支持型多孔質ゲルを含んでなる複合材
【課題】クロマトグラフィーの濾過または吸着による物質の分離、合成における支持体としての使用、または細胞増殖用の支持体としての使用に適する複合材を提供する。
【解決手段】複数の孔が延在している支持体構成部材および該支持体構成部材の孔中に配置されたかつ該支持体構成部材の孔を満たしているマクロ多孔質架橋ゲルを含んでなる複合材。
【解決手段】複数の孔が延在している支持体構成部材および該支持体構成部材の孔中に配置されたかつ該支持体構成部材の孔を満たしているマクロ多孔質架橋ゲルを含んでなる複合材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、支持型マクロ多孔質架橋ゲルを含んでなる複合材ならびにその調製および使用に関する。本複合材は、例えばクロマトグラフィーなどの濾過または吸着による物質の分離、合成における支持体としての使用、または細胞増殖用の支持体としての使用に適している。
【背景技術】
【0002】
複合材および分離用材は以下:
米国特許第4,224,415号;第4,889,632号;第4,923,610号;第4,952,349号;第5,160,627;第11/1992号;第5,593,576号;第5,599,453号;第5,672,276号;第5,723,601号;第5,906,734号;第6,045,697号;第6,086,769号;および第6,258,276号;
国際特許EP 316,642;WO 00/12618;WO 00/50160;EP 316,642 B1;およびEP 664,732 B1;
のような特許明細書に、また他の文献例えば:
Liu, HC. and Fried, J.R., Breakthrough of lythozyme through an affinity membrane of cellulose-Cibaron Blue. AIChE Journal, vol. 40 (1994), p. 40-49;
Tennikov, M.B.;Gazdina, N.V.;Tennikova, T.B.;Svec, F., Effect of porous structure of macroporous polymer substrates on resolution in high-performance membrane chromatography. Journal of Chromatography A, vol. 798 (1998), p. 55-64;
Svec, F.;Jelinkova, M.;Votavova, E., Reactive macroporous membranes based on glicidil methacryrate-ethlene dimethacrylate copolymer for high-performance membrane chromatography. Angew. Makromol. Chem. Vol. 188 (1991), p. 167-176;
Tennikova, T.B.;Belenkii, B.G.;Svec, F., High-performance membrane chromatography. A novel method of protein separation. J. Liquid Chromatography, vol. 13 (1990), p. 63-70;
Tennikova, T.B.;Bleha, M.;Svec, F.;Almazova, T.V.;Belenkii, B.G.J., High-performance membrane chromatography of proteins, a novel method of protein separation. Chromatography, vol. 555 (1991), p. 97-107;
Tennikova, T.B.;Svec, F. High-performance membrane chromatography: highly efficient separation method for proteins in ion-exchange, hydrophobic interaction and reversed-phase modes. J. Chromatography, vol. 646 (1993), p. 279-288;
Viklund, C.;Svec, F.;Frechet, J.M.J. Fast ion-exchange HPLC of proteins using porous poly(grycidyl methacrylate-co-ethylene dimethacrylate), monoliths grafted with poly(2-acrylamide-2-methyl-1-propane sulfonic acid), Biotechnol. Progress, vol. 13 (1997), p. 597-600;
Mika, A.M. and Childs, R.F. Calculation of the hydrodynamic permeability of gels and gel-filled microporous membranes, Ind. Eng. Chem. Res., vol. 40 (2001), p. 1694-1705;
にも記載されている。
【発明の概要】
【0003】
1つの態様で、本発明は、複数の孔が延在している支持体構成部材(support member)および該支持体構成部材の孔中に配置されかつ必須的に該支持体構成部材の孔を満たしているマクロ多孔質架橋ゲルを含んでなる複合材を提供する。一部の実施形態では、使用されるこのマクロ多孔質ゲルは環境条件に応答性であり、応答性複合材が提供される。
【0004】
もう1つの態様で、本発明は、上記した複合材で物質を分離する方法を提供する。
【0005】
もう1つの態様で、本発明は固相化学合成の方法を提供するもので、この場合本複合材は、化学合成が起る孔中で固相としての役割を演じる。
【0006】
もう1つの態様で、本発明は微生物または細胞の増殖方法を提供するもので、この場合本複合材は、増殖が起る孔中で固相としての役割を演じる。
【0007】
なおもう1つの態様で、本発明は上記した複合材の調製方法を提供するもので、その方法は:
a) 支持体構成部材の孔の中に、
i) 結合してマクロ多孔質ゲルを形成することができる1種または複数種の単量体と1種または複数種の架橋剤、または
ii) 結合してマクロ多孔質ゲルを形成することができる1種または複数種の架橋性ポリマーと1種または複数種の架橋剤、
の溶液または懸濁液を導入すること、
b) 該単量体と該架橋剤、または、該架橋性ポリマーと該架橋剤とを反応させて、該支持体構成部材の孔を満たすマクロ多孔質架橋ゲルを形成させること、
を含んでなる。
【0008】
マクロ多孔質ゲル[macroporous gel]は支持体の孔を横方向にすなわち複合材を通る流れの方向に対して実質的に直角方向に満たしている。「満たしている」とは、ここでは、使用において、複合材を通過する本質的に全ての液体がマクロ多孔質ゲルを通過しなければならないことを意味する。この条件が満足される量まで支持体構成部材の孔の中にマクロ多孔質ゲルが入っている支持体構成部材は満たされているとみなされる。この条件が満たされ、その結果液体がマクロ多孔質ゲルを通過する場合、支持体構成部材の空隙体積はマクロ多孔質ゲルで完全に占有されている必要はない。
【0009】
本多孔質支持体構成部材(またはホスト)は親水性でも疎水性でもよく、また、例えば、膜、クロマトグラフィーベッド、または濾過ベッドの形態にあってもよい。本支持体構成部材は、マクロ多孔質ゲルを支持する機械的強度をもつ。本マクロ多孔質ゲルは水力学的流れに対する抵抗が引く、その結果本複合材を横切る圧力の低下が小さくて高い流量が達成されることを可能としている。本マクロ多孔質ゲルはまた、クロマトグラフィー用途および濾過用途における本複合材の分離機能を提供している。
【0010】
ゲルは、液体媒体中に膨潤した架橋ポリマー網様構造[cross-linked polymer network]である。膨潤性液体はポリマー網様構造が崩壊するのを防いでおり、代りに、網様構造は液体を保持している。
【0011】
ゲルは典型的には、形成されたポリマー網様構造の良溶媒でありポリマー網様構造を膨潤させる溶媒中で、単量体および多官能化合物(架橋剤)を重合させることにより、あるいは、架橋性ポリマーを架橋することで得ることができる。このような網様構造中のポリマー鎖は、網様構造の全体積に亘って均一に分布していると仮定することができ、鎖と鎖の間の平均距離(メッシュサイズと呼ばれる)は架橋密度によって決まる。架橋剤の濃度が高くなると、ゲルの架橋密度も高くなり、これによりゲルのメッシュサイズがより小さくなる。メッシュサイズが小さくなると、ゲルを通る液体の流れに対する抵抗が大きくなる。架橋剤の濃度をさらに高くすると、ゲルの構成要素は凝集し始め、これによりゲル中に、高ポリマー密度の領域と低ポリマー密度の領域がつくられる。このようなゲルは、いわゆるミクロ不均質性(microheterogeneity)を呈する。この凝集は、液体の流れが主により低いポリマー密度をもつゲル部分を通って起るので、通常ゲルが液体に対してより高い透過性を示すことを引き起こす。ゲルの低密度部分は排出領域[draining region]と呼ばれ、より高い密度の凝集部分は非排出領域[non-draining region]と呼ばれる。架橋剤の濃度をさらにもっと上げ、もっと多く架橋させると、ゲルは、基本的にポリマーが存在しない領域をつくることができる。これらの領域は本明細書では「マクロ孔(macropore)」と呼ばれる。
【0012】
本発明のある特定の複合材と参照材の水力学的(Darcy)透過率を比較することが可能である。参照材は、本複合材の支持体構成部材と同じ支持体構成部材の孔を、本複合材のゲルと基本的に同じ化学組成で同じような質量の均質なゲル、すなわち良溶媒中で形成され同じ単量体から構成されるが、ゲルが均質なままでありかつ高ポリマー密度領域と低ポリマー密度の領域への凝集が起らない程度にだけ架橋されたゲルで満たすことにより得られる。マクロ多孔質ゲルを有してなる複合材は、対応する参照材の水力学的(Darcy)透過率よりも少なくとも一桁は高い水力学的透過率を示し、一部の例では、透過率は、二桁以上、あるいは三桁以上も高い。本明細書では、水力学的(Darcy)透過率が対応する参照材の水力学的透過率よりも少なくとも一桁大きい本発明の複合材は、10よりも大きい透過率比をもつといわれる。
【0013】
透過率比は複合材中のマクロ孔のサイズと密接に関係している。限外濾過などのサイズ排除分離に対しては、透過率比は10にかなり近いものであってもよい。より大きいマクロ孔が用いられる他の分野例えば吸着、合成または細胞増殖では、透過率比は、一部の実施形態で、100以上、あるいは1000以上の値にさえ至り得る。Mika A. M. and Childs R. F. Calculation of the hydrodynamic permeability of gels and gel-filled microporous membranes, Ind. Eng. Chem. Res., vol. 40 (2001), p. 1694-1705[参照で本明細書に組み込む]の教示に従って、いくつかの例では均質ゲルの水力学的透過率を計算することが可能である。これは、利用可能なその特定のゲルポリマーのデータによって決まる。
【0014】
水力学的透過率から水力学的半径(孔の体積/孔の濡れ表面積 の比と定義される)を導くことができる。これは水力学的(Darcy)透過率から、例えばJ. Happel and H. Brennerの本(Low Reynolds Numbers Hydrodynamics, Noordhof of Int. Publ., Leyden, 1973, p. 393[参照で本明細書に組み込む])にあるCarman-Kozenyの式により計算することができる。Kozeny定数の値を仮定することが必要で、これらの計算のために本発明者は値 5を仮定する。マクロ多孔質ゲルを含有する本発明の複合材は、対応する参照材の水力学的半径の3倍よりも大きい水力学的半径を有していることが分かった。
【0015】
水力学的透過率の定義から、同じ厚みをもつ2つの複合材は、それらの透過率比と同じ比の、同じ圧力における水力学的フラックスをもっていることを導くことができる。
【0016】
ゲル中のマクロ孔のサイズは、数ナノメーターから数百ナノメーターの広い範囲にあることができる。好ましくは、本複合材の多孔質ゲル構成要素は、平均サイズ約10〜約3000nmのマクロ孔を有しており、体積空隙率が30〜80%であり、多孔質支持体構成部材の厚みに等しい厚みを有している。一部の実施形態では、マクロ孔の平均サイズは好ましくは25〜1500nm、より好ましくは50〜1000nmであり、最も好ましくはマクロ孔の平均サイズは約700nmである。
【0017】
支持体構成部材の不存在下では、本発明で用いられるマクロ多孔質ゲルは非自己支持型であることができ、乾燥した場合その多孔質性が変わるあるいはそれを失う可能性がある。マクロ多孔質ゲルを多孔質支持体構成部材内に入れることにより、マクロ多孔質ゲルに機械的強度が与えられる。マクロ多孔質ゲルを利用することによって、生体分子などのより大きい分子をマクロ孔に入り込ませ、そのような分子を含有している溶液がゲルを高いフラックス(流束)で横断することを可能にする複合材がつくられる。
【0018】
「応答性複合材(responsive composite material)」とは、特定の環境条件を変えることによって孔サイズを制御することができるマクロ多孔質ゲルを含んでいる複合材を意味する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】マクロ多孔質ポリ(APTAC)ゲルの環境走査型電子顕微鏡(ESEM)画像である。
【図2】膜の形態にある支持体構成部材の中に取り込まれたマクロ多孔質ポリ(APTAC)ゲルのESEM画像である。
【図3】先の実施例 3で調製された膜のリゾチーム吸着曲線である。膜体積は0.467mLである。
【図4】先の実施例 8で調製された膜のBSA吸着曲線である。
【図5】光開始重合多孔質ゲル含有膜および熱開始重合多孔質ゲル含有膜での質量増加の関数としての水力学半径を表わす図である。ゲル:ポリ(グリシジルメタクリレート-コ-エチレンジアクリレート);溶媒:ドデカノール(DDC)/シクロヘキサノール(CHX) 9/91。
【図6】複合膜の調製中における全単量体濃度の関数としての質量増加を表わす図である。
【図7】AM610膜の表面のAFM画像である(走査面積:100μm2)。
【図8】初期の表面(上)およびAM610の表面(下)のESEM画像である(倍率:5000x)。
【図9】AM611膜の表面のESEM画像である(倍率:上 - 5000x、下 - 3500x)。
【図10】膜AM610(上)および膜AM611(下)のESEM画像である(倍率:5000x)。
【図11】実施例 15で調製された膜のリゾチーム吸着曲線である。膜体積は0.501mLである。
【図12】実施例 16で調製された膜のリゾチーム吸着曲線である。膜体積は0.470mLである。
【図13】実施例 17で調製された膜のリゾチーム吸着曲線である。膜体積は0.470mLである。
【図14】実施例 25の生成物である湿潤マクロ多孔質ゲルのESEM画像である。
【図15】実施例 26の生成物である、繊維状不織布支持体構成部材中の湿潤マイクロ多孔質ゲルのESEM画像である。
【図16】タンパク質(BSA)吸着試験において実施例 22の複数膜スタック型複合材を用いた場合の結果をグラフで示すものである。
【図17】複合材の質量増加に対する単量体濃度の影響をグラフで示すものである。
【図18】圧力100kPaにおける複合材を通るフラックスに対するイオン相互作用の影響をグラフで示すものである。
【図19A】透過液中の塩濃度の関数としての膜横断圧および透過液伝導度の変化をグラフで示すものである。
【図19B】透過液中の塩濃度の関数としての膜横断圧および透過液伝導度の変化をグラフで示すものである。
【図19C】透過液伝導度(塩濃度)の関数としての膜横断圧の変化(C)をグラフで示すものである。
【図20】実施例 39で行われたHIgG 限外濾過の膜横断圧、伝導度および吸光度の間の関係を示すものである。
【図21】実施例 39で行われたHSA限外濾過の伝導度と吸光度の間の関係を示すものである。
【図22】実施例 39で行われたHSA/HIgG 限外濾過の膜横断圧、伝導度および吸光度の間の関係を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
一般的特徴
好ましくは、マクロ多孔質ゲルは支持体構成部材内に繋留されている。用語「繋留」はゲルが支持体構成部材の孔内に保持されていることを意味するが、この用語は必ずしもゲルが支持体構成部材の孔に化学的に結合されていることを意味するのに限定されるものではない。ゲルは、実際にホストまたは支持体構成部材に化学的にグラフトされることなく、ホストの構造要素と網の目に絡ませ、相互に巻きつかせることによってゲル上に負荷された物理的拘束によって保持されることができるが、一部の実施形態では、マクロ多孔質ゲルは支持体構成部材の孔の表面にグラフトされるようになっていてもよい。
【0021】
マクロ孔は、支持体構成部材の孔を満たしているゲル中に存在するので、マクロ孔は支持体構成部材の孔よりも小さくなければならないことは理解されると思われる。それゆえ、複合材の流れ特性および分離特性はマクロ多孔質ゲルの特性によって決まるが、大きくは多孔質支持体構成部材の特性とは関係ない。但しこの場合当然支持体構成部材中に存在する孔のサイズはゲルのマクロ孔のサイズよりも大きいこととする。複合材の空隙率は支持体構成部材をゲルで満たすことにより調整することができ、ゲルの空隙率は主に、単量体またはポリマー、架橋剤、反応溶媒、および、使用する場合はポロゲン(porogen)の特性および量によって調節される。支持体構成部材の孔は同じマクロ多孔質ゲルの物質で充満されるので、複合材の物性の高度な安定性が達成され、ある特定の支持体構成部材に対してはこれらの物性は全部でないにしても大部分マクロ多孔質ゲルの物性により決まる。最終結果は、本発明は、複合材のマクロ孔サイズ、透過率および表面積についての制御を提供するということである。
【0022】
複合材中のマクロ孔の数は支持体構成部材中の孔の数によって決まるものではない。マクロ孔は支持体構成部材中の孔よりも小さいとはいえ、複合材中のマクロ孔の数は支持体構成部材中の孔の数よりもずっと多くあることができる。上述したように、マクロ多孔質ゲルの孔サイズに対する支持体構成部材の孔サイズの影響は一般に全く無視できるほどである。これに対する例外は、支持体構成部材が孔サイズおよび孔サイズ分布に大きな偏差を有している場合、および、非常に小さい孔サイズと狭い孔サイズ分布範囲が求められている場合に見られる。これらの場合においては、支持体構成部材の孔サイズ分布における大きな変化はマクロ多孔質ゲルの孔サイズ分布に弱く反映される。そういうことで、これらの状況では、幾分狭い孔サイズ範囲の支持体構成部材を使用するのが好ましい。
【0023】
複合材の物性は、マクロ多孔質ゲルの平均孔直径を調整することにより調節することができる。一部の目的例えばサイズ排除による限外濾過のためには、小さい孔が必要とされる場合がある。他の目的例えば高反応速度を伴なう化学合成用の固体支持体としての使用のためには、大きい孔が必要とされる場合がある。マクロ孔のサイズは主に架橋剤の特性および濃度、ゲルが形成される溶媒(1種または複数種)の特性、使用される重合開始剤または重合触媒の量、および、存在する場合はポロゲンの特性および濃度によって決まる。
【0024】
一般に、架橋剤の濃度を高くしていくと、ゲル中のマクロ孔のサイズも大きくなる。例を挙げると、多官能化合物(1種または複数種)(架橋剤)対単量体(1種または複数種)のモル比は、約5:95〜約70:30、好ましくは約10:90〜約50:50、より好ましくは15:85〜約45:55である。
【0025】
マクロ多孔質ゲルの成分は液体ビークル(媒体)により支持体構成部材の孔の中に導入され、in situ重合または架橋のための溶媒選択は、多孔質ゲルを得る上においてある役割を演じる。通常、溶媒または溶媒混合物は、広い範囲の濃度に亘って、単量体および多官能化合物、または、架橋性ポリマーおよび架橋剤を溶解すべきである。溶媒がゲルポリマーの良溶媒である場合、有孔性は架橋またはポロゲンによってのみゲルの中に導入することができる。しかしながらもし熱力学的に貧溶媒または非溶媒である溶媒が存在する場合は、この溶媒はポロゲンとして作用すると考えられる。ゲルポリマーに対して異なる親和性をもつ、良溶媒〜貧溶媒〜非溶媒の溶媒を異なる比で組み合せることにより、有孔性および孔寸法のいずれをも変えることができる。一般に、溶媒または溶媒混合物が貧溶媒であればあるほど、マクロ孔の空隙率およびサイズは大きくなる。好ましくは、in situ重合用の溶媒または溶媒混合物は貧溶媒を約0%〜約100%、より好ましくは約10%〜約90%含んでいる。ポリ(2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸)用の良溶媒の例は、水およびN,N-ジメチルホルムアミドである。貧溶媒の例としては、ジオキサン、炭化水素、エステル類、およびケトン類が挙げられる。ポリ(アクリルアミド)用の良溶媒の例は水である。貧溶媒の例としては、ジオキサン、メタノールなどのアルコール類、N,N-ジメチルホルムアミド、炭化水素、エステル類、およびケトン類が挙げられる。好ましくは、用いる溶媒は水と混和性である。
【0026】
重合を非溶媒または貧溶媒を含んでいる液体媒体を用いて行う場合、得られる構造は多くの場合凝集したミクロスフェア(microsphere;微小球)のクラスターから構築されており、このクラスターがマクロ多孔質ゲルの本体を形成する。このような材料中の孔は、クラスターとクラスターの間に位置する空隙(マクロ孔[macropore])、クラスター中のミクロスフェアとミクロスフェアの間の空隙(メソ細孔[mesopore])およびミクロスフェア自体の内部の孔(ミクロ孔[micropore])から構成される。
【0027】
ポロゲン(Porogen)は広くは孔(pore)発生用(generating)添加剤と定義される。ゲル形成反応で用いることができるポロゲンの例としては、熱力学的貧溶媒または抽出可能ポリマー例えばポリ(エチレングリコール)または界面活性剤、または塩が挙げられる。ポロゲンは当技術分野では知られており、当業者なら標準的な実験手法を用いてまた発明の才能を発揮することもなく、所望の複合材で用いるためのマクロ多孔質ゲルを調製するのにどのポロゲンが適しているかを決めることができる。
【0028】
与えられた条件下で得られる多孔質ゲルの構造パラメーターを正確に予測する単純な方法は存在しないが、定性的な基準は利用可能であり、いくつかの手引きを示す。一般に、1種以上の単量体と架橋剤の重合による多孔質ゲル形成のメカニズムでは、最初の段階として、ポリマー鎖が凝集して核を生じることが起る。重合はこの核の中および残っている溶液の中で引き続き起ってミクロスフェアを形成し、このミクロスフェアは溶液から新しく析出した核およびポリマーを捕らえることによりサイズが大きくなる。ある点で、ミクロスフェアは大きなクラスター中で互いに相互連結されるようになり、このクラスターがマクロ多孔質ゲルの本体を形成する。溶媒の性質が貧溶媒になればなるほどゲル形成段階中の核形成はより速く起る。形成された核の数が非常に多い場合は、重合開始剤の濃度が高い場合と同じように、より小さい孔ができる可能性がある。しかしながら、核の数が少なく、かつ、反応速度が核がより大きく成長することができるようなものである場合は、ゲル中にはより大きな孔が形成される。架橋剤の濃度が高いと、通常より早い核形成が起る。しかしながら、核が余りにも高度に架橋されると、単量体で膨潤すること、クラスター中で成長し合体することができなくなる場合がある。これは非常に小さい孔になる可能性がある。重合を進めるのに色々な方法があるので、また、重合条件はゲル多孔質構造に影響を与えることがあるので、種々の構造を得ることができるが、それぞれの構造についての条件は実験的に決める必要がある。
【0029】
本複合材による分離
本発明の一部の実施形態で、本複合材は、例えば、濾過されるべき液体を本複合膜に通し、液体からの1つまたは複数の成分の分離を無荷電マクロ多孔質ゲル中でサイズ排除により行う濾過操作において、分離手段として用いられる。この分離は、荷電マクロ多孔質ゲルを使用することによって、荷電分子のDonnan排除によりさらによくすることができる。マクロ多孔質ゲルが固定電荷を含み、溶質の電荷を適切に調整することができる場合は、溶質はそのサイズ勾配に逆らってさえも分離することができる。例えばタンパク質の混合物を含有している溶液で、該混合物中のタンパク質の1つがその等電点にあるpH値が選択され、他のタンパク質が膜の電荷と同じ符号の電荷を保持している場合、他のタンパク質は、膜との電荷斥力のため、保持液中に引き留めておくことができる。分別の条件を特別調整することにより、同じサイズのタンパク質に対してさえも優れた選択性を得ることができる。
【0030】
マクロ多孔質ゲル中に反応性官能基を存在させることでも分離を行うことができる。これらの官能基を用いて、生体分子または生体分子イオンなどの分子またはイオンに対して親和性をもつリガンドまたは他の特異的結合部位をもたせることができる。この特定の分子またはイオン含有液体が本複合材を通過させられると、リガンドまたは特異的結合部位がこの分子またはイオンと相互作用して、十分それを吸着する。複合材の周りの環境が、後で、例えばゲルのマクロ孔を通過する溶媒の性質を変えることにより変更された場合、場合によってはこの捕捉された分子またはイオンを後で脱着させることも可能である。結合部位は荷電基を含むこともできる。
【0031】
本マクロ多孔質ゲルの組成
マクロ多孔質ゲルは、1種または複数種の重合可能な単量体と1種または複数種の架橋剤、または1種または複数種の架橋性ポリマーと1種または複数種の架橋剤をin-situで反応させて、適切なサイズのマクロ孔をもつ架橋されたゲルを形成させることにより形成することができる。好適な重合可能単量体としてはビニル基またはアクリル基を有している単量体が挙げられる。Donnan排除には、少なくとも1つの極性および/またはイオン性の官能基、または、イオン性の基に変換することができる官能基を有しているビニル単量体またはアクリル単量体を用いることができる。生体親和性には、少なくとも1つの反応性官能基を有しているビニル単量体またはアクリル単量体を用いることができる。好ましい重合可能な単量体としては、アクリルアミド、2-アクリルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド、N-アクリルオキシスクシンイミド、N-アクリロイルトリス(ヒドロキシメチル)メチルアミン、2-アミノエチルメタクリレートヒドロクロリド、N-(3-アミノプロピル)メタクリルアミドヒドロクロリド、ブチルアクリレートおよびメタクリレート、N,N-ジエチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、2-(N,N-ジメチルアミノ)エチルアクリレートおよびメタクリレート、N-[3-(N,N-ジメチルアミノ)プロピル]メタクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、n-ドデシルアクリレート、n-ドデシルメタクリレート、ドデシルメタクリルアミド、エチルメタクリレート、2-(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレートおよびメタクリレート、2,3-ジヒドロキシプロピルアクリレートおよびメタクリレート、グリシジルアクリレートおよびメタクリレート、n-ヘプチルアクリレートおよびメタクリレート、1-ヘキサデシルアクリレートおよびメタクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレートおよびメタクリレート、N-(2-ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド、ヒドロキシプロピルアクリレートおよびメタクリレート、メタクリルアミド、無水メタクリル酸、メタクリルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド、2-(2-メトキシ)エチルアクリレートおよびメタクリレート、オクタデシルアクリルアミド、オクチルアクリルアミド、オクチルメタクリレート、プロピルアクリレートおよびメタク
リレート、N-イソ-プロピルアクリルアミド、ステアリルアクリレート、スチレン、4-ビニルピリジン、ビニルスルホン酸、N-ビニル-2-ピロリドンが挙げられる。特に好ましい単量体としては、ジメチルジアリルアンモニウムクロリド、アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸(AMPS)、(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド(APTAC)、アクリルアミド、メタクリル酸(MAA)、アクリル酸(AA)、4-スチレンスルホン酸およびその塩、アクリルアミド、グリシジルメタクリレート、ジアリルアミン、ならびにジアリルアンモニウムクロリドが挙げられる。
【0032】
架橋剤は、例えば少なくとも2つのビニル基またはアクリル基を有している化合物であることができる。架橋剤の例としては、ビスアクリルアミド酢酸、2,2-ビス[4-(2-アクリルオキシエトキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス(4-メタクリルオキシフェニル)プロパン、ブタンジオールジアクリレートおよびジメタクリレート、1,4-ブタンジオールジビニルエーテル、1,4-シクロヘキサンジオールジアクリレートおよびジメタクリレート、1,10-ドデカンジオールジアクリレートおよびジメタクリレート、1,4-ジアクリロイルピペラジン、ジアリルフタレート、2,2-ジメチルプロパンジオールジアクリレートおよびジメタクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレートおよびジメタクリレート、N,N-ドデカメチレンビスアクリルアミド、ジビニルベンゼン、グリセロールトリメタクリレート、グリセロールトリス(アクリルオキシプロピル)エーテル、N,N'-ヘキサメチレンビスアクリルアミド、N,N'-オクタメチレンビスアクリルアミド、1,5-ペンタンジオールジアクリレートおよびジメタクリレート、1,3-フェニレンジアクリレート、ポリ(エチレングリコール)ジアクリレートおよびジメタクリレート、ポリ(プロピレン)ジアクリレートおよびジメタクリレート、トリエチレングリコールジアクリレートおよびジメタクリレート、トリエチレングリコールジビニルエーテル、トリプロピレングリコールジアクリレートまたはジメタクリレート、ジアリルジグリコールカーボネート、ポリ(エチレングリコール)ジビニルエーテル、N,N'-ジメタクリロイルピペラジン、ジビニルグリコール、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、N,N'-メチレンビスアクリルアミド、1,1,1-トリメチロールエタントリメタクリレート、1,1,1-トリメチロールプロパントリアクリレート、1,1,1-トリメチロールプロパントリメタクリレート、ビニルアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレートおよびジメタクリレート、1,3-ブチレングリコールジアクリレートおよびジメタクリレート、アルコキシ化シクロヘキサンジメタノールジアクリレート、アルコキシ化ヘキサンジオールジアクリレート、アルコキシ化ネオペンチルグリコ
ールジアクリレート、芳香族ジメタクリレート、カプロラクトン変性ネオペンチルグリコールヒドロキシピバレートジアクリレート、シクロヘキサンジメタノールジアクリレートおよびジメタクリレート、エトキシ化ビスフェノールジアクリレートおよびジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレートおよびジメタクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート、プロポキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート、プロポキシ化グリセリルトリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリアクリレート、ジ-トリメチロールプロパン テトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタアクリレートエステル、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ならびにカプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートが挙げられる。特に好ましい架橋剤としては、N,N'-メチレンビスアクリルアミド、ジエチレングリコールジアクリレートおよびジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、エチレングリコールジアクリレートおよびジメタクリレート、テトラ(エチレングリコール)ジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、ジビニルベンゼン、ポリ(エチレングリコール)ジアクリレートが挙げられる。
【0033】
マクロ多孔質ゲル中の単量体濃度は、調製されたマクロ多孔質ゲルの弾力性に影響を及ぼすことができる。低単量体濃度は、自己支持型でないマクロ多孔質ゲルを生じることがある。そのような非自己支持型ゲルは、より大きな吸着容量をもつゲルとなり得るので吸着剤として有利であると考えられる。一部の実施形態では、単量体濃度は60%以下、例えば約60、50、40、30、20、10または5%である。
【0034】
架橋性ポリマーを用いる場合、それを溶解させて、支持体中で架橋剤とin-situで反応させてマクロ多孔質ゲルを形成させることができる。好適な架橋性ポリマーとしては、ポリ(エチレンイミン)、ポリ(4-ビニルピリジン)、ポリ(ビニルベンジルクロリド)、ポリ(ジアリルアンモニウムクロリド)、ポリ(グリシジルメタクリレート)、ポリ(アリルアミン)、ビニルピリジンとジメチルジアリルアンモニウムクロリドのコポリマー、ビニルピリジン、ジメチルジアリルアンモニウムクロリド、または(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリドとグリシジルアクリレートまたはメタクリレートのコポリマーが挙げられ、これらの中ではポリ(エチレンイミン)、ポリ(ジアリルアンモニウムクロリド)およびポリ(グリシジルメタクリレート)が好ましい。単量体の代りに架橋性ポリマーを用いると、場合によっては架橋剤の濃度を下げる必要があることがある。低い架橋剤濃度でゲル中の孔の大きなサイズを維持するためには、そのマクロ多孔質ゲルを調製するのに使用される混合物にポロゲンを加えることができる。
【0035】
架橋性ポリマーと反応させるための架橋剤は、架橋されるポリマー中の原子または原子の群と反応することができる反応性の基、例えばポリアミンの窒素原子と反応することができるエポキシ基またはアルキル/アリールハロゲン化物、あるいは、in situで架橋されるグリシジル基含有ポリマーのアルキル/アリールハロゲン化物またはエポキシ基と反応することができるアミン基、の2つ以上を有している分子から選択される。好適な架橋剤としては、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリ(プロピレングリコール)ジグリシジルエーテル、1,3-ジブロモプロパン、1,4-ジブロモブタン、1,5-ジブロモペンタン、1,6-ジブロモヘキサン、α,α'-ジブロモ-p-キシレン、α,α'-ジクロロ-p-キシレン、1,4-ジブロモ-2-ブテン、ピペラジン、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、1,2-ジアミノエタン、1,3-ジアミノプロパン、1,4-ジアミノブタン、1,5-ジアミノペンタン、1,6-ジアミノヘキサン、1,7-ジアミノヘプタン、1,8-ジアミノオクタンが挙げられる。
【0036】
また、アミノ基、ヒドロキシル基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、あるいはエポキシ基を有しているポリマーを試薬で変性してビニル基を導入し、後でこのビニル基を重合開始剤で処理することで重合してマクロ多孔質ゲルを形成させることもできる。導入することができる好適なビニル基の例としては、ビニルベンゼン誘導体、アリル誘導体、アクリロイルおよびメタクリロイル誘導体が挙げられる。これらのビニル置換ポリマーの架橋は場合によっては、アクリルアミド、N-ビニルピロリドン、アクリル酸およびメタクリル酸ならびにこれらの塩などのさらなる単量体を導入することによって促進させることもできる。
【0037】
マクロモノマーを単量体としてまたは架橋剤として使用することもできる。マクロモノマーは、多くの場合その末端に、マクロモノマーが単量体または架橋剤として働くことを可能とする1つ(一官能型単量体)または複数(架橋剤)の反応性基を有しているポリマーまたはオリゴマーでもある。単量体としては、各マクロモノマー分子は、そのマクロモノマー分子中のただ1つの単量体単位が反応することによって最終生成物であるポリマーの主鎖に結合される。マクロモノマーの例としてはポリ(エチレングリコール)アクリレートおよびポリ(エチレングリコール)メタクリレートが挙げられ、多官能型マクロモノマーの例としてはポリ(エチレングリコール)ジアクリレートおよびポリ(エチレングリコール)ジメタクリレートが挙げられる。マクロモノマーは好ましくは約200 Da以上の分子量を有している。
【0038】
中性ヒドロゲル、荷電ヒドロゲル、高分子電解質、疎水性ゲル、中性ゲル、機能性ゲルなどの多くのマクロ多孔質ゲルを調製することができる。
【0039】
選択されたゲルが、中性ヒドロゲルまたは荷電ヒドロゲル(これらに対しては水が膨潤液体媒体である)である場合、得られる支持型マクロ多孔質ゲルは通常極めて親水性である。親水性複合材は、より優れた流れ特性を提供し、また、膜に汚れ防止特性を付与するので好ましい。好適なヒドロゲルの例としては、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(アクリルアミド)、ポリ(イソプロピルアクリルアミド)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(ヒドロキシメチルアクリレート)、ポリ(エチレンオキシド)、アクリル酸またはメタクリル酸とアクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド、またはビニルピロリドンのコポリマー、アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸とアクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド、またはビニルピロリドンのコポリマー、(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリドとアクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド、またはN-ビニルピロリドンのコポリマー、ジアリルジメチルアンモニウムクロリドとアクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド、またはビニルピロリドンのコポリマーの架橋ゲルが挙げられる。好ましいヒドロゲルとしては、架橋されたポリ(ビニルアルコール)、ポリ(アクリルアミド)、ポリ(イソプロピルアクリルアミド)、およびポリ(ビニルピロリドン)ならびにアクリルアミドやN-ビニルピロリドンなどの中性単量体とアクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸やジアリルジメチルアンモニウムクロリドなどの荷電単量体との架橋されたコポリマーが挙げられる。
【0040】
マクロ多孔質ゲルを、高分子電解質を含ませるように選択することもできる。荷電ヒドロゲルと同様に、高分子電荷質ゲルは親水性複合材をつくり、こららもまた電荷をもっている。高分子電解質ゲルは、例えば、架橋されたポリ(アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸)およびその塩、ポリ(アクリル酸)およびその塩、ポリ(メタクリル酸)およびその塩、ポリ(スチレンスルホン酸)およびその塩、ポリ(ビニルスルホン酸)およびその塩、ポリ(アルギン酸)およびその塩、ポリ[(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウム]塩、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウム)塩、ポリ(4-ビニル-N-メチルピリジニウム)塩、ポリ(ビニルベンジル-N-トリメチルアンモニウム)塩、ポリ(エチレンイミン)およびその塩から選択することができる。好ましい荷電ゲルとしては、架橋されたポリ(アクリル酸)およびその塩、ポリ(メタクリル酸)およびその塩、ポリ(アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸)およびその塩、ポリ[(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウム]塩、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウム)塩、およびポリ(4-ビニルピリジニウム)塩が挙げられる。
【0041】
荷電ゲルと高分子電解質ゲルの差の1つは、高分子電解質ゲル中の繰り返し単量体が電荷をもっているが、荷電ゲルでは、電荷はポリマー中にランダムに分散されている共重合単位中に見られる。この高分子電解質ゲル、または、電荷をもつ荷電ゲル中のコポリマーを形成するのに使用される単量体は通常電荷含有基(charge bearing group)を有しているが、これはまたゲル化後工程(例えば窒素含有基の四級化)で荷電させることができる電荷非含有基であることもできる。荷電させることができるポリマーの例としてはポリ(4-ビニルピリジン)が挙げられ、これは、各種のアルキルおよびアルキルアリールハロゲン化物で四級化することができる。好適なアルキルハロゲン化物としては最大8個までの炭素原子をもつもの、例えばヨウ化メチル、臭化エチル、臭化ブチル、および臭化プロピルが挙げられる。好適なアルキルアリールハロゲン化物としてはベンジルハロゲン化物、特に塩化ベンジルおよび臭化ベンジルが挙げられる。荷電させることができる他のポリマーはポリ(ビニルベンジルクロリド)であり、これは各種のアミン、例えばトリエチルアミン、ピリジン、アザビシクロ[2.2.2]オクタン、N-メチルピロリジン、およびN-メチルピペリジンのような低級アルキルアミンまたは芳香族アミン、および低級ヒドロキシアルキルアミン(例えばトリエタノールアミン)で四級化することができる。荷電させることができるいま1つのポリマーはポリ(グリシジルメタクリレート)またはポリ(グリシジルアクリレート)であり、これは各種のアミン、例えばジエチルアミンおよびトリエチルアミン、アザビシクロ[2.2.2]オクタン、N-メチルピロリジン、およびN-メチルピペリジンのような低級アルキルアミンと反応することができる。別のやり方として、グリシジル部分構造を、例えば亜硫酸ナトリウムのようなアルカリ金属亜硫酸塩との反応によりスルホン酸基に変換することもできる。当業者なら、電荷を含んでいる、またはそれにすることができるその他のポリマーが存在することを解かると思われる。
【0042】
マクロ多孔質ゲルを選択して疎水性単量体を含ませ、有機溶媒例えば炭化水素特にヘキサンのような液体パラフィン中での分離を可能にすることもできる。スチレンおよびその誘導体のような疎水性単量体、例えばパラ-t-ブチルスチレンのようなアルキル置換スチレン誘導体を用いて疎水性マクロ多孔質ゲルを調製することもできる。これらの単量体のコポリマーを用いることもできる。
【0043】
疎水性単量体を含むマクロ多孔質ゲルを用いることで、疎水的相互作用によりその孔を通過する流体から分子を捕捉することができる。
【0044】
上述したように、マクロ多孔質ゲルを選択して反応性官能基を含ませることもでき、この反応性官能基はリガンドまたは他の特異的結合部位を付けるのに用いることができる。これらの官能性マクロ多孔質ゲルは、架橋ポリマーを含んでいる官能基(例えばエポキシ基、無水物基、アジド基、反応性ハロゲン基、あるいは酸塩化物基)から調製することができ、これらの基はリガンドまたは他の特異的結合部位を付けるのに用いることができる。例としては、架橋されたポリ(グリシジルメタクリレート)、ポリ(アクリルアミドオキシム)、ポリ(無水アクリル酸)、ポリ(無水アゼライン酸)、ポリ(無水マレイン酸)、ポリ(ヒドラジド)、ポリ(アクリロイルクロリド)、ポリ(2-ブロモエチルメタクリレート)、ポリ(ビニルメチルケトン)が挙げられる。導入できる官能性は抗体または抗体の断片の形態、あるいは別の形態として染料のような化学物質模擬体の形態をとることができる。機能性ゲルは、例えばある種のタンパク質とは結合するが他のタンパク質とは結合しないように選択されているアフィニティ[親和性]リガンドのように、対象とする分子どうしにサイズの有意な差がない場合でも、他の分子に対しては非反応性でありながら、活性部位に結合することにより、ある種の分子に対する選択的結合を提供できるので、機能性ゲルは生体分子の精製または分離において魅力あるものである。反応性の基を介して多孔質ゲルに結合させることができるアフィニティリガンドとしては、γ-グロブリンおよび免疫グロブリンを分離するためのL-フェニルアラニン、トリプトファン、またはL-ヒスチジンなどのアミノ酸リガンド;異なる培地から免疫グロブリンを分離するためのモノクローナル抗体、タンパク質 A、組み換え型タンパク質 A、タンパク質 G、または組み換え型タンパク質 Gなどの抗原および抗体リガンド;アルブミンおよび各種酵素を分離するためのシバロンブルー(cibaron blue)またはアクティブレッド(active red)などの染料リガンド;各種培地からヒスチジン、リゾチーム、またはトリプトファンなどの各種タンパク質を分離するためのイミノジ酢酸(IDA)リガンドとCu2+、Ni2+、Zn2+、またはCo2+の錯体などの金属アフィニティリガンドが挙げられる。
【0045】
応答性マクロ多孔質ゲル
環境条件の変化に応答して立体配座を変えるポリマーが知られている。このようなポリマーの特性をマクロ多孔質ゲルに組み込むことにより動的な孔サイズをもつ複合材が得られる。感応特性をもつこれらの複合材は、マクロ多孔質ゲルを形成している単量体またはポリマーの少なくとも1つが孔サイズが変わるのを促進する化学構造を有している以外は、上述した複合材と実質的に同じである。
【0046】
マクロ多孔質ゲルの孔サイズの変化は、支持体構成部材とマクロ多孔質ゲル間の物理学的な関係によるものである。本複合材は3つの別個のゾーン、すなわち(a) 支持体構成部材(これは、理想的には形状を変えない)、(b) 該支持体構成部材の孔を「満たしている」組み込まれたマクロ多孔質ゲル、および(c) 該ゲルのマクロ孔内の体積(この体積は水または溶媒で満たされており、その中にはゲルポリマーは極僅か見られるかまたは全く見られない)を有していると定義することができる。圧力を受けると、水力学的流れがゲルのマクロ孔を通って起り、複合材を通るフラックス(流束)は、複合材を貫いてのマクロ多孔質ゲル中の孔の数、これら孔の半径、およびマクロ多孔質ゲル中の孔の経路の蛇行度(tortuosity)に関係している。
【0047】
マクロ多孔質ゲルの膨潤度を環境からの刺激因子によって変えると、マクロ多孔質ゲルによって占有されている全体体積は、支持体構成部材により画定されている固定された全体体積により束縛を受ける。マクロ多孔質ゲルの全体体積は支持体構成部材により束縛されているので、不可避的にゲルのその体積部分は、ゲル中のマクロ孔によって画定されている領域の中へ膨張して行く。マクロ孔の数およびそれらの蛇行度はマクロ多孔質ゲルの体積部分が変わっても基本的に一定のままであるので、マクロ孔の直径または半径自体が変わらなければならない。もしマクロ多孔質ゲルつまり構造体化ゲルが閉じ込められていないと、環境的に誘発された変化により、膨潤ゲルの全体体積の変化が引き起こされると考えられる。そういうことで、この閉じ込められていない場合においては、この変化により、マクロ多孔質ゲルの孔サイズの変化が制御可能になることはないと考えられる。
【0048】
このマクロ多孔質ゲルの体積における変化の背後にある理由は、ゲルを形成しているポリマー構造体間の相互作用、つまり、そのポリマー鎖とその溶媒またはそのゲルの中へ拡散して行く溶媒中に存在している溶質との間の相互作用に関係している。ゲルにより占有される体積における変化は、マクロ多孔質ゲルを形成しているポリマー鎖がとっている立体配座と関連している。ポリマー鎖の自然な傾向はそれら自体の周りをコイル状に巻きつくことであり、このことにより小さい体積をもつゲルが生じる。もしゲル内のポリマー鎖を操作してコイル状に巻きついたのを解き、より撓まない主鎖を形成させることができたら、ゲルの全体体積は増大するものと考えられる。つまり、本応答性複合材に加えられる環境からの刺激因子により影響を受けるのがこのコイル状に巻きつくこと(コイリング)/コイル状に巻きついたのを解くこと(アンコイリング)である。
【0049】
孔の体積変化は「連続的」か、または「不連続的」であり得る。連続的体積変化は、引き金となる環境条件における比較的大きな変化に対して、また、膨潤状態と崩壊状態との間の転移付近において少なくとも1つの安定な体積が存在する場合に起る。好ましくは、連続的体積変化は、膨潤状態と崩壊状態の間における多数の安定な転移体積を経るものとする。ゲル中の不連続的体積変化は、引き金となる環境条件における極めて小さい変化(例えば0.1 pH 単位あるいは0.1℃)に対して起る膨潤状態から崩壊状態への可逆的転移を特徴とする。不連続的体積変化を示すゲルは「相転移」ゲルと呼ばれ、そのようなゲルを有しているシステムまたはデバイスは多くの場合「化学バルブ」と呼ばれる。好ましくは、本発明のこの実施形態による応答性マクロ多孔質ゲルはディスクリートな[discrete;離散型]安定体積を経る「連続的」体積変化を受け、これを利用することによりゲルの孔サイズを制御することができる。
【0050】
応答性マクロ多孔質ゲルにおける孔サイズを変えるのに用いることができる環境からの刺激因子としては、pH、特定イオン、イオン強度、温度、光、電場、および磁場が挙げられる。各刺激因子の影響、および、そのような刺激因子に反応する単量体の例を以下にさらに詳細に述べる。
【0051】
応答性マクロ多孔質ゲルの孔サイズを変えるのに利用することができる1つの刺激因子は、そのゲルの孔を通過している溶液のpHである。ゲルが弱酸または弱塩基を含んでいる場合は、溶液のpHの変化はゲルの孔サイズに影響を及ぼすと考えられる。そのような場合では、ゲル内のポリマー鎖がそれ自体の周りをコイル状に巻き付く自然な傾向は、ポリマー鎖の全長に沿う荷電した基(弱酸または弱塩基の基)どうし間の斥力によって釣り合いがとれていると考えられる。ポリマー鎖に沿う電荷の量における変動はそのポリマー鎖の立体配座における大きな変化を引き起こし、これが次にゲルが占有している体積における変化を引き起こす。溶液のpHを変えると荷電した基のイオン化度を変えるので、これはポリマー鎖に沿う斥力の量を制御するのに有効である。弱酸性基を有しているゲルはpHが下げられるにつれより少なくイオン化され、ゲルは収縮する。逆に、弱塩基のものはpHが下げられるにつれより多くイオン化され、ポリマー鎖は伸びるまたは伸ばされて膨潤ゲルを生じる。
【0052】
弱酸性の官能性をもつ単量体の例としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、4-ビニル安息香酸、ビスアクリルアミド酢酸、およびビス(2-メタクリルオキシエチル)ホスフェートが挙げられる。弱塩基性の官能性をもつ単量体の例としては、2-アミノエチルメタクリレートヒドロクロリド、N-(3-アミノプロピル)メタクリルアミドヒドロクロリド、2-(t-ブチルアミノ)エチルメタクリレート、ジアリルアミン、2-(N,N-ジエチルアミノ)エチルメタクリレート、2-(N,N-ジメチルアミノ)エチルアクリレート、2-(N,N-ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、1-ビニルイミダゾール、および4-ビニルピリジンが挙げられる。グリシジルメタクリレート誘導ヒアルロネート-ヒドロキシエチルアクリレートベースのヒドロゲルを用いてpH応答性の複合材を調製することもできる[Inukai M., Jin Y., Yomota C., Yonese M., Chem. Pharm. Bull., (2000), 48:850-854;参照により本明細書に組み入れる]。
【0053】
pHの変化は強酸や強塩基のイオン化度にはほとんど影響がなく、pHを激変させて初めて、これらの官能性を有してなるゲルにおける孔サイズ変化に影響を及ぼすことができる。
【0054】
応答性マクロ多孔質ゲルの孔サイズを変えるのに利用することができるもう1つの刺激因子は、そのゲルの孔を通過させられている溶液の塩濃度である。pHにおける変化と同様に、塩濃度における変化は、弱酸性または弱塩基性の基を有してなるマクロ多孔質ゲルにおける孔サイズ変化をもたらすと考えられる。しかしながら、この孔サイズの変化の理由は若干だが全く異なる。イオン性溶質を加えると、イオン対が形成されることで、ゲル中のポリマー鎖上にある荷電した基を遮蔽することができる。これは隣接する荷電した基どうし間のクーロン斥力を低下させ、これによりポリマー鎖がコイル状に巻き付いた立体配座へと緩和される。塩濃度を高くすると弱酸基と弱塩基基の両方を遮蔽すると考えられる。従って、例えば複合材を通過させられているバルク溶液に濃縮塩溶液を加えることでこの塩濃度を高くした場合、この追加のイオンの遮蔽効果により孔サイズの増大がもたらされる。代って、例えば複合材を通過させられているバルク溶液を希釈することにより達成されるような塩濃度の低下はより少ない遮蔽およびより小さい孔サイズをもたらすと考えられる。
【0055】
塩濃度変化は、強酸基および強塩基基を有してなるマクロ多孔質ゲルについても、これらの基が遊離イオン化学種の存在によっても遮蔽されるので、用いることができる。
【0056】
弱酸基または弱塩基基をもっている単量体の例は前に掲載してある。強酸官能性をもつ単量体の例としては、2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸、ナトリウム2-メチル-2-プロペン-1-スルホネート、スチレンスルホン酸ナトリウム、およびナトリウムビニルスルホネートが挙げられる。強塩基官能性をもつ単量体の例としては、2-アクリルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド、メタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロリド、および3-メタクリルオキシ-2-ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリドが挙げられる。
【0057】
荷電官能性を最初はもたないが代りに重合後の処理でイオン性またはイオン化可能部分構造に変換させることができる反応性基をもつマクロ多孔質ゲルにもイオン官能性(弱/強酸および塩基)を導入することができる。反応性基をもつ好適な単量体としては、無水アクリル酸、アリルグリシジルエーテル、ブロモスチレン、クロロメチルスチレン、クロロスチレン、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、4-ヒドロキシブチルメタクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、メタクリロイルクロリドが挙げられる。例えば、グリシジルアクリレート基またはメタクリレート基を有してなるマクロ多孔質ゲルはジエチルアミンで処理することで弱塩基官能性を導入することができ、あるいはイソプロパノール/水混合物中で亜硫酸ナトリウムで処理することにより強酸(スルホン酸)官能性を導入することもできる。
【0058】
応答性マクロ多孔質ゲルの孔サイズを変えるのに用いることができるもう1つの刺激因子はゲルの温度である。マクロ多孔質ゲルの温度を変えるには種々の方法が利用可能であり、その1つとして挙げられるのが、マクロ多孔質ゲルの孔の中を流れる液体の温度を変えることである。温度応答性ゲルのゲル全体体積における変化は、ここでも、そのゲルを形成しているポリマー鎖がコイル状に巻き付くことまたはコイル状に巻き付いたのを解くことの制御に起因するものであり、ゲルの収縮または膨張は、ポリマー鎖上の荷電した基の存在とは関連していない。温度応答性ゲルについては、ポリマー鎖の溶媒和量がそのポリマー鎖の立体配座を制御する。温度が低いほどポリマー鎖は溶媒和化され、これはポリマー鎖が伸びた立体配座にする。温度を高くすると、エントロピー型脱溶媒和化が起り、ポリマー鎖がコイル状に巻き付き収縮することが引き起こされる。従って、温度の上昇はゲル中により大きい孔サイズをもたらし、温度の低下はより小さい孔サイズをもたらす。
【0059】
疎水性単量体を含んでなるマクロ多孔質ゲルは、疎水官能性をもつポリマーに対しては溶媒和効果が明らかに認められるので、温度応答性システムで用いるのに最も適している。疎水官能性をもつ単量体の例としては、N-(プロピル)アクリルアミド、N-(t-ブチル)アクリルアミド、ブチルアクリレート、デシルアクリレート、デシルメタクリレート、2-エチルブチルメタクリレート、n-ヘプチルアクリレート、n-ヘプチルメタクリレート、1-ヘキサデシルアクリレート、1-ヘキサデシルメタクリレート、n-ヘキシルアクリレート、n-ヘキシルメタクリレート、およびN-(n-オクタデシル)アクリルアミドが挙げられる。熱応答性を示すゲルは硫酸化ヒアルロン酸ベースのゲルからも調製することができる(Barbucci R., Rappuoli R., Borzacchiello A., Ambrosio L., J. Biomater. Sci.-Polym. Ed., (2000), 11:383-399 を参照されたい)[参照により本明細書に組み入れる]。
【0060】
光は本応答性マクロ多孔質ゲルの孔サイズを変えるのに使用することができるもう1つの刺激因子である。光誘発変化は、ゲルを形成しているポリマー鎖の主鎖または側鎖における光異性化によるものである。これらの光異性化は、光誘発電子移動反応により、その立体配座および局部双極子モーメントの変化か、またはイオン化度の変化を引き起こす。光で制御されるシステムで使用するのに適している単量体の1つのタイプは、光照射でトランス−シス異性化を受けることができる不飽和官能性を有してなる。シス−トランス立体配座の変化および双極子の変化を受ける光応答性単量体の例としては、4-(4-オキシ-4'-シアノアゾベンゼン)ブタ-1-イルメタクリレート、6-(4-オキシ-4'-シアノアゾベンゼン)ヘキサ-1-イルメタクリレート、8-(4-オキシ-4'-シアノアゾベンゼン)オクタ-1-イルメタクリレート、4-[ω-メタクリロイルオキシオリゴ(エチレングリコール)]-4'-シアノアゾベンゼン、4-メタクリロイルオキシ-4'-{2-シアノ-3-オキシ-3-[ω-メトキシオリゴ(エチレングリコール)]プロパ-1-エン-1-イル}アゾベンゼン、ならびにメソゲン基および光互変異性パラ-ニトロベンゼン基を含有しているメタクリレート単量体が挙げられる。単量体の代りに架橋剤に光応答性部分構造を組み込むことも可能である。シス−トランス立体配座の変化および双極子の変化を受ける光応答性架橋剤の例としては、4,4'-ジビニルアゾベンゼン、N,N'-ビス(β-スチリルスルホニル)-4,4'-ジアミノアゾベンゼン、4,4'-ビス(メタクリロイルアミノ)アゾベンゼン、4,4'-ジメタクリロイルアゾベンゼン、およびビス((メタクリロイルオキシ)メチル)スピロベンゾピランが挙げられる。
【0061】
ゲルの孔サイズは、マクロ多孔質ゲルに電場または電流をかけることによっても変えることができる。電気化学的電流の変化に対するゲルの応答は上述したpHシステムに密接に関係している。この密接な関係は、水系を通る電気化学電流の通過によって「水分割」反応が引き起こされ、この水分割反応によりその水系のpHの変化が生じるという事実によるものである。例えば本発明の本複合材のどちらか一方の端に電極を配置することにより、複合材の中を電流を通すことができる。電極に電流微分が加えられると、各電極において水分子が分割され、H+およびHO-の濃度が上がるものと考えられる。前に記載したように、pHの変化を利用して、弱酸または弱塩基官能性をもっているマクロ多孔質ゲルの孔サイズを制御することができ、この制御は、これらの官能性のイオン化と、ゲルを形成しているポリマー鎖のコイリング/アンコイリングとの間の関係に関連している。弱酸性の単量体および弱塩基性の単量体の例は前に示されている。
【0062】
電場の変動によるゲル体積の変化は既に文献、例えばMurdan S., J. Control. Release, (2003), 92:1-17;および, Jensen M., Hansen P.B., Murdan S., Frokjaer S., Florence A.T., Eur. J. Pharm. Sci., (2002), 15:139-148で確認されている[これらの文献は参照によりここに組み入れる]。電場の印加によってゲルの体積が変わる正確な過程はまだ十分明らかにされていないが、体積変化そのものは十分文献に記載されている。コンドロイチン-4-スルフェート(CS)は、電場の変動に感応する単量体の1つの例である。
【0063】
一部の実施形態で、いくつかの刺激因子応答系を組み合せることで、複数の刺激因子に応答するゲルを提供することができる。そのような組み合せの系の例は、荷電ポリマー(弱/強酸または塩基)と疎水性単量体を組み合せることで調製することができる。そのような組み合せから得られるマクロ多孔質ゲルは、塩濃度の変化、溶液pHの変化(弱酸の単量体または弱塩基のものを用いた場合)および温度の変化に応答を示すと考えられる。異なる単量体を組み合せる場合、単一の刺激因子に応答する単量体の濃度はゲル中では低くなっていると考えられるので、その特定の刺激因子に対するゲルの応答性は低くなることが考えられる。
【0064】
種々の刺激因子をマクロ多孔質ゲルに加えたときにそのゲルによって発現される応答の大きさは、多くの異なる因子の影響を受ける。そのいくつかについて以下に述べる。
【0065】
マクロ多孔質ゲルの応答性は架橋剤の濃度によって決まる。一般に、架橋剤の濃度が高くなると、応答性ゲルのマクロ孔のサイズも大きくなるが、孔サイズの変化の範囲は小さくなる。この関係はかなり単純で、ゲル内の架橋濃度が高くなると、応答性ゲルに利用可能なコイリングおよびアンコイリングの量が制限されるからである。架橋剤(1種または複数種)対単量体(1種または複数種)のモル比は約5:95〜約40:60、好ましくは約7.5:92.5〜約10:90、より好ましくは約10:90〜約25:75であってよい。
【0066】
ゲルを形成しているポリマー鎖の立体配置により効果的な影響を及ぼす一部の刺激因子は当然ゲルにより広い範囲の応答を呼び起こす。例えば、pHまたは温度の変化は、しかるべきマクロ多孔質ゲルから強い応答を呼び起こすが、塩濃度および光量の変化は若干より小さい応答を呼び起こす。
【0067】
ゲル中の応答性単量体の濃度も、ゲルによって示される応答の大きさに影響する。好ましくは、応答性マクロ多孔質ゲルは、1種以上の応答性単量体および1種以上の中性単量体から構成される。中性単量体の存在は、環境条件の変化に対して非常に強い応答を示す系においては、そのような系は多くの場合孔サイズの不連続的な応答を示す(バルブ効果)ので重要である。中性単量体の添加は応答を弱めるので、より制御された孔サイズの変更が可能となる。好ましくは、本応答性マクロ多孔質ゲルにおける中性単量体のモル比対応答性単量体のモル比は5:95〜95:5、より好ましくは25:75〜75:25、さらに好ましくは40:60〜60:40である。好適な中性単量体としては、アクリルアミド、N-アクリロイルモルホリン、N-アクリルオキシスクシンイミド、2-アクリルアミド-2-(ヒドロキシメチル)-1,3-プロパンジオール、N,N-ジエチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、2-(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレート、2-エトキシエチルメタクリレート、2,3-ジヒドロキシプロピルメタクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、N-(2-ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド、ヒドロキシプロピルメタクリレート、メタクリルアミド、N-[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]-1-メタクリルアミド、N-メチルメタクリルアミド、N-メチル-N-ビニルアセトアミド、ポリ(エチレングリコール)モノメタクリレート、N-イソ-プロピルアクリルアミド、N-ビニル-2-ピロリドンが挙げられる。
【0068】
多孔質支持体構成部材
支持体構成部材を形成するのには様々な材料を用いることができる。しかしながら、セルロースやその誘導体の一部のような材料は別として、このような材料の大半は非常にまたは比較的疎水性である。疎水性濾過膜は、水系で使用するのには、より大きな膜汚れの傾向があるので、通常望ましくない。ポリオレフィンなどのより不活性で、より安価なポリマー(例えばポリ(エチレン)ポリ(プロピレン)ポリ(ビニリデンジフルオリド))を用いて微多孔膜(microporous membrane)を製造できるが、これらの材料は非常に疎水性である。本発明の一部の実施形態では、支持体構成部材が疎水性であることは、複合材を通る液体の流れは主にゲルのマクロ孔で起るので、複合膜が経験する汚れの程度には影響を及ぼさない。
【0069】
一部の実施形態では、多孔質支持体構成部材は高分子材料からできており、平均サイズ約0.1〜約25μmの孔を有しており、体積空隙率が40〜90%である。支持体構成部材としては多くの多孔質基体または膜を用いることができるが、この支持体は好ましくは高分子物質であり、より好ましくは、疎水性ではあるが低コストで入手可能なポリオレフィンである。熱誘導相分離(TIPS)つまり非溶媒誘導相分離により製造された延展ポリオレフィン膜を記載しておく。セルロースやその誘導体のような天然高分子などの親水性支持体も用いることができる。好適な支持体の例としては、Pall Corporation製造のSUPOR[登録商標]ポリエーテルスルホン膜;Gelman Sciences製造のCole-Parmer[登録商標]Teflon[登録商標]膜、Cole-Parmer[登録商標]ナイロン膜、セルロースエステル膜;Whatman[登録商標]フィルターおよびペーパーが挙げられる。
【0070】
一部の他の実施形態では、多孔質支持体は繊維性の織布材料または不織布材料(例えばポリプロピレンなどのポリオレフィン)から構成される。市販されているポリプロピレン製不織布材料の例は、Hollingsworth and Vose Company製のTR2611Aである。そのような繊維性の織布または不織布支持体構成部材はTIPS支持体構成部材よりも大きい孔サイズをもつことができ、一部の例では最大約75μmである。支持体構成部材中の孔が大きくなればなるほど、マクロ多孔質ゲル中に大きいマクロ孔を有する複合材の形成が可能となる。大きいマクロ孔を有する複合材は、例えば細胞増殖を行うことができる支持体として使用することができる。セラミックベースの支持体などの非高分子性支持体構成部材も用いることができる。この多孔質支持体構成部材は様々な形状とサイズをとることができる。
【0071】
一部の実施形態では、支持体構成部材は、厚みが約10〜約2000μm、より好ましくは10〜1000μm、最も好ましくは10〜500μmの膜の形態にある。他の実施形態では、複数の多孔質支持体ユニットを、例えば積重ねることにより組み合せることができる。1つの実施形態では、多孔質支持体膜の積重ね(例えば2〜10枚の膜)を組み立て、その後にマクロ多孔質ゲルを、この多孔質支持体の空隙内に形成させることができる。もう1つの実施形態では、単一支持体構成部材ユニットを用いて複合材膜を形成し、これをこの後使用する前に積重ねる。
【0072】
複合材の調製
本発明の複合材は単純な単一工程方法により調製することができる。一部の例において、これらの方法は、反応溶媒として水または他の良溶媒(例えばメタノール)を用いることができる。この方法はまた、より簡単に連続的に製造する可能性をもたらす迅速製法を用いるという利点をもっている。本複合材はまた安価につくれる可能性がある。
【0073】
本発明の複合材は、例えば1種または複数種の単量体、1種または複数種のポリマー、またはこれらの混合物、1種または複数種の架橋剤、場合によっては1種または複数種の開始剤、および場合によっては1種または複数種のポロゲンを、1種または複数種の好適な溶媒中で混合することにより調製することができる。製造した溶液は好ましくは均質であるが、少しばかり不均質な溶液も用いることができる。この混合物を次に、ゲル形成反応が行われる適切な多孔質支持体の中に導入する。ゲル形成反応用の好適な溶媒としては例えば水、ジオキサン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトン、エタノール、N-メチルピロリドン(NMP)、テトラヒドロフラン(THF)、酢酸エチル、アセトニトリル、トルエン、キシレン、ヘキサン、N-メチルアセトアミド、プロパノール、およびメタノールが挙げられる。高い沸点をもつ溶媒は着火性を減らしまた製造を容易にするので、そのような溶媒を用いるのが好ましい。また溶媒が低い毒性を有していること、および、溶媒を使用の後容易に廃棄することができることも好ましい。そのような溶媒の例はジプロピレングリコールモノメチルエーテル(DPM)である。
【0074】
一部の実施形態では、溶媒として二塩基性エステル(二塩基性酸混合物のエステル)を用いることが可能である。二塩基性エステル(DBE;dibasic ester)は、ポリアクリルアミド単量体に基づくゲルを調製するのに特に好適である。この溶媒系は、水には貧溶媒であるという予期せぬ特徴をもっており、これは、使用される、基本的に完全に水混和性である他の溶媒とは異なる。水混和性溶媒は、組み立ての後の溶媒除去の点に関しては利点を提供するが、DBEのような水非混和性溶媒は、特定の場合において、揮発性、引火性、および毒性であるジオキサンなどの溶媒のよき代替溶媒である。
【0075】
一部の実施形態では、ゲル形成反応の構成成分は室温において自然発生的に反応してマクロ多孔質ゲルを形成する。他の実施形態では、このゲル形成反応は開始させなければならない。このゲル形成反応は公知の方法、例えば熱活性化またはU.V.照射により開始させることができる。この反応はより好ましくは光開始剤の存在下でU.V.照射により開始させる。その理由は、この方法はゲル中により大きなマクロ孔をつくること、また、熱活性化方法と比較してゲル形成反応をより速めることが見出されたからである。多数の好適な光開始剤を用いることができ、その中でも2-ヒドロキシ-1[4-2(ヒドロキシエトキシ)フェニル]-2-メチル-1-プロパノン(Irgacure 2959*)および2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン(DMPA)が好ましい。他の好適な光開始剤としてはベンゾフェノン、ベンゾインおよびベンゾインエーテルが挙げられ、例えばベンゾインエチルエーテルおよびベンゾインメチルエーテル、ジアルコシキアセトフェノン、ヒドロキシアルキルフェノン、α-ヒドロキシメチルベンゾインスルホン酸エステルである。熱活性化では熱開始剤の添加が必要とされる。好適な熱開始剤としては、1,1'-アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)(VAZO[登録商標]触媒 88)、アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、およびベンゾイルペルオキシドが挙げられる。
【0076】
反応をU.V.照射により開始させなければならない場合は、ゲル形成反応の反応体に光開始剤を加え、単量体、架橋剤および光開始剤の混合物を含んでいるこの支持体構成部材を数秒〜数時間の間波長250nm〜400nmのU.V.照射に付す。ある種の光開始剤では、可視波長光を用いて重合を開始させることもできる。重合開始を可能とするには、支持体構成部材は、UV光が支持体を透過することができるよう、使用する波長において光吸収が低いものでなければならない。好ましくは、支持体およびマクロ多孔質ゲル試薬は、350nmで数秒〜最大2時間照射を行う。
【0077】
好ましくは、熱開始重合は、60〜80℃で数分〜最大16時間行う。
【0078】
重合を行う速度は、マクロ多孔質ゲル中に得られるマクロ孔のサイズに影響を及ぼす。前に述べたように、ゲル中の架橋剤の濃度を十分な濃度まで上昇させると、ゲルの構成物質は凝集し始め、高ポリマー密度の領域とほとんどまたは全くポリマーのない領域をつくり、この後者の領域が本明細書では「マクロ孔」と呼ばれる。重合速度によって影響を受けるのがこの機構である。重合をゆっくりと行う場合、例えば光重合における光強度が低い場合は、ゲル構成物質の凝集が進行するための時間が多くあり、これによりゲル中により大きな孔がもたらされる。あるいは、重合を高速度で行う場合、例えば高強度の光源を使用する場合は、凝集するのに利用可能な時間が少なく、より小さな孔がつくられる。
【0079】
一旦複合材を調製したら、色々な溶媒で洗って未反応成分および支持体内に繋留されていないポリマーおよびオリゴマーを除去することができる。本複合材を洗うのに好適な溶媒としては水、アセトン、メタノール、エタノール、およびDMFが挙げられる。
【0080】
本複合材の使用
本発明の複合材は、多くの異なる用途(この場合、液体がゲルのマクロ孔を通過させられる)において使用を見出すことができる。マクロ孔を通過させられる液体は、例えば溶液または懸濁液(例えば細胞の懸濁液または凝集物の懸濁液)から選択することができる。
【0081】
一部の実施形態では、本複合材を用いて分離を行うことができる。使用としては、限外濾過や精密濾過のようなサイズ排除分離が挙げられる。本発明の複合材はこのようなタイプの用途においては、広い範囲の孔サイズが利用可能であること、および、異なる孔サイズをもつ複合材を容易に製造できることから、好都合である。一部の実施形態では、サイズ排除分離に用いる複合材が、完全には占有されていないことが好ましい。すなわち、複合材を通って流れる液体の全てまたは実質的に全てがマクロ多孔質ゲルを通って流れるが、支持体構成部材の空隙体積はマクロ多孔質ゲルで完全には占有されていないことが好ましい。支持体構成部材の第1主表面またはその近隣におけるマクロ多孔質ゲルの密度が支持体構成部材の第2主表面またはその近隣における密度よりも高い、不完全占有空隙体積をもつ複合材は、非対称であるとみなされる。
【0082】
マクロ多孔質ゲルが電荷をもっている実施形態では、マクロ孔表面電荷と制御されたマクロ孔サイズを組み合せることによって、Donnan型排除分離に用いることができる複合材がつくられる。これらの場合では、高水圧流(hydraulic flows)(フラックス)と一体となった高電荷密度をもつ複合材がつくられる。高透過性と一体となった高電荷密度は、複合材に高イオン交換能力を与えるので、例えば金属イオンの吸着に有用であり得る。後の実施例により、これらの複合材はタンパク質や他の関連する分子の回収にも用いることができること、および、本発明の複合材は高い結合能力を示すことが示される。
【0083】
本発明の複合材は、溶液からタンパク質などの生体分子を分離するのにも適している。その理由は、生体分子は、本複合材のマクロ孔中にあるリガンドまたは結合部位と特異的相互作用をもち得るからである。この特異的相互作用には、静電気的相互作用、親和的相互作用または疎水的相互作用が含まれ得る。分離することができる、生体分子または生体イオンも含めた分子またはイオンの例としてはアルブミンなどのタンパク質(例えばウシ血清アルブミン)やリゾチームが挙げられるが、ウイルスや細胞のような超分子凝集物の分離にも用いることができる。分離することができるその他の生体分子の例としては、ヒトおよび動物由来のγ-グロブリン、ヒトおよび動物由来のIgG、IgM、またはIgEのような免疫グロブリン、タンパク質 Aなどの組み換えまたは天然由来のタンパク質、合成または天然由来のポリペプチド、インターロイキン-2とその受容体、ホスファターゼ、デヒドロゲナーゼなどの酵素、モノクローナル抗体、トリプシンとその阻害物質、異なる起源(例えば、ヒト血清アルブミン、鶏卵アルブミンなど)のアルブミン、シトクロム C、免疫グロブリン、ミオグロブリン、組み換えヒトインターロイキン、組み換え融合タンパク質、核酸由来産物、合成か天然由来のDNAおよびRNA、および小分子などの天然産物が挙げられる。生体分子の分離はもっぱらゲルのマクロ孔中で起るが、それより速度が遅いとはいえゲル自体内でも起こり得る。
【0084】
一部の複合材は可逆的吸着剤として用いることができる。これらの実施形態では、ゲルのマクロ孔またはメッシュ(ミクロ孔)中に吸着された物質例えば生体分子を、マクロ多孔質ゲルを通って流れる液体を変えることによって開放することができる。ゲル組成を変えることによって、吸着された物質の取り込みおよび開放についてのゲルの特性を制御することができる。本発明の複合材のもう1つの利点は膜の形態に製造することができることであり、膜による生体分子の回収は、広く用いられている慣用の充填カラムクロマトグラフィー法よりもスケールアップし易く、労働密度も低く、より迅速であり、資本コストも低い。
【0085】
一部の複合材は、化学合成または細胞増殖用の固体支持体として用いることもできる。これらの方法に必要とされる反応体または養分は、複合材のマクロ孔を通して連続的に流すか、または、マクロ孔の内部に残して駐留させ、その後時間を置いてから押し出すことができる。1つの実施形態では、複合材をペプチドの段階的製造に用いることができる。そのような用途では、アミノ酸がマクロ孔の表面に付けられ、このマクロ孔を通してアミノ酸溶液が順次通過させられてペプチド鎖が調製される。生成したペプチドはこの後このマクロ孔の中を適切な溶媒を通過させることで支持体から脱離させることができる。現在このタイプの合成を行うのに用いられている支持体は、低速の拡散特性をもつ、小孔を有するビーズから構成されている。本発明の複合材はより均一な孔構造をもっており、また貫通孔ももっており、この貫通孔の中ではその液体の流れは制御された拡散ではない。
【0086】
用途分野としては、限定するものではないが、バイオテクノロジーも含めた製薬、食品、飲料、ファインケミカル、および金属イオン回収が挙げられる。
【0087】
応答性複合材の使用
応答性マクロ多孔質ゲルを含んでいる複合材(応答性複合材)は好ましくは、サイズ排除メカニズムに基づき液体成分を分別するのに用いる。このメカニズムでは、濾過デバイスの孔に近づきつつある分子または粒子の対流および拡散に対して立体障害が働く。輸送に対する障害は、フィルター中の孔半径対分子または粒子半径の比に相関している。この比が1:1に近づくと、分子または粒子は、濾過デバイスにより完全に留め置かれることになる。孔半径を変えることにより、異なるサイズの分子または粒子がその孔を通過することが許され、サイズによる分別が実現される。
【0088】
応答性複合材は、このような複合材の孔が狭い孔サイズ分布を有しているので、サイズ排除メカニズムによく合っている。これは、従来の限外濾過膜/精密濾過膜により通常可能であったよりもずっと狭い分子量をもつ分子に対してもサイズ排除分離が実現できることを意味する。一部の実施形態では、本発明の応答性複合材により分離される分子間のサイズ差は約0.9nmまで小さくできる。他の実施形態では、分解能は約0.5nmと低い。公知の限外濾過膜のあるものは確かに狭い孔サイズ分布をもつが(例えば、トラックエッチ膜[track etched membrane])、そのような膜は、コスト的に高くつくとか、フラックスが相対的に低いという欠点をもっている。
【0089】
複合材が親水性である実施形態では、本複合材は、複合材への分子の吸着がほとんどまたはまったくないので、タンパク質のサイズ分離に良く合っている。通常、タンパク質は非特異的結合し易い。従ってこのような応答性複合材は、タンパク質分画のサイズのみに基づいて多成分タンパク質混合物をディスクリート(離散)分画に分離するのに適している。全くサイズ排除法のみによるこのタンパク質の分離は、当技術分野で知られているタンパク質の分離方法、すなわちサイズにおける差が他の物理化学的効果例えば静電気電荷効果、静電気二重層効果、および疎水的相互作用効果と一緒に用いられ、この物理化学的効果がタンパク質の非特異的結合または変性さえももたらすことができる方法とは異なる。従って本複合材を用いてサイズ排除によりタンパク質を分離すると、タンパク質の変性または不可逆的結合によるそのロスが避けられる。本発明の応答性複合材によるタンパク質の分離は非常に穏やかな方法、すなわちタンパク質と分離媒体との間に強い相互作用を伴なわない方法であるので、これによりより高い総合効率のタンパク質回収が可能となる。これは治療用タンパク質回収の経済性における重要な要素である。
【0090】
本応答性複合材を用いた分離の例の1つは、ヒト免疫グロブリン G(IgG)(サイズ 160 kDa)からのヒト血清アルブミン(HSA)(サイズ 60 kDa)の分離である。サイズに基づいたタンパク質の分離は、固定された環境条件において可能である。本応答性マクロ多孔質ゲルを膨潤状態または部分的膨潤状態、例えば弱酸または弱塩基の官能性をもつゲルで以ってフィード中に低濃度の塩がある状態にすると、低い分子量をもつタンパク質(例えば、ヒト血清アルブミン)は複合材を通って自由に移動することができるが、高い分子量をもつタンパク質(例えば、ヒト免疫グロブリン G)は留めて置くことができる。固定環境条件で運転する場合、限外濾過法は2つのプロダクトストリーム(生産物の流れ)をつくり、この固定環境方式は二成分混合物、すなわち一方のタンパク質からもう一方のタンパク質を分別するのに適している。
【0091】
本発明の応答性複合材を用いて、その応答性複合材の動的孔サイズ能力[dynamic pore-size capabilities]を利用するサイズベース分離[size-based separation]により3つ以上のプロダクトストリームをつくることもできる。この多成分分離は、環境条件の変化に応答する膜の孔サイズの変化が緩やかであるので可能である。この方式で運転する場合(すなわち環境条件を変えることで)、この方法は、複数タンパク質混合物からタンパク質を分離するのに適している。そのような方法では、応答性ゲルの環境を適宜に変えることにより環境を階段状にかまたは段々と変える。例えば、二成分または三成分緩衝液系を用いてこの濾過方法を行うのに用いられるバルク媒体のpHを変えることで孔サイズの変化をもたらすことができ、その結果順次的なサイズに基づく分離を行うことができる。ステップ(階段)変化方式で運転すると、各ステップにおいて1つの分画がつくられることになり、各分画はその次の分画のよりも小さいタンパク質を含んでいる。n 個の分画をつくった場合、これらのうちの(n-1)個は透過液で得られ、n 番目の分画は保持液で得られることになる。
【0092】
上記で提供した多成分分離は、限外濾過膜およびナノ濾過膜の全く新しい使用を代表する。このタイプの多成分分離はクロマトグラフィー濾過とも呼ばれる。この新しいタイプの分離の具体的用途の一部としては以下のものが挙げられる:
(a) 鶏卵白身成分の分別;
(i) アビジンなどのLMW[低分子量]化合物(MW[分子量] < 1000);
(ii) リゾチーム(MW 14,100);
(iii) オボアルブミン(MW 47,000);
(iv) コンアルブミン(MW 80,000);
(b) ヒト血漿タンパク質の分別;
(i) ヒト血清アルブミン(HSA、MW 67,000);
(ii) ヒト免疫グロブリン G(HIgG、MW 155,00);
(iv) その他のヒト免疫グロブリン(例えばHIgM、MW >300,000);
(c) デキストランの分子量基準画分への分別;
(d) PEGの分子量基準画分への分別;
(e) ポリマーの分子量基準画分への分別;および
(f) ミクロンサイズ粒子のサイズ基準画分への分別。
【0093】
本発明の複合材はバルク(大容量)物質の分離に非常に適しているが、より少ない容量規模における成分の分離にも用いることができる。例えば、本応答性複合材を用いて生化学物質例えば抗体、その他の生理活性タンパク質、ホルモン、多糖類および核酸を分離し、その後分析することができる。現在用いられている生体特異的分析方法の多く(例えば酵素免疫測定法[Enzyme Linked Immuno Sorbent Assay(ELISA)])は、上記した物質、またはそれらの物質と生体特異的に相互作用する物質(例えば、抗体、抗原、リガンド、および基質類似体)をポリスチレンなどの個体表面(ELISA法の場合)または合成膜(免疫ブロット法[immuno-blotting]の場合)に結合させることに基づいている。これらの検査の検出限界は多くの場合デバイス中の利用可能な表面積例えばマイクロウェルプレート[microwell plates]や平坦シート膜[flat sheet membranes]のブロットセクション[blotted sections]により限られている。物質を個体表面に付けることによって課せられるもう1つの限界は立体障害の可能性であり、これはこれらの検査の基となっている生体特異的認識に影響を及ぼす。溶液相認識・結合を基にする生体特異的分析方法も利用可能で、例えばラジオイムノアッセイ[Radio Immuno Assay(RIA)]である。この方法は多くの場合、分析すべき物質を留置・濃縮するために多孔質合成膜を使用することに依存している。しかしながら、これらの膜の透過性の固定された性質は、限界要因になると思われる。応答性複合材を用いると、分析すべき物質を含んでいる溶液から物質を順次的に除去することを容易にし、その結果固定された透過性の膜では可能と思われなかった分析を容易にすると思われる。応答性膜はまた、アッセイと干渉しそうな物質を検査溶液から除去するのを容易にするために利用することもできる。
【0094】
本応答性複合材はサイズ排除分離に用いるのに特に適しているが、にもかかわらずマクロ多孔質ゲル中に適切な単量体またはポリマーを組み込むことによりDonnan型分離および特異的結合分離に用いることができる。
【0095】
複合材の応答性はまた、使用後の膜(本複合材からできている)の孔を開ける能力、および、その後その環境変化を逆転させることで孔をその初期の値に戻して再調整する能力を可能にする。孔を開けることは、汚れ物質を除去することによるこれらの膜の掃除(cleaning)を容易にし、これによって膜の有効使用期間が長くなる。
【実施例】
【0096】
以下の実施例は本発明を説明するために提供する。しかしながら、各実施例にある特定の詳細は、説明のために選ばれたこと、および、本発明の範囲を限定するものと解釈すべきでないことは理解されると思われる。通常、特に断らない限り実験は同じような条件の下で行った。
【0097】
実験
使用した材料
使用した単量体は、アクリルアミド(AAM)、2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸(AMPS)、(3-アクリルアミドプロパン)トリメチルアンモニウムクロリド(APTAC)、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド(DADMAC)、エチレングリコールジメタクリレート(EDMA)、グリシジルメタクリレート(GMA)、N,N'-メチレンビスアクリルアミド(BIS)、メタクリル酸(MAA)、アクリル酸(AA)、およびトリメチロールプロパントリアクリレート(TRIM)である。使用したポリマーは、平均分子量(MW)25000 Daの分枝状ポリ(エチレンイミン)(BPEI)、平均分子量200、1000、2000、4000および10000 Daのポリ(エチレングリコール)(PEG)、および平均分子量60000 Daのポリ(アリルアンモニウムヒドロクロリド)(PAH)である。BPEIに対して使用した架橋剤はエチレングリコールジグリシジルエーテル(EDGE)であった。
【0098】
使用した溶媒は、シクロヘキサノール(CHX)、塩化メチレン(CH2Cl2)、脱イオン水、1,4-ジオキサン、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ドデカノール(DDC)、グリセロール、メタノール、1-オクタノール、および1-プロパノールであった。
【0099】
使用したフリーラジカル重合開始剤は、2-ヒドロキシ-1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)、フェニル]2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン(Irgacure[登録商標]2959)、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン(DMPA)、および1,1'-アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)(VAZO[登録商標]触媒 88)である。
【0100】
使用したタンパク質は、ウシ血清アルブミン(BSA)、リゾチーム、ヒト血清アルブミン(HSA)、およびヒト免疫グロブリン(HIgG)である。
【0101】
使用したその他の化学物質は、アクリロイルクロリド、塩酸、ナトリウムアジド、塩化ナトリウム、水酸化ナトリウム、トリエチルアミン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(TRIS)、4-モルホリンエタンスルホン酸(MES)、および緩衝液(TRIS Buffer)であった。
【0102】
使用した多孔質支持体は、ポリ(プロピレン)熱誘導相分離(TIPS)膜PP1545-4で、平均孔直径0.45μm、厚み125μm、および空隙率85体積%で、製造は3M Company;同PP1183-3Xで、平均孔直径0.9μm、厚み87μm、および空隙率84体積%で、これも製造は3M Company;および溶融噴射ポリ(プロピレン)不織布TR2611Aで、平均流動直径6.5μm、厚み250μm、および空隙率89.5体積%で、製造はHollingworth & Vose Companyである。
【0103】
複合材の調製
本発明の複合材は以下の一般的な方法により調製することができる。秤量した支持体構成部材をポリ(エチレンテレフタレート)(PET)シートまたはポリ(エチレン)(PE)シートの上に置き、単量体溶液またはポリマー溶液をこのサンプルに加える。このサンプルをこの後もう1枚のPETシートまたはPEシートでカバーし、このサンドイッチされたものにゴムローラーを走らせて余剰の溶液を除去した。このサンプル中でのin situゲル形成を、波長350nmで10〜120分間照射すること、または、上記サンドイッチされたものを60〜80℃で2時間加熱することにより開始される重合によって誘導した。この照射は典型的にはおよそ1.5"(インチ)間隔で配置された、およそ0.1 ワット/インチの出力エネルギーをもつ365nmの光を発光する長さ12"のランプ4本を有しているシステムを用いて行った。このシステムには熱を放散させるための小さなファン1個が装着されていた(これ以外の温度コントロールはなし)。照射されるサンプルは、ランプからおよそ5"の距離に位置していた。予め形成されたポリマーおよびin situ架橋を用いてゲルを形成させる場合は、サンドイッチされたものを架橋反応が完結するまで室温に典型的には2〜16時間放置した。得られた複合材は適切な溶媒または一連の溶媒で十分洗い、ナトリウムアジド0.1重量%水溶液中に入れて細菌の増殖を防いだ。支持体中に形成されたゲルの量を決定するため、サンプルを室温にある真空中で恒量まで乾燥させた。ゲルの取り込みによる質量増加は、乾燥ゲルの増加分質量対多孔質支持体の初期質量の比として計算した。
【0104】
フラックスの測定
本複合材を通る水のフラックス測定はサンプルを水で洗ってから行った。標準的な方法としては、直径7.8cmのディスクの形態にあるサンプルを厚さ3〜5mmの焼結グリッド[sintered grid]上に取り付け、制御された圧力の圧縮窒素が供給されているセルの中に組み込んだ。セルを脱イオン水または別のフィード溶液で満たし、所望の圧力をかける。特定時間内に複合材を通過する水を予め秤量された容器に回収し、秤量した。全ての実験は室温にてまた透過液出側が大気圧で行った。各測定は3回以上繰り返して± 5%の再現性を得た。
【0105】
水フラックス[QH2O (kg/m2hr)]を以下の式から計算した:
【数1】
【0106】
上記式中、m1は水サンプルが入っている容器の質量であり、m2は容器の質量であり、Aは実効膜表面積(38.5 cm2)であり、tは時間である。
【0107】
本発明の複合材は、ゲル充填されていない支持体構成部材の水フラックス値よりも小さい水フラックス値をもつと考えられ、用途にもよるが約2倍〜約数百倍のフラックス低下が考えられる。限外濾過用途に対しては、フラックスは約10倍〜約数百倍低下することが考えられる。
【0108】
膜の水力学的Darcy透過率[k (m2)]は以下の式
【数2】
【0109】
[式中、ηは水の粘度(Pa・s)であり、δは膜の厚み (m)であり、dH2O は水の密度 (kg/m3)であり、ΔP (Pa)はフラックス[QH2O]を測定したときの差圧である]から計算した。
【0110】
膜の水力学的Darcy透過率を用いて多孔質ゲル中の孔の平均水力学的半径を推算した。水力学的半径[rh]は孔体積対孔濡れ表面積の比と定義され、Carman-Kozenyの式[この式は、J. Happel and H. Brennerによる専門書「Low Reynolds Number Hydrodynamics」(Noordhof Int. Publ., Leyden, 1973, p. 393)に載っている]:
【数3】
【0111】
[式中、KはKozeny定数であり、εは膜の空隙率である]から求めることができる。空隙率0.5<ε<0.7に対してはKozeny定数K ≒ 5である。膜の空隙率は、支持体の空隙率からゲルポリマーの体積を差し引くことで推算した。
【0112】
タンパク質の吸着/脱着の実験
タンパク質吸着実験を2種のタンパク質、すなわちウシ血清アルブミン(BSA)とリゾチームで行った。膜の形態にある正に帯電した複合材による実験の場合は、膜サンプルを最初に蒸留水、その後TRIS緩衝液(pH=7.8)で洗った。吸着工程では、直径7.8cmの単一膜ディスクの形態にある複合材サンプルを、水フラックス測定に使用した、また上記においても説明したセルの中にある厚さ3〜5mmの焼結グリッド上に取り付けた。緩衝液1mLあたりBSA 0.4〜0.5mgを含んでいるBSA溶液をこのセルに注いで複合材に対して5cmのヘッドを加えた。この5cmの静水圧は、BSA溶液をさらに加えることにより一定に保った。この方法の変形版では、セルを圧縮窒素で加圧した。流量は、透過液の量を時間に関して秤量することで測定した。典型的な値は1〜5 mL/分の間で変化した。透過液サンプルは2〜5分間隔で集め、280nmにおけるUV分析により分析した。この吸着工程の後、セル中の複合材を約200mLのTRIS緩衝液で洗い、5cmのヘッド圧または圧縮窒素の制御された圧の下で1M NaClを含有しているTRIS緩衝液で脱着を行った。透過液サンプルは2〜5分間隔で回収し、BSA含量について280nmにおけるUV分析により検査した。
【0113】
負に帯電した複合材に対しては、pHが5.5で、リゾチーム濃度が0.5 g/LであるリゾチームのMES緩衝液溶液を、BSAおよび正に帯電した材料について上記で説明した方法と同様の方法で用いた。タンパク質吸着を行っている間の流量はここでも1〜5 mL/分内に保った。タンパク質を脱着する前に、緩衝液200mLを通すことで膜を洗った。タンパク質の脱着は、1M NaClを含んでいるMES緩衝液(pH = 5.5)を用いて、BSAの脱着に対して上記で説明したのと同じやり方で行った。回収されたサンプル中のリゾチーム含量は280nmにおけるUVスペクトル分光分析により決定した。
【0114】
その他の実施例では、タンパク質吸着試験には、Pall Corporation製造のMustang[登録商標]Coin Deviceの中に取り付けられた直径19mmの膜数枚のスタック(積重ね)が関与し、タンパク質溶液は、蠕動ポンプを用いて制御された流量でこの膜スタックに送達された。透過液分画は、上記で説明したのと同じ方法で回収し、分析した。タンパク質の脱着は上記で説明したのと同様のやり方で行い、緩衝液化1M NaClは、重力圧または圧縮窒素圧の代りに蠕動ポンプを用いて膜スタックまで送達した。
【0115】
タンパク質分離実験
タンパク質−タンパク質分別方法における本発明の応答性複合材の分離特性を調べるのに用いた実験方法は、Ghoshとその共働者によって開発され、次の文献に報告されているパルス式注入限外濾過法[pulsed injection ultrafiltration technique]に基づくものである:R.Ghosh and Z.F. Cui, Analysis of protein transport and polarization through membranes using pulsed sample injection technique, Journal of Membrane Science, vol. 175, no. 1 (2000) p. 75 - 84;R.Ghosh, Fractionation of biological macromolecules using carrier phase ultrafiltration, Biotechnology and Bioengineering, vol. 74, no. 1 (2001) p. 1 - 11;および、R. Ghosh, Y. Wan, Z.F. Cui and G. Hale, Parameter scanning ultrafiltration: rapid optimisation of protein separation, Biotechnology and Bioengineering, vol. 81 (2003) p. 673-682(これらは参照により本明細書に組み込む)。使用した実験設備は、次の文献に報告されているパラメーター走査型限外濾過[parameter scanning ultrafiltration]に使用したものに似たものであった:R. Ghosh, Y. Wan, Z.F. Cui and G. Hale, Parameter scanning ultrafiltration: rapid optimisation of protein separation, Biotechnology and Bioengineering, vol. 81 (2003), p. 673-682。
【0116】
この限外濾過実験では二成分キャリアー(担体)相系を使用した。全ての応答性複合材実験における開始キャリアー相は、低塩濃度(典型的には5〜10mM NaCl)のものであった。これらの実験の全てにおいてキャリアー相は高塩濃度(典型的には1 M NaCl)のものに切り換えた。膜モジュール内の塩濃度の変化は、透過液ストリームの伝導度を観察することで追跡することができた。膜横断圧における変化から、塩濃度の変化による膜の水力学的透過性の変化についての見当がついた。
【0117】
実施例 1
この実施例は支持されていない多孔質ゲルの形成を示すもので、これをマクロ多孔質ゲルとして用いることで本発明の複合材を調製することができる。
【0118】
75%水溶液としての(3-アクリルアミドプロパン)トリメチルアンモニウムクロリド(APTAC)単量体3.33g、N,N'-メチレンビスアクリルアミド(BIS)架橋剤0.373g、および溶媒体積比がそれぞれ71:12:17のジオキサン:ジメチルホルムアミド:水の混合物中に溶解されたIrgacure[登録商標]2959光開始剤0.0325gを含有する溶液を調製した。この溶媒混合物においては、ジオキサンは貧溶媒であるが、DMFおよび水は良溶媒である。0.58モル/Lの全単量体濃度(APTACおよびBIS)がこの結果得られた。架橋度はAPTACを基準にして20モル%であった。この溶液5mLをガラス製バイアルに入れ、350nmのUV照射に2時間曝露した。白色のゲルが形成され、これを脱イオン水で十分洗って反応溶媒を交換し、未反応単量体または可溶オリゴマーを除去した。
【0119】
形成されたゲルは機械強度的に大変弱いものであった。このゲルのサンプルを、環境走査型電子顕微鏡[environmental scanning electron microscope(ESEM)]で、ゲルが乾燥するのを防ぐためにサンプルチャンバーに水蒸気を存在させながら調べた。図 1に示されている電子顕微鏡写真には、暗色で、くぼみの多い領域が写っており、これはマクロ多孔質ゲルが形成されたことを示すものである。
【0120】
実施例 2
この実施例は、実施例1で説明した組成の単量体溶液をポリ(プロピレン)多孔質支持体PP1545-4のサンプルに加えることによる本発明の正帯電複合材を調製する方法を示すものである。この複合材は、2時間に亘る350nmにおけるUV照射を用いる上記で説明した一般的な方法により調製した。重合の後、この複合材を48時間脱イオン水で洗った。
【0121】
得られた複合材の乾燥後の質量増加は107重量%であり、水フラックスは50kPaにおいて1643±5 kg/m2hrであり、Darcy透過係数は9.53×10-16 m2であった。
【0122】
ゲル取り込み複合材の形態をESEMを用いて実施例1で説明したのと同じ方法で調べた。図2に示されているESEM電子顕微鏡写真は、マクロ多孔質ゲルがホスト膜の中に取り込まれていることを示すものである。この電子顕微鏡写真は、図1に示されている支持されていないマクロ多孔質ゲルの構造に類似した構造を示しており、ミクロ(微細)多孔質支持体構成部材の痕跡はほとんど示していない。
【0123】
実施例 3
この実施例は、弱酸官能性をもつ本発明の負帯電複合材を調製する方法を示すものである。
【0124】
真空蒸留メタクリル酸(MAA)単量体5.50g、N,N'-メチレンビスアクリルアミド架橋剤0.4925g、およびIrgacure[登録商標]2959光開始剤0.1503gを体積比9:1のジオキサン:DMFの溶媒混合物25mL中にそれぞれ溶解させて出発単量体溶液を調製した。この複合材は、ポリ(プロピレン)PP1545-4支持体および上記した光開始重合の一般的な手順を用いて調製した。使用したUV照射時間は2時間であり、得られた膜はDMFで24時間洗い、その後48時間脱イオン水で洗った。得られた乾燥された膜の質量増加は231重量%であり、水フラックスは50kPaにおいて4276±40 kg/m2hrであり、透過率は2.64×10-15 m2であった。
【0125】
この複合材のタンパク質(リゾチーム)吸着/脱着特性を、先に概説した単一膜ディスクについての一般的な方法を用いて調べた。この実験で使用したタンパク質の濃度は、pH 5.5の10mM MES緩衝液中0.5 g/Lであった。吸着実験の流量は2〜4 mL/分となるように調節した。透過液中のリゾチーム濃度[PROTEIN CONC.]対透過液体積[THE VOLUME OF THE PERMEATE]のプロットを図3に示す。単一膜ディスクで以ってさえも比較的急勾配の破過曲線が得られており、これは膜における均一で狭い孔サイズ分布を示すものである。この複合材は42.8 mg/mLの破過リゾチーム結合能力をもっている。1M NaClを含有する緩衝液での脱着実験により、タンパク質の回収は83.4%であることが示された。
【0126】
実施例 4
この実施例は、実施例3で説明したタイプの弱酸官能性もつ複合膜の水力学的流量(フラックス)に対する全単量体濃度および溶媒混合物の影響を示すものである。
【0127】
表1に掲載されている化学組成の単量体溶液および多孔質支持体PP1545-4を用いて一連の複合膜(MAA1〜MAA5)を調製した。実施例3で述べた調製方法を用いた。
【表1】
【0128】
表1からわかるように、本発明の複合材の水力学的流量(フラックス)は、溶液中の単量体濃度を調整することで調節することができる。ゲル密度が高くなると透過性が低くなるという、均質ゲルで見られる典型的な傾向とは逆に、この一連の膜における質量増加が大きくなるとそのフラックスも大きくなる。さらなるフラックスの増加が、溶媒混合物中の貧溶媒(ジオキサン)の濃度を上げると実現される(サンプルMAA3およびMAA5を比較されたい)。
【0129】
実施例 5
この実施例は、強酸官能性をもつ本発明の負帯電複合材を調製する方法を示すものである。
【0130】
体積比9:1のジオキサン:H20の混合物25mL中にそれぞれ溶解された2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸(AMPS)単量体2.50g、N,N'-メチレンビスアクリルアミド架橋剤0.372g、およびIrgacure[登録商標]2959架橋剤0.0353gを含有している溶液を使用した。この溶液および支持体PP1545-4から上記した一般的な方法による光開始剤重合により複合材を調製した。使った照射時間は350nmで1時間であった。重合の後、この膜を脱イオン水で48時間抽出した。得られた膜の質量増加は74.0重量%であり、水フラックスは50kPaにおいて2559±40 kg/m2hrであり、Darcy透過率は1.58×10-15 m2であった。
【0131】
実施例 6
この実施例は、強酸官能性をもつ複合膜の水力学的流量に対する溶媒混合物の組成および架橋度の影響をさらに示すものである。実施例5におけるのと同じ一般的な調製方法および照射条件に従って表2に掲載されている化学組成を用いて一連の複合膜(AMPS1〜AMPS5)を調製した。
【表2】
【0132】
この表から、溶媒中のポリマーの溶解度と複合膜の水フラックスとの間の関係に関して、実施例4で述べたのと同様の傾向が観察された。AMPS2とAMPS4とを比較することにより、複合材の水力学的流量(フラックス)は架橋度によっても調整できることが分る。
【0133】
実施例 7
この実施例は、本発明の負に帯電した複合材に中性コモノマーを導入することの影響を示すものである。
【0134】
体積比8:1:1のジオキサン:DMF:H20混合物25mLにそれぞれ溶解された2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸1.750g、アクリルアミド0.485g、N,N'-メチレンビスアクリルアミド架橋剤0.868g、およびIrgacure[登録商標]2959架橋剤0.044gを含む溶液を調製した。この溶液および支持体PP1545-4から上記で述べた一般的な方法による光開始剤重合により複合材を調製した。使った照射時間は350nmで1時間であった。重合の後、この膜を脱イオン水で48時間抽出した。
【0135】
得られた膜の質量増加は103重量%であり、水フラックスは100kPaにおいて7132±73 kg/m2hrであり、およびDarcy透過率は4.40×10-15m2であった。
【0136】
実施例 8
この実施例は、本発明の正に帯電した複合材をつくる1つの方法を示すものである。
【0137】
モル比5:1のジアリルジメチルアンモニウムクロリド(DADMAC)単量体およびN,N'-メチレンビスアクリルアミド(BIS)架橋剤を、水37重量%、ジオキサン45重量%およびDMF 18重量%を含む溶媒混合物にそれぞれ溶解させることで15重量%溶液を調製した。photo-initiator Irgacure[登録商標]2959を単量体重量に対して1%の量で加えた。この溶液および支持体PP1545-4から上記で述べた一般的な方法による光開始剤重合により複合材を調製した。使った照射時間は350nmで30分であった。ポリエチレンシートとポリエチレンシートの間から複合材を取り出し、水およびTRIS緩衝液で洗い、水の中に24時間入れておいた。
【0138】
上記したサンプルと同様のサンプルをいくつか調製し、それを平均してこの複合材の質量増加を推算した。この処理で支持体は元の重量の42.2%増加した。
【0139】
この方法により製造された複合材の水フラックスは70kPaにおいて2100〜2300 kg/m2 時であり、Darcy透過率は9.87×10-16m2であった。
【0140】
この複合材のタンパク質(BSA)吸着特性を上記した単一膜ディスクについての一般的な方法により調べた。この実験で使用したタンパク質の濃度は50mM TRIS緩衝液中0.4 g/Lであった。流量は2〜4 mL/分であった。透過液中のBSA濃度[BSA CONCENTRATION]対透過液体積[PERMEATE VOLUME]のプロットを図4に示す。この複合材のBSA結合能力は48〜51 mg/mLであった。BSA脱着は78〜85%であることが分った。
【0141】
実施例 9
この実施例は、実施例6で使用した荷電単量体に中性単量体を加えることによりタンパク質結合能力が大幅に増大されることを示すものである。
【0142】
80:20の比にあるジアリルジメチルアンモニウムクロリド(DADMAC)およびアクリルアミド(AAM)を、ジオキサン63重量%、水18重量%、DMF 15重量%、およびドデカノール4重量%を含んでいる溶媒混合物中に溶解させることで10重量%溶液を調製した。この単量体溶液にN,N'-メチレンビスアクリルアミド架橋剤を加えることにより40%(モル/モル)の架橋度を得た。光開始剤Irgacure[登録商標]2959は、全単量体重量に対して1%の量で加えた。
【0143】
この溶液および支持体PP1545-4から上記で述べた一般的な方法による光開始剤重合により複合材を調製した。使った照射時間は350nmで20分であった。ポリエチレンシート間からこの複合材を取りだし、水、TRIS緩衝液で洗い、水中に24時間入れておいた。
【0144】
上記したサンプルと同様のサンプルを調製し、これを使って複合材の重量増加を推算した。この処理で支持体は元の重量の80%増加した。
【0145】
この方法により製造された複合材の水フラックスは70kPaにおいて250 kg/m2hr程度であり、Darcy透過率は1.09×10-16m2であった。
【0146】
この複合材のタンパク質(BSA)吸着特性を上記した単一膜ディスクについての一般的な方法により調べた。タンパク質濃度は50mM TRIS緩衝溶液中0.4 g/Lであった。吸着実験の流量は2〜4 mL/分に調整した。この複合材はBSA結合能力104 mg/mLを有していた。
【0147】
実施例 10
この実施例は、予備形成されたポリマーの架橋による支持型多孔質ゲル複合材の形成を示すものである。
【0148】
3つの個別の溶液を以下の組成で調製した:(A) メタノール50mL中分枝状ポリ(エチレンイミン)(BPEI)(25,000 Da)20g、(B) メタノール50mL中ポリ(エチレングリコール)PEG(〜10,000 Da)20g、および(C) メタノール5mL中エチレングリコールジグリシジルエーテル(0.324g)。
【0149】
(A) 2mL、(B) 3mL、および(C) 5mLから構成されるこの3つの溶液の混合物を調製した。この得られた溶液の一部をバイアル中に一晩静置して相分離を観察した。上側の透明ゲル層の形態を調べたら、これはマクロ多孔質であることが判った。
【0150】
この同じ混合溶液を、一般的な方法のところで述べた手法によりポリ(プロピレン)支持体PP1545-4サンプル上に広げた。この膜を2枚のポリ(エチレンテレフタレート)シートの間に挟んで、一晩静置した。この複合材を室温において24時間メタノールで抽出した。重量増加95%が観測された。この複合材の水フラックスは100kPaにおいて6194 kg/m2hrであり、Darcy透過率は4.89×10-10m2であった。
【0151】
この複合材の動的吸着能力を、上記の一般的な方法のところで述べた単一膜ディスクの方法においてBSA溶液(0.4 mg/mL)を用いて測定した。この複合材は破過前68 mg/mLの能力を有していた。
【0152】
実施例 11
この実施例は、グリシジルメタクリレート(GMA)と架橋剤として使用されるエチレンジメタクリレート(EDMA)の重合により調製された複合材の水力学的特性に対する単量体混合物組成および重合条件の影響を示すものである。使用した溶媒は、ドデカノール(DDC)、シクロヘキサノール(CHX)、およびメタノールであった。上記した一般的な方法に従って多孔質ポリプロピレン支持体膜PP1545-4およびin situ重合の2つの開始方式を使った。光重合方式では、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン(DMPA)を光開始剤として使い、熱重合は1,1'-アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)で開始させた。いずれの方式においても、重合は2時間行った。
【0153】
重合条件および多孔質ポリ(グリシジルメタクリレート-コ-エチレンジアクリレート)を含んでいる複合材の物性を表3に示す。
【表3】
【0154】
この一連の複合材において得られた質量増加は重合混合物中の全単量体濃度に比例している。膜AM612、AM615、およびAM619は高濃度の単量体を使用して調製されたが、膜AM614およびAM616ではその単量体濃度はおよそ半分減らされた(表 3)。
【0155】
膜横断圧100kPaで測定された純水フラックスの高い値は、この孔充填物質がマクロ多孔質であることを示している(表 3)。この純水フラックス、従ってその水力学的半径はその質量増加だけでなく、重合方式によっても影響を受ける。図5に示されているように、この水力学的半径[HYDRODYNAMIC RADIUS]は質量増加[MASS GAIN]の線型関数であり、その勾配はその重合方式によって変わる。熱重合における負の勾配の絶対値は光重合した複合材のそれの2倍である。これは、同じ質量増加においては、光重合した複合材は熱重合したものよりも大きい孔を有していることを意味する。つまり、熱により開始される重合よりも重合が速い光開始重合は、より大きい孔をつくる。いずれの重合の場合においても単量体転化率は実際上同じ(似たような質量増加)なので、支持体の存在が、その疎水的な性質によってかまたは重合物の微細な閉じ込めをつくることによってその孔形成およびその孔充満物質の最終構造に影響を及ぼしている。
【0156】
溶媒をドデカノール/シクロヘキサノール 9/91から、他の溶媒よりもより安価でかつ環境的により許容されるメタノールに変えることで、非常に高いフラックスの複合材を得た(膜AM619、表 3)。この複合材は高濃度単量体混合物からつくったもので、そのフラックスは、質量増加が膜AM619のほぼ半分の低さである膜AM614のそれに匹敵するものであった。
【0157】
この実施例およびこの後の実施例は本発明の一部の複合材の1つの特徴を示すものである。単量体および溶媒の組成および濃度を変えることができることで、様々な多孔質構造をもつ安定した複合材をつくることができる。表3に示すように、このようにして大きな孔の複合材を製造することができる。
【0158】
実施例 12
この実施例は、本発明の複合材の水力学的物性に対する単量体混合物組成の影響をさらに示すものである。
【0159】
上述した一般的な方法に従って、ポリ(プロピレン)支持体膜の孔中にアクリルアミド(AAM)と架橋剤としてのN,N'-メチレンビスアクリルアミド(BIS)とのin situ光開始剤重合により形成された多孔質ポリ(アクリルアミド)ゲルを含んでいる一連の複合材を調製した。使用した多孔質支持体構成部材はポリ(プロピレン)TIPS膜PP1545-4であった。光開始剤としては2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン(DMPA)もしくは1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン(Irgacure[登録商標]2959)を使用した。照射は350nmで2時間行った。孔充填性溶液の組成および得られた複合材の物性を表4にまとめた。
【表4】
【0160】
膜AM606〜AM609は非常に似た単量体濃度(12.0〜14.4重量%)および似たような比較的高い架橋度(単量体の16.8〜18.0重量%)でもって調製したものである。これらの複合材で得られた質量増加もまた非常に似ていた。図6に示すように、孔充填性溶液中の全単量体濃度[TOTAL MONOMER CONCENTRATION]と光重合後に達成される質量増加[MASAA GAIN]との間には直線関係が見られる。
【0161】
非溶媒なしの水性溶液から調製される複合材における高い架橋度(AM606)は比較的高い透過率をもたらす。驚くべきことに、直鎖状ポリ(アクリルアミド)の良溶媒である水にこの直鎖状ポリマーの貧溶媒であるメタノールまたはグリセロールを加えると、それに基づいて計算されるDarcy透過率および水力学的半径の大幅な低下がもたらされる。透過率の低下はメタノールよりもグリセロールのほうが大きく、また溶液中のグリセロールの量と共に増大する。
【0162】
貧溶媒の混合物、例えばN,N'-ジメチルホルムアミドおよび1-プロパノールまたは1-オクタノールを使用することについて、また、架橋度および全単量体濃度をさらに上げることについて、膜AM610、AM611、およびAM617で試験を行った。表4に示すように、溶媒の1つとしての水で調製された複合材と比較して、これら複合材の全てで実質的により高い透過率および水力学半径が得られている。これは全単量体濃度の増加にもかかわらず起ったもので、膜AM610およびAM617における単量体濃度は、溶媒の1つとしての水で調製した膜におけるものの2倍以上である。もう1つの溶媒をAM610の1-プロパノールからAM617の1-オクタノールに変えることによっても透過率および水力学半径の大幅な増加がもたらされる。
【0163】
膜AM610の表面の顕微鏡画像を図7(AFM)および図8(ESEM)に示す。比較のため、初期の多孔質支持体構成部材のESEM画像も図8に示す。いずれのセットの画像も構成材表面を覆う多孔質相分離ゲルを示しており、認識できる支持体構成部材構成要素は見られない。
【0164】
膜AM611はDMFおよび1-プロパノールで調製したが、その全単量体濃度はAM610のそれの丁度半分ちょっとである。膜AM611は非常に高いフラックスを示しており、水力学半径はAM610の3倍である。この膜の表面のESEM画像を図9に示す。非常に多孔質のゲル構造(上側の画像)が示されており、これは、膜表面の一部のスポットに形成されてはいるが、膜(下側の画像)からは切り離されているバルクゲルに似ている。
【0165】
膜AM610とAM611の表面の比較を図10に示す。これら2つのゲルにおける構造体構成要素のサイズにおける大きな差を明確に見ることができる。
【0166】
この実施例で調製した複合材は限外濾過膜として役立ち得る。複合材の孔サイズ(従ってその分離特性)を制御して広い範囲の値を得ることができることを示した。
【0167】
実施例 13
この実施例は、本発明の複合材を通る水力学的流量(フラックス)に対する支持体構成部材の孔サイズの影響を示すものである。
【0168】
孔サイズがそれぞれ0.45μmおよび0.9μmである2枚のポリプロピレン支持体構成部材PP1545-4およびPP1183-3Xを用いて、メタノール中にグリシジルメタクリレート39.4重量%およびエチレンジアクリレート9.2重量%、つまり単量体混合物中に単量体48.6重量%およびエチレンジアクリレート(架橋剤)18.9重量%を有している同じ単量体混合物で複合材をつくった。使用した光開始剤は単量体の1.3重量%の量のDMPAであった。
【0169】
この複合材は上述した一般的な方法により調製した。照射時間は350nmで2時間であった。得られた複合材をメタノールで洗いその後脱イオン水で洗った。複合材を100kPaにおける水フラックスについて試験してDarcy透過率および水力学半径を計算した。結果を表5に示す。
【表5】
【0170】
このデータは、いずれの複合材における水力学半径も実験誤差内で同じであることを示しており、この複合材が似た構造のマクロ多孔質ゲルを含んでいることを実証している。
【0171】
実施例 14
この実施例はポリ(エチレングリコール)(PEG、MW:4000、2000、1,000、および200)ジアクリレートの合成を示すもので、これは本発明の複合材を調製するための架橋剤として用いることができる。
【0172】
用いた合成方法は、N. Ch. Padmavathi, p. R. Chatterji, Macromolecules, 1996, 29, 1976[参照により本明細書に組み入れる]により報告されている方法に従うものである。250-mL丸底フラスコ中でPEG 4000 40gをCH2Cl2 150mLに溶解させた。このフラスコに別々にトリエチルアミン2.02gおよびアクリロイルクロリド3.64gを滴下で加えた。最初反応温度を氷浴で3時間0℃に制御し、その後反応を室温まで昇温させて、そこに12時間保持した。この反応混合物を濾過して沈殿したトリエチルアミン塩酸塩を除去した。この濾液をこの後過剰量のn-ヘキサンの中に注いだ。室温における濾過および乾燥により、無色の生成物(PEG 4000ジアクリレートと呼ばれる)を得た。
【0173】
同じ方法を、他の分子量のPEGで使った。PEG対のモル比は上記PEG 400で用いたように同じに保った。
【0174】
実施例 15
この実施例は、リゾチームに対して高い吸着能力をもつ負に帯電した複合材を調製するさらなる方法を示すものである。
【0175】
単量体として2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸(AMPS)0.6gおよびアクリルアミド(AAM)0.4g;架橋剤としてN,N'-メチレンビスアクリルアミド(BIS)0.25gおよび実施例14で得られたPEG 4000ジアクリレート1.0g;および光開始剤としてIragure[登録商標]2959 0.01gを含む溶液を、80:10:10の体積比のジオキサン、ジメチルホルムアミド(DMF)、および水から構成される溶媒中に調製した。
【0176】
膜の形態にある多孔質ポリ(プロピレン)支持体構成部材(PP1545-4)を使い、複合材は一般的な方法により調製し、照射は350nmで20分間行った。重合の後、この複合材を脱イオン水で24時間十分洗った。
【0177】
得られた複合材の乾燥後の質量増加は113.2重量%であり、水フラックスは100kPaにおいて366±22 kg/m2hrであり、Darcy透過率は2.26×10-16であった。
【0178】
この複合材のタンパク質(リゾチーム)吸着/脱着特性を、先に概説した単一膜ディスクについての一般的な方法により調べた。この実験で使ったタンパク質の濃度は、pH 5.5の10mM MES緩衝液中で0.5 g/Lあった。吸着実験の流量は2〜4 mL/分となるよう調節した。透過液中のリゾチームの濃度[PROTEIN CONC.]対透過液の体積[THE VOLUME OF THE PERMEATE]のプロットを図11に示す。比較的急勾配の破過曲線が得られていることが分かる。この複合材はリゾチーム結合能力103.9 mg/mLを有していた。脱着実験によりタンパク質の回収率は64.0%であることが示された。
【0179】
実施例 16
この実施例は、実施例15にあるものと同じ見掛けのポリマー組成をもつがずっと高い水力学的流量(フラックス)および良好なリゾチーム取り込み能力をもつ負に帯電した複合材の調製を示すものである。
【0180】
この単量体溶液は、実施例15で調合した溶液をアセトンで質量比1:1で希釈することによりつくった。
【0181】
膜の形態にある多孔質ポリ(プロピレン)支持体構成部材(PP1545-4)を使い、この複合材は一般的な方法により調製した。使った照射時間は2時間であった。重合の後、複合材は脱イオン水で24時間十分洗った。
【0182】
得られた複合材の乾燥後の質量増加は51.1重量%であり、100kPaにおける水フラックスは6039±111 kg/m2hrであり、これはDarcy透過率3.73×10-15を与えた。
【0183】
この複合材のタンパク質(リゾチーム)の吸着/脱着特性を先に概説した単一膜ディスクについての一般的な方法により調べた。この実験で使ったタンパク質の濃度はpH 5.5の10mM MES緩衝液中で0.5 g/Lあった。吸着実験の流量は2〜4 mL/分となるよう調節した。透過液中のリゾチームの濃度[PROTEIN CONC.]対透過液の体積[THE VOLUME OF THE PERMEATE]のプロットを図12に示す。比較的急勾配の破過曲線が得られていることが分かる。この複合材のリゾチーム結合能力は75.4 mg/mLであった。脱着実験により、タンパク質の回収率は65.0%であることが示された。
【0184】
実施例 17
この実施例は、非常に高いフラックスをもつがタンパク質結合能力が低い負に帯電した複合材の調製をさらに示すものである。
【0185】
この単量体溶液は、実施例15で調合した溶液をアセトンで質量比1:2で希釈することによりつくった。
【0186】
膜の形態にある多孔質ポリ(プロピレン)支持体構成部材(PP1545-4)を使い、複合材の調製は上述した一般的な方法に従って行った。UV開始重合は2時間行った。重合の後、複合材を脱イオン水で24時間十分洗った。
【0187】
得られた複合材の乾燥後の質量増加は34.4重量%であり、100kPaにおける水フラックスは12184±305 kg/m2hrであり、これはDarcy透過率7.52×10-15を与えた。
【0188】
この複合材のタンパク質(リゾチーム)の吸着/脱着特性を先に概説した単一膜ディスクについての一般的な方法により調べた。(この実験で使ったタンパク質の濃度はpH 5.5の10mM MES緩衝液中で0.5 g/Lあった。吸着実験の流量は2〜4 mL/分となるよう調節した。)透過液中のリゾチームの濃度[PROTEIN CONC.]対透過液の体積[THE VOLUME OF THE PERMEATE]のプロットを図13に示す。比較的急勾配の破過曲線が得られていることが分かる。この複合材のリゾチーム結合能力は53.5 mg/mLであった。脱着実験により、タンパク質の回収率は99.0%であることが示された。
【0189】
実施例15、16および17は、ホスト膜中への多孔質ゲルの負荷を制御することが可能であることすなわちこれによって定められた圧力(実施例にあるデータでは100kPa)における水フラックスを制御することが可能であることならびにリゾチームの取り込み量は取り込まれた多孔質ゲルの質量と相関していることを示している。
【0190】
実施例 18
この実施例は、良好なタンパク質吸着能力と良好なフラックスの両方をもつ負に帯電した膜の、マクロモノマーを用いた調製を示すものである。
【0191】
体積比80:10:10のジオキサン-(DMF)-水混合物10mL中にそれぞれ溶解された2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸(AMPS)0.6g、アクリルアミド(AAM)0.4g、N,N'-メチレンビスアクリルアミド(BIS)0.25g、Irgacure[登録商標]2959 0.01g、および実施例14で得たPEG 2000マクロモノマー1.0gを含む単量体溶液を調製した。
【0192】
膜の形態にあるミクロ多孔質ポリ(プロピレン)支持体構成部材[支持体PP1545-4]を上述した一般的な方法と共に用いた。使った照射時間は20分であった。重合の後、この膜を脱イオン水で24時間十分に洗った。
【0193】
得られた膜の乾燥後の質量増加は108.4重量%であり、水フラックスは100kPaにおいて1048±4 kg/m2hrであり、これはDarcy透過率6.47×10-16を与えた。
【0194】
この膜のタンパク質(リゾチーム)吸着/脱着特性を、先に概説した単一膜ディスクについての一般的な方法により調べた。比較的急勾配の破過曲線が得られた。この膜はリゾチーム結合能力88.7 mg/mLを有していた。脱着実験によりタンパク質の回収率は64.0%であることが示された。
【0195】
実施例 19
この実施例は先の実施例18と組み合せてさらに、膜のタンパク質結合能力および流れ特性は調節できることを示すものである。
【0196】
この単量体溶液は、実施例18で調合した溶液をアセトンで質量比1:1で希釈することによりつくった。
【0197】
膜の形態にある多孔質ポリ(プロピレン)支持体構成部材(支持体PP1545-4)を、上述した複合材の一般的な方法と共に用いた。使った照射時間は90分であった。重合の後、膜を脱イオン水で24時間十分洗った。
【0198】
得られた複合材の乾燥後の質量増加は45.7重量%であり、100kPaにおける水フラックスは7319±180 kg/m2hrであった。
【0199】
この膜のタンパク質(リゾチーム)の吸着/脱着特性を先に概説した単一膜ディスクについての一般的な方法により調べた。比較的急勾配の破過曲線が観察された。この膜のリゾチーム結合能力は63.4 mg/mLであった。脱着実験により、タンパク質の回収率は79.3%であることが示された。
【0200】
実施例 20
この実施例は、本発明の複合材のタンパク質結合能力に対する中性コモノマーの影響を示すものである。
【表6】
【0201】
単量体溶液は、表6のストック液S1〜S4をアセトンで質量比1:1で希釈することにより調製した。
【0202】
対応するストック液S1〜S4の希釈溶液を用いることにより、また、先に述べた一般的な調製方法に従うことにより複合膜M1〜M4を調製した。使用した多孔質支持体はPP1545-4であり、照射時間は90分であった。重合の完結後、この複合膜を24時間脱イオン水で洗った。
【0203】
複合膜の物性およびタンパク質結合能力を調べた。結果を表7に示す。高分子電解質ゲルの電荷密度は膜へのタンパク質吸着に顕著な影響を及ぼすことが明らかである。
【表7】
【0204】
実施例 21
この実施例は、本発明の複合材のタンパク質結合能力に対する、架橋剤として使用される多官能性マクロモノマー(PEGジアクリレート)の鎖長の影響を示すものである。
【0205】
体積比80:10:10のジオキサン-DMF-水混合物10mL中にそれぞれ溶解された2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸(AMPS)0.6g、アクリルアミド(AAM)0.4g、N,N'-メチレンビスアクリルアミド(BIS)0.10g、Irgacure[登録商標]2959 0.01g、および実施例14で得られた異なる分子量(200、1000、2000、4000)のPEGジアクリレート1.0gを含む一連のストック溶液を調製した。このストック溶液をこの後アセトンで質量比1:1で希釈した。ポリ(プロピレン)支持体PP1545-4を用いてこれらの溶液から上述した一般的な調製方法に従うことで一連の複合幕を調製した。照射時間は90分にセットした。重合の完結後、この複合膜を24時間脱イオン水で洗った。
【0206】
複合膜の物性およびタンパク質結合能力を単一膜ディスクについての一般的な方法により調べた。表8に示す結果は、複合膜のゲル構造はタンパク質吸着に対して大きな影響を及ぼすことを明確に示している。恐らく、これはマクロ孔表面近くのゲル構造に関係しており、そこでは極めてルーズな[loose](緩んだ)構造が形成されており、これによりタンパク質がある深さのゲル層の中に進入していくことが可能となっている。もう1つの可能性は、より長い鎖のPEGジアクリレートを用いることによって、その表面におけるあるファジィネス[fuzziness](はっきりしない状態)によって表面積が増大され、その結果より多くの吸着部位をタンパク質に対して利用可能としていることである。
【表8】
【0207】
実施例 22
この実施例は、繊維性不織布支持体を使用して正帯電マクロ多孔質ゲルを含む本発明の複合材をつくることを示すものである。
【0208】
ジオキサン65重量%、水18重量%、およびDMF17重量%を含む溶媒混合物中に、80:20の比で採取したジアリルジメチルアンモニウムクロリド(DADMAC)およびアクリルアミド(AAM)を溶解させることで10重量%溶液を調製した。この単量体溶液にN,N'-メチレンビスアクリルアミド(BIS)を加えて40%(モル/モル)の架橋度を得た。光開始剤Irgacure[登録商標]2959を全単量体重量に対して1%の量で加えた。
【0209】
繊維性不織布ポリプロピレン支持体TR2611Aのサンプルを1枚のポリエチレンシート上に置き、これをこの単量体溶液で満たした。この支持体をこの後もう1枚のポリエチレンシートでカバーし、得られたサンドイッチされたものを2本のゴムローラーの間を走らせて単量体溶液を孔の中へ押し入れ、過剰の溶液を除去した。この満たされた支持体を350nmで20分間照射して重合反応を起こさせた。この複合材をポリエチレンシートの間から取り出し、水、TRIS緩衝溶液で洗い、水中に24時間入れておいた。複製のサンプルを用いて複合材の質量増加を推算した。支持体はこの処理で元の重量の45%重量増した。
【0210】
この方法でつくった複合材の水フラックスは70kPaにおいて2320 kg/m2hr程度であった。
【0211】
この複合材の単一層のタンパク質(BSA)吸着特性を、上述した一般的な方法、1つは単一膜ディスクについての方法、1つはマルチ(複数)膜スタックについての方法により調べた。この膜スタックは、全厚みが1.75mmで7枚の膜層を含んでいた。いずれの実験においてもタンパク質濃度は50mM TRIS緩衝溶液中0.4 g/Lであり、使用したタンパク質溶液の流量は3.1±0.1 mL/分であり、蠕動ポンプにより送達した。BSAに対する破過能力は、単一膜実験では64 mg/mL であり、複数膜スタック実験では55±2 mg/mLであった。
【0212】
実施例 23
この実施例は、本発明の正帯電複合材をつくる上において2種の単量体の混合物を使用することを示すものである。
【0213】
50 : 50の比にあるジアリルジメチルアンモニウムクロリド(DADMAC)および(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド(APTAC)を、ジオキサン65重量% 、水18重量%およびDMF 17重量%を含んでいる溶媒混合物中に溶解させることで10重量%溶液を調製した。この単量体溶液にN,N'-メチレンビスアクリルアミド(BIS)を加えて40%(モル/モル)の架橋度を得た。光開始剤Irgacure[登録商標]2959を全単量体質量に対して1%の量で加えた。
【0214】
ポリプロピレン不織布支持体TR2611Aのサンプルをポリエチレンシート上に配置し、この単量体溶液で満たした。この支持体をこの後もう1枚のポリエチレンシートでカバーし、得られたサンドイッチされたものを2本のゴムローラーの間を走らせて単量体溶液を孔の中へ押し入れ、過剰の溶液を除去した。この満たされた支持体を350nmで20分間照射して重合反応を起こさせた。この複合材をポリエチレンシートの間から取り出し、水、TRIS緩衝溶液で洗い、水中に24時間入れておいた。
【0215】
この方法でつくった複合材の水フラックスは70kPaにおいて2550 kg/m2hr程度であった。複製サンプルにより決定した質量増加は45%であった。
【0216】
この単一層複合材のタンパク質(BSA)吸着特性を、上述した単一膜ディスクについての一般的な方法により調べた。この膜に50mM TRIS緩衝溶液中の濃度0.4 g/LのBSA溶液を流量2〜4 mL/分で送達した。この複合材の破過容量は40 mg/mLであった。
【0217】
実施例 24
この実施例は、実施例23で用いた荷電単量体の混合物に中性単量体を加えることの影響を示すものである。
【0218】
40:40:20の比で採取したジアリルジメチルアンモニウムクロリド(DADMAC)、(3-アクリルアミド-プロピル)、トリメチルアンモニウムクロリド(APTAC)、およびアクリルアミド(AAM)を、ジオキサン65重量%、水17重量%、およびDMF 18重量%を含んでいる溶媒混合物中に溶解させることで15重量%溶液を調製した。この単量体溶液にN,N'-メチレンビスアクリルアミド(BIS)を加えて20%(モル/モル)の架橋度を得た。光開始剤Irgacure[登録商標]2959を全単量体質量に対して1%の量で加えた。
【0219】
ポリプロピレン不織布支持体TR2611Aのサンプルをポリエチレンシート上に配置し、この単量体溶液で満たした。この支持体をこの後もう1枚のポリエチレンシートでカバーし、得られたサンドイッチされたものを2本のゴムローラーの間を走らせて単量体溶液を孔の中へ押し入れ、過剰の溶液を除去した。この満たされた支持体を350nmで20分間照射して重合反応を起こさせた。この複合材をポリエチレンシートの間から取り出し、水、TRIS緩衝溶液で洗い、水中に24時間入れておいた。
【0220】
この方法でつくった複合材の水フラックスは70kPaにおいて550 kg/m2hrであり、質量増加(複製サンプルにより決定)は65重量%であった。
【0221】
この単一層複合材のタンパク質(BSA)吸着特性を、上述した単一膜ディスクについての一般的な方法により調べた。この膜に50mM TRIS緩衝溶液中の濃度0.4 g/LのBSA溶液を流量3.5〜4 mL/分で送達した。この複合材の破過容量は130 mg/mLであった。
【0222】
実施例 25
この実施例は、予備形成されたポリマーの架橋により非支持型正帯電マクロ多孔質ゲルを形成させることを示すものである。
【0223】
ポリ(アリルアミンヒドロクロリド)PAHの10%溶液を、該ポリマーを水60%およびイソ-プロパノール(2-プロパノール)40%を含んでいる溶媒混合物中に溶解させることで調製した。このポリマーを6.67N NaOHを加えることで部分的に脱プロトン化(40%)した。この溶液にエチレングリコールジグリシジルエーテル(EDGE)を加えて40%(モル/モル)の架橋度を得た。この溶液を室温に3時間保ち、PAHのアミン基とEDGEのエポキシ基との間で架橋反応させることでゲル形成させた。3時間後、このゲルを水浴中に入れ、全ての未反応化学物質を浸出させた。
【0224】
このウェットゲルのサンプルをESEMにより調べた。図14に示す顕微鏡画像は、孔直径約70〜80μmのマクロ多孔質ゲルが形成されていることを示している。このウェットゲルは機械強度的には非常に弱いものであった。
【0225】
実施例 26
この実施例は、不織布支持体中に組み込まれたマクロ多孔質ゲルの製造を示すものである。
【0226】
ポリ(アリルアミンヒドロクロリド)(PAH)の10重量%溶液を実施例25と同じようにして調製した。このポリマーを実施例25で述べたと同じように部分的に脱プロトン化し、それにEDGEを加え、この溶液を、2枚のポリエチレンシートの間に配置されたポリプロピレン不織布膜支持体TR2611Aのサンプルに加えた。得られたサンドイッチされたものを2本のゴムローラーの間を走らせてポリマー溶液を支持体の孔の中へ押し入れ、それを均一に広げ、過剰の溶液を除去した。この溶液で満たされた支持体サンプルを室温に3時間保ち、架橋反応を起こさせてゲル形成させた。この時点以降に、この複合材をサンドイッチから取り出し、水浴中に12時間入れて未反応化学物質を浸出させた。
【0227】
得られた複合膜のウェットサンプルをESEMにより調べた。図15に示す顕微鏡画像は、繊維性不織布支持体構成部材中にマクロ多孔質ゲルを有している複合膜を示している。このゲルの平均孔サイズは約25〜30μmであった。膜厚みは800μmであり、100kPaにおいて測定した水フラックスは592 kg/m2hrであった。この複合材は約10 mg/mLの幾分低いBSA結合能力を示した。
【0228】
実施例 27
この実施例は、本発明の複合膜によるタンパク質吸着とPall Corporation製造の市販品Mustang[登録商標]Coin Qとの比較を提供するものである。
【0229】
実施例22で調製した複合材を、実施例22で述べた試験プロトコルに従って、全厚み1.75mmの7枚膜層の複数膜スタックで試験した。Mustang[登録商標]Coin Qも同じような条件で試験した。膜スタックは、ウェット状態にある膜サンプルの7層を互いの上に配置することで調製した。組み立てられた膜スタックを軽く圧縮して過剰の水を除去した。この膜スタックを次に60〜70℃のオーブン中で少なくとも30分間加熱した。得られた膜スタックの乾燥状態の厚みは1.8〜1.9mmであった。この方法により、複数膜層が互いにくっ付いているスタックがつくられた。図16に示す結果(透過液中のBSA濃度[BSA CONCENTRATION IN PERMEATE]/フィード中のBSA濃度[BSA CONCENTRATION IN FEED]対透過液体積[PERMEATE VOLUME]/ベッド体積[BED VOLUME]のプロット)は、いずれのシステムも同じような性能を有していることを示している。
【0230】
実施例 28
この実施例は、多孔質支持体構成部材を有している参照複合材および該支持体の孔を満たしている均質ゲルの水力学的(Darcy)透過率を示すものである。この均質ゲルは熱力学的良溶媒を使用して得、その均質性は同時に形成された同じ組成の支持されていないゲルの透明度を基準に評価した。必ず不透明であったマクロ多孔質ゲルとは反対に、濁りのない透明なゲルは均質であるとした。
【0231】
(A) グリシジルメタクリレートベースの均質ゲルで充満の複合体
グリシジルメタクリレート-コ-エチレングリコールジメタクリレート[GMA-コ-EDMA]の均質ゲルを含む複合材を溶媒としての1,4-ジオキサンおよび単量体混合物中のEDMA(架橋剤)4.7重量%ならびに異なる全単量体濃度を用いて調製した。ポリ(プロピレン)支持体PP1545-4および本発明の複合材を調製する一般的な方法を用いた。光開始剤としてDMPAを用い、照射は350nmで120分間行った。この膜の水力学的透過率を測定し、その水力学的透過率[k]とPP1545-4支持体中にポリ(GMA-コ-EDMA)均質ゲルを含んでいる複合膜の質量増加との間の関係についての経験式を導いた。式は以下のとおりである:
k = 3.62×103×G-9.09 。
【0232】
この透過率測定値と上式から計算した値との差は±3%内であることが分った。この経験式を後ほど用いて異なる質量増加における参照複合材の透過率を計算した。
【0233】
(B) ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)ベースの均質ゲルで充満の複合体
ジアリルジメチルアンモニウムクロリド-コ-メチレンビスアクリルアミド[DADMAC-コ-ビス]の均質ゲルを含む複合材を溶媒としての水および単量体混合物中のビス架橋剤1.0重量%ならびに異なる全単量体濃度を用いて調製した。ポリ(プロピレン)支持体PP1545-4サンプルをメタノール/水(60/40)混合物中のTriton X-114界面活性剤2重量%溶液中に16時間浸漬しその後空気中で乾燥させることにより支持体サンプルをこの界面活性剤でコーティングした。本発明の複合材の一般的な調製方法により均質ゲル充満膜を製造した。光開始剤としてIrgacure[登録商標]2959を用い、照射は350nmで30〜40分行った。一連の膜の水力学的透過率を測定し、Darcy透過率[k]と質量増加[G]との間の関係についての経験式を導いた:
k = 2.09×10-12×G-4.01 。
【0234】
(C) アクリルアミドベース均質ゲル充満複合体
均質ポリ(アクリルアミド)-コ-メチレンビスアクリルアミド[AAM-コ-ビス]の水力学的透過率を、Kapur et al.によりInd. Eng. Chem. Res., vol. 35 (1996) pp. 3179-3185に報告されているゲル透過率とゲルポリマー体積分率との間の経験的な関係から推算した。この式によれば、ポリ(アクリルアミド)ゲルの水力学的透過率は、kgel = 4.35×10-22×φ-3.34[式中φはゲル中のポリマー体積分率である]である。同じ文献において、Kapur et al.は、ゲルの水力学的透過率と同じゲルで充満された多孔質膜の水力学的透過率との間の関係を報告している。この関係によれば、この膜の水力学的透過率は、kmembrane = (ε/τ)×kgel[式中εは支持体の空隙率であり、τは支持体孔の蛇行度である]である。孔蛇行度は、与えられた空隙率に対するKozeny定数[K]すなわちK = 5と直円筒形毛細管に対するKozeny定数すなわちK = 2の比として推算することができる。つまり、空隙率0.85のポリ(プロピレン)支持体PP1545-4に対しては、この比は、(ε/τ) = 0.85/2.5 = 0.34である。
【0235】
ポリマー体積分率[φ]は、ポリ(アクリルアミド)の部分比体積[ν2]とポリ(プロピレン)の密度[ρ]を用いて質量増加に変換することができる。これらのパラメーターの値は、Polymer Handbook, edited by Brandrup et al., Chapter VII, Wiley and Sons, New York, 1999に記載されている。つまり、ゲルにおけるポリマーが孔のφ分率を占有しているゲルで満たされた空隙率εの支持体を有している複合材の質量増加は
【数4】
【0236】
によって与えられる。
【0237】
上記式をKapur et al.の式と組み合せて、異なる質量増加[G]における参照複合材の水力学的透過率[k]を計算することを可能とする経験的な関係を得た。組み合せた式は以下のとおりである:
k = 1.80×10-12×G-3.34 。
【0238】
この式は、ρ = 0.91 g/cm3;ε = 0.85;ν2 = 0.7 cm3/g;(ε/τ) = 0.34 に対して有効である。
【0239】
(D) ポリ(AMPS)ベース均質ゲル充満複合体
2-アクリルアミド-2-プロパン-1-スルホン酸-コ-メチレンビスアクリルアミド[AMPS-コ-ビス]の均質ゲルを含む複合材を溶媒としての水および単量体混合物中のビス架橋剤10.0重量%ならびに異なる全単量体濃度を用いて調製した。ポリ(プロピレン)支持体PP1545-4サンプルをメタノール/水(60/40)混合物中のTriton X-114界面活性剤2重量%溶液中に16時間浸漬しその後空気中で乾燥させることにより支持体サンプルをこの界面活性剤でコーティングした。本発明の複合材の一般的な調製方法により均質ゲル充満膜を製造した。光開始剤としてIrgacure[登録商標]2959を用い、照射は350nmで60分行った。一連の膜の水力学的透過率を測定し、Darcy透過率[k]と質量増加[G]との間の関係についての経験式を導いた:
k = 2.23×10-16×G-1.38 。
【0240】
(E) ポリ(APTAC)ベース均質ゲル充満複合体
(3-アクリルアミドプロパン)トリメチルアンモニウムクロリド-コ-メチレンビスアクリルアミド[APTAC-コ-ビス]の均質ゲルを含む複合材を溶媒としての水および単量体混合物中のビス架橋剤10.0重量%ならびに異なる全単量体濃度を用いて調製した。ポリ(プロピレン)支持体PP1545-4サンプルをメタノール/水(60/40)混合物中のTriton X-114界面活性剤2重量%溶液中に16時間浸漬しその後空気中で乾燥させることにより支持体サンプルをこの界面活性剤でコーティングした。本発明の複合材の一般的な調製方法により均質ゲル充満膜を製造した。光開始剤としてIrgacure[登録商標]2959を用い、照射は350nmで60分行った。一連の膜の水力学的透過率を測定し、Darcy透過率[k]と質量増加[G]との間の関係についての経験式を導いた:
k = 9.51×10-16×G-1.73 。
【0241】
(F) ポリ(エチレンイミン)ベース均質ゲル充満複合体
エチレングリコールジグリシジルエーテル(EDGE)で架橋した分枝状ポリ(エチレンイミン)の均質ゲルを含む複合材を異なる濃度のBPEIメタノール溶液を用いて調製した。用いた架橋度は10モル%であった。ポリ(プロピレン)支持体PP1545-4を複合材の一般的な加工方法と共に用いて実施例10で述べた架橋性ポリマーのin situ架橋を行った。溶液中のPEI濃度を変えることにより異なる質量増加の一連の膜を調製した。この膜のDarcy透過率を測定し、膜のDarcy透過率[k]と質量増加[G]との間の関係を表わす経験式を導いた。式は以下のとおりである:
k = 4.38×10-14×G-2.49 。
【0242】
実施例 29
この実施例は、支持型マクロ多孔質ゲルを含んでいる本発明の複合材のDarcy透過率と、本発明で使用される多孔質支持体構成部材を満たす均質ゲルを含んでいる参照複合材の透過率との比較を示すものである。
【0243】
比較を以下の表9に示す。
【表9】
【0244】
【0245】
実施例 30〜37
これらの実施例は、アクリル酸(AA)(イオン性単量体)、アクリルアミド(AAM)、および架橋剤としてのトリメチロールプロパントリアクリレート(TRIM)の光開始フリーラジカル重合により本発明の応答性複合材を調製する方法を示すものである。アクリル酸対アクリルアミドのモル比は1:1であり、全ての実験において溶媒として1,4-ジオキサンを用いた。単量体溶液組成および重合条件を表10に示す。重合の後、応答性複合材を約16時間脱イオン水で洗った。
【表10】
【0246】
支持体構成部材中に形成されるゲルの量は、満たすのに利用可能な孔体積、全単量体混合物濃度、および重合における転換の程度によって決まる。図17に、支持体TR2611Aによって得た質量増加[MASS GAIN]を全単量体濃度[MONOMER CONCENTRATION]の関数としてプロットする。このデータは、直線の範囲内に入ると近似することができ(R2 = 0.97)、各サンプルについて似た転換の程度であることを示している。実験値は、支持体の孔体積および単量体濃度から推算したその理論値に非常に近かった。これは、転換度が100%に近いこと、また、用いた光条件では10分の照射時間が十分であることを示唆するものである。予測されるように、PP 1545-4支持体で得た質量増加は、TR2611A支持体で得たそれよりも、前者の空隙率が大きい(85体積%対79.5体積%)ことから、大きかった。
【0247】
実施例 38
この実施例は、実施例30による応答性複合材のイオン性相互作用に対する応答性を示すものである。この目的のためには、複合材を異なるpHおよび/または塩濃度で試験してそのフラックスを100kPaにおいて測定した。膜AM675で得た、PHを約3(1mM HCl)から約12(1mM NaOH)に変えたときに起るフラックス[FLUX]の典型的な変化を図18に示す。この図から、1mM HClで測定したフラックスは1mM NaOHで測定したフラックスよりも大体100倍大きいことが分る。この膜挙動についての理由は、マクロ多孔質ゲルの酸成分のイオン化度における変化にある。高pH(1mM NaOH)では酸成分のカルボキシル基がイオン化され、その静電気的反発力によりポリマー鎖のアンコイルと伸張が引き起こされ、最終的にポリマーネットワーク弾性の反作用的力、および、膜の支持体構成部材により掛けられている閉じ込めとつり合う。膨潤性ポリマーの鎖は孔の体積およびゲル中の孔半径を小さくする。低pH(1mM HCl)では、カルボキシル基は中性のカルボン酸基に変換され、静電気的力は消え、ゲルは縮み(崩壊し)、その結果ゲル中の孔を大きくする。支持体構成部材が存在することにより、ゲルが全体として崩壊すること(すなわち支持されていないバルクゲルで起ると考えらえる現象)および孔が閉じられることが防がれる。つまり、支持体の存在により、ゲルの水力学的特性が変わる方向が覆させられる。純水のフラックスを測定する場合、得られる測定値は水のpH(〜5.5)における平衡イオン化からの距離によって決まる。最初の水[INITIAL WATER]のフラックスは平衡において測定されることとする。酸または塩基の直後は、ゲルは水との平衡からは程遠く、純水のフラックスはこの状態を反映しており、イオン化された形態(NaOH後)または中性の形態(HCl後)におけるフラックスに近い。
【0248】
1mM HClで測定したフラックス対1mM NaOHで測定したそれとの比を膜応答性(MR)の尺度とした。実施例30〜37に記載した膜で得た結果を表11に示す。
【表11】
【0249】
表11の結果は、イオン性相互作用に対する本発明の複合膜の応答性は全単量体混合物濃度および架橋度によっても制御することができることを示している。単量体濃度が高くなると、環境変化に対する膜の感度は低くなる。架橋度を高くした場合同じような効果が見られる。
【0250】
実施例 39
この実施例は、本発明の応答性複合材をベースとする膜のタンパク質を分別する能力を示すものである。ケーススタディ(事例研究)として、治療用タンパク質のヒト血清アルブミン[human serum albumin(HSA)]およびヒト免疫グロブリンG[human immunoguloblin G(HIgG)]の分離を選んだ。ヒト血漿は多くの治療用タンパク質の製造の出発原料であり、血漿タンパク質と呼ばれる。これらの内でも最も多くあるのがHASとHIgGで、いずれもバルク量で製造されている。これらのタンパク質は一般に沈殿をベースとする方法により分別されており、この方法では高い生成品スループット[product throughput]が得られるが分離に関する分割能は低い。限外濾過のような膜をベースとする方法は高いスループットと高い分解能の両方を与える潜在能力を有している。
【0251】
応答性マクロゲルを含んでいる本発明の複合膜すなわち膜AM695(表10と11を参照)の複製品2枚を、これら血漿タンパク質の分離におけるその適合性について試験した。ここで取り上げる実験では、塩濃度を変えることにより膜の孔サイズが変わることを利用して望ましいとする方式すなわち膜モジュールからの順次的放出でタンパク質−タンパク質分離を行った。pHなどの他の環境条件を用いて同じような目的を十分達成できる。
【0252】
この限外濾過実験では二成分キャリアー(担体)相システム(binary carrier phase system)を用いた。全ての実験における出発キャリアー相は低塩濃度(典型的には5〜10mM NaCl)のものであった。全ての実験においてキャリアー相は高塩濃度(典型的には1 M NaCl)のものに切り換えた。膜モジュール内の塩濃度の変化は透過液ストリーム(流れ)の伝導度を観測することで追跡できるようになっていた。膜横断圧の変化により、塩濃度の変化による膜の水力学的透過率の変化についての見当がついた。図19は、膜横断圧[TRANSMEMBRANE PRESSURE]および伝導度[CONDUCTIVITY]を流出液体積[EFFLUENT VOLUME]=透過液塩濃度の関数として(図19 AおよびB)、および、膜横断圧[TMP]の変化を透過液の伝導度[Conductivity]の関数として(図19 C)示すものである。この実験では塩濃度は直線的に連続的に上げられている。観測された膜横断圧は透過液塩濃度に関係しており、孔直径の変化を反映している。
【0253】
ヒト血清アルブミンとヒト免疫グロブリンの混合物を用いて実験を行った。限外濾過を低塩濃度(すなわち10mM )で開始した。この条件では、ヒト血清アルブミンは通ったが、ヒト免疫グロブリンGはほとんど全部が通らなかった。塩濃度をこの後上げると、孔直径が大きくなった(定透過液フラックス限外濾過における圧降下から明らか)。これにより次に膜を通るヒト免疫グロブリンGの透過がもたらされた。よって、環境条件を変えることで、同じ膜を通して異なるサイズのタンパク質を順次的に透過させることが可能であった。もし最初の混合物にヒト免疫グロブリンよりももっと大きいタンパク質も含まれていたならば、塩濃度の変化を適切に制御することにより3種のタンパク質(すなわちヒト血清アルブミン、ヒト免疫グロブリンおよびもっと大きいタンパク質)を分別することが可能であったと考えられる。この場合に得られる3つの分画のうちの2つは透過液側にあり、3つ目の分画は保持液側にあると考えられる。
【0254】
膜AM694の複製品で得た結果を図 20、21、および22に示す。図20はHIgGの限外濾過で得た結果を示すものである[図中ABSORBENCEは吸光度である]。図から明らかなように、低塩濃度では、たとえあるとしても非常に少ないHIgGが透過した。しかしながら、塩濃度を上げると、HIgGが膜モジュールから放出された。塩濃度の上昇によるTMP[TRANSMEMBRANE PRESSURE]の降下は孔直径の増大によるものであった。
【0255】
図21に示す結果はHSAの限外濾過で得たものである。図から明らかなように、低塩濃度においてさえもHSAは膜を通って自由に透過した。塩濃度を上げると、HSAの透過はほんの少し増大することが分る。
【0256】
図22はHSA/HIgGの限外濾過で得た結果を示すものである。低塩濃度では、HSAのみが透過した。膜モジュールからHSAがほぼ完全に除去されるまで限外濾過を続けた。その後塩濃度を上げることでHIgGが放出された。
【0257】
実施例 40
この実施例は、高いタンパク質結合能力をもつ本発明の正帯電複合材の製造方法を示すものである。
【0258】
モル比1:0.32:0.1にある(3-アクリルアミドプロピル)-トリメチルアンモニウムクロリド(APTAC)、N-(ヒドロキシメチル)アクリルアミド、および架橋剤としてのN,N'-メチレンビスアクリルアミドを、水10重量%、ジ(プロピレングリコール)メチルエーテル60重量%およびジメチルホルムアミド(DMF)30重量%を含んでいる溶媒混合物中にそれぞれ溶解させることで15重量%溶液を調製した。光開始剤Irgacure[登録商標]2959を、単量体の質量に対して1%の量で加えた。
【0259】
繊維性不織布支持体TR2611Aのサンプルをポリエチレンシート上に配置し、この単量体溶液で満たした。この支持体をこの後もう1枚のポリエチレンシートでカバーし、得られたサンドイッチ状のものを2本のゴムローラーの間を走らせて単量体溶液を孔の中に押しやり、過剰の溶液を除去した。この支持体を350nmで5分照射した。この複合材をこの後ポリエチレンシートの間から取り出し、水およびTRIS緩衝液で洗い、水の中に24時間入れておいた。
【0260】
上記方法によりいくつかのサンプルを調製し、そのサンプルをこの後乾燥させ、秤量した。この複合材の平均質量増加は出発支持体構成部材の最初の重量の55.7%であった。
【0261】
上記複合材の複数膜スタックのタンパク質(BSA)吸着特性を先に述べた複合材の単一層についての一般的な方法により調べた。試験した膜スタックは4つの膜層を有しており、全厚みは1.05mmであった。使用したタンパク質溶液はタンパク質濃度0.4 g/Lの25mM TRIS緩衝溶液であり、このタンパク質溶液の流量は150kPaで5.0 mL/分であった。BSAに対する破過容量は281 mg/mLであった。この後の脱着工程において、およそ85%のBSAが回収された。
【0262】
本明細書で言及した参考文献の全ては、あたかも各参考文献が確実に参照により本明細書に組み込まれると記載されているのと同じ程度に参照により本明細書に組み込まれる。
【0263】
当業者は、添付の特許請求の範囲にある本発明の精神および範囲から逸脱することなく多くの変更、改変および変形ができることを理解すべきである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、支持型マクロ多孔質架橋ゲルを含んでなる複合材ならびにその調製および使用に関する。本複合材は、例えばクロマトグラフィーなどの濾過または吸着による物質の分離、合成における支持体としての使用、または細胞増殖用の支持体としての使用に適している。
【背景技術】
【0002】
複合材および分離用材は以下:
米国特許第4,224,415号;第4,889,632号;第4,923,610号;第4,952,349号;第5,160,627;第11/1992号;第5,593,576号;第5,599,453号;第5,672,276号;第5,723,601号;第5,906,734号;第6,045,697号;第6,086,769号;および第6,258,276号;
国際特許EP 316,642;WO 00/12618;WO 00/50160;EP 316,642 B1;およびEP 664,732 B1;
のような特許明細書に、また他の文献例えば:
Liu, HC. and Fried, J.R., Breakthrough of lythozyme through an affinity membrane of cellulose-Cibaron Blue. AIChE Journal, vol. 40 (1994), p. 40-49;
Tennikov, M.B.;Gazdina, N.V.;Tennikova, T.B.;Svec, F., Effect of porous structure of macroporous polymer substrates on resolution in high-performance membrane chromatography. Journal of Chromatography A, vol. 798 (1998), p. 55-64;
Svec, F.;Jelinkova, M.;Votavova, E., Reactive macroporous membranes based on glicidil methacryrate-ethlene dimethacrylate copolymer for high-performance membrane chromatography. Angew. Makromol. Chem. Vol. 188 (1991), p. 167-176;
Tennikova, T.B.;Belenkii, B.G.;Svec, F., High-performance membrane chromatography. A novel method of protein separation. J. Liquid Chromatography, vol. 13 (1990), p. 63-70;
Tennikova, T.B.;Bleha, M.;Svec, F.;Almazova, T.V.;Belenkii, B.G.J., High-performance membrane chromatography of proteins, a novel method of protein separation. Chromatography, vol. 555 (1991), p. 97-107;
Tennikova, T.B.;Svec, F. High-performance membrane chromatography: highly efficient separation method for proteins in ion-exchange, hydrophobic interaction and reversed-phase modes. J. Chromatography, vol. 646 (1993), p. 279-288;
Viklund, C.;Svec, F.;Frechet, J.M.J. Fast ion-exchange HPLC of proteins using porous poly(grycidyl methacrylate-co-ethylene dimethacrylate), monoliths grafted with poly(2-acrylamide-2-methyl-1-propane sulfonic acid), Biotechnol. Progress, vol. 13 (1997), p. 597-600;
Mika, A.M. and Childs, R.F. Calculation of the hydrodynamic permeability of gels and gel-filled microporous membranes, Ind. Eng. Chem. Res., vol. 40 (2001), p. 1694-1705;
にも記載されている。
【発明の概要】
【0003】
1つの態様で、本発明は、複数の孔が延在している支持体構成部材(support member)および該支持体構成部材の孔中に配置されかつ必須的に該支持体構成部材の孔を満たしているマクロ多孔質架橋ゲルを含んでなる複合材を提供する。一部の実施形態では、使用されるこのマクロ多孔質ゲルは環境条件に応答性であり、応答性複合材が提供される。
【0004】
もう1つの態様で、本発明は、上記した複合材で物質を分離する方法を提供する。
【0005】
もう1つの態様で、本発明は固相化学合成の方法を提供するもので、この場合本複合材は、化学合成が起る孔中で固相としての役割を演じる。
【0006】
もう1つの態様で、本発明は微生物または細胞の増殖方法を提供するもので、この場合本複合材は、増殖が起る孔中で固相としての役割を演じる。
【0007】
なおもう1つの態様で、本発明は上記した複合材の調製方法を提供するもので、その方法は:
a) 支持体構成部材の孔の中に、
i) 結合してマクロ多孔質ゲルを形成することができる1種または複数種の単量体と1種または複数種の架橋剤、または
ii) 結合してマクロ多孔質ゲルを形成することができる1種または複数種の架橋性ポリマーと1種または複数種の架橋剤、
の溶液または懸濁液を導入すること、
b) 該単量体と該架橋剤、または、該架橋性ポリマーと該架橋剤とを反応させて、該支持体構成部材の孔を満たすマクロ多孔質架橋ゲルを形成させること、
を含んでなる。
【0008】
マクロ多孔質ゲル[macroporous gel]は支持体の孔を横方向にすなわち複合材を通る流れの方向に対して実質的に直角方向に満たしている。「満たしている」とは、ここでは、使用において、複合材を通過する本質的に全ての液体がマクロ多孔質ゲルを通過しなければならないことを意味する。この条件が満足される量まで支持体構成部材の孔の中にマクロ多孔質ゲルが入っている支持体構成部材は満たされているとみなされる。この条件が満たされ、その結果液体がマクロ多孔質ゲルを通過する場合、支持体構成部材の空隙体積はマクロ多孔質ゲルで完全に占有されている必要はない。
【0009】
本多孔質支持体構成部材(またはホスト)は親水性でも疎水性でもよく、また、例えば、膜、クロマトグラフィーベッド、または濾過ベッドの形態にあってもよい。本支持体構成部材は、マクロ多孔質ゲルを支持する機械的強度をもつ。本マクロ多孔質ゲルは水力学的流れに対する抵抗が引く、その結果本複合材を横切る圧力の低下が小さくて高い流量が達成されることを可能としている。本マクロ多孔質ゲルはまた、クロマトグラフィー用途および濾過用途における本複合材の分離機能を提供している。
【0010】
ゲルは、液体媒体中に膨潤した架橋ポリマー網様構造[cross-linked polymer network]である。膨潤性液体はポリマー網様構造が崩壊するのを防いでおり、代りに、網様構造は液体を保持している。
【0011】
ゲルは典型的には、形成されたポリマー網様構造の良溶媒でありポリマー網様構造を膨潤させる溶媒中で、単量体および多官能化合物(架橋剤)を重合させることにより、あるいは、架橋性ポリマーを架橋することで得ることができる。このような網様構造中のポリマー鎖は、網様構造の全体積に亘って均一に分布していると仮定することができ、鎖と鎖の間の平均距離(メッシュサイズと呼ばれる)は架橋密度によって決まる。架橋剤の濃度が高くなると、ゲルの架橋密度も高くなり、これによりゲルのメッシュサイズがより小さくなる。メッシュサイズが小さくなると、ゲルを通る液体の流れに対する抵抗が大きくなる。架橋剤の濃度をさらに高くすると、ゲルの構成要素は凝集し始め、これによりゲル中に、高ポリマー密度の領域と低ポリマー密度の領域がつくられる。このようなゲルは、いわゆるミクロ不均質性(microheterogeneity)を呈する。この凝集は、液体の流れが主により低いポリマー密度をもつゲル部分を通って起るので、通常ゲルが液体に対してより高い透過性を示すことを引き起こす。ゲルの低密度部分は排出領域[draining region]と呼ばれ、より高い密度の凝集部分は非排出領域[non-draining region]と呼ばれる。架橋剤の濃度をさらにもっと上げ、もっと多く架橋させると、ゲルは、基本的にポリマーが存在しない領域をつくることができる。これらの領域は本明細書では「マクロ孔(macropore)」と呼ばれる。
【0012】
本発明のある特定の複合材と参照材の水力学的(Darcy)透過率を比較することが可能である。参照材は、本複合材の支持体構成部材と同じ支持体構成部材の孔を、本複合材のゲルと基本的に同じ化学組成で同じような質量の均質なゲル、すなわち良溶媒中で形成され同じ単量体から構成されるが、ゲルが均質なままでありかつ高ポリマー密度領域と低ポリマー密度の領域への凝集が起らない程度にだけ架橋されたゲルで満たすことにより得られる。マクロ多孔質ゲルを有してなる複合材は、対応する参照材の水力学的(Darcy)透過率よりも少なくとも一桁は高い水力学的透過率を示し、一部の例では、透過率は、二桁以上、あるいは三桁以上も高い。本明細書では、水力学的(Darcy)透過率が対応する参照材の水力学的透過率よりも少なくとも一桁大きい本発明の複合材は、10よりも大きい透過率比をもつといわれる。
【0013】
透過率比は複合材中のマクロ孔のサイズと密接に関係している。限外濾過などのサイズ排除分離に対しては、透過率比は10にかなり近いものであってもよい。より大きいマクロ孔が用いられる他の分野例えば吸着、合成または細胞増殖では、透過率比は、一部の実施形態で、100以上、あるいは1000以上の値にさえ至り得る。Mika A. M. and Childs R. F. Calculation of the hydrodynamic permeability of gels and gel-filled microporous membranes, Ind. Eng. Chem. Res., vol. 40 (2001), p. 1694-1705[参照で本明細書に組み込む]の教示に従って、いくつかの例では均質ゲルの水力学的透過率を計算することが可能である。これは、利用可能なその特定のゲルポリマーのデータによって決まる。
【0014】
水力学的透過率から水力学的半径(孔の体積/孔の濡れ表面積 の比と定義される)を導くことができる。これは水力学的(Darcy)透過率から、例えばJ. Happel and H. Brennerの本(Low Reynolds Numbers Hydrodynamics, Noordhof of Int. Publ., Leyden, 1973, p. 393[参照で本明細書に組み込む])にあるCarman-Kozenyの式により計算することができる。Kozeny定数の値を仮定することが必要で、これらの計算のために本発明者は値 5を仮定する。マクロ多孔質ゲルを含有する本発明の複合材は、対応する参照材の水力学的半径の3倍よりも大きい水力学的半径を有していることが分かった。
【0015】
水力学的透過率の定義から、同じ厚みをもつ2つの複合材は、それらの透過率比と同じ比の、同じ圧力における水力学的フラックスをもっていることを導くことができる。
【0016】
ゲル中のマクロ孔のサイズは、数ナノメーターから数百ナノメーターの広い範囲にあることができる。好ましくは、本複合材の多孔質ゲル構成要素は、平均サイズ約10〜約3000nmのマクロ孔を有しており、体積空隙率が30〜80%であり、多孔質支持体構成部材の厚みに等しい厚みを有している。一部の実施形態では、マクロ孔の平均サイズは好ましくは25〜1500nm、より好ましくは50〜1000nmであり、最も好ましくはマクロ孔の平均サイズは約700nmである。
【0017】
支持体構成部材の不存在下では、本発明で用いられるマクロ多孔質ゲルは非自己支持型であることができ、乾燥した場合その多孔質性が変わるあるいはそれを失う可能性がある。マクロ多孔質ゲルを多孔質支持体構成部材内に入れることにより、マクロ多孔質ゲルに機械的強度が与えられる。マクロ多孔質ゲルを利用することによって、生体分子などのより大きい分子をマクロ孔に入り込ませ、そのような分子を含有している溶液がゲルを高いフラックス(流束)で横断することを可能にする複合材がつくられる。
【0018】
「応答性複合材(responsive composite material)」とは、特定の環境条件を変えることによって孔サイズを制御することができるマクロ多孔質ゲルを含んでいる複合材を意味する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】マクロ多孔質ポリ(APTAC)ゲルの環境走査型電子顕微鏡(ESEM)画像である。
【図2】膜の形態にある支持体構成部材の中に取り込まれたマクロ多孔質ポリ(APTAC)ゲルのESEM画像である。
【図3】先の実施例 3で調製された膜のリゾチーム吸着曲線である。膜体積は0.467mLである。
【図4】先の実施例 8で調製された膜のBSA吸着曲線である。
【図5】光開始重合多孔質ゲル含有膜および熱開始重合多孔質ゲル含有膜での質量増加の関数としての水力学半径を表わす図である。ゲル:ポリ(グリシジルメタクリレート-コ-エチレンジアクリレート);溶媒:ドデカノール(DDC)/シクロヘキサノール(CHX) 9/91。
【図6】複合膜の調製中における全単量体濃度の関数としての質量増加を表わす図である。
【図7】AM610膜の表面のAFM画像である(走査面積:100μm2)。
【図8】初期の表面(上)およびAM610の表面(下)のESEM画像である(倍率:5000x)。
【図9】AM611膜の表面のESEM画像である(倍率:上 - 5000x、下 - 3500x)。
【図10】膜AM610(上)および膜AM611(下)のESEM画像である(倍率:5000x)。
【図11】実施例 15で調製された膜のリゾチーム吸着曲線である。膜体積は0.501mLである。
【図12】実施例 16で調製された膜のリゾチーム吸着曲線である。膜体積は0.470mLである。
【図13】実施例 17で調製された膜のリゾチーム吸着曲線である。膜体積は0.470mLである。
【図14】実施例 25の生成物である湿潤マクロ多孔質ゲルのESEM画像である。
【図15】実施例 26の生成物である、繊維状不織布支持体構成部材中の湿潤マイクロ多孔質ゲルのESEM画像である。
【図16】タンパク質(BSA)吸着試験において実施例 22の複数膜スタック型複合材を用いた場合の結果をグラフで示すものである。
【図17】複合材の質量増加に対する単量体濃度の影響をグラフで示すものである。
【図18】圧力100kPaにおける複合材を通るフラックスに対するイオン相互作用の影響をグラフで示すものである。
【図19A】透過液中の塩濃度の関数としての膜横断圧および透過液伝導度の変化をグラフで示すものである。
【図19B】透過液中の塩濃度の関数としての膜横断圧および透過液伝導度の変化をグラフで示すものである。
【図19C】透過液伝導度(塩濃度)の関数としての膜横断圧の変化(C)をグラフで示すものである。
【図20】実施例 39で行われたHIgG 限外濾過の膜横断圧、伝導度および吸光度の間の関係を示すものである。
【図21】実施例 39で行われたHSA限外濾過の伝導度と吸光度の間の関係を示すものである。
【図22】実施例 39で行われたHSA/HIgG 限外濾過の膜横断圧、伝導度および吸光度の間の関係を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
一般的特徴
好ましくは、マクロ多孔質ゲルは支持体構成部材内に繋留されている。用語「繋留」はゲルが支持体構成部材の孔内に保持されていることを意味するが、この用語は必ずしもゲルが支持体構成部材の孔に化学的に結合されていることを意味するのに限定されるものではない。ゲルは、実際にホストまたは支持体構成部材に化学的にグラフトされることなく、ホストの構造要素と網の目に絡ませ、相互に巻きつかせることによってゲル上に負荷された物理的拘束によって保持されることができるが、一部の実施形態では、マクロ多孔質ゲルは支持体構成部材の孔の表面にグラフトされるようになっていてもよい。
【0021】
マクロ孔は、支持体構成部材の孔を満たしているゲル中に存在するので、マクロ孔は支持体構成部材の孔よりも小さくなければならないことは理解されると思われる。それゆえ、複合材の流れ特性および分離特性はマクロ多孔質ゲルの特性によって決まるが、大きくは多孔質支持体構成部材の特性とは関係ない。但しこの場合当然支持体構成部材中に存在する孔のサイズはゲルのマクロ孔のサイズよりも大きいこととする。複合材の空隙率は支持体構成部材をゲルで満たすことにより調整することができ、ゲルの空隙率は主に、単量体またはポリマー、架橋剤、反応溶媒、および、使用する場合はポロゲン(porogen)の特性および量によって調節される。支持体構成部材の孔は同じマクロ多孔質ゲルの物質で充満されるので、複合材の物性の高度な安定性が達成され、ある特定の支持体構成部材に対してはこれらの物性は全部でないにしても大部分マクロ多孔質ゲルの物性により決まる。最終結果は、本発明は、複合材のマクロ孔サイズ、透過率および表面積についての制御を提供するということである。
【0022】
複合材中のマクロ孔の数は支持体構成部材中の孔の数によって決まるものではない。マクロ孔は支持体構成部材中の孔よりも小さいとはいえ、複合材中のマクロ孔の数は支持体構成部材中の孔の数よりもずっと多くあることができる。上述したように、マクロ多孔質ゲルの孔サイズに対する支持体構成部材の孔サイズの影響は一般に全く無視できるほどである。これに対する例外は、支持体構成部材が孔サイズおよび孔サイズ分布に大きな偏差を有している場合、および、非常に小さい孔サイズと狭い孔サイズ分布範囲が求められている場合に見られる。これらの場合においては、支持体構成部材の孔サイズ分布における大きな変化はマクロ多孔質ゲルの孔サイズ分布に弱く反映される。そういうことで、これらの状況では、幾分狭い孔サイズ範囲の支持体構成部材を使用するのが好ましい。
【0023】
複合材の物性は、マクロ多孔質ゲルの平均孔直径を調整することにより調節することができる。一部の目的例えばサイズ排除による限外濾過のためには、小さい孔が必要とされる場合がある。他の目的例えば高反応速度を伴なう化学合成用の固体支持体としての使用のためには、大きい孔が必要とされる場合がある。マクロ孔のサイズは主に架橋剤の特性および濃度、ゲルが形成される溶媒(1種または複数種)の特性、使用される重合開始剤または重合触媒の量、および、存在する場合はポロゲンの特性および濃度によって決まる。
【0024】
一般に、架橋剤の濃度を高くしていくと、ゲル中のマクロ孔のサイズも大きくなる。例を挙げると、多官能化合物(1種または複数種)(架橋剤)対単量体(1種または複数種)のモル比は、約5:95〜約70:30、好ましくは約10:90〜約50:50、より好ましくは15:85〜約45:55である。
【0025】
マクロ多孔質ゲルの成分は液体ビークル(媒体)により支持体構成部材の孔の中に導入され、in situ重合または架橋のための溶媒選択は、多孔質ゲルを得る上においてある役割を演じる。通常、溶媒または溶媒混合物は、広い範囲の濃度に亘って、単量体および多官能化合物、または、架橋性ポリマーおよび架橋剤を溶解すべきである。溶媒がゲルポリマーの良溶媒である場合、有孔性は架橋またはポロゲンによってのみゲルの中に導入することができる。しかしながらもし熱力学的に貧溶媒または非溶媒である溶媒が存在する場合は、この溶媒はポロゲンとして作用すると考えられる。ゲルポリマーに対して異なる親和性をもつ、良溶媒〜貧溶媒〜非溶媒の溶媒を異なる比で組み合せることにより、有孔性および孔寸法のいずれをも変えることができる。一般に、溶媒または溶媒混合物が貧溶媒であればあるほど、マクロ孔の空隙率およびサイズは大きくなる。好ましくは、in situ重合用の溶媒または溶媒混合物は貧溶媒を約0%〜約100%、より好ましくは約10%〜約90%含んでいる。ポリ(2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸)用の良溶媒の例は、水およびN,N-ジメチルホルムアミドである。貧溶媒の例としては、ジオキサン、炭化水素、エステル類、およびケトン類が挙げられる。ポリ(アクリルアミド)用の良溶媒の例は水である。貧溶媒の例としては、ジオキサン、メタノールなどのアルコール類、N,N-ジメチルホルムアミド、炭化水素、エステル類、およびケトン類が挙げられる。好ましくは、用いる溶媒は水と混和性である。
【0026】
重合を非溶媒または貧溶媒を含んでいる液体媒体を用いて行う場合、得られる構造は多くの場合凝集したミクロスフェア(microsphere;微小球)のクラスターから構築されており、このクラスターがマクロ多孔質ゲルの本体を形成する。このような材料中の孔は、クラスターとクラスターの間に位置する空隙(マクロ孔[macropore])、クラスター中のミクロスフェアとミクロスフェアの間の空隙(メソ細孔[mesopore])およびミクロスフェア自体の内部の孔(ミクロ孔[micropore])から構成される。
【0027】
ポロゲン(Porogen)は広くは孔(pore)発生用(generating)添加剤と定義される。ゲル形成反応で用いることができるポロゲンの例としては、熱力学的貧溶媒または抽出可能ポリマー例えばポリ(エチレングリコール)または界面活性剤、または塩が挙げられる。ポロゲンは当技術分野では知られており、当業者なら標準的な実験手法を用いてまた発明の才能を発揮することもなく、所望の複合材で用いるためのマクロ多孔質ゲルを調製するのにどのポロゲンが適しているかを決めることができる。
【0028】
与えられた条件下で得られる多孔質ゲルの構造パラメーターを正確に予測する単純な方法は存在しないが、定性的な基準は利用可能であり、いくつかの手引きを示す。一般に、1種以上の単量体と架橋剤の重合による多孔質ゲル形成のメカニズムでは、最初の段階として、ポリマー鎖が凝集して核を生じることが起る。重合はこの核の中および残っている溶液の中で引き続き起ってミクロスフェアを形成し、このミクロスフェアは溶液から新しく析出した核およびポリマーを捕らえることによりサイズが大きくなる。ある点で、ミクロスフェアは大きなクラスター中で互いに相互連結されるようになり、このクラスターがマクロ多孔質ゲルの本体を形成する。溶媒の性質が貧溶媒になればなるほどゲル形成段階中の核形成はより速く起る。形成された核の数が非常に多い場合は、重合開始剤の濃度が高い場合と同じように、より小さい孔ができる可能性がある。しかしながら、核の数が少なく、かつ、反応速度が核がより大きく成長することができるようなものである場合は、ゲル中にはより大きな孔が形成される。架橋剤の濃度が高いと、通常より早い核形成が起る。しかしながら、核が余りにも高度に架橋されると、単量体で膨潤すること、クラスター中で成長し合体することができなくなる場合がある。これは非常に小さい孔になる可能性がある。重合を進めるのに色々な方法があるので、また、重合条件はゲル多孔質構造に影響を与えることがあるので、種々の構造を得ることができるが、それぞれの構造についての条件は実験的に決める必要がある。
【0029】
本複合材による分離
本発明の一部の実施形態で、本複合材は、例えば、濾過されるべき液体を本複合膜に通し、液体からの1つまたは複数の成分の分離を無荷電マクロ多孔質ゲル中でサイズ排除により行う濾過操作において、分離手段として用いられる。この分離は、荷電マクロ多孔質ゲルを使用することによって、荷電分子のDonnan排除によりさらによくすることができる。マクロ多孔質ゲルが固定電荷を含み、溶質の電荷を適切に調整することができる場合は、溶質はそのサイズ勾配に逆らってさえも分離することができる。例えばタンパク質の混合物を含有している溶液で、該混合物中のタンパク質の1つがその等電点にあるpH値が選択され、他のタンパク質が膜の電荷と同じ符号の電荷を保持している場合、他のタンパク質は、膜との電荷斥力のため、保持液中に引き留めておくことができる。分別の条件を特別調整することにより、同じサイズのタンパク質に対してさえも優れた選択性を得ることができる。
【0030】
マクロ多孔質ゲル中に反応性官能基を存在させることでも分離を行うことができる。これらの官能基を用いて、生体分子または生体分子イオンなどの分子またはイオンに対して親和性をもつリガンドまたは他の特異的結合部位をもたせることができる。この特定の分子またはイオン含有液体が本複合材を通過させられると、リガンドまたは特異的結合部位がこの分子またはイオンと相互作用して、十分それを吸着する。複合材の周りの環境が、後で、例えばゲルのマクロ孔を通過する溶媒の性質を変えることにより変更された場合、場合によってはこの捕捉された分子またはイオンを後で脱着させることも可能である。結合部位は荷電基を含むこともできる。
【0031】
本マクロ多孔質ゲルの組成
マクロ多孔質ゲルは、1種または複数種の重合可能な単量体と1種または複数種の架橋剤、または1種または複数種の架橋性ポリマーと1種または複数種の架橋剤をin-situで反応させて、適切なサイズのマクロ孔をもつ架橋されたゲルを形成させることにより形成することができる。好適な重合可能単量体としてはビニル基またはアクリル基を有している単量体が挙げられる。Donnan排除には、少なくとも1つの極性および/またはイオン性の官能基、または、イオン性の基に変換することができる官能基を有しているビニル単量体またはアクリル単量体を用いることができる。生体親和性には、少なくとも1つの反応性官能基を有しているビニル単量体またはアクリル単量体を用いることができる。好ましい重合可能な単量体としては、アクリルアミド、2-アクリルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド、N-アクリルオキシスクシンイミド、N-アクリロイルトリス(ヒドロキシメチル)メチルアミン、2-アミノエチルメタクリレートヒドロクロリド、N-(3-アミノプロピル)メタクリルアミドヒドロクロリド、ブチルアクリレートおよびメタクリレート、N,N-ジエチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、2-(N,N-ジメチルアミノ)エチルアクリレートおよびメタクリレート、N-[3-(N,N-ジメチルアミノ)プロピル]メタクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、n-ドデシルアクリレート、n-ドデシルメタクリレート、ドデシルメタクリルアミド、エチルメタクリレート、2-(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレートおよびメタクリレート、2,3-ジヒドロキシプロピルアクリレートおよびメタクリレート、グリシジルアクリレートおよびメタクリレート、n-ヘプチルアクリレートおよびメタクリレート、1-ヘキサデシルアクリレートおよびメタクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレートおよびメタクリレート、N-(2-ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド、ヒドロキシプロピルアクリレートおよびメタクリレート、メタクリルアミド、無水メタクリル酸、メタクリルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド、2-(2-メトキシ)エチルアクリレートおよびメタクリレート、オクタデシルアクリルアミド、オクチルアクリルアミド、オクチルメタクリレート、プロピルアクリレートおよびメタク
リレート、N-イソ-プロピルアクリルアミド、ステアリルアクリレート、スチレン、4-ビニルピリジン、ビニルスルホン酸、N-ビニル-2-ピロリドンが挙げられる。特に好ましい単量体としては、ジメチルジアリルアンモニウムクロリド、アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸(AMPS)、(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド(APTAC)、アクリルアミド、メタクリル酸(MAA)、アクリル酸(AA)、4-スチレンスルホン酸およびその塩、アクリルアミド、グリシジルメタクリレート、ジアリルアミン、ならびにジアリルアンモニウムクロリドが挙げられる。
【0032】
架橋剤は、例えば少なくとも2つのビニル基またはアクリル基を有している化合物であることができる。架橋剤の例としては、ビスアクリルアミド酢酸、2,2-ビス[4-(2-アクリルオキシエトキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス(4-メタクリルオキシフェニル)プロパン、ブタンジオールジアクリレートおよびジメタクリレート、1,4-ブタンジオールジビニルエーテル、1,4-シクロヘキサンジオールジアクリレートおよびジメタクリレート、1,10-ドデカンジオールジアクリレートおよびジメタクリレート、1,4-ジアクリロイルピペラジン、ジアリルフタレート、2,2-ジメチルプロパンジオールジアクリレートおよびジメタクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレートおよびジメタクリレート、N,N-ドデカメチレンビスアクリルアミド、ジビニルベンゼン、グリセロールトリメタクリレート、グリセロールトリス(アクリルオキシプロピル)エーテル、N,N'-ヘキサメチレンビスアクリルアミド、N,N'-オクタメチレンビスアクリルアミド、1,5-ペンタンジオールジアクリレートおよびジメタクリレート、1,3-フェニレンジアクリレート、ポリ(エチレングリコール)ジアクリレートおよびジメタクリレート、ポリ(プロピレン)ジアクリレートおよびジメタクリレート、トリエチレングリコールジアクリレートおよびジメタクリレート、トリエチレングリコールジビニルエーテル、トリプロピレングリコールジアクリレートまたはジメタクリレート、ジアリルジグリコールカーボネート、ポリ(エチレングリコール)ジビニルエーテル、N,N'-ジメタクリロイルピペラジン、ジビニルグリコール、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、N,N'-メチレンビスアクリルアミド、1,1,1-トリメチロールエタントリメタクリレート、1,1,1-トリメチロールプロパントリアクリレート、1,1,1-トリメチロールプロパントリメタクリレート、ビニルアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレートおよびジメタクリレート、1,3-ブチレングリコールジアクリレートおよびジメタクリレート、アルコキシ化シクロヘキサンジメタノールジアクリレート、アルコキシ化ヘキサンジオールジアクリレート、アルコキシ化ネオペンチルグリコ
ールジアクリレート、芳香族ジメタクリレート、カプロラクトン変性ネオペンチルグリコールヒドロキシピバレートジアクリレート、シクロヘキサンジメタノールジアクリレートおよびジメタクリレート、エトキシ化ビスフェノールジアクリレートおよびジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレートおよびジメタクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート、プロポキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート、プロポキシ化グリセリルトリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリアクリレート、ジ-トリメチロールプロパン テトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタアクリレートエステル、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ならびにカプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートが挙げられる。特に好ましい架橋剤としては、N,N'-メチレンビスアクリルアミド、ジエチレングリコールジアクリレートおよびジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、エチレングリコールジアクリレートおよびジメタクリレート、テトラ(エチレングリコール)ジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、ジビニルベンゼン、ポリ(エチレングリコール)ジアクリレートが挙げられる。
【0033】
マクロ多孔質ゲル中の単量体濃度は、調製されたマクロ多孔質ゲルの弾力性に影響を及ぼすことができる。低単量体濃度は、自己支持型でないマクロ多孔質ゲルを生じることがある。そのような非自己支持型ゲルは、より大きな吸着容量をもつゲルとなり得るので吸着剤として有利であると考えられる。一部の実施形態では、単量体濃度は60%以下、例えば約60、50、40、30、20、10または5%である。
【0034】
架橋性ポリマーを用いる場合、それを溶解させて、支持体中で架橋剤とin-situで反応させてマクロ多孔質ゲルを形成させることができる。好適な架橋性ポリマーとしては、ポリ(エチレンイミン)、ポリ(4-ビニルピリジン)、ポリ(ビニルベンジルクロリド)、ポリ(ジアリルアンモニウムクロリド)、ポリ(グリシジルメタクリレート)、ポリ(アリルアミン)、ビニルピリジンとジメチルジアリルアンモニウムクロリドのコポリマー、ビニルピリジン、ジメチルジアリルアンモニウムクロリド、または(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリドとグリシジルアクリレートまたはメタクリレートのコポリマーが挙げられ、これらの中ではポリ(エチレンイミン)、ポリ(ジアリルアンモニウムクロリド)およびポリ(グリシジルメタクリレート)が好ましい。単量体の代りに架橋性ポリマーを用いると、場合によっては架橋剤の濃度を下げる必要があることがある。低い架橋剤濃度でゲル中の孔の大きなサイズを維持するためには、そのマクロ多孔質ゲルを調製するのに使用される混合物にポロゲンを加えることができる。
【0035】
架橋性ポリマーと反応させるための架橋剤は、架橋されるポリマー中の原子または原子の群と反応することができる反応性の基、例えばポリアミンの窒素原子と反応することができるエポキシ基またはアルキル/アリールハロゲン化物、あるいは、in situで架橋されるグリシジル基含有ポリマーのアルキル/アリールハロゲン化物またはエポキシ基と反応することができるアミン基、の2つ以上を有している分子から選択される。好適な架橋剤としては、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリ(プロピレングリコール)ジグリシジルエーテル、1,3-ジブロモプロパン、1,4-ジブロモブタン、1,5-ジブロモペンタン、1,6-ジブロモヘキサン、α,α'-ジブロモ-p-キシレン、α,α'-ジクロロ-p-キシレン、1,4-ジブロモ-2-ブテン、ピペラジン、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、1,2-ジアミノエタン、1,3-ジアミノプロパン、1,4-ジアミノブタン、1,5-ジアミノペンタン、1,6-ジアミノヘキサン、1,7-ジアミノヘプタン、1,8-ジアミノオクタンが挙げられる。
【0036】
また、アミノ基、ヒドロキシル基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、あるいはエポキシ基を有しているポリマーを試薬で変性してビニル基を導入し、後でこのビニル基を重合開始剤で処理することで重合してマクロ多孔質ゲルを形成させることもできる。導入することができる好適なビニル基の例としては、ビニルベンゼン誘導体、アリル誘導体、アクリロイルおよびメタクリロイル誘導体が挙げられる。これらのビニル置換ポリマーの架橋は場合によっては、アクリルアミド、N-ビニルピロリドン、アクリル酸およびメタクリル酸ならびにこれらの塩などのさらなる単量体を導入することによって促進させることもできる。
【0037】
マクロモノマーを単量体としてまたは架橋剤として使用することもできる。マクロモノマーは、多くの場合その末端に、マクロモノマーが単量体または架橋剤として働くことを可能とする1つ(一官能型単量体)または複数(架橋剤)の反応性基を有しているポリマーまたはオリゴマーでもある。単量体としては、各マクロモノマー分子は、そのマクロモノマー分子中のただ1つの単量体単位が反応することによって最終生成物であるポリマーの主鎖に結合される。マクロモノマーの例としてはポリ(エチレングリコール)アクリレートおよびポリ(エチレングリコール)メタクリレートが挙げられ、多官能型マクロモノマーの例としてはポリ(エチレングリコール)ジアクリレートおよびポリ(エチレングリコール)ジメタクリレートが挙げられる。マクロモノマーは好ましくは約200 Da以上の分子量を有している。
【0038】
中性ヒドロゲル、荷電ヒドロゲル、高分子電解質、疎水性ゲル、中性ゲル、機能性ゲルなどの多くのマクロ多孔質ゲルを調製することができる。
【0039】
選択されたゲルが、中性ヒドロゲルまたは荷電ヒドロゲル(これらに対しては水が膨潤液体媒体である)である場合、得られる支持型マクロ多孔質ゲルは通常極めて親水性である。親水性複合材は、より優れた流れ特性を提供し、また、膜に汚れ防止特性を付与するので好ましい。好適なヒドロゲルの例としては、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(アクリルアミド)、ポリ(イソプロピルアクリルアミド)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(ヒドロキシメチルアクリレート)、ポリ(エチレンオキシド)、アクリル酸またはメタクリル酸とアクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド、またはビニルピロリドンのコポリマー、アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸とアクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド、またはビニルピロリドンのコポリマー、(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリドとアクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド、またはN-ビニルピロリドンのコポリマー、ジアリルジメチルアンモニウムクロリドとアクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド、またはビニルピロリドンのコポリマーの架橋ゲルが挙げられる。好ましいヒドロゲルとしては、架橋されたポリ(ビニルアルコール)、ポリ(アクリルアミド)、ポリ(イソプロピルアクリルアミド)、およびポリ(ビニルピロリドン)ならびにアクリルアミドやN-ビニルピロリドンなどの中性単量体とアクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸やジアリルジメチルアンモニウムクロリドなどの荷電単量体との架橋されたコポリマーが挙げられる。
【0040】
マクロ多孔質ゲルを、高分子電解質を含ませるように選択することもできる。荷電ヒドロゲルと同様に、高分子電荷質ゲルは親水性複合材をつくり、こららもまた電荷をもっている。高分子電解質ゲルは、例えば、架橋されたポリ(アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸)およびその塩、ポリ(アクリル酸)およびその塩、ポリ(メタクリル酸)およびその塩、ポリ(スチレンスルホン酸)およびその塩、ポリ(ビニルスルホン酸)およびその塩、ポリ(アルギン酸)およびその塩、ポリ[(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウム]塩、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウム)塩、ポリ(4-ビニル-N-メチルピリジニウム)塩、ポリ(ビニルベンジル-N-トリメチルアンモニウム)塩、ポリ(エチレンイミン)およびその塩から選択することができる。好ましい荷電ゲルとしては、架橋されたポリ(アクリル酸)およびその塩、ポリ(メタクリル酸)およびその塩、ポリ(アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸)およびその塩、ポリ[(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウム]塩、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウム)塩、およびポリ(4-ビニルピリジニウム)塩が挙げられる。
【0041】
荷電ゲルと高分子電解質ゲルの差の1つは、高分子電解質ゲル中の繰り返し単量体が電荷をもっているが、荷電ゲルでは、電荷はポリマー中にランダムに分散されている共重合単位中に見られる。この高分子電解質ゲル、または、電荷をもつ荷電ゲル中のコポリマーを形成するのに使用される単量体は通常電荷含有基(charge bearing group)を有しているが、これはまたゲル化後工程(例えば窒素含有基の四級化)で荷電させることができる電荷非含有基であることもできる。荷電させることができるポリマーの例としてはポリ(4-ビニルピリジン)が挙げられ、これは、各種のアルキルおよびアルキルアリールハロゲン化物で四級化することができる。好適なアルキルハロゲン化物としては最大8個までの炭素原子をもつもの、例えばヨウ化メチル、臭化エチル、臭化ブチル、および臭化プロピルが挙げられる。好適なアルキルアリールハロゲン化物としてはベンジルハロゲン化物、特に塩化ベンジルおよび臭化ベンジルが挙げられる。荷電させることができる他のポリマーはポリ(ビニルベンジルクロリド)であり、これは各種のアミン、例えばトリエチルアミン、ピリジン、アザビシクロ[2.2.2]オクタン、N-メチルピロリジン、およびN-メチルピペリジンのような低級アルキルアミンまたは芳香族アミン、および低級ヒドロキシアルキルアミン(例えばトリエタノールアミン)で四級化することができる。荷電させることができるいま1つのポリマーはポリ(グリシジルメタクリレート)またはポリ(グリシジルアクリレート)であり、これは各種のアミン、例えばジエチルアミンおよびトリエチルアミン、アザビシクロ[2.2.2]オクタン、N-メチルピロリジン、およびN-メチルピペリジンのような低級アルキルアミンと反応することができる。別のやり方として、グリシジル部分構造を、例えば亜硫酸ナトリウムのようなアルカリ金属亜硫酸塩との反応によりスルホン酸基に変換することもできる。当業者なら、電荷を含んでいる、またはそれにすることができるその他のポリマーが存在することを解かると思われる。
【0042】
マクロ多孔質ゲルを選択して疎水性単量体を含ませ、有機溶媒例えば炭化水素特にヘキサンのような液体パラフィン中での分離を可能にすることもできる。スチレンおよびその誘導体のような疎水性単量体、例えばパラ-t-ブチルスチレンのようなアルキル置換スチレン誘導体を用いて疎水性マクロ多孔質ゲルを調製することもできる。これらの単量体のコポリマーを用いることもできる。
【0043】
疎水性単量体を含むマクロ多孔質ゲルを用いることで、疎水的相互作用によりその孔を通過する流体から分子を捕捉することができる。
【0044】
上述したように、マクロ多孔質ゲルを選択して反応性官能基を含ませることもでき、この反応性官能基はリガンドまたは他の特異的結合部位を付けるのに用いることができる。これらの官能性マクロ多孔質ゲルは、架橋ポリマーを含んでいる官能基(例えばエポキシ基、無水物基、アジド基、反応性ハロゲン基、あるいは酸塩化物基)から調製することができ、これらの基はリガンドまたは他の特異的結合部位を付けるのに用いることができる。例としては、架橋されたポリ(グリシジルメタクリレート)、ポリ(アクリルアミドオキシム)、ポリ(無水アクリル酸)、ポリ(無水アゼライン酸)、ポリ(無水マレイン酸)、ポリ(ヒドラジド)、ポリ(アクリロイルクロリド)、ポリ(2-ブロモエチルメタクリレート)、ポリ(ビニルメチルケトン)が挙げられる。導入できる官能性は抗体または抗体の断片の形態、あるいは別の形態として染料のような化学物質模擬体の形態をとることができる。機能性ゲルは、例えばある種のタンパク質とは結合するが他のタンパク質とは結合しないように選択されているアフィニティ[親和性]リガンドのように、対象とする分子どうしにサイズの有意な差がない場合でも、他の分子に対しては非反応性でありながら、活性部位に結合することにより、ある種の分子に対する選択的結合を提供できるので、機能性ゲルは生体分子の精製または分離において魅力あるものである。反応性の基を介して多孔質ゲルに結合させることができるアフィニティリガンドとしては、γ-グロブリンおよび免疫グロブリンを分離するためのL-フェニルアラニン、トリプトファン、またはL-ヒスチジンなどのアミノ酸リガンド;異なる培地から免疫グロブリンを分離するためのモノクローナル抗体、タンパク質 A、組み換え型タンパク質 A、タンパク質 G、または組み換え型タンパク質 Gなどの抗原および抗体リガンド;アルブミンおよび各種酵素を分離するためのシバロンブルー(cibaron blue)またはアクティブレッド(active red)などの染料リガンド;各種培地からヒスチジン、リゾチーム、またはトリプトファンなどの各種タンパク質を分離するためのイミノジ酢酸(IDA)リガンドとCu2+、Ni2+、Zn2+、またはCo2+の錯体などの金属アフィニティリガンドが挙げられる。
【0045】
応答性マクロ多孔質ゲル
環境条件の変化に応答して立体配座を変えるポリマーが知られている。このようなポリマーの特性をマクロ多孔質ゲルに組み込むことにより動的な孔サイズをもつ複合材が得られる。感応特性をもつこれらの複合材は、マクロ多孔質ゲルを形成している単量体またはポリマーの少なくとも1つが孔サイズが変わるのを促進する化学構造を有している以外は、上述した複合材と実質的に同じである。
【0046】
マクロ多孔質ゲルの孔サイズの変化は、支持体構成部材とマクロ多孔質ゲル間の物理学的な関係によるものである。本複合材は3つの別個のゾーン、すなわち(a) 支持体構成部材(これは、理想的には形状を変えない)、(b) 該支持体構成部材の孔を「満たしている」組み込まれたマクロ多孔質ゲル、および(c) 該ゲルのマクロ孔内の体積(この体積は水または溶媒で満たされており、その中にはゲルポリマーは極僅か見られるかまたは全く見られない)を有していると定義することができる。圧力を受けると、水力学的流れがゲルのマクロ孔を通って起り、複合材を通るフラックス(流束)は、複合材を貫いてのマクロ多孔質ゲル中の孔の数、これら孔の半径、およびマクロ多孔質ゲル中の孔の経路の蛇行度(tortuosity)に関係している。
【0047】
マクロ多孔質ゲルの膨潤度を環境からの刺激因子によって変えると、マクロ多孔質ゲルによって占有されている全体体積は、支持体構成部材により画定されている固定された全体体積により束縛を受ける。マクロ多孔質ゲルの全体体積は支持体構成部材により束縛されているので、不可避的にゲルのその体積部分は、ゲル中のマクロ孔によって画定されている領域の中へ膨張して行く。マクロ孔の数およびそれらの蛇行度はマクロ多孔質ゲルの体積部分が変わっても基本的に一定のままであるので、マクロ孔の直径または半径自体が変わらなければならない。もしマクロ多孔質ゲルつまり構造体化ゲルが閉じ込められていないと、環境的に誘発された変化により、膨潤ゲルの全体体積の変化が引き起こされると考えられる。そういうことで、この閉じ込められていない場合においては、この変化により、マクロ多孔質ゲルの孔サイズの変化が制御可能になることはないと考えられる。
【0048】
このマクロ多孔質ゲルの体積における変化の背後にある理由は、ゲルを形成しているポリマー構造体間の相互作用、つまり、そのポリマー鎖とその溶媒またはそのゲルの中へ拡散して行く溶媒中に存在している溶質との間の相互作用に関係している。ゲルにより占有される体積における変化は、マクロ多孔質ゲルを形成しているポリマー鎖がとっている立体配座と関連している。ポリマー鎖の自然な傾向はそれら自体の周りをコイル状に巻きつくことであり、このことにより小さい体積をもつゲルが生じる。もしゲル内のポリマー鎖を操作してコイル状に巻きついたのを解き、より撓まない主鎖を形成させることができたら、ゲルの全体体積は増大するものと考えられる。つまり、本応答性複合材に加えられる環境からの刺激因子により影響を受けるのがこのコイル状に巻きつくこと(コイリング)/コイル状に巻きついたのを解くこと(アンコイリング)である。
【0049】
孔の体積変化は「連続的」か、または「不連続的」であり得る。連続的体積変化は、引き金となる環境条件における比較的大きな変化に対して、また、膨潤状態と崩壊状態との間の転移付近において少なくとも1つの安定な体積が存在する場合に起る。好ましくは、連続的体積変化は、膨潤状態と崩壊状態の間における多数の安定な転移体積を経るものとする。ゲル中の不連続的体積変化は、引き金となる環境条件における極めて小さい変化(例えば0.1 pH 単位あるいは0.1℃)に対して起る膨潤状態から崩壊状態への可逆的転移を特徴とする。不連続的体積変化を示すゲルは「相転移」ゲルと呼ばれ、そのようなゲルを有しているシステムまたはデバイスは多くの場合「化学バルブ」と呼ばれる。好ましくは、本発明のこの実施形態による応答性マクロ多孔質ゲルはディスクリートな[discrete;離散型]安定体積を経る「連続的」体積変化を受け、これを利用することによりゲルの孔サイズを制御することができる。
【0050】
応答性マクロ多孔質ゲルにおける孔サイズを変えるのに用いることができる環境からの刺激因子としては、pH、特定イオン、イオン強度、温度、光、電場、および磁場が挙げられる。各刺激因子の影響、および、そのような刺激因子に反応する単量体の例を以下にさらに詳細に述べる。
【0051】
応答性マクロ多孔質ゲルの孔サイズを変えるのに利用することができる1つの刺激因子は、そのゲルの孔を通過している溶液のpHである。ゲルが弱酸または弱塩基を含んでいる場合は、溶液のpHの変化はゲルの孔サイズに影響を及ぼすと考えられる。そのような場合では、ゲル内のポリマー鎖がそれ自体の周りをコイル状に巻き付く自然な傾向は、ポリマー鎖の全長に沿う荷電した基(弱酸または弱塩基の基)どうし間の斥力によって釣り合いがとれていると考えられる。ポリマー鎖に沿う電荷の量における変動はそのポリマー鎖の立体配座における大きな変化を引き起こし、これが次にゲルが占有している体積における変化を引き起こす。溶液のpHを変えると荷電した基のイオン化度を変えるので、これはポリマー鎖に沿う斥力の量を制御するのに有効である。弱酸性基を有しているゲルはpHが下げられるにつれより少なくイオン化され、ゲルは収縮する。逆に、弱塩基のものはpHが下げられるにつれより多くイオン化され、ポリマー鎖は伸びるまたは伸ばされて膨潤ゲルを生じる。
【0052】
弱酸性の官能性をもつ単量体の例としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、4-ビニル安息香酸、ビスアクリルアミド酢酸、およびビス(2-メタクリルオキシエチル)ホスフェートが挙げられる。弱塩基性の官能性をもつ単量体の例としては、2-アミノエチルメタクリレートヒドロクロリド、N-(3-アミノプロピル)メタクリルアミドヒドロクロリド、2-(t-ブチルアミノ)エチルメタクリレート、ジアリルアミン、2-(N,N-ジエチルアミノ)エチルメタクリレート、2-(N,N-ジメチルアミノ)エチルアクリレート、2-(N,N-ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、1-ビニルイミダゾール、および4-ビニルピリジンが挙げられる。グリシジルメタクリレート誘導ヒアルロネート-ヒドロキシエチルアクリレートベースのヒドロゲルを用いてpH応答性の複合材を調製することもできる[Inukai M., Jin Y., Yomota C., Yonese M., Chem. Pharm. Bull., (2000), 48:850-854;参照により本明細書に組み入れる]。
【0053】
pHの変化は強酸や強塩基のイオン化度にはほとんど影響がなく、pHを激変させて初めて、これらの官能性を有してなるゲルにおける孔サイズ変化に影響を及ぼすことができる。
【0054】
応答性マクロ多孔質ゲルの孔サイズを変えるのに利用することができるもう1つの刺激因子は、そのゲルの孔を通過させられている溶液の塩濃度である。pHにおける変化と同様に、塩濃度における変化は、弱酸性または弱塩基性の基を有してなるマクロ多孔質ゲルにおける孔サイズ変化をもたらすと考えられる。しかしながら、この孔サイズの変化の理由は若干だが全く異なる。イオン性溶質を加えると、イオン対が形成されることで、ゲル中のポリマー鎖上にある荷電した基を遮蔽することができる。これは隣接する荷電した基どうし間のクーロン斥力を低下させ、これによりポリマー鎖がコイル状に巻き付いた立体配座へと緩和される。塩濃度を高くすると弱酸基と弱塩基基の両方を遮蔽すると考えられる。従って、例えば複合材を通過させられているバルク溶液に濃縮塩溶液を加えることでこの塩濃度を高くした場合、この追加のイオンの遮蔽効果により孔サイズの増大がもたらされる。代って、例えば複合材を通過させられているバルク溶液を希釈することにより達成されるような塩濃度の低下はより少ない遮蔽およびより小さい孔サイズをもたらすと考えられる。
【0055】
塩濃度変化は、強酸基および強塩基基を有してなるマクロ多孔質ゲルについても、これらの基が遊離イオン化学種の存在によっても遮蔽されるので、用いることができる。
【0056】
弱酸基または弱塩基基をもっている単量体の例は前に掲載してある。強酸官能性をもつ単量体の例としては、2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸、ナトリウム2-メチル-2-プロペン-1-スルホネート、スチレンスルホン酸ナトリウム、およびナトリウムビニルスルホネートが挙げられる。強塩基官能性をもつ単量体の例としては、2-アクリルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド、メタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロリド、および3-メタクリルオキシ-2-ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリドが挙げられる。
【0057】
荷電官能性を最初はもたないが代りに重合後の処理でイオン性またはイオン化可能部分構造に変換させることができる反応性基をもつマクロ多孔質ゲルにもイオン官能性(弱/強酸および塩基)を導入することができる。反応性基をもつ好適な単量体としては、無水アクリル酸、アリルグリシジルエーテル、ブロモスチレン、クロロメチルスチレン、クロロスチレン、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、4-ヒドロキシブチルメタクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、メタクリロイルクロリドが挙げられる。例えば、グリシジルアクリレート基またはメタクリレート基を有してなるマクロ多孔質ゲルはジエチルアミンで処理することで弱塩基官能性を導入することができ、あるいはイソプロパノール/水混合物中で亜硫酸ナトリウムで処理することにより強酸(スルホン酸)官能性を導入することもできる。
【0058】
応答性マクロ多孔質ゲルの孔サイズを変えるのに用いることができるもう1つの刺激因子はゲルの温度である。マクロ多孔質ゲルの温度を変えるには種々の方法が利用可能であり、その1つとして挙げられるのが、マクロ多孔質ゲルの孔の中を流れる液体の温度を変えることである。温度応答性ゲルのゲル全体体積における変化は、ここでも、そのゲルを形成しているポリマー鎖がコイル状に巻き付くことまたはコイル状に巻き付いたのを解くことの制御に起因するものであり、ゲルの収縮または膨張は、ポリマー鎖上の荷電した基の存在とは関連していない。温度応答性ゲルについては、ポリマー鎖の溶媒和量がそのポリマー鎖の立体配座を制御する。温度が低いほどポリマー鎖は溶媒和化され、これはポリマー鎖が伸びた立体配座にする。温度を高くすると、エントロピー型脱溶媒和化が起り、ポリマー鎖がコイル状に巻き付き収縮することが引き起こされる。従って、温度の上昇はゲル中により大きい孔サイズをもたらし、温度の低下はより小さい孔サイズをもたらす。
【0059】
疎水性単量体を含んでなるマクロ多孔質ゲルは、疎水官能性をもつポリマーに対しては溶媒和効果が明らかに認められるので、温度応答性システムで用いるのに最も適している。疎水官能性をもつ単量体の例としては、N-(プロピル)アクリルアミド、N-(t-ブチル)アクリルアミド、ブチルアクリレート、デシルアクリレート、デシルメタクリレート、2-エチルブチルメタクリレート、n-ヘプチルアクリレート、n-ヘプチルメタクリレート、1-ヘキサデシルアクリレート、1-ヘキサデシルメタクリレート、n-ヘキシルアクリレート、n-ヘキシルメタクリレート、およびN-(n-オクタデシル)アクリルアミドが挙げられる。熱応答性を示すゲルは硫酸化ヒアルロン酸ベースのゲルからも調製することができる(Barbucci R., Rappuoli R., Borzacchiello A., Ambrosio L., J. Biomater. Sci.-Polym. Ed., (2000), 11:383-399 を参照されたい)[参照により本明細書に組み入れる]。
【0060】
光は本応答性マクロ多孔質ゲルの孔サイズを変えるのに使用することができるもう1つの刺激因子である。光誘発変化は、ゲルを形成しているポリマー鎖の主鎖または側鎖における光異性化によるものである。これらの光異性化は、光誘発電子移動反応により、その立体配座および局部双極子モーメントの変化か、またはイオン化度の変化を引き起こす。光で制御されるシステムで使用するのに適している単量体の1つのタイプは、光照射でトランス−シス異性化を受けることができる不飽和官能性を有してなる。シス−トランス立体配座の変化および双極子の変化を受ける光応答性単量体の例としては、4-(4-オキシ-4'-シアノアゾベンゼン)ブタ-1-イルメタクリレート、6-(4-オキシ-4'-シアノアゾベンゼン)ヘキサ-1-イルメタクリレート、8-(4-オキシ-4'-シアノアゾベンゼン)オクタ-1-イルメタクリレート、4-[ω-メタクリロイルオキシオリゴ(エチレングリコール)]-4'-シアノアゾベンゼン、4-メタクリロイルオキシ-4'-{2-シアノ-3-オキシ-3-[ω-メトキシオリゴ(エチレングリコール)]プロパ-1-エン-1-イル}アゾベンゼン、ならびにメソゲン基および光互変異性パラ-ニトロベンゼン基を含有しているメタクリレート単量体が挙げられる。単量体の代りに架橋剤に光応答性部分構造を組み込むことも可能である。シス−トランス立体配座の変化および双極子の変化を受ける光応答性架橋剤の例としては、4,4'-ジビニルアゾベンゼン、N,N'-ビス(β-スチリルスルホニル)-4,4'-ジアミノアゾベンゼン、4,4'-ビス(メタクリロイルアミノ)アゾベンゼン、4,4'-ジメタクリロイルアゾベンゼン、およびビス((メタクリロイルオキシ)メチル)スピロベンゾピランが挙げられる。
【0061】
ゲルの孔サイズは、マクロ多孔質ゲルに電場または電流をかけることによっても変えることができる。電気化学的電流の変化に対するゲルの応答は上述したpHシステムに密接に関係している。この密接な関係は、水系を通る電気化学電流の通過によって「水分割」反応が引き起こされ、この水分割反応によりその水系のpHの変化が生じるという事実によるものである。例えば本発明の本複合材のどちらか一方の端に電極を配置することにより、複合材の中を電流を通すことができる。電極に電流微分が加えられると、各電極において水分子が分割され、H+およびHO-の濃度が上がるものと考えられる。前に記載したように、pHの変化を利用して、弱酸または弱塩基官能性をもっているマクロ多孔質ゲルの孔サイズを制御することができ、この制御は、これらの官能性のイオン化と、ゲルを形成しているポリマー鎖のコイリング/アンコイリングとの間の関係に関連している。弱酸性の単量体および弱塩基性の単量体の例は前に示されている。
【0062】
電場の変動によるゲル体積の変化は既に文献、例えばMurdan S., J. Control. Release, (2003), 92:1-17;および, Jensen M., Hansen P.B., Murdan S., Frokjaer S., Florence A.T., Eur. J. Pharm. Sci., (2002), 15:139-148で確認されている[これらの文献は参照によりここに組み入れる]。電場の印加によってゲルの体積が変わる正確な過程はまだ十分明らかにされていないが、体積変化そのものは十分文献に記載されている。コンドロイチン-4-スルフェート(CS)は、電場の変動に感応する単量体の1つの例である。
【0063】
一部の実施形態で、いくつかの刺激因子応答系を組み合せることで、複数の刺激因子に応答するゲルを提供することができる。そのような組み合せの系の例は、荷電ポリマー(弱/強酸または塩基)と疎水性単量体を組み合せることで調製することができる。そのような組み合せから得られるマクロ多孔質ゲルは、塩濃度の変化、溶液pHの変化(弱酸の単量体または弱塩基のものを用いた場合)および温度の変化に応答を示すと考えられる。異なる単量体を組み合せる場合、単一の刺激因子に応答する単量体の濃度はゲル中では低くなっていると考えられるので、その特定の刺激因子に対するゲルの応答性は低くなることが考えられる。
【0064】
種々の刺激因子をマクロ多孔質ゲルに加えたときにそのゲルによって発現される応答の大きさは、多くの異なる因子の影響を受ける。そのいくつかについて以下に述べる。
【0065】
マクロ多孔質ゲルの応答性は架橋剤の濃度によって決まる。一般に、架橋剤の濃度が高くなると、応答性ゲルのマクロ孔のサイズも大きくなるが、孔サイズの変化の範囲は小さくなる。この関係はかなり単純で、ゲル内の架橋濃度が高くなると、応答性ゲルに利用可能なコイリングおよびアンコイリングの量が制限されるからである。架橋剤(1種または複数種)対単量体(1種または複数種)のモル比は約5:95〜約40:60、好ましくは約7.5:92.5〜約10:90、より好ましくは約10:90〜約25:75であってよい。
【0066】
ゲルを形成しているポリマー鎖の立体配置により効果的な影響を及ぼす一部の刺激因子は当然ゲルにより広い範囲の応答を呼び起こす。例えば、pHまたは温度の変化は、しかるべきマクロ多孔質ゲルから強い応答を呼び起こすが、塩濃度および光量の変化は若干より小さい応答を呼び起こす。
【0067】
ゲル中の応答性単量体の濃度も、ゲルによって示される応答の大きさに影響する。好ましくは、応答性マクロ多孔質ゲルは、1種以上の応答性単量体および1種以上の中性単量体から構成される。中性単量体の存在は、環境条件の変化に対して非常に強い応答を示す系においては、そのような系は多くの場合孔サイズの不連続的な応答を示す(バルブ効果)ので重要である。中性単量体の添加は応答を弱めるので、より制御された孔サイズの変更が可能となる。好ましくは、本応答性マクロ多孔質ゲルにおける中性単量体のモル比対応答性単量体のモル比は5:95〜95:5、より好ましくは25:75〜75:25、さらに好ましくは40:60〜60:40である。好適な中性単量体としては、アクリルアミド、N-アクリロイルモルホリン、N-アクリルオキシスクシンイミド、2-アクリルアミド-2-(ヒドロキシメチル)-1,3-プロパンジオール、N,N-ジエチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、2-(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレート、2-エトキシエチルメタクリレート、2,3-ジヒドロキシプロピルメタクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、N-(2-ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド、ヒドロキシプロピルメタクリレート、メタクリルアミド、N-[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]-1-メタクリルアミド、N-メチルメタクリルアミド、N-メチル-N-ビニルアセトアミド、ポリ(エチレングリコール)モノメタクリレート、N-イソ-プロピルアクリルアミド、N-ビニル-2-ピロリドンが挙げられる。
【0068】
多孔質支持体構成部材
支持体構成部材を形成するのには様々な材料を用いることができる。しかしながら、セルロースやその誘導体の一部のような材料は別として、このような材料の大半は非常にまたは比較的疎水性である。疎水性濾過膜は、水系で使用するのには、より大きな膜汚れの傾向があるので、通常望ましくない。ポリオレフィンなどのより不活性で、より安価なポリマー(例えばポリ(エチレン)ポリ(プロピレン)ポリ(ビニリデンジフルオリド))を用いて微多孔膜(microporous membrane)を製造できるが、これらの材料は非常に疎水性である。本発明の一部の実施形態では、支持体構成部材が疎水性であることは、複合材を通る液体の流れは主にゲルのマクロ孔で起るので、複合膜が経験する汚れの程度には影響を及ぼさない。
【0069】
一部の実施形態では、多孔質支持体構成部材は高分子材料からできており、平均サイズ約0.1〜約25μmの孔を有しており、体積空隙率が40〜90%である。支持体構成部材としては多くの多孔質基体または膜を用いることができるが、この支持体は好ましくは高分子物質であり、より好ましくは、疎水性ではあるが低コストで入手可能なポリオレフィンである。熱誘導相分離(TIPS)つまり非溶媒誘導相分離により製造された延展ポリオレフィン膜を記載しておく。セルロースやその誘導体のような天然高分子などの親水性支持体も用いることができる。好適な支持体の例としては、Pall Corporation製造のSUPOR[登録商標]ポリエーテルスルホン膜;Gelman Sciences製造のCole-Parmer[登録商標]Teflon[登録商標]膜、Cole-Parmer[登録商標]ナイロン膜、セルロースエステル膜;Whatman[登録商標]フィルターおよびペーパーが挙げられる。
【0070】
一部の他の実施形態では、多孔質支持体は繊維性の織布材料または不織布材料(例えばポリプロピレンなどのポリオレフィン)から構成される。市販されているポリプロピレン製不織布材料の例は、Hollingsworth and Vose Company製のTR2611Aである。そのような繊維性の織布または不織布支持体構成部材はTIPS支持体構成部材よりも大きい孔サイズをもつことができ、一部の例では最大約75μmである。支持体構成部材中の孔が大きくなればなるほど、マクロ多孔質ゲル中に大きいマクロ孔を有する複合材の形成が可能となる。大きいマクロ孔を有する複合材は、例えば細胞増殖を行うことができる支持体として使用することができる。セラミックベースの支持体などの非高分子性支持体構成部材も用いることができる。この多孔質支持体構成部材は様々な形状とサイズをとることができる。
【0071】
一部の実施形態では、支持体構成部材は、厚みが約10〜約2000μm、より好ましくは10〜1000μm、最も好ましくは10〜500μmの膜の形態にある。他の実施形態では、複数の多孔質支持体ユニットを、例えば積重ねることにより組み合せることができる。1つの実施形態では、多孔質支持体膜の積重ね(例えば2〜10枚の膜)を組み立て、その後にマクロ多孔質ゲルを、この多孔質支持体の空隙内に形成させることができる。もう1つの実施形態では、単一支持体構成部材ユニットを用いて複合材膜を形成し、これをこの後使用する前に積重ねる。
【0072】
複合材の調製
本発明の複合材は単純な単一工程方法により調製することができる。一部の例において、これらの方法は、反応溶媒として水または他の良溶媒(例えばメタノール)を用いることができる。この方法はまた、より簡単に連続的に製造する可能性をもたらす迅速製法を用いるという利点をもっている。本複合材はまた安価につくれる可能性がある。
【0073】
本発明の複合材は、例えば1種または複数種の単量体、1種または複数種のポリマー、またはこれらの混合物、1種または複数種の架橋剤、場合によっては1種または複数種の開始剤、および場合によっては1種または複数種のポロゲンを、1種または複数種の好適な溶媒中で混合することにより調製することができる。製造した溶液は好ましくは均質であるが、少しばかり不均質な溶液も用いることができる。この混合物を次に、ゲル形成反応が行われる適切な多孔質支持体の中に導入する。ゲル形成反応用の好適な溶媒としては例えば水、ジオキサン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトン、エタノール、N-メチルピロリドン(NMP)、テトラヒドロフラン(THF)、酢酸エチル、アセトニトリル、トルエン、キシレン、ヘキサン、N-メチルアセトアミド、プロパノール、およびメタノールが挙げられる。高い沸点をもつ溶媒は着火性を減らしまた製造を容易にするので、そのような溶媒を用いるのが好ましい。また溶媒が低い毒性を有していること、および、溶媒を使用の後容易に廃棄することができることも好ましい。そのような溶媒の例はジプロピレングリコールモノメチルエーテル(DPM)である。
【0074】
一部の実施形態では、溶媒として二塩基性エステル(二塩基性酸混合物のエステル)を用いることが可能である。二塩基性エステル(DBE;dibasic ester)は、ポリアクリルアミド単量体に基づくゲルを調製するのに特に好適である。この溶媒系は、水には貧溶媒であるという予期せぬ特徴をもっており、これは、使用される、基本的に完全に水混和性である他の溶媒とは異なる。水混和性溶媒は、組み立ての後の溶媒除去の点に関しては利点を提供するが、DBEのような水非混和性溶媒は、特定の場合において、揮発性、引火性、および毒性であるジオキサンなどの溶媒のよき代替溶媒である。
【0075】
一部の実施形態では、ゲル形成反応の構成成分は室温において自然発生的に反応してマクロ多孔質ゲルを形成する。他の実施形態では、このゲル形成反応は開始させなければならない。このゲル形成反応は公知の方法、例えば熱活性化またはU.V.照射により開始させることができる。この反応はより好ましくは光開始剤の存在下でU.V.照射により開始させる。その理由は、この方法はゲル中により大きなマクロ孔をつくること、また、熱活性化方法と比較してゲル形成反応をより速めることが見出されたからである。多数の好適な光開始剤を用いることができ、その中でも2-ヒドロキシ-1[4-2(ヒドロキシエトキシ)フェニル]-2-メチル-1-プロパノン(Irgacure 2959*)および2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン(DMPA)が好ましい。他の好適な光開始剤としてはベンゾフェノン、ベンゾインおよびベンゾインエーテルが挙げられ、例えばベンゾインエチルエーテルおよびベンゾインメチルエーテル、ジアルコシキアセトフェノン、ヒドロキシアルキルフェノン、α-ヒドロキシメチルベンゾインスルホン酸エステルである。熱活性化では熱開始剤の添加が必要とされる。好適な熱開始剤としては、1,1'-アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)(VAZO[登録商標]触媒 88)、アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、およびベンゾイルペルオキシドが挙げられる。
【0076】
反応をU.V.照射により開始させなければならない場合は、ゲル形成反応の反応体に光開始剤を加え、単量体、架橋剤および光開始剤の混合物を含んでいるこの支持体構成部材を数秒〜数時間の間波長250nm〜400nmのU.V.照射に付す。ある種の光開始剤では、可視波長光を用いて重合を開始させることもできる。重合開始を可能とするには、支持体構成部材は、UV光が支持体を透過することができるよう、使用する波長において光吸収が低いものでなければならない。好ましくは、支持体およびマクロ多孔質ゲル試薬は、350nmで数秒〜最大2時間照射を行う。
【0077】
好ましくは、熱開始重合は、60〜80℃で数分〜最大16時間行う。
【0078】
重合を行う速度は、マクロ多孔質ゲル中に得られるマクロ孔のサイズに影響を及ぼす。前に述べたように、ゲル中の架橋剤の濃度を十分な濃度まで上昇させると、ゲルの構成物質は凝集し始め、高ポリマー密度の領域とほとんどまたは全くポリマーのない領域をつくり、この後者の領域が本明細書では「マクロ孔」と呼ばれる。重合速度によって影響を受けるのがこの機構である。重合をゆっくりと行う場合、例えば光重合における光強度が低い場合は、ゲル構成物質の凝集が進行するための時間が多くあり、これによりゲル中により大きな孔がもたらされる。あるいは、重合を高速度で行う場合、例えば高強度の光源を使用する場合は、凝集するのに利用可能な時間が少なく、より小さな孔がつくられる。
【0079】
一旦複合材を調製したら、色々な溶媒で洗って未反応成分および支持体内に繋留されていないポリマーおよびオリゴマーを除去することができる。本複合材を洗うのに好適な溶媒としては水、アセトン、メタノール、エタノール、およびDMFが挙げられる。
【0080】
本複合材の使用
本発明の複合材は、多くの異なる用途(この場合、液体がゲルのマクロ孔を通過させられる)において使用を見出すことができる。マクロ孔を通過させられる液体は、例えば溶液または懸濁液(例えば細胞の懸濁液または凝集物の懸濁液)から選択することができる。
【0081】
一部の実施形態では、本複合材を用いて分離を行うことができる。使用としては、限外濾過や精密濾過のようなサイズ排除分離が挙げられる。本発明の複合材はこのようなタイプの用途においては、広い範囲の孔サイズが利用可能であること、および、異なる孔サイズをもつ複合材を容易に製造できることから、好都合である。一部の実施形態では、サイズ排除分離に用いる複合材が、完全には占有されていないことが好ましい。すなわち、複合材を通って流れる液体の全てまたは実質的に全てがマクロ多孔質ゲルを通って流れるが、支持体構成部材の空隙体積はマクロ多孔質ゲルで完全には占有されていないことが好ましい。支持体構成部材の第1主表面またはその近隣におけるマクロ多孔質ゲルの密度が支持体構成部材の第2主表面またはその近隣における密度よりも高い、不完全占有空隙体積をもつ複合材は、非対称であるとみなされる。
【0082】
マクロ多孔質ゲルが電荷をもっている実施形態では、マクロ孔表面電荷と制御されたマクロ孔サイズを組み合せることによって、Donnan型排除分離に用いることができる複合材がつくられる。これらの場合では、高水圧流(hydraulic flows)(フラックス)と一体となった高電荷密度をもつ複合材がつくられる。高透過性と一体となった高電荷密度は、複合材に高イオン交換能力を与えるので、例えば金属イオンの吸着に有用であり得る。後の実施例により、これらの複合材はタンパク質や他の関連する分子の回収にも用いることができること、および、本発明の複合材は高い結合能力を示すことが示される。
【0083】
本発明の複合材は、溶液からタンパク質などの生体分子を分離するのにも適している。その理由は、生体分子は、本複合材のマクロ孔中にあるリガンドまたは結合部位と特異的相互作用をもち得るからである。この特異的相互作用には、静電気的相互作用、親和的相互作用または疎水的相互作用が含まれ得る。分離することができる、生体分子または生体イオンも含めた分子またはイオンの例としてはアルブミンなどのタンパク質(例えばウシ血清アルブミン)やリゾチームが挙げられるが、ウイルスや細胞のような超分子凝集物の分離にも用いることができる。分離することができるその他の生体分子の例としては、ヒトおよび動物由来のγ-グロブリン、ヒトおよび動物由来のIgG、IgM、またはIgEのような免疫グロブリン、タンパク質 Aなどの組み換えまたは天然由来のタンパク質、合成または天然由来のポリペプチド、インターロイキン-2とその受容体、ホスファターゼ、デヒドロゲナーゼなどの酵素、モノクローナル抗体、トリプシンとその阻害物質、異なる起源(例えば、ヒト血清アルブミン、鶏卵アルブミンなど)のアルブミン、シトクロム C、免疫グロブリン、ミオグロブリン、組み換えヒトインターロイキン、組み換え融合タンパク質、核酸由来産物、合成か天然由来のDNAおよびRNA、および小分子などの天然産物が挙げられる。生体分子の分離はもっぱらゲルのマクロ孔中で起るが、それより速度が遅いとはいえゲル自体内でも起こり得る。
【0084】
一部の複合材は可逆的吸着剤として用いることができる。これらの実施形態では、ゲルのマクロ孔またはメッシュ(ミクロ孔)中に吸着された物質例えば生体分子を、マクロ多孔質ゲルを通って流れる液体を変えることによって開放することができる。ゲル組成を変えることによって、吸着された物質の取り込みおよび開放についてのゲルの特性を制御することができる。本発明の複合材のもう1つの利点は膜の形態に製造することができることであり、膜による生体分子の回収は、広く用いられている慣用の充填カラムクロマトグラフィー法よりもスケールアップし易く、労働密度も低く、より迅速であり、資本コストも低い。
【0085】
一部の複合材は、化学合成または細胞増殖用の固体支持体として用いることもできる。これらの方法に必要とされる反応体または養分は、複合材のマクロ孔を通して連続的に流すか、または、マクロ孔の内部に残して駐留させ、その後時間を置いてから押し出すことができる。1つの実施形態では、複合材をペプチドの段階的製造に用いることができる。そのような用途では、アミノ酸がマクロ孔の表面に付けられ、このマクロ孔を通してアミノ酸溶液が順次通過させられてペプチド鎖が調製される。生成したペプチドはこの後このマクロ孔の中を適切な溶媒を通過させることで支持体から脱離させることができる。現在このタイプの合成を行うのに用いられている支持体は、低速の拡散特性をもつ、小孔を有するビーズから構成されている。本発明の複合材はより均一な孔構造をもっており、また貫通孔ももっており、この貫通孔の中ではその液体の流れは制御された拡散ではない。
【0086】
用途分野としては、限定するものではないが、バイオテクノロジーも含めた製薬、食品、飲料、ファインケミカル、および金属イオン回収が挙げられる。
【0087】
応答性複合材の使用
応答性マクロ多孔質ゲルを含んでいる複合材(応答性複合材)は好ましくは、サイズ排除メカニズムに基づき液体成分を分別するのに用いる。このメカニズムでは、濾過デバイスの孔に近づきつつある分子または粒子の対流および拡散に対して立体障害が働く。輸送に対する障害は、フィルター中の孔半径対分子または粒子半径の比に相関している。この比が1:1に近づくと、分子または粒子は、濾過デバイスにより完全に留め置かれることになる。孔半径を変えることにより、異なるサイズの分子または粒子がその孔を通過することが許され、サイズによる分別が実現される。
【0088】
応答性複合材は、このような複合材の孔が狭い孔サイズ分布を有しているので、サイズ排除メカニズムによく合っている。これは、従来の限外濾過膜/精密濾過膜により通常可能であったよりもずっと狭い分子量をもつ分子に対してもサイズ排除分離が実現できることを意味する。一部の実施形態では、本発明の応答性複合材により分離される分子間のサイズ差は約0.9nmまで小さくできる。他の実施形態では、分解能は約0.5nmと低い。公知の限外濾過膜のあるものは確かに狭い孔サイズ分布をもつが(例えば、トラックエッチ膜[track etched membrane])、そのような膜は、コスト的に高くつくとか、フラックスが相対的に低いという欠点をもっている。
【0089】
複合材が親水性である実施形態では、本複合材は、複合材への分子の吸着がほとんどまたはまったくないので、タンパク質のサイズ分離に良く合っている。通常、タンパク質は非特異的結合し易い。従ってこのような応答性複合材は、タンパク質分画のサイズのみに基づいて多成分タンパク質混合物をディスクリート(離散)分画に分離するのに適している。全くサイズ排除法のみによるこのタンパク質の分離は、当技術分野で知られているタンパク質の分離方法、すなわちサイズにおける差が他の物理化学的効果例えば静電気電荷効果、静電気二重層効果、および疎水的相互作用効果と一緒に用いられ、この物理化学的効果がタンパク質の非特異的結合または変性さえももたらすことができる方法とは異なる。従って本複合材を用いてサイズ排除によりタンパク質を分離すると、タンパク質の変性または不可逆的結合によるそのロスが避けられる。本発明の応答性複合材によるタンパク質の分離は非常に穏やかな方法、すなわちタンパク質と分離媒体との間に強い相互作用を伴なわない方法であるので、これによりより高い総合効率のタンパク質回収が可能となる。これは治療用タンパク質回収の経済性における重要な要素である。
【0090】
本応答性複合材を用いた分離の例の1つは、ヒト免疫グロブリン G(IgG)(サイズ 160 kDa)からのヒト血清アルブミン(HSA)(サイズ 60 kDa)の分離である。サイズに基づいたタンパク質の分離は、固定された環境条件において可能である。本応答性マクロ多孔質ゲルを膨潤状態または部分的膨潤状態、例えば弱酸または弱塩基の官能性をもつゲルで以ってフィード中に低濃度の塩がある状態にすると、低い分子量をもつタンパク質(例えば、ヒト血清アルブミン)は複合材を通って自由に移動することができるが、高い分子量をもつタンパク質(例えば、ヒト免疫グロブリン G)は留めて置くことができる。固定環境条件で運転する場合、限外濾過法は2つのプロダクトストリーム(生産物の流れ)をつくり、この固定環境方式は二成分混合物、すなわち一方のタンパク質からもう一方のタンパク質を分別するのに適している。
【0091】
本発明の応答性複合材を用いて、その応答性複合材の動的孔サイズ能力[dynamic pore-size capabilities]を利用するサイズベース分離[size-based separation]により3つ以上のプロダクトストリームをつくることもできる。この多成分分離は、環境条件の変化に応答する膜の孔サイズの変化が緩やかであるので可能である。この方式で運転する場合(すなわち環境条件を変えることで)、この方法は、複数タンパク質混合物からタンパク質を分離するのに適している。そのような方法では、応答性ゲルの環境を適宜に変えることにより環境を階段状にかまたは段々と変える。例えば、二成分または三成分緩衝液系を用いてこの濾過方法を行うのに用いられるバルク媒体のpHを変えることで孔サイズの変化をもたらすことができ、その結果順次的なサイズに基づく分離を行うことができる。ステップ(階段)変化方式で運転すると、各ステップにおいて1つの分画がつくられることになり、各分画はその次の分画のよりも小さいタンパク質を含んでいる。n 個の分画をつくった場合、これらのうちの(n-1)個は透過液で得られ、n 番目の分画は保持液で得られることになる。
【0092】
上記で提供した多成分分離は、限外濾過膜およびナノ濾過膜の全く新しい使用を代表する。このタイプの多成分分離はクロマトグラフィー濾過とも呼ばれる。この新しいタイプの分離の具体的用途の一部としては以下のものが挙げられる:
(a) 鶏卵白身成分の分別;
(i) アビジンなどのLMW[低分子量]化合物(MW[分子量] < 1000);
(ii) リゾチーム(MW 14,100);
(iii) オボアルブミン(MW 47,000);
(iv) コンアルブミン(MW 80,000);
(b) ヒト血漿タンパク質の分別;
(i) ヒト血清アルブミン(HSA、MW 67,000);
(ii) ヒト免疫グロブリン G(HIgG、MW 155,00);
(iv) その他のヒト免疫グロブリン(例えばHIgM、MW >300,000);
(c) デキストランの分子量基準画分への分別;
(d) PEGの分子量基準画分への分別;
(e) ポリマーの分子量基準画分への分別;および
(f) ミクロンサイズ粒子のサイズ基準画分への分別。
【0093】
本発明の複合材はバルク(大容量)物質の分離に非常に適しているが、より少ない容量規模における成分の分離にも用いることができる。例えば、本応答性複合材を用いて生化学物質例えば抗体、その他の生理活性タンパク質、ホルモン、多糖類および核酸を分離し、その後分析することができる。現在用いられている生体特異的分析方法の多く(例えば酵素免疫測定法[Enzyme Linked Immuno Sorbent Assay(ELISA)])は、上記した物質、またはそれらの物質と生体特異的に相互作用する物質(例えば、抗体、抗原、リガンド、および基質類似体)をポリスチレンなどの個体表面(ELISA法の場合)または合成膜(免疫ブロット法[immuno-blotting]の場合)に結合させることに基づいている。これらの検査の検出限界は多くの場合デバイス中の利用可能な表面積例えばマイクロウェルプレート[microwell plates]や平坦シート膜[flat sheet membranes]のブロットセクション[blotted sections]により限られている。物質を個体表面に付けることによって課せられるもう1つの限界は立体障害の可能性であり、これはこれらの検査の基となっている生体特異的認識に影響を及ぼす。溶液相認識・結合を基にする生体特異的分析方法も利用可能で、例えばラジオイムノアッセイ[Radio Immuno Assay(RIA)]である。この方法は多くの場合、分析すべき物質を留置・濃縮するために多孔質合成膜を使用することに依存している。しかしながら、これらの膜の透過性の固定された性質は、限界要因になると思われる。応答性複合材を用いると、分析すべき物質を含んでいる溶液から物質を順次的に除去することを容易にし、その結果固定された透過性の膜では可能と思われなかった分析を容易にすると思われる。応答性膜はまた、アッセイと干渉しそうな物質を検査溶液から除去するのを容易にするために利用することもできる。
【0094】
本応答性複合材はサイズ排除分離に用いるのに特に適しているが、にもかかわらずマクロ多孔質ゲル中に適切な単量体またはポリマーを組み込むことによりDonnan型分離および特異的結合分離に用いることができる。
【0095】
複合材の応答性はまた、使用後の膜(本複合材からできている)の孔を開ける能力、および、その後その環境変化を逆転させることで孔をその初期の値に戻して再調整する能力を可能にする。孔を開けることは、汚れ物質を除去することによるこれらの膜の掃除(cleaning)を容易にし、これによって膜の有効使用期間が長くなる。
【実施例】
【0096】
以下の実施例は本発明を説明するために提供する。しかしながら、各実施例にある特定の詳細は、説明のために選ばれたこと、および、本発明の範囲を限定するものと解釈すべきでないことは理解されると思われる。通常、特に断らない限り実験は同じような条件の下で行った。
【0097】
実験
使用した材料
使用した単量体は、アクリルアミド(AAM)、2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸(AMPS)、(3-アクリルアミドプロパン)トリメチルアンモニウムクロリド(APTAC)、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド(DADMAC)、エチレングリコールジメタクリレート(EDMA)、グリシジルメタクリレート(GMA)、N,N'-メチレンビスアクリルアミド(BIS)、メタクリル酸(MAA)、アクリル酸(AA)、およびトリメチロールプロパントリアクリレート(TRIM)である。使用したポリマーは、平均分子量(MW)25000 Daの分枝状ポリ(エチレンイミン)(BPEI)、平均分子量200、1000、2000、4000および10000 Daのポリ(エチレングリコール)(PEG)、および平均分子量60000 Daのポリ(アリルアンモニウムヒドロクロリド)(PAH)である。BPEIに対して使用した架橋剤はエチレングリコールジグリシジルエーテル(EDGE)であった。
【0098】
使用した溶媒は、シクロヘキサノール(CHX)、塩化メチレン(CH2Cl2)、脱イオン水、1,4-ジオキサン、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ドデカノール(DDC)、グリセロール、メタノール、1-オクタノール、および1-プロパノールであった。
【0099】
使用したフリーラジカル重合開始剤は、2-ヒドロキシ-1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)、フェニル]2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン(Irgacure[登録商標]2959)、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン(DMPA)、および1,1'-アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)(VAZO[登録商標]触媒 88)である。
【0100】
使用したタンパク質は、ウシ血清アルブミン(BSA)、リゾチーム、ヒト血清アルブミン(HSA)、およびヒト免疫グロブリン(HIgG)である。
【0101】
使用したその他の化学物質は、アクリロイルクロリド、塩酸、ナトリウムアジド、塩化ナトリウム、水酸化ナトリウム、トリエチルアミン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(TRIS)、4-モルホリンエタンスルホン酸(MES)、および緩衝液(TRIS Buffer)であった。
【0102】
使用した多孔質支持体は、ポリ(プロピレン)熱誘導相分離(TIPS)膜PP1545-4で、平均孔直径0.45μm、厚み125μm、および空隙率85体積%で、製造は3M Company;同PP1183-3Xで、平均孔直径0.9μm、厚み87μm、および空隙率84体積%で、これも製造は3M Company;および溶融噴射ポリ(プロピレン)不織布TR2611Aで、平均流動直径6.5μm、厚み250μm、および空隙率89.5体積%で、製造はHollingworth & Vose Companyである。
【0103】
複合材の調製
本発明の複合材は以下の一般的な方法により調製することができる。秤量した支持体構成部材をポリ(エチレンテレフタレート)(PET)シートまたはポリ(エチレン)(PE)シートの上に置き、単量体溶液またはポリマー溶液をこのサンプルに加える。このサンプルをこの後もう1枚のPETシートまたはPEシートでカバーし、このサンドイッチされたものにゴムローラーを走らせて余剰の溶液を除去した。このサンプル中でのin situゲル形成を、波長350nmで10〜120分間照射すること、または、上記サンドイッチされたものを60〜80℃で2時間加熱することにより開始される重合によって誘導した。この照射は典型的にはおよそ1.5"(インチ)間隔で配置された、およそ0.1 ワット/インチの出力エネルギーをもつ365nmの光を発光する長さ12"のランプ4本を有しているシステムを用いて行った。このシステムには熱を放散させるための小さなファン1個が装着されていた(これ以外の温度コントロールはなし)。照射されるサンプルは、ランプからおよそ5"の距離に位置していた。予め形成されたポリマーおよびin situ架橋を用いてゲルを形成させる場合は、サンドイッチされたものを架橋反応が完結するまで室温に典型的には2〜16時間放置した。得られた複合材は適切な溶媒または一連の溶媒で十分洗い、ナトリウムアジド0.1重量%水溶液中に入れて細菌の増殖を防いだ。支持体中に形成されたゲルの量を決定するため、サンプルを室温にある真空中で恒量まで乾燥させた。ゲルの取り込みによる質量増加は、乾燥ゲルの増加分質量対多孔質支持体の初期質量の比として計算した。
【0104】
フラックスの測定
本複合材を通る水のフラックス測定はサンプルを水で洗ってから行った。標準的な方法としては、直径7.8cmのディスクの形態にあるサンプルを厚さ3〜5mmの焼結グリッド[sintered grid]上に取り付け、制御された圧力の圧縮窒素が供給されているセルの中に組み込んだ。セルを脱イオン水または別のフィード溶液で満たし、所望の圧力をかける。特定時間内に複合材を通過する水を予め秤量された容器に回収し、秤量した。全ての実験は室温にてまた透過液出側が大気圧で行った。各測定は3回以上繰り返して± 5%の再現性を得た。
【0105】
水フラックス[QH2O (kg/m2hr)]を以下の式から計算した:
【数1】
【0106】
上記式中、m1は水サンプルが入っている容器の質量であり、m2は容器の質量であり、Aは実効膜表面積(38.5 cm2)であり、tは時間である。
【0107】
本発明の複合材は、ゲル充填されていない支持体構成部材の水フラックス値よりも小さい水フラックス値をもつと考えられ、用途にもよるが約2倍〜約数百倍のフラックス低下が考えられる。限外濾過用途に対しては、フラックスは約10倍〜約数百倍低下することが考えられる。
【0108】
膜の水力学的Darcy透過率[k (m2)]は以下の式
【数2】
【0109】
[式中、ηは水の粘度(Pa・s)であり、δは膜の厚み (m)であり、dH2O は水の密度 (kg/m3)であり、ΔP (Pa)はフラックス[QH2O]を測定したときの差圧である]から計算した。
【0110】
膜の水力学的Darcy透過率を用いて多孔質ゲル中の孔の平均水力学的半径を推算した。水力学的半径[rh]は孔体積対孔濡れ表面積の比と定義され、Carman-Kozenyの式[この式は、J. Happel and H. Brennerによる専門書「Low Reynolds Number Hydrodynamics」(Noordhof Int. Publ., Leyden, 1973, p. 393)に載っている]:
【数3】
【0111】
[式中、KはKozeny定数であり、εは膜の空隙率である]から求めることができる。空隙率0.5<ε<0.7に対してはKozeny定数K ≒ 5である。膜の空隙率は、支持体の空隙率からゲルポリマーの体積を差し引くことで推算した。
【0112】
タンパク質の吸着/脱着の実験
タンパク質吸着実験を2種のタンパク質、すなわちウシ血清アルブミン(BSA)とリゾチームで行った。膜の形態にある正に帯電した複合材による実験の場合は、膜サンプルを最初に蒸留水、その後TRIS緩衝液(pH=7.8)で洗った。吸着工程では、直径7.8cmの単一膜ディスクの形態にある複合材サンプルを、水フラックス測定に使用した、また上記においても説明したセルの中にある厚さ3〜5mmの焼結グリッド上に取り付けた。緩衝液1mLあたりBSA 0.4〜0.5mgを含んでいるBSA溶液をこのセルに注いで複合材に対して5cmのヘッドを加えた。この5cmの静水圧は、BSA溶液をさらに加えることにより一定に保った。この方法の変形版では、セルを圧縮窒素で加圧した。流量は、透過液の量を時間に関して秤量することで測定した。典型的な値は1〜5 mL/分の間で変化した。透過液サンプルは2〜5分間隔で集め、280nmにおけるUV分析により分析した。この吸着工程の後、セル中の複合材を約200mLのTRIS緩衝液で洗い、5cmのヘッド圧または圧縮窒素の制御された圧の下で1M NaClを含有しているTRIS緩衝液で脱着を行った。透過液サンプルは2〜5分間隔で回収し、BSA含量について280nmにおけるUV分析により検査した。
【0113】
負に帯電した複合材に対しては、pHが5.5で、リゾチーム濃度が0.5 g/LであるリゾチームのMES緩衝液溶液を、BSAおよび正に帯電した材料について上記で説明した方法と同様の方法で用いた。タンパク質吸着を行っている間の流量はここでも1〜5 mL/分内に保った。タンパク質を脱着する前に、緩衝液200mLを通すことで膜を洗った。タンパク質の脱着は、1M NaClを含んでいるMES緩衝液(pH = 5.5)を用いて、BSAの脱着に対して上記で説明したのと同じやり方で行った。回収されたサンプル中のリゾチーム含量は280nmにおけるUVスペクトル分光分析により決定した。
【0114】
その他の実施例では、タンパク質吸着試験には、Pall Corporation製造のMustang[登録商標]Coin Deviceの中に取り付けられた直径19mmの膜数枚のスタック(積重ね)が関与し、タンパク質溶液は、蠕動ポンプを用いて制御された流量でこの膜スタックに送達された。透過液分画は、上記で説明したのと同じ方法で回収し、分析した。タンパク質の脱着は上記で説明したのと同様のやり方で行い、緩衝液化1M NaClは、重力圧または圧縮窒素圧の代りに蠕動ポンプを用いて膜スタックまで送達した。
【0115】
タンパク質分離実験
タンパク質−タンパク質分別方法における本発明の応答性複合材の分離特性を調べるのに用いた実験方法は、Ghoshとその共働者によって開発され、次の文献に報告されているパルス式注入限外濾過法[pulsed injection ultrafiltration technique]に基づくものである:R.Ghosh and Z.F. Cui, Analysis of protein transport and polarization through membranes using pulsed sample injection technique, Journal of Membrane Science, vol. 175, no. 1 (2000) p. 75 - 84;R.Ghosh, Fractionation of biological macromolecules using carrier phase ultrafiltration, Biotechnology and Bioengineering, vol. 74, no. 1 (2001) p. 1 - 11;および、R. Ghosh, Y. Wan, Z.F. Cui and G. Hale, Parameter scanning ultrafiltration: rapid optimisation of protein separation, Biotechnology and Bioengineering, vol. 81 (2003) p. 673-682(これらは参照により本明細書に組み込む)。使用した実験設備は、次の文献に報告されているパラメーター走査型限外濾過[parameter scanning ultrafiltration]に使用したものに似たものであった:R. Ghosh, Y. Wan, Z.F. Cui and G. Hale, Parameter scanning ultrafiltration: rapid optimisation of protein separation, Biotechnology and Bioengineering, vol. 81 (2003), p. 673-682。
【0116】
この限外濾過実験では二成分キャリアー(担体)相系を使用した。全ての応答性複合材実験における開始キャリアー相は、低塩濃度(典型的には5〜10mM NaCl)のものであった。これらの実験の全てにおいてキャリアー相は高塩濃度(典型的には1 M NaCl)のものに切り換えた。膜モジュール内の塩濃度の変化は、透過液ストリームの伝導度を観察することで追跡することができた。膜横断圧における変化から、塩濃度の変化による膜の水力学的透過性の変化についての見当がついた。
【0117】
実施例 1
この実施例は支持されていない多孔質ゲルの形成を示すもので、これをマクロ多孔質ゲルとして用いることで本発明の複合材を調製することができる。
【0118】
75%水溶液としての(3-アクリルアミドプロパン)トリメチルアンモニウムクロリド(APTAC)単量体3.33g、N,N'-メチレンビスアクリルアミド(BIS)架橋剤0.373g、および溶媒体積比がそれぞれ71:12:17のジオキサン:ジメチルホルムアミド:水の混合物中に溶解されたIrgacure[登録商標]2959光開始剤0.0325gを含有する溶液を調製した。この溶媒混合物においては、ジオキサンは貧溶媒であるが、DMFおよび水は良溶媒である。0.58モル/Lの全単量体濃度(APTACおよびBIS)がこの結果得られた。架橋度はAPTACを基準にして20モル%であった。この溶液5mLをガラス製バイアルに入れ、350nmのUV照射に2時間曝露した。白色のゲルが形成され、これを脱イオン水で十分洗って反応溶媒を交換し、未反応単量体または可溶オリゴマーを除去した。
【0119】
形成されたゲルは機械強度的に大変弱いものであった。このゲルのサンプルを、環境走査型電子顕微鏡[environmental scanning electron microscope(ESEM)]で、ゲルが乾燥するのを防ぐためにサンプルチャンバーに水蒸気を存在させながら調べた。図 1に示されている電子顕微鏡写真には、暗色で、くぼみの多い領域が写っており、これはマクロ多孔質ゲルが形成されたことを示すものである。
【0120】
実施例 2
この実施例は、実施例1で説明した組成の単量体溶液をポリ(プロピレン)多孔質支持体PP1545-4のサンプルに加えることによる本発明の正帯電複合材を調製する方法を示すものである。この複合材は、2時間に亘る350nmにおけるUV照射を用いる上記で説明した一般的な方法により調製した。重合の後、この複合材を48時間脱イオン水で洗った。
【0121】
得られた複合材の乾燥後の質量増加は107重量%であり、水フラックスは50kPaにおいて1643±5 kg/m2hrであり、Darcy透過係数は9.53×10-16 m2であった。
【0122】
ゲル取り込み複合材の形態をESEMを用いて実施例1で説明したのと同じ方法で調べた。図2に示されているESEM電子顕微鏡写真は、マクロ多孔質ゲルがホスト膜の中に取り込まれていることを示すものである。この電子顕微鏡写真は、図1に示されている支持されていないマクロ多孔質ゲルの構造に類似した構造を示しており、ミクロ(微細)多孔質支持体構成部材の痕跡はほとんど示していない。
【0123】
実施例 3
この実施例は、弱酸官能性をもつ本発明の負帯電複合材を調製する方法を示すものである。
【0124】
真空蒸留メタクリル酸(MAA)単量体5.50g、N,N'-メチレンビスアクリルアミド架橋剤0.4925g、およびIrgacure[登録商標]2959光開始剤0.1503gを体積比9:1のジオキサン:DMFの溶媒混合物25mL中にそれぞれ溶解させて出発単量体溶液を調製した。この複合材は、ポリ(プロピレン)PP1545-4支持体および上記した光開始重合の一般的な手順を用いて調製した。使用したUV照射時間は2時間であり、得られた膜はDMFで24時間洗い、その後48時間脱イオン水で洗った。得られた乾燥された膜の質量増加は231重量%であり、水フラックスは50kPaにおいて4276±40 kg/m2hrであり、透過率は2.64×10-15 m2であった。
【0125】
この複合材のタンパク質(リゾチーム)吸着/脱着特性を、先に概説した単一膜ディスクについての一般的な方法を用いて調べた。この実験で使用したタンパク質の濃度は、pH 5.5の10mM MES緩衝液中0.5 g/Lであった。吸着実験の流量は2〜4 mL/分となるように調節した。透過液中のリゾチーム濃度[PROTEIN CONC.]対透過液体積[THE VOLUME OF THE PERMEATE]のプロットを図3に示す。単一膜ディスクで以ってさえも比較的急勾配の破過曲線が得られており、これは膜における均一で狭い孔サイズ分布を示すものである。この複合材は42.8 mg/mLの破過リゾチーム結合能力をもっている。1M NaClを含有する緩衝液での脱着実験により、タンパク質の回収は83.4%であることが示された。
【0126】
実施例 4
この実施例は、実施例3で説明したタイプの弱酸官能性もつ複合膜の水力学的流量(フラックス)に対する全単量体濃度および溶媒混合物の影響を示すものである。
【0127】
表1に掲載されている化学組成の単量体溶液および多孔質支持体PP1545-4を用いて一連の複合膜(MAA1〜MAA5)を調製した。実施例3で述べた調製方法を用いた。
【表1】
【0128】
表1からわかるように、本発明の複合材の水力学的流量(フラックス)は、溶液中の単量体濃度を調整することで調節することができる。ゲル密度が高くなると透過性が低くなるという、均質ゲルで見られる典型的な傾向とは逆に、この一連の膜における質量増加が大きくなるとそのフラックスも大きくなる。さらなるフラックスの増加が、溶媒混合物中の貧溶媒(ジオキサン)の濃度を上げると実現される(サンプルMAA3およびMAA5を比較されたい)。
【0129】
実施例 5
この実施例は、強酸官能性をもつ本発明の負帯電複合材を調製する方法を示すものである。
【0130】
体積比9:1のジオキサン:H20の混合物25mL中にそれぞれ溶解された2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸(AMPS)単量体2.50g、N,N'-メチレンビスアクリルアミド架橋剤0.372g、およびIrgacure[登録商標]2959架橋剤0.0353gを含有している溶液を使用した。この溶液および支持体PP1545-4から上記した一般的な方法による光開始剤重合により複合材を調製した。使った照射時間は350nmで1時間であった。重合の後、この膜を脱イオン水で48時間抽出した。得られた膜の質量増加は74.0重量%であり、水フラックスは50kPaにおいて2559±40 kg/m2hrであり、Darcy透過率は1.58×10-15 m2であった。
【0131】
実施例 6
この実施例は、強酸官能性をもつ複合膜の水力学的流量に対する溶媒混合物の組成および架橋度の影響をさらに示すものである。実施例5におけるのと同じ一般的な調製方法および照射条件に従って表2に掲載されている化学組成を用いて一連の複合膜(AMPS1〜AMPS5)を調製した。
【表2】
【0132】
この表から、溶媒中のポリマーの溶解度と複合膜の水フラックスとの間の関係に関して、実施例4で述べたのと同様の傾向が観察された。AMPS2とAMPS4とを比較することにより、複合材の水力学的流量(フラックス)は架橋度によっても調整できることが分る。
【0133】
実施例 7
この実施例は、本発明の負に帯電した複合材に中性コモノマーを導入することの影響を示すものである。
【0134】
体積比8:1:1のジオキサン:DMF:H20混合物25mLにそれぞれ溶解された2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸1.750g、アクリルアミド0.485g、N,N'-メチレンビスアクリルアミド架橋剤0.868g、およびIrgacure[登録商標]2959架橋剤0.044gを含む溶液を調製した。この溶液および支持体PP1545-4から上記で述べた一般的な方法による光開始剤重合により複合材を調製した。使った照射時間は350nmで1時間であった。重合の後、この膜を脱イオン水で48時間抽出した。
【0135】
得られた膜の質量増加は103重量%であり、水フラックスは100kPaにおいて7132±73 kg/m2hrであり、およびDarcy透過率は4.40×10-15m2であった。
【0136】
実施例 8
この実施例は、本発明の正に帯電した複合材をつくる1つの方法を示すものである。
【0137】
モル比5:1のジアリルジメチルアンモニウムクロリド(DADMAC)単量体およびN,N'-メチレンビスアクリルアミド(BIS)架橋剤を、水37重量%、ジオキサン45重量%およびDMF 18重量%を含む溶媒混合物にそれぞれ溶解させることで15重量%溶液を調製した。photo-initiator Irgacure[登録商標]2959を単量体重量に対して1%の量で加えた。この溶液および支持体PP1545-4から上記で述べた一般的な方法による光開始剤重合により複合材を調製した。使った照射時間は350nmで30分であった。ポリエチレンシートとポリエチレンシートの間から複合材を取り出し、水およびTRIS緩衝液で洗い、水の中に24時間入れておいた。
【0138】
上記したサンプルと同様のサンプルをいくつか調製し、それを平均してこの複合材の質量増加を推算した。この処理で支持体は元の重量の42.2%増加した。
【0139】
この方法により製造された複合材の水フラックスは70kPaにおいて2100〜2300 kg/m2 時であり、Darcy透過率は9.87×10-16m2であった。
【0140】
この複合材のタンパク質(BSA)吸着特性を上記した単一膜ディスクについての一般的な方法により調べた。この実験で使用したタンパク質の濃度は50mM TRIS緩衝液中0.4 g/Lであった。流量は2〜4 mL/分であった。透過液中のBSA濃度[BSA CONCENTRATION]対透過液体積[PERMEATE VOLUME]のプロットを図4に示す。この複合材のBSA結合能力は48〜51 mg/mLであった。BSA脱着は78〜85%であることが分った。
【0141】
実施例 9
この実施例は、実施例6で使用した荷電単量体に中性単量体を加えることによりタンパク質結合能力が大幅に増大されることを示すものである。
【0142】
80:20の比にあるジアリルジメチルアンモニウムクロリド(DADMAC)およびアクリルアミド(AAM)を、ジオキサン63重量%、水18重量%、DMF 15重量%、およびドデカノール4重量%を含んでいる溶媒混合物中に溶解させることで10重量%溶液を調製した。この単量体溶液にN,N'-メチレンビスアクリルアミド架橋剤を加えることにより40%(モル/モル)の架橋度を得た。光開始剤Irgacure[登録商標]2959は、全単量体重量に対して1%の量で加えた。
【0143】
この溶液および支持体PP1545-4から上記で述べた一般的な方法による光開始剤重合により複合材を調製した。使った照射時間は350nmで20分であった。ポリエチレンシート間からこの複合材を取りだし、水、TRIS緩衝液で洗い、水中に24時間入れておいた。
【0144】
上記したサンプルと同様のサンプルを調製し、これを使って複合材の重量増加を推算した。この処理で支持体は元の重量の80%増加した。
【0145】
この方法により製造された複合材の水フラックスは70kPaにおいて250 kg/m2hr程度であり、Darcy透過率は1.09×10-16m2であった。
【0146】
この複合材のタンパク質(BSA)吸着特性を上記した単一膜ディスクについての一般的な方法により調べた。タンパク質濃度は50mM TRIS緩衝溶液中0.4 g/Lであった。吸着実験の流量は2〜4 mL/分に調整した。この複合材はBSA結合能力104 mg/mLを有していた。
【0147】
実施例 10
この実施例は、予備形成されたポリマーの架橋による支持型多孔質ゲル複合材の形成を示すものである。
【0148】
3つの個別の溶液を以下の組成で調製した:(A) メタノール50mL中分枝状ポリ(エチレンイミン)(BPEI)(25,000 Da)20g、(B) メタノール50mL中ポリ(エチレングリコール)PEG(〜10,000 Da)20g、および(C) メタノール5mL中エチレングリコールジグリシジルエーテル(0.324g)。
【0149】
(A) 2mL、(B) 3mL、および(C) 5mLから構成されるこの3つの溶液の混合物を調製した。この得られた溶液の一部をバイアル中に一晩静置して相分離を観察した。上側の透明ゲル層の形態を調べたら、これはマクロ多孔質であることが判った。
【0150】
この同じ混合溶液を、一般的な方法のところで述べた手法によりポリ(プロピレン)支持体PP1545-4サンプル上に広げた。この膜を2枚のポリ(エチレンテレフタレート)シートの間に挟んで、一晩静置した。この複合材を室温において24時間メタノールで抽出した。重量増加95%が観測された。この複合材の水フラックスは100kPaにおいて6194 kg/m2hrであり、Darcy透過率は4.89×10-10m2であった。
【0151】
この複合材の動的吸着能力を、上記の一般的な方法のところで述べた単一膜ディスクの方法においてBSA溶液(0.4 mg/mL)を用いて測定した。この複合材は破過前68 mg/mLの能力を有していた。
【0152】
実施例 11
この実施例は、グリシジルメタクリレート(GMA)と架橋剤として使用されるエチレンジメタクリレート(EDMA)の重合により調製された複合材の水力学的特性に対する単量体混合物組成および重合条件の影響を示すものである。使用した溶媒は、ドデカノール(DDC)、シクロヘキサノール(CHX)、およびメタノールであった。上記した一般的な方法に従って多孔質ポリプロピレン支持体膜PP1545-4およびin situ重合の2つの開始方式を使った。光重合方式では、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン(DMPA)を光開始剤として使い、熱重合は1,1'-アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)で開始させた。いずれの方式においても、重合は2時間行った。
【0153】
重合条件および多孔質ポリ(グリシジルメタクリレート-コ-エチレンジアクリレート)を含んでいる複合材の物性を表3に示す。
【表3】
【0154】
この一連の複合材において得られた質量増加は重合混合物中の全単量体濃度に比例している。膜AM612、AM615、およびAM619は高濃度の単量体を使用して調製されたが、膜AM614およびAM616ではその単量体濃度はおよそ半分減らされた(表 3)。
【0155】
膜横断圧100kPaで測定された純水フラックスの高い値は、この孔充填物質がマクロ多孔質であることを示している(表 3)。この純水フラックス、従ってその水力学的半径はその質量増加だけでなく、重合方式によっても影響を受ける。図5に示されているように、この水力学的半径[HYDRODYNAMIC RADIUS]は質量増加[MASS GAIN]の線型関数であり、その勾配はその重合方式によって変わる。熱重合における負の勾配の絶対値は光重合した複合材のそれの2倍である。これは、同じ質量増加においては、光重合した複合材は熱重合したものよりも大きい孔を有していることを意味する。つまり、熱により開始される重合よりも重合が速い光開始重合は、より大きい孔をつくる。いずれの重合の場合においても単量体転化率は実際上同じ(似たような質量増加)なので、支持体の存在が、その疎水的な性質によってかまたは重合物の微細な閉じ込めをつくることによってその孔形成およびその孔充満物質の最終構造に影響を及ぼしている。
【0156】
溶媒をドデカノール/シクロヘキサノール 9/91から、他の溶媒よりもより安価でかつ環境的により許容されるメタノールに変えることで、非常に高いフラックスの複合材を得た(膜AM619、表 3)。この複合材は高濃度単量体混合物からつくったもので、そのフラックスは、質量増加が膜AM619のほぼ半分の低さである膜AM614のそれに匹敵するものであった。
【0157】
この実施例およびこの後の実施例は本発明の一部の複合材の1つの特徴を示すものである。単量体および溶媒の組成および濃度を変えることができることで、様々な多孔質構造をもつ安定した複合材をつくることができる。表3に示すように、このようにして大きな孔の複合材を製造することができる。
【0158】
実施例 12
この実施例は、本発明の複合材の水力学的物性に対する単量体混合物組成の影響をさらに示すものである。
【0159】
上述した一般的な方法に従って、ポリ(プロピレン)支持体膜の孔中にアクリルアミド(AAM)と架橋剤としてのN,N'-メチレンビスアクリルアミド(BIS)とのin situ光開始剤重合により形成された多孔質ポリ(アクリルアミド)ゲルを含んでいる一連の複合材を調製した。使用した多孔質支持体構成部材はポリ(プロピレン)TIPS膜PP1545-4であった。光開始剤としては2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン(DMPA)もしくは1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン(Irgacure[登録商標]2959)を使用した。照射は350nmで2時間行った。孔充填性溶液の組成および得られた複合材の物性を表4にまとめた。
【表4】
【0160】
膜AM606〜AM609は非常に似た単量体濃度(12.0〜14.4重量%)および似たような比較的高い架橋度(単量体の16.8〜18.0重量%)でもって調製したものである。これらの複合材で得られた質量増加もまた非常に似ていた。図6に示すように、孔充填性溶液中の全単量体濃度[TOTAL MONOMER CONCENTRATION]と光重合後に達成される質量増加[MASAA GAIN]との間には直線関係が見られる。
【0161】
非溶媒なしの水性溶液から調製される複合材における高い架橋度(AM606)は比較的高い透過率をもたらす。驚くべきことに、直鎖状ポリ(アクリルアミド)の良溶媒である水にこの直鎖状ポリマーの貧溶媒であるメタノールまたはグリセロールを加えると、それに基づいて計算されるDarcy透過率および水力学的半径の大幅な低下がもたらされる。透過率の低下はメタノールよりもグリセロールのほうが大きく、また溶液中のグリセロールの量と共に増大する。
【0162】
貧溶媒の混合物、例えばN,N'-ジメチルホルムアミドおよび1-プロパノールまたは1-オクタノールを使用することについて、また、架橋度および全単量体濃度をさらに上げることについて、膜AM610、AM611、およびAM617で試験を行った。表4に示すように、溶媒の1つとしての水で調製された複合材と比較して、これら複合材の全てで実質的により高い透過率および水力学半径が得られている。これは全単量体濃度の増加にもかかわらず起ったもので、膜AM610およびAM617における単量体濃度は、溶媒の1つとしての水で調製した膜におけるものの2倍以上である。もう1つの溶媒をAM610の1-プロパノールからAM617の1-オクタノールに変えることによっても透過率および水力学半径の大幅な増加がもたらされる。
【0163】
膜AM610の表面の顕微鏡画像を図7(AFM)および図8(ESEM)に示す。比較のため、初期の多孔質支持体構成部材のESEM画像も図8に示す。いずれのセットの画像も構成材表面を覆う多孔質相分離ゲルを示しており、認識できる支持体構成部材構成要素は見られない。
【0164】
膜AM611はDMFおよび1-プロパノールで調製したが、その全単量体濃度はAM610のそれの丁度半分ちょっとである。膜AM611は非常に高いフラックスを示しており、水力学半径はAM610の3倍である。この膜の表面のESEM画像を図9に示す。非常に多孔質のゲル構造(上側の画像)が示されており、これは、膜表面の一部のスポットに形成されてはいるが、膜(下側の画像)からは切り離されているバルクゲルに似ている。
【0165】
膜AM610とAM611の表面の比較を図10に示す。これら2つのゲルにおける構造体構成要素のサイズにおける大きな差を明確に見ることができる。
【0166】
この実施例で調製した複合材は限外濾過膜として役立ち得る。複合材の孔サイズ(従ってその分離特性)を制御して広い範囲の値を得ることができることを示した。
【0167】
実施例 13
この実施例は、本発明の複合材を通る水力学的流量(フラックス)に対する支持体構成部材の孔サイズの影響を示すものである。
【0168】
孔サイズがそれぞれ0.45μmおよび0.9μmである2枚のポリプロピレン支持体構成部材PP1545-4およびPP1183-3Xを用いて、メタノール中にグリシジルメタクリレート39.4重量%およびエチレンジアクリレート9.2重量%、つまり単量体混合物中に単量体48.6重量%およびエチレンジアクリレート(架橋剤)18.9重量%を有している同じ単量体混合物で複合材をつくった。使用した光開始剤は単量体の1.3重量%の量のDMPAであった。
【0169】
この複合材は上述した一般的な方法により調製した。照射時間は350nmで2時間であった。得られた複合材をメタノールで洗いその後脱イオン水で洗った。複合材を100kPaにおける水フラックスについて試験してDarcy透過率および水力学半径を計算した。結果を表5に示す。
【表5】
【0170】
このデータは、いずれの複合材における水力学半径も実験誤差内で同じであることを示しており、この複合材が似た構造のマクロ多孔質ゲルを含んでいることを実証している。
【0171】
実施例 14
この実施例はポリ(エチレングリコール)(PEG、MW:4000、2000、1,000、および200)ジアクリレートの合成を示すもので、これは本発明の複合材を調製するための架橋剤として用いることができる。
【0172】
用いた合成方法は、N. Ch. Padmavathi, p. R. Chatterji, Macromolecules, 1996, 29, 1976[参照により本明細書に組み入れる]により報告されている方法に従うものである。250-mL丸底フラスコ中でPEG 4000 40gをCH2Cl2 150mLに溶解させた。このフラスコに別々にトリエチルアミン2.02gおよびアクリロイルクロリド3.64gを滴下で加えた。最初反応温度を氷浴で3時間0℃に制御し、その後反応を室温まで昇温させて、そこに12時間保持した。この反応混合物を濾過して沈殿したトリエチルアミン塩酸塩を除去した。この濾液をこの後過剰量のn-ヘキサンの中に注いだ。室温における濾過および乾燥により、無色の生成物(PEG 4000ジアクリレートと呼ばれる)を得た。
【0173】
同じ方法を、他の分子量のPEGで使った。PEG対のモル比は上記PEG 400で用いたように同じに保った。
【0174】
実施例 15
この実施例は、リゾチームに対して高い吸着能力をもつ負に帯電した複合材を調製するさらなる方法を示すものである。
【0175】
単量体として2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸(AMPS)0.6gおよびアクリルアミド(AAM)0.4g;架橋剤としてN,N'-メチレンビスアクリルアミド(BIS)0.25gおよび実施例14で得られたPEG 4000ジアクリレート1.0g;および光開始剤としてIragure[登録商標]2959 0.01gを含む溶液を、80:10:10の体積比のジオキサン、ジメチルホルムアミド(DMF)、および水から構成される溶媒中に調製した。
【0176】
膜の形態にある多孔質ポリ(プロピレン)支持体構成部材(PP1545-4)を使い、複合材は一般的な方法により調製し、照射は350nmで20分間行った。重合の後、この複合材を脱イオン水で24時間十分洗った。
【0177】
得られた複合材の乾燥後の質量増加は113.2重量%であり、水フラックスは100kPaにおいて366±22 kg/m2hrであり、Darcy透過率は2.26×10-16であった。
【0178】
この複合材のタンパク質(リゾチーム)吸着/脱着特性を、先に概説した単一膜ディスクについての一般的な方法により調べた。この実験で使ったタンパク質の濃度は、pH 5.5の10mM MES緩衝液中で0.5 g/Lあった。吸着実験の流量は2〜4 mL/分となるよう調節した。透過液中のリゾチームの濃度[PROTEIN CONC.]対透過液の体積[THE VOLUME OF THE PERMEATE]のプロットを図11に示す。比較的急勾配の破過曲線が得られていることが分かる。この複合材はリゾチーム結合能力103.9 mg/mLを有していた。脱着実験によりタンパク質の回収率は64.0%であることが示された。
【0179】
実施例 16
この実施例は、実施例15にあるものと同じ見掛けのポリマー組成をもつがずっと高い水力学的流量(フラックス)および良好なリゾチーム取り込み能力をもつ負に帯電した複合材の調製を示すものである。
【0180】
この単量体溶液は、実施例15で調合した溶液をアセトンで質量比1:1で希釈することによりつくった。
【0181】
膜の形態にある多孔質ポリ(プロピレン)支持体構成部材(PP1545-4)を使い、この複合材は一般的な方法により調製した。使った照射時間は2時間であった。重合の後、複合材は脱イオン水で24時間十分洗った。
【0182】
得られた複合材の乾燥後の質量増加は51.1重量%であり、100kPaにおける水フラックスは6039±111 kg/m2hrであり、これはDarcy透過率3.73×10-15を与えた。
【0183】
この複合材のタンパク質(リゾチーム)の吸着/脱着特性を先に概説した単一膜ディスクについての一般的な方法により調べた。この実験で使ったタンパク質の濃度はpH 5.5の10mM MES緩衝液中で0.5 g/Lあった。吸着実験の流量は2〜4 mL/分となるよう調節した。透過液中のリゾチームの濃度[PROTEIN CONC.]対透過液の体積[THE VOLUME OF THE PERMEATE]のプロットを図12に示す。比較的急勾配の破過曲線が得られていることが分かる。この複合材のリゾチーム結合能力は75.4 mg/mLであった。脱着実験により、タンパク質の回収率は65.0%であることが示された。
【0184】
実施例 17
この実施例は、非常に高いフラックスをもつがタンパク質結合能力が低い負に帯電した複合材の調製をさらに示すものである。
【0185】
この単量体溶液は、実施例15で調合した溶液をアセトンで質量比1:2で希釈することによりつくった。
【0186】
膜の形態にある多孔質ポリ(プロピレン)支持体構成部材(PP1545-4)を使い、複合材の調製は上述した一般的な方法に従って行った。UV開始重合は2時間行った。重合の後、複合材を脱イオン水で24時間十分洗った。
【0187】
得られた複合材の乾燥後の質量増加は34.4重量%であり、100kPaにおける水フラックスは12184±305 kg/m2hrであり、これはDarcy透過率7.52×10-15を与えた。
【0188】
この複合材のタンパク質(リゾチーム)の吸着/脱着特性を先に概説した単一膜ディスクについての一般的な方法により調べた。(この実験で使ったタンパク質の濃度はpH 5.5の10mM MES緩衝液中で0.5 g/Lあった。吸着実験の流量は2〜4 mL/分となるよう調節した。)透過液中のリゾチームの濃度[PROTEIN CONC.]対透過液の体積[THE VOLUME OF THE PERMEATE]のプロットを図13に示す。比較的急勾配の破過曲線が得られていることが分かる。この複合材のリゾチーム結合能力は53.5 mg/mLであった。脱着実験により、タンパク質の回収率は99.0%であることが示された。
【0189】
実施例15、16および17は、ホスト膜中への多孔質ゲルの負荷を制御することが可能であることすなわちこれによって定められた圧力(実施例にあるデータでは100kPa)における水フラックスを制御することが可能であることならびにリゾチームの取り込み量は取り込まれた多孔質ゲルの質量と相関していることを示している。
【0190】
実施例 18
この実施例は、良好なタンパク質吸着能力と良好なフラックスの両方をもつ負に帯電した膜の、マクロモノマーを用いた調製を示すものである。
【0191】
体積比80:10:10のジオキサン-(DMF)-水混合物10mL中にそれぞれ溶解された2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸(AMPS)0.6g、アクリルアミド(AAM)0.4g、N,N'-メチレンビスアクリルアミド(BIS)0.25g、Irgacure[登録商標]2959 0.01g、および実施例14で得たPEG 2000マクロモノマー1.0gを含む単量体溶液を調製した。
【0192】
膜の形態にあるミクロ多孔質ポリ(プロピレン)支持体構成部材[支持体PP1545-4]を上述した一般的な方法と共に用いた。使った照射時間は20分であった。重合の後、この膜を脱イオン水で24時間十分に洗った。
【0193】
得られた膜の乾燥後の質量増加は108.4重量%であり、水フラックスは100kPaにおいて1048±4 kg/m2hrであり、これはDarcy透過率6.47×10-16を与えた。
【0194】
この膜のタンパク質(リゾチーム)吸着/脱着特性を、先に概説した単一膜ディスクについての一般的な方法により調べた。比較的急勾配の破過曲線が得られた。この膜はリゾチーム結合能力88.7 mg/mLを有していた。脱着実験によりタンパク質の回収率は64.0%であることが示された。
【0195】
実施例 19
この実施例は先の実施例18と組み合せてさらに、膜のタンパク質結合能力および流れ特性は調節できることを示すものである。
【0196】
この単量体溶液は、実施例18で調合した溶液をアセトンで質量比1:1で希釈することによりつくった。
【0197】
膜の形態にある多孔質ポリ(プロピレン)支持体構成部材(支持体PP1545-4)を、上述した複合材の一般的な方法と共に用いた。使った照射時間は90分であった。重合の後、膜を脱イオン水で24時間十分洗った。
【0198】
得られた複合材の乾燥後の質量増加は45.7重量%であり、100kPaにおける水フラックスは7319±180 kg/m2hrであった。
【0199】
この膜のタンパク質(リゾチーム)の吸着/脱着特性を先に概説した単一膜ディスクについての一般的な方法により調べた。比較的急勾配の破過曲線が観察された。この膜のリゾチーム結合能力は63.4 mg/mLであった。脱着実験により、タンパク質の回収率は79.3%であることが示された。
【0200】
実施例 20
この実施例は、本発明の複合材のタンパク質結合能力に対する中性コモノマーの影響を示すものである。
【表6】
【0201】
単量体溶液は、表6のストック液S1〜S4をアセトンで質量比1:1で希釈することにより調製した。
【0202】
対応するストック液S1〜S4の希釈溶液を用いることにより、また、先に述べた一般的な調製方法に従うことにより複合膜M1〜M4を調製した。使用した多孔質支持体はPP1545-4であり、照射時間は90分であった。重合の完結後、この複合膜を24時間脱イオン水で洗った。
【0203】
複合膜の物性およびタンパク質結合能力を調べた。結果を表7に示す。高分子電解質ゲルの電荷密度は膜へのタンパク質吸着に顕著な影響を及ぼすことが明らかである。
【表7】
【0204】
実施例 21
この実施例は、本発明の複合材のタンパク質結合能力に対する、架橋剤として使用される多官能性マクロモノマー(PEGジアクリレート)の鎖長の影響を示すものである。
【0205】
体積比80:10:10のジオキサン-DMF-水混合物10mL中にそれぞれ溶解された2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸(AMPS)0.6g、アクリルアミド(AAM)0.4g、N,N'-メチレンビスアクリルアミド(BIS)0.10g、Irgacure[登録商標]2959 0.01g、および実施例14で得られた異なる分子量(200、1000、2000、4000)のPEGジアクリレート1.0gを含む一連のストック溶液を調製した。このストック溶液をこの後アセトンで質量比1:1で希釈した。ポリ(プロピレン)支持体PP1545-4を用いてこれらの溶液から上述した一般的な調製方法に従うことで一連の複合幕を調製した。照射時間は90分にセットした。重合の完結後、この複合膜を24時間脱イオン水で洗った。
【0206】
複合膜の物性およびタンパク質結合能力を単一膜ディスクについての一般的な方法により調べた。表8に示す結果は、複合膜のゲル構造はタンパク質吸着に対して大きな影響を及ぼすことを明確に示している。恐らく、これはマクロ孔表面近くのゲル構造に関係しており、そこでは極めてルーズな[loose](緩んだ)構造が形成されており、これによりタンパク質がある深さのゲル層の中に進入していくことが可能となっている。もう1つの可能性は、より長い鎖のPEGジアクリレートを用いることによって、その表面におけるあるファジィネス[fuzziness](はっきりしない状態)によって表面積が増大され、その結果より多くの吸着部位をタンパク質に対して利用可能としていることである。
【表8】
【0207】
実施例 22
この実施例は、繊維性不織布支持体を使用して正帯電マクロ多孔質ゲルを含む本発明の複合材をつくることを示すものである。
【0208】
ジオキサン65重量%、水18重量%、およびDMF17重量%を含む溶媒混合物中に、80:20の比で採取したジアリルジメチルアンモニウムクロリド(DADMAC)およびアクリルアミド(AAM)を溶解させることで10重量%溶液を調製した。この単量体溶液にN,N'-メチレンビスアクリルアミド(BIS)を加えて40%(モル/モル)の架橋度を得た。光開始剤Irgacure[登録商標]2959を全単量体重量に対して1%の量で加えた。
【0209】
繊維性不織布ポリプロピレン支持体TR2611Aのサンプルを1枚のポリエチレンシート上に置き、これをこの単量体溶液で満たした。この支持体をこの後もう1枚のポリエチレンシートでカバーし、得られたサンドイッチされたものを2本のゴムローラーの間を走らせて単量体溶液を孔の中へ押し入れ、過剰の溶液を除去した。この満たされた支持体を350nmで20分間照射して重合反応を起こさせた。この複合材をポリエチレンシートの間から取り出し、水、TRIS緩衝溶液で洗い、水中に24時間入れておいた。複製のサンプルを用いて複合材の質量増加を推算した。支持体はこの処理で元の重量の45%重量増した。
【0210】
この方法でつくった複合材の水フラックスは70kPaにおいて2320 kg/m2hr程度であった。
【0211】
この複合材の単一層のタンパク質(BSA)吸着特性を、上述した一般的な方法、1つは単一膜ディスクについての方法、1つはマルチ(複数)膜スタックについての方法により調べた。この膜スタックは、全厚みが1.75mmで7枚の膜層を含んでいた。いずれの実験においてもタンパク質濃度は50mM TRIS緩衝溶液中0.4 g/Lであり、使用したタンパク質溶液の流量は3.1±0.1 mL/分であり、蠕動ポンプにより送達した。BSAに対する破過能力は、単一膜実験では64 mg/mL であり、複数膜スタック実験では55±2 mg/mLであった。
【0212】
実施例 23
この実施例は、本発明の正帯電複合材をつくる上において2種の単量体の混合物を使用することを示すものである。
【0213】
50 : 50の比にあるジアリルジメチルアンモニウムクロリド(DADMAC)および(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド(APTAC)を、ジオキサン65重量% 、水18重量%およびDMF 17重量%を含んでいる溶媒混合物中に溶解させることで10重量%溶液を調製した。この単量体溶液にN,N'-メチレンビスアクリルアミド(BIS)を加えて40%(モル/モル)の架橋度を得た。光開始剤Irgacure[登録商標]2959を全単量体質量に対して1%の量で加えた。
【0214】
ポリプロピレン不織布支持体TR2611Aのサンプルをポリエチレンシート上に配置し、この単量体溶液で満たした。この支持体をこの後もう1枚のポリエチレンシートでカバーし、得られたサンドイッチされたものを2本のゴムローラーの間を走らせて単量体溶液を孔の中へ押し入れ、過剰の溶液を除去した。この満たされた支持体を350nmで20分間照射して重合反応を起こさせた。この複合材をポリエチレンシートの間から取り出し、水、TRIS緩衝溶液で洗い、水中に24時間入れておいた。
【0215】
この方法でつくった複合材の水フラックスは70kPaにおいて2550 kg/m2hr程度であった。複製サンプルにより決定した質量増加は45%であった。
【0216】
この単一層複合材のタンパク質(BSA)吸着特性を、上述した単一膜ディスクについての一般的な方法により調べた。この膜に50mM TRIS緩衝溶液中の濃度0.4 g/LのBSA溶液を流量2〜4 mL/分で送達した。この複合材の破過容量は40 mg/mLであった。
【0217】
実施例 24
この実施例は、実施例23で用いた荷電単量体の混合物に中性単量体を加えることの影響を示すものである。
【0218】
40:40:20の比で採取したジアリルジメチルアンモニウムクロリド(DADMAC)、(3-アクリルアミド-プロピル)、トリメチルアンモニウムクロリド(APTAC)、およびアクリルアミド(AAM)を、ジオキサン65重量%、水17重量%、およびDMF 18重量%を含んでいる溶媒混合物中に溶解させることで15重量%溶液を調製した。この単量体溶液にN,N'-メチレンビスアクリルアミド(BIS)を加えて20%(モル/モル)の架橋度を得た。光開始剤Irgacure[登録商標]2959を全単量体質量に対して1%の量で加えた。
【0219】
ポリプロピレン不織布支持体TR2611Aのサンプルをポリエチレンシート上に配置し、この単量体溶液で満たした。この支持体をこの後もう1枚のポリエチレンシートでカバーし、得られたサンドイッチされたものを2本のゴムローラーの間を走らせて単量体溶液を孔の中へ押し入れ、過剰の溶液を除去した。この満たされた支持体を350nmで20分間照射して重合反応を起こさせた。この複合材をポリエチレンシートの間から取り出し、水、TRIS緩衝溶液で洗い、水中に24時間入れておいた。
【0220】
この方法でつくった複合材の水フラックスは70kPaにおいて550 kg/m2hrであり、質量増加(複製サンプルにより決定)は65重量%であった。
【0221】
この単一層複合材のタンパク質(BSA)吸着特性を、上述した単一膜ディスクについての一般的な方法により調べた。この膜に50mM TRIS緩衝溶液中の濃度0.4 g/LのBSA溶液を流量3.5〜4 mL/分で送達した。この複合材の破過容量は130 mg/mLであった。
【0222】
実施例 25
この実施例は、予備形成されたポリマーの架橋により非支持型正帯電マクロ多孔質ゲルを形成させることを示すものである。
【0223】
ポリ(アリルアミンヒドロクロリド)PAHの10%溶液を、該ポリマーを水60%およびイソ-プロパノール(2-プロパノール)40%を含んでいる溶媒混合物中に溶解させることで調製した。このポリマーを6.67N NaOHを加えることで部分的に脱プロトン化(40%)した。この溶液にエチレングリコールジグリシジルエーテル(EDGE)を加えて40%(モル/モル)の架橋度を得た。この溶液を室温に3時間保ち、PAHのアミン基とEDGEのエポキシ基との間で架橋反応させることでゲル形成させた。3時間後、このゲルを水浴中に入れ、全ての未反応化学物質を浸出させた。
【0224】
このウェットゲルのサンプルをESEMにより調べた。図14に示す顕微鏡画像は、孔直径約70〜80μmのマクロ多孔質ゲルが形成されていることを示している。このウェットゲルは機械強度的には非常に弱いものであった。
【0225】
実施例 26
この実施例は、不織布支持体中に組み込まれたマクロ多孔質ゲルの製造を示すものである。
【0226】
ポリ(アリルアミンヒドロクロリド)(PAH)の10重量%溶液を実施例25と同じようにして調製した。このポリマーを実施例25で述べたと同じように部分的に脱プロトン化し、それにEDGEを加え、この溶液を、2枚のポリエチレンシートの間に配置されたポリプロピレン不織布膜支持体TR2611Aのサンプルに加えた。得られたサンドイッチされたものを2本のゴムローラーの間を走らせてポリマー溶液を支持体の孔の中へ押し入れ、それを均一に広げ、過剰の溶液を除去した。この溶液で満たされた支持体サンプルを室温に3時間保ち、架橋反応を起こさせてゲル形成させた。この時点以降に、この複合材をサンドイッチから取り出し、水浴中に12時間入れて未反応化学物質を浸出させた。
【0227】
得られた複合膜のウェットサンプルをESEMにより調べた。図15に示す顕微鏡画像は、繊維性不織布支持体構成部材中にマクロ多孔質ゲルを有している複合膜を示している。このゲルの平均孔サイズは約25〜30μmであった。膜厚みは800μmであり、100kPaにおいて測定した水フラックスは592 kg/m2hrであった。この複合材は約10 mg/mLの幾分低いBSA結合能力を示した。
【0228】
実施例 27
この実施例は、本発明の複合膜によるタンパク質吸着とPall Corporation製造の市販品Mustang[登録商標]Coin Qとの比較を提供するものである。
【0229】
実施例22で調製した複合材を、実施例22で述べた試験プロトコルに従って、全厚み1.75mmの7枚膜層の複数膜スタックで試験した。Mustang[登録商標]Coin Qも同じような条件で試験した。膜スタックは、ウェット状態にある膜サンプルの7層を互いの上に配置することで調製した。組み立てられた膜スタックを軽く圧縮して過剰の水を除去した。この膜スタックを次に60〜70℃のオーブン中で少なくとも30分間加熱した。得られた膜スタックの乾燥状態の厚みは1.8〜1.9mmであった。この方法により、複数膜層が互いにくっ付いているスタックがつくられた。図16に示す結果(透過液中のBSA濃度[BSA CONCENTRATION IN PERMEATE]/フィード中のBSA濃度[BSA CONCENTRATION IN FEED]対透過液体積[PERMEATE VOLUME]/ベッド体積[BED VOLUME]のプロット)は、いずれのシステムも同じような性能を有していることを示している。
【0230】
実施例 28
この実施例は、多孔質支持体構成部材を有している参照複合材および該支持体の孔を満たしている均質ゲルの水力学的(Darcy)透過率を示すものである。この均質ゲルは熱力学的良溶媒を使用して得、その均質性は同時に形成された同じ組成の支持されていないゲルの透明度を基準に評価した。必ず不透明であったマクロ多孔質ゲルとは反対に、濁りのない透明なゲルは均質であるとした。
【0231】
(A) グリシジルメタクリレートベースの均質ゲルで充満の複合体
グリシジルメタクリレート-コ-エチレングリコールジメタクリレート[GMA-コ-EDMA]の均質ゲルを含む複合材を溶媒としての1,4-ジオキサンおよび単量体混合物中のEDMA(架橋剤)4.7重量%ならびに異なる全単量体濃度を用いて調製した。ポリ(プロピレン)支持体PP1545-4および本発明の複合材を調製する一般的な方法を用いた。光開始剤としてDMPAを用い、照射は350nmで120分間行った。この膜の水力学的透過率を測定し、その水力学的透過率[k]とPP1545-4支持体中にポリ(GMA-コ-EDMA)均質ゲルを含んでいる複合膜の質量増加との間の関係についての経験式を導いた。式は以下のとおりである:
k = 3.62×103×G-9.09 。
【0232】
この透過率測定値と上式から計算した値との差は±3%内であることが分った。この経験式を後ほど用いて異なる質量増加における参照複合材の透過率を計算した。
【0233】
(B) ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)ベースの均質ゲルで充満の複合体
ジアリルジメチルアンモニウムクロリド-コ-メチレンビスアクリルアミド[DADMAC-コ-ビス]の均質ゲルを含む複合材を溶媒としての水および単量体混合物中のビス架橋剤1.0重量%ならびに異なる全単量体濃度を用いて調製した。ポリ(プロピレン)支持体PP1545-4サンプルをメタノール/水(60/40)混合物中のTriton X-114界面活性剤2重量%溶液中に16時間浸漬しその後空気中で乾燥させることにより支持体サンプルをこの界面活性剤でコーティングした。本発明の複合材の一般的な調製方法により均質ゲル充満膜を製造した。光開始剤としてIrgacure[登録商標]2959を用い、照射は350nmで30〜40分行った。一連の膜の水力学的透過率を測定し、Darcy透過率[k]と質量増加[G]との間の関係についての経験式を導いた:
k = 2.09×10-12×G-4.01 。
【0234】
(C) アクリルアミドベース均質ゲル充満複合体
均質ポリ(アクリルアミド)-コ-メチレンビスアクリルアミド[AAM-コ-ビス]の水力学的透過率を、Kapur et al.によりInd. Eng. Chem. Res., vol. 35 (1996) pp. 3179-3185に報告されているゲル透過率とゲルポリマー体積分率との間の経験的な関係から推算した。この式によれば、ポリ(アクリルアミド)ゲルの水力学的透過率は、kgel = 4.35×10-22×φ-3.34[式中φはゲル中のポリマー体積分率である]である。同じ文献において、Kapur et al.は、ゲルの水力学的透過率と同じゲルで充満された多孔質膜の水力学的透過率との間の関係を報告している。この関係によれば、この膜の水力学的透過率は、kmembrane = (ε/τ)×kgel[式中εは支持体の空隙率であり、τは支持体孔の蛇行度である]である。孔蛇行度は、与えられた空隙率に対するKozeny定数[K]すなわちK = 5と直円筒形毛細管に対するKozeny定数すなわちK = 2の比として推算することができる。つまり、空隙率0.85のポリ(プロピレン)支持体PP1545-4に対しては、この比は、(ε/τ) = 0.85/2.5 = 0.34である。
【0235】
ポリマー体積分率[φ]は、ポリ(アクリルアミド)の部分比体積[ν2]とポリ(プロピレン)の密度[ρ]を用いて質量増加に変換することができる。これらのパラメーターの値は、Polymer Handbook, edited by Brandrup et al., Chapter VII, Wiley and Sons, New York, 1999に記載されている。つまり、ゲルにおけるポリマーが孔のφ分率を占有しているゲルで満たされた空隙率εの支持体を有している複合材の質量増加は
【数4】
【0236】
によって与えられる。
【0237】
上記式をKapur et al.の式と組み合せて、異なる質量増加[G]における参照複合材の水力学的透過率[k]を計算することを可能とする経験的な関係を得た。組み合せた式は以下のとおりである:
k = 1.80×10-12×G-3.34 。
【0238】
この式は、ρ = 0.91 g/cm3;ε = 0.85;ν2 = 0.7 cm3/g;(ε/τ) = 0.34 に対して有効である。
【0239】
(D) ポリ(AMPS)ベース均質ゲル充満複合体
2-アクリルアミド-2-プロパン-1-スルホン酸-コ-メチレンビスアクリルアミド[AMPS-コ-ビス]の均質ゲルを含む複合材を溶媒としての水および単量体混合物中のビス架橋剤10.0重量%ならびに異なる全単量体濃度を用いて調製した。ポリ(プロピレン)支持体PP1545-4サンプルをメタノール/水(60/40)混合物中のTriton X-114界面活性剤2重量%溶液中に16時間浸漬しその後空気中で乾燥させることにより支持体サンプルをこの界面活性剤でコーティングした。本発明の複合材の一般的な調製方法により均質ゲル充満膜を製造した。光開始剤としてIrgacure[登録商標]2959を用い、照射は350nmで60分行った。一連の膜の水力学的透過率を測定し、Darcy透過率[k]と質量増加[G]との間の関係についての経験式を導いた:
k = 2.23×10-16×G-1.38 。
【0240】
(E) ポリ(APTAC)ベース均質ゲル充満複合体
(3-アクリルアミドプロパン)トリメチルアンモニウムクロリド-コ-メチレンビスアクリルアミド[APTAC-コ-ビス]の均質ゲルを含む複合材を溶媒としての水および単量体混合物中のビス架橋剤10.0重量%ならびに異なる全単量体濃度を用いて調製した。ポリ(プロピレン)支持体PP1545-4サンプルをメタノール/水(60/40)混合物中のTriton X-114界面活性剤2重量%溶液中に16時間浸漬しその後空気中で乾燥させることにより支持体サンプルをこの界面活性剤でコーティングした。本発明の複合材の一般的な調製方法により均質ゲル充満膜を製造した。光開始剤としてIrgacure[登録商標]2959を用い、照射は350nmで60分行った。一連の膜の水力学的透過率を測定し、Darcy透過率[k]と質量増加[G]との間の関係についての経験式を導いた:
k = 9.51×10-16×G-1.73 。
【0241】
(F) ポリ(エチレンイミン)ベース均質ゲル充満複合体
エチレングリコールジグリシジルエーテル(EDGE)で架橋した分枝状ポリ(エチレンイミン)の均質ゲルを含む複合材を異なる濃度のBPEIメタノール溶液を用いて調製した。用いた架橋度は10モル%であった。ポリ(プロピレン)支持体PP1545-4を複合材の一般的な加工方法と共に用いて実施例10で述べた架橋性ポリマーのin situ架橋を行った。溶液中のPEI濃度を変えることにより異なる質量増加の一連の膜を調製した。この膜のDarcy透過率を測定し、膜のDarcy透過率[k]と質量増加[G]との間の関係を表わす経験式を導いた。式は以下のとおりである:
k = 4.38×10-14×G-2.49 。
【0242】
実施例 29
この実施例は、支持型マクロ多孔質ゲルを含んでいる本発明の複合材のDarcy透過率と、本発明で使用される多孔質支持体構成部材を満たす均質ゲルを含んでいる参照複合材の透過率との比較を示すものである。
【0243】
比較を以下の表9に示す。
【表9】
【0244】
【0245】
実施例 30〜37
これらの実施例は、アクリル酸(AA)(イオン性単量体)、アクリルアミド(AAM)、および架橋剤としてのトリメチロールプロパントリアクリレート(TRIM)の光開始フリーラジカル重合により本発明の応答性複合材を調製する方法を示すものである。アクリル酸対アクリルアミドのモル比は1:1であり、全ての実験において溶媒として1,4-ジオキサンを用いた。単量体溶液組成および重合条件を表10に示す。重合の後、応答性複合材を約16時間脱イオン水で洗った。
【表10】
【0246】
支持体構成部材中に形成されるゲルの量は、満たすのに利用可能な孔体積、全単量体混合物濃度、および重合における転換の程度によって決まる。図17に、支持体TR2611Aによって得た質量増加[MASS GAIN]を全単量体濃度[MONOMER CONCENTRATION]の関数としてプロットする。このデータは、直線の範囲内に入ると近似することができ(R2 = 0.97)、各サンプルについて似た転換の程度であることを示している。実験値は、支持体の孔体積および単量体濃度から推算したその理論値に非常に近かった。これは、転換度が100%に近いこと、また、用いた光条件では10分の照射時間が十分であることを示唆するものである。予測されるように、PP 1545-4支持体で得た質量増加は、TR2611A支持体で得たそれよりも、前者の空隙率が大きい(85体積%対79.5体積%)ことから、大きかった。
【0247】
実施例 38
この実施例は、実施例30による応答性複合材のイオン性相互作用に対する応答性を示すものである。この目的のためには、複合材を異なるpHおよび/または塩濃度で試験してそのフラックスを100kPaにおいて測定した。膜AM675で得た、PHを約3(1mM HCl)から約12(1mM NaOH)に変えたときに起るフラックス[FLUX]の典型的な変化を図18に示す。この図から、1mM HClで測定したフラックスは1mM NaOHで測定したフラックスよりも大体100倍大きいことが分る。この膜挙動についての理由は、マクロ多孔質ゲルの酸成分のイオン化度における変化にある。高pH(1mM NaOH)では酸成分のカルボキシル基がイオン化され、その静電気的反発力によりポリマー鎖のアンコイルと伸張が引き起こされ、最終的にポリマーネットワーク弾性の反作用的力、および、膜の支持体構成部材により掛けられている閉じ込めとつり合う。膨潤性ポリマーの鎖は孔の体積およびゲル中の孔半径を小さくする。低pH(1mM HCl)では、カルボキシル基は中性のカルボン酸基に変換され、静電気的力は消え、ゲルは縮み(崩壊し)、その結果ゲル中の孔を大きくする。支持体構成部材が存在することにより、ゲルが全体として崩壊すること(すなわち支持されていないバルクゲルで起ると考えらえる現象)および孔が閉じられることが防がれる。つまり、支持体の存在により、ゲルの水力学的特性が変わる方向が覆させられる。純水のフラックスを測定する場合、得られる測定値は水のpH(〜5.5)における平衡イオン化からの距離によって決まる。最初の水[INITIAL WATER]のフラックスは平衡において測定されることとする。酸または塩基の直後は、ゲルは水との平衡からは程遠く、純水のフラックスはこの状態を反映しており、イオン化された形態(NaOH後)または中性の形態(HCl後)におけるフラックスに近い。
【0248】
1mM HClで測定したフラックス対1mM NaOHで測定したそれとの比を膜応答性(MR)の尺度とした。実施例30〜37に記載した膜で得た結果を表11に示す。
【表11】
【0249】
表11の結果は、イオン性相互作用に対する本発明の複合膜の応答性は全単量体混合物濃度および架橋度によっても制御することができることを示している。単量体濃度が高くなると、環境変化に対する膜の感度は低くなる。架橋度を高くした場合同じような効果が見られる。
【0250】
実施例 39
この実施例は、本発明の応答性複合材をベースとする膜のタンパク質を分別する能力を示すものである。ケーススタディ(事例研究)として、治療用タンパク質のヒト血清アルブミン[human serum albumin(HSA)]およびヒト免疫グロブリンG[human immunoguloblin G(HIgG)]の分離を選んだ。ヒト血漿は多くの治療用タンパク質の製造の出発原料であり、血漿タンパク質と呼ばれる。これらの内でも最も多くあるのがHASとHIgGで、いずれもバルク量で製造されている。これらのタンパク質は一般に沈殿をベースとする方法により分別されており、この方法では高い生成品スループット[product throughput]が得られるが分離に関する分割能は低い。限外濾過のような膜をベースとする方法は高いスループットと高い分解能の両方を与える潜在能力を有している。
【0251】
応答性マクロゲルを含んでいる本発明の複合膜すなわち膜AM695(表10と11を参照)の複製品2枚を、これら血漿タンパク質の分離におけるその適合性について試験した。ここで取り上げる実験では、塩濃度を変えることにより膜の孔サイズが変わることを利用して望ましいとする方式すなわち膜モジュールからの順次的放出でタンパク質−タンパク質分離を行った。pHなどの他の環境条件を用いて同じような目的を十分達成できる。
【0252】
この限外濾過実験では二成分キャリアー(担体)相システム(binary carrier phase system)を用いた。全ての実験における出発キャリアー相は低塩濃度(典型的には5〜10mM NaCl)のものであった。全ての実験においてキャリアー相は高塩濃度(典型的には1 M NaCl)のものに切り換えた。膜モジュール内の塩濃度の変化は透過液ストリーム(流れ)の伝導度を観測することで追跡できるようになっていた。膜横断圧の変化により、塩濃度の変化による膜の水力学的透過率の変化についての見当がついた。図19は、膜横断圧[TRANSMEMBRANE PRESSURE]および伝導度[CONDUCTIVITY]を流出液体積[EFFLUENT VOLUME]=透過液塩濃度の関数として(図19 AおよびB)、および、膜横断圧[TMP]の変化を透過液の伝導度[Conductivity]の関数として(図19 C)示すものである。この実験では塩濃度は直線的に連続的に上げられている。観測された膜横断圧は透過液塩濃度に関係しており、孔直径の変化を反映している。
【0253】
ヒト血清アルブミンとヒト免疫グロブリンの混合物を用いて実験を行った。限外濾過を低塩濃度(すなわち10mM )で開始した。この条件では、ヒト血清アルブミンは通ったが、ヒト免疫グロブリンGはほとんど全部が通らなかった。塩濃度をこの後上げると、孔直径が大きくなった(定透過液フラックス限外濾過における圧降下から明らか)。これにより次に膜を通るヒト免疫グロブリンGの透過がもたらされた。よって、環境条件を変えることで、同じ膜を通して異なるサイズのタンパク質を順次的に透過させることが可能であった。もし最初の混合物にヒト免疫グロブリンよりももっと大きいタンパク質も含まれていたならば、塩濃度の変化を適切に制御することにより3種のタンパク質(すなわちヒト血清アルブミン、ヒト免疫グロブリンおよびもっと大きいタンパク質)を分別することが可能であったと考えられる。この場合に得られる3つの分画のうちの2つは透過液側にあり、3つ目の分画は保持液側にあると考えられる。
【0254】
膜AM694の複製品で得た結果を図 20、21、および22に示す。図20はHIgGの限外濾過で得た結果を示すものである[図中ABSORBENCEは吸光度である]。図から明らかなように、低塩濃度では、たとえあるとしても非常に少ないHIgGが透過した。しかしながら、塩濃度を上げると、HIgGが膜モジュールから放出された。塩濃度の上昇によるTMP[TRANSMEMBRANE PRESSURE]の降下は孔直径の増大によるものであった。
【0255】
図21に示す結果はHSAの限外濾過で得たものである。図から明らかなように、低塩濃度においてさえもHSAは膜を通って自由に透過した。塩濃度を上げると、HSAの透過はほんの少し増大することが分る。
【0256】
図22はHSA/HIgGの限外濾過で得た結果を示すものである。低塩濃度では、HSAのみが透過した。膜モジュールからHSAがほぼ完全に除去されるまで限外濾過を続けた。その後塩濃度を上げることでHIgGが放出された。
【0257】
実施例 40
この実施例は、高いタンパク質結合能力をもつ本発明の正帯電複合材の製造方法を示すものである。
【0258】
モル比1:0.32:0.1にある(3-アクリルアミドプロピル)-トリメチルアンモニウムクロリド(APTAC)、N-(ヒドロキシメチル)アクリルアミド、および架橋剤としてのN,N'-メチレンビスアクリルアミドを、水10重量%、ジ(プロピレングリコール)メチルエーテル60重量%およびジメチルホルムアミド(DMF)30重量%を含んでいる溶媒混合物中にそれぞれ溶解させることで15重量%溶液を調製した。光開始剤Irgacure[登録商標]2959を、単量体の質量に対して1%の量で加えた。
【0259】
繊維性不織布支持体TR2611Aのサンプルをポリエチレンシート上に配置し、この単量体溶液で満たした。この支持体をこの後もう1枚のポリエチレンシートでカバーし、得られたサンドイッチ状のものを2本のゴムローラーの間を走らせて単量体溶液を孔の中に押しやり、過剰の溶液を除去した。この支持体を350nmで5分照射した。この複合材をこの後ポリエチレンシートの間から取り出し、水およびTRIS緩衝液で洗い、水の中に24時間入れておいた。
【0260】
上記方法によりいくつかのサンプルを調製し、そのサンプルをこの後乾燥させ、秤量した。この複合材の平均質量増加は出発支持体構成部材の最初の重量の55.7%であった。
【0261】
上記複合材の複数膜スタックのタンパク質(BSA)吸着特性を先に述べた複合材の単一層についての一般的な方法により調べた。試験した膜スタックは4つの膜層を有しており、全厚みは1.05mmであった。使用したタンパク質溶液はタンパク質濃度0.4 g/Lの25mM TRIS緩衝溶液であり、このタンパク質溶液の流量は150kPaで5.0 mL/分であった。BSAに対する破過容量は281 mg/mLであった。この後の脱着工程において、およそ85%のBSAが回収された。
【0262】
本明細書で言及した参考文献の全ては、あたかも各参考文献が確実に参照により本明細書に組み込まれると記載されているのと同じ程度に参照により本明細書に組み込まれる。
【0263】
当業者は、添付の特許請求の範囲にある本発明の精神および範囲から逸脱することなく多くの変更、改変および変形ができることを理解すべきである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の孔が延在している支持体構成部材、および該支持体構成部材の孔中に配置されかつ該支持体構成部材の孔を満たしているマクロ多孔質架橋ゲルを含んでなる複合材。
【請求項2】
透過率比が少なくとも10である、請求項1に記載の複合材。
【請求項3】
透過率比が少なくとも100である、請求項1に記載の複合材。
【請求項4】
透過率比が少なくとも1000である、請求項1に記載の複合材。
【請求項5】
前記マクロ多孔質ゲルが非自己支持型である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の複合材。
【請求項6】
前記マクロ多孔質架橋ゲルが平均サイズおよそ10〜およそ3000nmのマクロ孔および30〜80%の体積空隙率を有している、請求項1〜5のいずれか一項に記載の複合材。
【請求項7】
前記マクロ多孔質架橋ゲルが平均サイズ25〜1500nmのマクロ孔を有している、請求項1〜6のいずれか一項に記載の複合材。
【請求項8】
前記マクロ多孔質架橋ゲルが平均サイズ50〜1000nmのマクロ孔を有している、請求項1〜6のいずれか一項に記載の複合材。
【請求項9】
前記マクロ多孔質架橋ゲルが平均サイズ約700nmのマクロ孔を有している、請求項1〜6のいずれか一項に記載の複合材。
【請求項10】
サイズ排除分離においてフィルターとして使用される膜の形態にある、請求項1〜9のいずれか一項に記載の複合材。
【請求項11】
膜の形態にありかつ前記マクロ多孔質架橋ゲルが荷電部分をもっている、請求項1〜9のいずれか一項に記載の複合材。
【請求項12】
膜の形態にありかつ前記マクロ多孔質架橋ゲルが、生体分子、生体イオン、またはこの両者が結合するためのリガンドをもっている、請求項1〜9のいずれか一項に記載の複合材。
【請求項13】
前記支持体構成部材が、マクロ多孔質ゲルによって完全には占有されていない空隙体積を有しており、かつ、該マクロ多孔質ゲルの密度が支持体構成部材の第1の主表面またはその近傍において支持体構成部材の第2の主表面またはその近傍における密度よりも高い、請求項1〜12のいずれか一項に記載の複合材。
【請求項14】
前記支持体構成部材が、マクロ多孔質ゲルによって実質的に完全に占有されている空隙体積を有している、請求項1〜12のいずれか一項に記載の複合材。
【請求項15】
前記支持体構成部材が、厚みが約10μm〜約500μmであり、平均サイズ0.1〜25μmの孔を含んでおり、かつ、体積空隙率が40〜90%である膜の形態にある高分子材料からできている請求項1〜14のいずれか一項に記載の複合材。
【請求項16】
前記支持体構成部材が、相分離により形成された延展ポリオレフィンからできている、請求項1〜15のいずれか一項に記載の複合材。
【請求項17】
前記支持体構成部材が、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリカーボネート、ポリエステル、セルロースおよびセルロース誘導体からなる群から選択される高分子材料を含んでいる、請求項1〜15のいずれか一項に記載の複合材。
【請求項18】
前記支持体構成部材が、厚みが約10μm〜約2000μmであり、平均サイズ0.1〜25μmの孔を含んでおり、かつ、体積空隙率が40〜90%である繊維状織布または不織布の形態にある高分子材料からできている請求項1〜14のいずれか一項に記載の複合材。
【請求項19】
前記支持体構成部材が2〜10枚の別々の支持体構成部材のスタックを含んでいる、請求項1〜18のいずれか一項に記載の複合材。
【請求項20】
前記マクロ多孔質架橋ゲルが、中性もしくは荷電ヒドロゲル、高分子電解質ゲル、疎水性ゲル、中性ゲル、または機能性ゲルである、請求項1〜19のいずれか一項に記載の複合材。
【請求項21】
前記中性もしくは荷電ヒドロゲルが、架橋されたポリ(ビニルアルコール)、ポリ(アクリルアミド)、ポリ(イソプロピルアクリルアミド)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(ヒドロキシメチルアクリレート)、ポリ(エチレンオキシド);アクリル酸もしくはメタクリル酸とアクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド、またはビニルピロリドンとのコポリマー;アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸とアクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド、またはビニルピロリドンとのコポリマー;(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリドとアクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド、またはN-ビニルピロリドンとのコポリマー;および、ジアリルジメチルアンモニウムクロリドとアクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド、またはビニルピロリドンとのコポリマーからなる群から選択される、請求項20に記載の複合材。
【請求項22】
前記高分子電解質ゲルが、架橋されたポリ(アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸)およびその塩、ポリ(アクリル酸)およびその塩、ポリ(メタクリル酸)およびその塩、ポリ(スチレンスルホン酸)およびその塩、ポリ(ビニルスルホン酸)およびその塩、ポリ(アルギン酸)およびその塩、ポリ[(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウム]塩、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウム)塩、ポリ(4-ビニル-N-メチルピリジニウム)塩、ポリ(ビニルベンジル-N-トリメチルアンモニウム)塩、ならびにポリ(エチレンイミン)およびその塩からなる群から選択される、請求項20に記載の複合材。
【請求項23】
前記疎水性ゲルが、エチルアクリレート、n-ブチルアクリレート、プロピルアクリレート、オクチルアクリレート、ドデシルアクリレート、オクタデシルアクリルアミド、ステアリルアクリレート、およびスチレンの架橋されたポリマーまたはコポリマーからなる群から選択される、請求項20に記載の複合材。
【請求項24】
前記中性ゲルが、アクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N-メタクリロイルアクリルアミド、N-メチル-N-ビニルアセトアミド、およびN-ビニルピロリドンの架橋されたポリマーまたはコポリマーからなる群から選択される、請求項20に記載の複合材。
【請求項25】
前記機能性ゲルが、抗体、アミノ酸リガンド、抗原および抗体リガンド、染料リガンド、ならびに金属親和性リガンドの形態をとる官能基を有している、請求項20に記載の複合材。
【請求項26】
前記マクロ多孔質架橋ゲルがマクロモノマーを含んでいる、請求項1〜25のいずれか一項に記載の複合材。
【請求項27】
前記マクロモノマーが、ポリ(エチレングリコール)アクリレートおよびポリ(エチレングリコール)メタクリレートからなる群から選択される、請求項26に記載の複合材。
【請求項28】
前記マクロ多孔質架橋ゲルが多官能マクロモノマーにより架橋されている、請求項1〜27のいずれか一項に記載の複合材。
【請求項29】
前記多官能マクロモノマーが、ポリ(エチレングリコール)ジアクリレートおよびポリ(エチレングリコール)ジメタクリレートからなる群から選択される、請求項28に記載の複合材。
【請求項30】
前記マクロ多孔質架橋ゲルが、N,N'-メチレンビスアクリルアミドで架橋された(3-アクリルアミドプロピル)-トリメチルアンモニウムクロリド(APTAC)とN-(ヒドロキシメチル)アクリルアミドとのコポリマーを含んでいる正荷電ヒドロゲルである、請求項1〜19のいずれか一項に記載の複合材。
【請求項31】
前記マクロ多孔質架橋ゲルが応答性マクロ多孔質架橋ゲルである、請求項1〜30のいずれか一項に記載の複合材。
【請求項32】
前記応答性マクロ多孔質架橋ゲルが:
a) 該ゲル中のマクロ孔の平均サイズが10〜2000nmである安定な崩壊状態、
b) 該ゲル中のマクロ孔の平均サイズが2〜200nmである安定な膨潤状態、または
c) 該ゲル中のマクロ孔の平均サイズが2〜2000nmである多数ある安定な中間状態のひとつ、
にあることができる請求項31に記載の複合材。
【請求項33】
前記応答性マクロ多孔質架橋ゲルが、pH、イオン濃度、温度、光強度、または電気化学電流のうちの少なくともひとつにおける変化に応答性である、請求項31または32に記載の複合材。
【請求項34】
前記応答性マクロ多孔質架橋ゲルが、応答性単量体、中性単量体および架橋剤を含む、請求項31、32、または33に記載の複合材。
【請求項35】
請求項1〜34のいずれか一項に記載の複合材に濾過すべき液体を通すことを含んでなる、サイズ排除濾過方法。
【請求項36】
前記液体が細胞の懸濁液または凝集物の懸濁液である、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
請求項1〜34のいずれか一項に記載の複合材に荷電物質含有液体を通すことを含んでなるDonnan排除分離方法であって、該複合材がそのマクロ多孔質ゲル上に電荷をもっている上記方法。
【請求項38】
請求項1に記載の複合材に生体分子または生体イオン含有液体を通すことを含んでなる、液体からその生体分子または生体イオンを分離吸着する方法であって、該複合材がそのマクロ多孔質ゲル上に生体分子に対して特異的相互作用を示す結合部位をもっている上記方法。
【請求項39】
前記生体分子または生体イオンが、アルブミン、リゾチーム、ウイルス、細胞、ヒト由来および動物由来のγ-グロブリン、ヒト由来および動物由来の免疫グロブリン、組み換えまたは天然由来タンパク質例えば合成または天然由来ポリペプチド、インターロイキン-2およびその受容体、酵素、モノクローナル抗体、トリプシンおよびその阻害物質、シトクロム C、ミオグロブリン、組み換えヒトインターロイキン、組み換え融合タンパク質、核酸由来産物、合成かまたは天然由来のDNA、ならびに合成かまたは天然由来のRNAからなる群から選択される、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記特異的相互作用が静電的相互作用である、請求項38または39に記載の方法。
【請求項41】
前記特異的相互作用が親和的相互作用である、請求項38または39に記載の方法。
【請求項42】
前記特異的相互作用が疎水的相互作用である、請求項38または39に記載の方法。
【請求項43】
請求項1〜34のいずれか一項に記載の複合材に、第1の反応体を含有する液体を通すことを含んでなる固相化学合成の方法であって、第2の反応体が該複合材のマクロ孔中にある上記方法。
【請求項44】
複数の孔が延在している支持体構成部材および該支持体構成部材の孔中に配置されかつ該支持体構成部材の孔を満たしているマクロ多孔質架橋ゲルを含んでなる複合材の調製方法であって、
a) 支持体構成部材の孔の中に、
i) 結合してマクロ多孔質ゲルを形成することができる1種または複数種の単量体と1種または複数種の架橋剤、
または、
ii) 結合してマクロ多孔質ゲルを形成することができる1種または複数種の架橋性ポリマーと1種または複数種の架橋剤、
の溶液または懸濁液を導入すること、
b) 該単量体と該架橋剤、または、該架橋性ポリマーと該架橋剤とを反応させて、該支持体構成部材の孔を満たすマクロ多孔質架橋ゲルを形成させること、
を含んでなる上記調製方法。
【請求項45】
前記架橋剤対単量体のモル比が約5:95〜約70:30である、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
前記架橋剤対単量体のモル比が約10:90〜約50:50である、請求項44に記載の方法。
【請求項47】
前記架橋剤対単量体のモル比が約15:85〜約45:55である、請求項44に記載の方法。
【請求項48】
前記単量体が、アクリルアミド、2-アクリルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド、N-アクリルオキシスクシンイミド、N-アクリロイルトリス(ヒドロキシメチル)メチルアミン、2-アミノエチルメタクリレートヒドロクロリド、N-(3-アミノプロピル)メタクリルアミドヒドロクロリド、ブチルアクリレートおよびメタクリレート、N,N-ジエチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、2-(N,N-ジメチルアミノ)エチルアクリレートおよびメタクリレート、N-[3-(N,N-ジメチルアミノ)プロピル]メタクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、n-ドデシルアクリレート、n-ドデシルメタクリレート、ドデシルメタクリルアミド、エチルメタクリレート、2-(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレートおよびメタクリレート、2,3-ジヒドロキシプロピルアクリレートおよびメタクリレート、グリシジルアクリレートおよびメタクリレート、n-ヘプチルアクリレートおよびメタクリレート、1-ヘキサデシルアクリレートおよびメタクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレートおよびメタクリレート、N-(2-ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド、ヒドロキシプロピルアクリレートおよびメタクリレート、メタクリルアミド、無水メタクリル酸、メタクリルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド、2-(2-メトキシ)エチルアクリレートおよびメタクリレート、オクタデシルアクリルアミド、オクチルアクリルアミド、オクチルメタクリレート、プロピルアクリレートおよびメタクリレート、N-イソ-プロピルアクリルアミド、ステアリルアクリレート、スチレン、4-ビニルピリジン、ビニルスルホン酸、N-ビニル-2-ピロリドン、およびスチレンスルホン酸ナトリウムからなる群から選択され、特に好ましくはジメチルジアリルアンモニウムクロリド、アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸(AMPS)、(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド(APTAC)、アクリルアミド、メタクリル酸(MAA)、アクリル酸(AA)、4-スチレンスルホン酸およびその塩、アクリルアミド、グリシジルメタクリレート、ジアリルアミン、およびジアリルアンモニウムクロリドから選択される、請求項44〜47のいずれか一項に記載の方法。
【請求項49】
前記単量体が、ジメチルジアリルアンモニウムクロリド、アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸(AMPS)、(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド(APTAC)、アクリルアミド、メタクリル酸(MAA)、アクリル酸(AA)、4-スチレンスルホン酸およびその塩、アクリルアミド、ヒドロキシアルキルアクリルアミド、グリシジルメタクリレート、ジアリルアミン、およびジアリルアンモニウムクロリドからなる群から選択される、請求項44〜47のいずれか一項に記載の方法。
【請求項50】
前記1種または複数種の単量体がマクロモノマーである、請求項44〜47のいずれか一項に記載の方法。
【請求項51】
前記マクロモノマーが約200 Daより大きい分子量を有している、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
前記マクロモノマーがポリ(エチレングリコール)アクリレートまたはポリ(エチレングリコール)メタクリレートである、請求項50または51に記載の方法。
【請求項53】
前記架橋剤が、ビスアクリルアミド酢酸、2,2-ビス[4-(2-アクリルオキシエトキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス(4-メタクリルオキシフェニル)プロパン、ブタンジオールジアクリレートおよびジメタクリレート、1,4-ブタンジオールジビニルエーテル、1,4-シクロヘキサンジオールジアクリレートおよびジメタクリレート、1,10-ドデカンジオールジアクリレートおよびジメタクリレート、1,4-ジアクリロイルピペラジン、ジアリルフタレート、2,2-ジメチルプロパンジオールジアクリレートおよびジメタクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレートおよびジメタクリレート、N,N-ドデカメチレンビスアクリルアミド、グリセロールトリメタクリレート、グリセロールトリス(アクリルオキシプロピル)エーテル、N,N'-ヘキサメチレンビスアクリルアミド、N,N'-オクタメチレンビスアクリルアミド、1,5-ペンタンジオールジアクリレートおよびジメタクリレート、1,3-フェニレンジアクリレート、ポリ(エチレングリコール)(n)ジアクリレートおよびジメタクリレート、ポリ(プロピレン)(n)ジアクリレートおよびジメタクリレート、トリエチレングリコールジアクリレートおよびジメタクリレート、トリエチレングリコールジビニルエーテル、トリプロピレングリコールジアクリレートおよびジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ならびにジビニルベンゼンからなる群から選択される、請求項50に記載の方法。
【請求項54】
前記架橋剤が、N,N,-メチレンビスアクリルアミド、ジエチレングリコールジアクリレートおよびジメタクリレート、エチレングリコールジアクリレートおよびジメタクリレート、テトラ(エチレングリコール)ジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、ジビニルベンゼン、トリメチロールプロパントリアクリレート、およびポリ(エチレングリコール)ジアクリレートからなる群から選択される、請求項44〜49のいずれか一項に記載の方法。
【請求項55】
前記架橋剤が多官能マクロモノマーである、請求項44〜49のいずれか一項に記載の方法。
【請求項56】
前記多官能マクロモノマーが約200 Daより大きい分子量を有している、請求項55に記載の方法。
【請求項57】
前記多官能マクロモノマーがポリ(エチレングリコール)ジアクリレートまたはポリ(エチレングリコール)ジメタクリレートである、請求項56に記載の方法。
【請求項58】
前記架橋性ポリマーが、ポリ(エチレンイミン)、ポリ(4-ビニルピリジン)、ポリ(ビニルベンジルクロリド)、ポリ(ジアリルアンモニウムクロリド)、ポリ(グリシジルメタクリレート)、ビニルピリジンとジメチルジアリルアンモニウムクロリドとのコポリマー、および、ビニルピリジン、ジメチルジアリルアンモニウムクロリド、または(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリドとグリシジルメタクリレートとのコポリマーからなる群から選択される、請求項44に記載の方法。
【請求項59】
前記架橋性ポリマーが、ポリ(エチレンイミン)、ポリ(ジアリルアンモニウムクロリド)、およびポリ(グリシジルメタクリレート)からなる群から選択される、請求項44に記載の方法。
【請求項60】
前記架橋剤が、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリ(プロピレングリコール)ジグリシジルエーテル、1,3-ジブロモプロパン、1,4-ジブロモブタン、1,5-ジブロモペンタン、1,6-ジブロモヘキサン、α,α'-ジブロモ-p-キシレン、α,α'-ジクロロ-p-キシレン、1,4-ジブロモ-2-ブテン、ピペラジン、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、1,2-ジアミノエタン、1,3-ジアミノプロパン、1,4-ジアミノブタン、1,5-ジアミノペンタン、1,6-ジアミノヘキサン、1,7-ジアミノヘプタン、1,8-ジアミノオクタンからなる群から選択される、請求項44、58または59に記載の方法。
【請求項61】
マクロ多孔質架橋ゲル形成の前に光開始剤を加える、請求項44〜60のいずれか一項に記載の方法。
【請求項62】
前記光開始剤が、2-ヒドロキシ-1[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン(DMPA)、ベンゾフェノン、ベンゾインおよびベンゾインエーテル、ジアルコシキアセトフェノン、ヒドロキシアルキルフェノン、ならびにα-ヒドロキシメチルベンゾインスルホン酸エステルからなる群から選択される、請求項61に記載の方法。
【請求項63】
マクロ多孔質架橋ゲル形成の前に熱開始剤を加える、請求項44〜60のいずれか一項に記載の方法。
【請求項64】
前記熱開始剤が、1,1'-アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)、アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、およびベンゾイルペルオキシドからなる群から選択される、請求項63に記載の方法。
【請求項65】
マクロ多孔質架橋ゲル形成の前にポロゲンを加える、請求項44〜64のいずれか一項に記載の方法。
【請求項66】
前記ポロゲンが、マクロ多孔質架橋ゲルの貧溶媒である、請求項65に記載の方法。
【請求項67】
前記形成されたマクロ多孔質架橋ゲルが、エポキシ基、酸無水物基、アジド基、反応性ハロゲン基、および酸塩化物基からなる群から選択される反応性官能基を含み、この反応性官能基に後で官能基を反応させる、請求項44〜64のいずれか一項に記載の方法。
【請求項68】
前記形成されたマクロ多孔質架橋ゲルが、その後の反応により四級化されて荷電されたマクロ多孔質架橋ゲルを生じることができる基を含んでいる、請求項44〜66のいずれか一項に記載の方法。
【請求項69】
流体中に溶解または懸濁している2つ以上の異なるサイズの物質種を含有している溶液または懸濁液のクロマトグラフィー濾過方法であって、(a) 該流体を請求項31に記載の複合材に通して、最も小さいサイズの物質種は該複合材を通過するがより大きい物質種は該複合材を通過しないようにする工程、および(b) 環境条件を変えてマクロ多孔質ゲルにおける孔のサイズを大きくして、次に大きいサイズの物質種が該複合材を通過するようにする工程、を含んでなる上記方法。
【請求項70】
工程(b)を繰り返して、より大きい物質種の順次溶離を可能とする、請求項69に記載の方法。
【請求項71】
前記物質種が、タンパク質、細胞、凝集物および粒子から選択される、請求項69または70に記載の方法。
【請求項72】
前記環境条件が、pH、イオン濃度、温度、光強度、および電気化学電流からなる群またはこれらの組み合せから選択される、請求項69、70または71に記載の方法。
【請求項1】
複数の孔が延在している支持体構成部材、および該支持体構成部材の孔中に配置されかつ該支持体構成部材の孔を満たしているマクロ多孔質架橋ゲルを含んでなる複合材。
【請求項2】
透過率比が少なくとも10である、請求項1に記載の複合材。
【請求項3】
透過率比が少なくとも100である、請求項1に記載の複合材。
【請求項4】
透過率比が少なくとも1000である、請求項1に記載の複合材。
【請求項5】
前記マクロ多孔質ゲルが非自己支持型である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の複合材。
【請求項6】
前記マクロ多孔質架橋ゲルが平均サイズおよそ10〜およそ3000nmのマクロ孔および30〜80%の体積空隙率を有している、請求項1〜5のいずれか一項に記載の複合材。
【請求項7】
前記マクロ多孔質架橋ゲルが平均サイズ25〜1500nmのマクロ孔を有している、請求項1〜6のいずれか一項に記載の複合材。
【請求項8】
前記マクロ多孔質架橋ゲルが平均サイズ50〜1000nmのマクロ孔を有している、請求項1〜6のいずれか一項に記載の複合材。
【請求項9】
前記マクロ多孔質架橋ゲルが平均サイズ約700nmのマクロ孔を有している、請求項1〜6のいずれか一項に記載の複合材。
【請求項10】
サイズ排除分離においてフィルターとして使用される膜の形態にある、請求項1〜9のいずれか一項に記載の複合材。
【請求項11】
膜の形態にありかつ前記マクロ多孔質架橋ゲルが荷電部分をもっている、請求項1〜9のいずれか一項に記載の複合材。
【請求項12】
膜の形態にありかつ前記マクロ多孔質架橋ゲルが、生体分子、生体イオン、またはこの両者が結合するためのリガンドをもっている、請求項1〜9のいずれか一項に記載の複合材。
【請求項13】
前記支持体構成部材が、マクロ多孔質ゲルによって完全には占有されていない空隙体積を有しており、かつ、該マクロ多孔質ゲルの密度が支持体構成部材の第1の主表面またはその近傍において支持体構成部材の第2の主表面またはその近傍における密度よりも高い、請求項1〜12のいずれか一項に記載の複合材。
【請求項14】
前記支持体構成部材が、マクロ多孔質ゲルによって実質的に完全に占有されている空隙体積を有している、請求項1〜12のいずれか一項に記載の複合材。
【請求項15】
前記支持体構成部材が、厚みが約10μm〜約500μmであり、平均サイズ0.1〜25μmの孔を含んでおり、かつ、体積空隙率が40〜90%である膜の形態にある高分子材料からできている請求項1〜14のいずれか一項に記載の複合材。
【請求項16】
前記支持体構成部材が、相分離により形成された延展ポリオレフィンからできている、請求項1〜15のいずれか一項に記載の複合材。
【請求項17】
前記支持体構成部材が、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリカーボネート、ポリエステル、セルロースおよびセルロース誘導体からなる群から選択される高分子材料を含んでいる、請求項1〜15のいずれか一項に記載の複合材。
【請求項18】
前記支持体構成部材が、厚みが約10μm〜約2000μmであり、平均サイズ0.1〜25μmの孔を含んでおり、かつ、体積空隙率が40〜90%である繊維状織布または不織布の形態にある高分子材料からできている請求項1〜14のいずれか一項に記載の複合材。
【請求項19】
前記支持体構成部材が2〜10枚の別々の支持体構成部材のスタックを含んでいる、請求項1〜18のいずれか一項に記載の複合材。
【請求項20】
前記マクロ多孔質架橋ゲルが、中性もしくは荷電ヒドロゲル、高分子電解質ゲル、疎水性ゲル、中性ゲル、または機能性ゲルである、請求項1〜19のいずれか一項に記載の複合材。
【請求項21】
前記中性もしくは荷電ヒドロゲルが、架橋されたポリ(ビニルアルコール)、ポリ(アクリルアミド)、ポリ(イソプロピルアクリルアミド)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(ヒドロキシメチルアクリレート)、ポリ(エチレンオキシド);アクリル酸もしくはメタクリル酸とアクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド、またはビニルピロリドンとのコポリマー;アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸とアクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド、またはビニルピロリドンとのコポリマー;(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリドとアクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド、またはN-ビニルピロリドンとのコポリマー;および、ジアリルジメチルアンモニウムクロリドとアクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド、またはビニルピロリドンとのコポリマーからなる群から選択される、請求項20に記載の複合材。
【請求項22】
前記高分子電解質ゲルが、架橋されたポリ(アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸)およびその塩、ポリ(アクリル酸)およびその塩、ポリ(メタクリル酸)およびその塩、ポリ(スチレンスルホン酸)およびその塩、ポリ(ビニルスルホン酸)およびその塩、ポリ(アルギン酸)およびその塩、ポリ[(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウム]塩、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウム)塩、ポリ(4-ビニル-N-メチルピリジニウム)塩、ポリ(ビニルベンジル-N-トリメチルアンモニウム)塩、ならびにポリ(エチレンイミン)およびその塩からなる群から選択される、請求項20に記載の複合材。
【請求項23】
前記疎水性ゲルが、エチルアクリレート、n-ブチルアクリレート、プロピルアクリレート、オクチルアクリレート、ドデシルアクリレート、オクタデシルアクリルアミド、ステアリルアクリレート、およびスチレンの架橋されたポリマーまたはコポリマーからなる群から選択される、請求項20に記載の複合材。
【請求項24】
前記中性ゲルが、アクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N-メタクリロイルアクリルアミド、N-メチル-N-ビニルアセトアミド、およびN-ビニルピロリドンの架橋されたポリマーまたはコポリマーからなる群から選択される、請求項20に記載の複合材。
【請求項25】
前記機能性ゲルが、抗体、アミノ酸リガンド、抗原および抗体リガンド、染料リガンド、ならびに金属親和性リガンドの形態をとる官能基を有している、請求項20に記載の複合材。
【請求項26】
前記マクロ多孔質架橋ゲルがマクロモノマーを含んでいる、請求項1〜25のいずれか一項に記載の複合材。
【請求項27】
前記マクロモノマーが、ポリ(エチレングリコール)アクリレートおよびポリ(エチレングリコール)メタクリレートからなる群から選択される、請求項26に記載の複合材。
【請求項28】
前記マクロ多孔質架橋ゲルが多官能マクロモノマーにより架橋されている、請求項1〜27のいずれか一項に記載の複合材。
【請求項29】
前記多官能マクロモノマーが、ポリ(エチレングリコール)ジアクリレートおよびポリ(エチレングリコール)ジメタクリレートからなる群から選択される、請求項28に記載の複合材。
【請求項30】
前記マクロ多孔質架橋ゲルが、N,N'-メチレンビスアクリルアミドで架橋された(3-アクリルアミドプロピル)-トリメチルアンモニウムクロリド(APTAC)とN-(ヒドロキシメチル)アクリルアミドとのコポリマーを含んでいる正荷電ヒドロゲルである、請求項1〜19のいずれか一項に記載の複合材。
【請求項31】
前記マクロ多孔質架橋ゲルが応答性マクロ多孔質架橋ゲルである、請求項1〜30のいずれか一項に記載の複合材。
【請求項32】
前記応答性マクロ多孔質架橋ゲルが:
a) 該ゲル中のマクロ孔の平均サイズが10〜2000nmである安定な崩壊状態、
b) 該ゲル中のマクロ孔の平均サイズが2〜200nmである安定な膨潤状態、または
c) 該ゲル中のマクロ孔の平均サイズが2〜2000nmである多数ある安定な中間状態のひとつ、
にあることができる請求項31に記載の複合材。
【請求項33】
前記応答性マクロ多孔質架橋ゲルが、pH、イオン濃度、温度、光強度、または電気化学電流のうちの少なくともひとつにおける変化に応答性である、請求項31または32に記載の複合材。
【請求項34】
前記応答性マクロ多孔質架橋ゲルが、応答性単量体、中性単量体および架橋剤を含む、請求項31、32、または33に記載の複合材。
【請求項35】
請求項1〜34のいずれか一項に記載の複合材に濾過すべき液体を通すことを含んでなる、サイズ排除濾過方法。
【請求項36】
前記液体が細胞の懸濁液または凝集物の懸濁液である、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
請求項1〜34のいずれか一項に記載の複合材に荷電物質含有液体を通すことを含んでなるDonnan排除分離方法であって、該複合材がそのマクロ多孔質ゲル上に電荷をもっている上記方法。
【請求項38】
請求項1に記載の複合材に生体分子または生体イオン含有液体を通すことを含んでなる、液体からその生体分子または生体イオンを分離吸着する方法であって、該複合材がそのマクロ多孔質ゲル上に生体分子に対して特異的相互作用を示す結合部位をもっている上記方法。
【請求項39】
前記生体分子または生体イオンが、アルブミン、リゾチーム、ウイルス、細胞、ヒト由来および動物由来のγ-グロブリン、ヒト由来および動物由来の免疫グロブリン、組み換えまたは天然由来タンパク質例えば合成または天然由来ポリペプチド、インターロイキン-2およびその受容体、酵素、モノクローナル抗体、トリプシンおよびその阻害物質、シトクロム C、ミオグロブリン、組み換えヒトインターロイキン、組み換え融合タンパク質、核酸由来産物、合成かまたは天然由来のDNA、ならびに合成かまたは天然由来のRNAからなる群から選択される、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記特異的相互作用が静電的相互作用である、請求項38または39に記載の方法。
【請求項41】
前記特異的相互作用が親和的相互作用である、請求項38または39に記載の方法。
【請求項42】
前記特異的相互作用が疎水的相互作用である、請求項38または39に記載の方法。
【請求項43】
請求項1〜34のいずれか一項に記載の複合材に、第1の反応体を含有する液体を通すことを含んでなる固相化学合成の方法であって、第2の反応体が該複合材のマクロ孔中にある上記方法。
【請求項44】
複数の孔が延在している支持体構成部材および該支持体構成部材の孔中に配置されかつ該支持体構成部材の孔を満たしているマクロ多孔質架橋ゲルを含んでなる複合材の調製方法であって、
a) 支持体構成部材の孔の中に、
i) 結合してマクロ多孔質ゲルを形成することができる1種または複数種の単量体と1種または複数種の架橋剤、
または、
ii) 結合してマクロ多孔質ゲルを形成することができる1種または複数種の架橋性ポリマーと1種または複数種の架橋剤、
の溶液または懸濁液を導入すること、
b) 該単量体と該架橋剤、または、該架橋性ポリマーと該架橋剤とを反応させて、該支持体構成部材の孔を満たすマクロ多孔質架橋ゲルを形成させること、
を含んでなる上記調製方法。
【請求項45】
前記架橋剤対単量体のモル比が約5:95〜約70:30である、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
前記架橋剤対単量体のモル比が約10:90〜約50:50である、請求項44に記載の方法。
【請求項47】
前記架橋剤対単量体のモル比が約15:85〜約45:55である、請求項44に記載の方法。
【請求項48】
前記単量体が、アクリルアミド、2-アクリルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド、N-アクリルオキシスクシンイミド、N-アクリロイルトリス(ヒドロキシメチル)メチルアミン、2-アミノエチルメタクリレートヒドロクロリド、N-(3-アミノプロピル)メタクリルアミドヒドロクロリド、ブチルアクリレートおよびメタクリレート、N,N-ジエチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、2-(N,N-ジメチルアミノ)エチルアクリレートおよびメタクリレート、N-[3-(N,N-ジメチルアミノ)プロピル]メタクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、n-ドデシルアクリレート、n-ドデシルメタクリレート、ドデシルメタクリルアミド、エチルメタクリレート、2-(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレートおよびメタクリレート、2,3-ジヒドロキシプロピルアクリレートおよびメタクリレート、グリシジルアクリレートおよびメタクリレート、n-ヘプチルアクリレートおよびメタクリレート、1-ヘキサデシルアクリレートおよびメタクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレートおよびメタクリレート、N-(2-ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド、ヒドロキシプロピルアクリレートおよびメタクリレート、メタクリルアミド、無水メタクリル酸、メタクリルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド、2-(2-メトキシ)エチルアクリレートおよびメタクリレート、オクタデシルアクリルアミド、オクチルアクリルアミド、オクチルメタクリレート、プロピルアクリレートおよびメタクリレート、N-イソ-プロピルアクリルアミド、ステアリルアクリレート、スチレン、4-ビニルピリジン、ビニルスルホン酸、N-ビニル-2-ピロリドン、およびスチレンスルホン酸ナトリウムからなる群から選択され、特に好ましくはジメチルジアリルアンモニウムクロリド、アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸(AMPS)、(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド(APTAC)、アクリルアミド、メタクリル酸(MAA)、アクリル酸(AA)、4-スチレンスルホン酸およびその塩、アクリルアミド、グリシジルメタクリレート、ジアリルアミン、およびジアリルアンモニウムクロリドから選択される、請求項44〜47のいずれか一項に記載の方法。
【請求項49】
前記単量体が、ジメチルジアリルアンモニウムクロリド、アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸(AMPS)、(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド(APTAC)、アクリルアミド、メタクリル酸(MAA)、アクリル酸(AA)、4-スチレンスルホン酸およびその塩、アクリルアミド、ヒドロキシアルキルアクリルアミド、グリシジルメタクリレート、ジアリルアミン、およびジアリルアンモニウムクロリドからなる群から選択される、請求項44〜47のいずれか一項に記載の方法。
【請求項50】
前記1種または複数種の単量体がマクロモノマーである、請求項44〜47のいずれか一項に記載の方法。
【請求項51】
前記マクロモノマーが約200 Daより大きい分子量を有している、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
前記マクロモノマーがポリ(エチレングリコール)アクリレートまたはポリ(エチレングリコール)メタクリレートである、請求項50または51に記載の方法。
【請求項53】
前記架橋剤が、ビスアクリルアミド酢酸、2,2-ビス[4-(2-アクリルオキシエトキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス(4-メタクリルオキシフェニル)プロパン、ブタンジオールジアクリレートおよびジメタクリレート、1,4-ブタンジオールジビニルエーテル、1,4-シクロヘキサンジオールジアクリレートおよびジメタクリレート、1,10-ドデカンジオールジアクリレートおよびジメタクリレート、1,4-ジアクリロイルピペラジン、ジアリルフタレート、2,2-ジメチルプロパンジオールジアクリレートおよびジメタクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレートおよびジメタクリレート、N,N-ドデカメチレンビスアクリルアミド、グリセロールトリメタクリレート、グリセロールトリス(アクリルオキシプロピル)エーテル、N,N'-ヘキサメチレンビスアクリルアミド、N,N'-オクタメチレンビスアクリルアミド、1,5-ペンタンジオールジアクリレートおよびジメタクリレート、1,3-フェニレンジアクリレート、ポリ(エチレングリコール)(n)ジアクリレートおよびジメタクリレート、ポリ(プロピレン)(n)ジアクリレートおよびジメタクリレート、トリエチレングリコールジアクリレートおよびジメタクリレート、トリエチレングリコールジビニルエーテル、トリプロピレングリコールジアクリレートおよびジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ならびにジビニルベンゼンからなる群から選択される、請求項50に記載の方法。
【請求項54】
前記架橋剤が、N,N,-メチレンビスアクリルアミド、ジエチレングリコールジアクリレートおよびジメタクリレート、エチレングリコールジアクリレートおよびジメタクリレート、テトラ(エチレングリコール)ジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、ジビニルベンゼン、トリメチロールプロパントリアクリレート、およびポリ(エチレングリコール)ジアクリレートからなる群から選択される、請求項44〜49のいずれか一項に記載の方法。
【請求項55】
前記架橋剤が多官能マクロモノマーである、請求項44〜49のいずれか一項に記載の方法。
【請求項56】
前記多官能マクロモノマーが約200 Daより大きい分子量を有している、請求項55に記載の方法。
【請求項57】
前記多官能マクロモノマーがポリ(エチレングリコール)ジアクリレートまたはポリ(エチレングリコール)ジメタクリレートである、請求項56に記載の方法。
【請求項58】
前記架橋性ポリマーが、ポリ(エチレンイミン)、ポリ(4-ビニルピリジン)、ポリ(ビニルベンジルクロリド)、ポリ(ジアリルアンモニウムクロリド)、ポリ(グリシジルメタクリレート)、ビニルピリジンとジメチルジアリルアンモニウムクロリドとのコポリマー、および、ビニルピリジン、ジメチルジアリルアンモニウムクロリド、または(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリドとグリシジルメタクリレートとのコポリマーからなる群から選択される、請求項44に記載の方法。
【請求項59】
前記架橋性ポリマーが、ポリ(エチレンイミン)、ポリ(ジアリルアンモニウムクロリド)、およびポリ(グリシジルメタクリレート)からなる群から選択される、請求項44に記載の方法。
【請求項60】
前記架橋剤が、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリ(プロピレングリコール)ジグリシジルエーテル、1,3-ジブロモプロパン、1,4-ジブロモブタン、1,5-ジブロモペンタン、1,6-ジブロモヘキサン、α,α'-ジブロモ-p-キシレン、α,α'-ジクロロ-p-キシレン、1,4-ジブロモ-2-ブテン、ピペラジン、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、1,2-ジアミノエタン、1,3-ジアミノプロパン、1,4-ジアミノブタン、1,5-ジアミノペンタン、1,6-ジアミノヘキサン、1,7-ジアミノヘプタン、1,8-ジアミノオクタンからなる群から選択される、請求項44、58または59に記載の方法。
【請求項61】
マクロ多孔質架橋ゲル形成の前に光開始剤を加える、請求項44〜60のいずれか一項に記載の方法。
【請求項62】
前記光開始剤が、2-ヒドロキシ-1[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン(DMPA)、ベンゾフェノン、ベンゾインおよびベンゾインエーテル、ジアルコシキアセトフェノン、ヒドロキシアルキルフェノン、ならびにα-ヒドロキシメチルベンゾインスルホン酸エステルからなる群から選択される、請求項61に記載の方法。
【請求項63】
マクロ多孔質架橋ゲル形成の前に熱開始剤を加える、請求項44〜60のいずれか一項に記載の方法。
【請求項64】
前記熱開始剤が、1,1'-アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)、アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、およびベンゾイルペルオキシドからなる群から選択される、請求項63に記載の方法。
【請求項65】
マクロ多孔質架橋ゲル形成の前にポロゲンを加える、請求項44〜64のいずれか一項に記載の方法。
【請求項66】
前記ポロゲンが、マクロ多孔質架橋ゲルの貧溶媒である、請求項65に記載の方法。
【請求項67】
前記形成されたマクロ多孔質架橋ゲルが、エポキシ基、酸無水物基、アジド基、反応性ハロゲン基、および酸塩化物基からなる群から選択される反応性官能基を含み、この反応性官能基に後で官能基を反応させる、請求項44〜64のいずれか一項に記載の方法。
【請求項68】
前記形成されたマクロ多孔質架橋ゲルが、その後の反応により四級化されて荷電されたマクロ多孔質架橋ゲルを生じることができる基を含んでいる、請求項44〜66のいずれか一項に記載の方法。
【請求項69】
流体中に溶解または懸濁している2つ以上の異なるサイズの物質種を含有している溶液または懸濁液のクロマトグラフィー濾過方法であって、(a) 該流体を請求項31に記載の複合材に通して、最も小さいサイズの物質種は該複合材を通過するがより大きい物質種は該複合材を通過しないようにする工程、および(b) 環境条件を変えてマクロ多孔質ゲルにおける孔のサイズを大きくして、次に大きいサイズの物質種が該複合材を通過するようにする工程、を含んでなる上記方法。
【請求項70】
工程(b)を繰り返して、より大きい物質種の順次溶離を可能とする、請求項69に記載の方法。
【請求項71】
前記物質種が、タンパク質、細胞、凝集物および粒子から選択される、請求項69または70に記載の方法。
【請求項72】
前記環境条件が、pH、イオン濃度、温度、光強度、および電気化学電流からなる群またはこれらの組み合せから選択される、請求項69、70または71に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19A】
【図19B】
【図19C】
【図20】
【図21】
【図22】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19A】
【図19B】
【図19C】
【図20】
【図21】
【図22】
【公開番号】特開2011−149024(P2011−149024A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−26659(P2011−26659)
【出願日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【分割の表示】特願2006−501402(P2006−501402)の分割
【原出願日】平成16年1月29日(2004.1.29)
【出願人】(510212764)ナトリックス セパレイションズ インコーポレーテッド (3)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−26659(P2011−26659)
【出願日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【分割の表示】特願2006−501402(P2006−501402)の分割
【原出願日】平成16年1月29日(2004.1.29)
【出願人】(510212764)ナトリックス セパレイションズ インコーポレーテッド (3)
【Fターム(参考)】
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