説明

改善された適合性を有する歯科用材料

【課題】重合によって硬化され得、硬化後に隣接する組織内に拡散して毒性反応のような望ましくない二次反応を引き起こし得る成分を最小限の量で含む歯科用材料を提供すること。
【解決手段】ラジカル重合可能な有機結合剤、少なくとも1種のラジカル重合開始剤、および少なくとも1種のラジカル重合促進剤を含む歯科用材料であって、ここで、開始剤および促進剤の両方が少なくとも1つのラジカル重合可能な基をそれぞれ有することで特徴付けられる、歯科用材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改善された身体適合性によって特徴付けられる歯科用材料に関する。
【背景技術】
【0002】
有機樹脂ベースの歯科用材料は、通常、異なった成分の複合混合物の例であり、重合可能なモノマーおよび/またはオリゴマーに加えて、少なくとも1種のラジカル重合開始剤を含み、多くの場合、重合促進剤、阻害剤および/またはUV安定剤のようなさらなる成分をもまた含む。毒物学的視点から厄介な、低分子量の化合物がしばしば存在する。硬化の間、使用されるモノマーの大部分は、ポリマーネットワークの形成において共有結合し、従って、周囲の組織への拡散を阻止される。しかし、残りの成分は、物理学的にポリマーネットワーク内に絡まるだけであり、従って、時間の経過の中で歯科用材料から洗い落とされ得る。これは、組織適合性の視点から望ましくない。
【0003】
Liら,Macromol.Rapid Commun.21(2000)590−594は、4,4’−過酸化ジビニルベンゾイルとメチルメタクリレートとの共重合、およびこの共重合体へのブチルアクリレートのグラフト化を記載する。
【0004】
Dneboskyら,J.Dent.Res.54 (1975)772−776は、メチルメタクリレートの過酸化ベンゾイル触媒性重合のための促進剤として適したN,N−置換アミノエチルメタクリレートを記載する。これらのアミノエチルメタクリレートは、ポリマー鎖内に組み込まれ、それによって充填複合体の毒性を減少することを目指す。
【0005】
Tanziら,Clinical Materials 8(1991)131−136は、2つの不飽和第3アリールアミン(すなわち、N−アクリロイル−N’−フェニルピペラジンおよびメタクリロイル−N’−フェニルピペラジン)を開示し、これは、ラジカル過酸化ベンゾイル触媒性重合の間、ポリマーネットワーク内に化学的に結合する。
【0006】
(例えば、コンタクトレンズの産生のための)共重合可能なUV吸収剤として適するといわれる化合物2−(2’−ヒドロキシ−5’−メタクリロキシエチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾールは、Ciba Specialty Chemicalsによって、Ciba(登録商標)Tinuvin(登録商標)R 796の名称で市販される。
【0007】
DE OS 19 31 452から、プラスチックのためのポリマー酸化防止剤が公知であり、これは立体障害フェノール基を有するモノマーベースである。
【0008】
DE OS 19 33 657は、アクリロイルオキシフェノールおよびその重合体を開示し、これらは特に織物(textile)のための酸化防止剤として適する。
【0009】
US 5,276,068は、ポリカーボネート−ジメタクリレート縮合生成物を主成分として含む歯科用材料に関する。これらは、従来のモノマー、開始剤、酸化防止剤および他の添加物と合わせられる。特に、ジメチルアミノエチルメタクリレートおよびジエチルアミノエチルメタクリレートは、光重合に適した重合促進剤として挙げられる。
Angioliniら,Macromal.Chem.Phys.201(2000)2646は、ポリマー光開始剤およびアミン促進剤を合成し、そしてその重合挙動を試験した。1種のポリマー成分の使用により、重合の遅延がもたらされた;両方のポリマー成分を使用した場合、重合速度の明らかな低下が測定された。この速度低下は、立体障害に起因する。重合は、溶媒としてのベンゼン中で行われた。
公知の材料は、材料の硬化の間にポリマーネットワーク内に共有結合しない成分を、より少ないかまたはより多い割合で常に含む。材料の硬化後に、これらの成分は、隣接する身体組織内に移動し得、そしてそこで毒性反応を引き起こし得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】DE OS 19 31 452
【特許文献2】DE OS 19 33 657
【特許文献3】米国特許5,276,068号明細書
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Liら,Macromol.Rapid Commun.21(2000)590−594
【非特許文献2】Dneboskyら,J.Dent.Res.54(1975)772−776
【非特許文献3】Tanziら,Clinical Materials 8(1991)131−136
【非特許文献4】Angioliniら,Macromal.Chem.Phys.201(2000)2646
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、重合によって硬化され得、硬化後に隣接する組織内に拡散して望ましくない二次反応を引き起こし得る成分を最小限の量で含む歯科用材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この目的は、ラジカル重合可能な有機結合剤、少なくとも1種のラジカル重合開始剤、および少なくとも1種のラジカル重合促進剤を含む材料によって達成される。この材料は、少なくとも1つのラジカル重合可能な基を開始剤および促進剤の両方がそれぞれ有することで特徴付けられる。
【0014】
これらの物質は、ラジカル重合によって問題なく硬化され得、この材料は、可溶性成分を極めて少ない割合で含むことが見出された。この結果は、驚くべきものである。何故なら、現行技術は、重合可能な基を有する開始剤および促進剤(両成分はポリマーネットワーク内に組み込まれ、立体効果および運動効果を介して反応の確率を低下させる)を用いる場合、重合速度の明らかな低下を示唆する(Angiolini、上記引用)からである。歯科用材料のラジカル重合のための重合可能な開始剤および重合可能な促進剤の併用は、現在までに記載されていない。
【0015】
上記に加えて、本発明は以下を提供する:
項目1 ラジカル重合可能な有機結合剤、少なくとも1種のラジカル重合開始剤、および少なくとも1種のラジカル重合促進剤を含む歯科用材料であって、少なくとも1つのラジカル重合可能な基を開始剤および促進剤の両方がそれぞれ有することで特徴付けられる、歯科用材料。
【0016】
項目2 前記結合剤が、ラジカル重合可能な基を2つ以上有するモノマーおよび/またはオリゴマーを含む、項目1に記載の歯科用材料。
【0017】
項目3 前記結合剤が、ラジカル重合可能な基を有する少なくとも1種のポリシロキサンを含む、項目2に記載の歯科用材料。
【0018】
項目4 前記結合剤が、ラジカル重合可能な基を有する少なくとも1種のデンドリマーを含む、項目2または項目3に記載の歯科用材料。
【0019】
項目5 前記結合剤が、少なくとも1種のラジカル重合可能な架橋モノマーを含む、項目2〜4のいずれか1項に記載の歯科用材料。
【0020】
項目6 前記結合剤が、ラジカル重合可能な基を2つ以上有する、ラジカル重合可能なモノマーおよび/またはオリゴマーをのみ含む、項目2〜5のいずれか1項に記載の歯科用材料。
【0021】
項目7 光開始剤を含む、項目1〜6のいずれか1項に記載の歯科用材料。
【0022】
項目8 開始剤として、少なくとも1種のα−ジケトン、1種のアゾ化合物、1種の過酸化物、1種のベンジルジメチルケタール、1種のベンゾインエーテル、1種のジアルコキシアセトフェノンおよび/または1種のトリメチルベンゾイルホスフィンオキシドを含む、項目1〜7のいずれか1項に記載の歯科用材料。
【0023】
項目9 促進剤として、アミン、バルビツール酸誘導体、またはスルフィン酸誘導体を含む、項目1〜8のいずれか1項に記載の歯科用材料。
【0024】
項目10 少なくとも1つのラジカル重合可能な基を有する少なくとも1種のUV吸収剤をさらに含む、項目1〜9のいずれか1項に記載の歯科用材料。
【0025】
項目11 少なくとも1つのラジカル重合可能な基を有する少なくとも1種のラジカル重合阻害剤をさらに含む、項目1〜10のいずれか1項に記載の歯科用材料。
【0026】
項目12 少なくとも1つのラジカル重合可能な基を有する抗酸化剤をさらに含む、項目1〜11のいずれか1項に記載の歯科用材料。
【0027】
項目13 1つのラジカル重合可能な基を有するUV安定剤と1つのラジカル重合可能な基を有する阻害剤とを含む、項目1〜12のいずれか1項に記載の歯科用材料。
【0028】
項目14 ラジカル重合不可能なモノマー成分もポリマー成分も含まない、項目1〜13のいずれか1項に記載の歯科用材料。
【0029】
項目15 溶媒を含まない、項目1〜14のいずれか1項に記載の歯科用材料。
【0030】
項目16 増量剤をさらに含む、項目1〜15のいずれか1項に記載の歯科用材料。
【0031】
項目17 前記増量剤が、接着力増強剤で表面を改変された増量剤である、項目16に記載の歯科用材料。
【0032】
項目18 前記接着力増強剤が、少なくとも1つのラジカル重合可能な基を有する、項目17に記載の歯科用材料。
【0033】
項目19 1種以上の顔料をさらに含む、項目1〜18のいずれか1項に記載の歯科用材料。
【0034】
項目20 顔料および増量剤の他には、ラジカル重合可能な基を有する成分のみを含む、項目1〜19のいずれか1項に記載の歯科用材料。
【0035】
項目21 項目1〜20のいずれか1項に記載の歯科用材料であって、各場合に該材料の総重量に対して、以下:
(a)1〜50重量%、特に5〜40重量%の結合剤、
(b)0.1〜5.0重量%、特に0.2〜2.0重量%の開始剤、
(c)0.1〜5.0重量%、特に0.2〜2.0重量%の促進剤
を含む、歯科用材料。
【0036】
項目22 項目21に記載の歯科用材料であって、該材料の総重量に対して、(d)0.01〜3.0重量%、特に0.05〜2.0重量%の阻害剤をさらに含む、歯科用材料。
【0037】
項目23 項目21または項目22に記載の歯科用材料であって、該材料の総重量に対して、(e)0〜90重量%、特に3〜80重量%の増量剤をさらに含む、歯科用材料。
【0038】
項目24 ラジカル重合可能な有機結合剤、ラジカル重合開始剤、およびラジカル重合促進剤を含む組成物の、歯科用材料としての使用または歯科用材料の生成のための使用であって、該開始剤および該促進剤の両方がそれぞれ少なくとも1つのラジカル重合可能な基を有する、使用。
【発明の効果】
【0039】
本発明に従う歯科用材料は、充填材料、固定用セメントおよび歯科用コーティング材料として特に好適である。さらに、この材料は、人口歯、義歯、インレーおよび前装材料(facing material)の作製に非常に好適である。口腔内適用のための歯科用材料が、好ましい。
【発明を実施するための形態】
【0040】
ラジカル重合可能な基を有するモノマーおよびオリゴマーが、有機結合剤として使用される。ラジカル重合可能な基とは、本明細書中で、好ましくはエチレン性不飽和基を意味し、特に、(メタ)アクリル((meth)acryl)基、アリル基、スチリル基、ビニル基、ビニロキシ基および/またはビニルアミン基を意味する。本発明に従って、歯科用材料のために使用され得る全ての結合剤が適しており、特に少なくとも1つのエチレン性不飽和基を有するモノマーおよびオリゴマーが適する。このようなモノマーおよびオリゴマーは、単独または混合で使用され得る。好ましくは、結合剤は、少なくとも1種の多官能性のモノマーまたはオリゴマー(すなわち、2つ以上、好ましくは3つ以上、または特に非常に好ましくは4つ以上の重合可能エチレン性不飽和基を有する、モノマーまたはオリゴマー)を含む。2つ以上のラジカル重合可能な基を有するモノマーおよびオリゴマーは、重合の間、架橋剤として作用する。急速に重合可能な基を1つしか有さないモノマーまたはオリゴマーは、単官能性のモノマーまたはオリゴマーと呼ばれる。
【0041】
重合エチレン性不飽和基を有するポリシロキサンが、架橋剤として特に好適であり、特に、(メタ)アクリレート修飾ポリシロキサンが好適であり、これは、加水分解性縮合によって入手され得、例えば、(メタ)アクリレート基を含むシランに対応する。非官能性シラン単位を含まない縮合物(すなわち、各シロキサン繰り返し単位が少なくとも1つ、好ましくは2つまたは3つの重合可能なエチレン性不飽和基を有するポリシロキサン)が、特に好ましい。これらのポリシロキサンは、高い官能性、すなわち多数の重合可能な基によって特徴付けられる。高い官能性ゆえに、ポリシロキサンの硬化した歯科用材料内への実質的に完全な混合が起こる。さらに、ポリシロキサンはまた、水中または水溶液中の低い溶解性によって特徴付けられ、その結果、非重合の非常に低い部分ですら、口腔条件の下で歯科用材料を溶出させず、従って、洗い落とされ得もまたしない。
【0042】
重合可能なポリシロキサンの生成のために適する(メタ)アクリルシランが、市販されている(例えば、3−(メタクリロイロキシ)プロピルトリメトキシシラン(MEMO))か、または例えば、3−イソシアナトプロピルトリエトキシシラン(DMAURS,EP 0 618 242 A2)もしくは
【0043】
【化1】

、無水3−(メチルジエトキシシリル)−プロピルコハク酸(DMBES,DE 44 16 857 C1)とグリセリンジメタクリレートとの反応により容易に生成され得るか、または無水グルタミン酸とシアングリセリンジメタクリレートとの反応の後に3−アミノプロピルトリエトキシシラン(DMAGAMS,DE 199 03 177 C2)を用いた反応、(メタ)アクリレート基含有シラン(これらもまた、上記公報に記載される)の加水分解縮合による(メタ)アクリレート修飾ポリシロキサンの生成を行うことにより容易に生成され得る。
【0044】
DE 199 03 177 C2に記載されるメタクリル基含有ポリシロキサン(シロキサンから生成される)もまた、特に複合体のために有利であり、ここで、加水分解的に縮合可能なトリアルコキシシリル基は、融通性のアミノアルキル基(例えば、DMAMS)を介して重合可能なメタクリレート基に結合され、ここで対応するポリシロキサンPK−DMAMSは、比較的低い粘性によって特徴付けられる。複合体の場合、高度な充填は、このようにして達成され得る。
【0045】
【化2】

さらに好ましい結合剤は、エチレン性不飽和基で修飾された高分枝ポリマー、いわゆるデンドリマーである。
【0046】
デンドリマーは、3次元高級オリゴマー化合物または3次元高級ポリマー化合物であり、低分子開始剤から始まり、一定の反復反応の連続によって合成される(DE 44 43 702を参照のこと)。
【0047】
本発明に従う好ましいデンドリマー(プロピレンイミンデンドリマー)は、ヒドロキシル基含有開始分子またはアミノ基含有開始分子とシアン化ビニル(例えば、アクリロニトリルまたはメタクリロニトリル)との反応によって得られる。好適なプロピレンイミンデンドリマーおよびこれらを生成するためのプロセスは、WO93/14147に記載される。好ましいデンドリマーのさらなる群は、ポリエーテル/ポリチオエーテル(A.B.Padiasら;Polym.Prepr.Am.Chem.Soc.,Div.Polym.Chem.30(1989)119)、ポリエステル(WO93/17060)、ポリフェニレンアミド(S.C.E.Backsonら;Macromol.Symp 77(1994)1)およびポリフェニレンエステルデンドリマー(K.L.Wooleyら,Polymer Journal 26(1994)187)である。球形構造を有するデンドリマーが、特に好ましい。さらに、第4世代のまたはそれ以上の世代のデンドリマーが、本発明に従ってさらに好適である。
【0048】
好ましくは、デンドリマーは、エチレン性不飽和末端基(end−group)を有する。反応物の最終世代の反応基を、末端基と呼ぶ。重合可能な末端基を有するデンドリマーの合成は、有機化学で公知の、上記のデンドリマーと好適なモノマー試薬との反応によって起こる。特に好適な素材は、カルボキシル末端基、ヒドロキシル末端基、および/またはアミノ末端基を有するデンドリマーである。カルボキシル基含有デンドリマーの反応について、塩化メタクリル酸およびイソシアナトエチルメタクリレートが、ヒドロキシ官能化デンドリマーまたはアミノ官能化デンドリマーと2−ヒドロキシエチルメタクリレートとの反応のために好ましい。アミノ基含有デンドリマーの反応について、アクリロイルオキシエチルメタクリレート(AEMA)を用いたMichael反応が、特に好ましい。Michael反応は、アクリレート二重結合において選択的に起こるが、メタクリレート二重結合は、重合可能な基として保持される。このようなデンドリマーおよびその生成物は、DE 44 43 702において開示される。
【0049】
本発明に従う重合可能なデンドリマーのさらに好適な群は、少なくとも1つの一次アミノ基、少なくとも1つのチオール基、少なくとも1つのフェノール基、少なくとも1つのカルボキシル基(carboxylic acid group)もしくは少なくとも2つの二次アミン基を有するか、またはこれらの基および分枝分子の組み合わせを有するコア分子を含むエポキシドアミンデンドリマーである。このようなデンドリマーおよびその生成物は、WO98/24831に開示される。
【0050】
さらに、本発明に従い、末端アルケニル基を有するシランデンドリマーが好ましく、DE 197 36 665に記載される。上記デンドリマーの混合物もまた、好適である。
【0051】
上述のポリシロキサンおよびデンドリマーは、1分子につき多数の重合可能なエチレン性不飽和基を含み、それによって高いモノマー変換で重合され得る点で特徴付けられる。
【0052】
極めて好ましいポリシロキサンは、1つ以上の以下のシランの加水分解重縮合によって得られ得る重縮合物である:ビス[2−(2−(メタクリロイルオキシエトキシカルボニル)エチル)]−3−トリエトキシシリルプロピルアミン、ビス[2−(2(1)−(メタクリロイルオキシプロポキシカルボニル)エチル)]−3−トリエトキシシリルプロピルアミン、1,3(2)−ジメタクリロイルオキシプロピル−[3−(3−トリエトキシシリルプロピル)アミノカルボニル]プロピオネート、1,3(2)−ジメタクリロイルオキシプロピル−[4−(3−トリエトキシシリルプロピル)アミノカルボニル]ブチレート、1,3(2)−ジメタクリロイルオキシプロピル−[4−(3−トリエトキシシリルプロピル)−N−メチルアミノカルボニル]ブチレート、3−[1,3(2)−ジメタクリロイルオキシプロピル)−2(3)−オキシカルボニルアミド]−プロピルトリエトキシシラン。
【0053】
極めて特に好ましいデンドリマーは、少なくとも4つの末端重合可能基(好ましくはビニル基および/または(メタ)アクリル基)を有するポリプロピレンイミンデンドリマー、エポキシドアミンデンドリマー、およびシランデンドリマーである。
【0054】
さらに好ましい結合剤は、公知の多官能性アクリレートおよび/またはメタクリレート(例えば、ビスフェノール−A−ジ(メタ)アクリレート、ビス−GMA(メタクリル酸およびビスフェノール−A−ジグリシジルエーテルの付加産物)、UDMA(2−ヒドロキシエチルメタクリレートおよび2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートの付加物)、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートもしくはテトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリトリトールテトラ(メタ)アクリレート、およびブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレートまたは1,12−ドデカンジオールジ(メタ)アクリレート)のような、ラジカル重合可能な架橋モノマーである。
【0055】
本発明に従う結合剤は、2つ以上のエチレン性不飽和基を有するラジカル重合可能なモノマーおよび/またはオリゴマーのみを含むことが好ましい。特に好ましいバージョンに従い、少なくとも1種のラジカル重合可能なポリシロキサンおよび/またはエチレン性不飽和デンドリマー(極めて特に好ましくは、1種以上のラジカル重合可能なポリシロキサンおよび/またはエチレン性不飽和デンドリマーのみを含むデンドリマー)を含む結合剤が、使用される。
【0056】
本発明に従うラジカル重合のための開始剤として、1つの開始剤分子につき、少なくとも1つのラジカル重合可能な基を有する1種以上の開始剤が、使用される。
【0057】
開始剤としては、エチレン性不飽和基を有するα−ジケトン、アゾ化合物、過酸化物、ベンジルジメチルケタール、ベンゾインエーテル、ジアルコキシアセトフェノンおよび酸化トリメチルベンゾイルホスフィンが、特に好ましい。光開始剤を含む化合物が、好ましい。
【0058】
好ましい光開始剤は、重合可能なカンファーキノン誘導体(例えば、10−メタクリロイルオキシカンファーキノン(MACQ)であり、これは、10−ヒドロキシカンファーキノンとメタクリル酸クロリドとの反応によって得られ得る(L.Angiolini,2000,Macromol.Chem.Phys.,201,2646))である。
【0059】
【化3】

このようなカンファーキノン誘導体は、好ましくは、促進剤としてアミンと合わせられる。
【0060】
過酸化物およびアゾ化合物は、熱開始剤として特に好適である。好ましい重合可能な過酸化物は、例えば、4,4’−過酸化ジビニルベンゾイル(DVBPO)であり、これは、4−ビニルベンゾイルクロリドと過酸化ナトリウムとの反応によって得られる(Z.Liら,2000,Macromol.Rapid Commun.,590−594)。好ましい重合可能アゾ化合物は、2−ヒドロキシエチルメタクリレートおよび4,4’−アゾビス−(4−シアノ吉草酸)のエステルACVMAである:
【0061】
【化4】

このようなアゾ化合物は、好適に官能基化された市販のアゾ化合物(例えば、アゾビス(4−シアノ吉草酸))と、好適に官能基化された重合可能な化合物とを反応させることにより(アゾカルボン酸の場合、例えば、縮合剤(例えば、ジシクロヘキシルカルボジイミド)の存在下で2−ヒドロキシエチルメタクリレートと、またはスズ触媒の存在下で2−イソシアナトエチルメタクリレートと反応させることにより)得られ得る。
【0062】
好ましい重合可能なUV開始剤は、酸化アシルホスフィン(APO)、ジアルコキシアセトフェノンまたはベンゾイン誘導体に由来する。重合可能なUV開始剤の例は、スチレン誘導体SAPO(J.H.de Grootら,2001,Biomacromolecules,2 1271)、ビス−アリル化合物DAA(V.L.Mizyukら,1994,Org.Chem.30/4,570)またはアクリレートBA(P.Weiweiら,1998,Synthesis,1298)である。モノマー光開始剤/増感剤のさらなる例は、T.Corralesらの総説(J.Photochem,Photobiol.A:Chem.159(2003)103)に含まれる。
【0063】
【化5】

好ましくはアミンである還元剤が、ラジカル重合のための重合可能な促進剤として使用される。好ましい重合可能なアミンは、N−(2−メタクリロイルオキシエチル)−N−メチルアニリン(MAAMA)、N−(2−メタクリロイルオキシエチル)−N−メチル−3,5−キシリジン(MAMA3,5X)、N−(2−メタクリロイルオキシエチル)−N−メチル−p−トルイジン(MAAMpT)、N,N−ビス−(2−メタクリロイルオキシエチル)−p−トルイジン(DMAApT)およびN,N−ビス−(2−メタクリロイルオキシエチル)−3,5−キシリジン(DMAA3,5X)(J.Dneboskyら,1975,J.Dent.Res.54,772−776)である。
【0064】
ラジカル重合のための促進剤として好適なさらに好ましい重合可能なアミンは、市販の2−(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート(DMAEMA)、N−(2−メタクリルオキシエチル)−N’−メチルピペラジン(MAMP)またはN−(メタクリルアミドメチル)モルホリン(MAMMM)(B.Vazquez,B.Levenfeld,J.San Roman,Polym.Intern.1998,Role of amine activators on the curing parameters,properties and toxicity of acrylic bone cements,46,241−250,X.De Feng,Makromol.Chem.,Macromol.Symp.1992,The role of amine in vinyl radical polymerization,63,1−18)である。
【0065】
【化6】

アミン促進剤が過酸化物と組み合わせて使用される場合、低温硬化材料が得られる。
【0066】
バルビツール酸誘導体およびスルフィン酸(sulphinic acid)誘導体は、酸化還元系における促進剤として有用である。重合可能な誘導体の例は、化合物VOBA(L.H.Cretscherら,1925,J.Amer.Chem.Soc,47,3083−3085)またはSSA(H.Kamogawaら,1976,Chem.Letters,419−420)である;
【0067】
【化7】

上記の成分に加え、本発明に従う歯科用材料は、好ましくは、少なくとも1種の重合可能なUV吸収剤(すなわち、少なくとも1つのラジカル重合可能な基を有するUV吸収剤)もまた含む。UV安定剤は、材料の色安定性を改善し、例えば紫外線に曝露された際の黄色化を、高エネルギーUV放射を吸収し、これを熱に変換するかまたは高エネルギー状態を不活性化することにより防ぐことに寄与する。好適な重合UV吸収剤は、例えば、D.Baileyら,1976,J.Macromol.Sci.−Rev.Macromol.Chem.C14,267−293に記載される。好ましい重合可能UV吸収剤は、ヒドロキシフェニルベンゾトリアゾール(例えば、Ciba Specialty ChemicalsからTinuvin(登録商標)R796の商品名で市販される2−(2’−ヒドロキシ−5’−メタクリロイルオキシエチルフェニル−2−ベンゾトリアゾール(HMAEPBT))である。
【0068】
【化8】

さらに、本発明に従う材料はまた、好ましくは少なくとも1種のラジカル重合可能な阻害剤を含む。阻害剤は、時期尚早な自発的重合を防ぎ、従って、安定剤とも呼ばれ、そして約2年間の保存安定性を可能にする。好気性阻害剤(酸素の存在下でのみ有効)と非好気性阻害剤(酸素の非存在下でもまた有効)とに分類される。自己硬化系の場合において、阻害剤は、さらに適切な処理時間を保証する。このいわゆる阻害期間(inhibition period)の間、阻害剤は、開始剤から形成されたラジカルまたはオリゴマー伸長ラジカル(oligomeric growth radical)を有する不活性な生成物を形成する。阻害剤が使い果たされた場合にのみ、実際の硬化期が開始する。
【0069】
重合可能なフェノール誘導体は、好気性阻害剤として好ましい。これらの特に好ましい例は、4−ヒドロキシフェニルアクリレート(HPhA)(US 2,675,394)および4−メタクリロイルオキシ−2,6−ジ−tert−ブチルフェノール(MADtBPh)(DE 19 33 657)である。
【0070】
【化9】

好ましい非好気性阻害剤は、2,2,6,6−テトラメチル−ピペリジン−1−オキシル−ラジカル(TEMPO)の重合可能な(メタ)アクリレート誘導体であり、例えば、N,N−ビス−(2−ヒドロキシ−3−メタクリロイルオキシプロポキシ)−4−アミノ−2,2,6,6,−テトラメチル−ピペリジン−1−オキシルラジカル(BMAP−TEMPO)またはN,N−ビス−(3−オキサ−4−オキソ−6−メタクリロイルオキシヘキシル)−4−アミノ−2,2,6,6,−テトラメチルピペリジン−1−オキシルラジカル(BMAH−TEMPO)である(WO01/60322):
【0071】
【化10】

本発明に従い、ラジカル重合可能な成分(すなわち、重合の間にポリマーネットワーク内に結合され得る開始剤、促進剤、必要に応じてUV安定剤、必要に応じて阻害剤)のみを含む歯科用材料が特に好ましい。硬化後に洗い落とされ得るかまたは周囲の組織に拡散し得る低分子量構成成分の割合は、これにより、最小限に低下する。非ラジカル重合可能なモノマー構成成分またはポリマー構成成分を含まない材料が、特に好ましい。また、溶媒を含まない化合物が、好ましい。溶媒とは、本明細書で、反応を制御するかまたは取り扱いを容易にするためだけに寄与し、最終の硬化組成物においてもなお存在せず必要はない、室温で液体である物質を意味する。従って、液体モノマーは、この意味において溶媒ではない。
【0072】
上記の構成成分に加え、本発明に従う歯科用材料はまた、好ましくは、力学的性質を改善するのに役立つ増量剤を含む。有機または無機の粒子または繊維が、この目的のために好適である。好ましい無機粒子増量剤は、ZrOおよびTiOまたはSiO、ZrOおよび/またはTiOの混合酸化物のような酸化物ベースの無定形の球形物質、発熱性ケイ酸または沈殿したケイ酸のようなナノ粒子または微小な(microfine)増量剤、ならびに0.01〜5μmの平均粒子サイズである石英、ガラスセラミックまたはガラス粉のマクロ増量剤(macrofiller)またはミニ増量剤(minifiller)、ならびにイッテルビウムトリフルオライドのようなX線不透増量剤である。さらに、ガラスファイバー、ポリアミドまたは炭素繊維もまた使用され得る。
【0073】
増量剤の種類および使用に依存して、最大の充填度は、好ましくは、50〜90重量%、特に好ましくは55〜85重量%である。複合体(すなわち増量剤含有歯科用材料)は、粒子サイズおよび増量剤の組成に従って、マクロ増量剤複合体、均一なマイクロ増量剤(microfiller)複合体および不均一なマイクロ増量剤複合体、ならびにハイブリッド複合体に分類される。マクロ増量剤は、好ましくは石英、X線不透ガラス、ホウケイ酸塩、またはセラミックを破砕することによって生成され、自然状態で純粋に無機であり、そしてほとんどの場合、約0.4〜10μmの平均粒子サイズを有するチップ形状部分からなる。マイクロ増量剤として、好ましくは発熱性SiOまたは沈殿したケイ酸が使用され、時々は、金属アルコキシド(例えば、テトラエトキシシランまたはテトラプロピルジルコネート)の加水分解共縮合によって得られる混合酸化物(例えば、SiO−ZrO)もまた使用される。マイクロ増量剤は、約5〜100nmの平均粒子サイズを有し、そして、その40〜300m/gの大きな比表面積に起因して、強い粘性増加効果を示す。不均一のマイクロ増量剤複合体は、いわゆるマイクロ増量剤複合物を含む。これの例は、チップ形状の事前に重合された微小充填複合物であり、これは、例えば、発熱性SiOを樹脂マトリックス内に作用させ、次いで混合物を熱硬化させ、充填した重合体を破砕することにより得られる。本発明に従い、可溶性成分を含まない増量剤が好ましい。
【0074】
増量剤は、結合剤中で作用する前に、好ましくは接着力増強剤(adhesion promoter)で表面改変される。少なくとも1つのラジカル重合可能な基を有する接着力増強剤が、好ましい。特に好ましい接着力増強剤は、シランであり、特にα−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランおよびγ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランである。少なくとも3重量%の増量剤を含む材料が、好ましい。
【0075】
加えて、本発明に従って使用される組成物は、例えば着色料(顔料)または重合可能な殺微生物学的材料のようなさらなる添加剤を含む。顔料は、内因性の色または透明性を達成するために加えられる。無機顔料が好ましく、金属酸化物(例えば、クロム/アンチモン(黄色)によりチタンイオンを置換されたTiOルチル、またはMgAlスピネル中の金属イオンのコバルト(青)または銅(黒)による置換物)に基づく混合相顔料(mixed−phase pigment)が特に好ましい。このような顔料は不溶性であるため、これらは、原則的に歯科用材料の生物適合性に悪影響を与えない。
【0076】
本発明に従う好ましい歯科用材料は、増量剤および顔料の他には、エチレン性不飽和基を有し、従って、重合の間にポリマーネットワーク内に結合する成分のみを含む。増量剤および顔料は、原則として不溶性であり、従って、ポリマーから滲出しない。しかし、力学的性質を改善するために、増量剤は、好ましくは、エチレン性不飽和基を有する接着力増殖剤で処理され、従って、これらもまた、ポリマー内に組み込まれる。
【0077】
以下を含む歯科用材料が、特に好ましい:
(a)1〜50重量%、特に5〜40重量%の結合剤、好ましくは1つの結合剤分子につき2つ以上の重合可能な基を有する結合剤、
(b)0.1〜5.0重量%、特に0.2〜2.0重量%の、ラジカル重合可能な開始剤、
(c)0.1〜5.0重量%、特に0.2〜2.0重量%の、ラジカル重合可能な促進剤、および必要に応じて、
(d)0.01〜3.0重量%、特に0.05〜2.0重量%の阻害剤(好ましくはラジカル重合可能な阻害剤)、
(e)0〜90重量%、特に3〜80重量%の増量剤。
【0078】
全てのデータは、それぞれの場合の材料の総量に関する。
【0079】
本発明に従う材料は、従来の材料と比較して、匹敵する時間内で硬化し得るにもかかわらず、非常に少ない割合の可溶性成分しか含まないことで特徴付けられる。Angioliniら(上記引用)によって刊行された結果の視点からは、本発明に従う組成物(好ましい様式に従う組成物)は、溶液中で重合されず、それにより、Angioliniらによって見出された立体障害がさらに強化されるために、なおさら重合速度が明らかに低下することが予測されるので、これは驚くべきことである。
【0080】
本発明に従う歯科用材料は、充填材料、固定用セメントおよび歯科用コーティング材料として特に好適である。さらに、この材料は、人口歯、義歯、インレーおよび前装材料の作製に非常に好適である。口腔内適用のための歯科用材料が、好ましい。
【0081】
本発明は、以下の実施例を参照して、より詳細に説明される。
【実施例】
【0082】
(実施形態)
(実施例1:ジメタクリレート基含有ポリシロキサンOM−51の合成)
【0083】
【化11】

260mmol(160.6g)のシランビス−[[メタクリロイルオキシ)プロポキシカルボニルエチル]−[トリエトキシシリルプロピル]−アミン(文献(N.Mosznerら,2002,Macromol.Mat.Eng.,287 339−347)に従って生成される)を、380mlのEtOH中に溶解した。シランの加水分解を、0.1N NHF溶液(28.1g)の形態で水を添加することにより、行った。室温で24時間の撹拌の後、いくらかの空気の導入を含む揮発性成分を減圧下で除去した。生じた粘性の高い樹脂(約120gのOM−1)は、8Pasの粘度ηを示した(23℃)。
【0084】
(実施例2:重合可能なアミン促進剤EMBO−MAの合成)
【0085】
【化12】

N.Onoら,1978,Bull.Chem.Soc.Jpn 51,2401と同じく、0.10mol(20.0g)の2−ブロモエチルメタクリレートを、240mlのトルエン中0.10mol(17.1g)の4−ジメチルアミノ安息香酸および0.10mol(15.8g)の1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデク−7−エンの溶液にゆっくりと滴下し、そして還流下で16時間加熱した。反応溶液を、1.0NのNaOH溶液、1.0N塩酸および最後に水で洗浄した。次いで、有機相を無水NaSO上で乾燥させ、回転蒸発器中で濃縮し、一晩で結晶化させた。2−(メタクリロイルオキシエチル)−4−ジメチルアミノベンゾエート(EMBO−MA)の13.0g(理論値の45.3%)の白色結晶が得られた。
【0086】
(実施例3:重合可能なカンファーキノンメタクリレートMACQの合成)
【0087】
【化13】

L.Angioliniら,2000,Macromol.Chem.Phys.201,2646と同様に、10mmol(1.82g)の10−ヒドロキシカンファーキノン、10mgの2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール(阻害剤)、1.5mlの乾燥トリエチルアミン(TEA)および50mlの無水1,4−ジオキサンの混合物を、アルゴン下でかつ昼光を除いて、0℃で、20mlの1,4−ジオキサン中に溶解した11mmol(1.15g)のメタクリル酸クロリドの撹拌溶液に滴下した。その後、室温で2時間撹拌し、2時間還流下に置いた。反応混合物を、形成されたTEA−HClから濾過し、ジエチルエーテルに溶解し、5%の重炭酸ナトリウム溶液および水で洗浄した。無水NaSO上で乾燥させた後、この溶液を回転蒸発器中で乾燥するまで濃縮し、そしてトルエン/n−ヘキサン(20:80 v/v)から固体粗生成物を再結晶化した。10−メタクリロイルオキシカンファーキノンMACQの1.55g(理論値の62%)の黄色結晶が、得られた。
【0088】
(実施例4:重合可能な阻害剤MA−HQの合成)
【0089】
【化14】

DE 193 36 57と同様に、140mmol(21.0g)の無水メタクリル酸を、25℃未満の温度で、150mlの無水テトラヒドロフランに溶解した145mmol(16.0g)の新たに再結晶化されたヒドロキノンに、アルゴン下で加え、次いで、1.0mlの96%硫酸を加えた。反応混合物を、室温で16時間撹拌した。混合物を、800mlの水中に加え、2N水酸化ナトリウム溶液で中和し、2時間撹拌して、固体粗生成物を吸引によって取り出した。次いで、この生成物を、数回n−ヘキサンから再結晶化し、そしてヒドロキノンモノメタクリレートMA−HQの9.17g(理論値の37%)の白色結晶を得た。
【0090】
(実施例5:重合可能なマトリックス成分に基づく複合体)
以下に列挙したモノマー成分の混合物を、生成した。次いで、これをプラネタリーニーダー(Linde)において増量剤で処理し、均一な組成物を生成した。
【0091】
(モノマー混合物の組成)
【0092】
【数1】

(複合体ペーストの組成)
【0093】
【数2】

a)メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン(67.88重量%)でシラン処理したバリウムガラス1.0μm、メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン(4.42重量%)でシラン処理したSpherosil(14.42重量%)、フッ化イッテルビウムYbF(13.28重量%)
複合体ペーストから、Spectramat(Ivoclar Vivadent AG)を用いて3分間2回の照射時間で試験片(円板:高さ2mm、直径10mm)を調製した。次いで、試験片を、3日間37℃にてエタノールで徹底的に抽出した。抽出物において、非変換可溶成分の割合を、高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)によって決定した。定量的測定を、個々のピーク面積の積分評価により行った。結果を表1に示す。
【0094】
(実施例6:重合不可能なマトリックス成分に基づく複合体(比較))
実施例5と同様に、以下に列挙したモノマー成分の混合物を、生成した。次いでこれを、プラネタリーニーダー(Linde)において増量剤で処理し、均一な組成物を生成した。
【0095】
(モノマー混合物の組成)
【0096】
【数3】

(複合体ペーストの組成)
【0097】
【数4】

a)増量剤混合物の組成−実施例5を参照。
【0098】
試験片を、複合体ペーストから実施例5に記載の様式で調製し、エタノールで徹底的に抽出した。実施例5と同じモル量の阻害剤、促進剤および開始剤を使用した。表1は、抽出物(非重合可溶性成分)の分析の結果を示す。
【0099】
(表1 試験片中の可溶成分の割合)
【0100】
【表1】

a)使用した量に対する可溶性割合%。
【0101】
表1は、所定の同じ硬化条件において、重合可能な有機成分ベースのマトリックス材料を、歯科用材料において使用した場合、可溶性構成成分の割合が明らかに低下し得ることを示し、これはその材料の生物適合性に好ましい効果を有する。
【0102】
(要約)
ラジカル重合可能な有機結合剤、少なくとも1種のラジカル重合開始剤、および少なくとも1種のラジカル重合促進剤を含む歯科用材料であって、この開始剤および促進剤の両方は、少なくとも1つのラジカル重合可能な基をそれぞれ有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書中に記載の発明。

【公開番号】特開2011−173920(P2011−173920A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−110864(P2011−110864)
【出願日】平成23年5月17日(2011.5.17)
【分割の表示】特願2005−64661(P2005−64661)の分割
【原出願日】平成17年3月8日(2005.3.8)
【出願人】(501151539)イフォクレール ヴィヴァデント アクチェンゲゼルシャフト (54)
【氏名又は名称原語表記】Ivoclar Vivadent AG
【住所又は居所原語表記】Bendererstr.2 FL−9494 Schaan Liechtenstein
【Fターム(参考)】