説明

改善された消毒プロファイルを有する眼用溶液

本発明は、抗菌活性を有する眼用溶液に関する。この溶液は、過酸化水素、およびホウ素化合物などの抗菌化合物を含む。一実施形態においては、溶液は、特に消毒およびかかる溶液の中和後の期間、過酸化水素の抗菌活性に加えて抗菌活性を与えるホウ酸ナトリウムなどのホウ素化合物を含む。この追加の活性は、過酸化水素を中和するコンタクトレンズ消毒の適用において微生物増殖の可能性を低下させる。本発明者らは、予想外なことに、過酸化水素とホウ素化合物とを含む中性pHおよびイオン強度の眼用組成物が望ましい消毒プロファイルを有することを発見した。過酸化水素を含む眼用組成物にホウ素化合物を混合すると、過酸化水素が中和もしくは分解されたときに、または過酸化水素の濃度もしくは有効性が経時的に低下したときに、微生物増殖を防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本出願は、2009年12月17日に出願された米国仮特許出願第61/287,231号に対する優先権を米国特許法§119の下、主張し、この出願の全内容は本明細書において参照として援用される。
【0002】
発明の技術分野
本発明は、眼用組成物の抗菌性を改善する方法に関する。本発明は、さらに、過酸化水素とホウ素化合物とを含む、眼用組成物にも関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
コンタクトレンズなどの眼用製品の消毒は、装着中に眼に放出されると眼組織に不適合である抗菌剤を含む組成物を使用することが多い。したがって、多数のかかる組成物は、望ましくない生物の生存または増殖を許す濃度であるリスクがあるにもかかわらず、毒性を回避するために低濃度で抗菌剤を利用する。一部の手法においては、複数の剤を組み合わせて、許容される総レベルの抗菌活性を与えることができる。
【0004】
別のコンタクトレンズ消毒手法は、高濃度の抗菌剤を含む組成物が、抗菌剤を分解するまたはその濃度を低下させることによってある期間にわたって「中和される」、消毒プロセスを利用する。このようにして、中和された組成物は、眼組織に適合した濃度の抗菌剤を使用して形成される。例えば、特許文献1は、白金などの遷移金属触媒を使用したリン酸緩衝過酸化水素溶液の中和を記載している。残念ながら、中和後の溶液は、任意の残存微生物が中和溶液中で複製および増殖する機会を与え得る。多数の現行の過酸化物消毒液は、リン酸緩衝系および/またはセルロースポリマー錠剤系、および/または酵素もしくは微生物増殖の栄養源として働き得る別のタンパク質を含む。これらの中和溶液中に長期間放置されたコンタクトレンズは、特に無菌性がコンタクトレンズまたはレンズケースの不適当な取扱いによって損なわれる場合、容認できないレベルの汚染物質に曝露されるおそれがあり、レンズを眼に入れる(instill)と病原菌を角膜表面に移すベクターとして働き得る。したがって、例えば、中和後の過酸化水素溶液などの低濃度の抗菌剤を含む溶液中で保存し、抗菌増殖の可能性を低下させる方法が必要である。
【0005】
ボレートなどのホウ素化合物は、生理的pHにおける良好な緩衝能力、周知の安全性、ならびに広範囲の薬物および防腐剤との適合性という理由から、眼用組成物における一般的な賦形剤である。ボレートは、固有の静菌および静真菌性も有し、したがって組成物の保存に役立つ。
【0006】
特許文献2(Tsao他)は、中和を必要としない眼用消毒薬における、低濃度(0.001重量%から0.01重量%)の過酸化水素の単独の、または別の抗菌剤と組み合わせた、使用を記載している。等張化剤または緩衝剤としてのボレートの使用も開示されている。
【0007】
特許文献3(Karagoezian)は、亜塩素酸化合物および比較的低濃度のホウ酸(0.15重量%から0.3重量%)と組み合わせた、過酸化水素(0.005重量%から0.05重量%)などの低濃度の過酸化化合物の使用を記載している。
【0008】
従来技術は、一般に、低濃度の過酸化水素と組み合わせた、等張化剤または緩衝剤としてのボレートの使用を教示している。しかし、従来技術は、中和後の過酸化水素組成物における、微生物増殖の可能性を低下させるホウ素化合物の使用を開示しておらず、特に低イオン強度およびpHを有する過酸化水素組成物においてではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第3,912,451号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2005/0244509号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2007/0104798号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明の簡単な要旨
本発明は、過酸化水素とホウ素化合物とを含む、眼用組成物に関する。本発明の組成物は、C.parapsilosis、およびS.aureusなどの眼の病原体に対して抗菌活性を有する。
【0011】
本発明者らは、予想外なことに、過酸化水素とホウ素化合物とを含む中性pHおよびイオン強度の眼用組成物が望ましい消毒プロファイルを有することを発見した。過酸化水素を含む眼用組成物にホウ素化合物を混合すると、過酸化水素が中和もしくは分解されたときに、または過酸化水素の濃度もしくは有効性が経時的に低下したときに、微生物増殖を防止することができる。過酸化水素の眼用溶液にホウ素を混合すると、別の利点も提供される。
【0012】
例えば、本発明の一実施形態においては、ホウ酸ナトリウムおよびホウ酸からなるホウ素緩衝系を中性pHの過酸化水素溶液に使用して、中和後の抗菌性を付与する。中性pHの組成物においては、ホウ素緩衝系は、系のpKaが高い(25℃で9.14)ために、有効な抗菌活性を付与するとは予想されない。予想外に、本発明者らは、かかるホウ素緩衝系で緩衝された過酸化物溶液が中性pHでも望ましい抗菌性を有することを見いだした。
【0013】
理論に拘泥するものではないが、ホウ酸およびボレートなどのホウ素化合物は、過酸化物と結合して、抗菌剤および洗浄剤として作用するペルボレート種を形成すると考えられる。ペルボレートは、中性pHでも、過酸化水素とホウ素化合物との溶液中で急速に形成される。上記実施形態などの水溶液においては、ボレートは、多数の形態で存在し、酸性および中性pH条件ではホウ酸(HBO、より正確にはB(OH))である。ホウ酸は、水溶液中では解離しないが、水分子と相互作用してテトラヒドロキシボレートを形成するため、酸性である。
【0014】
【数1】

ボレートは、陰イオンと反応してペルオキソ陰イオンを生成し得る。例えば、ホウ砂と過酸化水素との反応は、過ホウ酸ナトリウムを生成する。
【0015】
【数2】

本発明の好ましい実施形態は、過酸化水素とホウ酸および/またはホウ酸ナトリウムなどのホウ素化合物とを含む眼用組成物である。かかる組成物においては、ホウ素化合物は、0.05Mから0.15Mの濃度で存在し、組成物のpHは6.5から9.0、より好ましくは7.0から7.9、最も好ましくは7.0から7.5である。
【0016】
上記の短い要約は、本発明のある実施形態の特徴および技術的利点を大まかに記述している。更なる特徴および技術的利点は、以下の本発明の詳細な説明に記述されている。本発明に特有であると考えられる新規な特徴は、本発明の詳細な説明から任意の添付の図に関連して考察するとより良く理解されるであろう。しかし、本明細書の図は、本発明の説明を助けるもの、または本発明を理解するのに役立つものであって、本発明の範囲を定義するものではない。
【0017】
本発明およびその利点のより完全な理解は、添付図面と併せて以下の記述を参照することによって得られるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、コンタクトレンズ消毒のための眼用組成物および試験溶液の幾つかを比較した、C.parapsilosisの中和後潜在アッセイ(latency assay)の結果を示すグラフである。
【図2】図2は、コンタクトレンズ消毒のための眼用組成物および試験溶液の幾つかを比較した、E.coliの中和後潜在アッセイの結果を示すグラフである。
【図3】図3は、コンタクトレンズ消毒のための眼用組成物および試験溶液の幾つかを比較した、S.aureusの中和後潜在アッセイの結果を示すグラフである。
【図4】図4は、コンタクトレンズ消毒のための眼用組成物および試験溶液の幾つかを比較した、C.parapsilosisの中和後潜在アッセイの結果を示すグラフである。
【図5】図5は、コンタクトレンズ消毒のための眼用組成物および試験溶液の幾つかを比較した、E.coliの中和後潜在アッセイの結果を示すグラフである。
【図6】図6は、コンタクトレンズ消毒のための眼用組成物および試験溶液の幾つかを比較した、S.aureusの中和後潜在アッセイの結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の眼用組成物は、過酸化水素とホウ素化合物とを含む。本発明の組成物に使用することができるホウ素化合物は、ホウ酸、ならびにホウ酸ナトリウム(ホウ砂)、ホウ酸カリウムなどの他の薬学的に許容されるアルカリ金属、アルカリ土類金属および遷移金属塩である。本明細書では「ホウ素化合物」という用語は、ホウ素を含むすべての薬学的に適切な化合物を指す。本明細書では「ホウ素化合物」という用語は、ホウ酸、ホウ酸の塩、他の薬学的に許容されるボレート、ホウ酸、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸カリウム、ホウ酸カルシウム、ホウ酸マグネシウム、ホウ酸マンガン、および他のかかるホウ酸塩を含むが、それだけに限定されない。
【0020】
眼用組成物に含まれる過酸化水素の量は、上述したように変わり得るが、一般に0.1%(w/v)から3.5%(w/v)の量であり、好ましい濃度は2.5%(w/v)から3.5%(w/v)である。本発明の組成物の全ホウ素濃度(1リットル当たりの元素ホウ素のモル)は、一般に0.05Mから0.15Mである。好ましい実施形態においては、全ホウ素化合物濃度は0.10Mから0.15Mである。
【0021】
本発明の組成物は、必要に応じて、1種類以上の賦形剤を含む。眼用組成物に一般に使用される賦形剤としては、等張化剤、防腐剤、キレート化剤、緩衝剤、界面活性剤、抗酸化剤、可溶化剤、安定剤(例えば、ホスホン酸およびDEQUEST(登録商標)などの有機ホスフェート)、消泡剤、安定剤、快適性増強剤(comfort−enhancing agent)、ポリマー、緩和薬、pH調節剤、追加の消毒剤、および/または滑沢剤が挙げられるが、それだけに限定されない。ある実施形態においては、賦形剤は、過酸化水素に対する不活性度に基づいて選択される。
【0022】
適切な張性調節剤としては、マンニトール、塩化ナトリウム、グリセリン、ソルビトールなどが挙げられるが、それだけに限定されない。適切な緩衝剤としては、ホスフェート、ボレート、およびアセテートなどが挙げられるが、それだけに限定されない。適切な界面活性剤、消泡剤、快適性増強剤およびポリマーとしては、イオンおよび非イオン界面活性剤(ただし、非イオン界面活性剤が好ましい)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ガー(guar)ならびにポリオキシエチレン−ポリオキシブチレン(PEO−PBO)コポリマーが挙げられるが、それだけに限定されない。本発明のある実施形態は、その内容全体を参照により本明細書に援用する「Use of PEO−PBO Block Copolymers in Ophthalmic Compositions」と題する同時係属中の米国特許出願第11/953,654号(米国特許出願公開第2008/0138310号)に記載のものなどのPEO−PBOコポリマーを含む。かかる実施形態に使用されるPEO−PBOコポリマーとしては、ジブロックおよびトリブロックコポリマー(例えば、PEO−PBO−PEOおよびPBO−PEO−PBOコポリマーなどの逆のトリブロック)が挙げられるが、それだけに限定されない。コポリマーは、一般に、本発明の実施形態においては、0.001w/v%から1.0w/v%の濃度で、好ましくは0.001w/v%から0.1w/v%の濃度で使用される。
【0023】
本発明のある実施形態は、界面活性剤を実質的に含まない、過酸化水素とホウ素化合物とを含む眼用組成物である。これらの実質的に界面活性剤を含まない実施形態は、下記実施例4に示すデータによって示されるように、中和速度論よりも有利な予想外の挙動を示す。界面活性剤を含まない本発明の過酸化物処方物は、界面活性剤を含む処方物よりもゆっくり中和され、したがって中和プロセス中により高濃度の過酸化水素、および付随する抗菌効果を保持することができる。さらに、界面活性剤を含まない実施形態は、下記実施例5に示すリゾチーム洗浄データによって示されるように、予想外に有利な洗浄性を示すこともできる。
【0024】
本発明の眼用組成物は、1種類以上の追加の防腐剤、消毒剤または抗菌剤を含むことができる。かかる防腐剤および剤の例としては、塩化ベンザルコニウム、過ホウ酸ナトリウム、亜塩素酸ナトリウム、ポリヘキサメチレンビグアナイドなどのグアニジン誘導体、および第四級アンモニウム塩が挙げられるが、それだけに限定されない。ある実施形態においては、組成物は、それ自体で保存性を有し得、保存料が不要である。
【0025】
本発明の組成物は、好ましくは、等張性またはわずかに低張性である。これは、組成物の浸透圧重量モル濃度を210ミリオスモル/キログラム(mOsm/kg)〜320ミリオスモル/キログラム(mOsm/kg)レベルまたはそれに近いレベルにするのに等張化剤を必要とし得る。本発明の組成物は、一般に、210mOsm/kg〜320mOsm/kgの範囲の浸透圧重量モル濃度を有し、好ましくは220mOsm/kg〜300mOsm/kgの範囲の浸透圧重量モル濃度を有する。眼用組成物は、一般に、無菌水溶液として処方される。
【0026】
本明細書に記載のある組成物は、当業者に既知のプロセスに従ってコンタクトレンズの消毒および/または洗浄に使用することができる。より具体的には、コンタクトレンズを患者の眼から外し、次いでレンズを消毒するのに十分な時間かかる組成物と接触させる。消毒および/または洗浄は、典型的には、レンズを組成物に約4から6時間浸漬する必要があり、その間に中和が起こる。本発明の組成物中の過酸化水素の中和は、当該技術分野で知られた方法(例えば、触媒または酵素による方法)で起こり得る。白金またはカタラーゼによる中和方法は、本発明の組成物と一緒に使用することが好ましい。必須ではないが、コンタクトレンズを含む溶液は、例えば、組成物とコンタクトレンズを含む容器を振とうすることによって撹拌して、レンズからの付着物質の除去を少なくとも促進することができる。コンタクトレンズは、必要に応じて、食塩水または実質的に等張な溶液を使用して手でこすって、更なる付着物質をレンズから除去することができる。洗浄および消毒は、装着者の眼にレンズを戻す前にレンズをリンスすることを含むこともできる。本発明の実施形態は、ヒドロゲルソフトレンズ、ケイ素ヒドロゲル(SiH:silicon hydrogel)レンズ、HEMAレンズ、高含水量ヒドロゲルHEMAレンズ、および硬質ガス透過性(RGP)レンズを含めて、ただしそれだけに限定されない、多数のタイプのコンタクトレンズに使用可能である。
【0027】
本発明の組成物は、1種類以上の指示化合物を含むこともできる。かかる指示化合物は、組成物が眼に注入された場合に眼の刺激または不快感を防止するのに許容されるレベルまで組成物の過酸化水素濃度が中和後に低下したときに視覚的表示を与える。これらの指示化合物の多くは、当該技術分野で知られており、例えば、Heller他の米国特許第5,603,897号に開示されたものなどのフェノールフタレインまたはヨウ素発色団が挙げられる。本発明の組成物は、錠剤中和系(特に、参照によりその全体を本明細書に援用するScherer他の米国特許第6,440,411号に開示されたものなどの指示薬系を含むカタラーゼ錠剤)と一緒に使用することもできる。
【0028】
以下の実施例は、本発明の選択された実施形態をさらに説明するものである。
【実施例】
【0029】
(実施例1)
【0030】
【化1】

(実施例2)
【0031】
【化2】

(実施例3)
本発明の組成物を潜在アッセイにおいて試験して、ホウ素含有溶液と中和された市販過酸化水素消毒液との差を比較した。pH7および7.9のホウ素含有溶液を、市販されているOXYSEPT(登録商標)およびCLEARCARE(登録商標)という銘柄の過酸化水素消毒液、消毒液UNISOL(登録商標)4、ならびに食塩水(正の対照)に対して試験した。UNISOL(登録商標)4は、負の対照として使用され、pH7.4においてホウ素を含む。4種類のホウ素含有試験溶液およびUNISOL(登録商標)4の組成を下記表1に詳細に示す。
【0032】
【表1】

試料中の過酸化水素を以下の手順に従ってアッセイした。
【0033】
1.分析試料0.1ml(100μl)を10mlガラスビーカーにピペットで取る。
【0034】
2.脱塩水5mL、希塩酸溶液2mL、ヨウ化カリウム溶液2mLおよびモリブデン酸アンモニウム溶液1ml滴に添加する。
【0035】
3.滴定前に試料を覆って暗所で約5分間維持する。
【0036】
4.淡黄色または麦わら色まで0.1Nチオ硫酸ナトリウムで滴定する。滴定中、かき混ぜて、または軽く撹拌して、ヨウ素の減少を最小にする。
【0037】
5.デンプン指示薬約1〜2mLを添加し、青色がちょうど消えるまで滴定を続ける。
【0038】
6.(H2O2を省いた)水のブランク試料でステップ2〜4を繰り返す。
【0039】
各試料の過酸化水素百分率を以下の式によって計算する。
【0040】
%H=(N−Na mL)×(N)×(0.01701)×(試料ml)×100÷試料ml
ここで、N=標準化ヨウ化カリウムの規定度
試料の抗菌活性を以下のようにアッセイした。過酸化水素消毒液試料をラベルの指示に従って十分に中和する。中和後、FDA有機質汚れ(soil)を塗布した代表的コンタクトレンズを残りの中和溶液に添加し、続いて単一細胞系の微生物を接種する。選択された接種微生物は、E.coli(ATCC#8739)、S.aureus(ATCC#6538)、C.parapsilosis(ATCC#22019)などである。1日目から7日目まで生存微生物の増殖のために中和溶液を採取する。7日目の試料後、中和溶液を再投与し、14日目から28日目まで追加の試料を採取する。適切な回収システムを使用して生存微生物を経時的に数える。アッセイ結果を示す図1〜3において水平方向の破線によって示された静止状態(stasis)(増殖なし、真菌の場合は±0.5)が得られた場合、中和溶液の潜在効果(latency effect)は十分と考えられる。
【0041】
別の試験方法においては、選択された接種微生物をFDA有機質汚れと混合し(100%vol/vol)、1タイプ当たり2枚のレンズにこの混合物を塗布した(50μl/レンズ)。5〜10分後、塗布されたレンズを中和溶液10mlに入れる。1日目から7日目まで生存微生物の増殖のために中和溶液を採取する。7日目の試料後、中和溶液を再投与し、14日目から35日目まで追加の試料を採取する。適切な回収システムを使用して生存微生物を経時的に数える。アッセイ結果を示す図4〜6において水平方向の破線によって示された静止状態(増殖なし、真菌の場合は±0.5)が得られた場合、中和溶液の潜在効果は十分と考えられる。
【0042】
両方の試験において、中和された市販品(OXYSEPT(登録商標)およびCLEARCARE(登録商標)という銘柄の過酸化水素消毒液)および食塩水(正の対照)は、試験生物の増殖を最高35日間支持した。C.parapsilosisおよびE.coli試験の場合、この増殖は、食塩水対照および中和された市販品に対して極めて急速であった。ホウ素のみのUNISOL(登録商標)4は、C.parapsilosisおよびS.aureus試験では生物を増殖させなかった(それぞれ図1、3、4および6)。しかし、ホウ素のみのUNISOL(登録商標)4は、図2および5に示すようにE.coliを徐々に増殖させた。過酸化水素およびホウ素系は、試験pH範囲(7.0〜7.9)で試験生物すべてに対して中和後の微生物増殖を完全に阻止した。したがって、本発明の組成物中の過酸化水素およびホウ素は、恐らくはペルボレート成分の形成のため、予想外の中和後抗菌プロファイルを示すと考えられる。
【0043】
(実施例4)
速度論アッセイにおいて2つの3%過酸化水素処方物を比較して、白金による過酸化水素消毒液の中和に対する界面活性剤の可能な効果を評価した。実施例1の組成物に類似した、界面活性剤を含まない試験過酸化水素溶液を、ブロックコポリマー界面活性剤(PLURONIC(登録商標)17R4)を含むCLEARCARE(登録商標)過酸化水素消毒液と比較した。速度論アッセイ手順においては、試験処方物10mLをコンタクトレンズケースにピペットで取った。2個の白金円盤のうち1個を有するキャップをケースに入れ、締めた。種々の時点(30分、60分、120分、360分および1080分)において、キャップを外し、溶液の過酸化水素をアッセイした。2種類の白金触媒を使用して各溶液を中和した。速度論アッセイ結果を下記表2に示す。
【0044】
【表2】

表2に示すように、界面活性剤を含まない過酸化物処方物は、界面活性剤を含むCLEARCARE(登録商標)処方物よりも、白金円盤2を用いたすべての時点においてかなり高い濃度の過酸化水素を保持した。界面活性剤を含まない過酸化物処方物は、白金円盤1で中和されたときにも、CLEARCARE(登録商標)処方物よりも、120分、360分および1080分の時点でかなり高い濃度の過酸化水素を保持し、30分および60分の時点で同等の濃度を保持した。
【0045】
(実施例5)
実施例1の処方物に類似した試験過酸化水素コンタクトレンズ消毒系の洗浄性を、一方は界面活性剤を含み(CLEARCARE(登録商標))、他方は界面活性剤を含まない(OXYSEPT(登録商標))2つの市販処方物と一緒に評価した。試験処方物および2つの市販処方物対照のリゾチーム洗浄効力をAcuvue(登録商標)2レンズについて評価した。
【0046】
Acuvue(登録商標)2レンズを、1.5mg/mLリゾチーム溶液3mLを含む8mL Wheatonガラス試料バイアルに入れた。バイアルをプラスチックスナップキャップで閉じ、37℃の恒温水浴中で24時間インキュベートした。インキュベーション後、汚れたレンズをバイアルから取り出し、蒸留水に浸漬してリンスした。汚れた各レンズをレンズバスケット(2個/バスケット、溶液1種類当たり2バスケット)中の試験溶液10mL中に室温で16時間入れる。浸漬/洗浄期間後、レンズをそれぞれの試験溶液から取り出し、リンスする。次いで、洗浄したレンズをシンチレーションバイアル中でトリフルオロ酢酸/アセトニトリル溶液を使用して抽出手順に供し、レンズ抽出物のリゾチーム含有量を蛍光分光光度計によって定量する。各レンズに残ったリゾチーム量を(対照レンズによって測定される)付着総量から減算し、次いで総量で割り、100%を掛けることによって、各試験溶液の洗浄効力を計算する。
【0047】
界面活性剤を含まない試験溶液のリゾチーム洗浄効力は、18.0±6.2%であり、これは、CLEARCARE(登録商標)(32.7±5.0%)よりも統計的に低いが、OXYSEPT(登録商標)(10.0±3.6%)よりは統計的に高い。リゾチーム洗浄効力は、試験溶液によって実証され、界面活性剤の非存在下では、イオン交換機序によって機能すると考えられる。
【0048】
本発明およびその実施形態を詳述した。しかし、本発明の範囲は、本明細書に記載の任意のプロセス、製造、組成物、化合物、手段、方法および/またはステップの特定の実施形態に限定されるものではない。本発明の趣旨および/または本質的特性から逸脱することなく、種々の改変、置換および変更を開示材料に行うことができる。したがって、当業者は、本明細書に記載の実施形態と実質的に同じ機能を果たす、または実質的に同じ結果をもたらす、その後の改変、置換および/または変更が、本発明のかかる関連実施形態に従って利用できることを本開示から容易に理解するであろう。したがって、以下の特許請求の範囲は、本明細書に開示するプロセス、製造、組成物、化合物、手段、方法および/またはステップの改変、置換および変更をその範囲に包含するものとする。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
過酸化水素とホウ素化合物とを含む眼用組成物であって、前記組成物のpHが6.5から9.0である、眼用組成物。
【請求項2】
過酸化水素濃度が0.1w/v%から3.5w/v%であり、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸およびその組合せからなる群から選択されるホウ素化合物を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記組成物の全ホウ素濃度が0.05Mから0.15Mである、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記組成物のpHが7.0から7.9である、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記組成物のpHが7.0から7.5である、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記組成物の浸透圧重量モル濃度が210mOsm/kgから320mOsm/kgである、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記組成物が界面活性剤を実質的に含まない、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記組成物が指示化合物をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウムおよび塩化ナトリウムをさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
過酸化水素を含む改善された眼用組成物であって、前記組成物が、前記過酸化水素の中和後に前記組成物中の微生物増殖を抑制または防止するのに十分な濃度のホウ素をさらに含む、眼用組成物。
【請求項11】
前記組成物のpHが7.0から7.5である、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
前記組成物の全ホウ素濃度が0.10Mから0.15Mである、請求項10に記載の組成物。
【請求項13】
前記組成物が界面活性剤を実質的に含まない、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
前記組成物が指示化合物をさらに含む、請求項12に記載の組成物。
【請求項15】
過酸化水素を含む眼用組成物にコンタクトレンズを浸漬することを含む、コンタクトレンズを消毒する方法において、改善が、過酸化水素とホウ素化合物とを含む眼用組成物にコンタクトレンズを浸漬することからなり、前記ホウ素化合物が、前記組成物中の微生物増殖を抑制または防止するのに十分な濃度で存在する、方法。
【請求項16】
前記組成物の全ホウ素濃度が0.05Mから0.15Mである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記組成物の全ホウ素濃度が0.10Mから0.15Mである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記組成物が界面活性剤を実質的に含まない、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記組成物が指示化合物をさらに含む、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
a)3.0w/v%過酸化水素、
b)0.33w/v%ホウ酸ナトリウム、
c)0.41w/v%ホウ酸、
d)0.136w/v%リン酸二水素ナトリウム、
e)0.062w/v%リン酸水素二ナトリウム、
f)0.12w/v%DEQUEST(登録商標)2060S、
g)0.47w/v%塩化ナトリウム、
h)組成物のpHを7.0にするのに十分な量のpH調節剤、および
i)精製水
から本質的になる、眼用組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2013−515001(P2013−515001A)
【公表日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−544915(P2012−544915)
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【国際出願番号】PCT/US2010/061123
【国際公開番号】WO2011/075685
【国際公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(508185074)アルコン リサーチ, リミテッド (160)
【Fターム(参考)】