説明

支柱固定用の流し込みグラウト材

【課題】 支柱固定用の流し込みグラウト材において、高い引張強度を確保すると共に、流動性を高くしつつ材料分離を生じ難くする。
【解決手段】 平均粒子径が少なくとも10μmである速硬性セメント、乾燥比重が3.0〜4.0g/cmであって、粒子径が0.2〜0.7mmである重量骨材、繊維長が2〜4mmであって、繊維径が35〜55μmである繊維、及び再乳化型粉末樹脂を、所定の割合で混合する。これにより、高い引張強度を確保すると共に、流動性を高くしつつ材料分離が生じ難くい支柱固定用の流し込みグラウト材が得られる

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば金属製手摺の支柱を、床コンクリートに固定するときに用いる支柱固定用の流し込みグラウト材に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばマンション等の集合住宅では、通常各住戸にベランダを備え、このベランダにアルミ製等の金属製手摺を設けている。この金属製手摺は、ベランダの床コンクリートに開けた穴に、手摺を構成する支柱を挿入して、グラウト材で固定する場合が多い。この手摺の支柱を床コンクリートに固定するためのグラウト材としては、従来から、無収縮グラウト材やエポキシ樹脂を混合したグラウト材が使用されている。
【0003】
ところが無収縮グラウト材は、硬化初期の膨張圧力によって、手摺の支柱を埋め込む穴の周囲のコンクリートにひび割れを生じ、また硬度が高いため、繰返し荷重や衝撃荷重に弱いという問題がある。さらに流動性が不足するため、手摺の支柱と穴との狭い隙間に流し込み難く、また可使用時間が短過ぎるという問題もある。エポキシ樹脂を混合したグラウト材は、線膨張係数がコンクリートの5倍以上もあるため、ベランダ等の温度差が大きい環境での使用は好ましくない。また硬化後の目減り(やせ)が大きいため、2回の充填が必要となり、その分手間が掛かるという問題がある。
【0004】
ところでコンクリート構造物の劣化部に充填して補修するポリマーセメントが提案されている(特許文献1等参照。)。このポリマーセメントは、セメント、水、骨材、ポリマー、及び高強力短繊維を含有するものであって、現場での製造が容易で、施工時の作業性を阻害することのない流動性、劣化下地との良好な接着性、及び高い曲げ強度や靭性を備えていると記載されている。そこで手摺の支柱を床コンクリートに固定するためのグラウト材として、上述した無収縮グラウト材やエポキシ樹脂を混合したグラウト材に替えて、このポリマーセメントを使用することが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−105831号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかるに特許文献1に記載のポリマーセメントを、手摺の支柱固定用のグラウト材に使用する場合には、さらに改良すべき課題がある。すなわち特許文献1に記載のポリマーセメントは、上述したようにコンクリート構造物の劣化部に充填して補修するものであるため、その明細書の段落「0002」に記載されているように、吹付けたり塗り付けたり(コテ仕上げ)して充填や補修を行なう。
【0007】
したがって、上述した施工時の作業性を阻害することのない流動性とは、ポリマーセメントを吹付けたり塗り付けたり(コテ仕上げ)して行なう施工方法において、作業性を損なわないような流動性を意味している。また上述した劣化下地との良好な接着性、及び高い曲げ強度と靭性も、コンクリート構造物の劣化部に充填して補修したときの接着性や曲げ強度や靭性が目標になっている。
【0008】
一方、支柱固定用の流し込みグラウト材は、金属製手摺の支柱と、ベランダの床コンクリートに開けた穴との間の狭い隙間に流し込んで、支柱を穴に固定するものであるため、上述した特許文献1等に記載のポリマーセメントとは、施工方法が大きく異なる。すなわちグラウト材を狭い隙間に流し込む施工方法であるため、先細の注ぎ口を有する、じょうろ等の施工具を用いる必要がある。また流し込んだグラウト材が、狭い隙間の隅々まで迅速に行き渡るようにする必要がある。
【0009】
したがって特許文献1等に記載のポリマーセメントの流動性、すなわちコテで塗る等の施工方法において必要とされる流動性では、流動性が足りず、じょうろ等の先細の注ぎ口を介して流し込むために時間が掛かるだけでなく、流し込んだグラウト材を、狭い隙間の隅々までに行き渡らせるまでに、さらに時間が掛かる。このため作業性を大幅に低下させてしまう。
【0010】
さらに手摺をベランダ等に取り付けるときの作業性を向上するためには、支柱を床コンクリートに固定するまでの養生時間を、通常、1日程度に短くすることが求められている。このためグラウト材は、速硬性セメントを使用しており、その可使用時間は、30分前後と短い。したがって、特に手摺をベランダ等に取り付けるときの支柱の数が多いときには、グラウト材の流し込みと充填とに時間が掛かり、可使用時間を越えてしまう場合もある。かかる場合には、グラウト材の製造(水の混練)を複数回に分けて行なう必要があり、極めて作業性が悪くなる。
【0011】
したがって支柱固定用の流し込みグラウト材には、特許文献1等に記載のポリマーセメントより十分高い流動性が必要となる。その一方、グラウト材の流動性を高くするために、混練りの際に加える水量を増やすと、じょうろ等の施工具内や支柱と穴との間の隙間内において、重量が大きい骨材が沈殿して、材料分離が生じるという問題が生じるため、これを防止する必要がある。
【0012】
そこで本発明の第1の目的は、流動性が高く、かつ材料分離が生じにくい支柱固定用のグラウト材を提供することにある。また第2の目的は、ひび割れ抵抗性と、繰返し荷重や衝撃荷重に対する強度とが高く、施工が容易で安全性が高い安価な支柱固定用のグラウト材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決すべく、発明者は、鋭意研究を行なった結果、混合する骨材、繊維、及びセメント等について、新たな特徴を有するものを選択することによって、上記目的を達成できることを見出した。すなわち骨材については、粒子径を小さくすると共に、乾燥比重を大きくすることによって、より高い流動性を確保しつつ、材料分離を回避できることを見出した。また繊維については、繊維をさらに短くすると共に、繊維を太くすることによって、高い引張強度を確保しつつ、流動性をより高めることができることを見出した。速硬性セメントについては、セメントの平均粒子径を大きくすること等によって、さらに流動性を高めることができることを見出した。
【0014】
すなわち骨材については、骨材の粒子径が大きいと粒子も重くなって、グラウト材中で重い骨材が沈殿して、材料分離が生じ易くなる。そこで骨材の粒子を軽くして材料分離を回避すべく、骨材の粒子径を小さくすると、グラウト材の流動に必要な水セメント比が大きくなって、水セメント比を一定にした場合における流動性が、相対的に低下してしまうという問題が生じる。
【0015】
しかるに、ここで骨材の乾燥比重を大きくすると、同じ水セメント(重量)比において、混合する骨材の容積は減少するため、骨材の粒子径を一定とした場合には、骨材の粒子の数が減少し、これに伴って骨材の全粒子の表面積が減少する。このためグラウト材の流動に必要な水量も減少し、水セメント比を小さくすることができる。したがって水セメント比を一定にした場合における流動性を、相対的に高くすることができる。そこで骨材の粒子径を小さくすると共に、乾燥比重を大きくすることによって、より高い流動性を確保しつつ、材料分離を回避することができる。
【0016】
また繊維については、繊維長を短くすると、グラウト材中において繊維が相互に絡まり難くなって、グラウト材の流動性が高くなる。さらに繊維径を太くすると、同じ混合量(容積比率)における繊維の本数が減少して、グラウト材中において繊維が粗となって相互に絡まり難くなり、グラウト材の流動性が高くなる。そこで繊維を短くすると共に、繊維を太くすることによって、高い引張強度を確保しつつ流動性をさらに高めることができる。
【0017】
さらに支柱をグラウト材で固定して手摺を取り付ける工事においては、上述したように、作業性を向上させるために、速硬性セメントを使用する。しかるに市販の速硬性セメントは、混合するセメントの平均粒子径が5.5μm前後と細かいため、水セメント比が高くなって、水セメント比を一定にした場合における流動性が相対的に低くなってしまう。そこで速硬性セメントにおいて、平均粒子径の大きいセメントを使用することによって、水セメント比を低め、水セメント比を一定にした場合における流動性を相対的に高くすることができる。
【0018】
以上により、本発明による支柱固定用の流し込みグラウト材の特徴は、速硬性セメント、重量骨材、繊維、及び再乳化型粉末樹脂を含み、この速硬性セメント、重量骨材、繊維、及び再乳化型粉末樹脂の混合割合は、それぞれ40〜60重量%、40〜60重量%、0.2〜3.0容積%、及び5〜20重量%であり、この重量骨材は、乾燥比重が3.0〜4.0g/cmであって、粒子径が0.2〜0.7mmであることにある。
【0019】
ここで「支柱固定用の流し込みグラウト材」における「支柱」とは、グラウト材によってコンクリートに固定する金属製の全ての支柱を意味し、特に手摺を構成する支柱に限らない。「速硬性セメント」とは、コンクリートの養生期間が短いセメントを意味し、本発明の場合は、養生期間が1日程度のセメントを意味する。
【0020】
「重量骨材」とは、乾燥比重が3.0g/cmを超える骨材を意味し、例えば磁鉄鉱、砂鉄、ガーネット、及び酸化スラグが該当する。なお通常使用される「骨材」は、乾燥比重が3.0g/cm未満(2.5〜2.8g/cm)であって、例えば砂、砂利、及び砕石が該当する。
【0021】
「繊維」としては、例えばアラミド繊維、カーボン繊維、及び高強度ビニロン繊維が該当する。「再乳化型粉末樹脂」とは、水を加えるとエマルジョンとなる粉末樹脂を意味する。
【0022】
「重量骨材」の混合割合を「40〜60重量%」としたのは、40重量%未満であると、流し込みグラウト材の流動性、特に狭い流路における通過性が低くなり過ぎる、すなわち、支柱と穴の間隙に流し込みグラウト材を流し込むためには、細い注ぎ口を有するじょうろ等の施工具が必要になるが、このとき、じょうろ等による流し込みに時間が掛かるからである。また支柱と穴の間隙の隅々まで流し込みグラウト材が行き渡るまでに、さらに時間が掛かるからである。逆に60重量%を超えると、材料分離が生じ易くなるからである。
【0023】
また「重量骨材」の乾燥比重を「3.0〜4.0g/cm」としたのは、「3.0g/cm」未満であると、混合した「重量骨材」の容積が増加して、流動性を確保するための水セメント比も増加するため、流し込みグラウト材の流動性が低くなり過ぎるからである。逆に「4.0g/cm」を超えると、「重量骨材」の粒子が重くなり過ぎて、流し込みグラウト材中で骨材が沈殿して材料分離が生じ易くなるからである。
【0024】
また「重量骨材」の粒子径を「0.2〜0.7mm」としたのは、「0.2mm」未満であると、上述したように流動性を確保するための水セメント比も増加するため、流し込みグラウト材の流動性が低くなり過ぎるからである。逆に「0.7mm」を超えると、「重量骨材」の粒子が重くなって、流し込みグラウト材中で骨材が沈殿して材料分離が生じ易くなるからである。
【0025】
「繊維」の混合割合を「0.2〜3.0容積%」としたのは、「0.2容積%」未満であると、流し込みグラウトの強度が不足するからであり、逆に「3.0容積%」を超えると、混合した「繊維」の相互の絡み合いによって、流動性が低くなり過ぎるからである。
【0026】
「再乳化型粉末樹脂」の混合割合を「5〜20重量%」としたのは、「5重量%」未満では、ひび割れ抵抗性、耐衝撃性及び引抜抵抗性が、不足するからであり、逆に「20重量%」を超えると、流動性及び圧縮強度が不足するからである。
【0027】
さて上述した繊維は、その繊維長が2〜4mmであって、その繊維径が35〜55μmであることが望ましい。上述したように、強度を確保しつつ流動性を向上するためである。ここで「繊維長が2〜4mm」としたのは、「2mm」未満であると、流し込みグラウト材の強度が不足するからであり、逆に「4mm」を超えると、繊維が相互に絡み易くなって、流し込みグラウト材の流動性が低下し過ぎるからである。
【0028】
また「繊維径が35〜55μm」としたのは、「35μm」未満であると、同一の混合割合のときの繊維の本数が多すぎて、繊維が相互に絡み易くなり、流し込みグラウト材の流動性が低下し過ぎるからである。逆に「55μm」を超えると、同一の混合割合のときの繊維の本数が少なすぎて、流し込みグラウト材の強度が不足するからである。
【0029】
また上記速硬性セメントの平均粒子径は、少なくとも10μmであることが望ましく、10μm〜12μmであることがより望ましい。ここで「平均粒子径は、少なくとも10μm」としたのは、「10μm」未満であると、上述したように、水セメント比が高くなりすぎて、水セメント比を一定にした場合における流動性が相対的に低くなってしまうからである。
【0030】
上述した流し込みグラウト材は、粉末状態の混合物であるため、使用に際しては、水を加えて混練する。この加える水の量は、上述した粉末状態の混合物に対して15〜25重量%、すなわち粉末状態の混合物1重量部に対して、加える水の量が0.15〜0.25重量部であることが望ましい。15重量%より少ないと、流し込みが困難となり、25重量%より多いと、材料分離を生じたり、ひび割れを生じたりし易くなるからである。
【発明の効果】
【0031】
混合する骨材、繊維、及びセメント等について、新たな特性を有するものと、それらの混合割合とを選択することによって、支柱固定用の流し込みグラウト材において、材料分離を回避しつつ流動性を高めることができる。また同時に、ひび割れ抵抗性と繰返し荷重や衝撃荷重に対する強度を高めると共に、施工を容易かつ安全にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】手摺の支柱をベランダ等の床コンクリートに設けた穴に挿入した状態を示す一部斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
初めに本発明による支柱固定用の流し込みグラウト材について、その製造方法の1例を説明し、次いで、この流し込みグラウト材によって、アルミ合金製の手摺の支柱を、ベランダ等の床コンクリートに設けた穴に固定する方法の1例を説明する。
【0034】
さて本発明による支柱固定用の流し込みグラウト材は、速硬性セメント、酸化スラグからなる重量骨材、高強度ビニロン繊維からなる繊維、及び再乳化型粉末樹脂を混合して製造する。それぞれの混合割合は、速硬性セメントを45重量%、重量骨材を45重量%、繊維を2.5容積%、及び再乳化型粉末樹脂を9重量%とする。
【0035】
上記重量骨材の乾燥比重は、3.8g/cmであって、その粒子径は、0.5mmである。また上記繊維は、その繊維長が2mmであって、繊維径が50μmである。なお重量骨材の粒子径は、JIS A 1102による「骨材のふるい分け試験方法」によって測定できる。
【0036】
なお速硬性セメントは、普通のポルトランドセメントまた早強ポルトランドセメント(例えば住友大阪セメント株式会社製の普通のポルトランドセメントまた早強ポルトランドセメント)に、急硬性混和材(例えば電気化学株式会社製の「ビフォーム」)を混合したものであって、その混合割合は、ポルトランドセメント
75〜85重量%、急硬性混和材15〜25重量%とする。また速硬性セメントの平均粒径は11μmとする。なお速硬性セメントの平均粒子径は、レーザー回析式粒度分布測定装置を使用して測定できる。
【0037】
以上のように各成分を混合することによって、まだ水を加えていない状態の流し込みグラウト材の素材を製造する。
【0038】
次に上述した流し込みグラウト材によって、アルミ合金製の手摺の支柱を、ベランダ等のコンクリート床コンクリートに設けた穴に固定する方法を説明する。図1に、アルミ合金製の手摺の支柱を、ベランダ等の床コンクリートに設けた穴に挿入した状態を示す。流し込みグラウト材は、先の細い注ぎ口を備えたじょうろ等の施工具を使用して、支柱と穴との間の間隙に流し込む。以下詳細に説明する。
【0039】
まずコンクリート床コンクリートに設けた穴の水抜き及び清掃を行なう。次にコンクリートと流し込みグラウト材との結合性を向上させるために、吸水調整剤(例えば日本スタッコ株式会社の製品「スタッコプライマー#3」を水で2倍に希釈した溶液)を、刷毛等で穴の内面に塗布して乾燥させる。なお流し込みグラウト材の充填までに日数がある場合には、雨や埃等が浸入しないように、テープ等によって穴をカバーしておくとよい。次にコンクリート床コンクリートに設けた穴に、図1に示すように、手摺の支柱を挿入する。
【0040】
次に流し込みグラウト材を準備する。すなわち例えば、上述した流し込みグラウト材の素材10kgを容器に入れて、これに清水1.70リットルを撹拌しつつ徐々に加えて、ミキサー等で2分間程度練り混ぜる。なお清水は、周囲温度に併せて可使用期間を調整するために、1.5リットル〜1.75リットルの間で調整するが、周囲温度が25℃以上の夏期等においては、可使用期間を確保するために、清水を2.5リットルまで増加してもよい。
【0041】
練り混ぜて完成した流し込みグラウト材を、先細の注ぎ口を有するじょうろ等に入れ、この先細の注ぎ口を、上述した支柱と穴との間隙に流し込む。なお、この流し込みグラウト材は流動性が高いため、支柱と穴との間隙に一個所から流し込めば、間隙全体に速やかに行き渡る。なお間隙に流し込んだ流し込みグラウト材は、数時間でほぼ固まり、1日養生すれば、仮止め用の治具等を取外して、手摺取り付け作業の次の段階に取り掛かることができる。
【0042】
上述した支柱固定用の流し込みグラウト材について、流動性を確認し、直接引張強度、ひび割れ抵抗性、及び耐衝撃性を確認した。以下詳述する。
【実施例1】
【0043】
上述した支柱固定用の流し込みグラウト材について、次のように流動性を確認した。
(1) 供試体
上述した流し込みグラウト材の素材10kgに、1.65リットル、1.70リットル、及び1.75リットルの水を練り混ぜた3種の流し込みグラウト材を生成した。
(2) 試験方法
(イ) フロー値(mm)
JASS-15M-103(セルフレベリング材の品質基準)に準拠して行なった。すなわち塩化ビニール製の平板に、内径50mm、高さ51mmの塩化ビニール製のパイプ(容積100ml)を置き、その中に練り混ぜた流し込みグラウト材を充填した後に、パイプを引き上げる。塩化ビニール製の平板上において、流し込みグラウト材の広がりが静止した後に、その平均直径を計測した。
(ロ) 流下時間(秒)
JSCE-F521-1999(P漏斗による方法)に準拠して行なった。すなわち内径13mmで長さ38mmの流出管を先端に有し、上端内径178mmで高さ192mmの円錐状の漏斗(容積1725ml)に、練り混ぜた流し込みグラウト材を充填した後に流出管を開き、流し込みグラウト材の流出が初めて途切れるまでの秒数を計測した。
(3) 評価基準
(イ) フロー値(mm):180mm〜240mm
180mm未満では、自己充填性が足りず、240mmを超えると、材料分離を生じるからである。
(ロ) 流下時間(秒):20秒〜60秒
20秒未満では、材料分離を生じ、60秒を超えると、流し込みに時間が掛かりすぎるからである。
(4) 試験結果
周囲温度5℃(相対湿度40%)、20℃(相対湿度60%)、及び30℃(相対湿度50%)の条件にて計測した結果を、表1に示す。この表1に示すように、水の練り混ぜ量が多いほど、流動性が良くなって、フロー値(mm)が増加して流下時間(秒)が短くなるが、いずれも上述した評価基準を満足した。
【0044】
【表1】

【実施例2】
【0045】
上述した支柱固定用の流し込みグラウト材について、次のように直接引張強度を確認した。なお比較のため、従来の無収縮モルタルについても、直接引張強度を確認した。
(1) 供試体
JIS A 1132-2006(コンクリートの強度試験用供試体の作り方)に準拠して、材齢7日と28日との2種類の供試体(直径50mm、長さ100mm)を作成した。
(2) 試験方法
株式会社島津製作所製の万能試験機(オートグラフ AG-100kNG)を使用し、上記供試体の両端を引っ張り、破断した時の荷重を、供試体の断面積で除した値(N/mm)を計測した。
(3) 評価基準:直接引張強度が3N/mm以上。
3N/mm未満では、水平荷重試験(財団法人ベターリビングの「優良住宅部品性能試験方法書の墜落防止手摺 BLT SR-2008ユニットの水平荷重試験(1) 床支持」)において、2200N/mの水平荷重を掛けたときに、支柱周りの流し込みグラウト材にひび割れが発生する恐れがあり、また衝撃荷重試験(日本建築防災協会の「ガラスを用いた開口部の安全設計指針」)において、衝撃回数が1回で、支柱周りの流し込みグラウト材にひび割れが発生する恐れがあるからである。
(4) 試験結果
試験結果を表2に示す。この表2に示すように、材齢7日と28日との2種類の供試体共に、評価基準である直接引張強度:3N/mm以上を満足した。なお従来の無収縮モルタルの1、7倍以上の直接引張強度を有することが確認できた。
【0046】
【表2】

【実施例3】
【0047】
上述した支柱固定用の流し込みグラウト材について、次のようにひび割れ抵抗性を確認した。
(1) 供試体
実際に使用されているコンクリート床コンクリートの構造に基づいて、鉄筋コンクリート基板を作成して、矩形断面が60mm
X 50mm、深さが110mmの穴を形成した。この穴に、矩形断面が40mm X 20mm、長さが200mmのアルミ合金製の支柱を挿入し、支柱と穴との隙間に流し込みグラウト材を流し込んで、穴の開口面から10mm下がった位置まで充填した。周囲温度20℃、相対湿度60%にて、7日間養生した。
(2) 試験方法
上記供試体を20℃の水中に12時間浸漬、次いで−20℃の雰囲気において12時間冷却、次いで70℃の雰囲気において12時間加熱する工程を1サイクルとして、このサイクルを15回繰り返した。
(3) 評価基準
15回のサイクルで、流し込みグラウト材や穴周囲のセメントに、ひび割れが生じないこと。
(4) 試験結果
15回のサイクルにおいても、流し込みグラウト材や穴周囲のセメントに、ひび割れが生じないことが確認できた。
【実施例4】
【0048】
上述した支柱固定用の流し込みグラウト材について、次のように耐衝撃性を確認した。
(1) 供試体
上述した実施例3と同様にして、流し込みグラウト材でコンクリート基板に高さ1100mmの支柱を固定した。
(2) 試験方法
日本建築防災協会「ガラスを用いた開口部の安全設計指針」に準拠して、先端に重さ45kの錘を付けた長さ2mの振り子を、支柱の真上に位置する回転支点からぶら下げ、支柱高さの中央位置にぶつける。ここで錘は、支柱高さの中央位置から75cmだけ高い位置より振り下ろす。
(3) 評価基準
最大5回まで衝撃を加え、各衝撃毎に流し込みグラウト材や穴周囲のセメントに、ひび割れが生じないこと。
(4) 試験結果
5回まで衝撃のいずれにおいても、流し込みグラウト材や穴周囲のセメントに、ひび割れが生じないことが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0049】
材料分離を回避しつつ高い流動性を備えると共に、引張り強度が高い支柱固定用の流し込みグラウト材を安価に提供できるため、住宅に関する産業に広く利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
速硬性セメント、重量骨材、繊維、及び再乳化型粉末樹脂を含み、
上記速硬性セメント、重量骨材、繊維、及び再乳化型粉末樹脂の混合割合は、それぞれ40〜60重量%、40〜60重量%、0.2〜3.0容積%、及び5〜20重量%であって、
上記重量骨材は、乾燥比重が3.0〜4.0g/cmであって、粒子径が0.2〜0.7mmである
ことを特徴とする支柱固定用の流し込みグラウト材。
【請求項2】
上記繊維は、繊維長が2〜4mmであって、繊維径が35〜55μmである
ことを特徴とする請求項1に記載の支柱固定用の流し込みグラウト材。
【請求項3】
上記速硬性セメントの平均粒子径は、少なくとも10μmである
ことを特徴とする請求項1または2に記載の支柱固定用の流し込みグラウト材。
【請求項4】
上記速硬性セメント、重量骨材、繊維、及び再乳化型粉末樹脂の混合物に対して、更に15〜25重量%の水を加えて混合する
ことを特徴とする請求項1ないし3にいずれかに記載の支柱固定用の流し込みグラウト材。

【図1】
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【公開番号】特開2012−197196(P2012−197196A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−62026(P2011−62026)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(000150615)株式会社長谷工コーポレーション (94)
【出願人】(392002480)日本スタッコ株式会社 (5)
【Fターム(参考)】