説明

改善された培養培地添加物及びそれを用いる方法

本発明は、特定量のポリアミンおよび鉄を有する改善された細胞培養添加物, それを含んでいる培地並びに改善された細胞成長, 細胞生存度または細胞生産性のためそれを用いる方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の説明】
【0001】
本発明は、ポリアミンおよび鉄を有する改善された細胞培養添加物, それを含んでいる培地並びに改善された細胞成長, 細胞生存度または細胞生産性のためそれを用いる方法に関する。
【0002】
細胞培養法の開発は、とりわけ、生細胞濃度の全体(IVC: integral of viable cell concentration)を増加させること、細胞の産物形成を増加させることを目的としている。IVCは、直接的に産物濃度と相関する(Renard, J. M., et.al., Biotechnology Letters, 1988, 10(2): 91-96)。IVCを、生細胞濃度を増加させることにより又は培養時間を長くすることにより増加させることができる。細胞生存度が高いままである場合(例えば、定常の増殖期を長期化できる場合)、処理時間を長期化できる。良好な細胞培養培地または良好な細胞培養プロセスによって、全プロセスの間に全ての必要な基質(substrates)をともなう細胞が供給され、良好な細胞の成長, 生存度(viability)または産物形成(product formation)を生じる。
【0003】
ポリアミン(例えば、スペルミジンまたはスペルミン)は、細胞の成長および生産に必須なユビキタスな細胞成分である。それにもかかわらず、スペルミンは、血清添加培地中で接着し成長している BHK (乳児のハムスターの腎臓) 細胞に毒性であることが報告されている(Brunton, V.G. et.al., Biochem. J., 1991, 280: 193-198)。ウシ血清アルブミンの画分によって、ポリアミン(特に、スペルミン)の細胞毒性が促進される(Katsuta, H., Jpn J Exp Med., 1975, 45(5): 345-5)。CHO (チャイニーズハムスター 卵巣) 細胞を10 μMの第二鉄(1,6 mg/l)で処理し、スペルミンの濃度を増加(0〜100 μM, 最大 20,2 mg/l)させることで、血清添加培地中で用量依存的な様式で生細胞の数が減少する(Gaboriau, F., et.al., Biochemical Pharmacology, 2004, 67: 1629-1637)。ウシ血清は、ポリアミンの酸化的脱アミノ(oxidative deamination)を触媒する酵素 ウシ血清アミンオキシダーゼを含有する。WO 98/08934は、0,9〜18,1 mg/lのスペルミン(特に、9,05 mg/l)を含んでいる無血清培地を開示する。形成されたポリアミンの酸化物が、細胞毒性の原因である(Averill-Bates, et.al., Arch Biochem Biophys., 1993, 300(1): 75-9)。ポリアミンの酸化物は、細胞成長のネガティブレギュレータとしても作用しえる。
【0004】
要約すると、ポリアミンが細胞に必須であるとしても、哺乳類細胞に毒性であることを公開されたデータは実証している。従って、当業者は、細胞培養培地においてポリアミン濃度ではなく、プトレシン(ジアミン)を至適化することに焦点を合わせた。プトレシンは、ポリアミンの前駆体である。プトレシン含有培地の幾つかの例は、WO 2004/078955に記載される。
【0005】
少なくとも 0.5 mg/lのポリアミンを含んでいるオリゴペプチド-フリー培地(oligopeptide-free medium)は、細胞特異的な産生を促進することが示されている(WO 2007/077217)。最も効率的なアミンがプトレシンであることがさらに示された。スペルミン濃度を 2 mg/lをこえて増加させることによって、細胞の生産性は有意に増加しない。また、前記文書は、1,067 mg/lの付加的な Fe (II)での培地の補充を開示する。ポリアミン および 鉄の相乗効果は、認められていない。
【0006】
WO 98/08934は、0,28 mg/l〜1,1 mg/lのFe2+ および/または Fe3+を含んでいるスペルミン含有培地を開示する。
【0007】
以上のように、培養培地、それに補充する添加物の条件がなおも必要とされており、これにより細胞成長, 細胞生存度および細胞生産性の改善が提供される。
【0008】
本発明の根底にある技術的な課題は、上記の不利な点を克服し、特に増加したIVC および/または増加した細胞の産物形成での細胞培養法を可能にする細胞の培養培地, 成分およびその使用を提供することである。
【0009】
本発明は、上記の課題を独立型式請求項に教示される条件により解決する。特に、本発明は、少なくとも一つのポリアミンを少なくとも, 好ましくは 20 mg/lより高い濃度、少なくとも一つの鉄源を少なくとも, 好ましくは 2 mg/lより高い濃度で含んでいる細胞培養添加物を提供する。
【0010】
驚くことに、培養培地において通常よりも有意に高いポリアミン濃度が、細胞に毒性ではなく、代わりに細胞成長, 細胞生存度および/または細胞生産性を促進することを我々は見いだした。理論に縛られることなく且つ拘束力のない様式(non-binding way)で、細胞が培養培地においてプトレシンなどのジアミンとともに供給される場合、それらは細胞のポリアミン(スペルミンのような)をプトレシンから細胞エネルギーを用いて合成することを我々は信じる。加えて、前記の細胞ポリアミン合成は、おそらく急速な細胞成長のため十分に大きい内部のポリアミンプールを蓄積するためかなりの時間を必要とする。他方で細胞の培養培地におけるポリアミン濃度が増加する場合、細胞代謝はポリアミンを合成する必要がなく、成長および生産性のための細胞エネルギーを保存する。
【0011】
鉄の酸化物(oxidative products)が細胞に毒性であり、これらが高い鉄濃度および/または長い処理時間で特に形成されることが知られており、ラットの肝細胞腫(hepatoma cells)のミトコンドリアDNAが培養培地において100 μMの第一鉄(Fe2+)または第二鉄(Fe3+)の鉄のいずれかの存在下で障害をうけることが知られているにもかかわらず(Itoh, H. et.al., Arch Biochem Biophys., 1994, 313: 120-125)、本発明は本発明のポリアミン含有添加物及びそれらを含んでいる培地において高い鉄濃度を適用する。驚くことに、高い鉄濃度によって、培養培地においてポリアミンの存在下で細胞成長が促進する。アミノ基により、ポリアミンは明らかに金属性の陽イオンをキレートできる。これらのキレートの安定度定数(stability constants)は、アミノ基の数およびポリアミンの鎖長とともに増加する。従って、理論に縛られることなく且つ拘束力のない様式で、ポリアミンがキレート形成をとおした鉄酸化に対して保護の役割を担っていることを我々は信じる。ポリアミンは、鉄イオンに結合し、鉄の酸化状態を安定化し、鉄の細胞への輸送を補助すると我々は信じる。ポリアミンは、Fe2+/Fe3+イオンの沈殿を予防するキレーターとしても作用しえる。
【0012】
今回使用される高い濃度のポリアミンと組み合わせた鉄源は、細胞成長, 細胞生存度または細胞生産性を促進する。我々の所見によると、ポリアミンは、培地において、基質であるのみならず、Fe2+, Fe3+, Cu2+, Zn2+ などの陽性に荷電したイオン(遷移金属などのような)の担体としても機能しえる。ポリアミン ― 鉄複合体の効率的な形成に関して、高いポリアミンおよび鉄濃度は有益である。前記の形成されたポリアミン ― 鉄複合体は、細胞に摂取され、より良い細胞の鉄 および ポリアミンの供給が保証され、高い細胞成長, 細胞生存度 および/または 細胞生産性がえられる。ポリアミンおよび鉄の濃度を、本発明による培養培地中で本発明の濃度に増加させるべきである。
【0013】
本発明によるポリアミンおよび鉄源を供給することは、特に高い細胞密度の生産方法または長期の処理時間での生産方法(流加法または灌流法のような)に有用である。処理時間の増加とともに、ポリアミンおよび鉄源を培養に添加してそれらの制限を回避することが重要となる。両方の物質(ポリアミンおよび鉄源)は酸化に感受性であるため、それらを酸化から防御すること及びそれらの濃度を高い細胞密度に対応させて増加させることが重要なので、ポリアミン ― 鉄複合体を提供するために両方の物質を共に 高い濃度で供給するとの本発明で提供される教示は非常に有用である。
【0014】
特に、本発明は、上記の課題を、前記培養添加物(特に培養培地添加物)を供給することにより解決する、さらに高いポリアミン(特に、スペルミンまたはスペルミジン), およびさらに高い鉄源濃度の特定の組み合わせで規定される前記培養添加物を含む培養培地を供給することにより解決する。
【0015】
従って、本発明は、特に上記にしたがった培養添加物の好適な態様に関し、この態様において、前記ポリアミンは、少なくとも, 好ましくは 25をこえる, 少なくとも, 好ましくは 30をこえる, 少なくとも, 好ましくは 35をこえる, 少なくとも, 好ましくは 40をこえる, 少なくとも, 好ましくは 45をこえる濃度を含有する,または特に好適な態様において、少なくとも, 好ましくは 50 mg/lをこえる濃度を含有する。さらに好適な態様において、本発明は上記にしたがった培養添加物を提供し、この態様において、鉄源の濃度は少なくとも, 好ましくは 5をこえる, 少なくとも, 好ましくは 10をこえる, 少なくとも, 好ましくは 15をこえる, 少なくとも, 好ましくは 50をこえる, 少なくとも, 好ましくは 100をこえる, 少なくとも, 好ましくは 240をこえる,または特に好適な態様において、少なくとも, 好ましくは 480 mg/lをこえる。
【0016】
本発明のさらに好適な態様において、本発明の培養培地は、ポリアミンの濃度が30〜120 mg/l, 特に40〜120 mg/lの培養培地である。特に好適な態様において、培養培地は、50〜900 mg/l, 好ましくは50〜450 mg/lの鉄源の濃度を有する。本発明のさらに好適な態様において、培養培地は、30〜120 mg/lのポリアミンの濃度を有し、鉄源の濃度は50〜900 mg/l, 特に 50〜450 mg/lである。鉄源に関して本発明において記載される全ての濃度値は、他に記載しないかぎり、鉄自身のみならず、全鉄源の質量に関連する。
【0017】
本発明において、培養添加物は、培養培地の成分となることが意図され、一態様において、本発明にしたがって少なくとも一つの ポリアミン および 少なくとも一つの鉄源の必要とされる濃度を有する本発明の培養培地を提供するために当該技術の培養培地の従来の状態の量で添加できる。もちろん、様々な成分を本発明の培養添加物に添加して、本発明の培養培地を形成することにより本発明の培養培地を調製することも可能である。一つの好適な態様において、培養添加物は、培養培地に関して上記のように、ポリアミンおよび鉄源を2〜10000 倍, 好ましくは10〜1000 倍, 特に100 倍と高い濃度で含む。即ち、培養添加物は、60〜1200000 mg/lのポリアミンの濃度を有し、鉄源濃度は100〜9000000 mg/l, 特に100〜4500000 mg/lである。さらに好適な態様において、培養添加物は、300〜120000 mg/lのポリアミンの濃度を有し、鉄源の濃度は500〜900000 mg/l, 特に 500〜450000 mg/lである。さらに好適な態様において、培養添加物は、4000〜12,000 mg/lのポリアミンの濃度を有し、鉄源の濃度は5000〜90,000 mg/l, 特に 5000〜45,000 mg/lである。特に好適な態様において、本発明の培養培地は、例えば、培養培地において本発明の培養添加物を少なくとも一つの ポリアミンの少なくとも 20, 25, 30, 35, 45または特に50 mg/lの濃度および少なくとも一つの 鉄源の少なくとも 2, 5, 10, 15, 50, 100, 240 および少なくとも 480 mg/lの濃度を提供する量で含む。特に好適な態様において、本発明の培養培地は、例えば、本発明の培養添加物を少なくとも一つの ポリアミン を30〜120 mg/lの濃度および少なくとも一つの 鉄源を50〜900 mg/l, 好ましくは 50〜450 mg/lの濃度を提供する量で含む。
【0018】
更なる好適な態様において、本発明の培養添加物は、培養培地添加物(culture medium additive)である。さらに好適な態様において、培養培地は、細胞培養培地(cell culture medium)である。さらに好適な態様において、培養培地は、フィーディング培地である。
【0019】
次の用語は同義で同じ意味である: 「培養培地(culture medium)」および「細胞培養培地(cell culture medium)」。「培養培地」は、細胞の培養またはインキュベーションに適切な培地である。係る培養培地は、細胞統合性(cell integrity)または細胞生存度または細胞成長または細胞生産性を維持するための栄養分を含有してもよい。培養培地として好適なものは、液体の培養培地である。特に好適な培養培地は、WO 2007/036291に記載され、本発明に使用し得る。基礎培地(basal medium)は、培養培地の特別の態様であり、好ましくは他の成分(例えば、フィード培地)と組み合せてもよい。特に好適な基礎培地は、細胞成長, 細胞生存度 および 細胞生産性のため全ての必要な物質を含有する。特に、好適な基礎培地は、例えば、グルコース 1.0 - 6.0 g/l, NaCl 2.8 - 6.2 g/l, KCl 273 - 945 mg/l, CaCl2 48 - 290 mg/l, MgCl2 42 - 330 mg/l, NaH2PO4 56 -1130 mg/l, アルギニン 56 - 930 mg/l, アスパラギン 44 - 900 mg/l, アスパラギン酸 26 - 445 mg/l, システイン 35 - 270 mg/l, グルタミン酸 44 - 900 mg/, グルタミン 44 - 900 mg/l, グリシン 18 - 180 mg/l, ヒスチジン 42 - 670 mg/l, イソロイシン 54 - 877 mg/l, ロイシン 59 - 1250 mg/l, リジン 73 - 1120 mg/l, メチオニン 9 - 454 mg/l, フェニルアラニン 35 - 677 mg/l, プロリン 17 - 828 mg/l, セリン 26 - 1339 mg/l, スレオニン 24 - 989 mg/l, トリプトファン 9 - 441 mg/l, チロシン 55 - 565 mg/l, バリン 52 - 787 mg/l, NaHCO3 2,4 g/lを含有してもよいが、これらに限定されない。好適な基礎培地は、さらに脂肪酸およびヌクレオチドを含んでもよい。
【0020】
次の用語は同義である: 「フィード培地(feed medium)」, 「フィーディング培地(feeding medium)」「灌流培地(perfusion medium)」。「フィード培地」は、培養培地の特別の態様であり、培養プロセスの間に細胞培養に添加される。換言すれば、フィード培地は、細胞を第一の培地(例えば、基礎培地)と接触させた後に細胞培養に添加される培地である。フィード培地の培養への添加は、例えば、培養物の生存期間(culture longevity)を延長できる, 細胞生存度を増加できる, 細胞濃度を増加できる,または産物濃度を増加できるなどの幾つかの目的がある。特に好適なフィード培地は、WO 2007/036291に記載され、本発明に使用し得る。本発明の好適なフィード培地は、細胞成長, 細胞生存度 および 細胞生産性のため全ての必要な物質を含有する。フィード培地は、例えば、塩に限定されず、好ましくは、微量元素, 炭水化物, アミノ酸, 脂肪酸, pH 制御因子 および ヌクレオチドを含有する。一または二以上の上記の物質のみからなるフィード培地も適切である。
【0021】
本発明によると、本発明のポリアミンおよび鉄濃度(即ち、本発明の培養添加物)は、好適な態様において、培養培地, 基礎培地またはフィード培地に使用できる。従って、本発明において、培養添加物を含んでいる培養物または細胞培養培地は、上記の培養添加物を含有する培養培地, 基礎またはフィード培地を意図する。
【0022】
培養添加物は、特に好適な態様において、少なくとも一つのポリアミンおよび少なくとも一つの鉄源に加えて少なくとも一つの溶媒(例えば、水または水性の塩溶液)を含んでもよい。従って、培養添加物は、好適な態様において、液体の形態であってもよい。
【0023】
本発明の培養添加物が添加される培養培地は、従来の培養培地であってもよい。本発明の培養培地は、例えば、溶媒, 一例を挙げると水, ビタミン, 塩, 炭素源および/または窒素源, アミノ酸, pH 制御因子, 微量元素, 脂肪酸, ヌクレオチドなどの本発明の培養添加物以外の他の成分を含有してもよい。特に、本発明の培養培地は、水性培地(aqueous medium)である。
【0024】
哺乳類細胞の細胞培養は、現在では科学の教科書およびマニュアルに記載されたルーチン作業である。例えば、文献(R. lan Fresney, Culture of Animal cells, a manual, 4th edition, Wiley-Liss/N.Y., 2000)に詳細に記載されている。一例を挙げると、哺乳類細胞株のため、本発明の培養添加物と組み合わせた使用のための培養培地および培養方法は、それ自体当該技術分野において周知である。係る培養培地は、好ましくは溶媒(例えば、水), 炭素源, 窒素源, アミノ酸, pH 制御因子, 微量元素, 脂肪酸, ヌクレオチドから構成される。本発明のための好適な培養培地は、特定の細胞タイプの必要性に適応されえる標準の細胞培養培地であり、Roswell Park Memorial Institute (RPMI) 1640 培地, L-15 培地, ダルベッコの修正イーグル培地(DMEM), イーグルの最小必須培地培地(MEM), ハムのF12 培地またはIscovesの修正DMEMが含まれるが、これらに限定されない。他の好適な培地は、一例を挙げると、特にCHO細胞培養のため設計されたハムのF10またはF12培地である。本発明のための他の好適な培地は、特にCHO 細胞培養に適応され、EP 0 481 791などに記載される。本発明のため好適な培養培地は、商業的に利用可能な培地であってもよく、例えば、CD CHO (ギブコ, 10743), ProCHO5 (BioWhittaker, BE12-766Q), HyQSFM4CHO (HyClone, SH30548.02)であるが、これらに限定されない。
【0025】
本発明の細胞培養培地は、本発明の好適な態様においてタンパク質を含んでもよい。これらのタンパク質は、組換え型で産生することができる又は天然の供給源から単離することができ、例えば、トランスフェリン, インシュリンまたはウシ血清アルブミンなどである。前記タンパク質は、好適に組換え型で産生され、例えば、組換え型インシュリンまたは組換え型ウシ血清アルブミンまたは組換え型ヒト 血清アルブミンである。
【0026】
本発明の特に好適な態様において、本発明の培養添加物 および/または 培養培地は、無タンパク質(protein-free)である。
【0027】
本発明のさらなる好適な態様において、本発明の培養添加物 および/または 培養培地は、無グルタミン(glutamine-free)である。
【0028】
本発明の特に好適な態様において、本発明の培養添加物 および/または 培養培地は、動物成分(animal components)が無い。
【0029】
一態様において、本発明の好適な培養培地は、動物の供給源, 植物の供給源または酵母からの加水分解産物を含んでもよい。好適なものは、大豆ペプトンまたは酵母の加水分解産物などの植物の供給源からの加水分解産物である。一態様において、本発明の培養培地は、ペプチドを含んでもよい。前記ペプチドは、ジペプチド, トリペプチド, オリゴまたはポリペプチドであってもよい。
【0030】
特に好適な態様において、本発明の培養添加物 および/または 培養培地は、無血清(serum-free)である。特に好適な態様において、本発明の培養添加物 および/または 培養培地は、無タンパク質である。特に好適な態様において、本発明の培養添加物 および/または 培養培地は、動物から単離された産物が無い。本発明の特に好適な態様において、前記培養添加物 および/または 培養培地は、加水分解産物が無い。さらに好適な態様において、前記培養添加物 および/または 培養培地は、ペプチドが無い。
【0031】
好適な態様において、本発明の培養添加物または培養培地は、一または二以上の他の細胞性の栄養素(cellular nutrients)、即ち、炭素源(例えば、グルコース)および窒素源(例えば、アミノ酸)および/または塩を含む。本発明によると、本発明の培養添加物は、好適な態様において、一つの鉄源を含んでいる貯蔵溶液および一つのポリアミンを含んでいる貯蔵溶液などの一または二以上の貯蔵溶液(stock solutions)の形態であってもよい。別の好適な態様において、貯蔵溶液は、少なくとも一つの ポリアミン および 少なくとも一つの鉄源の両方を含有する。ポリアミン および/または 鉄源は、好ましくは前記貯蔵溶液中で高度に濃縮されてもよい。貯蔵溶液は、塩またはpH制御因子などの付加的な成分を含有してもよい。係る貯蔵溶液は、本発明の培養培地を形成するため培養培地に又はフィード培地に又は細胞培養に添加されることにより使用できる。貯蔵溶液は、本発明において「キット」としても規定される。キットを加えることで、ポリアミンおよび鉄の所望の濃度が最終的な培地において又は細胞培養において調整される。
【0032】
また、培養培地または培養添加物は、付加的な物質, 特にオーリントリカルボン酸 (ATA: aurin tricarboxylic acid), ジクロロ酢酸 (DCA) および/または コハク酸を含んでもよい。もちろん、一または二以上の酸が、その塩および誘導体の形態で存在してもよい。本発明によると、ポリアミンおよび鉄源は、本発明の培養添加物または培養培地の好適な態様においてジクロロ酢酸,またはその塩または誘導体(例えば、ジクロロ酢酸(DCA)またはその塩、例えば、ジクロロ酢酸ナトリウム)と組み合せることができる。
【0033】
本発明によると、ポリアミンおよび鉄源は、本発明の培養添加物または培養培地の好適な態様においてコハク酸またはその塩(例えば、第2コハク酸ナトリウム六水和物)と組み合せることができる。
【0034】
本発明によると、ポリアミンおよび鉄は、本発明の培養添加物または培養培地の好適な態様においてオーリントリカルボン酸 (ATA)またはその塩と組み合せることができる。
【0035】
特に好適な態様において、培養培地または培養添加物は、スペルミン, クエン酸鉄, ジクロロ酢酸ナトリウム, 第2コハク酸ナトリウム六水和物(sodium succinate dibasic hexahydrate)およびオーリントリカルボン酸を含む。
【0036】
特に好適な態様において、本発明の培養添加物は、100〜900( 好ましくは400 )mg/lのポリアミン, 特にスペルミン, 1〜10(好ましくは4 )g/lの鉄源, 特にクエン酸鉄および任意で一または二以上の5〜100(好ましくは20 )mMのジクロロ酢酸ナトリウム, 5〜100(好ましくは30 )g/lの第2コハク酸ナトリウム六水和物および 5〜100(好ましくは25 )mg/lのオーリントリカルボン酸を含む。
【0037】
「ポリアミン」の用語は、炭素, 窒素, および 水素から構成され、二または三以上のアミノ基を含んでいる有機化合物を同定することを意図する。本発明における使用のため特に好適なポリアミンの例は、スペルミン, スペルミジン, ノルスペルミン, ノルスペルミジン, ホモスペルミン, ホモスペルミジン, カダベリン, プトレシン, アグマチン および オルニチンである。一または二以上のポリアミンの水和または脱水された形態, 様々な塩の形態または組み合わせは、全てポリアミンの用語に含まれる。
【0038】
「鉄(iron)」の用語は、55,845の原子量を有する遷移金属 Feを意味する。鉄の用語は、一または二以上の鉄イオン(例えば、Fe3+ および/または Fe2+イオン)を含んでいる全ての分子を含む総称的な用語を意味する。Fe3+ および/または Fe2+ イオンは、鉄塩の形態で生じえる。鉄塩は、水和または脱水されえる。特に好適な態様において、鉄源は、Fe (II) および/または Fe (III)イオンを含有する。特に好適な態様において、本発明に使用する鉄源は、リン酸鉄(III), ピロリン酸鉄(III), 硝酸鉄(III), 硫酸鉄(II), 塩化鉄(III), 乳酸鉄(II), クエン酸鉄(III), クエン酸アンモニウム鉄(III), 鉄-デキストラン(iron-dextran)およびエチレンジアミン四酢酸 第二鉄ナトリウム(ethylenediaminetetraacetic acid ferric sodium salt)又はその水和または脱水された形態からなる群から選択される。
【0039】
また、鉄は、別の分子(例えば、担体またはキレーター)と複合(complexed)されえる。鉄とキレータとの複合の幾つかの特に好適な例は、乳酸鉄(II)水和物, クエン酸鉄(III) (CAS ナンバー: 3522-50-7), クエン酸アンモニウム鉄(III), 鉄-デキストラン および エチレンジアミン四酢酸第二鉄ナトリウム(CAS ナンバー: 15708-41-5)である。
【0040】
また、鉄は、US 6,048,728に記載されたものなどの次の付加的な分子、即ち、ピリドキシル イソニコチノイル ヒドラゾン, クエン酸塩(citrate), クエン酸コリン, アセチルアセトナート, および種々の他の有機酸、例えば、リンゴ酸, コハク酸, フマル酸, およびアルファケトグルタル酸と複合されてもよい。さらに本発明に使用する鉄キレーターは、WO 2001/016294に記載される。
【0041】
本発明における使用のための幾つかの特に好適な鉄の例は、リン酸鉄(III), ピロリン酸鉄(III)水和物, デキストラン鉄(iron dextran), 硝酸鉄(III) 九水和物, 硫酸鉄(II) 七水和物, 塩化鉄(III) 六水和物, クエン酸鉄(III), クエン酸アンモニウム 鉄(III)である。
【0042】
また、本発明は、本発明による培養添加物が液体培地(特に、当該技術の通常の培養培地)に添加される培養培地を調製するための方法に関する。
【0043】
また、本発明は、本発明による培養添加物の培養培地を調製するための使用に関する。
【0044】
本発明のさらなる側面は、少なくとも一つのポリアミンを少なくとも, 好ましくは 20 mg/lより高い濃度、少なくとも一つの鉄源を少なくとも, 好ましくは 2 mg/lより高い濃度で含有する培養培地と細胞を接触させる方法である。本発明の好適な態様において、細胞を本発明による培地で培養することは、ポリアミンまたは鉄または両方の濃度を培養器などにおいて徐々に増加させることを含み、これらの成分の好適な最終的な濃度が細胞培養の間にえられる。好適な態様において、一つ又は両方の物質の濃度を増加させることは、ポリアミンおよび/または鉄源を培養培地に又は一または二以上の貯蔵溶液から細胞培養に添加することにより実施してもよい。
【0045】
また、本発明は、細胞を培養培地中で培養する方法に関し、該方法において、
a) 前記細胞および第一の培養培地が提供され、
b) 前記細胞は、前記第一の培養培地において前記細胞および前記第一の培養培地の維持に妥当な条件下で培養され、
c) 少なくとも一つのポリアミン源または少なくとも一つの鉄源または両方は、前記第一の培養培地に細胞を播種(inoculating)する前または前記第一の培養培地に細胞を播種する後または培養の間に前記第一の培養培地に添加され、
工程a), b) およびc)において存在し、添加された全てのポリアミンの合計および工程a), b) およびc)において存在し、添加された全ての鉄源の合計は、本発明による濃度を生じる(特に、少なくとも一つの ポリアミンの少なくとも 20 mg/lの濃度および少なくとも一つの鉄源の少なくとも 2 mg/lの濃度を生じる)。
【0046】
従って、本発明は細胞を培養培地中で培養する方法を予見(envisages)し、次の事項が予期(foresees)される。その事項とは、培養の間に添加されたポリアミンを含む(および、おそらく、既に消費されたポリアミンを含む)培養培地に存在する全てのポリアミンの合計並びに培養の間に添加された鉄源を含む(および、おそらく、既に消費された鉄源を含む)培養培地に存在する全ての鉄源の合計が、本発明による理論的な濃度であることであり、少なくとも一つのポリアミンの合計は少なくとも 20 mg/l、少なくとも一つの鉄源の合計は少なくとも 2 mg/lであるような理論的な濃度であることを意味する。
【0047】
本発明によると、全ての既知の細胞培養方法の態様は、本発明の適用に適切である。本発明の好適な方法の態様は、高い細胞密度の方法である。高い細胞密度の方法は、細胞濃度が 1x105/ml, 好適には 1x106/ml, 最も好適には 1x107/mlを超える方法と規定される。
【0048】
本発明によると、好適な態様は、連続法(continuous processes), バッチ法(batch processes), 分割-バッチ法(split-batch processes), 流加法(fed-batch processes)または灌流法(perfusion processes)である。特に好適な態様において、細胞を培養する方法は、流加法である。方法の態様の詳細は、当業者に周知である。方法の態様のより詳細な定義は、WO 2007/036291に記載される。拘束力のない例として、典型的な流加法は、培養培地に細胞を播種することで開始される。細胞を培養培地と接触させた後、細胞培養は別の培地(例えば、フィード培地)と接触される。細胞をフィード培地(フィーディング)と接触させることは、播種の1〜4 日後であってもよいが限定されない。フィード培地を細胞培養に付加することは、連続的, インターバルまたはバッチであってもよい。培養の容量は、フィード培地の培養への付加で増加されえる。
【0049】
本発明によると、好適なものは、長い培養時間の方法である。長い培養時間は、少なくとも 4 日以上, 好ましくは少なくとも 8 日以上, より好ましくは少なくとも 10 日以上, より好ましくは少なくとも 12 日以上, 最も好ましくは少なくとも 14 日以上である産生工程(n 工程)の処理時間と規定される。
【0050】
本発明は、何らかのタイプの細胞に限定されない。細胞タイプの例には、哺乳類細胞, 昆虫細胞, 細菌細胞, および酵母細胞が含まれる。細胞は、初代細胞(primary cells)または幹細胞であってもよい。細胞は、形質転換またはトランスフェクトされていない天然の細胞であってもよい。細胞は、組換え型の遺伝子発現のための一または二以上のベクターでトランスフェクトまたは形質転換された組換え型の細胞であってもよい。細胞は、何らかの産物(例えば、ウイルス性の産物)を産生されるためのウイルスで形質転換できる。細胞は、ハムスター, マウス, ヒトまたは任意の他の動物から由来できる。細胞は、細胞株であってもよく、例えば、CHO 細胞, NS0 細胞, Per.C6 細胞, BHK 細胞, SP2/0 細胞であるが、これらに限定されない。
【0051】
以上のように、本発明は、細胞を培養培地中で培養するための方法に関し、該方法において、a) 本発明による細胞および培養培地が提供され、b) 前記細胞は前記培養培地中で維持(maintenance)に妥当(appropriate)および適切(suitable)な条件下で培養される(つまり、前記培養において前記細胞を培養するため, 特に前記細胞の成長および/または増幅の条件を提供するため、及び/又はこれらの細胞の産物の産生のため)。
【0052】
特に好適な態様において、細胞は、培地中で二継代をこえるか又は4 日をこえて培養される。さらに好適な態様において、細胞を培養培地中で培養するための方法は、細胞の産物(特に発現されるタンパク質、特に細胞から発現され、分泌されるもの)の生産方法である。
【0053】
さらに好適な態様において、本発明は、細胞を培養培地中で培養する方法に関し、該方法において、a) 前記細胞および第一の培養培地(特に、従来の培養培地)が提供され、b) 前記細胞は、前記第一の培養培地中で前記培養における前記細胞の維持に妥当な条件下で培養され、本発明による少なくとも一つの培養添加物が、a) 前記培養培地に細胞を播種する前に、および/またはb) 前記培養培地に細胞を播種する後に、および/またはc) 培養の間に、および/またはd) 培養の開始および間で、添加されて、連続的(successively)に調製される様式で(つまり、本発明の高い濃度に徐々にポリアミンおよび/または鉄源の濃度を増加させることにより)本発明の培養培地である第二の培養培地が提供される。
【0054】
本発明のさらに好適な態様は、引用型式請求項の主題である。
【0055】
以下の例および添付される図面によって、本発明がさらに詳細に記載される。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】高細胞密度の流加法におけるポリアミンおよび鉄の相乗効果を示す。
【図2】バッチ法(batch process)において100 mg/lのピロリン酸鉄(III)の存在下でポリアミン源としてスペルミジンを使用した図を示す。
【図3】高細胞密度の流加法における100 mg/lのピロリン酸鉄(III)の存在下でのスペルミジン濃度の効果を示す。
【図4】バッチ法における40 mg/lのスペルミンの存在下での鉄濃度の効果を示す。
【図5】バッチ法における鉄源単独およびスペルミンとの組み合わせの効果を示す。
【図6】高細胞密度の流加法における鉄源単独およびスペルミンとの組み合わせの効果を示す。
【図7】スペルミン濃度とクエン酸鉄(III)の陽性の効果を示す。
【図8】スペルミン濃度とリン酸鉄(III)の効果を示す。
【図9】スペルミン濃度と鉄-デキストランの効果を示す。
【0057】
[例]
材料および方法
細胞
全ての実験に関して、CHO DG44宿主細胞系統 (Urlaub und Chasin, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 1980, 77: 4216)を使用した。この宿主細胞系統は、IgG 抗体の遺伝子を保持しているベクターでトランスフェクトされた。トランスフェクタントを、培養培地中でMTXを用いて増幅した。抗体産生性のクローンを単離し、このクローンを全ての実験に使用した。
【0058】
細胞培養条件
保存培養細胞(Stock culture cell)を、振盪フラスコまたはスピナーフラスコにおいて維持した。保存培養物(stock culture)を、二または三日ごとに新鮮な培養培地に分けた。つまり、細胞培養の少量を播種物(inoculum)として使用し、新しいフラスコに移し、新鮮な培養培地を補充する。細胞を、37 ゜C、CO2 雰囲気でインキュベーター中で培養した。この様式で、細胞を幾つかの継代で培養した。一継代は、2-4 日の培養時間と規定される。異なるタイムポイントで、播種細胞を保存培養物からとり、実験を6-ウェルプレート, 振盪フラスコ, T-フラスコ, スピナーフラスコおよびバイオリアクターなどの様々なスケールで行った。
【0059】
培養培地
以下の基礎培地(以下で専有の培養培地とも称される)を、保存培養物, 培養拡大工程(culture expansion step)および産生工程(production step)などの全ての工程における細胞の培養のために使用した。基礎培地は、細胞成長, 細胞生存度 および 細胞生産性のため全ての必要な物質を含有する。基礎培地は、グルコース 1.0 - 6.0 g/l, NaCl 2.8 - 6.2 g/l, KCl 273 - 945 mg/l, CaCl2 48 - 290 mg/l, MgCl2 42 - 330 mg/l, NaH2PO4 56 -1130 mg/l, アルギニン 56 - 930 mg/l, アスパラギン 44 - 900 mg/l, アスパラギン酸 26 - 445 mg/l, システイン 35 - 270 mg/l, グルタミン酸 44 - 900 mg/, グルタミン 44 - 900 mg/l, グリシン 18 - 180 mg/l, ヒスチジン 42 - 670 mg/l, イソロイシン 54 - 877 mg/l, ロイシン 59 - 1250 mg/l, リジン 73 - 1120 mg/l, メチオニン 9 - 454 mg/l, フェニルアラニン 35 - 677 mg/l, プロリン 17 - 828 mg/l, セリン 26 - 1339 mg/l, スレオニン 24 - 989 mg/l, トリプトファン 9 - 441 mg/l, チロシン 55 - 565 mg/l, バリン 52 - 787 mg/l, NaHCO3 2,4 g/lを含有する。基礎培地は、さらに脂肪酸およびヌクレオチドを含む。全てのバッチおよび流加実験において、他に記載しないかぎり、同じ専有の培養培地および専有のフィード培地を使用した。流加実験に使用されるフィード培地(以下で「専有のフィード培地(proprietary feed medium)」とも称される)は、細胞成長, 細胞生存度および細胞生産性のための全ての必要な物質(特に、塩, 微量元素, 炭水化物, アミノ酸, 脂肪酸, pH 制御因子, ヌクレオチド)を有する。上記の物質を含んでいるリッチなフィード培地を使用したとしても、フィード培地がこれらの成分の全てを含んではならない。一または二以上の上記の物質からなるフィード培地も適切である。基礎培地 および フィード培地の両方は、無血清, 無タンパク質 , 無ペプトン(peptone free)および無ペプチド(peptide free)である。しかしながら、一または二以上の上記の添加物での培地の補充は可能である。以上のように、双方の培地は、化学的に規定され、単一の、完全に規定された化学物質のみからなるものである。
【0060】
実験を、バッチまたは流加の様式で行った。実験が流加の様式で設計される場合、フラスコに保存培養細胞を産生培地(培養培地)において播種することにより開始された。培養フラスコを、2〜4 x105 生細胞/ミリリットルの播種細胞密度(inoculation cell density)で播種した。細胞を、1〜4 日培養した。その後、培養にフィード培地が初めて(first time)補充された。フィーディングを、バッチで1〜3 日毎に行った。培養のフィード培地でのフィーディングは、バッチで行った〔ボーラス添加(bolus addition)〕}。培養物のフィーディングも、特にバイオリアクターにおいて連続的に実施できる。流加実験において、二つの異なるフィード培地を使用した。しかしながら、一または二以上の異なるフィード培地を使用することが可能である。培養物は、細胞生存度が50%よりも大きい限りインキュベーションされた。その結果、培養時間は、約 10〜18 日であった。毎日サンプルを培養から採取し、細胞の計数および代謝産物の測定などの分析を行った。抗体濃度を、細胞培養の上清でELISAまたはプロテインA HPLCを用いて決定した。
【0061】
貯蔵溶液を検査物質から調製し、基本培地および/またはフィード培地を終濃度を達成するために補充した。他に記載がないかぎり、全ての 化学物質は、Sigma (St. Louise, MO)から取得した。本発明の例において、化学物質のSigmaのカタログ番号が与えられる。保存培養細胞を、検査物質を含んでいる産物フラスコを播種する前に遠心した。細胞ペレットを、対応する培地で再懸濁した。この様式で、播種物の培養を通じての物質のキャリーオーバー効果を避けた。しかしながら、現実の産生条件下で、播種物の培養物の遠心分離は、必要とされず、行われない。
【0062】
例 1: ポリアミンおよび鉄の別々および組み合わせの試験
この例は、ポリアミン および 鉄の高濃度の組み合わせの相乗効果を実証した。細胞培養培地は、鉄源およびポリアミン源なし(w/o)で調製された。対応する量の貯蔵溶液を、培養培地にピペットして、検査物質(即ち、ポリアミンおよび鉄源)の終濃度を調整した。次に、そのように調製した培養培地に細胞を播種した。実験を、流加の様式で行った。使用されたフィード培地は、ポリアミンおよび鉄を含まない。図 1は、鉄が細胞成長に必須であることを実証している。最も重要なこととして、スペルミンおよび鉄の両方が同じ時間で高濃度で利用可能である場合、細胞成長が刺激される。両方の物質が細胞成長に相乗効果を示したことは我々を驚かせた。
【0063】
例 2: バッチ操作における高濃度でのポリアミン源としてのスペルミジンの試験(SF40)
目的は、スペルミジンが細胞成長においてスペルミンと類似する陽性の効果を有することを実証することである。
【0064】
細胞培養培地は、ポリアミン源なしで100 mg/lのピロリン酸鉄 (III) 水和物(P6526)で調製された。スペルミジン(S4139)の貯蔵溶液が調製された。対応する量のスペルミジン貯蔵溶液を、培養培地にピペッティングして、スペルミジンの終濃度を調整した(図 2の説明から明らか)。次に、そのように調製した培養培地に細胞を播種した。実験を、バッチの様式で行った。図 2は、スペルミジンが利用可能である場合、細胞がバッチ操作において高い濃度に達することを実証している。スペルミジンの毒性が試験した高濃度では認められなかったことは我々を驚かせた。
【0065】
例 3: 高濃度のスペルミンは高細胞密度の流加操作に必要とされるか(FB117)?
典型的には、流加法におけるピークの細胞濃度は、バッチ操作におけるよりも高い。従って、栄養分濃度の要求は、バッチ操作と比較して高い。特に、細胞濃度が1x107/mlをこえる高い細胞密度プロセスにおいて、よりスペルミン および 鉄が必要とされるだろう。
【0066】
細胞培養培地は、ポリアミン源なしで100 mg/lのピロリン酸鉄 (III) 水和物(P6526)で調製された。スペルミン(S4264)の貯蔵溶液は、40 g/lの濃度で調製される。対応する量の貯蔵溶液を、培養培地にピペッティングして、スペルミンの終濃度を調整した(図 3の説明から明らか)。次に、そのように調製した培養培地に細胞を播種した。実験を、流加の様式で行った。全ての培養物は、細胞の成長および生存度のための基質(例えば、アミノ酸およびグルコース)を含んでいる専有のフィーディング培地を与えられた。フィーディング培地は、ポリアミンなしで、ピロリン酸鉄 (III) 水和物を800 mg/lの濃度で含有する。
【0067】
図 3は、細胞がスペルミン濃度の増加とともによりよく成長することを示す。所与の鉄濃度でのスペルミンの最適濃度は、例において40〜120 mg/lである。
【0068】
例 4: 高い鉄濃度は高いスペルミン濃度を飽和するために必要か(SF57)?
40 mg/lのスペルミン濃度は、例 3において良好であることが認められた。細胞培養培地は、40 mg/lの定常のスペルミン濃度で調製された。ピロリン酸鉄 (III) 水和物の貯蔵溶液(P6526)は、5 g/l および 50 g/lの濃度で調製された。
【0069】
対応する量の貯蔵溶液を、培養培地にピペッティングして、培養培地において鉄の終濃度を調整した(図 4の説明から明らか)。次に、そのように調製した培養培地に細胞を播種した。実験を、バッチの様式で行った。図 4は、極度に高い鉄濃度がスペルミンの存在下で細胞が容認できることを示す。
【0070】
例 5: バッチ操作におけるスペルミンと組み合わせた硝酸鉄の分析(SF107)
この例は、鉄 および スペルミンの相乗効果を代替の鉄源で示す。細胞培養培地は、鉄なし、ポリアミン源なしで調製された。硝酸鉄 (III) 九水和物 (CAS ナンバー: 7782-61-8) および スペルミンの貯蔵溶液を調製した。対応する量の貯蔵溶液を、培養培地にピペッティングして、試験物質の終濃度を調整した(図 5の説明から明らか)。次に、そのように調製した培養培地に細胞を播種した。実験を、バッチの様式で行った。図 5 は、スペルミン および 鉄の両方が高濃度で利用可能である場合、細胞がバッチ操作において高い濃度に達することを実証しており、両方の物質の相乗的な効果を示している。
【0071】
例 6: 流加でのスペルミン濃度と組み合わせたクエン酸鉄の分析(FB188)
本実験は、高細胞密度の流加法におけるスペルミンとクエン酸鉄(III)の相乗効果を分析する。鉄源は、クエン酸鉄 (III) (CAS ナンバー: 3522-50-7)である。細胞培養培地は、鉄なし、ポリアミンなしで調製された。
【0072】
スペルミンの貯蔵溶液は、40 g/lで調製された(S4264)。クエン酸鉄 (III)の貯蔵溶液は、50 g/lで調製された。対応する量の貯蔵溶液を、培養培地にピペッティングして、培養培地においてスペルミンおよびクエン酸鉄 (III)の所望の終濃度を調整した(図 6の説明から明らか)。フィード培地は、鉄が無く、スペルミンが無い。細胞を、調製した培地に移した。実験を、流加の様式で行った。全ての培養物は、細胞の成長および生存度のための基質(例えば、アミノ酸およびグルコース)を含んでいるフィーディング培地を与えられた。全ての培養物は、さらにクエン酸鉄 (III) を6日に 400 mg/lの終濃度で補充された。図 6は、至適な細胞成長のためスペルミン および 鉄の両方が必要とされることを示す。加えて、有意に高いスペルミンおよび鉄の濃度が必要とされる、係る高いスペルミンおよび鉄の濃度は、特に細胞濃度が 1x107/mlをこえる高い細胞密度の流加法に必要とされる。
【0073】
例 7: 流加でのスペルミンと組み合わせた異なるクエン酸鉄濃度の試験(FB171-3)
ポリアミンの陽性の効果が別の鉄源でも同様に細胞成長に認められるかを試験することが目的であった。本実験において、クエン酸鉄を流加法でスペルミンの有り無しで試験した。細胞培養培地は、鉄なし、ポリアミンなしで調製された。スペルミンの貯蔵溶液は、40 g/lで調製された(S4264)。クエン酸鉄 (III)の貯蔵溶液は、50 g/lで調製された(CAS ナンバー: 3522-50-7)。
【0074】
対応する量の貯蔵溶液を、培養培地にピペッティングして、スペルミンおよびクエン酸鉄 (III)の所望の終濃度を調整した(図 7の説明から明らか)。播種細胞を、ポリアミン および 鉄が無い培地で三日培養し、細胞内の鉄およびポリアミンのプールを枯渇させた。次に、そのように馴化した細胞(conditioned cells)を播種物として使用した。実験を、流加の様式で行った。全ての培養物は、細胞の成長および生存度のための基質(例えば、アミノ酸およびグルコース)を含んでいるフィーディング培地を与えられた。フィーディング培地は、ポリアミンなしで、クエン酸鉄 (III)を3,200 mg/lの濃度で含有する。図 7は、スペルミンの陽性の効果が他の鉄源においても認められたことを示す。さらにまた、細胞は、スペルミンの存在下で800 mg/lまでの非常に高い鉄濃度を許容する。
【0075】
例 8: 流加でのスペルミンと組み合わせたリン酸鉄(III)の試験(171-2)
以前に分析したポリアミン濃度の陽性の効果が別の鉄源でも同様に細胞成長に認められるかを試験することが目的であった。本実験において、リン酸鉄(III)(F1523)を、スペルミンの有り無しで試験した。細胞培養培地は、鉄なし、ポリアミンなしで調製された。スペルミンの貯蔵溶液は、40 g/lで調製された(S4264)。リン酸鉄 (III)の貯蔵溶液は、50 g/lで調製された。
【0076】
対応する量の貯蔵溶液を、培養培地にピペッティングして、スペルミンおよびリン酸鉄 (III)の所望の終濃度を調整した(図 8の説明から明らか)。次に、そのように調製した培養培地に細胞を播種した。実験を、流加の様式で行った。全ての培養物は、細胞の成長および生存度のための基質(例えば、アミノ酸およびグルコース)を含んでいるフィーディング培地を与えられた。フィーディング培地は、ポリアミンなしで、リン酸鉄 (III)を800 mg/lの濃度で含有する。
【0077】
図 8は、スペルミンの陽性の効果がリン酸鉄 (III)においても認められたことを示す。スペルミンの存在下で係る高い鉄濃度が細胞に毒性ではなく、寧ろ細胞成長を促進することが認められたことは驚くべきことである。
【0078】
例 9: 流加でのスペルミンと組み合わせたデキストラン鉄の試験(174-1)
以前に分析したポリアミン濃度の陽性の効果が別の鉄源でも同様に細胞成長に認められるかを試験することが目的であった。本実験において、デキストラン鉄(D8517)を試験した。細胞培養培地は、40 mg/lのスペルミン濃度で調製された。前記培地は、鉄源を含まなかった。
【0079】
100 g/lの濃度の鉄-デキストランの溶液は、Sigmaから入手した。実験の開始前、細胞を、鉄源なしの培地で二日培養した。この様式で、細胞内の鉄プールを枯渇させた。しかしながら、以前の細胞の鉄の飢餓は、スペルミンおよび鉄-デキストランの機能に必要とされない。前記細胞は、鉄を飢餓させられた。上記の記載のとおり、係る細胞を調製した培地に移した。実験を、流加の様式で行った。フィード培地は、スペルミンなし、鉄なしであった。全ての培養物は、細胞の成長および生存度のための基質(例えば、アミノ酸およびグルコース)を含んでいるフィーディング培地を与えられた。成長している培養物は、さらにデキストラン鉄を6日に 250 mg/lの濃度のデキストラン鉄の終濃度を与えられた。図 9は、至適な細胞成長のため非常に高いデキストラン鉄濃度がスペルミンの存在下で必要とされたことを示す。係る高い鉄濃度が細胞に対して毒性ではなく、細胞成長を促進することが認められたことは驚くべきことである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一つのポリアミンを少なくとも 20 mg/lの濃度、少なくとも一つの鉄源を少なくとも 2 mg/lの濃度で含んでいる培養添加物。
【請求項2】
請求項1に記載の培養添加物であって、前記ポリアミン濃度は少なくとも 35 mg/lである培養添加物。
【請求項3】
請求項1に記載の培養添加物であって、前記ポリアミン濃度は少なくとも 50 mg/lである培養添加物。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一項に記載の培養添加物であって、前記鉄源の濃度は少なくとも 5 mg/lである培養添加物。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか一項に記載の培養添加物であって、前記鉄源の濃度は少なくとも 240 mg/lである培養添加物。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか一項に記載の培養添加物であって、前記鉄源の濃度は少なくとも 480 mg/lである培養添加物。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか一項に記載の培養添加物であって、前記鉄源がFe (II)イオンを含有する培養添加物。
【請求項8】
請求項1〜7の何れか一項に記載の培養添加物であって、前記鉄源がFe (III)イオンを含有する培養添加物。
【請求項9】
請求項1〜8の何れか一項に記載の培養添加物であって、前記鉄源は、リン酸鉄(III), ピロリン酸鉄(III), 硝酸鉄(III), 硫酸鉄(II), 塩化鉄(III), 乳酸鉄(II), クエン酸鉄(III), クエン酸アンモニウム鉄(III), 鉄-デキストランおよびエチレンジアミン四酢酸 第二鉄ナトリウムから選択される一または二以上の化合物またはその塩またはその水和または脱水された形態である培養添加物。
【請求項10】
請求項1〜9の何れか一項に記載の培養添加物であって、前記ポリアミンは、スペルミジン, スペルミン, ノルスペルミン, ノルスペルミジン, ホモスペルミン, ホモスペルミジン および カダベリンから選択される一または二以上の化合物またはその塩またはその水和または脱水された形態である培養添加物。
【請求項11】
上記の請求項の何れか一項に記載の培養添加物であって、前記ポリアミンはスペルミンである培養添加物。
【請求項12】
上記の請求項の何れか一項に記載の培養添加物を含んでいる培養培地。
【請求項13】
請求項12に記載の培養培地であって、前記ポリアミンの濃度は30〜120 mg/lである培養培地。
【請求項14】
上記の請求項12または13の何れか一項に記載の培養培地であって、少なくとも一つの鉄源の濃度は50〜450 mg/lである培養培地。
【請求項15】
請求項12〜14の何れか一項に記載の培養培地であって、ポリアミンの濃度は30〜120 mg/lであり、鉄源の濃度は50〜450 mg/lである培養培地。
【請求項16】
上記の請求項の何れか一項に記載の培養培地または培養添加物であって、前記培養培地または培養添加物は水性溶媒, 炭素源および窒素源を含む培養培地または培養添加物。
【請求項17】
上記の請求項の何れか一項に記載の培養培地または培養添加物であって、少なくとも一つのオーリントリカルボン酸(ATA), ジクロロ酢酸 (DCA), コハク酸, その塩及びその誘導体を含有する培養培地または培養添加物。
【請求項18】
上記の請求項の何れか一項に記載の培養培地または培養添加物であって、a) ATA, b) DCA および c) コハク酸の三つ全て又はその塩または誘導体を含有する培養培地または培養添加物。
【請求項19】
上記の請求項の何れか一項に記載の培養培地または培養添加物であって、無血清である培養培地または培養添加物。
【請求項20】
上記の請求項の何れか一項に記載の培養培地または培養添加物であって、無グルタミンである培養培地または培養添加物。
【請求項21】
上記の請求項の何れか一項に記載の培養培地または培養添加物であって、無タンパク質である培養培地または培養添加物。
【請求項22】
上記の請求項の何れか一項に記載の培養培地または培養添加物であって、加水分解産物が無い培養培地または培養添加物。
【請求項23】
請求項12〜21の何れか一項に記載の培養培地であって、フィーディング培地である培養培地。
【請求項24】
上記の請求項の何れか一項に記載の培養培地または培養添加物であって、キットの形態で提供される培養培地または培養添加物。
【請求項25】
培養培地を調製するための方法であって、請求項1〜11または16〜24の何れか一項に記載の培養添加物が液体培地に添加される方法。
【請求項26】
請求項25に記載の方法であって、液体の培養培地は水性溶媒, 炭素源および窒素源を含んでいる従来の培養培地である方法。
【請求項27】
請求項25または26に記載の方法により調製された培養培地。
【請求項28】
培養培地の調製のための請求項1〜11または16〜24に記載の培養添加物の使用。
【請求項29】
細胞を培養培地中で培養するための方法であって、a) 細胞および請求項12〜24または27の何れか一項に記載の培養培地が提供され、b) 前記細胞が前記培養培地中で前記培養における前記細胞の維持に妥当な条件下で培養される方法。
【請求項30】
請求項29に記載の方法であって、前記細胞が前記培養培地中で二継代をこえるか又は4 日をこえて培養される方法。
【請求項31】
請求項29および30の何れか一項に記載の方法であって、培養法が連続法, 準連続法(semi-continuous process), バッチ法, 分割-バッチ法, 流加法または灌流法である方法。
【請求項32】
請求項29〜31の何れか一項に記載の方法であって、前記細胞から少なくとも一つのタンパク質を生産する方法。
【請求項33】
細胞を培養培地中で培養するための方法であって、a) 前記細胞および第一の培養培地が提供され、b) 前記細胞は、前記第一の培養培地中で前記培養における前記細胞の維持に妥当な条件下で培養され、請求項1〜11または16〜24の何れか一項に記載の培養添加物が、前記第一の培養培地に細胞を播種する前または前記第一の培養培地に細胞を播種する後または培養の間に前記第一の培養培地に添加されて、前記培養の間に第二の培養培地が形成される方法。
【請求項34】
細胞を培養培地中で培養するための方法であって、
a) 前記細胞および第一の培養培地が提供され、
b) 前記細胞は、前記第一の培養培地中で前記第一の培養培地における前記細胞の維持に妥当な条件下で培養され、
c) 少なくとも一つのポリアミン源または少なくとも一つの鉄源または両方は、前記第一の培養培地に細胞を播種する前または前記第一の培養培地に細胞を播種する後または培養の間に前記第一の培養培地に添加され、
工程a, b およびcにおいて存在し、添加された全てのポリアミンの合計および工程a, b およびcにおいて存在し、添加された全ての鉄源の合計は、請求項1〜24の何れか一項に記載の濃度を生じる方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公表番号】特表2011−509089(P2011−509089A)
【公表日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−541747(P2010−541747)
【出願日】平成21年1月7日(2009.1.7)
【国際出願番号】PCT/EP2009/000035
【国際公開番号】WO2009/087087
【国際公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【出願人】(508092602)セルカ ゲーエムベーハー (3)
【Fターム(参考)】