説明

改善された質量分析法分析のための組成物およびプロセス

本発明は、質量分析法による改善された分析のための新規の添加剤を提供する。より特定的には、アスコルビン酸は質量スペクトルに通常存在する付加物の存在を低減または除去することが見出された。本発明の改善されたプロセスおよび組成物は、質量分析法によって分析されるサンプルに対する正確さ、感度およびスループットの増大を可能にする。一局面においては、質量分析法によって分析物を分析するための方法が提供され、この方法は、サンプルを質量分析計に導入するステップであって、該サンプルは分析物と、アスコルビン酸またはその塩、互変異性体もしくは類似体とを含む、ステップ、ならびに、質量分析法によって該サンプルを分析するステップを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連特許出願
この特許出願は、2008年1月15日に出願された米国仮特許出願第12/014,671号(すなわち、出願人としてThomas Becker、表題COMPOSITIONS AND PROCESSES FOR IMPROVED MASS SPECTROMETRY ANALYSIS、そして代理人番号SEQ−6015−UTによって指定される)の利益を主張する。この特許出願の全体は、全ての文字および図面を含めて、このような実施を可能にする範囲内で参考として本明細書に援用される。
【0002】
発明の分野
本発明は一般的に、質量分析法とともに用いるための組成物および方法に関する。
【背景技術】
【0003】
質量分析法は、サンプル中の分析物の分子量を測定するために用いられる強力な分析ツールである。飛行時間型質量分析計を用いるとき、イオンの飛行速度は、電気泳動ゲルにおける分子の移動速度の約10倍の速さであるため、たとえ良好な信号対ノイズ比を得るためにスペクトルの測定を10回から100回繰り返すときであっても、質量分析法は非常に迅速な分析方法を提供する。
【0004】
質量分析法による分析は典型的に、あらゆる数の手段、たとえばマトリックス支援レーザー脱離イオン化法(Matrix Assisted Laser Desorption Ionization:MALDI)またはエレクトロスプレーイオン化(Electrospray Ionization:ES)などによってサンプルをイオン化することから始まる。MALDI調製および測定手順はまず、サンプル担体上の通常は有機酸である固体または液体のIRまたはUV吸収性のマトリックス中に分析物分子を埋め込むことからなる。マトリックスおよび分析物を含むサンプル担体は、質量分析計のイオン源に置かれる。マトリックスは短いレーザーパルスによって気化し、それによって分析物分子は非断片化状態で気相に移される。分析物分子は、同時に生じたマトリックスイオンと衝突して反応することによってイオン化する。イオンを無電界飛行チューブ内に向けて加速する電圧が印加される。イオン源のイオンは質量が異なるために異なる速度に加速され、より小さいイオンはより大きいイオンよりも早く検出器に達する。変動する飛行時間がイオンの異なる質量に変換される。
【0005】
分析物をイオン化するための代替的な方法は、エレクトロスプレー(またはES)である。MALDIと同様、エレクトロスプレーは極性分子のイオン化/気化を可能にする。最初に目的のサンプルを、そのサンプルがある程度までイオン化した形で存在するような溶媒に溶解する。従来のESでは、次いでこの溶液をポンピングして高電位に上げられる細い毛細管に通す。小さい帯電小滴がES毛細管から大気圧の浴ガスにスプレーされて、質量分析計高真空系の開口部に向かって圧力および電位の勾配を下っていく。小滴はこの経路を横切る際に脱溶媒和されてサイズが小さくなることにより、表面クーロン力が表面張力に勝るようになる。その結果、小滴からイオンが脱離するか、または溶媒が完全に除去されるまで、小滴は壊れてより小さな小滴になる。イオン形成の正確な機構は完全に明らかにはなっていないが、結果的にイオンのビームが生じて、質量分析計にサンプリングされる。ESプロセスのより詳細な説明は、Electrospray Ionization Mass Spectrometry:Fundamentals,Instrumentation and Applications、Cole編(John Wiley and Sons,New York)に与えられている。
【0006】
どのイオン化方法を用いても、イオン化の際に不必要な付加物が形成されることによって、質量分析法によって生成されるスペクトルの品質および分解能が損なわれるおそれがある。より特定的には、不必要な付加物の存在によって、分析物、特に低存在量または低質量の分析物を検出および分析することが困難になり得る。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、質量分析法による改善された分析のためのプロセスおよび組成物を提供する。本明細書には、サンプルイオンのイオン化、質量分析または検出を別様に阻害せず、対費用効果が高くかつ容易に実現できる態様で付加物形成を低減または最小化するような、質量分析サンプル調製法が提供される。本発明の改善された方法および組成物は、分析物ピークのより簡単な同定および定量化を可能にすることによって、正しいコール(calls)の数を増やすことができる。これらの改善点は、ナトリウムおよび/またはアンモニア塩が混入したサンプルならびに分析物濃度が低いサンプルに対して特に有用であることが明らかになっている。特定の実施形態において、質量スペクトル中の付加物の存在を減らして、信号対ノイズ(signal to noise)(s/n)比を増やす付加物低減添加剤としてのアスコルビン酸またはその塩、互変異性体もしくは類似体の使用が以下に記載される。以下において本発明の実施形態は「アスコルビン酸」の使用に言及するが、当業者は、本明細書に記載される方法および組成物において、アスコルビン酸、アスコルビン酸塩、その塩、その互変異性体、またはその類似体(以下に記載される)を用い得ることが理解される。
【0008】
1つの局面において、本発明は、質量分析法によって分析される分析物を含むサンプルにおける付加物形成を低減させるための方法を提供し、この方法は、質量分析法による分析物の分析の前に、アスコルビン酸を含む付加物低減添加剤をサンプルに加えるステップを含む。関連する実施形態において、付加物低減添加剤はシュウ酸アンモニウムをさらに含んでもよい。いくつかの実施形態において、付加物低減添加剤は他の付加物低減添加剤(公知または未発見の付加物低減添加剤)と組合せて用いられる。特定の実施形態において、付加物低減添加剤は1つまたはそれ以上の樹脂と組合せて用いられる。
【0009】
特定の実施形態において、分析物はデオキシリボ核酸またはリボ核酸などの核酸である。質量分析前のサンプル取扱い手順は望ましくない付加物を生じ得るため、本明細書に記載される改善点はさまざまな質量分析形式に適用できる。質量分析形式の例は、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化飛行時間型(Matrix−Assisted Laser Desorption/Ionization Time−of−Flight:MALDI−TOF)質量分析法(Mass Spectrometry:MS)、レーザー脱離質量分析法(LDMS)、エレクトロスプレー(ES)MS、イオンサイクロトロン共鳴(Ion Cyclotron Resonance:ICR)MS、およびフーリエ変換MSを含むがこれに限定されない。分析物が気化およびイオン化される質量分析形式(「イオン化MS」、例、MALDI−TOF MS、LDMS、ESMS)に対して、本明細書に記載される改善点を容易に適用できる。
【0010】
本発明は、質量分析法によって分析される分析物を含むサンプルにおける付加物形成を低減させるための方法も提供し、この方法は、質量分析法による分析物の分析の前に、アスコルビン酸を含む付加物低減添加剤をマトリックスに加えるステップを含む。この方法は、質量分析法による分析物の分析の前に、付加物低減添加剤を(マトリックスと同様に)分析物に加える付加的なステップも含んでいてもよい。関連する実施形態において、付加物低減添加剤はシュウ酸アンモニウムをさらに含んでもよい。いくつかの実施形態において、マトリックス組成物は3-ヒドロキシピコリン酸(3−hydroxypicolinic acid:3-HPA)、クエン酸ジアンモニウム(di−ammonium citrate:DAC)、またはその組合せを含む。特定の実施形態において、分析物はデオキシリボ核酸またはリボ核酸などの核酸である。いくつかの実施形態において、付加物低減添加剤は分析物にも加えられる。
【0011】
特定の実施形態において、本発明は、質量分析法において用いるために好適な基体(substrate)を調製するための方法を提供し、この方法は、付加物低減添加剤を含むマトリックス材料を基体上に堆積させるステップを含み、ここで付加物低減添加剤はアスコルビン酸を含む。関連する実施形態において、付加物低減添加剤はシュウ酸アンモニウムをさらに含んでもよい。別の関連する実施形態において、この方法は基体を密封するステップをさらに含む。基体を密封する方法は、包装プロセスによってもたらされる条件、たとえば真空密封および熱密封などを含むがこれに限定されない。いくつかの実施形態において、この方法は、酸化を最小限にするために薬剤またはガスによって基体を処理するステップをさらに含む。特定の実施形態において、基体は密封される前に、たとえばアルゴンなどの不活性ガスで洗浄される。特定の実施形態において、質量分析法による分析の前に、光またはUV放射への露出を制限または排除するために、基体は密封および/または包装される。いくつかの実施形態において、所与のpHを維持するために基体は密封および/または包装される。特定の実施形態において、基体は、ポリマー容器(例、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン容器)を限定なしに含む容器中に包装される。いくつかの実施形態において、基体はシリカまたは二酸化ケイ素を含む。
【0012】
本発明は、分析物と付加物低減添加剤とを含む、質量分析法によって分析される組成物も提供する。特定の実施形態において、付加物低減添加剤はアスコルビン酸を含む。関連する実施形態において、付加物低減添加剤はシュウ酸アンモニウムをさらに含んでもよい。
【0013】
いくつかの実施形態において、本発明は、分析物と付加物低減添加剤とを含む、質量分析法による分析に好適な組成物を提供し、ここで添加剤はアスコルビン酸を含む。組成物はシュウ酸アンモニウムも含んでいてもよい。
【0014】
特定の実施形態において、本発明は、基体と、アスコルビン酸を含む付加物低減添加剤とを含む、質量分析法のための標的部位を提供する。標的部位はシュウ酸アンモニウムも含んでいてもよい。いくつかの実施形態において、標的部位はマトリックス材料をさらに含んでいてもよい。関連する実施形態において、マトリックス材料は基体上に前処置される。特定の実施形態において、標的部位は分析物をさらに含んでいてもよい。いくつかの実施形態において、組成物は密封される。基体を密封する方法は、真空密封および熱密封を含むがこれに限定されない。特定の実施形態において、組成物は、酸化を最小限にするために薬剤またはガスで処理される。いくつかの実施形態において、組成物は密封される前に、たとえばアルゴンなどの不活性ガスで洗浄される。いくつかの実施形態において、光またはUV放射への露出を制限または排除するために、組成物は密封および/または包装される。特定の実施形態において、所与のpHを維持するために組成物は密封および/または包装される。
【0015】
本発明では質量分析法分析のための分析物を調製する方法も提供され、この方法は次のステップを含む:(a)分析物を含む溶液を、アスコルビン酸またはその塩、互変異性体もしくは類似体を含む組成物と接触させることによって、質量分析法分析のためのサンプルを調製するステップ;および(b)サンプルを質量分析計に導入するステップ。特定の実施形態において、組成物はシュウ酸アンモニウムも含む。分析物はときには核酸であり、この核酸はデオキシリボ核酸、リボ核酸およびその類似物、またはその組合せを含むがこれに限定されない。いくつかの実施形態において、質量分析法分析は、以下からなる群より選択される:マトリックス支援レーザー脱離/イオン化飛行時間型(MALDI−TOF)質量分析法、レーザー脱離質量分析法(LDMS)、エレクトロスプレー(ES)質量分析法、イオンサイクロトロン共鳴(ICR)質量分析法、およびフーリエ変換質量分析法。いくつかの実施形態において、組成物はアスコルビン酸を含み、特定の実施形態において、組成物はアスコルビン酸の類似体を含まない。
【0016】
本発明では質量分析法によって分析物を分析するための方法も提供され、この方法は次のステップを含む:(a)サンプルを質量分析計に導入するステップ、ここでサンプルは分析物と、アスコルビン酸またはその塩、互変異性体もしくは類似体とを含む;および(b)質量分析法によってサンプルを分析するステップ。いくつかの実施形態において、サンプルはシュウ酸アンモニウムをさらに含む。分析物はときには核酸であり、この核酸はデオキシリボ核酸、リボ核酸およびその類似物、またはその組合せを含むがこれに限定されない。いくつかの実施形態において、サンプルは分析物とアスコルビン酸とを含み、特定の実施形態において、サンプルはアスコルビン酸の類似体を含まない。
【0017】
本発明ではスポットのアレイを含む基体も提供され、各スポットは(i)マトリックス支援レーザー脱離/イオン化(MALDI)質量分析法のためのマトリックスと、(ii)アスコルビン酸またはその塩、互変異性体もしくは類似体とを含む。いくつかの実施形態において、各スポットはシュウ酸アンモニウムをさらに含み、特定の実施形態において、スポットの1つまたはそれ以上は分析物をさらに含む。分析物はときには核酸であり、この核酸はデオキシリボ核酸、リボ核酸およびその類似物、またはその組合せを含むがこれに限定されない。いくつかの実施形態において、マトリックスは3-ヒドロキシピコリン酸(3-HPA)か、またはMALDI質量分析法によって核酸を分析するために好適な他のマトリックスを含む。特定の実施形態において、アスコルビン酸およびマトリックス(例、3-HPA)を含むスポットの組成物は、紫外光(ultraviolet light)を吸収する(たとえば、約220nmから約300nm(例、約260nmから約270nm;266nm)のUV光を吸収する)。いくつかの実施形態において、マトリックスは、MALDI質量分析法によるタンパク質またはペプチドに対して好適な構成要素を含み、その構成要素は、フェルラ酸、シナピン酸、アルファ−シアノ−3−ヒドロキシ−ケイ皮酸、およびアルファ−シアノ−4−ヒドロキシ−ケイ皮酸を含むがこれに限定されない。特定の実施形態において、基体はチップ(例、シリコンチップ)である。いくつかの実施形態において、各スポットはアスコルビン酸を含み、特定の実施形態において、各スポットはアスコルビン酸の類似体を含まない。
【0018】
本発明の方法および組成物によって改善され得る質量分析法分析の例は、核酸シーケンシング、遺伝子型同定またはメチル化分析を含むがこれに限定されない。分析は、質量分析法によって行なわれる定性分析または定量分析であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、標準的な未変更マトリックス上に直接スポットされた17mer合成オリゴヌクレオチド(GTG GTG GTG GTG GTG GT)を用いて生成された質量スペクトルを示す図である。この図面において、アンモニア付加物の存在が同定される(ピークの高さは5335Daの親ピークの約12%)。
【図2】図2は、アスコルビン酸で変更したマトリックス上に直接スポットされた同じ17mer合成オリゴヌクレオチド(GTG GTG GTG GTG GTG GT)を用いて生成された質量スペクトルを示す図である。この図面にみられるとおり、アンモニア付加物はもはや存在しない。
【図3】図3は、標準的な未変更マトリックス上にスポットされたRhD遺伝子伸長産物から生成された質量スペクトルを示す図であって、その結果として7571Daの伸長ピークと、7626Daの+55Da付加物ピーク(NH3+K)とが示される。付加物ピークは偽陽性挿入コールをもたらす(SNR:2;可能性:88%)。
【図4】図4は、アスコルビン酸で変更したマトリックス上にスポットされたRhD遺伝子伸長産物から生成された質量スペクトルを示す図であって、その結果として7571Daの伸長ピークが示されるが、+55Da付加物ピークは示されない。偽陽性挿入コールは除去される(SNR:0;可能性:0%)。
【発明を実施するための形態】
【0020】
質量分析法は、核酸およびペプチドなどの分析物の分子量を測定するための高度に正確かつ高感度のやり方を提供する。このため、質量分析法は別様では測定困難な分子の分析のための強力なツールを提供する。しかし、不必要な付加産物の存在によって、分析物、特に低存在量または低質量の分析物を正確に検出および分析することが困難になり得る。多重化反応の部分としての単一の質量スペクトルにおいて複数の分析物を検出するとき、この問題はさらに悪化する。
【0021】
イオン、典型的には陽イオンが、質量分析法の条件下で生体分子と関連付けられるときに付加物が形成し、それによって不必要な質量ピークが生成される。サンプル処理(例、生化学、サンプル取扱い、サンプル調合など)、サンプル精製(例、樹脂の添加)、サンプルイオン化、またはサンプル検出のあらゆる部分が付加物の形成に寄与し得る。
【0022】
マトリックス支援レーザー脱離/イオン化(MALDI)質量分析法の場合には、マトリックス材料自体が付加物形成の原因となり得る。たとえば、3-ヒドロキシピコリン酸(3-HPA)とクエン酸ジアンモニウム(DAC)との混合物は、MALDIに基づく核酸分析のための有効なUVマトリックスとしてしばしば使用される。アンモニウム塩(例、DAC)は、一本鎖DNA(single−stranded DNA:ssDNA)に対する陽イオン付加物形成をさらに低減させることが公知であるため、マトリックスに加えられ、特に3-HPAに加えられる(Wu,J.K.,et al.,Rapid Comm.Mass Spectrom.1993,7,191;Pieles,et al.,Nucleic Acid Research,1993,21,14,3191)。しかし、本明細書において提供される結果では、DACがアンモニア(NH)付加物形成の主要な原因であることが示される。たとえば図1は、質量スペクトルの+17DaにおけるNH付加物質量ピークの存在を示す。
【0023】
アンモニア付加物形成の別の要因は、MALDI分析の前に分析物を脱塩するために用いられることがあるアンモニア化陽イオン交換樹脂である(Nordhoff,E.,et al.,Rapid Comm.Mass Spectrom.1992,6,771)。以下の実施例に記載されるとおり、アンモニア付加物は主にグアニンおよびチミン塩基によって形成される。よってこれらの付加物は、核酸分析物がこれらの塩基を豊富に含むようなアッセイにおいてより顕著である。
【0024】
加えて、アンモニア化陽イオン交換樹脂は、DNAの骨格からすべてのナトリウムイオンを完全には除去しないかもしれない。この除去不足によって、+22Daにナトリウムイオン付加物質量ピークがもたらされる。他の付加物はマトリックス材料から形成してもよく、チミン塩基の存在下ではより一般的であり得る。たとえば、3−ヒドロキシピコリン酸がマトリックスとして用いられるとき、付加物質量ピークは94Da、138Daおよび188Daに見出される。全体として、これらの付加物ピークすべてが質量分析結果の誤解釈をもたらし得る。よって、付加物、特にアルカリおよびアンモニア付加物の量および頻度を大きく低減させる組成物およびプロセスは、質量分析法に基づく分析の正確さ、感度およびスループットを改善するために有用である。付加物低減添加剤が存在することによって、付加物低減添加剤なしに分析されたサンプルに対して存在する付加物ピークを低減または排除できる。本明細書において示されるとおり、アスコルビン酸を付加することによって、相当する伸長産物強度における樹脂処理標準マトリックスに比べて平均付加物形成スコア(本明細書において定義される)が最高40%まで低減されることが示された(実施例1〜3を参照)。加えて、アスコルビン酸添加剤によって変更されたマトリックスは、6ヵ月の期間にわたって物理的および化学的に安定であることが明らかになり(実施例4を参照)、基体を製造の際にアスコルビン酸で前処理することが可能になった。
【0025】
分析物
本発明は、たとえば核酸(例、オリゴヌクレオチドおよびポリヌクレオチド)、タンパク質、ペプチドおよび脂質など、ならびにそれらの特定の類似体および結合体、たとえば糖タンパク質またはリポタンパク質などを含む分析物の質量分析法に基づく分析の改善を可能にする。本教示内でMALDI分析に適用できるその他の物質は、小さな分子、代謝産物、天然生成物および医薬品である。本発明の方法および組成物は、多数のグアニンおよびチミンを含むポリヌクレオチドに対して特に有用である。なぜならこれらのポリヌクレオチドはアンモニア付加物形成をより起こしやすいためである。
【0026】
本明細書において用いられる「核酸」という用語は、一本鎖および/または二本鎖のポリヌクレオチド、たとえばデオキシリボ核酸(deoxyribonucleic acid:DNA)およびリボ核酸(ribonucleic acid:RNA)、ならびにRNAまたはDNAのいずれかの類似体または誘導体などを示す。「核酸」という用語には、核酸の類似体、たとえばペプチド核酸(peptide nucleic acid:PNA)、ホスホロチオエートDNA、アシクロヌクレオチド、ならびにその他のこうした類似体および誘導体またはその組合せなども含まれる。
【0027】
ポリヌクレオチドに含まれるヌクレオチド類似体は、たとえば以下のものなどであってもよい:ポリヌクレオチドの質量分化(mass differentiation)を可能にする質量変更したヌクレオチド;ポリヌクレオチドの検出を可能にする、蛍光性、放射性、発光性、または化学発光性のラベルなどの検出可能なラベルを含有するヌクレオチド;または、固体支持へのポリヌクレオチドの固定を容易にする、ビオチンまたはチオール基などの反応基を含有するヌクレオチド。ポリヌクレオチドは、たとえば化学的、酵素的または光分解的に、選択的に切断可能な1つまたはそれ以上の骨格結合も含有していてもよい。たとえば、ポリヌクレオチドは1つまたはそれ以上のデオキシリボヌクレオチドと、それに続く1つまたはそれ以上のリボヌクレオチドとを含んでもよく、その後に1つまたはそれ以上のデオキシリボヌクレオチドが続いてもよく、こうした配列はリボヌクレオチド配列において塩基加水分解によって切断可能である。ポリヌクレオチドは、切断に対して比較的に耐性である1つまたはそれ以上の結合、たとえばキメラオリゴヌクレオチドプライマーなども含有してもよく、これはペプチド核酸結合によってつながれたヌクレオチドと、ホスホジエステル結合などによってつながれて、ポリメラーゼによって伸長され得る3’末端の少なくとも1つのヌクレオチドとを含んでもよい。
【0028】
サンプル
本明細書において用いられる「サンプル」とは、分析される分析物を含有する組成物を示す。特定の実施形態において、サンプルは「生物学的サンプル」からのものである。一般的に生物学的材料は、生きた供給源(例、ヒト、動物、植物、バクテリア、真菌、原生生物、ウイルス))から得られるあらゆる材料と考えられる。生物学的サンプルは、固体材料(例、組織、細胞ペレットおよび生検)および生物学的流体(例、尿、血液、唾液、羊水および(頬側細胞を含有する)口腔洗浄薬)を含むあらゆる形であってもよい。好ましくは、固体材料は流体と混合される。
【0029】
マトリックス
マトリックス材料は、たとえばMALDI分析法など、特定の形の質量分析法において使用される。マトリックス材料は、分析物分子を互いに分離し、レーザー光子によって与えられたエネルギーを吸収し、そのエネルギーを分析物分子に移すことによって分析物分子の脱離およびイオン化をもたらす働きをする。一旦分析物がイオン化されると、飛行時間(TOF)分析計などの質量分析計を用いてイオン質量を測定できる。
【0030】
質量分析法分析のためのマトリックス材料の選択はしばしば、分析される生体分子のタイプに依存する。たとえば、質量分析法による核酸分析に対してしばしば用いられるマトリックスは、3-ヒドロキシピコリン酸(3-HPA)とクエン酸ジアンモニウム(DAC)との混合物である。サンプル分析物のイオン化を容易にするために用いられる別のマトリックス材料は、2,5−ジヒドロキシ安息香酸(2,5−dihydroxybenzoic acid:DHB)である。DHBも、付加物形成およびサンプル分析を妨げる化学的ノイズ発生を受ける。アルファ−シアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸(Alpha−cyano−4−hydroxycinnamic acid:α-CHCA)は、マトリックス支援レーザー飛行時間型質量分析法におけるタンパク質およびペプチド分析物のイオン化のための、広く用いられるマトリックスの例である。しかし、α-CHCA付加物は一般的であり、低存在量、低質量の分析物を正確に検出する能力を妨げるおそれがある。改善された質量分析法分析に対して本明細書に記載されるフリーラジカルスカベンジャー添加剤とともに用いられてもよい付加的なマトリックスは、Li et al.(Rapid Comm.Mass Spectrom.12:993−998(1998),M.C.Fitzgerald and L.M.Smith(Annu.Rev.Biophys.Biomol.Struc.1995.24:117−40)、およびNordhoff et al.(Mass Spectrometry Reviews,1996,15,67−138;これらすべてはこれにより引用により援用される)に記載されており、マトリックスの例は、2,4,6−トリヒドロキシアセトフェノン(2,4,6−trihydroxyacetophenone:THAP)、アントラニル酸、ニコチン酸、サリチルアミド、1−イソキノリノール、T−2−(3−(4−t−ブチル−フェニル)−2−メチル−2−プロペニリデン)マロノニトリル(DCTB)、シナピン酸(sinapic acid:SA)、ジトラノール(dithranol:DIT)、3−アミノキノリン、トランス−3−インドールアクリル酸(trans−3−indoleacrylic acid:IAA)、2−(4−ヒドロキシフェニルアゾ)安息香酸(2−(4−hydroxyphenylazo)benzoic acid:HABA)、コハク酸、2,6−ジヒドロキシアセトフェノン、フェルラ酸、コーヒー酸、グリセロールおよびニトロアニリンを限定なしに含む。
【0031】
マトリックスが基体上に堆積される前または後に、マトリックス材料は添加剤または分析物と組合されてもよい。分析物が光吸収性材料のマトリックスに埋込まれるとき、一般的にマトリックスは分析物に対して過剰に存在する。MALDIプロセスに対しては、ある形の分析物分子を、通常結晶性であるマトリックス材料に、その結晶化の際に組込むか、または少なくとも小さいマトリックス結晶間の境界面に組込むことが有利である。いくつかの実施形態においては、添加剤は最初に溶液中でマトリックス材料と混合され、組合されたマトリックス材料/添加剤溶液が基体上に堆積されてそこで結晶化する。
【0032】
さまざまな実施形態において、アスコルビン酸と水などの好適な溶媒とを含む溶液にマトリックスを溶解することによって、マトリックスは基体上に堆積されて別個のスポットを形成する。結果的に得られる溶液はMALDI基体上に堆積され、基体は真空チャンバ内に置かれることによって、マトリックス/アスコルビン酸溶液が真空下で乾燥されてもよい。実施形態の1つにおいて、アスコルビン酸は、単独または他のマトリックスと組合せて、マトリックス材料として働く。
【0033】
マトリックス、添加剤または分析物を基体に堆積させるために、さまざまな方法を用いることができる。実施形態の1つにおいて、各構成要素の適用は別々のステップで行なわれる。たとえば、マトリックス材料は基体に前処理されていてもよく、その後に適切な液体分配装置(例、圧電性のピンツール分配装置)を用いて分析物が加えられてもよい。いくつかの実施形態において、構成要素は組合せて堆積される。たとえば、最初にマトリックスと添加剤とが組合されて(すなわち溶媒中に溶解されて)ともに基体に堆積され、その後に分析物が加えられてもよい。いくつかの実施形態において、マトリックスまたはマトリックス/添加剤堆積物は基体上で乾燥されて、溶媒が蒸発する際にマトリックスの結晶を形成してもよい。その後、乾燥したマトリックスの頂部に分析物溶液が堆積することによって、乾燥マトリックス堆積物が部分的に溶解し、再溶解したマトリックスが分析物とともに共結晶化する。
【0034】
特定の実施形態においては、付加物低減添加剤がマトリックス材料として直接使用され、いくつかの実施形態においては、付加物低減添加剤がマトリックス材料の構成要素として使用される。いくつかの実施形態におけるマトリックス材料は、付加物低減添加剤と、本明細書に記載される質量分析法マトリックス材料の1つまたはそれ以上(例、3-HPA、DAC、DHB、CHCA、THAP、DCTB、DIT、SA、IAA、HABAのうちの1つまたはそれ以上)とを含む。付加物低減添加剤が1つまたはそれ以上の質量分析法マトリックス材料とともに使用される実施形態に対して、付加物低減添加剤は、マトリックス材料の全体重量の99重量%から1重量%の範囲(例、マトリックス材料の全体重量の約5重量%、10重量%、15重量%、20重量%、25重量%、30重量%、35重量%、40重量%、45重量%、50重量%、55重量%、60重量%、65重量%、70重量%、75重量%、80重量%、85重量%、90重量%または95重量%)にわたり、ときには付加物低減添加剤のモル比(すなわちモル添加剤対モル質量分析マトリックス)は、たとえば約1:20、1:19、1:18、1:17、1:16、1:15、1:14、1:13、1:12、1:11、1:10、1:9、1:8、1:7、1:6、1:5、1:4、1:3または1:2である。
【0035】
添加剤
本明細書において用いられる「付加物低減添加剤」という用語は、質量分析法による分析に必要なあらゆる1つまたはそれ以上の構成要素または試薬に添加される物質である。これらの構成要素または試薬は、サンプル、分析物、マトリックス材料、基体、またはその組合せを含む。特定の実施形態において、付加物低減添加剤はアスコルビン酸か、または実質的に等しい付加物低減効果を有するアスコルビン酸のあらゆる誘導体である。
【0036】
特定の実施形態において、付加物低減添加剤はフリーラジカルスカベンジャーである。質量分析法分析における使用に好適な、かつ特定の場合には核酸の質量分析法分析における使用に好適な、あらゆるフリーラジカルスカベンジャーを使用できる。フリーラジカルスカベンジャーの例は、アスコルビン酸、レチノール、トコトリエノール、トコフェロール、補酵素Q10、メラトニン、リコピン、ルテイン、アルファカロチン、ベータカロチン、ゼアキサンチン、アスタキサンチン、カンタキサンチン、フラボン(例、ルテオリン、アピゲニン、タンゲリチン)、ファボノール(favonols)(例、ケルセチン、ケンペロール、ミリセチン、イソラムネチン、プロアントシアニジン)、ファバノン(favanones)(例、ハスペレチン(hasperetin)、ナリンゲニン、エリオジクチオール)、イソフラボンフィトエストロゲン(例、ゲニステイン、ダイドゼイン、グリシテイン)、スチルベノイド(例、レスベラトロル、プテロスチルベン)、アントシアニン(例、シアニジン、デルフィニジン、マルビジン、ペラルゴニジン、ペオニジン、ペツニジン)、フェノール酸およびエステル(例、エラグ酸、没食子酸、サリチル酸、ロスマリン酸、ケイ皮酸、クロロゲン酸、チコリ酸、ガロタンニン、エラジタンニン)、非フラボノイドフェノール(例、クルクミン、キサントン、シリマリン、オイゲノール)、ならびに有機酸化防止剤(例、クエン酸、シュウ酸、フィチン酸、リグナン、尿酸、N-アセチルシステイン)を限定なしに含む。本明細書の実施例に示されるとおり、当業者は、こうしたスカベンジャーを並行分析(side−by−side analyses)においてルーチン的にテストすることによって、質量分析法のための添加剤またはマトリックスとして好適なフリーラジカルスカベンジャーを容易に識別できる。
【0037】
いくつかの実施形態において、添加剤は実質的に不純物を含まないために精製される必要がない。付加物低減添加剤が実質的に純粋ではないとき、添加剤は不純物を除去するための当該技術分野において公知の方法、たとえばイオン交換樹脂精製などによって精製されてもよい。
【0038】
添加剤は溶解されて液体の形にされ(例、水に溶解され)、次いで前処理されたマトリックス上に堆積されるか、または前処理されたマトリックスを有さない基体上に直接堆積されてもよい。代替的に、添加剤は基体上に堆積される前にマトリックスと組合されてもよい。添加剤とマトリックスとを組合せて、1mg/mlから約20mg/mlのマトリックス濃度と、約5mMから約50mMの添加剤濃度とを得てもよい。不十分な量の添加剤を使用すると付加物形成が顕著に低減されないが、使用する添加剤が多すぎると質量スペクトル中の親シグナルが抑制されるおそれがある。当業者は、添加剤の量を変えてスペクトル特性への影響を定めることによって、過度の実験なしに添加剤の適切な量を定めて特定の分析物の分析を最適化することができる。
【0039】
いくつかの実施形態において、付加物低減添加剤は単独で用いられてもよいし、不必要な付加物の存在を低減または除去する他の物質と組合せて用いられてもよい。アスコルビン酸添加剤は、質量スペクトルにおけるバックグラウンドノイズを低減できる他の添加剤と組合せることができる。その他の公知の好適な添加剤は、樹脂、揮発性のアンモニウム塩、特に揮発性の一塩基性、二塩基性、または三塩基性アンモニウム塩を含む。好ましくは、塩添加剤は分析されるサンプルを妨げるほど過剰に塩基性ではない。添加剤は、一塩基性リン酸塩および硫酸塩(例、一塩基性リン酸アンモニウム)、および二塩基性クエン酸塩(例、二塩基性クエン酸アンモニウム)、および三塩基性クエン酸塩(例、三塩基性クエン酸アンモニウム)であってもよい。
【0040】
特定の実施形態において、付加物低減添加剤はアスコルビン酸、アスコルビン酸塩、その塩、その互変異性体、またはアスコルビン酸類似体(類似体の塩および互変異性体を含む)であり、次の式に従う構造を有する:
【0041】
【化1】

ここで:
およびRは独立にOH、ハロゲン、R、OR、アジド、シアノ、CH、CHR、SR、NRであり;
およびRは独立にH、アルキル、アセチレンもしくはシアノ、または任意に置換されたアリール環状炭素、アリール複素環、非アリール環状炭素もしくは非アリール複素環である。本発明において用いられるアスコルビン酸類似体は一般的にフリーラジカル消去剤(scavenging agents)であり、アスコルビン酸類似体のフリーラジカル消去活性は、当業者によって決定され得る(例、2,6-ジクロロフェノール-インドフェノール(2,6−dichlorophenol−indophenol:DCPIP)、ヨウ素、ヨウ素酸塩およびヨウ化物の混合物またはN‐ブロモスクシンイミドなどの酸化剤による滴定)。
【0042】
本明細書において使用される「任意に置換された」という用語は、記載される特定の1つまたは複数の基が非水素置換基を有さなくてもよいし、その1つまたは複数の基が1つまたはそれ以上の非水素置換基を有してもよいことを示す。別様に指定されていなければ、存在し得るこうした置換基の総数は、記載される基の置換されていない形に存在するH原子の数に等しい。カルボニル酸素(=O)など、任意の置換基が二重結合を介して付着されているとき、この基は利用可能な原子価を2つ取るため、含まれ得る置換基の総数は利用可能な原子価の数に従って減少する。
【0043】
アスコルビン酸およびその類似体は、塩としての調製が可能となるようなイオン化可能な基を有してもよい。この場合、その化合物が参照されるときにはいつも、医薬的に許容できる塩も用いられてもよいことが当該技術分野において理解される。これらの塩は無機酸または有機酸を含む酸付加塩であってもよいし、本発明の化合物の酸性形の場合には、塩は無機塩基または有機塩基から調製されてもよい。化合物はしばしば、医薬的に許容できる酸または塩基の付加産物として調製された医薬的に許容できる塩として調製または使用される。好適な医薬的に許容できる酸および塩基は当該技術分野において周知であり、たとえば酸付加塩を形成するための塩酸、硫酸、臭化水素酸、酢酸、乳酸、クエン酸、または酒石酸、および塩基性塩を形成するための水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化アンモニウム、カフェイン、さまざまなアミンなどである。適切な塩を調製するための方法は当該技術分野においてよく確立されている。いくつかの場合には、化合物が酸性官能基および塩基性官能基の両方を含有することがあり、この場合には化合物は2つのイオン化基を有するかもしれないが正味電荷を有さない。
【0044】
アスコルビン酸類似体は、しばしば1つまたはそれ以上のキラル中心を含有する。本発明は、各々の単離された立体異性形に加えて、ラセミ混合物を含むさまざまな程度のキラル純度の立体異性体の混合物も含む。本発明は、形成され得るさまざまなジアステレオマーおよび互変異性体も包含する。本発明の化合物は、2つ以上の互変異性形で存在することもある;本明細書における1つの互変異性体の描写は利便性のためのみのものであり、示される形の他の互変異性体も包含することが理解される。
【0045】
本明細書において用いられる「アルキル」、「アルケニル」および「アルキニル」という用語は、直鎖、分岐鎖および環状の一価のヒドロカルビルラジカル、ならびにこれらの組合せを含み、これらは未置換のときにはCおよびHのみを含有する。その例にはメチル、エチル、イソブチル、シクロヘキシル、シクロペンチルエチル、2プロペニル、3ブチニルなどが含まれる。本明細書においてはこうした基の各々における炭素原子の総数をしばしば記載しており、たとえばその基が最高10個の炭素原子を含有できるとき、それは1−10CまたはC1−C10もしくはC1−10と表わすことができる。たとえば、ヘテロアルキル基のようにヘテロ原子(典型的にはN、OおよびS)が炭素原子を置換したとき、その基を説明する数はなおもたとえばC1−C6などと書かれるが、その数は基の中の炭素原子の数と、記載される環または鎖の骨格における炭素原子に対する置換として含まれるこうしたヘテロ原子の数との和を表わす。
【0046】
典型的に、本発明のアルキル、アルケニルおよびアルキニル置換基は、1つの10C(アルキル)または2つの10C(アルケニルもしくはアルキニル)を含有する。好ましくは、それらの置換基は1つの8C(アルキル)または2つの8C(アルケニルもしくはアルキニル)を含有する。時には、それらの置換基は1つの4C(アルキル)または2つの4C(アルケニルもしくはアルキニル)を含有する。単一の基が2つ以上のタイプの多重結合または2つ以上の多重結合を含んでもよい;こうした基は、少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を含有するときには「アルケニル」という用語の定義に含まれ、少なくとも1つの炭素−炭素三重結合を含有するときには「アルキニル」という用語に含まれる。
【0047】
アルキル、アルケニルおよびアルキニル基はしばしば、その置換が化学的に意味をなす程度まで任意に置換される。典型的な置換基は、以下を含むがこれに限定されない:ハロ、=O、=N−CN、=N−OR、=NR、OR、NR、SR、SOR、SONR、NRSOR、NRCONR、NRCOOR、NRCOR、CN、COOR、CONR、OOCR、COR、およびNO、ここで各Rは独立にH、C1−C8アルキル、C2−C8ヘテロアルキル、C1−C8アシル、C2−C8ヘテロアシル、C2−C8アルケニル、C2−C8ヘテロアルケニル、C2−C8アルキニル、C2−C8ヘテロアルキニル、C6−C10アリール、またはC5−C10ヘテロアリールであり、各Rは任意にハロ、=O、=N−CN、=N−OR’、=NR’、OR’、NR’、SR’、SOR’、SONR’、NR’SOR’、NR’CONR’、NR’COOR’、NR’COR’、CN、COOR’、CONR’、OOCR’、COR’、およびNOで置換され、ここで各R’は独立にH、C1−C8アルキル、C2−C8ヘテロアルキル、C1−C8アシル、C2−C8ヘテロアシル、C6−C10アリール、またはC5−C10ヘテロアリールである。アルキル、アルケニルおよびアルキニル基は、C1−C8アシル、C2−C8ヘテロアシル、C6−C10アリールまたはC5−C10ヘテロアリールで置換されてもよく、その各々が特定の基に対して適切な置換基によって置換されてもよい。
【0048】
「アセチレン」置換基は任意に置換される2−10Cアルキニル基であって、式−C≡C-Raを有し、ここでRaはHまたはC1−C8アルキル、C2−C8ヘテロアルキル、C2−C8アルケニル、C2−C8ヘテロアルケニル、C2−C8アルキニル、C2−C8ヘテロアルキニル、C1−C8アシル、C2−C8ヘテロアシル、C6−C10アリール、C5−C10ヘテロアリール、C7−C12アリールアルキル、もしくはC6−C12ヘテロアリールアルキルであり、各Ra基はハロ、=O、=N−CN、=N−OR’、=NR’、OR’、NR’2、SR’、SOR’、SONR’、NR’SOR’、NR’CONR’、NR’COOR’、NR’COR’、CN、COOR’、CONR’、OOCR’、COR’、およびNOから選択される1つまたはそれ以上の置換基によって任意に置換され、ここで各R’は独立にH、C1−C6アルキル、C2−C6ヘテロアルキル、C1−C6アシル、C2−C6ヘテロアシル、C6−C10アリール、C5−C10ヘテロアリール、C7−12アリールアルキル、またはC6−12ヘテロアリールアルキルであり、これらの各々はハロ、C1−C4アルキル、C1−C4ヘテロアルキル、C1−C6アシル、C1−C6ヘテロアシル、ヒドロキシ、アミノ、および=Oから選択される1つまたはそれ以上の基によって任意に置換され;2つのR’がつながれて、N、OおよびSから選択される最高3個のヘテロ原子を任意に含有する3−7員環を形成してもよい。いくつかの実施形態において、−C≡C-RaのRaはHまたはMeである。
【0049】
「ヘテロアルキル」、「ヘテロアルケニル」および「ヘテロアルキニル」などは、対応するヒドロカルビル(アルキル、アルケニルおよびアルキニル)基と同様に定義されるが、「ヘテロ」という用語は、骨格残基に1個から3個のO、SもしくはNヘテロ原子またはその組合せを含有する基を示す;つまり、対応するアルキル、アルケニルまたはアルキニル基の少なくとも1つの炭素原子が指定のヘテロ原子の1つによって置換されて、ヘテロアルキル、ヘテロアルケニルまたはヘテロアルキニル基を形成する。一般的に、アルキル、アルケニルおよびアルキニル基のヘテロ形に対する典型的かつ好ましいサイズは、対応するヒドロカルビル基と同じであり、ヘテロ形に存在し得る置換基はヒドロカルビル基に対して上述した置換基と同じである。化学的安定性の理由から、別様に指定されない限り、ニトロまたはスルホニル基のようにNまたはSにオキソ基が存在する場合を除き、こうした基は2つより多くの隣接するヘテロ原子を含まないことも理解される。
【0050】
本明細書において用いられる「アルキル」はシクロアルキルおよびシクロアルキルアルキル基を含むが、本明細書において「シクロアルキル」という用語は、環状炭素原子を介して接続される炭素環式非芳香族基を説明するために用いられることがあり、「シクロアルキルアルキル」はアルキルリンカーを通じて分子に接続された炭素環式非芳香族基を説明するために用いられることがある。同様に、「ヘテロシクリル」は、少なくとも1つのヘテロ原子を環の構成員として含有し、かつCまたはNであってもよい環の原子を介して分子に接続される非芳香族環状基を説明するために用いられることがあり;「ヘテロシクリルアルキル」は、リンカーを通じて別の分子に接続されるこうした基を説明するために用いられることがある。シクロアルキル、シクロアルキルアルキル、ヘテロシクリル、およびヘテロシクリルアルキル基に対して好適なサイズおよび置換基は、アルキル基に対して上述したものと同じである。本明細書において用いられるこれらの用語は、1つまたは2つの二重結合を含有する芳香族でない環も含む。
【0051】
本明細書において用いられる「アシル」は、カルボニル炭素原子の2つの利用可能な原子価位置の一方において付着されたアルキル、アルケニル、アルキニル、アリールまたはアリールアルキルラジカルを含む基を包含し、ヘテロアシルとはカルボニル炭素以外の少なくとも1つの炭素がN、OおよびSから選択されるヘテロ原子によって置換された対応する基を示す。よってヘテロアシルは、たとえば−C(=O)ORおよび−C(=O)NRならびに−C(=O)−ヘテロアリールなどを含む。
【0052】
アシルおよびヘテロアシル基は、カルボニル炭素原子の開いた原子価を通じてあらゆる基または分子に付着して結合される。典型的に、それらはホルミル、アセチル、ピバロイルおよびベンゾイルを含むC1−C8アシル基、ならびにメトキシアセチル、エトキシカルボニルおよび4−ピリジノイルを含むC2−C8ヘテロアシル基である。アシルまたはヘテロアシル基を含むヒドロカルビル基、アリール基、およびこうした基のヘテロ形は、アシルまたはヘテロアシル基の対応する構成要素の各々に対する一般的に好適な置換基として本明細書に記載される置換基で置換されてもよい。
【0053】
「芳香族」部分または「アリール」部分とは、芳香性の周知の特徴を有する単環式または融合二環式の部分を示す;その例にはフェニルおよびナフチルが含まれる。同様に、「芳香族複素環」および「ヘテロアリール」とは、環の構成員としてO、SおよびNから選択される1つまたはそれ以上のヘテロ原子を含有するこうした単環式または融合二環式の環系を示す。ヘテロ原子を含むことによって、6員環だけでなく5員環の芳香性も可能になる。典型的な芳香族複素環系は、単環式C5−C6芳香族基、たとえばピリジル、ピリミジル、ピラジニル、チエニル、フラニル、ピロリル、ピラゾリル、チアゾリル、オキサゾリルおよびイミダゾリルなど、ならびにこれらの単環基の1つをフェニル環または芳香族複素環単環基のいずれかと融合してC8−C10二環基を形成することによって形成される融合二環式部分、たとえばインドリル、ベンズイミダゾリル、インダゾリル、ベンゾトリアゾリル、イソキノリル、キノリル、ベンゾチアゾリル、ベンゾフラニル、ピラゾロピリジル、キナゾリニル、キノキサリニル、シンノリニルなどを含む。環系全体の電子分布の観点から芳香性の特徴を有するあらゆる単環式または融合環二環式の系がこの定義に含まれる。この定義は、少なくとも分子の残り部分に直接付着する環が芳香性の特徴を有するような二環基も含む。典型的に、この環系は5〜12個の環構成員原子を含有する。好ましくは、単環式ヘテロアリールは5〜6個の環構成員を含有し、二環式ヘテロアリールは8〜10個の環構成員を含有する。
【0054】
アリールおよびヘテロアリール部分は、C1−C8アルキル、C2−C8アルケニル、C2−C8アルキニル、C5−C12アリール、C1−C8アシル、およびこれらのヘテロ形を含むさまざまな置換基で置換されてもよく、これらの置換基の各々自身がさらに置換されてもよい;アリールおよびヘテロアリール部分に対するその他の置換基はハロ、OR、NR、SR、SOR、SONR、NRSOR、NRCONR、NRCOOR、NRCOR、CN、COOR、CONR、OOCR、COR、およびNOを含み、ここで各Rは独立にH、C1−C8アルキル、C2−C8ヘテロアルキル、C2−C8アルケニル、C2−C8ヘテロアルケニル、C2−C8アルキニル、C2−C8ヘテロアルキニル、C6−C10アリール、C5−C10ヘテロアリール、C7−C12アリールアルキル、またはC6−C12ヘテロアリールアルキルであり、各Rは任意に、アルキル基に対して前述したとおりに置換される。アリールまたはヘテロアリール基上の置換基は当然、各種のこうした置換基または置換基の各構成要素に対して好適であると本明細書に記載される基によってさらに置換されてもよい。よって、たとえばアリールアルキル置換基は、アリール部分において、アリール基に対して典型的であると本明細書に記載される置換基によって置換されてもよく、アルキル部分において、アルキル基に対して典型的または好適であると本明細書に記載される置換基によってさらに置換されてもよい。
【0055】
同様に、「アリールアルキル」および「ヘテロアリールアルキル」とは、置換または未置換の、飽和または不飽和の、環式または非環式のリンカーを含む、アルキレンなどのリンク基を通じて付着点に結合された芳香族および芳香族複素環系を示す。典型的に、リンカーはC1−C8アルキルまたはそのヘテロ形である。これらのリンカーは、カルボニル基をも含むことによって、アシルまたはヘテロアシル部分としての置換基を提供できるようにしてもよい。アリールアルキルまたはヘテロアリールアルキル基中のアリールまたはヘテロアリール環は、アリール基に対して上述したものと同じ置換基で置換されてもよい。好ましくは、アリールアルキル基は、アリール基に対して上に定義された基で任意に置換されるフェニル環と、未置換であるかまたは1つもしくは2つのC1−C4アルキル基もしくはヘテロアルキル基で置換されるC1−C4アルキレンとを含み、アルキルまたはヘテロアルキル基は任意に環化してシクロプロパン、ジオキソランまたはオキサシクロペンタンなどの環を形成してもよい。同様に、ヘテロアリールアルキル基は好ましくは、アリール基の典型的な置換基として上述された基で任意に置換されるC5−C6単環式ヘテロアリール基と、未置換であるかまたは1つもしくは2つのC1−C4アルキル基もしくはヘテロアルキル基で置換されるC1−C4アルキレンとを含むか、または任意に置換されるフェニル環もしくはC5−C6単環式ヘテロアリールと、未置換であるかまたは1つもしくは2つのC1−C4アルキル基もしくはヘテロアルキル基で置換されるC1−C4ヘテロアルキレンとを含み、アルキルまたはヘテロアルキル基は任意に環化してシクロプロパン、ジオキソランまたはオキサシクロペンタンなどの環を形成してもよい。
【0056】
アリールアルキルまたはヘテロアリールアルキル基が任意に置換されると記載されるとき、置換基はその基のアルキルまたはヘテロアルキル部分にあっても、アリールまたはヘテロアリール部分にあってもよい。アルキルまたはヘテロアルキル部分に任意に存在する置換基は、アルキル基に対して一般的に上述されたものと同じである;アリールまたはヘテロアリール部分に任意に存在する置換基は、アリール基に対して一般的に上述されたものと同じである。
【0057】
本明細書において用いられる「アリールアルキル」基は、未置換のときにはヒドロカルビル基であり、環およびアルキレンまたは類似のリンカー中の炭素原子の総数によって記載される。つまりベンジル基はC7−アリールアルキル基であり、フェニルエチルはC8−アリールアルキルである。
【0058】
上述の「ヘテロアリールアルキル」はリンク基を通じて付着されるアリール基を含む部分を示し、「アリールアルキル」と異なる点は、アリール部分の少なくとも1つの環原子またはリンク基の1つの原子がN、OおよびSから選択されるヘテロ原子であるところである。本明細書において、ヘテロアリールアルキル基は組合される環およびリンカーの原子の総数によって記載され、それはヘテロアルキルリンカーを通じて結合されたアリール基と;アルキレンなどのヒドロカルビルリンカーを通じて結合されたヘテロアリール基と;ヘテロアルキルリンカーを通じて結合されたヘテロアリール基とを含む。よって、たとえばC7−ヘテロアリールアルキルは、ピリジルメチル、フェノキシ、およびN−ピロリルメトキシを含む。
【0059】
本明細書において用いられる「アルキレン」とは、二価のヒドロカルビル基を示す;二価であるため、アルキレンは2つの他の基をつなぎ合せることができる。典型的にアルキレンは−(CH−を示し、ここでnは1〜8であり、好ましくはnは1〜4であるが、指定されるときにはアルキレンは他の基で置換されてもよいし、他の長さであってもよいし、開いた原子価は鎖の反対側端部になくてもよい。よって−CH(Me)−および−C(Me)−もアルキレンと呼ばれてもよく、シクロプロパン−1,1−ジイルなどの環状基も同様である。アルキレン基が置換されるとき、置換基は、本明細書に記載されるとおり典型的にアルキル基に存在する置換基を含む。
【0060】
一般的に、置換基に含有されるあらゆるアルキル、アルケニル、アルキニル、アシル、またはアリールもしくはアリールアルキル基またはこれらの基のうち1つのあらゆるヘテロ形自身が、付加的な置換基によって任意に置換されてもよい。置換基が別様に記載されていなければ、これらの置換基の性質は一次置換基自体に関して挙げられるものと同様である。よって、たとえばR7の実施形態がアルキルであるとき、このアルキルはR7に対する実施形態として列挙される残りの置換基によって任意に置換されてもよく、ここではこの置換が化学的に意味をなし、かつこの置換がアルキル自身に対して与えられたサイズ制限を損なわないものとする;たとえば、アルキルまたはアルケニルによって置換されたアルキルは、これらの実施形態に対する炭素原子の上限を単純に超えるために含まれない。しかし、アリール、アミノ、アルコキシ、=Oなどによって置換されたアルキルは本発明の範囲に含まれ、これらの置換基の原子は、記載されるアルキル、アルケニルなどの基を説明するために用いられる数に入れられない。置換基の数が指定されていないとき、こうしたアルキル、アルケニル、アルキニル、アシルまたはアリール基の各々が、その利用可能な原子価に従っていくつかの置換基で置換されてもよい;特に、たとえばこれらの基のいずれかが、その利用可能な原子価のいずれかまたはすべてにおいてフッ素原子で置換されてもよい。
【0061】
本明細書において用いられる「ヘテロ形」とは、アルキル、アリールまたはアシルなどの基の誘導体を示し、ヘテロ形では所定の炭素環基の少なくとも1つの炭素原子がN、OおよびSから選択されるヘテロ原子によって置換されている。よってアルキル、アルケニル、アルキニル、アシル、アリールおよびアリールアルキルのヘテロ形は、それぞれヘテロアルキル、ヘテロアルケニル、ヘテロアルキニル、ヘテロアシル、ヘテロアリールおよびヘテロアリールアルキルである。オキソ基がNまたはSに付けられてニトロまたはスルホニル基を形成する場合を除いて、通常2つより多くのN、OまたはS原子が連続的に接続されることはないことが理解される。
【0062】
本明細書において用いられる「ハロ」は、フルオロ、クロロ、ブロモおよびヨードを含む。しばしばフルオロおよびクロロが好まれる。本明細書において用いられる「アミノ」はNHを示すが、アミノが「置換される」または「任意に置換される」と記載されるとき、この用語はNR’R’’を含み、ここでR’およびR’’の各々は独立にHであるか、またはアルキル、アルケニル、アルキニル、アシル、アリール、もしくはアリールアルキル基であるか、またはこれらの基のうち1つのヘテロ形であり、このアルキル、アルケニル、アルキニル、アシル、アリール、もしくはアリールアルキル基、またはこれらの基のうち1つのヘテロ形の各々は、本明細書において対応の基に対して好適であると記載される置換基で任意に置換される。この用語は、R’およびR’’がともにつながれて3〜8員環を形成した形も含み、この形は飽和、不飽和または芳香族であってもよく、環構成員としてN、OおよびSから独立に選択される1〜3個のヘテロ原子を含有し、アルキル基に対して好適であると記載される置換基で任意に置換されるか、またはNR’R’’が芳香族基であるときには、ヘテロアリール基に対して典型的であると記載される置換基で任意に置換される。
【0063】
本明細書において用いられる「炭素環(carbocycle)」という用語は、環に炭素原子のみを含有する環状化合物を示すのに対し、「複素環(heterocycle)」とはヘテロ原子を含む環状化合物を示す。炭素環式構造および複素環式構造は、単環式、二環式または複数環の系を有する化合物を包含する。本明細書において用いられる「ヘテロ原子」という用語は、炭素または水素ではないあらゆる原子、たとえば窒素、酸素または硫黄などを示す。複素環の実例は、テトラヒドロフラン、1,3ジオキソラン、2,3ジヒドロフラン、ピラン、テトラヒドロピラン、ベンゾフラン、イソベンゾフラン、1,3ジヒドロイソベンゾフラン、イソキサゾール、4,5ジヒドロイソオキサゾール、ピペリジン、ピロリジン、ピロリジン2オン、ピロール、ピリジン、ピリミジン、オクタヒドロピロロ[3,4b]ピリジン、ピペラジン、ピラジン、モルホリン、チオモルホリン、イミダゾール、イミダゾリジン2,4ジオン、1,3ジヒドロベンゾイミダゾール2オン、インドール、チアゾール、ベンゾチアゾール、チアジアゾール、チオフェン、テトラヒドロチオフェン1,1ジオキシド、ジアゼピン、トリアゾール、グアニジン、ジアザビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,5ジアザビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,3,4,4a,9,9aヘキサヒドロ1Hベータカルボリン、オキシラン、オキセタン、テトラヒドロピラン、ジオキサン、ラクトン、アジリジン、アゼチジン、ピペリジン、ラクタムを含むがこれらに限定されず、さらにヘテロアリールを包含してもよい。ヘテロアリールのその他の実例は、フラン、ピロール、ピリジン、ピリミジン、イミダゾール、ベンズイミダゾール、およびトリアゾールを含むがこれらに限定されない。
【0064】
基体
本明細書において用いられる「基体(substrate)」とは不溶性の支持を示し、その上に分析物を堆積させて分析する。基体は、シリカ、ガラス(例、ガラス、制御細孔ガラス(controlled−pore glass:CPG))、ナイロン、Wang樹脂、Merrifield樹脂、セファデックス、セファロース、セルロース、磁気ビーズ、Dynabeads、金属面(例、鋼、金、銀、アルミニウム、シリコンおよび銅)、プラスチック材料(例、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエステル、ポリビニリデンジフルオリド(polyvinylidenedifluoride:PVDF))または、プレートを有するかもしくは有さないウエハ(例、シリコンウエハ)などの平坦面のピット中のビーズまたはピン(例、組合せの合成または分析に好適なピンのアレイを含んでもよいが、これらに限定されない。固体支持は、以下を含むがこれらに限定されないあらゆる所望の形であってもよい:ビーズ、チップ、毛細管、プレート、膜、ウエハ、コーム、ピン、ピットを有するウエハ、実質的に平坦な表面、ピットもしくはナノリットルウェルのアレイ、ならびに当業者に公知のその他のジオメトリおよび形。好ましい支持は、サンプルを別々の位置に受取るかまたは結合するように設計された平坦面である。最も好ましいのは、サンプルを受取るか、含有するか、結合するための親水性の位置を囲む疎水性の領域を有する平坦面である。基体材料は、装置の動作に対して、またはMALDI質量分析法の典型的なマトリックス材料および溶媒を含む、この手順において用いられる試薬に対して不活性であってもよい。
【0065】
基体上で、マトリックスまたはマトリックス/添加剤またはマトリックス/分析物/添加剤のスポットは、しばしば特定の特徴を有する。基体上の各スポットは、直径が約200マイクロメートルから約1mmであってもよい。スポット直径はしばしば実質的に均一であり、スポット間の直径の変動はしばしば最小限である(例、約20マイクロメートルの変動)。質量分析法に対して有用な基体上のスポットに対するあらゆる中心間距離が用いられてもよく、たとえば中心間距離は2.25mmまたは1.125mmなどであってもよく、基体上のスポット間の中心間距離はしばしば実質的に均一である。基体上のスポットの厚さは、約10マイクロメートルから約100マイクロメートルの範囲であってもよい。基体上の各スポットの厚さはしばしば実質的に均一であり、スポット間の厚さの変動はしばしば最小限である(例、約30マイクロメートル)。
【0066】
標的部位
本明細書において用いられる「標的部位」という用語は、たとえばマトリックス材料、マトリックス材料と添加剤、または分析物などの材料を堆積および保持できる、基体上の特定の位置を示す。基体は1つまたはそれ以上の標的部位を含有していてもよく、その標的部位はランダムに配置されてもよいし、規則的なアレイまたはその他のパターンであってもよい。MALDI分析などの質量分析法分析のために用いられるときには、標的部位または堆積された材料によってもたらされる部位は、脱離をもたらすために基体上に焦点合せされるレーザースポットのサイズに等しいか、またはそれより小さいことが好ましい。よって標的部位は、たとえば固体支持の表面に位置決めされるウェルもしくはピット、ピンもしくはビーズ、または物理的障壁、またはそれらの組合せ、たとえばチップ上のビーズ、ウェル中のチップなどであってもよい。標的部位は基体上に物理的に置かれてもよいし、基体の表面にエッチングされてもよいし、ある位置の周囲をエッチングした後に残る「タワー」であってもよいし、たとえば相対的な親水性、疎水性などの物理化学的パラメータ、または中もしくは上に液体を保持するあらゆるその他の界面化学によって定められてもよい。
【0067】
プラットホーム
本発明の方法および組成物は、以下を含むあらゆるイオン化源とともに用いられてもよい:大気圧化学イオン化(Atmospheric Pressure,Chemical Ionisation:APCI)、化学イオン化(CI)、電子衝撃(Electron Impact:EI)、エレクトロスプレーイオン化(Electrospray Ionisation:ESIまたはES)、高速原子衝撃(Fast Atom Bombardment:FAB)、電界脱離/電界イオン化(Field Desorption/Field Ionisation:FD/FI)、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法(MALDI)、および熱スプレーイオン化(Thermospray Ionisation:TSP)。特定の実施形態において、イオン化源はMALDIまたはESである。
【0068】
本発明の方法および組成物は、あらゆる質量分析計とともに用いられてもよい。現在いくつかの質量分析計が利用可能であり、その中でよく知られるものには、四重極の飛行時間(TOF)分析計、磁気セクタ、ならびにフーリエ変換および四重極のイオントラップの両方が含まれる。加えて、分析計はタンデム(MS−MS)質量分析計としてタンデムで用いられてもよい。いくつかの実施形態において、質量分析計はTOF分析計である。
【0069】
特定の実施形態において、分析物は質量分析法分析によって分析され、分光学的方法では分析されない。いくつかの実施形態において、分析物は赤外分光法(例、フーリエ変換赤外分光法)によって分析されず、この赤外分光法は一般的に特定の分子の振動周波数を測定するものであって、通常は分析物のイオン化およびイオン化した分析物の質量測定を含まない。
【実施例】
【0070】
以下の実施例は非限定的なものであり、本発明の特定の実施形態を例示するものである。
【0071】
実施例1
分析物に対する添加剤
以下の実施例において、Sequenom iPLEX(商標)反応からの分析物を、ナノ純水またはアスコルビン酸添加剤のいずれかと混合して、付加物形成に対する添加剤の影響を定めた。どちらもこれにより引用により援用されるJurinke,C.,Oeth,P.,van den Boom,D.,MALDI−TOF mass spectrometry:a versatile tool for high−performance DNA analysis.Mol.Biotechnol.26,147−164(2004);およびOeth,P.et al.,iPLEXTM Assay:Increased Plexing Efficiency and Flexibility for MassARRAY(登録商標)System through single base primer extension with mass−modified Terminators.SEQUENOM Application Note(2005)に記載されるとおりのSequenom iPLEX(商標)プロトコルに続いて、プレートは並行して処理された。希釈/条件付けステップの際に、標準的なプロトコルの指示どおりに9□lの分析物溶液を25□lのナノ純水と混合する一方で、他方のプレートをアスコルビン酸と混合して20mMの最終アスコルビン酸濃度を得た。
【0072】
アスコルビン酸から残留陽イオンを除去し、アンモニア化陽イオン交換樹脂からのあらゆる可能な推論を排除するために、アスコルビン酸のストック溶液を1g/mlのプロトン化樹脂で脱塩した。ワークフローに依存して、添加剤は直接分析物と混合してもよいし、さらに希釈してからサンプルに加えてもよい。この特定の実施例において、希釈ステップは自動液体ハンドラ上で完了し、希釈液は分析物溶液に加えられる前に1/25の体積比で50mlトレイに保存された。
【0073】
それぞれの希釈/条件付けステップに続いて、Sequenom Nanodispenserを用いて両方のプレートを10nl/ドメインにて予めマトリックス化した(pre−matrixed)標準SpectroChip(商標)(300mM 3−HPA/25mMDAC)に分配し、Sequenom MassARRAY(登録商標)Analyzer Compact上で分析した。
【0074】
結果:アスコルビン酸の使用によって、アスコルビン酸処理サンプルに対するコール数が8%高くなった。ナトリウムおよびアンモニア付加物は、アスコルビン酸処理サンプルにおいて検出限界まで抑制された。その結果、アスコルビン酸処理サンプルに対するアンモニアおよび/またはナトリウム付加物による疑陽性コールは無かったのに対し、水条件付けサンプル中のアンモニア付加物によって1つのアッセイが繰り返しヘテロ接合体に割当てられた(疑陽性コール)。
【0075】
実施例2
マトリックスに対する添加剤
以下の実施例において、アスコルビン酸(ascorbic acid:AA)を含む新たなマトリックス組成物が、付加物形成を低減することによってスペクトル品質を改善することが示された。
【0076】
マトリックス溶液
以下のストック溶液およびナノ純水からマトリックスの組合せを調製した(異なるマトリックス構成要素のストック溶液は、その構成要素の官能基に従って陽イオン交換樹脂で処理した−酸はH+形の交換樹脂で、アンモニア塩はNH4+形の樹脂で処理した):
3-HPA:30%の水性アセトニトリル中に350mM。
【0077】
AA:水溶液中に1M。
【0078】
DAC:226mg1Min水溶液。
【0079】
標準マトリックスは300mMの3HPAと25mMのDACとで調製したのに対し、新たなマトリックスは300mMの3HPAと20mMのNH−オキサレートと20mMのアスコルビン酸とで調製した。表1を参照。最終マトリックスは、Gesim Nanoplotterを用いて15−20nlにてSpectroChip上に分配した。
【0080】
【表1】

合成オリゴヌクレオチドサンプル
表1のマトリックスに直接スポットされた合成オリゴヌクレオチドを用いて2つの実験を行なった。第1の実験において、17mer合成オリゴヌクレオチド(GTG GTG GTG GTG GTG GT)を、「古い」樹脂処理したマトリックスと、「新しい」アスコルビン酸で変更したマトリックスの両方でテストした。図1(古いマトリックス)においてはアンモニア付加物が明らかに存在する(ピークの高さは5335Daにおける親ピークの約12%)のに対し、図2(新しいマトリックス)においてはアンモニア付加物が存在しない。この新しいマトリックスは代替的に「マトリックス63C」と呼ばれることもある。
【0081】
第2の実験において、低質量の17mer合成オリゴヌクレオチド(5044Da)と、高質量の28mer合成オリゴヌクレオチド(8436Da)との付加物形成および脱プリンをテストした。両方の実験において、合成オリゴヌクレオチド分析物を、Gesim nanoplotterを用いてスポット当り10nlにて表1のマトリックス上に分配した。低質量および高質量オリゴヌクレオチドに対する結果を、それぞれ表2および表3に示す。
【0082】
【表2】

【0083】
【表3】

マトリックス比較は、相対的な付加物および脱プリンピークの高さ、ならびにプローブの高さおよびSNRに基づいている。分析に、ピークスコア閾値を超えるパッドの相対度数を説明するために、付加物形成スコアを導入した:
付加物形成スコア=
=(閾値を超えるパッドの相対度数)*(平均付加物ピーク高さ)
基体上の「パッド」および「スポット」という用語は、互いに交換可能である。平均付加物ピーク高さに対する標準偏差はすべてのマトリックスに対して低くて同等であり、表中には報告されていない。
【0084】
合成17merについて、新しいマトリックスにおける平均付加物形成スコアは樹脂処理した標準マトリックスに比べて13%低く(表2A)、合成28merについては、新しいマトリックスにおける平均付加物形成スコアは29%低かった(表3A)。
【0085】
プライマー伸長サンプル
RhDおよびAMG遺伝子における多型性に向けられた、検証されたSequenom遺伝子型同定アッセイを用いて、付加的な実験を行なった。これらのアッセイはiPLEX(商標)アッセイおよびMassARRAY(登録商標)技術を用いて行なわれた(Jurinke,C.,Oeth,P.,van den Boom,D.,MALDI−TOF mass spectrometry:a versatile tool for high−performance DNA analysis.Mol.Biotechnol.26,147−164(2004);およびOeth,P.et al.,iPLEXTM Assay:Increased Plexing Efficiency and Flexibility for MassARRAY(登録商標)System through single base primer extension with mass−modified Terminators.SEQUENOM Application Note(2005)、どちらもこれにより引用により援用される)。簡単には、SNPを囲む標的領域が最初にPCRによって増幅される。その後、PCR産物にオリゴヌクレオチドプライマーをアニーリングし、4つのターミネーターヌクレオチドの混合物とDNAポリメラーゼとを用いて、対立遺伝子特異的に単一ヌクレオチドだけ伸長させる。伸長産物を小型化したチップアレイに移し、MALDI−TOF質量分析法によって分析する。伸長産物の分子量を決定することによって、サンプル中に存在するSNP対立遺伝子の明確な同定が可能になる。質量シグナルのピーク面積比によって、所与のサンプル中の対立遺伝子の相対的存在量の推定が可能になる。
【0086】
この実験においては、表1のマトリックス上にスポットされた7316DaのAMGプライマー伸長産物に対して、(上述の合成オリゴヌクレオチド実験と比べて)20%高いレーザーエネルギーを用いた。表4および表5が示すとおり、標準マトリックスに比べて、新しいマトリックス上に分配された伸長産物に対する平均付加物形成スコアは減少し(40〜50%の減少)、レーザーエネルギーの増加は付加物形成に負の影響を有さなかった。
【0087】
【表4】

【0088】
【表5】

より多量の分析物の存在下での新しいマトリックスの有効性をテストするために、表1のマトリックス上で、増量した(10、15および20nl)7528DaのAMGプライマー伸長産物を分析した。下の表6を参照。新しいマトリックスの平均付加物形成スコアは、10nlおよび15nlの分析物体積においてはより低くなっている;しかし、20nlにおいては両方のマトリックスに対して同じスコア(0.6)が観察された。
【0089】
【表6】

改善された質量スペクトル
付加物形成を低減して疑陽性コールを排除することの重要性は、RHD−4−psi3−i遺伝子型同定アッセイの結果を示す図3および図4に明瞭に示されている。7626Daのピークは、標準マトリックスに対して報告されるような挿入(図3)ではなく、7571Daの伸長産物に対する55Da(NH+K)付加物である。この付加物は新しいマトリックスにおいては明瞭に除去されている(図4)。
【0090】
実施例3
マトリックスおよび分析物に対する添加剤
新しい、アスコルビン酸で変更したマトリックスを、分析物溶液(8289DaのAMGプライマー伸長産物)に加えられたアスコルビン酸とも組合せてテストした。実施例1および実施例2の表2〜6にみられるとおり、アスコルビン酸を分析物に加えるか、または標準マトリックスと組合せることによって、アンモニアおよびナトリウム付加物が大きく低減した。下の表7を参照。標準マトリックスにおいてはアスコルビン酸処理分析物に対して43%の減少があり、新しいマトリックス上に堆積されたアスコルビン酸処理分析物に対しては57%の減少があった(未処理マトリックス上に分配された未処理分析物との比較)。
【0091】
【表7】

実施例4
安定性テスト
6ヵ月の期間にわたり、4つの安定性テストを行なって、時間によるアスコルビン酸の付加物低減特性を定めた。テストされたマトリックスの性能が時間経過によって減少することは示されなかった。その代わりに、アンモニアおよびアルカリ付加物に対して得られたSNRおよび一定の付加物形成スコアから、アスコルビン酸と組合せた3−HPAおよびその添加剤DAC、NH−オキサレートの安定性が確認された。
【0092】
本明細書において参照される各特許、特許出願、出版物および文書の全体が引用により援用される。上述の特許、特許出願、出版物および文書の引用は、前述のいずれかが関連先行技術であることを承認するものではないし、これらの出版物および文書の内容または日付に関するいかなる承認も構成しない。
【0093】
本発明の基本的な局面から逸脱することなく前述に修正が加えられてもよい。1つまたはそれ以上の特定の実施形態を参照しながら本発明をかなり詳細に説明したが、本出願に特定的に開示される実施形態に変更が加えられてもよく、これらの修正および改善は本発明の範囲および趣旨内にあることが当業者に認識されるであろう。
【0094】
本明細書において例示的に記載される本発明は、本明細書に特定的に開示されていないあらゆる構成要素の不在下で好適に実施されてもよい。よって、たとえば本明細書における各実例において、「含む(comprising)」、「から実質的になる(consisting essentially of)」、および「からなる(consisting of)」という用語はいずれも、他の2つの用語のいずれかと入れ替えられてもよい。使用されている用語および表現は説明の用語として用いられているのであって限定の用語ではなく、こうした用語および表現の使用によって、示され記載される特徴のあらゆる同等物およびその部分が除外されることはなく、請求される本発明の範囲内でさまざまな修正が可能である。「a」または「an」という用語は、1つの構成要素または2つ以上の構成要素のいずれかを記載していることが文脈上明らかである場合を除き、その用語が修飾する構成要素の1つまたは複数を示すことができる(例、「装置(a device)」は1つまたはそれ以上の装置を意味し得る)。本明細書で用いられる「約(about)」という用語は、基礎となるパラメータの10%(すなわちプラスまたはマイナス10%)以内の値を示し、一連の値の最初に使用される「約」という用語は各々の値を修飾する(すなわち、「約1、2および3」とは約1、約2および約3である)。たとえば、「約100グラム」の重量は90グラムから110グラムの重量を含み得る。よって、本発明は代表的な実施形態および任意の特徴によって特定的に開示されているが、本明細書に開示される概念の修正および変更形が当業者によって用いられてもよく、こうした修正および変更形は本発明の範囲内であると考えられることが理解されるべきである。
【0095】
本発明の実施形態は以下の請求項に示される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量分析法によって分析される分析物を含むサンプルにおける付加物形成を低減させるための方法であって、質量分析法による該分析物の分析の前に、アスコルビン酸またはその塩、互変異性体もしくは類似体を含む付加物低減添加剤を該サンプルに加えるステップを含む、方法。
【請求項2】
前記付加物低減添加剤はシュウ酸アンモニウムをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記分析物は核酸である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記核酸はデオキシリボ核酸である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記核酸はリボ核酸である、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
質量分析法による前記分析は、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化飛行時間型(MALDI−TOF)質量分析法、レーザー脱離質量分析法(LDMS)、エレクトロスプレー(ES)質量分析法、イオンサイクロトロン共鳴(ICR)質量分析法、およびフーリエ変換質量分析法からなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
質量分析法によって分析される分析物を含むサンプルにおける付加物形成を低減させるための方法であって、質量分析法による該分析物の分析の前に、アスコルビン酸またはその塩、互変異性体もしくは類似体を含む付加物低減添加剤をマトリックスに加えるステップを含む、方法。
【請求項8】
質量分析法による前記分析物の分析の前に、前記付加物低減添加剤を該分析物にも加えるステップをさらに含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記付加物低減添加剤はシュウ酸アンモニウムをさらに含む、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
前記マトリックス組成物は3-ヒドロキシピコリン酸(3-HPA)を含む、請求項7または8に記載の方法。
【請求項11】
前記マトリックス組成物はクエン酸ジアンモニウム(DAC)を含む、請求項7または8に記載の方法。
【請求項12】
前記分析物は核酸である、請求項7または8に記載の方法。
【請求項13】
質量分析法において用いるために好適な基体を調製するための方法であって、付加物低減添加剤を含むマトリックス材料を該基体上に堆積させるステップを含み、該付加物低減添加剤はアスコルビン酸またはその塩、互変異性体もしくは類似体を含む、方法。
【請求項14】
前記基体を密封するステップをさらに含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
酸化を最小限にするために薬剤またはガスによって前記基体を処理するステップをさらに含む、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記基体はシリカを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記付加物低減添加剤はシュウ酸アンモニウムをさらに含む、請求項13に記載の方法。
【請求項18】
質量分析法によって分析される組成物であって、分析物と付加物低減添加剤とを含む、組成物。
【請求項19】
前記付加物低減剤は、アスコルビン酸またはその塩、互変異性体もしくは類似体を含む、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
シュウ酸アンモニウムをさらに含む、請求項19に記載の組成物。
【請求項21】
マトリックス組成物と、アスコルビン酸またはその塩、互変異性体もしくは類似体とを含む、組成物。
【請求項22】
マトリックス組成物と、アスコルビン酸またはその塩、互変異性体もしくは類似体と、シュウ酸アンモニウムとを含む、組成物。
【請求項23】
質量分析法による分析に好適な組成物であって、分析物と付加物低減添加剤とを含み、該添加剤はアスコルビン酸またはその塩、互変異性体もしくは類似体と、シュウ酸アンモニウムとを含む、組成物。
【請求項24】
質量分析法のための標的部位であって、基体と、アスコルビン酸またはその塩、互変異性体もしくは類似体およびシュウ酸アンモニウムを含む付加物低減添加剤とを含む、標的部位。
【請求項25】
マトリックス材料をさらに含む、請求項24に記載の標的部位。
【請求項26】
質量分析法分析のための分析物を調製するための方法であって、
分析物を含む溶液を、アスコルビン酸またはその塩、互変異性体もしくは類似体を含む組成物と接触させることによって、質量分析法分析のためのサンプルを調製するステップと;
該サンプルを質量分析計に導入するステップと
を含む、方法。
【請求項27】
前記組成物はシュウ酸アンモニウムを含む、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記分析物は核酸である、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
前記核酸はデオキシリボ核酸である、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記核酸はリボ核酸である、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
前記質量分析法分析は、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化飛行時間型(MALDI−TOF)質量分析法、レーザー脱離質量分析法(LDMS)、エレクトロスプレー(ES)質量分析法、イオンサイクロトロン共鳴(ICR)質量分析法、およびフーリエ変換質量分析法からなる群より選択される、請求項26に記載の方法。
【請求項32】
質量分析法によって分析物を分析するための方法であって、
サンプルを質量分析計に導入するステップであって、該サンプルは分析物と、アスコルビン酸またはその塩、互変異性体もしくは類似体とを含む、ステップ、ならびに
質量分析法によって該サンプルを分析するステップ
を含む、方法。
【請求項33】
前記サンプルはシュウ酸アンモニウムをさらに含む、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記分析物は核酸である、請求項32に記載の方法。
【請求項35】
前記核酸はデオキシリボ核酸である、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記核酸はリボ核酸である、請求項34に記載の方法。
【請求項37】
前記質量分析法分析は、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化飛行時間型(MALDI−TOF)質量分析法、レーザー脱離質量分析法(LDMS)、エレクトロスプレー(ES)質量分析法、イオンサイクロトロン共鳴(ICR)質量分析法、およびフーリエ変換質量分析法からなる群より選択される、請求項32に記載の方法。
【請求項38】
スポットのアレイを含む基体であって、各スポットは(i)マトリックス支援レーザー脱離/イオン化(MALDI)質量分析法のためのマトリックスと、(ii)アスコルビン酸またはその塩、互変異性体もしくは類似体とを含む、基体。
【請求項39】
各スポットはシュウ酸アンモニウムをさらに含む、請求項38に記載の基体。
【請求項40】
前記スポットの1つまたはそれ以上は分析物をさらに含む、請求項38に記載の基体。
【請求項41】
前記分析物は核酸である、請求項40に記載の基体。
【請求項42】
前記核酸はデオキシリボ核酸である、請求項41に記載の基体。
【請求項43】
前記核酸はリボ核酸である、請求項41に記載の基体。
【請求項44】
前記マトリックスは3-ヒドロキシピコリン酸を含む、請求項38に記載の基体。
【請求項45】
前記基体はチップである、請求項38に記載の基体。
【請求項46】
前記チップはシリコンチップである、請求項45に記載の基体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2011−510272(P2011−510272A)
【公表日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−542434(P2010−542434)
【出願日】平成21年1月14日(2009.1.14)
【国際出願番号】PCT/US2009/031020
【国際公開番号】WO2009/091841
【国際公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【出願人】(504159534)セクエノム, インコーポレイテッド (5)
【Fターム(参考)】