説明

改善された分泌効率を有する組換えタンパク質の産生方法

本発明は、改変酵母宿主細胞、例えばピキア・パストリスにおいて、より高い力価の組換えタンパク質の産生方法であって、改変酵母細胞が、同じ種の未改変酵母宿主細胞に対して、液胞選別輸送活性が不足している、又は液胞選別輸送活性が低い、当該方法に関する。特定の実施形態においては、Vps10又はVps10ホモログコードする遺伝子の欠失又は破壊によって、液胞選別輸送活性が低下又は喪失する。本発明は、本明細書に開示の方法により改変される改変酵母細胞にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2009年10月30日に出願された米国仮特許出願第61/256,379号、及び2010年6月2日に出願された米国仮特許出願第61/350,668号の利益を主張し、これらの開示全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
本発明は、酵母細胞などの真菌細胞中で、改善された分泌効率で組換えタンパク質を産生するための方法及び組成物に関する。
【0003】
電子的に提出した配列表の参照
本出願の配列表は、ファイル名「GFIMIS0004_SEQTXT_18OCT2010.TXT」、作成日2010年、サイズ861KBのASCIIフォーマットの配列表としてEFS−Webを介して電子的に提出される。EFS−Webを介して提出されるこの配列表は、本明細書の一部であり、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0004】
真核細胞中での組換えのタンパク質の発現は、FDAが規制する薬物の最も成長の大きい部分となっている生物学的療法に対して現在注目されているために、ますます重要になってきている。産生細胞がCHO系哺乳動物細胞系であっても、糖鎖工学によって得られたピキア・パストリス(Pichia pastoris)(Sethuraman and Stadheim,Curr.Opin.Biotechnol.17:341−346(2006))のいずれであっても、最大分泌力価が重要となる。タンパク質産生を増加させるための多くの試みは、組換え遺伝子のプロモーター及びコピー数に集中していたが(Daly and Hearn,J,Mol.Recognit.18:1999−38(2005))、組換えタンパク質が、小胞体(ER)からゴルジ装置への特定の経路を通過し、続いてトランスゴルジ網を通過して、最後にエキソサイトーシス小胞まで送られて、原形質膜を通過して送達される場合にのみ、効果的な分泌が実現される。組換えタンパク質が、この所望の分泌経路から外れる場合には、その収率が減少する。
【0005】
糖鎖工学によって得られた酵母は、哺乳動物細胞と比較すると、治療法の開発に関して独特の利点が得られる。例えば、哺乳動物細胞に基づくシステムのグリコシル化特性は不均一となるが(Li et al,Nat.Biotechnol.24:210−15(2006))、糖鎖工学によって得られたピキア・パストリスでは均一なグリコシル化が得られることがわかっている(Hamilton et al,Science 313:1441−43(2006))。フコースの除去(Shinkawa et al,J.Biol.Chem 278:3466−73(2003))などの哺乳動物グリコシル化の遺伝子改変は可能であるが、ほとんどのグリコフォームの選択は発酵及び/又は精製段階において行う必要があり、多くの場合で収率が限定される。酵母の遺伝子操作は容易なため、哺乳動物宿主細胞よりも、発酵及び精製から独立したタンパク質収率の改善には好都合である。
【0006】
酵母中、液胞から送出される内因性タンパク質は、プロテイナーゼによって分解される。酵母の液胞は、哺乳動物のリソソームに類似したオルガネラであり、細胞のホメオスタシスを維持するためのエンドサイトーシス、タンパク質の代謝回転、及び栄養素獲得において非常に重要である。液胞のタンパク質輸送の機構の1つは、タンパク質をトランスゴルジ網(TGN)から送達するカルボキシペプチダーゼY経路である。サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)においては、TGN中のカルボキシペプチダーゼYの初期相互作用に応答可能なタンパク質受容体は、Vps10(Pep1又はVpt1としても公知である)、Vth1、及びVth2と命名されている。S.セレビシエ(S.cerevisiae)においては、液胞に存在するプロテイナーゼを液胞前区画に送達するVps10の機能によって、液胞中でのタンパク質分解が生じる(レビューとして、Bowers and Stevens,Biochim.Biophys.Acta 1744:438−54(2005);Li and Kane,Biochim.Biophys.Acta.1983:650−663(2009),epub Aug.2008が参照される)。
【0007】
Marcussonら(Cell 77:579−586(1994))には、サッカロマイセス・セレビシエでは、Vps10は、Cpyを酵母液胞に選別輸送することが必要なことが示されている。Marcussonらは、VPS10遺伝子の変異によって、内因性Cpyの液胞タンパク質選別輸送に欠陥が生じ、その分泌に欠陥が生じることをさらに示している。しかし、VPS10の破壊及びVps10活性の喪失は、液胞酵素PrA及びPrBの選別輸送には全く影響が生じる、これらは、VPS10遺伝子がノックアウトされたS.セレビシエ株中の液胞への経路を適切に通過することも示されている。Iwakiら(Microbiology 152:1523−32(2006))は、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)中のVPS10の欠失によって、Cpyの誤選別及び分泌が生じることも示されており、Cpyを液胞に選別輸送するためにVps10が必要なことを示唆している。Vps10選別輸送受容体は、サッカロマイセス・ポンベ(Saccharomyces pombe)の場合も類似の方法でCpyを選別輸送する機能が示されている(Takegawa et al.,Curr Genet.42(5):252−9(2003);Iwaki et al,Microbiology 152(5):1523−32(2006))。
【0008】
J.Denecke(特許文献1)は、ERからのタンパク質の輸送を防止すること、及び/又は液胞選別輸送経路からER又は細胞表面に戻すことによって、タンパク質分解を制限する方法を開示している。この文献は、液胞選別輸送受容体Vps10は、タンパク質をERに戻すように改変することができ、それによって異種タンパク質発現を増加可能であることをさらに示唆している。
【0009】
Idirisら(Appl Microbiol.Biotechnol.85(3):667−77(2010),Epub 2009 Aug 11)は、プロテアーゼ欠失のみを有するA8株と比較して、PS10欠失及び8つのプロテアーゼ遺伝子欠失を含むシゾサッカロミセス・ポンベ株であるA8−vps10Δ株中でのヒト成長ホルモン(hGH)の分泌が2倍に増加することを記載している。しかし、少量のr−hGHの分泌が細胞内に貯留され、このことは、液胞蓄積経路を完全に遮断するためには、細胞内タンパク質貯留に関連する数個のVPS遺伝子を欠失させる必要があることを示唆している。
【0010】
Takegawaら(Takegawa et al.,Curr Genet.42(5):252−9(2003))は、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosacharomyces pombe)のvps10欠乏株についても記載しており、この変異体ではCpyがその成熟形態にプロセッシングされないことを示している。しかし、この研究には、vps10Δ株中の治療用異種タンパク質の発現については記載されていない。
【0011】
Agaphonovら(FEMS Yeast Research 5:1029−1035(2005))は、ハンゼヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)のVPS10遺伝子を不活性化し、ヒトウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子(uPA)の分泌の増加を観察しなかった。この研究では、VPS10欠乏株においてuPAのタンパク質分解プロセッシングの増加が観察された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許出願公開第2005/0019855号
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Sethuraman and Stadheim,Curr.Opin.Biotechnol.17:341−346(2006)
【非特許文献2】Daly and Hearn,J,Mol.Recognit.18:1999−38(2005)
【非特許文献3】Li et al,Nat.Biotechnol.24:210−15(2006)
【非特許文献4】Hamilton et al,Science 313:1441−43(2006)
【非特許文献5】Shinkawa et al,J.Biol.Chem 278:3466−73(2003)
【非特許文献6】Bowers and Stevens,Biochim.Biophys.Acta 1744:438−54(2005)
【非特許文献7】Li and Kane,Biochim.Biophys.Acta.1983:650−663(2009),epub Aug.2008
【非特許文献8】Cell 77:579−586(1994)
【非特許文献9】Microbiology 152:1523−32(2006)
【非特許文献10】Takegawa et al.,Curr Genet.42(5):252−9(2003)
【非特許文献11】Iwaki et al,Microbiology 152(5):1523−32(2006)
【非特許文献12】Appl Microbiol.Biotechnol.85(3):667−77(2010),Epub 2009 Aug 11
【非特許文献13】FEMS Yeast Research 5:1029−1035(2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
液胞選別輸送活性を喪失又は低下させることによる、真菌又は酵母細胞で産生される異種タンパク質の収率を増加させる方法の開発が非常に望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、特に、酵母又は真菌の宿主細胞における組換えタンパク質の産生方法であって、(a)遺伝子操作した酵母又は真菌の宿主細胞を、上記タンパク質をコードする発現ベクターで形質転換して、宿主細胞を産生するステップであって、遺伝子操作した酵母又は真菌細胞が、同じ種の未改変の酵母又は真菌の宿主細胞に対して、液胞選別輸送活性が不足している、又は液胞選別輸送活性が低い、当該ステップと、(b)発酵条件下で上記タンパク質の発現が誘導される条件における培地中で、形質転換した酵母又は真菌の宿主細胞を培養するステップと、(c)上記タンパク質を、形質転換した酵母又は真菌の宿主細胞又は培地から単離するステップとを含む方法に関する。本発明のこの態様のある実施形態では、酵母又は真菌の宿主細胞は、ピキア・パストリス(ピキア・パストリス)、サッカロマイセス・セレビシエ、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、サッカロマイセス・ポンベ、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、カンジダ・グラブラタ(Candida glabrata)、ピキア・スチピチス(Pichia stipitis)、デバリオマイセス・ハンセニイ(Debaryomyces hansenii)、クルイベロミセス・ラクチス(Kluyveromyces lactis)、及びハンゼヌラ・ポリモルファ(ピキア・アングスタ(Pichia angusta)としても公知である)からなる群から選択される。好ましい一実施形態では、宿主細胞はピキア(Pichia)細胞であり、特定の実施形態では宿主細胞はピキア・パストリスである。
【0016】
別の実施形態では、本発明は、酵母又は真菌の宿主細胞における組換えタンパク質の産生方法であって、(a)遺伝子操作した酵母又は真菌の宿主細胞で組換えタンパク質を発現させるステップであって、遺伝子操作した酵母又は真菌の宿主細胞が、同じ種の未改変の酵母又は真菌の宿主細胞に対して、液胞選別輸送活性が不足している、又は液胞選別輸送活性が低い、当該ステップと、(b)発酵条件下で上記タンパク質の発現が誘導される条件における培地中で、遺伝子操作した酵母又は真菌の宿主細胞を培養するステップと、(c)上記タンパク質を、酵母又は真菌の宿主細胞又は培地から単離するステップとを含む方法に関する。
【0017】
本発明の方法の特定の実施形態では、Vps10又はVps10−1などのVps10ホモログをコードする遺伝子を真菌又は酵母の細胞ゲノムから欠失させる、又は破壊することによって、液胞選別輸送活性が喪失又は低下している。
【0018】
本発明は、ピキア宿主細胞における組換えタンパク質の産生方法であって、(a)遺伝子操作したピキア細胞を、上記タンパク質をコードする発現ベクターで形質転換して、宿主細胞を産生するステップであって、遺伝子操作したピキア細胞が、同じ種の未改変ピキア細胞に対して液胞選別輸送活性が不足しているステップと、(b)上記タンパク質の発現を誘導する条件における培地中で、形質転換したピキア宿主細胞を培養するステップと、(c)上記タンパク質を、形質転換した細胞又は培地から単離するステップとを含む方法にも関する。本発明のこの態様のある実施形態では、宿主細胞はピキア・パストリス細胞である。
【0019】
本発明は、野生型ピキア・パストリス細胞に対して、液胞選別輸送活性が不足した、又は液胞選別輸送活性が低下したピキア・パストリス細胞であって、宿主細胞が、液胞タンパク質選別輸送受容体10−1(Vps10−1)、例えば配列番号20に記載のVps10−1タンパク質の機能欠失を含む、ピキア・パストリス細胞をさらに提供する。ある実施形態では、P.パストリス(P.pastoris)細胞は、グリコシル化パターンがヒト様である糖タンパク質を発現するようにさらに改変される。さらに別の実施形態では、Vps10−1をコードする遺伝子は欠失しており、Vps10−2をコードする遺伝子は無傷である(すなわち欠失していない)。
【0020】
本明細書及び添付の特許請求の範囲全体にわたって使用される場合、単数形「a」、「an」、及び「the」は、文脈が明らかに異なることを意味するのでない限り、複数への参照を含んでいる。
【0021】
本明細書及び添付の特許請求の範囲全体にわたって使用される場合、以下の定義及び略語が使用される。
【0022】
定義:
「『QRPL様』選別輸送シグナル」は、組換えタンパク質をVps10に結合させることができる液胞選別輸送シグナルを意味する。カルボキシペプチダーゼY(Cpy)においては、配列QRPL(配列番号176)がVps10に結合することで、Cpyが液胞に送られる。「QRPL様」選別輸送シグナルは、QRPL配列との相同性を有し、組換えタンパク質をVps10又はVps10ホモログに結合させることができる。「QRPL様」選別輸送シグナルの例としては、限定するものではないが、「QSFL」(配列番号179)及び「QVAF」(配列番号180)が挙げられる。
【0023】
「Vps10−1」は、配列番号20に記載のアミノ酸配列によって定義されるVps10−1タンパク質などの、ピキア・パストリス細胞における液胞選別輸送受容体10−1を意味する。当業者であれば、Vps10−1配列のわずかな変動が、そのタンパク質の機能を変化させることなく、異なるピキア・パストリス細胞系において生じ得ることを理解されよう。従って、Vps10−1を参照する場合、配列番号2に記載のタンパク質配列と、に構造的及び機能的に類似し、すなわち同等の方法での機能(例えば液胞選別輸送への関与)を有するタンパク質配列であって、配列番号20と少なくとも90%の配列同一性、より好ましくは少なくとも92%の同一性、少なくとも94%の同一性、さらにより好ましくは少なくとも96%の同一性、少なくとも98%の同一性、又は少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列を有するタンパク質配列とを含んでいる。
【0024】
「Vps10−2」は、配列番号21に記載のアミノ酸配列によって定義されるVps10−2タンパク質などの、ピキア・パストリス細胞における液胞選別輸送受容体10−2を意味する。当業者であれば、Vps10−2配列のわずかな変動が、そのタンパク質の機能を変化させることなく、異なるピキア・パストリス細胞系において生じ得ることを理解されよう。従って、Vps10−2は、配列番号21に記載のタンパク質配列と、構造的及び機能的に類似し、すなわち同等の方法での機能を有するタンパク質配列であって、配列番号21と少なくとも90%の同一性、より好ましくは少なくとも92%の同一性、少なくとも94%の同一性、さらにより好ましくは少なくとも96%の同一性又は少なくとも98%の同一性を有するアミノ酸配列を有するタンパク質配列とを含んでいる。
【0025】
本明細書において使用される場合「ホモログ」は、参照配列と構造的及び機能的類似性を共有する遺伝子又はタンパク質配列を意味する。用語「ホモログ」は、共通の祖先からの進化のために構造的に類似している異なる種における配列であるオルソログと、同じゲノム内の類似の配列であるパラログとの両方を含んでいる。
【0026】
「液胞選別輸送活性の低下」などの「タンパク質機能の低下」は、対象となる改変が行われていない同じ種の宿主細胞に対して、「改変」宿主細胞のタンパク質機能が低下していることを意味する。標準的なアッセイで測定して、未改変タンパク質に対して、改変タンパク質が少なくとも20%〜50%低い活性、特定の態様においては、少なくとも40%低い活性又は少なくとも50%低い活性を有する場合に、個別のタンパク質の機能が「低下した」と考えられる。当業者であれば、「改変宿主細胞」及び「未改変宿主細胞」の両方が、機能的に評価されるタンパク質とは関連しないさらなる変異を含むことができることは理解されよう。例えば、Vps10タンパク質機能の低下を評価する場合、Vps10の欠失を含み、BMT1の欠失をさらに含むことで、α−マンノシダーゼ耐性N−グリカンを有する糖タンパク質を有さない「改変」ピキア・パストリス宿主細胞は、Vps10欠失は含まないがBMT1欠失を含む「未改変」宿主細胞と比較される。
【0027】
「タンパク質機能の喪失」は、評価される特定のタンパク質の改変を含まない同じ種の宿主細胞に対して、「改変」宿主細胞のタンパク質機能又は活性が喪失していることを意味する。特定の実施形態では、上記改変が行われていないタンパク質に対して少なくとも90%〜99%低い活性を有する場合に、改変タンパク質の「機能が喪失」したと考えられる。特定の態様では、改変タンパク質は、標準的なアッセイで測定して、少なくとも95%低い活性、又は少なくとも99%低い活性を有する。ある態様では、改変タンパク質は、タンパク質活性又は機能を全く有さない。
【0028】
本明細書において使用される場合、用語「欠失した、又は破壊された」及び「欠失又は破壊」、或いは「機能欠失」は、ピキア・パストリスのVps10−1及びVps10−2タンパク質、サッカロマイセス・セレビシエなどの他の種のVps10ホモログ、或いは液胞選別輸送に関与し酵母細胞ゲノムから産生されるその他のタンパク質などの特定のタンパク質の活性又は機能のあらゆる破壊又は阻害を意味し、タンパク質活性が阻害されることによって、そのタンパク質は、その意図される機能を果たすことができなくなるか、或いは、上記欠失及び破壊を含まない同じ種の未改変酵母細胞と比べて、低い程度でしかその意図される機能を果たすことができなくなる。その例は、液胞選別輸送活性を抑止又は破壊することができる酵母宿主細胞であって、限定するものではないが、1)液胞選別輸送に関与する遺伝子の発現を制御する上流又は下流制御配列の欠失又は破壊、2)タンパク質活性をコードする遺伝子の変異によって、遺伝子を非機能性にすること(この場合、「変異」としては、遺伝子の欠失、置換、挿入、又は付加が挙げられ、それにより、そのコードするタンパク質によって、液胞選別輸送活性を得ることができなくなる)、3)化学的、ペプチド、又はタンパク質の阻害剤による、液胞選別輸送活性の抑止又は破壊、4)アンチセンスRNA、RNA干渉、及びsiRNAなどの核酸系発現阻害剤による、液胞選別輸送活性抑止又は破壊、5)酵素活性をコードする遺伝子の発現を制御又は調節する制御因子の発現又は活性の転写阻害剤又は阻害剤による、液胞選別輸送活性の抑止又は破壊、6)液胞の受容体を飽和させ分泌された組換えタンパク質の選別輸送を減少させる、CpyなどのVps10に結合することが知られているペプチド又はタンパク質の共発現、7)膜結合性ではない変異したVps10タンパク質、又は正常な液胞選別輸送パターンを妨害する機能を果たすドミナントネガティブなVps10タンパク質の共発現、8)Vps10結合ドメインがなくなり、液胞選別輸送が阻止される、対象の組換えタンパク質のアミノ酸配列の変異、並びに9)発現したとしても、得られるタンパク質産物が、未改変酵母細胞から得られるタンパク質と同一ではなく、機能が低下するようなあらゆる手段によって、液胞選別輸送活性を抑止又は破壊することができる酵母宿主細胞である。
【0029】
略語:
Vps10−1:液胞タンパク質選別輸送受容体1
VPS10−2:液胞タンパク質選別輸送受容体2
ScSUC2:S.セレビシエのインベルターゼ
OCH1:α−1,6−マンノシルトランスフェラーゼ
K1MNN2−2:K.ラクチス(K.lactis)のUDP−GlcNAcトランスポーター
BMT1:β−マンノース−トランスファー1(β−マンノース脱離)
BMT2:β−マンノース−トランスファー2(β−マンノース脱離)
BMT3:β−マンノース−トランスファー3(β−マンノース脱離)
BMT4:β−マンノース−トランスファー4(β−マンノース脱離)
MNN4L1:MNN4様1(電荷除去)
MmSLC35A3:UDP−GlcNAcトランスポーターのマウスホモログ
PNO1:N結合オリゴ糖のホスホマンノシル化(電荷除去)
MNN4:マンノシルトランスフェラーゼ(電荷除去)
FB53:ScMNN2リーダーに融合したMmMNS1A
TrMDS1:分泌されたT.レセイ(T.reseei)MNS1
Sh ble:ゼオシン耐性マーカー
HSAss:ヒト血清アルブミンシグナル配列
DAP2:ジペプチジルアミノペプチダーゼ
STE13:ジペプチジルアミノペプチダーゼ
CLP1:P.パストリスのセルラーゼ様タンパク質1
5−FOA:5−フルオロオロト酸
TNFRII−Fc:IgG1のFc領域に融合した腫瘍壊死因子受容体2外部ドメイン
ER:小胞体
GCSF:顆粒球コロニー刺激因子
rhGCSF:組換えヒト顆粒球コロニー刺激因子
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】pGLY5192(vps10−1ノックアウトプラスミド)及びpGLY5194(vps10−2ノックアウトプラスミド)の構造を示している。制限酵素部位及びインサートDNAを含めて、pGLY5192及びpGLY5194の作製に使用した構成要素のプラスミドマップを示している。
【図2A】rHuMetGCSFをコードしピキア・パストリスのAOX1座を標的とするプラスミドベクターpGLY5178(rhGCSF発現プラスミド)の構造を示している。制限酵素部位及びインサートDNAを含めて、pGLY5178の作製に使用した構成要素のプラスミドマップを示している。
【図2B】rHuMetGCSFをコードしピキア・パストリスAOX1座を標的とするプラスミドベクターpGLY5178(rhGCSF発現プラスミド)の構造を示している。制限酵素部位及びインサートDNAを含めて、pGLY5178の作製に使用した構成要素のプラスミドマップを示している。
【図3】pGLY3465(TNFRII−Fc発現プラスミド)の構造を示している。pGLY3465の作製に使用したプラスミドマップ、制限酵素、及びインサートDNAを記載している。
【図4A】yGLY8538、rhGCSFを発現する糖鎖工学によって得られたピキア・パストリス株yGLY8538の作製を示している。株の構築には、記載されるように、結果として得られる株が正しい遺伝子型を有するように、親株及び遺伝子変異(プラスミド又は培地の選択によって)を使用した。遺伝子型に記載される遺伝子の注釈は、発明の概要に記載している。最終株のyGLY8538は、組換えヒト顆粒球コロニー刺激因子(rhGCSF)発現株であり、これを使用して後の変異株を使用した。
【図4B】yGLY8538、rhGCSFを発現する糖鎖工学によって得られたピキア・パストリス株yGLY8538の作製を示している。株の構築には、記載されるように、結果として得られる株が正しい遺伝子型を有するように、親株及び遺伝子変異(プラスミド又は培地の選択によって)を使用した。遺伝子型に記載される遺伝子の注釈は、発明の概要に記載している。最終株のyGLY8538は、組換えヒト顆粒球コロニー刺激因子(rhGCSF)発現株であり、これを使用して後の変異株を使用した。
【図4C】yGLY8538、rhGCSFを発現する糖鎖工学によって得られたピキア・パストリス株yGLY8538の作製を示している。株の構築には、記載されるように、結果として得られる株が正しい遺伝子型を有するように、親株及び遺伝子変異(プラスミド又は培地の選択によって)を使用した。遺伝子型に記載される遺伝子の注釈は、発明の概要に記載している。最終株のyGLY8538は、組換えヒト顆粒球コロニー刺激因子(rhGCSF)発現株であり、これを使用して後の変異株を使用した。
【図4D】yGLY8538、rhGCSFを発現する糖鎖工学によって得られたピキア・パストリス株yGLY8538の作製を示している。株の構築には、記載されるように、結果として得られる株が正しい遺伝子型を有するように、親株及び遺伝子変異(プラスミド又は培地の選択によって)を使用した。遺伝子型に記載される遺伝子の注釈は、発明の概要に記載している。最終株のyGLY8538は、組換えヒト顆粒球コロニー刺激因子(rhGCSF)発現株であり、これを使用して後の変異株を使用した。
【図4E】yGLY8538、rhGCSFを発現する糖鎖工学によって得られたピキア・パストリス株yGLY8538の作製を示している。株の構築には、記載されるように、結果として得られる株が正しい遺伝子型を有するように、親株及び遺伝子変異(プラスミド又は培地の選択によって)を使用した。遺伝子型に記載される遺伝子の注釈は、発明の概要に記載している。最終株のyGLY8538は、組換えヒト顆粒球コロニー刺激因子(rhGCSF)発現株であり、これを使用して後の変異株を使用した。
【図5A】yGLY9993の作製を示している。株の構築には、記載されるように、結果として得られる株が正しい遺伝子型を有するように、親株及び遺伝子変異(プラスミド又は培地の選択によって)を使用した。遺伝子型に記載される遺伝子の注釈は、発明の概要に記載している。最終株のyGLY9992及びyGLY9993は、yGLY8292の同質遺伝子的なVps10−1変異体である。これらの株は、ゼオシン感受性であり、従ってrhGCSF及びTNFRII−Fcを含有しない。
【図5B】yGLY9993の作製を示している。株の構築には、記載されるように、結果として得られる株が正しい遺伝子型を有するように、親株及び遺伝子変異(プラスミド又は培地の選択によって)を使用した。遺伝子型に記載される遺伝子の注釈は、発明の概要に記載している。最終株のyGLY9992及びyGLY9993は、yGLY8292の同質遺伝子的なVps10−1変異体である。これらの株は、ゼオシン感受性であり、従ってrhGCSF及びTNFRII−Fcを含有しない。
【図5C】yGLY9993の作製を示している。株の構築には、記載されるように、結果として得られる株が正しい遺伝子型を有するように、親株及び遺伝子変異(プラスミド又は培地の選択によって)を使用した。遺伝子型に記載される遺伝子の注釈は、発明の概要に記載している。最終株のyGLY9992及びyGLY9993は、yGLY8292の同質遺伝子的なVps10−1変異体である。これらの株は、ゼオシン感受性であり、従ってrhGCSF及びTNFRII−Fcを含有しない。
【図5D】yGLY9993の作製を示している。株の構築には、記載されるように、結果として得られる株が正しい遺伝子型を有するように、親株及び遺伝子変異(プラスミド又は培地の選択によって)を使用した。遺伝子型に記載される遺伝子の注釈は、発明の概要に記載している。最終株のyGLY9992及びyGLY9993は、yGLY8292の同質遺伝子的なVps10−1変異体である。これらの株は、ゼオシン感受性であり、従ってrhGCSF及びTNFRII−Fcを含有しない。
【図6】yGLY8538変異株の作製を示している。rhGCSF発現株yGLY8538の遺伝子Vps10−1(yGLY9933)、Vps10−2(yGLY10566)、又はその両方(yGLY10557)を変異させた。株の構築には、yGLY8538に関連して記載されるように、結果として得られる株が正しい遺伝子型を有するように、親プラスミド及び遺伝子変異(プラスミド又は培地の選択によって)を使用した。
【図7】Vps10活性のrhGCSF力価(パネルA)及び細胞溶解(パネルB)に対する影響を示している。実施例14を参照されたい。記載のデータはSixfors(0.5L)発酵実験によって得られた。パネルA:記載の株を、同一条件下で発酵させ、無細胞上澄み液をELISAによって分析して、rhGCSF量を定量化した。それぞれのELISA値を親の対照のyGLY8538ELISA値で割ることによって、相対力価を求めた。パネルB:記載の株を同一条件下で発酵させ、無細胞上澄み液をPicoGreen(登録商標)アッセイによって分析して、二本鎖DNA量を定量化した。それぞれのPicoGreen(登録商標)dsDNA値を親の対照のyGLY8538のPicoGreen(登録商標)dsDNA値で割ることによって、相対細胞溶解値を求めた。
【図8】Vps10活性のTNFRII−Fc力価に対する影響を示している(実施例15参照)。記載のデータは、96ウェルの深型ウェル誘導プレート実験から得た。記載の株を、pGLY3465で形質転換させており、データは、少なくとも11の独立したコロニーから得られた相対力価を示している。無細胞上澄み液をELISAによって分析して、TNFRII−Fc量を相対化した。各親株のELISA値を平均し、次に親の対照のyGLY8292の平均ELISA値で割ることによって、相対力価を求めた。yGLY9992株及びyGLY9993株の両方は、vps10−1の独立した変異株である。
【図9A】ピキア・パストリスにおけるVps10活性のモデルを示している。野生型(パネルA)及びvps10−1Δ変異(パネルB)株の両方におけるVps10受容体機能の概略図である。mRNAが核内で転写された後、タンパク質ポリペプチドが翻訳され、小胞体の内腔に移動する。後期ゴルジに輸送された後、GCSFが野生型細胞中のVps10−1と相互作用する(A)。Vps10−1は、細胞質尾部を介して、ゴルジから液胞前区画(PVC)に循環され、そこでGCSFが受容体から分離する。Vps10−1は循環してゴルジに戻り、PVC中のGCSFは液胞に移動し、タンパク質分解によって分解するのに対し、変異細胞においては(B)、Vps10−1タンパク質がないため、より多くのGCSFが培養上澄み分画に分泌される。
【図9B】ピキア・パストリスにおけるVps10活性のモデルを示している。野生型(パネルA)及びvps10−1Δ変異(パネルB)株の両方におけるVps10受容体機能の概略図である。mRNAが核内で転写された後、タンパク質ポリペプチドが翻訳され、小胞体の内腔に移動する。後期ゴルジに輸送された後、GCSFが野生型細胞中のVps10−1と相互作用する(A)。Vps10−1は、細胞質尾部を介して、ゴルジから液胞前区画(PVC)に循環され、そこでGCSFが受容体から分離する。Vps10−1は循環してゴルジに戻り、PVC中のGCSFは液胞に移動し、タンパク質分解によって分解するのに対し、変異細胞においては(B)、Vps10−1タンパク質がないため、より多くのGCSFが培養上澄み分画に分泌される。
【図10】実施例に記載されるプラスミドの作製に使用したプライマーの配列の一覧である(配列番号1〜13)。
【図11】実施例において使用したプラスミド(パネルA)及び株(パネルB)の一覧である。
【図12】S.セレビシエのVps10と比較した場合の真菌Vps10ホモログ間の長さ、パーセント類似性、及びパーセント同一性の比較を示している。
【図13A】上流相同フラグメント、プロモーター、オープンリーディングフレーム(ヌクレオチド1610〜6238)、及び下流相同フラグメントを含むピキア・パストリスのVps10−1領域のヌクレオチド配列(配列番号14)を示している。
【図13B】上流相同フラグメント、プロモーター、オープンリーディングフレーム(ヌクレオチド1610〜6238)、及び下流相同フラグメントを含むピキア・パストリスのVps10−1領域のヌクレオチド配列(配列番号14)を示している。
【図13C】上流相同フラグメント、プロモーター、オープンリーディングフレーム(ヌクレオチド1610〜6238)、及び下流相同フラグメントを含むピキア・パストリスのVps10−1領域のヌクレオチド配列(配列番号14)を示している。
【図13D】上流相同フラグメント、プロモーター、オープンリーディングフレーム(ヌクレオチド1610〜6238)、及び下流相同フラグメントを含むピキア・パストリスのVps10−1領域のヌクレオチド配列(配列番号14)を示している。
【図13E】上流相同フラグメント、プロモーター、オープンリーディングフレーム(ヌクレオチド1610〜6238)、及び下流相同フラグメントを含むピキア・パストリスのVps10−1領域のヌクレオチド配列(配列番号14)を示している。
【図14A】上流相同フラグメント、プロモーター、オープンリーディングフレーム(ヌクレオチド830〜4509)、及び下流相同フラグメントを含めたピキア・パストリスのVPS10−2領域のヌクレオチド配列(配列番号15)を示している。
【図14B】上流相同フラグメント、プロモーター、オープンリーディングフレーム(ヌクレオチド830〜4509)、及び下流相同フラグメントを含めたピキア・パストリスのVPS10−2領域のヌクレオチド配列(配列番号15)を示している。
【図14C】上流相同フラグメント、プロモーター、オープンリーディングフレーム(ヌクレオチド830〜4509)、及び下流相同フラグメントを含めたピキア・パストリスのVPS10−2領域のヌクレオチド配列(配列番号15)を示している。
【図14D】上流相同フラグメント、プロモーター、オープンリーディングフレーム(ヌクレオチド830〜4509)、及び下流相同フラグメントを含めたピキア・パストリスのVPS10−2領域のヌクレオチド配列(配列番号15)を示している。
【図15】P.パストリスのVps10−1のアミノ酸配列(配列番号20)を示している。
【図16】P.パストリスのVps10−2のアミノ酸配列(配列番号21)を示している。
【図17】S.セレビシエのVps10のアミノ酸配列(Pep1又はVpt1としても公知である、配列番号22)を示している。
【図18】アスペルギルス・ニガーVのps10のアミノ酸配列(配列番号26)を示している。
【図19】サッカロマイセス・ポンベのVps10のアミノ酸配列(配列番号27)を示している。
【図20】カンジダ・アルビカンスのVps10のアミノ酸配列(配列番号28)を示している。
【図21】カンジダ・グラブラタのVps10のアミノ酸配列(配列番号29)を示している。
【図22】ピキア・スチピチスのVps10のアミノ酸配列(配列番号30)を示している。
【図23】デバリオマイセス・ハンセニイのVps10のアミノ酸配列(配列番号181)を示している。
【図24】クルイベロミセス・ラクチスのVps10のアミノ酸配列(配列番号182)を示している。
【図25】CPY液胞選別輸送経路に関連するタンパク質のアミノ酸配列の配列番号を示している。
【図26】Vps10のPVCから後期ゴルジへの再循環に関連するタンパク質のアミノ酸配列の配列番号を示している。
【図27】適切なMVB機能及び/又は液胞への融合に関連するタンパク質のアミノ酸配列の配列番号を示している。
【図28】未知の機構を介した適切なCpy液胞ターゲッティングに関連するタンパク質のアミノ酸配列の配列番号を示している。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明は、特に、同じ種の未改変の酵母又は真菌の宿主細胞に対して、液胞選別輸送活性が不足している、又は液胞選別輸送活性が低い、遺伝子操作した酵母又は真菌の宿主細胞における組換えタンパク質の産生方法であって、酵母又は真菌細胞が、サッカロマイセス・セレビシエのVps10、又は限定するものではないがピキア・パストリスのVps10−1などのVps10ホモログの機能が喪失されるように改変される、産生方法を提供する。本発明のある実施形態では、酵母又は真菌細胞は、後述のように、Vps10又はVps10ホモログをコードする遺伝子が欠失又は破壊されるように改変される。
【0032】
真核細胞における組換えタンパク質の効率的で高収率の発現は、多くの生物学的治療用産物の開発において重要である。治療用タンパク質の商業的開発に必要となる高収率のタンパク質を実現するためには、タンパク質の最大分泌力価が得られることが重要である。S.セレビシエの分泌経路は、解明された多数の遺伝子機能によって十分に特性決定されている。mRNA分子が翻訳され、タンパク質がER内腔に入った後、アスパラギン結合グリカン(N結合)、セリン/スレオニン結合マンノース(O結合)の付加、ER内在シャペロンに支援される折りたたみ、ジスルフィド結合の形成、ERから逆方向への移動、カーゴレセプターへの結合、COPII小胞を介したゴルジへの輸送などの多数のプロセスが、そのタンパク質に対して起こる。
【0033】
本発明の目的の1つは、発酵条件での酵母細胞培養などの酵母細胞培養において異種発現した治療用タンパク質の力価を増加させることである。エキソサイトーシスによる異種発現したタンパク質の分泌は、液胞への代替輸送により悪影響が生じる。組換えタンパク質の液胞選別輸送によって、上澄み分画中の分泌収率が低下し得る。酵母又は真菌細胞で発現される組換えタンパク質の分泌を増加させる方法を開発するために、本発明者らは最初に、組換えタンパク質を液胞に向かわせることができる可能性のある3つの代替輸送経路:(1)細胞質から液胞へのターゲッティング(CVT)、(2)アルカリホスファターゼ経路(ALP)(Piper et al.J Cell Biol 138:531−45(1997))、及び(3)カルボキシペプチダーゼY(CPY)経路(Marcusson et al.,前出、及びCooper & Stevens,J Cell Biol 133:529−41(1996))の改良を考慮した。CVTは、特定の種類のオートファジーの1つであり、それによって、正常な細胞機能では、液胞内在タンパク質が細胞質から、タンパク質合成の後、液胞に向かう。しかし、この経路は、分泌経路に向かう組換えタンパク質とは典型的には相互作用せず、従って、タンパク質収率を増加させる可能性は見られなかった。ALP経路は、膜結合ALP基質のカルボキシ末端細胞質ドメインにおける特定のシグナリング相互作用によって、ゴルジ中のアルカリホスファターゼなどの膜結合タンパク質を液胞まで輸送する。この経路は、典型的には組換え治療用タンパク質ではない膜貫通タンパク質を液胞に選別輸送するだけであるので、治療用タンパク質産物の分泌収率を増加させる機構にもならなかった。
【0034】
サッカロマイセス・セレビシエにおける第3の代替選別輸送機構であるCPY経路は、プロカルボキシペプチダーゼy(プロCpy、Prc1としても公知である)は、後期ゴルジ中の液胞タンパク質選別輸送受容体のVps10(Pep1又はVpt1としても公知である)と相互作用することによるプロセスである。Vps10のカルボキシ末端細胞質ドメインを有する多数のタンパク質によって媒介される小胞輸送によって、プロCpyは、液胞前複合体(PVC)と呼ばれる(多胞体(MVB)としても公知である)中間区画に向かう。PVC中のVps10からプロCpyが分離した後、Vps10は、特定のグループのタンパク質によって後期ゴルジに再循環される。次に、プロCpyを含有するPVC小胞は液胞に輸送され、さらなるタンパク質成分との融合が起こる。次に、プロCpyは液胞中で成熟して活性Cpyになり、選別輸送は完了する。最初に考慮した3つの経路の中では、CPY経路が、可溶性分泌組換えタンパク質に対して最も妥当である。分泌経路における組換えタンパク質は、後期ゴルジに輸送されてからエキソサイトーシスが起こるため、それらのタンパク質はVps10と相互作用する可能性がある。組換えタンパク質がVps10に結合する配列を含有すれば、その組換えタンパク質はCPY経路によって液胞又はリソソームに選別輸送され、おそらくはプロテアーゼによって分解され、そのため分泌速度が低下し、力価が限定される。本発明者らは、この経路による液胞選別輸送をなくすことによって、より多くの組換えタンパク質をエキソサイトーシスにより分泌することができ、それによって細胞の生産性を増加させることができるとの仮説を立てた。
【0035】
S.セレビシエにおける内因性タンパク質に関する分泌経路に関しては多くが知られているが、本発明の前には、異種発現された組換え治療用タンパク質の力価が、発酵条件でVps10酵母変異体が異種タンパク質をコードする遺伝子を発現することによって改善できるかどうかは知られていなかった。ピキア細胞におけるVps10ホモログの機能欠失によって、細胞中の発現ベクターに含まれる遺伝子がコードする組換えタンパク質の分泌を増加できるかどうかも知られていなかった。
【0036】
この目的のため、本発明の実施形態は、酵母における組換えタンパク質発現の主要なボトルネックの確認に関する。前述したように、サッカロマイセス・セレビシエでは、Vps10が、プロCpyの結合、及びそのタンパク質の液胞への局在化の原因となる。VPS10遺伝子2つのホモログがピキア・パストリスにおいて同定され、Vps10−1及びVPS10−2と名付けられた。これら2つの座vps10−1及びvps10−2のヌル変異体を作製するためのベクターを構築した。プラスミドをP.パストリス中で形質転換させて、これらの遺伝子のヌル変異体を作製した。vps10−1の遺伝的変異体は、rh−GCSF及びTNFRII−Fcの分泌増加を示した。vps10−2ノックアウト株では、rhGCSFの分泌が増加せず、このため、この株ではTNFRII−Fc分泌の試験は行わなかった。本発明者らのデータは、rhGCSF及びTNFRII−Fcの両方が、ピキア・パストリスのトランスゴルジ網(TGN)中のVps10−1に結合することよって、液胞に輸送されて分解されることを示している。従って、本発明では、ピキア宿主細胞にいて、組換え発現タンパク質の一部は、正しい分泌経路から別の経路に移り、Vps10相互作用によって酵母液胞に輸送されることを示している(Marcusson et al.,Cell 77:579−86(1994))。タンパク質が液胞又はリソソームに選別輸送されると、それらは分泌経路から離れて、プロテアーゼによって分解し、それによって組換えタンパク質の分泌速度が低下する。CPY経路を介した液胞選別輸送をなくすことによって、より多くの組換えタンパク質がエキソサイトーシスによって分泌され、それによって細胞の生産性が増加することを本明細書で示している。
【0037】
本発明の実施形態によると、ピキア・パストリスのVPS10ホモログであるVPS10−1の遺伝子不活性化によって、組換えhGCSF及びTNFRII−Fcの培地中への分泌の顕著な増加が示された。GCSF及びTNFRII−Fcのアミノ酸配列が公知であることから、これらのタンパク質のアミノ末端不均の配列が、「QRPL」共通Vps10結合配列に対して高い相同性を有することを同定した(実施例13、van Voorst et al.,J.Biol.Chem.271:841−6(1996)参照)。さらに、これらのタンパク質について報告される結晶構造(Hilletal.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:5167−71(1993)、Tamada et al Proc.Acad.Sci.USA 103:3135−40(2006))から、これらが表面露出ペプチドを含有することが示された。これらの観察から本明細書に記載の方法が開発され、その方法では、液胞タンパク質選別輸送受容体Vps10に結合する「QRPL」様配列を含む組換えタンパク質の分泌速度は、選択した宿主細胞中のVPS10又はVPS10ホモログの遺伝子変異によって改善できる。
【0038】
従って、本発明の実施形態は、酵母宿主細胞における組換えタンパク質の産生方法であって、(a)遺伝子操作した真菌又は酵母の宿主細胞を、上記タンパク質をコードする発現ベクターで形質転換して、宿主細胞を産生するステップであって、遺伝子操作した真菌又は酵母細胞が、同じ種の未改変の真菌又は酵母の宿主細胞に対して、液胞選別輸送活性が不足している、又は液胞選別輸送活性が低い、当該ステップと、(b)発酵条件下で上記タンパク質の発現が誘導される条件における培地中で、形質転換した宿主細胞を培養するステップと、(c)上記タンパク質を形質転換した宿主細胞又は培地から単離するステップとを含む方法を提供する。
【0039】
本発明は、酵母又は真菌の宿主細胞における組換えタンパク質の産生方法であって、(a)遺伝子操作した酵母又は真菌の宿主細胞で組換えタンパク質を発現させるステップであって、遺伝子操作した酵母又は真菌の宿主細胞が、同じ種の未改変の酵母又は真菌の宿主細胞に対して、液胞選別輸送活性が不足している、又は液胞選別輸送活性が低い、当該ステップと、(b)発酵条件下で上記タンパク質の発現が誘導される条件における培地中で、遺伝子操作した酵母又は真菌の宿主細胞を培養するステップと、(c)上記タンパク質を、酵母又は真菌の宿主細胞又は培地から単離するステップとを含む方法も提供する。
【0040】
上記の本発明の方法のある実施形態では、宿主細胞は酵母細胞である。特定の実施形態では、宿主細胞は、ピキア・パストリスなどのピキア細胞である。
【0041】
本発明は、ピキア宿主細胞における組換えタンパク質の産生方法であって、(a)遺伝子操作したピキア細胞を、上記タンパク質をコードする発現ベクターで形質転換して、宿主細胞を産生するステップであって、遺伝子操作したピキア細胞が、同じ種の未改変ピキア細胞に対して、液胞選別輸送活性が不足している、又は液胞選別輸送活性が低い、当該ステップと、(b)上記タンパク質の発現が誘導される条件における培地中で、形質転換したピキア宿主細胞を培養するステップと、(c)上記タンパク質を、形質転換した宿主細胞又は培地から単離するステップとを含む方法をさらに提供する。
【0042】
本発明のこの態様の特定の実施形態では、宿主細胞はピキア・パストリス細胞である。
【0043】
前述の本発明の方法によると、Vps10又はVps10タンパク質ホモログをコードする遺伝子の遺伝子欠失又は破壊によって、選択された宿主細胞の液胞選別輸送活性を喪失又は減少させる。本発明のこの実施形態では、Vps10タンパク質ホモログは、例えば、公知のVps10又は公知のVps10タンパク質ホモログ配列を使用し、翻訳ヌクレオチドデータベース中の類似のタンパク質を検索するTBLASTNなどのコンピューター検索プログラムを使用して、適切な酵母又は真菌のゲノムを検索することによって、所望の宿主細胞において同定される(実施例3参照)。当業者であれば、S.セレビシエのVPS10の公知の配列に基づいてPCRプライマー又はDNAプローブを設計して、所望の宿主のDNAを含むDNAライブラリーをスクリーニングすることによって、所望の宿主細胞におけるVPS10遺伝子ホモログを同定することもできる。S.セレビシエのVps10のアミノ酸配列を図17に示している(配列番号22)。Vps10タンパク質ホモログが所望の宿主細胞において同定されれば、本明細書に記載のようにVPS10遺伝子ホモログの欠失又は破壊によって、その宿主細胞の液胞選別輸送活性を機能的に欠失させることができる。
【0044】
Vps10ホモログである多数の従来公知の配列を本明細書に提供しており、P.パストリスの場合は図15及び16((Vps10−1及びVps10−2、それぞれ配列番号20及び21)、アスペルギルス・ニガーの場合は図18(配列番号26)、サッカロマイセス・ポンベの場合は図1(配列番号27)、カンジダ・アルビカンスの場合は図20(配列番号28)、カンジダ・グラブラタの場合は図21(配列番号29)、ピキア・スチピチスの場合は図22(配列番号30)、デバリオマイセス・ハンセニイの場合は図23(配列番号181)、クルイベロミセス・ラクチスの場合は図24(配列番号182)に示している。従って、液胞選別輸送活性が不足した宿主細胞を得るために、これらのいずれかの配列で適切な宿主細胞で欠失又は破壊を生じさせることができる。本発明の方法において上記宿主細胞を使用することで、組換えタンパク質産物の量が多くなると推測される。
【0045】
さらに、Vps10と相同であるS.セレビシエ中の他の遺伝子が、類似の機能を果たす場合があり、従って、液胞選別輸送活性を低下させ、異種タンパク質収率を増加させるために、それらを本発明により欠失させたり又は破壊することができる。例えば、S.セレビシエのVth1p(配列番号23)、S.セレビシエのVth2p(配列番号24)、及びS.セレビシエのYNR065C(配列番号25))は、Vps10と相同であり、Vps10と類似の方法で機能すると考えられる。
【0046】
所望の宿主細胞中のVPS10又はVPS10遺伝子ホモログの遺伝子不活性化は、相同組換えを使用してVps10オープンリーディングフレーム(ORF)を欠失させることで行うことができる。或いは、VPS10遺伝子又はVPS10遺伝子ホモログは機能欠失を含むこともでき、その場合、完全なORFは欠失しないが、別の変異が存在するために、Vps10、1コドン欠失、点突然変異、及び置換などのVPS10遺伝子又はホモログの部分欠失などのVps10の機能の抑止又は破壊が生じる。Vps10の機能を抑止するために使用できる他の方法としては、限定するものではないが、液胞選別輸送に関与する遺伝子の発現を制御する上流又は下流制御配列の欠失又は破壊、2)化学的、ペプチド、又はタンパク質阻害剤による液胞選別輸送活性の抑止又は破壊、3)アンチセンスRNA、RNA干渉、又はsiRNAなどの核酸系発現阻害剤による、液胞選別輸送活性の抑止又は破壊、並びに4)酵素活性をコードする遺伝子の発現を制御又は調節する制御因子の発現又は活性の転写阻害剤又は阻害剤による、液胞選別輸送活性の抑止又は破壊が挙げられる。
【0047】
例えば、液胞選別輸送活性が不足した酵母細胞において組換えタンパク質hGCSF及びTNFRII−Fcの分泌を増加させる方法を本明細書に示しているが、液胞選別輸送活性が不足又は低下した遺伝子操作した真菌の又は酵母宿主細胞を使用して、本発明の方法によって、あらゆる組換えタンパク質の量を、野生型細胞で産生される組換えタンパク質の量よりも多くすることができることは、当業者であれば理解されよう。「QRPL」共通Vps10結合配列に相同なアミノ酸配列を含む組換えタンパク質は、宿主細胞のVps10に結合できるため、液胞への別の輸送が行われ、最終的にはタンパク質収率が低下する。実施例13で考察されるように、van Voorst及び共同研究者(J Biol Chem 271:841−6(1996))は、アミノ末端付近のCpy「QRPL」ペプチドの突然変異生成を行うことで、液胞選別輸送の効率のための配列保存の必要条件を求めた。これらの分析によって、Gln24の位置以外では、Vps10との相互作用に影響が生じたり誤選別が生じたりすることなく、多重置換を発生させることができることがわかった。従って、宿主細胞中のVps10と相互作用して、収率を低下させるために、組換えタンパク質がQRPL共通配列と完全に相同である必要はない。さらに、S.セレビシエの液胞選別輸送受容体Vps10は、「QRPL様」選別輸送ドメインが関与しない未知の機構で、大腸菌β−ラクタマーゼなどの組換えタンパク質と相互作用することが示されている(Holkeri and Makarow,FEBS Lett 429:162−6(1998))。所望の宿主細胞中のVps10又はVps10ホモログと相互作用する組換えタンパク質は幅広い可能性を有するため、本発明の実施形態は、Vps10の不活性化又は機能欠失によって、治療用又は生物学的なタンパク質産物などの広範囲な組換えタンパク質の組換え収率を増加させる幅広い方法を提供する。
【0048】
当業者であれば、所望のタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む発現ベクターを使用して、野生型の酵母又は真菌の宿主細胞と、機能的なVps10タンパク質活性が不足した同じ種の宿主細胞とを形質転換し、例えばELISAアッセイ、ウエスタンブロット、機能活性アッセイ、又はあらゆる他の標準的なタンパク質検出アッセイによってタンパク質の発現を試験することによって、タンパク質力価の増加を容易に試験することができる。
【0049】
本発明のこの実施形態の特定の態様では、Vps10、及び/又はP.パストリスのVps10−1などのVps10ホモログタンパク質の局在性を、後期ゴルジ中でのそれらの作用部位に変化させることによって、所望の宿主細胞の液胞選別輸送活性を喪失させたり低下させたりする。S.セレビシエでは、タンパク質のカルボキシ末端における細胞質尾部のタンパク質−タンパク質相互作用によって、Vps10が後期ゴルジに局在化することが知られている(Jorgensen et al,Eur J Biochem 260:461−9(1999);Cereghino et al,Mol Biol Cell 6:1089−102(1995);Cooper et al,J Cell Biol 133:529−41,(1996);Dennes et al.,J Biol Chem 277:12288−93(2002))。従って、本発明によると、Vps10細胞質尾部中の1つのアミノ酸の変異及び/又は欠失によって喪失させて、Vps10の局在性を変化させ、組換えタンパク質の液胞への選別輸送を抑制することによって、液胞選別輸送活性を喪失させることができる。
【0050】
従って、本発明のこの実施形態は、酵母又は真菌の宿主細胞における組換えタンパク質の産生方法であって、(a)遺伝子操作した酵母又は真菌の宿主細胞を、上記タンパク質をコードする発現ベクターで形質転換して、宿主細胞を産生するステップであって、遺伝子操作した酵母又は真菌細胞が、同じ種の未改変の酵母又は真菌の宿主細胞に対して、液胞選別輸送活性が不足している、又は液胞選別輸送活性が低く、遺伝子操作した宿主細胞が、Vps10細胞質ドメインの変化を含み、それによってその正常な輸送パターンが変化するステップと、(b)タンパク質の発現が誘導される条件下の培地中で形質転換した宿主細胞を培養するステップと、(c)上記タンパク質を形質転換した宿主細胞又は培地から単離するステップとを含む方法に関する。
【0051】
本発明のさらに別の実施形態では、CPY液胞選別輸送経路に関連するタンパク質をコードする1つ以上の遺伝子、例えば、Gga1、Gga2(Dell’Angelica et al.,J Cell Biol 149:81−94(2000))、Mvpl(Bonangelino et al,Mol Biol Cell 13:2486−501(2002))、Pepl2(Robinson et al,Mol Cell Biol 8:4936−48(1988))、Vps1、Vps8、Vps9、Vps10、Vps15、Vps21(Robinson et al.,前出)、Vps19(Weisman,L.S.& Wickner,W.J Biol Chem 267:618−23(1992))、Vps34(Schu et al,Science 260:88−91(1993))、Vps38(Rothman et al,Embo J 8:2057−65(1989))、Vps45(Bryant et al,Eur J Cell Biol 76:43−52(1998))、及びVti1(von Mollard et al.,J Cell Biol 137:1511−24(1997))を機能的に欠失させる遺伝子変異によって、宿主細胞の液胞選別輸送活性を低下又は喪失させる。CPY液胞選別輸送経路に関連するタンパク質のアミノ酸配列を本明細書に示している(図25参照)。
【0052】
本発明のさらなる実施形態では、Grd19(Hettema et al.Embo J 22:548−57(2003))、Rgp1、Ric1(Bonangelino et al.Mol Biol Cell 13:2486−501(2002))、Vps5、Vpsl7、Vps26(Robinson et al.,Mol Cell Biol 8:4936−48(1988))、Vps29(Rothman et al.,Embo J 8:2057−65(1989))、Vps30、Vps35(Robinson et al.,前出)、Vps51(Conibear et al.,Mol Biol Cell 14:1610−23(2003))、Vps52、Vps53、及びVps54(Conibear et al、Mol Biol Cell 11:305−23(2000))などの、PVCから後期ゴルジへのVps10の再循環に関連するタンパク質をコードする1つ以上の遺伝子を機能的に欠失させる遺伝子変異によって、宿主細胞の液胞選別輸送活性を低下又は喪失させる(Seaman et al.,Cell Biol 137:79−92,(1997);Muliins et al.Bioessays 23:333−43(2001))。Vps10の再循環に関連するタンパク質のアミノ酸配列を本明細書に示している(図26参照)。
【0053】
さらなる実施形態では、Ccz1(Kucharczyk et al.,J Cell Sci 113 Pt23:4301−11(2000))、Fab1(Yamamoto et al.,Mol Biol Cell 6:525−39(1995))、Hse1(Bilodeau et al.,J Cell Biol 163:237−43(2003))、Mrl1(Bonangelino et al.,Mol Biol Cell 13:2486−501(2002))、Vam3(Nichols et al.,Nature 387:199−202(1997))、Vps2、Vps3、Vps4(Robinson et al.,前出)、Vps11(Rothman et al.,前出)、Vps13、Vpsl6、Vpsl8(Robinson et al.,前出)、Vps20(Yeo et al.,J Cell Sci 116:3957−70(2003))、Vps22、Vps23、Vps24、Vps25、Vps27、Vps28、Vps31、Vps32、Vps33、Vps36(Robinson et al.,前出)、Vps37、Vps39(Rothman et al.,前出)、Vps41(Nakamura et al.,J Biol Chem 272:11344−9(1997))、Vps43(Sato et al.,Mol Cell Biol 18:5308−19(1998))、Vps44(Bowers et al.,Mol Biol Cell 11:4277−94(2000))、Vps46(Amerik et al.,Mol Biol Cell 11:3365−80(2000))、Vtal(Yeo et al.,前出)、及びYpt7(Tsukada et al.,J Cell Sci 109(Pt 10):2471−81(1996))などの、適切なMVB機能及び/又は液胞への融合に関連するタンパク質をコードする遺伝子を遺伝的に欠失させる遺伝子変異によって、宿主細胞の液胞選別輸送活性を低下又は喪失させる。適切なMVB機能及び/又は液胞への融合に関連するタンパク質のアミノ酸配列を本明細書に示している(図27参照)。
【0054】
本明細書に記載の方法の別の実施形態では、Vps61、Vps62、Vps63、Vps64、Vps65、Vps66、Vps68、Vps69、Vps70、Vps71、Vps72、Vps73、Vps74、及びVps75(Bonangelino et al.,Mol Biol Cell 13:2486−501(2002))などの、未知の機構による適切なCpy液胞ターゲッティングに必要なタンパク質をコードする1つ以上の遺伝子を、機能的に欠失させる遺伝子変異によって、宿主細胞の液胞選別輸送活性を低下又は喪失させる。未知の機構による適切なCpy液胞ターゲッティングに関連するタンパク質のアミノ酸配列を本明細書に示している(図28参照)。
【0055】
本発明は、液胞選別輸送活性を喪失又は低下させることによって酵母細胞で産生される異種タンパク質の収率を増加させる方法であって、液胞選別輸送活性が、化学的、ペプチド、又はタンパク質阻害剤によって抑止又は破壊される方法にも関する。本発明のこの態様では、Vps10、Vps10−1又はVps10の他のホモログを妨害するペプチド阻害剤を利用することができ、例えば、Pro−Cpyのペプチドを発現させながら、対象の異種タンパク質を発現させることができる。Pro−Cpyペプチドは、Vps10−1に結合して飽和させることによって、異種タンパク質の結合を妨害する。化学的阻害剤も、液胞選別輸送活性を抑止するために有用である。本発明のこの態様の好ましい実施形態では、化学的阻害剤は、ソーチン(sortin)と呼ばれる小さな化学的阻害剤である。ソーチン類は、植物及び酵母のタンパク質の液胞送達に干渉することが知られている(Norambuena et al.,BMC Chem Biol 8:1(2008);Zouhar et al.,Proc Natl AcadSci USA 101:9497−501(2004))。本発明によると、ソーチン類は酵母の発酵中などの細胞培養に加えられ、それによって液胞選別輸送及び分解がなくなることで、対象の異種タンパク質の収率が増加する。治療用タンパク質の産生にこの方法を使用する場合、後に、精製した組換えタンパク質からソーチンを除去すべきであることは、当業者には理解されよう。
【0056】
本発明は、異種タンパク質産物の収率を増加させる方法であって、異種タンパク質がVps10結合部位を含み、S.セレビシエのVps10、又はP.パストリスのVps10−1などのVps10ホモログへのタンパク質の結合を防止する改変を異種タンパク質のアミノ酸配列に対して導入するステップを含む方法にさらに関する。実施例13に記載されるように、選別輸送ペプチドが表面に露出している場合、「QRPL様」選別輸送シグナルを含む組換えタンパク質がVps10に結合し、その組換えタンパク質が酵母液胞に輸送されると考えられる。前述の液胞選別輸送活性を喪失させるための従来方法としては、Vps10又はVps10ホモログをコードする遺伝子の遺伝子不活性化を介してVps10を標的にする方法が挙げられる。本明細書に記載の別の実施形態では、組換えタンパク質、又はその組換えタンパク質自体をコードする遺伝子は、Vps10又はVps10−1などのVps10ホモログへの結合を妨害するように変異させる。van Voorstら(J.Biol.Chem.271:841−6(1996)による論文と一致するが、Gln−Arg−Pro−Leu(配列番号176)Vps10選別輸送シグナルのGln残基は、Vps10相互作用にこの残基が必要となるため、本発明のこの実施形態における破壊の標的となる。
【0057】
従って、本発明は、「QRPL様」選別輸送シグナルを含む改変された組換えタンパク質であって、「QRPL様」選別輸送シグナルのQ残基が、欠失又は置換のいずれかによって改変される組換えタンパク質にも関する。
【0058】
別の態様では、本発明は、QRPL様選別輸送シグナルを含む改変組換えタンパク質を、未改変タンパク質よりも多量に産生する方法であって、(1)上記タンパク質の発現に好都合な条件下の培地中で、酵母又は真菌の宿主細胞に、上記タンパク質をコードする改変ヌクレオチド配列を発現させるステップであって、上記ヌクレオチド配列を、組換えタンパク質のQRPL様選別輸送シグナルが機能しなくなるように変異させるステップと、(2)上記タンパク質を宿主細胞又は培地から単離するステップとを含む方法に関する。
【0059】
本発明の方法に使用される遺伝子操作した宿主細胞を作製するために、基本的にはあらゆる真菌株又は酵母株を使用することができる。液胞選別輸送活性の不活性化によって、例えば、Vps10又はVps10ホモログの機能的欠失によって、例えばVps10又はVps10タンパク質ホモログをコードする遺伝子の欠失又は破壊によって、前記遺伝子操作した宿主細胞が改変される。
【0060】
本発明の方法に有用な酵母宿主細胞としては、限定するものではないが、ピキア・パストリス、サッカロマイセス・セレビシエ、サッカロマイセス・ポンベ、カンジダ・アルビカンス、カンジダ・グラブラタ、ピキア・スチピチス、ハンゼヌラ・ポリモルファ、クルイベロマイセス・フラジリス(Kluyvermyces fragilis)、クルイベロマイセス(Kluyveromyces)属、クルイベロマイセス・ラクティス(Kluveromyces lactis)、シゾサッカロミセス・ポンベ、ピキア・フィンランディカ(Pichia finlandica)、ピキア・トレハロフィラ(Pichia trehalophila)、ピキア・コクラマエ(Pichia koclamae)、ピキア・サーモトレランス(Pichia thermotolerans)、ピキア・サリクタリア(Pichia salictaria)、ピキア・ミヌタ(Pichia minuta)(オガタエア・ミヌタ(Ogataea minuta)、ピキア・リンドネリ(Pichia lindneri))、ピキア・グエルキューム(Pichia guercuum)、ピキア・ピジペリ(Pichia pijperi)、ピキア属、サッカロマイセス属、ピキア・メンブラナファシエンス(Pichia membranaefaciens)、ピキア・オプンティアエ(Pichia opuntiae)、及びピキア・メタノリカ(Pichia methanolica)が挙げられる。
【0061】
本明細書に記載の方法において有用なさらなる真菌宿主細胞としては、アスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・オリザエ(Aspergillus oryzae)、トリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)、クリソスポリウム・ルクノウエンス(Chrysosporium lucknowense)、フザリウム(Fusarium)属、フザリウム・グラミネアラム(Fusarium gramineum)、フザリウム・ベネナタム(Fusarium venenatum)、及びニューロスプラ・クラッサ(Neurospora crassa)が挙げられる。
【0062】
本明細書に記載の方法の好ましい実施形態では、酵母又は真菌の宿主細胞は、ピキア・パストリス、サッカロマイセス・セレビシエ、アスペルギルス・ニガー、サッカロマイセス・ポンベ、カンジダ・アルビカンス、カンジダ・グラブラタ、ピキア・スチピチス、デバリオマイセス・ハンセニイ、クルイベロミセス・ラクチス、及びハンゼヌラ・ポリモルファからなる群から選択される。さらなる好ましい実施形態では、宿主細胞はピキア細胞である。ある好ましい実施形態では、宿主細胞はピキア・パストリス又はサッカロマイセス・セレビシエである。特定の実施形態では、宿主細胞はピキア・パストリスである。
【0063】
別の態様では、本発明は、Vps10活性の機能欠失又はノックアウトを含む改変真菌宿主細胞であって、異種タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む発現ベクターを含む、宿主細胞に関する。
【0064】
特定の一実施形態では、本発明は、野生型ピキア・パストリス細胞に対して、液胞選別輸送活性が不足している、又は液胞選別輸送活性が低いピキア・パストリス細胞に関し、この宿主細胞は、Vps10−1タンパク質、例えば配列番号20に記載されるVps10−1の機能欠失を含む。このピキア・パストリス細胞は、生物学的タンパク質又は治療用タンパク質などの異種タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む発現ベクターで細胞をさらに形質転換することによって、改変宿主細胞を産生することができる。上記細胞は、その分泌効率が向上することにより、異種タンパク質を高い力価で産生するのに有用となる。本発明のこの態様の好ましい実施形態では、この宿主細胞は、VPS10−2遺伝子を含み、例えば欠失していない配列番号21に記載のVPS10−2を含む。
【0065】
本発明のさらなる実施形態では、宿主細胞において産生される異種タンパク質は糖タンパク質である。上記実施形態では、後述のようにグリコシル化パターンがヒト様である糖タンパク質を産生するために、宿主細胞をさらに改変することが有用となり得る。
【0066】
同じ種の未改変酵母細胞に対して、液胞選別輸送活性が不足している、又は液胞選別輸送活性が低い本発明の改変酵母宿主細胞は、グリコシル化パターンがヒト様である、又はヒト化されている糖タンパク質を発現するためにさらに改変することができる。この方法での酵母宿主細胞の改変は、例えば、Gerngrossの米国特許第7,029,872号及びGerngrossらの米国特許出願公開第20040018590号に記載されるような選択された内因性グリコシル化酵素の除去、及び/又は外因性酵素の供給によって行うことができる。例えば、宿主細胞は、糖タンパク質上のN−グリカン上にマンノース残基を付加する1,6−マンノシルトランスフェラーゼ活性が欠失されるように(例えばΔOCHI)選択又は設計することができる。
【0067】
一実施形態では、宿主細胞は1,2−マンノシダーゼ触媒ドメインをさらに含み、この触媒ドメインは、通常はその触媒ドメインとは関連しない細胞標的シグナルペプチドに融合し、α1,2−マンノシダーゼ活性が、最適に作用できる場合に宿主細胞のER又はゴルジ装置を標的とするように選択される。これらの宿主細胞は、ManGlcNAcグリコフォームを含む糖タンパク質を産生する。例えば、米国特許第7,029,872号、並びに米国特許出願公開第2004/0018590号及び同第2005/0170452号には、ManGlcNAcグリコフォームを含む糖タンパク質を産生可能な下等真核生物宿主細胞が開示されている。
【0068】
さらなる一実施形態では、宿主細胞はGlcNAcトランスフェラーゼI(GnT I)触媒ドメインをさらに含み、この触媒ドメインは、通常はその触媒ドメインとは関連しない細胞標的シグナルペプチドに融合し、GlcNAcトランスフェラーゼI活性が、最適に作用できる場合に宿主細胞のER又はゴルジ装置を標的とするように選択される。これらの宿主細胞は、GlcNAcManGlcNAcグリコフォームを含む糖タンパク質を産生する。米国特許第7,029,872号、並びに米国特許出願公開第2004/0018590号及び同第2005/0170452号には、GlcNAcManGlcNAcグリコフォームを含む糖タンパク質を産生可能な下等真核生物宿主細胞が開示されている。
【0069】
さらに別の一実施形態では、宿主細胞はマンノシダーゼII触媒ドメインをさらに含み、この触媒ドメインは、通常はその触媒ドメインとは関連しない細胞標的シグナルペプチドに融合し、マンノシダーゼII活性が、最適に作用できる場合に宿主細胞のER又はゴルジ装置を標的とするように選択される。これらの宿主細胞は、GlcNAcManGlcNAcグリコフォームを含む糖タンパク質を産生する。米国特許第7,029,872号及び米国特許出願公開第2004/0230042号には、マンノシダーゼII酵素を発現し、GlcNAcManGlcNAcグリコフォームを主に有する糖タンパク質を産生可能な下等真核生物宿主細胞が開示されている。
【0070】
さらなる一実施形態では、宿主細胞はGlcNAcトランスフェラーゼII(GnT II)触媒ドメインをさらに含み、この触媒ドメインは、通常はその触媒ドメインとは関連しない細胞標的シグナルペプチドに融合し、GlcNAcトランスフェラーゼII活性が、最適に作用できる場合に宿主細胞のER又はゴルジ装置を標的とするように選択される。これらの宿主細胞は、GlcNAcManGlcAcグリコフォームを含む糖タンパク質を産生する。米国特許第7,029,872号、並びに米国特許出願公開第2004/0018590号及び第2005/0170452号には、GlcNAcManGlcNAcグリコフォームを含む糖タンパク質を産生可能な下等真核生物宿主細胞が開示されている。
【0071】
さらなる一実施形態では、宿主細胞はガラクトシルトランスフェラーゼ触媒ドメインをさらに含み、この触媒ドメインは、通常はその触媒ドメインとは関連しない細胞標的シグナルペプチドに融合し、ガラクトシルトランスフェラーゼ活性が、最適に作用できる場合に宿主細胞のER又はゴルジ装置を標的とするように選択される。これらの宿主細胞は、GalGlcNAcManGlcNAc又はGalGlcNAcMnGlcNAcグリコフォーム、或いはそれらの混合物を含む糖タンパク質を産生する。米国特許第7,029,872号及び米国特許出願公開第2006/0040353号には、GalGlcNAcManGlcNAcグリコフォームを産生可能な下等真核生物宿主細胞が開示されている。
【0072】
さらなる一実施形態では、宿主細胞は、シアリルトランスフェラーゼ触媒ドメインをさらに含み、この触媒ドメインは、通常はその触媒ドメインとは関連しない細胞標的シグナルペプチドに融合し、シアリルトランスフェラーゼ(sialytransferase)活性が、宿主細胞のER又はゴルジ装置を標的とするように選択される。これらの宿主細胞は、NANAGalGlcNAcManGlcNAcグリコフォーム又はNANAGalGlcNAcManGlcNAcグリコフォーム、或いはそれらの混合物を主に含む糖タンパク質を産生する。宿主細胞が、N−グリカンに転移させるためのCMP−シアル酸を提供する手段をさらに含むと有用である。米国特許出願公開第2005/0260729号には、CMP−シアル酸合成経路を有するように下等真核生物を遺伝子改変する方法が開示されており、及び米国特許出願公開第2006/0286637号には、シアル化糖タンパク質を産生するように下等真核生物を遺伝子改変する方法が開示されている。
【0073】
上記の宿主細胞はいずれも、米国特許出願公開第2004/074458号及び第2007/0037248号に開示されているような二分岐(GnT III)及び/又は多分岐(GnT IV、V、VI、及びIX)N−グリカン構造を有する糖タンパク質を産生するために、GnT III、GnT IV、GnT V、GnT VI、及びGnT IXからなる群から選択される1つ以上のGlcNAcトランスフェラーゼをさらに含むことができる。
【0074】
さらに別の実施形態では、GlcNAcManGlcNAcN−グリカンを主に有する糖タンパク質を産生する宿主細胞は、ガラクトシルトランスフェラーゼ触媒ドメインをさらに含み、この触媒ドメインは、通常はその触媒ドメインとは関連しない細胞標的シグナルペプチドに融合し、ガラクトシルトランスフェラーゼ活性が、宿主細胞のER又はゴルジ装置を標的とするように選択される。これらの宿主細胞は、GalGlcNAcManGlcNAcグリコフォームを主に含む糖タンパク質を産生する。
【0075】
さらなる一実施形態では、GalGlcNAcManGlcNAcN−グリカンを主に有する糖タンパク質を産生する宿主細胞は、シアリルトランスフェラーゼ触媒ドメインをさらに含み、この触媒ドメインは、通常はその触媒ドメインとは関連しない細胞標的シグナルペプチドに融合し、シアリトランスフェラーゼ(sialytransferase)活性が、宿主細胞のER又はゴルジ装置を標的とするように選択される。これらの宿主細胞は、NANAGalGlcNAcManGlcNAcグリコフォームを含む糖タンパク質を産生する。
【0076】
上記の種々の宿主細胞は、UDP−GlcNAcトランスポーター(例えば、クルイベロミセス・ラクチス及びハツカネズミ(Mus musculus)のUDP−GlcNAcトランスポーター)、UDP−ガラクトーストランスポーター(例えば、キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)のUDP−ガラクトーストランスポーター)、及びCMP−シアル酸トランスポーター(例えば、ヒトのシアル酸トランスポーター)などの1つ以上の糖トランスポーターをさらに含む。ピキア・パストリスは上記トランスポーターを有さないため、上記トランスポーターを含むようにピキア・パストリスを遺伝子改変することが好ましい。
【0077】
宿主細胞タンパク質に対する抗体の検出可能な交差反応性を減少又は喪失させるために、組換え糖鎖工学によって得られた酵母宿主細胞は、遺伝子改変によって、1つ以上のβ−マンノシルトランスフェラーゼ遺伝子(例えば、BMT1、BMT2、BMT3、及びBMT4)の欠失又は破壊によってα−マンノシダーゼ耐性N−グリカンを有する糖タンパク質をなくすことができ(米国特許出願公開第2006/0211085号参照)、ホスホマンノシルトランスフェラーゼ遺伝子PNO1及びMNN4Bの一方又は両方の欠失又は破壊によってホスホマンノースを有する糖タンパク質をなくすことができ(例えば、米国特許第7,198,921号及び第7,259,007号)、さらなる態様ではMNN4A遺伝子の欠失又は破壊を含むことができる。破壊としては、特定の酵素をコードするオープンリーディングフレームの破壊、またオープンリーディングフレームの発現の破壊、又はRNA干渉、アンチセンスRNAなどを使用した1つ以上のβ−マンノシルトランスフェラーゼ及び/又はホスホマンノシルトランスフェラーゼをコードするRNAの翻訳の抑止が挙げられる。宿主細胞は、特定のN−グリカン構造を産生する様に改変された前述の宿主細胞のいずれか1つをさらに含むことができる。
【0078】
本明細書に開示される方法の実施に使用できる制御配列としては、シグナル配列、プロモーター、及び転写ターミネーター配列が挙げられる。プロモーターの例としては、限定するものではないが、アルコール調節性プロモーター、テトラサイクリン調節性プロモーター、ステロイド調節性プロモーター(例えば、グルココルチコイド、エストロゲン、エクジソン、レチノイド、甲状腺)、金属調節性プロモーター、病原体調節性プロモーター、温度調節性プロモーター、及び光調節性プロモーターなどの多数の種からのプロモーターが挙げられる。糖技術分野において公知の調節可能なプロモーターシステムの具体例としては、限定するものではないが、金属誘導性プロモーターシステム(例えば、酵母銅−メタロチオネインプロモーター)、植物除草剤サフナー(safner)活性化プロモーターシステム、植物熱誘導性プロモーターシステム、植物及び哺乳動物ステロイド誘導性プロモーターシステム、Cymリプレッサー−プロモーターシステム(Krackeler Scientific,Inc.、ニューヨーク州オールバニー(Albany、NY))、RheoSwitch System(New England Biolabs、マサチューセッツ州ビバリー(Beverly MA))、ベンゾエート誘導性プロモーターシステム(国際公開第2004/043885号参照)、並びにレトロウイルス誘導性プロモーターシステムが挙げられる。糖技術分野において公知の他の特異的調節性プロモーターシステムとしては、テトラサイクリン調節性システム(例えば、Berens & Hillen,Eur J Biochem 270:3109−3121(2003))、RU 486誘導性システム、エクジソン誘導性システム、及びカナマイシン調節性システムが挙げられる。下等真核生物特異的プロモーターとしては、限定するものではないが、サッカロマイセス・セレビシエのTEF−1プロモーター、ピキア・パストリスのGAPDHプロモーター、ピキア・パストリスのGUT1プロモーター、PMA−1プロモーター、ピキア・パストリスのPCK−1プロモーター、並びにピキア・パストリスのAOX−1及びAOX−2プロモーターが挙げられる。
【0079】
転写ターミネーター配列の例としては、限定するものではないが、サッカロマイセス・セレビシエのチトクロムCターミネーター、並びにピキア・パストリスのALG3及びPMA1ターミネーターなどの多数の種及びタンパク質の転写ターミネーターが挙げられる。
【0080】
酵母選択性マーカーとしては、薬物耐性マーカー、及び酵母宿主細胞がアミノ酸などの必須細胞栄養素を合成できるようにする遺伝子機能が挙げられる。酵母において一般に使用される薬物耐性マーカーとしては、クロラムフェニコール、カナマイシン、メトトレキサート、G418(ジェネテシン)、Zeocinなどが挙げられる。酵母宿主細胞が必須細胞栄養素を合成できるようにする遺伝子機能遺伝子機能は、対応するゲノム機能に栄養要求性変異を有する入手可能な酵母株とともに使用される。一般的な酵母選択性マーカーでは、ロイシン(LEU2)、トリプトファン(TRP1及びTRP2)、プロリン(PRO1)、ウラシル(URA3、URA5、URA6)、ヒスチジン(HIS3)、リジン(LYS2)、アデニン(ADE1又はADE2)などを合成する遺伝子機能が得られる。他の酵母選択性マーカーとしては、S.セレビシエのARR3遺伝子が挙げられ、これは亜ヒ酸塩の存在下で増殖する酵母細胞に亜ヒ酸塩耐性を付与する(Bobrowicz et al,Yeast,13:819−828(1997);Wysocki et al.,J.Biol.Chem.272:30061−30066(1997))。
【0081】
多数の好適な挿入部位としては、米国特許出願公開第2007/0072262号に列挙されているものが挙げられ、サッカロマイセス・セレビシエ並びにその他の酵母又は真菌に関して知られている遺伝子座のホモログが挙げられる。酵母にベクターを挿入する方法は周知であり、例えば、米国特許第7,479,389号、国際公開第200136865号、及び国際出願PCT/US2008/13719号が参照される。挿入部位の例としては、限定するものではないが、ピキア(Pichia)ADE遺伝子、ピキアTRP(TRP1からTRP2を含む)遺伝子、ピキアMCA遺伝子、ピキアCYM遺伝子、ピキアPEP遺伝子、ピキアPRB遺伝、及びピキアLEU遺伝子が挙げられる。ピキアADE1及びARG4遺伝子は、Lin Cereghino et al.,Gene 263:159−169(2001)及び米国特許第4,818,700号に記載されており、HIS3及びTRP1遺伝子は、Cosano et al.,Yeast 14:861−867(1998)に記載されており、HIS4はGenBank Accession No.X56180に記載されている。
【0082】
本明細書において記載されるすべての刊行物は、本発明と関連して使用することができる方法及び材料を説明及び開示する目的で、参照により組み入れられる。本発明は本明細書において、先行発明であるとして、このような開示に先行すると見なされるものではない。
【0083】
添付の図面を参照しながら本発明の好ましい実施形態を説明してきたが、本発明がこれらの厳密な実施形態に限定されるものではなく、添付の特許請求の範囲によって規定される本発明の範囲及び意図から逸脱せずに、それらの種々の変更及び修正を当業者によって行えることが理解される。
【0084】
以下の実施例は、本発明を説明するものであり、本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0085】
材料及び方法:
【実施例1】
【0086】
株及び培地
大腸菌株TOP10を組換えDNA作業に使用した。この実験に使用される、すべてのプライマー及びプラスミド並びに選択されたピキア・パストリス株を図10及び11に列挙している。タンパク質発現は、緩衝グリセロール複合培地(BMGY)及び緩衝メタノール複合培地(BMMY)を使用して行った。BMGY培地は、増殖培地として、2%マートン(martone)、pH6.0の100mMリン酸カリウム緩衝液、1.34%酵母窒素塩基、0.00002%ビオチン、2%グリセロールからなった。BMMYは、グリセロールの代わりに誘導培地として1%メタノールを使用したことを除けば、BMGYと同じ成分を含有した。YMD培地は、2%マートン、2%デキストロース、及び2%寒天からなり、寒天プレート上でピキア・パストリス株を増殖させるために使用した。制限酵素及び修飾酵素は、New England BioLabs(マサチューセッツ州ビバリー(Beverly,MA))より購入した。オリゴヌクレオチドは、Integrated DNA Technologies(アイオワ州コーラルビル(Coralville、IA))から入手した。塩及び緩衝剤は、Sigma(ミズーリ州セントルイス(.St.Louis、MO))から入手した。
【実施例2】
【0087】
酵母株の形質転換
発現/挿入ベクターを使用した酵母の形質転換については後述している(Cregg et al.,Mol Biotechnol.16:23−52(2000))。ピキア・パストリス株を50mLのYMD培地中で0.2〜6.0の範囲のODまで終夜増殖させた。氷上で30分間の温置の後、2500〜3000rpmで5分間遠心分離することによって細胞をペレット化した。培地を除去し、細胞を氷冷滅菌1Mソルビトールで3回洗浄した。得られた細胞ペレットを次に0.5mlの氷冷滅菌1Mソルビトール中に浮遊させた。10μLの線状化DNA(1−10μg)及び100μgの細胞浮遊液をエレクトロポレーションキュベット中で混合し、氷上で5分間温置した。エレクトロポレーションをBio−Rad GenePulser Xcell(Bio−Rad Laboratories、カリフォルニア州ハーキュリーズ(Hercules、CA))を使用して行い、続いてプリセットのピキア・パストリスプロトコル(2kV、25μF、200Ω)を行った。エレクトロポレーションの直後、1mLのYMDS回復培地(YMD培地+1Mソルビトール)を混合物に加えた。形質転換された細胞を、4時間から終夜までの範囲の時間、室温(26℃)において回復させた。細胞回復後、細胞を選択培地上に載せた。
【実施例3】
【0088】
P.パストリスのVps10ホモログの同定
S.セレビシエの4つのVps10ホモログ(Vps10p/Pep1p/Vpt1p(配列番号22)、Vth1p(配列番号23)、Vth2p(配列番号24)、及びYNR065C(配列番号25))のタンパク質配列は、Genbank(登録商標)から入手した。実施例14で考察したように、4つのS.セレビシエタンパク質(前述)を使用して、TBLASTNコンピューター検索で(Altschul et al.,J.Mol.Biol,215(3):403−10(1990);Altschul et al.,Nucleic Acids Res.25:3389−3402(1997))所有のピキア・パストリスゲノムに対して行って、可能性のあるVPS10遺伝子ホモログをピキア・パストリスにおいて同定した。VPS10−1及びVPS10−2と名付けられた2つのピキア遺伝子ホモログを同定した。Vps10−1(配列番号14)及びVPS10−2(配列番号15)のゲノムDNA配列をそれぞれ図13及び14に示している。Vps10−1p(配列番号20)及びVps10−2p(配列番号21)の翻訳されたタンパク質配列をそれぞれ図15及び16に示している。P.パストリスVps10pホモログのアミノ酸配列と、S.セレビシエVps10p、及びその他の真菌株との比較を図12中に示している。
【実施例4】
【0089】
遺伝子欠失プラスミドの作製
VPS10−1遺伝子のオープンリーディングフレームを欠失させ、液胞選別輸送受容体(Vps10−1p)活性を欠く酵素株を作製するために、プラスミドpGLY5192を構築した(図1参照)。vps10−1ΔノックアウトプラスミドpGLY5192を作製するために、最初に、通常のPCR条件を使用し、プライマーMAM338(配列番号1)及びMAM339(配列番号2)、並びにテンプレートとしてのピキア・パストリスNRRL−Y11430株ゲノムDNAを使用して、上流5’フランキング領域を増幅した。上流相同フラグメント、プロモーター、オープンリーディングフレーム(ヌクレオチド1610−6238)、及び下流相同フラグメントを含めたピキア・パストリスVPS10−1ゲノム領域のヌクレオチド配列を図13A〜13G及び配列番号14に示している。
【0090】
この結果得られたPCRフラグメントを、制限酵素SacI及びPmeIを使用してpGLY22b中にクローン化して、pGLY5191を作製した。プライマーMAM340(配列番号3)及びMAM341(配列番号4)、並びにテンプレートとしてのピキア・パストリスNRRL−Y11430株ゲノムDNAを使用して、下流3’フランキング領域を増幅した。この結果得られたフラグメントを、制限酵素SalI及びSwaIを使用してpGLY5191中にクローン化して、pGLY5192を作製した。忠実度を確認するために、pGLY5192の上流5’及び下流3’の両方のフラグメントの配列を決定した。
【0091】
VPS10−2遺伝子のオープンリーディングフレームを欠失させ、液胞選別輸送受容体ホモログ(Vps10−2p)活性を欠いた酵母株を作製するために、プラスミドpGLY5194を構築した(図1参照)。Vps10−2ΔノックアウトプラスミドpGLY5194を作製するために、最初に、通常のPCR条件を使用し、プライマーMAM439(配列番号5)及びMAM343(配列番号6)、並びにテンプレートとしてのピキア・パストリスNRRL−Y11430株ゲノムDNAを使用して、上流5’フランキング領域を増幅した。上流相同フラグメント、プロモーター、オープンリーディングフレーム(ヌクレオチド830−4509)、及び下流相同フラグメントを含めたピキア・パストリスVPS10−2ゲノム領域のヌクレオチド配列を図14A〜14E及び配列番号15に示している。
【0092】
この結果得られたフラグメントを、制限酵素SacI及びPmeIを使用してpGLY22b中にクローン化して、pGLY5193を作製した。プライマーMAM440(配列番号7)及びMAM345(配列番号8)、並びにテンプレートとしてのピキア・パストリスNRRL−Y11430株ゲノムDNAを使用して、下流3’フランキング領域を増幅した。この結果得られたフラグメントを、制限酵素SphI及びSwaIを使用してpGLY5193中にクローン化して、pGLY5194を作製した。忠実度を確認するために、pGLY5194の上流5’及び下流3’の両方のフラグメントの配列を決定した。
【実施例5】
【0093】
GCSFを発現するピキア・パストリス株の作製
ホモ・サピエンス(Homo sapiens)の顆粒球−サイトカイン刺激因子タンパク質(GCSF、Genbank NP_757373)をコードするDNAをDNA2.0,Inc.(カリフォルニア州メンロパーク(Menlo Park、CA))によって合成し、pUC19プラスミド中に挿入して、pGLY4316の名称のプラスミドを作製した(図2、配列番号16及び配列番号168参照)。
【0094】
通常のPCR条件を使用し、プライマーMAM227(配列番号10)及びMAM228(配列番号11)を使用して、pGLY4316から増幅することによって、GCSFを含有する次のプラスミドを構築した。PCRプライマーMAM27は、成熟GCSFタンパク質(GCSFp)をコードするDNAの5’末端にXhoI及びMlyI制限部位を導入し、GCSFpをコードするDNAの3’末端にFseI部位を導入した。GCSFを分泌経路に向かわせる接合因子−IL1βシグナルペプチドをコードするDNAフラグメント(Han et ai.,Biochem,Biophys.Res.Commun.18;337(2):557−62.(2005);Lee et al,Biotechnol Prog.15(5):884−90(1999))を、EcoRI及びMlyI消化によって、プラスミドpGLY4321から除去した。PCR増幅産物をFseI及びMlyIで消化し、フラグメントをコードするシグナルペプチドで、EcoRI及びFseIで消化したプラスミドpGLY1346中にトリプルライゲーション(triple−ligate)して、プラスミドpGLY4335が作製され(図2参照)、ここで、成熟GCSFをコードするオープンリーディングフレーム(ORF)の5’末端は、フレーム中で、シグナルペプチドをコードORFの3’末端とライゲーションされ、成熟GCSFのN末端がシグナルペプチドのC末端に融合した融合タンパク質が産生される。
【0095】
プライマーMAM281(配列番号9)及びMAM228(配列番号11)を使用してPCRによってpGLY4335からGCSFオープンリーディングフレームを増幅した。このPCR増幅産物をMlyI及びFseI制限酵素で消化した(図2)。プライマーMAM281は、GCSF ORFを有するフレーム中にATGコドンを有する。従って、この結果得られたPCRで増幅され消化された産物は、成熟GCSFをコードするオープンリーディングフレーム(ORF)の5’末端にインフレーム付加されたATG翻訳開始コドンを有する。この結果得られたフラグメントは、インフレーム付加された「ATG」ヌクレオチド(N末端メチオニンをコードする)を有し、Neupogen(登録商標)(フィルグラスチム、Amgen Inc.、カリフォルニア州サウザンドオークス(Thousand Oaks、CA))タンパク質配列(配列番号172)と同一である。
【0096】
P.パストリスCLP1遺伝子(配列番号17)の増幅を、通常のPCR条件を使用し、ピキア・パストリス株NRRL−Y11430の染色体DNAから、プライマーMAM304(配列番号12)MAM305(配列番号13)を使用して行い、EcoR1及びStu1制限酵素で消化した。P.パストリスのCLP1(PpCLPl)をコードするEcoRI/StuI消化フラグメント、rHuMetGCSFコードするMlyI/FseI消化フラグメント、及びプラスミドpGLY1346(EcoRI及びFseIで消化)との3片のライゲーション反応を行って、図2に示されるプラスミドpGLY5178を作製した。忠実度を確認するためにインサートDNAの配列を決定した。
【0097】
pGLY5178プラスミド中には、AOX1(アルコールオキシダーゼ)プロモーターも含まれ、これはCLP1−GCSF融合体の完全なORFの発現を誘導し、これは、完全なPpClp1タンパク質配列に続いて、リンカー配列「GGGSLVKR」(配列番号175)及びrhMet−GCSF(配列番号:18及び170)を含む。メタノール含有培地中でのDNA転写後、転写されたmRNAはClp1pシグナルペプチドによって小胞体に入る。このポリペプチドは、ゴルジ装置中Kex2プロテアーゼによってさらにプロセッシングされ、それによって、リンカー配列中のアルギニン残基の後で開裂し、Clp1及びMet−GCSFの2つのタンパク質を上澄み分画に放出する(米国特許出願公開第2006/0252069号参照)。プロセッシングされ分泌されたClp1及びMet−GCSFのタンパク質配列を配列番号171及び172に示している。Met−GCSFを発現するために、プラスミドpGLY5178を制限酵素PmeIで線状化し、ロールインシングルクロスオーバー相同組換えによる株YGLY8069の形質転換に使用して、株yGLY8538を作製した(図4参照)。この株は、AOX1座中に挿入されたrHuMetGCSFをコードする発現カセットを数コピー含有する。この株はrHuMetGCSFを培地中に分泌する。株YGLY8538の遺伝子型は、ura5Δ::ScSUC2 och1Δ::lacZ bmt2Δ::lacZ/KlMNN2−2 mnn4L1Δ::lacZ/MmSLC35A3 pno1Δ mnn4Δ::lacZ PRO1::lacZ/TrMDSI/FB53 bmt1Δ::lacZ bmt4Δ::lacZ bmt3Δ::lacZ dap2Δ::lacZ−URA5−lacZ ste13Δ::NatR AOX1:Sh ble/AOX1p/CLP1−GGGSLVKR−MetGCSFである。
【実施例6】
【0098】
yGLY8538変異株の作製
yGLY8538(図4参照)からの同質遺伝子の酵母変異株の作製を、前述のような相同組換えによって行った(Nett and Gerngross,Yeast 20:1279−90(2003))。所望のオープンリーディングフレームの上流及び下流に約1000bpフランキングDNAを含有する線状化プラスミドで、親のura5Δ株を形質転換した。変異形質転換体は、lacZ−URA5−lacZカセットを加えたURAドロップアウトプレート上で選択し(Nett and Gerngross,前出)、正確な遺伝子プロファイルを確認するためにPCRにより分析した。プラスミドpGLY5192(vps10−1Δ)及びpGLY5194(vps10−2Δ)をこの実験の突然変異生成のために使用した。変異株の拡大のフローチャートを図6に示す。
【0099】
株yGLY9933及びyGLY10566は、yGLY8538をそれぞれpGLY5192(vps10−1Δ)及びpGLY5194(vps10−2Δ)で形質転換することによって得た。さらに、yGLY9933の対抗選択によって二重ノックアウト(vps10−1Δ/vps10−2Δ)を構築して、yGLY9982を作製した。プラスミドpGLY5194をyGLY9982中にエレクトロポレーションして、vps10−1Δ/vps10−2Δ遺伝子型を有する株yGLY10557を作製した。
【実施例7】
【0100】
TNFRII−Fcを発現するピキア・パストリス株の作製
腫瘍壊死因子アンタゴニストTNFRII−FcコードするDNA(米国特許出願公開第61/256369号)をGeneArt AG(ドイツのレーゲンスブルク(Regensburg,Germany))によって合成した。全タンパク質を、TOPO クローン化(Invitrogen)して、pGLY3452を作製した。TNFPII−FcのオープンリーディングフレームPvuII及びFseIにより開放し、これを合成オリゴヌクレオチドから得られるHSAシグナルペプチドでクローン化し、EcoRI及びMlyIで消化して、プラスミド主鎖pGLY2198(EcoRI及びFsel)を得た。大腸菌のトリプルライゲーション及び形質転換によって、発現プラスミドpGLY3465を得た(図3参照)。TNFRII−FcのDNA配列及びタンパク質配列をそれぞれ配列番号19及び174に示している。
【0101】
TNFRII−Fcを発現するために、pGLY3456をSpeIで線形化し、株yGLY8292(VPS10−1)、yGLY9992(vps10−1Δ)、及びyGLY9993(vps10−1Δ)にエレクトロポレーションした。図5中に示されるようなプラスミドpGLY5192を使用して、yGLY8292から誘導されるvps10−1Δ変異株を作製した。
【実施例8】
【0102】
バイオリアクタースクリーニング及び発酵方法
バイオリアクタースクリーニング:rhGCSF発現のバイオリアクタースクリーニングは、0.5Lの容器中、SIXFORS多重発酵システム(ATR Biotech、メリーランド州ローレル(Laurel、MD))中で、以下の条件下で行った:6.5pH、24℃、0.3標準リットル/分、及び初期撹拌機速度550rpm。初期作業体積は350mLであり、これは、330mLのBMGY培地及び20mLの接種材料からなった。IRIS多重発酵槽ソフトウェア(ATR Biotech、メリーランド州ローレル(Laurel、MD))を使用して、接種から1時間後に開始して10時間かけて撹拌機速度を550rpmから1200rpmまで直線的に増加させた。種培養(1Lのバッフル付きフラスコ中200mLのBMGY)は、寒天プレートから直接接種した。種フラスコを24℃で72時間温置して、光学密度(OD600)を95〜100の間に到達させた。発酵槽に、遠心分離によって20mLまで濃縮した200mLの定常期フラスコ培養を接種した。バッチ段階は、初期投入グリセロール(18〜24h)発酵の完了で終了し、続いて、17mLのグリセロール供給溶液(50%[w/w]のグリセロール、5mg/Lのビオチン、12.5mL/LのPTM1塩(65g/LのFeSO・7HO、20g/LのZnCl、9g/LのHSO、6g/LのCuSO・5HO、5g/LのHSO、3g/LのMnSO・7HO、500mg/LのCoCl・6HO、200mg/LのNaMoO・2HO、200mg/Lのビオチン、80mg/LのNaI、20mg/LのHBO))を加えることによって、第2のバッチ段階を開始した。溶存酸素の急激な増加によって示される第2のバッチ段階の終了後、メタノール供給溶液(100%MeOH 5mg/Lのビオチン、12.5mL/LのPTM1)を0.6g/hで32〜40時間供給することによって、誘導段階を開始した。培養は、遠心分離によって収穫した。
【0103】
プラットフォーム発酵法:バイオリアクター培養を、3L及び15Lのガラス製バイオリアクター(Applikon、カリフォルニア州フォスターシティー(Foster City))、並びに40Lステンレス鋼製定置蒸気滅菌バイオリアクター(Applikon、カリフォルニア州フォスターシティー(Foster City,CA))で行った。種培養は、1%体積比の凍結ストックバイアルを使用してBMGY培地を直接接種することによって調製した。種フラスコを24℃で48時間温置すると、20±5の光学濃度(OD600)が得られ、移した後に細胞が指数関数的に増殖したことを確認した。培地は、40gのグリセロール、18.2gのソルビトール、2.3gのKHPO、11.9gのKHPO、10gの酵母抽出物(BD、ニュージャージー州フランクリンレイクス(Franklin Lakes、NJ))、20gのペプトン(BD、ニュージャージー州フランクリンレイクス(Franklin Lakes、NJ))、4×10−3gのビオチン、及び13.4gの酵母窒素塩基(BD、ニュージャージー州フランクリンレイクス(Franklin Lakes、NJ))を1リットル当たりに含有した。バイオリアクターには、種対初期培地が10%の体積比で接種した。培養は流加培養法により以下の条件で行った:温度は24±0.5℃に設定し、NHOHを使用してpHを6.5±0.1に調整し、Oをカスケード撹拌速度で加えることによって溶存酸素を1.7±0.1mg/Lに維持した。気流速度は0.7vvmに維持した。初期投入グリセロール(40g/L)が消費された後、50%(w/w)グリセロール溶液(12.5ml/LのPTM2塩及び12.5ml/Lの25Xビオチンを含有)を、5.33g/L/hrで開始して(最大増殖速度の50%)、8時間の間、0.08h−1の速度で指数関数的に供給した。30分間の飢餓段階の後、誘導を開始して、メタノール(12.5ml/LのPTM2塩及び12.5ml/Lの25Xビオチンを含有)を指数関数的に供給し、2g/L/hrで開始して0.01h−1の比増殖速度を維持した。
【0104】
YGLY8538の場合、高メタノール供給速度(メタノール供給速度を6時間で2.33g/L/hrから6.33g/L/hrまで増加させ、誘導時全体で6.33g/L/hrを維持した)を使用し、0.68g/LのTween 80をメタノールに加えることによって、rHuMetGCSFを作製した。この株及び後の株でプロセスが改善されるので、発酵pHを5.0まで下げた。
【0105】
YGLY9933の場合、高メタノール供給速度、0.68g/LのTween 80、発酵pH5.0を使用した。
【実施例9】
【0106】
深型ウェル誘導プレート
深型ウェルプレートスクリーニングを使用して、TNFRII−Fcの力価の改善を測定した。形質転換体を600μLのBMGYに接種し、24℃においてマイクロプレートシェーカー中840rpmで2日間増殖させた。この結果得られた50のμLの種培養を、ウェル当たり600μLのBMGYが入れられた2つの96ウェルプレートに移し、前述と同じ培養条件で2日間温置した。2つの増殖プレートを1つのプレートにまとめ、次に1000rpmで5分間遠心分離した。得られた細胞ペレットを、ウェル当たり600μLのBMMY中で2日間誘導して、次に遠心分離して得られた400μLの透明上澄み液をELISAにより分析した。
【実施例10】
【0107】
GCSF力価測定
透明上澄み分画のGCSF力価を、標準ELISAプロトコルで分析した。簡潔に述べると、ポリクローナル抗GSCF(R&D Systems(登録商標)、ミネソタ州ミネアポリス(Minneapolis、MN)、カタログ番号MAB214)を、96ウェル高結合プレート(Corning(登録商標)、ニューヨーク州コーニング(Corning、NY)、カタログ番号3922)上に塗布し、ブロックし、洗浄した。rhGCSFタンパク質標準物質(R&D Systems(登録商標)、カタログ番号214−CS)及び無細胞上澄み液の連続希釈物を上記プレートに塗布し、1時間温置した。洗浄ステップの後、モノクローナル抗GCSF(R&D Systems(登録商標)、カタログ番号AB−214−NA)をプレートに加え、1時間温置した。洗浄後、アルカリホスファターゼ共役ヤギ抗マウスIgG Fc(Thermo Fisher Scientific(登録商標)、マサチューセッツ州ウォルサム(Waltham、MA)、カタログ番号31325)を加え、1時間温置した。プレートを洗浄し、蛍光検出試薬4−MUPSを加え、暗所で温置した。蛍光強度を、340nm励起及び465nm発光特性を有するTECAN蛍光計(Tecan Group、Ltd.、スイスのメンネドルフ(Mannedorf,Switzerland))を使用して測定した。
【実施例11】
【0108】
TNFRII−Fc力価測定
透明上澄み分画のTNFRII−Fc力価を、標準ELISAプロトコルで分析した。簡潔に述べると、モノクローナル抗ヒトsTNFRII/TNFRSFlB(R&D Systems(登録商標)、カタログ番号MAB726)を96ウェル高結合プレート(Corning(登録商標)、カタログ番号3922)上に塗布し、ブロックし、洗浄した。TNFRII−Fcタンパク質標準物質(市販のENBREL(登録商標)、Amgen、カリフォルニア州サウザンドオークス(Thousand Oaks,CA))及び無細胞上澄み液の連続希釈物を上記プレートに塗布し、1時間温置した。洗浄ステップの後、ポリクローナル抗ヒトsTNFRII/TNFRSFlB(R&D Systems(登録商標)、カタログ番号AB−26−PB)をプレートに加え、1時間温置した。洗浄後、アルカリホスファターゼ共役ロバ抗ヤギIgG(Santa Cruz(登録商標)、カタログ番号SC−2022)を加え、1時間温置した。プレートを洗浄し、蛍光検出試薬4−MUPSを加え、暗所で温置した。蛍光強度を、340nm励起及び465nm発光特性を有するTECAN蛍光計を使用して測定した。
【実施例12】
【0109】
細胞溶解測定
細胞溶解は、発酵上澄み中の二本鎖DNAの量を分析することによって測定した。Quant−iT(商標)PicoGreen(登録商標)アッセイキット(Invitrogen Corp.、カリフォルニア州カールズバッド(Carlsbad、CA))を使用して、製造者の提案によりdsDNAのアッセイを行った。
【0110】
結果:
【実施例13】
【0111】
ヒトGCSF及びTNFRII−Fcは正準Vps10結合配列を有する
サッカロマイセス・セレビシエでは、Vps10(Pep1又はVpt1としても公知である)受容体は、「QRPL様」選別輸送シグナル(Gln24−Arg−Pro〜Leu27、配列番号176)を介してプロカルボキシペプチダーゼy(プロCpy、Prc1としても公知である)の結合、及びプロCpyの液胞への輸送に関与している(Marcusson et al.,Cell 77:579−86(1994);Valls et al.Cell 48:887−97(1987))。以前の研究は、結合相互作用を調べるためにS.セレビシエにおけるCpyの選別輸送に集中していた。これらの研究によって、それぞれが異なるリガンド結合親和性を有する、Vps10細胞内腔受容体ドメインの2つの領域が同定された(Jorgensen et al.Eur J Biochem 260:461−9(1999);Cereghino et al.Mol Biol Cell 6:1089−102(1995);及びCooper & Stevens J Cell Biol 133:529−41(1996))。さらに、van voorst及び共同研究者(J Biol Chem 271:841−6(1996))は、アミノ末端付近のCpy「QRPL」ペプチドの突然変異生成を行うことで、液胞選別輸送の効率のための配列保存の必要条件を求めた。これらの分析によって、Gln24の位置以外では、Vps10との相互作用に影響が生じたり誤選別が生じたりすることなく、多重置換を発生させることができることがわかった。S.セレビシエのVps10受容体は、「QRPL様」選別輸送ドメインが関与しない未知の機構で、大腸菌β−ラクタマーゼなどの組換えタンパク質と相互作用することも示されている(Holkeri and Makarow,FEBS Lett 429:162−6(1998))。S.セレビシエでは、以前の研究によって、選別輸送活性を有する可能性があるVps10の3つのさらなるホモログ(Vth1、Vth2、YNR065C、図12参照)が同定されている(Cooper & Stevens J Cell Biol 133:529−41(1996);Westphai et al.J Biol Chem 271(20):11865−70(1996);Tarassov K、et al.Science 320(5882):1465−70(2008))。
【0112】
本発明者らは、Vps10選別輸送配列の特性を有する、組換えヒト顆粒球コロニー刺激因子(rhGCSF)及びTNFRII−Fcのアミノ末端付近の配列を同定した(van Voorst et al(1996),前出)。これらの配列は、GCSFの場合は「QSFL」(配列番号177)(Genbank NP_757373又は配列番号168参照)であり、TNFRII−Fcの場合は「QVAF」(配列番号178)(配列番号174参照)である。後述の表1に示されるように、rhGCSF及びTNFRII−Fcの推定上のVps10結合ドメインの4つのアミノ酸位置のそれぞれを、以前のCpy液胞ターゲッティングの突然変異生成結果(Tamada et al.Proc Natl AcadSci USA 103:3135−40,11(2006);van Voorst et al.(1996),前出)と比較した。rhGCSF及びTNFRII−Fcの選別輸送ペプチドのアミノ酸を、それぞれの変異プロCpyタンパク質と比較すると、すべての変異で85%以上の活性が示されたと報告されている(前出のvan Voorst et al.(1996)の図3参照)。これらのデータは、rhGCSF及びTNFRII−Fcの選別輸送ペプチドが、表面に露出している場合にVps10受容体に結合して、組換えタンパク質を酵母液胞に向かわせる可能性があることを示している。
【表1】

【0113】
さらに、両方のペプチドは、Vps10と相互作用可能なそれぞれのタンパク質の表面露出領域に位置する(Hill et al.Proc Natl Acad Sci USA 90:5167−71(1993)、Tamada et al.(2006),前出)。N末端選別輸送配列及びそれらの表面露出によるGCSF及びTNFRII−FCのVps10受容体への結合の可能性に基づいて、本発明者らは、P.p.VPS10ホモログ中の変異により、液胞選別輸送を喪失することによって、rhGCSF及びTNFRII−Fcの分泌収率が改善されると仮定した。
【実施例14】
【0114】
P.パストリスのVps10のホモログ
ピキア・パストリスのゲノムDNA配列のTBlastN検索によって、ピキア・パストリス中にVPS10の2つの遺伝子ホモログが明らかになり、Vps10−1及びVPS10−2と名付けられた(実施例3参照)。S.セレビシエ及びP.パストリスのVps10タンパク質ホモログの比較を図12に示している。S.c.Vps10が1579aaであるのに対し、P.p.Vps10−1は29.99%の同一性であり(1542aa)、P.p.Vps10−2は25.4%の同一性(1502aa)であった。P.p.Vps10−1及びVps10−2タンパク質の間の配列比較によって、41.0%の類似性及び26.8%の同一性であることがわかった。S.c.Vps10と同様に、両方のP.パストリスタンパク質は、小胞体中に入るための予測されたN末端シグナルペプチド、2つのC末端リッチ領域、及びC末端付近に1つの予測される膜貫通ドメインを有する(Horazdovsky et al.Curr Opin Cell Biol 7:544−51(1995))(データは示されていない)。
【0115】
前述したように、P.パストリスVps10タンパク質(Vps10−1及びVps10−p)のS.セレビシエVps10に対する配列比較によって、相対的に低い37〜43%の同一性が示され、一方、他のS.セレビシエVps10ホモログ(Vth1p、Vth2p、YNR065C)のS.セレビシエVps10に対する配列比較では58〜75%の同一性が示された(図12)。従って、配列分析のみに基づくと、2つのP.パストリスVps10ホモログが、S.セレビシエVps10と類似の機能を有するかどうかは判断できなかった。
【0116】
さらなる真菌Vps10ホモログは、GenBank(登録商標)(National Center for Biotechnology Information(NCBI)、メリーランド州ベセスダ(Bethesda、MD))により同定されており、S.セレビシエVps10と配列比較されている(図12)。以下のGenBank(登録商標)の登録に基づいて、Vps10ホモログが指定された:アスペルギルス・ニガー(CAK38444、配列番号26、図18)、シゾサッカロミセス・ポンベ(CAA16914.1、配列番号27、図19)、カンジダ・アルビカンス(EAK91536、配列番号28、図20)、カンジダ・グラブラタ(CAG60842.1、配列番号29、図21)、ピキア・スチピチス(NC_009068.1、配列番号30、図22)、デバリオマイセス・ハンセニイ(XP_002770499.、配列番号181、図23)、及びクルイベロミセス・ラクチス(XP_454425、配列番号182、図24)。S.ポンベのデータは、Vps10受容体は、S.セレビシエVps10に対してわずか23.6%の同一性であるが、類似の機能を示すことを示している(Iwaki et al.Microbiology 152:1523−32(2006);Takegawa et al.Cell Struct Funct 28:399−417(2003);Takegawa et al.Curr Genet 42:252−9(2003))。すべてにおいて、生物情報学的データは2つのP.パストリスVps10ホモログが、S.セレビシエVps10受容体と類似の機能を有し得ることを示唆している。
【実施例15】
【0117】
Vps10−1活性によってrhGCSF力価が減少する
親のrhGCSF発現株yGLY8538は、AOX1プロモーターを使用してGCSFを転写する。この親株に、5−フルオロオロト酸(5−FOA)を使用して対抗選択して、変異株を作製した(図6及び11B参照)。P.p.vps10−1Δ(yGLY9933)及びvps10−Δ(yGLY10566)の同質変異体(URA5+)を、それぞれプラスミドpGLY5192及びpGLY5194のエレクトロポレーションによって作製した(実施例1〜11、図1参照)。vps10−1Δ及びvps10−2Δ変異のrhGCSF分泌に対する影響を、Sixfors発酵槽(ATR Biotech、メリーランド州ローレル(Laurel、MD))及びGCSF ELISAアッセイを使用して測定した(実施例10参照)。
【0118】
結果から、vps10−1Δ変異体yGLY9933はyGLY8538に対して7倍のrhGCSFを分泌することがわかった(図7A)。驚くべきことに、vps10−2Δ変異体yGLY10566は、検出可能なrhGSCFを分泌しなかった。yGLY10566の発酵上澄みに対してSDS−PAGE分析を行うと、全分泌タンパク質の大きな減少が示された(データは示していない)。これらの結果から、Vps10−1及びVps10−2の機能は、rhGCSFとの相互作用においては重複していないことがわかる。vps10−1Δvps10−2Δ二重変異体(yGLY10557)の力価結果は、vps10−2Δ変異がvps10−1変異よりも優先されることを示しており、そのため、rhGCSF(図7A)及び全分泌タンパク質の大部分が大きく減少した(図示せず)。これらの発酵サンプルの細胞溶解についても、上澄み分画中に細胞から放出された二本鎖DNAによって測定した。本発明者らは、発酵条件における酵母vps10変異体の開示を全く確認していないので、正常な液胞機能が変化する場合には、高バイオマス発酵条件中に、細胞適合性が低下し得る。このようなことが発生すると、細胞が溶解して、二本鎖DNAを上澄み分画中に放出することがある。しかし、図7B中に示されるデータから、vps10−1Δ及び/又はvps10−2Δの変異によって細胞溶解は誘導されていないことが示されている。
【実施例16】
【0119】
Vps10−1活性によってTNFRII−Fc力価が減少する
TNFRII−Fcも、N末端中に推定Vps10結合モチーフを有するので、本発明者らは、機能性Vps10−1を有する、及び有さない細胞系で発現ベクターpGLY3465を形質転換した。少なくとも11n独立した形質転換体について、タンパク質発現を誘導した。ELISA力価を個別に計算し、次に各宿主株について平均した。相対ELISA力価は、各宿主株の平均ELISA力価を野生型親株yGLY8292の平均ELISA力価で割ることによって求めた(図8)。このデータから、vps10−1Δ変異株(yGLY9992及びyGLY9993)が、親の野生型株yGLY8292よりも約10倍多いTNFRII−Fc分泌量を示すことが明確にわかる。
【実施例17】
【0120】
ピキア・パストリスVps10−1機能のモデル
データは、Vps10−1が、ピキア・パストリス中で分泌経路を輸送される組換えタンパク質と相互作用できることを示している。図9Aは、Vps10−1の正常な機能による組換えタンパク質の液胞への別の輸送を示しており、rhGCSFがモデルタンパク質として使用されている。対照的に、図9Bは、Vps10−1の活性が喪失又は低下した場合に、rhGCSFが上澄み分画中に効率的に分泌されることを示している。従ってVps10−1活性が低下すると、組換えタンパク質分泌に関して細胞はより生産的になる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
野生型ピキア・パストリス細胞に対して、液胞選別輸送活性が不足している、又は液胞選別輸送活性が低いピキア・パストリス細胞であって、前記宿主細胞が、液胞タンパク質選別輸送受容体10−1(VPS10−1)の機能欠失を含む、ピキア・パストリス細胞。
【請求項2】
異種タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む発現ベクターを含む、請求項1に記載のピキア・パストリス細胞。
【請求項3】
前記異種タンパク質が糖タンパク質である、請求項2に記載のピキア・パストリス細胞。
【請求項4】
グリコシル化パターンがヒト様である糖タンパク質を発現するように改変される、請求項3に記載のピキア・パストリス細胞。
【請求項5】
VPS10−1をコードする遺伝子が欠失し、VPS10−2をコードする遺伝子が欠失していない、請求項1〜4のいずれか一項に記載のピキア・パストリス細胞。
【請求項6】
VPS10−1をコードする遺伝子が、前記コードされたVps10−1タンパク質の液胞選別輸送活性が、非機能性となる又は活性を有さないようにする変異を含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載のピキア・パストリス細胞。
【請求項7】
Vps10−1活性の前記機能欠失が、前記VPS10−1遺伝子の上流又は下流制御配列欠失又は破壊、Vps10−1タンパク質の化学的、ペプチド、又はタンパク質阻害剤による液胞選別輸送活性の阻害、核酸系発現阻害剤による液胞選別輸送活性の阻害、並びに転写阻害剤による液胞選別輸送活性の阻害からなる群から選択される変化を含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載のピキア・パストリス細胞。
【請求項8】
酵母又は真菌の宿主細胞における組換えタンパク質の産生方法であって、
a.遺伝子操作した酵母又は真菌細胞を、前記タンパク質をコードする発現ベクターで形質転換して、宿主細胞を産生するステップであって、前記遺伝子操作した酵母又は真菌細胞が、同じ種の未改変の酵母又は真菌の宿主細胞に対して、液胞選別輸送活性が不足している、又は液胞選別輸送活性が低い、当該ステップと、
b.発酵条件下で前記タンパク質の発現が誘導される条件における培地中で、前記形質転換した酵母又は真菌の宿主細胞を培養するステップと、及び
c.前記タンパク質を、前記形質転換した宿主細胞又は培地から単離するステップと
を含む、方法。
【請求項9】
前記酵母又は真菌の宿主細胞が、ピキア・パストリス、サッカロマイセス・セレビシエ、アスペルギルス・ニガー、シゾサッカロミセス・ポンベ、カンジダ・アルビカンス、カンジダ・グラブラタ、ピキア・スチピチス、デバリオマイセス・ハンセニイ、クルイベロミセス・ラクチス、及びハンゼヌラ・ポリモルファからなる群から選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記酵母又は真菌細胞のゲノムからのVPS10又はVPS10ホモログをコードする遺伝子を欠失又は破壊によって、液胞選別輸送活性が喪失又は低下している、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
前記酵母又は真菌の宿主細胞がピキア・パストリスである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記VPS10ホモログVPS10−1が欠失している、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
ピキア宿主細胞における組換えタンパク質の産生方法であって、
a.遺伝子操作したピキア細胞を、前記タンパク質をコードする発現ベクターで形質転換して、宿主細胞を産生するステップであって、前記遺伝子操作したピキア細胞が、同じ種の未改変ピキア細胞に対して、液胞選別輸送活性が不足している、又は液胞選別輸送活性が低い、当該ステップと、
b.前記タンパク質の発現が誘導される条件下における培地中で、前記形質転換されたピキア宿主細胞を培養するステップと、
c.前記タンパク質を、前記形質転換された宿主細胞又は培地から単離するステップ
とを含む、方法。
【請求項14】
前記宿主細胞がピキア・パストリス宿主細胞である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記遺伝子操作したピキア・パストリス細胞がVPS10−1の欠失を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記遺伝子操作した宿主細胞が、正常な輸送パターンを変化させるVps10又はVps10ホモログの細胞質ドメインの変化を含む、請求項8〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
CPY液胞選別輸送経路に関連する1つ以上の遺伝子の欠失又は破壊によって、液胞選別輸送活性が低下又は喪失しており、前記1つ以上の遺伝子が、Gga1、Gga2、Mvp1、Pep12、Vps1、Vps8、Vps9、Vps15、Vps21、Vps19、Vps34、Vps38、Vps45、及びVti1からなる群から選択されるタンパク質をコードする、請求項8又は請求項9に記載の方法。
【請求項18】
Vps10の後期ゴルジへの再循環に関連するタンパク質をコードする1つ以上の遺伝子の欠失又は破壊によって、液胞選別輸送活性が低下又は喪失しており、前記1つ以上の遺伝子が、Grd19、Rgp1、Ric1、Vps5、Vps17、Vps26、Vps29、Vps30、Vps35、Vps51、Vps52、Vps53、及びVps54からなる群から選択されるタンパク質をコードする、請求項8又は請求項9に記載の方法。
【請求項19】
MVB機能に関連するタンパク質をコードする1つ以上の遺伝子の欠失又は破壊によって、液胞選別輸送活性が低下又は喪失しており、前記1つ以上の遺伝子が、Ccz1、Fab1、Hse1、Mrl1、Vam3、Vps2、Vps3、Vps4、Vps11、Vps13、Vps16、Vps18、Vps20、Vps22、Vps23、Vps24、Vps25、Vps27、Vps28、Vps31、Vps32、Vps33、Vps36、Vps37、Vps39、Vps41、Vps43、Vps44、Vps46、Vta1、及びYpt7からなる群から選択されるタンパク質をコードする、請求項8又は請求項9に記載の方法。
【請求項20】
前記発現ベクターが糖タンパク質をコードし、前記改変宿主細胞が、前記グリコシル化パターンがヒト様である糖タンパク質を発現するようにさらに改変されている、請求項8又は9に記載の方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【図4E】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13A】
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【図13B】
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【図13C】
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【図13D】
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【図13E】
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【図14A】
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【図14B】
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【図14C】
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【図14D】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【公表番号】特表2013−509180(P2013−509180A)
【公表日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−536916(P2012−536916)
【出願日】平成22年10月25日(2010.10.25)
【国際出願番号】PCT/US2010/053903
【国際公開番号】WO2011/053541
【国際公開日】平成23年5月5日(2011.5.5)
【出願人】(390023526)メルク・シャープ・エンド・ドーム・コーポレイション (924)
【Fターム(参考)】