説明

改善された免疫グロブリンの産生をもたらす重鎖変異体

本発明は、クラスIgAもしくはIgG免疫グロブリンのCH3ドメインのC末端部分、またはクラスIgEもしくはIgM免疫グロブリンのCH4ドメインのC末端部分のアミノ酸配列をコードする核酸であって、CH3ドメインもしくはCH4ドメインのC末端部分の前記アミノ酸配列中に含まれるジペプチド グリシン-リジンが、核酸ggaaaa、または核酸ggcaaa、または核酸gggaaa、または核酸gggaag、または核酸ggcaag、または核酸ggaaagによってコードされる、核酸を含む。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、哺乳動物細胞における免疫グロブリンの産生において有用な方法および核酸を記載する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
組換えポリペプチド産生のための発現システムは周知であり、かつ最新の文献において報告されている。薬学的用途において使用されるポリペプチドの産生に関して、CHO細胞、BHK細胞、NS0細胞、Sp2/0細胞、COS細胞、HEK細胞、PER.C6(登録商標)細胞等の哺乳動物細胞が利用されている。ポリペプチドをコードする核酸は、例えば、発現プラスミド等のプラスミドの形態で、細胞中に導入される。発現プラスミドの不可欠な要素は、複製起点および選択マーカーを含む、例えば大腸菌等の原核生物プラスミド増殖ユニット、真核生物選択マーカー、ならびに各々が、プロモーター、構造遺伝子、およびポリアデニル化シグナルを含む転写終結因子を含む、関心対象の核酸の発現のための一つまたは複数の発現カセットである。哺乳動物細胞における一過性発現のために、SV40 OriまたはOriP等の哺乳動物の複製起点が包含されてもよい。プロモーターとして、構成的プロモーターまたは誘導性プロモーターを選択することができる。転写の最適化のために、5’非翻訳領域中にコザック配列が包含されてもよい。mRNAプロセッシングのために、ポリアデニル化シグナルも包含されてもよい。
【0003】
タンパク質およびとりわけ免疫グロブリンは、現代の医学的ポートフォリオにおいて重要な役割を担う。ヒトでの適用に関して、すべての薬学的物質は一定の基準を満たさなくてはならない。生物薬剤のヒトに対する安全性を保証するために、深刻な害を引き起こすと考えられる物質は、特に排除される必要がある。
【0004】
mRNAのスプライシングは、スプライスアクセプター部位と組み合わさってスプライスドナー部位が生じることによって調節され、これらはイントロンの3’末端および5’末端にそれぞれ位置付けられる。Watsonら(Watson et al. (Eds), Recombinant DNA: A Short course, Scientific American Books, distributed by W.H. Freeman and Company, New York, New York, USA (1983)(非特許文献1))によると、5’スプライスドナー部位のコンセンサス配列はag|gtragt(エキソン|イントロン)であり、3’スプライスアクセプター部位のコンセンサス配列は(y)nNcag|g(イントロン|エキソン)である(r=プリン塩基;y=ピリミジン塩基;n=整数;N=任意の天然の塩基)。
【0005】
1980年に、分泌型形態および膜結合型形態の免疫グロブリンの起源に関する最初の論文が発表された。分泌型(sIg)アイソフォーム、および膜結合型(mIg)アイソフォームの形成は、重鎖のmRNA前駆体の選択的スプライシングに起因する。mIgアイソフォームにおいて、分泌型形態のC末端ドメイン(すなわち、各々CH3ドメインまたはCH4ドメイン)をコードするエキソン中のスプライスドナー部位、およびその下流に離れて位置付けられるスプライスアクセプター部位が、定常領域と膜貫通ドメインをコードする下流のエキソンとを結合するために使用される。
【0006】
特定の宿主細胞において発現される際の不適切な転写の減少、または意図されない転写の減少の特性を有する合成核酸分子を調製する方法が、国際公開公報第2002/016944号(特許文献1)中に報告されている。国際公開公報第2006/042158号(特許文献2)においては、組換えタンパク質発現を増強するため、ならびに/または誤スプライシングされたリードスルー副産物、および/もしくはイントロンのリードスルー副産物を減少させるか、または排除するために改変された核酸分子が報告されている。
【0007】
したがって、副産物の少ない免疫グロブリンの組換え産生方法に対する必要性が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開公報第2002/016944号
【特許文献2】国際公開公報第2006/042158号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Watson et al. (Eds), Recombinant DNA: A Short course, Scientific American Books, distributed by W.H. Freeman and Company, New York, New York, USA (1983)
【発明の概要】
【0010】
本発明は、第一の局面において、CH3ドメインまたはCH4ドメインのC末端部分の一次アミノ酸配列中に含まれるジペプチド グリシン-リジンが、核酸ggaaaa、または核酸ggcaaa、または核酸gggaaa、または核酸ggaaag、または核酸ggcaag、または核酸gggaagによってコードされる、クラスIgAもしくはIgGの免疫グロブリンのCH3ドメインのC末端部分のアミノ酸配列、またはクラスIgEもしくはIgMの免疫グロブリンのCH4ドメインのC末端部分のアミノ酸配列をコードする核酸を含む。
【0011】
一つの態様において、本発明による核酸は、配列番号:1、3、4、5、6、7または8のアミノ酸配列より選択されるアミノ酸配列をコードする。別の態様において、ジペプチド グリシン-リジンをコードする核酸は、ヌクレオチドgまたはaに続く。別の態様において、ジペプチド グリシン-リジンをコードする核酸は、核酸ggaaaa、または核酸ggcaaa、または核酸gggaaaである。
【0012】
本発明の第二の局面は、本発明による核酸を含むプラスミドであり、本発明の第三の局面は、本発明による核酸を含む細胞である。
【0013】
本発明のさらなる局面は、配列番号:17、18、19、20、21、22、23、30または31のヌクレオチド配列を有する核酸である。
【0014】
本発明の第五の局面は、以下の段階を含む、哺乳動物細胞において免疫グロブリンを産生するための方法である:
(a)免疫グロブリン重鎖のC末端部分をコードする配列番号:17、18、19、20、21、22、23、30または31の核酸を含む免疫グロブリン重鎖をコードする核酸で哺乳動物細胞をトランスフェクトする段階、
(b)免疫グロブリンの発現に関して適切な条件下で、トランスフェクトされた哺乳動物細胞を培養する段階、
(c)培養液または細胞から、免疫グロブリンを回収する段階。
【0015】
一つの態様において、哺乳動物細胞は、CHO細胞、BHK細胞、NS0細胞、Sp2/0細胞、COS細胞、HEK細胞またはPER.C6(登録商標)細胞である。好ましくは、哺乳動物細胞は、CHO細胞、またはBHK細胞、またはPER.C6(登録商標)細胞である。別の態様において、哺乳動物細胞は、第一の核酸が免疫グロブリン軽鎖をコードする発現カセットを含み、かつ第二の核酸が、免疫グロブリン重鎖のC末端部分をコードする配列番号:17、18、19、20、21、22、23、30または31の核酸を含む免疫グロブリン重鎖をコードする発現カセットを含む、二つの核酸でトランスフェクトされる。
【0016】
本発明の最後の局面は、哺乳動物細胞において免疫グロブリンの発現を改善するための方法であって、免疫グロブリン重鎖をコードする核酸が、CH3ドメインまたはCH4ドメイン中に含まれるジペプチド グリシン-リジンをコードする核酸ggaaaa、または核酸ggcaaa、または核酸gggaaa、または核酸ggaaag、または核酸ggcaagまたは核酸gggaagを含む、方法である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】p4831の注解付きプラスミドマップを示す。
【図2】クローン♯23によって分泌された抗体のSDS-PAGEおよびウェスタンブロット解析であって;(a)クマシー染色、(b)ペルオキシダーゼ結合抗ヒト免疫グロブリンγ鎖抗体を用いたウェスタンブロット解析、(c)ペルオキシダーゼ結合抗ヒト免疫グロブリンκ軽鎖抗体を用いたウェスタンブロット解析を示す。レーン1:ヒト抗IGF-1R参照抗体;レーン2:クローン♯23の抗体を含むCHO-DG44クローン♯23の培養液上清。
【図3】p4817の注解付きプラスミドマップを示す。
【図4】p4831または4855でトランスフェクトされたCHO-DXB11によって分泌された免疫グロブリンのウェスタンブロット解析を示す。レーン1:p4831でトランスフェクトされたCHO細胞、レーン2:p4855でトランスフェクトされたCHO細胞。
【図5】p5031の注解付きプラスミドマップを示す。
【図6】プラスミドp5031またはp5032でトランスフェクトした後に、HEK-293-EBNA細胞によって分泌された抗体のSDS-PAGE解析を示す。レーン1+2:p5031、レーン3+4:p5032、レーン5〜8:参照抗体としてのヒト抗IGF-1R抗体;5:0.2μg、6:0.7μg、7:2μg、8:6μg。
【図7】p5032でトランスフェクトされ、かつメトトレキサート(MTX)を用いてプラスミドの安定な組み込みに関して選択されたCHO-DG44細胞を示す。6個のクローン由来の抗体が精製され、かつSDS-PAGEおよびクマシー染色によって解析された。
【発明を実施するための形態】
【0018】
発明の詳細な説明
本発明は、クラスIgAもしくはIgG免疫グロブリンのCH3ドメインのC末端部分のアミノ酸配列、またはクラスIgEもしくはIgM免疫グロブリンのCH4ドメインのC末端部分のアミノ酸配列をコードする核酸であって、CH3ドメインまたはCH4ドメインのC末端部分の前記アミノ酸の配列中に含まれるジペプチド グリシン-リジンが、核酸ggaaaa、または核酸ggcaaa、または核酸gggaaa、または核酸ggaaag、または核酸ggcaag、または核酸gggaagによってコードされ、かつジペプチド グリシン-リジンをコードする核酸が、任意でヌクレオチドgまたはヌクレオチドaのいずれかに続く、核酸を含む。
【0019】
本発明を実施するために有用な方法および技術は、当業者に公知であり、例えば、Ausubel, F. M., ed., Current Protocols in Molecular Biology, Volumes I to III (1997)、およびSambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Second Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N. Y. (1989)中に記載される。当業者に公知であるように、組換えDNA技術の使用によって、多数の核酸および/またはポリペプチド誘導体の産生が可能になる。そのような誘導体は、例えば、置換、改変、交換、欠失もしくは挿入によって、一個の個別の位置またはいくつかの位置において改変され得る。改変または誘導化は、例えば、部位特異的突然変異誘発等の手段によって実施され得る。そのような改変は、当業者によって容易に実施され得る(例えば、Sambrook, J., et al., Molecular Cloning: A laboratory manual (1999) Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York, USAを参照のこと)。組換え技術の使用によって、当業者は、異種核酸を用いて様々な宿主細胞を形質転換することが可能になる。異なる細胞の転写および翻訳、すなわち発現の機構は、同一要素を使用するが、異なる種に属する細胞は、とりわけ異なるいわゆるコドン使用頻度を有する可能性がある。それによって、(アミノ酸配列に関して)同一のポリペプチドが、異なる核酸によってコードされる可能性がある。また遺伝コードの縮重のため、異なる核酸が同一ポリペプチドをコードする可能性もある。
【0020】
本明細書において使用される「核酸」とは、例えばDNA、RNAまたはその改変体に対する個々のヌクレオチド(塩基とも称される)a、c、gおよびt(またはRNAにおいてはu)からなるポリマー分子を意味する。このポリヌクレオチド分子は、天然ポリヌクレオチド分子、もしくは合成ポリヌクレオチド分子、または一つもしくは複数の天然ポリヌクレオチド分子と一つもしくは複数の合成ポリヌクレオチド分子との組み合わせであり得る。またこの定義によって、一つもしくは複数のヌクレオチドが変化した(例えば、突然変異誘発によって)、欠損した、または添加された、天然ポリヌクレオチド分子も包含される。核酸は、単離されてもよく、または例えば、発現カセット、プラスミド、もしくは宿主細胞の染色体等の別の核酸中に組み込まれてもよい。核酸は、個々のヌクレオチドからなるその核酸配列によって、同様に特徴付けられる。
【0021】
当業者にとって、例えば、ポリペプチド等のアミノ酸配列を、このアミノ酸配列をコードする対応する核酸配列に変換する手法および方法は、周知である。したがって、核酸は、個々のヌクレオチドからなるその核酸配列によって特徴付けられ、かつそれによってコードされるポリペプチドのアミノ酸配列によって、同様に特徴付けられる。
【0022】
「プラスミド」という用語は、例えば、シャトルプラスミドおよび発現プラスミド、ならびにトランスフェクションプラスミド等を包含する。「ベクター」という用語は、本出願の範囲内において「プラスミド」と同義的に使用される。典型的に、「プラスミド」はまた、細菌中でのプラスミドの複製および選択それぞれのために、複製起点(例えば、ColE1複製起点またはoriP複製起点)および選択マーカー(例えば、アンピシリン、カナマイシン、テトラサイクリン、またはクロラムフェニコール選択マーカー)を含むと考えられる。
【0023】
「発現カセット」とは、少なくとも細胞中に含まれる核酸の発現のためのプロモーターおよびポリアデニル化部位等の、必要な調節要素を含む構築物を意味する。
【0024】
「選択マーカー」とは、選択マーカーを保持する細胞が、対応する選択物質の存在下において、特異的に選択されるか、または排除されることを可能にする核酸である。典型的に、選択マーカーは、薬剤に対する耐性を与えるか、または宿主細胞における代謝もしくは分解の欠陥を補償すると考えられる。選択マーカーは、陽性、陰性、または二機能性であり得る。有用な陽性選択マーカーは、抗生物質耐性遺伝子である。この選択マーカーによって、それらを用いて形質転換された宿主細胞が、対応する選択物質、例えば抗生物質の存在下において正に選択されることが可能になる。非形質転換宿主細胞は、培養液中の選択的培養条件下において、すなわち選択物質の存在下において、増殖または生存することができない。陽性選択マーカーは、該マーカーを保持する細胞に対する選択を可能にし、一方陰性選択マーカーは、該マーカーを保持する細胞が選択的に排除されることを可能にする。真核生物細胞で使用される選択マーカーは、例えば、ハイグロマイシン(hyg)、ネオマイシン(neo)およびG418選択マーカー等のアミノグリコシドホスホトランスフェラーゼ(APH)、ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)、チミジンキナーゼ(tk)、グルタミン合成酵素(GS)、アスパラギン合成酵素、トリプトファン合成酵素(選択物質インドール)、ヒスチジノールデヒドロゲナーゼ(選択物質ヒスチジノールD)に関する遺伝子、ならびにピューロマイシン、ブレオマイシン、フレオマイシン、クロラムフェニコール、ゼオシン、およびミコフェノール酸に対して耐性を与える核酸を包含する。さらなるマーカー遺伝子は、例えば国際公開公報第92/08796号および国際公開公報第94/28143号において報告されている。
【0025】
本明細書において使用される「発現」という用語は、細胞内で生じる転写プロセスおよび/または翻訳プロセスを意味する。細胞中の関心対象の核酸配列の転写レベルは、細胞中に存在する対応するmRNAの量に基づいて決定され得る。例えば、関心対象の配列から転写されたmRNAは、RT-PCRによって、またはノーザンハイブリダイゼーションによって定量され得る(Sambrook et al., 1989、前記を参照のこと)。関心対象の核酸によってコードされるポリペプチドは、例えばELISA等の様々な方法により、ポリペプチドの生物学的活性に関して分析することによって、またはポリペプチドを認識して結合する免疫グロブリンを使用して、ウェスタンブロッティングもしくは放射性免疫測定法等の、そのような生物学的活性に非依存的なアッセイを利用することによって定量され得る(Sambrook et al., 1989、前記を参照のこと)。
【0026】
「細胞」または「宿主細胞」という用語は、例えば、異種ポリペプチドをコードする核酸が導入/トランスフェクトされ得るか、または導入/トランスフェクトされる細胞を意味する。「細胞」という用語は、プラスミドの増殖のために使用される原核生物細胞、および核酸の発現のために使用される真核生物細胞の双方を包含する。好ましくは、真核生物細胞は哺乳動物細胞である。好ましくは、哺乳動物細胞は、CHO細胞(例えば、CHO K1、CHO DG44)、BHK細胞、NS0細胞、SP2/0細胞、HEK 293細胞、HEK 293 EBNA細胞、PER.C6(登録商標)細胞、およびCOS細胞を含む哺乳動物細胞群より選択される。本明細書において使用される「細胞」という表現は、対象細胞およびその子孫を包含する。したがって、「形質転換体」および「形質転換された細胞」という語は、初代対象細胞、および形質転換の数に関係なく培養液中でそこから由来する細胞を包含する。意図的な変異または偶発的な変異のゆえに、全ての子孫がDNA含量において厳密に同一でなくてもよいことも理解される。当初形質転換された細胞中でスクリーニングされるものと同一の機能、または同一の生物活性を有する変種子孫が包含される。
【0027】
「ポリペプチド」とは、天然で産生されるか合成的に産生されるかに関わらず、ペプチド結合によって結合されるアミノ酸からなるポリマーである。約20アミノ酸残基未満のポリペプチドは、「ペプチド」と言及されてもよく、一方二つもしくはそれ以上のポリペプチドからなる分子、または100アミノ酸残基を超える一つのポリペプチドを含む分子は、「タンパク質」と言及されてもよい。ポリペプチドはまた、糖質基、金属イオン、またはカルボン酸エステル等の非アミノ酸成分も含んでよい。非アミノ酸成分は、ポリペプチドが発現される細胞によって添加されてもよく、その細胞の種類に伴って変動してもよい。ポリペプチドは、本明細書において、それらのアミノ酸バックボーンの構造、またはそれらをコードする核酸の観点において定義される。糖質基等の添加は一般に特定されないが、それにも関わらず存在する可能性がある。
【0028】
本出願の範囲内において使用される「アミノ酸」という用語は、直接的にコードされ得る、または前駆体の形態において核酸によってコードされ得るカルボキシα-アミノ酸の一群を示す。個々のアミノ酸は、各々がいわゆるコドンまたは塩基トリプレットという三個のヌクレオチドからなる核酸によってコードされる。各アミノ酸は、少なくとも一個のコドンによってコードされる。例えば、アミノ酸グリシンは、四つの核酸(コドン)gga、ggc、gggおよびggtの各々によってコードされ得て、一方アミノ酸リジンは、二つの核酸aaaおよびaagによってのみコードされ得る。この現象は、「遺伝コードの縮重」として公知である。アミノ酸の群は、アラニン(三文字コード:ala、一文字コード:A)、アルギニン(arg、R)、アスパラギン(asn、N)、アスパラギン酸(asp、D)、システイン(cyc、C)、グルタミン(glu、Q)、グルタミン酸(glu、E)、グリシン(gly、G)、ヒスチジン(his、H)、イソロイシン(ile、I)、ロイシン(leu、L)、リジン(lys、K)、メチオニン(met、M)、フェニルアラニン(phe、F)、プロリン(pro、P)、セリン(ser、S)、トレオニン(thr、T)、トリプトファン(trp、W)、チロシン(tyr、Y)およびバリン(val、V)を含む。
【0029】
本明細書において使用される、「免疫グロブリン」という用語は、免疫グロブリン遺伝子によって実質的にコードされる一つまたは複数のポリペプチドからなるタンパク質を示す。この定義は、変異形態、すなわち一つまたは複数のアミノ酸の置換、欠失および挿入を伴う形態、N末端での切断形態、融合形態、キメラ形態、ならびにヒト化形態等の変種を包含する。認知されている免疫グロブリン遺伝子は、異なる定常領域遺伝子、ならびに例えば、霊長類およびげっ歯類由来の無数の免疫グロブリン可変領域遺伝子を包含する。モノクローナル免疫グロブリンが好ましい。免疫グロブリンの重鎖ポリペプチドおよび軽鎖ポリペプチドの各々は、定常領域(一般に、カルボキシ末端部分)を含んでもよい。
【0030】
本明細書において使用される「モノクローナル免疫グロブリン」という用語は、実質的に均一な免疫グロブリンの集合から得られる免疫グロブリンを意味し、すなわち該集合を含む個々の種類の免疫グロブリンは、微量存在し得る可能な天然の変異を除き、同一である。モノクローナル免疫グロブリンは、極めて特異的であり、単一の抗原性部位に対するものである。さらに、異なる抗原性部位(決定基またはエピトープ)に対する、異なる免疫グロブリンを包含するポリクローナル免疫グロブリンの調製とは対照的に、各モノクローナル免疫グロブリンは、抗原上の単一の抗原性部位に対するものである。それらの特異性に加えて、モノクローナル免疫グロブリンは、他の免疫グロブリンに混入されることなく合成され得るという点において有利である。「モノクローナル」という修飾語は、実質的に均一な免疫グロブリンの集合から得られる免疫グロブリンの特性を示し、任意の特定の方法による免疫グロブリンの産生を要するものとは解釈されるべきではない。
【0031】
非ヒト(例えば、げっ歯類)免疫グロブリンの「ヒト化」形態とは、非ヒト免疫グロブリン由来の部分配列とヒト免疫グロブリン由来の部分配列とを含むキメラ免疫グロブリンである。大部分に関して、ヒト化免疫グロブリンは、超可変領域由来の残基が、所望の特異性および親和性を有するマウス、ラット、ウサギ、または非ヒト霊長類等の非ヒト種(ドナー免疫グロブリン)の超可変領域由来の残基によって置換されるヒト免疫グロブリン(レシピエント免疫グロブリン)に由来する(例えば、Morrison, S. L., et al., Proc. Natal. Acad. Sci. USA 81 (1984) 6851-6855;米国特許第5,202,238号;米国特許第5,204,244号を参照のこと)。いくつかの例においては、ヒト免疫グロブリンのフレームワーク領域(FR)の残基は、対応する非ヒトの残基によって置換される。さらに、ヒト化免疫グロブリンは、例えば、レシピエント免疫グロブリン中、またはドナー免疫グロブリン中には見出されないアミノ酸残基等の、さらなる改変を含んでもよい。そのような改変によって、対応する元の配列と相同であるが同一ではない、そのようなレシピエント免疫グロブリン、またはドナー免疫グロブリンの変種がもたらされる。これらの改変は、免疫グロブリンの性能をさらに精練するために成される。一般に、ヒト化免疫グロブリンは、全ての、または実質的に全ての超可変ループが、非ヒトドナー免疫グロブリンのものに対応し、かつ全ての、または実質的に全てのFRが、ヒトレシピエント免疫グロブリンのものである、少なくとも一つ、典型的に二つの可変ドメインの実質的に全てを含むと考えられる。ヒト化免疫グロブリンは、任意で、少なくとも免疫グロブリン定常領域の一部分、典型的にヒト免疫グロブリンの定常領域も含むと考えられる。非ヒト免疫グロブリンをヒト化する方法は、当技術分野において記載されている。好ましくは、ヒト化免疫グロブリンは、ヒトでない起源からそこに導入された、一つまたは複数のアミノ酸残基を有する。これらの非ヒトアミノ酸残基は、往々にして、「移入」残基と呼ばれ、これは典型的に「移入」可変ドメインから取得される。ヒト化は、Winterおよび共同研究者らの方法に従って、超可変領域配列を非ヒト免疫グロブリンの対応する配列に置換することによって、本質的に遂行され得る。したがって、そのような「ヒト化」免疫グロブリンは、実質的にインタクトではないヒト可変ドメインが、非ヒト種由来の対応する配列によって置換されている、キメラの免疫グロブリンである。実際には、ヒト化免疫グロブリンは、典型的に、一部の超可変領域の残基およびおそらく一部のフレームワーク領域の残基が、げっ歯類または非ヒト霊長類の免疫グロブリン中の相似部位由来の残基によって置換されているヒト免疫グロブリンである。
【0032】
免疫グロブリンは、その重鎖の定常領域のアミノ酸配列に依存して、IgA、IgD、IgE、IgGおよびIgMのクラスに分類される。これらのうちの一部は、例えば、IgG1、IgG2、IgG3およびIgG4、IgA1およびIgA2等のサブクラス(イソタイプ)にさらに分類される場合がある。重鎖定常領域に応じて、様々なクラスの免疫グロブリン重鎖は、各々α鎖、δ鎖、ε鎖、γ鎖、およびμ鎖と表される。クラスIgA、IgDおよびIgGの全長ヒト免疫グロブリンの重鎖の定常領域は、定常ドメイン1(本明細書において、CH1として示される)、ヒンジ領域、定常ドメイン2(CH2)および定常ドメイン3(CH3)から構成される。クラスIgEおよびIgMのヒト免疫グロブリンは、さらなる第四の定常ドメイン(CH4)を含む。さらに、例えば5個または6個の複数の免疫グロブリンを含む免疫グロブリンのポリマーであるクラスIgMは、ジスルフィド結合によって共有結合される。これらの様々なヒト免疫グロブリンクラスのC末端定常ドメインのアミノ酸配列が、表1に列挙される。配列番号:01〜08の最初のアミノ酸は、存在するか、またはしない可能性があり、なぜならばこのアミノ酸は、C末端の定常ドメインをコードするエキソンおよび先行するドメインをコードするエキソンである二つのエキソンによってコードされるためである。
【0033】
(表1)様々な免疫グロブリンクラスのC末端アミノ酸配列
ジペプチド グリシン-リジンは、下線を施される。

【0034】
「クラスIgAもしくはIgG免疫グロブリンのCH3ドメインのC末端部分、またはクラスIgEもしくはIgM免疫グロブリンのCH4ドメインのC末端部分」という用語は、全長または天然の免疫グロブリン重鎖のC末端に位置付けられ、それによって該C末端部分のC末端が、免疫グロブリン重鎖の一次アミノ酸配列のC末端と同一である、免疫グロブリン重鎖のアミノ酸配列を示す。「一次アミノ酸配列」という用語は、対応するmRNAの翻訳後の免疫グロブリン重鎖のアミノ酸配列を示す。この一次アミノ酸配列は、例えば一次アミノ酸配列由来の一つまたは複数のC末端アミノ酸を切断するペプチダーゼによって、mRNA翻訳後に、発現している細胞中でさらに改変されてもよい。したがって、一次アミノ酸配列と分泌されたアミノ酸配列とは同一でなくてもよく、C末端のいくつかのアミノ酸は異なる可能性がある。一つの態様において、C末端部分は、免疫グロブリン重鎖の一次アミノ酸配列の少なくとも100個のC末端アミノ酸を含むか、または好ましくは、免疫グロブリン重鎖の一次アミノ酸配列の少なくとも50個のC末端アミノ酸を含むか、または好ましくは、免疫グロブリン重鎖の一次アミノ酸配列の少なくとも20個のC末端アミノ酸を含む。一つの態様において、本発明による核酸は、クラスIgGの免疫グロブリンのCH3ドメインのC末端部分のアミノ酸配列をコードしているか、またはクラスIgEの免疫グロブリンのCH4ドメインのC末端部分のアミノ酸配列をコードしている。さらなる態様において、本発明による核酸は、クラスIgGの免疫グロブリンのCH3ドメインのC末端部分のアミノ酸配列をコードしている。
【0035】
様々なヒト免疫グロブリンのC末端定常ドメインのアミノ酸配列は、対応するDNA配列によってコードされる。ゲノム中でこれらのDNA配列は、コード(エキソン)配列および非コード(イントロン)配列を含む。DNAのmRNA前駆体への転写後に、mRNA前駆体は、これらのイントロンおよびエキソン配列も含む。翻訳に先立ち、成熟mRNAを生成するために、mRNAプロセシングの間に一次mRNA転写産物から非コードのイントロン配列をスプライシングすることによって、非コードのイントロン配列が除去される。一次mRNAのスプライシングは、適切に間隔を空けて配置されるスプライスアクセプター部位と組み合わさって、スプライスドナー部位によって制御される。スプライスドナー部位は、イントロン配列の5’末端に位置付けられ、スプライスアクセプター部位は、イントロン配列の3’末端に位置付けられ、かつ双方はmRNA前駆体のスプライシングプロセスの間に部分的に除去される。
【0036】
「適切に間隔を開けて配置される」という用語は、核酸中のスプライスドナー部位およびスプライスアクセプター部位が、スプライシングプロセスに関して必要とされる全ての因子が利用可能で、かつスプライシングプロセスが起こるのに適切な位置に位置するような様式において配列されることを示す。
【0037】
本発明は、クラスIgAもしくはIgG免疫グロブリンのCH3ドメインのC末端部分のアミノ酸をコードする核酸、またはクラスIgEもしくはIgM免疫グロブリンのCH4ドメインのC末端部分のアミノ酸配列をコードする核酸であって、CH3ドメインもしくはCH4ドメインのC末端部分の該アミノ酸配列中に含まれるジペプチド グリシン-リジンが、核酸ggaaaa、または核酸ggcaaa、または核酸gggaaaによってコードされる、核酸を含む。
【0038】
驚くべきことに、本発明による核酸を用いて、望ましくないスプライシング事象による望ましくない副産物の形成が減少され得ることが見出されている。
【0039】
本出願の範囲内において使用される「ジペプチド グリシン-リジン」という用語は、N末端からC末端の方向において、ペプチド結合によって結合されるグリシンおよびリジンの二個のアミノ酸を含むペプチドを示す。本出願の範囲内において使用される「ジペプチド グリシン-リジン」という用語は、より大きいポリペプチドの最初に、内部に、もしくは末端に見出され得る、該より大きいポリペプチドまたはタンパク質のジペプチド画分を示す。アミノ酸リジンは、核酸aaaおよびaagによってコードされ得る。したがって、本発明の別の態様では、免疫グロブリン重鎖のCH3ドメインまたはCH4ドメインのC末端部分のアミノ酸配列中に含まれるジペプチド グリシン-リジンは、核酸ggaaag、または核酸ggcaag、または核酸gggaagによってコードされる。別の態様において、ジペプチド グリシン-リジンをコードする核酸は、ヌクレオチドaまたはgに続く。
【0040】
様々なヒト免疫グロブリンクラス、およびサブクラスのC末端定常ドメインをコードする核酸配列は、表2に列挙される。ヒトIgG1およびIgG2のCH3ドメインに関して、二つの変種形態が公知である。一つの態様において、核酸は免疫グロブリン重鎖のC末端定常ドメインの一部をコードする。
【0041】
(表2)様々なヒト免疫グロブリンクラスの重鎖のC末端部分をコードする核酸配列


【0042】
一つの態様において、本発明による核酸は、配列番号:1、3、4、5、6、7または8のアミノ酸配列より選択されるアミノ酸配列をコードする。
【0043】
一つの態様において、核酸は、クラスIgA、IgE、IgMまたはIgG免疫グロブリン重鎖のC末端定常ドメインの一部をコードし、かつ配列番号:17、18、19、20、21、22、または23、または30または31の核酸より選択される。別の態様において、核酸は、クラスIgA、IgE、IgMまたはIgG免疫グロブリン重鎖のC末端定常ドメインの一部をコードし、かつ配列番号:17、18、19、22、23、30または31の核酸より選択される。さらなる態様において、核酸はクラスIgA、IgE、IgMまたはIgG免疫グロブリン重鎖のC末端定常ドメインの一部をコードし、かつ配列番号:17、18、19、22または23の核酸より選択される。
【0044】
本発明の一つの局面はまた、配列番号:17〜23および30〜31のヌクレオチド配列を有する核酸である。一つの態様において、配列番号:17、18、19、22、23、30または31のヌクレオチド配列は、本発明の一つの局面である。別の態様において、配列番号:17、18、19、22または23のヌクレオチド配列は、本発明の一つの局面である。
【0045】
一つの態様において、核酸は、クラスIgA、IgE、IgMまたはIgG免疫グロブリンのC末端定常ドメインをコードし、かつ免疫グロブリン重鎖のC末端ドメインの一部をコードする配列番号:17、18、19、20、21、22、または23、または30または31の核酸より選択される核酸を含む。別の態様において、核酸は、クラスIgA、IgE、IgMまたはIgG免疫グロブリンのC末端定常ドメインをコードし、かつ免疫グロブリン重鎖のC末端ドメインの一部をコードする配列番号:17、18、19、22、23、30または31の核酸より選択される核酸を含む。さらなる態様において、核酸は、クラスIgA、IgE、IgMまたはIgG免疫グロブリンのC末端定常ドメインをコードし、かつ免疫グロブリン重鎖のC末端ドメインの一部をコードする配列番号:17、18、19、22または23の核酸より選択される核酸を含む。
【0046】
(表3)様々なクラスの免疫グロブリン重鎖のC末端定常ドメインアミノ酸配列の一部をコードする、本発明による核酸配列

【0047】
本発明による核酸は、クラスIgA、IgE、IgMまたはIgG免疫グロブリンのC末端定常ドメインの、少なくとも一部をコードする。「C末端定常ドメイン」という用語は、クラスIgAもしくはIgG免疫グロブリン重鎖のCH3ドメイン、またはクラスIgEもしくはIgM免疫グロブリン重鎖のCH4ドメインのいずれかを示す。「の一部」という表現は、クラスIgA、IgE、IgMもしくはIgG免疫グロブリン重鎖のC末端定常ドメインのC末端画分、免疫グロブリン重鎖のC末端からN末端の方向へカウントされる一次アミノ酸配列の、少なくとも20個の連続的なアミノ酸のC末端画分、または少なくとも50個の連続的なアミノ酸のC末端画分、または少なくとも100個の連続的なアミノ酸のC末端画分を示す。
【0048】
免疫グロブリンの組換え産生は最新の技術において周知であり、かつ例えば、Makrides, S. C., Protein Expr. Purif. 17 (1999) 183-202; Geisse, S., et al., Protein Expr. Purif. 8 (1996) 271-282; Kaufman, R. J., Mol. Biotechnol. 16 (2000) 151-160 Werner, R. G., Arzneimittelforschung-Drug Research 48 (1998) 870-880の総説文献中に記載される。
【0049】
本発明による核酸によってコードされるアミノ酸配列を含む免疫グロブリンの産生に関して、本発明は、以下の段階を含む、哺乳動物細胞における免疫グロブリンの産生のための方法をさらに含む:
(a)免疫グロブリン重鎖をコードする核酸で哺乳動物細胞をトランスフェクトする段階であって、配列番号:17、18、19、20、21、22、または23、または30または31の核酸より選択される核酸が、免疫グロブリン重鎖のC末端ドメインの一部をコードする、段階、
(b)免疫グロブリンの発現に関して適切な条件下において、トランスフェクトされた哺乳動物細胞を培養する段階、
(c)培養液または細胞から免疫グロブリンを回収する段階。
【0050】
「免疫グロブリンの発現に関して適切な条件下」という用語は、免疫グロブリンを発現する哺乳動物細胞の培養において使用され、かつ当業者に公知であるか、または当業者によって容易に決定され得る条件を示す。これらの条件が、培養される哺乳動物細胞の種類および発現される免疫グロブリンの種類に依存して変動する可能性があることも、当業者に公知である。一般に、哺乳動物細胞は、例えば20℃〜40℃の温度で、かつ例えば4〜28日間等の、効果的な免疫グロブリンのタンパク質産生を許容する十分な期間、培養される。
【0051】
一つの態様において、哺乳動物細胞をトランスフェクトする段階は、免疫グロブリン重鎖をコードする核酸を用い、ここで配列番号:17、18、19、22、23、30または31の核酸より選択される核酸が、免疫グロブリン重鎖のC末端ドメインの一部をコードする。さらなる態様において、哺乳動物細胞をトランスフェクトする段階は、免疫グロブリン重鎖をコードする核酸を用い、ここで配列番号:17、18、19、22または23の核酸より選択される核酸が、免疫グロブリン重鎖のC末端ドメインの一部をコードする。一つの態様において、哺乳動物細胞は、一つの免疫グロブリン重鎖をコードする発現カセットおよび免疫グロブリン軽鎖をコードする発現カセットを含む一つの核酸でトランスフェクトされる。別の態様において、哺乳動物細胞は、免疫グロブリン軽鎖をコードする発現カセットを含む核酸、および免疫グロブリン重鎖をコードする発現カセットを含む核酸である、二つの核酸でトランスフェクトされる。
【0052】
本発明による方法を用いて産生される免疫グロブリンは、好ましくは、異種免疫グロブリンである。「異種免疫グロブリン」という用語は、前記哺乳動物細胞によって天然には産生されない免疫グロブリンを示す。本発明の方法に従って産生される免疫グロブリンは、組換え手段によって産生される。そのような方法は、最新の技術において広く公知であり、原核生物細胞および真核生物細胞におけるタンパク質発現、続いて異種免疫グロブリンの回収および単離、ならびに通常は薬学的に許容される純度への精製を含む。免疫グロブリンの産生、すなわち発現に関して、本発明による核酸を含む、軽鎖をコードする核酸および重鎖をコードする核酸は、標準的方法によって発現カセット中に各々挿入される。免疫グロブリンをコードする核酸は、容易に単離され、かつ従来型手法を使用して配列決定される。ハイブリドーマ細胞は、そのような核酸の起源として役立ち得る。発現カセットが発現プラスミド中に挿入されてもよく、続いてこの発現プラスミドは、そうでない限り免疫グロブリンを産生しない宿主細胞中にトランスフェクトされる。発現は、適切な原核生物宿主細胞または真核生物宿主細胞において遂行され、かつ免疫グロブリンは、溶解後の細胞から、または培養液の上清から回収される。
【0053】
タンパク質の回収および精製に関して、例えば細菌タンパク質を用いた親和性クロマトグラフィー(例えば、プロテインAまたはプロテインG親和性クロマトグラフィー)、イオン交換クロマトグラフィー(例えば、陽イオン交換(カルボキシメチル樹脂)、陰イオン交換(アミノエチル樹脂)および混合モード交換)、チオフィリック(thiophilic)吸着(例えば、β-メルカプトエタノールおよび他のSHリガンドを使用)、疎水性相互作用または芳香族吸着クロマトグラフィー(例えば、フェニルセファロース、アザアレノフィリック(aza-arenophilic)樹脂、またはm-アミノフェニルボロン酸を使用)、金属キレート親和性クロマトグラフィー(例えば、Ni(II)およびCu(II)親和性物質を使用)、サイズ排除クロマトグラフィー、ならびに電気泳動的方法(ゲル電気泳動、キャピラリー電気泳動等)等の様々な方法が十分に確立されており、広範に用いられている(Vijayalakshmi, M. A. Appl. Biochem. Biotech. 75(1998) 93-102)。
【0054】
本発明は、本発明による核酸を含む免疫グロブリン重鎖をコードする核酸をさらに含む。さらに、本発明は、本発明による核酸を含むプラスミド、およびこのプラスミドを含む細胞を含む。
【0055】
本発明の別の局面は、哺乳動物細胞における免疫グロブリンの発現を改善するための方法であって、免疫グロブリン重鎖をコードする核酸が、CH3ドメインもしくはCH4ドメインに含まれるジペプチド グリシン-リジンをコードする核酸ggaaaa、または核酸ggcaaa、または核酸gggaaa、または核酸ggaaag、または核酸ggcaag、または核酸gggaagを含む、方法である。この核酸を用いて、望ましくないスプライシング事象が低減または抑制され得る。
【0056】
本発明の一つの態様において、免疫グロブリン重鎖は、サブクラスIgG4のヒト抗体の免疫グロブリン重鎖、またはサブクラスIgG1、IgG2もしくはIgG3のヒト抗体の免疫グロブリン重鎖のいずれかである。一つの態様において、免疫グロブリン重鎖は、ヒト免疫グロブリン重鎖であり、かつ好ましくはヒトIgG4サブクラス由来であるか、またはヒトIgG1サブクラス由来の変異型免疫グロブリン重鎖のいずれかである。別の態様において、免疫グロブリン重鎖は、変異L234AおよびL235Aを有するヒトIgG1サブクラス由来である。さらなる態様において、免疫グロブリン重鎖は、変異S228Pを含むヒトIgG4免疫グロブリン重鎖である。一つの態様において、免疫グロブリン重鎖は、L234、L235および/もしくはD265位に変異を有するIgG4サブクラスのものであるか、またはIgG1もしくはIgG2サブクラスのものであり、かつ/またはPVA236変異を含む。他の態様において、変異は、S228P、L234A、L235A、L235E、および/またはPVA236である(PVA236は、IgG1のアミノ酸位置233〜236位由来のアミノ酸配列ELLG(一文字のアミノ酸コードで示される)、またはIgG4のEFLGがPVAによって置換されていることを意味する)。好ましくは、変異は、IgG4のS228P、ならびにIgG1のL234AおよびL235Aである(KabatのEUインデックスによる符番)。
【0057】
本明細書において使用される「調節要素」は、シスに存在し、関心対象のポリペプチドをコードする核酸配列の転写および/または翻訳に対して必要なヌクレオチド配列を意味する。転写調節要素は、通常、発現される核酸配列の上流のプロモーター、転写開始部位および転写終結部位、ならびにポリアデニル化シグナル配列を含む。「転写開始部位」という用語は、一次転写産物、すなわちmRNA前駆体中に取り込まれる最初の核酸に対応する核酸中の核酸塩基を意味し、転写開始部位は、プロモーター配列と重複する場合がある。「転写終結部位」という用語は、RNAポリメラーゼに転写を終結させる、転写される関心対象の遺伝子の3’末端に通常示されるヌクレオチド配列を意味する。ポリアデニル化シグナル配列、またはポリA付加シグナルは、真核生物mRNAの3’末端の特定部位での切断のためのシグナル、および切断された3’末端へ約100〜200アデニンヌクレオチド(ポリAテール)の配列を核内で転写後付加するのためのシグナルを提供する。ポリアデニル化シグナル配列は、切断の部位から約10〜30ヌクレオチド上流に位置付けられるコンセンサス配列AATAAAを包含する。
【0058】
分泌型ポリペプチドを産生するために、関心対象の核酸は、シグナル配列/リーダーペプチドをコードするDNAセグメントを包含する。シグナル配列は、新規に合成されたポリペプチドを、ポリペプチドが分泌のために経由され得るER膜に対して、かつER膜を通して方向付ける。シグナル配列は、タンパク質がER膜を横断する間にシグナルペプチダーゼによって切断される。シグナル配列の機能に関して、宿主細胞の分泌機構による認識が不可欠である。したがって、使用されるシグナル配列は、宿主細胞のタンパク質および分泌機構の酵素によって認識されなくてはならない。
【0059】
翻訳調節要素は、翻訳開始コドン(AUG)および翻訳終止コドン(TAA、TAGまたはTGA)を包含する。いくつかの構築物においては、配列内リボソーム進入部位(IRES)が包含され得る。
【0060】
「プロモーター」は、遺伝子/構造遺伝子またはそれが機能的に連結される核酸配列の転写を制御するポリヌクレオチド配列を意味する。プロモーターは、RNAポリメラーゼの結合および転写開始のためのシグナルを包含する。使用されるプロモーターは、選択された配列の発現が企図される宿主細胞の細胞種において、機能的であると考えられる。様々な異なる起源由来の、構成的、誘導性および抑制的プロモーターを含む多数のプロモーターが当技術分野において周知であり(かつGenBank等のデータベースにおいて同定されている)、かつ(例えば、ATCC等の寄託機関および他の市販または個々の供給源に由来する)クローニングされたポリヌクレオチドとして、またはその範囲内において、利用可能である。「プロモーター」は、構造遺伝子の転写を方向付けるヌクレオチド配列を含む。典型的に、プロモーターは、構造遺伝子の転写開始部位に隣接する遺伝子の5’非コード領域または非翻訳領域中に位置付けられる。転写の開始において機能するプロモーター内の配列要素は、往々にしてコンセンサスヌクレオチド配列によって特徴付けられる。これらのプロモーター要素は、RNAポリメラーゼ結合部位、TATA配列、CAAT配列、分化特異的要素(DSE;McGehee, R. E., et al., Mol. Endocrinol. 7 (1993) 551-560)、環状アデノシン一リン酸応答配列(CRE)、血清応答配列(SRE;Treisman, R., Seminars in Cancer Biol. 1 (1990) 47-58)、グルココルチコイド応答配列(GRE)およびCRE/ATF(Treisman, R., Seminars in Cancer Biol. 1 (1990) 47-58;O’Reilly, M. A., et al., J. Biol. Chem. 267 (1992) 19938)、AP2(Ye, J., et al., J. Biol. Chem. 269 (1994) 25728)、SP1、cAMP応答配列結合タンパク質(CREB;Loeken, M. R., Gene Expr. 3 (1993) 253)ならびにオクタマー因子(一般に、Watson et al., eds., Molecular Biology of the Gene, 4th ed. (The Benjamin/Cummings Publishing Company, Inc. 1987)およびLemaigre, F. P. and Rousseau, G. G., Biochem. J. 303 (1994) 1-14を参照のこと)等の他の転写因子に対する結合部位を包含する。プロモーターが誘導性プロモーターの場合には、転写速度は誘導物質に応答して増加する。対照的に、プロモーターが構成的プロモーターの場合には、転写速度は誘導物質によって調節されない。抑制的プロモーターも公知である。例えば、c-fosプロモーターは、成長ホルモンが細胞表面のその受容体に結合して、特異的に活性化される。テトラサイクリン(tet)による発現の調節は、例えば、CMVプロモーター、続く二つのTetオペレーター部位等からなる人工的なハイブリッドプロモーターによって達成され得る。Tet抑制因子は、二つのTetオペレーター部位に結合して転写を遮断する。誘導因子テトラサイクリンが添加され、Tet抑制因子がTetオペレーター部位から解離され、転写が進行する(Gossen, M. and Bujard, H. PNAS 89 (1992) 5547-5551)。他の誘導性プロモーターは、メタロチオネインプロモーターおよび熱ショックプロモーターを含む。例えば、Sambrook et al. (前記) and Gossen, M., Curr. Opin. Biotech. 5 (1994) 516-520を参照のこと。高いレベルの発現のための強いプロモーターとして同定されている真核生物プロモーターは、SV40初期プロモーター、アデノウイルス主要後期プロモーター、マウスメタロチオネインIプロモーター、ラウス肉腫ウイルス末端反復配列、チャイニーズハムスター伸張因子1α(CHEF-1、例えば米国特許第5,888,809号を参照のこと)、ヒトEF-1α、ユビキチン、およびヒトサイトメガロウイルス前初期プロモーター(CMV IE)である。
【0061】
「プロモーター」は、構成的または誘導性であり得る。エンハンサー(すなわち、転写を増加させるためにプロモーターに作用するシス作用性のDNA要素)は、プロモーターと組み合わさって機能して、プロモーター単独で得られる発現のレベルを増加させるために必要である可能性があり、かつ転写調節要素として包含される場合がある。往々にして、プロモーターを含むポリヌクレオチドセグメントは、エンハンサー配列も包含すると考えられる(例えば、CMVまたはSV40)。
【0062】
本明細書において使用される「エンハンサー」は、それに機能的に連結される遺伝子またはコード配列の転写を増強するポリヌクレオチド配列を意味する。プロモーターとは異なり、エンハンサーは、方向および位置に対して比較的非依存的であり、かつ転写ユニットに対して5’または3’に(Lusky, M., et al., Mol. Cell Bio., 3 (1983) 1108-1122)、イントロン内部に(Banerji, J., et al., Cell, 33 (1983) 729-740)、ならびにコード配列自体の内部に(Osborne, T. F., et al., Mol. Cell Bio., 4 (1984) 1293-1305)見出されている。したがって、実際にはエンハンサーは、物理的にかつ機能的にプロモーターと重複する可能性があるが、エンハンサーは、転写開始部位から上流もしくは下流に、またはプロモーターからかなりの距離に位置する可能性がある。様々な異なる起源由来の多数のエンハンサーが、当技術分野において周知であり(かつGenBank等のデータベースにおいて同定されている)、かつ(例えば、ATCC等の寄託機関および他の市販または個々の供給源に由来する)クローニングされたポリヌクレオチド配列として、またはそれらの配列の範囲内において、利用可能である。プロモーター配列(一般に使用されるCMVプロモーター等)を含むいくつかのポリヌクレオチドはまた、エンハンサー配列も含む。例えば、上に列挙される強いプロモーターは全て、強いエンハンサーも含む可能性がある(例えば、Bendig, M. M., Genetic Engineering, 7 (Academic Press, 1988) 91-127を参照のこと)。
【0063】
「配列内リボソーム進入部位」または「IRES」は、IRESの5’の遺伝子とは独立に翻訳開始を機能的に促進し、かつ動物細胞において、二つのシストロン(オープンリーディングフレーム)が単一の転写産物から翻訳されることを可能にする配列を意味する。IRESは、そのすぐ下流のオープンリーディングフレームの翻訳に関して、独立したリボソーム挿入部位を提供する(下流とは、本明細書において3’と互換的に使用される)。ポリシストロン性であり得る、すなわちmRNAから順次翻訳される数種の異なるポリペプチドをコードする細菌のmRNAとは異なり、動物細胞の大多数のmRNAは、モノシストロン性であり、一つのタンパク質の合成のみをコードする。真核生物細胞におけるモノシストロン性の転写産物を用いて、翻訳は、最も5’位にある翻訳開始部位から開始され、最初の終止コドンで終結されると考えられ、転写産物がリボソームから解離し、mRNA中で最初にコードされるポリペプチドのみの翻訳をもたらすと考えられる。真核生物細胞において、転写産物中の第二のオープンリーディングフレーム、または続くオープンリーディングフレームに機能的に連結されたIRESを有するポリシストロン性の転写産物は、その下流のオープンリーディングフレームが順次翻訳され、同一の転写産物によってコードされる二つまたはそれ以上のポリペプチドを産生することを許容する。ベクター構築におけるIRES要素の使用は以前に記載されている。例えばPelletier, J., et al., Nature 334 (1988) 320-325; Jang, S. K., et al., J. Virol. 63 (1989) 1651-1660; Davies, M. V., et al., J. Virol. 66 (1992) 1924-1932; Adam, M. A., et al. J. Virol. 65 (1991) 4985-4990; Morgan, R. A., et al. Nucl. Acids Res. 20 (1992) 1293-1299; Sugimoto, Y, et al. Biotechnology 12 (1994) 694-698; Ramesh, N., et al. Nucl. Acids Res. 24 (1996) 2697-2700;およびMosser, D. D. et al, BioTechniques 22 (1997) 150-161を参照のこと。
【0064】
「機能的に連結された」とは、そのように記載された構成要素が、それらが意図された様式において機能することを可能にする関係にある、二つまたはそれ以上の構成要素の並置を意味する。例えば、プロモーターおよび/またはエンハンサーは、連結された配列の転写を制御または調節するためにシスで作用する場合には、コード配列に機能的に連結されている。一般的に、しかし必然的にではないが、「機能的に連結された」DNA配列は連続的であり、かつ分泌性リーダーおよびポリペプチド等の二つのタンパク質コード領域を連結するために必要な場合は、連続的でかつイン(リーディング)フレームである。しかしながら、機能的に連結されたプロモーターは、コード配列の上流に一般的に位置付けられるが、必ずしもそれと連続的ではない。エンハンサーは、必ずしも連続的でなくてもよい。エンハンサーは、エンハンサーがコード配列の転写を増加させる場合には、コード配列に機能的に連結されている。機能的に連結されたエンハンサーは、コード配列の上流、内部または下流に位置付けられてもよく、プロモーターからかなりの距離に位置付けられてもよい。転写がコード配列を通ってポリアデニル化配列中へ進行するように、ポリアデニル化部位がコード配列の下流末端に位置付けられる場合には、ポリアデニル化部位はコード配列に機能的に連結されている。翻訳がコード配列を通って終止コドンへと進行し、そこで終結されるように、翻訳終止コドンがコード配列の下流末端(3’末端)に位置付けられる場合には、翻訳終止コドンはエキソンの核酸配列に機能的に連結されている。連結は、例えばPCR法を使用して、かつ/または簡便な制限部位でのライゲーションによる等の、当技術分野において公知の組換え方法によって達成される。簡便な制限部位が存在しない場合には、合成オリゴヌクレオチドアダプターまたはリンカーが、従来型実践に従って使用される。
【0065】
「異種DNA」または「異種ポリペプチド」とは、所与の宿主細胞内に天然では存在しないDNA分子もしくはポリペプチド、またはDNA分子の集合もしくはポリペプチドの集合を意味する。特定の宿主細胞に対する異種DNA分子は、宿主DNAが非宿主DNA(すなわち、外来性DNA)と組み合わせられる限りは、宿主細胞種由来のDNA(すなわち、内在性DNA)を含む可能性がある。例えば、プロモーターを含む宿主DNAセグメントに機能的に連結されたポリペプチドをコードする非宿主DNAセグメントを含むDNA分子は、異種DNA分子と見なされる。逆に、異種DNA分子は、外来性プロモーターに機能的に連結された内在性構造遺伝子を含み得る。
【0066】
非宿主DNA分子によってコードされるペプチドまたはポリペプチドは、「異種」ペプチドまたはポリペプチドである。
【0067】
「発現プラスミド」とは、宿主細胞中で発現されるタンパク質をコードする核酸分子である。典型的に、発現プラスミドは、複製起点および選択マーカーを含む例えば、大腸菌等の原核生物プラスミド増殖ユニット、真核生物選択マーカー、ならびに各々がプロモーター、構造遺伝子、およびポリアデニル化シグナルを含む転写終結因子を含む関心対象の構造遺伝子の発現のための一つまたは複数の発現カセットを含む。遺伝子発現は、通常、プロモーターの制御下に置かれ、そのような構造遺伝子は、プロモーターに「機能的に連結されている」と称される。同様に、調節要素がコアプロモーターの活性を調節する場合には、調節要素およびコアプロモーターは、機能的に連結されている。
【0068】
「単離されたポリペプチド」とは、糖質、脂質または天然のポリペプチドに関連する他のタンパク性不純物等といった、混入している細胞性構成要素が本質的に存在しないポリペプチドである。典型的に、単離されたポリペプチドの調製物は、高度に精製された形態でのポリペプチド、すなわち少なくとも約80%純粋な、少なくとも約90%純粋な、少なくとも約95%純粋な、95%純粋よりも純粋な、または99%純粋よりも純粋なポリペプチドを含む。特定のタンパク質の調製物が、単離されたポリペプチドを含むことを示す一つの方法は、タンパク質調製物のドデシル硫酸ナトリウム(SDS)-ポリアクリルアミドゲル電気泳動、およびゲルのクーマシーブリリアントブルー染色後の単一バンドの出現による。しかしながら、「単離された」という用語は、二量体、または代わりにグリコシル化形態もしくは誘導化形態等の、別の物理形態における同一のポリペプチドの存在を排除しない。
【0069】
本出願の範囲内において示される「転写終結因子」は、mRNA合成の終結のためのシグナルをRNAポリメラーゼに示す50〜750塩基対の長さのDNA配列である。発現カセット3’末端の非常に効果的な(強い)終結因子は、とりわけ強いプロモーターを使用する際、RNAポリメラーゼのリードスルーを妨げるために望ましい。非効果的な転写終結は、例えば、プラスミドにコードされた望ましくない遺伝子発現に関する理由であり得る、オペロン様mRNAの形成に至る可能性がある。
【0070】
下記の実施例、添付の配列リストおよび図面は、本発明、添付の特許請求の範囲において示される真の範囲の理解を促進するために提供される。示される手法において、本発明の精神を逸脱することなく改変が成され得ることが理解されるべきである。
【0071】
配列の説明
配列番号:01 ヒトIgAクラス免疫グロブリンの重鎖定常ドメイン(CH3)アミノ酸配列のC末端部分
配列番号:02 ヒトIgDクラス免疫グロブリンの重鎖定常ドメイン(CH3)アミノ酸配列のC末端部分
配列番号:03 ヒトIgEクラス免疫グロブリンの重鎖定常ドメイン(CH4)アミノ酸配列のC末端部分
配列番号:04 ヒトIgMクラス免疫グロブリンの重鎖定常ドメイン(CH4)アミノ酸配列のC末端部分
配列番号:05 ヒトIgG1クラス免疫グロブリンの重鎖定常ドメイン(CH3)アミノ酸配列のC末端部分
配列番号:06 ヒトIgG2クラス免疫グロブリンの重鎖定常ドメイン(CH3)アミノ酸配列のC末端部分
配列番号:07 ヒトIgG3クラス免疫グロブリンの重鎖定常ドメイン(CH3)アミノ酸配列のC末端部分
配列番号:08 ヒトIgG4クラス免疫グロブリンの重鎖定常ドメイン(CH3)アミノ酸配列のC末端部分
配列番号:09 ヒトIgAクラス免疫グロブリンの重鎖定常ドメイン(CH3)アミノ酸配列のC末端部分をコードする核酸配列
配列番号:10 ヒトIgDクラス免疫グロブリンの重鎖定常ドメイン(CH3)アミノ酸配列のC末端部分をコードする核酸配列
配列番号:11 ヒトIgEクラス免疫グロブリンの重鎖定常ドメイン(CH4)アミノ酸配列のC末端部分をコードする核酸配列
配列番号:12 ヒトIgMクラス免疫グロブリンの重鎖定常ドメイン(CH4)アミノ酸配列のC末端部分をコードする核酸配列
配列番号:13、28 ヒトIgG1クラス免疫グロブリンの重鎖定常ドメイン(CH3)アミノ酸配列のC末端部分をコードする核酸配列(変種1および2)
配列番号:14、29 ヒトIgG2クラス免疫グロブリンの重鎖定常ドメイン(CH3)アミノ酸配列のC末端部分をコードする核酸配列(変種1および2)
配列番号:15 ヒトIgG3クラス免疫グロブリンの重鎖定常ドメイン(CH3)アミノ酸配列のC末端部分をコードする核酸配列
配列番号:16 ヒトIgG4クラス免疫グロブリンの重鎖定常ドメイン(CH3)アミノ酸配列のC末端部分をコードする核酸配列
配列番号:17 IgAクラス免疫グロブリンのC末端定常ドメイン(CH3)アミノ酸配列の一部をコードする、本発明による核酸配列
配列番号:18 IgEクラス免疫グロブリンのC末端定常ドメイン(CH4)アミノ酸配列の一部をコードする、本発明による核酸配列
配列番号:19 IgMクラス免疫グロブリンのC末端定常ドメイン(CH4)アミノ酸配列の一部をコードする、本発明による核酸配列
配列番号:20、30 IgG1クラス免疫グロブリンのC末端定常ドメイン(CH3)アミノ酸配列の一部をコードする、本発明による核酸配列(変種1および2)
配列番号:21、31 IgG2クラス免疫グロブリンのC末端定常ドメイン(CH3)アミノ酸配列の一部をコードする、本発明による核酸配列(変種1および2)
配列番号:22 IgG3クラス免疫グロブリンのC末端定常ドメイン(CH3)アミノ酸配列の一部をコードする、本発明による核酸配列
配列番号:23 IgG4クラス免疫グロブリンのC末端定常ドメイン(CH3)アミノ酸配列の一部をコードする、本発明による核酸配列
配列番号:24〜27 実施例において使用される核酸プライマー
【0072】
材料および方法
組換えDNA技術
Sambrook et al., 1989(前記)において記載されるような標準的方法が、DNAを操作するために使用された。全ての分子生物学的試薬は(そうでないと示されない限りは)市販されており、製造者の使用説明書に従って使用された。
【0073】
核酸配列の決定
MediGenomix GmbH (Martinsried, Germany)で遂行された二重鎖シーケンシングによって、DNA配列を決定した。
【0074】
DNAおよびタンパク質の配列解析ならびに配列データ管理
GCG(Genetic Computer Group, Madison, Wisconsin, USA)のソフトウェアパッケージバージョン10.2およびInfomaxのVector NTI Advanceスイートバージョン8.0を、配列の創出、マッピング、解析、注解および図解に関して使用した。
【0075】
細胞培養技術
10% FCS(Hycloneから得られたウシ胎児血清、Thermo Fisher Scientific Inc.,カタログ番号:SH3007.03)を含むMEMα培養液(Invitrogen Corp., Gibco(登録商標)カタログ番号:22571)中で、CHO-DXB11細胞を増殖させた。2 mMグルタミン(Gibco(登録商標)、カタログ番号:25030)、1%(v/v)MEM非必須アミノ酸(Gibco(登録商標)、カタログ番号: 11140)、10%(v/v)超低量IgG FCS(Gibco(登録商標)、カタログ番号: 16250)および250μg/ml G418(Roche Applied Sciences, Roche Diagnostics GmbH, Germany, カタログ番号:1464981)を添加したDMEM中で、HEK-293-EBNA細胞(ATCC♯CRL-10852)を培養した。CHO-DG44細胞の培養のための培養液は、10%(v/v)透析FCS(Gibco(登録商標)、カタログ番号: 26400)および2%(v/v)HTサプリメント(Gibco(登録商標)、カタログ番号:41065)を添加したMEMα培養液(Gibco(登録商標)、カタログ番号:22561)であった。安定にトランスフェクトされたCHO DG44細胞株の選択のために、HTサプリメントを取り除き、20〜500 nMメトトレキサート(MTX)を単独で、または400μg/mlハイグロマイシンB(Roche Diagnostics GmbH, Roche Applied Sciences, Germany, カタログ番号:10843555001)と組み合わせて添加した。全ての細胞株を37℃で、5% CO2を含む加湿インキュベーター中で維持した。ヌクレオフェクション(Amaxa GmbH, Germany)、またはFuGENE 6(Roche Diagnostics GmbH, Roche Applied Sciences, Germany, カタログ番号:1815075)を使用するリポフェクションのいずれかによって、細胞のトランスフェクトを遂行した。
【0076】
さらに、例えば、Bonifacino, J. S., et al. (Eds) (2000) Current Protocols in Cell Biology, John Wiley and Sons, Inc.において記載されるような、標準的な細胞培養の技術を適用した。
【0077】
プロテインA-沈降法、SDS-PAGEおよびウェスタンブロット
細胞培養上清由来の免疫グロブリンをプロテインA-セファロースビーズを用いて沈降し、SDS/ポリアクリルアミドゲル電気泳動(ドデシル硫酸ナトリウム、SDS-PAGE)およびウェスタンブロッティングによって解析した。
【0078】
免疫グロブリンの沈降に関して、最大7μgの免疫グロブリンを含む細胞培養上清を、TBSバッファー(150 mM NaClを添加した50 mM TRIS/HCL, pH 7.5)、1%(v/v)Nonidet-P40(Roche Diagnostics GmbH, Roche Applied Sciences, カタログ番号:1754599)を用いて、1 mlの最終容量に希釈し、その後15μlの湿容量のプロテインA-セファロースビーズと共に一時間インキュベートした。遠心分離によってビーズを回収し、かつ1%(v/v)Nonidet P-40を含むTBS、その後2倍濃度のPBS(リン酸緩衝食塩水)、最後に100 mMクエン酸ナトリウムバッファー、pH 5で洗浄した。最終洗浄段階の後に、ビーズから上清を完全に除去した。50 mM DTT(ジチオスレイトール)を含む20μlの2倍濃度のLDS(ドデシル硫酸リチウム)サンプルバッファー(Invitrogen Corp.)を用いて、結合した免疫グロブリンを溶出した。95℃で5分間のインキュベーション後、懸濁液を遠心分離し、上清をさらなる解析のために回収した。
【0079】
SDS-PAGE:製造者の推奨に従い、NuPAGE(登録商標)ゲルシステム(Invitrogen Corp.)を使用して、SDS-PAGEを遂行した。10% NuPAGE(登録商標)Novex Bis/TRISゲル(Invitrogen Corp., カタログ番号:NP0301)上に試料を搭載し、還元性NuPAGE(登録商標)MES SDS(4-モルホリノエタンスルホン酸/ドデシル硫酸ナトリウム)泳動バッファー中でタンパク質を分離した。典型的に、Simply Blue Safe Stain(登録商標)(Invitrogen Corp.)を用いたクマシー染色に関して1レーン当り2〜3μgの免疫グロブリン、ウェスタンブロッティングに関して0.4〜0.6μgの免疫グロブリンを搭載した。
【0080】
ウェスタンブロット:SDS/ポリアクリルアミドゲルからのタンパク質の電気的移動に関して、標準的なPVDF(ポリフッ化ビニリデン)またはニトロセルロースメンブレンを使用した。電気的移動の後に、TBS(トリス緩衝生理食塩水、50 mM TRIS/HCl, pH 7.5, 150 mM NaCl)中でメンブレンを洗浄した。1%(w/v)ウェスタンブロッキング試薬(Roche Diagnostics GmbH, Roche Applied Sciences, カタログ番号:11921673001)を含むTBS中でインキュベートすることによって、非特異的結合部位をブロックした。0.5%(w/v)ウェスタンブロッキング試薬を含むTBS中で希釈されたペルオキシダーゼ結合ポリクローナル検出抗体(詳細に関しては、以下に続くパラグラフを参照のこと)を用いて、ヒト免疫グロブリンγ重鎖およびκ軽鎖を検出した。0.05%(v/v)Tween(登録商標)20を含むTBSを用いた三回の洗浄段階、およびTBSを用いた一回の洗浄段階の後、LumiLightPlus基質溶液(Roche Diagnostics GmbH, Roche Applied Sciences, カタログ番号:12015196001)、およびLUMI-Imager F1 analyzer(Roche Diagnostics GmbH, Roche Applied Sciences)を使用して、結合したペルオキシダーゼ結合検出抗体を化学発光によって検出した。
【0081】
ヒト免疫グロブリンγ重鎖(H)およびκ軽鎖(L)を、同時にまたは別個に検出した。同時検出に関して、ペルオキシダーゼ結合ヤギ抗ヒトIgG(H+L)抗体(Jackson ImmunoResearch Laboratories Inc.,カタログ番号:109-035-088)を、1:2500(v/v)の希釈で使用した。連続的な検出に関して、1:1000(v/v)の希釈でペルオキシダーゼ結合ウサギ抗ヒトIgγ抗体(DAKO GmbH, Germany, コード番号P0214)、または1:7500(v/v)の希釈でペルオキシダーゼ結合F(ab’)2ヤギ抗ヒトFcγ抗体(Jackson ImmunoResearch Laboratories, カタログ番号:109-036-008)を用いて、メンブレンを最初にプローブした。免疫グロブリンγ重鎖の検出後に、2%(w/v)SDSおよび100 mM β-メルカプトエタノールを添加した62.5 mM TRIS/HCl, pH 6.7中で、50℃で30分間メンブレンを剥離(strip)した。二回目の検出に関して、1:1000(v/v)の希釈でペルオキシダーゼ結合ウサギ抗ヒトIgκ抗体(DAKO GmbH, コード番号P0129)を用いて、メンブレンを再プローブした。
【0082】
実施例1
クラスIgG1免疫グロブリンのための発現プラスミドの調製
プラスミド4831(以下、p4831と示される)は、真核生物細胞における抗IGF-1R-抗体の発現のための発現プラスミドである(エキソン-イントロン構成を維持する、ゲノム様に構成された発現カセット)(配列に関しては、例えば米国特許第2005/0008642号または欧州特許第1 646 720号を参照のこと)。このプラスミドは、以下の機能的要素を含む:
・ベクターpUC18由来の複製起点(pUC起点)、
・大腸菌においてアンピシリン耐性を付与するβ(ベータ)-ラクタマーゼ遺伝子(Amp)、
・以下の要素を含むγ1-重鎖の発現のための発現カセット
・ヒトサイトメガロウイルス由来の主要前初期プロモーターおよびエンハンサー(hCMV IE1プロモーター)、
・コザック配列を含む合成5’UTR、
・シグナル配列のイントロン(L1_イントロン_L2)を含むマウス免疫グロブリン重鎖シグナル配列、
・3’末端のスプライスドナー部位と共に配置される重鎖可変領域(VH)のcDNA、
・マウス免疫グロブリンμ-エンハンサー領域、
・エキソンCH1、ヒンジ、CH2およびCH3、介在性イントロンならびにポリアデニル化シグナル配列を保持しかつ任意で変異を含む3’UTRを含む、ヒト免疫グロブリン重鎖γ1-遺伝子(IGHG1)、
・以下の要素を含むκ-軽鎖の発現のための発現カセット
・ヒトサイトメガロウイルス由来の主要前初期プロモーターおよびエンハンサー(hCMV IE1プロモーター)、
・コザック配列を含む合成5’UTR、
・シグナル配列のイントロン(L1_イントロン_L2)を含むマウス免疫グロブリン重鎖シグナル配列、
・3’末端のスプライスドナー部位と共に配置される軽鎖可変領域(VL)のcDNA、
・イントロンのマウスIg-κエンハンサー領域、
・IGKCエキソンおよびポリアデニル化シグナル配列を保持するIGK 3’UTRを含む、ヒト免疫グロブリンκ遺伝子(IGK)、
・以下を含む、真核生物細胞における選択に関して適切なハイグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ転写ユニット
・SV40初期プロモーターおよび起点、
・ハイグロマイシンBホスホトランスフェラーゼコード配列(HygB)
・SV40初期ポリアデニル化シグナル
・以下を含む、真核生物細胞における栄養要求性選択に関して適切な、マウスジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)の発現のための発現カセット
・SV40初期プロモーターおよび起点の短縮型バージョン、
・マウスDHFRのためのコード配列、
・SV40初期ポリアデニル化シグナル。
【0083】
p4831の注解付きプラスミドマップは、図1に示される。
【0084】
CHO-DG44細胞にP4831をトランスフェクトし、ハイグロマイシンBおよびメトトレキサート(MTX)による選択の後、安定な細胞株を単離した。選択されたクローン♯23によって分泌された抗体を、プロテインA-セファロースビーズを用いて沈降し、SDS-PAGEおよびクマシー染色によって解析した(図2a)。予測される50 kDa免疫グロブリンγ-1重鎖および25 kDa免疫グロブリンκ軽鎖に加えて、相当な量の80 kDa副産物タンパク質を検出した。このタンパク質は、抗ヒト免疫グロブリンγ鎖抗体(図2b)、および抗ヒト免疫グロブリンκ鎖抗体(図2c)によって認識された。
【0085】
実施例2
改変型CH3ドメインを含むクラスIgG1免疫グロブリンのための発現プラスミドの調製
異常にスプライシングされたγ1 mRNA前駆体に起因する副産物の生成を防ぐため、4573位のTをCに変異することによって、p4831のCH3エキソンの内在性スプライス部位を破壊した。同時に、BsmA I制限部位の除去のためにT4567をCに置換した。
【0086】
P4855を以下のように構築した。同一のγ1重鎖転写ユニットを有するp4831の祖先プラスミドであるp4817は、以下の要素から構成される:
・大腸菌においてこのプラスミドの複製を可能にするベクターpUC18由来の複製起点(pUC Ori)
・大腸菌においてアンピシリン耐性を付与するβ-ラクタマーゼ遺伝子(Amp)
・以下の要素を含むγ1-重鎖の発現のための発現カセット
・ヒトサイトメガロウイルス由来の主要前初期プロモーターおよびエンハンサー(hCMV IE1プロモーター)、
・コザック配列を含む合成5’UTR、
・シグナル配列のイントロン(L1_イントロン_L2)を含むマウス免疫グロブリン重鎖シグナル配列、
・3’末端のスプライスドナー部位と共に配置される重鎖可変領域(VH)のcDNA、
・マウス免疫グロブリンμ-エンハンサー領域、
・エキソンCH1、ヒンジ、CH2およびCH3、介在性イントロンならびにポリアデニル化シグナル配列を保持しかつ任意で変異を含む3’UTRを含む、ヒト免疫グロブリン重鎖γ1-遺伝子(IGHG1)。
【0087】
p4817のプラスミドマップは、図3に示される。
【0088】
QuickChange Site-Directed Mutagenesis Kit(Stratagene, カタログ番号:200518)ならびに配列特異的オリゴヌクレオチド1

を使用して、部位特異的突然変異誘発によりP4817を操作した。
【0089】
変異型p4817の839 bpのSfiI/SgrAI断片を切り取り、p4855を形成するために、13133 bpのp4831のSgrAI/SfiI断片にライゲーションした。
【0090】
実施例3
実施例1および2による核酸の発現、産生された免疫グロブリンの単離、ならびに産生された免疫グロブリンの解析
プラスミドp4831およびp4855を、CHO-DXB11細胞中に一過的にトランスフェクトした。この細胞を非選択的条件下で培養した。3日間の培養後、細胞培養液上清を回収し、分泌された免疫グロブリンをプロテインA-セファロースビーズを用いて精製した。抗ヒトIgG抗体(H+L)を用いた免疫グロブリンのウェスタンブロット解析によって、p4831でトランスフェクトされた細胞は80 kDaの副産物を発現するが、p4855でトランスフェクトされた細胞は発現しないことが示された(図4)。
【0091】
実施例4
クラスIgG4免疫グロブリンのための発現プラスミドの調製
プラスミド5031は、真核生物の組織培養細胞におけるヒト抗P-セレクチン抗体の、一過的でかつ安定な発現のために設計された。例示的な抗Pセレクチン抗体に関しては、例えば欧州特許第1 737 891号または米国特許第2005/0226876号を参照のこと。P5031は、以下の要素から構成される:
・大腸菌においてこのプラスミドの複製を可能にするベクターpUC18由来の複製起点(pUC起点)
・大腸菌においてアンピシリン耐性を与えるβ-ラクタマーゼ遺伝子(Amp)
・以下の要素を含むヒトγ4-重鎖の発現のための発現カセット
・ヒトサイトメガロウイルス由来の主要前初期プロモーターおよびエンハンサー(hCMV IE1プロモーター)、
・コザック配列を含む合成5’UTR、
・シグナル配列のイントロン(L1_イントロン_L2)を含むマウス免疫グロブリン重鎖シグナル配列、
・3’末端のスプライスドナー部位と共に配置される重鎖可変領域(VH)のcDNA、
・マウスIg μ-エンハンサー領域、
・エキソンCH1、ヒンジ、CH2およびCH3、介在性イントロンならびにポリアデニル化シグナル配列を保持しかつ任意で変異を含む3’UTRを含む、ヒト免疫グロブリン重鎖γ4-遺伝子(IGHG4)、
・以下の要素を含むヒトκ-軽鎖の発現のための発現カセット
・ヒトサイトメガロウイルス由来の主要前初期プロモーターおよびエンハンサー(hCMV IE1プロモーター)、
・コザック配列を含む合成5’UTR、
・シグナル配列のイントロン(L1_イントロン_L2)を含むマウス免疫グロブリン重鎖シグナル配列、
・3’末端のスプライスドナー部位と共に配置される軽鎖可変領域(VL)のcDNA、
・イントロンのマウスIg-κエンハンサー領域、
・IGKCエキソンおよびポリアデニル化シグナル配列を保持するIGK 3’UTRを含むヒト免疫グロブリンκ遺伝子(IGK)、
・以下を含む真核生物細胞における選択に関して適切なハイグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ転写ユニット
・SV40初期プロモーターおよび起点、
・ハイグロマイシンBホスホトランスフェラーゼコード配列(HygB)
・SV40初期ポリアデニル化シグナル、
・以下を含む、真核生物細胞における栄養要求性選択に関して適切な、マウスジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)の発現のための発現カセット
・SV40初期プロモーターおよび起点の短縮型バージョン、
・マウスDHFRのためのコード配列、
・SV40初期ポリアデニル化シグナル。
【0092】
p5031のプラスミドマップは、図5に示される。
【0093】
HEK-293-EBNA細胞にプラスミドp5031をトランスフェクトした際、この細胞は80 kDaの副産物を含む免疫グロブリンを産生した(図6、レーン1および2)。このタンパク質は、ウェスタンブロット解析において、抗ヒトIg γ-抗体および抗ヒトIg κ-抗体と結合した。
【0094】
実施例5
改変型CH3ドメインを含むクラスIgG4免疫グロブリンのための発現プラスミドの調製
実施例3に従って、改変を導入した。簡単に述べると、BsmAI制限部位の除去のために同様にCに置換された第二のヌクレオチドT4559と共に、T4565をCに変異した。部位特異的突然変異誘発のため、オリゴヌクレオチド3

を使用した。得られたプラスミドをp5032と命名した。
【0095】
実施例6
実施例5による核酸の発現、産生された免疫グロブリンの単離、および産生された免疫グロブリンの解析
プラスミドp5031およびp5032を、HEK-293-EBNA細胞中に一過的にトランスフェクトした。この細胞を、非選択的条件下で培養した。3日間の培養後に、細胞培養液上清を回収し、分泌された免疫グロブリンをプロテインA-セファロースビーズを用いて精製した。抗ヒトIgG-抗体(H+L)を用いた免疫グロブリンのウェスタンブロット解析によって、p5031でトランスフェクトされた細胞は、80 kDaの副産物を発現したことが示されたが(図6、レーン1+2)、一方、p5032でトランスフェクトされた細胞は、いかなる副産物も発現しなかった(図6、レーン3+4)。
【0096】
プラスミドp5032をHEK-293-EBNA細胞中にトランスフェクトした際、前記の80 kDaのタンパク質は発現されなかった(図6、レーン3および4)。これは80 kDaの融合タンパク質が、mRNA前駆体の異常なスプライシングの結果であり、かつ一過性発現の間のそのような望ましくないタンパク質の産生が、免疫グロブリン重鎖γ4遺伝子(IGHG4)の内在性CH3スプライス部位の変異によって、効率的に抑制され得ることを明確に実証する。
【0097】
IGHG4の内在性CH3スプライス部位の変異は、安定な細胞株においても前記の80 kDaの発現を妨げた。p5032をCHO-DG44細胞にトランスフェクトし、メトトレキサート(MTX)を用いてプラスミドの安定な組み込みに関して選択した。6個のクローン由来の抗体を精製し、SDS-PAGEおよびクマシー染色によって解析した(図7)。いずれの抗体も、前記の80 kDaのサブユニットは含まなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラスIgAもしくはIgGの免疫グロブリンのCH3ドメインのC末端部分のアミノ酸配列、またはクラスIgEもしくはIgMの免疫グロブリンのCH4ドメインのC末端部分のアミノ酸配列をコードする核酸であって、CH3ドメインもしくはCH4ドメインのC末端部分の前記アミノ酸配列中に含まれるジペプチド グリシン-リジンが、核酸ggaaaa、または核酸ggcaaa、または核酸gggaaa、または核酸ggaaag、または核酸ggcaag、または核酸gggaagによってコードされることを特徴とする、核酸。
【請求項2】
配列番号:1、3、4、5、6、7または8のアミノ酸配列より選択されるアミノ酸配列をコードすることを特徴とする、請求項1記載の核酸。
【請求項3】
ジペプチド グリシン-リジンをコードする核酸が、ヌクレオチドgまたはaに続くことを特徴とする、前記請求項のいずれか一項記載の核酸。
【請求項4】
ジペプチド グリシン-リジンが、核酸ggaaaa、または核酸ggcaaa、または核酸gggaaaによってコードされることを特徴とする、前記請求項のいずれか一項記載の核酸。
【請求項5】
C末端部分が、免疫グロブリン重鎖の一次アミノ酸配列の少なくとも20個のC末端アミノ酸を含むことを特徴とする、請求項1記載の核酸。
【請求項6】
クラスIgA、IgE、IgMまたはIgGの免疫グロブリン重鎖のC末端定常ドメインの一部をコードし、かつ配列番号:17、18、19、20、21、22、23、30または31の核酸より選択されることを特徴とする、請求項1記載の核酸。
【請求項7】
配列番号:17、18、19、22、23、30または31の核酸より選択されることを特徴とする、請求項6記載の核酸。
【請求項8】
配列番号:17、18、19、22または23の核酸より選択されることを特徴とする、請求項7記載の核酸。
【請求項9】
クラスIgG1またはIgG4のヒト免疫グロブリン重鎖のC末端定常ドメインの一部をコードすることを特徴とする、前記請求項のいずれか一項記載の核酸。
【請求項10】
請求項1記載の核酸を含むプラスミド。
【請求項11】
請求項1記載の核酸を含む細胞。
【請求項12】
哺乳動物細胞であることを特徴とする、請求項11記載の細胞。
【請求項13】
哺乳動物細胞が、CHO細胞、HEK細胞またはBHK細胞より選択されることを特徴とする、請求項12記載の細胞。
【請求項14】
配列番号:17、18、19、20、21、22、23、30または31のヌクレオチド配列を有する核酸。
【請求項15】
配列番号:17、18、19、22、23、30または31のヌクレオチド配列を有する、請求項14記載の核酸。
【請求項16】
配列番号:17、18、19、22または23のヌクレオチド配列を有する、請求項15記載の核酸。
【請求項17】
以下の段階を含む、哺乳動物細胞において免疫グロブリンを産生するための方法:
(a)免疫グロブリン重鎖をコードする核酸で哺乳動物細胞をトランスフェクトする段階であって、配列番号:17、18、19、20、21、22、23、30または31の核酸が、免疫グロブリン重鎖のC末端部分をコードする、段階、
(b)免疫グロブリンの発現に関して適切な条件下で、トランスフェクトされた哺乳動物細胞を培養する段階、
(c)培養液または細胞から免疫グロブリンを回収する段階。
【請求項18】
哺乳動物細胞が、免疫グロブリン重鎖をコードする発現カセットおよび免疫グロブリン軽鎖をコードする発現カセットを含む一つの核酸でトランスフェクトされることを特徴とする、請求項17記載の方法。
【請求項19】
哺乳動物細胞が二つの核酸でトランスフェクトされることを特徴とする方法であって、第一の核酸が、免疫グロブリン軽鎖をコードする発現カセットを含み、かつ第二の核酸が、免疫グロブリン重鎖をコードする発現カセットを含む、請求項17記載の方法。
【請求項20】
哺乳動物細胞をトランスフェクトする段階が、免疫グロブリン重鎖をコードする核酸を用いることを特徴とする方法であって、配列番号:17、18、19、22、23、30または31の核酸が、免疫グロブリン重鎖のC末端部分をコードする、請求項17から19のいずれか一項記載の方法。
【請求項21】
哺乳動物細胞をトランスフェクトする段階が、免疫グロブリン重鎖をコードする核酸を用いることを特徴とする方法であって、配列番号:17、18、19、22または23の核酸が、免疫グロブリン重鎖のC末端部分をコードする、請求項20記載の方法。
【請求項22】
哺乳動物細胞において免疫グロブリンの発現を改善するための方法であって、免疫グロブリン重鎖をコードする核酸が、該免疫グロブリン重鎖のCH3ドメインもしくはCH4ドメイン中に含まれるジペプチド グリシン-リジンをコードする核酸ggaaaa、または核酸ggcaaa、または核酸gggaaa、または核酸ggaaag、または核酸ggcaag、または核酸gggaagを含む、方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公表番号】特表2010−531648(P2010−531648A)
【公表日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−513747(P2010−513747)
【出願日】平成20年6月25日(2008.6.25)
【国際出願番号】PCT/EP2008/005136
【国際公開番号】WO2009/003623
【国際公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】