説明

改善された破砕特性を有するロッド状ポリシリコン

【課題】改善された破砕挙動を有する高純度シリコンからなる直径>100mmを有する多結晶シリコンロッドを提供し、破砕に関連するシリコン破砕破片の汚染を大きく減らし、そして不所望な寸法を有するシリコン破砕破片の割合を減らす。
【解決手段】ロッド直径>100mmを有するロッド状の多結晶シリコンの製造にあたり、シーメンス法によりケイ素含有ガスを用いた析出を採用し、該シリコンロッドを、析出法の終わりに反応器中で冷却の間に水素と接触させ、その際、水素流量及び/又は水素圧力を、この流量及び/又は圧力で、析出温度の保持に必要な出力が析出の終わりの出力の少なくとも50%であるが、1mのロッド長あたり5kWを下回らず、かつ冷却されたシリコンロッドが、垂直な断面において亀裂及び/又は少なくとも1・10-4cm-1の大きさの放射状張力を有するように選択する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シーメンス析出法により得られる、改善された破砕特性を有するロッド状ポリシリコンに関する。
【背景技術】
【0002】
多結晶シリコン(ポリシリコン)は、チョクラルスキー法もしくはゾーン溶融法による半導体用の単結晶シリコンの製造のための出発材料として、並びに光電池のためのソーラーセルの製造のための種々の引き上げ法及び鋳造法による単結晶シリコンもしくは多結晶シリコンの製造のために用いられる。
【0003】
ポリシリコンは、その際、主として、いわゆるシーメンス法によりトリクロロシランを用いた析出によって製造される。前記方法では、ベル型の反応器中で、いわゆる"シーメンス反応器"中で、シリコン製の細い芯線を、電流を直接流すことによって加熱し、そして水素と1種以上のケイ素含有成分とからなる反応ガスと接触させる。好ましい原料は、その際、トリクロロシラン(SiHCl3)又はそれとジクロロシラン(SiH2Cl2)との混合物である。
【0004】
前記の芯線は、反応器底に存在する電極中に垂直に延びており、それらを介して電流供給への接続が行われる。加熱された芯線と、それぞれ2つの芯線を結ぶ水平なブリッジの上に、高純度のポリシリコンが析出し、それによってロッド直径は時間と共に増大する。
【0005】
所望の直径に達したら、ケイ素含有成分の更なる供給を中止する。引き続き、反応器をすすぎ、全てのガス状反応生成物とケイ素含有成分の残分を除去する。すすぎは、一般に、水素を用いるか、あるいは例えば窒素もしくはアルゴンなどの不活性ガスを用いて行う。すすぎの後に、すすぎガスの供給を止め、そしてエネルギー供給を、急激にもしくは特定のランプをもってゼロまで減少させ、こうして生じたシリコンロッドを周囲温度にまで冷却する。
【0006】
該ロッドが冷却され、そして(すすぎを不活性ガスを用いて行わなかった場合)反応器ベル中の水素を不活性ガスと交換した後で、析出反応器を開放し、そしてポリシリコンロッドを有する支持体(Traegekoerper)を反応器から取り出す。
【0007】
ポリシリコンロッドの種々の用途のために、ここで、該ロッドを後続工程において小さい破片に破砕する必要がある。慣用のシーメンス法により製造されたシリコンロッドは、非常に硬質であるため、破砕のために大きな力が必要である。そのため、相応の破砕法の間に、該シリコン破砕破片はその表面に破砕工具の材料による多大な混入が起こる。更に、破砕の後には、できる限り多くのシリコン破砕破片が事前に選択された寸法範囲にあることが望ましい。従来技術によるシリコンロッドの破砕に際して、望ましい寸法に相当しない多くの破砕破片が生ずるため、実質的に価格を下げて販売せねばならない。
【0008】
EP0329163号は、ポリシリコンの破砕特性を改善するための方法であって、シリコンロッドを析出後に後処理においてもう一度加熱し、そして急冷するかあるいは送風に供する前記方法を記載している。この方法は、しかしながら、非常に大きな技術的労力、高い費用及び混入の危険性と結びつく。
【0009】
太い多結晶シリコンロッドの製造に際して、比較的頻繁に、該ロッドが反応器中での析出後の冷却段階の間に、取付台から傾いて倒れることが確認される。この現象は、製造プロセスを大きく遅延させる。それというのも、転倒したロッドは、追加の労力をもってのみ反応器から取り出すことができるからである。
【0010】
更に、それによってまた、より大きな資金的な損失も生ずる。それというのも、傾いたか、それどころか崩れ落ちたシリコンロッドは、もはや予定通りに再加工できないからである。特に高いのは、ソーラー産業用のポリシリコンの製造に際しての損害である。それというのも、この材料は、通常は、追加の精製段階なくして使用されるからである。転倒したロッドは、引き続き手間のかかる精製に供さねばならず、それにより該ソーラー材料は明らかに高くなる。
【0011】
US5,593,465号から、電流供給部と電極ソケットとの間に、該電極ソケットの該電流供給部に対する運動を許容し、この運動を緩和する少なくとも1つのスプリングエレメントを配置することが知られている。この配置によって、シリコンロッドの転倒は最小限になるべきである。しかし、この解決策の欠点は、大きな技術的労力と、それと関連する相当の費用である。
【0012】
US6,639,192号は、反応器中でのロッドの転倒を防ぐために、高い熱伝導性を有する炭素電極の使用を推奨している。しかしながら、この解決アプローチは、炭素電極の高い熱伝導性のため、該電極が、析出プロセスの間にシリコン成長により覆われないかまたは僅かにのみ覆われるにすぎないという重大な欠点を有する。そのため、該ロッドは、析出の開始時に早くも容易に転倒しうることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】EP0329163号
【特許文献2】US5,593,465号
【特許文献3】US6,639,192号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の課題は、半導体産業並びにソーラー産業における用途のための、光電池のためのソーラーセルの製造のための種々の引き上げ法及び鋳造法のための、改善された破砕挙動を有する高純度シリコンからなる大きな直径(>100mm)を有する多結晶シリコンロッドを提供し、破砕に関連するシリコン破砕破片の汚染を大きく減らし、そして不所望な寸法を有するシリコン破砕破片の割合を減らすことである。
【0015】
本発明の更なる課題は、多結晶シリコンロッドの製造コストを、その冷却段階の間の該ロッドの転倒の回避により減少させることである。
【0016】
驚くべきことに、多結晶シリコンロッドは、シーメンス法による析出の終わりに水素を添加する特定の取り出し過程によって特定の亀裂と張力を獲得し、それにより後続の再加工において、より容易に破片へと破砕できることが判明した。本発明による後処理の更なる驚くべき利点は、反応器中で転倒するロッドの率を低減させることである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の対象は、シーメンス法によりケイ素含有ガスを用いた析出によって得られる、ロッド直径>100mmを有するロッド状の多結晶シリコンであって、該シリコンロッドは、析出法の終わりに反応器中で冷却の間に水素と接触され、その際、水素流量及び/又は水素圧力は、この流量及び/又は圧力で、析出温度の保持に必要な出力が析出の終わりの出力の少なくとも50%であるが、1mのロッド長あたり5kWを下回らず、かつ冷却されたシリコンロッドが、垂直な断面において亀裂(Riss)及び/又は少なくとも1・10-4cm-1の大きさの放射状張力(radiale Spannung)を有するように選択されていなければならないことを特徴とするロッド状の多結晶シリコンである。
【0018】
本発明によるロッド直径>100mmを有するロッド状の多結晶シリコンは、シリコンロッドの冷却の間に、高い水素量を反応器に導入し、及び/又は反応器中の圧力を高めることによって生ずる。その際、析出温度から周囲温度へと温度を下げる段階の間での水素が好ましい。水素を加えることは、周囲温度より高い温度で既に中止してもよいが、それは少なくともロッド温度800℃まで維持せねばならない。
【0019】
水素流量及び/又は圧力は、この流量と圧力とで、析出温度の保持に必要な出力が、析出の終わりの出力の少なくとも50%であるが、1mのロッド長あたり5kWを下回らないように選択されねばならない。
【0020】
その際、反応器中の圧力は、2〜30バール、特に好ましくは3〜20バールが好ましい。水素流量は、好ましくは、1mのロッド長あたり2〜100Nm3/hであり、特に好ましくは1mのロッド長あたり5〜50Nm3/hである。
【0021】
この様式によって、シリコンロッドは、冷却の間に高い張力がかかり、多くの亀裂に至る。それによって、シリコンロッドは、更なる加工において非常に容易に破砕できるので、シリコン破砕破片は、非常に僅かにのみ、使用される破砕工具の摩耗によって汚染されるにすぎない。更なる利点は、粗悪な小さいシリコン破砕破片の割合が低減されることである。
【0022】
本発明によるシリコンロッドの断面を心棒(Duennstab)に対して垂直方向で観察した場合に、断面の少なくとも80%は、亀裂及び/又は1・10-4cm-1より大きい放射状張力を有する。これらの多結晶シリコンロッド中の亀裂は、肉眼で、又は例えば音響試験、染色浸透試験もしくは超音波技術などの公知の方法によって検出することができる。多結晶ロッドにおける機械的な張力の測定方法は、例えばUS5,976,481号に記載されている。
【0023】
緻密な多結晶シリコンロッドの破砕に際して、大抵の用途のためには、50〜100mmの範囲の寸法を有する破砕破片が好ましい。商慣習のシリコンロッドの場合には、公知の破砕方法によって、全量に対して、65%の目標寸法の破砕破片の最大質量割合が達成される。10mm未満の寸法を有する破砕破片の割合は、その際、2.5〜5%である。それに対して、本発明によるロッド状多結晶シリコンロッドの破砕に際して、50〜100mmの範囲の寸法を有する破砕破片は、明らかに全量に対して70%を超えるまで高まる。10mmを下回る小さい破砕破片の割合は、その際、2%未満にまで低減できる。今日で一般的な1年あたり複数万トンという工業生産量では、それは大きなコスト削減を意味する。
【0024】
一般に、先行技術から公知の破砕方法では、炭化タングステン製の工具が使用される。その際、破砕された目標材料の表面には1〜2質量ppbのタングステンが混入する。それに対して、本発明による材料を使用する場合には、重要な50〜100mmの大きな破砕破片は、0.8質量ppb未満の混入量を有する。他の材料からなる破砕工具を使用する場合には、工具材料による混入は同様に明らかに低減される。このように、平均混入量は、本発明による材料の使用によって、少なくとも20%だけ低減されることが判明した。
【0025】
驚くべきことに、本発明による多結晶シリコンロッドの更なる効果として、該ロッドは反応器中でより低い転倒の傾向を有することが観察された。転倒したシリコンロッドの比率は、従来技術と比較して、50%より高い率だけ低減できた。シリコンロッド中の本発明による張力と亀裂とによって、該ロッドは確かに破砕工具によってより容易に破砕できるが、同時に、反応中で立った状態で転倒に対してより高い耐久性を有する。
【0026】
以下の実施例をもとに、本発明がより詳細に説明されるべきである。
【0027】
それらの実施例は、8つの心棒を有するシーメンス反応器中で実施した。使用される心棒は、2mの長さを有する超純粋シリコン製であり、直径5mmを有していた。析出のために、水素とトリクロロシランとからなる混合物を使用した。前記心棒の温度は、全体の析出時間の間に1000℃であった。反応器中の圧力は、3バールであった。析出は、ロッドが160mmの直径に達するまで行った。析出の終わりに必要な出力は、1m当たりに約25kWであった。
【実施例】
【0028】
比較例
ロッドが160mmの直径に達した後に、トリクロロシランの供給を停止した。引き続き、反応器を1時間にわたり純粋な水素ですすいだ。次いで、水素の供給を停止した。その際に、必要な出力は、1mのロッド長当たりに5kWであった。次いで、ロッドの温度を、1時間以内で、1000℃から500℃に下げ、引き続き電流供給を遮断した。ロッドを冷却し、そして反応ベル中のガスを窒素に交換した後に、析出反応器を開放し、そして支持体を反応器から取り出した。後続工程において、該ロッドを炭化タングステン製のハンマーで狙い通りに50〜100mmの寸法を有する破片に破砕した。全部で、この方法によって100チャージを析出させた。ロッドの10%が冷却の間に転倒し、後続の精製なくして破砕できなかった。各ロッドで、複数の断面を分析した。分析された断面の約30%は、亀裂及び/又は1・10-4cm-1より大きい張力を有する。ロッドの破砕に際して、破砕破片の約3.5%は、10mm未満の寸法で生じた。50〜100mmの目標寸法の好ましいシリコン破砕破片は、平均して61%で生じ、平均して3.4質量ppbのタングステン混入量を有していた。
【0029】
実施例1
ロッドが160mmの直径に達した後に、トリクロロシランの供給を停止した。引き続き、反応器を1時間にわたり純粋な水素ですすいだ。次いで、装置中の水素圧力を10バールに高め、水素流量を200Nm3/hに高めた。その際に、必要な出力は、1mのロッド長当たりに15kWであった。次いで、ロッドの温度を、1時間以内で、1000℃から500℃に下げ、引き続き電流供給を遮断した。ロッドを冷却し、そして反応ベル中のガスを窒素に交換した後に、析出反応器を開放し、そして支持体を反応器から取り出した。後続工程において、該ロッドを炭化タングステン製のハンマーで狙い通りに50〜100mmの寸法を有する破片に破砕した。全部で、この本発明による方法によって200チャージを析出させた。従来技術に対して、ロッドの3%しか冷却の間に転倒しなかった。各ロッドで、複数の断面を分析した。分析された断面の約92%は、亀裂及び/又は1・10-4cm-1より大きい張力を有する。ロッドの破砕に際して、破砕破片の約1.5%は、10mm未満の寸法で生じた。50〜100mmの目標寸法の好ましいシリコン破砕破片は、平均して77%で生じ、平均して0.5質量ppbのタングステン混入量を有していた。
【0030】
実施例2
ロッドが160mmの直径に達した後に、トリクロロシランの供給を停止した。引き続き、反応器を1時間にわたり純粋な水素ですすいだ。次いで、水素流量を200Nm3/hにまで高めた。装置中の圧力を、周囲圧力(約1バール)と同じに調整した。その際に、必要な出力は、1mのロッド長当たりに13kWであった。次いで、ロッドの温度を、1時間以内で、1000℃から500℃に下げ、引き続き電流供給を遮断した。ロッドを冷却し、そして反応ベル中のガスを窒素に交換した後に、析出反応器を開放し、そして支持体を反応器から取り出した。後続工程において、該ロッドを炭化タングステン製のハンマーで狙い通りに50〜100mmの寸法を有する破片に破砕した。全部で、この本発明による方法によって100チャージを析出させた。従来技術に対して、ロッドの5%が冷却の間に転倒している。各ロッドで、複数の断面を分析した。分析された断面の約85%は、亀裂及び/又は1・10-4cm-1より大きい張力を有する。ロッドの破砕に際して、破砕破片の約1.8%は、10mm未満の寸法で生じた。50〜100mmの目標寸法の好ましいシリコン破砕破片は、平均して73%で生じ、平均して0.7質量ppbのタングステン混入量を有していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シーメンス法によりケイ素含有ガスを用いた析出によって得られる、ロッド直径>100mmを有するロッド状の多結晶シリコンであって、該シリコンロッドは、析出法の終わりに反応器中で冷却の間に水素と接触され、その際、水素流量及び/又は水素圧力は、この流量及び/又は圧力で、析出温度の保持に必要な出力が析出の終わりの出力の少なくとも50%であるが、1mのロッド長あたり5kWを下回らず、かつ冷却されたシリコンロッドが、垂直な断面において亀裂及び/又は少なくとも1・10-4cm-1の大きさの放射状張力を有するように選択されていなければならないことを特徴とするロッド状の多結晶シリコン。
【請求項2】
シリコンロッドが冷却段階の間に、少なくともロッド温度800℃まで水素と接触されることを特徴する、請求項1に記載のロッド状の多結晶シリコン。
【請求項3】
反応器中の圧力が、2〜30バールであることを特徴とする、請求項1又は2に記載のロッド状の多結晶シリコン。
【請求項4】
水素流量が、1mのロッド長あたり2〜100Nm3/hであることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載のロッド状の多結晶シリコン。
【請求項5】
心棒に対して垂直方向に見た断面の80%が、亀裂及び/又は1・10-4cm-1より大きい放射状張力を有することを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項に記載のロッド状の多結晶シリコン。

【公開番号】特開2011−68558(P2011−68558A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−212159(P2010−212159)
【出願日】平成22年9月22日(2010.9.22)
【出願人】(390008969)ワッカー ケミー アクチエンゲゼルシャフト (417)
【氏名又は名称原語表記】Wacker Chemie AG
【住所又は居所原語表記】Hanns−Seidel−Platz 4, D−81737 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】