説明

改善された抗腫瘍治療

本発明は、PM02734とEGFRチロシンキナーゼ阻害剤の組合せ、ならびに癌の治療のためのこれらの組合せの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PM02734と他の抗腫瘍剤、特にEGFRチロシンキナーゼ阻害剤との組合せ、ならびに癌の治療におけるこれらの組合せの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
癌は、体の一部における細胞が制御不能に増殖し始めたときに発現する。様々な種類の癌が存在するが、どの癌も、異常細胞の制御不能な増殖から起こる。癌細胞は、近接する組織に浸潤し、血流およびリンパ系を介して体の他の部位に広がることができる。癌には、いくつかの主要な種類がある。癌腫は、上皮細胞から生じる制御不能な進行性の異常な増殖である悪性新生物である。上皮細胞は、臓器、脈管の内膜、および他の小さい腔を含め、体の内面および外面を覆っている。肉腫は、骨、軟骨、脂肪、筋肉、血管、または他の結合組織や支持組織における細胞から生じる癌である。白血病は、骨髄などの血管形成組織に生じる癌であり、大量の異常血管細胞が生成され血流に入る。リンパ腫および多発骨髄腫は、免疫系の細胞から生じる癌である。
【0003】
加えて、癌は、浸潤性であり、周囲組織に侵入して転移を引き起こしやすい。癌は、周囲組織に直接広がることができ、リンパ系および循環系を介して体の他の部位に広がることもできる。
【0004】
外科手術、局所疾患用の放射線照射、および化学療法を含め、癌の多くの治療法が利用可能である。しかし、様々な癌の種類に対して利用可能な治療の効果は限定されており、臨床的利点を示す新規の改善された形態の治療が要望されている。これは、進行した疾患および/または転移性疾患の患者、ならびに確立された治療法で以前に治療して、耐性の獲得または関連する毒性による治療の実施の制限限定によって有効でなくなるか或いは忍容できなくなり進行性疾患が再発した患者に特に当てはまる。
【0005】
1950年代以来、癌の化学療法の実施において著しい進展がなされている。残念ながら、すべての癌患者の50%超は、最初の治療効果が奏効しないか、または治療が最初は奏効した後に再発を経験し、最終的に進行性転移疾患によって死亡する。したがって、新規の抗癌剤の設計および発見に対する継続的な関与が極めて重要である。
【0006】
昔ながらの形態の化学療法は、DNA、RNA、およびタンパク質の生合成を含め、一般的な細胞の代謝過程を標的にすることによって急速に増殖する癌細胞を殺すことに主として重点を置いている。化学療法薬は、癌細胞内の特定の化学物質にどのように作用するか、その薬がどの細胞活動または過程を阻害するか、およびその薬が細胞周期のどの特定の段階に作用するかに基づいていくつかの群に分けられる。最も一般的に使用されている種類の化学療法薬として、DNA-アルキル化剤(シクロホスファミド、イホスファミド、シスプラチン、カルボプラチン、ダカルバジンなど)、代謝拮抗剤(5-フルオロウラシル、カペシタビン、6-メルカプトプリン、メトトレキセート、ゲムシタビン(gemcitabine)、シタラビン、フルダラビン)、有糸分裂阻害剤(パクリタキセル、ドセタキセル、ビンブラスチン、ビンクリスチンなど)、アントラサイクリン(ダウノルビシン、ドキソルビシン、エピルビシン、イダルビシン、ミトキサントロンなど)、トポイソメラーゼIおよびII阻害剤(トポテカン、イリノテカン、エトポシド、テニポシドなど)、およびホルモン療法(タモキシフェン、フルタミド(flutamide)など)が挙げられる。
【0007】
理想的な抗腫瘍剤は、非癌細胞に対する毒性に関する幅広い指数を持ち、選択的に癌細胞を殺すことができるとともに、たとえ癌細胞が抗腫瘍剤に長期にわたって曝露されても、癌細胞に対して効果を持続することができる。残念ながら、これらの薬物を用いる現行の化学療法のいずれも、理想的なプロフィールを有していない。ほとんどは、非常に狭い治療指数を有しており、加えて、僅かに致死量より低い化学療法剤に曝露された癌細胞は、このような薬剤に対して耐性を持つようになることがあり、いくつかの他の抗腫瘍剤に対する交差耐性を獲得する場合が多い。
【0008】
PM02734((4S)-MeHex-D-Val-L-Thr-L-Val-D-Val-D-Pro-L-Orn-D-アロ-Ile-シクロ(D-アロ-Thr-D-アロ-Ile-D-Val-L-Phe-Z-Dhb-L-Val))は、カハラリド(kahalalide)化合物のファミリーに関連した新規の合成デプシペプチドである。この化合物は、国際公開第2004/035613号の主題であり、以下に示す構造を有する。
【0009】
【化1】

【0010】
カハラリド化合物は、ハワイの草食性海洋種である軟体動物、エリシアルフェセンス(Elysia rufescens)およびその餌、緑藻類ブリオプシス種(Briopsis sp.)からもともと単離された環状デプシペプチドである。カハラリドA〜Gは、Hamannら(J. Am. Chem. Soc.、1993、115、5825-5826頁、およびJ. Org. Chem.、1996、61、6594-6600頁)によって記載されており、これらの多くは、癌およびAIDS関連日和見感染に対する活性を示す。また、他の天然カハラリド化合物、例えば、カハラリドHおよびJが、Scheuerら(J. Nat. Prod.、1997、60、562-567頁)、カハラリドOが、Scheuerら(J. Nat. Prod.、2000、63(1)、152-154頁)、カハラリドKが、Kanら(J. Nat. Prod.、1999、62(8)、1169-1172頁)に開示されている。
【0011】
天然起源のカハラリド化合物のうち、カハラリドFが、その抗腫瘍活性から最も有望である。欧州特許第610078号に、初期臨床前in vitroスクリーニング試験により、マウス白血病(P388)および2つのヒト充実性腫瘍:非小細胞肺(A549)および大腸(HT-29)に対するカハラリドFのマイクロモル活性が同定されたことが報告されている。カハラリドFの作用の主な機序は、いまだ同定されていないが、カハラリドFは、MDR、Her2、P53、およびblc-2とは無関係にsub G1細胞周期停止および細胞毒性を誘導するNCI-COMPARE化合物であることが分かっている(Janmaatら、「Proceedings of the 2nd International Symposium on Signal Transduction Modulators in Cancer Therapy」、10月23〜25日、Amsterdam、2003、60頁(Abst. B02))。細胞増殖経路について遺伝的および分子的に特徴付けられた60のヒト癌細胞系のパネルにおるCOMPARE分析においては、Erb/Her-neu経路と相互作用する新規の化学物質のリストに、カハラリドFを含んでいた(Wosikowskiら、J. Natl. Cancer Inst.、1997、89、1505-1515頁)。カハラリドFに対する感受性は、起源が異なる樹立細胞系のパネルにおいて、ErbB3(HER3)の基礎発現レベルに有意に相関していたが、他のErbB受容体には相関していなかった。さらに、ErbB3受容体に共役した下流P13K/Akt経路も、カハラリドF処理によって影響を受ける。カハラリドFは、リン酸化Aktレベルを低下させ、この低下が、カハラリドF感受性細胞系における細胞毒性に関連している(Janmaatら、Mol Pharmacol、2005、68、502-510頁)。
【0012】
PM02734は、天然起源のカハラリド化合物、特にカハラリドFで観察されたそれらの活性に対して、in vivo癌モデルで有意に改善された有効性を示した。PM02734は、多種多様な種類の腫瘍、例えば、白血病、黒色腫、乳房、大腸、卵巣、膵臓、肺、および前立腺などに対してin vitro抗腫瘍活性を示し、例えば、乳房、前立腺、および黒色腫などのヒト腫瘍細胞型を用いた異種移植マウスモデルにおいて有意なin vivo活性を示した。
【0013】
PM02734および他のカハラリド化合物、特にカハラリドFおよびその類似体、これらの使用、製剤、および合成についてのさらなる情報は、欧州特許第610078号、国際公開第2004/035613号、国際公開第01/58934号、国際公開第2005/023846号、国際公開第2004/075910号、国際公開第03/033012号、国際公開第02/36145号、および国際公開第2005/103072号の特許出願に記載されている。これらの欧州特許および国際公開の明細書の参照によりその全容が本明細書に組み入れられるものとする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】国際公開第2004/035613号
【特許文献2】欧州特許第610078号
【特許文献3】国際公開第01/58934号
【特許文献4】国際公開第2005/023846号
【特許文献5】国際公開第2004/075910号
【特許文献6】国際公開第03/033012号
【特許文献7】国際公開第02/36145号
【特許文献8】国際公開第2005/103072号
【特許文献9】米国特許第5,457,105号
【特許文献10】米国特許第5,770,599号
【特許文献11】米国特許第5,747,498号
【特許文献12】米国特許第6,344,455号
【特許文献13】米国特許第6,391,874号
【特許文献14】米国特許第6,713,485号
【特許文献15】米国特許第6,727,256号
【特許文献16】米国特許第6,900,221号
【特許文献17】米国特許第7,157,466号
【特許文献18】米国特許第4,943,533号
【特許文献19】米国特許第5,558,864号
【特許文献20】米国特許第5,891,996号
【特許文献21】米国特許第6,235,883号
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Hamannら、J. Am. Chem. Soc.、1993、115、5825-5826頁
【非特許文献2】Hamannら、J. Org. Chem.、1996、61、6594-6600頁
【非特許文献3】Scheuerら、J. Nat. Prod.、1997、60、562-567頁
【非特許文献4】Scheuerら、J. Nat. Prod.、2000、63(1)、152-154頁
【非特許文献5】Kanら、J. Nat. Prod.、1999、62(8)、1169-1172頁
【非特許文献6】Janmaatら、「Proceedings of the 2nd International Symposium on Signal Transduction Modulators in Cancer Therapy」、10月23〜25日、Amsterdam、2003、60頁(Abst. B02)
【非特許文献7】Wosikowskiら、J. Natl. Cancer Inst.、1997、89、1505-1515頁
【非特許文献8】Janmaatら、Mol Pharmacol、2005、68、502-510頁
【非特許文献9】Hynesら、Nature Reviews、2005、5、341-354頁
【非特許文献10】Aroraら、JPET、2005、315、971-979頁
【非特許文献11】Steeghsら、Ann. Surg. Oncol.、2007、14(2)、942-953頁
【非特許文献12】Liら、Clin. Cancer Res.、2007、13(11)、3413-3422頁
【非特許文献13】Lingら、Cancer Res.、1993、53(7)、1583-1589頁
【非特許文献14】Lingら、Mol. Pharmacol.、2007、72、248-258頁
【非特許文献15】Livak KJおよびSchmittgen T.Methods. 2000、25、402-408頁
【非特許文献16】Lingら、Mol Pharmacol、2007、72、248-256頁
【非特許文献17】ChouおよびTalalay、Adv. Enzyme Regul.、1984、22、27-55頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
癌は、動物およびヒトで主な死因であるため、抗腫瘍治療活性を得るため、そして癌に罹患している患者に安全に投与するために、いくつかの試みがなされてきており、現在もなされている。本発明によって解決すべき問題は、癌の治療に有用な抗腫瘍治療を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本願出願人は、PM02734が、他の抗癌剤、特にEGFRチロシンキナーゼ阻害剤の群の抗癌剤を増強するため、これらを癌の治療のための併用療法にうまく用いることができることを立証した。したがって、本発明は、これらの併用療法を用いる癌の治療のための医薬組成物、キット、方法、および併用療法のための薬物の製造におけるPM02734の使用に関する。
【0018】
本発明の一態様によると、PM02734に基づいて、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤を用いて癌の治療のための効果的な併用療法を提供する。
【0019】
別の実施形態では、本発明は、このような治療を必要とする患者に、治療有効量のPM02734またはその薬学的に許容される塩、および、(PM02734を投与する前、最中、または後に投与される)治療有効量のEGFRチロシンキナーゼ阻害剤またはその薬学的に許容される塩を投与するステップを含む癌の治療方法を含む。これらの2つの薬物は、同じ組成物の一部を構成することもできるし、同じ時間または異なる時間での投与のための別個の組成物として提供することもできる。
【0020】
別の態様では、本発明は、それを必要とする患者に、治療有効量のPM02734またはその薬学的に許容される塩を投与するステップを含む、癌の治療においてEGFRチロシンキナーゼ阻害剤の治療効果を向上させる方法を含む。PM02734は、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤を投与する前、最中、または後に投与する。
【0021】
別の実施形態では、本発明は、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤との併用療法において癌を治療するための医薬品を製造するためのPM02734またはその薬学的に許容される塩の使用を含む。
【0022】
関連実施形態では、本発明は、PM02734との併用療法において癌を治療するための医薬品を製造するためのEGFRチロシンキナーゼ阻害剤またはその薬学的に許容される塩の使用を含む。
【0023】
さらなる態様では、本発明は、癌の治療のための併用療法に使用するPM02734またはその薬学的に許容される塩および/またはEGFRチロシンキナーゼ阻害剤またはその薬学的に許容される塩を含む医薬組成物を含む。
【0024】
また、本発明は、投与形態(dosage form)のM02734またはその薬学的に許容される塩および/または投与形態のEGFRチロシンキナーゼ阻害剤またはその薬学的に許容される塩、および両方の薬物を組み合わせた使用のための取扱説明書を含む癌の治療に使用するためのキットを含む。
【0025】
好適な一態様では、本発明は、M02734またはその薬学的に許容される塩とEGFRチロシンキナーゼ阻害剤またはその薬学的に許容される塩の相乗的な組合せに関する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】ヒトNSCLC細胞系におけるPM02734誘導細胞毒性とErbBファミリータンパク質の発現との間の関係を示すグラフである。データは、3つの個々の実験の平均±S.D.を表す。
【図2】H322細胞における細胞周期の進行およびアポトーシスに対するPM02734の効果を示すグラフである。
【図3】ヒトH322およびA549 NSCLC細胞系におけるPM02734とエルロチニブとの相乗効果を示すグラフである。データは、3つの個々の実験の平均±S.D.を表す。
【図4】ヒトH1299およびH460 NSCLC細胞系におけるPM02734とエルロチニブとの相乗効果を示すグラフである。データは、3つの個々の実験の平均±S.D.を表す。
【図5】H322およびH1299細胞におけるPM02734およびエルロチニブへの計画的曝露による細胞増殖の阻害を示す図である。(A)は、PM02734およびエルロチニブの異なる曝露計画の略図である。(B)は、細胞生存率を示す。データは、3つの個々の実験の平均±S.D.を表す。PM:PM02734;E:エルロチニブ。
【図6】H322細胞におけるEGFRの活性およびその関連シグナル伝達経路に対するPM02734、エルロチニブ、および両方の薬物の組合せに対する効果を示すグラフである。
【図7】A549皮下異種移植モデルにおけるエルロチニブと組み合わせたPM02734の効果を示すグラフである。
【図8】A549静脈内異種移植モデルにおけるエルロチニブと組み合わせたPM02734の効果を示すグラフである。(A)マウス1匹当たり4.2×106の腫瘍細胞を静脈内接種した。(B)マウス1匹当たり8.4×106の腫瘍細胞を静脈内接種した。
【発明を実施するための形態】
【0027】
EGFRチロシンキナーゼ阻害剤とPM02734との起こりうる相乗作用を研究するために、組織的な研究を開始し、第1に、特定の腫瘍細胞に対するPM02734の抗腫瘍効果を決定し、第2に、PM02734とEGF受容体との間の相互関係の存在を決定し、第3に、組み合わせて投与したときのPM02734の効果とEGFRチロシンキナーゼ阻害剤の効果との間の起こりうる相乗作用の存在を決定した。一般的結論として、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤の抗腫瘍活性がPM02734との組合せで大幅に向上することが分かった。したがって、本発明は、PM02734とEGFRチロシンキナーゼ阻害剤との組合せに基づいた癌の効果的な治療を提供することに関する。
【0028】
「癌」とは、腫瘍、新生物、および他のいかなる悪性組織や細胞をも含むものとする。
【0029】
別の態様では、本発明は、PM02734またはその薬学的に許容される塩およびEGFRチロシンキナーゼ阻害剤またはその薬学的に許容される塩を用いる相乗的な組合せに関する。相乗作用の指標は、組合せの試験およびその結果の分析、例えば、Chou-Talalay法によって容易に得ることができる。この点を説明するために実施例4を参照する。
【0030】
本明細書の至るところで用いる語「組合せ」は、同時または異なる時間に、同一または別個の医薬製剤の治療薬を投与することを含むものとする。治療薬を異なる時間に投与する場合は、治療薬は、相乗的な応答が起こるように十分に短い時間内に投与すべきである。
【0031】
別の態様では、本発明は、PM02734またはその薬学的に許容される塩をEGFRチロシンキナーゼ阻害剤またはその薬学的に許容される塩とともに用いる併用療法による癌の有効な治療のための医薬品を製造するためのPM02734またはその薬学的に許容される塩の使用に関する。
【0032】
関連する態様では、本発明は、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤またはその薬学的に許容される塩をPM02734またはその薬学的に許容される塩とともに用いる併用療法による癌の有効な治療のための医薬品を製造するためのEGFRチロシンキナーゼ阻害剤またはその薬学的に許容される塩の使用に関する。
【0033】
さらなる態様では、本発明は、治療有効量のPM02734またはその薬学的に許容される塩を治療有効量のEGFRチロシンキナーゼ阻害剤またはその薬学的に許容される塩と組み合わせてこのような治療を必要とする患者に投与するステップを含む癌の治療法に関する。
【0034】
また、本発明は、治療有効量のEGFRチロシンキナーゼ阻害剤またはその薬学的に許容される塩を治療有効量のPM02734またはその薬学的に許容される塩と組み合わせて投与するステップを含む癌の治療法も提供する。
【0035】
上記したように、PM02734((4S)-MeHex-D-Val-L-Thr-L-Val-D-Val-D-Pro-L-Orn-D-アロ-Ile-シクロ(D-アロ-Thr-D-アロ-Ile-D-Val-L-Phe-Z-Dhb-L-Val))は、以下に示す構造を有する合成デプシペプチドである。
【0036】
【化2】

【0037】
語「PM02734」は、本明細書では、患者に投与されると、本明細書に開示する化合物を(直接または間接的に)生成できるあらゆる薬学的に許容される塩、エステル、溶媒和化合物、水和物、プロドラッグ、または他の化合物を含むものとする。しかし、薬学的に許容されない塩は、薬学的に許容される塩の調製に有用な可能性があるため、薬学的に許容されない塩も本発明の範囲内であることを理解されたい。塩、エステル、溶媒和化合物、水和物、プロドラッグ、および誘導体の調製は、当分野で周知の方法で行うことができる。
【0038】
例えば、PM02734の薬学的に許容される塩は、従来の化学法によってベースとなる部分を含む親化合物から合成する。一般に、このような塩は、例えば、この化合物の遊離塩基型を水もしくは有機溶媒、またはこれらの混合物に溶解した化学量論量の適当な酸と反応させて調製する。一般に、エーテル、酢酸エチル、エタノール、イソプロパノール、またはアセトニトリルのような非水溶媒が好ましい。酸付加塩の例として、鉱酸付加塩、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、および有機酸付加塩、例えば、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、クエン酸塩、シュウ酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、リンゴ酸塩、マンデル酸塩、メタンスルホン酸塩、およびp-トルエンスルホン酸塩が挙げられる。PM02734のトリフルオロ酢酸塩が特に好ましい。
【0039】
加えて、PM02734は、遊離化合物または溶媒和化合物(例えば、水和物)として結晶形とすることができ、これら両方の形が本発明の範囲内であるものとする。溶媒和法は、一般に当分野で周知である。
【0040】
PM02734のプロドラッグである化合物はいずれも、本発明の趣旨および範囲に含まれる。語「プロドラッグ」は、その最も広い意味で用いられ、in vivoでPM02734に変換されるプロドラッグの誘導体も含む。プロドラッグは、生物学的条件下で加水分解、酸化、または他の方法で反応してPM02734を生成する。このような誘導体は、当業者であれば容易に想到するものであり、例えば、遊離ヒドロキシル基がエステル誘導体に変換される化合物を含む。
【0041】
本明細書で言及する化合物はいずれも、このような特定の化合物ならびに特定の変形または型を表すものとする。特に、本明細書で言及する化合物は、非対称の中心を有するため、様々な鏡像異性型で存在する。本明細書で言及する化合物のすべての光学異性体および立体異性体ならびにそれらの混合物は、本発明の範囲内と見なされる。したがって、本明細書で言及する化合物はいずれも、ラセミ化合物、1つまたは複数の鏡像異性型、1つまたは複数のジアステレオ異性型、1つまたは複数のアトロプ異性型、およびこれらの混合物のいずれか1つを指すものとする。特に、本発明の化合物は、その非対称による鏡像異性体またはジアステレオ異性体を含むことができる。二重結合の立体異性も可能であるため、場合によっては、分子は、(E)異性体または(Z)異性体として存在することができる。分子がいくつかの二重結合を含む場合、各二重結合は、分子の他の二重結合の立体異性と同一または異なりうるそれ自体の立体異性を有する。単一異性体および異性体の混合物も、本発明の範囲内である。
【0042】
さらに、本明細書で言及する化合物は、幾何異性体(すなわち、cisおよびtrans異性体)として、互変異性体として、またはアトロプ異性体として存在することができる。特に、語「互変異性体」は、平衡状態で存在するとともに、ある異性体型から別の異性体型に容易に変換される化合物の2つ以上の構造異性体の1つを指す。一般的な互変異性体の対は、アミン-イミン、アミド-イミド、ケト-エノール、ラクタム-ラクチムなどである。さらに、本明細書で言及する化合物はいずれも、このような型が媒質中に存在するときは水和物、溶媒和化合物、および多形体、ならびにこれらの混合物を指すものとする。加えて、本明細書で言及する化合物は、同位体標識型で存在しうる。本明細書で言及する化合物の幾何異性体、互変異性体、アトロプ異性体、水和物、溶媒和化合物、多形体、および同位体標識型、ならびにこれらの混合物のすべては、本発明の範囲内と見なされる。
【0043】
本発明に従って用いるPM02734は、参照により本明細書に組み入れられる国際公開第2004/035613号、国際公開第2005/103072号、国際公開第01/58934号、および国際公開第2005/023846号に開示されているような合成方法に従って調製することができる。
【0044】
使用できるPM02734またはその薬学的に許容される塩の医薬組成物として、静脈内投与に適した添加剤を含む溶液、懸濁液、乳濁液、凍結乾燥組成物などが挙げられる。PM02734またはその薬学的に許容される塩の医薬組成物に関するさらなる情報については、例えば、参照により本明細書に組み入れられる国際公開第2004/035613号を参照されたい。
【0045】
PM02734またはその薬学的に許容される塩、またはこの化合物を含む医薬組成物の投与は、静脈注入が好ましい。最大72時間の注入時間を用いることができ、好ましくは1時間〜24時間、最も好ましくは約1時間または約3時間である。病院に入院しないで治療を行うことができる短い注入時間が特に好ましい。しかし、注入は、必要に応じて24時間またはそれよりも長くすることもできる。
【0046】
好ましくは、PM02734の投与をサイクルで行う。好適な投与方法では、各サイクルの第1週に患者にPM02734を静脈注入し、そのサイクルの残りを患者の回復期間とする。各サイクルの好適な期間は、1週間、3週間、または4週間である。必要に応じて、複数のサイクルを用いることができる。代替の投与プロトコルでは、PM02734を、3週間または4週間おきに連続して5日間、例えば、約1時間投与する。他のプロトコルを、変更形態として考案することもできる。PM02734の投与および用量に関するさらなる情報については、参照により本明細書に組み入れられる国際公開第2004/035613号を参照されたい。
【0047】
プロテインチロシンキナーゼを標的とするいくつかの方法が開発された。チロシンキナーゼは、成長因子シグナル伝達の調節において極めて重要な役割を演じる。これらの酵素の活性型は、腫瘍細胞の増殖および成長を増大させ、抗アポトーシス効果を誘導し、血管形成および転移を促進する。成長因子による活性化に加えて、体細胞突然変異によるプロテインキナーゼの活性化も、腫瘍発生の一般的な機序である。これらの作用はすべて、受容体チロシンキナーゼの活性によって開始されるため、受容体チロシンキナーゼは阻害剤の重要な標的である。
【0048】
受容体チロシンキナーゼスーパーファミリーのサブクラスは、ErbBまたは上皮成長因子(EGF)受容体からなり、4つのメンバー:EGFR/ErbB1、ErbB2(HER2)、ErbB3(HER3)、およびErbB4(HER4)を含む。ERBBまたはEGF受容体は、多種多様なヒトの腫瘍において異常に活性化されるため、選択的な抗癌療法の優れた候補である。ERBBの細胞外ドメインに対するいくつかの抗体、ならびにキナーゼドメインを標的とする小分子チロシンキナーゼ阻害剤は、臨床で使用中であり、いわば進んだ開発段階である。
【0049】
PM02734またはその薬学的に許容される塩と組み合わせて用いられる好適なEGFRチロシンキナーゼ阻害剤は、エルロチニブ(erlotinib)、ゲフィチニブ(gefitinib)、カネルチニブ(canertinib)、ラパチニブ(lapatinib)、セツキシマブ(cetuximab)、マツズマブ(matuzumab)、ザルツムマブ(zalutumumab)、およびパニツムマブ(panitumumab)、またはこれらの薬学的に許容される塩であり;特に好ましくは、エルロチニブ、ゲフィチニブ、カネルチニブ、およびラパチニブ、またはこれらの薬学的に許容される塩であり;最も好ましい1つは、エルロチニブまたはその薬学的に許容される塩である。これらの薬物に関するさらなる情報は、これらに関する広範な文献(例えば、Hynesら、Nature Reviews、2005、5、341-354頁;Aroraら、JPET、2005、315、971-979頁;およびSteeghsら、Ann. Surg. Oncol.、2007、14(2)、942-953頁参照)に記載されている。
【0050】
エルロチニブは、以下に示す構造式を有するキナゾリンアミン(quinazolinamine)である。
【0051】
【化3】

【0052】
この薬物は、商標名Tarceva(登録商標)で塩酸塩の形態で販売されている。この薬物は、現在は、特定の癌、特に非小細胞肺癌(NSCLC)および膵臓癌の治療を適応としている。加えて、エルロチニブは、指示によって1日に1回100mgまたは150mgの用量で経口投与することが推奨されている。この薬物についての情報は、ウェブサイトwww.tarceva.comおよびエルロチニブに関する広範な文献に掲載されている。エルロチニブの臨床抗腫瘍作用の機序は、現在は十分には特徴付けられていないが、エルロチニブは、EGFRに関連したチロシンキナーゼの細胞内リン酸化を阻害することが知られている。他のチロシンキナーゼ受容体に対する阻害の特異性は、十分には特徴付けられていない。
【0053】
PM02734と組み合わせて使用する他の好適なEGFRチロシンキナーゼ阻害剤は、米国特許第5,457,105号、米国特許第5,770,599号、米国特許第5,747,498号、米国特許第6,344,455号、米国特許第6,391,874号、米国特許第6,713,485号、米国特許第6,727,256号、米国特許第6,900,221号、米国特許第7,157,466号、米国特許第4,943,533号、米国特許第5,558,864号、米国特許第5,891,996号、および米国特許第6,235,883号に開示されている。これらの特許は、特別の参照によりその全容が本明細書に組み入れられる。特に、本発明にとって、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤は、米国特許第5,457,105号、米国特許第5,770,599号、米国特許第5,747,498号、米国特許第6,344,455号、米国特許第6,391,874号、米国特許第6,713,485号、米国特許第6,727,256号、米国特許第6,900,221号、米国特許第7,157,466号、米国特許第4,943,533号、米国特許第5,558,864号、米国特許第5,891,996号、および米国特許第6,235,883号のいずれかに請求されている化合物またはモノクローナル抗体であるのが好ましい。
【0054】
PM02734またはその薬学的に許容される塩およびEGFRチロシンキナーゼ阻害剤またはその薬学的に許容される塩は、同時または異なる時間に投与するための別個の薬物として提供することができる。好ましくは、PM02734またはその薬学的に許容される塩およびEGFRチロシンキナーゼ阻害剤またはその薬学的に許容される塩は、異なる時間に投与するための別個の薬物として提供することができる。別個に異なる時間に投与する場合、PM02734もしくはその薬学的に許容される塩またはEGFRチロシンキナーゼ阻害剤もしくはその薬学的に許容される塩のいずれかを最初に投与することができる。加えて、両方の薬物は、同日または異なる日に投与することができ、治療サイクル中に同じスケジュールまたは異なるスケジュールを用いて投与することができる。したがって、本発明の医薬組成物は、1つの薬学的に許容される製剤の中にすべての成分(薬物)を含むことができる。別法では、成分は、別個に製剤して、互いに組み合わせて投与することができる。当業者に公知の様々な薬学的に許容される製剤を本発明に用いることができる。
【0055】
好ましくは、PM02734またはその薬学的に許容される塩とEGFRチロシンキナーゼ阻害剤またはその薬学的に許容される塩の組合せを、組合せまたは別個の静脈内投与に適した任意の製剤で用いることができる。この組合せの静脈内投与用製剤は、溶液、懸濁液、乳濁液、および凍結乾燥組成物などを含むことができる。しかし、本発明に用いるための適当な製剤の選択は、投与方式および組成物の成分の溶解度特性に基づいて当業者が日常的に行うことができる。
【0056】
組合せの化合物の適正な用量は、特定の製剤、投与方式、ならびに治療する特定の部位、宿主、および腫瘍によって様々であろう。年齢、体重、性別、食事、投与の時間、排泄速度、宿主の状態、薬物の組合せ、反応感受性、および疾患の重症度のような他の因子も考慮すべきである。投与は、最大許容用量の範囲内で連続的または周期的に行うことができる。
【0057】
別の態様では、本発明は、少なくとも1つのサイクルのための用量単位のPM02734またはその薬学的に許容される塩の供給と、両方の薬物を組み合わせて使用するための印刷された取扱説明書とを含む、癌の治療においてEGFRチロシンキナーゼ阻害剤と組み合わせてPM02734を投与するためのキットを対象とする。
【0058】
関連する態様では、本発明は、少なくとも1つのサイクルのための用量単位のEGFRチロシンキナーゼ阻害剤またはその薬学的に許容される塩の供給と、両方の薬物を組み合わせて使用するための印刷された取扱説明書とを含む、癌の治療においてPM02734と組み合わせてEGFRチロシンキナーゼ阻害剤を投与するためのキットを対象とする。
【0059】
関連する態様では、本発明は、少なくとも1つのサイクルのための用量単位のPM02734またはその薬学的に許容される塩の供給と、少なくとも1つのサイクルのための用量単位のEGFRチロシンキナーゼ阻害剤またはその薬学的に許容される塩の供給と、両方の薬物を組み合わせて使用するための印刷された説明書とを含む、癌の治療においてEGFRチロシンキナーゼ阻害剤と組み合わせてPM02734を投与するためのキットを対象とする。
【0060】
別の態様では、本発明は、癌の治療においてEGFRチロシンキナーゼ阻害剤と組み合わせて使用するPM02734またはその薬学的に許容される塩および薬学的に許容される担体を含む医薬組成物も提供する。
【0061】
さらなる態様では、本発明は、癌の治療においてPM02734と組み合わせて使用するEGFRチロシンキナーゼ阻害剤またはその薬学的に許容される塩および薬学的に許容される担体を含む医薬組成物も提供する。
【0062】
加えて、本発明は、癌の治療に使用するPM02734またはその薬学的に許容される塩、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤またはその薬学的に許容される塩、および薬学的に許容される担体を含む医薬組成物も提供する。
【0063】
別の態様では、本発明は、癌の治療においてEGFRチロシンキナーゼ阻害剤と組み合わせて使用する組成物の調製におけるPM02734またはその薬学的に許容される塩の使用をさらに提供する。
【0064】
関連する態様では、本発明は、癌の治療においてPM02734と組み合わせて使用する組成物の調製におけるEGFRチロシンキナーゼ阻害剤またはその薬学的に許容される塩の使用をさらに提供する。
【0065】
そして、さらなる態様では、本発明は、癌の治療に使用する組成物の調製におけるPM02734またはその薬学的に許容される塩およびEGFRチロシンキナーゼ阻害剤またはその薬学的に許容される塩の使用をさらに提供する。
【0066】
別の態様では、本発明は、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤との併用療法における癌を治療するための医薬品を製造するためのPM02734またはその薬学的に許容される塩の使用をさらに提供する。
【0067】
関連する態様では、本発明は、PM02734との併用療法における癌を治療するための医薬品を製造するためのEGFRチロシンキナーゼ阻害剤またはその薬学的に許容される塩の使用をさらに提供する。
【0068】
関連する態様では、本発明は、癌を治療するための医薬品を製造するための、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤またはその薬学的に許容される塩と組み合わせたPM02734またはその薬学的に許容される塩の使用をさらに提供する。
【0069】
別の態様では、本発明は、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤との併用療法における癌の治療のためのPM02734またはその薬学的に許容される塩の使用をさらに提供する。
【0070】
関連する態様では、本発明は、PM02734との併用療法における癌の治療のためのEGFRチロシンキナーゼ阻害剤またはその薬学的に許容される塩の使用をさらに提供する。
【0071】
別の態様では、本発明は、癌の治療のための、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤またはその薬学的に許容される塩と組み合わせたPM02734またはその薬学的に許容される塩の使用をさらに提供する。
【0072】
別の態様では、本発明は、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤との併用療法における医薬品としての、PM02734またはその薬学的に許容される塩の使用をさらに提供する。
【0073】
関連する態様では、本発明は、PM02734との併用療法における医薬品としての、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤またはその薬学的に許容される塩の使用をさらに提供する。
【0074】
別の態様では、本発明は、医薬品としての、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤またはその薬学的に許容される塩と組み合わせたPM02734またはその薬学的に許容される塩の使用をさらに提供する。
【0075】
別の態様では、本発明は、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤またはその薬学的に許容される塩との併用療法における癌の治療用の医薬品としてのPM02734またはその薬学的に許容される塩の使用をさらに提供する。
【0076】
関連する態様では、本発明は、PM02734またはその薬学的に許容される塩との併用療法における癌の治療用の医薬品としてのEGFRチロシンキナーゼ阻害剤またはその薬学的に許容される塩の使用をさらに提供する。
【0077】
別の態様では、本発明は、癌の治療のための医薬品としての、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤またはその薬学的に許容される塩と組み合わせたPM02734またはその薬学的に許容される塩の使用をさらに提供する。
【0078】
別の態様では、本発明は、治療有効量のPM02734またはその薬学的に許容される塩を治療有効量のEGFRチロシンキナーゼ阻害剤またはその薬学的に許容される塩と組み合わせて投与するステップを含む癌の治療のためのPM02734またはその薬学的に許容される塩を提供する。
【0079】
関連する態様では、本発明は、治療有効量のEGFRチロシンキナーゼ阻害剤またはその薬学的に許容される塩を治療有効量のPM02734またはその薬学的に許容される塩と組み合わせて投与するステップを含む癌の治療のためのEGFRチロシンキナーゼ阻害剤またはその薬学的に許容される塩をさらに提供する。
【0080】
別の態様では、本発明は、治療有効量のPM02734またはその薬学的に許容される塩を治療有効量のEGFRチロシンキナーゼ阻害剤またはその薬学的に許容される塩と組み合わせて投与するステップであって、この組合せを一緒にまたは別個に投与することができる、ステップを含む癌の治療を提供する。
【0081】
腫瘍の種類および疾患の進行段階によって、本発明の治療は、腫瘍退縮の促進、腫瘍の成長の停止、および/または転移の防止に有用である。特に、本発明の方法は、ヒトの患者、特に再発または過去の化学療法では難治性である患者に適している。第一選択の療法も企図する。
【0082】
好ましくは、PM02734またはその薬学的に許容される塩とEGFRチロシンキナーゼ阻害剤またはその薬学的に許容される塩の組合せを、白血病、黒色腫、乳癌、大腸癌、結腸直腸癌、卵巣癌、婦人科癌、腎癌、頭頸部癌、食道癌、膵臓癌、肺癌、子宮頸癌、肝癌、および前立腺癌の治療に用いる。特に好ましいのは、肺癌、乳癌、および前立腺癌の治療のためのこの組合せの使用である。最も好ましくは、この組合せは、肺癌、特に非小細胞肺癌(NSCLC)の治療のために使用する。
【0083】
一実施形態では、癌細胞は、PM02734またはその薬学的に許容される塩とEGFRチロシンキナーゼ阻害剤またはその薬学的に許容される塩の組合せを接触させて、または他の方法で治療する。癌細胞は、好ましくはヒト癌細胞であり、癌細胞、肉腫細胞、白血病細胞、リンパ腫細胞、および骨髄腫細胞を含みうる。より好ましくは、癌細胞は、白血病細胞、黒色腫細胞、乳癌細胞、大腸癌細胞、結腸直腸癌細胞、卵巣癌細胞、婦人科癌細胞、腎癌細胞、頭頸部癌細胞、食道癌細胞、膵臓癌細胞、肺癌細胞、子宮頸癌細胞、肝癌細胞、および前立腺癌細胞を含みうる。特に、癌細胞は、ヒト非小細胞肺癌細胞を含みうる。加えて、組合せは、癌細胞、特にヒト非小細胞肺癌細胞に対して相乗的な阻害効果を提供することができる。
【0084】
例えば、癌細胞は培養物であってよく、組合せをin vitroで投与することができる。組合せは、一緒にまたは別個に送達することができる。培地中の非接触癌細胞と比較して低い培地中の接触癌細胞の増殖または生存のレベルは、PM02734またはその薬学的に許容される塩とEGFRチロシンキナーゼ阻害剤またはその薬学的に許容される塩の組合せが特定の種類の癌の患者の治療に有効であろうことを示唆している。
【0085】
加えて、適切なin vitro技術を当業者が日常的に実施して、PM02734またはその薬学的に許容される塩とEGFRチロシンキナーゼ阻害剤またはその薬学的に許容される塩の組合せの作用機序を決定することができる。例えば、フローサイトメトリーを用いて、この組合せが細胞周期の進行を阻害し、かつ/またはアポトーシスを亢進させるか否かを調べることができる。適当な抗体を用いるウエスタンブロット分析を用いて、この作用機序を決定することができる。
【0086】
別の態様では、本発明は、有効量のPM02734またはその薬学的に許容される塩をEGFRチロシンキナーゼ阻害剤と組み合わせて前記癌細胞に接触させるステップを含む癌細胞の成長を阻害する方法を提供する。
【0087】
関連する態様では、本発明は、有効量のEGFRチロシンキナーゼ阻害剤またはその薬学的に許容される塩をPM02734と組み合わせて前記癌細胞に接触させるステップを含む癌細胞の成長を阻害する方法を提供する。
【0088】
関連する態様では、本発明は、PM02734またはその薬学的に許容される塩とEGFRチロシンキナーゼ阻害剤またはその薬学的に許容される塩の有効な組合せを一緒にまたは別個に前記癌細胞に接触させるステップを含む癌細胞の成長を阻害する方法を提供する。
【0089】
別の態様では、本発明は、PM02734またはその薬学的に許容される塩とEGFRチロシンキナーゼ阻害剤またはその薬学的に許容される塩の相乗的な組合せを一緒にまたは別個に前記癌細胞に接触させるステップを含む癌細胞の成長を阻害する方法であって、前記組合せが、(i)EGFRチロシンキナーゼ阻害剤の非存在下でのPM02734またはその薬学的に許容される塩、または(ii)PM02734の非存在下でのEGFRチロシンキナーゼ阻害剤またはその薬学的に許容される塩と比較して癌細胞の成長に対する阻害を向上させる、方法を提供する。
【0090】
別の態様では、本発明は、癌細胞の成長を阻害するためにEGFRチロシンキナーゼ阻害剤と組み合わせて使用する有効量のPM02734またはその薬学的に許容される塩を含む医薬組成物を提供する。
【0091】
関連する態様では、本発明は、癌細胞の成長を阻害するためにPM02734と組み合わせて使用する有効量のEGFRチロシンキナーゼ阻害剤またはその薬学的に許容される塩を含む医薬組成物を提供する。
【0092】
関連する態様では、本発明は、癌細胞の成長を阻害するための、有効量のPM02734またはその薬学的に許容される塩およびEGFRチロシンキナーゼ阻害剤を含む医薬組成物を提供する。
【0093】
別の態様では、本発明は、癌細胞の成長を阻害するための、PM02734またはその薬学的に許容される塩とEGFRチロシンキナーゼ阻害剤またはその薬学的に許容される塩の相乗的な組合せを含む医薬組成物であって、前記組合せが、(i)EGFRチロシンキナーゼ阻害剤の非存在下でのPM02734またはその薬学的に許容される塩、または(ii)PM02734の非存在下でのEGFRチロシンキナーゼ阻害剤またはその薬学的に許容される塩と比較して癌細胞の成長の阻害を改善する、医薬組成物を提供する。
【0094】
別の態様では、本発明は、有効量のPM02734またはその薬学的に許容される塩をEGFRチロシンキナーゼ阻害剤と組み合わせて前記癌細胞に接触させるステップを含む癌細胞の細胞周期の進行を中断する方法を提供する。
【0095】
関連する態様では、本発明は、有効量のEGFRチロシンキナーゼ阻害剤またはその薬学的に許容される塩をPM02734と組み合わせて前記癌細胞に接触させるステップを含む癌細胞の細胞周期の進行を中断する方法を提供する。
【0096】
関連する態様では、本発明は、有効量のPM02734またはその薬学的に許容される塩およびEGFRチロシンキナーゼ阻害剤またはその薬学的に許容される塩を一緒にまたは別個に前記癌細胞に接触させるステップを含む癌細胞の細胞周期の進行を中断する方法を提供する。
【0097】
別の態様では、本発明は、有効量のPM02734またはその薬学的に許容される塩をEGFRチロシンキナーゼ阻害剤と組み合わせて前記癌細胞に接触させるステップを含む癌細胞のアポトーシスを亢進させる方法を提供する。
【0098】
関連する態様では、本発明は、有効量のEGFRチロシンキナーゼ阻害剤またはその薬学的に許容される塩をPM02734と組み合わせて前記癌細胞に接触させるステップを含む癌細胞のアポトーシスを亢進させる方法を提供する。
【0099】
関連する態様では、本発明は、有効量のPM02734またはその薬学的に許容される塩およびEGFRチロシンキナーゼ阻害剤またはその薬学的に許容される塩を一緒にまたは別個に前記癌細胞に接触させるステップを含む癌細胞のアポトーシスを亢進させる方法を提供する。
【0100】
別の態様では、本発明は、有効量のPM02734またはその薬学的に許容される塩をEGFRチロシンキナーゼ阻害剤と組み合わせて前記癌細胞に接触させるステップを含む癌細胞のAKTを阻害する方法を提供する。
【0101】
関連する態様では、本発明は、有効量のEGFRチロシンキナーゼ阻害剤またはその薬学的に許容される塩をPM02734と組み合わせて前記癌細胞に接触させるステップを含む癌細胞のAKTを阻害する方法を提供する。
【0102】
関連する態様では、本発明は、有効量のPM02734またはその薬学的に許容される塩およびEGFRチロシンキナーゼ阻害剤またはその薬学的に許容される塩を一緒にまたは別個に前記癌細胞に接触させるステップを含む癌細胞のAKTを阻害する方法を提供する。
【0103】
以下に示す実施例は、本発明をさらに例示する。これらの実施例は、本発明の範囲の制限として解釈すべきものではない。
【0104】
より簡潔な説明を行うために、本明細書に記載する一部の量的表現は、語「約」を付けていない。語「約」が明確に使用されているいないにかかわらず、本明細書に記載するどの量も、実際の所与の値を指すことを意味し、かつどの量も、このような所与の値の実験および/または測定の条件による等価性および近似を含め、当業者によって合理的に推論されるこのような所与の値に対する近似を指すことを意味することを理解されたい。
【実施例】
【0105】
(実施例1:ヒトNSCLC細胞系におけるPM02734誘導細胞毒性の決定)
EGFR、Ras、およびp53遺伝子発現ならびに様々な抗腫瘍剤(パクリタキセル、ペメトレキセド(premetrexed)、エルロチニブなど)に対する感受性について特徴付けられている9つのヒトMSCLC細胞系をモデルとして用いて、PM02734トリフルオロ酢酸塩に対する細胞感受性を調べた。これらのNSCLC細胞系は、次の通りである:H322、A549、H661、H1299、L858RおよびT790M EGFR二重変異を有するH1975、H358、H460、L858R EGFR変異を有するH1650、およびL858L EGFR変異を有するH3255。この研究に使用したすべてのNSCLC細胞系はH3255細胞系を除き、American Type Culture Collection(ATCC、Manassas、VA)(Liら、Clin. Cancer Res.、2007、13(11)、3413-3422頁)から入手した。H3255細胞系は、Dr. Pasi A. Janne (Dana-Farber Cancer Institute、Boston、MA)から贈呈されたものである。
【0106】
すべての細胞系は、空気95%およびCO25%の湿気のある環境で、10%ウシ胎児血清を含むPRMI1640培地中に37℃で維持して増殖させた。指数関数的に増殖する細胞(1×105/ml)を96ウェルプレートに蒔いて、一晩付着するようにした。細胞を、37℃で72時間、様々な濃度のPM02734トリフルオロ酢酸塩に曝露した。処理後、細胞生存部分を、テトラゾリウムブロミドの還元を調べるアッセイ(MTT)によって評価するか、または細胞の生存を、トリパンブルー色素排除試験を用いた細胞の計数によって評価した(Lingら、Cancer Res.、1993、53(7)、1583-1589頁)。50%の細胞増殖の阻害から得られるIC50値をグラフィック計算した。
【0107】
試験した9つの細胞系のうち、4つの細胞系(H322、A549、H3255-EGFR変異、およびH661)は、IC50値が0.3〜1.25μMで、PM02734トリフルオロ酢酸塩に対して高感受性であり、2つの細胞系(H1299およびH1975-EGFR二重変異)は、IC50値が2〜2.8μMで、中程度の感受性であり、残りの細胞系(H358、H460、およびH1650-EGFR変異)は、IC50値>5μMで、PM02734トリフルオロ酢酸塩に対して耐性があった(図1)。
【0108】
興味深いことに、2つのPM02734感受性細胞系(H322およびH3255)が、エルロチニブに対して感受性を持つ唯2つの細胞系であった。
【0109】
(実施例2:EGFRファミリー受容体の発現とPM02734に対する細胞感受性との間の相関性)
PM02734に対する感受性の幅広い範囲が、異なるNSCLC細胞系で見出されたので、内在性EGFRファミリー受容体の発現がPM02734に対する細胞感受性に相関しているか否かを調べた。
【0110】
指数関数的に増殖する細胞をトリプシン処理によって収集した。遠心分離後、細胞ペレットを2つに分けた。一方のアリコートを、対応する抗体(Cell Signaling、Beverly、MA)を用いる免疫ブロット分析(免疫ブロット分析のさらなる情報については、Lingら、Mol. Pharmacol.、2007、72、248-258頁に記載されている)によってEGFRファミリー受容体およびリン酸化EGFRファミリー受容体の基礎レベルの決定のために調製した。他方のアリコートは、リアルタイムRT-PCRを用いてEGFRファミリー受容体のmRNAの基礎レベルの測定のために調製した。mRNAの発現を定量的に測定するために、全細胞RNAを、フェノール/クロロホルム抽出技術を用いて試験した細胞系から単離した。すべてのプライマーを設計し、primer express v1.5(Applied Biosystems、Foster City、CA)を用いてこれらの特異性について試験した。EGFR(erbB-1)に対して特異的なプライマーは、5'-CCACCTGTGCCATCCAAACT(配列番号1)および5'-GGCGATGGACGGGATCTT(配列番号2)であり;erbB-2に対しては、5'-AGCCTTGCCCATCAACTG(配列番号3)および5'-AATGCCAACCACCGCAGA(配列番号4)であり;erbB-3に対しては、5'-TCCTGGCCGCCCCACATGCACAAC-3'(配列番号5)および5'-GTCACATTTGCCCTCTGCCA-3'(配列番号6)であった。β-アクチンRNA(5'-CATGGGTCAGAAGGATTCCT(配列番号7)および5'-CATTGTAGAAGGTGTGGTGC)(配列番号8)を内部標準として用いた。すべてのアッセイは、逆転写産物の2連の試料を用いて行った。EGFR、erbB-2、およびerbB-3のmRNAの発現を、dCt=[Ct(EGFRまたはerbB-2)-Ct([β]-アクチン)]法(Livak KJおよびSchmittgen T. Methods. 2000、25、402-408頁)を用いて正規化した。
【0111】
ウエスタンブロット分析により、ErbB3の発現がPM02734に対する細胞感受性に相関することが確認された(図1)。
【0112】
(実施例3:H322ヒトNSCLC細胞系における細胞周期の進行に対するPM02734の効果)
細胞周期の進行の中断は、ある種の化学療法剤による細胞増殖の阻害に関連している。PM02734誘導細胞増殖の阻害がH322 NSCLC細胞における細胞周期の進行の阻害に関連しているか否かを調べた。
【0113】
H322細胞を6ウェルプレートに蒔き、10%ウシ胎児血清を含むPRMI1640培地で、37℃で一晩インキュベートした。細胞の付着の後、細胞を、37℃で0時間、3時間、6時間、および24時間、0.5μM PM02734トリフルオロ酢酸塩に曝露した。表示した時点で、細胞をトリプシン処理によって収集し、4℃で一晩、75%冷エタノールで固定した。細胞を、1μg/mlヨウ化プロピジウムおよび5μg/ml RNA分解酵素Iとともに、室温で3時間インキュベートした。細胞周期の分布およびアポトーシス細胞(Sub-G0/G1)を、FACS分析(BD Biosciences、San Joes、CA)によって測定した。
【0114】
PM02734は、G1/S期を中断させるエルロチニブとは対照的に、PM02734感受性H322細胞において時間に依存してS期での細胞周期の停止およびアポトーシス細胞死を引き起こした(Lingら、Mol Pharmacol、2007、72:248-256頁)(図2)。
【0115】
(実施例4:ヒトNSCLC細胞系におけるPM02734とエルロチニブとの間の起こりうる相乗効果の決定)
ErbB3がPM02734に対する細胞感受性の主要決定因子であるという観察結果に基づいて、PM02734とエルロチニブ、すなわち強力なEGFRチロシンキナーゼ阻害剤の組合せが相乗的となるか否かについて決定しようとした。
【0116】
H322、A549、H1299、およびH460細胞を、上記したように96ウェルプレートに蒔いた。37℃で一晩インキュベートした後、付着細胞を、様々な濃度のPM02734とエルロチニブを1:1のモル比で、37℃で72時間の同時または連続的な計画を用いて、様々な濃度のPM02734トリフルオロ酢酸塩またはエルロチニブの一方または両方の化合物の組合せで処理した。細胞の生存画分を、上記したようにMTTアッセイによって決定し、組合せの効果を、ChouおよびTalalayのmedian effect method(ChouおよびTalalay、Adv. Enzyme Regul.、1984、22、27-55頁)によって分析した。相乗効果(CI指数)を、ソフトウエアCalcuSynによって解析した。CI値:<1、または>1は、相乗作用または拮抗作用を表す。PM02734とエルロチニブの組合せは、組合せ指数が0.49〜0.81の範囲で、いずれかの薬剤単独に対するそれらの感受性にかかわらす、すべての細胞系で相乗効果があった(図3および図4)。
【0117】
加えて、細胞増殖に対するPM02734トリフルオロ酢酸塩(PM)およびエルロチニブ(E)の異なる曝露計画の効果を調べた。H322またはH1299細胞を96ウェルプレートに蒔いて、37℃で一晩インキュベートしてから、図5Aに示すように異なる計画で、様々な濃度のPM02734またはエルロチニブの一方、または両方の薬剤の組合せに曝露した。図で示した曝露の後、細胞の生存を、上記したようにMTTアッセイによって決定した。72時間の両方の薬剤に対する同時曝露は、連続的な計画:PM02734の後にエルロチニブまたはエルロチニブの後にPM02734よりも細胞増殖の阻害においてより効果的であった(図5B)。
【0118】
(実施例5:H322細胞系におけるEGFRの活性化およびその関連経路に対するPM02734の効果)
PM02734によって誘発される、EGFRの活性化およびその関連下流経路の抑制がこの薬剤に対する細胞応答に関連しているか否かを調べた。相乗効果の機序をさらに検討するために、EGFR経路に対するPM02734およびエルロチニブの組合せ効果を調べた。
【0119】
したがって、H322感受性細胞系をモデルとして選択した。H322細胞は、0.5μMエルロチニブまたは0.5μM PM02734トリフルオロ酢酸塩の存在下、37℃で24時間、無血清培地でインキュベートすることによって飢餓状態にした。100ng/ml EGF(上皮成長因子)で5分間刺激してから、細胞を収集し、0℃で10分間、溶解緩衝液を用いて溶解した。等量(全タンパク質30μg)の溶解物を10%SDS-PAGEに供した。膜に移してから、全EGFRファミリー受容体およびリン酸化EGFRファミリー受容体、全PI3/AKTおよびリン酸化PI3/AKT、ならびに全ERK1/2およびリン酸化ERK1/2を、対応する抗体を用いてウエスタンブロット分析によって検出した。β-アクチンをローディングコントロールとして用いた。結果を、レーザースキャニングデンシトメーター(Kodak Image Station 440、New Haven、CT)を用いて定量した。
【0120】
EGFR経路に対するPM02734およびエルロチニブの組合せ効果は、H322細胞におけるいずれか1つの薬剤単独と比較して、PI3/AKTリン酸化の阻害でより効果的であった。
【0121】
(実施例6:PM02734およびエルロチニブの組合せのin vivoでの効果)
PM02734は、ビヒクルとしての注入のために水を用いてそのトリフルオロ酢酸塩で投与した。エルロチニブは、ビヒクルとして滅菌水を用いて投与した。
【0122】
ヌードマウス(NUR-NU-F-M、雌、5〜6週齢、Taconic Farm、Germantown、NY)に、ヒトA549 NSCLC細胞系(4.5×106細胞/マウス)を皮下移植した。7日後、マウスを1群当たり5匹として4群にランダムに分けた。1つの群のマウスに組合せの処理を行った(PM02734:0.1mg/kg×3/週(1日目、3日目、および5日目)、2週間、静脈内投与;エルロチニブ:50mg/kg×5/週(1日目、2日目、3日目、4日目、および5日目)、2週間、経口投与)。この群では、エルロチニブは最初に投与し、2時間後にPM02734を投与した。他の群は、PM02734のみ(0.1mg/kg×3/週(1日目、3日目、および5日目)、2週間、静脈内投与)、エルロチニブのみ(50mg/kg×5/週(1日目、2日目、3日目、4日目、および5日目)、2週間、経口投与)で処理したか、または処理しなかった。腫瘍サイズを1週間に2回測定した。腫瘍体積を以下の式を用いて計算した:腫瘍体積(mm3)=0.5×長い直径×(短い直径)2(mm単位)。この実験は、50%以上のマウスが15mmよりも大きい腫瘍(すなわち、長い直径>15mm)になった時点で終了した。図7に示すように、統計的に有意な腫瘍体積の減少が、PM02734のみを投与する処理(%処理/コントロール腫瘍体積:%T/C=74%、p<0.001)、およびPM02734をエルロチニブと組み合わせて投与する処理(%T/C=62%、p<0.001)で観察された。
【0123】
同所移植モデルでは、ヌードマウス(NUR-NU-F-M、雌、5〜6週齢、Taconic Farm、Germantown、NY)に、ヒトA549 NSCLC細胞系(4.2×106細胞/マウス)を静脈内接種した。このような実験条件下で、静脈内接種A549細胞は、肺以外の器官では増殖せず、マウスの生存は、全身腫瘍組織量に直接関連している。腫瘍摂取の9日後、組合せ群を7匹、他の群を5匹とし、マウスを4つの群にランダムに分けた。用量および処理計画は、皮下異種移植モデルに使用した処理計画と同一とした。マウスを毎日観察して、生存または寿命の延び率(%)を決定した。
【0124】
図8に示すように、異なる数の細胞を接種した2つの実験では、他の群(未処理、PM02734のみ、またはエルロチニブのみ)に対してPM02734とエルロチニブの組合せで処理した群で、統計的に有意な寿命(または生存)の延びが観察された(図8Aでは、p=0.0003、図8Bでは、p=0.002)。
【0125】
エルロチニブに関するこれらの知見は、他のEGFRチロシンキナーゼ阻害剤にも拡大される。例えば、本発明は、PM02734と米国特許第5,457,105号、米国特許第5,770,599号、米国特許第5,747,498号、米国特許第6,344,455号、米国特許第6,391,874号、米国特許第6,713,485号、米国特許第6,727,256号、米国特許第6,900,221号、米国特許第7,157,466号、米国特許第4,943,533号、米国特許第5,558,864号、米国特許第5,891,996号、および米国特許第6,235,883号に開示されているようなEGFRチロシンキナーゼ阻害剤、特にエルロチニブ、ゲフィチニブ、カネルチニブ、ラパチニブ、セツキシマブ、マツズマブ、ザルツムマブ、およびパニツムマブとの組合せを提供する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
癌の治療方法であって、
このような治療を必要とする患者に、治療有効量のPM02734またはその薬学的に許容される塩および治療有効量のEGFRチロシンキナーゼ阻害剤またはその薬学的に許容される塩を投与するステップを含む、方法。
【請求項2】
癌の治療においてEGFRチロシンキナーゼ阻害剤の治療効果を向上させる方法であって、
それを必要とする患者に、治療有効量のPM02734またはその薬学的に許容される塩を投与するステップを含む、方法。
【請求項3】
EGFRチロシンキナーゼ阻害剤が、エルロチニブ、ゲフィチニブ、カネルチニブ、ラパチニブ、セツキシマブ、マツズマブ、ザルツムマブ、およびパニツムマブまたはこれらの薬学的に許容される塩から選択される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
治療する癌が、白血病、黒色腫、乳癌、大腸癌、結腸直腸癌、卵巣癌、婦人科癌、腎癌、頭頸部癌、食道癌、膵臓癌、肺癌、子宮頸癌、肝癌、および前立腺癌から選択される、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
PM02734またはその薬学的に許容される塩およびEGFRチロシンキナーゼ阻害剤またはその薬学的に許容される塩が同じ組成物の一部を構成する、請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
PM02734またはその薬学的に許容される塩およびEGFRチロシンキナーゼ阻害剤またはその薬学的に許容される塩を、同時または異なる時間に投与するための別個の組成物として提供する、請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
PM02734またはその薬学的に許容される塩およびEGFRチロシンキナーゼ阻害剤またはその薬学的に許容される塩を、異なる時間に投与するための別個の組成物として提供する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
PM02734またはその薬学的に許容される塩をEGFRチロシンキナーゼ阻害剤またはその薬学的に許容される塩とともに用いる併用療法によって癌を治療するための医薬品を製造するためのPM02734またはその薬学的に許容される塩の使用。
【請求項9】
EGFRチロシンキナーゼ阻害剤またはその薬学的に許容される塩をPM02734またはその薬学的に許容される塩とともに用いる併用療法によって癌を治療するための医薬品を製造するためのEGFRチロシンキナーゼ阻害剤またはその薬学的に許容される塩の使用。
【請求項10】
EGFRチロシンキナーゼ阻害剤が、エルロチニブ、ゲフィチニブ、カネルチニブ、ラパチニブ、セツキシマブ、マツズマブ、ザルツムマブ、およびパニツムマブから選択される、請求項8または9に記載の使用。
【請求項11】
治療する癌が、白血病、黒色腫、乳癌、大腸癌、結腸直腸癌、卵巣癌、婦人科癌、腎癌、頭頸部癌、食道癌、膵臓癌、肺癌、子宮頸癌、肝癌、および前立腺癌から選択される、請求項8から10のいずれかに記載の使用。
【請求項12】
PM02734またはその薬学的に許容される塩およびEGFRチロシンキナーゼ阻害剤またはその薬学的に許容される塩が同じ組成物の一部を構成する、請求項8から11のいずれかに記載の使用。
【請求項13】
PM02734またはその薬学的に許容される塩およびEGFRチロシンキナーゼ阻害剤またはその薬学的に許容される塩を、同時または異なる時間に投与するための別個の組成物として提供する、請求項8から11のいずれかに記載の使用。
【請求項14】
PM02734またはその薬学的に許容される塩およびEGFRチロシンキナーゼ阻害剤またはその薬学的に許容される塩を、異なる時間に投与するための別個の組成物として提供する、請求項13に記載の使用。
【請求項15】
治療有効量のPM02734またはその薬学的に許容される塩を治療有効量のEGFRチロシンキナーゼ阻害剤またはその薬学的に許容される塩と組み合わせて投与するステップを含む癌の治療のためのPM02734またはその薬学的に許容される塩。
【請求項16】
EGFRチロシンキナーゼ阻害剤が、エルロチニブ、ゲフィチニブ、カネルチニブ、ラパチニブ、セツキシマブ、マツズマブ、ザルツムマブ、およびパニツムマブまたはこれらの薬学的に許容される塩から選択される、請求項15に記載のPM02734またはその薬学的に許容される塩。
【請求項17】
治療有効量のEGFRチロシンキナーゼ阻害剤またはその薬学的に許容される塩を治療有効量のPM02734またはその薬学的に許容される塩と組み合わせて投与するステップを含む癌の治療のためのEGFRチロシンキナーゼ阻害剤またはその薬学的に許容される塩。
【請求項18】
EGFRチロシンキナーゼ阻害剤が、エルロチニブ、ゲフィチニブ、カネルチニブ、ラパチニブ、セツキシマブ、マツズマブ、ザルツムマブ、およびパニツムマブまたはこれらの薬学的に許容される塩から選択される、請求項17に記載のEGFRチロシンキナーゼ阻害剤またはその薬学的に許容される塩。
【請求項19】
治療する癌が、白血病、黒色腫、乳癌、大腸癌、結腸直腸癌、卵巣癌、婦人科癌、腎癌、頭頸部癌、食道癌、膵臓癌、肺癌、子宮頸癌、肝癌、および前立腺癌から選択される、請求項15から18のいずれかに記載のPM02734もしくはその薬学的に許容される塩またはEGFRチロシンキナーゼ阻害剤もしくはその薬学的に許容される塩。
【請求項20】
PM02734またはその薬学的に許容される塩およびEGFRチロシンキナーゼ阻害剤またはその薬学的に許容される塩が同じ組成物の一部を構成する、請求項15から19のいずれかに記載のPM02734もしくはその薬学的に許容される塩またはEGFRチロシンキナーゼ阻害剤もしくはその薬学的に許容される塩。
【請求項21】
PM02734またはその薬学的に許容される塩およびEGFRチロシンキナーゼ阻害剤またはその薬学的に許容される塩を、同時または異なる時間に投与するための別個の組成物として提供する、請求項15から19のいずれかに記載のPM02734もしくはその薬学的に許容される塩またはEGFRチロシンキナーゼ阻害剤もしくはその薬学的に許容される塩。
【請求項22】
PM02734またはその薬学的に許容される塩およびEGFRチロシンキナーゼ阻害剤またはその薬学的に許容される塩を、異なる時間に投与するための別個の組成物として提供する、請求項21に記載のPM02734またはその薬学的に許容される塩またはEGFRチロシンキナーゼ阻害剤あるいはその薬学的に許容される塩。
【請求項23】
PM02734またはその薬学的に許容される塩およびEGFRチロシンキナーゼ阻害剤またはその薬学的に許容される塩を含む医薬組成物。
【請求項24】
投与形態のPM02734またはその薬学的に許容される塩と、投与形態のEGFRチロシンキナーゼ阻害剤またはその薬学的に許容される塩と、両方の薬物を組み合わせて使用するための取扱説明書とを含む癌の治療に使用するためのキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2011−500723(P2011−500723A)
【公表日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−530143(P2010−530143)
【出願日】平成20年10月17日(2008.10.17)
【国際出願番号】PCT/US2008/080309
【国際公開番号】WO2009/052379
【国際公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【出願人】(501440835)ファルマ・マール・ソシエダード・アノニマ (30)
【出願人】(508114971)アルベルト アインシュタイン カレッジ オブ メディシン オブ エシヴァ ユニヴァーシティ (1)
【Fターム(参考)】