説明

改善された生物学的アッセイのための電場を用いる方法および器具

改善された生物学的アッセイのための電場を用いる方法および機器を開示する。電場はウェルをもつ装置を横切って適用され、これらは反応体を受け取り、これらは電荷を運ぶ。このように、装置は、第1および第2の電極間の制御可能な電源を用い、それは所定の電極に正電荷および負電荷を提供するために制御可能である。電場の制御された使用によって、流体チャネルにおける流体中の荷電種を、電極間の電場によって、ウェル中にか、またはそれから外に方向つける。本方法は、微小流体工学装置でのような、流体の輸送、およびDNAの配列決定、合成またはその他のような種々のアッセイ手順に従う反応種の電場誘導された移動に関与する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明者:モスタファ ロナギ、タルン クラナ、ジュアン ジー サンティアーゴ
関連出願への相互参照
この出願は2007年7月13日付け出願の米国仮特許出願第60/959,398号からの優先権を請求し、それをその全体において参照することによってここに組み込む。
政府支持の記述 なし
シークエンスリスティング、コンピュータープログラム、またはコンパクトディスクへの言及 なし
【0002】
発明の背景 発明の分野
本発明は、生物学的アッセイ(biological assays: バイオ検定法)の分野およびこのようなアッセイを遂行するための機器で、微小流体工学装置(microfluidic device)のようなもの、荷電分子の移動を制御するために電場を適用するものに関する。アッセイは、荷電分子種で、ヌクレオチド(リン酸イオンによるもの)のようなもの、またはそれらのイオン的性質により電荷を含む他の分子で、タンパク質または小分子のようなものが関係する。
【背景技術】
【0003】
関連技術 ケイ素微細加工における進歩が、多くのラブ−オン−ア−チップ(lab-on-a-chip)プラットフォーム(基本骨格)のためのマイクロチャネル(微小通路)およびマイクロアレイ(微小配列体)を生産するために用いられている。利点には、低試薬コスト、小型化、および早い反応速度が含まれる。しかしながら、ハイスループット(高処理な)分析のために、生物学的試料を効率的に単離し、そして個々のウェル中に堆積させることが難問(challenge)である。近年、ランダムアレイが履行されており、そこでは、固形支持体を用いて独特な生物学的分子を個々に捕獲し、そしてこれらの固形支持体を、同じサイズ(大きさ)範囲の表面形状を有する反応ウェル中に堆積する。これらのプラットフォームが直面する別の難問は、反復性のアッセイを、ウェル範囲内で分離された同じビーズ上で実行するときのものである。これらの難問が普通である良好な例はDNA配列決定である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第6,287,774号明細書
【特許文献2】米国特許第5,858,195号
【特許文献3】米国特許第6,733,244号明細書
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Dressman(ドレスマン) et al., “Transforming single DNA molecules into fluorescent magnetic particles for detection and enumeration of genetic variations(遺伝的多様性の検出および列挙のための、一本鎖DNA分子から蛍光磁性粒子への変換),” Proc Nat Acd Sci July 22, 2003, vol.100, no. 15, pp8817-8822(2003年7月22日発行の米国科学アカデミー紀要第100巻15号8817頁〜8822頁)
【非特許文献2】Margulies(マグリー) et al., “Genome sequencing in microfabricated high-density picolitre reactors(微細加工した高密度ピコリットル反応機でのゲノム配列決定)” Nature 437, 376-380 (2005)(ネイチャー、第437号、第376頁〜380頁(2005年))
【非特許文献3】Erickson(エリクソン) et al., “Electrokinetically Based Approach for Single-Nucleotide Polymorphism discrimination Using a Microfluidic Device(微小流体工学装置を用いる一本鎖ヌクレオチド多形判別のための電子動力学に基づくアプローチ),” Anal. Chem., 77(13), 4000-4007, (2005)(アナリティカル・ケミストリー、第77巻第13号第4000頁〜4007頁(2005年))
【非特許文献4】Chen(チェン) et al., “Nanopore sequencing of polynucxleotides assited by rotating electric field(回転電場によって支援されるポリヌクレオチドのナノポア配列決定),” Applied Physics Letters volume 82, nmber 8, 24 February 2003 1308-1310(アプライド・フィジックス・レターズ、第82巻、第8号、2003年2月24日、第1308頁〜1310頁)
【非特許文献5】Erickson(エリクソン), D., Liu(リウ), X., Krull(クルール), D., Li(リー), D. “An electrokinetically controlled DNA hybridization microfluidic chip enabling ragpid target analysis(迅速標的分析を可能にする電子動力学的に制御されたDNAハイブリダイゼーション微小流体工学チップ),” Analytical Chemistry, 2004, 76, 7269-7277(2004年、第76巻、第7269頁〜7277頁)
【非特許文献6】Edman(エドマン) et al., “Electric field directed nucleic acid hybridization on microchips(マイクロチップ上の電場で方向付けられた核酸ハイブリダイゼーション),” Nucleic Acids Research, Vol 25, Issue 24 4907-4914(ヌクレイック・アシッヅ・リサーチ、第25巻、第24号、第4907頁〜4914頁)
【非特許文献7】Sosnowski(ソスノフスキー), R.G., Tu(トゥー), E., Butler(バトラー), W.F., O'Connell(オゥコネル), J.P. およびHeller(エレール), M.J. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 1997, 94, 1119-1123(米国科学アカデミー紀要、1997年、第94号、第1119頁〜1123頁)
【非特許文献8】Horejsh(ホレシュ) et al., “A molecular beacon, bead-based assay for the detection of nucleic acids by flow cytometry(フローサイトメトリーによる核酸の検出のための分子ビーコン(標識)、ビーズに基づいたアッセイ),” Nucleic Acids Res., 2005, 33(2): e13(2005年、第33巻、第2号、e13)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
DNA配列決定の一定の方法において、DNAを固形支持体に固定化し、そしてヌクレオチドおよび酵素を、ヌクレオチドの連続的な取り込みのためにDNAに配送する。これは普通に、合成時解読(sequencing-by-synthesis)を用いるDNA配列決定と称される。反復のヌクレオチドの添加を可能にするために、ヌクレオチドを、洗浄を通して除去する。合成による配列決定における主要な難問の1種は、DNAの周辺にヌクレオチドを配送することであり、迅速な組込みが可能になり、そしてヌクレオチドが効率的に除去されて、読み取り長(read-length)が高められる。
特定の特許および出版物
【0007】
Dressmanらの、“Transforming single DNA molecules into fluorescent magnetic particles for detection and enumeration of genetic variations,” Proc Nat Acd Sci July 22, 2003, vol.100, no. 15, pp8817-8822(非特許文献1)は、このような分子のコレクション(収集物)における各DNA分子が、単一の磁性粒子に変換される技術を開示し、それには、オリジナル(原本)と配列において一致する何千ものDNAのコピーが結合する。そのように、DNA分子のオリジナルの母集団内の多様性は、フローサイトメトリーを介して蛍光標識分子を計測することによって、容易に評価することができる。このアプローチ(取組み)は、その主成分の4つ(ビーズ、エマルジョン、増幅、磁性(magnetics))に基づいて、BEAMingと呼ばれる。PCRサイクリング後、マイクロエマルジョンをディタージェント(洗浄剤)によって壊し、そして遠心分離によって、およびDynal(ダイナル)からのMPC−Sマグネット(磁石)上にチューブを置くことによって、ビーズを油相から分離する。
【0008】
Marguliesらの、“Genome sequencing in microfabricated high-density picolitre reactors,” Nature 437, 376 - 380 (2005)(非特許文献2)は、光ファイバースライドの開放ウェルを用いる合成による配列決定のための方法および機器を開示する。この方法は、修飾されたピロシーケンス手法(プロトコル)を用い、それは小規模のウェルを生かすように設計される。光ファイバースライドは、光ファイバーのブロックのスライス(薄く切ること)によって製作され、それは光ファイバーの繰返された引き出しおよび融合によって得られる。スライドは、ほぼ160万のウェルを含み、ビーズを負荷され(詰め込まれ)、そして300−mmの高いチャネルを作り出すために設計されたフローチャンバーにおいて、ウェル開口部の上側に、それを通して配列決定試薬が流れるものに装着される。スライドの未エッチング基部は、電荷結合素子(charge-coupled device: CCD)センサーと結合する第2の光ファイバー撮像束(second fiber optic imaging bundle)とのオプティカル・コンタクト(光学的接触)状態にあり、各々の個々のウェルの底部からの放出された光子の捕獲が許される。150万のビーズを含む800mlのエマルジョンを、標準的な2mlのチューブにおいて調製する。増幅のために、各エマルジョンを、8つのPCRチューブ中に分注する。PCR後、エマルジョンを壊してビーズを解放し、それには、増幅され、固定化されたDNAテンプレート(鋳型)を有するビーズ、およびエンプティー(空)のビーズが含まれる。
【0009】
濃縮されたテンプレート運搬ビーズを、遠心分離によって開放ウェル中に堆積させる。ストレプトアビジンでコーティングされたSeraMag(セラマグ)ビーズを、DNA捕獲ビーズ上の固定化されたテンプレートに対してアニール処理されたビオチン化濃縮プライマーに結合させる。ボルテックス(渦流)処理はSeraMagおよびDNA捕獲ビーズの間のリンク(結び付き)を壊すことがあるので、ビーズをボルテックス処理しないことが必要である。
【0010】
Ericksonらの、“Electrokinetically Based Approach for Single-Nucleotide Polymorphism Discrimination Using a Microfluidic Device,” Anal. Chem., 77 (13), 4000-4007, (2005)(非特許文献3)は、PDMS/ガラスに基づく微小流体工学チップを用いる単一ヌクレオチド多形(SNP)判別のための動電学的アプローチを開示する。この技術は、外部電位の適用によって得られるプローブのアレイで存在する結合熱(coupled thermal)(ジュール加熱)、せん断(電気浸透)、および電気(電気泳動)のエネルギーの精密な制御を利用する。4つのポート(端子)の装置が記載され、異なるポートに異なる電圧を適用する。
【0011】
Chenらの、“Nanopore sequencing of polynucleotides assisted by a rotating electric field,” Applied Physics Letters volume 82, number 8, 24 February 2003 1308-1310(非特許文献4)は、回転電場によって支援されるナノポア(ナノ細孔)を通してのポリヌクレオチドの転置(translocation)プロセスを制御するための方法を開示する。この作業はシミュレーション(模擬実験)に基づいているが、この方法は、薄膜上に2組の平行電極を加えることによって、ナノポア配列決定実験において容易に履行することができると述べられる。
【0012】
Erickson, D., Liu, X., Krull, D., Li, D. “An electrokinetically controlled DNA hybridization microfluidic chip enabling rapid target analysis,” Analytical Chemistry, 2004, 76, 7269-7277(非特許文献5)は、異なる電圧を“H”型フローチャネルの異なる端部に適用する装置を開示する。この論文はさらに、チップ製造技術を記載する。
【0013】
Edmanらの、“Electric field directed nucleic acid hybridization on microchips,” Nucleic Acids Research, Vol 25, Issue 24 4907-4914(非特許文献6)は、マイクロチップに基づく核酸アレイを開示し、そこでは選定された試験部位の下方の個々の微小電極に対するDC(直流)正バイアス(偏倚)の選択的適用によって、電子アドレス指定(electronic addressing)および/またはハイブリダイゼーションが遂行される。これは、負に帯電された核酸分子をマイクロエレクトロニック(超小型電子技術)アレイ上の選定された場所にわたる速やかな移動および集中を引き起こす。次いで、核酸(DNA、RNA、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、等)は、微小電極上を覆う浸透層(permeation layer)に対する直接付着によってか、または予めアドレス指定され、そして付着させた核酸に対するハイブリダイゼーションによって固定化されうる。この論文は、緩衝剤条件等を記載し、ここに教示する方法の実地にあたって適応されることがある。Sosnowski, R.G., Tu, E., Butler, W.F., O'Connell, J.P.およびHeller, M.J. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 1997, 94, 1119-1123(この論文において引用する)(非特許文献7)は、制御された電場を用いて、一本鎖、および二本鎖のオリゴヌクレオチドの輸送、集中、ハイブリダイゼーション、および変性を規制することができることを例証する。電場強度の単純な調整によって、非常に様々な結合活性(binding strengths)を有するオリゴヌクレオチドハイブリッド中での判別を遂げうる。
【0014】
Horejshらの、“A molecular beacon, bead-based assay for the detection of nucleic acids by flow cytometry,” Nucleic Acids Res., 2005, 33(2): e13(非特許文献8)は、ビーズを使用する別のアッセイ形式を開示する。この場合には、ミクロスフィア共役分子ビーコンを使用する流体アレイシステムは、溶液における非標識核酸の特異的な、多重化した検出のためのフローサイトメーターを用いる。このアレイシステムのために、ビオチン・ストレプトアビジン連結(リンケージ)を使用して分子ビーコンをマイクロスフィアと共役させる。
【0015】
Nikiforov(ニキフォロフ)への米国特許第6,287,774号、2001年9月11日発行、“Assay methods and system(アッセイ方法およびシステム)”と題するもの(特許文献1)は、本体構造において配置する(dispose)第1チャネルを含むアッセイシステムを開示する。この第1チャネルを、第1試薬混合物の供給源で、それが蛍光標識をもつ第1試薬を含むものと、第1試薬と反応して、第1試薬とは著しく異なる電荷をもつ蛍光標識された生成物を生産する第2試薬の供給源と、およびポリイオンの供給源と流動的に接続する。システムはまた、第1試薬、第2試薬およびポリイオンを、第1チャネル、および第1チャネルと感知連通して(in sensory communication with)配置される検出器中に導入するための物質輸送システムも含む。検出器は、検出ゾーン(区域)において試薬の蛍光偏光のレベルを検出するために構成される。
【0016】
上述の特許で言及されるように、制御された動電学的輸送システムは、Ramsey(ラムジー)への米国特許第5,858,195号(特許文献2)に詳しく記載される。このような動電学的な物質輸送および指図システムには、構造に適用される電場内での荷電種の電気泳動の移動性に依存するそれらのシステムが含まれる。このようなシステムは、より一層具体的には、電気泳動物質輸送システムと称される。他の動電学的物質指図および輸送システムは、チャネルまたはチャンバー構造内の流体および物質の電気浸透フローに依存し、これは、そのような構造を横切っての電場の適用に起因する。簡単には、流体がチャネル中に置かれるとき、これは、荷電官能基、例は、エッチングされたガラスチャネルまたはガラスマイクロキャピラリにおけるヒドロキシル基をつけた表面をもち、これらの基はイオン化することができる。ヒドロキシル官能基の場合、このイオン化は、例は、中性pHで、表面からの、および流体中へのプロトンの解放、流体/表面インタフェース付近でのプロトンの集中を作り出すこと、またはチャネルにおけるバルク流体を囲む正に帯電したシース(鞘)を形成する。チャネルの長さを横切っての電圧勾配の適用は、プロトンシースを、電圧が降下する方向、すなわち、負の電極に向けて移動させるであろう。
【0017】
Fritsch(フリッチェ)らへの米国特許第6,733,244号、2004年5月11日発行、“Microfluidics and small volume mixing based on redox magnetohydrodynamics methods(酸化還元磁気流体力学法に基づく微小流体工学および小量混合)”と題するもの(特許文献3)は、磁気流体力学を利用する微小流体工学チャネルを使用して、非常に小容量の溶液をポンプ輸送する装置を開示する。チャネルは、チャネルの壁に沿う電極をもち、および溶液内の通電種(current carrying species)は、溶液を通して、電流を運ぶ。通電種の使用により発生する電場は、チャネルに適用する磁場に対して垂直である。これら2つの場は、流れの所望方向に対して垂直に適用される。電場および磁場の組合せは、チャネルを通して、双方の場に対して垂直に、溶液を流れるようにする。
【0018】
本装置は、電場を供給し、それが荷電粒子(分子)を、溶液を通して動かすことができることに注目すべきである。場は溶液自体を動かさない。さらに、場は、電磁気を必要とせず、および運動を引き起こすための強磁性原理に依存しない。すなわち、ここでは、あるものが磁石を用いて、ビーズを単に引き寄せてはいない。これは、ここで説明する粒子の動きを引き起こさないであろう。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の概略 以下の概要は、本発明のすべての特長および局面を含むことを目的としたものではなく、また、本発明が、この概要で議論するすべての特長および局面を含まなくてはならないことを意味するものでもない。
【0020】
本発明は、ビーズ、分子(ATP、酵素)、DNA、等のような荷電種(charged species)を、固定化された反応体上またはその周辺(近傍)において効率的に堆積するための電場(“e-field(e−フィールド)”)の使用に関する。電場は、DNA分子(群)の周辺における基質および酵素の集中および効率的なヌクレオチドの除去を可能にすることが見出された。この技術は、ピロシーケンスのために設計された微小流体工学装置の具体例において履行される。装置は、発光反応から得られる信号の全体的な質を高め、および読み取り長を改善するために設計される。とりわけ、我々(本発明者ら)は、あるものが、高められたヌクレオチドの取り込み、または洗浄のための一本鎖DNAを含むビーズの近く、またはそれから離れてヌクレオチドを集中させ、または除去することができることを示す。技術は概して、高生産性の分析のために、標的部位に集中させ、またはそれから除去する必要がある任意の荷電種に適用可能である。この技術は、DC(直流)バイアスを有するAC(交流)電場を用い、ヌクレオチド(荷電分子)を引き寄せ/押し戻す。DCバイアスの極性を変化させることによって、DNAビーズを含むウェルのヌクレオチドの集中、またはそれからの除去がもたらされる。バイアス電圧は概して、約1Vよりも高いが、絶縁破壊強度(dielectric breakdown strength)によって制限される最大電圧までにすることができ、〜15−20V、またはそれよりも高い電圧でよい。
【0021】
一定の具体例では、本発明には、少なくとも1種の流体チャネル(通路)と、流体チャネルに連通するように規定された反応エリア(区画)とをもつ装置が包含される。反応エリアは、ウェル、チャンバー、チューブ、または他の物理的なエリアであってよい。反応エリアは、開口部または流体チャネルに対する露出、および流体チャネルからオフセットされた底部(底部オフセット)を包含し、装置は、反応エリア開口部に対して横断する方向での流体フローのために構築され、次の、すなわち(a)底部に隣接する第1電極、(b)開口部に隣接する第2電極、および(c)第1および第2の電極間の制御可能な電源であり、所定の電極に交互の陽(正)電荷および陰(負)電荷、およびDCバイアス電圧を提供するために制御可能であるものを含み、それによって、流体チャネルにおける流体中の荷電種は、電極間の電場によって反応エリア中に、またはそれから外に方向付けされる。
【0022】
この装置は、配列決定または反応の検出が重要な他の反応において用いることができるので、装置はさらに、反応エリアにおいて反応を検出するために反応エリアに接合させる反応センサーを包含しうる。これは、光電子増倍管(photomultiplier tube)、CCDまたは他の装置でありうる。光ファイバーは改善された検出のために用いることができる。反応センサーが光ファイバー面板(フェースプレート)を含む場合、改善された感受性および特異性を、個々にフェースプレートに接合された各反応ウェルから得ることができる。反応センサーは、低レベルの光を検出するための、およびさらにそのようなレベルを計量するためのCMOS感光性素子を包含する。
【0023】
装置はさらに、ビーズを含む作動流体を包含する微小流体工学装置として説明され、そこでは、反応エリアは、1種のビーズだけを含むために一定の大きさで作られた(sized)ウェルである。微小流体工学装置では、反応エリアは、フォトレジストおよびPDMSからなる群より選ばれる不活性の、固形重合体において規定することができる。ビーズが負に帯電する場合、当面の移動(present movements)が促される。これらのビーズは、例えば、ポリスチレンとすることができる。ビーズはまた、磁性であることもできる。
【0024】
ある具体例では、底部に隣接する電極は、約150nmよりも薄い厚さの、ITO(インジウムスズ酸化物)の薄層である。この電極は、反応センサーによる反応モニタリングのために光学的に透過性(透明)であろう。
【0025】
電極は好ましくは、誘電体コーティング(被膜)を含む。これは、腐食を防止し、そして電場を増大することが見出された。誘電体コーティングは、例えば、パリレン(R)(商標)ポリ−p−キシリレン、または酸化シリコン(ケイ素)、または窒化シリコンの1種またはそれよりも多くのものでありうる。
【0026】
装置は、別々の電子装置に取り付けるために適合された使い捨て装置として構成することができ、および適切な流体チャネルおよび電極を含み、例えば、液体中の荷電粒子の移動を方向付けるための装置であり、そこでは、前記粒子は反応エリア中に方向付けられ、次の、すなわち(a)反応エリアにおける液体の一方の側上で誘電体物質によりコーティング(被覆)された第1電極、(b)反応エリアにおける液体の反対の側上で誘電体物質により被覆された第2電極、(c)反応エリアに対して横断する流体フローチャネル、および(d)AC電圧およびDC電圧の双方を第1電極および第2電極に適用するための信号発生器のための接続部を包含し、それによって、これらの電極が、それらの間に電場を生じさせるように構築され、そして整列される(arranged)。
【0027】
本発明はさらに、上述するように、微小流体工学装置において、荷電分子種を動かすための方法を包含し、前記種は反応エリアと連通する流体チャネルから反応エリア中に動き、次の工程(ステップ)、すなわち(a)荷電分子種を流れ方向において流体チャネル中で流すこと、(b)反応エリアを横切って正の端部および負の端部をもつ電場を提供すること、および(c)および荷電分子種を、その分子種上の電荷とは逆の反応エリアにおける電場に適用することによって、反応エリア中に方向付ける工程を包含する。この具体例の1種の局面では、1つよりも多くの分子種を反応エリア中に動かし、それによって、分子種間に反応が引き起こされる。別の局面では、1種またはそれよりも多くの分子種は既に反応エリアにあり、荷電分子種および反応エリアにおける1種またはそれより多くの分子種の間で反応が引き起こされる。電場は、少なくとも100kHzの周波数のAC成分、そして好ましくはDCバイアス電圧を含み、それは少なくとも1ボルトとすることができるが、概して高い電圧のものではない。方法はさらに、荷電分子種を反応エリアから外に方向付けるために、DCバイアス電圧の極性を反転する工程を包含することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】微細加工ウェルおよびITO電極を有する光ファイバー面板を示す、本発明による装置の概略図である。負に帯電したヌクレオチドを、これらの電極を横切って電位差を適用することによって、DNAビーズに向けて方向付けることができる。
【図2】図2Aおよび2BはDNAビーズ(または他の標的部位)近くにヌクレオチド(または他の荷電分子)を集中させ、または除去するためのセットアップ(設定)の概略図であり、図2Bに示される代わりの電極配置を伴う。
【図3】図3Aおよび3Bは1μmのビーズを50μmのウェルの内側に捕捉するのが支援された電場を示す写真である。イメージ(画像)において示す4つの電極の中から、2つの電極にて電圧をオフにして(3A)、次いで適用し(3B)、そして粒子のスタッキング(積み重ね)がこれらの部位にて観察される。
【図4】図4Aおよび4Bは電場において蛍光染料の集中を示すために用いる実験的装置の概略図(4Aにおいては斜視図、および4Bにおいては側面図)である。
【図5】図5Aおよび5Bは集中してない蛍光染料(5A)および電場によって集中したもの(5B)を示す写真である。
【図6】電場から得られる増大した化学発光を示すグラフであり、それは反応エリアにおいて発光酵素の近くにピロリン酸塩を増加させる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
定義
別に規定しない限り、ここで用いるすべての技術的および化学的な用語は、この発明が属する技術における通常の技量の者によって普通に理解されるのと同じ意味をもつ。ここで説明する方法および物質に類似の、または等価の任意のものを、本発明を実地または試験において用いることができるが、好適な方法および物質を説明する。一般に、ここで用いられるような生化学および生物物理学に関連して利用される命名法は、この技術においてよく知られ、そして普通に用いられるものである。一定の実験的技術の、特に規定されてないものは一般的に、この技術においてよく知られる慣習的な方法に従い、および本明細書中で引用し、そして議論する種々の一般的な、およびより一層特定の参考文献において記載されているように実行される。明確性の目的のために、次の用語を以下に規定する。
【0030】
用語“微小流体工学装置(microfluidic device)”は慣習的な意味において使用し、本装置は使用のために好ましく、そして小反応量および液体流速を用いて有利であると理解される。一般に、反応ウェルは100nLよりも大きくないべきであり、1pLほど小さくてよい。以下に説明する好適例では、それらは、直径で35μmである。装置には、緩衝剤および反応体を反応ウェル中に流すための液体フローチャネルを含むであろう。反応ウェルは、単一の荷電ビーズを保持するために一定の大きさで作ることができる。反応ウェルは概して、任意の規定された空間であり、そこでは反応体は一緒に運ばれ、そして反応体は、流体チャネルの正流(direct flow)の外に位置付けられ、それは荷電種をウェル中にまたはその外に、引き寄せ、または押し返す場を提供するために、電極を充電することによって、反応体を反応エリア中に、または反応エリアから外に方向付けるように、装置が構成されない限りである。
【0031】
用語“横断する(transverse)”は、横方向を意味する一般的な意味で使用し、好ましくは、必ずしもそうではないが、垂直である。
【0032】
用語“電場(electric field)”は、電子、イオン、またはプロトンのような、電荷の存在によって、それを取り囲む空間または媒体の容積において生産される効果を意味するために用いる。電荷の分配の各々は、ある点での重ね合わせに基づいて全場(whole field)に貢献する。空間の容積において、または周囲媒体において置かれる電荷は、その上に影響を及ぼす力をもつ。電場は、電圧における差によって作り出され、電圧が高いほど、結果として生じる場はより一層強いであろう。対照的に、磁場は、電流が流れるときに作り出され、電流が多いほど、磁場はより一層強い。電場は電流がないときでも存在するであろう。電場はメートルあたりのボルト(V/m)において測定される。本方法および装置での荷電粒子の移動を引き起こすために、都合のよい時間枠内で、電場強度は、約5V/cmまたはそれよりも高く、約1000V/cmである最大の上側値(upper value)を伴い、ジュール加熱および誘電破壊限界の実用限界までとすべきである。
【0033】
高強度の電場の例として、双極性である水を電場によって部分的に整列することができ、そしてこれが静電気の供給源による水のストリームの移動によって容易に示されうることが注目される。非常に高い場の強度(5×10Vm−1)は、氷中の水を、冷凍が妨げられるように再配列させる。
一般的方法および器具
【0034】
荷電分子の電場で方向付けられた集中および洗浄のための器具および方法を以下に説明する。
【0035】
以前の電気泳動による集中(濃縮)技術は、荷電種を電極部位に集中させるために、ファラデー電流に依存している。これは典型的に、電極での電解反応の出現、および酸素および水素のような電解生成物の発生を招く。本発明の方法は、電極を通してのファラデー電流よりはむしろ、静電結合を通しての変位場を用いる。
【0036】
ここで用いる電場は静電容量の容認された原則に基づく。異なる電荷の2つのプレートを、平行板コンデンサー(キャパシター)のように互いに近くに置き、プレート間に2つのE−フィールドを加えるとともに、プレート外部のE−フィールドを打ち消す。プレートを、コンデンサーを形成するために互いに近づけると、プレート間のE−フィールドは、そのものがプレートの端部の近くでない限り、コンデンサー内部全体にわたって一定である。電場は電位の勾配の負数(the negative)であり、E−フィールドはコンデンサー内部で一定であるので、電場Eの規模は、プレート間の電圧Vおよびそれらの分離dに非常に単純な関係をもつ。
【数1】

式1
【0037】
プレート間に薄い絶縁物質(誘電体)を置くことによって、分離dは減らされ、そのようにしてコンデンサーの静電容量が増加し、そしてプレートの触れが防止される。
【0038】
変位電流は電場の変化に関する量である。それは誘電体物質において生じ、そしてまた自由空間においても起こる。
【0039】
変位電流は、電気変位場、(既知の物理用語であり、また電場/束密度(フラックス密度)とも呼ばれる)Dの変化の比率によって数学的に定義される。
【数2】

式2
ここで、D=εEであり、式中、誘電率ε=εεであり、および式中
・εは誘電体の比誘電率であり、および
・εは自由空間の誘電率(8.854E−12Fm−1)である。
【0040】
本装置では、電極を横切って適用されたDC電圧に応じて、電気二重層を電極にて作り出し、それは電極で適用される電圧をシールド(遮蔽)する。それゆえ、電極全体を横切ったDC電圧は、電気二重層による遮蔽のため、チャネルのバルク(大半)で電場を招かず、そしてファラデー電流が集中を達成するのに必要である。しかし、電極を横切った電圧を、二重層を形成するために、イオンによって掛かる時間よりも速い時間的スケールでスイッチする(切り替える)場合、遮蔽の効果は極僅かとなり、そして電場は全体のチャネル幅を横切って存在する。10mMのイオン強度の電解質で、10nmの厚さの誘電体層、および〜100μmの電極間ギャップを有する典型的ケースにとって必要なAC周波数は、〜100kHzである。本方法は、ネット(正味)DCバイアスと共に、〜500kHzまたはそれよりも高い周波数で変化する交番磁界(alternating fields)を用いて、何らのファラデー電流も伴わずに電極を横切った正味電場を達成する。
【0041】
あるものがDC電圧を、流体フローチャネルを横切ってそれ自体によって適用することであった場合、チャネルの1方の表面近くの電圧は、チャネル壁から約10nm内で電気二重層によって遮蔽されるであろう。電場は、このようにしてチャネルの残りの幅全体にわたって(その壁から〜10nmを超えて)たいてい零になるであろう。あるものがAC電圧だけを適用することであり、それがイオンの反応時間よりも速く切り替わる場合(〜0.1ms)、電場の効果は、全体のチャネルを横切って等しく適用されるであろう。しかし、平均電場はまだ零であろう。双方のDCおよびACの電圧の場合、全体のチャネルを横切った時間平均DC場があり、力Eがもたらされ、これは、チャネルの一方の側で高く、およびその側からの距離と共に低下する。
【0042】
さらなる説明を目的として、本方法および装置が、エレクトロキネシス(動電学)の特定のタイプを採用すると言うことができる(何らの理論によって束縛されることを願うものではない)。エレクトロキネシスは、電解質溶液における荷電体の周囲の可動イオン上に電場が影響を与えることによって誘発される現象のクラスに言及する。所定の表面電荷の物体をイオン含有溶液中に浸漬するとき、拡散イオン(diffuse ion)雲が、物体の表面荷電をスクリーンする(さえぎる)ように形成する。浸漬された物体および溶液における(可動性の)対イオンの層に関係する(不動性の)電荷のスクリーニング雲のこの配置は、“二重層”と称される。小さいが有限の厚さのこの領域では、流体は電気的中性ではない。その結果、この領域上に影響を与える電場は、拡散層においてイオンを動いているように設定し、そしてこれらは周囲の流体を順に同調するであろう。結果として生じる流れの場は、流体におけるイオン電流の空間的分布を反映する。電気浸透は動電学的現象の最も単純な例を表わす。それ(電気浸透)は、試料コンテナ、または酸化シリコン電極の場合のように(中性pH範囲において)、固定された表面電荷をみせる電極の表面に対して平行に電場を適用するときに現れる。電極二重層における対イオンが電場によって加速されるので、それらは溶媒分子を引きずり(drag along)、そしてバルク流体フローをセットアップする。この効果は、狭いキャピラリーにおいて非常に重要(very substantial)であることができ、そして流体ポンプシステムを工夫する利益をもたらすために用いうる。
【0043】
電気泳動は関連現象であり、それは電解液中に浸漬した荷電粒子の場誘導輸送(field-induced transport)に言及する。電気浸透と同様に、電場は粒子の二重層において可動イオンを加速させる。先のケースとは対照的に、粒子それ自体が可動性である場合、それは、反対方向に動くことによって、イオンの場誘導輸送(および結果的に生じるイオン電流)を相殺するであろう。電気泳動は一般に、ゲルまたは固形メッシュを有する媒体において遂行され、それは、一定の基礎、例えば、サイズに従ってイオン粒子を遅らせるであろう。以下で説明するように、ここでは、粒子が、ゲルまたは固相を妨げないで、液状流体であろうことが予期される(contemplated)。
【0044】
次に図1に関し、SU−8フォトレジスト110において規定(画成)したウェル100をもつ微小流体工学装置を例示し、装置はさらに、層110上で間隔をおかれ、そしてウェル間に伸びる電極112を、電極112およびフォトレジスト層110の間の流体フローチャネル(116で示すようなもの)を規定し、そしてウェルが連絡するために含む。流体チャネルは、およそ100μmの深さであるのが好ましく、その点で、本装置は10μLの容量に適する特定のウェルである。層110は、ウェル形成性層である(すなわち、反応エリアの少なくとも一部分および流体フローチャネルを規定するためにパターン化された層)。層は、サブミクロンスケールにて製造を簡単にするために、フォトレジストから規定される。ウェルにおいて高いアスペクト比(例えば、d/w>5:1)を達成するのが好ましい。換言すれば、反応エリアまたはウェルは、チャネルから(エッチングによって)一定の深さにまでオフセットされ、そして一定の(比較的狭い)幅または直径のキャビティ(窩洞)である。ビーズは、流体フローチャネルを通って、そしてウェル中に流れる。第2電極114は、ウェル形成性層110下にあり、ウェルの底部分を規定する。ウェルが層において形成される(食刻するか、または成形する)場合に、電極は、ウェルにおいて流体および物質にさらされ、それは矢印116にて示すように装置に入る。電極112および114は好ましくは、ほぼ100nmの厚さのITO(インジウムスズ酸化物)から形成する。さらに図1に示すように、これらの電極は本質的に平行なシートを形成し、流体チャネルおよび間にウェルを有する。
【0045】
〜100nmの厚さの酸化シリコンまたはパリレンまたは窒化シリコンから形成される誘電体層が、電極に例えば、ITO層上に、図2(204および206)に示すように、適用されることに注目するのが重要である。さらに図1および図2AおよびBに示すように、電(圧)源118(図1)を電極に接続し、そして以下に詳細に説明するように、粒子(原子、分子、ビーズ、等)をウェル中に推進するために、頂部電極112は負であり、および底部電極114(ウェルの底部で)が正である。用語“頂部”および“底部”は、ここで便宜上用い、そして装置は、重力または使用の際の位置付けに関しては、種々の位置付けにおいて構成することができる。
【0046】
再度図1に関し、頂部電極112を基材120に適用し、これは、例えば、ホウケイ酸ガラスまたは石英から作成され、そしてウェル形成性層110上に、何らかのエッチングまたは機械加工された構造で、フォトレジスト層における段部のようなものによって間隔をあけられる。
【0047】
模範的な方法では、表面に結合され、そして外向きに伸びたDNA分子を含むビーズ122を、ウェル100において含まれるようにして示す(ウェルあたり1個のビーズ)。オリゴヌクレオチドを、この技術において知られるようにビーズに付着させる(関連特許および出版物参照)。ビーズは、流体フロー116によってウェルエリアに配送され、そしてウェルの上および下の電極112および114によって達成される電場によって、または磁石によってウェルに入るのが支援される。電場を適用し、124にて示されるような負に帯電した分子を、ビーズに向けて、およびウェル中に推進させる。分子は、ヌクレオチド、酵素、または他の荷電種であってよい。分子は、適切な緩衝剤において配送され、そしてビーズ上でDNA鎖との検出可能な反応を引き起こす。低濃度(〜10mM)のトリス酢酸塩(Tris-Acetate)またはトリス塩酸(Tris HCl)を、緩衝剤として使用するのが好ましい。
【0048】
一種の具体例では、荷電分子はヌクレオチドであり、それをポリヌクレオチド中に組み込み、そして反応エリアにおいて、無機リンを生じさせ、それを、検出可能な光信号(例えば、ピロシーケンス)を生じさせるために使用する。したがって、光ファイバー面板126を、薄い透明電極114に付着させ、それは、何らかの誘電体被膜と共に、反応エリアの底部を形成する。電極は、収集される光に対して透明である。光ファイバー面板126は、商業上入手可能な供給源、例えば、Schott North America, Inc.(ショット・ノース・アメリカ社)からのものでよい。光ファイバー面板は、平行で、およびウェル100の底部表面に対して垂直に整列された溶融ファイバーの束から造られる。このやり方で、光を、各個々のウェル100から、各ウェル下で検知エリア(sensing area)を有する光ファイバー面板に接合させたCMOSセンサー128のような光センサーに効率よく伝送する。知られているように、CMOSは、それが相補型金属酸化物半導体(Complementary Metal Oxide Semiconductor)を表し、撮像素子(imagers)は、感光性ダイオードのアレイ、各ピクセル(画素)内に1個のダイオードを含む。しかし、CCDsとは異なり、CMOS撮像素子における各ピクセルは、その独自の個々の内側に統合された増幅器(amplifier integrated inside)をもつ。各ピクセルがその独自の増幅器をもつので、ピクセルを“アクティブピクセル”と称する。CMOS検出器128における影付きエリアを、個々のウェルと整列させ、そしてそのウェルからの最大光度(maximum light)、およびそのウェルからの光だけを受け取る。各ウェルは個々のCMOS検出素子に接合される。
【0049】
CMOSピクセルの全能力を生かし、そして可能な限りのカバレージ(被覆率)で、それはシステム処理量(スループット)の改善に本質的であるが、それを達成するために、装置は、CMOSセンサーピクセルを有するウェル100の完璧に近いアラインメント(配置構造)で構築する。しかし、これは、入手可能なファイバー面板におけるパターンの不規則のため、ピクセルを有する面板におけるファイバーのアラインメントでは達成されることができない。直接のアラインメントを避けるための最も都合のよいやり方は、光ファイバーを使用することであり、それらは、ウェルおよびCMOSピクセルと比較して寸法が著しく小さい。そのような面板を用いることは、ピクセルおよびウェルに対する面板のアラインメントの問題を迂回する。しかし、ピクセルおよびウェルは整列させる必要がない。これは、画像センサー位置を固定すること、そしてXおよびYの次元において2つのマイクロメーター調整体(アジャスター)を使用し、ウェルを含む微小流体工学プラットフォームの完全なアラインメントを得ることによって、極めて容易に行うことができる。このプロセス(処理)は、手動によって、またはより一層複雑なステッパー(ステッピング)モーター機構を通してのどちらでも行うことができる。完全なアラインメントを検出するために用いる較正メトリック(測定基準)は、ATPまたはPPiのアッセイの較正量の存在において、各ラン(行程)の前に全体の画像センサーエリアを横切った集合的なフォト電荷(collective photocharge)の量として設定することができる。良好に整列されていない場合、光信号が個々のCMOSピクセル間のエリア上で失われることがあるが、アラインメントがよくなるので、失われた光子束は減る。最大の光強度はアラインメントが完全であることを示す。微小流体工学の、およびCMOSのセンサープレートの自動調整(Automatic adjustment)は、圧電アクチュエーション(作動)の適用を通して達成することができる。この技術では、微小流体工学プレートホルダーが単一の、または多重の圧電アクチュエーター(作動装置)を備えつける。プレートをホルダにおいて挿入すれば、圧電作動装置がCMOS出力からのフィードバックで活性化し、プレートを毎回単一位置に動かすことができる。我々の計算からは、2Nの力が、プレートをアラインメントの方へ動かすために十分であるべきことが示される。このような力の能力がある圧電作動装置が商業上入手可能である。また、数μm以内のアラインメントがそのような技術を使用して達成することができることも示された。光効率の点から、ウェルのための最良の位置はできるだけ面板に近いであろう。したがって、我々のウェルは、堆積および面板の頂部上のSU−8の層のパターン化を通して、面板の頂部上に正に製作される(fabricated right)。我々のシミュレーションに基づいて、光学効率はこの直接接合によって1.6%から90%よりも高くにまでに大いに改善されることができる。
【0050】
本装置および技術の局面群を更に示す概略図を図2Aに示す。この具体例では、標準的なスライドガラス200、202上で被覆される(〜150nm厚さ)インジウムスズ酸化物(ITO)電極物質(図1におけるような、112および114)が示され、チャネルにおいて電場をフローの方向に対して横切って適用する。透明ITO電極はさらに、パリレンまたは酸化シリコンまたは窒化シリコンのような誘電体204、206の薄層(〜20nm)を用いて被覆し(図2においてパターン化(模様化)して示し)、電解による電極の侵食を防ぎ、そして電気変位場を促進する。このように、流体チャネルは誘電体層で被覆した1つの表面をもち、それは流体と接触状態にあり、そして反対の表面は、電極部分をつけており、そこでは、電極部分はまた誘電体層で被覆される。パリレンは、未置換および置換されたファミリー(族)に適用される総称である。パリレンNおよびSCSパリレンHTは特に高い絶縁耐力、および周波数と無関係な誘電率をもち、そして好ましいことがある。パリレン誘電体物質の更なる記述は、Mahoney(マホニー)への米国特許第4,163,828号(特許文献4)、1979年8月7日付け発行、“Parylene stabilization(パリレン安定化)”と題するものに見出される。
【0051】
図2Bには、電極アレイの変形物(バリエーション)を示す。この具体例では、図2Aにおいて202で示すようなガラス層をCMOS製造処理のために適合させ、そこでは、CMOSセンサーをウェルより下で、および透明層117下に直接置く。ウェル電極は、誘電体層(示さず)によって被覆するのが好ましいが、一連のワイヤー115、115aの1種または双方、またはウェル形成性層より下の電極ストリップ119から外に、およびウェルの側面に沿って、底部分に形成する。上面図では、ワイヤーおよび電極は、グリッド(格子)の形態であり、各ウェルの周りに、底部分で、センサーの近くで四角を形成する。これは、CMOSセンサーのピクセルのおよそのサイズでの電極を有するウェルの製作を可能とする。各ウェル(ピクセル)が20μM平方であった場合、例えば、約1μMのワイヤー直径を有する、単一の、または2本のワイヤーを用いてグリッドを作り出し、そしてACおよびDCの電荷を供給するためにパルスにすることができる。ワイヤーは、ウェルの底部に隣接してとおる。また、電極をウェルの側壁内に置くこともでき、115および115aに示すように、ウェルの底部中に部分的に伸びる。再度、あるものがウェルの底部の一部分を構成する“ピクセル”を考慮する場合、それはセンサーとの光学的接触にあり、ピクセルを電極によって四側面に結合し、この場合に、一組の金属ストリップを、そこでは各ストリップのほとんどはウェルの側壁内にあるが、いくらかをウェルの底部中に伸ばす。これらの金属ワイヤー115および金属ストリップ119を電源に接続し、そして上述のように操作する。
【0052】
フローチャネルおよびDNAビーズのためのウェルを含むフロー構造は、US−8において製作する(〜200μm厚さ)。また、PDMS/シリコーン詰め物(ガスケット)を用いて、フローチャネルを作り出すこともできる。ITO誘電体被覆したスライドガラスは、フローチャネルの頂部および底部の層を形成する。図1に関連して説明したように、ビーズ122は、荷電粒子124を含有する流体媒体においてウェル中にあり、そして粒子のウェルに向けた、またはそれから出る移動、およびウェルにおけるビーズ122を引き起こすために、電源を電極と接続し、ビーズは、ヌクレオチド124との反応のためのオリゴヌクレオチドのようなそれに付着した反応体をもつ。
【0053】
慣習的なフォトリソグラフィ技術はSU−8パターン化のために適用することができる。そのようなSU−8のための製造処理は、既に試験され、そしてスタンフォードナノ製造機関(Stanford nanofabrication facility)で確認されている。SU−8処理によって、高いアスペクト比のウェルの製造が可能となり、これは、隣接するビーズ間でのケミカルクロストーク(化学的漏話)を減少させるために重要である。すなわち、反応エリアは完全にビーズを含むべきである。
【0054】
本装置の好適例の上記説明を考慮すれば、さまざまな代替構成が可能なことは明らかであろう。例示していないが、1種の具体例では、各ウェルが個々に制御した電極対に接合することができ、そして異なるウェルが、荷電種の誘引または同時の反発の異なる状態にありうることが想像できる。
【0055】
電極は、さまざまな透明な導電性層から作成され、インジウムスズ酸化物(ITO)、アンチモンドープしたスズ酸化物、およびカドミウムスズ酸塩(カドミウムスズ酸化物)のような金属酸化物のようなものであり、それらのそれぞれは、液晶ディスプレイのような電気光学装置における透明電極として普通に用いられる。電極は光検出の目的上透明である。反応を熱的または電気的に測定する装置では、電極は透明である必要はない。例えば、装置は、結合性の反応の電気的検出のために用いることができる。Mroczkowski(ムロツコウスキー)らへの米国特許第5,284,748号、1994年2月8日、“Method for electrical detection of a binding reaction(結合反応の電気的検出のための方法)”と題するもの(特許文献4)を参照。ボルタメトリー(電解電量計)のイムノアッセイ(免疫学的検定)は、1種の免疫反応体(immunoreactant)を電気活性物質で標識することによって遂行することができる。Pace(ペース)の米国特許第4,233,144号、1980年11月11日発行のもの(特許文献5)は、1種のこのような技術を例示する。別の方法には、抗原抗体層を2つの導電層間に挟むこと、および結果として生じるラミネート(積層物)の静電容量を測定することが包含される。Giaever(イェーヴァー)の米国特許第4,054,646号、1977年10月18日発行のもの(特許文献6)はこのような方法を記載する。キャパシタンス測定システムの更なるタイプには、Arwin(アーウィン)の米国特許第4,072,576号(特許文献7)において記載されるように、基質で被覆され、そして特異的に基質と結合する物質を含有する媒体中に浸漬させた一対の電極が含まれる。
【0056】
ウェル形成性層は、なんらかの不活性物質から形成することができる。フォトリソグラフィ技術を採用し、例えば、Enzelberger(エンゼルバーガー)らへの米国特許第6,960,437号、2005年11月1日発行、“Nucleic acid amplification utilizing microfluidic devices(微小流体工学装置を利用した核酸の増幅)”と題するもの(特許文献8)に記載されているように、一連の流体チャネルおよび反応エリア中に層をパターン化することができる。そこに記載されているように、微小流体工学装置は、エラストマー物質からの少なくとも1部分において構成することができ、そして単一および多重層ソフトリソグラフィ(multilayer soft lithography、MLSL)技術および/または犠牲層カプセル化法によって構築することができる(例えば、Unger(アンガー)らの(2000年)Science(サイエンス)288号、113〜116頁(非特許文献9)、およびPCT国際公開第01/01025号(特許文献9)参照)。そのような方法を利用して微小流体工学装置を設計することができ、そこで装置の流体チャネルを通した溶液フローを、1種またはそれよりも多くのコントロールチャネルを用いて、少なくとも1部分において制御し、それはエラストマー膜またはセグメント(区分)によってフローチャネルから分離される。より一層詳しくは、一定の製造方法は、頂部層のための最初に製作されるマザーモールド(mother mold)(コントロールチャネルを有するエラストマー層)およびフォトレジストを用いるフォトリソグラフィによるシリコンウェハ上の底部層(フローチャネルを有するエラストマー層)を包含する(Shipley(シプリー)SJR5740)。チャネルの高さは、スピン(回転)コートの割合(速度)によって正確に制御することができる。フォトレジストチャネルは、フォトレジストをUV光に曝露することによって、次いで現像することによって形成される。熱リフロー処理および保護処置を前述のように実行する(M. A. Unger, H.-P. Chou(シュー), T. Throsen(スローセン), A. Scherer(シェーラー)およびS. R. Quake(クウェーク), Science 288, 133 (2000))。
【0057】
フォトレジスト材料は、シリコンウェハのような基材上に、スピン(回転)またはスプレー(噴霧)コートされるか、またはウェハに対しフィルムまたはウェブ(網)として適用されうる。商業上入手可能な乾燥フィルムフォトレジスト材料は、アクリルに基づく材料で、日本国のミツイ(三井)から商品名Ordyl(オーディル)PR132の下で入手可能な材料のようなもの、エポキシに基づく材料で、Wilmington, Del.(米国デラウェア州ウィルミントン)のE. I. DuPont de Nemours and Company Corporatoin(デュポン社)から入手可能な商品名RISTON(リストン)の下で入手可能な材料のようなもの、またはNewton, Mass.(米国マサチューセッツ州ニュートン)のMicroChem Corporation (マイクロケムコーポレーション)から商品名SU−8の下で入手可能な材料のようなもの、(またはLexington, Ky.(米国ケンタッキー州レキシントン)のLexmark International, Inc.(レックスマーク・インターナショナル社)で国内的に使用される所有権のある材料のようなもので、および国内的にGSP920と称されるもの)、およびポリイミドに基づくフォトレジスト材料で、Parlin, N.J.(米国ニュージャージー州パーリン)のHD Microsystems(HDマイクロシステムズ社)から商品名HD4000の下で入手可能なものを含む。
【0058】
フォトレジスト材料をウェハ基材の流体側に適用した後、フォトレジスト材料を、マスクを通して紫外(UV)光線のような化学線に曝露し、フォトレジストをパターン化して、フォトレジストを現像すると同時にフォトレジスト材料において流体フローチャネルのための位置を提供する。次いで、パターン化したフォトレジスト材料は、現像用化学薬品(developing chemical)を使用して、ウェハの流体チャネル/ウェルエリアから未硬化の材料を溶解することによって現像する。現像用化学薬品は、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、キシレンまたは脂肪族炭化水素、炭酸二ナトリウム、および2-ブチルセロソルブアセタート(BCA)から選ぶことができる。より詳しくは、Smoot(スムート)らへの米国特許第7,043,838号、2006年5月16日発行、“Process for manufacturing a micro-fluid ejection device(微小流体排出装置を製造するための処理)”と題するもの(特許文献10)を参照。
【0059】
ヌクレオチドの予備濃縮/洗浄のための一般的なアッセイプロトコルは、以下のとおり、すなわち、
1.初めに、フローチャネルをDNAビーズで満たす。
2.フローチャネルを、ITO誘電体スライドガラスで頂部からシールする。
3.続いて、フローチャネルを、ヌクレオチドを含有する溶液で満たす。
4.ITO電極を高周波数AC供給源に接続し、そして高周波数方形波(パルス)(Vpeak (ピーク)〜5−7V.>100kHz)を、チャネルを横切って適用する。すなわち、電源118は、電極112,114にAC場を提供し、電極114は、ウェル底部でのみ有効である。AC場は2から20ボルトまでの範囲にあり、好ましくは5から7Vまでであり、および周波数では好ましくは100kHzより高く、約10kHzから約10MHzまでの範囲にある。
【0060】
この高周波数AC場は、形成する電気的二重層の効果を電極液体インタフェースにて無効にする。AC場が無い場合、電気的二重層は、電極を横切って適用されるDC電圧が遮蔽され、そしてチャネル内部にDC電場はない。
5.小DC電圧(〜1.5V)を、再度電源118から、既存のAC電圧に重ねる。DC場の極性により、ヌクレオチドは、DNAビーズ近くに集中するか、またはウェルにおいてDNAビーズから離れてはじかれるかのいずれでもある。
【0061】
本装置は、多種多様なアッセイのために用いることができる。好ましいアッセイには、ヌクレオチドの輸送に関与するものが含まれる。これらには、以下のものが含まれ、すなわち、
プライマー伸長/分解アッセイ
【0062】
このアッセイでは、末端転移酵素活性が、dATPのssDNA中への取り込みによって、タンパク質調製物において検出される。典型的な手法には、130nMのTdTSまたは130nMのTdTLを、200nMのカコジル酸カリウム、25mMのTris−HCl、pH6.6、0.25mg/mlのBSA、4mMのMgCl、4μMのZnSO、5%グリセロール、1mMのdATP、および20nMの5’−32P−標識(dA)10プライマーにおいて35℃にてインキュベート(温置)する。タンパク質調製物における3’5’エクソヌクレアーゼ活性は、dATPの不存在下に同じアッセイを用いて検索する。アリコートを0、5、15、30、および60分で引き出し、ホルムアミド染料混合物を補充し、そして16%のアクリルアミド変性ゲル上で電気泳動する。生成物は、−70℃でKodak(コダック)フィルム(Biomax (バイオマックス)MR)の下でウエット(湿潤)ゲルの曝露後に可視化される。The Journal of Immunology(ジャーナル・オブ・イムノロジー), 2004, 172: 6764-6767(2004年、第172号、6764〜6767頁)、“Evidence That the Long Murine Terminal Deoxynucleotidyltransferase Isoform Plays No Role in the Control of V(D)J Junctional Diversity(長いネズミ科末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼのアイソフォームはV(D)J結合多様性の制御において役割を演じないという証拠)”を参照。
DNAのクローン分析、または多重分析
【0063】
このアッセイは、複数の反応エリアをもつ装置を用い、そこでは、各反応エリアは、1種の、および1個だけのビーズを保持するために設計されたウェルである。DNA分子は、この技術において既知の方法を用いて中立的に荷電されたビーズに、各ビーズについてDNAの1つの種と共に付着される。ビーズのために用いることができる中性物質の例には、ガラス、ポリアクリルアミド、ポリスチレン、Sepharose(セファロース)(R)ビーズ(架橋した多糖アガロース、GE Hewalthcare. Properties(GEヘルスケア.プロパティーズ)の商標)、アガロースの他の形態、ラテックスなどが含まれる。加えて、例3において例示するように、磁性ビーズ(電磁ビーズ)を用いることができる。DNAまたは他の分子を付着する処理が不完全であるので、これはビーズの2つの集団をもたらし、1種の集団はDNAを有し、そして1種の集団はDNAを伴わない。両集団ともフローチャネルに入れ、そしてDCバイアスを有するAC場をウェルに適用する。DNAは負に帯電されるので、これは、DNA含有ビーズをウェル内に捕獲させ、ネイキッド(裸)のビーズは、それらが洗浄され除去されるように貫流される。これは、装置におけるDNA被覆されたビーズの豊富にされた集団をもたらす。次いで、この技術において既知の技術を用いて、ビーズ上のDNAが増幅されうる。DNA被覆されたビーズは、様々な既知のビーズ材料であってよく、そしてオリゴヌクレオチドまたはDNA(またはRNA)のポリヌクレオチドと直接接続することができ、次いでそれらはさらに、配列決定鋳型としての作用によって、他のポリヌクレオチドの付着のためのプローブとしての作用、または同様の他のもののいずれでもによって処理される。ビーズはストレプトアビジンで被覆することができ、そしてビオチン化DNA/RNAに付着させ、またはこの技術における者に既知の多種多様なやり方で構成することができる。
【0064】
この具体例の1局面では、ビーズをバーコードでコード化する。バーのコードは、分子を独自に検出するために用いられる特有のタグ(札)である。バーコードは、この技術において既知の任意のタイプ(種類)のバーコードであることができ、制限されないが、光学的タグ、蛍光タグ、電気的反応タグ、および異なるマス(集合、質量)を有する一組のタグが含まれる。バーコードは、バーコードのタイプに依存する方法で、制限されないが、マス、電気的、視覚的、蛍光的、および核酸の検出を含むものを用いて復号化される。このやり方で、各反応エリアにおけるDNAの配列を識別することができる。
【0065】
このように、この方法は、ビーズの集団のうち、分析される分子(例えば、DNA)を含むいくつかのものだけのフローチャネル中への導入を可能とし、そこで、分子を含むビーズには、異なる分子種(例えば、異なるDNA配列、異なるタンパク質等)が含まれる。ビーズを無作為にウェル中に入れ、そしてバーコーディングによって識別する。分子は、本Eフィールドに反応するだけである必要がある。図5に示すように、さらに一定の染料も、タンパク質および核酸(DNA、RNA)と同様に反応する。
【0066】
多重分析は、多数のウェルにおいて遂行し、これらは、およそ数百または数千の異なるウェルでありうる。あるものは各ウェル(またはウェルのサブセット)に、異なる流体チャネルを伴って、アドレス指定しうる。標的分子が個々のウェル中に方向付けられると、反応体は化学分析のためのそれらの分子に特異的にアドレス指定される。結果は、上述のように読み取られ、そして分析は更に、標的分子を識別するためにバーコードを逆重畳(デコンボリューション)することを含みうる。用語“バーコード”は、ここにおいて、標的分子と、直接またはビーズのような固形支持体を通してのいずれかでもと関係する独自の分子(オリゴヌクレオチドまたは磁性粒子のようなもの)に言及するために、おおまかに用いる。さらなる詳細は、Lizardi(リサルディ)らへの米国特許第6,261,782号、2001年7月17日発行、“Fixed address analysis of sequence tags(配列タグの固定アドレス分析)”と題するもの(特許文献11)に見出すことができる。本方法に従って用いることができる他のラベル(標識)には、分子または金属バーコード、マス標識、および核磁気共鳴、電子常磁性共鳴、表面増強ラマン散乱、表面プラスモン共鳴、蛍光、リン光、化学発光、共鳴ラマン、マイクロ波によって検出可能な標識、または組合せが含まれる。マス標識は、化合物または構成部分(moieties)でそれをもつもの、またはそれは標識された成分を与えるもの、質量分析でのマス形跡(シグネチャー)である。マス標識は、検出のために質量分析を用いるときに有用である。好適なマス標識は、ペプチド核酸および糖質(炭水化物)である。標識の組合せもまた有用である。例えば、標識の265の独自の組合せをもつ、色で暗号化されたマイクロビーズは、おびただしい成分を区別するのに有用である。例えば、265種の異なるライゲーター(結紮器)検出機を独自に標識し、そして検出することができ、このことで、開示された方法の多重化および自動化が可能になる。
ポリメラーゼ連鎖反応
【0067】
この標準的なアッセイは、DNA分子における規定された配列の存在を検出し、それは1対のオリゴヌクレオチドプライマーと相補的である。発熱体を加えることで、PCR反応を図1に例示するような装置において遂行することができる。PCRは、例えば、米国特許第4,683,202号(特許文献12)、米国特許第4,683,195号(特許文献13)、米国特許第4,800,159号(特許文献14)、および米国特許第4,965,188号(特許文献15)のような基本的な特許において説明されている。Cheng(チェン)への米国特許第5,512,462号、1996年4月30日発行、“Methods and reagents for the polymerase chain reaction amplification of long DNA sequences(長DNA配列のポリメラーゼ連鎖反応増幅のための方法および試薬)”(特許文献16)は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)による10キロベースよりも長いDNA配列の増幅のための方法および試薬を記述する。これらの方法は、サーマス・サーモフィラス(Thermus thermophilus、高度好熱菌)からの一次熱安定性DNAポリメラーゼと、サーモコッカス・リトラリス(Thermococcus litoralis)、パイロコッカス種GB−D(Pyrococcus species GB-D)またはサーモトガ・マリティメ(Thermotoga maritime)からの3’から5’までのエクソヌクレアーゼ活性を所有する(possessing)二次熱安定性DNAポリメラーゼのより一層少ない量との組合せからなる組成物を用いる。
【0068】
本方法はまた、DNAシークエンシング−バイ−シンセシス(DNA sequencing-by-synthesis)の種々の方法に応用することもできる。
ピロシーケンス
【0069】
ここで説明するピロリン酸法は、合成による配列決定のタイプである。Ronaghi(ロナーギ)らの、“A Sequencing Method Based on Real-Time Pyrophospate(実時間ピロリン酸に基づく配列決定法)”Science, 281: 363 365 (1998)(第281号、363頁〜365頁(1998年))およびHyman(ハイマン)、“A New Method of Sequencing DNA(DNA配列決定の新しい方法)”Anal. Biochem., 174: 423 436 (1988)(第174号、423頁〜436頁(1988年))を参照。
【0070】
Ronaghiの、“Pyrosequencing Sheds Light on DNA Sequencing(ピロシークエンスはDNA配列決定で光を発する)”、Genome Research Vol. 11, Issue 1, 3-11, January 2001(第11巻、1号、3頁〜11頁、2001年1月)に記載のように、ピロシーケンスは、DNA合成中に解放されるピロリン酸(PPi)の検出に基づくDNA配列決定技術である。酵素反応のカスケードでは、可視光が発生し、それは組込まれたヌクレオチドの数に比例する。カスケードは、核酸重合反応を用いて開始し、そこでは、無機質PPiがポリメラーゼによるヌクレオチドの取り込みの結果として解放される。放出されたPPiは、続いて、ATPスルフリラーゼによってATPに変換され、これがルシフェラーゼにエネルギーを提供し、ルシフェリンを酸化し、そして光を生じさせる。添加されたヌクレオチドは既知であるので、鋳型の配列を定めることができる。核酸分子は、RNAまたはDNAのいずれでも可能である。しかし、DNAポリメラーゼは、ヌクレオチド伸長を制限するためのRNAポリメラーゼよりも高い触媒活性を示すので、努力は、ピロシーケンスのためのプライムド(薬物刺激された)DNA鋳型の使用に焦点を合わせられていた。標準的なピロシーケンスは、エシェリキア・コリ(Escherichia coli)DNA Pol Iのクレノウ断片(Klenow fragment)を使用し、それは比較的遅いポリメラーゼである。ピロシーケンスに使用するATPスルフリラーゼは、酵母のサッカロマイセス・セレヴィシエ(Saccharomyces cerevisiae)からの組換え版(バージョン)であり、そしてルシフェラーゼは、アメリカホタルのフォチナス・フィラリス(Photinus pyralis)由来である。重合から光検出までの全体の反応は、室温で3−4秒以内に起こる。ピロシーケンス反応におけるDNAの1ピコモルは、6×1011のATP分子を産生し、続いて、560ナノメーターの波長で6×10を超える光子を生じさせる。光のこの量は、フォトダイオード、光電子増倍管、または電荷結合素子(CCD)カメラによって容易に検出される。2種の異なるピロシーケンス戦略、すなわち、固相ピロシーケンス(Ronaghiら、1996年)および液相ピロシーケンスがある。固相ピロシーケンスは、以前に記載した3酵素システムにおいて固定化されたDNAを利用する。このシステムでは、洗浄工程を実行し、各ヌクレオチド添加後に余剰の基質を除去する。液相ピロシーケンスでは、アピラーゼ、ポテト由来のヌクレオチド分解酵素を導入し、4酵素システムを作成する。この酵素の添加は、固形支持体および中間洗浄のための必要性を排除し、それによってピロシーケンス反応が単一の管において実行されるようにできる。
【0071】
自然のヌクレオチドを用いることは有利である一方、ピロリン酸法は、DNA鎖上でポリメラーゼの同期を必要とし、これは、配列読み取り長さを制限することが知られている。また、検出方法は、手法におけるルシフェラーゼによる光生成の制限された量子効率のため、単一分子感度に近づくことができる。さらに、全体の配列決定速度は、必要な洗浄工程、ピロリン酸の存在を識別するためのその後の化学的工程によって、および各塩基対を試験し、4個の塩基をすべて伴って順次に配列決定されるのに必要な固有の時間によって制限される。また、配列におけるホモヌクレオチドストレッチを正確に決定することにおいての困難性が認められた。
【0072】
上記に挙げたDNA、ヌクレオチド、PPiおよび酵素の動電学を用いる本方法は、ピロシーケンスにおける重要な改善を提供する。反応体はウェル中により一層良好に流れ、上に挙げた同期の潜在的に問題のあるエリア、読み取り長さ、および速度がアドレス指定される(扱われる)。
プライマー伸長
【0073】
Parce(パースィ)らへの米国特許第6,613,513号、2003年9月2日発行、“Sequencing by incorporation(取り込みによる配列決定)”と題するもので記述されているように、合成または取り込みによる配列決定の方法は一般にすべて、ヌクレオチドまたはヌクレオチド類似体を、核酸テンプレートおよびプライマー、例えば、DNAまたはRNAが含まれる反応混合物に添加することを包含する。ヌクレオチドを、プライマー中に組み込み、伸長されたプライマーがもたらされる。配列が定まり、それは各追加の相補性ヌクレオチドがプレイマー中に組み込まれ、そしてそれらの段階が、完全な鋳型配列またはその一部分が定まるまで繰り返されるからである。
【0074】
この方法の1種の具体例では、ヌクレオチドまたはヌクレオチド類似体、またはそれらの画分(フラクション)は、3’−ブロッキング(保護)基および検出可能標識構成部分を含み、そしてそれは典型的に、リン酸塩またはカルバミン酸塩の基を含む。3’−ブロッキング基は、可逆性連鎖停止(reversible chain termination)を提供する。増殖する核酸鎖に加えるとき、これらのヌクレオチド類似体は非伸長性プライマーをもたらす。3’−ブロッキング基は典型的に、例えば、還元剤および/またはホスファターゼによって除去され、伸長可能なプライマーを生成し、さらにそれらにヌクレオチドが加えられ、それによって核酸鋳型の連続した配列決定が可能となる。3’−ブロッキング基の除去は随意に、加えられたヌクレオチドの検出前またはその後に実行される。
【0075】
この方法の別の具体例では、ヌクレオチドまたはヌクレオチド類似体は、蛍光標識を含む。蛍光ヌクレオチドを用いる合成によっての配列決定には典型的に、加えられたヌクレオチドの検出後での蛍光標識の光退色が包含される。光退色は、許容可能なレベル、例えば、背景レベルまで、またはいくつかの配列決定サイクルにわたる信号集積(signal buildup)、ヌクレオチドの蛍光、例えば、プライマーに加えられた蛍光ヌクレオチドを妨げるのに足りる低いレベルまでに破壊または減少させる光パルスの適用を含む。
【0076】
末端ヌクレオチドに関係する染料または蛍光標識を用いる関連した方法が開発されており、そこでは、配列の決定はまた、ゲル電気泳動および自動蛍光検出器によって行われる。例えば、サンガー伸長法は、近年、自動マイクロ配列決定システムにおける使用のために修飾されており、それは、サブマイクロリットルの量の試薬、および染料標識ジデオキシリボヌクレオチド三リン酸しか必要としない。Soper(ソーパー)らへの米国特許第5,846,727号では、蛍光検出を、励起光をキャピラリーチャネルに運ぶ1種の単一モード光ファイバー、および蛍光光子を収集する第2の単一モード光ファイバーを有するオンチップで実行する。配列読み取りは、400から500塩基の範囲において評価され、それは伝統的なサンガーまたはマクサム・ギルバート法で得られる配列情報の量に対して大幅な改善はない。さらに、Soper(ソーパー)法は、鋳型DNAのPCR増幅、および分離反応の開始に先立つオリゴヌクレオチド配列決定“ラダーズ(ladders)”の精製およびゲル電気泳動を必要とする。これらのシステムはすべて、かなりの量の標的DNAを必要とする。Cheeseman(チースマン)への米国特許第5,302,509号に記載の方法でさえ、それは、配列の決定のためのゲル電気泳動を使用しないで、少なくとも百万のDNA分子を必要とする。
【0077】
加えて、本電場機器は、タンパク質および他のタンパク質、またはタンパク質および小分子の間の接触に関与するアッセイに適応させることができる。例えば、固定化酵素を基質に接触させることができ(インヒビター(抑制剤)を伴って、または伴わずに)、これによって基質および任意のインヒビターが、荷電粒子として溶液において存在する。電場を適用することは、反応体を酵素に向けて動かし、処理時間を短縮させる。同様に、マイクロタイタープレート上に固定した捕獲抗体を使用するイムノアッセイ形式は、電荷反応体(抗原、標識抗体)の捕獲抗体への、およびそれからのフローを改善するために、開示された方法に従って設計することができる。
実施例
例1:ビーズの電極ウェル中への集中
【0078】
この例では、1μmの蛍光ポリスチレンビーズを50μmのウェル内に捕捉するのを援助する電場を例示する。図3に示すように、4個の電極ウェルを準備した。ウェルは、片側に接着剤を有する150μmの厚さのMylar(マイラー)シートを使用して作り出した。これらの電極は、プリント回路基板上に製作し、そして各電極は、電極およびバルク溶液を横切って電圧を適用することによって個々に活性化することができた。80μmの厚さの導電ナフィオン(Nafion)膜はウェルの底部を形成し、そしてビーズを含む溶液から電極を隔離した。
【0079】
多出力コンピュータ制御電源装置(Labsmith(ラブスミス), HVS 3000D)を使用し、電極を個々に活性化した。直立のNikon(ニコン)落射蛍光顕微鏡をイメージングのために使用した。ビード溶液は、10mMのTris−HEPES緩衝剤における原液の10,000×希釈によって調製した。次いで、ビード溶液を、電極にわたって3cmの長さ、5mmの幅のフローチャンバーに満たした。〜75V/cmの公称上のDC電場を、電極およびバルク溶液を横切って適用し、そしてビーズを、結果として10秒未満でウェルの内側に捕捉した。電圧を4個中2個の電極にしか適用しなかった。そして粒子の積み重ね(スタッキング)を、これらの活性化された電極部位でのナフィオン膜上で観察する。この具体例では、ビーズをウェルの内側の膜に方向付けるDC電流が存在する。以下に説明する具体例では、電極上に誘電体層が存在し、それはこれらのDC電流を妨げる。したがって、それらの実験はACおよびDCの電圧の組合せからの変位電流を必要とする。
例2:蛍光種の電場で方向付けられた予備濃縮
【0080】
次に図4に関し、荷電分子の電場で方向付けられた移動を示すための原型装置を例示する。装置は、1mm直径のホール(穴)をもつ250μMの厚さのシリコーンガスケット材料410のシートを含む。これを、20nmのパリレン誘電体層408に適用し、これは1インチ(in.)×3インチのガラススライド404上で150nmのITO層406に適用してあり、“底部”が形成される。“頂部”を形成するために、別のガラススライド414を同様にITO層415でコーティングして電極を形成し、そして流体と接触する頂部電極の“底部”側上にパリレン層417を形成し、それは、2つのスライドが一緒に挟まれるときに、形成されたウェル412において含まれることができる。
【0081】
Coolsnap(クールスナップ)fx-16のCCDカメラ、Olympus(オリンパス)IX 70落射蛍光顕微鏡撮像装置416を流体ウェルの下方にアレイする(配置させる)。伝導性の銅テープを用いて、電極を信号発生器に接続した。
【0082】
500nMのAlexa-Fluor(アレクサ・フルオル)488蛍光染料(Molecular Probes、モレキュラー・プローブ)を有する10mMのTris−HCl溶液を、次の手法に従ってウェル中に置いた。伝導性の銅テープを、ガラススライド上で露出させたITO層に付着した。シリコーンガスケットを底部のガラススライド上に置き、そしてスライドに対して加圧してシールを形成した。ガスケットにおける1mmの穴を、蛍光染料溶液で満たした。第2のガラススライドを、ガスケットの頂部上に置いて、蛍光染料を含むウェルの頂部をシールした。信号発生器402を操作し、5VのAC最大振幅(peak-to-peak、ピーク間)、500kHzの周波数、スライド上の頂部および底部のITO電極を横切って、すなわち、ウェルの上およびその下に提供した。バイアス電圧VDC=1.5Vを底部および頂部のスライドを横切って適用して、ウェルの底部近くで蛍光Alexa-Fluor分子の予備集中を達成した。
【0083】
結果を図5に示す。図5Bにおいて写真で見られるように、+1.5VのDC電圧をAC電圧と共にスライドを横切って適用するとき、蛍光染料がウェルの底部近くに集中する。AC電圧だけ、またはDC電圧だけを適用するとき、予備集中は見られない。上述したように、本装置は、ここで変位電流を用いて(またはAC場、上記式2参照)、液体・誘電体インタフェースでの電気二重層の形成を防ぎ、それは一方の表面近くに場を集中させる。電気二重層は典型的に、全体の適用されたDC電圧を遮蔽し、そしてバルク液体において電場が存在しない。それゆえ、バルク溶液におけるイオンは何の電場も経験しない。高周波AC場を適用することによって、電気二重層の影響は消える。それゆえ、高周波ACをDCバイアスと共に適用するとき、バルク液体における正味電場をもつことが可能である。AC場は、二重層による電圧遮蔽の効果を崩壊させ、そしてDCバイアスは、溶液において正味電場を作り出す。このシステムの1種の利益は、我々がシステムにおいてファラデー電流(電解を生じさせる)を必要とせず、予備集中が達成されることである。
例3:ピロリン酸の電場で方向付けられた予備濃縮
【0084】
装置は、基本的には図4に示すように構築するが、次の異なる点を有し、すなわち、カメラおよび顕微鏡の代わりに、磁石およびHamamatsu(ハママツ)光電子増倍管を、図4での416に示すように、ウェル412の下方にアレイした。
【0085】
手法は以下の通りとした。すなわち、伝導性の銅テープをガラススライド上で露出されたITO層に付着させた。シリコーンガスケットを底部ガラススライド上に置き、そしてスライドに対して加圧してシールを形成した。ガスケットにおける1mmの穴に、酵素を含む磁性ビーズを詰め込んだ。磁石をガラススライドの下に置いて、磁性ビーズを静止させて保持した。ガスケットにおける1mmの穴に、ピロリン酸溶液を充填した。第2のガラススライドをガスケットの頂部上に置いて、化学物質を含むウェルの頂部をシールした。化学物質は、次のもの、すなわち、ピロリン酸溶液、ATPスルフリラーゼを詰め込まれた磁性ビーズ、およびルシフェラーゼ(454 Life Science(ライフ・サイエンシーズ)から入手した)であった。
【0086】
AC電圧5V最大振幅、500kHzの周波数を、頂部および底部のITOスライドを横切って適用した。バイアス電圧VDC=1.5Vを底部および頂部のスライドを横切って適用して、ウェルの底部近くでピロリン酸分子の予備集中を達成した。
【0087】
図6は、チャネルを横切って適用されるDCバイアスを伴うか、およびそれを伴わない光電子増倍管の出力を示す。DCバイアスを適用するとき、酵素ビーズに近いピロリン酸の増加した集中のため、化学発光反応からの光信号が増加する。バイアスを除去するとき、背景光信号は、元のレベルまで戻って減少する。酵素反応からの光信号は、+1.5VDC電圧を、スライドを横切って適用するとき、ウェルの底部での酵素ビーズに近いピロリン酸分子の予備集中のために増加する。AC電圧だけ、またはDC電圧だけを適用するとき、予備集中は見られない。この例では、磁性ビーズを用いて酵素を固定化し、そしてビーズを適所に保持するために磁石が下部にある。純粋なAC場を適用するとき、バルク液体における正味電場が0であるので、予備集中はない。DC場だけを適用するとき、電気二重層が適用された電圧を遮蔽し、そしてバルク液体におけるイオンはまだ正味電場を経験しない。
例4:電場で方向付けられたピロシーケンス
【0088】
マイクロ流体チップ上でピロシーケンスを実行するために、反応ウェルにおいて個々のビーズを分離するのが好ましい。
【0089】
光信号を局在化させ、そして高強度発光を生じさせるために、検出酵素(ルシフェラーゼおよびATPスルフリラーゼ)を、カルボン酸で機能化(官能化)させた0.5μmのポリスチレンビーズ上で固定化する。ビーズ上のカルボン酸を、まず、N−(3−ジメチルアミノプロピル)−N’−エチルカルボジイミド(N-(3-dimethylaminopropyl)-N'-ethylcarbodiimide: DEC)およびN−ヒドロキシスクシンイミド(N-hydroxysuccinimide: NHS)を用いてアミン反応性NHS−エステルに変換する。リガンド(配位子)をビーズに接合させるための種々のプロトコルが、“Particulate solid supports functionalized with EGTA ligands(EGTA配位子で官能化した粒子状固形支持体)”、米国特許第6,551,515号に与えられる。これらのNHS−エステルは次いで、アミド連結の形成において、酵素表面のアミノ基と共に加わる。酵素における必須残基の損失は、二工程ウェル規定固定化戦略(two-step well-defined immobilization strategies)を採用することによって最小化される。これらの比較的透明なポリスチレンビーズは、454によって使用させる2.8μmの非透過性磁性ビーズよりも大いに小さい(Margulies(マーギュリーズ)ら、2005年、“特定の特許および出版物”の下で引用)。したがって、結合能力は劇的に高まり、そして固定化の材料の容量当たりの酵素単位のより一層高い量がもたらされる。さらに、ビーズ上でのカルボン酸基によって提供される負電荷、および7.5のピロシーケンスpHでの酵素上の正味負電荷(6.2−6.4、および5.3−5.7のPIs、ホタルのルシフェラーゼ、およびATPスルフリラーゼのそれぞれについて)は、効果的な負電荷を有するビーズを提供するであろう。
【0090】
ウェル中へのこれらの高荷電ビーズの堆積をその後、電場(e−フィールド)の使用によって達成する。チップ上でのe−フィールドを履行するために、図1−2に示すようなITOの薄層(〜0.1μm)の堆積によって製作される透明電極を、光ファイバー面板および流体のチャンバーの頂部カバー上で用いる。
【0091】
〜1Vの電位差を被覆された電極を横切って適用して、任意の電解反応を避け、そして電場の〜100V/cmを達成する。これらの電極はまた、DNAを有する30μmのポリスチレンビーズ、および0.5μmのポリスチレン酵素ビーズの堆積において役立ち、それらは正味負電荷を所有する。ビード溶液の電荷分布および減少した伝導性のために、面板ウェルカバレッジ(被覆率)は、〜80%に改善されるであろう。我々は、1μmのポリスチレンビーズが微細加工された電極を有するウェル内に選択的に捕捉されることを例証した(例1に記載するようなもの)。
【0092】
上述のように、反応ウェル近くでヌクレオチドの活性な予備集中を達成するために、我々はフロー方向に対して横断するe−フィールドを適用する。この戦略はいくらかの利点を与える。各ピロシーケンスのラン中に解放されるPPiは、負電荷がウェル内に入る共に、電場によって反応ウェルに閉じ込められ、そして2つの隣接するウェル間での化学的クロストークが最小化されるであろう。これは、ウェルおよび高度に密集したプラットフォームのためのビーズの将来的な小型化にとって重要である。さらに、電場方向を簡単に反転させて、そのためウェルの外にヌクレオチドを押し返すことによって、洗浄工程をより一層効率的に行うことができる。この取組みは、長い読み取りを達成するために、洗浄効率を高めるのにすこぶる有益である。
【0093】
ピロシーケンス実験の初めに、あるものではPPi洗いを実行し、全チップを横切って生じる光信号を測定する。各ウェルの解放からの光信号は、ウェルの全体で等しいべきである。その後、洗いを実行し、次いでヌクレオチドの環状付加(cyclic addition)に従われる。第1のヌクレオチド配列はキー(鍵)についての情報を提供し、それはシステムを準備するのに我々を手助けするであろう。このキー配列は、アッセンブリ(組立体)のための発生期の配列を提供するために、塩基コーリング(base-calling)後に実際の配列から除去される。
結論
【0094】
上記特定の説明は、本発明を実証し、そして例示することを意図され、および本発明の範囲を制限するものとみるべきではなく、それは、添付する請求の範囲の文字通りの、および等価の範囲によって規定される。この明細書において言及する何らかの特許または出版物も、本特許に属する技術において熟練した者のレベルを示し、そしてはっきりと述べられないかもしれないが、その分野において労働者によって理解される発明の詳細を伝達することを目的とする。言及される方法または物質を記述し、そして可能にする目的で必要であるように、そのような特許または出版物は各々が参照によって詳しく、そして個々に組み込まれたかのように、その同程度に、参照によってここに組み込まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の流体チャネルと、流体チャネルに露出した開口部を有する反応エリアと、流体チャネルからオフセットされる反応エリアの底部とをもつ生物学的アッセイを遂行するための装置であり、装置は、反応エリア開口部に対して横断する方向における流体フローのために構築され、以下の、すなわち
(a)反応エリアの底部に隣接する第1電極、
(b)反応エリアの開口部に隣接する第2電極、および
(c)第1および第2の電極に接続される制御可能な電源であり、第1電極および第2電極間に交流電圧およびDC(直流)バイアス電圧の双方を提供し、第1電極および第2電極間に電場を作り出すために制御可能であるもの
を包含し、
流体チャネルにおける流体中の荷電種は、電極間の電場によって反応エリア中にか、またはそれから外に方向付けられるところの装置。
【請求項2】
さらに、反応エリアにおける反応を検出するための反応エリアに共役する反応センサーが包含される、請求項1の装置。
【請求項3】
反応センサーは透明電極に共役する光ファイバーフェースプレート(面板)を包含する、請求項2の装置。
【請求項4】
反応センサーはCMOS感光素子を包含する、請求項2の装置。
【請求項5】
さらに、反応エリアは、1種のビーズだけを含ませるためにサイズ指定されるウェルである、請求項1の装置。
【請求項6】
さらに、負に帯電されるビーズを包含する、請求項5の装置。
【請求項7】
負に帯電されるビーズがポリスチレンである、請求項6の装置。
【請求項8】
ビーズは磁性であり、および装置はさらに磁石を包含する、請求項6の装置。
【請求項9】
底部に隣接する電極は、ITOの薄層で、約150nm未満の厚さである、請求項1の装置。
【請求項10】
反応エリアは、フォトレジストおよびPDMSからなる群より選ばれる不活性な、固形重合体で規定される、請求項1の装置。
【請求項11】
電極は、流体チャネルにおける液体に露出する表面上の誘電体コーティングを包含する、請求項1の装置。
【請求項12】
誘電体コーティングは、ポリ−P−キシレンまたは酸化ケイ素または窒化ケイ素の1種またはそれよりも多くのものである、請求項11の装置。
【請求項13】
電極はワイヤグリッドによって形成される、請求項1の装置。
【請求項14】
液体において荷電粒子の移動を方向付けるための装置であって、前記粒子は反応エリア中に方向付けられ、次の、すなわち
(a)反応エリアにおける液体の一方の側上で誘電体物質によりコーティングされた第1電極、
(b)反応エリアにおける液体の反対の側上で誘電体物質によりコーティングされた第2電極、
(c)反応エリアに対して横断する流体フローチャネル、および
(d)AC(交流)電圧およびDC(直流)バイアス電圧の双方を第1電極および第2電極に適用する信号発生器のための接続部であり、それによって電極はそれらの間に電場を生じさせるために構築され、そして整列されるもの
を包含する、装置。
【請求項15】
反応エリアは、単一のビーズだけのために足りる大きさである、請求項14の装置。
【請求項16】
微小流体工学装置において荷電分子種を動かすための方法であって、前記種は、反応エリア中に、反応エリアに連通する流体チャネルから動かされ、次の、すなわち
(a)流体チャネルにおける荷電分子種をフロー方向において流す工程、
(b)反応エリアを横切って正の端部および負の端部をもつ電場を提供する工程、および
(c)荷電分子種上の電荷とは逆の反応エリアにおける電場に電荷を適用することによって、荷電分子種を反応エリア中に方向付ける工程
を包含する、方法。
【請求項17】
反応エリアは第2分子種を含有し、および前記方法は、荷電分子種および第2の分子種の間での反応をもたらす、請求項16の方法。
【請求項18】
さらに、電場を少なくとも100kHzの周波数で反転させる工程が包含される、請求項16の方法。
【請求項19】
周波数は、最小の10kHzおよび最大の10MHzである、請求項16の方法。
【請求項20】
バイアス電圧は少なくとも1ボルトである、請求項16の方法。
【請求項21】
電場は少なくとも約5V/cmの強度をもつ、請求項16の方法。
【請求項22】
分子種を反応エリアの外に方向付けるためにバイアス電圧を反転する、請求項16の方法。
【請求項23】
電場は電気的変位場である、請求項16の方法。
【請求項24】
微小流体工学装置における核酸でコーティングされたビーズのための濃縮の方法であって、次の、すなわち
(a)流体チャネルにおけるネイキッドな、および核酸でコーティングされたビーズをフロー方向において流す工程であり、流体チャネルが反応エリアと連通するもの、
(b)反応エリアを横切って正の端部および負の端部をもつ電場を提供する工程、
(c)DNAでコーティングされたビーズの電荷とは逆の電場に電荷を適用することによって、核酸でコーティングされたビーズを反応エリア中に方向付ける工程、および、
(d)反応エリア中に方向付けられていない任意のビーズを収集する工程
を包含する、方法。
【請求項25】
微小流体工学装置は、複数の反応エリアを含み、および各反応エリアは、1種のビーズだけを含むためにサイズ指定されたウェルである、請求項24の方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【公表番号】特表2010−533840(P2010−533840A)
【公表日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−516240(P2010−516240)
【出願日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際出願番号】PCT/US2008/069638
【国際公開番号】WO2009/012112
【国際公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【出願人】(503115205)ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ リランド スタンフォード ジュニア ユニヴァーシティ (69)
【Fターム(参考)】