支柱構造体及び防護柵
【課題】斜面に起伏があっても、防護ネットの受面の起立角度と柵高を一定に保つことができて、支柱構造体が定常的な減衰性能を発揮する。
【解決手段】軸力吸収体20を複数の弾発杆21で構成し、変形誘導体30を剛性材で構成し、変形誘導体30に作用する軸力を、連結材12、13、14を介して軸力吸収体20へ誘導するように構成する。
【解決手段】軸力吸収体20を複数の弾発杆21で構成し、変形誘導体30を剛性材で構成し、変形誘導体30に作用する軸力を、連結材12、13、14を介して軸力吸収体20へ誘導するように構成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は落石、崩落土砂、雪崩等の動的荷重または積雪圧等の静的荷重(以下「エネルギー」という)の吸収に好適なエネルギー吸収技術に関し、より詳細にはエネルギーを効果的に吸収できる支柱構造体及び防護柵に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にこの種の防護柵における支柱は、曲げと軸力に対抗するため鋼材やコンクリート充填鋼管等の剛性体で形成しているが、従来の支柱は重たく山岳地の設置現場への搬入が困難なだけでなく、現場での据付け作業も重機に頼っており、施工性に問題がある。
【0003】
また特許文献1には、高剛性の主支柱、高剛性の斜め支柱及び複数の連結ロープを組合せた支柱構造体と、これを用いた雪崩防護柵が開示されている。
この支柱構造体は、両支柱をX形に交差させ、斜め支柱の基端を斜面にグラウンドアンカーで固定し、両支柱の自由端間と基端間を夫々連結ロープで接続して構成する。防護ネットはその上下辺を主支柱の上部と斜め支柱の下部に固定する。
防護ネットに作用する雪荷重を、両支柱の圧縮耐力と連結ロープの張力で対抗する構造になっている。
【0004】
出願人は特許文献1に開示された防護柵が内包する問題点を解決するため、主支柱と斜め支柱を可撓性を有する複数の棒材で構成した支柱構造体と、これを用いた防護柵を先に提案した(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−63831号公報
【特許文献2】特開2010−255648号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
先の特許文献1に記載された防護柵は、以下のような問題がある。
(1)主支柱及び斜め支柱は、高い圧縮強度を有するものの、荷重の吸収機能を有しない。
そのため、主支柱及び斜め支柱に想定を超えた軸力が作用すると、支柱が突発的に座屈破壊して柵機能を喪失する。
(2)防護柵に対し雪崩や落石等のように高速で、或いは局所的に荷重が作用すると、各支柱に対して圧縮だけでなく、曲げや捩じりも一緒に加わる。
支柱構造体は曲げや捩じりに対して対応できないため支柱構造体の安定バランスが崩れ易い。バランスが崩れると支柱構造体が突発的に破壊する。
(3)支柱構造体を構成する主支柱及び斜め支柱の基端は、斜面傾斜方向に沿った回動を許容するものの、斜面傾斜方向と直交する方向への回動が拘束されている。
そのため、支柱構造体が斜面の傾斜と直交方向に大きな力が作用すると、両支柱の基端の軸支箇所が破壊する。
(4)複数の支柱構造体のうち一部の支柱が上記した(1)〜(3)の要因で破壊されると、支柱構造体の破壊が連鎖的に広がり、防護柵全体としての機能を失ってしまう。
(5)破壊された支柱構造体を復旧するには、支柱構造体一式を新たに交換する必要があり、その交換に多くの時間、労力及びコストを要する。
【0007】
特許文献2に記載された防護柵は、以下のような改善すべき点がある。
(1)主支柱と斜め支柱に適正に荷重分散をさせるためには、各支柱の弾性と硬度のバランス、各支柱の交差角度、連結ロープの長さ、および両支柱下部の据付距離を設計モデル通りに設置することが重要となる。
山の斜面は平らな一定勾配ではなく多数の起伏があるため、支柱構造体を上記した設計モデル通りに設置することが難しい。
そのため、設計モデルを犠牲にして個々の設置現場の起伏に対応させて支柱構造体を設置すると、両支柱の基端間の据付距離や防護ネットの起立角度が不均一となり、特に防護ネットが大きく傾斜した箇所では柵高が低くなるといった不都合がある。
(2)支柱構造体は主支柱と斜め支柱による減衰作用の分担割合を決めた構造になっている。
上記したように、斜面の起伏の影響を受けて両支柱の交差角度や据付間隔が変動すると、各支柱構造体の単位で減衰作用の分担割合が変化し、各支柱構造体の減衰性能を定常的に算定することが難い。
殊に弾性変形する各支柱の減衰バランスが崩れると、本来の減衰性能を発揮することができないだけでなく、一回目の受撃時に柵高が極端に低く変形して、以降の受撃に対応できない場合もある。
(3)支柱構造体の寸法バランスはある程度余裕を持たせて設計しているが、)支柱構造体の寸法バランスが許容値を超えると、エネルギー吸収性能に影響を及ぼして、安定した性能を発揮できない。
(4)斜面の起伏の影響を回避して支柱構造体の寸法バランスを取るには、支柱構造体を構成する各資材の寸法を個別に設計する必要があり、資材の加工や組立て等が複雑となる。
(5)支柱構造体を組み立てる際、両支柱が撓むために組み立てがし難い。
【0008】
本発明は以上の点に鑑みて成されたもので、その目的とするところは少なくとも何れか一つの支柱構造体及び衝撃吸収柵を提供することにある。
<1>支柱構造体が定常的に減衰性能を発揮できること。
<2>斜面の起伏が変化している現場であっても、防護ネットの受面の起立角度と柵高を一定に保つこと。
<3>支柱構造体の破壊を回避しつつ、防護ネットの受面に作用するエネルギーを効率的に吸収すること。
<4>支柱構造体に曲げやねじりが加わっても破壊しないこと。
<5>積雪圧等の静的荷重に対してだけでなく、落石、雪崩等の動的荷重に対しても対応性に優れていること。
<6>支柱構造体が自己復元性を有し、衝撃吸収柵の修復性に優れること。
<7>衝撃吸収柵の資材の軽量化に伴う施工性の改善とコストの低減を図ること。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願の第1発明は、基端を固定して傾倒自在に立設した軸力吸収体と、前記軸力吸収体と交差して配置するとともに、基端を固定して傾倒自在に立設した変形誘導体と、前記軸力吸収体と変形誘導体の各自由端との間、および前記軸力吸収体と変形誘導体の各自由端と斜面との間をそれぞれ連結した連結材とを具備した衝撃吸収柵の支柱構造体であって、前記軸力吸収体を、両端を拘束した複数の弾発杆で構成し、前記変形誘導体を剛性材で構成し、前記変形誘導体に作用する軸力を、前記連結材を介して前記軸力吸収体へ誘導するように構成したことを特徴とする。
本願の第2発明は、前記第1発明において、前記連結材の一部に長さ調整具を介装して連結材の長さを調整可能に構成したことを特徴とする。
本願の第3発明は、前記第1または第2発明において、複数の弾発杆の自由端の間を結束板で連結し、該結束板の設置位置を弾発杆に沿って変位可能に構成したことを特徴とする。
本願の第4発明は、前記第2発明において、弾発杆に螺合したナットにより前記結束板の設置位置を弾発杆に沿って変位可能に構成したことを特徴とする。
本願の第5発明は、前記第1乃至第4発明の何れかにおいて、前記軸力吸収体と変形誘導体の基端をそれぞれ固定するアンカーを具備することを特徴とする。
【0010】
本願の第6発明は、間隔を隔てて立設した複数の支柱構造体と、支柱構造体の間に張設した防護ネットとを具備した衝撃吸収柵であって、前記第1乃至第5発明の何れかの支柱構造体を使用し、軸力吸収体の基端を谷側斜面に固定するとともに、該軸力吸収体と交差して配置した変形誘導体の基端を山側斜面に固定して前記支柱構造体を立設し、隣り合う前記各支柱構造体を構成する軸力吸収体の自由端に防護ネットの上辺を取り付けて山側斜面に配置したことを特徴とする。
本願の第7発明は、前記第6発明において、防護ネットに作用するエネルギーを、交差する軸力吸収体と変形誘導体とに分散させて、該変形誘導体に生ずる軸力を軸力吸収体へ伝達可能なように、前記軸力吸収体と変形誘導体の各自由端との間、および前記軸力吸収体と変形誘導体の各自由端と斜面との間をそれぞれ連結材で連結したことを特徴とする。
本願の第8発明は、前記第6または第7発明において、防護ネットの下辺を前記各支柱構造体を構成する変形誘導体の基端に取り付けたことを特徴とする。
本願の第9発明は、前記第6または第7発明において、防護ネットの下辺を山側斜面に固定したことを特徴とする。
【0011】
本発明における「エネルギー」とは、落石や雪崩等の動的荷重だけでなく、積雪圧等の静的荷重による運動エネルギー及び位置エネルギーを含む。
【0012】
本発明における「弾性変形」とは、軸力吸収体の長手方向への圧縮変形や、該長手方向を軸心とするねじれ変形、その他あらゆる方向への撓み変形を含む。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、下記の効果のうち少なくとも何れか一つを得ることができる。
(1)柔構造の軸力吸収体と剛構造の変形誘導体とを組合せてなる支柱構造体は、エネルギーを伝達する部材(変形誘導体等)とエネルギーを吸収する部材(軸力吸収体)の役割が明確である。
したがって、各支柱構造体は斜面の起伏の影響があっても定常的に減衰性能を発揮することができる。
(2)軸力吸収体と変形誘導体の役割が明確であるため、支柱構造体全体としてのエネルギー吸収量の算定が正確に行えるとともに、役割に応じた部材の選定もし易くなる。
(3)斜面に起伏があっても、連結材に介装した長さ調整具で連結材の全長を調整することで、防護ネットの受面の起立角度と柵高を一定に保つことができる。
(4)軸力吸収体の自由端において、防護ネットの上辺の垂下高さを任意に調整することで、軸力吸収体と変形誘導体の据付距離を一定に保ちながら、防護ネットの受面の起立角度と柵高をさらに正確に保つことができる。
(5)軸力吸収体の直立性を維持したまま弾性変形させて吸収を許容して、防護ネットの受面に作用するエネルギーを効率的に吸収することができる。
(6)軸力吸収体がクッション機能を発揮するため、変形誘導体および複数の連結材の破壊を回避できるから、衝撃吸収柵の突発的な機能喪失を回避できる。
(7)支柱構造体の構成部材を簡素化できて、製作コストを大幅に削減できる。
(8)軸力吸収体を複数の弾発杆で構成することで、あらゆる方向に対して弾性変形が可能である。そのため、予期せぬ方向からの荷重に起因する変形や、ねじれに対しても弾発杆の基端に過度の応力が集中せずに柔軟に変形に追従することができる。
(9)支柱構造体を構成する軸力吸収体と変形誘導体等の軽量化が図れるので、支柱構造体の現場への運搬性及び組立性がよくなり、施工性の改善とコストの低減を図ることができる。
(10)支柱構造体が自己復元性を有するから、衝撃吸収柵の修復性に優れる。
(11)積雪等の静的荷重だけでなく、落石・雪崩等の動的荷重に対しても、十分なエネルギー吸収性能を発揮できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る一部を省略した衝撃吸収柵の斜視図
【図2】実施例1に係る支柱構造体の側面図
【図3】斜面谷側から見た支柱構造体のモデル図
【図4】軸力吸収体の基端の拡大図
【図5】変形誘導体の基端の拡大図
【図6】理想的な支柱構造体のモデル図
【図7】起伏がある斜面に支柱構造体を設置する方法の説明図で、(A)は後下がりの斜面に設置する場合の支柱構造体のモデル図、(B)は後上がり斜面に設置する場合の支柱構造体のモデル図
【図8】余長部を備えた理想的な支柱構造体のモデル図
【図9】起伏がある斜面に支柱構造体を設置する方法の説明図で、(A)は後下がりの斜面に設置する場合の支柱構造体のモデル図、(B)は後上がりの斜面に設置する場合の支柱構造体のモデル図
【図10】エネルギー作用時における衝撃吸収柵のモデル図
【図11】実施例3に係る支柱構造体の側面図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0016】
<1>衝撃吸収柵
図1に本発明の衝撃吸収柵の斜視図を示し、図2に支柱構造体10の側面図を示し、図3に斜面谷側から見た支柱構造体10のモデル図を示す。
【0017】
本発明に係る衝撃吸収柵は、斜面11等に間隔を隔てて設けた複数の支柱構造体10と、支柱構造体10の間に張設した防護ネット40とにより構成する。
尚、図1において符号18は端部の支柱構造体10と斜面11との間に張設した単数または複数の控えロープである。
【0018】
<2>支柱構造体
支柱構造体10は受面41で受けたエネルギーを吸収する機能と支柱機能を併有する構造体で、基端を谷側斜面に固定して斜面11に回動自在に立設した軸力吸収体20と、軸力吸収体20と交差して配置し、基端を山側斜面に固定して斜面11に回動自在に立設した変形誘導体30と、軸力吸収体20と変形誘導体30の各自由端との間、および軸力吸収体20と変形誘導体30の各自由端と基端(斜面11)との間をそれぞれ連結した非伸縮性の第一〜第三の連結材12〜14とを具備する。
【0019】
軸力吸収体20と変形誘導体30の交差角度と、各連結材12〜14の全長は、受面41に作用するエネルギーを軸力吸収体30と各連結材12〜14に分散して伝達しつつ、軸力吸収体20に軸力として作用するように関係付けている。
以降に支柱構造体10の詳細について詳述する。
【0020】
<2.1>軸力吸収体
軸力吸収体20は、受面41に作用するエネルギーを圧縮変形により吸収するダンパー機能を有した弾性構造体であり、両端部を収束した複数の弾発杆21からなる。
本例では軸力吸収体20を二本の弾発杆21,21で構成する場合について説明するが、弾発杆21の本数は適宜でよく、一本、又は三本以上であってもよい。
弾発杆21の素材は、例えば、棒鋼、バネ鋼等の金属材料や樹脂等の弾性材料を適用できる。
【0021】
弾発杆21の周面におねじが形成されていて、防護ネット40の上辺の吊り高さを調整できるようになっている。
【0022】
<2.1.1>軸力吸収体の基端側の構造
図2〜4に示すように、弾発杆21の基端は支軸22により接地板23の支持ブラケット24に回動自在に枢支され、接地板23にアンカー25を打設して斜面11に固定されている。
【0023】
<2.1.2>軸力吸収体の自由端の構造
図2,3に示すように、各弾発杆21の自由端には、上下一対のナット26,26が螺着してある。
複数の弾発杆21の自由端の間は、上下一対の結束板27,27を貫挿して配置して、両弾発杆21,21の自由端を分離不能に結束している。
【0024】
各弾発杆21の上部に外装したスペーサ管28と結束板27,27は弾発杆21に対し拘束を維持したままスライド移動が可能であり、上下一対のナット26,26の螺着位置を上下することで結束板27,27の設置位置を弾発杆21に沿って任意の高さに調整することができる。
尚、各結束板27,27と管28はそれぞれ別体であるが、下位の結束板27と管28は一体構造であってもよい。
【0025】
各弾発杆21の上部の管28には、防護ネット40を垂下するための上ロープ15の端部が分離不能に係留し、結束板27には第一および第三の連結材12,14の各上端が分離不能に係留している。
【0026】
防護ネット40の上辺の吊り高さを調整する手段は、ナット26,26に限定されるものではなく、ピン止めや溶接等のように弾発杆21の任意の位置で結束板27を位置決めできる公知の位置決め手段を適用できる。
【0027】
<2.2>変形誘導体
変形誘導体30は軸力吸収体20を構成する弾発杆21,21の間に位置する形態で変形誘導体30と交差している。
変形誘導体30は受面41に作用するエネルギーを軸力吸収体20の軸力として誘導するために機能する剛性材で、例えは鋼管等で構成する。
前記機能を発揮するため、変形誘導体30の圧縮強度は軸力吸収体20より大きい関係にある。
【0028】
<2.2.1>変形誘導体の基端の枢支構造
図2に示すように、変形誘導体30の基端は、支軸31により接地板32の支持ブラケット33に回動在に枢支され、接地板32にアンカー34を打設して斜面11へ固定されている。
【0029】
図5に拡大して示すように、接地板32に起立して形成した前方接続片32aには第三の連結材14の下端を連結し、左右斜め方向に起立して形成した各側方接続片32b,32bには防護ネット40の下辺に接続した下ロープ16,16を連結する。
【0030】
<2.2.2>変形誘導体の自由端
図2に示すように、変形誘導体30の自由端には掛止用の突起35が突設してあって、変形誘導体30の自由端に係留した第1および第二の連結材12,13の一端のループ部を位置決めして接続できるようになっている。
第1および第二の連結材12,13の係留手段は突起35に限定されず、公知の係留手段を適用できる。
【0031】
<2.3>連結材
各連結材12〜14は、引張耐力に優れた例えば鋼製又は繊維製のロープ、鋼棒、鋼板等で構成することができる。
第一の連結材12は軸力吸収体20の自由端と変形誘導体30の自由端との間に連結し、第二の連結材13は変形誘導体30の自由端と軸力吸収体20の基端側との間を連結し、第三の連結材14は変形誘導体30の自由端と変形誘導体30の基端との間を連結する。
尚、第一〜第三の連結材12〜14は1本の連続した部材で構成してもよい。
【0032】
本発明では軸力吸収体20が緩衝機能を有するため、従来と比較して各連結材12〜14の張力負担と各アンカー25,34の負担が小さくなる。
【0033】
本発明では、第二の連結材13の途中に、現場で長さ調整が可能な長さ調整具17を介装する場合について説明する。
長さ調整具17はターンバックル等の他に、張力に耐え得る公知の調整具を適用できる。
【0034】
<3>防護ネット
防護ネット40は受面41を有する構造体で、例えば金網、又はロープ製ネット、或いはこれらを組合せた公知のネットを含む。
又、防護ネット40は複数のスパンに亘る全長を有するものの他に、支柱構造体10の1スパン単位に分割したものであってもよい。
【0035】
防護ネット40は山側斜面に配設され、その上辺を軸力吸収体20の自由端に取り付けて垂下させる。
本例では、防護ネット40の上辺を軸力吸収体20の自由端の間に横架した上ロープ15に取り付け、また防護ネット40の下辺を変形誘導体30の基端の間に横架した下ロープ16に取り付けている。
【0036】
[衝撃吸収柵の組立]
次に衝撃吸収柵の組立方法について説明する。
【0037】
<1>資材の搬入
衝撃吸収柵を構成する支柱構造体10と防護ネット40を現場へ搬入する。
資材の搬入に際し、支柱構造体10を構成する棒鋼製の弾発杆21や連結材12〜14が作業員による持ち運びが可能な重量に小分けして軽量化されているので、現場が山岳地帯であっても資材の搬入が容易である。
【0038】
<2>支柱構造体の組立て
図1,2を参照して支柱構造体10の組立て例について説明する。
斜面11に間隔を隔てて打設した各アンカー25,34に接地板23,32をセットした後、各アンカー25,34の頭部をナットで固定する。
つぎに、下位側の設置板23に支軸22を介して、軸力吸収体20の基端を枢支するとともに、上位の設置板32に支軸31を介して、変形誘導体30の基端を枢支する。
変形誘導体30に交差させた軸力吸収体20の自由端に結束板27,27と管28をセットし、その両側にナット26,26を螺着する。
最後に、軸力吸収体20および変形誘導体30の各自由端と基端との間をそれぞれ非伸縮性の第一〜第三の連結材12〜14を連結して支柱構造体10の組立てを完了する。
【0039】
軸力吸収体20が多少撓んでも変形誘導体30が変形しないので、両部材20,30を交差させて支柱構造体10を立体的に組み上げる組立作業がし易い。
さらに、軸力吸収体20と変形誘導体30の起立設置作業を人力で行えるので、支柱構造体10の組立てにクレーン等が不要である。
【0040】
<3>防護ネットの組付け
隣り合う各支柱構造体10の頂部間、すなわち軸力吸収体20の上部間に上ロープ15を横架する。隣り合う各支柱構造体10の下部間、すなわち変形誘導体30の基端の接地板32の間に下ロープ16を横架する。
上下ロープ15,16の間に防護ネット40の上下辺をそれぞれ分離しないように取り付けて衝撃吸収柵の組み立てを完了する。
【0041】
完成した衝撃吸収柵を示した図2において、斜面山側に傾倒する軸力吸収体20の重量は、連結材12,13を介して斜面11と剛性の変形誘導体30に分散して支持される。
斜面谷側に傾倒する変形誘導体30の重量は、連結材12,14を介して斜面11と軸力吸収体20に分散して支持されている。
防護ネット40の重量は、軸力吸収体20と、連結材12,13を介して斜面11と剛性の変形誘導体30に分散して支持されている。
このように支柱構造体10を構成する軸力吸収体20と変形誘導体30は、互いに重量がバランスして安定姿勢を維持することができる。
【0042】
[斜面に起伏がある場合の対処法]
衝撃吸収柵が本来の落石等の捕捉機能を果たすためには、防護ネット40の受面41の起立角度を一定に保つことと、防護ネット40の受面41の高さ(柵高)を十分に確保することが求められる。
支柱構造体10を構成する各部材の寸法長さが一定規格(定寸)であると、斜面11の起伏の影響を受けて、受面41の起立角度(水平または鉛直に対する角度)と柵高を一定に揃えることができない。
そこで本発明では、起伏がある斜面11に支柱構造体10を設置するときにはつぎの方法で対処する。
【0043】
<1>対処法1
図6に理想的な寸法バランスをした支柱構造体10のモデル図を示す。
同図において、軸力吸収体20と変形誘導体30の基端の据付距離(斜距離)
をL、防護ネット40の柵高をH、第一の連結材12の全長をx、第二の連結材13の全長をyとした場合、本対処法では、軸力吸収体20と変形誘導体30の全長、防護ネット40の柵高H、および第一の連結材12の全長xが変化しないことを前提とした対処法について説明する。
【0044】
図7の(A)は斜面11が図6の基準勾配と比べて勾配θ1の角度で余分に傾斜した後下がり(または前上がり)状態を示し、また図7の(B)は斜面11が図6の基準勾配と比べて勾配θ2の角度で逆向きに傾斜した後上がり(または前下がり)状態を示している。
【0045】
図7の(A)に示すように、斜面11が後下がりのときは、防護ネット40が斜面谷側へ向けた過剰な傾倒を回避するため、支柱構造体10の基端の据付距離L1を短くする。
据付距離L1のみを短くすると全体の寸法バランスが崩れてしまう。
そこで、調整具17を延長操作して第二の連結材13の全長y1を長くすることで、全体の良好な寸法バランスを保つことができる。
【0046】
図7の(B)に示すように、斜面11が後上がりのときは、防護ネット40が斜面山側へ向けた過剰な傾倒を回避するため、支柱構造体10の基端の据付距離L2を長くする。
据付距離L2のみを長くすると全体の寸法バランスが崩れてしまう。
そこで、調整具17を用いて第二の連結材13の全長y2を短くすることで、全体の良好な寸法バランスを保つことができる。
【0047】
本対処法では、防護ネット40、第一の連結材12および変形誘導体30の三辺で形成される三角形の形状と各辺の長さが変わらない。
以上のように、設置現場の斜面11の勾配に応じて第二の連結材13の全長yを調整するだけの操作で、理想的な寸法バランスを維持して、受面41の起立角度と柵高を一定に保つことができる。
【0048】
<2>対処法2
図8に理想的な寸法バランスをした支柱構造体10のモデル図を示す。
本対処法では、軸力吸収体20と変形誘導体30の全長、防護ネット40の柵高H、第一の連結材12の全長xが変化しないことは先の対処法1と同様であるが、本体処法は軸力吸収体20と変形誘導体30の据付距離Lを変化させないことを前提とする。
【0049】
本対処法において使用する軸力吸収体20は、対処法1と比べて全長の長い弾発杆で構成して、軸力吸収体20の自由端部に余長部20aが形成してあり、ナット26を回転操作することで防護ネット40の上辺の垂下高さを任意に調整できる構造となっている。
余長部20aとは、軸力吸収体20のうちのナット26の螺着位置から先端までの区間を指し、ナット26の螺着位置を変位することで余長部20aの長さが変化する。
【0050】
図9の(A)に示すように、斜面11が後下がりのときは、防護ネット40が斜面谷側へ傾倒するのを回避するため、調整具17を延長操作して第二の連結材13の全長y1を長くするとともに、軸力吸収体20上のナット26を先端側へ変位させることで、受面41の起立角度と柵高を一定に保つことが可能となる。
【0051】
図9の(B)に示すように、斜面11が後上がりのときは、防護ネット40が斜面山側へ傾倒するのを回避するため、調整具17を短縮操作して第二の連結材13の全長y2を短くするとともに、軸力吸収体20上のナット26を基端側へ変位させることで、受面41の起立角度と柵高を一定に保つことが可能となる。
【0052】
本対処法においても、防護ネット40、第一の連結材12および変形誘導体30の三辺で形成される三角形の形状と各辺の長さが変わらない。
本対処法においては、設置現場の斜面11の勾配に応じて第二の連結材13の全長yを調整する操作と、軸力吸収体20上のナット26の位置を調整する操作により、軸力吸収体20と変形誘導体30の据付距離Lを一定に保ちながら、理想的な寸法バランスを維持して、受面41の起立角度と柵高を一定に保つことができる。
【0053】
前記した対処法1,2は現場の状況に応じて使い分けするか、或いは併用する。
【0054】
[衝撃吸収柵のエネルギー吸収]
次に図10に基づき衝撃吸収柵によるエネルギーの吸収メカニズムについて説明する。
【0055】
<1>防護ネットの撓み変形
受面41にエネルギーが作用すると防護ネット40は斜面谷側へ向けて撓み変形し、防護ネット40の撓み変形によりエネルギーの一部が減衰される。
【0056】
<2>変形誘導体の非圧縮変形
軸力吸収体20が基端を中心として時計回りの方向へと回動しようとして第一及び第二の連結材12,13に張力が生じる。
第一及び第二の連結材12,13に張力は、斜面谷側へ傾倒する変形誘導体30に対して軸力として作用するが、その剛性により圧縮変形をせずに変形誘導体30に支持される。
【0057】
<3>変形誘導体の傾倒拘束
しかも変形誘導体30の自由端が斜面11に接続した第二の連結材13と、軸力吸収体20の自由端に接続した第一の連結材12により支持されていて、変形誘導体30の傾倒角度はほとんど変わらず、変形誘導体30の傾倒が拘束される。
そのため、変形誘導体30に作用するエネルギーを軸力吸収体20へ誘導することができる。
【0058】
<4>軸力吸収体の回動拘束
同時に、軸力吸収体20が基端を中心として時計回りの方向へと回動しようとして第一及び第二の連結材12,13に張力を生じる。
第一及び第二の連結材12,13に作用する張力は最終的にアンカー25に支持されて、軸力吸収体20の時計回りの方向の回動が拘束される。
【0059】
<5>軸力吸収体の圧縮変形
【0060】
防護ネット40により生じる張力と、第一及び第二の連結材12,13により生じる張力の合力が、軸力吸収体20に対して軸力として作用する。
軸力吸収体20に生じる軸力がその変形強度を越えると、軸力吸収体20が圧縮変形する。
軸力吸収体20の圧縮変形によりエネルギーが効率的に吸収される。
殊に、エネルギーの吸収部材が軸力吸収体20だけであるため、エネルギーの吸収性能の計算がし易く、しかも安定したエネルギーの吸収性能を発揮できる。
【0061】
さらに、大きなエネルギーが作用しても軸力吸収体20がクッションとなって第一及び第二の連結材12,13の破断と、変形誘導体30の座屈破壊を回避するので、衝撃吸収柵の機能が突発的に失われることがない。
【0062】
また軸力吸収体20に斜面11の横断方向の曲げや、ねじりが作用しても、軸力吸収体20を構成する弾発杆21,21の自由端が曲げ変形したり、ねじれるだけで、弾発杆21,21のの基端に曲げ力やねじり力が作用しない。
そのため、軸力吸収体20に曲げやねじりが作用しても破壊しない。
【0063】
このように本発明に係る衝撃吸収柵は、防護ネット40で受けたエネルギーを、軸力吸収体20のみに軸力として伝達し、控え材である連結材12,13に引張として伝達するように構成するとともに、軸力吸収体20に作用する軸力を、直立性を維持したまま軸力吸収体20を圧縮変形させてエネルギーを効率的に吸収することが可能となる。
さらに支柱構造体10が緩衝機能を有するため、各連結材12,13の張力負担と各アンカー23,34の荷重負担を小さくできる。
【0064】
<6>エネルギーの消滅後
防護ネット40(受面41)からエネルギーの発生要因が取り除かれた後は、支柱構造体10を構成する軸力吸収体20が自己の弾性復元力によって元の待機位置へと戻る。
支柱構造体10の復元に伴い、防護ネット40も元の位置に引き上げられる。
そのため、エネルギーの作用前の状態を保ち衝撃吸収柵の機能を引き続き維持することができる。
例えば、エネルギーの発生要因が積雪圧の場合には、雪が溶けると自然に軸力吸収体20が元の位置へと戻るため、特段の処置を施すことなく、衝撃吸収柵の機能を常に発揮させておくことができる。
【0065】
支柱構造体10を構成する軸力吸収体20や変形誘導体30が変形したり破壊したりしても、損傷した資材のみの交換を簡単かつ短時間に行える。
【実施例2】
【0066】
実施例1では、防護ネット40の下辺を変形誘導体30の基端に固定した形態について説明した。
軸力吸収体20の自由端に防護ネット40を垂下することで、重量バランスがとれて支柱構造体10の安定姿勢を維持できるので、防護ネット40の下辺を山側斜面に固定することも可能である。
防護ネット40の下辺を山側斜面に固定することで、実施例1と比べて防護ネット40の斜面傾斜方向の長さを長くして、防護ネット40の撓み変形量を大きくできるので、エネルギーの吸収性能が高くなるといった利点がある。
【実施例3】
【0067】
実施例1,2では長さ調整具17を第二の連結材13に介装した形態について説明したが、長さ調整具17は第一の連結材12に介装してもよい。
或いは図11に示すように、第一の連結材12および第二の連結材13長さ調整具17を介装したり、またはすべての連結材12〜14に長さ調整具17を介装したりしてもよい。
長さ調整具17の介装数を増やすことで、斜面11の起伏に応じて軸力吸収体20と変形誘導体30の設置角度を個別に調整できる。
さらに実施例2と組み合わせることで、斜面11に大小様々な起伏が存在する現場でも、受面41の起立角度と柵高を一定に保った設置作業がしやすくなるといった利点がある。
【符号の説明】
【0068】
10 支柱構造体
12 第一の連結材
13 第二の連結材
14 第三の連結材
15 上ロープ
16 下ロープ
17 長さ調整具
20 軸力吸収体
21 弾発杆
22 支軸
30 変形誘導体
31 支軸
40 防護ネット
41 受面
【技術分野】
【0001】
本発明は落石、崩落土砂、雪崩等の動的荷重または積雪圧等の静的荷重(以下「エネルギー」という)の吸収に好適なエネルギー吸収技術に関し、より詳細にはエネルギーを効果的に吸収できる支柱構造体及び防護柵に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にこの種の防護柵における支柱は、曲げと軸力に対抗するため鋼材やコンクリート充填鋼管等の剛性体で形成しているが、従来の支柱は重たく山岳地の設置現場への搬入が困難なだけでなく、現場での据付け作業も重機に頼っており、施工性に問題がある。
【0003】
また特許文献1には、高剛性の主支柱、高剛性の斜め支柱及び複数の連結ロープを組合せた支柱構造体と、これを用いた雪崩防護柵が開示されている。
この支柱構造体は、両支柱をX形に交差させ、斜め支柱の基端を斜面にグラウンドアンカーで固定し、両支柱の自由端間と基端間を夫々連結ロープで接続して構成する。防護ネットはその上下辺を主支柱の上部と斜め支柱の下部に固定する。
防護ネットに作用する雪荷重を、両支柱の圧縮耐力と連結ロープの張力で対抗する構造になっている。
【0004】
出願人は特許文献1に開示された防護柵が内包する問題点を解決するため、主支柱と斜め支柱を可撓性を有する複数の棒材で構成した支柱構造体と、これを用いた防護柵を先に提案した(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−63831号公報
【特許文献2】特開2010−255648号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
先の特許文献1に記載された防護柵は、以下のような問題がある。
(1)主支柱及び斜め支柱は、高い圧縮強度を有するものの、荷重の吸収機能を有しない。
そのため、主支柱及び斜め支柱に想定を超えた軸力が作用すると、支柱が突発的に座屈破壊して柵機能を喪失する。
(2)防護柵に対し雪崩や落石等のように高速で、或いは局所的に荷重が作用すると、各支柱に対して圧縮だけでなく、曲げや捩じりも一緒に加わる。
支柱構造体は曲げや捩じりに対して対応できないため支柱構造体の安定バランスが崩れ易い。バランスが崩れると支柱構造体が突発的に破壊する。
(3)支柱構造体を構成する主支柱及び斜め支柱の基端は、斜面傾斜方向に沿った回動を許容するものの、斜面傾斜方向と直交する方向への回動が拘束されている。
そのため、支柱構造体が斜面の傾斜と直交方向に大きな力が作用すると、両支柱の基端の軸支箇所が破壊する。
(4)複数の支柱構造体のうち一部の支柱が上記した(1)〜(3)の要因で破壊されると、支柱構造体の破壊が連鎖的に広がり、防護柵全体としての機能を失ってしまう。
(5)破壊された支柱構造体を復旧するには、支柱構造体一式を新たに交換する必要があり、その交換に多くの時間、労力及びコストを要する。
【0007】
特許文献2に記載された防護柵は、以下のような改善すべき点がある。
(1)主支柱と斜め支柱に適正に荷重分散をさせるためには、各支柱の弾性と硬度のバランス、各支柱の交差角度、連結ロープの長さ、および両支柱下部の据付距離を設計モデル通りに設置することが重要となる。
山の斜面は平らな一定勾配ではなく多数の起伏があるため、支柱構造体を上記した設計モデル通りに設置することが難しい。
そのため、設計モデルを犠牲にして個々の設置現場の起伏に対応させて支柱構造体を設置すると、両支柱の基端間の据付距離や防護ネットの起立角度が不均一となり、特に防護ネットが大きく傾斜した箇所では柵高が低くなるといった不都合がある。
(2)支柱構造体は主支柱と斜め支柱による減衰作用の分担割合を決めた構造になっている。
上記したように、斜面の起伏の影響を受けて両支柱の交差角度や据付間隔が変動すると、各支柱構造体の単位で減衰作用の分担割合が変化し、各支柱構造体の減衰性能を定常的に算定することが難い。
殊に弾性変形する各支柱の減衰バランスが崩れると、本来の減衰性能を発揮することができないだけでなく、一回目の受撃時に柵高が極端に低く変形して、以降の受撃に対応できない場合もある。
(3)支柱構造体の寸法バランスはある程度余裕を持たせて設計しているが、)支柱構造体の寸法バランスが許容値を超えると、エネルギー吸収性能に影響を及ぼして、安定した性能を発揮できない。
(4)斜面の起伏の影響を回避して支柱構造体の寸法バランスを取るには、支柱構造体を構成する各資材の寸法を個別に設計する必要があり、資材の加工や組立て等が複雑となる。
(5)支柱構造体を組み立てる際、両支柱が撓むために組み立てがし難い。
【0008】
本発明は以上の点に鑑みて成されたもので、その目的とするところは少なくとも何れか一つの支柱構造体及び衝撃吸収柵を提供することにある。
<1>支柱構造体が定常的に減衰性能を発揮できること。
<2>斜面の起伏が変化している現場であっても、防護ネットの受面の起立角度と柵高を一定に保つこと。
<3>支柱構造体の破壊を回避しつつ、防護ネットの受面に作用するエネルギーを効率的に吸収すること。
<4>支柱構造体に曲げやねじりが加わっても破壊しないこと。
<5>積雪圧等の静的荷重に対してだけでなく、落石、雪崩等の動的荷重に対しても対応性に優れていること。
<6>支柱構造体が自己復元性を有し、衝撃吸収柵の修復性に優れること。
<7>衝撃吸収柵の資材の軽量化に伴う施工性の改善とコストの低減を図ること。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願の第1発明は、基端を固定して傾倒自在に立設した軸力吸収体と、前記軸力吸収体と交差して配置するとともに、基端を固定して傾倒自在に立設した変形誘導体と、前記軸力吸収体と変形誘導体の各自由端との間、および前記軸力吸収体と変形誘導体の各自由端と斜面との間をそれぞれ連結した連結材とを具備した衝撃吸収柵の支柱構造体であって、前記軸力吸収体を、両端を拘束した複数の弾発杆で構成し、前記変形誘導体を剛性材で構成し、前記変形誘導体に作用する軸力を、前記連結材を介して前記軸力吸収体へ誘導するように構成したことを特徴とする。
本願の第2発明は、前記第1発明において、前記連結材の一部に長さ調整具を介装して連結材の長さを調整可能に構成したことを特徴とする。
本願の第3発明は、前記第1または第2発明において、複数の弾発杆の自由端の間を結束板で連結し、該結束板の設置位置を弾発杆に沿って変位可能に構成したことを特徴とする。
本願の第4発明は、前記第2発明において、弾発杆に螺合したナットにより前記結束板の設置位置を弾発杆に沿って変位可能に構成したことを特徴とする。
本願の第5発明は、前記第1乃至第4発明の何れかにおいて、前記軸力吸収体と変形誘導体の基端をそれぞれ固定するアンカーを具備することを特徴とする。
【0010】
本願の第6発明は、間隔を隔てて立設した複数の支柱構造体と、支柱構造体の間に張設した防護ネットとを具備した衝撃吸収柵であって、前記第1乃至第5発明の何れかの支柱構造体を使用し、軸力吸収体の基端を谷側斜面に固定するとともに、該軸力吸収体と交差して配置した変形誘導体の基端を山側斜面に固定して前記支柱構造体を立設し、隣り合う前記各支柱構造体を構成する軸力吸収体の自由端に防護ネットの上辺を取り付けて山側斜面に配置したことを特徴とする。
本願の第7発明は、前記第6発明において、防護ネットに作用するエネルギーを、交差する軸力吸収体と変形誘導体とに分散させて、該変形誘導体に生ずる軸力を軸力吸収体へ伝達可能なように、前記軸力吸収体と変形誘導体の各自由端との間、および前記軸力吸収体と変形誘導体の各自由端と斜面との間をそれぞれ連結材で連結したことを特徴とする。
本願の第8発明は、前記第6または第7発明において、防護ネットの下辺を前記各支柱構造体を構成する変形誘導体の基端に取り付けたことを特徴とする。
本願の第9発明は、前記第6または第7発明において、防護ネットの下辺を山側斜面に固定したことを特徴とする。
【0011】
本発明における「エネルギー」とは、落石や雪崩等の動的荷重だけでなく、積雪圧等の静的荷重による運動エネルギー及び位置エネルギーを含む。
【0012】
本発明における「弾性変形」とは、軸力吸収体の長手方向への圧縮変形や、該長手方向を軸心とするねじれ変形、その他あらゆる方向への撓み変形を含む。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、下記の効果のうち少なくとも何れか一つを得ることができる。
(1)柔構造の軸力吸収体と剛構造の変形誘導体とを組合せてなる支柱構造体は、エネルギーを伝達する部材(変形誘導体等)とエネルギーを吸収する部材(軸力吸収体)の役割が明確である。
したがって、各支柱構造体は斜面の起伏の影響があっても定常的に減衰性能を発揮することができる。
(2)軸力吸収体と変形誘導体の役割が明確であるため、支柱構造体全体としてのエネルギー吸収量の算定が正確に行えるとともに、役割に応じた部材の選定もし易くなる。
(3)斜面に起伏があっても、連結材に介装した長さ調整具で連結材の全長を調整することで、防護ネットの受面の起立角度と柵高を一定に保つことができる。
(4)軸力吸収体の自由端において、防護ネットの上辺の垂下高さを任意に調整することで、軸力吸収体と変形誘導体の据付距離を一定に保ちながら、防護ネットの受面の起立角度と柵高をさらに正確に保つことができる。
(5)軸力吸収体の直立性を維持したまま弾性変形させて吸収を許容して、防護ネットの受面に作用するエネルギーを効率的に吸収することができる。
(6)軸力吸収体がクッション機能を発揮するため、変形誘導体および複数の連結材の破壊を回避できるから、衝撃吸収柵の突発的な機能喪失を回避できる。
(7)支柱構造体の構成部材を簡素化できて、製作コストを大幅に削減できる。
(8)軸力吸収体を複数の弾発杆で構成することで、あらゆる方向に対して弾性変形が可能である。そのため、予期せぬ方向からの荷重に起因する変形や、ねじれに対しても弾発杆の基端に過度の応力が集中せずに柔軟に変形に追従することができる。
(9)支柱構造体を構成する軸力吸収体と変形誘導体等の軽量化が図れるので、支柱構造体の現場への運搬性及び組立性がよくなり、施工性の改善とコストの低減を図ることができる。
(10)支柱構造体が自己復元性を有するから、衝撃吸収柵の修復性に優れる。
(11)積雪等の静的荷重だけでなく、落石・雪崩等の動的荷重に対しても、十分なエネルギー吸収性能を発揮できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る一部を省略した衝撃吸収柵の斜視図
【図2】実施例1に係る支柱構造体の側面図
【図3】斜面谷側から見た支柱構造体のモデル図
【図4】軸力吸収体の基端の拡大図
【図5】変形誘導体の基端の拡大図
【図6】理想的な支柱構造体のモデル図
【図7】起伏がある斜面に支柱構造体を設置する方法の説明図で、(A)は後下がりの斜面に設置する場合の支柱構造体のモデル図、(B)は後上がり斜面に設置する場合の支柱構造体のモデル図
【図8】余長部を備えた理想的な支柱構造体のモデル図
【図9】起伏がある斜面に支柱構造体を設置する方法の説明図で、(A)は後下がりの斜面に設置する場合の支柱構造体のモデル図、(B)は後上がりの斜面に設置する場合の支柱構造体のモデル図
【図10】エネルギー作用時における衝撃吸収柵のモデル図
【図11】実施例3に係る支柱構造体の側面図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0016】
<1>衝撃吸収柵
図1に本発明の衝撃吸収柵の斜視図を示し、図2に支柱構造体10の側面図を示し、図3に斜面谷側から見た支柱構造体10のモデル図を示す。
【0017】
本発明に係る衝撃吸収柵は、斜面11等に間隔を隔てて設けた複数の支柱構造体10と、支柱構造体10の間に張設した防護ネット40とにより構成する。
尚、図1において符号18は端部の支柱構造体10と斜面11との間に張設した単数または複数の控えロープである。
【0018】
<2>支柱構造体
支柱構造体10は受面41で受けたエネルギーを吸収する機能と支柱機能を併有する構造体で、基端を谷側斜面に固定して斜面11に回動自在に立設した軸力吸収体20と、軸力吸収体20と交差して配置し、基端を山側斜面に固定して斜面11に回動自在に立設した変形誘導体30と、軸力吸収体20と変形誘導体30の各自由端との間、および軸力吸収体20と変形誘導体30の各自由端と基端(斜面11)との間をそれぞれ連結した非伸縮性の第一〜第三の連結材12〜14とを具備する。
【0019】
軸力吸収体20と変形誘導体30の交差角度と、各連結材12〜14の全長は、受面41に作用するエネルギーを軸力吸収体30と各連結材12〜14に分散して伝達しつつ、軸力吸収体20に軸力として作用するように関係付けている。
以降に支柱構造体10の詳細について詳述する。
【0020】
<2.1>軸力吸収体
軸力吸収体20は、受面41に作用するエネルギーを圧縮変形により吸収するダンパー機能を有した弾性構造体であり、両端部を収束した複数の弾発杆21からなる。
本例では軸力吸収体20を二本の弾発杆21,21で構成する場合について説明するが、弾発杆21の本数は適宜でよく、一本、又は三本以上であってもよい。
弾発杆21の素材は、例えば、棒鋼、バネ鋼等の金属材料や樹脂等の弾性材料を適用できる。
【0021】
弾発杆21の周面におねじが形成されていて、防護ネット40の上辺の吊り高さを調整できるようになっている。
【0022】
<2.1.1>軸力吸収体の基端側の構造
図2〜4に示すように、弾発杆21の基端は支軸22により接地板23の支持ブラケット24に回動自在に枢支され、接地板23にアンカー25を打設して斜面11に固定されている。
【0023】
<2.1.2>軸力吸収体の自由端の構造
図2,3に示すように、各弾発杆21の自由端には、上下一対のナット26,26が螺着してある。
複数の弾発杆21の自由端の間は、上下一対の結束板27,27を貫挿して配置して、両弾発杆21,21の自由端を分離不能に結束している。
【0024】
各弾発杆21の上部に外装したスペーサ管28と結束板27,27は弾発杆21に対し拘束を維持したままスライド移動が可能であり、上下一対のナット26,26の螺着位置を上下することで結束板27,27の設置位置を弾発杆21に沿って任意の高さに調整することができる。
尚、各結束板27,27と管28はそれぞれ別体であるが、下位の結束板27と管28は一体構造であってもよい。
【0025】
各弾発杆21の上部の管28には、防護ネット40を垂下するための上ロープ15の端部が分離不能に係留し、結束板27には第一および第三の連結材12,14の各上端が分離不能に係留している。
【0026】
防護ネット40の上辺の吊り高さを調整する手段は、ナット26,26に限定されるものではなく、ピン止めや溶接等のように弾発杆21の任意の位置で結束板27を位置決めできる公知の位置決め手段を適用できる。
【0027】
<2.2>変形誘導体
変形誘導体30は軸力吸収体20を構成する弾発杆21,21の間に位置する形態で変形誘導体30と交差している。
変形誘導体30は受面41に作用するエネルギーを軸力吸収体20の軸力として誘導するために機能する剛性材で、例えは鋼管等で構成する。
前記機能を発揮するため、変形誘導体30の圧縮強度は軸力吸収体20より大きい関係にある。
【0028】
<2.2.1>変形誘導体の基端の枢支構造
図2に示すように、変形誘導体30の基端は、支軸31により接地板32の支持ブラケット33に回動在に枢支され、接地板32にアンカー34を打設して斜面11へ固定されている。
【0029】
図5に拡大して示すように、接地板32に起立して形成した前方接続片32aには第三の連結材14の下端を連結し、左右斜め方向に起立して形成した各側方接続片32b,32bには防護ネット40の下辺に接続した下ロープ16,16を連結する。
【0030】
<2.2.2>変形誘導体の自由端
図2に示すように、変形誘導体30の自由端には掛止用の突起35が突設してあって、変形誘導体30の自由端に係留した第1および第二の連結材12,13の一端のループ部を位置決めして接続できるようになっている。
第1および第二の連結材12,13の係留手段は突起35に限定されず、公知の係留手段を適用できる。
【0031】
<2.3>連結材
各連結材12〜14は、引張耐力に優れた例えば鋼製又は繊維製のロープ、鋼棒、鋼板等で構成することができる。
第一の連結材12は軸力吸収体20の自由端と変形誘導体30の自由端との間に連結し、第二の連結材13は変形誘導体30の自由端と軸力吸収体20の基端側との間を連結し、第三の連結材14は変形誘導体30の自由端と変形誘導体30の基端との間を連結する。
尚、第一〜第三の連結材12〜14は1本の連続した部材で構成してもよい。
【0032】
本発明では軸力吸収体20が緩衝機能を有するため、従来と比較して各連結材12〜14の張力負担と各アンカー25,34の負担が小さくなる。
【0033】
本発明では、第二の連結材13の途中に、現場で長さ調整が可能な長さ調整具17を介装する場合について説明する。
長さ調整具17はターンバックル等の他に、張力に耐え得る公知の調整具を適用できる。
【0034】
<3>防護ネット
防護ネット40は受面41を有する構造体で、例えば金網、又はロープ製ネット、或いはこれらを組合せた公知のネットを含む。
又、防護ネット40は複数のスパンに亘る全長を有するものの他に、支柱構造体10の1スパン単位に分割したものであってもよい。
【0035】
防護ネット40は山側斜面に配設され、その上辺を軸力吸収体20の自由端に取り付けて垂下させる。
本例では、防護ネット40の上辺を軸力吸収体20の自由端の間に横架した上ロープ15に取り付け、また防護ネット40の下辺を変形誘導体30の基端の間に横架した下ロープ16に取り付けている。
【0036】
[衝撃吸収柵の組立]
次に衝撃吸収柵の組立方法について説明する。
【0037】
<1>資材の搬入
衝撃吸収柵を構成する支柱構造体10と防護ネット40を現場へ搬入する。
資材の搬入に際し、支柱構造体10を構成する棒鋼製の弾発杆21や連結材12〜14が作業員による持ち運びが可能な重量に小分けして軽量化されているので、現場が山岳地帯であっても資材の搬入が容易である。
【0038】
<2>支柱構造体の組立て
図1,2を参照して支柱構造体10の組立て例について説明する。
斜面11に間隔を隔てて打設した各アンカー25,34に接地板23,32をセットした後、各アンカー25,34の頭部をナットで固定する。
つぎに、下位側の設置板23に支軸22を介して、軸力吸収体20の基端を枢支するとともに、上位の設置板32に支軸31を介して、変形誘導体30の基端を枢支する。
変形誘導体30に交差させた軸力吸収体20の自由端に結束板27,27と管28をセットし、その両側にナット26,26を螺着する。
最後に、軸力吸収体20および変形誘導体30の各自由端と基端との間をそれぞれ非伸縮性の第一〜第三の連結材12〜14を連結して支柱構造体10の組立てを完了する。
【0039】
軸力吸収体20が多少撓んでも変形誘導体30が変形しないので、両部材20,30を交差させて支柱構造体10を立体的に組み上げる組立作業がし易い。
さらに、軸力吸収体20と変形誘導体30の起立設置作業を人力で行えるので、支柱構造体10の組立てにクレーン等が不要である。
【0040】
<3>防護ネットの組付け
隣り合う各支柱構造体10の頂部間、すなわち軸力吸収体20の上部間に上ロープ15を横架する。隣り合う各支柱構造体10の下部間、すなわち変形誘導体30の基端の接地板32の間に下ロープ16を横架する。
上下ロープ15,16の間に防護ネット40の上下辺をそれぞれ分離しないように取り付けて衝撃吸収柵の組み立てを完了する。
【0041】
完成した衝撃吸収柵を示した図2において、斜面山側に傾倒する軸力吸収体20の重量は、連結材12,13を介して斜面11と剛性の変形誘導体30に分散して支持される。
斜面谷側に傾倒する変形誘導体30の重量は、連結材12,14を介して斜面11と軸力吸収体20に分散して支持されている。
防護ネット40の重量は、軸力吸収体20と、連結材12,13を介して斜面11と剛性の変形誘導体30に分散して支持されている。
このように支柱構造体10を構成する軸力吸収体20と変形誘導体30は、互いに重量がバランスして安定姿勢を維持することができる。
【0042】
[斜面に起伏がある場合の対処法]
衝撃吸収柵が本来の落石等の捕捉機能を果たすためには、防護ネット40の受面41の起立角度を一定に保つことと、防護ネット40の受面41の高さ(柵高)を十分に確保することが求められる。
支柱構造体10を構成する各部材の寸法長さが一定規格(定寸)であると、斜面11の起伏の影響を受けて、受面41の起立角度(水平または鉛直に対する角度)と柵高を一定に揃えることができない。
そこで本発明では、起伏がある斜面11に支柱構造体10を設置するときにはつぎの方法で対処する。
【0043】
<1>対処法1
図6に理想的な寸法バランスをした支柱構造体10のモデル図を示す。
同図において、軸力吸収体20と変形誘導体30の基端の据付距離(斜距離)
をL、防護ネット40の柵高をH、第一の連結材12の全長をx、第二の連結材13の全長をyとした場合、本対処法では、軸力吸収体20と変形誘導体30の全長、防護ネット40の柵高H、および第一の連結材12の全長xが変化しないことを前提とした対処法について説明する。
【0044】
図7の(A)は斜面11が図6の基準勾配と比べて勾配θ1の角度で余分に傾斜した後下がり(または前上がり)状態を示し、また図7の(B)は斜面11が図6の基準勾配と比べて勾配θ2の角度で逆向きに傾斜した後上がり(または前下がり)状態を示している。
【0045】
図7の(A)に示すように、斜面11が後下がりのときは、防護ネット40が斜面谷側へ向けた過剰な傾倒を回避するため、支柱構造体10の基端の据付距離L1を短くする。
据付距離L1のみを短くすると全体の寸法バランスが崩れてしまう。
そこで、調整具17を延長操作して第二の連結材13の全長y1を長くすることで、全体の良好な寸法バランスを保つことができる。
【0046】
図7の(B)に示すように、斜面11が後上がりのときは、防護ネット40が斜面山側へ向けた過剰な傾倒を回避するため、支柱構造体10の基端の据付距離L2を長くする。
据付距離L2のみを長くすると全体の寸法バランスが崩れてしまう。
そこで、調整具17を用いて第二の連結材13の全長y2を短くすることで、全体の良好な寸法バランスを保つことができる。
【0047】
本対処法では、防護ネット40、第一の連結材12および変形誘導体30の三辺で形成される三角形の形状と各辺の長さが変わらない。
以上のように、設置現場の斜面11の勾配に応じて第二の連結材13の全長yを調整するだけの操作で、理想的な寸法バランスを維持して、受面41の起立角度と柵高を一定に保つことができる。
【0048】
<2>対処法2
図8に理想的な寸法バランスをした支柱構造体10のモデル図を示す。
本対処法では、軸力吸収体20と変形誘導体30の全長、防護ネット40の柵高H、第一の連結材12の全長xが変化しないことは先の対処法1と同様であるが、本体処法は軸力吸収体20と変形誘導体30の据付距離Lを変化させないことを前提とする。
【0049】
本対処法において使用する軸力吸収体20は、対処法1と比べて全長の長い弾発杆で構成して、軸力吸収体20の自由端部に余長部20aが形成してあり、ナット26を回転操作することで防護ネット40の上辺の垂下高さを任意に調整できる構造となっている。
余長部20aとは、軸力吸収体20のうちのナット26の螺着位置から先端までの区間を指し、ナット26の螺着位置を変位することで余長部20aの長さが変化する。
【0050】
図9の(A)に示すように、斜面11が後下がりのときは、防護ネット40が斜面谷側へ傾倒するのを回避するため、調整具17を延長操作して第二の連結材13の全長y1を長くするとともに、軸力吸収体20上のナット26を先端側へ変位させることで、受面41の起立角度と柵高を一定に保つことが可能となる。
【0051】
図9の(B)に示すように、斜面11が後上がりのときは、防護ネット40が斜面山側へ傾倒するのを回避するため、調整具17を短縮操作して第二の連結材13の全長y2を短くするとともに、軸力吸収体20上のナット26を基端側へ変位させることで、受面41の起立角度と柵高を一定に保つことが可能となる。
【0052】
本対処法においても、防護ネット40、第一の連結材12および変形誘導体30の三辺で形成される三角形の形状と各辺の長さが変わらない。
本対処法においては、設置現場の斜面11の勾配に応じて第二の連結材13の全長yを調整する操作と、軸力吸収体20上のナット26の位置を調整する操作により、軸力吸収体20と変形誘導体30の据付距離Lを一定に保ちながら、理想的な寸法バランスを維持して、受面41の起立角度と柵高を一定に保つことができる。
【0053】
前記した対処法1,2は現場の状況に応じて使い分けするか、或いは併用する。
【0054】
[衝撃吸収柵のエネルギー吸収]
次に図10に基づき衝撃吸収柵によるエネルギーの吸収メカニズムについて説明する。
【0055】
<1>防護ネットの撓み変形
受面41にエネルギーが作用すると防護ネット40は斜面谷側へ向けて撓み変形し、防護ネット40の撓み変形によりエネルギーの一部が減衰される。
【0056】
<2>変形誘導体の非圧縮変形
軸力吸収体20が基端を中心として時計回りの方向へと回動しようとして第一及び第二の連結材12,13に張力が生じる。
第一及び第二の連結材12,13に張力は、斜面谷側へ傾倒する変形誘導体30に対して軸力として作用するが、その剛性により圧縮変形をせずに変形誘導体30に支持される。
【0057】
<3>変形誘導体の傾倒拘束
しかも変形誘導体30の自由端が斜面11に接続した第二の連結材13と、軸力吸収体20の自由端に接続した第一の連結材12により支持されていて、変形誘導体30の傾倒角度はほとんど変わらず、変形誘導体30の傾倒が拘束される。
そのため、変形誘導体30に作用するエネルギーを軸力吸収体20へ誘導することができる。
【0058】
<4>軸力吸収体の回動拘束
同時に、軸力吸収体20が基端を中心として時計回りの方向へと回動しようとして第一及び第二の連結材12,13に張力を生じる。
第一及び第二の連結材12,13に作用する張力は最終的にアンカー25に支持されて、軸力吸収体20の時計回りの方向の回動が拘束される。
【0059】
<5>軸力吸収体の圧縮変形
【0060】
防護ネット40により生じる張力と、第一及び第二の連結材12,13により生じる張力の合力が、軸力吸収体20に対して軸力として作用する。
軸力吸収体20に生じる軸力がその変形強度を越えると、軸力吸収体20が圧縮変形する。
軸力吸収体20の圧縮変形によりエネルギーが効率的に吸収される。
殊に、エネルギーの吸収部材が軸力吸収体20だけであるため、エネルギーの吸収性能の計算がし易く、しかも安定したエネルギーの吸収性能を発揮できる。
【0061】
さらに、大きなエネルギーが作用しても軸力吸収体20がクッションとなって第一及び第二の連結材12,13の破断と、変形誘導体30の座屈破壊を回避するので、衝撃吸収柵の機能が突発的に失われることがない。
【0062】
また軸力吸収体20に斜面11の横断方向の曲げや、ねじりが作用しても、軸力吸収体20を構成する弾発杆21,21の自由端が曲げ変形したり、ねじれるだけで、弾発杆21,21のの基端に曲げ力やねじり力が作用しない。
そのため、軸力吸収体20に曲げやねじりが作用しても破壊しない。
【0063】
このように本発明に係る衝撃吸収柵は、防護ネット40で受けたエネルギーを、軸力吸収体20のみに軸力として伝達し、控え材である連結材12,13に引張として伝達するように構成するとともに、軸力吸収体20に作用する軸力を、直立性を維持したまま軸力吸収体20を圧縮変形させてエネルギーを効率的に吸収することが可能となる。
さらに支柱構造体10が緩衝機能を有するため、各連結材12,13の張力負担と各アンカー23,34の荷重負担を小さくできる。
【0064】
<6>エネルギーの消滅後
防護ネット40(受面41)からエネルギーの発生要因が取り除かれた後は、支柱構造体10を構成する軸力吸収体20が自己の弾性復元力によって元の待機位置へと戻る。
支柱構造体10の復元に伴い、防護ネット40も元の位置に引き上げられる。
そのため、エネルギーの作用前の状態を保ち衝撃吸収柵の機能を引き続き維持することができる。
例えば、エネルギーの発生要因が積雪圧の場合には、雪が溶けると自然に軸力吸収体20が元の位置へと戻るため、特段の処置を施すことなく、衝撃吸収柵の機能を常に発揮させておくことができる。
【0065】
支柱構造体10を構成する軸力吸収体20や変形誘導体30が変形したり破壊したりしても、損傷した資材のみの交換を簡単かつ短時間に行える。
【実施例2】
【0066】
実施例1では、防護ネット40の下辺を変形誘導体30の基端に固定した形態について説明した。
軸力吸収体20の自由端に防護ネット40を垂下することで、重量バランスがとれて支柱構造体10の安定姿勢を維持できるので、防護ネット40の下辺を山側斜面に固定することも可能である。
防護ネット40の下辺を山側斜面に固定することで、実施例1と比べて防護ネット40の斜面傾斜方向の長さを長くして、防護ネット40の撓み変形量を大きくできるので、エネルギーの吸収性能が高くなるといった利点がある。
【実施例3】
【0067】
実施例1,2では長さ調整具17を第二の連結材13に介装した形態について説明したが、長さ調整具17は第一の連結材12に介装してもよい。
或いは図11に示すように、第一の連結材12および第二の連結材13長さ調整具17を介装したり、またはすべての連結材12〜14に長さ調整具17を介装したりしてもよい。
長さ調整具17の介装数を増やすことで、斜面11の起伏に応じて軸力吸収体20と変形誘導体30の設置角度を個別に調整できる。
さらに実施例2と組み合わせることで、斜面11に大小様々な起伏が存在する現場でも、受面41の起立角度と柵高を一定に保った設置作業がしやすくなるといった利点がある。
【符号の説明】
【0068】
10 支柱構造体
12 第一の連結材
13 第二の連結材
14 第三の連結材
15 上ロープ
16 下ロープ
17 長さ調整具
20 軸力吸収体
21 弾発杆
22 支軸
30 変形誘導体
31 支軸
40 防護ネット
41 受面
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基端を固定して傾倒自在に立設した軸力吸収体と、前記軸力吸収体と交差して配置するとともに、基端を固定して傾倒自在に立設した変形誘導体と、前記軸力吸収体と変形誘導体の各自由端との間、および前記軸力吸収体と変形誘導体の各自由端と斜面との間をそれぞれ連結した連結材とを具備した衝撃吸収柵の支柱構造体であって、
前記軸力吸収体を、両端を拘束した複数の弾発杆で構成し、
前記変形誘導体を剛性材で構成し、
前記変形誘導体に作用する軸力を、前記連結材を介して前記軸力吸収体へ誘導するように構成したことを特徴とする、
衝撃吸収柵の支柱構造体。
【請求項2】
請求項1において、前記連結材の一部に長さ調整具を介装して連結材の長さを調整可能に構成したことを特徴とする、衝撃吸収柵の支柱構造体。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、複数の弾発杆の自由端の間を結束板で連結し、該結束板の設置位置を弾発杆に沿って変位可能に構成したことを特徴とする、衝撃吸収柵の支柱構造体。
【請求項4】
請求項3において、弾発杆に螺合したナットにより前記結束板の設置位置を弾発杆に沿って変位可能に構成したことを特徴とする、衝撃吸収柵の支柱構造体。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れか1項において、前記軸力吸収体と変形誘導体の基端をそれぞれ固定するアンカーを具備することを特徴とする、支柱構造体。
【請求項6】
間隔を隔てて立設した複数の支柱構造体と、支柱構造体の間に張設した防護ネットとを具備した衝撃吸収柵であって、
請求項1乃至5の何れか1項に記載の支柱構造体を使用し、
軸力吸収体の基端を谷側斜面に固定するとともに、該軸力吸収体と交差して配置した変形誘導体の基端を山側斜面に固定して前記支柱構造体を立設し、
隣り合う前記各支柱構造体を構成する軸力吸収体の自由端に防護ネットの上辺を取り付けて山側斜面に配置したことを特徴とする、
衝撃吸収柵。
【請求項7】
請求項6において、防護ネットに作用するエネルギーを、交差する軸力吸収体と変形誘導体とに分散させて、該変形誘導体に生ずる軸力を軸力吸収体へ伝達可能なように、前記軸力吸収体と変形誘導体の各自由端との間、および前記軸力吸収体と変形誘導体の各自由端と斜面との間をそれぞれ連結材で連結したことを特徴とする、衝撃吸収柵。
【請求項8】
請求項6または請求項7において、防護ネットの下辺を前記各支柱構造体を構成する変形誘導体の基端に取り付けたことを特徴とする、衝撃吸収柵。
【請求項9】
請求項6または請求項7において、防護ネットの下辺を山側斜面に固定したことを特徴とする、衝撃吸収柵。
【請求項1】
基端を固定して傾倒自在に立設した軸力吸収体と、前記軸力吸収体と交差して配置するとともに、基端を固定して傾倒自在に立設した変形誘導体と、前記軸力吸収体と変形誘導体の各自由端との間、および前記軸力吸収体と変形誘導体の各自由端と斜面との間をそれぞれ連結した連結材とを具備した衝撃吸収柵の支柱構造体であって、
前記軸力吸収体を、両端を拘束した複数の弾発杆で構成し、
前記変形誘導体を剛性材で構成し、
前記変形誘導体に作用する軸力を、前記連結材を介して前記軸力吸収体へ誘導するように構成したことを特徴とする、
衝撃吸収柵の支柱構造体。
【請求項2】
請求項1において、前記連結材の一部に長さ調整具を介装して連結材の長さを調整可能に構成したことを特徴とする、衝撃吸収柵の支柱構造体。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、複数の弾発杆の自由端の間を結束板で連結し、該結束板の設置位置を弾発杆に沿って変位可能に構成したことを特徴とする、衝撃吸収柵の支柱構造体。
【請求項4】
請求項3において、弾発杆に螺合したナットにより前記結束板の設置位置を弾発杆に沿って変位可能に構成したことを特徴とする、衝撃吸収柵の支柱構造体。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れか1項において、前記軸力吸収体と変形誘導体の基端をそれぞれ固定するアンカーを具備することを特徴とする、支柱構造体。
【請求項6】
間隔を隔てて立設した複数の支柱構造体と、支柱構造体の間に張設した防護ネットとを具備した衝撃吸収柵であって、
請求項1乃至5の何れか1項に記載の支柱構造体を使用し、
軸力吸収体の基端を谷側斜面に固定するとともに、該軸力吸収体と交差して配置した変形誘導体の基端を山側斜面に固定して前記支柱構造体を立設し、
隣り合う前記各支柱構造体を構成する軸力吸収体の自由端に防護ネットの上辺を取り付けて山側斜面に配置したことを特徴とする、
衝撃吸収柵。
【請求項7】
請求項6において、防護ネットに作用するエネルギーを、交差する軸力吸収体と変形誘導体とに分散させて、該変形誘導体に生ずる軸力を軸力吸収体へ伝達可能なように、前記軸力吸収体と変形誘導体の各自由端との間、および前記軸力吸収体と変形誘導体の各自由端と斜面との間をそれぞれ連結材で連結したことを特徴とする、衝撃吸収柵。
【請求項8】
請求項6または請求項7において、防護ネットの下辺を前記各支柱構造体を構成する変形誘導体の基端に取り付けたことを特徴とする、衝撃吸収柵。
【請求項9】
請求項6または請求項7において、防護ネットの下辺を山側斜面に固定したことを特徴とする、衝撃吸収柵。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−237145(P2012−237145A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−107074(P2011−107074)
【出願日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(000229128)日本ゼニスパイプ株式会社 (31)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(000229128)日本ゼニスパイプ株式会社 (31)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]