説明

改善された経口ペプチド送達

【課題】本発明の目的は、医薬用ペプチド、例えばインスリン、サケカルシトニン、副甲状腺ホルモン、バソプレシンまたはそれらのアナログ、およびその他本明細書で論じるペプチドなどの生理学活性ペプチド剤を確実に送達するための治療上有効な経口医薬組成物を提供することである。本発明のさらなる目的は、このようなペプチドの生体利用度を高めるための治療方法を提供することである。本発明のさらなる目的は、サケカルシトニンまたはPTH 1-31NH2を経口投与することによって骨関連疾患およびカルシウム異常症を治療する方法を提供することである。
【解決手段】経口投与されるペプチド活性剤の生体利用度は、本来アミド化されない部位でアミド化されている活性ペプチドを付与する医薬組成物によって増大する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2003年1月21日に出願した米国仮出願第60/441856号に基いており、その優先権を主張するものである。
【0002】
本発明は、活性化合物がその分子構造中に複数のアミノ酸と少なくとも1つのペプチド結合とを含んでいる経口投与されるペプチド製剤に関し、またその製剤を経口投与したときにそのようなペプチド活性化合物の生体利用度を高める方法に関する。
【背景技術】
【0003】
非常に多くのヒトホルモン、神経伝達物質、サイトカイン、成長因子およびその他重要な生物学的化合物が、その分子構造の重要な部分としてペプチドを有している。明らかに多くの疾患が、患者内のこれらペプチド化合物レベルの増大に反応する。治療有効量のこれら生物学的な関連性を有するペプチドは、様々な方法で患者に投与することができる。しかし、後にさらに詳しく議論するように、この種の活性化合物の場合、好ましいとされる経口投与は非常に困難である。
【0004】
例えばサケカルシトニンは、骨からのカルシウム放出を減らすペプチドホルモンである。骨関連疾患およびカルシウム異常症(骨粗鬆症、パジェット病、悪性腫瘍に伴う高カルシウム血症など)の治療に使用すると、骨密度の維持を助長する効果がある。多くの種類のカルシトニンが単離されている(ヒトカルシトニン、サケカルシトニン、ウナギカルシトニン、エルカトニン、ブタカルシトニンおよびニワトリカルシトニン)。これら種々のカルシトニンの間には構造上著しい非相同性がある。例えば、ヒトカルシトニンを構成するアミノ酸と、サケカルシトニンを構成するアミノ酸との間には50%の同一性があるのみである。このような分子構造上の相違にもかかわらず、サケカルシトニンを、前述のヒトのカルシトニン反応性疾患の治療に使用することができる。
【0005】
ペプチドホルモンの別の例としては、副甲状腺ホルモン(PTH)が挙げられる。PTHは副甲状腺によって産生され、血中カルシウムレベルの主要な調節ホルモンである。PTHはポリペプチドであり、その合成ポリペプチドはEricksonとMerrifield、The Protens、Neurath他編、Academic Press、New York、1976年、257頁に開示されている方法によって生成することができ、またHodges他(1988年)、Peptide Reseach 1、19の方法またはAtherton,EとSheppard,R.C.、Solid Phase Peptide Synthesis、IRL Press、Oxford、1988年の方法で一部修正した方法によって生成することができる。
【0006】
血清中カルシウムが減少し正常レベルを下回ると、副甲状腺がPTHを放出し、血清カルシウムレベルは、骨カルシウムの再吸収、腸からのカルシウム吸収の増加、および腎尿細管の新生尿からの腎臓によるカルシウムの再吸収などによって増加する。連続して注ぎ込まれる低レベルのPTHによって骨からはカルシウムが取り去られるが、同じ低容量を間欠的に注入することで実際に骨成長を促進することができる。
【0007】
Trgearは、米国特許第4086196号にヒトPTHアナログについて記載しており、in vitro細胞アッセイにおけるアデニル酸シクラーゼの刺激という点で、1番目から27〜34番目までのアミノ酸が最も有効であると主張している。Rosenblattは、米国特許第4771124号に、Trp23がアミノ酸のフェニルアラニン、ロイシン、ノルロイシン、バリン、チロシン、β-ナフチルアラニンまたはα-ナフチルアラニンで置換された、PTHアンタゴニストとしてのhPTHアナログの特性について記載している。これらの修飾hPTHアナログはまた、2番目および6番目のアミノ末端アミノ酸残基が除去されており、その結果骨粗鬆症の治療に使用するとほとんどのアゴニスト活性が失われる。これらアナログはPTHおよびPTH関連ペプチドの阻害剤として設計されたものである。これらアナログは、ある種の腫瘍に伴う高カルシウム血症の治療に有用であろうと主張されている。
【0008】
Pang他は、1993年4月15日公開のWO93/06845に、Arg25、Lys26、Lys27がアラニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシンまたはバリンなどを含めた非常に多くのアミノ酸で置換されているhPTHアナログについて記載している。これらアナログは、骨粗鬆症の治療に有効であり血圧および平滑筋への影響も最小限に抑えられると主張されている。
【0009】
PTHは、2つのセカンドメッセンジャー系、Gsタンパクにより活性化されるアデニル酸シクラーゼ(AC)およびGqタンパクにより活性化されるホスホリパーゼCβの活性を介して作用する。後者によって細胞膜に結合したプロテインキナーゼC(PKC)が活性化される。PKC活性には29〜32番目のPTH残基が必要であることが証明されている(Jouishomme他(1994年)、J.Bone Mineral Res.9、(1179〜1189))。骨成長の増加、すなわち骨粗鬆症の治療に有用な効果は、ペプチド配列のAC活性増大能と結びついていることが証明されている。PTHネイティブ配列がこれらすべての活性を有することが証明されている。ヒトのhPTH-(1〜34)配列は通常以下の通りである。
Ser Val Ser Glu Ile Gln Leu Met His Asn Leu Gly Lys His Leu Asn Ser Met Glu Arg Val Glu Trp Leu Arg Lys Lys Leu Gln Asp Val His Asn Phe-OH(配列番号:1)
【0010】
種々のPTHアナログが米国特許第5955425号および同第6110892号に開示されている。下記の線状アナログ(切断型hPTH)、hPTH-(1-31)-NH2は、卵巣摘出モデルラットにおいて、AC刺激活性のみを有し、骨量減少の回復に十分活性であることが証明されている(Rixon、R.H.他、(1994年)、J.Bone Miner.Res.9、1179-1189、Whitfield他(1996年)、Calcified Tissue Int.58、81〜87、およびWillick他、米国特許第5556940号)。
Ser Val Ser Glu Ile Gln Leu Met His Asn Leu Gly Lys His Leu Asn Ser Met Glu Arg Val Glu Trp Leu Arg Lys Lys Leu Gln Asp Val-NH2(配列番号:2)
【0011】
従来の技術で使用されるペプチド製剤は、注射による投与または経鼻投与されることが多かった。インスリンは、注射によって投与されることが多いペプチド製剤の1例である。ペプチド活性化合物は胃および腸内で非常に分解しやすいために、注射や経鼻投与より好ましくまた便利なはずの経口投与では問題を生ずる傾向がある。例えば、従来技術は、ペプチド製剤を経口投与した場合に、サケカルシトニンおよび副甲状腺ホルモンの再現可能血中レベルを達成可能であると報告しているが、そのレベルは低い。これは、これらペプチドホルモンが胃腸管において十分安定でなく、腸壁を通して血液中に運ばれ難いことが理由であると考えられる。しかし、注射による投与および経鼻投与は、経口投与に較べて著しく不便であり、また患者の不快感が増すことも避けられない。このような不便さと不快感のために、患者が治療方法を遵守しなくなることも多い。このように、当技術分野においては、インスリン、サケカルシトニン、副甲状腺ホルモンおよびその他の本明細書でさらに議論するペプチド製剤をより効果的かつ再現可能に経口投与することが望まれている。
【0012】
胃および腸両者のタンパク質分解酵素はペプチドを分解し、ペプチドが血流に吸収される前にそれらを不活性にすることがある。胃のプロテアーゼ(通常酸性pHを最適条件に持つ)による分解にもちこたえたペプチドは、いかなる量であれその後小腸のプロテアーゼおよびすい臓が分泌する酵素(通常中性から塩基性pHを最適条件に持つ)に直面することになる。サケカルシトニンなどのペプチドの経口投与によって生じる特有の困難は、その分子が比較的大型であることおよび分子が帯びる電荷の分布に関係している。これによって、サケカルシトニンが腸壁沿いの粘液に一層浸透し難くなり、また腸刷子縁膜を越えて血液中に入り難くなることがある。
【0013】
ペプチドの経口投与の効果を改善する1つの方法は、胃および腸においてペプチドをタンパク質分解酵素から守り、同時に腸からのペプチド吸収を増大させそれによってペプチドの生体利用度を高めることである。経口投与の効果を改善することは、いくつかの理由によって重要である。第1に、ペプチドおよびタンパク質は、化学的合成または組換えDNA技術いずれによってもその製造は高くつく。したがって、生体利用度を高めれば高めるほど、治療薬を経口剤形とするのに必要な量が少なくて済むからである。
【0014】
第2に、経口ペプチドの生体利用度が高まれば高まるほど、一個体が毎日吸収する服用量の変動が少なくなるからである。
【0015】
第3に、経口ペプチドの生体利用度が高まれば高まるほど、そのペプチドの分解生成物に対する懸念が少なくなるからである。なぜなら、ペプチドが結合して生物活性を誘導する場合、そのような分解生成物は、受容体のアゴニストまたはアンタゴニストとして作用することがあるからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】米国仮出願第60/441856号
【特許文献2】米国特許第4086196号
【特許文献3】米国特許第4771124号
【特許文献4】WO93/06845
【特許文献5】米国特許第5955425号
【特許文献6】米国特許第6110892号
【特許文献7】米国特許第5556940号
【特許文献8】米国特許第6210925号
【特許文献9】米国特許第5807746号
【特許文献10】米国特許第4708934号
【特許文献11】欧州特許公開第0308067号
【特許文献12】欧州特許公開第0382403号
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】EricksonとMerrifield、The Proteins、Neurath他編、Academic Press、New York、1976年、257頁
【非特許文献2】Hodges他(1988年)、Peptide Research 1、19
【非特許文献3】Atherton,EとSheppard,R.C.、Solid Phase Peptide Synthesis、IRL Press、Oxford、1988年
【非特許文献4】Jouishomme他(1994年)、J.Bone Mineral Res.9、(1179〜1189頁)
【非特許文献5】Rixon、R.H.他(1994年)、J.Bone Miner.Res.9、1179-1189頁
【非特許文献6】Whitfield他(1996年)、Calcified Tissue Int.58、81〜87頁
【非特許文献7】Eipper他、Annu.Rev.Neurosci.、15:57〜85、1992年
【非特許文献8】Merkler、Enzyme Micob.Technol.、16:450〜456、特に51頁、1994年
【非特許文献9】Schwarz他(1999年)、Science、285:1569
【非特許文献10】Zhang他(1988年)、PNAS、95:9184
【非特許文献11】Phelan他(1998年)、Nature Biotechnology、16:440
【非特許文献12】Rojas他(1998年)、Nature Biotechnology、16:370
【非特許文献13】Biotechnology、11巻(1993年)、64〜70頁
【非特許文献14】Merrifield、J.Am.Chem.Soc.、85:2149〜2154、1963年
【非特許文献15】Lin他、Biochemistry、27:5640〜5645、1988年
【非特許文献16】Sambrook他、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor、N.Y.、1989年
【非特許文献17】Walter他、Proc.Natl.Acad.Sci.、USA 77:5197、1980年
【非特許文献18】Goodfriend他、Science 143:1344、1964年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
したがって本発明の目的は、医薬用ペプチド、例えばインスリン、サケカルシトニン、副甲状腺ホルモン、バソプレシンまたはそれらのアナログ、およびその他本明細書で論じるペプチドなどの生理学活性ペプチド剤を確実に送達するための治療上有効な経口医薬組成物を提供することである。
本発明のさらなる目的は、このようなペプチドの生体利用度を高めるための治療方法を提供することである。
本発明のさらなる目的は、サケカルシトニンまたはPTH 1-31NH2を経口投与することによって骨関連疾患およびカルシウム異常症を治療する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
1つの態様において、本発明は、生理活性ペプチド剤を経口送達するための医薬組成物であって、治療上有効量の前記活性ペプチドを含む組成物を提供する。ここで前記活性ペプチドは天然にはアミド化していない位置でアミド化している。
【0020】
好ましいペプチド活性剤の例としては、インスリン、バソプレシン、サケカルシトニン、グルカゴン様ペプチド1または2、副甲状腺ホルモン、黄体形成ホルモン放出ホルモン、エリトロポエチンおよびそれらのアナログが挙げられるが、これに限定されるものではない。特に好ましいペプチド活性剤は、副甲状腺ホルモンおよびそのアナログである。
【0021】
別の態様において、本発明は、経口送達される治療用ペプチド活性剤の生体利用度を高めるための方法を提供する。ここで前記方法は前記ペプチド剤をアミド化することを含む。
【0022】
本発明は、(1)通常酸性pHにおいて最も活性である胃のプロテアーゼおよび(2)腸またはすい臓のプロテアーゼ(通常塩基性から中性pHで最も活性)両者によるタンパク質分解からペプチドを同時に保護することによって、ペプチド活性化合物のタンパク質分解の可能性を低減しているものと考えられる。
【0023】
本発明はまた、アミドの存在によりペプチドが腸刷子縁膜を越えて血液中に入るプロセスを促進すると同時に、ペプチドをタンパク質分解から保護し続けているものと考えられる。
【0024】
カプセル剤または錠剤の耐酸性保護コーティングによって、ペプチド活性剤は胃の酸活性プロテアーゼから保護される。その後、製剤がpHがより弱い酸性である腸内に進むと、腸溶コーティングが溶けて製剤の内容物を放出する。相当量の酸(これとペプチド活性剤が混ざり合っている)が、製剤の放出部位で局部的にpHをプロテアーゼの最適活性範囲以下に低下させることによって、中性から塩基性で活性なプロテアーゼ(例えば、管腔または消化のプロテアーゼと刷子縁膜のプロテアーゼ)の活性を減じる。
【0025】
本発明のその他の特徴および利点は、以下の本発明の詳細な説明を読めば明らかとなろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明によれば、ペプチド活性成分を使った治療を必要としている患者に、ペプチド活性成分の経口医薬組成物が、好ましくは(必ずしもというわけではないが)医薬品産業において通常のサイズの錠剤またはカプセル剤の剤形で提供される。前記製品の用量および投与回数については、以下にさらに詳しく論じる。その利益にあずかることのできる患者は、高レベルのペプチド含有化合物に好ましく反応する障害を患う患者であれば特に制限されない。例えば、本発明に係わる経口サケカルシトニンは、カルシウム異常症または骨疾患を患う患者を治療するために使用することができる。本発明は、骨粗鬆症、パジェット病、悪性腫瘍に伴う高カルシウム血症などを治療するために、経口カルシトニン、経口副甲状腺ホルモン、好ましくはhPTH 1-31NH2およびhPTH 1-34NH2と共に使用することができる。
【0027】
サケカルシトニンは、多くの理由で、本発明に従って使用するのに好ましい有効成分である。例えば、ヒト患者用の医薬品として使用しても、ヒトカルシトニンよりも多くの利点がある。ヒトの骨粗鬆症の治療にヒトカルシトニンの代わりにサケカルシトニンを使用することによって得られる利点の中には、効能が高い、無痛であるおよび半減期が長いなどがある。サケカルシトニンはヒトカルシトニンに比べて用量が少なくてすみ、天然のヒトカルシトニンよりも治療に有効である。サケカルシトニンとヒトカルシトニンとの間には実質的な相同性はなく、両者のアミノ酸配列に50%の同一性があるのみである。
【0028】
理論に縛られるつもりはないが、本発明の医薬組成物は、生体利用度の向上をはばむ一連の互いに異なるまた関連のない天然の障壁を克服すると考えられる。本発明の医薬組成物の種々の成分が、それぞれ異なる障壁にふさわしいメカニズムによってそれらを克服すべく作用し、ペプチド活性成分の生体利用度に相乗作用をもたらしている。
【0029】
このペプチド活性化合物は経口投与することができる。本発明によれば、アミド基が少なくとも1つ存在することによってペプチドまたはタンパク質がタンパク質分解から保護され、これによって生体利用度が向上する。またアミド基によって、腸の管腔全域にわたってタンパク質の膜透過性が高められる。アミド基の存在による生体利用度向上のその他のメカニズムも考え得る。
【0030】
ペプチド産物(すなわちその分子構造がペプチド結合によって結合している複数のアミノ酸を含んでいる任意の化合物)を組換え生成する様々な技術が存在する。
【0031】
(好ましい発現ベクターの概要)
好ましい発現ベクターについては米国特許第6210925号に記載されており、その内容を参照によって本明細書に組み込むものとする。サケカルシトニンを発現するための好ましいベクターの1例は、米国特許第6210925号明細書の図9に示されている。その他のペプチド産物の発現の場合、所望のペプチド産物をコードする核酸を、サケカルシトニンをコードする核酸と置換する。
【0032】
前記好ましい発現ベクターは、コード領域と調節領域とを含む。コード領域は、シグナルペプチドをコードする核酸配列の下流にリーディングフレームを保ったまま結合された、対象とするペプチド産物をコードする核酸配列を含む。調節領域は、コード領域に操作可能に連結しており、複数のプロモータと少なくとも1つのリボソーム結合部位をふくむ。ここで少なくとも1つのプロモータは、tacおよびlacプロモータからなる群から選択される。
【0033】
好ましくは、前記ベクターは直列に配置された複数の転写カセットを含む。各カセットは本発明の調節領域とコード領域とを有する。このような二遺伝子性ベクターまたは多遺伝子性ベクターは、二シストロン性発現ベクターまたは多シストロン性発現ベクターに比べて、良好な発現を可能にすると考えられる。これは、二シストロン性または多シストロン性の発現と比べると、従来技術によって示唆されることのなかった驚くべき進歩である。
【0034】
場合によっては、前記ベクターはさらに、前記調節領域内の1つまたはそれ以上のプロモータに関連するオペレータを抑制するリプレッサーペプチドをコードする核酸、転写ターミネータ領域、選択マーカー領域および/または少なくとも1つの分泌促進ペプチドを含むことがある。あるいはまた、いくつかの実施形態では、リプレッサーペプチドおよび分泌促進ペプチドをコードする核酸は、ペプチド産物を発現するベクターとして同一の宿主細胞で共発現する別個のベクター上に存在することがある。
【0035】
多くの市販のベクターを、本発明の好ましいベクターの出発ベクターとして利用することができる。本発明のベクターの好ましい領域のいくつかは、本発明のベクターを得るために必要とされる修飾の数が比較的少ない前記出発ベクターに、すでに含まれている。
【0036】
(調節領域)
前記調節領域は、コード領域に操作可能に連結しており、複数のプロモータと少なくとも1つのリボソーム結合部位を含む。ここで少なくとも1つのプロモータは、tacおよびlacからなる群から選択される。単一の調節領域における前述のプロモータの組合せによって、コード領域により産生されるペプチド産物の収量が著しく増加する(本明細書中で詳細に説明するように)。その他のプロモータも当技術分野では知られており、tacまたはlacプロモータと組み合わせて使用することができる。このようなプロモータの例としては、lpp、ara B、trpE、gal Kなどが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0037】
好ましくは、前記調節領域は正確に2つのプロモータを含む。一方のプロモータがtacである場合、そのtacプロモータは調節領域の別のプロモータの5'に存在することが好ましい。一方のプロモータがlacである場合、そのlacプロモータは調節領域の別のプロモータの3'に存在することが好ましい。また好ましくは、調節領域はtacおよびlac両プロモータを含み、好ましくはlacプロモータがtacプロモータの3'に存在する。
【0038】
(コード領域)
前記コード領域はシグナルペプチドをコードする核酸の下流にリーディングフレームを保ったまま結合した対象とするペプチド産物をコードする核酸を含み、これによりコード領域は、前記シグナルペプチドおよびペプチド産物をそれぞれN末端からC末端まで含むペプチドをコードする。理論に縛られるつもりはないが、前記シグナルペプチドは、ペリプラズムへの分泌に関与するだけでなく、前記ペプチド産物をタンパク質分解から保護していると考えられる。
【0039】
多くのペプチドシグナル配列が知られており、それらを本発明に従って使用することができる。その配列には、特性が十分明らかにされている宿主細胞の外膜タンパク質のシグナル配列、ペプチド産物をペリプラズムに転座することが可能でありかつ転座の結果として宿主によって翻訳後切断を受けることが可能な任意の配列が含まれる。有用なシグナルペプチドの例としては、Omp A、pel B、Omp C、Omp F、Omp T、β-1a、Pho A、Pho SおよびStaph Aが挙げられる。ただし、これに限定されるものではない。
【0040】
前記ペプチド産物は、従来技術を使用した融合パートナーを必要とする十分小さいものであることが好ましい。通常、ペプチド産物の分子量は10kDa未満である。さらに好ましくは、ペプチド産物はC末端グリシンを有し、C末端グリシンをアミノ基に変換する酵素的アミド化反応の前駆体として使用され、その結果アミド化ペプチドとなる。このような変換については後により詳しく説明する。非常に多くの生物学的に重要なペプチドホルモンと神経伝達物質がこの種のアミド化ペプチドである。例えば、コード領域でコードされたペプチド産物は、サケカルシトニン前駆体またはカルシトニン遺伝子関連ペプチド前駆体であってよく、両者ともC末端グリシンを有し、両者とも酵素的にアミド化されて成熟サケカルシトニンまたは成熟カルシトニン遺伝子関連ペプチドになることができる。
【0041】
副甲状腺ホルモンのアナログも本発明に従って産生することができよう。例えば、副甲状腺ホルモンの1番目から34番目までのアミノ酸を有するペプチドは、副甲状腺ホルモンそれ自体の機能に類似した機能を提供することができ、前記34個のアミノ酸で構成されるアナログをアミド化したものもそうである。前記アミド化したアナログは、本明細書に記載の発現システムおよび方法の1つまたはそれ以上に従って、副甲状腺ホルモンの1番目から34番目までのアミノ酸を発現し、35番目にグリシンを発現することによって産生できる。次いで、本明細書で説明するような酵素的アミド化によってグリシンはアミノ基に変換されよう。
【0042】
(本発明の好ましいベクターまたは本発明のベクターと同様の宿主において発現されるその他のベクターのその他任意に選択される態様)
(リプレッサー)
場合によっては、好ましいベクターは、プロモータの少なくとも1つによって調節される発現を抑制することが可能なリプレッサーペプチドをコードする核酸を含むことができる。あるいはまた、リプレッサーペプチドをコードする核酸が、本発明のベクターを有する宿主細胞内の別のベクター上に存在することもできる。多数のオペレータにふさわしいリプレッサーについては当技術分野で知られている。好ましくは、前記リプレッサーをコードする核酸は本発明の好ましい実施態様ではlacリプレッサーをコードする。なぜならばlacリプレッサーはtacおよびlac両プロモータについているlacオペレータを抑制するからである。ここで、これらプロモータの少なくとも1つは本発明の好ましいベクターに常に存在する。
【0043】
(選択マーカー)
多数の選択マーカー遺伝子のいずれか(例えば、カナマイシン耐性をコードする遺伝子)がベクター中に存在していることが好ましい。これによって、本発明の新規ベクターと効果的にトランスフォームまたはトランスフェクトする宿主細胞を適切に特異的に選択することができる。
【0044】
(分泌促進ペプチド)
少なくとも1つの分泌促進ペプチドをコードする核酸は、場合によっては本発明のベクターに存在する。あるいはまた、分泌促進ペプチドをコードする核酸は、ペプチド産物をコードするベクターと同じ宿主細胞内で発現される別のベクターに存在することができる。好ましくは、分泌促進ペプチドはSecY(prlA)またはprlA-4からなる群から選択される。SecYとprlAとは同一であって、両語は当技術分野では同義語として使われることを指摘しておく。prlA-4はprlAを修飾した分泌促進ペプチドあって、prlAと類似の機能を有する。また別の好ましい分泌促進ペプチドは「prlG」としても知られているSecEである。最も好ましくは、複数の分泌促進ペプチドがコードされる。複数の分泌促進ペプチドの少なくとも1つはSecEであり、他の1つはSecY(prlA)およびprlA-4からなる群から選択される。これら2つの分泌促進ペプチドは相互に作用し、ペプチド産物のサイトブラズムからペリプラズムへのトランスロケーションを促進すると考えられる。理論に縛られるつもりはないが、これらの分泌促進ペプチドは、その分泌促進機能に加えてペプチド産物をサイトプラズマのプロテアーゼから保護するのにも役立つことができる。
【0045】
ペプチドおよびタンパク質のアミド化、好ましくはC末端におけるアミド化は、本明細書で後に説明するように経口生体利用度を著しく高める。従来技術は、生物学的に活性なペプチドの自然なアミド化は受容体結合を高め、これらペプチドの安定性を向上させるであろうと示唆している(Eipper他、Annu.Rev.Neurosci.、15:57〜85、1992年、Merkler、Enzyme Micob.Technol.、16:450〜456、特に51頁、1994年)。従来の認識ではペプチドおよびタンパク質の経口生体利用度の決定因子はその分子の大きさ、二次および三次構造、ならびにそれが有する電荷であるとされており、これらペプチドをアミド化することによってもたらされる生体利用度の著しい増大は予期されていなかった。
【0046】
通常、真核細胞の細胞膜は、大きなペプチドまたはタンパク質に対して不透性である。しかし、フェリーペプチドまたは膜輸送性配列もしくは部分などと様々に呼ばれている、アミノ酸配列、脂肪酸および胆汁酸などのある種の疎水性部分は、機能性タンパク質またはペプチド特にそのN-またはC-末端などに融合すると、膜輸送体として作用することができ、これらタンパク質の細胞への輸送の仲立ちをする。血中プロテアーゼまたはリンパ系のプロテアーゼによって、本発明用のこれら膜輸送体(MT)を少なくとも部分的に切断することも可能である。
【0047】
本発明の別の態様によれば、少なくとも1つの膜輸送体(MT)、好ましくは2つのMT、さらに好ましくは2つのペプチドMTが存在することによって、それらMTに融合したペプチドの腸の管腔を横切る膜透過性が高められ、生体利用度が改善される。血中またはリンパ系の酵素によって、MTの活性ペプチドへの結合を切断することができるため、活性ペプチドは遊離され標的に届く。
【0048】
また本発明によれば、胃の酵素(その多くは酸性pH域で活性である)および腸もしくはすい臓のプロテアーゼ(その多くは中性から塩基性pH域で活性である)によるペプチドおよび膜輸送体のタンパク質分解が低減する。
【0049】
理論に縛られるつもりはないが、本発明によれば、サケカルシトニンまたはその他の活性ペプチドと、これを分解し得る任意の胃のプロテアーゼとの接触を実質的に防止するにふさわしい耐酸性保護ビヒクルの保護下で、ぺプチドが胃を通過して輸送されることは明らかである。本発明の医薬組成物はいったん胃を通過すると、塩基性から中性pHが支配し、プロテアーゼが塩基性から中性pHを最適条件に持つ腸領域に入り、その腸溶コーティングまたはその他のビヒクルはペプチドと、酸またはプロテアーゼ阻害剤とを(互いのすぐ近くに)放出する
【0050】
前記酸は、(活性剤が放出された)腸の局所のpHを、多くの腸のプロテアーゼおよびその他の腸の酵素にとって最適な範囲を下回るレベルにまで低下させると考えられる。このようなpHの低下によって、腸のプロテアーゼのタンパク質分解活性は低減され、ペプチドおよび膜輸送体は起こり得る分解から保護される。これらプロテアーゼの活性は、本発明による一時的に酸性な環境によって低下する。腸の局所のpHが一時的に5.5以下、好ましくは4.7以下、さらに好ましくは3.5以下にまで低下するように十分な酸を供給することが好ましい。後に(「pH低下剤」の表題がつけられた節で)説明する重炭酸ナトリウムテストによって必要な酸の量が示される。好ましくは、腸のpHが低い状態は、少なくともペプチド剤の一部が腸壁を横切って血流に入り込む機会を得るまで、ペプチド剤および膜輸送体をタンパク質分解から保護するのに十分な時間持続する。サケカルシトニンに関しては、活性成分をラットの十二指腸、回腸または結腸に直接注入した場合、サケカルシトニンの血中レベルのTmaxは5〜15分であることが、実験によって立証されている。
【0051】
あるいはまた、プロテアーゼ阻害剤が腸のプロテアーゼのタンパク質分解活性を低減し、それによってペプチドおよび膜輸送体を起こり得る分解から保護すると考えられる。
【0052】
本発明の組成物は、場合によって吸収促進剤を含むこともできる。本発明の吸収促進剤は、減少させたタンパク質分解活性の条件が支配的である間、血中へのペプチド吸収を相乗作用的に促進する。
【0053】
本発明が、高い生体利用度という目的の達成の拠り所としていると考えられるメカニズムは、医薬組成物の各活性成分を可能な限り同時に放出させることが助けとなっている。この目的のために、胃のプロテアーゼからの保護と両立させながら、腸溶コーティングの体積をできるだけ低く保つことが好ましい。こうすることで、腸溶コーティングによってペプチド放出が妨げられる可能性が低くなり、またはその他の成分とペプチドとのほぼ同時放出が妨げられる可能性が低くなる。通常、添加される腸溶コーティングの量は、医薬組成物の腸溶コーティング以外の部分(すなわち腸溶コーティングを除いた、残りの医薬組成物成分)の重量に対して30%未満とすべきである。好ましくは、その量は20%であり、さらに好ましくは、添加される腸溶コーティングの量は未コーティング成分の重量の10%〜20%の範囲である。
【0054】
溶解促進剤および/または輸送促進剤でもあり得る(後にさらに詳しく説明する)吸収促進剤は、ペプチド製剤が腸から血液へ輸送されるのを促進し、腸のpHが低下しかつ腸のタンパク質分解活性が低下している間にその輸送プロセスがより適切に生じるようそのプロセスを促進する。多くの界面活性剤が、溶解促進剤としても輸送(取り込み)促進剤としても作用し得る。再び理論に縛られるつもりはないが、溶解性を促進することによって、(1)本発明の各活性成分は腸の水性部へ同時に放出されるようになり、(2)ペプチドは腸壁に沿う粘液層により良く溶解し、その粘液層を通過してより良く輸送されるようになるものと考えられる。ペプチド活性成分がいったん腸壁に到達すると、取り込み促進剤によって、経細胞輸送または傍細胞輸送のいずれかを介した腸刷子縁膜を通過しての血液中への輸送がより良く行われる。後にさらに詳しく説明するが、多くの好ましい化合物は両方の機能を提供することができる。そのような場合には、これら両機能を利用する好ましい実施形態は、医薬組成物に唯一の付加的な化合物を加えることによってその両機能を利用することができる。他の実施形態では、それら2つの機能は別個の吸収促進剤によって1つずつ提供される。
【0055】
本発明の医薬組成物の好ましい成分の各々について、以下に個別に説明する。多数のpH低下剤の組合せまたは多数の促進剤の組合せも、単一のpH低下剤および/または単一の促進剤のみを使用するのと同様使用することができる。好ましい組合せのいくつかについても以下に論じる。
【0056】
(ペプチド活性成分)
本発明による経口送達にとって有効であるペプチド活性成分には、生理学的に活性であって、かつ複数のアミノ酸と、その分子構造に少なくとも1つのペプチド結合と、アミド化され得る1つの部位とを有している任意の治療剤が含まれる。ペプチドのアミド化は化学的もしくは酵素的手段、または両者を組み合わせた手段によって達成することができる。好ましいアミド化の方法は、ペプチジルグリシン-アミド化モノオキシダーゼの作用による。
【0057】
好ましくは、前記ペプチドは、組換え技術によって生成される場合、C末端においてグリシンで伸長されており、そのC末端は酵素反応によってアミド化する。あるいはまた、アミド化に好適なアミノ酸側鎖を化学反応によってアミド化することもできる。
【0058】
また好ましくは、これらのペプチド活性成分は、腸からの吸収を容易にするためにMT配列に結合される。前記MTは、吸収される前には、胃および腸におけるプロテアーゼによる切断から保護されなければならない。しかし、いったん吸収されると、前記MTはプロテアーゼによって少なくとも部分的に除去され活性ペプチドを開放することができるべきである。
【0059】
前記MTは、アミノ酸配列、好ましくはシグナルペプチドまたはシグナル配列を含むことができる。本明細書で使用する「シグナルペプチド」とは、通常鎖長が約10〜約50またはそれ以上のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列であるが、必ずしもこれに限らない。その多く(通常約55〜60%)の残基は、疎水性、油溶性部分を有するなど疎水性である。前記疎水性部分はシグナルペプチドの共通かつ主要なモチーフであって、細胞から分泌されるタンパクのシグナルペプチドの中心部であることが多い。シグナルペプチドは、細胞質タンパク質の搬出を容易にするアミノ酸の配列である。本発明のシグナルペプチドはまた、本明細書で明らかにされるように、「搬入能」もある。すなわち、細胞膜を通過して細胞の外側から細胞の内部へ侵入することができる。前記アミノ酸残基は、修飾によってペプチドのトランスロケーション機能に影響を及ぼさない限り、変異および/または修飾すること(すなわち模倣体を形成すること)ができる。したがって、「ペプチド」は、その模倣体を含み、「アミノ酸」は、本明細書で使用されるような修飾アミノ酸、通常ではないアミノ酸およびD体アミノ酸を含んでいる。本発明に包含される搬入能のあるシグナルペプチドはすべて、細胞の外側から細胞の内部への細胞膜を横切るトランスロケーションを媒介する機能を有する。それらシグナルペプチドは、タンパク質を細胞から外部環境へ搬出可能にする能力も保持している。シグナルペプチドと推定されるペプチドは、選択された細胞種の特異性テストも含め、本明細書の教示に従って容易に搬入活性のテストをすることができる。
【0060】
下記表1は、それぞれMTとして使用することができるアミノ酸配列の例を表す。
【0061】
【表1】

【0062】
MTには、脂肪酸および/または胆汁酸も含むことができる。このような分子は、使用時には、血漿プロテアーゼによる切断を受けやすいアミノ酸架橋によって活性ペプチドに結合している。あるいはまた、MTは、非ペプチジル結合によって活性ペプチドに結合することもできる。ただしこの場合、その結合を切断するin vivo酵素は、プロテアーゼ以外の酵素である。アミノ酸架橋は、必ず少なくとも1つの血漿プロテアーゼによる切断の標的になる。血漿プロテアーゼおよびそれらの標的配列については、当技術分野で良く知られている。表2に幾つかのこれら酵素とその特異的標的を示す。
【0063】
【表2】

【0064】
本発明は、いくつかのメカニズムによってプロテアーゼによる活性成分の分解を抑制するが、他方で活性成分のペプチド結合の1つまたはそれ以上は切断する傾向にある。
【0065】
合成および天然の両ペプチドは、本発明に従って経口送達することができる。本発明のペプチド活性化合物には、インスリン、バソプレシン、カルシトニン(好ましいサケカルシトニンのみでなくその他のカルシトニンも含む)および副甲状腺ホルモン、ならびにそれらのアナログが含まれるが、これに限定されるものではない。その他の例としては、カルシトニン遺伝子関連ペプチド、黄体形成ホルモン放出因子、エリスロポエチン、組織プラスミノーゲン活性化因子、ヒト成長ホルモン、副腎皮質刺激ホルモン、各種インターロイキン、エンケファリン、グルカゴン様ペプチド1およびそれらのアナログのすべてが挙げられる。その他多くのペプチド活性化合物が当技術分野で知られている。胃腸管で切断しやすいペプチド結合を有する医薬組成物のいずれもが本発明による経口送達によって利益を得るものと期待される。なぜならば、腸からの吸収が、本発明によってもたらされる前記切断の減少と連結して増大するからである。
【0066】
サケカルシトニンを使用する場合、サケカルシトニンは、(腸溶コーティングを除く)医薬組成物全体の総重量に対して0.02〜0.2重量%含まれることが好ましい。サケカルシトニンは市販されている(例えば、BACHEM、Torrence、Californiaから入手可)。あるいはまた、知られている方法で合成することも可能である。そのいくつかの合成法については後に簡単に論ずる。その他のペプチド活性成分は、その活性化合物の所望の目標血中濃度および本発明の送達システムにおける生体利用度に応じて、高濃度または低濃度で存在すべきである。
【0067】
サケカルシトニン前駆体は、当技術分野で知られている化学的合成または組換えによる合成のいずれかによって作製することができる。その他のアミド化されたペプチド活性剤の前駆体も同様の方法で作製することができる。組換えによる作製の方がはるかに費用効果が高いと考えられる。前駆体は、当技術分野で知られているアミド化反応によって活性サケカルシトニンに変換される。例えば、酵素によるアミド化については、米国特許第4708934号、欧州特許公開第0308067号および同第0382403号に記載されている。組換えによる作製は、前駆体、および前駆体のサケカルシトニンへの変換を触媒する酵素の両方にとって好ましい。このような組換えによる前駆体の作製については、Biotechnology、11巻(1993年)、64〜70頁で論じられているが、本文献はさらに、前駆体のアミド化産物への変換についても記載している。同文献で報告されている組換え産物は、天然のサケカルシトニン、および液-固相化学的ペプチド合成を使って産生したサケカルシトニンと同一性がある。
【0068】
MTを本発明の活性ペプチド成分に結合する場合、当技術分野で知られている化学的合成または組換えによる合成のいずれかによって達成することができる。本明細書で使用する「結合」とは、生物学的に活性なペプチドを、MTが細胞膜を横切る際に活性ペプチドもその細胞膜を横切って搬入されるような仕方でMTと結合させることを意味する。このような結合の手段の例としては、(A)ペプチド結合によってMTを活性ペプチドに結合する、すなわち2つのペプチド(MTのペプチド部分と活性ペプチド)は連続的に合成する、(B)非ペプチド共有結合(架橋剤を用いてシグナルペプチドをタンパク質に共役させることなど)によってMTを活性ペプチドに結合する、(C)化学ライゲーション法を採用して、シグナルペプチドなどのMTのカルボキシ末端アミノ酸と活性ペプチドとの間に共有結合を作ることなどが挙げられる。
【0069】
方法(A)の例を以下に示すが、同方法において、ペプチドは、当技術分野で知られている標準的な手段(Merrifield、J.Am.Chem.Soc.、85:2149〜2154、1963年、およびLin他、Biochemistry、27:5640〜5645、1988年)によって合成され、アミノ末端から一列に順にシグナルペプチド配列(MT)、血漿プロテアーゼによって切断され得るアミノ酸配列および生物学的に活性なアミノ酸配列を含む。このようなペプチドは、組換えDNA技術によっても作製することができ、前記アミノ酸類をコードする組換え構築物から発現してペプチドを作る。(Sambrook他、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor、N.Y.、1989年)。
【0070】
方法(B)の場合、前述のように、ペプチド結合を利用するかまたは非ペプチド結合である共有結合を用いてMTを生物学的に活性なペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質に結合する。この非ペプチド結合である共有結合は、例えばグルタルアルデヒドなどの架橋剤を介してMTをペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質に結合させるなどの、当技術分野で標準的な方法によって形成することができる。このような方法は当技術分野では標準的な方法である。(Walter他、Proc.Natl.Acad.Sci.、USA 77:5197、1980年)。
【0071】
方法(C)の場合、シグナルペプチドのカルボキシ末端アミノ酸と相互作用する化学架橋剤を使用するなどの標準的な化学ライゲーション法を利用することができる。このような方法は当技術分野において標準的な方法であり(Goodfriend他、Science 143:1344、1964年、ライゲーション試薬として水溶性カルボジイミドを使用する)、容易に実施することができ、シグナルペプチドのカルボキシ末端を任意の選択した生物学的に活性な分子に結合することができる。
【0072】
好ましい組換えサケカルシトニン(rsCT)の産生は、例えば、グルタチオン-S-トランスフェラーゼとの可溶性融合タンパク質としてE.coliにおいてグリシンで伸長されたサケカルシトニン前駆体を作製することによって進めることができる。グリシンで伸長されたサケカルシトニン前駆体は、C末端を除いて(サケカルシトニンは-pro-NH2で終わるが、前駆体は-pro-glyで終わる)活性なサケカルシトニンと同じ分子構造を有する。前記刊行物に記載されているα-アミド化酵素は、前駆体のサケカルシトニンへの変換を触媒する。このような酵素は好ましくは組換え技術によって作製され、例えば、先に引用したBiotechnologyに記載されているようにチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞で作製される。その他のアミド化ペプチドに対するその他の前駆体も同様に作製することができる。
【0073】
本来アミド化されていないペプチドも同様にして産生することができ、本発明による方法と類似の方法でアミド化することができる。
【0074】
(pH低下剤およびプロテアーゼ阻害剤)
サケカルシトニンの投与毎に投与されるpH低下化合物の総量は、腸内に放出されたときに、腸の局所pHを、腸内に存在するプロテアーゼの最適pH条件を実質的に下回るまで低下させるに十分な量である。必要とされる量は、使用されるpH低下剤の種類(以下に論じる)や所与のpH低下剤によって付与されるプロトンの当量を含めたいくつかの要因によって、必然的に異なる。実際には、十分な生体利用度を付与するのに必要とされる量は、0.1Mの重炭酸ナトリウム10ミリリットルの溶液に添加したとき、その重炭酸ナトリウム溶液のpHを5.5以下に、好ましくは4.7以下に、最も好ましくは3.5以下にまで低下させる量である。いくつかの実施形態では、前述のテストにおいてpHを約2.8にまで低下させるに十分な酸を使用することができる。好ましくは少なくとも300ミリグラム、より好ましくは少なくとも400ミリグラムのpH低下剤が本発明の医薬組成物に使用される。先に述べた優先的値は、2つまたはそれ以上のpH低下剤が組み合わせて使用される場合には、すべてのpH低下剤を合わせた総重量に一致する。経口製剤は、いかなる塩基であれ、pH低下化合物と一緒に放出したとき、前記重炭酸ナトリウムテストのpHが5.5またはそれを下回る値まで低下するのを妨げるような量の塩基は含むべきでない。
【0075】
本発明のpH低下剤は、胃腸管において毒性で無く、かつ水素イオン(伝統的な酸)を送達することまたは局所的環境から高水素イオン含量を誘導することができるような、医薬として許容できる化合物であればいかなる化合物であってもよい。また、それら化合物を任意に組み合わせたものでもよい。本発明で使用されるpH低下剤の少なくとも1つは、そのpKaが4.2未満、好ましくは3.0未満であることが好ましい。pH低下剤はまた、その水に対する溶解度が、室温で、100ミリリットルの水に対して少なくとも30グラムであることが好ましい。
【0076】
高水素イオン含量を誘導する化合物の例としては、塩化アルミニウムおよび塩化亜鉛が挙げられる。医薬として許容できる伝統的な酸には、アミノ酸の酸性塩(例えば、アミノ酸塩酸塩)またはそれらの誘導体が含まれるが、これに限定されるものではない。これらアミノ酸の酸性塩の例としては、アセチルグルタミン酸、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、ベタイン、カルニチン、カルノシン、シトルリン、クレアチン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、ヒドロキシリシン、ヒドロキシプロリン、ヒポタウリン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチルヒスチジン、ノルロイシン、オルニチン、フェニルアラニン、プロリン、サルコシン、セリン、タウリン、トレオニン、トリプトファン、チロシンおよびバリンの酸性塩が挙げられる。
【0077】
その他有用なpH低下化合物の例としては、アセチルサリチル酸、酢酸、アスコルビン酸、クエン酸、フマル酸、グルクロン酸、グルタル酸、グリセリン酸、グリコール酸、グリオキシル酸、イソクエン酸、イソ吉草酸、乳酸、マレイン酸、オキサロ酢酸、オキサロコハク酸、プロピオン酸、ピルビン酸、コハク酸、酒石酸、吉草酸などのカルボン酸が挙げられる。
【0078】
当技術分野で通常「酸」とは呼ばれないがそれにもかかわらず本発明に従って有用である、その他有用なpH低下剤の例としては、リン酸エステル(例えば、フルクトース-1,6-二リン酸、グルコース-1,6-二リン酸、グリセリン酸リン酸、およびグリセリン酸二リン酸)が挙げられる。CARBOPOL(登録商標)(BF Goodrichの登録商標)およびポリカルボフィルなどのポリマーもまた、pHを低下するために使用することができる。
【0079】
先に論じた重炭酸ナトリウムテストにおいて必要とされるpHレベルである5.5以下を達成するような組合せであれば、いかなるpH低下剤の組合せも使用することができる。1つの好ましい実施形態では、医薬組成物のpH低下剤のうちの少なくとも1つとして、クエン酸、酒石酸およびアミノ酸の酸性塩からなる群から選択される酸を利用する。
【0080】
サケカリシトニンがペプチド活性剤である場合、pH低下剤がサケカルシトニンに対してある一定の比を有すると特に有効であることが判明している。pH低下剤のサケカルシトニンに対する重量比は、200:1、好ましくは800:1、最も好ましくは2000:1を越えることが好ましい。
【0081】
pH低下剤使用の代替手段または補足手段は、プロテアーゼ阻害剤、特に腸のプロテアーゼ阻害剤を使用することである。下記表3に、知られている腸のプロテアーゼのいくつかの例を示す。
【0082】
【表3】

【0083】
(任意に選択される成分-吸収促進剤)
吸収促進剤を使用する場合、好ましくは、その吸収促進剤は(腸溶コーティングを除いた)医薬組成物の全重量に対して0.1〜20.0重量%の量で存在する。好ましい吸収促進剤は、溶解促進剤および取り込み促進剤の両促進剤として作用する界面活性剤である。概して言えば、「溶解促進剤」は、本発明の成分が元来放出される水性環境または腸壁の内側をおおっている粘液層の親油性環境またはその両方のいずれかにおいて、本発明の成分が溶解される能力を向上させる。「輸送(取り込み)促進剤」(これは溶解促進剤として使用される界面活性剤と同じ界面活性剤であることが多い)は、ペプチド剤が腸壁を横断することを促進する成分である。
【0084】
本発明の範囲内において、1つまたはそれ以上の吸収促進剤は唯一の機能(例えば、溶解性)を果たすか、または1つまたはそれ以上の吸収促進剤は残りの1つの機能(例えば、取り込み性)を果たす。いくつかの化合物の混合物であって、その一部の化合物が溶解性を向上させるような混合物、その一部の化合物が取り込み性を向上させるような混合物、および/またはその一部の化合物が溶解性と取り込み性の両方を向上させるような混合物を有することも可能である。理論に縛られるつもりはないが、取り込み促進剤は、(1)腸細胞の膜外部の疎水性領域の無秩序性を増大し、経細胞輸送の増大を可能にする(2)膜タンパク質を浸出し経細胞輸送を増大させる、または(3)傍細胞輸送を増大するために細胞間の空隙半径を拡大することによって作用することができるものと考えられる。
【0085】
界面活性剤は、溶解促進剤および取り込み促進剤の両方として有用であると考えられる。例えば、界面活性剤は、(1)全活性成分を、元来それらが放出される水性環境に迅速に溶解させる、(2)本発明の成分、特にペプチド活性剤の親油性を高め、ペプチド活性剤が腸粘液に入るかつ腸粘液を通過するのを促進する、(3)通常極性のペプチド活性成分が腸刷子縁膜の上皮性関門を横断する能力を高める、および(4)前述したように経細胞輸送または傍細胞輸送を増大するなどの点で有用である。
【0086】
界面活性剤を吸収促進剤として使用する場合、製造工程でカプセル剤の混合および充填を容易にするための流動性粉末であることが好ましい。サケカルシトニンおよびその他のペプチドに本来備わる特性(例えば、等電点、分子量、アミノ酸組成など)が原因で、ある種の界面活性剤はある種のペプチドと最適に相互作用する。実際は、一部の界面活性剤がサケカルシトニンの帯電部分と望ましくないかたちで相互作用してその吸収を妨げることがあり、生体利用度の低下という望ましくない結果を生じることがある。サケカルシトニンまたはその他のペプチドの生体利用度を高めようとする場合、吸収促進剤として使用される界面活性剤は、(i)コレステロール誘導体(例えば、胆汁酸)であるアニオン性界面活性剤、(ii)カチオン性界面活性剤(例えば、アシルカルニチン、リン脂質など)、(iii)非イオン性界面活性剤、および(iv)負電荷中和剤とアニオン性界面活性剤(特に直鎖炭化水素領域を有するもの)の混合物からなる群から選択されることが好ましい。負電荷中和剤の例としては、アシルカルシトニン、塩化セチルピリジニウムなどが挙げられるが、これに限定されるものではない。吸収促進剤が酸性pH、特に3.0〜5.0の範囲で可溶であることも好ましい。
【0087】
サケカルシトニンと適切に作用した特に好ましい1つの組合せは、カチオン性界面活性剤とコレステロール誘導体であるアニオン性界面活性剤とを混合したものである。ここで、両者は共に酸性pHで可溶である。
【0088】
特に好ましい組合せは、酸可溶性胆汁酸とカチオン性界面活性剤との組合せである。アシルカルニチンとスクロースエステルの組合せは良好な組合せである。特定の吸収促進剤を単独で使用する場合、その吸収促進剤はカチオン性界面活性剤であることが好ましい。アシルカルニチン(例えば、ラウロイルカルニチン)、リン脂質および胆汁酸は特に優れた吸収促進剤であり、特にアシルカルニチンは優れている。コレステロール誘導体であるアニオン性界面活性剤もいくつかの実施形態で使用される。これら吸収剤を好ましいとする意味は、ペプチド剤の血中への吸収を妨げるようなペプチド剤との相互作用を回避することにある。
【0089】
副作用の可能性を減じるために、好ましい界面活性剤は、本発明の吸収促進剤として使用する場合、生分解性であるかまたは再吸収性(例えば、胆汁酸、リン脂質および/またはアシルカルニチンなどの生物学的に再生利用できる)であって、好ましくは生分解性である。アシルカルニチンは、傍細胞輸送を高めるのに特に有用であると考えられる。胆汁酸(または直鎖炭化水素を有しない別のアニオン性界面活性剤)をカチオン性界面活性剤と組み合わせて使用すると、サケカルシトニンは、腸壁へ、また、腸壁を通過してより良く輸送される。
【0090】
好ましい吸収促進剤には、(a)サリチル酸ナトリウム、3-メトキシサリチレート、5-メトキシサリチレートおよびホモバニレートなどのサリチル酸塩、(b)タウロコール酸、タウロデオキシコール酸、デオキシコール酸、コール酸、グリコール酸、リトコール酸塩、ケノデオキシコール酸、ウルソデオキシコール酸、ウルソコール酸、デヒドロコール酸、フシジン酸などの胆汁酸、(c)ポリオキシエチレンエーテル(例えば、Brij 36T、Brij 52、Brij 56、Brij 76、Brij 96、Texaphor A6、Texaphor A14、Texaphor A60など)、p-t-オクチルフェノールポリオキシエチレン(Triton X-45、Triton X-100、Triton X-114、Triton X-305など)、ノニルフェノキシポリオキシエチレン(例えば、Igepal COシリーズ)、ポリオキシエチレンソルビタンエステル(例えば、Tween-20、Tween-80など)などの非イオン性界面活性剤、(d)スルホコハク酸ジオクチルナトリウムなどのアニオン性界面活性剤、(e)リソレシチンおよびリソホスファチジルエタノールアミンなどのリソリン脂質、(f)ラウロイルカルニチン、ミリストイルカルニチン、パルミトイルカルニチン、ラウロイルコリン、ミリストイルコリン、パルミトイルコリン、ヘキサデシルリシン、N-アシルフェニルアラニン、N-アシルグリシンなどのアシルカルニチン、アシルコリンおよびアシルアミノ酸、(g)水溶性リン脂質、(h)中鎖脂肪酸(カプリル酸、カプリン酸およびラウリン酸)を含むモノ-、ジ-およびトリグリセリドの混合物である中鎖グリセリド、(i)エチレンジアミン四酢酸、(j)塩化セチルピリジニウムなどのカチオン性界面活性剤、(k)Labrasol、Labrafacなどのポリエチレングリコールの脂肪酸誘導体、ならびに(l)ラウリルマルトシド、ラウロイルスクロース、ミリストイルスクロース、パルミトイルスクロースなどのアルキル多糖などが含まれる。
【0091】
いくつかの好ましい実施形態では、理論に縛られるつもりはないが、別の可能なメカニズムにより溶解性を増大するために陽イオン交換剤(例えば、界面活性剤)が含まれる。特に、陽イオン交換剤によって、サケカルシトニンまたはその他のペプチド活性剤の粘液への結合を防止することができる。好ましい陽イオン交換剤には、塩化プロタミンまたはその他任意のポリカチオンが含まれる。
【0092】
(その他任意に選択される成分)
水溶性バリアによってプロテアーゼ阻害剤および/またはpH低下剤と耐酸性保護ビヒクルとが分離されることが好ましい。従来の医薬用カプセルを、このバリアを付与する目的で使用することができる。多くの水溶性バリアが当技術分野で知られており、例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロースおよび従来の医薬用ゼラチンなどが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0093】
いくつかの好ましい実施形態では、非特異的吸収(例えば、ペプチドの腸粘液関門への結合)を減らし、それによって高価なペプチド活性剤の必要濃度を低下させるために、別のペプチド(アルブミン、カゼイン、大豆タンパク質、その他の動物または植物タンパク質など)が含まれる。このようなペプチドを添加する場合、その量は(保護ビヒクルを除いた)医薬組成物全体の重量に対して1.0〜10.0重量%である。好ましくは、この第2のペプチドは生理学的に活性でなく、最も好ましくは大豆タンパク質などの食用ペプチドである。理論に縛られるつもりはないが、この第2のペプチドは、望ましくはプロテアーゼとの相互作用でペプチド活性剤と競合するプロテアーゼ捕捉物質として作用し、それによって生体利用度を高めることもできる。この第2のペプチドは、活性化合物の肝臓通過を促進することもできる。
【0094】
本発明のすべての医薬組成物は、場合によっては、通常の医薬用希釈剤、グライデント、滑沢剤、ゼラチンカプセル、防腐剤、着色剤などを通常知られているサイズおよび量で含むこともできる。
【0095】
(保護ビヒクル)
ペプチド剤を胃のプロテアーゼから保護し、次いで腸内で本発明の他の成分が放出されるようにそれ自身は溶解する担体またはビヒクルが好適である。このような腸溶コーティング剤は当技術分野では多く知られており、本発明に従えば有用である。その例としては、セルロースアセテートフタレート、コハク酸ヒドロキシプロピルメチルエチルセルロース、フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシルメチルエチルセルロース、およびメタクリル酸とメタクリル酸メチルとのコポリマーが挙げられる。いくつかの実施形態では、活性ペプチド、溶解性および/ならびに取り込み促進剤などの吸収促進剤ならびにpH低下化合物は、それら本発明の成分が保護された状態で胃を通過できるように十分に粘性の保護シロップに含まれる。
【0096】
ペプチド剤を胃のプロテアーゼから保護するのに好適な腸溶コーティングを、例えば、カプセル内に本発明の残りの成分を充填した後、そのカプセルに適用することもできる。その他の実施形態では、腸溶コーティングは錠剤の外側に施されるか、または引き続き圧縮されて錠剤になるかもしくはカプセルに充填される活性成分粒子の外表面に施される。ここで、カプセルはそれ自体腸溶コーティング剤でコーティングされていることが好ましい。
【0097】
本発明の全成分は、腸内環境において担体またはビヒクルから可能な限り同時に放出され、溶解することが非常に望ましい。担体またはビヒクルは、小腸において活性成分を放出することが好ましい。経細胞輸送または傍細胞輸送を増進する取り込み促進剤が小腸において望ましくない副作用を起こす可能性は、後に結腸で放出される場合に比べて低いからである。しかし、本発明が小腸においてと同様に結腸においても有効であると考えられることは強調しておく。前述したビヒクルまたは担体の他にも、数多くのビヒクルまたは担体が当技術分野で知られている。腸溶コーティングの量を低く抑えることは、(特に本発明の各成分を同時に放出させる方法を最適化する点において)望ましい。好ましくは、腸溶コーティングは、医薬組成物の残部(「残部」とは腸溶コーティングそれ自体を除いた医薬組成物である)の重量に対して30%以下である。さらに好ましくは、未コーティングの組成物に対して20%未満、特に12%〜20%の範囲である。腸溶コーティングは、0.1NのHCl中で少なくとも2時間にわたって本発明の医薬組成物を分解から保護し、次いで1分間につき100回転の回転数で前記組成物を回転させる溶解槽においてpHを6.3まで増加させた後、30分以内に前記組成物の全内容物を完全放出可能にする十分な量とするべきである。
【0098】
(その他好ましいとされる事項)
医薬組成物中にpH低下剤および/またはプロテアーゼ阻害剤および吸収促進剤が存在する場合、pH低下剤および/またはプロテアーゼ阻害剤の吸収促進剤に対する重量比は、3:1〜20:1の範囲であることが好ましく、より好ましくは4:1〜12:1の範囲、最も好ましくは5:1〜10:1の範囲である。所定の医薬組成物中に含まれるpH低下剤および/またはプロテアーゼ阻害剤の全重量および吸収促進剤の全重量については、先に記載の好ましい比の中に含まれている。例えば、医薬組成物が2つのpH低下剤と3つの吸収促進剤を含む場合、先述の比は、これら2つのpH低下剤の全重量と3つの吸収促進剤の全重量とに基づいて計算されることになる。
【0099】
医薬組成物中にpH低下剤および/またはプロテアーゼ阻害剤、ペプチド活性剤ならびに吸収促進剤が存在する場合、(それぞれのカテゴリーに含まれる化合物がただ1つであろうとまた複数であろうと)それらは医薬組成物中に均一に分散されていることが好ましい。1つの実施形態では、医薬組成物は顆粒をふくんでおり、前記顆粒は、中にペプチド活性剤と、pH低下剤と吸収促進剤とが均一に分散されている医薬用バインダーを含んでいる。好ましい顆粒はまた、酸性の核と、前記核を包む均一な有機酸の層と、促進剤の層と、有機酸の外層によって包まれるペプチドの層で構成されることもできる。顆粒は、ポリビニルピロリドンまたはヒドロキシプロピルメチルセルロースなどの医薬用バインダーと、本発明のpH低下剤、吸収促進剤およびペプチド活性剤とからなる水性混合物から調製することができる。
【0100】
(製造方法)
本発明の好ましい医薬組成物は、MTに結合したサケカルシトニン0.25mg、クエン酸顆粒(例えば、Archer Daniels Midland Corp.から入手可)400mg、タウロデオキシコール酸(例えば、SIGMAから入手可)50mg、およびラウロイルカルニチン50mg(SIGMA)を充填した00サイズのゼラチンカプセルを含む。
【0101】
成分のすべては、ゼラチンカプセルへの挿入用であることが好ましく、任意の順でブレンダに添加することができる粉末であることが好ましい。その後、ブレンダを、粉末が完全に混ざり合うまで約3分間動かす。次いで、混合した粉末をゼラチンカプセルの大きい方の片割れに入れる。カプセルの他の片割れを添えて、ピシッと閉める。このようなカプセル剤500個以上をコーティングデバイス(例えば、Vector LDCS 20/30 Laboratory Development Coating System(Vector Corp.、Marion、Iowaから入手可))に添加することができる。
【0102】
腸溶コーティング溶液は以下のように作製することができる。EUDRAGIT L30 D-55(メタクリル酸とメタクリル酸メチルエステルのコポリマー、ROHM Tech Inc.、Maidan、Massから入手可能な腸溶コーティング剤)500gを測る。蒸留水411グラム、クエン酸トリエチル15グラムおよびタルク38グラムを添加する。この量のコーティング剤は、約500個の00サイズカプセルをコーティングするのに十分である。
【0103】
カプセルの重さを量り、コーティング機のドラム内に置く。コーティング機をオンにし、ドラム(カプセル剤が入っている)を回転数24〜28rpmで回転させる。入口噴霧器の温度は好ましくは45℃である。排気温度は好ましくは30℃である。未コーティングカプセルの温度は好ましくは25℃である。空気流は約38f.3/分(約1.1m3/分)である。
【0104】
次いで、コーティング機の管を前述のように調製したコーティング溶液に挿入する。その後、コーティングデバイスに溶液を供給するためのポンプをオンにする。するとコーティングは自動的に進行する。カプセルの重量を量ってコーティング量が十分であるかどうかを測定するために、機械はいつでも停止することができる。通常、コーティングは60分間続けられる。次いで、機械がまだ動いておりそれによってコーティングされたカプセルが乾燥しやすくなっている状態で、ポンプを約5分間オフにする。この後機械をオフにすることができる。これでカプセルのコーティングは完了する。ただし、カプセルを約2時間風乾することが推奨される。
【0105】
本発明によって生体利用度が向上するため、本発明の医薬製剤中では高価なサケカルシトニンの濃度は比較的低く抑えることができる。特定の製剤の例については、後に実施例において説明する。
【0106】
(患者の治療)
サケカルシトニンを骨粗鬆症治療のための活性成分として選択する場合、定期投与が推奨される。サケカルシトニンは、ヒトに皮下投与するとわずか20〜40分の半減期で急速に代謝される。しかし、骨粗鬆症に対する有益な効果はより長時間持続し、血中レベルの急速な低下にもかかわらずその持続時間は24時間を上回る。従来の投薬量では、サケカルシトニン注射後2時間を経過すると血中レベルは検出されない。したがって、1週につき約5日間1用量を投与する定期投与が好ましい。サケカルシトニンを皮下投与(100国際単位)すると、その最高血清中濃度はしばしば約250ピコグラム/ミリリットルとなる。鼻腔内投与されたサケカルシトニン(200国際単位)は、最高レベルが100ピコグラム/ミリリットルと低くても骨粗鬆症に対して有効であることが立証されている。一部の患者は、最高血清中レベルが高い(例えば、200または200超ピコグラム/ミリリットル)となんらかの胃腸障害が生じると報告している。したがって、サケカルシトニンの最高血清中レベルは10〜150ピコグラム/ミリリットルであることが好ましく、さらに好ましくは10〜50ピコグラム/ミリリットルである。血清中レベルは当技術分野で知られているラジオイムノアッセイ法により測定することができる。主治医は、患者の反応、サケカルシトニン血清中レベル、または骨疾患の代用マーカー(尿中ピリジノリンまたはデオキシピリジノリン)を、特に治療初期(1〜6カ月)においてモニタすることができる。次いで、主治医は個々の患者の代謝および反応に併せて投薬量を幾分変更することもできる。
【0107】
投与毎に単一カプセルを使用することが好ましい。これは単一カプセルによって、ポリペプチド、pH低下剤および吸収促進剤の同時放出が最適に行われるためである。単一カプセルによる投与は非常に望ましい。なぜならば酸は、ポリペプチドの放出とほぼ同時に放出されるとき、ポリペプチドに対する望ましくないタンパク質分解を最も効果的に減らすことができるからである。ほぼ同時の放出は、本発明の全成分を単一の錠剤ピルまたはカプセル剤として投与することによって最も効果的に達成される。しかし、本発明はまた、使用時には必要量の酸および促進剤を2個またはそれ以上のカプセルに分割しておき、それらカプセルを必要量の全成分が付与されるようにいっしょに投与するということも含む。本明細書で言う「医薬組成物」は、それがどのように分割されていようと、実質的に同時投与されることを目的としているものである限り、ヒトの患者への個別の投与にふさわしい完全な調剤という意味を含む。
【実施例】
【0108】
(実施例1:サケカルシトニン(sCT)の経口生体利用度にカルボキシ末端アミド化が及ぼす効果)
モデル犬において、グリシンで伸長されたsCT(sCTgly)およびアミド化されたsCT(sCT-NH2)を経口投与した場合のそれぞれの薬物動態パラメータの比較研究を行った。
【0109】
本研究では、体重12〜16kgのビーグルの雄成犬8匹を用いた。試験ペプチドの投与に先立ち、一晩絶食させ水は自由に飲めるようにした。各犬とも実験と実験の間に少なくとも1週間のウォッシュアウト期間を設けた。各犬に、第1週はsCTgly1.11mgを含有する腸溶コーティングしたゼラチンカプセル剤を、第2週はsCT-NH21.11mgを含有する腸溶コーティングしたゼラチンカプセル剤を経口投与した。各カプセル剤の全組成を表4に示す。カプセル剤の投与に先立ち、血液サンプル採取の目的で20ゲージ静脈内(IV)カテーテルを前肢静脈に挿入した。2つの投与前サンプル各3mlを前肢静脈から採取した。
【0110】
【表4】

【0111】
前記カプセル剤を投与した後、投与後240分が経過するまで、15分毎に前肢静脈から血液3mlを採取した。血液サンプルは、ヘパリン処理した新しいMonovetteサンプリング注射器で採取した。各サンプルは、氷の上に置いた後に、2〜8℃、回転数約2750rpmで10分間遠心した。血漿上清を、時間点をラベル表示した色で塗り分けしたマイクロ遠心チューブに移し、sCTglyまたはsCT-NH2濃度測定のための分析を行う前に-20℃で冷凍保存した。
【0112】
血漿中のsCTgly濃度は、Peninsula Laboratories製RIAキットを用いてラジオイムノアッセイにより測定した。血漿中のsCT-NH2濃度は、Diagnostic Systems Laboratories Inc.製キットを用いてサンドイッチ型ELISAイムノアッセイにより測定した。血漿中のsCTglyまたはsCT-NH2の薬物動態プロファイルから、Cmax(pg/mlで表される最高血漿中濃度)およびAUC(曲線下面積)のパラメータを決定した。全測定値を、2つのペプチドのどちらについても1mgペプチド用量に標準化した。これらパラメータの各々について平均を表5に示す。
【0113】
【表5】

【0114】
C末端アミドを有するsCTの平均Cmaxは、sCTglyの平均Cmaxの6.6倍である。平均AUC(生体利用度の間接的な尺度)は、sCT-NH2の場合、sCTglyの5.9倍である。このように、これら2つのペプチドの場合、両者はC末端にグリシンまたはアミド基が存在すること以外は同一であるが、経口投与後の血漿中に測定されるペプチドの量には劇的な差があり、このことはまさにC末端アミド基の存在に起因すると考えられる。
【0115】
(実施例2:副甲状腺ホルモン(PTH)のアミド化および非アミド化アナログについての生体利用度の比較)
モデル犬において、経口投与したPTHアナログの薬物動態パラメータを測定する研究をそれぞれのアナログ別に行った。第1の研究で使用したアナログはPTH1-34-OHである。第2の研究では、わずかに小さいアナログであるPTH1-31NH2を使用した。大きさのわずかな違い(3つのアミノ酸)はさておき、2つの分子間の主要な違いは、1-34ペプチドがC末端に遊離酸を有しており1-31ペプチドがアミド化C末端を有していることである。
【0116】
PTH1-34-OHに関する研究では、体重12〜16kgのビーグルの雄成犬8匹を用いた。PTH1-31NH2に関する研究では、前記同じ犬のうち6匹を用いた。試験ペプチドの投与に先立ち、一晩絶食させ水は自由に飲めるようにした。各犬とも実験と実験の間に少なくとも1週間のウォッシュアウト期間を設けた。各犬に、第1の研究ではPTH1-34-OH 2.64mgを含有する腸溶コーティングしたゼラチンカプセル剤を、第2の研究ではPTH1-31NH22.38mgを含有する腸溶コーティングしたゼラチンカプセル剤を経口投与した。各カプセル剤の全組成を表6に示す。カプセル剤の投与に先立ち、血液サンプル採取の目的で20ゲージ静脈内(IV)カテーテルを前肢静脈に挿入した。2つの投与前サンプル各3mlを前肢静脈から採取した。
【0117】
【表6】

【0118】
前記カプセル剤を投与した後、投与後240分が経過するまで、15分毎に前肢静脈から血液3mlを採取した。血液サンプルは、ヘパリン処理した新しいMonovetteサンプリング注射器で採取した。各サンプルは、氷の上に置いた後に、2〜8℃、回転数約2750rpmで10分間遠心した。血漿上清を、時間点をラベル表示した色で塗り分けしたマイクロ遠心チューブに移し、PTH1-34-OHまたはPTH1-31NH2濃度測定のための分析を行う前に-20℃で冷凍保存した。
【0119】
血漿中のPTH1-34-OH濃度は、Peninsula Laboratories製RIAキットを用いて測定した。血漿中のPTH1-31NH2濃度は、Unigene Laboratoriesで開発された競合的ELISA法を用いて定量化した。血漿中のPTH1-34-OHまたはPTH1-31NH2の薬物動態プロファイルから、Cmax(pg/mlで表される最高血漿中濃度)およびAUC(曲線下面積)のパラメータを算出した。これらパラメータの各々について平均を表7に示す。
【0120】
【表7】

【0121】
PTH1-31NH2の平均Cmaxは、PTH1-34-OHの平均Cmaxの約6.25倍である。平均AUC(生体利用度の間接的な尺度)は、PTH1-31NH2の場合PTH1-34-OHの9.8倍である。PTH1-31NH2分子はPTH1-34-OHに比べてアミノ酸3つ分小さいが、この2つのペプチド間の分子量(それぞれ3718ドルトンおよび4118ドルトン)のわずかな違いは、生体利用度に見られる差の原因とはならない。したがって、2つのペプチド間の重要な違いはC末端アミド基の有無にある。
【0122】
(実施例3:C末端アミド基を有するまたは有さない副甲状腺ホルモンのアナログ(PTH1-34)についてのラットの十二指腸内投与による生体利用度の比較)
Spraque-Dawleyラットの雌(250〜275g)(PTH1-34-OHの場合n=6およびPTH1-34NH2の場合n=7)に、頚動脈にカニューレを挿入する前にケタミンとキシラジンで麻酔した。カニューレは、血液採取および生理食塩水での置き換えを行う三方操作弁に取り付けた。腹腔に正中切開を施し、製剤0.5mlを露出した十二指腸に直接注入した。各ペプチドの製剤には、クエン酸(0.5M)、ラウロイルカルニチン(10mg/ml)、サケカルシトニン(内部マーカーとして含まれる)(0.5mg/ml)およびPTH1-34-OHまたはPTH1-34NH2(0.5mg/ml)のいずれか一方が含まれている。前記製剤投与前と、投与5、15、30、60、120分後の時点で採血(0.5ml)を行った。各血液サンプルを2600xgで10分間遠心し、得られた血漿上清を-20℃で保存した。血漿中ペプチド濃度を、競合酵素結合免疫測定法(ELISA)によって測定した。絶対的な生体利用度(すなわち、各ペプチドの静脈内投与量に対する利用度)を、血漿中PTH1-34-OHまたはPTH1-34NH2濃度をプロットして得られた時間の関数としての曲線下面積から算出した。
【0123】
PTH1-34-OHおよびPTH1-34NH2は、投与後5分以内にラット十二指腸から急速に吸収された。最大PTH1-34-OH濃度は3.05ng/mlであり、一方最高PTH1-34NH2濃度は26.7ng/mlと、遊離酸型のPTH(1-34)のほぼ9倍であった。60分後、PTH1-34NH2濃度は、以前と変わらずPTH1-34-OH濃度のほぼ9倍であった(表8)。絶対的な生体利用度はPTH1-34NH2が3.68%、PTH1-34-OHが0.45%であった。これらの結果から、C末端においてアミド基がOH基と置換すると、ペプチドの最高血漿中濃度が8.75倍増大し、PTH1-34の絶対的な生体利用度が8.2倍増大すると言える。
【0124】
【表8】

【0125】
(実施例4:ラットにおけるLHRHの十二指腸内投与に及ぼすC末端アミド基の影響)
麻酔したラットの十二指腸からの黄体形成ホルモン放出ホルモン(LHRH-NH2)吸収に及ぼすC末端アミド化の効果を調べた。本研究では、本来生じるC末端アミド化デカペプチドであるLHRH-NH2の吸収特性を、C末端アミノ酸がgly-NH2ではなくgly-COOHである以外LHRH-NH2と同じアミノ酸配列を有するデカペプチドであるLHRH-COOHの吸収特性と比較した。ラットの雌12匹に麻酔を施し、異なる時点で血液サンプルを採取するためのカニューレを頚動脈に挿入した。6匹のラットには、十二指腸にLHRH-NH20.5ml(5mg/mL)のクエン酸0.5Mおよびラウロイルカルニチン(10mg/ml)含有製剤を27ゲージの針で注射し、他の6匹のラットには、十二指腸にLHRH-COOH 0.5ml(5mg/mL)の同様の製剤を注射した。LHRH-NH2またはLHRH-COOH製剤投与前と、投与5、15、30、60、120分後の時点で血液のサンプルを採取した。得られた血漿サンプルについてそのLHRH-NH2またはLHRH-COOHを、蛍光検出器を装備した高速液体クロマトグラフィーで解析し、血漿中ペプチド濃度を測定した。ペプチド投与5分後の血漿中アミド化および非アミド化LHRHの最高濃度(Cmax)を検出した。いずれの型のLHRHも同量をラットに投与したが、5分後には、遊離酸型のLHRH-COOHの5倍量のアミド化LHRH(LHRH-NH2)が血漿中に検出された(表9)。曲線下面積(AUC:ペプチド吸収および生体利用度の程度を表す尺度)は、アミド化LHRHの場合、遊離酸型のLHRHの6倍であった(表9)。これらの結果から、酸および促進剤を含有する製剤中のアミド化ペプチドの生体利用度は非アミド化ペプチドに比べて高いと言える。
【0126】
【表9】

【0127】
本発明を特定の実施形態に関して説明してきたが、その他多くの変更、修正および使用法を加え得ることは、当業者には明らかであろう。したがって、本発明は本明細書中の特定の開示内容に限定されるものではなく、添付の請求の範囲によって限定されるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルシトニン以外の生理活性ペプチド剤を経口送達するための、前記活性ペプチドを治療有効量含む医薬組成物であって、前記活性ペプチドが本来アミド化されない部位でアミド化されている医薬組成物。
【請求項2】
医薬として許容できるpH低下剤、プロテアーゼ阻害剤、および前記活性ペプチド剤と胃のプロテアーゼとの接触を防止しながら、患者の胃を通過して前記医薬組成物を輸送するのに有効な耐酸性保護ビヒクルの少なくとも1つをさらに含む請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記活性ペプチド剤がC末端でアミド化されている請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記ペプチドが、グリシンで伸長された前駆体として調製され、次にC末端アミド基に変換される請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記活性ペプチドが、アミド化された側鎖を有するアミノ酸を含んでいる請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記pH低下剤が、前記医薬組成物を0.1M重炭酸ナトリウム水溶液10ミリリットルに添加したとして、前記水溶液のpHを5.5以下に低下させるに十分な量で、前記医薬組成物中に存在する請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記プロテアーゼ阻害剤が胃および/または腸のプロテアーゼ阻害剤である請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記活性ペプチド剤が、in vivoで酵素によって少なくとも部分的に切断され得る膜輸送体に結合している請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記保護ビヒクルが、前記医薬組成物の残部の重量の30%以下の重量で存在する請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記保護ビヒクルが、0.1NのHCl中で少なくとも2時間、前記医薬組成物の分解を防止するのに十分であって、さらに前記医薬組成物の全内容物を、前記組成物を1分当たりの回転数100で回転させる溶解槽においてpHを6.3まで増加させた後45分以内に完全放出することが可能である、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記活性剤の生体利用度を高めるのに有効である吸収促進剤を少なくとも1つさらに含む、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記吸収促進剤が界面活性剤である請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記界面活性剤が吸収性または生分解性である請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記界面活性剤が、アシルカルニチン、リン脂質および胆汁酸からなる群から選択される請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項15】
スクロースエステルをさらに含む請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項16】
前記吸収促進剤が、(i)コレステロール誘導体であるアニオン性剤、(ii)負電荷中和剤とアニオン性界面活性剤との混合物、(iii)非イオン性界面活性剤、および(iv)カチオン性界面活性剤からなる群から選択される界面活性剤である請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項17】
前記吸収促進剤が、カチオン性界面活性剤およびコレステロール誘導体または酸可溶性胆汁酸であるアニオン性界面活性剤からなる群の少なくとも1つから選択される請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項18】
前記ペプチド活性剤の生体利用度の増大に有効な生理活性ペプチドではない第2のペプチドをさらに含む請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項19】
前記pH低下剤を前記保護ビヒクルから分離する水溶性バリアをさらに含む請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項20】
前記組成物が、4.2以下のpKaおよび室温で水100ミリリットル当たり少なくとも30グラムの水への溶解度の少なくとも1つを有するpH低下剤を少なくとも1つ含む請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項21】
前記医薬組成物が医薬用バインダー、前記バインダーに均一に分散している前記pH低下剤、前記吸収促進剤および前記ペプチド活性剤を含有している請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項22】
前記pH低下剤がクエン酸、酒石酸およびアミノ酸の酸性塩からなる群から選択される請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項23】
前記pH低下剤が300ミリグラム以上の量で存在する請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項24】
前記ペプチド剤がヒトグルカゴン様ペプチド1、ヒトグルカゴン様ペプチド2またはそれらのアナログ、インスリン、ヒト副甲状腺ホルモンまたはそのアナログ、ヒト副甲状腺ホルモンアナログPTH1-31NH2およびヒト副甲状腺ホルモンアナログPTH1-34NH2からなる群から選択される請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項25】
前記保護ビヒクルが粘性の保護シロップである請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項26】
水溶性バリアが前記pH低下剤を前記保護ビヒクルから分離する請求項22に記載の医薬組成物。
【請求項27】
経口伝達を目的とする経口送達される生理活性ペプチド剤の生体利用度を増大する方法であって、前記ペプチド剤をアミド化する工程を含み、前記アミド化が本来アミド化されない部位で行われる方法。
【請求項28】
胃のプロテアーゼと前記ペプチド剤との接触を実質的に妨げる耐酸性保護ビヒクルの保護のもと前記ペプチド活性剤、pH低下剤および/またはプロテアーゼ阻害剤が患者の口および胃を通過した後、前記ペプチド活性剤が、少なくとも1つのpH低下剤および/またはプロテアーゼ阻害剤と一緒に患者の腸へ選択的に放出されることを目的とする請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記活性ペプチド剤がC末端でアミド化される請求項27に記載の方法。
【請求項30】
前記ペプチド剤が、グリシンで伸長された前駆体として調製され、次にC末端アミド基に変換される請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記活性ペプチドがアミノ酸側鎖でアミド化されている請求項27に記載の方法。
【請求項32】
前記pH低下剤が、前記医薬組成物を0.1M重炭酸ナトリウム水溶液10ミリリットルに添加したとして、前記水溶液のpHを5.5以下に低下させるに十分な量で、前記医薬組成物中に存在する請求項28に記載の方法。
【請求項33】
前記プロテアーゼ阻害剤が胃および/または腸のプロテアーゼ阻害剤である請求項28に記載の方法。
【請求項34】
前記ペプチド活性剤の患者の腸への放出が、前記ペプチド活性剤の生体利用度を増大するのに有効な少なくとも1つの吸収促進剤の存在下で行われることを目的とする請求項28に記載の方法。
【請求項35】
前記ペプチド剤がヒトグルカゴン様ペプチド1、ヒトグルカゴン様ペプチド2、またはそれらのアナログ、インスリン、ヒト副甲状腺ホルモンまたはそのアナログ、ヒト副甲状腺ホルモンアナログPTH1-31NH2およびヒト副甲状腺ホルモンアナログPTH1-34NH2、および黄体ホルモン放出ホルモンからなる群から選択される請求項27に記載の方法。
【請求項36】
前記生体利用度の増大が、腸吸収の増大の結果である請求項27に記載の方法。

【公開番号】特開2011−32282(P2011−32282A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−243998(P2010−243998)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【分割の表示】特願2006−501088(P2006−501088)の分割
【原出願日】平成16年1月21日(2004.1.21)
【出願人】(503195300)ユニジーン・ラボラトリーズ・インコーポレーテッド (17)
【Fターム(参考)】