説明

改善された薬物速度論的および薬力学的特性を有するエトミデート類似体

本発明は、式(I)による化合物に関し: 式中、R1はL1C(O)OTまたはL1C(O)OL2C(O)OTであり; R2は置換もしくは非置換C1〜C10アルキル、C2〜C10アルケニル、もしくはC2〜C10アルキニル、またはR1であり; nは0〜5の整数であり; 各R3は独立にハロゲンまたはR2であり; L1およびL2は各々独立に、結合、置換または非置換C1〜C10アルキレン、C2〜C10アルケニレン、またはC2〜C10アルキニレンであり; ならびにTはH、置換もしくは非置換C1〜C10アルキル、C2〜C10アルケニル、もしくはC2〜C10アルキニル、ニトロフェノール、またはシクロプロピルである。本発明はまた、式(I)による化合物および薬学的に許容される担体を含む薬学的組成物に関し、このような薬学的組成物を投与する段階により哺乳動物に麻酔をかけるための方法に関する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、米国特許法第119条(e)項の下で、2008年3月31日付で出願した米国特許仮出願第61/040,911号の恩典を主張し、この内容はその全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
政府支援
本出願の主題は国立衛生研究所GM058448からの支援でなされた。米国政府は本発明において一定の権利を有している。
【0003】
発明の分野
本発明は、改善された薬物速度論的および薬力学的特性を有するエトミデート類似体ならびに麻酔薬としてのその使用に関する。
【背景技術】
【0004】
発明の背景
毎年、米国だけでもほぼ3000万回の全身麻酔が施されている。麻酔をもたらすのに必要な濃度で、どの全身麻酔薬も潜在的に重篤な、そして時には命にかかわる副作用をもたらす。特に懸念されるのは、高齢、病気および外傷の患者において特に、致命的になることもある心血管および呼吸機能の低下である。これらの有害な副作用は、ほとんど全ての全身麻酔薬により引き起こされ、最も低い治療指数(LD50/ED50)のあらゆるクラスの治療薬のなかに麻酔薬が含まれる理由を説明するものである。それゆえ、副作用がさらに少なくさらに安全な麻酔剤を開発することには非常に価値が有る。
【0005】
エトミデート (3-(1-フェニルエチル)イミダゾール-4-カルボン酸エチル)は、全身麻酔または意識下鎮静を誘導かつ維持するために使用できるイミダゾールに基づく即効性の静脈内鎮痛睡眠薬である。これは二つの鏡像異性体として存在するが、(R)-鏡像異性体は(S)-鏡像異性体よりもおよそ10倍強力な麻酔薬である。(R)-鏡像異性体は、臨床的に用いられるものである(下記の構造1を参照のこと)。(R)-エトミデートは、遊離の水溶液濃度およそ2 μMでオタマジャクシにおいて立ち直り反射の消失(Husain, S.S., et al., J Med Chem, 46:1257-1265 (2003))およびヒトにおいて応答の消失(Arden, J.R., et al., Anesthesiology, 65:19-27 (1986))を誘導する。

構造1 - (R)-エトミデート(3-(1-フェニルエチル)イミダゾール-4-カルボン酸エチル)
【0006】
分子レベルで、エトミデートがβ2またはβ3サブユニットを含んだGABAA受容体の機能を増強することによって麻酔をもたらすという有力な証拠がある。エトミデートは低濃度のアゴニストによって誘発されるGABA受容体を介した電流を増強するが、高濃度のアゴニストによって誘発される電流をごくわずかしか増強しない。これはアゴニスト濃度反応曲線を左方に移動する(アゴニストEC50を低減する)。エトミデートはまた、アゴニストの非存在下においてGABAA受容体を直接活性化する。
【0007】
他の全身麻酔薬に比べ、エトミデートは極めて高い治療指数を有する; 動物での(R)-エトミデートの治療指数はチオペンタールおよびプロポフォールの、それぞれ4.6および3.1に比べ26.4である(Janssen, P.A., Arzneimittelforschung , 21:1234-1243 (1971)、Glen, J.B., Br J Anaesth, 52:731-742 (1980)、およびZhou, Anesth Analg, 102:129-134 (2006))。エトミデートがもたらす比較的大きな安全域は、心血管および呼吸機能に与える影響がより少ないことを恐らく反映している。エトミデートがもたらす血行動態安定性は、少なくとも部分的には、交感神経性流出および自律神経反射に及ぼすその抑制作用欠如による(Ebert, T.J., et al., Anesthesiology 76:725-733 (1992))。逆に、プロポフォールおよびチオペンタールは交感神経性流出を低減し、自律神経反射を鈍くし、心筋収縮能を直接損なう(Mazerolles, M., Fundam Clin Pharmacol, 10:298-303 (1996))。これらの作用は健常な患者においてさえも心血管抑制をもたらす。心血管および呼吸機能に与える(R)-エトミデートの影響がより少ないため、(R)-エトミデートは病気、高齢または外傷の患者で用いるのに麻酔専門医、集中治療専門医および緊急治療室の医師が選ぶ麻酔剤として浮上した。しかしながら、この熱狂は和らいでおり、副腎皮質ステロイド合成のその著しく強力かつ長期的な阻害によってその臨床用途は限られている。
【0008】
ステロイド合成の阻害は、その他の点では(R)-エトミデートの好ましい心血管特性および呼吸特性から最も恩恵を受けるであろう患者、つまり瀕死の状態にある患者においては特に、(R)-エトミデート長期投与による潜在的に命にかかわる副作用である。この阻害は極めて強力であり、鎮痛または麻酔をもたらすために使われる濃度をはるかに下回る(R)-エトミデート濃度で起こる。全身麻酔をもたらすのに必要な用量で、(R)-エトミデートは、長期注入の中断後4日以上持続しうる副腎機能障害を引き起こし(Wagner, R.L., and White, P.F., Anesthesiology, 61:647-651 (1984))、瀕死の状態にある患者において死亡率の著しい増加を引き起こす(Watt, I., and Ledingham, I.M., Anaesthesia, 39:973-981 (1984)およびLedingham, I.M., and Watt, I., Lancet, 1:1270 (1983))。見かけ上、外因性ステロイドを経験的に投与することによって死亡率を低減することはできるが、この手法は、任意の所与の患者におけるステロイド治療の投薬、適時選択および持続時間が推論的でありうるため準最適である。さらに、外因性ステロイドの投与はそれ自体が、グルコース恒常性および創傷治癒の障害、免疫抑制ならびに体液貯留を含む重篤な合併症をもたらすこともある。副腎皮質機能に与える(R)-エトミデートの深刻な影響のために、長期注入によるその投与に対する特定の警告がその能書に加えられることになって、長期の鎮静または麻酔のための(R)-エトミデートの使用は断念されることになった。
【0009】
単回静脈内ボーラス後の副腎皮質抑制の臨床的意義には議論の余地がある。Morris, C., and McAllister, C., Anaesthesia, 60:737-740 (2005); Jackson, W.L., Jr., Chest, 127:1031-1038 (2005); Murray, H., and Marik, P.E., Chest, 127:707-709 (2005); Zed, P.J., et al., Chem., 8:347-350 (2006); およびBloomfield, R., and Noble, D.W., Crit Care, 10:161 (2006)を参照されたい。歴史的に見て、単回ボーラス後の副腎皮質抑制は短時間(< 8時間)であり、臨床的に重要でないと想定されている。しかしながら、この想定は、瀕死の状態にはなく、待機手術を受けた患者での小規模試験に主に基づいている。Wagner, R.L., and White, P.F., Anesthesiology, 61:647-651 (1984); Wagner, R.L., et al., N Engl J Med, 310:1415-1421 (1984); Fragen, R.J., et al., Anesthesiology 61:652-656 (1984); およびDuthie, D.J., et al., Br J Anaesth, 57:156-159 (1985)を参照されたい。瀕死の状態にある患者に関するいくつかの最近の研究および報告から、単回ボーラス導入量の(R)-エトミデートでさえも後続の副腎皮質抑制は24時間またはそれ以上続くことが示されており、それが敗血症の場合には特に、死亡リスクを高めることを示唆するものもある。Absalom A., et al., Anaesthesia, 54:861-867 (1999); Malerba, G., et al., Intensive Care Med, 31:388-392 (2005); den Brinker, M., et al., Intensive Care Med (2007); den Brinker, M., et al., J Clin Endocrinol Metab, 90:5110-5117 (2005); Lundy, J.B., et al., J Intensive Care Med, 22:111-117 (2007); Lipiner-Friedman, D., et al., Crit Care Med, 35:1012-1018 (2007); Vinclair, M., et al., Intensive Care Med., (2007); およびCotton, B.A., et al., Arch Surg, 143:62-67 (2008)を参照されたい。
【0010】
(R)-エトミデートは、コルチゾール、コルチコステロンおよびアルドステロン産生をもたらす合成経路において重要な酵素11β-ヒドロキシラーゼを阻害することによって主に副腎皮質ステロイド合成を阻害する(de Jong, F.H., et al., J Clin Endocrinol Metab, 59:1143-1147 (1984)を参照のこと)。(R)-エトミデートの最大半量阻害濃度(IC50)は、その麻酔濃度よりも桁違いに低い濃度範囲0.5〜30 nMであると報告されている(Lamberts, S.W., et al., J Pharmacol Exp Ther, 240:259-264 (1987)を参照のこと)。(R)-エトミデートの極めて高い11β-ヒドロキシラーゼ阻害能力をその非常に長い(数時間の)排出半減期(Van Hamme, M.J., et al., Anesthesiology, 49:274-277 (1978)を参照のこと)と合わせて考慮すれば、(R)-エトミデート投与後の副腎皮質抑制の持続時間が長いことの論理的な説明が浮かび上がることを、本発明者らは示唆するものである: 麻酔用量を投与した後に、11β-ヒドロキシラーゼ活性がもう阻害されないように代謝によって(R)-エトミデートの血清中濃度が十分に低減されるには、多くの排出半減期が経過していなければならない。このことが、迅速に代謝される(R)-エトミデートの類似体をデザインすることによって副腎皮質抑制の持続時間が低減されうるという予測につながった。そのような迅速に代謝される類似体は、超短持続時間の麻酔作用を有するものと予測することもできる。これは別の非常に望ましい麻酔特性である。というのは、それによって手術中の麻酔深度のより正確な用量設定および手術終了時の麻酔からのより素早い目覚めが可能になるからである。
【0011】
特に瀕死の状態で用いるための、より安全な全身麻酔薬が大いに必要である。(R)-エトミデートは、これを理想的な全身麻酔剤とする多くの特性を保有するが、副腎皮質ステロイド合成を強力に抑制するその能力は、その臨床的有用性および安全性を大幅に制限する。
【0012】
上記のように、(R)-エトミデートの多くの有益な特性(例えば、速やかな作用の発現、血圧に及ぼす影響がほとんどないこと、高い治療指数)を保持しているが、潜在的に危険な副腎皮質機能阻害を引き起こさない(R)-エトミデートの類似体を開発することが当技術分野において必要である。そのような類似体は、瀕死の状態にある患者にさらに安全に麻酔が施されることを可能にするであろう。本発明はその要求に応える。
【発明の概要】
【0013】
本発明は式(I)による化合物に関する。

【0014】
式(I)の化合物は望ましくない副作用の低下とともに等価なまたは改善された麻酔特性を可能にする、(R)-エトミデートに比べて改善された薬物速度論的および薬力学的特性を有する。式(I)の化合物は、(R)-エトミデートの有益な麻酔特性を保持するが、臨床的に有意な副腎皮質機能阻害を引き起こさないエトミデートの類似体である。
【0015】
式(I)において、R1はL1C(O)OTまたはL1C(O)OL2C(O)OTである。R2は置換もしくは非置換C1〜C10アルキル、C2〜C10アルケニル、もしくはC2〜C10アルキニル、またはR1である。R3は各々独立にハロゲンまたはR2である。nは0〜5の整数である。L1およびL2は各々独立に結合、または置換もしくは非置換C1〜C10アルキレン、C2〜C10アルケニレンもしくはC2〜C10アルキニレンである。TはH、置換もしくは非置換C1〜C10アルキル、C2〜C10アルケニル、もしくはC2〜C10アルキニル、ニトロフェノール、またはシクロプロピルである。式(I)の化合物は、その薬学的に許容される塩、立体異性体混合物および鏡像異性体を含む。式(I)の化合物は、R1がL1C(O)OTであり、R2がCH3であり、R3がフッ素であり、nが1であり、かつTがCH2CH3である場合、L1が結合ではないという条件で、本発明の主題である。
【0016】
本発明の別の局面は、有効量の式(I)による化合物および薬学的に許容される担体を含む薬学的麻酔組成物に関する。
【0017】
本発明の別の局面は、式(I)の有効な麻酔化合物または薬学的組成物を哺乳動物に投与する段階を含む、哺乳動物に麻酔をかけるための方法に関する。
【0018】
本発明の別の局面は、麻酔を必要としている被験体に麻酔をかけるための処方物としての、またはそのための処方物の製造での、本明細書に記述の実質的に式(I)の化合物の使用である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】オタマジャクシでの(立ち直り反射消失; LORRとして測定した)麻酔に関するMOC-(R)-エトミデート濃度反応関係を示すグラフである。計100匹のオタマジャクシを用いてこの濃度反応曲線を規定した。麻酔EC50は8 ± 2 μMであった。このことは、MOC-(R)-エトミデートが強力な全身麻酔薬であることを示している。比較のため、(R)-エトミデートのEC50は2 μMである(Husain SS et al. J Med Chem (2003)を参照のこと)。
【図2】MOC-(R)-エトミデートまたは(R)-エトミデートのいずれかによるその各麻酔濃度でのアフリカツメガエル(Xenopus)卵母細胞において発現されたヒトα1β2γ2L GABAA受容体が媒介する電流の増強を実証している電気生理学的トレースを示す。1番目、3番目および5番目のトレースは対照である。2番目および4番目のトレースはそれぞれ、8 μMのMOC-(R)-エトミデートおよび2 μMの(R)-エトミデートの類似の増強効果を示す。このことは、(R)-エトミデートと同様に、MOC-(R)-エトミデートが最大下のGABA誘発GABAA受容体電流を増強することを実証している。
【図3】8 μMのMOC-(R)-エトミデートまたは2 μMの(R)-エトミデートのいずれかの非存在下または存在下でのGABA濃度反応曲線のグラフを示す。これは、(R)-エトミデートと同様に、MOC-(R)-エトミデートがGABAA受容体のGABA濃度反応曲線を左方に移動させることを実証している。各データ点は3つの異なる卵母細胞からの測定結果の平均を表す。エラーバーは平均のS.D.を示す。
【図4】37℃でヒトS9肝画分(+NADPH)とともにインキュベートしたときのインキュベーション時間に応じた未代謝の(R)-エトミデートまたは未代謝のMOC-(R)-エトミデートの割合のグラフを示す。40分までに、99%超のMOC-(R)-エトミデートが代謝されたのに対し、(R)-エトミデートはこの時間規模で測定可能な程度に代謝されなかった。このことは、MOC-(R)-エトミデートが(R)-エトミデートより少なくとも100倍速く肝酵素によって代謝されることを実証している。
【図5】MOC-(R)-エトミデートのカルボン酸代謝産物によるアフリカツメガエル卵母細胞において発現されたヒトα1β2γ2L GABAA受容体が媒介する電流の増強がないことを実証している電気生理学的トレースを示す。最初および最後のトレースは対照(すなわち代謝産物なし)である。2番目、3番目および4番目のトレースは10、30および100 μMの代謝産物の影響の欠如を示す。
【図6】(R)-エトミデートはナノモル濃度でさえもH295R副腎皮質細胞によるコルチゾール合成を阻害する(IC50 = 1.3 ± 0.22 nM)が、MOC-(R)-エトミデートの代謝産物はマイクロモル濃度でさえも比較的小さい阻害活性を有することを実証しているグラフを示す。各点は3ウェルでの平均コルチゾール濃度を表す。エラーバーは標準偏差である。
【図7】図7A: ラットでの(LORRとして測定した)麻酔に関するプロポフォール、(R)-エトミデートおよびMOC-(R)-エトミデートの用量反応関係を示す。図7B: 麻酔の持続時間が麻酔用量の対数にしたがってほぼ直線的に増大したこと、およびこの持続時間が(R)-エトミデートまたはプロポフォールのいずれかよりもMOC-(R)-エトミデートの場合に顕著に短いことを実証する。
【図8】等麻酔用量のプロポフォール、(R)-エトミデートおよびMOC-(R)-エトミデートの投与後のラットにおける平均血圧の時間に対するプロットを示し、MOC-(R)-エトミデートがプロポフォールまたは(R)-エトミデートよりも顕著に少なく血圧を低下させることを実証する。各点は30秒の基準時点の間の平均を表す。エラーバーは標準偏差である。差し込み図は麻酔薬投与前の代表的な動脈圧トレースを示す。
【図9】コルチコステロン(副腎皮質ステロイド)の血漿中濃度はMOC-(R)-エトミデートの投与後30分に対照(プロピレングリコール媒体)と比べて変化なしであったが、それは等麻酔用量の(R)-エトミデートによって顕著に低減されたことを示す。これらのラットにおいて、コルチコステロン産生を麻酔薬または媒体投与から15分後にACTH1-24で刺激し、次いで血漿中コルチコステロン濃度を15分後に測定した。エラーバーは標準偏差である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
発明の詳細な説明
本発明は、(R)-エトミデートの有益な特徴(例えば、強力な麻酔薬、麻酔効果の速やかな発現、血圧に及ぼす影響がほとんどない)を保持するが、副腎皮質ステロイド合成および/または麻酔作用の持続時間に及ぼすその影響が実質的に低下している、より安全な(R)-エトミデート類似体に関する。ある種の態様には、麻酔薬投与の中断直後に副腎皮質機能の抑制および/または麻酔作用が終わる活性の低い代謝産物(すなわち、11β-ヒドロキシラーゼを著しくは阻害しない、GABAA受容体活性を増強する、および/または麻酔をもたらす代謝産物)に急速に代謝されるエトミデートの類似体(R-またはS-鏡像異性体のいずれか)が含まれる。
【0021】
本発明の化合物は、コア分子の各種位置に直接的にまたは種々のリンカー基(例えば、-CH2CH2-)により付着された一つまたは複数のさらなる代謝的に不安定なエステル部分で増強されたエトミデートの類似体(R-またはS-鏡像異性体のいずれか)と理解することができる。エステル部分の遠位には、「尾部」基(例えば、-CH3)があってよい。本発明のさまざまな態様を以下で論じる。
【0022】
本発明は式(I)による化合物に関する。

【0023】
R1はL1C(O)OTまたはL1C(O)OL2C(O)OTである。好ましい態様において、R1はL1C(O)OL2C(O)OTである。
【0024】
R2は置換もしくは非置換C1〜C10アルキル、C2〜C10アルケニル、もしくはC2〜C10アルキニル、またはR1である。好ましくは、R2は、CH3のようなアルキルまたはCH2CH2C(O)OCH3のようなR1のエステルである。最も好ましい態様において、R2はCH3である。
【0025】
R3は各々独立に、ハロゲンまたはR2である。好ましいハロゲンにはフッ素および塩素が含まれる。変数nは0〜5の整数である。好ましい態様において、nは0〜3に及び、最も好ましくは0である。
【0026】
リンカーL1およびL2は各々独立に、結合、置換または非置換C1〜C10アルキレン、C2〜C10アルケニレン、またはC2〜C10アルキニレン基である。アルキレンの骨格はO、NまたはSのような、一つまたは複数のヘテロ原子を含んでいてもよい。好ましくは、L1およびL2は各々独立に、結合または直鎖C1〜C4アルキレン基である。より好ましくは、L1は結合またはCH2CH2であり、かつL2はCH2CH2、CH2(CH2)4CH2またはCH2CH2O(CH2)3である。最も好ましい態様において、L2はCH2CH2である。
【0027】
尾部TはH、置換または非置換C1〜C10アルキル、C2〜C10アルケニル、またはC2〜C10アルキニルであってよい。アルキルの骨格はO、NまたはSのような、一つまたは複数のヘテロ原子を含んでよい。尾部はシクロプロピル、ニトロフェノール、またはその他任意の適当な電子求引基であってもよい。好ましくは、TはC1〜C4アルキル基である。より好ましくは、TはCH3、CH2CH3、CH2CH2CH2CH3またはCH2CH2OCH3である。最も好ましい態様において、TはCH3である。別の最も好ましい態様において、Tはニトロフェノールである。
【0028】
式(I)の化合物は、その薬学的に許容される塩、立体異性体混合物および鏡像異性体を含む。本発明の化合物は式(I)の化合物の生理学的に許容される塩も含む。好ましい生理学的に許容される塩は、当業者に公知の酸付加塩である。一般的な生理学的に許容される酸付加塩は塩酸塩、シュウ酸塩および酒石酸塩を含むが、これらに限定されることはない。
【0029】
化合物の好ましい態様において、R1はL1C(O)OL2C(O)OTであり、R2はCH3であり、nは0であり、L1は結合であり、L2はCH2CH2であり、かつTはCH3である。
【0030】
化合物の別の態様において、R1はL1C(O)OL2C(O)OTであり、R2はCH3であり、nは0であり、L1は結合であり、L2はCH2(CH2)4CH2であり、かつTはCH2CH2CH2CH3である。
【0031】
化合物の別の態様において、R1はL1C(O)OL2C(O)OTであり、R2はCH3であり、nは0であり、L1は結合であり、L2はCH2CH2O(CH2)3であり、かつTはCH2CH2OCH3である。
【0032】
化合物のある種の態様において、R1はL1C(O)OL2C(O)OTであり、R2はCH3であり、各R3は独立にハロゲンであり、nは1〜5であり、L1は結合であり、L2はCH2CH2であり、かつTはCH3である。
【0033】
化合物の他の態様において、R1はL1C(O)OL2C(O)OTであり、R2はCH3であり、各R3はフッ素であり、nは1〜5であり、L1は結合であり、L2はCH2CH2であり、かつTはCH3である。
【0034】
化合物の他の態様において、R1はL1C(O)OL2C(O)OTであり、R2はCH3であり、各R3はフッ素であり、L1は結合であり、L2はCH2CH2であり、かつTはCH3である。
【0035】
化合物の他の態様において、R1はL1C(O)OTであり、R2はCH3であり、少なくとも一つのR3はCH2CH2C(O)OCH3であり、L1は結合であり、かつTはCH2CH3である。
【0036】
化合物のさらなる態様において、R1はL1C(O)OL2C(O)OTであり、R2はCH3であり、少なくとも一つのR3はCH2CH2C(O)OCH3であり、L1は結合であり、L2はCH2CH2であり、かつTはCH3である。
【0037】
化合物の好ましい態様において、R1はL1C(O)OTであり、R2はCH2CH2C(O)OCH3であり、nは0であり、L1は結合であり、かつTはCH2CH3である。
【0038】
化合物の別の好ましい態様において、R1はL1C(O)OTであり、R2はCH3であり、nは0であり、L1はCH2CH2であり、かつTはCH2CH3である。
【0039】
6員環および5員環を架橋している炭素原子は不斉中心である。それゆえ、化合物は純粋な鏡像異性体の形態であってよい。好ましい態様において、鏡像異性体はR鏡像異性体である。
【0040】
式(I)の化合物は好ましくは、(R)-エトミデートと同じ立体化学を有する。R2、R3、L1、L2、およびTは、立体的な障害または結合が所望の活性を妨げる程ではないが、分枝炭化水素鎖であってよい。
【0041】
ある種の態様において、化合物は二つまたはそれ以上のエステル基を含む。適当なエステル含有基(例えば、リンカー-エステル-尾部またはエステル-尾部)を架橋炭素にまたはフェニル環もしくはコア分子の各種位置に付加することができる。
【0042】
立体障害のないならびに/またはイミダゾールおよびフェニル環中のπ電子系から電子的に絶縁した、(R)-エトミデート上の新しいエステル部分を持った急速に代謝されるエトミデート類似体が好ましい。レミフェンタニルおよびエスモロールのような他の超短時間作用型薬におけるものなどの、そのようなエステル部分は、エステラーゼによる加水分解に非常に感受性が高いものと考えられる。米国特許第3,354,173号; 米国特許第5,466,700号; 米国特許第5,019,583号; および米国特許出願公開第2003/0055023号を参照されたい。
【0043】
R2、T、L1、およびL2置換基は各々独立に、一つまたは複数の電子吸引基で置換されてもよい。ある種の態様において、電子吸引基はハロゲン、ニトロフェノール、またはシクロプロピルである。ヒドロキシ基、アミノ基、ニトロ基、ニトリル基、スルホン酸基、カルボン酸基、ハライド基、メルカプタン基および不飽和アルキル基のような、他の電子吸引基を用いることもできる。電子吸引基の存在はエステルカルボニル原子上の部分正電荷を増大する働きをし、それによってエステラーゼによる求核攻撃に対する感受性を増大し、エステラーゼによる急速な加水分解をさらに増強する。
【0044】
本発明の別の局面は、式(I)による化合物および薬学的に許容される担体を含む薬学的組成物に関する。
【0045】
本発明の別の局面は、上記と実質的に同じ薬学的組成物を哺乳動物に投与する段階を含む、哺乳動物に麻酔をかけるための方法に関する。
【0046】
ある種の態様において、この方法は化合物の有効用量を投与する段階を含む。有効用量は化合物の0.01〜100 mg/kgを含む。
【0047】
好ましい態様において、この方法は化合物の有効用量の単回注射を行う段階を含み、この後に化合物の持続注入が行われてもまたは行われなくてもよい。
【0048】
ある種の態様において、この方法は式(I)の化合物の有効用量の持続注入を行う段階を含む。
【0049】
ある種の態様において、この方法は、別の催眠鎮静剤、鎮痛剤および麻痺剤から選択される治療剤の有効量を哺乳動物に投与する段階も含む。催眠鎮静剤の非限定的な例としてはベンゾジアゼピン、バルビツレート、ケタミン、プロポフォール、イソフルランおよびデスフルランが挙げられる。鎮痛剤の非限定的な例としては非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、パラセタモール/アセトアミノフェン、COX-2阻害剤およびオピオイドが挙げられる。麻痺剤の非限定的な例としてはラパクロニウム、ミバクリウム、サクシニルコリン、ベクロニウムおよびシサトラクリウムが挙げられる。
【0050】
本発明の化合物は麻酔性およびGABAA受容体活性の増強を示した。インビトロアッセイ法において試験した濃度は4.34×10-5から3.39×10-8 g/mLに及び、インビボアッセイ法では0.01から0.02 g/kgに及んだ。本発明の化合物は、強力なインビトロおよびインビボ麻酔性ならびにGABAA受容体効果の増強を一様に示した。これらの結果は、本発明の化合物が強力なインビトロおよびインビボ活性を有する極めて活性な作用物質であることを示唆している。重要なことには、それらの化合物は、インビトロでのおよびインビボでの副腎皮質ステロイド合成に対する阻害活性が低下しており、ならびに/または麻酔作用の持続時間が短い。
【0051】
上記の化合物は互いとの混合物の形態で単独で、または許容される薬学的担体との組み合わせで投与することができる。本発明は、したがって、薬学的または生理学的に許容される担体有りまたは無しで本発明の少なくとも一つの化合物の有効量を含む薬学的組成物にも関する。適切な場合、化合物は生理学的に許容される塩、例えば、酸付加塩の形態で投与されてもよい。
【0052】
本発明は動物またはヒトを処置する方法も包含する。この方法は、薬学的に許容される担体有りまたは無しで、本発明の化合物、または生理学的に許容されるその塩の少なくとも一つの有効量を動物または個体に投与する段階を含む。静脈内投与が好ましい。米国特許第4,289,783号を参照されたく、これはその全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0053】
本発明は、急速に代謝され、かつ麻酔、鎮静またはそうでない場合には低い中枢神経系興奮性をもたらすおよび/または維持するために使用できる強力な催眠鎮静薬である。それは代替薬と比べて以下の有益な特性の一つまたは複数を示す: より高い効力、より短い治療的作用の持続時間、より短い副作用の持続時間、副腎皮質抑制の低下、より高い治療指数、より低い毒性、心血管抑制の低下、および所望の効果に対する用量設定のさらなる容易さ。本発明は単回IVボーラスまたは持続IV注入として施すことができる。他の送達経路は、経口経路、非経口経路、経粘膜経路、皮下経路または吸入経路を含むことができる。
【0054】
本発明の化合物は、全体が参照により本明細書に組み入れられる米国特許第3,354,173号に開示されている方法によって調製することができる。当技術分野において周知の方法による出発材料に対する適当な修飾を利用することができる。本発明の化合物は、以下に記述されうる一般的な合成手順によって調製することもできる。初めに、エトミデートまたはエトミデート類似体のエステル結合を加水分解して、イミダゾール-5-カルボン酸を作出する。次に、このカルボン酸を適当なエステル含有基(例えば、リンカー-エステル-尾部)とカップリングする。カップリングはカルボジイミド化学または当技術分野において公知の他の方法によって達成することができる。(R)-エトミデートまたはその類似体から始める場合、立体化学が保存されることが好ましい。
【0055】
下記の例は、本発明による化合物のための、一般的な合成手順、および特異的な調製を示す。以下の例は、本発明による化合物の調製を示す。これらの例は実例であり、主張する発明を、いかなる方法によっても、限定することを意図するものではない。
【実施例】
【0056】
実施例1 - (R)-1-(1-フェニルエチル)-1H-イミダゾール-5-カルボン酸(1)の合成
R-エチル-1-(1-フェニルエチル)-1H-イミダゾール-5-カルボン酸・HCl (R-エトミデート・HCl) (281 mg, 1 mmol)のメタノール(5 ml)および10%水性NaOH (1.7 ml)溶液を30分間還流した。冷却後、溶液を12.1 M HCl (0.351 ml)で中和した。混合物を回転蒸発によって乾燥し、残留物を1:4 v/vのメタノール-ジクロロメタンに懸濁し、塩化ナトリウムをろ去した。1:4 V/Vのメタノール-ジクロロメタンで平衡化された、シリカゲルカラムに対するクロマトグラフィーによって1-(1-フェニルエチル)-1H-イミダゾール-5-カルボン酸1を得た。

スキーム1を参照されたい。

【0057】
実施例2 - メチル-3-ヒドロキシプロピオン酸(2)の合成
本質的にはBartlett and Rylander (Bartlett, P. D. and Rylander, P. N., J. Amer. Chem. Soc., 73: 4273-4274 (1951)を参照されたく、これはその全体が参照により本明細書に組み入れられる)によって記述されているように化合物を調製した。β-プロピオラクトン(4.36 g, 60.5 mmol)を-78℃でナトリウムメトキシド(121 mg, 2.24 mmol)の無水メタノール(15 ml)撹拌溶液に滴下した。等量のHCl (2.24 ml 1M HCl)を添加することにより混合物を中和した。混合物をろ過し、回転蒸発してメタノールを除去し、油状の残留物を減圧下で蒸留してメチル-3-ヒドロキシプロピオン酸2 (2.7 g, 43%)を得た。

【0058】
実施例3 - (R)-3-メトキシ-3-オキソプロピル1-(1-フェニルエチル)-1H-イミダゾール-5-カルボン酸(MOC-(R)-エトミデート, 3)の合成
(R)-1-(1-フェニルエチル)-1H-イミダゾール-5-カルボン酸1 (1 mmol)およびメチル-3-ヒドロキシプロピオン酸(115 mg, 1.1 mmol)の無水ジクロロメタン(3.5 ml)混合物にジシクロヘキシルカルボジイミド(139 mg, 1.1 mmol)およびp-ジメチルアミノピリジン(134 mg, 1.1 mmol)を添加した。溶液を48時間室温で撹拌した。沈殿物をろ去し、清澄な溶液を、ジクロロメタンで平衡化されたシリカゲルカラムにかけた。ジクロロメタン中10%のエーテルでの溶出により生成物を得、これを1 mm厚のシリカゲルプレートに対する1:1 v/vのヘキサン-酢酸エチルでの分取薄層クロマトグラフィーによってさらに精製した。油状の生成物を無水酢酸エチル中のHClで処理し、白色結晶性の3-メトキシ-3-オキソプロピル1-(1-フェニルエチル)-1H-イミダゾール-5-カルボン酸・HCl (MOC-(R)-エトミデート・塩酸塩) (200 mg, 59%)を得た。
【0059】

【0060】
実施例4 - MOC-(R)-エトミデートはオタマジャクシにおいて強力な全身麻酔薬である
オタマジャクシでの立ち直り反射消失アッセイ法を用いて、麻酔活性の試験を行った。前肢芽期早期のアフリカツメガエル(Xenopus laevis)のオタマジャクシ5匹の群を、2.5 mM Tris HCl緩衝液(pH = 7)で緩衝化され、かつ0.1〜128 μMに及ぶMOC-(R)-エトミデートの濃度を含んだ過酸化水素水100 mlに入れた。MOC-(R)-エトミデートの構造については、上記、スキーム1を参照されたい。火炎研磨されたピペットを用いて5分ごとにオタマジャクシを手動でひっくり返した。オタマジャクシは、5秒以内に立ち直ることができなかった場合に、麻酔されていると見なした。全ての濃度で、この立ち直り反射応答の消失はMOC-(R)-エトミデート曝露から30分以内に安定した。毒性の証拠は認められず、新鮮な過酸化水素水に戻すと、麻酔をかけられたオタマジャクシは全て、その立ち直り反射を回復した。
【0061】
図1は麻酔に対するMOC-(R)-エトミデート濃度反応曲線を示す。各群における麻酔をかけられたオタマジャクシの割合はMOC-(R)-エトミデート濃度とともに増大し、最も高いMOC-(R)-エトミデート濃度(48〜128 μM)で、全てのオタマジャクシに麻酔がかかった。このデータからMOC-(R)-エトミデートの麻酔EC50 (すなわち、50%のオタマジャクシに麻酔がかかった濃度)は、8 ± 2 μMであると判定された。
【0062】
実施例5 - MOC-(R)-エトミデートはGABAA受容体機能を顕著に増強する
MOC-(R)-エトミデートは(R)-エトミデートと同じ分子機構により、つまりGABAA受容体機能を増強することにより麻酔をもたらすようにデザインされた。α1β2γ2Lサブユニットで構成されるヒトGABAA受容体をアフリカツメガエル卵母細胞中で発現させ、GABAA受容体を介した電流に及ぼすMOC-(R)-エトミデートおよび(R)-エトミデートの影響を二微小電極式ボルテージクランプ法によって比較するために用いた。このサブユニットの組み合わせは、これが脳内において最も一般的なGABAA受容体サブタイプを形成し、エトミデート感受性であることが知られているので、選択された。
【0063】
各卵母細胞において、ピーク振幅が1 mM GABA (受容体を飽和するGABA濃度)により誘発される電流応答の5〜10%の電流応答を誘発するGABA濃度を判定した。この最大下濃度をEC5-10 GABA濃度と呼ぶ。GABA作動性の電流に及ぼすMOC-(R)-エトミデートおよび(R)-エトミデートの影響を評価および比較するため、EC5-10 GABAのみにより誘発される「対照」電流を測定した。5分の回復期の後、卵母細胞を90秒間麻酔薬に、その後、90秒間麻酔薬およびEC5-10 GABAの両方に曝露することにより「被検」ピーク電流を測定した。さらに5分の回復期の後、可逆性を保証するために対照実験を繰り返した。図2は、同じ卵母細胞においてそれぞれ、麻酔薬の非存在下および存在下において得られた代表的な対照および被検トレースを示す。MOC-(R)-エトミデートはその麻酔EC50 (すなわち8 μM)で、GABA誘発電流の振幅を450 ± 130% (卵母細胞n=6)だけ増強することが分かった。これは、同じ一連の卵母細胞において(R)-エトミデートによりその麻酔EC50 (すなわち2 μM)でもたらされた増強(660 ± 240%)と同様である。GABAの適用前でさえMOC-(R)-エトミデート誘発小電流としても(R)-エトミデート誘発小電流としても直接的な活性化が認められた。
【0064】
次に、GABA濃度反応曲線を左方移動させるMOC-(R)-エトミデートおよび(R)-エトミデートの能力について調べた(図3参照)。これらの実験において、各GABA濃度で得られたピーク電流応答を、1 mM GABAによって誘発された最大反応に対して正規化した。MOC-(R)-エトミデートおよび(R)-エトミデートは、その麻酔EC50濃度で、低GABA濃度によって誘発された電流を増強したが、高GABA濃度によって誘発された電流には比較的ほとんど影響を与えなかった。これはGABA濃度反応曲線を左方に移動し、GABA EC50 (すなわち最大反応の50%を誘発するGABAの濃度)を麻酔薬の非存在下での12.7 ± 0.4 μMからそれぞれ、MOC-(R)-エトミデートで3.3 ± 0.1 μMおよび(R)-エトミデートで1.6 ± 0.1 μMに低減した。ヒル係数は1.5〜1.8に及んだ。
【0065】
実施例6 - MOC-(R)-エトミデートのインビトロでの代謝は(R)-エトミデートよりも100倍超速い
MOC-(R)-エトミデートのインビトロでの(プールヒトS9肝画分での)代謝速度を(R)-エトミデートのものと比較した。S9肝画分は多種多様の薬物代謝酵素(エステラーゼを含む)に富み、代謝的安定性に向けた薬物をアッセイするためによく使われるので、選択された。肝臓はインビボでのMOC-(R)-エトミデート代謝に関連する臓器である可能性が高いので、インビトロでの代謝研究に関連する酵素源にも当たる。
【0066】
各10 μMのMOC-(R)-エトミデートまたは(R)-エトミデートを、1 mM NADPHを含有する0.3 mg/mlのプールヒトS9肝画分とともに37度でインキュベートした。さまざまな時点(0、5、10、20および40分)で、反応混合物のアリコット100 μLを取り出し、その代謝をアセトニトリル200 μLの添加によって停止した。このアリコットを遠心分離し、上清中の(未代謝の)麻酔薬の濃度を質量分析検出とともにHPLCを用いて定量化した。
【0067】
図4にはS9肝画分中にインキュベーション時間に応じて残存する未代謝の麻酔薬の割合が片対数目盛でプロットされている。40分後でさえも、(R)-エトミデートの代謝は検出されず、そのインビトロでの代謝半減期は、40分よりもずっと長いことが示唆された。極めて対照的に、MOC-(R)-エトミデートはヒトS9肝画分中で迅速に代謝された。MOC-(R)-エトミデートの濃度は一次過程として減少し、40分までに当初濃度の<1% (すなわち< 0.1 μM)に達した。MOC-(R)-エトミデートの代謝半減期は4.2分であると計算された。これらの研究において、ブスピロンを内部標準として用い、肝画分中の代謝活性を確認した。その代謝半減期は15.4分であった。
【0068】
プールヒト肝S9画分(+ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸)中で40分のインキュベーション後に形成された代謝産物の構造を、高性能液体クロマトグラフィー/タンデム質量分析を用いて分析した。イオンクロマトグラムではただ一つの代謝産物の存在が検出された。それは288の分子量を持っていたが、これはMOC-(R)-エトミデートの遠位エステル部分の加水分解によって形成されたカルボン酸と一致する。これらの結果に基づき、本発明者らは、MOC-(R)-エトミデートの遠位エステル部分が加水分解されて、対応するカルボン酸を、脱離基としてのメタノールとともに生ずる、スキーム2に示したデザイン経路によってMOC-(R)-エトミデートの迅速な代謝が排他的に行われると結論付けた。

【0069】
実施例7 - MOC-(R)-エトミデートの代謝産物は麻酔作用をほとんどまたは全く持たない
MOC-(R)-エトミデートの代謝産物(すなわちMOC-(R)-エトミデート・カルボン酸)は、ブタ肝からおよそ1単位/mlのエステラーゼを含有するリン酸緩衝溶液中でMOC-(R)-エトミデートを加水分解することによって作出された。加水分解の間、NaOHを添加することによってpHを8.4に維持した。次いで反応産物をTLCプレートにて精製した。NMR分光法により、99%超のMOC-(R)-エトミデートが予想されたカルボン酸代謝産物に加水分解されていたことが確認された。
【0070】
オタマジャクシでの立ち直り反射消失アッセイ法を用い代謝産物を麻酔活性について試験した。このアッセイ法において、1000 μM濃度の代謝産物を含有する20 mlのビーカーにオタマジャクシ5匹を入れた。60分後でさえ、どのオタマジャクシもその立ち直り反射を消失せず、代謝産物が有意な麻酔活性を持たないことが示唆された。
【0071】
実施例8 - MOC-(R)-エトミデートの代謝産物はGABAA受容体機能にほとんどまたは全く影響を与えない
二微小電極式ボルテージクランプ法を用いてMOC-(R)-エトミデートの代謝産物のGABAA受容体増強活性を評価した。図5は、最大100 μMまでの濃度でさえ、MOC-(R)-エトミデートの代謝産物がGABAA受容体電流に有意な影響を与えないことを示す。
【0072】
実施例9 - MOC-(R)-エトミデートの代謝産物はインビトロでのステロイド合成にほとんどまたは全く影響を与えない
ヒト副腎皮質がん細胞株H295R (NCI-H295R; ATCC #CRL-2128)を用いてインビトロでのステロイド合成を阻害するMOC-(R)-エトミデートの代謝産物の能力を評価した。H295R細胞は、コルチゾール生合成に必要とされる酵素(例えば11β-ヒドロキシラーゼ)の全てを含め、ステロイド産生に必要な鍵となる酵素のほとんどを発現する。ホルスコリンで刺激された場合、これらの細胞はコルチゾールを産生し、それを培地中に分泌し、これを容易に測定することができる。11β-ヒドロキシラーゼの阻害はコルチゾール合成を遮断し、アッセイ培地中のコルチゾールの濃度を低減する。
【0073】
H295R細胞を増殖培地(インスリン、トランスフェリン、セレンおよびリノール酸、2.5% NuSerum、ならびにPen/Strepを含有する1% ITSを補充したDMEM/F12)中でほぼ集密まで増殖させた。増殖培地を、(R)-エトミデート、MOC-(R)-エトミデートまたはそれらの代謝産物(または対照の場合は何もなし)のいずれかとともにコルチゾール合成を促進するアッセイ培地(0.1% ITSおよび20 μMホルスコリンを補充したDMEM/F12)と交換した。48時間ホルスコリン刺激性のコルチゾール合成を可能にした後に、アッセイ培地1.2 mlを回収し、遠心分離し(細胞および残屑を除去するために)、上清中のコルチゾール濃度をELISAによって測定した。
【0074】
図6は、H295R細胞によるコルチゾール合成に及ぼす(R)-エトミデートおよびMOC-(R)-エトミデートの代謝産物の阻害作用を比較したものである。アッセイ培地中のコルチゾール濃度を50%だけ低減するのに必要な(R)-エトミデートの濃度(すなわちIC50)は1.3 ± 0.2 nMであったのに対し、MOC-(R)-エトミデートの代謝産物のそれは、1 μMでさえもアッセイ培地中のコルチゾール濃度を50%だけ低減できなかったので、少なくとも1000倍高かった。これは、MOC-(R)-エトミデートの代謝産物がH295R細胞によるコルチゾール合成に有意な阻害作用を及ぼさないことを示唆している。
【0075】
実施例10 - MOC-(R)-エトミデートはラットにおいて強力なかつ超短時間作用型の全身麻酔薬である
尾出口を備えた直径3インチ、長さ9インチのアクリルチャンバ中にラットを一時的に拘束した。所望の用量の麻酔薬を、側方尾静脈カテーテルを通じて注入し、その後およそ1 mlの生理食塩水による洗い流しを行った。注入の直後に、ラットを拘束装置から取り出し、仰向けにした。ラットは、薬物投与から5秒以内に(全四肢に対して)立ち直ることができなかった場合に、LORRを有すると判断された。ストップウオッチを用いてLORRの持続時間を測定し、これを、薬物注入から動物が自発的に立ち直るまでの時間と定義した。麻酔薬ボーラス投与によるLORRのED50は、LORRの麻酔薬用量依存性から判定された。
【0076】
図7Aは、ラットにおけるLORRに対するプロポフォール、エトミデートおよびMOC-(R)-エトミデートの用量反応関係を示す。LORRを有したラットの割合は麻酔薬の用量とともに増大した。最高用量で、全てのラットが麻酔され、明らかな麻酔薬毒性は認められなかった。これらのデータから、エトミデート、プロポフォールおよびMOC-(R)-エトミデートのボーラス投与後のLORRのED50は、それぞれ1.00 ± 0.03 mg/kg (n=18)、4.1 ± 0.3 mg/kg (n=20)および5.2 ± 1 mg/kg (n=20)であると判定された。ラットにおいてLORRをもたらすのに十分な用量で、全3種の麻酔薬はIVボーラス投与から数秒以内にLORRをもたらした。LORRの持続時間(ラットが意識を回復し全四肢に寝返りを打つのに要した時間として測定した)は、麻酔薬用量の対数にしたがってほぼ直線的に増大した(図7B); しかし、脳内の麻酔薬の半減期に依る、この関係の傾きは、エトミデート(27 ± 7)またはプロポフォール(22 ± 4)の場合よりもMOC-(R)-エトミデート(2.8 ± 0.4)の場合に一桁分小さかった。エトミデートおよびプロポフォールの傾きは、互いに有意差がなかった。このデータから、等麻酔用量で、LORRの持続時間はプロポフォールまたは(R)-エトミデートに比べてMOC-(R)-エトミデートの場合におよそ10倍短かったことが明らかである。
【0077】
実施例13 - MOC-(R)-エトミデートはプロポフォールおよび(R)-エトミデートに比べて優れた血行動態安定性を有する
エトミデートは、血行動態安定性をより良好に保つので、瀕死の状態にある患者において他の薬剤よりも麻酔誘導のために選択されることが多い。MOC-(R)-エトミデートが血行動態安定性を同様に保つかどうかを判定するため、本発明者らはラットにおいて心拍数および血圧に及ぼすプロポフォール、エトミデート、MOC-(R)-エトミデートおよび媒体(水中35% v/vのプロピレングリコール)の作用を測定し比較した。これらの薬物を等麻酔用量で比較するため、それぞれそのLORRのED50の2倍(すなわち、2 mg/kgのエトミデート、10 mg/kgのMOC-(R)-エトミデートおよび8 mg/kgのプロポフォール)を静脈内投与した。投与されたプロピレングリコールの容量は、媒体、エトミデートおよびMOC-(R)-エトミデート群について同じであった。動物順化の後、薬物/媒体注射前の5分間(ベースライン)および薬物/媒体注射後の15分間データを記録した(図8)。各群におけるラットは最初の5分間にわたるベースライン時に類似の平均心拍数および血圧(391 ± 49拍/分(BPM)、118 ± 9 mmHg)を有した。媒体はベースラインに対して平均血圧の有意な変化を引き起こさなかった(5 ± 11 mmHg、n = 3、90秒の時点); 明確にするため図9にデータは示されていない。しかしながら、MOC-(R)-エトミデート、エトミデートおよびプロポフォール(各動物n = 3)はそれぞれ、平均血圧の有意な減少をベースラインに対しおよび相互に対し最大強度(それぞれ-11 ± 15 mmHg、-36 ± 11 mmHgおよび-51 ± 19 mmHg)と有意な効果の持続時間(それぞれ30秒、6.5分および7分)の両方についてこの順序で引き起こした。全群、つまり媒体(36 +/- 14 BPM)、MOC-(R)-エトミデート(24 ± 33 BPM)、エトミデート(49 ± 67 BPM)およびプロポフォール(64 ± 56 BPM)について、注射直後に心拍数のわずかな、一過性かつ可変の増加が認められた。
【0078】
実施例14 - (R)-エトミデートと異なり、MOC-(R)-エトミデートは投与から30分後、副腎皮質機能を抑制しない
ラット副腎機能の研究のための方法をいくつかの既刊の報告から適合し最適化した。計量および静脈内カテーテル挿入の直後に、デキサメタゾン(0.2 mg/kg IV; American Regent, Shirley, NY)を各ラットに投与して、内因性副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)放出を阻害し、ベースラインのコルチコステロン産生を抑制し、かつ拘束および取り扱いに対する変動ストレス反応を阻害した。薬物投与にも採血にも用いた、静脈内尾静脈カテーテルを各使用後に10 U/mlのヘパリンによりヘパリンロックして開存性を維持した; ヘパリンロック用の溶液を薬物投与および採血の前にカテーテルから「運び」出して、ラットおよびサンプルのヘパリン化を最小限に抑えた。採血は全て容量でおよそ0.3 mlであった。全ての薬物投与の後に1 mlの生理食塩水による洗い流しを行って、薬物送達の完了を確実にした。
【0079】
デキサメタゾン処置から2時間後に、採血し(血清中コルチコステロンのベースライン測定のため)、第2用量のデキサメタゾン(dexamethasome) (0.2 mg/kg)を静脈内麻酔薬または対照としての媒体(水中35% v/vのプロピレングリコール)のいずれかとともに投与した。15分後、ACTH1-24 (25 μg/kg; Sigma-Aldrich Chemical Co, St. Louis, MO)を静脈内に投与して、コルチコステロン産生を刺激した。ACTH1-24投与から15分後に(すなわち、麻酔薬または媒体投与から30分後に)、2回目の血液サンプルを採血して、ACTH1-24刺激性の血清中コルチコステロン濃度を測定した。ACTH1-24をストックとして脱酸素水に1 mg/mlで溶解し、分注し、凍結した(-20℃); 各使用の直前に新鮮なアリコットを融解した。全3群(媒体、エトミデートおよびMOC-(R)-エトミデート)のラットに同じ容量のプロピレングリコールを投与した。
【0080】
5分間3500gで遠心分離を行う前に室温で(10〜60分)血液サンプルを凝固させた。5分間3500gで2回目の遠心分離を行う前にきれいなピペットチップを用いて、生じた表面フィブリン塊から血清を注意深く搾り出した。2回目の遠心分離の後、得られた淡黄色の、凝血塊不含の血清層を最終の高速遠心分離(16000g、5分間)のため新しいバイアルに移して、混入している、いかなる赤血球または粒子状物質もペレット化した。1〜2日以内にコルチコステロン測定の結果が出るまで待って、血清をきれいなバイアルに移し、素早く凍結した(-20℃)。融解およびコルチコステロン結合グロブリンの熱不活性化(20分間65℃)の後、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)法(Diagnostic Systems Laboratories, Webster, TX)および96ウェルプレートリーダー(Molecular Devices, Sunnyvale, CA)を用いて血清中ベースラインのおよびACTH1-24刺激性のコルチコステロン濃度を定量化した。
【0081】
全てのラットがACTH1-24投与から15分後に顕著に高い血清中コルチコステロン濃度を有していたので、ACTH1-24注射は副腎皮質ステロイド産生を刺激した。しかしながら、図9は、ACTH1-24刺激の15分前に(R)-エトミデートを投与されたラットが媒体または等麻酔用量のMOC-(R)-エトミデートのいずれかを投与されたものよりも有意に低い血清中コルチコステロン濃度を有していたことを示す。対照的に、MOC-(R)-エトミデートを投与されたラットは、媒体だけを投与されたものと違わない血清中コルチコステロン濃度を有していた。
【0082】
実施例15 - MOC-(R)-エトミデートの概要
MOC-(R)-エトミデートは、作用の速やかな発現、高い麻酔効力および血行動態安定性を含め(R)-エトミデートの重要な好ましい薬理学的特性を保持している忍容性が良好な(R)-エトミデート類似体である。MOC-(R)-エトミデートは(R)-エトミデートと同様に、麻酔をもたらすために考えられる機序であるGABAA受容体機能を強力に増強する。しかしながら、MOC-(R)-エトミデートは(R)-エトミデートとは対照的に、非常に急速に代謝され、超短時間作用性であり、かつ静脈内ボーラス投与後に持続的な副腎皮質抑制を生じない。
【0083】
MOC-(R)-エトミデートは(R)-エトミデートの「ソフトな類似体」である。ソフトな類似体は、その治療的作用を及ぼした後に迅速かつ予測可能な代謝を起こすように特別にデザインされた親化合物の誘導体である。一般的に使用されるソフトな類似体には、オピオイド・レミフェンタニルおよびβ-遮断薬エスモロールが含まれる。これらの化合物のどちらも、さまざまな臓器および/または血液中に見出されるエステラーゼによってカルボン酸に迅速に加水分解される不安定なカルボン酸エステル部分を含む。ヒトにおけるこれらの二つの薬物の排出半減期は、その非エステル含有類似体フェンタニルおよびプロプラノロールよりも1〜2桁短い。(R)-エトミデートは、肝エステラーゼによりカルボン酸に加水分解されるカルボン酸エステル部分も含むが、その数時間の排出半減期によって反映されるようにこれらのエステラーゼに対して不十分な基質である。レミフェンタニルおよびエスモロールの構造と(R)-エトミデートの構造との比較から、(R)-エトミデートの緩徐なエステル加水分解速度に関する二つの理由が示唆される。第一に、(R)-エトミデート中のエステル部分はそのイミダゾール環に直接付着されるのに対し、レミフェンタニルおよびエスモロール中の不安定なエステル部分は二つのCH2基で構成されたスペーサーを介して環構造に付着される。このスペーサーは、立体障害を減らし、エステラーゼがカルボニル基にいっそう自由に近づけるようにするので、極めて重要でありうる。この裏付けとして、エスモロールのスペーサーの長さが減少するにつれて、そのエステル加水分解速度は減少する。第二に、(R)-エトミデートのカルボニル基中の電子は、イミダゾール環へと及ぶπ電子系に寄与する。これによってカルボニル炭素の部分正電荷が低減し、(R)-エトミデートはエステラーゼによる求核攻撃に対してさらに不十分な基質となる。この推論に基づき、本発明者らは、急速に代謝されうる(R)-エトミデート類似体を作出するために立体障害もなく、イミダゾール環中のπ電子系から電子的に絶縁もされた、新しいエステル部分を(R)-エトミデートに付加する戦略を開発した。本発明者らは、このエステル部分が、レミフェンタニルおよびエスモロール中のものと同様に、さまざまな組織および/または血液に存在するエステラーゼによって急速に加水分解されるものと予想した。これは、この部分がプールヒトS9肝画分中でカルボン酸に急速に代謝されたことを示すMOC-(R)-エトミデートに関する本発明者らのインビトロでの代謝研究、つまり一般的に使用されるインビトロでの薬物の生体内変換アッセイ法によって確認された。
【0084】
本発明者らの研究は、MOC-(R)-エトミデートが二つの種において全身麻酔薬であることを実証した。それは(R)-エトミデートの効力の4分の1〜5分の1の麻酔効力を有し、同じ受容体機構によって(すなわち、GABAA受容体機能を増強することにより)麻酔をもたらす可能性が高い。本発明者らのラットでの研究によって、MOC-(R)-エトミデートがそのLORRのED50の高倍数で投与された場合でさえも超短時間作用型の麻酔薬であることがさらに実証された。プロポフォールおよび(R)-エトミデートの静脈内ボーラス投与からの麻酔回復は、代謝ではなく脳からの他の組織への薬物の再分布を反映するものと考えられる。それゆえ、LORRの持続時間と麻酔用量の対数との関係における類似の傾き(図7B)から、プロポフォールおよび(R)-エトミデートが類似の速度で脳から再分布することが示唆される。麻酔からの回復がずっと速く、MOC-(R)-エトミデートとのこの関係の傾きがさらに緩やかなことから、超高速代謝がMOC-(R)-エトミデートの麻酔作用の終結に大きく寄与することが示唆される。
【0085】
MOC-(R)-エトミデートは相応に短時間(30秒)の血圧低下をもたらし、MOC-(R)-エトミデートの血行動態的効果も代謝によって終結することが示唆された。さらに、本発明者らは、この低下の最大限の大きさがMOC-(R)-エトミデートの投与後に等麻酔用量の(R)-エトミデートまたはプロポフォールの投与後よりも有意に少ないことも見出した。
【0086】
他の疎水性イミダゾール含有化合物と同じように、(R)-エトミデートは副腎皮質ステロイド産生を抑制する。この抑制の根底にある主な機構は、コルチゾール、コルチコステロンおよびアルドステロンの副腎皮質合成をもたらす生合成経路において重要な酵素11β-ヒドロキシラーゼの阻害である。(R)-エトミデートは、酵素の恐らく疎水性の触媒部位でステロイド前駆体と競合することにより11β-ヒドロキシラーゼを阻害すると仮定された。MOC-(R)-エトミデートはエステラーゼによって高極性カルボン酸に急速に代謝されるようにデザインされたので、本発明者らは、MOC-(R)-エトミデートが投与後に長期の副腎皮質抑制を生じないものと予想した。この予想は現実のものとなった。というのは、投与から30分後、MOC-(R)-エトミデートはACTH1-24刺激性の血清中コルチコステロン濃度の低下を全く生じなかったのに対し、等麻酔用量の(R)-エトミデートはそれを有意に低下させたからである。本発明者らの結果はまた、静脈内用量の単回投与後、迅速に形成されたMOC-(R)-エトミデート代謝産物がコルチコステロン合成に及ぼすいずれの影響も無視できることを暗示している。
【0087】
好ましい態様を本明細書において詳細に描写し記述してきたが、さまざまな変更、追加、代用などを本発明の趣旨から逸脱することなく実施でき、それゆえ、これらは後続の特許請求の範囲において定義される本発明の範囲内であると考えられることが当業者には明らかであろう。
【0088】
また、目的を実行し、言及した目標および利点、ならびに本明細書において固有のそれらを達成するために本発明がうまく適合されることも当業者は容易に理解するであろう。分子複合体および方法、手順、処置、分子、本明細書において記述される具体的化合物は、目下、好ましい態様の代表であり、例示であり、本発明の範囲の限定と意図されるものではない。その修正および他の使用が当業者に想到され、それらは、特許請求の範囲によって定義される本発明の趣旨のなかに包含される。
【0089】
本明細書において開示される発明に、本発明の範囲および趣旨から逸脱することなく種々の代用および変更を実施できることが当業者には容易に明らかであろう。
【0090】
本明細書において言及される全ての特許および刊行物は、本発明が属する技術分野の当業者の技術水準を示すものである。全ての特許および刊行物は、各個別の刊行物が参照により組み入れられると具体的かつ個別的に示されているかのように参照により本明細書に組み入れられる。
【0091】
本明細書において例示的に記述された本発明は、任意の要素がなくても適切に実施が可能であり、本明細書において制限を特に開示するものではない。したがって、例えば、本明細書におけるどの例でも、「含む」、「から本質的になる」および「からなる」という用語のいずれも他の二つの用語のどちらかに置き換えることができる。利用された用語および表現は限定ではなく説明の用語として使用されており、このような用語および表現の使用が、示したおよび記述した特徴またはその一部の任意の等価物を排除することを意図するものではなく、主張する本発明の範囲内でさまざまな変更が可能であることが認識される。したがって、本発明を好ましい態様および任意的な特徴によって具体的に開示したが、当業者は本明細書において開示される概念の変更および変形を用いることができること、ならびにこのような変更および変形は添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲内であるものと考えられることが理解されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)による化合物、ならびにその薬学的に許容される塩、立体異性体混合物、および鏡像異性体:

式中、
R1はL1C(O)OTまたはL1C(O)OL2C(O)OTであり;
R2は置換もしくは非置換C1〜C10アルキル、C2〜C10アルケニル、もしくはC2〜C10アルキニル、またはR1であり;
nは0〜5の整数であり;
各R3は独立にハロゲンまたはR2であり;
L1およびL2は各々独立に、結合、置換または非置換C1〜C10アルキレン、C2〜C10アルケニレン、またはC2〜C10アルキニレンであり、ここでアルキレンの骨格が一つまたは複数のヘテロ原子を含んでいてもよく;
TはH、置換もしくは非置換C1〜C10アルキル、C2〜C10アルケニレン、C2〜C10アルキニレン、ニトロフェノール、またはシクロプロピルであり、ここでアルキルの骨格が一つまたは複数のヘテロ原子を含んでいてもよく;
ただしR1がL1C(O)OTであり、R2がCH3であり、R3がフッ素であり、nが1であり、かつTがCH2CH3である場合、L1は結合ではない。
【請求項2】
純粋な鏡像異性体の形態で存在する、請求項1記載の化合物。
【請求項3】
鏡像異性体がR鏡像異性体である、請求項2記載の化合物。
【請求項4】
R2、T、L1、およびL2の少なくとも一つが一つまたは複数の電子吸引基でさらに置換される、請求項1記載の化合物。
【請求項5】
電子吸引基がハロゲンである、請求項4記載の化合物。
【請求項6】
二つまたはそれ以上のエステル基を含む、請求項1記載の化合物。
【請求項7】
R1がL1C(O)OL2C(O)OTであり、R2がCH3であり、nが0であり、L1が結合であり、L2がCH2CH2であり、かつTがCH3である、請求項1記載の化合物。
【請求項8】
R1がL1C(O)OL2C(O)OTであり、R2がCH3であり、nが0であり、L1が結合であり、L2がCH2(CH2)4CH2であり、かつTがCH2CH2CH2CH3である、請求項1記載の化合物。
【請求項9】
R1がL1C(O)OL2C(O)OTであり、R2がCH3であり、nが0であり、L1が結合であり、L2がCH2CH2O(CH2)3であり、かつTがCH2CH2OCH3である、請求項1記載の化合物。
【請求項10】
R1がL1C(O)OL2C(O)OTであり、R2がCH3であり、各R3が独立にハロゲンであり、nが1〜5であり、L1が結合であり、L2がCH2CH2であり、かつTがCH3である、請求項1記載の化合物。
【請求項11】
R1がL1C(O)OL2C(O)OTであり、R2がCH3であり、各R3がフッ素であり、nが1〜5であり、L1が結合であり、L2がCH2CH2であり、かつTがCH3である、請求項10記載の化合物。
【請求項12】
R1がL1C(O)OL2C(O)OTであり、R2がCH3であり、各R3がフッ素であり、nが3であり、L1が結合であり、L2がCH2CH2であり、かつTがCH3である、請求項10記載の化合物。
【請求項13】
R1がL1C(O)OTであり、R2がCH3であり、R3がCH2CH2C(O)OCH3であり、nが1であり、L1が結合であり、かつTがCH2CH3である、請求項1記載の化合物。
【請求項14】
R1がL1C(O)OL2C(O)OTであり、R2がCH3であり、R3がCH2CH2C(O)OCH3であり、nが1であり、L1が結合であり、L2がCH2CH2であり、かつTがCH3である、請求項1記載の化合物。
【請求項15】
R1がL1C(O)OTであり、R2がCH2CH2C(O)OCH3であり、nが0であり、L1が結合であり、かつTがCH2CH3である、請求項1記載の化合物。
【請求項16】
R1がL1C(O)OTであり、R2がCH3であり、nが0であり、L1がCH2CH2であり、かつTがCH2CH3である、請求項1記載の化合物。
【請求項17】
薬学的有効量の式(I)による化合物、ならびにその薬学的に許容される塩、立体異性体混合物、および鏡像異性体と、薬学的に許容される担体とを含む薬学的組成物:

式中、
R1はL1C(O)OTまたはL1C(O)OL2C(O)OTであり;
R2は置換もしくは非置換C1〜C10アルキル、C2〜C10アルケニル、もしくはC2〜C10アルキニル、またはR1であり;
nは0〜5の整数であり;
各R3は独立にハロゲンまたはR2であり;
L1およびL2は各々独立に、結合、置換または非置換C1〜C10アルキレン、C2〜C10アルケニレン、またはC2〜C10アルキニレンであり、ここでアルキレンの骨格が一つまたは複数のヘテロ原子を含んでいてもよく;
TはH、置換もしくは非置換C1〜C10アルキル、C2〜C10アルケニレン、C2〜C10アルキニレン、ニトロフェノール、またはシクロプロピルであり、ここでアルキルの骨格が一つまたは複数のヘテロ原子を含んでいてもよく;
ただしR1がL1C(O)OTであり、R2がCH3であり、R3がフッ素であり、nが1であり、かつTがCH2CH3である場合、L1は結合ではない。
【請求項18】
請求項1記載の式(I)の化合物を哺乳動物に投与する段階を含む、哺乳動物に麻酔をかけるための方法。
【請求項19】
請求項17記載の薬学的組成物を哺乳動物に投与する段階を含む、哺乳動物に麻酔をかけるための方法。
【請求項20】
組成物が式(I)の化合物を含み、式中、R1がL1C(O)OL2C(O)OTであり、R2がCH3であり、nが0であり、L1が結合であり、L2がCH2CH2であり、かつTがCH3である、請求項18記載の方法。
【請求項21】
投与する段階で0.01〜100 mg/kgの式(I)の化合物を投与する、請求項18記載の方法。
【請求項22】
投与する段階が、有効用量の式(I)の化合物の単回注射を含む、請求項18記載の方法。
【請求項23】
投与する段階が、有効用量の式(I)の化合物の持続注入を含む、請求項18記載の方法。
【請求項24】
別の催眠鎮静剤、鎮痛剤および麻痺剤から選択される治療剤の有効量を哺乳動物に投与する段階をさらに含む、請求項18記載の方法。
【請求項25】
哺乳動物に麻酔をかけるために用いる、請求項1〜17のいずれか一項に記載の化合物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2011−516487(P2011−516487A)
【公表日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−503087(P2011−503087)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【国際出願番号】PCT/US2009/038872
【国際公開番号】WO2009/146024
【国際公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【出願人】(592017633)ザ ジェネラル ホスピタル コーポレイション (177)
【Fターム(参考)】