠組みを縦方向のせん断ストレスに対してより耐久性とする対角方向のスチールバー、ロッド、あるいはケーブル36によって完成されている。図3の異なる図によって示されるように、フレーム構造物は図1及び図2のビームとほぼ同様な方法でアーチ形状に曲げられる。各縦方向ビーム32の第一端部は静止スイベル38上に旋回可能に取り付けられ、他方各縦方向ビーム32の第二端部はレール42上にガイドされる可動スイベル40上に取り付けられる。各縦方向ビーム32の第二端部に対する荷重(矢印44で示す)を徐々に増大させることにより、当初僅かに湾曲していたビーム32は、フレーム構造物が計画された曲がりに最終的に到達するまで上方へ向けて曲げられる。
【0031】
図1及び図2における管状ビーム10、あるいは図3におけるブレース型構造30に代えて、切抜きパネル又はシェルでフレーム構造物を作製することも可能である。図3における縦方向ビーム32及び横方向ビーム34の管状部材はフィラメント巻き加工を用いて、あるいは例えば引抜成形技術を用いて作製可能な任意形状の形材片を用いて作製可能である。
【0032】
好ましくは、前記ビーム部材は、輸送に許容される長さに作製され、例えば真空補助型樹脂トランスファー成形あるいはスロットインコネクター46(図4及び図5参照)を用いて建設現場において接合される。Tコネクター中へ差し込まれる管状ビーム部材の場合、得られる接合の構造的強度はコネクター部材の重なり部分とビーム部材の間へ接着剤を塗布することにより増強可能である。一旦接合できれば、ビームとコネクター部材によって柔軟なフレーム構造物が作製され、次いで該フレーム構造物は橋かけされるスパン上へ設置されいずかの側において橋台へ固定される。
【0033】
図6は、フレーム構造物をその端部で固定するために用いられる、静止型としても可動形としても使用可能なスイベル50の一例を示した図である。このスイベル50は基部52と該基部52へ旋回可能に固定されるスリーブ部54から成る。スリーブ部54は、支持フレームの第一端部あるいは第二端部が該スリーブ部中へ挿入されるように寸法化される。基部52は(静止型スイベルとして使用される場合は)基礎上に、あるいは(作動可能スイベルとして使用される場合は)スライドトレイン上へ固定される。フレーム構造物が一旦最終曲がり及び必要なスパンまで到達すると、第一端部及び第二端部の旋回軸を中心とする回転が差し込み軸56を用いてスリーブ部54を閉塞することによって固定され、可動スイベルも例えばボルトを用いて基礎上に固定される。
【0034】
図7は、FRP製ビーム62と差し込み型FRP製サンドイッチパネル64から作製されるモジュール複合材デッキ組立体60を示した図である。支持構造物が適所にある場合、前記デッキ組立体60をケーブルを用いて外支持構造物から吊り下げることが可能である。別の可能性として、支持構造物を持ち上げる前に、該支持構造物から軽量デッキを吊り下げ、アーチが作製されたら該デッキを自動的に適所へ持ち上げることも可能である。アーチの座屈荷重はアーチの曲がりに非直線的に依存するので、アーチは初期段階においては最終的座屈荷重の小部分しか支持できないと考えられる。それゆえ、デッキが好ましくは初期段階において軽量の複合材ボックスビームから作製される場合、アーチの最終形状が達成されれば、該デッキは大きな路面層状構造が備えられる。
【0035】
前記支持構造物の全体的性能及び安定性を向上させるため、支持フレームは好ましくは中へコンクリートを注入して固めることが可能な中空枠組として形状化される。そのような支持フレームを図8に示す。この支持フレームは、内部にスチール、あるいは繊維強化ポリマー強化筋及びスターラップ(あばら筋)72が取り付けられた管状型枠成分70から構成される。支持フレームが持ち上げ段階において曲げられる場合、スチール又はFRP強化筋72は形成されるアーチの曲がりに追随させられる。アーチが建設され固定された後、型枠は型枠シェル中に設けられた開口部74を通してコンクリート76あるいは高強度モルタルで満たされる。一旦コンクリート76又はモルタルが据え付けられると、支持構造物は以前よりもずっと大きな荷重を支持できるようになる。前記支持構造物の性能をさらに強化するため、支持構造体両端部の互いに対する転位によって据え付けられたコンクリート又はモルタル中にホギング(hogging)モーメントを作り出すことが可能である。しかしながら、このようなさらなる転位の程度は、コンクリートあるいはモルタルが破砕しないように、両端部間の当初の間隔の1%よりかなり小さいと思われる。型枠を強化コンクリートで満たすことにより、用いられるコンクリートあるいはモルタルの品質に依存するが、その座屈強度が約2〜3倍向上される可能性がある。
【0036】
図9に示すように、複数の重なり合うフレーム構造物(例えば平らなチューブ/形材)から支持構造物を構成することも可能である。フレーム構造物のそれぞれにはその曲がり方向に比較的薄い部分があるため、アーチ背面/アーチ腹面から各中間軸までの間隔が小さくなっている。断面が四角形のチューブあるいは形材を曲げ方向に1mの高さで、高さ・曲げによって3000マイクロストレインの歪みが賦課されるように曲げると仮定する。曲げ方向に1/3mの高さをもつより薄いチューブあるいは形材を同じ曲げ程度まで曲げる場合、生ずる曲げ歪みは約3倍小さくなる。このような3本の薄チューブあるいは形材80、82、84を互いの上部に置いて、それらが起き上がる丈に沿って同時にスライドさせながら高さ1mのチューブと同じアーチの高さまで曲げるならば、該集合体の座屈強度は個々の薄チューブあるいは形材部分によって与えられるだけの強度(1mの四角断面チューブの座屈強度よりもずっと小さい)になると考えられる。しかしながら、これら薄チューブあるいは形材が、それらの最終形状に達した後に接合面に沿って接合されれば、該集合体の座屈強度は1mの四角断面チューブあるいは形材の座屈強度とほぼ同じとなる。
【0037】
前記薄チューブあるいは形材にはそれぞれアーチ腹面及びアーチ背面が備えられている。これらが互いに付随して徐々に曲げられるにつれて、それらのアーチ腹面は圧迫され、他方アーチ背面は伸長され、接合面間において、すなわち中間のチューブ又は形材のアーチ腹面90と下部チューブ又は形材のアーチ背面88間、さらに同様に中間のチューブ又は形材のアーチ背面92と上部チューブ又は形材のアーチ腹面94間に局部的な相対移動が生ずる。前記チューブあるいは形材が一旦その最終位置に到達すると、それらは接着剤及び又はボルトフランジによって互いに固定される。好ましくは、接着剤層は、前記薄チューブ又は形材80、82、84が猶当初の形状をもっているうちに隣接接合面の間に処理され、また曲げ作業は接着剤がまだ固まらないうちに曲げ作業中に接合面が互いに対して局部的にスライドできるように実施される。この場合、薄チューブあるいは形材80、82、84がそれらの最終アーチ形状となった時に互いに対して不動状態であるように保持しながら接着剤層を単純に固化させる。さらに、フランジを用いて前記薄チューブあるいは形材80、82、84を一緒に結合及びボルト固定することも可能である。当然ながら、用途によっては、薄チューブあるいは形材80、82、84の集合体をコンクリートあるいはモルタルの型枠として用いることも可能である。
【0038】
図10〜12に示すように、本発明方法に従ってアーチ形状に曲げられるフレーム構造物はボルトジョイント100と一体に組み立てられたFRP製Iビーム要素98(しばしばH−又はダブルTビーム要素とも称される)から作製可能である。中空管状形材の代わりにこのような形材を用いることは、建設用のフレーム構造物にコンクリートあるいはモルタルが詰め込まれる必要性のない場合において有利である。
【符号の説明】
【0039】
10:ビーム
12:第一端部
14:第二端部
16:旋回軸
18:縦軸
20:静止スイベル
22:可動スイベル
24:作動装置
30:ブレース型構造
32:縦方向ビーム
34:横方向ビーム
36:対角スチールバー、ロッド、又はケーブル
38:静止スイベル
40:可動スイベル
42:レール
44:矢印
46:スロットインコネクター
50:スイベル
52:基部
54:スリーブ部
56:差し込み軸
60:デッキ組立体
62:FRP製ビーム
64:サンドイッチパネル
70:管状型枠部材
72:強化棒材及びスターラップ(回り継手)
74:開口部
76:コンクリート
80:下部薄チューブ又は形材
82:中間薄チューブ又は形材
84:上部薄チューブ又は形材
86:下部チューブ又は形材のアーチ腹面
88:下部チューブ又は形材のアーチ背面
90:中間チューブ又は形材のアーチ腹面
92:中間チューブ又は形材のアーチ背面
94:上部チューブ又は形材のアーチ腹面
96:上部チューブ又は形材のアーチ背面
98:Iビーム要素
100:ボルトジョイント

【特許請求の範囲】
【請求項1】
当初一定の間隔で互いに離れている第一端部と該第一端部に対向する第二端部を備える、当初真っ直ぐな、あるいは予め曲げられたフレーム構造物を提供し、
前記第一及び第二端部を旋回可能に支持し、
前記第一及び第二端部を互いの方へ向けて押し付け、前記第一及び第二端部をこれら端部間の当初の間隔の少なくとも1%に達するまで互いに対して転位させてこれら第一及び第二端部を旋回させ、及び前記フレーム構造物をその反発応力に抗して徐々にかつ柔軟に最終アーチ形状となるように曲げ、及び
前記フレーム構造物の最終アーチ形状が保持されるようにそれら端部の転位位置において前記第一及び第二端部を互いに対して固定することから構成されるアーチ形状支持構造物の構築方法。
【請求項2】
前記フレーム構造物が前記第一端部から第二端部へと延びる繊維強化ポリマー部材から成ることを特徴とする請求項1項記載の方法。
【請求項3】
前記フレーム構造物が繊維強化ポリマー製型枠から成り、前記第一及び第二端部がそれらの転位位置において互いに対して固定された時に前記型枠中へコンクリートが注入されることを特徴とする請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記フレーム構造物が、前記型枠内にスチール及び又は繊維強化ポリマー強化筋を含んで成ることを特徴とする請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記第一及び第二端部はそれぞれ第一及び第二旋回軸を中心として旋回可能に支持され、前記第一及び第二旋回軸は互いに対してほぼ平行であり、かつ前記第一及び第二端部の互いに対する転位に対しほぼ直交することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記第一及び第二端部の旋回可能な支持が、第一静止スイベルを用いた前記第一端部の旋回可能な支持と、作動可能スイベルを用いた前記第二端部の旋回可能な支持から構成され、及び第一端部と第二端部の互いに対する押し付けが、前記第二端部を押し付ける前記作動可能スイベルと、前記第一端部に反対の反発応力を作用させる前記静止スイベルによって行われることを特徴する請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記作動可能スイベルがレール上をガイドされることを特徴とする請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記第一及び第二端部のそれらの転位位置においての互いに対する固定が、前記作動可能スイベルを一定の静止位置へ固定することから成ることを特徴とする請求項6又は7記載の方法。
【請求項9】
前記第一及び第二端部の互いに対する転位が、これら第一及び第二端部間の当初の間隔の少なくとも2%、好ましくは少なくとも3%、より好ましくは少なくとも5%、可能であれば少なくとも10%あるいは少なくとも15%にも達することを特徴する請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記曲がりが、前記フレーム構造物の前記第一端部と前記第二端部間のほぼ全長に亘って生ずることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
アーチ腹面及びアーチ背面を備える前述したフレーム構造物(以下、第一フレーム構造物と称する)に沿って延びる、さらに別の当初真っ直ぐか、あるいは予め曲げられ、かつアーチ腹面及びアーチ背面を備えるフレーム構造物(以下、第二フレーム構造物と称する)を提供し、
前記第一フレーム構造物がその最終アーチ形状となるその最も遅い時点において第一フレーム構造物のアーチ腹面とアーチ背面のいずれか一方が第二フレーム構造物のアーチ腹面とアーチ背面の他方と接触するように、前記第二フレーム構造物を前記第一フレーム構造物と共存的に徐々に曲げさせ、及び
前記第二フレーム構造物と前記第一フレーム構造物間における相対移動を防止するように前記第二フレーム構造物を前記第一フレーム構造物へ固定させることから構成される請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記第一及び第二フレーム構造物が接着剤及び又はフレームフランジを用いて互いに対して固定されることを特徴とする請求項11記載の方法。
【請求項13】
前記第二フレーム構造物が前記第一構造物と同一構成であることを特徴とする請求項11又は12記載の方法。
【請求項14】
曲げの実施前に、前記第一及び第二フレーム構造物が、第一フレーム構造物のアーチ腹面とアーチ背面のいずれか一方が第二フレーム構造物のアーチ腹面とアーチ背面の他方と隣接するように配置され、その隣接面の間に接着剤層が取り付けられ、前記徐々に行われる曲げ処理は前記接着剤がまだ固まっていないために第一及び第二フレーム構造物がそれらが曲げられている間にそれらの丈に沿ってスライドできるように行われ、及び、前記第二フレーム構造物の前記第一フレーム構造物に対する固定が、前記第一フレーム構造物がその最終アーチ形状となる時に、前記第一及び第二フレーム構造物が互いに対して不動状態となるように前記接着剤層を取付けることを特徴とする請求項11〜13のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2012−526215(P2012−526215A)
【公表日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−508999(P2012−508999)
【出願日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際出願番号】PCT/EP2010/055937
【国際公開番号】WO2010/128002
【国際公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【出願人】(510304715)
【氏名又は名称原語表記】The European Union,represented by the European Commission
【Fターム(参考)】