改善されたブタ肝臓エステラーゼ
本発明は、配列番号2、4、6、8、10、12もしくは14のいずれか1つに示すアミノ酸配列を含み、エステラーゼ活性を有する単離されたポリペプチドまたはそのホモログであって、前記配列番号に示すような1つ以上のアミノ酸のアミノ酸置換または欠失を含み、大腸菌(E.coli)で発現された突然変異体ポリペプチドの透明化されたライセート中に活性型でかつ可溶性のタンパク質として存在する突然変異体ポリペプチドの画分の濃度が、同じ条件下において大腸菌(E.coli)で発現された1つ以上の欠失または置換を含まないポリペプチドの透明化されたライセート中に活性型でかつ可溶性のタンパク質として存在する突然変異がないポリペプチドの画分の濃度と比べて増加した突然変異体ポリペプチドが得られる、単離されたポリペプチドまたはそのホモログに関する。本発明はまた、本発明によるポリペプチドをコードする核酸、およびポリペプチドの使用に関する。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、エステラーゼ活性を有し、かつ大腸菌(E.coli)で発現されたポリペプチドの透明化されたライセート中に活性型でかつ可溶性のタンパク質として存在するポリペプチドの画分の濃度が、そのアミノ酸配列中に特定の突然変異がないポリペプチドと比べて増加した単離された突然変異体ポリペプチドに関する。本発明はまた、突然変異体ブタ肝臓エステラーゼをコードする単離された核酸配列および本発明による突然変異体ポリペプチドの使用に関する。
【0002】
ブタ肝臓エステラーゼ(PLE)は、非常に有用な部類の加水分解酵素として知られており、例えば、それらは、エステルのエナンチオ選択的加水分解において非常に有用である。ブタ肝臓から単離された粗ライセートのPLEの使用には重大な欠点があったので、それらが有用であるとみなされている事実は、非常に驚くべきことである。(i)異なる特性を有する様々なアイソザイムが存在するので、エナンチオ選択性がバッチ間で変化することがあり、また、操作上の安定性の違いのために、反応時間とともに変化することもある。(ii)粗ブタ肝臓抽出物のウイルスまたはプリオン汚染のリスクは、製薬業界にとっての大きな懸念である。(iii)さらに、PLEの助けを借りて生産された製品は、コーシャまたはハラールとみなされない可能性がある。
【0003】
これらの制限のために、組換えでブタ肝臓アイソザイムを産生するための様々な努力が知られている。当初、メチルトローフ酵母のピキア・パストリス(Pichia pastoris)がブタ肝臓エステラーゼの優れた発現系であると思われたが、結局、正確な酵素フォールディングに寄与する特定の宿主、遺伝子および発現系が改善された後に、大腸菌(Escherichia coli)がより優れた宿主であることが分かった。
【0004】
国際特許出願国際公開第2009/004093号パンフレットには、大腸菌(E.coli)におけるブタ肝臓エステラーゼの発現が記載されており、この文献は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0005】
PLEはそのような有用な酵素であるので、この酵素で達成することができる活性レベルをさらに改善する必要が依然としてある。
【0006】
驚くべきことに、現在、大腸菌(E.coli)で発現されたブタ肝臓エステラーゼアイソフォーム突然変異体および相同なエステラーゼの発現レベル、それゆえ、活性レベルは、そのアミノ酸配列中の1つまたは複数の残基、すなわち、ブタ肝臓エステラーゼの多量体形成に関与するアミノ酸の1つまたは複数を、多量体形成をもたらさないかまたは多量体形成の傾向を低下させるアミノ酸と置換し、それによりPLEの四次構造を変化させることによって、顕著に改善できることが見出されている。
【0007】
この発見は、配列番号1のヌクレオチド位置5541に対応する、APLE(配列番号1)をコードするオープン・リーディング・フレームの位置788での突然変異の生成がきっかけであった。この置換はTからAへのものであり、APLE酵素中の疎水性バリンの、負電荷を有するアスパラギン酸への置換(V263D)を生じさせた。コンピュータモデルにより、この突然変異は酵素の極めて外側のヘリックス表面に位置し、したがって、酵素の活性部位の空洞から離れた所にあることが示されたが、(4E)−5−クロロ−2−イソプロピルペント−4−エノン酸メチルエステルに対するこの突然変異型酵素の総活性は、総可溶性タンパク質1mg当たり6.5から11.6ユニットに増加することも分かった。ジメチル−3−(3,4−ジクロルフェニル)−グルタラートの場合、活性は、総可溶性タンパク質1mg当たり36から42mUに増加し、パラ−ニトロフェニルアセタートの場合、活性は、総可溶性タンパク質1mg当たり15.4から24.3Uに上昇した。当初は、APLEの外側領域の突然変異が様々な変換に対してなぜそのような強力な影響を有するのかという理由の説明はなかった。しかしながら、ヒトホモログhCE1の構造解析により、APLEの位置263のバリンが多量体化に重要である可能性があることが同定された。電荷を有するアスパラギン酸を代わりに導入することにより、2つのサブユニット間の相互作用を安定化する、もともと存在していた疎水性相互作用が損なわれる。負の電荷を有するアミノ酸は、疎水性相互作用を介して他のサブユニットに結合する代わりに、それと反発する可能性がある。
【0008】
次に、多量体形成が、疎水性相互作用を妨げる位置263のアスパラギン酸によって導入される変化により妨げられ、そのために、単量体の形成がもたらされるという仮説を検証した。APLEのコンピュータモデルの分析から、ある単量体の位置263のバリンが、別の単量体の位置43のロイシンと相互作用し得るという結論が得られた。三量体形成は、少なくとも一部は、合計3つのサブユニットの間でL43とV263が交互に疎水性相互作用することにより起こると仮定された。したがって、どのアミノ酸がアスパラギン酸に置き換えられるにしても、相互作用は妨害されるはずである。仮説を検証するために、位置43のロイシンをアスパラギン酸に置き換えると、単量体化がもたらされた。
【0009】
この突然変異も単量体形成をもたらしたので、これにより、置換がなければ多量体を形成することができるPLE単量体の特定の位置にあるアミノ酸の置換によって、単量体形態で存在する酵素の量が増加することが証明され、L43D変異体はV263D変異体よりも可溶性の低いタンパク質を生じさせたが、多量体形成に関与する位置で突然変異が導入され、かつ特定の変換のために用いられる酵素を含む一定量の透明化されたライセートに見出される活性が、同じ変換に用いられる突然変異がない酵素を含む同じ量の透明化されたライセートと比べて増大したことは明白である。同じ突然変異が配列番号2、4、6、8、10、12または14のいずれか1つによる全てのポリペプチドに導入され、同じ効果がもたらされた。
【0010】
したがって、本発明は、配列番号2、4、6、8、10、12もしくは14のいずれか1つに示すアミノ酸配列を含み、エステラーゼ活性を有する単離されたポリペプチドまたはそのホモログであって、前記配列番号に示すような1つ以上のアミノ酸のアミノ酸置換または欠失を含み、大腸菌(E.coli)で発現された突然変異体ポリペプチドの透明化されたライセート中に活性型でかつ可溶性のタンパク質として存在する突然変異体ポリペプチドの画分の濃度が、同じ条件下において大腸菌(E.coli)で発現された1つ以上の欠失または置換を含まないポリペプチドの透明化されたライセート中に活性型でかつ可溶性のタンパク質として存在する突然変異がないポリペプチドの画分の濃度と比べて増加した突然変異体ポリペプチドが得られる、単離されたポリペプチドまたはそのホモログに関する。
【0011】
1つ以上のアミノ酸を欠失させるのではなく、1つ以上のアミノ酸を置換することが好ましい。
【0012】
本文書では、相対エステラーゼ活性は、野生型(すなわち、突然変異が導入されていない親酵素)の活性と、同じ量の可溶性タンパク質調製物(透明化されたライセート)を用いて同じ条件下で調製されたそれぞれの突然変異体酵素の活性を比較したものである(材料および方法の節の「発現および細胞回収」という見出しの下を参照されたい;そこには、透明化されたライセートの調製が記載されており、また、「PLE活性の定量」の下には、活性を測定するための方法が記載されている)。相対活性(r[%])は、r=([p−NPAmut]/[p−NPAwt])×100%という式に従って、1分間当たりの突然変異体ライセートのパラ−ニトロフェノールの放出([p−NPAmut])を、1分間当たりの対応する野生型ライセートのパラ−ニトロフェノール放出([p−NPAwt])で割ったものに、100%を掛けて算出される。
【0013】
一実施形態では、本発明は、本発明による単離されたポリペプチドに関するものであり、このポリペプチドは、アミノ酸の欠失または置換がない対応する野生型ポリペプチドのエステラーゼ活性と比較して10%のエステラーゼ活性の増加を示す。
【0014】
酵素は、一次構造(アミノ酸配列)、二次構造(主にα−ヘリックスおよびβ−シート)ならびに三次構造(1ペプチド鎖の構造)を有する。さらに、いくつかの酵素は、同じ(ホモ)または異なる(ヘテロ)サブユニット(ペプチド鎖)の集合体(多量体)である四次構造を形成する。ブタ肝臓エステラーゼはホモ三量体である。この酵素および突然変異体の四次構造は、グリセロール密度勾配遠心分離(グリセロール密度勾配遠心分離の説明については、実施例3を参照されたい)およびネイティブゲル電気泳動(この方法の説明については、材料および方法の節の「ネイティブゲル電気泳動」という見出しの下を参照されたい)によって試験することができる。
【0015】
多量体形成は、通常、異なるアミノ酸の複数の分子間引力、例えば、異なるサブユニット(単量体)の疎水性/疎水性またはイオン(陽/陰)相互作用によって起こる。そのような相互作用は、多くの場合、酵素を安定化し、それゆえ、酵素にとって有益であることが多い。本発明では、驚くべきことに、そのような引力のごく一部を破壊することによって、四次構造の変化と、透明化されたライセート中のPLEおよび相同な酵素のより高い相対活性とがもたらされることが見出された。
【0016】
したがって、本発明は、配列番号2、4、6、8、10、12もしくは14のいずれか1つに示すアミノ酸配列を含み、エステラーゼ活性を有する単離されたポリペプチドまたはそのホモログであって、少なくとも1つのアミノ酸置換または欠失が、単量体の相互作用点に、単量体が多量体を形成するときに位置し、かつ単量体間のその相互作用点を破壊するアミノ酸位置で起こっている、前記配列番号に示すような1つ以上のアミノ酸のアミノ酸置換または欠失を含み、大腸菌(E.coli)で発現された突然変異体ポリペプチドの透明化されたライセート中に活性型でかつ可溶性のタンパク質として存在する突然変異体ポリペプチドの画分の濃度が、同じ条件下において大腸菌(E.coli)で発現された1つ以上の欠失または置換を含まないポリペプチドの透明化されたライセート中に活性型でかつ可溶性のタンパク質として存在する突然変異がないポリペプチドの画分の濃度と比べて増加した突然変異体ポリペプチドが得られる、単離されたポリペプチドまたはそのホモログに関する。好ましくは、本発明は、配列番号2、4、6、8、10、12または14のいずれか1つによるアミノ酸配列を含み、エステラーゼ活性を有する単離されたポリペプチド、および配列番号2、4、6、8、10、12または14のいずれか1つに対して少なくとも90%を上回る、好ましくは95%を上回る同一性のアミノ酸同一性を有する単離されたポリペプチドに関するものであり、ここで、少なくとも1つのアミノ酸置換または欠失は、単量体の相互作用点に、単量体が多量体を形成するときに位置し、単量体間のその相互作用点を破壊するアミノ酸位置で起こっている。好ましくは、置換または欠失は、アミノ酸位置43、260、263、266もしくは270の群から選択される1つ以上の位置、またはそれに対応する位置で行なわれる。好ましい置換は、L43D、T260P、T260A、V263DおよびV263Gまたはそれに対応する位置である。
【0017】
特に、本発明は、位置43、260、263またはそれに対応する位置の群から選択される1つ以上のアミノ酸置換、好ましくは、置換L43D、T260P、T260A、V263D、V263Gまたはそれに対応する位置の群から選択される置換を含む、配列番号2、4、6、8、10、12もしくは14のいずれか1つに示すアミノ酸配列を含み、エステラーゼ活性を有する単離されたポリペプチドまたは配列番号2、4、6、8、10、12もしく14のいずれか1つに対して90%を上回る、好ましくは95%を上回る、より好ましくは97%を上回る、最も好ましくは98%を上回る同一性のアミノ酸同一性を有するそのホモログに関する。
【0018】
本発明の枠組みにおいて、同一性(または相同性)パーセントは、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/bl2seq/wblast2.cgiにある、以下の標準的なパラメータを用いて、Tatiana A.Tatusova、Thomas L.Madden(1999)、「Blast 2配列 − タンパク質配列とヌクレオチド配列を比較するための新しいツール(Blast 2 sequences − a new tool for comparing protein and nucleotide sequences)」、FEMS Microbiol Lett.174:247−250に記載の通りに決定されたものであるか、またはそのように決定され得るものである。
−タンパク質配列の場合:
マトリックス:BLOSUM62
オープンギャップ:5
伸長ギャップ:2
ペナルティギャップx_ドロップオフ:11
期待:10
ワードサイズ:11
−ヌクレオチドの場合:
一致に対する報酬:1
不一致に対するペナルティ:−2
オープンギャップ:11
伸長ギャップ:1
ペナルティギャップx_ドロップオフ:50
期待:10
ワードサイズ:3
【0019】
様々な単量体の引力を破壊するために標的とすることができる位置は、PLEまたは相同な酵素(例えば、ヒト肝臓カルボキシルエステラーゼ1、PDBエントリー1 MX1もしくはウサギ肝臓カルボキシルエステラーゼ1、PDBエントリー1K4Y)のX線構造の解析によるかまたはランダム突然変異導入実験によって同定することができる。置換の標的とするための好ましいアミノ酸位置は、位置43、260および263、ならびにこれらのアミノ酸と相互作用する他のサブユニットのアミノ酸である。
【0020】
既知の方法を用いて四次構造に寄与するアミノ酸位置を同定した後、引力を破壊するためにアミノ酸置換を選ぶ。好ましい置換は、疎水性残基、例えば、アラニン(AlaまたはAと略す)、バリン(ValまたはVと略す)、イソロイシン(IleまたはIと略す)、ロイシン(LeuまたはLと略す)、メチオニン(MetまたはMと略す)、フェニルアラニン(PheまたはFと略す)、トリプトファン(TrpまたはWと略す)、システイン(CysまたはCと略す)、プロリン(ProまたはPと略す)と、疎水性の低いアミノ酸または親水性アミノ酸、例えば、リジン(LysまたはKと略す)、アルギニン(ArgまたはRと略す)、アスパラギン酸(AspまたはDと略す)、グルタミン酸(GluまたはEと略す)、セリン(SerまたはSと略す)、チロシン(TyrまたはYと略す)、トレオニン(ThrまたはTと略す)、グリシン(GlyまたはGと略す)、ヒスチジン(HisまたはHと略す)、グルタミン(GlnまたはQと略す)、アスパラギン(AsnまたはNと略す)との交換、および疎水性の低いアミノ酸または親水性アミノ酸と疎水性残基との交換である。他の好ましいアミノ酸置換は、正の電荷を有するアミノ酸(例えば、リジン、アルギニンまたはヒスチジン)を、負の電荷を有するアミノ酸(例えば、アスパラギン酸またはグルタミン酸)と置換すること、または負の電荷を有するアミノ酸を正の電荷を有するアミノ酸と置換することによって、イオン力の破壊を標的とする。
【0021】
したがって、好ましい突然変異は、L43とK、R、D、E、S、Y、T、G、H、QおよびNの群から選ばれる任意のアミノ酸との置換である。別の好ましい突然変異は、T260とA、V、I、L、M、F、W、CおよびPの群から選ばれる任意のアミノ酸との置換である。別の好ましい突然変異は、H266とA、V、I、L、M、F、W、CおよびPおよびDおよびEの群から選ばれる任意のアミノ酸との置換である。別の好ましい突然変異は、Q270とA、V、I、L、M、F、W、CおよびPの群から選ばれる任意のアミノ酸との置換である。突然変異は全て、配列番号2、4、6、8、10、12または14によるアミノ酸配列のいずれか1つと比べて記載されている。
【0022】
特に好ましいのは、配列番号2、4、6、8、10、12または14のいずれか1つのアミノ酸配列に基づく、以下の突然変異:V263D、L43D、T260PおよびT260Aである。
【0023】
突然変異が起こる前の多量体形成の量と比べて多量体形成を増大させるアミノ酸配列が置換によって生じない限り、記載された突然変異の1つ以上の組合せも可能であることが当業者に理解されるであろう。
【0024】
知られているように、アミノ酸の付番は、タンパク質が由来している種に依存する。付番は、欠失または挿入により変化することもある。しかしながら、配列を整列させる方法は当業者に公知である。したがって、本文書では、「またはそれに対応する」という語句は、その数字を除いて、配列番号1の位置43、260および263と同じであるアミノ酸位置を説明するために用いられる。
【0025】
本発明の単離されたポリペプチドは、多量体形成を減少させる突然変異の他に、所望の基質に対する選択性および/または活性を改善する1つ以上のさらなる突然変異を含み得る。
【0026】
したがって、好ましい実施形態では、本発明は、位置43、260および263、もしくはそれに対応する位置での1つ以上のアミノ酸置換と、F234SおよびL238Vの群から選択される1つ以上のアミノ酸置換とを含む、配列番号2、4、6、8、10、12もしくは14のいずれか1つに示すアミノ酸配列を含み、エステラーゼ活性を有する単離されたポリペプチドまたは配列番号2、4、6、8、10、12もしくは14のいずれか1つに対して少なくとも90%を上回る、好ましくは95%を上回る同一性のアミノ酸同一性を有するそのホモログに関する。アミノ酸置換が、位置43、位置260および位置263を含む位置の群から選択される、またはより具体的には、L43D、T260P、T260A、V263DおよびV263Gの群から選択される1つ以上の位置での1つ以上の置換であることが、この実施例でさらにより好ましい。
【0027】
F234S突然変異は、APLEをコードする遺伝子の位置701のTをCに置換した結果であった。L238V突然変異は、APLEをコードする遺伝子の位置712のTをAに置換した結果であった。多量体形成を妨げる突然変異とは独立に、これら2つの突然変異のうちの少なくとも1つを含む配列番号2、4、6、8、10、12または14のいずれか1つによるアミノ酸配列を含むポリペプチドのいずれか1つの突然変異体は、パラ−ニトロフェニルアセタート、および/もしくはジメチル−3−(3,4−ジクロルフェニル)−グルタラートの変換に、ならびに/またはラセミ(4e)−5−クロロ−2−イソプロピルペント−4−エノン酸メチルエステルの分割に極めて有用である。したがって、本発明はまた、そのようなポリペプチドに関する。
【0028】
したがって、本発明はまた、L238VおよびF234Sの群から選択される1つ以上のアミノ酸置換を含む、配列番号2、4、6、8、10、12もしくは14のいずれか1つに示すアミノ酸配列を含み、エステラーゼ活性を有する単離されたポリペプチドまたは配列番号2、4、6、8、10、12もしくは14のいずれか1つに対して少なくとも95%の同一性、好ましくは97%、より好ましくは98%の同一性のアミノ酸同一性を有するそのホモログに関する。好ましくは、L238Vおよび/またはF234S突然変異が存在することに加えて、以下の位置には、以下のアミノ酸残基がある。すなわち、位置129、133、134、138および139において、残基は、それぞれ、V、S、T、LおよびAである。本発明はまた、L238VおよびF234Sから選ばれる少なくとも1つの突然変異を有する配列番号2、4、6、8、10、12または14のいずれか1つによるポリペプチドをコードする核酸に関する。また、酸、エステルもしくはアルコールの産生のための、またはより具体的には、パラ−ニトロフェニルアセタートの変換、もしくはラセミ(4e)−5−クロロ−2−イソプロピルペント−4−エノン酸メチルエステルの分割もしくはジメチル−3−(3,4−ジクロルフェニル)−グルタラートの変換のための、L238VおよびF234Sから選ばれる少なくとも1つの突然変異を有する配列番号2、4、6、8、10、12または14のいずれか1つによるポリペプチドの使用は、本発明の一部である。
【0029】
本発明はまた、本発明による単離されたポリペプチドをコードする核酸に関する。特に、本発明は、配列番号1、3、5、7、9、11または13におけるコード配列である核酸および配列番号1、3、5、7、9、11または13におけるコード配列である核酸に対して、好ましくは80%を上回る同一性、より好ましくは90%を上回る、さらにより好ましくは95%を上回る、最も好ましくは98%を上回る同一性を有するそのホモログに関する。
【0030】
一実施形態では、本発明は、本発明による単離されたペプチドが適用される、酸、エステルまたはアルコールを製造するための方法に関する。また、本発明は、α−アルキル化酸および/またはエステルが製造されるそのような方法、より具体的には、これらのα−アルキル化酸から選択される光学的に純粋なα−アルキル化酸がその対応するアルコールに還元される方法に関する。さらなる実施形態では、これらのアルコールは、天然のジペプチド合成コピーであるジペプチドミメティックのビルディングブロックとしてさらに適用される。さらに、本発明は、血圧降下剤におけるこれらのビルディングブロックの適用に関する。
【0031】
本発明はさらに、本明細書に記載されたような本発明による単離されたペプチド、核酸配列、ポリペプチドの使用および方法による様々な実施形態および/または好ましい特色の全てのあり得る組合せに関する。
【0032】
さらに、本発明は、配列番号1、3、5、7、9、11および13と組み合わせた全ての実施形態に関し、ここで、ポリペプチドは、これらの配列中に示されたオープン・リーディング・フレームによってコードされている。
【0033】
材料および方法
ポリペプチドおよびその突然変異体を調製するための一般的技術は当技術分野で公知であり、例えば、Sambrookら著、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第3版、Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor、NY(2001)に見出し得る。
【0034】
[APLE、γPLE、PICE、PLE2、PLE3、PLE4、PLE5および対応する突然変異体を発現する組換え大腸菌(E.coli)の調製]
合成遺伝子γPLE、PICE、PLE2、PLE3、PLE4、PLE5(配列番号4、6、8、10、12または14を参照されたい)をNdeIおよびHindIIIで切断し、Sambrook,J.、Fritsch,E.F.およびManniatis,T.(1989)著、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory Pressに記載されているような標準的な分子生物学の手法を用いて、APLE(配列番号2および図1参照)をコードするpCm470_DsbC_APLE−C8PのNdeIおよびHindIII制限部位にクローニングした。
【0035】
pCm470_DsbC_APLE−C8PおよびAPLE、γPLE、PICE、PLE2、PLE3、PLE4、PLE5をコードする上で得られたプラスミドを大腸菌(E.coli)オリガミ(Origami)B(DE3)に形質転換した。
【0036】
APLE、γPLE、PICE、PLE2、PLE3、PLE4、PLE5の突然変異体は、APLE、γPLE、PICE、PLE2、PLE3、PLE4、PLE5をコードする上記のプラスミドを鋳型として用いて、提供された取扱説明書に従って、ストラタジーン(Stratagene)(Stratagene,11011 North Torrey Pines Road La Jolla,CA 92037)のクイックチェンジ(QuikChange)(登録商標)部位特異的突然変異導入キット(Site−Directed Mutagenesis Kit)(カタログ#200518)を用いて、部位飽和突然変異導入によって調製した。
【0037】
部位特異的突然変異導入のための突然変異導入プライマーの例を配列番号15〜24に記載する。得られたAPLE、γPLE、PICE、PLE2、PLE3、PLE4、PLE5の突然変異体プラスミドを大腸菌(E.coli)オリガミ(Origami)B(DE3)に形質転換した。
配列番号15:プライマーL43D_F
5’GTCCCTTTTGCTAAGCCACCTGACGGATCTTTGAGGTTTGC 3’
配列番号16:プライマーL43D_R
5’GCAAACCTCAAAGATCCGTCAGGTGGCTTAGCAAAAGGGAC 3’
配列番号17:プライマーT260P_F
5’GCAGGATGCAAAACTACTCCTTCGGCAGTCTTCGTGC 3’
配列番号18:プライマーT260P_R
5’GCACGAAGACTGCCGAAGGAGTAGTTTTGCATCCTGC 3’
配列番号19:プライマーT260A_F
5’GCAGGATGCAAAACTACTGCTTCGGCAGTCTTCGTGC 3’
配列番号20:プライマーT260A_R
5’GCACGAAGACTGCCGAAGCAGTAGTTTTGCATCCTGC 3’
配列番号21:プライマーV263D_F
5’CTACTACTTCGGCAGACTTCGTGCATTGTTTGC 3’
配列番号22:プライマーV263D_R
5’GCAAACAATGCACGAAGTCTGCCGAAGTAGTAG 3’
配列番号23:プライマーV263G_F
5’CAAAACTACTACTTCGGCAGGGTTCGTGCATTGTTTGCGTC 3’
配列番号24:プライマーV263G_R
5’GACGCAAACAATGCACGAACCCTGCCGAAGTAGTAGTTTTG 3’
【0038】
[現および細胞回収]
培地成分および抗生物質は全て、ドイツ・カールスルーエのロート有限合資会社(Roth GmbH & Co.KG(Karlsruhe,Germany)から購入した。培養条件は以下の通りであった。すなわち、10μg/mlのクロラムフェニコールを含む前培養(pre−culture)培地のLB培地(レノックス(Lennox))20mlに、APLE、γPLE、PICE、PLE2、PLE3、PLE4、PLE5および対応する突然変異体(調製については上を参照されたい)を発現する組換え大腸菌(E.coli)のコロニーを植菌し、100mlのエルレンマイヤー(Erlenmeyer)フラスコにて、28℃および200rpmで一晩(18時間)インキュベートした。そのうちの10mlを用いて、2lのバッフル付き振盪フラスコにて、10μg/mlのクロラムフェニコール)を含む主培養培地のLB培地(レノックス(Lennox))500mlに植菌した。主培養物を28℃および120rpmでインキュベートし、OD6000.6〜0.8で、0.1mMのIPTGにより一晩(18時間)誘導した。細胞を回収するために、培養物を4,000×gにて4℃で10分間遠心分離した。ペレットを20mMのリン酸カリウムバッファー(pH8.0)25mlに再懸濁した。デューティーサイクルを80%に、出力制御レベルを8にして、ブランソン・ソニファイアー(Branson Sonfier)(登録商標)250(ブランソン、ダンブリー、米国(Branson,Danbury,USA)を用いて、細胞を、氷水で冷やしたパルプ化(pulping)ビーカー中で5分間超音波処理した。75,600×gおよび10℃で1時間遠心分離した後、可溶性タンパク質を含む上清を滅菌濾過し(0.2μmフィルター)、4℃で保存した。これらの透明化されたライセートを、パラ−ニトロフェニルアセタート(p−NPA)(シグマ・アルドリッチ・ラボルケミカリーン有限会社、ゼールツェ、ドイツ(Sigma−Aldrich Laborchemikalien GmbH,Seelze,Germany)アッセイを用いる活性測定に用いた。
【0039】
[ネイティブゲル電気泳動]
APLEを含む細菌ライセートのブルーネイティブゲル電気泳動(BN−PAGE)を、以下の変更とともに、ReisingerおよびEichacker(2006)、「ブルーネイティブゲル電気泳動による膜タンパク質複合体の解析(Analysis of membrane protein complexes by blue native PAGE)」、プロテオミクス(Proteomics) 6 補遺2、6−15に記載された方法に従って行なった。200μgの可溶性タンパク質を含むアリコートを10mMのTris/HCl(pH7.4)で最終容量95μlまで希釈した。5μlのローディングバッファーをサンプルに添加した後、サンプルを8〜16%の線形勾配ゲルに適用した。バイオラッド・グラジェント・フォーマー・モデル485(Bio−Rad Gradient Former model 485)(バイオラッド・ラボラトリー、ウィーン、オーストリア(Bio−Rad Laboratories,Vienna,Austria))の助けを借りて、勾配ゲル(16×20cm)を作製した。ゲル1枚当たり24mAの定電流にて4℃で電気泳動を行なった。電気泳動後、ゲルを0.1Mのリン酸カリウムバッファー(pH7.0)にて室温で20分間インキュベートした。エステラーゼ活性のゲル内検出のために、基質のフルオレセイン二酢酸(FDA)をアセトン[4mg/ml]に溶解させ、バイオダイン(Biodyne)(登録商標)Aメンブレン(0.45mm、16×20cm)(ポール・ライフ・サイエンス、ミシガン、米国(Pall Life Science,Michigan,USA))に適用した。アセトンの蒸発後、メンブレンをガラスプレート上に置かれたゲルと密に接触させた。ゲルとメンブレンのサンドイッチを37℃で30分間インキュベートした後、蛍光バンドを検出した。
【0040】
[SDS−PAGE、ウェスタンブロット解析およびネイティブゲル電気泳動]
SDS−PAGEは標準的なプロトコルを基にした。ゲル(分離ゲル:12.5%、積層ゲル:4%)に充填する前に、80μgの総タンパク質を含むサンプルをそれぞれの量の2×サンプルバッファーと混合し、40℃で15分間加熱した。ハイボンド(Hybond)−ECL(商標)ニトロセルロースメンブレン(アマシャム・バイオサイエンス(Amersham Biosciences))へのタンパク質のブロッティングには、TE 22・マイティー・スモール・トランスフォア・タンク・トランスファー・ユニット(TE 22 Mighty Small Transphor Tank Transfer Unit)(アマシャム・バイオサイエンス、ウプサラ、スウェーデン(Amersham Biosciences,Uppsala,Sweden))を用いた。一次抗体は、ブタ肝臓カルボキシルエステラーゼに対するポリクローナルウサギ抗体(アブカム、ケンブリッジ、英国(abcam,Cambridge,UK))であった。二次抗体は、ヒト血清タンパク質に対して吸着させたアルカリホスファターゼを結合させたポリクローナルヤギ抗ウサギ抗体(レインコ・テクノロジーズ、セントルイス、米国(Leinco Technologies,St.Louis,USA))であった。検出は、BCIP/NBT検出(カルビオケム/EMD、ラホーヤ、米国(CALBIOCHEM/EMD,La Jolla,USA))を用いてメンブレン上で直接行なわれた。使用したタンパク質標準は、ページ・ルーラー(PageRuler)(商標)プレステインド・タンパク質ラダー(フェルメンタス有限会社、セントレオン−ロット、ドイツ(Fermentas GmbH,St.Leon−Rot,Germany))であった。
【0041】
[PLE活性の定量]
ラセミ(4E)−5−クロロ−2−イソプロピルペント−4−エノン酸メチルエステルおよびジメチル−3−(3,4−ジクロルフェニル)−グルタラートに対する活性を自動滴定により測定した。滴定剤として、それぞれ、0.1Mおよび0.01MのNaOH(ロート有限合資会社、カールスルーエ、ドイツ)を用いて、メトラー・トレド・DL50・グラフィックス(Mettler Toledo DL50 GraphiX)(メトラー・トレド有限会社;ギーセン、ドイツ(Mettler−Toledo GmbH;Giessen,Germany))で測定を行なった。合計50mlの反応混合物は、トルエンに溶解させた5mlの基質、すなわち、ラセミ(4E)−5−クロロ−2−イソプロピルペント−4−エノン酸メチルエステルまたはジメチル−3−(3,4−ジクロルフェニル)−グルタラート[100mg/ml]、5mlの10%タージトール(Tergitol)(登録商標)NP−9(シグマ・アルドリッチ、ウィーン、オーストリア(Sigma−Aldrich,Vienna,Austria))および10〜40mgの可溶性タンパク質からなっていた。20mMのリン酸カリウムバッファー(pH8.0)で、容量を50mlに調整した。
【0042】
以下のp−NPAアッセイが使用されている:
2mMのp−NPAを用いて、100mMのTris/HClバッファー(pH7.0)中、室温で、透明化されたライセートを用いて、パラ−ニトロフェニルアセタート(p−NPA)(シグマ・アルドリッチ・ラボルケミカリーン有限会社、ゼールツェ、ドイツ)アッセイを行なった。パラ−ニトロフェノールの放出を、ベックマン・コールターDU(BeckmanCoulterDU)(登録商標)800分光光度計(ベックマン・コールター有限会社、クレーフェルト、ドイツ(Beckman Coulter GmbH,Krefeld,Germany))を用いて、405nm(ε=9.5946ml μmol−1 cm−1)で定量した。1ユニットは、上記の反応条件下で1分間に1μmolのパラ−ニトロフェノールを放出する酵素の量として定義される。
【0043】
[実施例]
本発明は、以下の実施例を参照して説明されるが、これらに限定されるものではない。
【0044】
[実施例1:PLE活性の定量]
上記のようなp−NPAアッセイを、上記の反応条件下で1分間に1μmolのパラ−ニトロフェノールを放出する酵素の量として用いた。
【0045】
図2は、大腸菌(E.coli)で発現されたV263D突然変異がないPLE野生型酵素と比較した、大腸菌(E.coli)で発現されたV263D突然変異体PLEのp−NPAに対する総細胞活性の増加を示す。それぞれのPLE野生型変異体のレベルを各々のPLEの100%レベルとみなす。
【0046】
本発明の枠組みでは、配列番号2、4、6、8、10、12または14のいずれか1つによるポリペプチドの全ておよびそのホモログをPLEと称する。したがって、ブタ腸カルボキシルエステラーゼ(PICE)と呼ばれる酵素もまた、本発明の枠組みにおけるPLEである。
【0047】
V263D突然変異を挿入することにより、全てのPLEが改善された活性を示したことが明白である。
【0048】
[実施例2]
V263D突然変異を有するアイソザイムにおける多量体から単量体への四次構造の変化が、ネイティブタンパク質ゲル電気泳動でさらに見られた(図3)。
【0049】
エステラーゼ活性は、フルオレセイン二酢酸(FDA)の加水分解から生じるフルオレセインでの染色によって本明細書で可視化された。7つの野生型酵素が全て、ネイティブゲル上でほぼ同じ高さの三量体であるのに対し、V263D突然変異体は、ゲルの下から3分の1にバンドを示している。複数のバンドを切り出し、SDS−PAGEゲル上で解析した。複数のバンドは、約58kDaのサイズの1つの明白なバンドを生じさせる(データは示さない)。これらのバンドは、同じ単量体の異なる立体構造に起因すると考えられる。
【0050】
[実施例3:四次構造の決定]
[グリセロール密度勾配遠心分離]
20mMのリン酸カリウムバッファー(pH8.0)中の50%〜5%のグリセロール画分1mlを、お互いの最上部に慎重に重ねて、ウルトラ−クリアー(Ultra−Clear)(商標)遠心分離チューブ(14×89mm)(ベックマン、パロアルト、米国(Beckman,Palo Alto,USA))中に入れた。その後、同じバッファー中に可溶性タンパク質を含有するライセート500μlを最上部に慎重に重ねた。約200,000×gの高速遠心分離をSW 41ローター(ベックマン、パロアルト、米国)にて4℃で20時間行なった。画分、すなわち、500μlの0%グリセロールおよび1mlの5〜50%グリセロールを1.5ml反応チューブに慎重に回収し、4℃で保存した。
【0051】
[フィルターアッセイ:]
ワットマン・クオリテイティブ・スタンダード・フィルター・サークルズ−スチューデント・グレード/グレード93Φ85mm(Whatman Qualitative Standard Filter Circles−Student Grade/Grade 93Φ85mm(ワットマン・インターナショナル社、メードストーン、イングランド(Whatman International Ltd.,Maidstone,England))を、2mg/mlのフェノールレッド(pH7.5)、1%(v/v)のタージトール(Tergitol)(登録商標)NP−9(シグマ・アルドリッチ・ラボルケミカリーン有限会社、ゼールツェ、ドイツ)および10%(v/v)のラセミ(4E)−5−クロロ−2−イソプロピルペント−4−エノン酸メチルエステル(DSM ファイン ケミカルズ オーストリア有限会社、リンツ、オーストリア(DSM Fine Chemicals Austria GmbH,Linz,Austria))を含有するアッセイ混合物に浸漬させた(補足図5〜10の場合、基質は、10%(v/v)のラセミジメチルメチルスクシナートであった)。アッセイ混合物のpH値が低すぎる場合は、増加容量の1Mのリン酸カリウムバッファー(pH8.0)を添加した。2μlの無細胞抽出物をフィルター上にスポットした。エステルの加水分解およびそれぞれのカルボン酸の放出によって生じた、赤色から黄色への色の変化によって、酵素活性が示された。基質の品質、追加のバッファーの量および出発pHから、色の変化に必要な時間が決定された。
【0052】
この結果から、野生型APLEの主要画分は、25%グリセロール濃度と30%グリセロール濃度の間にあるが、突然変異体の単量体APLEの主要画分は、15%グリセロールと20%グリセロールの間にあることが示される。図4を参照されたい。
【0053】
同様の実験を全ての天然のPLE変異体について行ない、それらは全て同じ効果を示した(補足図5〜10を参照)。全ての補足実験で使用されたタンパク質標準は、ページ・ルーラー(PageRuler)(商標)プレステインド・タンパク質ラダーであった。
【0054】
[実施例4]
パラ−ニトロフェニルアセタート(薄い灰色)およびジメチル−3−(3,4−ジクロルフェニル)−グルタラート(灰色)に対する活性、ならびにパラ−ニトロフェニルアセタート(薄い灰色)およびラセミ混合物(4E)−5−クロロ−2−イソプロピルペント−4−エノン酸メチルエステル(濃い灰色)に対する活性を、「材料および方法」の節の「PLE活性の定量」において上で記載したように測定した。結果を図11aおよび11bに示す。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】APLEをコードするpCm470_DsbC_APLE−C8Pを示す。
【図2】大腸菌(E.coli)で発現されたV263D突然変異がないPLE野生型酵素と比較した、大腸菌(E.coli)で発現されたV263D突然変異体PLEのp−NPAに対する総細胞活性の増加を示す。
【図3】1a.APLE。1b:V263D突然変異を含むAPLE。2a:PLE3。2b:V263D突然変異を含むPLE3。3a:PLE4。3b:V263D突然変異を含むPLE4。4a:PLE5。4b:V263D突然変異を含むPLE5。Neg.C:陰性対照大腸菌(E.coli)オリガミ(origami)B。5a:γ−PLE。5b:V263D突然変異を含むγ−PLE。6a:PLE2。6b:V263D突然変異を含むPLE2。7a:PICE。7b:V263D突然変異を含むPICE。
【図4】a、b:APLE野生型。c、d:APLE−V263D。a、c:pHシフトアッセイ。b、d:ウェスタンブロッティング。
【図5】a、b:γPLE野生型。c、d:γPLE−V263D。a、c:pHシフトアッセイ。b、d:ウェスタンブロッティング。
【図6】a、b:PICE野生型。c、d:PICE−V263D。a、c:pHシフトアッセイ。b、d:ウェスタンブロッティング。
【図7】a、b:PLE2野生型。c、d:PLE2−V263D。a、c:pHシフトアッセイ。b、d:ウェスタンブロッティング。
【図8】a、b:PLE3野生型。c、d:PLE3−V263D。a、c:pHシフトアッセイ。b、d:ウェスタンブロッティング。
【図9】a、b PLE4野生型。c、d PLE4−V263D。a、c pHシフトアッセイ。b、d ウェスタンブロッティング。
【図10】a、b PLE5野生型。c、d PLE5−V263D。a、c pHシフトアッセイ。b、d ウェスタンブロッティング。
【図11a】パラ−ニトロフェニルアセタートおよびジメチル−3−(3,4−ジクロルフェニル)−グルタラートに対する活性を示す。
【図11b】パラ−ニトロフェニルアセタートおよびラセミ混合物(4E)−5−クロロ−2−イソプロピルペント−4−エノン酸メチルエステルに対する活性を示す。
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、エステラーゼ活性を有し、かつ大腸菌(E.coli)で発現されたポリペプチドの透明化されたライセート中に活性型でかつ可溶性のタンパク質として存在するポリペプチドの画分の濃度が、そのアミノ酸配列中に特定の突然変異がないポリペプチドと比べて増加した単離された突然変異体ポリペプチドに関する。本発明はまた、突然変異体ブタ肝臓エステラーゼをコードする単離された核酸配列および本発明による突然変異体ポリペプチドの使用に関する。
【0002】
ブタ肝臓エステラーゼ(PLE)は、非常に有用な部類の加水分解酵素として知られており、例えば、それらは、エステルのエナンチオ選択的加水分解において非常に有用である。ブタ肝臓から単離された粗ライセートのPLEの使用には重大な欠点があったので、それらが有用であるとみなされている事実は、非常に驚くべきことである。(i)異なる特性を有する様々なアイソザイムが存在するので、エナンチオ選択性がバッチ間で変化することがあり、また、操作上の安定性の違いのために、反応時間とともに変化することもある。(ii)粗ブタ肝臓抽出物のウイルスまたはプリオン汚染のリスクは、製薬業界にとっての大きな懸念である。(iii)さらに、PLEの助けを借りて生産された製品は、コーシャまたはハラールとみなされない可能性がある。
【0003】
これらの制限のために、組換えでブタ肝臓アイソザイムを産生するための様々な努力が知られている。当初、メチルトローフ酵母のピキア・パストリス(Pichia pastoris)がブタ肝臓エステラーゼの優れた発現系であると思われたが、結局、正確な酵素フォールディングに寄与する特定の宿主、遺伝子および発現系が改善された後に、大腸菌(Escherichia coli)がより優れた宿主であることが分かった。
【0004】
国際特許出願国際公開第2009/004093号パンフレットには、大腸菌(E.coli)におけるブタ肝臓エステラーゼの発現が記載されており、この文献は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0005】
PLEはそのような有用な酵素であるので、この酵素で達成することができる活性レベルをさらに改善する必要が依然としてある。
【0006】
驚くべきことに、現在、大腸菌(E.coli)で発現されたブタ肝臓エステラーゼアイソフォーム突然変異体および相同なエステラーゼの発現レベル、それゆえ、活性レベルは、そのアミノ酸配列中の1つまたは複数の残基、すなわち、ブタ肝臓エステラーゼの多量体形成に関与するアミノ酸の1つまたは複数を、多量体形成をもたらさないかまたは多量体形成の傾向を低下させるアミノ酸と置換し、それによりPLEの四次構造を変化させることによって、顕著に改善できることが見出されている。
【0007】
この発見は、配列番号1のヌクレオチド位置5541に対応する、APLE(配列番号1)をコードするオープン・リーディング・フレームの位置788での突然変異の生成がきっかけであった。この置換はTからAへのものであり、APLE酵素中の疎水性バリンの、負電荷を有するアスパラギン酸への置換(V263D)を生じさせた。コンピュータモデルにより、この突然変異は酵素の極めて外側のヘリックス表面に位置し、したがって、酵素の活性部位の空洞から離れた所にあることが示されたが、(4E)−5−クロロ−2−イソプロピルペント−4−エノン酸メチルエステルに対するこの突然変異型酵素の総活性は、総可溶性タンパク質1mg当たり6.5から11.6ユニットに増加することも分かった。ジメチル−3−(3,4−ジクロルフェニル)−グルタラートの場合、活性は、総可溶性タンパク質1mg当たり36から42mUに増加し、パラ−ニトロフェニルアセタートの場合、活性は、総可溶性タンパク質1mg当たり15.4から24.3Uに上昇した。当初は、APLEの外側領域の突然変異が様々な変換に対してなぜそのような強力な影響を有するのかという理由の説明はなかった。しかしながら、ヒトホモログhCE1の構造解析により、APLEの位置263のバリンが多量体化に重要である可能性があることが同定された。電荷を有するアスパラギン酸を代わりに導入することにより、2つのサブユニット間の相互作用を安定化する、もともと存在していた疎水性相互作用が損なわれる。負の電荷を有するアミノ酸は、疎水性相互作用を介して他のサブユニットに結合する代わりに、それと反発する可能性がある。
【0008】
次に、多量体形成が、疎水性相互作用を妨げる位置263のアスパラギン酸によって導入される変化により妨げられ、そのために、単量体の形成がもたらされるという仮説を検証した。APLEのコンピュータモデルの分析から、ある単量体の位置263のバリンが、別の単量体の位置43のロイシンと相互作用し得るという結論が得られた。三量体形成は、少なくとも一部は、合計3つのサブユニットの間でL43とV263が交互に疎水性相互作用することにより起こると仮定された。したがって、どのアミノ酸がアスパラギン酸に置き換えられるにしても、相互作用は妨害されるはずである。仮説を検証するために、位置43のロイシンをアスパラギン酸に置き換えると、単量体化がもたらされた。
【0009】
この突然変異も単量体形成をもたらしたので、これにより、置換がなければ多量体を形成することができるPLE単量体の特定の位置にあるアミノ酸の置換によって、単量体形態で存在する酵素の量が増加することが証明され、L43D変異体はV263D変異体よりも可溶性の低いタンパク質を生じさせたが、多量体形成に関与する位置で突然変異が導入され、かつ特定の変換のために用いられる酵素を含む一定量の透明化されたライセートに見出される活性が、同じ変換に用いられる突然変異がない酵素を含む同じ量の透明化されたライセートと比べて増大したことは明白である。同じ突然変異が配列番号2、4、6、8、10、12または14のいずれか1つによる全てのポリペプチドに導入され、同じ効果がもたらされた。
【0010】
したがって、本発明は、配列番号2、4、6、8、10、12もしくは14のいずれか1つに示すアミノ酸配列を含み、エステラーゼ活性を有する単離されたポリペプチドまたはそのホモログであって、前記配列番号に示すような1つ以上のアミノ酸のアミノ酸置換または欠失を含み、大腸菌(E.coli)で発現された突然変異体ポリペプチドの透明化されたライセート中に活性型でかつ可溶性のタンパク質として存在する突然変異体ポリペプチドの画分の濃度が、同じ条件下において大腸菌(E.coli)で発現された1つ以上の欠失または置換を含まないポリペプチドの透明化されたライセート中に活性型でかつ可溶性のタンパク質として存在する突然変異がないポリペプチドの画分の濃度と比べて増加した突然変異体ポリペプチドが得られる、単離されたポリペプチドまたはそのホモログに関する。
【0011】
1つ以上のアミノ酸を欠失させるのではなく、1つ以上のアミノ酸を置換することが好ましい。
【0012】
本文書では、相対エステラーゼ活性は、野生型(すなわち、突然変異が導入されていない親酵素)の活性と、同じ量の可溶性タンパク質調製物(透明化されたライセート)を用いて同じ条件下で調製されたそれぞれの突然変異体酵素の活性を比較したものである(材料および方法の節の「発現および細胞回収」という見出しの下を参照されたい;そこには、透明化されたライセートの調製が記載されており、また、「PLE活性の定量」の下には、活性を測定するための方法が記載されている)。相対活性(r[%])は、r=([p−NPAmut]/[p−NPAwt])×100%という式に従って、1分間当たりの突然変異体ライセートのパラ−ニトロフェノールの放出([p−NPAmut])を、1分間当たりの対応する野生型ライセートのパラ−ニトロフェノール放出([p−NPAwt])で割ったものに、100%を掛けて算出される。
【0013】
一実施形態では、本発明は、本発明による単離されたポリペプチドに関するものであり、このポリペプチドは、アミノ酸の欠失または置換がない対応する野生型ポリペプチドのエステラーゼ活性と比較して10%のエステラーゼ活性の増加を示す。
【0014】
酵素は、一次構造(アミノ酸配列)、二次構造(主にα−ヘリックスおよびβ−シート)ならびに三次構造(1ペプチド鎖の構造)を有する。さらに、いくつかの酵素は、同じ(ホモ)または異なる(ヘテロ)サブユニット(ペプチド鎖)の集合体(多量体)である四次構造を形成する。ブタ肝臓エステラーゼはホモ三量体である。この酵素および突然変異体の四次構造は、グリセロール密度勾配遠心分離(グリセロール密度勾配遠心分離の説明については、実施例3を参照されたい)およびネイティブゲル電気泳動(この方法の説明については、材料および方法の節の「ネイティブゲル電気泳動」という見出しの下を参照されたい)によって試験することができる。
【0015】
多量体形成は、通常、異なるアミノ酸の複数の分子間引力、例えば、異なるサブユニット(単量体)の疎水性/疎水性またはイオン(陽/陰)相互作用によって起こる。そのような相互作用は、多くの場合、酵素を安定化し、それゆえ、酵素にとって有益であることが多い。本発明では、驚くべきことに、そのような引力のごく一部を破壊することによって、四次構造の変化と、透明化されたライセート中のPLEおよび相同な酵素のより高い相対活性とがもたらされることが見出された。
【0016】
したがって、本発明は、配列番号2、4、6、8、10、12もしくは14のいずれか1つに示すアミノ酸配列を含み、エステラーゼ活性を有する単離されたポリペプチドまたはそのホモログであって、少なくとも1つのアミノ酸置換または欠失が、単量体の相互作用点に、単量体が多量体を形成するときに位置し、かつ単量体間のその相互作用点を破壊するアミノ酸位置で起こっている、前記配列番号に示すような1つ以上のアミノ酸のアミノ酸置換または欠失を含み、大腸菌(E.coli)で発現された突然変異体ポリペプチドの透明化されたライセート中に活性型でかつ可溶性のタンパク質として存在する突然変異体ポリペプチドの画分の濃度が、同じ条件下において大腸菌(E.coli)で発現された1つ以上の欠失または置換を含まないポリペプチドの透明化されたライセート中に活性型でかつ可溶性のタンパク質として存在する突然変異がないポリペプチドの画分の濃度と比べて増加した突然変異体ポリペプチドが得られる、単離されたポリペプチドまたはそのホモログに関する。好ましくは、本発明は、配列番号2、4、6、8、10、12または14のいずれか1つによるアミノ酸配列を含み、エステラーゼ活性を有する単離されたポリペプチド、および配列番号2、4、6、8、10、12または14のいずれか1つに対して少なくとも90%を上回る、好ましくは95%を上回る同一性のアミノ酸同一性を有する単離されたポリペプチドに関するものであり、ここで、少なくとも1つのアミノ酸置換または欠失は、単量体の相互作用点に、単量体が多量体を形成するときに位置し、単量体間のその相互作用点を破壊するアミノ酸位置で起こっている。好ましくは、置換または欠失は、アミノ酸位置43、260、263、266もしくは270の群から選択される1つ以上の位置、またはそれに対応する位置で行なわれる。好ましい置換は、L43D、T260P、T260A、V263DおよびV263Gまたはそれに対応する位置である。
【0017】
特に、本発明は、位置43、260、263またはそれに対応する位置の群から選択される1つ以上のアミノ酸置換、好ましくは、置換L43D、T260P、T260A、V263D、V263Gまたはそれに対応する位置の群から選択される置換を含む、配列番号2、4、6、8、10、12もしくは14のいずれか1つに示すアミノ酸配列を含み、エステラーゼ活性を有する単離されたポリペプチドまたは配列番号2、4、6、8、10、12もしく14のいずれか1つに対して90%を上回る、好ましくは95%を上回る、より好ましくは97%を上回る、最も好ましくは98%を上回る同一性のアミノ酸同一性を有するそのホモログに関する。
【0018】
本発明の枠組みにおいて、同一性(または相同性)パーセントは、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/bl2seq/wblast2.cgiにある、以下の標準的なパラメータを用いて、Tatiana A.Tatusova、Thomas L.Madden(1999)、「Blast 2配列 − タンパク質配列とヌクレオチド配列を比較するための新しいツール(Blast 2 sequences − a new tool for comparing protein and nucleotide sequences)」、FEMS Microbiol Lett.174:247−250に記載の通りに決定されたものであるか、またはそのように決定され得るものである。
−タンパク質配列の場合:
マトリックス:BLOSUM62
オープンギャップ:5
伸長ギャップ:2
ペナルティギャップx_ドロップオフ:11
期待:10
ワードサイズ:11
−ヌクレオチドの場合:
一致に対する報酬:1
不一致に対するペナルティ:−2
オープンギャップ:11
伸長ギャップ:1
ペナルティギャップx_ドロップオフ:50
期待:10
ワードサイズ:3
【0019】
様々な単量体の引力を破壊するために標的とすることができる位置は、PLEまたは相同な酵素(例えば、ヒト肝臓カルボキシルエステラーゼ1、PDBエントリー1 MX1もしくはウサギ肝臓カルボキシルエステラーゼ1、PDBエントリー1K4Y)のX線構造の解析によるかまたはランダム突然変異導入実験によって同定することができる。置換の標的とするための好ましいアミノ酸位置は、位置43、260および263、ならびにこれらのアミノ酸と相互作用する他のサブユニットのアミノ酸である。
【0020】
既知の方法を用いて四次構造に寄与するアミノ酸位置を同定した後、引力を破壊するためにアミノ酸置換を選ぶ。好ましい置換は、疎水性残基、例えば、アラニン(AlaまたはAと略す)、バリン(ValまたはVと略す)、イソロイシン(IleまたはIと略す)、ロイシン(LeuまたはLと略す)、メチオニン(MetまたはMと略す)、フェニルアラニン(PheまたはFと略す)、トリプトファン(TrpまたはWと略す)、システイン(CysまたはCと略す)、プロリン(ProまたはPと略す)と、疎水性の低いアミノ酸または親水性アミノ酸、例えば、リジン(LysまたはKと略す)、アルギニン(ArgまたはRと略す)、アスパラギン酸(AspまたはDと略す)、グルタミン酸(GluまたはEと略す)、セリン(SerまたはSと略す)、チロシン(TyrまたはYと略す)、トレオニン(ThrまたはTと略す)、グリシン(GlyまたはGと略す)、ヒスチジン(HisまたはHと略す)、グルタミン(GlnまたはQと略す)、アスパラギン(AsnまたはNと略す)との交換、および疎水性の低いアミノ酸または親水性アミノ酸と疎水性残基との交換である。他の好ましいアミノ酸置換は、正の電荷を有するアミノ酸(例えば、リジン、アルギニンまたはヒスチジン)を、負の電荷を有するアミノ酸(例えば、アスパラギン酸またはグルタミン酸)と置換すること、または負の電荷を有するアミノ酸を正の電荷を有するアミノ酸と置換することによって、イオン力の破壊を標的とする。
【0021】
したがって、好ましい突然変異は、L43とK、R、D、E、S、Y、T、G、H、QおよびNの群から選ばれる任意のアミノ酸との置換である。別の好ましい突然変異は、T260とA、V、I、L、M、F、W、CおよびPの群から選ばれる任意のアミノ酸との置換である。別の好ましい突然変異は、H266とA、V、I、L、M、F、W、CおよびPおよびDおよびEの群から選ばれる任意のアミノ酸との置換である。別の好ましい突然変異は、Q270とA、V、I、L、M、F、W、CおよびPの群から選ばれる任意のアミノ酸との置換である。突然変異は全て、配列番号2、4、6、8、10、12または14によるアミノ酸配列のいずれか1つと比べて記載されている。
【0022】
特に好ましいのは、配列番号2、4、6、8、10、12または14のいずれか1つのアミノ酸配列に基づく、以下の突然変異:V263D、L43D、T260PおよびT260Aである。
【0023】
突然変異が起こる前の多量体形成の量と比べて多量体形成を増大させるアミノ酸配列が置換によって生じない限り、記載された突然変異の1つ以上の組合せも可能であることが当業者に理解されるであろう。
【0024】
知られているように、アミノ酸の付番は、タンパク質が由来している種に依存する。付番は、欠失または挿入により変化することもある。しかしながら、配列を整列させる方法は当業者に公知である。したがって、本文書では、「またはそれに対応する」という語句は、その数字を除いて、配列番号1の位置43、260および263と同じであるアミノ酸位置を説明するために用いられる。
【0025】
本発明の単離されたポリペプチドは、多量体形成を減少させる突然変異の他に、所望の基質に対する選択性および/または活性を改善する1つ以上のさらなる突然変異を含み得る。
【0026】
したがって、好ましい実施形態では、本発明は、位置43、260および263、もしくはそれに対応する位置での1つ以上のアミノ酸置換と、F234SおよびL238Vの群から選択される1つ以上のアミノ酸置換とを含む、配列番号2、4、6、8、10、12もしくは14のいずれか1つに示すアミノ酸配列を含み、エステラーゼ活性を有する単離されたポリペプチドまたは配列番号2、4、6、8、10、12もしくは14のいずれか1つに対して少なくとも90%を上回る、好ましくは95%を上回る同一性のアミノ酸同一性を有するそのホモログに関する。アミノ酸置換が、位置43、位置260および位置263を含む位置の群から選択される、またはより具体的には、L43D、T260P、T260A、V263DおよびV263Gの群から選択される1つ以上の位置での1つ以上の置換であることが、この実施例でさらにより好ましい。
【0027】
F234S突然変異は、APLEをコードする遺伝子の位置701のTをCに置換した結果であった。L238V突然変異は、APLEをコードする遺伝子の位置712のTをAに置換した結果であった。多量体形成を妨げる突然変異とは独立に、これら2つの突然変異のうちの少なくとも1つを含む配列番号2、4、6、8、10、12または14のいずれか1つによるアミノ酸配列を含むポリペプチドのいずれか1つの突然変異体は、パラ−ニトロフェニルアセタート、および/もしくはジメチル−3−(3,4−ジクロルフェニル)−グルタラートの変換に、ならびに/またはラセミ(4e)−5−クロロ−2−イソプロピルペント−4−エノン酸メチルエステルの分割に極めて有用である。したがって、本発明はまた、そのようなポリペプチドに関する。
【0028】
したがって、本発明はまた、L238VおよびF234Sの群から選択される1つ以上のアミノ酸置換を含む、配列番号2、4、6、8、10、12もしくは14のいずれか1つに示すアミノ酸配列を含み、エステラーゼ活性を有する単離されたポリペプチドまたは配列番号2、4、6、8、10、12もしくは14のいずれか1つに対して少なくとも95%の同一性、好ましくは97%、より好ましくは98%の同一性のアミノ酸同一性を有するそのホモログに関する。好ましくは、L238Vおよび/またはF234S突然変異が存在することに加えて、以下の位置には、以下のアミノ酸残基がある。すなわち、位置129、133、134、138および139において、残基は、それぞれ、V、S、T、LおよびAである。本発明はまた、L238VおよびF234Sから選ばれる少なくとも1つの突然変異を有する配列番号2、4、6、8、10、12または14のいずれか1つによるポリペプチドをコードする核酸に関する。また、酸、エステルもしくはアルコールの産生のための、またはより具体的には、パラ−ニトロフェニルアセタートの変換、もしくはラセミ(4e)−5−クロロ−2−イソプロピルペント−4−エノン酸メチルエステルの分割もしくはジメチル−3−(3,4−ジクロルフェニル)−グルタラートの変換のための、L238VおよびF234Sから選ばれる少なくとも1つの突然変異を有する配列番号2、4、6、8、10、12または14のいずれか1つによるポリペプチドの使用は、本発明の一部である。
【0029】
本発明はまた、本発明による単離されたポリペプチドをコードする核酸に関する。特に、本発明は、配列番号1、3、5、7、9、11または13におけるコード配列である核酸および配列番号1、3、5、7、9、11または13におけるコード配列である核酸に対して、好ましくは80%を上回る同一性、より好ましくは90%を上回る、さらにより好ましくは95%を上回る、最も好ましくは98%を上回る同一性を有するそのホモログに関する。
【0030】
一実施形態では、本発明は、本発明による単離されたペプチドが適用される、酸、エステルまたはアルコールを製造するための方法に関する。また、本発明は、α−アルキル化酸および/またはエステルが製造されるそのような方法、より具体的には、これらのα−アルキル化酸から選択される光学的に純粋なα−アルキル化酸がその対応するアルコールに還元される方法に関する。さらなる実施形態では、これらのアルコールは、天然のジペプチド合成コピーであるジペプチドミメティックのビルディングブロックとしてさらに適用される。さらに、本発明は、血圧降下剤におけるこれらのビルディングブロックの適用に関する。
【0031】
本発明はさらに、本明細書に記載されたような本発明による単離されたペプチド、核酸配列、ポリペプチドの使用および方法による様々な実施形態および/または好ましい特色の全てのあり得る組合せに関する。
【0032】
さらに、本発明は、配列番号1、3、5、7、9、11および13と組み合わせた全ての実施形態に関し、ここで、ポリペプチドは、これらの配列中に示されたオープン・リーディング・フレームによってコードされている。
【0033】
材料および方法
ポリペプチドおよびその突然変異体を調製するための一般的技術は当技術分野で公知であり、例えば、Sambrookら著、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第3版、Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor、NY(2001)に見出し得る。
【0034】
[APLE、γPLE、PICE、PLE2、PLE3、PLE4、PLE5および対応する突然変異体を発現する組換え大腸菌(E.coli)の調製]
合成遺伝子γPLE、PICE、PLE2、PLE3、PLE4、PLE5(配列番号4、6、8、10、12または14を参照されたい)をNdeIおよびHindIIIで切断し、Sambrook,J.、Fritsch,E.F.およびManniatis,T.(1989)著、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory Pressに記載されているような標準的な分子生物学の手法を用いて、APLE(配列番号2および図1参照)をコードするpCm470_DsbC_APLE−C8PのNdeIおよびHindIII制限部位にクローニングした。
【0035】
pCm470_DsbC_APLE−C8PおよびAPLE、γPLE、PICE、PLE2、PLE3、PLE4、PLE5をコードする上で得られたプラスミドを大腸菌(E.coli)オリガミ(Origami)B(DE3)に形質転換した。
【0036】
APLE、γPLE、PICE、PLE2、PLE3、PLE4、PLE5の突然変異体は、APLE、γPLE、PICE、PLE2、PLE3、PLE4、PLE5をコードする上記のプラスミドを鋳型として用いて、提供された取扱説明書に従って、ストラタジーン(Stratagene)(Stratagene,11011 North Torrey Pines Road La Jolla,CA 92037)のクイックチェンジ(QuikChange)(登録商標)部位特異的突然変異導入キット(Site−Directed Mutagenesis Kit)(カタログ#200518)を用いて、部位飽和突然変異導入によって調製した。
【0037】
部位特異的突然変異導入のための突然変異導入プライマーの例を配列番号15〜24に記載する。得られたAPLE、γPLE、PICE、PLE2、PLE3、PLE4、PLE5の突然変異体プラスミドを大腸菌(E.coli)オリガミ(Origami)B(DE3)に形質転換した。
配列番号15:プライマーL43D_F
5’GTCCCTTTTGCTAAGCCACCTGACGGATCTTTGAGGTTTGC 3’
配列番号16:プライマーL43D_R
5’GCAAACCTCAAAGATCCGTCAGGTGGCTTAGCAAAAGGGAC 3’
配列番号17:プライマーT260P_F
5’GCAGGATGCAAAACTACTCCTTCGGCAGTCTTCGTGC 3’
配列番号18:プライマーT260P_R
5’GCACGAAGACTGCCGAAGGAGTAGTTTTGCATCCTGC 3’
配列番号19:プライマーT260A_F
5’GCAGGATGCAAAACTACTGCTTCGGCAGTCTTCGTGC 3’
配列番号20:プライマーT260A_R
5’GCACGAAGACTGCCGAAGCAGTAGTTTTGCATCCTGC 3’
配列番号21:プライマーV263D_F
5’CTACTACTTCGGCAGACTTCGTGCATTGTTTGC 3’
配列番号22:プライマーV263D_R
5’GCAAACAATGCACGAAGTCTGCCGAAGTAGTAG 3’
配列番号23:プライマーV263G_F
5’CAAAACTACTACTTCGGCAGGGTTCGTGCATTGTTTGCGTC 3’
配列番号24:プライマーV263G_R
5’GACGCAAACAATGCACGAACCCTGCCGAAGTAGTAGTTTTG 3’
【0038】
[現および細胞回収]
培地成分および抗生物質は全て、ドイツ・カールスルーエのロート有限合資会社(Roth GmbH & Co.KG(Karlsruhe,Germany)から購入した。培養条件は以下の通りであった。すなわち、10μg/mlのクロラムフェニコールを含む前培養(pre−culture)培地のLB培地(レノックス(Lennox))20mlに、APLE、γPLE、PICE、PLE2、PLE3、PLE4、PLE5および対応する突然変異体(調製については上を参照されたい)を発現する組換え大腸菌(E.coli)のコロニーを植菌し、100mlのエルレンマイヤー(Erlenmeyer)フラスコにて、28℃および200rpmで一晩(18時間)インキュベートした。そのうちの10mlを用いて、2lのバッフル付き振盪フラスコにて、10μg/mlのクロラムフェニコール)を含む主培養培地のLB培地(レノックス(Lennox))500mlに植菌した。主培養物を28℃および120rpmでインキュベートし、OD6000.6〜0.8で、0.1mMのIPTGにより一晩(18時間)誘導した。細胞を回収するために、培養物を4,000×gにて4℃で10分間遠心分離した。ペレットを20mMのリン酸カリウムバッファー(pH8.0)25mlに再懸濁した。デューティーサイクルを80%に、出力制御レベルを8にして、ブランソン・ソニファイアー(Branson Sonfier)(登録商標)250(ブランソン、ダンブリー、米国(Branson,Danbury,USA)を用いて、細胞を、氷水で冷やしたパルプ化(pulping)ビーカー中で5分間超音波処理した。75,600×gおよび10℃で1時間遠心分離した後、可溶性タンパク質を含む上清を滅菌濾過し(0.2μmフィルター)、4℃で保存した。これらの透明化されたライセートを、パラ−ニトロフェニルアセタート(p−NPA)(シグマ・アルドリッチ・ラボルケミカリーン有限会社、ゼールツェ、ドイツ(Sigma−Aldrich Laborchemikalien GmbH,Seelze,Germany)アッセイを用いる活性測定に用いた。
【0039】
[ネイティブゲル電気泳動]
APLEを含む細菌ライセートのブルーネイティブゲル電気泳動(BN−PAGE)を、以下の変更とともに、ReisingerおよびEichacker(2006)、「ブルーネイティブゲル電気泳動による膜タンパク質複合体の解析(Analysis of membrane protein complexes by blue native PAGE)」、プロテオミクス(Proteomics) 6 補遺2、6−15に記載された方法に従って行なった。200μgの可溶性タンパク質を含むアリコートを10mMのTris/HCl(pH7.4)で最終容量95μlまで希釈した。5μlのローディングバッファーをサンプルに添加した後、サンプルを8〜16%の線形勾配ゲルに適用した。バイオラッド・グラジェント・フォーマー・モデル485(Bio−Rad Gradient Former model 485)(バイオラッド・ラボラトリー、ウィーン、オーストリア(Bio−Rad Laboratories,Vienna,Austria))の助けを借りて、勾配ゲル(16×20cm)を作製した。ゲル1枚当たり24mAの定電流にて4℃で電気泳動を行なった。電気泳動後、ゲルを0.1Mのリン酸カリウムバッファー(pH7.0)にて室温で20分間インキュベートした。エステラーゼ活性のゲル内検出のために、基質のフルオレセイン二酢酸(FDA)をアセトン[4mg/ml]に溶解させ、バイオダイン(Biodyne)(登録商標)Aメンブレン(0.45mm、16×20cm)(ポール・ライフ・サイエンス、ミシガン、米国(Pall Life Science,Michigan,USA))に適用した。アセトンの蒸発後、メンブレンをガラスプレート上に置かれたゲルと密に接触させた。ゲルとメンブレンのサンドイッチを37℃で30分間インキュベートした後、蛍光バンドを検出した。
【0040】
[SDS−PAGE、ウェスタンブロット解析およびネイティブゲル電気泳動]
SDS−PAGEは標準的なプロトコルを基にした。ゲル(分離ゲル:12.5%、積層ゲル:4%)に充填する前に、80μgの総タンパク質を含むサンプルをそれぞれの量の2×サンプルバッファーと混合し、40℃で15分間加熱した。ハイボンド(Hybond)−ECL(商標)ニトロセルロースメンブレン(アマシャム・バイオサイエンス(Amersham Biosciences))へのタンパク質のブロッティングには、TE 22・マイティー・スモール・トランスフォア・タンク・トランスファー・ユニット(TE 22 Mighty Small Transphor Tank Transfer Unit)(アマシャム・バイオサイエンス、ウプサラ、スウェーデン(Amersham Biosciences,Uppsala,Sweden))を用いた。一次抗体は、ブタ肝臓カルボキシルエステラーゼに対するポリクローナルウサギ抗体(アブカム、ケンブリッジ、英国(abcam,Cambridge,UK))であった。二次抗体は、ヒト血清タンパク質に対して吸着させたアルカリホスファターゼを結合させたポリクローナルヤギ抗ウサギ抗体(レインコ・テクノロジーズ、セントルイス、米国(Leinco Technologies,St.Louis,USA))であった。検出は、BCIP/NBT検出(カルビオケム/EMD、ラホーヤ、米国(CALBIOCHEM/EMD,La Jolla,USA))を用いてメンブレン上で直接行なわれた。使用したタンパク質標準は、ページ・ルーラー(PageRuler)(商標)プレステインド・タンパク質ラダー(フェルメンタス有限会社、セントレオン−ロット、ドイツ(Fermentas GmbH,St.Leon−Rot,Germany))であった。
【0041】
[PLE活性の定量]
ラセミ(4E)−5−クロロ−2−イソプロピルペント−4−エノン酸メチルエステルおよびジメチル−3−(3,4−ジクロルフェニル)−グルタラートに対する活性を自動滴定により測定した。滴定剤として、それぞれ、0.1Mおよび0.01MのNaOH(ロート有限合資会社、カールスルーエ、ドイツ)を用いて、メトラー・トレド・DL50・グラフィックス(Mettler Toledo DL50 GraphiX)(メトラー・トレド有限会社;ギーセン、ドイツ(Mettler−Toledo GmbH;Giessen,Germany))で測定を行なった。合計50mlの反応混合物は、トルエンに溶解させた5mlの基質、すなわち、ラセミ(4E)−5−クロロ−2−イソプロピルペント−4−エノン酸メチルエステルまたはジメチル−3−(3,4−ジクロルフェニル)−グルタラート[100mg/ml]、5mlの10%タージトール(Tergitol)(登録商標)NP−9(シグマ・アルドリッチ、ウィーン、オーストリア(Sigma−Aldrich,Vienna,Austria))および10〜40mgの可溶性タンパク質からなっていた。20mMのリン酸カリウムバッファー(pH8.0)で、容量を50mlに調整した。
【0042】
以下のp−NPAアッセイが使用されている:
2mMのp−NPAを用いて、100mMのTris/HClバッファー(pH7.0)中、室温で、透明化されたライセートを用いて、パラ−ニトロフェニルアセタート(p−NPA)(シグマ・アルドリッチ・ラボルケミカリーン有限会社、ゼールツェ、ドイツ)アッセイを行なった。パラ−ニトロフェノールの放出を、ベックマン・コールターDU(BeckmanCoulterDU)(登録商標)800分光光度計(ベックマン・コールター有限会社、クレーフェルト、ドイツ(Beckman Coulter GmbH,Krefeld,Germany))を用いて、405nm(ε=9.5946ml μmol−1 cm−1)で定量した。1ユニットは、上記の反応条件下で1分間に1μmolのパラ−ニトロフェノールを放出する酵素の量として定義される。
【0043】
[実施例]
本発明は、以下の実施例を参照して説明されるが、これらに限定されるものではない。
【0044】
[実施例1:PLE活性の定量]
上記のようなp−NPAアッセイを、上記の反応条件下で1分間に1μmolのパラ−ニトロフェノールを放出する酵素の量として用いた。
【0045】
図2は、大腸菌(E.coli)で発現されたV263D突然変異がないPLE野生型酵素と比較した、大腸菌(E.coli)で発現されたV263D突然変異体PLEのp−NPAに対する総細胞活性の増加を示す。それぞれのPLE野生型変異体のレベルを各々のPLEの100%レベルとみなす。
【0046】
本発明の枠組みでは、配列番号2、4、6、8、10、12または14のいずれか1つによるポリペプチドの全ておよびそのホモログをPLEと称する。したがって、ブタ腸カルボキシルエステラーゼ(PICE)と呼ばれる酵素もまた、本発明の枠組みにおけるPLEである。
【0047】
V263D突然変異を挿入することにより、全てのPLEが改善された活性を示したことが明白である。
【0048】
[実施例2]
V263D突然変異を有するアイソザイムにおける多量体から単量体への四次構造の変化が、ネイティブタンパク質ゲル電気泳動でさらに見られた(図3)。
【0049】
エステラーゼ活性は、フルオレセイン二酢酸(FDA)の加水分解から生じるフルオレセインでの染色によって本明細書で可視化された。7つの野生型酵素が全て、ネイティブゲル上でほぼ同じ高さの三量体であるのに対し、V263D突然変異体は、ゲルの下から3分の1にバンドを示している。複数のバンドを切り出し、SDS−PAGEゲル上で解析した。複数のバンドは、約58kDaのサイズの1つの明白なバンドを生じさせる(データは示さない)。これらのバンドは、同じ単量体の異なる立体構造に起因すると考えられる。
【0050】
[実施例3:四次構造の決定]
[グリセロール密度勾配遠心分離]
20mMのリン酸カリウムバッファー(pH8.0)中の50%〜5%のグリセロール画分1mlを、お互いの最上部に慎重に重ねて、ウルトラ−クリアー(Ultra−Clear)(商標)遠心分離チューブ(14×89mm)(ベックマン、パロアルト、米国(Beckman,Palo Alto,USA))中に入れた。その後、同じバッファー中に可溶性タンパク質を含有するライセート500μlを最上部に慎重に重ねた。約200,000×gの高速遠心分離をSW 41ローター(ベックマン、パロアルト、米国)にて4℃で20時間行なった。画分、すなわち、500μlの0%グリセロールおよび1mlの5〜50%グリセロールを1.5ml反応チューブに慎重に回収し、4℃で保存した。
【0051】
[フィルターアッセイ:]
ワットマン・クオリテイティブ・スタンダード・フィルター・サークルズ−スチューデント・グレード/グレード93Φ85mm(Whatman Qualitative Standard Filter Circles−Student Grade/Grade 93Φ85mm(ワットマン・インターナショナル社、メードストーン、イングランド(Whatman International Ltd.,Maidstone,England))を、2mg/mlのフェノールレッド(pH7.5)、1%(v/v)のタージトール(Tergitol)(登録商標)NP−9(シグマ・アルドリッチ・ラボルケミカリーン有限会社、ゼールツェ、ドイツ)および10%(v/v)のラセミ(4E)−5−クロロ−2−イソプロピルペント−4−エノン酸メチルエステル(DSM ファイン ケミカルズ オーストリア有限会社、リンツ、オーストリア(DSM Fine Chemicals Austria GmbH,Linz,Austria))を含有するアッセイ混合物に浸漬させた(補足図5〜10の場合、基質は、10%(v/v)のラセミジメチルメチルスクシナートであった)。アッセイ混合物のpH値が低すぎる場合は、増加容量の1Mのリン酸カリウムバッファー(pH8.0)を添加した。2μlの無細胞抽出物をフィルター上にスポットした。エステルの加水分解およびそれぞれのカルボン酸の放出によって生じた、赤色から黄色への色の変化によって、酵素活性が示された。基質の品質、追加のバッファーの量および出発pHから、色の変化に必要な時間が決定された。
【0052】
この結果から、野生型APLEの主要画分は、25%グリセロール濃度と30%グリセロール濃度の間にあるが、突然変異体の単量体APLEの主要画分は、15%グリセロールと20%グリセロールの間にあることが示される。図4を参照されたい。
【0053】
同様の実験を全ての天然のPLE変異体について行ない、それらは全て同じ効果を示した(補足図5〜10を参照)。全ての補足実験で使用されたタンパク質標準は、ページ・ルーラー(PageRuler)(商標)プレステインド・タンパク質ラダーであった。
【0054】
[実施例4]
パラ−ニトロフェニルアセタート(薄い灰色)およびジメチル−3−(3,4−ジクロルフェニル)−グルタラート(灰色)に対する活性、ならびにパラ−ニトロフェニルアセタート(薄い灰色)およびラセミ混合物(4E)−5−クロロ−2−イソプロピルペント−4−エノン酸メチルエステル(濃い灰色)に対する活性を、「材料および方法」の節の「PLE活性の定量」において上で記載したように測定した。結果を図11aおよび11bに示す。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】APLEをコードするpCm470_DsbC_APLE−C8Pを示す。
【図2】大腸菌(E.coli)で発現されたV263D突然変異がないPLE野生型酵素と比較した、大腸菌(E.coli)で発現されたV263D突然変異体PLEのp−NPAに対する総細胞活性の増加を示す。
【図3】1a.APLE。1b:V263D突然変異を含むAPLE。2a:PLE3。2b:V263D突然変異を含むPLE3。3a:PLE4。3b:V263D突然変異を含むPLE4。4a:PLE5。4b:V263D突然変異を含むPLE5。Neg.C:陰性対照大腸菌(E.coli)オリガミ(origami)B。5a:γ−PLE。5b:V263D突然変異を含むγ−PLE。6a:PLE2。6b:V263D突然変異を含むPLE2。7a:PICE。7b:V263D突然変異を含むPICE。
【図4】a、b:APLE野生型。c、d:APLE−V263D。a、c:pHシフトアッセイ。b、d:ウェスタンブロッティング。
【図5】a、b:γPLE野生型。c、d:γPLE−V263D。a、c:pHシフトアッセイ。b、d:ウェスタンブロッティング。
【図6】a、b:PICE野生型。c、d:PICE−V263D。a、c:pHシフトアッセイ。b、d:ウェスタンブロッティング。
【図7】a、b:PLE2野生型。c、d:PLE2−V263D。a、c:pHシフトアッセイ。b、d:ウェスタンブロッティング。
【図8】a、b:PLE3野生型。c、d:PLE3−V263D。a、c:pHシフトアッセイ。b、d:ウェスタンブロッティング。
【図9】a、b PLE4野生型。c、d PLE4−V263D。a、c pHシフトアッセイ。b、d ウェスタンブロッティング。
【図10】a、b PLE5野生型。c、d PLE5−V263D。a、c pHシフトアッセイ。b、d ウェスタンブロッティング。
【図11a】パラ−ニトロフェニルアセタートおよびジメチル−3−(3,4−ジクロルフェニル)−グルタラートに対する活性を示す。
【図11b】パラ−ニトロフェニルアセタートおよびラセミ混合物(4E)−5−クロロ−2−イソプロピルペント−4−エノン酸メチルエステルに対する活性を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号2、4、6、8、10、12もしくは14のいずれか1つに示すアミノ酸配列を含み、エステラーゼ活性を有する単離されたポリペプチドまたはそのホモログであって、少なくとも1つのアミノ酸置換が、単量体の相互作用点に、前記単量体が多量体を形成するときに位置し、かつ前記単量体間のその相互作用点を破壊するアミノ酸位置で起こっている、前記配列番号に示すような1つ以上のアミノ酸のアミノ酸置換または欠失を含み、大腸菌(E.coli)で発現された前記突然変異体ポリペプチドの透明化されたライセート中に活性型でかつ可溶性のタンパク質として存在する前記突然変異体ポリペプチドの画分の濃度が、同じ条件下において大腸菌(E.coli)で発現された前記1つ以上の欠失または置換を含まない前記ポリペプチドの透明化されたライセート中に活性型でかつ可溶性のタンパク質として存在する前記突然変異がない前記ポリペプチドの画分の濃度と比べて増加した突然変異体ポリペプチドが得られる、単離されたポリペプチドまたはそのホモログ。
【請求項2】
配列番号2、4、6、8、10、12または14のいずれか1つに対して90%を上回る、より好ましくは95%を上回る同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の単離されたポリペプチド。
【請求項3】
ポリペプチドが、アミノ酸の欠失または置換がない対応する野生型ポリペプチドのエステラーゼ活性と比較して、少なくとも10%のエステラーゼ活性の増加を示す、請求項1〜2のいずれか一項に記載の単離されたポリペプチド。
【請求項4】
前記置換または欠失が、アミノ酸位置43、260、263、266もしくは270、またはそれに対応する位置の群から選択される1つ以上の位置で行なわれる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の単離されたポリペプチド。
【請求項5】
位置43、260および/または263またはそれに対応する位置での1つ以上のアミノ酸置換を含む、配列番号2、4、6、8、10、12もしくは14のいずれか1つに示すアミノ酸配列を含み、エステラーゼ活性を有する単離されたポリペプチドまたは配列番号2、4、6、8、10、12もしくは14のいずれか1つに対して90%を上回る、好ましくは95%を上回る、より好ましくは98%を上回る同一性のアミノ酸同一性を有するそのホモログ。
【請求項6】
前記アミノ酸置換が、L43D、T260P、T260A、V263D、V263Gまたはそれに対応する位置の群から選択される、請求項4または5に記載の単離されたポリペプチド。
【請求項7】
L238VおよびF234Sの群から選択される少なくとも1つのさらなる突然変異を含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載の単離されたポリペプチド。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載のポリペプチドをコードする核酸配列。
【請求項9】
酸、エステルまたはアルコールを産生するための請求項1〜7のいずれか一項に記載のポリペプチドの使用。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の単離されたポリペプチドが適用される、酸、エステルまたはアルコールの製造方法。
【請求項11】
α−アルキル化酸および/またはエステルが製造される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
光学的に純粋なα−アルキル化酸がその対応するアルコールに還元される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記アルコールが、ジペプチドミメティックのビルディングブロックとしてさらに適用される、請求項10または12に記載の方法。
【請求項14】
前記ビルディングブロックが血圧降下剤に適用される、請求項13に記載の方法。
【請求項1】
配列番号2、4、6、8、10、12もしくは14のいずれか1つに示すアミノ酸配列を含み、エステラーゼ活性を有する単離されたポリペプチドまたはそのホモログであって、少なくとも1つのアミノ酸置換が、単量体の相互作用点に、前記単量体が多量体を形成するときに位置し、かつ前記単量体間のその相互作用点を破壊するアミノ酸位置で起こっている、前記配列番号に示すような1つ以上のアミノ酸のアミノ酸置換または欠失を含み、大腸菌(E.coli)で発現された前記突然変異体ポリペプチドの透明化されたライセート中に活性型でかつ可溶性のタンパク質として存在する前記突然変異体ポリペプチドの画分の濃度が、同じ条件下において大腸菌(E.coli)で発現された前記1つ以上の欠失または置換を含まない前記ポリペプチドの透明化されたライセート中に活性型でかつ可溶性のタンパク質として存在する前記突然変異がない前記ポリペプチドの画分の濃度と比べて増加した突然変異体ポリペプチドが得られる、単離されたポリペプチドまたはそのホモログ。
【請求項2】
配列番号2、4、6、8、10、12または14のいずれか1つに対して90%を上回る、より好ましくは95%を上回る同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の単離されたポリペプチド。
【請求項3】
ポリペプチドが、アミノ酸の欠失または置換がない対応する野生型ポリペプチドのエステラーゼ活性と比較して、少なくとも10%のエステラーゼ活性の増加を示す、請求項1〜2のいずれか一項に記載の単離されたポリペプチド。
【請求項4】
前記置換または欠失が、アミノ酸位置43、260、263、266もしくは270、またはそれに対応する位置の群から選択される1つ以上の位置で行なわれる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の単離されたポリペプチド。
【請求項5】
位置43、260および/または263またはそれに対応する位置での1つ以上のアミノ酸置換を含む、配列番号2、4、6、8、10、12もしくは14のいずれか1つに示すアミノ酸配列を含み、エステラーゼ活性を有する単離されたポリペプチドまたは配列番号2、4、6、8、10、12もしくは14のいずれか1つに対して90%を上回る、好ましくは95%を上回る、より好ましくは98%を上回る同一性のアミノ酸同一性を有するそのホモログ。
【請求項6】
前記アミノ酸置換が、L43D、T260P、T260A、V263D、V263Gまたはそれに対応する位置の群から選択される、請求項4または5に記載の単離されたポリペプチド。
【請求項7】
L238VおよびF234Sの群から選択される少なくとも1つのさらなる突然変異を含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載の単離されたポリペプチド。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載のポリペプチドをコードする核酸配列。
【請求項9】
酸、エステルまたはアルコールを産生するための請求項1〜7のいずれか一項に記載のポリペプチドの使用。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の単離されたポリペプチドが適用される、酸、エステルまたはアルコールの製造方法。
【請求項11】
α−アルキル化酸および/またはエステルが製造される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
光学的に純粋なα−アルキル化酸がその対応するアルコールに還元される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記アルコールが、ジペプチドミメティックのビルディングブロックとしてさらに適用される、請求項10または12に記載の方法。
【請求項14】
前記ビルディングブロックが血圧降下剤に適用される、請求項13に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11a】
【図11b】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11a】
【図11b】
【公表番号】特表2012−524535(P2012−524535A)
【公表日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−506531(P2012−506531)
【出願日】平成22年4月26日(2010.4.26)
【国際出願番号】PCT/EP2010/055564
【国際公開番号】WO2010/122175
【国際公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月26日(2010.4.26)
【国際出願番号】PCT/EP2010/055564
【国際公開番号】WO2010/122175
【国際公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】
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