説明

改善されたバイオアベイラビリティーを有するクルクミンのリン脂質複合体

本発明は、改善されたバイオアベイラビリティーを有するクルクミンまたはクルクミンを含有する抽出物の新規なリン脂質複合体に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改善されたバイオアベイラビリティーを有するクルクミンまたはそれを含有する抽出物の新規なリン脂質複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
[1,7−ビス(4−ヒドロキシル−3−メトキシフェニル)−1,6−ヘプタジエン−3,5−ジオン]である、クルクミンは、ウコン(Curcuma longa Linn)の根から抽出される香辛料ターメリック(turmeric)の主要成分である。クルクミンは、強力な抗酸化物質を有するポリフェノールであり、転写因子NFkBの活性化の妨害によって少なくともある程度、酵素シクロオキシゲナーゼ2(Cox2)の発現を阻害する[2、14]。In vitroで、クルクミンは、癌細胞の増殖を阻害し、20〜75μMのIC50値を有する[6、16]。げっ歯類モデルにおいて、クルクミンは、大腸、皮膚、胃、十二指腸、軟口蓋、舌、皮脂腺および乳房における癌を防止することが示されてきた[9、10、15]。したがって、クルクミンは、有望で効果的および安全な癌化学予防剤と見なすことができるだろう[18]。実際、臨床パイロット研究では、クルクミンの消費が、膀胱、軟口蓋、胃、頸部および皮膚の前癌性病変の退縮と関連付けられた[1、11]。
【0003】
しかし、血漿および標的組織において達成されるクルクミンの濃度は低く、これはおそらく、少なくともある程度、抱合(グルクロン酸抱合および硫酸化)および還元経路による、その広範な代謝が原因である[4、5、7、8]。
【0004】
前臨床および臨床パイロット研究は、第I相試験において、3600mgのクルクミンを経口的に摂取した患者におけるクルクミンの血漿濃度および尿中濃度は、それぞれ11.1nmol/Lおよび1.3μmol/Lであったことを示す[17]。別の研究では、4〜8gのクルクミンを受けている患者において、経口投与から1〜2時間後のピーク血漿濃度は、0.41〜1.75μMに到達した[1]。すでに検討された用量を超えるクルクミンの経口用量を増加させることは、実用的でもなく、望ましくもない。
【0005】
したがって、改善されたバイオアベイラビリティーを有する、新規なクルクミン誘導体を見出すことが非常に望ましい。
【0006】
野菜抽出物またはその精製された成分の、天然、合成または半合成リン脂質との複合体化合物は、例えばEP209038、EP275005、EP283713、EP1035859およびEP1140115において開示されてきた。前記複合体は、その親油性の結果、抽出物または精製された成分の血漿バイオアベイラビリティー(plasma bioavailability)を改善する。EP1140115では、前記複合体の調製に用いることのできる様々な溶媒の中で、エタノールが一般的に挙げられているが、溶媒としてエタノールを用いる調製例は提供されていない。さらに、開示された複合体は、プロアントシアニジンA2のリン脂質複合体であり、これは、本発明のクルクミンのリン脂質複合体に対して、化学構造がまったく異なる。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0007】
製剤化されていないクルクミンよりも高い全身性レベルの親剤(parent agent)を提供する、クルクミンのリン脂質複合体は、プロトン性溶媒中で調製することができることが、現在見出されている。
【0008】
したがって、本発明は、改善されたバイオアベイラビリティーを有するクルクミンの新規なリン脂質複合体に関する。
【0009】
本発明によれば、野菜由来または合成由来のいずれのリン脂質も用いることができ、特に好ましいのはダイズリン脂質、例えば、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルエタノールアミンなどである。
【0010】
本発明によれば、該複合体は、プロトン性溶媒中に溶解させたクルクミンにリン脂質を加えることによって、より詳細には、ウコン根茎の水アルコール抽出物のエタノール溶液に、還流下で攪拌しながらリン脂質を加えることによって調製される。得られる懸濁液を、減圧下で濃縮して残留物とし、これを乾燥器内で乾燥させる。リン脂質とクルクミンの比は、10から1w/wの範囲内であり、より好ましいモル比は、5:1w/wである。
【0011】
本発明は、適当な医薬担体と混合した、本発明によるクルクミンのリン脂質複合体の1つを活性成分として含有する医薬組成物にも関する。
【0012】
本発明はさらに、化学予防作用を有する薬物の調製のための、本発明のクルクミンのリン脂質複合体の使用に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下の実施例は、本発明をさらに例示するものである。
【実施例1】
【0014】
低含有量のクルクミンを含む抽出物の調製
粉砕し、乾燥したウコン根茎(1000g)を、エタノール−水 9:1の混合物(6680ml)で抽出した。得られる水アルコール溶液を減圧下で濃縮し、真空下60℃の乾燥器内で乾燥を完了させることによって、17.4%w/wのクルクミン含有量および29.2%w/wの総クルクミノイド含有量を有する、69.3gのオレンジ色ペーストを得た。
【実施例2】
【0015】
高含有量のクルクミンを含む抽出物の調製
粉砕し、乾燥したウコン根茎(1000g)を、ヘキサン(2500ml)で脱脂した後、エタノール−水 95:5の混合物(7500ml)で抽出した。次いでこの水アルコール溶液にヘキサン(500ml)を徐々に加え、得られる混合物を24時間静置することによって、クルクミノイドを結晶化させた。微結晶性オレンジ色固体を濾過し、真空下60℃で乾燥させることによって、71.74%のクルクミン含有量および93.8%w/wの総クルクミノイド含有量を有する、36.7gの抽出物を得た。
【実施例3】
【0016】
低含有量抽出物からの複合体の調製
実施例1からの20gの生成物を、エタノール(400ml)に溶解させ、この溶液を還流した。30gのダイズリン脂質を、還流下で攪拌しながら徐々に少しずつ加えた。得られる懸濁液を攪拌しながら1時間還流し、次いで減圧下で高温濃縮し、最後に乾燥器内で乾燥させた。7.54%のクルクミン含有量および12.1%w/wの総クルクミノイド含有量を有する、46.7gのオレンジ色蝋状生成物を得た。
【0017】
出発抽出物は、塩素系溶媒に不溶性であるが、得られる生成物は、4%w/vの濃度でのCHClに可溶性であり、したがってリン脂質による抽出物の複合体形成および分子複合体の形成を裏づける。
【0018】
CDCl中の複合体のH−NMRスペクトルは、複合体を形成したリン脂質に典型的な、リン脂質の主要シグナルを示す。一方、複合体の凝集を防止する溶媒である、DMSO−d中の複合体のH−NMRスペクトルは、遊離した出発抽出物のシグナルならびにリン脂質のシグナルを示す。
【0019】
31P−NMRスペクトルでは、CDCl中の31Pのシグナルは、1.06ppmにあり、幅35.3Hzであり、これは複合体を形成したリン脂質に典型的である。複合体は、DMSO−d中で破壊され、遊離したリン脂質に典型的な、幅3.80Hzを有する0.12ppmでの31Pのシグナルによって確認される。
【実施例4】
【0020】
高含有量抽出物からの複合体の調製
93.8%w/wの総クルクミノイド含有量を有する、20gのウコン根茎抽出物を、エタノール(800ml)中に溶解させ、この溶液を還流した。80gのダイズリン脂質を、還流下で攪拌しながら徐々に少しずつ加えた。得られる懸濁液を、攪拌しながら1時間還流し、次いで減圧下で高温濃縮し、最後に乾燥器内で乾燥させた。13.2%のクルクミン含有量および16.9%w/wの総クルクミノイド含有量を有する、97.6gのオレンジ色蝋状生成物を得た。
【0021】
4%w/vの濃度でのCHCl中の生成物の溶解度およびNMRスペクトルは、実施例3のものと同じであり、複合体の形成を裏づけている。
【0022】
実験項
試験を実施することによって、本発明のリン脂質複合体によって、および複合体を形成していないクルクミンを含有する抽出物によって提供されるクルクミンのバイオアベイラビリティーを比較した。
【0023】
材料および方法
雄のウィスターラット(250g)を一晩絶食させ、実施例2によって得られた抽出物または実施例4によって得られた複合体のいずれかを、クルクミンに関して340mg/Kgの用量で、経口胃管栄養法によって投与した。
【0024】
ラットを、15、30、60および120分で殺した。全血を、ヘパリン処理したチューブに採取し、直ちに7000×gで15分間遠心し、次いで血漿をデカントし、分析するまで−80℃で保管した。
【0025】
クルクミンおよび代謝産物の存在は、以前に記載されたように(4、5、7)、負イオンエレクトロスプレー液体クロマトグラフィー/タンデム質量分析によって検証した。
【0026】
薬物動態学的分析
実施例4に記載した、リン脂質で複合体を形成したクルクミンの投与後の、親クルクミンについてのピーク血漿レベルおよび血漿濃度時間曲線下面積(AUC)は、実施例2の抽出物(複合体を形成していないクルクミン)での処置後に見られる、相当する値よりも5倍高かった(表1)。
【0027】
【表1】

【0028】
結果
結果は、本発明のクルクミンのリン脂質複合体は、複合体を形成していないクルクミンよりも、高い全身性レベルの親剤を提供することを示す。
【0029】
クルクミンのリン脂質複合体の改善されたバイオアベイラビリティーは、化学予防剤としてのクルクミンについての医療用途の潜在的な範囲を増大させる。
【0030】
参考文献
1. Cheng AL, et al., Anticancer Res 21: 2895-2900.
2. Duvoix A, et al., Cancer Lett 223: 181-190.
3. Fagerholm U, et al., J Pharm Pharmacol 50: 467-443.
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6. Goel A, et al., Cancer Letters 172: 111-118.
7. Ireson C, et al., Cancer Res 61: 1058-1064.
8. Ireson C, et al., Cancer Epidemiol. Biomarkers & Prev 11: 97-104.
9. Kawamori T, et al., Cancer Res 59: 597-601.
10. Kelloff GJ, et al., J Cell Biochem 63: 54-71.
11. Kuttan R, et al., Tumors 3: 29-31.
12. Li, L., et al., Cancer 104: 1322-1331.
13. Mourao SC, et al., Int J Pharmaceut 295: 157-162.
14. Plummer SM., et al., Oncogene 18: 6013-6020.
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16. Shao Z-M, et al., Int J Cancer 98: 234-240.
17. Sharma RA, et al., Clin Cancer Res 10: 6847-6854.
18. Surh YJ Nature Rev Cancer 3: 768-780.
19. Workman P, et al., Brit J Cancer 77: 1-10.

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クルクミンまたはそれを含有する抽出物のリン脂質複合体。
【請求項2】
前記リン脂質がダイズリン脂質である、請求項1に記載の複合体。
【請求項3】
前記リン脂質が、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルエタノールアミンから選択される、請求項2に記載の複合体。
【請求項4】
前記リン脂質とクルクミンの比が10から1w/wの範囲内である、請求項1に記載の複合体。
【請求項5】
前記リン脂質とクルクミンの比が5から1w/w(from 5:1 w/w)である、請求項2に記載の複合体化合物。
【請求項6】
請求項1から3に記載の複合体化合物を調製するための方法であって、ウコン根茎の水アルコール抽出物を、アルコール溶媒中でリン脂質と反応させ、次いで濃縮し、乾燥させることによって前記複合体化合物を単離する方法。
【請求項7】
前記アルコール溶媒がエタノールである、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
適当な医薬担体と混合した、請求項1から5に記載の複合体を活性成分として含有する医薬組成物。
【請求項9】
化学予防薬の調製のための、請求項1から5に記載の複合体の使用。

【公表番号】特表2009−529506(P2009−529506A)
【公表日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−557619(P2008−557619)
【出願日】平成19年2月21日(2007.2.21)
【国際出願番号】PCT/EP2007/001487
【国際公開番号】WO2007/101551
【国際公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【出願人】(508266638)
【Fターム(参考)】