説明

支持枠付回路基板およびその製造方法

【課題】めっき部形成時におけるレジストマスクの形成・剥離が不要であり、めっき漏れを抑制でき、めっき部の厚さのバラつきを低減し、かつ、めっきロスの少ない支持枠付回路基板の提供。
【解決手段】支持枠11の内部開口領域12で回路基板10および支持枠11が一体化している支持枠付回路基板であって、回路基板10は、金属支持基板1と、金属支持基板1上に形成された絶縁層2と、絶縁層2上に形成された配線層3と、配線層3および絶縁層2を覆うカバー層4と、カバー層4に覆われていない配線層3の表面上に形成されためっき部6とを有し、上記支持枠11は、金属支持基板1と、金属支持基板1上に形成された絶縁層2と、絶縁層2上に形成された導体層7と、導体層7上に形成され、カバー層4と同一の材料から構成される保護層8とを有することを特徴とする支持枠付回路基板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、めっき部形成時におけるレジストマスクの形成・剥離が不要であり、めっき漏れを抑制でき、めっき部の厚さのバラつきを低減し、かつ、めっきロスの少ない支持枠付回路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、HDD(ハードディスクドライブ)に用いられる回路基板として、磁気ヘッドスライダ等の素子を実装するサスペンション用基板が知られている。サスペンション用基板は、例えば図9に示すように、ヘッド部側に形成され、素子を実装する素子実装領域101と、テール部側に形成され、外部回路基板との接続を行う外部回路基板接続領域102と、素子実装領域101および外部回路基板接続領域102の間を電気的に接続する配線層103(103a〜103d)と、を有する。
【0003】
サスペンション用基板の製造では、図10に示すように、まず複数のサスペンション用基板110と支持枠111とが一体化しているシート(支持枠付サスペンション用基板)を作製する。その後、サスペンション用基板110を支持枠111から切り離し、個片のサスペンション用基板110を得る。
【0004】
また、サスペンション用基板は、通常、金属支持基板(例えばSUS)、絶縁層(例えばポリイミド樹脂)、配線層(例えばCu)がこの順に積層された基本構造を有する。さらに、配線層の一部には、通常、めっき部が形成される。このめっき部は、例えば、素子や外部回路との接続を行う端子部に形成される。めっき部は、例えば電解めっき法により形成できるが、不要な部分にめっきが形成されることを防ぐために、めっきマスクを用いる必要がある。
【0005】
めっき部の形成方法の一例としては、ドライフィルムレジスト(DFR)を用いたパターンめっきがある。この方法は、DFRをラミネート・露光・現像(場合によっては現像後に熱硬化)することにより、めっきマスクを形成し、めっきを行う方法である。また、めっき部の形成方法の他の例としては、治具を用いたパターンめっき(治具めっき)がある。この方法は、所定のパターンに形成した治具(めっきマスク)を、対象物に張り合わせて、めっきを行う方法である。また、めっき部の形成方法のさらに他の例としては、カバー層を用いたパターンめっきがある。この方法は、配線層を覆うカバー層をめっきマスクとして用いて、めっきを行う方法であり、例えば特許文献1の図4、5に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−310946号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した3つのパターンめっきの方法には、それぞれ以下のような欠点がある。まず、DFRを用いたパターンめっきでは、めっきマスク形成のために、ラミネート工程、露光工程および現像工程等が必要になり、めっき部を形成した後に、めっきマスクを剥離する剥離工程が必要になり、工程数が増加するという問題がある。次に、治具を用いたパターンめっきでは、治具(めっきマスク)と対象物との密着性が低いため、めっき液が漏れやすいという問題がある。次に、カバー層を用いたパターンめっきでは、回路基板を支持する支持枠(上記図10における支持枠111)の表面に、余分なめっきが形成されてしまうので、めっきロスが大きくなり、特に貴金属めっきではコストの増大が顕著になるという問題がある。また、支持枠にめっきが形成されることでめっき部の厚さのバラつきが大きくなってしまうという問題がある。なお、カバー層を用いたパターンめっきに対して、DFRを用いたパターンめっき、または治具を用いたパターンめっきを組み合わせることも可能であるが、前者の場合は工程数が増加するという問題が残り、後者の場合はめっき漏れが生じやすいという問題が残る。
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、めっき部形成時におけるレジストマスクの形成・剥離が不要であり、めっき漏れを抑制でき、めっき部の厚さのバラつきを低減し、かつ、めっきロスの少ない支持枠付回路基板を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明においては、回路基板と、支持枠とを有し、上記支持枠の内部開口領域で上記回路基板および上記支持枠が一体化している支持枠付回路基板であって、上記回路基板は、金属支持基板と、上記金属支持基板上に形成された絶縁層と、上記絶縁層上に形成された配線層と、上記配線層および上記絶縁層を覆うカバー層と、上記カバー層に覆われていない配線層の表面上に形成されためっき部とを有し、上記支持枠は、上記金属支持基板と、上記金属支持基板上に形成された上記絶縁層と、上記絶縁層上に形成された導体層と、上記導体層上に形成され、上記カバー層と同一の材料から構成される保護層とを有することを特徴とする支持枠付回路基板を提供する。
【0010】
本発明によれば、支持枠の導体層上に、カバー層と同一の材料から構成される保護層を設けることにより、めっき部形成時におけるレジストマスクの形成・剥離が不要であり、めっき漏れを抑制でき、めっき部の厚さのバラつきを低減し、かつ、めっきロスの少ない支持枠付回路基板とすることができる。
【0011】
上記発明においては、上記回路基板が、サスペンション用基板であることが好ましい。
【0012】
上記発明においては、上記保護層が、少なくとも上記支持枠の内部開口領域に沿って形成されていることが好ましい。治具めっきとの組み合わせが容易になるからである。
【0013】
上記発明においては、上記カバー層および上記保護層の材料がポリイミド樹脂であることが好ましい。耐薬品性に優れているからである。
【0014】
また、本発明においては、回路基板と、支持枠とを有し、上記支持枠の内部開口領域で上記回路基板および上記支持枠が一体化している支持枠付回路基板の製造方法であって、金属支持基板と、上記金属支持基板上に形成された絶縁層と、上記絶縁層上に形成された配線層および導体層と、を有する積層体を準備する積層体準備工程と、同一の材料を用いて、上記配線層および上記絶縁層を覆うカバー層を形成し、かつ、上記導体層上に保護層を形成するカバー層−保護層形成工程と、上記カバー層に覆われていない配線層の表面上にめっき部を形成するめっき部形成工程と、を有することを特徴とする支持枠付回路基板の製造方法を提供する。
【0015】
本発明によれば、支持枠の導体層上に、カバー層と同一の材料から構成される保護層を設けることにより、めっき部形成時におけるレジストマスクの形成・剥離が不要であり、めっき漏れを抑制でき、めっき部の厚さのバラつきを低減し、かつ、めっきロスの少ない支持枠付回路基板を得ることができる。
【0016】
上記発明においては、上記回路基板が、サスペンション用基板であることが好ましい。
【0017】
上記発明においては、上記保護層を、少なくとも上記支持枠の内部開口領域に沿って形成することが好ましい。治具めっきとの組み合わせが容易になるからである。
【0018】
上記発明においては、上記カバー層および上記保護層の材料がポリイミド樹脂であることが好ましい。耐薬品性に優れているからである。
【発明の効果】
【0019】
本発明の支持枠付回路基板は、めっき部形成時におけるレジストマスクの形成・剥離が不要であり、めっき漏れを抑制でき、めっき部の厚さのバラつきを低減し、かつ、めっきロスが少ないという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の支持枠付回路基板の一例を示す概略平面図である。
【図2】本発明の支持枠付回路基板を説明する模式図である。
【図3】図2(a)からカバー層4および保護層8を除いた概略平面図である。
【図4】治具を用いたパターンめっきを説明する概略断面図である。
【図5】本発明の支持枠付回路基板を説明する概略断面図である。
【図6】本発明の支持枠付回路基板を説明する概略断面図である。
【図7】本発明の支持枠付回路基板の製造方法の一例を示す概略断面図である。
【図8】実施例1および比較例1で得られた支持枠付回路基板のめっき厚の分布を示すグラフである。
【図9】サスペンション用基板を説明する概略平面図である。
【図10】支持枠付サスペンション用基板を説明する概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の支持枠付回路基板、および支持枠付回路基板の製造方法について詳細に説明する。
【0022】
A.支持枠付回路基板
本発明の支持枠付回路基板は、回路基板と、支持枠とを有し、上記支持枠の内部開口領域で上記回路基板および上記支持枠が一体化している支持枠付回路基板であって、上記回路基板は、金属支持基板と、上記金属支持基板上に形成された絶縁層と、上記絶縁層上に形成された配線層と、上記配線層および上記絶縁層を覆うカバー層と、上記カバー層に覆われていない配線層の表面上に形成されためっき部とを有し、上記支持枠は、上記金属支持基板と、上記金属支持基板上に形成された上記絶縁層と、上記絶縁層上に形成された導体層と、上記導体層上に形成され、上記カバー層と同一の材料から構成される保護層とを有することを特徴とするものである。
【0023】
図1は、本発明の支持枠付回路基板の一例を示す概略平面図である。なお、便宜上、カバー層および保護層の記載は省略している。図1に示される支持枠付回路基板20は、複数の回路基板10と支持枠11とを有し、支持枠11の内部開口領域12で、複数の回路基板10と支持枠11とが一体化しているものである。
【0024】
図2(a)は図1における領域Xの拡大図であり、図2(b)は図2(a)のA−A断面図である。図2(a)、(b)に示すように、本発明における回路基板10は、金属支持基板1と、金属支持基板1上に形成された絶縁層2と、絶縁層上に形成された配線層3と、配線層3および絶縁層2を覆うカバー層4と、配線層3の一部である端子部5と、端子部5の表面に形成されためっき部6とを有するものである。また、本発明における支持枠11は、金属支持基板1と、金属支持基板1上に形成された絶縁層2と、絶縁層2上に形成された導体層7と、導体層7上に形成され、カバー層4と同一の材料から構成される保護層8とを有するものである。
【0025】
一方、図3は、図2(a)からカバー層4および保護層8を除いた概略平面図である。図3に示すように、回路基板10の端子部5にめっきを形成するために、端子部5と、支持枠11の導体層7とは電気的に接続されている。導体層7にめっきが形成されることを防ぐためには、導体層7にめっきマスクを形成する必要があり、従来は、DFRや治具を用いていた。これに対して、本発明においては、カバー層と、カバー層と同一の材料から構成される保護層とを、めっきマスクとすることを大きな特徴としている。
【0026】
本発明によれば、支持枠の導体層上に、カバー層と同一の材料から構成される保護層を設けることにより、めっき部形成時におけるレジストマスクの形成・剥離が不要であり、めっき漏れを抑制でき、めっき部の厚さのバラつきを低減し、かつ、めっきロスの少ない支持枠付回路基板とすることができる。
【0027】
本発明の支持枠付回路基板は、従来のパターンめっきに比べて、以下のような利点を有する。上述したように、従来のDFRを用いたパターンめっきでは、めっきマスク形成のために、ラミネート工程、露光工程および現像工程等が必要になり、めっき部を形成した後に、めっきマスクを剥離する剥離工程が必要になり、工程数が増加するという問題がある。これに対して、本発明においては、DFRを使用しないため、ラミネート、露光工程、現像工程および剥離工程が不要になり、工程の簡略化を図ることができる。
【0028】
また、従来のDFRを用いたパターンめっきでは、例えば電解Auめっきでシアン浴を用いた場合、DFRが密着を長時間保持できず、めっき時間に制約がかかるという問題がある。これに対して、本発明においては、保護層の材料として、カバー層と同一の材料を用いることから、従来のDFRに比べて、保護層(めっきマスク)の密着を長時間保持できる。カバー層の材料は、製品を製造する上で、めっき液で劣化しない程度の密着性(耐薬品性)を有することが必要であることから、そのカバー層と同一の材料を用いることで、密着性の高い保護層とすることができる。保護層の密着性を向上させることにより、めっき時間を長くすることが容易となり、低電流密度かつ長時間のめっきを行うことができる。その結果、めっき厚のバラつきを小さくすることができる。
【0029】
また、上述したように、従来の治具を用いたパターンめっきでは、治具(めっきマスク)と対象物との密着性が低いため、めっき液が漏れやすいという問題がある。この問題について図4を用いて説明する。治具を用いたパターンめっきでは、図4に示すように、パターンを形成した治具(めっきマスク)13を、めっきを形成する前の支持枠付回路基板20aに貼り付ける。その状態で、めっき液14を接触させることにより、端子部5にめっきを形成する。治具を用いたパターンめっきでは、支持枠の導体層7と、治具13との密着性が低いため、領域Yにおいて、めっき液が漏れやすく、支持枠の導体層7の端部に不要なめっきを形成してしまうという問題がある。これに対して、本発明においては、保護層の材料としてカバー層と同一の材料を用いることから、従来の治具を用いた場合に比べて、密着性を高くすることができ、めっき漏れを抑制することができる。
【0030】
また、従来の治具を用いたパターンめっきでは、治具自体がパターンの微細化に不向きであるという問題、および治具と対象物との位置合わせ精度が悪いという問題がある。これに対して、本発明においては、保護層の材料としてカバー層と同一の材料を用いることにより、微細化が容易になり、さらに、治具を用いる場合よりも位置合わせ精度を高くすることができる。また、治具めっきと組み合わせて、本発明の支持枠付回路基板を作製する場合、治具形状を簡略化することができるため、治具作製費用を削減できる。
【0031】
また、上述したように、カバー層を用いたパターンめっきでは、回路基板を支持する支持枠の表面に、余分なめっきが形成されてしまうので、めっきロスが大きくなり、特に貴金属めっきではコストの増大が顕著になるという問題がある。これに対して、本発明においては、支持枠の導体層の表面に保護層を形成することで、不要なめっきの形成を防止することができ、めっきロスを小さくすることができる。
【0032】
また、カバー層を用いたパターンめっきでは、支持枠のめっき領域が回路基板のめっき部の面積よりも格段に大きく、かつ、支持枠の配置が均一でないため、個々の回路基板の電流密度が変わり、めっき部の厚さのバラつきが大きくなるという問題がある。これに対して、本発明においては、めっき総面積における、回路基板のめっき部の面積の割合が高くなるため、回路基板のめっき厚のバラつきを小さくすることができる。
【0033】
さらに、本発明においては、支持枠の導体層上に保護層を形成することにより、支持枠付回路基板全体の強度が向上するという利点を有する。また、支持枠の導体層上に保護層を形成することにより、その後の工程において、導体層に由来する異物の侵入、および導体層の溶け出しを抑制することができる。
以下、本発明の支持枠付回路基板について、支持枠付回路基板の部材と、支持枠付回路基板の構成とに分けて説明する。
【0034】
1.支持枠付回路基板の部材
まず、本発明の支持枠付回路基板の部材について説明する。本発明の支持枠付回路基板は、回路基板および支持枠を有するものである。また、回路基板は、金属支持基板、絶縁層、配線層、カバー層およびめっき部を有し、支持枠は、金属支持基板、絶縁層、導体層および保護層を有するものである。
【0035】
回路基板および支持枠における金属支持基板の材料は、回路基板の用途に応じて適宜選択することが好ましい。回路基板がサスペンション用基板である場合、金属支持基板の材料は、ばね性を有する金属であることが好ましい。具体的にはSUS等を挙げることができる。また、金属支持基板の厚さは、その材料の種類により異なるものであるが、例えば10μm〜20μmの範囲内である。
【0036】
回路基板および支持枠における絶縁層は、それぞれ、金属支持基板上に形成されるものである。絶縁層の材料としては、例えばポリイミド樹脂(PI)等を挙げることができる。また、絶縁層の材料は、感光性材料であっても良く、非感光性材料であっても良い。絶縁層の厚さは、例えば5μm〜10μmの範囲内である。
【0037】
回路基板における配線層は、絶縁層上に形成されるものである。配線層の材料としては、例えば金属を挙げることができ、中でも銅(Cu)が好ましい。また、配線層の厚さとしては、例えば5μm〜18μmの範囲内であり、中でも9μm〜12μmの範囲内であることが好ましい。
【0038】
回路基板におけるめっき部は、カバー層に覆われていない配線層の表面上に形成されるものである。本発明においては、磁気ヘッド等の素子や、外部回路との接続を行う端子部にめっき部が形成されていることが好ましい。めっき部の種類は特に限定されるものではないが、例えば、Auめっき、Niめっき、Agめっき、Cuめっき等を挙げることができる。中でも、本発明においては、配線層の表面側から、NiめっきおよびAuめっきが形成されていることが好ましい。めっき部の厚さは、例えば0.1μm〜4.0μmの範囲内である。
【0039】
支持枠における導体層は、絶縁層上に形成されるものである。導体層の材料は、通常、配線層と同一の材料から構成されるものである。導体層の厚さの好ましい範囲は、配線層の厚さの好ましい範囲と同様である。中でも、本発明においては、導体層の厚さと、配線層の厚さとが同じであることが好ましい。
【0040】
回路基板におけるカバー層は、配線層および絶縁層を覆うように形成されるものである。カバー層の材料および厚さは、特に限定されるものではないが、耐めっき性、回路基板の反り防止等の観点から以下のようなものが好ましい。カバー層の材料は例えば、樹脂を挙げることができ、中でもポリイミド樹脂であることが好ましい。また、カバー層の材料は、感光性材料であっても良く、非感光性材料であっても良い。カバー層の厚さは、例えば2μm〜30μmの範囲内であることが好ましく、2μm〜10μmの範囲内であることがより好ましい。回路基板がサスペンション用基板である場合、上記範囲内であれば、フライングハイトコントロールに大きな影響を与えないからである。
【0041】
本発明におけるポリイミド樹脂は、例えば、下記式(1)で示すことができる。
【0042】
【化1】

【0043】
(Rは4価の有機基、Rは2価の有機基、RおよびRは、単一構造でもよく2種以上の組み合わせでもよい。nは1以上の自然数)
【0044】
式(1)において、一般に、Rは、テトラカルボン酸二無水物由来の構造であり、Rはジアミン由来の構造である。
【0045】
テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、ピロメリット酸二無水物、メロファン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,2’,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,6,6’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物を挙げることができる。
【0046】
芳香族のテトラカルボン酸二無水物を用いた場合、耐熱性に優れ、低線熱膨張係数を示すポリイミドとなるというメリットがある。従って、本発明においては、式(1)中のRのうち33モル%以上が、下記式(2)で表わされる構造であることが好ましい。
【0047】
【化2】

【0048】
上記のような構造を有するポリイミド樹脂は、高耐熱、低線熱膨張率を示す。高耐熱、低線熱膨張率の観点からは、式(1)中のRのうち、50モル%以上が式(2)で表わされる構造であることがより好ましく、70モル%以上が式(2)で表わされる構造であることがさらに好ましい。
【0049】
一方、本発明におけるジアミン成分は、1種類のジアミン単独であっても良く、2種類以上のジアミンであっても良い。本発明におけるジアミンは特に限定されるものではない。また、本発明におけるジアミンは、2つ以上の芳香族環が単結合により結合し、2つ以上のアミノ基がそれぞれ別々の芳香族環上に直接又は置換基の一部として結合しているものであっても良い。このようなジアミンとしては、例えば下記式(3)に示すものを挙げることができる。
【0050】
【化3】

【0051】
(aは0または1以上の自然数、アミノ基はベンゼン環同士の結合に対して、メタ位または、パラ位に結合する。)
式(3)で示されるジアミンとしては、具体的にはベンジジン等を挙げることができる。
【0052】
また、本発明においては、式(1)中のRのうち33モル%以上が下記式(4)で表わされる構造であることが好ましい。
【0053】
【化4】

【0054】
(Rは2価の有機基、酸素原子、硫黄原子、又はスルホン基であり、RおよびRは1価の有機基、又はハロゲン原子である。)
【0055】
上記のような構造を有する場合、最終的に得られるポリイミドの耐熱性が向上し、線熱膨張係数が小さくなる。高耐熱、低線熱膨張率の観点からは、式(1)中のRのうち、50モル%以上が式(4)で表わされる構造であることがより好ましく、70モル%以上が式(4)で表わされる構造であることがさらに好ましい。
【0056】
また、ポリイミド樹脂の吸湿膨張係数は、30ppm/%RH以下であることが好ましい。ポリイミド樹脂の熱膨張係数は、15ppm/℃〜30ppm/℃の範囲内であることが好ましい。
【0057】
また、支持枠における保護層は、導体層上に形成され、カバー層と同一の材料から構成されるものである。保護層の厚さの好ましい範囲は、カバー層の厚さの好ましい範囲と同様である。中でも、本発明においては、保護層の厚さと、カバー層の厚さとが同じであることが好ましい。
【0058】
2.支持枠付回路基板の構成
次に、本発明の支持枠付回路基板の構成について説明する。本発明の支持枠付回路基板は、回路基板と支持枠とを有し、支持枠の内部開口領域で回路基板および支持枠が一体化しているものである。本発明においては、図5(a)示すように、支持枠11が一つの内部開口領域12を有するものであっても良く、図5(b)示すように、支持枠11が二以上の内部開口領域12を有するものであっても良い。また、各内部開口領域12には、二以上の回路基板10を有することが好ましい。
【0059】
また、保護層8は、支持枠の導体層にめっきが形成されることを防止するためのものであることから、めっきの形成防止の観点からは、保護層が導体層を覆う面積は大きい方が好ましい。支持枠の表面において、全面積に対する保護層の面積は、特に限定されるものではないが、例えば10%以上であることが好ましく、30%以上であることがより好ましく、50%以上であることがさらに好ましい。一方、本発明においては、給電のため、または、めっき厚のバラつき抑制のために、敢えて保護層から導体層を露出させ、めっき領域の面積、密度を調節しても良い。具体的には、図6(a)に示すように、給電のための導体層露出部15を設けても良く、図6(b)に示すように、めっき厚のバラつきを抑制するための導体層露出部16を設けても良い。なお、図6は、めっき部を形成する前の支持枠付回路基板の概略平面図である。
【0060】
3.支持枠付回路基板
本発明における回路基板は、金属支持基板、絶縁層、配線層、端子部およびめっき部を有するものであれば、その用途は特に限定されるものではない。中でも、本発明における回路基板は、HDDに用いられるサスペンション用基板であることが好ましい。
【0061】
B.支持枠付回路基板の製造方法
次に、本発明の支持枠付回路基板の製造方法について説明する。本発明の支持枠付回路基板の製造方法は、回路基板と、支持枠とを有し、上記支持枠の内部開口領域で上記回路基板および上記支持枠が一体化している支持枠付回路基板の製造方法であって、金属支持基板と、上記金属支持基板上に形成された絶縁層と、上記絶縁層上に形成された配線層および導体層と、を有する積層体を準備する積層体準備工程と、同一の材料を用いて、上記配線層および上記絶縁層を覆うカバー層を形成し、かつ、上記導体層上に保護層を形成するカバー層−保護層形成工程と、上記カバー層に覆われていない配線層の表面上にめっき部を形成するめっき部形成工程と、を有することを特徴とするものである。
【0062】
図7は、本発明の支持枠付回路基板の製造方法の一例を説明する概略断面図である。なお、図7は、上記図2(b)に対応するものである。図7においては、まず、金属支持基板1Xと、金属支持基板1X上に形成された絶縁層2Xと、絶縁層2X上に形成された導体層3Xとを有する積層部材を準備する(図7(a))。次に、金属支持基板1Xおよび導体層3Xの表面に、DFRを用いてレジストパターン17を作製し、レジストパターン17から露出する金属支持基板1Xおよび導体層3Xをウェットエッチングする(図7(b))。これにより、配線層3、端子部5および導体層7を形成する(図7(c))。
【0063】
その後、同一の材料を用いて、配線層3および絶縁層2を覆うカバー層7を形成し、かつ、導体層7上に保護層8を形成する(図7(d))。この際、めっき部を形成する端子部5には、カバー層を形成しないようにする。次に、DFRを用いてレジストパターンを作製し、そのレジストパターンから露出する絶縁層2Xをウェットエッチングし、絶縁層2を形成する(図7(e))。次に、カバー層7から露出する端子部5に電解めっきを行い、めっき部6を形成する(図7(f))。最後に、金属支持基板1を再びウェットエッチングすることにより、支持枠付回路基板20を得る(図7(g))。
【0064】
本発明によれば、支持枠の導体層上に、カバー層と同一の材料から構成される保護層を設けることにより、めっき部形成時におけるレジストマスクの形成・剥離が不要であり、めっき漏れを抑制でき、めっき部の厚さのバラつきを低減し、かつ、めっきロスの少ない支持枠付回路基板を得ることができる。
以下、本発明の支持枠付回路基板の製造方法について、工程ごとに説明する。
【0065】
1.積層体準備工程
本発明における積層体準備工程は、金属支持基板と、上記金属支持基板上に形成された絶縁層と、上記絶縁層上に形成された配線層および導体層と、を有する積層体を準備する工程である。
【0066】
積層体の形成方法は、所望の積層体を得ることができる方法であれば特に限定されるものではない。積層体の形成方法の一例としては、図7に示したように、積層部材を用いる方法を挙げることができる。
【0067】
金属支持基板、絶縁層および導体層を有する積層部材を用いる場合、導体層をエッチングすることにより、回路基板の配線層、および支持枠の導体層を形成する。導体層をエッチングする方法は特に限定されるものでないが、具体的には、ウェットエッチング等を挙げることができる。ウェットエッチングに用いるエッチング液の種類は、導体層の種類に応じて適宜選択することが好ましく、例えば、導体層の材料が銅である場合は、塩化鉄系エッチング液等を用いることができる。また、本発明においては、通常、DFR等を用いてレジストパターンを形成し、そのレジストパターンから露出する導体層をエッチングする。
【0068】
また、図7(g)に示すように端子部5の両面にめっき部6を形成する場合は、めっき部6を形成する前に、端子部5の位置にある金属支持基板1をエッチングしておく必要がある。金属支持基板をエッチングする方法は特に限定されるものでないが、具体的には、ウェットエッチング等を挙げることができる。ウェットエッチングに用いるエッチング液の種類は、金属支持基板の種類に応じて適宜選択することが好ましく、例えば、金属支持基板の材料がSUSである場合は、塩化鉄系エッチング液等を用いることができる。また、本発明においては、通常、DFR等を用いてレジストパターンを形成し、そのレジストパターンから露出する金属支持基板をエッチングする。
【0069】
2.カバー層−保護層形成工程
次に、本発明におけるカバー層−保護層形成工程について説明する。本発明におけるカバー層−保護層形成工程は、同一の材料を用いて、上記配線層および上記絶縁層を覆うカバー層を形成し、かつ、上記導体層上に保護層を形成する工程である。
【0070】
カバー層および保護層の形成方法は、カバー層および保護層の材料の種類によって適宜選択することが好ましい。例えば、カバー層および保護層の材料が感光性材料である場合は、露光・現像によって、所定のパターンを有するカバー層を形成することができる。一方、カバー層および保護層の材料が非感光性材料である場合は、レジストパターンを介したエッチングによって、所定のパターンを有するカバー層を形成することができる。
【0071】
3.めっき部形成工程
次に、本発明におけるめっき部形成工程について説明する。本発明におけるめっき部形成工程は、上記カバー層に覆われていない配線層の表面上にめっき部を形成する工程である。
【0072】
本発明においては、通常、電解めっき法によりめっき部を形成する。めっき部を形成する方法としては、浸漬めっき法、および治具めっき法を挙げることができる。めっき液の種類は、特に限定されるものではなく、めっき部の種類に応じて適宜選択することが好ましい。
【0073】
4.その他
上述した工程の他に、本発明においては、通常、絶縁層をエッチングする絶縁層エッチング工程を有する。この工程は、所望の支持枠付回路基板を得ることができる任意のタイミングで行うことができる。また、絶縁層の加工は、例えばウェットエッチングにより行うことができる。エッチング液の種類は、絶縁層の種類に応じて適宜選択することが好ましく、例えば絶縁層の材料がポリイミド樹脂である場合は、アルカリ系エッチング液等を用いることができる。また、本発明により得られる支持枠付回路基板については、上記「A.支持枠付回路基板」に記載した内容と同様であるので、ここでの記載は省略する。
【0074】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と、実質的に同一の構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなる場合であっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0075】
以下、実施例を用いて、本発明をさらに具体的に説明する。
【0076】
[実施例1]
【0077】
図7に示す方法と同様の方法で、支持枠付回路基板を作製した。厚さ20μmのSUS304である金属支持基板1Xの上に、絶縁層形成材料として第1の非感光性ポリイミドを用い、厚さ10μmの絶縁層2Xを塗工方法にて形成した。さらに、その絶縁層上にシード層となるNi−Cr−Cuをスパッタ工法で約300nmコーティングし、それを導通媒体としCuめっきにて厚さ9μmのCuめっき層である配線層3Xを形成し、3層の積層体を得た(図7(a))。
【0078】
SUS側で位置精度が重要な治具孔と、Cuめっき層側で目的とする配線層を形成できるように、ドライフィルムを用いて同時にパターニングし、パターン状のレジストを得た。その後、塩化第二鉄液を用いてエッチングし、エッチング後レジスト剥膜を行い、配線層3、端子部5、導体層7を得た(図7(b)、(c))。
【0079】
次に、非感光性ポリイミド系の液状カバー層形成材料をダイコーターでコーティングし、乾燥後、レジスト製版し現像と同時にカバー層形成材料をエッチングし、その後、硬化させ、カバー層形成材料(第2の非感光性ポリイミド)からなるカバー層4を、配線層3、端子部5および絶縁層2上に形成し、同時に、カバー層形成材料(第2の非感光性ポリイミド)からなる保護層8を導体層7上に形成した(図7(d))。硬化後のカバー層の膜厚は、配線層上で5μmであった。このようなカバー層および保護層を形成することにより、反りの制御および低剛性化を図り、且つ配線パターン層の保護を図ることができる。
【0080】
なお、ここで上記カバー層を形成するカバー層形成材料(第2の非感光性ポリイミド)の物性値は、吸湿膨張係数が8.0×10−6/%RHであり、熱膨張係数が、17×10−6/℃であった。また、上記絶縁層形成材料(第1の非感光性ポリイミド)の物性値は、吸湿膨張係数が10.7×10−6/%RHで、熱膨張係数が21×10−6/℃であり、上記絶縁層形成材料と、上記カバー層形成材料との物性値の差が小さい材料を用いた。
【0081】
次に、厚さ10μmのポリイミド(絶縁層2X)をレジスト製版し、有機アルカリエッチング液を用いてエッチングし、エッチング後にレジスト剥膜を行いパターン状の絶縁層2を得た(図7(e))。
【0082】
次に、端子部5を酸洗浄した後に、電解Niめっきを行い、めっき部6を得た(図7(f))。なお、電解Niめっき浴には標準的なスルファミン酸Niめっき浴を用い、めっき条件は電流密度を約5.5A/dm、80秒の条件とした。
【0083】
次に、SUSの外形加工を行うため、再度、レジスト製版を行い、SUS側のみエッチングし、エッチング後にレジスト剥膜を行い、評価サンプル(支持枠付回路基板)を得た(図7(g))。
【0084】
[比較例1]
支持枠に保護層を形成しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、支持枠付回路基板を得た。
【0085】
[評価1]
実施例1および比較例1で得られた評価用サンプルのめっき厚のバラつきを評価した。めっき厚の測定は蛍光X線膜厚計により行った。その結果を表1に示す。
【0086】
【表1】

【0087】
なお、表1において、「ピース総面積」=「1つの回路基板のめっき面積(回路基板10内のめっき面積)」×「支持枠11に存在する回路基板の個数」である。表1および図8に示されるように、支持枠の被覆を行った実施例1の支持枠付回路基板では、支持枠の被覆を行わない比較例1の支持枠付回路基板に比べて、めっき厚のバラつきを小さくすることができた。
【符号の説明】
【0088】
1…金属支持基板、 2…絶縁層、 3…配線層、 4…カバー層、 5…端子部、 6…めっき部、 7…導体層、 8…保護層、 10…回路基板、 11…支持枠、 12…内部開口領域、 13…治具(めっきマスク)、 14…めっき液、 15…導体層露出部、 16…導体層露出部、 17…レジストパターン、 20…支持枠付回路基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回路基板と、支持枠とを有し、前記支持枠の内部開口領域で前記回路基板および前記支持枠が一体化している支持枠付回路基板であって、
前記回路基板は、金属支持基板と、前記金属支持基板上に形成された絶縁層と、前記絶縁層上に形成された配線層と、前記配線層および前記絶縁層を覆うカバー層と、前記カバー層に覆われていない配線層の表面上に形成されためっき部とを有し、
前記支持枠は、前記金属支持基板と、前記金属支持基板上に形成された前記絶縁層と、前記絶縁層上に形成された導体層と、前記導体層上に形成され、前記カバー層と同一の材料から構成される保護層とを有することを特徴とする支持枠付回路基板。
【請求項2】
前記回路基板が、サスペンション用基板であることを特徴とする請求項1に記載の支持枠付回路基板。
【請求項3】
前記保護層が、少なくとも前記支持枠の内部開口領域に沿って形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の支持枠付回路基板。
【請求項4】
前記カバー層および前記保護層の材料がポリイミド樹脂であることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれかの請求項に記載の支持枠付回路基板。
【請求項5】
回路基板と、支持枠とを有し、前記支持枠の内部開口領域で前記回路基板および前記支持枠が一体化している支持枠付回路基板の製造方法であって、
金属支持基板と、前記金属支持基板上に形成された絶縁層と、前記絶縁層上に形成された配線層および導体層と、を有する積層体を準備する積層体準備工程と、
同一の材料を用いて、前記配線層および前記絶縁層を覆うカバー層を形成し、かつ、前記導体層上に保護層を形成するカバー層−保護層形成工程と、
前記カバー層に覆われていない配線層の表面上にめっき部を形成するめっき部形成工程と、
を有することを特徴とする支持枠付回路基板の製造方法。
【請求項6】
前記回路基板が、サスペンション用基板であることを特徴とする請求項5に記載の支持枠付回路基板の製造方法。
【請求項7】
前記保護層を、少なくとも前記支持枠の内部開口領域に沿って形成することを特徴とする請求項5または請求項6に記載の支持枠付回路基板の製造方法。
【請求項8】
前記カバー層および前記保護層の材料がポリイミド樹脂であることを特徴とする請求項5から請求項7までのいずれかの請求項に記載の支持枠付回路基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−214024(P2011−214024A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−80764(P2010−80764)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】