改善されたイオンガイド及び衝突セル
【課題】より小さくてコンパクトな質量分析システムを実現できるイオンガイドと衝突セルを提供する。
【解決手段】イオンガイドは複数のロッド201,202,203を備え、ロッドの各々は、第1の端部204,205,206と該第1の端部から離れたところにある第2の端部207,208,209とを有する。イオンガイドはさらに、対をなす隣接するロッドの間に接続されたインダクターと、対をなす隣接するロッド間に無線周波数(RF)電圧を印加するための手段と、ロッドの各々の長さに沿って直流(DC)電圧降下を与えるための手段を備える。RF電圧は、ロッドの間のある領域に多重極場を生成する。
【解決手段】イオンガイドは複数のロッド201,202,203を備え、ロッドの各々は、第1の端部204,205,206と該第1の端部から離れたところにある第2の端部207,208,209とを有する。イオンガイドはさらに、対をなす隣接するロッドの間に接続されたインダクターと、対をなす隣接するロッド間に無線周波数(RF)電圧を印加するための手段と、ロッドの各々の長さに沿って直流(DC)電圧降下を与えるための手段を備える。RF電圧は、ロッドの間のある領域に多重極場を生成する。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
質量分析法(MS)は、サンプル(または有機サンプル)を定量的及び定性的に分析するために使用される分析的方法論である。質量分析計(またはマスフィルタ)によって、サンプル中の分子がイオン化されて、それぞれの質量に基づいて分離される。次に、分離された検体イオンが検出されて、サンプルの質量スペクトルが生成される。この質量スペクトルは、サンプルを構成する種々の検体化合物の質量及び分量に関する情報をもたらす。具体的には、質量分析法を用いて、検体(分析物)内の分子の分子量及び分子フラグメント(molecular fragment)を判定することができる。さらに、質量分析法によって、分子のフラグメンテーションパターン(fragmentation pattern)に基づいて検体内の成分(構成要素)を特定することができる。
【0002】
質量分析法によって分析される検体イオンを、種々のイオン化システムのうちの任意のものによって生成することができる。たとえば、大気圧マトリックス支援レーザー脱離イオン化(Atmospheric Pressure Matrix AssistedLaser Desorption Ionization:AP-MALDI)システム、大気圧光イオン化(Atmospheric Pressure Photoionization:APPI)システム、エレクトロスプレーイオン化(Electrospray Ionization:ESI)システム、大気圧化学イオン化(Atmospheric Pressure Chemical Ionization:APCI)システム、及び、誘導結合プラズマ(Inductively Coupled Plasma:ICP)システムを用いて、質量分析システムにおいてイオンを生成することができる。これらのシステムの多くは、大気圧(760トル)下でまたは大気圧に近い圧力下でイオンを生成する。生成された検体イオンを、質量分析計に導入しまたは質量分析計中でサンプリングする必要がある。典型的には、質量分析計の分析部分は、10−4トル〜10−8トルの高真空レベルに維持されている。実際には、イオンのサンプリングには、間にある1つ以上の真空チャンバーを通じて、イオン源から検体イオンを狭く閉じ込められたイオンビームの形態で、高真空の質量分析計のチャンバーへと運ぶことが含まれる。中間の真空チャンバーの各々の真空レベルは、該中間の真空チャンバーの直前にあるチャンバーの真空レベルと該中間の真空チャンバーの直後にあるチャンバーの真空レベルとの間の真空レベルに維持される。したがって、イオンビームは、イオン形成に関連付けられた圧力レベルから質量分析計の圧力レベルへと圧力が段階的に移行する中で検体イオンを運ぶ。ほとんどの用途において、イオンを有意に損失することなく、質量分析システムの種々のチャンバーの各々を通じてイオンを運ぶことが望ましい。質量分析システム中を規定された方向にイオンを移動させるためにイオンガイドがよく使用される。
【0003】
イオンガイドは、典型的には、イオンを半径方向に閉じ込める(制限する)一方で、軸方向へのイオンの運搬を可能または促進するために電磁界(電磁場)を用いる。1つのタイプのイオンガイドは、しばしば無線周波数(RF:または高周波数)スペクトルの形態である時間依存性の電圧を印加することによって多重極場を生成する。これらのいわゆるRF多重極イオンガイドは、イオントラップのコンポーネントとしてだけではなく、MSシステムの構成要素間でイオンを伝送させることを伴う種々の用途で用いられている。RFガイドは、緩衝ガス中で動作するときには、軸方向と半径方向の両方においてイオンのイオンエネルギー(速度)を小さくすることができる。軸方向及び半径方向におけるかかるイオンエネルギーの低減は、緩衝ガスの低エネルギー中性分子とイオンとの多重衝突によるイオン集団 (ion populations)の「熱平衡化(thermalizing)」または「冷却(cooling)」として知られている。イオン集団を「冷却する」ために実施されるイオンガイドは、しばしば、衝突セルと呼ばれる。半径方向に圧縮された熱平衡化されたビームは、MSシステムのオリフィスを介するイオン伝送の向上、並びに、飛行時間形質量分析(time-of-flight:TOF)機器中における半径方向速度(または視線速度)の広がり(velocity spread)の低減に有効である。RF多重極イオンガイドは、イオンを該イオンガイド内部に閉じ込める疑ポテンシャル井戸(pseudo potential well)を形成する。他の用途、主に、三連四重極LC-MS(LC-MS:液体クロマトグラフィー質量分析法)では、高エネルギーイオンを断片化して、それらの分子構造に関する追加の情報を得るために衝突セルが使用される。
【0004】
断面が一定の多重極では、この擬ポテンシャルは、長さに沿って一定であり、したがって、入口及び出口以外では軸方向の力を生成しない。この末端効果を、多重極イオンガイドにレンズを設けることによって、または、他の技術によって、該イオンガイドの入口及び出口において克服することができる。これらのレンズは、イオンを多重極におけるRF場から保護(シールド)して、該多重極に出入りするのに十分なエネルギーをイオンに与えることができる。既知の多重極イオンガイドは、通常は、イオンを受け取るのに有効な比較的直径が大きな入口を有している。しかしながら、出口をそれと同じ大きさの直径にすることは、直径が小さなビームを該出口から送り出すのには望ましくない。とはいっても、実質的に一定の断面を有しない既知のイオンガイドは、軸方向の力を生成する可能性がある、伝送軸に沿った変化する擬ポテンシャル障壁を形成するが、これによって、イオンの減速、場合によってはイオンの反射が生じうる。最後に、イオン冷却に有効な緩衝ガスが、イオンガイドにおけるイオン失速(イオンストール)を引き起こす可能性もある。これらの失速及びイオン減速を生じる力を、多重極アセンブリ中の抵抗性ロッドに沿ってDC勾配を追加することによって、克服、すなわち解消することができる。このDC勾配は、通常は約2V〜約10Vのオーダーであり、衝突セルアセンブリの軸に沿ってイオンを強制的に移動させる加速電圧場を生成する。
【0005】
衝突セル(コリジョンセルまたは衝突室ともいう)もまた、イオンを閉じ込めてガイドするためのイオンガイドを含む。衝突セルはチャンバーを有し、該チャンバー内で、イオンが中性分子と衝突し、その結果、イオンのフラグメンテーション(イオンの開裂または断片化)が生じる。異なる検体イオンは、それぞれに異なる特徴的な態様でフラグメンテーションを生じるので、フラグメンテーションパターンは、検体イオンの構造及び個性(アイデンティティ)に関する重要な情報を提供する。衝突によって、「熱平衡化(thermalizing)」または「冷却(cooling)」として知られる、イオン中のエネルギーの減少も生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許出願第2010/0301210号明細書
【特許文献2】米国特許7,064,322号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
衝突セルを具備する既知の質量分析システムの欠点の1つは大きさである。より小さくてコンパクトな計器を提供することに対する要望が高まりつつある中、質量分析計の構成要素のサイズ(「フットプリント」)を小さくすることが必要とされている。
【0008】
したがって、質量分析システムを通るようにイオンをガイドし、かつ、既知の装置の上述の欠点を少なくとも克服する装置が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
代表的な1実施形態によれば、衝突セルは、各々が第1の端部と、該第1の端部から離れたところにある第2の端部を有する(複数の)ロッドと、隣接する対をなすロッドの間に接続されたインダクターと、隣接する対をなすロッド間に無線周波数(RF)電圧を印加するための手段と、各ロッドの長さに沿って直流(DC)電圧降下を与えるための手段を備える。該RF電圧は、ロッド間のある領域に多重極場を形成する。
【0010】
本教示は、添付の図面を参照して以下の詳細な説明を読むことによって最も良く理解される。特徴部は必ずしも正しいスケールで記載されているわけではない。同様の特徴には同じ参照番号が付されている(以下、質量分析システムをMSシステムともいう)。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1A】代表的な1実施形態にしたがうMSシステム100の略ブロック図である。
【図1B】別の代表的な1実施形態にしたがうMSシステム100の略ブロック図である。
【図2A】代表的な1実施形態にしたがう衝突セルのイオンガイドの平面図である。
【図2B】別の代表的な1実施形態にしたがう衝突セルの平面図である。
【図3A】図2A及び図2Bの線3A−3Aに沿ったイオンガイドのロッド/衝突セルのロッドの断面図である。
【図3B】図2A及び図2Bの線3B−3Bに沿ったイオンガイドのロッド/衝突セルのロッドの断面図である。
【図4A】代表的な1実施形態にしたがう衝突セルのイオンガイドの平面図である。
【図4B】別の代表的な1実施形態にしたがう衝突セルの平面図である。
【図5A】代表的な1実施形態にしたがうイオンガイド/衝突セルの等価回路を示す。
【図5B】代表的な1実施形態にしたがうイオンガイド/衝突セルの等価回路を示す。
【図5C】代表的な1実施形態による衝突セルの等価回路を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
用語の定義
本願で使用されている用語は、特定の実施形態を記述することだけを目的としており、限定することは意図されていないことに留意されたい。定義されている用語は、さらに、本教示の技術分野において広く理解され受け入れられている該用語の技術的意味及び科学的意味を有する。
【0013】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用されている、「ある」、及び「その」または「該」という語は、1つのものを参照している場合と複数のものを参照している場合の両方を含む(但し、それら以外のものを参照していることが文脈上明確である場合を除く)。したがって、たとえば、「ある装置」は、1つの装置と複数の装置を含む。
【0014】
本願において使用されている「衝突セル」という用語は、イオンをガス(「衝突ガス」)と衝突させるための装置である。衝突セルは、典型的には、チャンバー及び該チャンバー内にあるイオンガイドを備えており、該チャンバーは、衝突ガスを受け入れるための入口を備えている。本教示の衝突セル内のイオンガイドは、四重極(quadrupole)、六重極(hexapole)、八重極(octopole)、十重極(decapole)、または、他のより高次の極の電界を確立して、イオンのビームを収容し及び導くように構成される。また、本願において使用されている「衝突セル」という用語は、四重極(quadrupole)、六重極(hexapole)、八重極(octopole)、十重極(decapole)、または、より高次の極の電界を確立して、イオンのビームを収容し及び導くように構成された衝突セルを意味する場合もある。
【0015】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用されている「実質的な」または「実質的に」という用語は、これらの通常の意味に加えて、許容可能な限界または程度の範囲内にあることを意味する。たとえば、「実質的に削除された」は、当業者であれば削除を許容できるとみなすであろうことを意味している。
【0016】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用されている「ほぼ」や「約」という用語は、これらの通常の意味に加えて、当業者にとって許容できる限界または量の範囲内にあることを意味する。たとえば、「ほぼ同じ」は、当業者であれば比較されている事物が同じであると考えるであろうことを意味している。
【0017】
以下の詳細な説明では、本教示を完全に理解できるようにするために、特定の細部を開示する代表的な実施形態について説明するが、これは説明のためであって本発明を限定するためのものではない。例示的な実施形態の説明を不明瞭にしないようにするために、既知のシステム、装置、材料、動作方法、製造方法についての説明は省略されている場合がある。とはいっても、当業者が理解し得る範囲内にあるシステム、装置、材料、及び方法を、代表的な実施形態にしたがって用いることができる。
【0018】
図1Aは、代表的な1実施形態にしたがう、タンデム型のMSシステム100の略ブロック図である。MSシステム100は、イオン源101、第1の質量分析計102、衝突セル103、第2の質量分析計104、及びイオン検出器105を備える。イオン源101を、いくつかの既知のタイプのイオン源のうちの1つとすることができる。質量分析計102、104の各々を、タンデム型質量分析システムに適合するように組み合わせることができる、飛行時間型(TOF)計器(または、飛行時間型質量分析計)、フーリエ変換型質量分析計(FTMS)、イオントラップ、四重極質量分析計、または、磁場型質量分析計(これらには限定されないが)を含む既知の種々の質量分析計のうちの1つとすることができる。同様に、イオン検出器105は、いくつかの既知のイオン検出器のうちの1つである。
【0019】
使用時には、イオン源101において生成されたイオン(該イオンの概念上の経路が図1Aにおいて矢印で示されている)が、第1の質量分析計102によってフィルタリングされるか、または、分析される。次にそれらのイオンは、衝突セル103においてフラグメント化(断片化)されて娘イオン(daughter ion)が生成されて、該娘イオンが第2の質量分析計104によって分析される。イオンは質量分析計104からイオン検出器105へと移動して、該イオン検出器105においてイオンが検出される。
【0020】
図1Bは、別の代表的な1実施形態にしたがう、MSシステム100の略ブロック図である。MSシステム100は、イオン源101、多重極イオンガイド102、チャンバー103(たとえば、真空チャンバー)、質量分析計104、及びイオン検出器105を備える。イオン源101を、いくつかの既知のタイプのイオン源のうちの1つとすることができる。質量分析計104を、飛行時間型(TOF)計器(または、飛行時間型質量分析計)、フーリエ変換型質量分析計(FTMS)、イオントラップ、四重極質量分析計、または、磁場型質量分析計(これらには限定されないが)を含む既知の種々の質量分析計のうちの1つとすることができる。同様に、イオン検出器105は、いくつかの既知のイオン検出器のうちの1つである。
【0021】
図1Bの多重極イオンガイド102について、代表的な実施形態を参照してより詳細に説明する。多重極イオンガイド102を、チャンバー103内に設けることができるが、該チャンバーは、イオン源101と質量分析計104の間にある1つ以上の圧力遷移段を提供するように構成されている。これは、イオン源101は、通常、大気圧またはその近くの圧力に維持されており、及び、質量分析計104は、通常、比較的高い真空状態に維持されているからである。代表的な実施形態によれば、多重極イオンガイド102を、比較的高い圧力から比較的低い圧力へと変化するように構成することができる。イオン源101を、種々の既知のイオン源のうちの1つとすることができ、及び、該イオン源101は、スキマー、多重極、開口部、直径の小さな導管、イオン光学系(但し、これらには限定されない)を含む、追加のイオン操作装置及び真空隔壁を備えることができる。1つの代表的な実施形態では、イオン源101は、それ自体の質量フィルタを有し、チャンバー103は衝突セルから構成される。いくつかの代表的な実施形態の衝突セルについては後述する。
【0022】
多重極イオンガイド102を含む衝突セルを備える質量分析システムにおいて、中性ガス(しばしば「緩衝ガス」と呼ばれる)をチャンバー103中に導入して、イオンの「冷却」を容易にすることができ、及び、多重極イオンガイド102を通って移動するイオンの断片化(イオンフラグメント化)を促進することができる。複数の質量/電荷分析システムで使用されるそのような衝突セルは、「三連四重極(triple quad)」システムまたは単に「QQQ」システムとして当該技術分野において既知である。
【0023】
代替の実施形態では、衝突セルはイオン源101に含まれており、多重極イオンガイド102は、それ自体のチャンバー(たとえば、チャンバー103)内にある。好適な実施形態では、衝突セル及び多重極イオンガイド102は、チャンバー103内の別個の装置である。
【0024】
使用時には、イオン源101において生成されたイオン(該イオンの概念上の経路が図1Bにおいて矢印で示されている)が、多重極イオンガイド102に提供される。多重極イオンガイド102は、イオンを移動させて、種々のガイドパラメータの選択によって決定される画定された位相空間を有する比較的範囲が限定されたビームを形成する。イオンビームは、多重極イオンガイド102から現れて、質量分析計104に導入され、該質量分析計においてイオン分離が生じる。これらのイオンは、質量分析計104からイオン検出器105へと移動し、該検出器でイオンが検出される。
【0025】
図2Aは、代表的な1実施形態にしたがう衝突セル200内のイオンガイドの一部の平面図である。図2Bは、別の代表的な1実施形態にしたがう衝突セル200の平面図である。衝突セル200を、MSシステム100の構成要素(たとえば、多重極イオンガイド102の構成要素)とすることができ、該衝突セルを用いて、軸方向及び半径方向におけるイオン速度を小さくする。すなわち、イオンと、緩衝ガスを構成する比較的エネルギーの小さな中性分子との何回もの衝突によって、イオン集団が「熱平衡化」または「冷却」される。図2A及び図2Bに示すそれぞれの実施形態において、衝突セル200は、6つのロッドを有し、したがって、六重極のRFフィールド(RF場)を提供する。図2A及び図2Bには、特に、第1のロッド201、第2のロッド202、第3のロッド203を示しており、他の3つのロッドは、図2A及び図2Bの選択された視点からは見えない。選択されたこの六重極イオンガイドは単に例示であって、本教示は、多重極イオンガイドを備える他の衝突セルにも適用可能であることを強調しておく。1例として、衝突セル200を、4つのロッドまたは8個のロッドから構成することができ、これによって、四重極または八重極の電界をそれぞれ生成することができる。代表的な1実施形態では、ロード201〜203は、円弧状である(すなわち、弓形または湾曲している)。ロッド201〜203の曲率半径は、それらのそれぞれの長さに沿って変わりうる。図2Bに示す実施形態では曲率半径が「r」で示されている。いくつかの実施形態では、ロッド201〜203は、それらの長さ(すなわち、ロッド201〜203のそれぞれの末端部間)に沿った実質的に円の曲率半径を有する。しかしながら、これは単なる例示であって、他の形状を採用することもできる。図2Bの衝突セルでは、一般に、ロッド201〜203は、それらの長さに沿って楕円状の曲率を有する。ロッド201〜203の長さに沿ったそれらの円弧状の形状によって、イオンの誘導経路(guide path)を変更することができる。たとえば、代表的な1実施形態によれば、衝突セル200を横断する際のイオンの誘導経路における変化は約90度である。後述するように、「まっすぐな」ロッドを有する衝突セルに比べて、この代表的な実施形態の衝突セル200は、占有する全体領域をより小さくしつつ、同様の経路長に沿ってイオンを誘導することができる。したがって、湾曲したロッドを使用することによって、フットプリントを小さくすることができる。
【0026】
ロッド201〜203は、1例としてロッド210〜203と実質的に同じ円弧状の形状を有するハウジング(またはケース)(図2A及び図2Bには示されていない)内に設けられている。代替的には、このハウジングは、正方形や長方形などの他の形状を有することができる。該ハウジングは、一般的に、導電性材料から形成され、該ハウジングを用いて電気的アースを提供することができる。いくつかの例を挙げると、該ハウジングは、金属、または金属合金、導電性の複合材料、導電性のセラミック材料、または、導電性のポリマーから構成される。さらに、ロッドホルダー(不図示)を該ハウジング内に設けて、ロッド201〜203の位置を保持することができる。ロッドホルダーを用いて、ロッド201〜203に選択的な電気的接続(電気接続)を提供することができる。
【0027】
ロッド210〜203は、それぞれ、第1の端部204及び第2の端部207、第1の端部205及び第2の端部208、第1の端部206及び第2の端部209を有する。より詳細に後述するように、図2Aに示すようなロッド201〜203は、一般に、入力(入口)210と、該入力210から離れた他方の端部にある出力(出口)211を有する先細構造をなして配置されている。より詳細に後述する代表的な1実施形態では、ロッド201〜203は、入力210及び出力211において実質的に円形配列をなして配置されたロッドである。代表的な実施形態では、中央のロッド(たとえばロッド201)は、ほぼ一定の曲率半径を有するが、内側のロッド(たとえばロッド202)及び外側のロッド(たとえば203)はそうではない。かかる実施形態において、及び、図2Aを特に参照すると、ロッド202の半径は、該ロッドの長さ(すなわち、第1の端部205と第2の端部208の間の長さ)とともに(または該長さに沿って)大きくなるが、ロッド203の半径は、その長さ(すなわち、第1の端部206と第2の端部209の間の長さ)とともに(または該長さに沿って)小さくなる。このように、内側ロッド及び外側ロッドは、それらの長さに沿って変化するそれぞれの半径を有し、これによって、より小さなパターンを提供することが意図されている。入力210から出力211までの衝突セル200の長さに沿ったロッド201〜203のパターンは実質的に同じである。たとえば、入力210における円形のロッドパターンは、衝突セル200の長さ全体に沿って実質的に同じ円形パターンを維持するが、実際の幾何学的寸法は、出力211までの長さに沿って一定の比率で小さくなる。これとは対照的に、ロッド201〜203の半径が一定であったならば、それらのロッドは、衝突セル200の多重極(本実施形態では六重極)の長さ全体(すなわち、入力210と出力211の間の長さ)にわたって実質的に平行になるであろう。
【0028】
上述したように、ロッド201〜203の湾曲に起因して、入力201は出力211に平行には向いておらず、出力211に対して非ゼロの角度の方向を向いている。例示的には、入力210を、出力211に対して約90°の角度をなすように配置することができる。入力210を出力211に実質的に垂直に設けるためのロッド201〜203のこの曲率の選択は単なる例示であって、ロッド201〜203の曲率半径を選択することによって、これとは異なる向きに入力210を配置することも可能であることを強調しておく。たとえば、図2A及び図2Bに示す入力210は、出力211に平行でも逆平行でもなく、出力211に垂直でもない。このように、湾曲したロッド201〜203は、衝突セル200のフットプリントの低減を促進する。
【0029】
第1の端部204〜206は、第2の端部207〜209からそれぞれ離れており、入力210においてロッド201〜203の第1の端部204〜206に接する内接円の半径は、出力211においてロッド201〜203の第2の端部207〜209に接する内接円の半径よりも大きい。別の実施形態では、ロッド201〜203を、実質的に円をなすように、入力210及び出力211に配列するのではなく、ロッド201〜203を、楕円の周囲に(または楕円をなすように、すなわち楕円状に)配置することができる。楕円状の対称的な配置によって、(上述の実施形態と)同様にイオンを閉じ込めるRF擬ポテンシャル保持場を生じることができる。最後に、ロッド201〜203を入力210に円状に配置し、及び、出力211において実質的に平坦となるように(すなわち、実質的に平坦な面上に)配置することによって、既存のイオンが、比較的長くかつ狭い形状のビームを形成するようにすることができる。ロッド201〜203のかかる構成法のさらなる詳細は、2009年5月28日に提出された、「Converging Multipole Ion Guide For Ion Beam Shaping」と題する、J.L. Bertsch他を発明者とし、本願と出願人が同一である米国特許出願公開第2010/0301210号に見出すことができる。該特許出願の全開示内容は、参照により本明細書に具体的に組み込まれるものとする。
【0030】
代表的な1実施形態において、ロッド201〜203は、セラミックまたは他の適切な電気的絶縁材料から構成される。いくつかの実施形態では、ロッド201〜203はまた、抵抗性の外部層(不図示)を備える。この抵抗性の外部層によって、ロッド201〜203のそれぞれの第1の端部204〜206とそれぞれの第2の端部207〜209の間に直流電圧差を生じさせることができる。抵抗性の外部層はまた、衝突セル200内にイオンを保持するために必要な電磁界(または電界)を生成するRF信号を伝搬することができる。別の実施形態では、ロッド201を、所有者が本願と同一である、Crawford他を発明者とする「Mass Spectrometer MultipoleDevice」と題する米国特許7,064,322号に記載されたようなものとすることができる。該特許の開示内容は、全ての目的で参照によって本明細書に具体的に組み込まれるものとする。この場合には、ロッド201〜203は、導電性の内部層(不図示)及び抵抗性の外部層(不図示)を有することができ、これによって、ロッド201〜203は、該ロッド201〜203の抵抗性の外部層にRF電圧を供給するための分布コンデンサ(または分布キャパシタンス)として構成される。導電性の内部層は、薄い絶縁層(不図示)を通じて抵抗性の外部層へとRF電圧を供給する。
【0031】
ロッド201〜203は、種々の断面形状のうちの1つ以上の断面形状を有する。いくつかの実施形態では、ロッド201〜203の断面は実質的に円筒形であり、それらのロッドの各々の長さに沿って、該断面の直径は実質的に一定である。また、いくつかの実施形態では、ロッド201〜203の直径について、それらのそれぞれの第1の端部204〜206における直径の方が、それらのそれぞれの第2の端部207〜209における直径よりも大きい。さらに別の実施形態では、ロッド201〜203は、それらの長さに沿ってテーパー状をなしており(すなわち、先細り形状であり)、この場合も、それぞれの第1の端部204〜206における直径の方が、それぞれの第2の端部207〜209における直径よりも大きい。先細り(漸減)の程度を選択することができ、ロッド201〜203は円錐形状を有することができる。ロッド201〜203の直径が第1の端部204〜206と第2の端部207〜209とで異なる実施形態では、それぞれの第1の端部204〜206におけるロッド201〜203の直径は、イオンアクセプタンス(ion acceptance)のためにより好適な電界構成を提供するように比較的大きなものが選択され、それぞれの第2の端部207〜209におけるロッド201〜203の直径は、イオン閉じ込め(ion confinement)を改善するために比較的小さなものが選択される。ロッド201〜203のいくつかの側面を、出願人が本願と同一である、J.L.Bertsch他を発明者とする「CONVERGING MULTIPOLE ION GUIDE FOR IONBEAM SHAPING」と題する米国特許出願第12/474,160に見いだすことができる。2009年5月28日に提出された該米国特許出願の全開示内容は、参照によって本明細書に具体的に組み込まれるものとする。
【0032】
ロッド201〜203の円弧形状によって、イオンが衝突セル200を横断する際のイオンの誘導経路の方向を変えることができる。衝突セル200の誘導経路の方向をこのように変えることによって、(多重極)イオンガイド102を、MSシステム100内においてかなり小さい領域(フットプリント)を占める計器パッケージ全体内に収容することが可能になる。少し言い方を変えれば、ロッド201〜203に円弧形状部を設けることによって、より小さな全体領域内である特定の距離だけイオンを誘導することが可能になる。これとは対照的に、「まっすぐな」すなわち直線状の誘導要素を有する既知の衝突セルは、物理的により長い直線状のイオン光学経路を必要とするが、これによって、全計器を収容するためにより大きな領域が必要になる。有益なことに、ある選択された曲率半径(r)及びある選択された長さ(この長さに沿ってイオンが閉じ込められ、及び/または冷却される)の円弧状のロッド201〜203を設けることによって、計器全体の「フットプリント」はより小さくなるであろう。
【0033】
「まっすぐな」衝突セルに比べて計器のフットプリントを小さくする衝突セル200を提供するという利益に加えて、円弧形状に起因してノイズも減少する。とりわけ、RF疑ポテンシャルイオン保持場が、ロッド201〜203の軌道すなわち経路に沿ってイオンを誘導し、これによって、イオンがイオンガイド200(または衝突セル200)の円弧状経路をたどって進むようにする。当然のことであるが、イオンだけが、衝突セル200のロッド201〜203の入力210と出力211の間の電界(不図示)によって誘導される。その結果、イオンは、ロッド201〜203の経路に平行な円弧状経路を移動する。これとは対照的に、図1Aのイオン源101中のイオン化プロセスの一部として生成されたいくつかの液滴、粒子、及び中性分子(集合的に「中性粒子」と呼ぶ)は、質量分析計102に入り、次に、衝突セル103に入る。これらの中性粒子は電界によっては誘導されないだろう。これらの中性粒子の大部分は、ロッド201〜203の1つ及び/または衝突セル200のハウジングと衝突し、それらのエネルギーを放散して、イオン検出器105には到達しないより小さくよりエネルギーの低い中性粒子になる。このように、これらの中性粒子はイオン検出器105に入射してバックグラウンドノイズ信号に寄与するのではなく、衝突セル200の入力210と出力211の間の圧力差によって送り出される。その結果、これらの中性粒子の大部分は、湾曲したロッド201〜203に接する経路を移動し、衝突セル200の出力211へは誘導されない。また、衝突セル200中にある緩衝ガス分子及び溶媒ガス分子は、電界によってはガイド(誘導)されず、衝突セル200の入力と出力211の間の圧力差によって押し動かされる。その結果、緩衝ガス及び溶媒ガスの少なくとも一部が、半径(r)に垂直な(すなわち、ロッド201〜203の接線方向の)経路を横断し、衝突セル200の出力211には誘導されない。出力211に緩衝ガス及び溶剤ガス(solvent gas)の少なくとも一部が存在しないことによって、検出器105への中性粒子の入射量が少なくなり、その結果ノイズが小さくなる。当然のことながら、かかるノイズの低減によって、信号対ノイズ比(SNR)が高くなるために、検出可能な最小の検体イオンピークが増加するという利点がもたらされる。
【0034】
イオンの「冷却」に加えて、衝突セル200は、比較的エネルギーが高い検体イオンのフラグメンテーションを促進する。当然のことながら、フラグメンテーションによって、分析対象の分子の分子構造をより精密に決定することが可能になる。到来する検体イオンのイオンエネルギーが増加して分子間結合が破断しはじめると、フラグメンテーションが生じて、元のイオンのフラグメント(断片)が生じる。これらのイオンフラグメントは、質量スペクトルについて分析されて、ユーザーに分子構造を知らせる情報を生成する。
【0035】
図3Aは、3A−3Aのラインに沿った図2A及び図2Bに示す衝突セル200のロッドの断面図である。具体的には、図3Aの断面図は、衝突セル200のロッド201〜203の入力210を示している。上述したように、衝突セル200のロッドは、例示的に六重極構成をなして配列されており、したがって、6個のロッドが配列されている。こうして、ロッド201〜203に加えて、ロッド301、302及び303が、入力210において半径r1の内接円のまわりに概ね配列されている。ロッド301〜303は、上述のロッド201〜203と実質的に同じである。そのようにするために、ロッド301〜303は、ロッド201〜203と同じ形状、同じ断面、同じ曲率半径、同じ長さを有し、同じ組成及び材料から構成されている。
【0036】
周知のように、衝突セル200中に多重極(今の例では六重極)場を実現するために、ロッドを交番的に電気的に接続する。そこで、たとえば、ロッド201、301、303が電気的に接続され、ロッド202、302、203が電気的に接続される。
【0037】
図3Bは、3B−3Bのラインに沿った図2A及び図2Bに示す衝突セル200のロッドの断面図である。具体的には、図3Bの断面図は、衝突セル200のロッド201〜303の出力211を示している。図示のように、ロッド201〜303は、出力211において半径r2を有する内接円のまわりに概ね配列されている。上述したように、図2Aに示すロッドは、入力210と出力211の間に収束する(先細りする)形態で配列されているので、(図中では半径r1と半径r2は同程度の寸法で示されているけれども)半径r1は半径r2より大きい。半径r1は、衝突セル200に入るイオンビームを通過させるのに十分な大きさとなるように選択される。そのようにするために、図1Aの質量分析計102から到来するイオンビームは、衝突セル103を出る熱的に冷却されたイオンビームよりもはるかに高いイオンエネルギーを有している。衝突セル200は、次の光学要素にイオンを効率的に伝達するために、該衝突セル200から出るときの直径が比較的小さいビームを生成することが必要である。既知の衝突セルにおけるイオンガイドの直径は一定であり、したがって、衝突セルから出る小さなビームを生成するための必要性と、衝突セルに入る高エネルギーのイオンを捕捉するために入口におけるイオンガイドをより大きくする必要性との間で妥協が必要とされる。典型的には、既知の衝突セルの入口と出口とにおけるビーム径の比は、1.5:1と3:1の間である。これとは対照的に、半径r1が半径r2よりも大きく、テーパー状のロッドを伴う代表的な実施形態の衝突セル200は、そのような妥協を必要としない。入力210における面積(または領域の寸法)を、比較的エネルギーが高い入射ビームを捕捉するのに十分な大きさにすることができ、出力211における面積(または領域の寸法)を、イオンビームを次の光学要素に効率的に伝達するのに十分に小さくすることができる。代表的な1実施形態では、図3A、図3Bに示す半径r1とr2の比(r1:r2)は、約1:1と約4:1の間である。4:1より大きな比は一般に回避される。なぜなら、そのように比が大きいと、出力211においてイオンストール(ion stalling:イオン失速)が生じる可能性があるからである。
【0038】
半径r1は、イオン源101から衝突セル200に入ってきたイオンをより多数捕捉するように選択される。そこで、入力210の面積(または領域の寸法)は、イオン源101からのイオンの適切なサンプリングを確保するために最適化される。これとは対照的に、半径r2は、イオン検出器105に送るために「冷却された」イオンを閉じ込めることができるように選択される。入力210のより大きな面積(または領域の寸法)は、イオンのより多くの部分を捕捉可能にすることによって、信号対ノイズ比(SNR)の向上を促進する。
【0039】
さらに、及び、上述したように、ロッド201〜303は、それらのそれぞれの第1の端部(すなわち、入力210)において、それらのそれぞれの第2の端部(すなわち、出力)における断面直径より大きな第1の断面直径を有する。ロッド201〜303の断面直径の差は、図3Aと図3Bを比較することによって理解することができる。
【0040】
代表的な実施形態のロッド201〜303を備える衝突セル200は、多くの利点及び利益をもたらす。しかしながら、抵抗性のロッドの使用は、ジュール効果による加熱を生じる場合がある。抵抗(ジュール)加熱は、ロッド201〜303の長さにわたってAC(交流)電圧とDC(直流)電圧の両方を印加することによって生じる。当然のことながら、衝突セル200の任意の構成要素による該衝突セル200内の過度の加熱は逆効果になりうる。具体的には、衝突セル200の機能は、イオンが質量分析計104及びイオン検出器105に衝突する前に、該イオンの運動エネルギーを小さくすることである。衝突セル200内で発生した熱は、イオンの運動エネルギーが大きくする可能性があり、それゆえ、衝突セル200の目的に反する結果を生じる可能性がある。さらに、ロッド201〜303によって生成される過度の熱は、最終的に、衝突セルの構造の機械的故障を生じる場合があり、及び、最終的に、衝突セルの信頼性に悪影響を及ぼす場合がある。そこで、衝突セル200内の加熱を可能な限り実質的に阻止または緩和することが有益である。
【0041】
ロッド201〜303に沿った電流の伝導によって引き起こされる加熱の影響を緩和するための1つの手段は、熱を放散することである。しかしながら、衝突セル200の比較的圧力が低い(たとえば、真空または真空に近い)環境においてロッド201〜203から熱を除去することは最善ではない。さらに、熱の放散は、通常、ロッド201〜303と支持構造(該支持構造の細部は図示されていない)の間の熱伝導を最適化することによって達成される。ロッド201〜303とそれらの支持構造の間の熱伝導の利用は、ロッド201〜303の物理的なサイズ及び結果として生じる最小の熱伝導領域(または該領域の物理的なサイズ)によって、並びに、衝突セル200のサイズ(「フットプリント」)を小さくするという競合する利益によって制約される。
【0042】
図4A、図4Bは、代表的な2つの実施形態のそれぞれにしたがう衝突セル400のイオンガイドの平面図である。それぞれの衝突セル400は、図2A〜図3Bに関連して上述した衝突セル200と共通する多くの特徴を有する。この実施形態の説明を不明瞭にするのを避けるために、それらの共通する特徴の多くについては繰り返さない。
【0043】
図4A、図4Bのそれぞれの衝突セル400は、図4A、図4Bにそれぞれ示されているロッド201〜203、及び、図4A、図4Bには示されていないロッド301〜303を備えている。各実施形態におけるロッド201〜203は、それぞれの実施形態に対応するハウジング(不図示)内に配置されており、それぞれのハウジングは、図2Aに示すロッド201〜203の円弧形状と実質的に同じ円弧形状を有し、または、図2Bに示すロッド201〜203の曲率半径rと実質的に同じ曲率半径を有する円弧形状を有する。上述したように、該ハウジングは、必ずしも、ロッド201〜203と実質的に同様の形状である必要はない。さらに、衝突セル400の円弧形状は単なる例示であって、衝突セル400の他の形状を採用できることを強調しておく。とりわけ、衝突セル400を、収束配列をなすように配置された実質的に「まっすくな」ロッドから構成することができるが、これは、たとえば、J.L Bertsch他を発明者とする上記の米国特許出願に記載されている。
【0044】
図4Aでは、インダクター(コイル)401が、ロッド201〜203(及び、図4Aには示されていないロッド301〜303)の全長の実質的に中間の位置に接続されている。上述したように、ロッド201〜303を交番的に電気的に接続することによって六重極場が生成される。インダクター401は、(該インダクター401以外の方法によっては電気的に接続されない)2つのロッド間に接続される。1例として、ロッド201とロッド301とロッド303が電気的に接続され、ロッド202とロッド302とロッド203が電気的に接続されて、六重極場が生成される場合を想定する。この例では、インダクター401を、ロッド201とロッド203の間に接続して、接続されているロッド201、301、303の組と、接続されているロッド202、302、203の組との間に電磁結合(または誘導結合)を生成することができる。本教示によれば、ロッドの加熱は、RF駆動電圧によって生じる、ロッド201〜303を流れる無効電流を少なくすることによって低減される。代表的な1実施形態では、ロッド201〜303を流れる無効電流の低減は、ロッド201〜203(及び301〜303(但し図4A及び図4Bには示されていない))の全長のほぼ中間点にインダクター401(図4Aの場合)/インダクター402(図4Bの場合)を電気的に接続することによって達成される。より詳細に後述するように、図4Aのインダクター(コイル)401及び図4Bのインダクター(コイル)402が、それぞれ、図2A、図2Bのロッド201〜303の漂遊容量と共に並列L−C回路を形成する。電気損失効果は、それぞれのロッド201〜303の直列抵抗と、漂遊容量による無効電流に起因して生じる。インダクターがない場合の無効電流Iは約Vpp/Xcである。ここで、リアクタンス(Xc)は、ロッドの抵抗Rよりもはるかに大きい(Xc>>R)ことが想定されている。ロッド201〜303を、一連の集中素子をなす抵抗とコンデンサで近似することができる。
【0045】
代表的な1実施形態によれば、ロッド201〜303の最も中央にあるポイントにおいて共振状態を生じることによって、電力放散(電力消費)、エネルギー損失、及び過度のジュール加熱が改善される。しかしながら、動作中に電流が流れると、漂遊容量の分散性のために、ロッド201〜303は、それらのそれぞれの端部と中央部の間でさらなるエネルギーを放散する。別の実施形態では、追加のインダクター(不図示)を、ロッド201〜303のそれぞれの端部とロッド201〜303の最も中央のポイントとの間の中間地点に配置することができる(すなわち、ロッド長の1/4の間隔、ロッド長の1/2の間隔、ロッド長の3/4の間隔で配置することができる)。これらの追加のインダクターの配置によって、無効電流がさらに減少し、ロッド201〜303の最も中央のポイント(ロッドの全長の1/2のポイント)だけにインダクター401/インダクター402を備える構成に比べてさらに約50%電力損失が低減するという改善がもたらされるだろう。追加のインダクターが、既に設けられているインダクター及び/またはロッド端部の間の中間ポイントに配置されるので、電力損失は、漸近的にゼロに近付くことになるであろう。
【0046】
代表的な1実施形態によれば、図4Aの401及び図4Bのインダクター402は、実質的に円筒形状であて、導電性の円筒状のコアを備え、該コアのまわりに(または該コアの近辺)に導電性の巻き線が配置されている。たとえば、インダクター401及び402は、フェライト磁心を備えることができ、その場合、導電性の巻き線が該フェライト磁心のまわりに円筒状に配置される。代替的には、インダクター401及び402は、導電性の巻き線を有する空芯コイル、または、導電性の巻き線を有するフェライトコアもしくは導電性の巻き線を有する非フェライトコアから構成することができる。さらに、インダクター401及び402は、トロイダル構成(すなわち、ドーナツ状の構成)、または、ロッド構成、または、E-core(イー・コア)構成を有することができる。フェライトコアは有益であって、比較的Qファクタ(quality factor)が高い適度なQ、及び、周囲の導体(たとえば金属)への熱伝導/熱放散のための適切な経路を提供する。
【0047】
インダクター401及び402のQファクタ(Q)及びインダクタンスの大きさは、衝突セル400のRF周波数に対して最適化される。一般に、インダクター401及び402のQファクタ(Q)は、少なくとも102以上のオーダーである必要がある。可能な限り最高のQ値を有するインダクターを設けることが有利である。当然のことながら、代表的な実施形態の衝突セル内の電力損失は、コイルと漂遊容量Cstrayが共振しているときのコイルの実効並列抵抗(Rp)に由来する電流(I=Vpp/Rp)に起因する。Qを可能な限り最大にすることによって、電力損失(または電気損失)が小さくなる。インダクタンスの大きさの選択は、もちろん、ロッド201〜303の漂遊容量と共振周波数の値に基づいて行われる。ここで、L=1/ω2Cstrayである。
【0048】
図5Aは、代表的な1実施形態にしたがう衝突セル(たとえば図2A及び/または図2Bの衝突セル200)の等価回路501を示す。ロッド201〜303は、典型的には、上述のような電気抵抗を有するコーティング(被膜)を有する非金属であり、軸のまわりに対称的に配置されている(たとえば、内接円の周りに配置された6個のロッドである)。ロッド201〜303は、等価回路501内の等価な分布抵抗506、507、508、509として近似される。ロッド201〜303は、(たとえば、AC源502及び変圧器503〜504からの)AC(交流)RF電圧で駆動される。このAC RF電圧は、一般に、同じ振幅及び位相でロッドの両端に印加される。さらに、DC(直流)電圧(たとえば505)を、ロッド201〜203の第1の端部204〜206と第2の端部207〜209の間に同時に印加して、それらのロッドのそれぞれの端部にそれぞれ異なるDC電位が維持されるようにするのが望ましい。いくつかの実施形態では、ロッド201〜303に(等価な分布抵抗器506〜509によって等価的に示されている)比較的高い電気抵抗を提供することによって、ロッド201〜203の第1の端部204〜206と第2の端部207〜209の間に(すなわち、ロッド201〜303の長さに沿って)DCオフセット(差動)電圧を生じさせる。ロッド201〜303の分布電気抵抗に加えて、ロッド間の分布漂遊容量(Cstray)510が提供される。図示のように、等価な分布抵抗506、507、508、509は、漂遊容量(Cstray)510と電気的に直列に接続されている。分布漂遊容量(Cstray)510は、等価な分布抵抗506〜509に比較的大きな無効電流を流して、ロッド201〜303に沿ってAC電圧を低下させる可能性がある。AC電圧のこの低下によって、ロッドの加熱及び所望のAC場の歪みが生じるだけではなく、駆動回路により大きな電流要件が必要になる。
【0049】
図5Bは、代表的な実施形態にしたがう図4A及び/または図4Bに示す衝突セル400の等価回路511を示す。それぞれの衝突セル400は、ロッド201〜303に由来する漂遊容量(Cstray)510と電気的に並列に接続されたインダクター(図4Aの実施形態の場合は401、図4Bの実施形態の場合は402)を備える。インダクター401/インダクター402は、(AC)RF周波数において漂遊容量510と共振するように選択されて、それらのロッドの中心部に配置された接続部に追加されている。したがって、インダクター401/インダクター402の大きさは1/ω02Cstrayによって算出される。尚、Cstrayは漂遊容量であり、ω0=2πf0でf0は共振周波数である。共振時は、漂遊容量510によって生じる無効電流が、該漂遊容量510と並列をなすインダクター401/インダクター402によって実質的に相殺される。その結果、生じる駆動電流は、インダクター401/インダクター402と漂遊容量(Cstray)510のL−C結合の並列抵抗、及び、ロッド201〜303の(抵抗506〜509からなる)直列抵抗に主に依存する。共振時は、同相の抵抗成分(Rp)がRp=QωLによって与えられる。Lは、1/ω2Cstrayによって算出され、ω=2πfである。インダクターがない場合の無効電流は、ロッドのリアクタンスXcと抵抗RについてXc>>Rであると仮定すると、おおよそVpp/Xcである。尚、リアクタンスXcはXc=1/ωCstrayによって与えられる。インダクターがある場合の電流はVpp/Rpであり、Rp>>Xcである。
【0050】
全ての分布容量を中間点のインダクターで相殺することはできないが、電源電流及び全電力要件は約50%だけ減少する。電力節約の程度は、インダクター401/インダクター402と漂遊容量510の並列インピーダンスと駆動回路のインピーダンスとの比に依存するだろう。
【0051】
図5Cは、代表的な1実施形態による衝突セル400の等価回路512を示す。等価回路512は、図示のように、等価分布抵抗器514、515として示されているロッド201〜303に接続された巻き線516、517及び518を有する変圧器513を備える。巻き線517及び518は、一例として、ロッド201〜303の各端部に位相及び振幅が実質的に等しいRF電圧を提供するために、バイファイラー巻とされている。巻き線516(及びインダクター)を用いて、RF電圧を巻き線517及び518中に結合する。フローティング電圧(floating voltage)源Vbias519を巻き線517及び518の中間タップに接続することにより、DC電圧がロッド201〜303に印加される。また、DC接続520が、グランド(接地)に対する衝突セルの400の電圧オフセットを提供するために、巻き線518の中間タップに供給される。巻き線517に供給される時間的に振幅が変化するRF電圧を、トランジスタまたは集積回路で実施された既知の回路を用いて生成することができる。フローティングバイアス源Vbiasによって供給される可変電圧は、変圧器513によって、または、他の既知の電圧分離技術によって他の回路のグランド(接地)から電気的に分離される。
【0052】
本開示で説明したインダクターを種々の多重極イオンガイドにおいて実施できることを強調しておく。いくつかの実施形態では、イオンガイドは衝突セル内にある。いくつかの実施形態では、ロッドは実質的にまっすぐであるが、他の実施形態では、ロッドは、該ロッドの長さに沿った湾曲部を有する。いくつかの実施形態では、イオンガイドの「入口」、すなわち、全てのロッドの第1の端部によって囲まれた領域は、イオンガイドの「出口」、すなわち、全てのロッドの第2の端部によって囲まれた領域よりも大きく、この場合、該イオンガイドが使用されているときには、イオンは、第1の端部から第2の端部に向かう方向に移動する。いくつかの実施形態では、各ロッドについて、第1の端部の断面の方が第2の端部の断面よりも大きい。
【0053】
例示的な1実施形態では、質量分析用の衝突セルは、第1の端部、及び、該第1の端部から離れたところにある第2の端部を各々が有する(複数の)ロッドを備え、各ロッドは、それぞれの第1の端部と第2の端部の間のある長さに沿った湾曲部を有し、各ロッドについて、第1の端部の断面の方が第2の端部の断面よりも大きく、ロッドの第1の端部は、第1の半径を有する第1の円のまわりに配置されており、第2の端部は、第2の半径を有する第2の円のまわりに配置されており、該第1の半径は該第2の半径よりも大きい。衝突セルはまた、対をなす隣接するロッド(以下、隣接するロッド対という)の間に無線(ラジオ)周波数(RF)電圧を印加するための手段と、各ロッドのある長さ(または全長)に沿って直流(DC)電圧降下を与えるための手段を備え、該RF電圧は、それらのロッド間のある領域(または全領域)に多重極場を生成する。
【0054】
例示的な1実施形態では、ロッドの各々は円の弧に近似している。
【0055】
例示的な1実施形態では、ロッドは電気抵抗を有する。
【0056】
例示的な1実施形態では、ロッドの各々は抵抗性のコーティング(皮膜)を備える。
【0057】
例示的な1実施形態では、衝突セルはさらに、隣接するロッド対の間に電気的に接続されたインダクターを備える。
【0058】
例示的な1実施形態では、質量分析システムは衝突セルを備える。衝突セルのロッドの各々は、第1の端部と、該第1の端部から離れたところにある第2の端部を有し、ロッドの各々は、それぞれの第1の端部と第2の端部の間のある長さに沿った湾曲部を有し、ロッドの各々について、第1の端部の断面の方が第2の端部の断面よりも大きく、ロッドの第1の端部は、第1の半径を有する第1の円のまわりに配置され、第2の端部は、第2の半径を有する第2の円のまわりに配置され、第1の半径は第2の半径よりも大きい。衝突セルはまた、隣接するロッド対間に無線周波数(RF)電圧を印加するための手段と、ロッドの各々のある長さ(または全長)に沿って直流(DC)電圧降下を与えるための手段を備え、該RF電圧は、ロッド間のある領域(または全領域)に多重極場を生成する。例示的な1実施形態では、ロッドの各々は、円の弧に近似している。例示的な1実施形態では、それらのロッドのそれぞれの第1の端部は全体で、衝突セルに入るイオンビームを通過させるのに十分な大きさの領域を囲んでいる。例示的な1実施形態では、ロッドは電気抵抗を有する。例示的な1実施形態では、ロッドの各々は、抵抗性のコーティング(皮膜)を備える。例示的な1実施形態では、衝突セルはさらに、隣接するロッド対の間に電気的に接続されたインダクターを備える。
【0059】
例示的な1実施形態では、イオンガイドは、各々が、第1の端部、及び、該第1の端部からはなれたところにある第2の端部を有する電気抵抗を有する(複数の)ロッドと、隣接するロッド対の間に接続されたインダクターと、隣接するロッド対間に無線周波数(RF)電圧を印加するための手段と、ロッドの各々のある長さ(または全長)に沿って直流(DC)電圧降下を与えるための手段を備え、該RF電圧は、ロッド間のある領域(または全領域)に多重極場を生成する。
【0060】
例示的な1実施形態では、インダクターは、ロッド対の各々の中間点に接続される。
【0061】
例示的な1実施形態では、ロッドの各々は、それぞれの第1の端部と第2の端部の間のある長さ(または全長)に沿った湾曲部を有する。
【0062】
例示的な1実施形態では、ロッドの各々は、それぞれの第1の端部と第2の端部の間のある長さ(または全長)に沿って実質的に直線状をなす。
【0063】
例示的な1実施形態では、衝突セルはイオンガイドを備える。該イオンガイドは、各々が、第1の端部、及び該第1の端部からはなれたところにある第2の端部を有する電気抵抗性の(すなわち電気抵抗を有する)(複数の)ロッドと、隣接するロッド対の間に接続されたインダクターと、隣接するロッド対間に無線周波数(RF)電圧を印加するための手段と、ロッドの各々のある長さ(または全長)に沿って直流(DC)電圧降下を与えるための手段を備え、該RF電圧は、ロッド間のある領域(または全領域)に多重極場を生成する。例示的な1実施形態では、インダクターは、各々のロッド対のそれぞれの中間点に接続される。例示的な1実施形態では、ロッドの各々は、それぞれの第1の端部と第2の端部の間のある長さ(または全長)に沿った湾曲部を有する。例示的な1実施形態では、ロッドの各々は、それぞれの第1の端部と第2の端部の間のある長さ(または全長)に沿って実質的に直線状である。
【0064】
例示的な1実施形態では、質量分析システムはイオンガイドを備える。該イオンガイドは、各々が、第1の端部、及び該第1の端部からはなれたところにある第2の端部を有する電気抵抗性の(すなわち電気抵抗を有する)ロッドと、隣接するロッド対の間に接続されたインダクターと、隣接するロッド対間に無線周波数(RF)電圧を印加するための手段と、ロッドの各々のある長さ(または全長)に沿って直流(DC)電圧降下を与えるための手段を備え、該RF電圧は、ロッド間のある領域(または全領域)に多重極場を生成する。例示的な1実施形態では、インダクターは、各々のロッド対のそれぞれの中間点に接続される。例示的な1実施形態では、ロッドの各々は、それぞれの第1の端部と第2の端部の間のある長さ(または全長)に沿った湾曲部を有する。例示的な1実施形態では、ロッドの各々は、それぞれの第1の端部と第2の端部の間のある長さ(または全長)に沿って実質的に直線状である。
【0065】
本開示に鑑みて、本教示に適合するように方法及び装置を実施することができることに留意されたい。さらに、種々のコンポーネント(構成要素)、材料、構造及びパラメータは、説明及び例示のためだけに提示したものであって、限定のために提供したものではない。本開示に鑑みて、本教示を他の用途において実施することができ、それらの用途を実施するために必要なコンポーネント、材料、構造及び装備を決定することができるが、これらも添付の特許請求の範囲に含まれる。
【背景技術】
【0001】
質量分析法(MS)は、サンプル(または有機サンプル)を定量的及び定性的に分析するために使用される分析的方法論である。質量分析計(またはマスフィルタ)によって、サンプル中の分子がイオン化されて、それぞれの質量に基づいて分離される。次に、分離された検体イオンが検出されて、サンプルの質量スペクトルが生成される。この質量スペクトルは、サンプルを構成する種々の検体化合物の質量及び分量に関する情報をもたらす。具体的には、質量分析法を用いて、検体(分析物)内の分子の分子量及び分子フラグメント(molecular fragment)を判定することができる。さらに、質量分析法によって、分子のフラグメンテーションパターン(fragmentation pattern)に基づいて検体内の成分(構成要素)を特定することができる。
【0002】
質量分析法によって分析される検体イオンを、種々のイオン化システムのうちの任意のものによって生成することができる。たとえば、大気圧マトリックス支援レーザー脱離イオン化(Atmospheric Pressure Matrix AssistedLaser Desorption Ionization:AP-MALDI)システム、大気圧光イオン化(Atmospheric Pressure Photoionization:APPI)システム、エレクトロスプレーイオン化(Electrospray Ionization:ESI)システム、大気圧化学イオン化(Atmospheric Pressure Chemical Ionization:APCI)システム、及び、誘導結合プラズマ(Inductively Coupled Plasma:ICP)システムを用いて、質量分析システムにおいてイオンを生成することができる。これらのシステムの多くは、大気圧(760トル)下でまたは大気圧に近い圧力下でイオンを生成する。生成された検体イオンを、質量分析計に導入しまたは質量分析計中でサンプリングする必要がある。典型的には、質量分析計の分析部分は、10−4トル〜10−8トルの高真空レベルに維持されている。実際には、イオンのサンプリングには、間にある1つ以上の真空チャンバーを通じて、イオン源から検体イオンを狭く閉じ込められたイオンビームの形態で、高真空の質量分析計のチャンバーへと運ぶことが含まれる。中間の真空チャンバーの各々の真空レベルは、該中間の真空チャンバーの直前にあるチャンバーの真空レベルと該中間の真空チャンバーの直後にあるチャンバーの真空レベルとの間の真空レベルに維持される。したがって、イオンビームは、イオン形成に関連付けられた圧力レベルから質量分析計の圧力レベルへと圧力が段階的に移行する中で検体イオンを運ぶ。ほとんどの用途において、イオンを有意に損失することなく、質量分析システムの種々のチャンバーの各々を通じてイオンを運ぶことが望ましい。質量分析システム中を規定された方向にイオンを移動させるためにイオンガイドがよく使用される。
【0003】
イオンガイドは、典型的には、イオンを半径方向に閉じ込める(制限する)一方で、軸方向へのイオンの運搬を可能または促進するために電磁界(電磁場)を用いる。1つのタイプのイオンガイドは、しばしば無線周波数(RF:または高周波数)スペクトルの形態である時間依存性の電圧を印加することによって多重極場を生成する。これらのいわゆるRF多重極イオンガイドは、イオントラップのコンポーネントとしてだけではなく、MSシステムの構成要素間でイオンを伝送させることを伴う種々の用途で用いられている。RFガイドは、緩衝ガス中で動作するときには、軸方向と半径方向の両方においてイオンのイオンエネルギー(速度)を小さくすることができる。軸方向及び半径方向におけるかかるイオンエネルギーの低減は、緩衝ガスの低エネルギー中性分子とイオンとの多重衝突によるイオン集団 (ion populations)の「熱平衡化(thermalizing)」または「冷却(cooling)」として知られている。イオン集団を「冷却する」ために実施されるイオンガイドは、しばしば、衝突セルと呼ばれる。半径方向に圧縮された熱平衡化されたビームは、MSシステムのオリフィスを介するイオン伝送の向上、並びに、飛行時間形質量分析(time-of-flight:TOF)機器中における半径方向速度(または視線速度)の広がり(velocity spread)の低減に有効である。RF多重極イオンガイドは、イオンを該イオンガイド内部に閉じ込める疑ポテンシャル井戸(pseudo potential well)を形成する。他の用途、主に、三連四重極LC-MS(LC-MS:液体クロマトグラフィー質量分析法)では、高エネルギーイオンを断片化して、それらの分子構造に関する追加の情報を得るために衝突セルが使用される。
【0004】
断面が一定の多重極では、この擬ポテンシャルは、長さに沿って一定であり、したがって、入口及び出口以外では軸方向の力を生成しない。この末端効果を、多重極イオンガイドにレンズを設けることによって、または、他の技術によって、該イオンガイドの入口及び出口において克服することができる。これらのレンズは、イオンを多重極におけるRF場から保護(シールド)して、該多重極に出入りするのに十分なエネルギーをイオンに与えることができる。既知の多重極イオンガイドは、通常は、イオンを受け取るのに有効な比較的直径が大きな入口を有している。しかしながら、出口をそれと同じ大きさの直径にすることは、直径が小さなビームを該出口から送り出すのには望ましくない。とはいっても、実質的に一定の断面を有しない既知のイオンガイドは、軸方向の力を生成する可能性がある、伝送軸に沿った変化する擬ポテンシャル障壁を形成するが、これによって、イオンの減速、場合によってはイオンの反射が生じうる。最後に、イオン冷却に有効な緩衝ガスが、イオンガイドにおけるイオン失速(イオンストール)を引き起こす可能性もある。これらの失速及びイオン減速を生じる力を、多重極アセンブリ中の抵抗性ロッドに沿ってDC勾配を追加することによって、克服、すなわち解消することができる。このDC勾配は、通常は約2V〜約10Vのオーダーであり、衝突セルアセンブリの軸に沿ってイオンを強制的に移動させる加速電圧場を生成する。
【0005】
衝突セル(コリジョンセルまたは衝突室ともいう)もまた、イオンを閉じ込めてガイドするためのイオンガイドを含む。衝突セルはチャンバーを有し、該チャンバー内で、イオンが中性分子と衝突し、その結果、イオンのフラグメンテーション(イオンの開裂または断片化)が生じる。異なる検体イオンは、それぞれに異なる特徴的な態様でフラグメンテーションを生じるので、フラグメンテーションパターンは、検体イオンの構造及び個性(アイデンティティ)に関する重要な情報を提供する。衝突によって、「熱平衡化(thermalizing)」または「冷却(cooling)」として知られる、イオン中のエネルギーの減少も生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許出願第2010/0301210号明細書
【特許文献2】米国特許7,064,322号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
衝突セルを具備する既知の質量分析システムの欠点の1つは大きさである。より小さくてコンパクトな計器を提供することに対する要望が高まりつつある中、質量分析計の構成要素のサイズ(「フットプリント」)を小さくすることが必要とされている。
【0008】
したがって、質量分析システムを通るようにイオンをガイドし、かつ、既知の装置の上述の欠点を少なくとも克服する装置が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
代表的な1実施形態によれば、衝突セルは、各々が第1の端部と、該第1の端部から離れたところにある第2の端部を有する(複数の)ロッドと、隣接する対をなすロッドの間に接続されたインダクターと、隣接する対をなすロッド間に無線周波数(RF)電圧を印加するための手段と、各ロッドの長さに沿って直流(DC)電圧降下を与えるための手段を備える。該RF電圧は、ロッド間のある領域に多重極場を形成する。
【0010】
本教示は、添付の図面を参照して以下の詳細な説明を読むことによって最も良く理解される。特徴部は必ずしも正しいスケールで記載されているわけではない。同様の特徴には同じ参照番号が付されている(以下、質量分析システムをMSシステムともいう)。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1A】代表的な1実施形態にしたがうMSシステム100の略ブロック図である。
【図1B】別の代表的な1実施形態にしたがうMSシステム100の略ブロック図である。
【図2A】代表的な1実施形態にしたがう衝突セルのイオンガイドの平面図である。
【図2B】別の代表的な1実施形態にしたがう衝突セルの平面図である。
【図3A】図2A及び図2Bの線3A−3Aに沿ったイオンガイドのロッド/衝突セルのロッドの断面図である。
【図3B】図2A及び図2Bの線3B−3Bに沿ったイオンガイドのロッド/衝突セルのロッドの断面図である。
【図4A】代表的な1実施形態にしたがう衝突セルのイオンガイドの平面図である。
【図4B】別の代表的な1実施形態にしたがう衝突セルの平面図である。
【図5A】代表的な1実施形態にしたがうイオンガイド/衝突セルの等価回路を示す。
【図5B】代表的な1実施形態にしたがうイオンガイド/衝突セルの等価回路を示す。
【図5C】代表的な1実施形態による衝突セルの等価回路を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
用語の定義
本願で使用されている用語は、特定の実施形態を記述することだけを目的としており、限定することは意図されていないことに留意されたい。定義されている用語は、さらに、本教示の技術分野において広く理解され受け入れられている該用語の技術的意味及び科学的意味を有する。
【0013】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用されている、「ある」、及び「その」または「該」という語は、1つのものを参照している場合と複数のものを参照している場合の両方を含む(但し、それら以外のものを参照していることが文脈上明確である場合を除く)。したがって、たとえば、「ある装置」は、1つの装置と複数の装置を含む。
【0014】
本願において使用されている「衝突セル」という用語は、イオンをガス(「衝突ガス」)と衝突させるための装置である。衝突セルは、典型的には、チャンバー及び該チャンバー内にあるイオンガイドを備えており、該チャンバーは、衝突ガスを受け入れるための入口を備えている。本教示の衝突セル内のイオンガイドは、四重極(quadrupole)、六重極(hexapole)、八重極(octopole)、十重極(decapole)、または、他のより高次の極の電界を確立して、イオンのビームを収容し及び導くように構成される。また、本願において使用されている「衝突セル」という用語は、四重極(quadrupole)、六重極(hexapole)、八重極(octopole)、十重極(decapole)、または、より高次の極の電界を確立して、イオンのビームを収容し及び導くように構成された衝突セルを意味する場合もある。
【0015】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用されている「実質的な」または「実質的に」という用語は、これらの通常の意味に加えて、許容可能な限界または程度の範囲内にあることを意味する。たとえば、「実質的に削除された」は、当業者であれば削除を許容できるとみなすであろうことを意味している。
【0016】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用されている「ほぼ」や「約」という用語は、これらの通常の意味に加えて、当業者にとって許容できる限界または量の範囲内にあることを意味する。たとえば、「ほぼ同じ」は、当業者であれば比較されている事物が同じであると考えるであろうことを意味している。
【0017】
以下の詳細な説明では、本教示を完全に理解できるようにするために、特定の細部を開示する代表的な実施形態について説明するが、これは説明のためであって本発明を限定するためのものではない。例示的な実施形態の説明を不明瞭にしないようにするために、既知のシステム、装置、材料、動作方法、製造方法についての説明は省略されている場合がある。とはいっても、当業者が理解し得る範囲内にあるシステム、装置、材料、及び方法を、代表的な実施形態にしたがって用いることができる。
【0018】
図1Aは、代表的な1実施形態にしたがう、タンデム型のMSシステム100の略ブロック図である。MSシステム100は、イオン源101、第1の質量分析計102、衝突セル103、第2の質量分析計104、及びイオン検出器105を備える。イオン源101を、いくつかの既知のタイプのイオン源のうちの1つとすることができる。質量分析計102、104の各々を、タンデム型質量分析システムに適合するように組み合わせることができる、飛行時間型(TOF)計器(または、飛行時間型質量分析計)、フーリエ変換型質量分析計(FTMS)、イオントラップ、四重極質量分析計、または、磁場型質量分析計(これらには限定されないが)を含む既知の種々の質量分析計のうちの1つとすることができる。同様に、イオン検出器105は、いくつかの既知のイオン検出器のうちの1つである。
【0019】
使用時には、イオン源101において生成されたイオン(該イオンの概念上の経路が図1Aにおいて矢印で示されている)が、第1の質量分析計102によってフィルタリングされるか、または、分析される。次にそれらのイオンは、衝突セル103においてフラグメント化(断片化)されて娘イオン(daughter ion)が生成されて、該娘イオンが第2の質量分析計104によって分析される。イオンは質量分析計104からイオン検出器105へと移動して、該イオン検出器105においてイオンが検出される。
【0020】
図1Bは、別の代表的な1実施形態にしたがう、MSシステム100の略ブロック図である。MSシステム100は、イオン源101、多重極イオンガイド102、チャンバー103(たとえば、真空チャンバー)、質量分析計104、及びイオン検出器105を備える。イオン源101を、いくつかの既知のタイプのイオン源のうちの1つとすることができる。質量分析計104を、飛行時間型(TOF)計器(または、飛行時間型質量分析計)、フーリエ変換型質量分析計(FTMS)、イオントラップ、四重極質量分析計、または、磁場型質量分析計(これらには限定されないが)を含む既知の種々の質量分析計のうちの1つとすることができる。同様に、イオン検出器105は、いくつかの既知のイオン検出器のうちの1つである。
【0021】
図1Bの多重極イオンガイド102について、代表的な実施形態を参照してより詳細に説明する。多重極イオンガイド102を、チャンバー103内に設けることができるが、該チャンバーは、イオン源101と質量分析計104の間にある1つ以上の圧力遷移段を提供するように構成されている。これは、イオン源101は、通常、大気圧またはその近くの圧力に維持されており、及び、質量分析計104は、通常、比較的高い真空状態に維持されているからである。代表的な実施形態によれば、多重極イオンガイド102を、比較的高い圧力から比較的低い圧力へと変化するように構成することができる。イオン源101を、種々の既知のイオン源のうちの1つとすることができ、及び、該イオン源101は、スキマー、多重極、開口部、直径の小さな導管、イオン光学系(但し、これらには限定されない)を含む、追加のイオン操作装置及び真空隔壁を備えることができる。1つの代表的な実施形態では、イオン源101は、それ自体の質量フィルタを有し、チャンバー103は衝突セルから構成される。いくつかの代表的な実施形態の衝突セルについては後述する。
【0022】
多重極イオンガイド102を含む衝突セルを備える質量分析システムにおいて、中性ガス(しばしば「緩衝ガス」と呼ばれる)をチャンバー103中に導入して、イオンの「冷却」を容易にすることができ、及び、多重極イオンガイド102を通って移動するイオンの断片化(イオンフラグメント化)を促進することができる。複数の質量/電荷分析システムで使用されるそのような衝突セルは、「三連四重極(triple quad)」システムまたは単に「QQQ」システムとして当該技術分野において既知である。
【0023】
代替の実施形態では、衝突セルはイオン源101に含まれており、多重極イオンガイド102は、それ自体のチャンバー(たとえば、チャンバー103)内にある。好適な実施形態では、衝突セル及び多重極イオンガイド102は、チャンバー103内の別個の装置である。
【0024】
使用時には、イオン源101において生成されたイオン(該イオンの概念上の経路が図1Bにおいて矢印で示されている)が、多重極イオンガイド102に提供される。多重極イオンガイド102は、イオンを移動させて、種々のガイドパラメータの選択によって決定される画定された位相空間を有する比較的範囲が限定されたビームを形成する。イオンビームは、多重極イオンガイド102から現れて、質量分析計104に導入され、該質量分析計においてイオン分離が生じる。これらのイオンは、質量分析計104からイオン検出器105へと移動し、該検出器でイオンが検出される。
【0025】
図2Aは、代表的な1実施形態にしたがう衝突セル200内のイオンガイドの一部の平面図である。図2Bは、別の代表的な1実施形態にしたがう衝突セル200の平面図である。衝突セル200を、MSシステム100の構成要素(たとえば、多重極イオンガイド102の構成要素)とすることができ、該衝突セルを用いて、軸方向及び半径方向におけるイオン速度を小さくする。すなわち、イオンと、緩衝ガスを構成する比較的エネルギーの小さな中性分子との何回もの衝突によって、イオン集団が「熱平衡化」または「冷却」される。図2A及び図2Bに示すそれぞれの実施形態において、衝突セル200は、6つのロッドを有し、したがって、六重極のRFフィールド(RF場)を提供する。図2A及び図2Bには、特に、第1のロッド201、第2のロッド202、第3のロッド203を示しており、他の3つのロッドは、図2A及び図2Bの選択された視点からは見えない。選択されたこの六重極イオンガイドは単に例示であって、本教示は、多重極イオンガイドを備える他の衝突セルにも適用可能であることを強調しておく。1例として、衝突セル200を、4つのロッドまたは8個のロッドから構成することができ、これによって、四重極または八重極の電界をそれぞれ生成することができる。代表的な1実施形態では、ロード201〜203は、円弧状である(すなわち、弓形または湾曲している)。ロッド201〜203の曲率半径は、それらのそれぞれの長さに沿って変わりうる。図2Bに示す実施形態では曲率半径が「r」で示されている。いくつかの実施形態では、ロッド201〜203は、それらの長さ(すなわち、ロッド201〜203のそれぞれの末端部間)に沿った実質的に円の曲率半径を有する。しかしながら、これは単なる例示であって、他の形状を採用することもできる。図2Bの衝突セルでは、一般に、ロッド201〜203は、それらの長さに沿って楕円状の曲率を有する。ロッド201〜203の長さに沿ったそれらの円弧状の形状によって、イオンの誘導経路(guide path)を変更することができる。たとえば、代表的な1実施形態によれば、衝突セル200を横断する際のイオンの誘導経路における変化は約90度である。後述するように、「まっすぐな」ロッドを有する衝突セルに比べて、この代表的な実施形態の衝突セル200は、占有する全体領域をより小さくしつつ、同様の経路長に沿ってイオンを誘導することができる。したがって、湾曲したロッドを使用することによって、フットプリントを小さくすることができる。
【0026】
ロッド201〜203は、1例としてロッド210〜203と実質的に同じ円弧状の形状を有するハウジング(またはケース)(図2A及び図2Bには示されていない)内に設けられている。代替的には、このハウジングは、正方形や長方形などの他の形状を有することができる。該ハウジングは、一般的に、導電性材料から形成され、該ハウジングを用いて電気的アースを提供することができる。いくつかの例を挙げると、該ハウジングは、金属、または金属合金、導電性の複合材料、導電性のセラミック材料、または、導電性のポリマーから構成される。さらに、ロッドホルダー(不図示)を該ハウジング内に設けて、ロッド201〜203の位置を保持することができる。ロッドホルダーを用いて、ロッド201〜203に選択的な電気的接続(電気接続)を提供することができる。
【0027】
ロッド210〜203は、それぞれ、第1の端部204及び第2の端部207、第1の端部205及び第2の端部208、第1の端部206及び第2の端部209を有する。より詳細に後述するように、図2Aに示すようなロッド201〜203は、一般に、入力(入口)210と、該入力210から離れた他方の端部にある出力(出口)211を有する先細構造をなして配置されている。より詳細に後述する代表的な1実施形態では、ロッド201〜203は、入力210及び出力211において実質的に円形配列をなして配置されたロッドである。代表的な実施形態では、中央のロッド(たとえばロッド201)は、ほぼ一定の曲率半径を有するが、内側のロッド(たとえばロッド202)及び外側のロッド(たとえば203)はそうではない。かかる実施形態において、及び、図2Aを特に参照すると、ロッド202の半径は、該ロッドの長さ(すなわち、第1の端部205と第2の端部208の間の長さ)とともに(または該長さに沿って)大きくなるが、ロッド203の半径は、その長さ(すなわち、第1の端部206と第2の端部209の間の長さ)とともに(または該長さに沿って)小さくなる。このように、内側ロッド及び外側ロッドは、それらの長さに沿って変化するそれぞれの半径を有し、これによって、より小さなパターンを提供することが意図されている。入力210から出力211までの衝突セル200の長さに沿ったロッド201〜203のパターンは実質的に同じである。たとえば、入力210における円形のロッドパターンは、衝突セル200の長さ全体に沿って実質的に同じ円形パターンを維持するが、実際の幾何学的寸法は、出力211までの長さに沿って一定の比率で小さくなる。これとは対照的に、ロッド201〜203の半径が一定であったならば、それらのロッドは、衝突セル200の多重極(本実施形態では六重極)の長さ全体(すなわち、入力210と出力211の間の長さ)にわたって実質的に平行になるであろう。
【0028】
上述したように、ロッド201〜203の湾曲に起因して、入力201は出力211に平行には向いておらず、出力211に対して非ゼロの角度の方向を向いている。例示的には、入力210を、出力211に対して約90°の角度をなすように配置することができる。入力210を出力211に実質的に垂直に設けるためのロッド201〜203のこの曲率の選択は単なる例示であって、ロッド201〜203の曲率半径を選択することによって、これとは異なる向きに入力210を配置することも可能であることを強調しておく。たとえば、図2A及び図2Bに示す入力210は、出力211に平行でも逆平行でもなく、出力211に垂直でもない。このように、湾曲したロッド201〜203は、衝突セル200のフットプリントの低減を促進する。
【0029】
第1の端部204〜206は、第2の端部207〜209からそれぞれ離れており、入力210においてロッド201〜203の第1の端部204〜206に接する内接円の半径は、出力211においてロッド201〜203の第2の端部207〜209に接する内接円の半径よりも大きい。別の実施形態では、ロッド201〜203を、実質的に円をなすように、入力210及び出力211に配列するのではなく、ロッド201〜203を、楕円の周囲に(または楕円をなすように、すなわち楕円状に)配置することができる。楕円状の対称的な配置によって、(上述の実施形態と)同様にイオンを閉じ込めるRF擬ポテンシャル保持場を生じることができる。最後に、ロッド201〜203を入力210に円状に配置し、及び、出力211において実質的に平坦となるように(すなわち、実質的に平坦な面上に)配置することによって、既存のイオンが、比較的長くかつ狭い形状のビームを形成するようにすることができる。ロッド201〜203のかかる構成法のさらなる詳細は、2009年5月28日に提出された、「Converging Multipole Ion Guide For Ion Beam Shaping」と題する、J.L. Bertsch他を発明者とし、本願と出願人が同一である米国特許出願公開第2010/0301210号に見出すことができる。該特許出願の全開示内容は、参照により本明細書に具体的に組み込まれるものとする。
【0030】
代表的な1実施形態において、ロッド201〜203は、セラミックまたは他の適切な電気的絶縁材料から構成される。いくつかの実施形態では、ロッド201〜203はまた、抵抗性の外部層(不図示)を備える。この抵抗性の外部層によって、ロッド201〜203のそれぞれの第1の端部204〜206とそれぞれの第2の端部207〜209の間に直流電圧差を生じさせることができる。抵抗性の外部層はまた、衝突セル200内にイオンを保持するために必要な電磁界(または電界)を生成するRF信号を伝搬することができる。別の実施形態では、ロッド201を、所有者が本願と同一である、Crawford他を発明者とする「Mass Spectrometer MultipoleDevice」と題する米国特許7,064,322号に記載されたようなものとすることができる。該特許の開示内容は、全ての目的で参照によって本明細書に具体的に組み込まれるものとする。この場合には、ロッド201〜203は、導電性の内部層(不図示)及び抵抗性の外部層(不図示)を有することができ、これによって、ロッド201〜203は、該ロッド201〜203の抵抗性の外部層にRF電圧を供給するための分布コンデンサ(または分布キャパシタンス)として構成される。導電性の内部層は、薄い絶縁層(不図示)を通じて抵抗性の外部層へとRF電圧を供給する。
【0031】
ロッド201〜203は、種々の断面形状のうちの1つ以上の断面形状を有する。いくつかの実施形態では、ロッド201〜203の断面は実質的に円筒形であり、それらのロッドの各々の長さに沿って、該断面の直径は実質的に一定である。また、いくつかの実施形態では、ロッド201〜203の直径について、それらのそれぞれの第1の端部204〜206における直径の方が、それらのそれぞれの第2の端部207〜209における直径よりも大きい。さらに別の実施形態では、ロッド201〜203は、それらの長さに沿ってテーパー状をなしており(すなわち、先細り形状であり)、この場合も、それぞれの第1の端部204〜206における直径の方が、それぞれの第2の端部207〜209における直径よりも大きい。先細り(漸減)の程度を選択することができ、ロッド201〜203は円錐形状を有することができる。ロッド201〜203の直径が第1の端部204〜206と第2の端部207〜209とで異なる実施形態では、それぞれの第1の端部204〜206におけるロッド201〜203の直径は、イオンアクセプタンス(ion acceptance)のためにより好適な電界構成を提供するように比較的大きなものが選択され、それぞれの第2の端部207〜209におけるロッド201〜203の直径は、イオン閉じ込め(ion confinement)を改善するために比較的小さなものが選択される。ロッド201〜203のいくつかの側面を、出願人が本願と同一である、J.L.Bertsch他を発明者とする「CONVERGING MULTIPOLE ION GUIDE FOR IONBEAM SHAPING」と題する米国特許出願第12/474,160に見いだすことができる。2009年5月28日に提出された該米国特許出願の全開示内容は、参照によって本明細書に具体的に組み込まれるものとする。
【0032】
ロッド201〜203の円弧形状によって、イオンが衝突セル200を横断する際のイオンの誘導経路の方向を変えることができる。衝突セル200の誘導経路の方向をこのように変えることによって、(多重極)イオンガイド102を、MSシステム100内においてかなり小さい領域(フットプリント)を占める計器パッケージ全体内に収容することが可能になる。少し言い方を変えれば、ロッド201〜203に円弧形状部を設けることによって、より小さな全体領域内である特定の距離だけイオンを誘導することが可能になる。これとは対照的に、「まっすぐな」すなわち直線状の誘導要素を有する既知の衝突セルは、物理的により長い直線状のイオン光学経路を必要とするが、これによって、全計器を収容するためにより大きな領域が必要になる。有益なことに、ある選択された曲率半径(r)及びある選択された長さ(この長さに沿ってイオンが閉じ込められ、及び/または冷却される)の円弧状のロッド201〜203を設けることによって、計器全体の「フットプリント」はより小さくなるであろう。
【0033】
「まっすぐな」衝突セルに比べて計器のフットプリントを小さくする衝突セル200を提供するという利益に加えて、円弧形状に起因してノイズも減少する。とりわけ、RF疑ポテンシャルイオン保持場が、ロッド201〜203の軌道すなわち経路に沿ってイオンを誘導し、これによって、イオンがイオンガイド200(または衝突セル200)の円弧状経路をたどって進むようにする。当然のことであるが、イオンだけが、衝突セル200のロッド201〜203の入力210と出力211の間の電界(不図示)によって誘導される。その結果、イオンは、ロッド201〜203の経路に平行な円弧状経路を移動する。これとは対照的に、図1Aのイオン源101中のイオン化プロセスの一部として生成されたいくつかの液滴、粒子、及び中性分子(集合的に「中性粒子」と呼ぶ)は、質量分析計102に入り、次に、衝突セル103に入る。これらの中性粒子は電界によっては誘導されないだろう。これらの中性粒子の大部分は、ロッド201〜203の1つ及び/または衝突セル200のハウジングと衝突し、それらのエネルギーを放散して、イオン検出器105には到達しないより小さくよりエネルギーの低い中性粒子になる。このように、これらの中性粒子はイオン検出器105に入射してバックグラウンドノイズ信号に寄与するのではなく、衝突セル200の入力210と出力211の間の圧力差によって送り出される。その結果、これらの中性粒子の大部分は、湾曲したロッド201〜203に接する経路を移動し、衝突セル200の出力211へは誘導されない。また、衝突セル200中にある緩衝ガス分子及び溶媒ガス分子は、電界によってはガイド(誘導)されず、衝突セル200の入力と出力211の間の圧力差によって押し動かされる。その結果、緩衝ガス及び溶媒ガスの少なくとも一部が、半径(r)に垂直な(すなわち、ロッド201〜203の接線方向の)経路を横断し、衝突セル200の出力211には誘導されない。出力211に緩衝ガス及び溶剤ガス(solvent gas)の少なくとも一部が存在しないことによって、検出器105への中性粒子の入射量が少なくなり、その結果ノイズが小さくなる。当然のことながら、かかるノイズの低減によって、信号対ノイズ比(SNR)が高くなるために、検出可能な最小の検体イオンピークが増加するという利点がもたらされる。
【0034】
イオンの「冷却」に加えて、衝突セル200は、比較的エネルギーが高い検体イオンのフラグメンテーションを促進する。当然のことながら、フラグメンテーションによって、分析対象の分子の分子構造をより精密に決定することが可能になる。到来する検体イオンのイオンエネルギーが増加して分子間結合が破断しはじめると、フラグメンテーションが生じて、元のイオンのフラグメント(断片)が生じる。これらのイオンフラグメントは、質量スペクトルについて分析されて、ユーザーに分子構造を知らせる情報を生成する。
【0035】
図3Aは、3A−3Aのラインに沿った図2A及び図2Bに示す衝突セル200のロッドの断面図である。具体的には、図3Aの断面図は、衝突セル200のロッド201〜203の入力210を示している。上述したように、衝突セル200のロッドは、例示的に六重極構成をなして配列されており、したがって、6個のロッドが配列されている。こうして、ロッド201〜203に加えて、ロッド301、302及び303が、入力210において半径r1の内接円のまわりに概ね配列されている。ロッド301〜303は、上述のロッド201〜203と実質的に同じである。そのようにするために、ロッド301〜303は、ロッド201〜203と同じ形状、同じ断面、同じ曲率半径、同じ長さを有し、同じ組成及び材料から構成されている。
【0036】
周知のように、衝突セル200中に多重極(今の例では六重極)場を実現するために、ロッドを交番的に電気的に接続する。そこで、たとえば、ロッド201、301、303が電気的に接続され、ロッド202、302、203が電気的に接続される。
【0037】
図3Bは、3B−3Bのラインに沿った図2A及び図2Bに示す衝突セル200のロッドの断面図である。具体的には、図3Bの断面図は、衝突セル200のロッド201〜303の出力211を示している。図示のように、ロッド201〜303は、出力211において半径r2を有する内接円のまわりに概ね配列されている。上述したように、図2Aに示すロッドは、入力210と出力211の間に収束する(先細りする)形態で配列されているので、(図中では半径r1と半径r2は同程度の寸法で示されているけれども)半径r1は半径r2より大きい。半径r1は、衝突セル200に入るイオンビームを通過させるのに十分な大きさとなるように選択される。そのようにするために、図1Aの質量分析計102から到来するイオンビームは、衝突セル103を出る熱的に冷却されたイオンビームよりもはるかに高いイオンエネルギーを有している。衝突セル200は、次の光学要素にイオンを効率的に伝達するために、該衝突セル200から出るときの直径が比較的小さいビームを生成することが必要である。既知の衝突セルにおけるイオンガイドの直径は一定であり、したがって、衝突セルから出る小さなビームを生成するための必要性と、衝突セルに入る高エネルギーのイオンを捕捉するために入口におけるイオンガイドをより大きくする必要性との間で妥協が必要とされる。典型的には、既知の衝突セルの入口と出口とにおけるビーム径の比は、1.5:1と3:1の間である。これとは対照的に、半径r1が半径r2よりも大きく、テーパー状のロッドを伴う代表的な実施形態の衝突セル200は、そのような妥協を必要としない。入力210における面積(または領域の寸法)を、比較的エネルギーが高い入射ビームを捕捉するのに十分な大きさにすることができ、出力211における面積(または領域の寸法)を、イオンビームを次の光学要素に効率的に伝達するのに十分に小さくすることができる。代表的な1実施形態では、図3A、図3Bに示す半径r1とr2の比(r1:r2)は、約1:1と約4:1の間である。4:1より大きな比は一般に回避される。なぜなら、そのように比が大きいと、出力211においてイオンストール(ion stalling:イオン失速)が生じる可能性があるからである。
【0038】
半径r1は、イオン源101から衝突セル200に入ってきたイオンをより多数捕捉するように選択される。そこで、入力210の面積(または領域の寸法)は、イオン源101からのイオンの適切なサンプリングを確保するために最適化される。これとは対照的に、半径r2は、イオン検出器105に送るために「冷却された」イオンを閉じ込めることができるように選択される。入力210のより大きな面積(または領域の寸法)は、イオンのより多くの部分を捕捉可能にすることによって、信号対ノイズ比(SNR)の向上を促進する。
【0039】
さらに、及び、上述したように、ロッド201〜303は、それらのそれぞれの第1の端部(すなわち、入力210)において、それらのそれぞれの第2の端部(すなわち、出力)における断面直径より大きな第1の断面直径を有する。ロッド201〜303の断面直径の差は、図3Aと図3Bを比較することによって理解することができる。
【0040】
代表的な実施形態のロッド201〜303を備える衝突セル200は、多くの利点及び利益をもたらす。しかしながら、抵抗性のロッドの使用は、ジュール効果による加熱を生じる場合がある。抵抗(ジュール)加熱は、ロッド201〜303の長さにわたってAC(交流)電圧とDC(直流)電圧の両方を印加することによって生じる。当然のことながら、衝突セル200の任意の構成要素による該衝突セル200内の過度の加熱は逆効果になりうる。具体的には、衝突セル200の機能は、イオンが質量分析計104及びイオン検出器105に衝突する前に、該イオンの運動エネルギーを小さくすることである。衝突セル200内で発生した熱は、イオンの運動エネルギーが大きくする可能性があり、それゆえ、衝突セル200の目的に反する結果を生じる可能性がある。さらに、ロッド201〜303によって生成される過度の熱は、最終的に、衝突セルの構造の機械的故障を生じる場合があり、及び、最終的に、衝突セルの信頼性に悪影響を及ぼす場合がある。そこで、衝突セル200内の加熱を可能な限り実質的に阻止または緩和することが有益である。
【0041】
ロッド201〜303に沿った電流の伝導によって引き起こされる加熱の影響を緩和するための1つの手段は、熱を放散することである。しかしながら、衝突セル200の比較的圧力が低い(たとえば、真空または真空に近い)環境においてロッド201〜203から熱を除去することは最善ではない。さらに、熱の放散は、通常、ロッド201〜303と支持構造(該支持構造の細部は図示されていない)の間の熱伝導を最適化することによって達成される。ロッド201〜303とそれらの支持構造の間の熱伝導の利用は、ロッド201〜303の物理的なサイズ及び結果として生じる最小の熱伝導領域(または該領域の物理的なサイズ)によって、並びに、衝突セル200のサイズ(「フットプリント」)を小さくするという競合する利益によって制約される。
【0042】
図4A、図4Bは、代表的な2つの実施形態のそれぞれにしたがう衝突セル400のイオンガイドの平面図である。それぞれの衝突セル400は、図2A〜図3Bに関連して上述した衝突セル200と共通する多くの特徴を有する。この実施形態の説明を不明瞭にするのを避けるために、それらの共通する特徴の多くについては繰り返さない。
【0043】
図4A、図4Bのそれぞれの衝突セル400は、図4A、図4Bにそれぞれ示されているロッド201〜203、及び、図4A、図4Bには示されていないロッド301〜303を備えている。各実施形態におけるロッド201〜203は、それぞれの実施形態に対応するハウジング(不図示)内に配置されており、それぞれのハウジングは、図2Aに示すロッド201〜203の円弧形状と実質的に同じ円弧形状を有し、または、図2Bに示すロッド201〜203の曲率半径rと実質的に同じ曲率半径を有する円弧形状を有する。上述したように、該ハウジングは、必ずしも、ロッド201〜203と実質的に同様の形状である必要はない。さらに、衝突セル400の円弧形状は単なる例示であって、衝突セル400の他の形状を採用できることを強調しておく。とりわけ、衝突セル400を、収束配列をなすように配置された実質的に「まっすくな」ロッドから構成することができるが、これは、たとえば、J.L Bertsch他を発明者とする上記の米国特許出願に記載されている。
【0044】
図4Aでは、インダクター(コイル)401が、ロッド201〜203(及び、図4Aには示されていないロッド301〜303)の全長の実質的に中間の位置に接続されている。上述したように、ロッド201〜303を交番的に電気的に接続することによって六重極場が生成される。インダクター401は、(該インダクター401以外の方法によっては電気的に接続されない)2つのロッド間に接続される。1例として、ロッド201とロッド301とロッド303が電気的に接続され、ロッド202とロッド302とロッド203が電気的に接続されて、六重極場が生成される場合を想定する。この例では、インダクター401を、ロッド201とロッド203の間に接続して、接続されているロッド201、301、303の組と、接続されているロッド202、302、203の組との間に電磁結合(または誘導結合)を生成することができる。本教示によれば、ロッドの加熱は、RF駆動電圧によって生じる、ロッド201〜303を流れる無効電流を少なくすることによって低減される。代表的な1実施形態では、ロッド201〜303を流れる無効電流の低減は、ロッド201〜203(及び301〜303(但し図4A及び図4Bには示されていない))の全長のほぼ中間点にインダクター401(図4Aの場合)/インダクター402(図4Bの場合)を電気的に接続することによって達成される。より詳細に後述するように、図4Aのインダクター(コイル)401及び図4Bのインダクター(コイル)402が、それぞれ、図2A、図2Bのロッド201〜303の漂遊容量と共に並列L−C回路を形成する。電気損失効果は、それぞれのロッド201〜303の直列抵抗と、漂遊容量による無効電流に起因して生じる。インダクターがない場合の無効電流Iは約Vpp/Xcである。ここで、リアクタンス(Xc)は、ロッドの抵抗Rよりもはるかに大きい(Xc>>R)ことが想定されている。ロッド201〜303を、一連の集中素子をなす抵抗とコンデンサで近似することができる。
【0045】
代表的な1実施形態によれば、ロッド201〜303の最も中央にあるポイントにおいて共振状態を生じることによって、電力放散(電力消費)、エネルギー損失、及び過度のジュール加熱が改善される。しかしながら、動作中に電流が流れると、漂遊容量の分散性のために、ロッド201〜303は、それらのそれぞれの端部と中央部の間でさらなるエネルギーを放散する。別の実施形態では、追加のインダクター(不図示)を、ロッド201〜303のそれぞれの端部とロッド201〜303の最も中央のポイントとの間の中間地点に配置することができる(すなわち、ロッド長の1/4の間隔、ロッド長の1/2の間隔、ロッド長の3/4の間隔で配置することができる)。これらの追加のインダクターの配置によって、無効電流がさらに減少し、ロッド201〜303の最も中央のポイント(ロッドの全長の1/2のポイント)だけにインダクター401/インダクター402を備える構成に比べてさらに約50%電力損失が低減するという改善がもたらされるだろう。追加のインダクターが、既に設けられているインダクター及び/またはロッド端部の間の中間ポイントに配置されるので、電力損失は、漸近的にゼロに近付くことになるであろう。
【0046】
代表的な1実施形態によれば、図4Aの401及び図4Bのインダクター402は、実質的に円筒形状であて、導電性の円筒状のコアを備え、該コアのまわりに(または該コアの近辺)に導電性の巻き線が配置されている。たとえば、インダクター401及び402は、フェライト磁心を備えることができ、その場合、導電性の巻き線が該フェライト磁心のまわりに円筒状に配置される。代替的には、インダクター401及び402は、導電性の巻き線を有する空芯コイル、または、導電性の巻き線を有するフェライトコアもしくは導電性の巻き線を有する非フェライトコアから構成することができる。さらに、インダクター401及び402は、トロイダル構成(すなわち、ドーナツ状の構成)、または、ロッド構成、または、E-core(イー・コア)構成を有することができる。フェライトコアは有益であって、比較的Qファクタ(quality factor)が高い適度なQ、及び、周囲の導体(たとえば金属)への熱伝導/熱放散のための適切な経路を提供する。
【0047】
インダクター401及び402のQファクタ(Q)及びインダクタンスの大きさは、衝突セル400のRF周波数に対して最適化される。一般に、インダクター401及び402のQファクタ(Q)は、少なくとも102以上のオーダーである必要がある。可能な限り最高のQ値を有するインダクターを設けることが有利である。当然のことながら、代表的な実施形態の衝突セル内の電力損失は、コイルと漂遊容量Cstrayが共振しているときのコイルの実効並列抵抗(Rp)に由来する電流(I=Vpp/Rp)に起因する。Qを可能な限り最大にすることによって、電力損失(または電気損失)が小さくなる。インダクタンスの大きさの選択は、もちろん、ロッド201〜303の漂遊容量と共振周波数の値に基づいて行われる。ここで、L=1/ω2Cstrayである。
【0048】
図5Aは、代表的な1実施形態にしたがう衝突セル(たとえば図2A及び/または図2Bの衝突セル200)の等価回路501を示す。ロッド201〜303は、典型的には、上述のような電気抵抗を有するコーティング(被膜)を有する非金属であり、軸のまわりに対称的に配置されている(たとえば、内接円の周りに配置された6個のロッドである)。ロッド201〜303は、等価回路501内の等価な分布抵抗506、507、508、509として近似される。ロッド201〜303は、(たとえば、AC源502及び変圧器503〜504からの)AC(交流)RF電圧で駆動される。このAC RF電圧は、一般に、同じ振幅及び位相でロッドの両端に印加される。さらに、DC(直流)電圧(たとえば505)を、ロッド201〜203の第1の端部204〜206と第2の端部207〜209の間に同時に印加して、それらのロッドのそれぞれの端部にそれぞれ異なるDC電位が維持されるようにするのが望ましい。いくつかの実施形態では、ロッド201〜303に(等価な分布抵抗器506〜509によって等価的に示されている)比較的高い電気抵抗を提供することによって、ロッド201〜203の第1の端部204〜206と第2の端部207〜209の間に(すなわち、ロッド201〜303の長さに沿って)DCオフセット(差動)電圧を生じさせる。ロッド201〜303の分布電気抵抗に加えて、ロッド間の分布漂遊容量(Cstray)510が提供される。図示のように、等価な分布抵抗506、507、508、509は、漂遊容量(Cstray)510と電気的に直列に接続されている。分布漂遊容量(Cstray)510は、等価な分布抵抗506〜509に比較的大きな無効電流を流して、ロッド201〜303に沿ってAC電圧を低下させる可能性がある。AC電圧のこの低下によって、ロッドの加熱及び所望のAC場の歪みが生じるだけではなく、駆動回路により大きな電流要件が必要になる。
【0049】
図5Bは、代表的な実施形態にしたがう図4A及び/または図4Bに示す衝突セル400の等価回路511を示す。それぞれの衝突セル400は、ロッド201〜303に由来する漂遊容量(Cstray)510と電気的に並列に接続されたインダクター(図4Aの実施形態の場合は401、図4Bの実施形態の場合は402)を備える。インダクター401/インダクター402は、(AC)RF周波数において漂遊容量510と共振するように選択されて、それらのロッドの中心部に配置された接続部に追加されている。したがって、インダクター401/インダクター402の大きさは1/ω02Cstrayによって算出される。尚、Cstrayは漂遊容量であり、ω0=2πf0でf0は共振周波数である。共振時は、漂遊容量510によって生じる無効電流が、該漂遊容量510と並列をなすインダクター401/インダクター402によって実質的に相殺される。その結果、生じる駆動電流は、インダクター401/インダクター402と漂遊容量(Cstray)510のL−C結合の並列抵抗、及び、ロッド201〜303の(抵抗506〜509からなる)直列抵抗に主に依存する。共振時は、同相の抵抗成分(Rp)がRp=QωLによって与えられる。Lは、1/ω2Cstrayによって算出され、ω=2πfである。インダクターがない場合の無効電流は、ロッドのリアクタンスXcと抵抗RについてXc>>Rであると仮定すると、おおよそVpp/Xcである。尚、リアクタンスXcはXc=1/ωCstrayによって与えられる。インダクターがある場合の電流はVpp/Rpであり、Rp>>Xcである。
【0050】
全ての分布容量を中間点のインダクターで相殺することはできないが、電源電流及び全電力要件は約50%だけ減少する。電力節約の程度は、インダクター401/インダクター402と漂遊容量510の並列インピーダンスと駆動回路のインピーダンスとの比に依存するだろう。
【0051】
図5Cは、代表的な1実施形態による衝突セル400の等価回路512を示す。等価回路512は、図示のように、等価分布抵抗器514、515として示されているロッド201〜303に接続された巻き線516、517及び518を有する変圧器513を備える。巻き線517及び518は、一例として、ロッド201〜303の各端部に位相及び振幅が実質的に等しいRF電圧を提供するために、バイファイラー巻とされている。巻き線516(及びインダクター)を用いて、RF電圧を巻き線517及び518中に結合する。フローティング電圧(floating voltage)源Vbias519を巻き線517及び518の中間タップに接続することにより、DC電圧がロッド201〜303に印加される。また、DC接続520が、グランド(接地)に対する衝突セルの400の電圧オフセットを提供するために、巻き線518の中間タップに供給される。巻き線517に供給される時間的に振幅が変化するRF電圧を、トランジスタまたは集積回路で実施された既知の回路を用いて生成することができる。フローティングバイアス源Vbiasによって供給される可変電圧は、変圧器513によって、または、他の既知の電圧分離技術によって他の回路のグランド(接地)から電気的に分離される。
【0052】
本開示で説明したインダクターを種々の多重極イオンガイドにおいて実施できることを強調しておく。いくつかの実施形態では、イオンガイドは衝突セル内にある。いくつかの実施形態では、ロッドは実質的にまっすぐであるが、他の実施形態では、ロッドは、該ロッドの長さに沿った湾曲部を有する。いくつかの実施形態では、イオンガイドの「入口」、すなわち、全てのロッドの第1の端部によって囲まれた領域は、イオンガイドの「出口」、すなわち、全てのロッドの第2の端部によって囲まれた領域よりも大きく、この場合、該イオンガイドが使用されているときには、イオンは、第1の端部から第2の端部に向かう方向に移動する。いくつかの実施形態では、各ロッドについて、第1の端部の断面の方が第2の端部の断面よりも大きい。
【0053】
例示的な1実施形態では、質量分析用の衝突セルは、第1の端部、及び、該第1の端部から離れたところにある第2の端部を各々が有する(複数の)ロッドを備え、各ロッドは、それぞれの第1の端部と第2の端部の間のある長さに沿った湾曲部を有し、各ロッドについて、第1の端部の断面の方が第2の端部の断面よりも大きく、ロッドの第1の端部は、第1の半径を有する第1の円のまわりに配置されており、第2の端部は、第2の半径を有する第2の円のまわりに配置されており、該第1の半径は該第2の半径よりも大きい。衝突セルはまた、対をなす隣接するロッド(以下、隣接するロッド対という)の間に無線(ラジオ)周波数(RF)電圧を印加するための手段と、各ロッドのある長さ(または全長)に沿って直流(DC)電圧降下を与えるための手段を備え、該RF電圧は、それらのロッド間のある領域(または全領域)に多重極場を生成する。
【0054】
例示的な1実施形態では、ロッドの各々は円の弧に近似している。
【0055】
例示的な1実施形態では、ロッドは電気抵抗を有する。
【0056】
例示的な1実施形態では、ロッドの各々は抵抗性のコーティング(皮膜)を備える。
【0057】
例示的な1実施形態では、衝突セルはさらに、隣接するロッド対の間に電気的に接続されたインダクターを備える。
【0058】
例示的な1実施形態では、質量分析システムは衝突セルを備える。衝突セルのロッドの各々は、第1の端部と、該第1の端部から離れたところにある第2の端部を有し、ロッドの各々は、それぞれの第1の端部と第2の端部の間のある長さに沿った湾曲部を有し、ロッドの各々について、第1の端部の断面の方が第2の端部の断面よりも大きく、ロッドの第1の端部は、第1の半径を有する第1の円のまわりに配置され、第2の端部は、第2の半径を有する第2の円のまわりに配置され、第1の半径は第2の半径よりも大きい。衝突セルはまた、隣接するロッド対間に無線周波数(RF)電圧を印加するための手段と、ロッドの各々のある長さ(または全長)に沿って直流(DC)電圧降下を与えるための手段を備え、該RF電圧は、ロッド間のある領域(または全領域)に多重極場を生成する。例示的な1実施形態では、ロッドの各々は、円の弧に近似している。例示的な1実施形態では、それらのロッドのそれぞれの第1の端部は全体で、衝突セルに入るイオンビームを通過させるのに十分な大きさの領域を囲んでいる。例示的な1実施形態では、ロッドは電気抵抗を有する。例示的な1実施形態では、ロッドの各々は、抵抗性のコーティング(皮膜)を備える。例示的な1実施形態では、衝突セルはさらに、隣接するロッド対の間に電気的に接続されたインダクターを備える。
【0059】
例示的な1実施形態では、イオンガイドは、各々が、第1の端部、及び、該第1の端部からはなれたところにある第2の端部を有する電気抵抗を有する(複数の)ロッドと、隣接するロッド対の間に接続されたインダクターと、隣接するロッド対間に無線周波数(RF)電圧を印加するための手段と、ロッドの各々のある長さ(または全長)に沿って直流(DC)電圧降下を与えるための手段を備え、該RF電圧は、ロッド間のある領域(または全領域)に多重極場を生成する。
【0060】
例示的な1実施形態では、インダクターは、ロッド対の各々の中間点に接続される。
【0061】
例示的な1実施形態では、ロッドの各々は、それぞれの第1の端部と第2の端部の間のある長さ(または全長)に沿った湾曲部を有する。
【0062】
例示的な1実施形態では、ロッドの各々は、それぞれの第1の端部と第2の端部の間のある長さ(または全長)に沿って実質的に直線状をなす。
【0063】
例示的な1実施形態では、衝突セルはイオンガイドを備える。該イオンガイドは、各々が、第1の端部、及び該第1の端部からはなれたところにある第2の端部を有する電気抵抗性の(すなわち電気抵抗を有する)(複数の)ロッドと、隣接するロッド対の間に接続されたインダクターと、隣接するロッド対間に無線周波数(RF)電圧を印加するための手段と、ロッドの各々のある長さ(または全長)に沿って直流(DC)電圧降下を与えるための手段を備え、該RF電圧は、ロッド間のある領域(または全領域)に多重極場を生成する。例示的な1実施形態では、インダクターは、各々のロッド対のそれぞれの中間点に接続される。例示的な1実施形態では、ロッドの各々は、それぞれの第1の端部と第2の端部の間のある長さ(または全長)に沿った湾曲部を有する。例示的な1実施形態では、ロッドの各々は、それぞれの第1の端部と第2の端部の間のある長さ(または全長)に沿って実質的に直線状である。
【0064】
例示的な1実施形態では、質量分析システムはイオンガイドを備える。該イオンガイドは、各々が、第1の端部、及び該第1の端部からはなれたところにある第2の端部を有する電気抵抗性の(すなわち電気抵抗を有する)ロッドと、隣接するロッド対の間に接続されたインダクターと、隣接するロッド対間に無線周波数(RF)電圧を印加するための手段と、ロッドの各々のある長さ(または全長)に沿って直流(DC)電圧降下を与えるための手段を備え、該RF電圧は、ロッド間のある領域(または全領域)に多重極場を生成する。例示的な1実施形態では、インダクターは、各々のロッド対のそれぞれの中間点に接続される。例示的な1実施形態では、ロッドの各々は、それぞれの第1の端部と第2の端部の間のある長さ(または全長)に沿った湾曲部を有する。例示的な1実施形態では、ロッドの各々は、それぞれの第1の端部と第2の端部の間のある長さ(または全長)に沿って実質的に直線状である。
【0065】
本開示に鑑みて、本教示に適合するように方法及び装置を実施することができることに留意されたい。さらに、種々のコンポーネント(構成要素)、材料、構造及びパラメータは、説明及び例示のためだけに提示したものであって、限定のために提供したものではない。本開示に鑑みて、本教示を他の用途において実施することができ、それらの用途を実施するために必要なコンポーネント、材料、構造及び装備を決定することができるが、これらも添付の特許請求の範囲に含まれる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
各々のロッドが、第1の端部(204、205、206)と、該第1の端部から離れたところにある第2の端部(207、208、209)を有する、ロッド(201、202、203、301、302、303)と、
対をなす隣接するロッド(201、202、203、301、302、303)間に接続されたインダクター(402)と、
対をなす隣接するロッド(201、202、203、301、302、303)間に無線周波数(RF)電圧(502)を印加するための手段であって、該RF電圧は、前記ロッド(201、202、203、301、302、303)間のある領域に多重極場を生成する、手段と、
前記ロッド(201、202、203、301、302、303)の各々のある長さに沿って直流(DC)電圧(505)降下を与えるための手段
とを備えるイオンガイド(102)。
【請求項2】
前記インダクター(402)は、前記対をなす各々のロッドのそれぞれの中間点に接続される、請求項1のイオンガイド。
【請求項3】
前記ロッドの各々は、それぞれの第1の端部(204、205、206)と第2の端部(207、208、209)の間のある長さに沿った湾曲部を有する、請求項1または2のイオンガイド。
【請求項4】
前記ロッドの各々は、それぞれの第1の端部(204、205、206)と第2の端部(207、208、209)の間のある長さに沿って実質的に直線状である、請求項1乃至3のいずれかのイオンガイド。
【請求項5】
前記ロッドの前記第1の端部(204、205、206)は全体で、イオンビームを通過させるのに十分な大きさの領域を囲む、請求項3のイオンガイド。
【請求項6】
前記ロッドの各々は円の弧に近似している、請求項1乃至5のいずれかのイオンガイド。
【請求項7】
前記第1の端部(204、205、206)は、第1の半径(r1)を有する第1の円のまわりに配置され、前記第2の端部(207、208、209)は、第2の半径(r2)を有する第2の円のまわりに配置され、前記第1の半径は前記第2の半径よりも大きい、請求項1乃至6のいずれかのイオンガイド。
【請求項8】
前記ロッド(201、202、203、301、302、303)が電気抵抗を有する、請求項1乃至7のいずれかのイオンガイド(102)。
【請求項9】
前記ロッド(201、202、203、301、302、303)は非導電性であり、それらのロッドの各々の長さに沿って選択的に配置された電極を備える、請求項1乃至8のいずれかのイオンガイド。
【請求項10】
前記インダクターが、前記RF周波数においてある漂遊容量を有する共振回路を形成するように選択されたインダクタンスを有する、請求項1乃至9のいずれかのイオンガイド(102)。
【請求項11】
前記RF電圧の振幅が時間的に変化する、請求項1乃至10のいずれかのイオンガイド(102)。
【請求項12】
請求項1乃至11のいずれかのイオンガイドを備える衝突セル(200、400)。
【請求項13】
請求項1乃至11のいずれかのイオンガイドを備える質量分析システム(100)。
【請求項14】
請求項12の衝突セル(200、400)を備える質量分析システム(100)。
【請求項1】
各々のロッドが、第1の端部(204、205、206)と、該第1の端部から離れたところにある第2の端部(207、208、209)を有する、ロッド(201、202、203、301、302、303)と、
対をなす隣接するロッド(201、202、203、301、302、303)間に接続されたインダクター(402)と、
対をなす隣接するロッド(201、202、203、301、302、303)間に無線周波数(RF)電圧(502)を印加するための手段であって、該RF電圧は、前記ロッド(201、202、203、301、302、303)間のある領域に多重極場を生成する、手段と、
前記ロッド(201、202、203、301、302、303)の各々のある長さに沿って直流(DC)電圧(505)降下を与えるための手段
とを備えるイオンガイド(102)。
【請求項2】
前記インダクター(402)は、前記対をなす各々のロッドのそれぞれの中間点に接続される、請求項1のイオンガイド。
【請求項3】
前記ロッドの各々は、それぞれの第1の端部(204、205、206)と第2の端部(207、208、209)の間のある長さに沿った湾曲部を有する、請求項1または2のイオンガイド。
【請求項4】
前記ロッドの各々は、それぞれの第1の端部(204、205、206)と第2の端部(207、208、209)の間のある長さに沿って実質的に直線状である、請求項1乃至3のいずれかのイオンガイド。
【請求項5】
前記ロッドの前記第1の端部(204、205、206)は全体で、イオンビームを通過させるのに十分な大きさの領域を囲む、請求項3のイオンガイド。
【請求項6】
前記ロッドの各々は円の弧に近似している、請求項1乃至5のいずれかのイオンガイド。
【請求項7】
前記第1の端部(204、205、206)は、第1の半径(r1)を有する第1の円のまわりに配置され、前記第2の端部(207、208、209)は、第2の半径(r2)を有する第2の円のまわりに配置され、前記第1の半径は前記第2の半径よりも大きい、請求項1乃至6のいずれかのイオンガイド。
【請求項8】
前記ロッド(201、202、203、301、302、303)が電気抵抗を有する、請求項1乃至7のいずれかのイオンガイド(102)。
【請求項9】
前記ロッド(201、202、203、301、302、303)は非導電性であり、それらのロッドの各々の長さに沿って選択的に配置された電極を備える、請求項1乃至8のいずれかのイオンガイド。
【請求項10】
前記インダクターが、前記RF周波数においてある漂遊容量を有する共振回路を形成するように選択されたインダクタンスを有する、請求項1乃至9のいずれかのイオンガイド(102)。
【請求項11】
前記RF電圧の振幅が時間的に変化する、請求項1乃至10のいずれかのイオンガイド(102)。
【請求項12】
請求項1乃至11のいずれかのイオンガイドを備える衝突セル(200、400)。
【請求項13】
請求項1乃至11のいずれかのイオンガイドを備える質量分析システム(100)。
【請求項14】
請求項12の衝突セル(200、400)を備える質量分析システム(100)。
【図1A】
【図1B】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図1B】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【公開番号】特開2011−238616(P2011−238616A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−105806(P2011−105806)
【出願日】平成23年5月11日(2011.5.11)
【出願人】(399117121)アジレント・テクノロジーズ・インク (710)
【氏名又は名称原語表記】AGILENT TECHNOLOGIES, INC.
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月11日(2011.5.11)
【出願人】(399117121)アジレント・テクノロジーズ・インク (710)
【氏名又は名称原語表記】AGILENT TECHNOLOGIES, INC.
【Fターム(参考)】
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