説明

改変された孔形成性タンパク質プロアエロリシンを用いた前立腺炎の処置のための方法

本開示は、前立腺炎ならびに同様の疾患および/または病気を含む任意の病気を治療するための方法および組成物を含む。これらの方法および組成物は、変異プロアエロリシン・タンパク質を含めて、改変され標的化された孔形成性タンパク質の使用を伴う。一局面において、被験体における前立腺炎を処置する方法が提供され、この方法は、治療有効量の改変された孔形成性タンパク質を上記被験体に投与する工程を包含し、上記改変された孔形成性タンパク質は、天然に存在する孔形成性タンパク質から得られ、かつ前立腺特異的プロテアーゼによって切断可能な活性化配列および/または前立腺細胞を選択的に標的とすることが可能な1つ以上の前立腺特異的標的化ドメインから選択される1つ以上の前立腺選択的改変を含み、上記改変された孔形成性タンパク質は、前立腺細胞を選択的に殺傷することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願への相互参照)
本出願は、2008年12月15日に出願された、米国仮出願番号61/122,709の利益を主張し、上記米国仮出願は、その全容が参照によって本明細書に援用される。
【0002】
(本開示の分野)
この開示は、前立腺炎の分野に関し、特に、前立腺炎の処置用に改変された孔形成性タンパク質の使用に関する。
【背景技術】
【0003】
慢性前立腺炎は、男性が泌尿器科医を訪れる最も一般的な理由の1つと考えられており、良性前立腺肥大症(「BPH:benign prostatic hyperplasia」)あるいは前立腺癌と比べて外来患者の通院が多い状況も特徴付けている。少なくとも1つの報告は、男性の35〜50%が人生のいずれかの時期に前立腺炎に罹るであろうと述べている。この病気を処置するために従来利用されてきた処置には一般に問題があった;これらの個人の大部分が経験する痛みを首尾よく軽減できるようにこの病気を期待通りに処置することができるという希望を、多くの処置は与えてこなかった。実際、前立腺炎の基礎的な疫学に関する知識、およびこれに利用できる診断ならびに処置の欠如ゆえに、この疾患は、「臨床的無知のくずかご」と呼ばれてきた。非特許文献1を参照。
【0004】
主として高齢の男性に発症するBPHとは異なり、前立腺炎は、より若い(18〜50歳の年齢層の男性)および(50歳を越えた)より高齢の男性の両方に発症する可能性があり、報告されている患者年齢の中央値はおよそ40歳である。50歳未満の男性に最も多い泌尿器の診断は、前立腺炎であると思われる。
【0005】
前立腺炎にはいくつかのカテゴリーもしくはタイプが存在し、それぞれが異なった特性、徴候、症状または処置プロトコルを持ちうる。タイプIは、急性細菌性前立腺炎;タイプIIは、慢性細菌性前立腺炎;タイプIIIは、慢性(非細菌性)前立腺炎および/または慢性骨盤痛症候群(CPPS:chronic pelvic pain syndrome);タイプIVは、無症候性炎症性前立腺炎である。非特許文献2を参照。タイプIII前立腺炎(非細菌性慢性前立腺炎)は、一般に、標準的な微生物学的方法論によって検出される尿路病原性細菌が存在しない状態での尿生殖器の痛みと関連付けられる。同文献。タイプIII前立腺炎は、さらにIIIA(炎症性)あるいはIIIB(非炎症性)と定義することができる。IIIA炎症性タイプの前立腺炎は、前立腺圧出分泌物または液、前立腺マッサージ後の尿、あるいは精液中に白血球が存在することを根拠として特定することができ、一方でIIIB非炎症性タイプは、同様の検体中に検出可能な白血球が存在しないことを根拠として特定することができる。前立腺炎のこのタイプは、変動的排尿、性的機能不全、および/または心理的変化(特に抑鬱)とも関連することがありうる。
【0006】
米国において報告された前立腺炎の症例のうち、タイプIすなわち急性細菌性タイプは、少数に過ぎないと考えられる。その一方で、残りの種類の慢性前立腺炎が推定3千万人の男性を苦しめている可能性がある。従って、慢性前立腺炎は、保健医療の主要な課題である。
【0007】
前立腺炎の症状の重症度といくつかの治療薬への反応性とを評価するために、いくつかの標準化された評価プロトコルを用いることができる。例えば、NIH慢性前立腺炎症状インデックス(NIH−CPSI:NIH Chronic Prostatitis Symptom Index)が、1999年以降に生じた臨床試験の最適な基準として推薦された。同様に、処置効果を診断し評価するために、7つの質問に関する国際前立腺症状スコア(IPSS:International Prostate Symptom Score)システムのような他のスコア、インデックスおよび調査を用いることができる。
【0008】
様々な処置プロトコルが用いて、前立腺炎の処置が試みられてきた。タイプIおよびIIは、前立腺に浸入する特定の抗生物質を用いて首尾よく扱うことができるのに対して、タイプIII前立腺炎を持つ患者は、抗生物質で処置したときに首尾よく反応する度合いはそれほど高くなかった。他の処置法は、(閉塞性排尿に対する)アルファ遮断薬、および抗炎症剤のような他の薬物を含む。加えて、あるいは代わりに、医師は、ライフスタイルの変化、例えば食事制限(カフェイン摂取の削減など)、運動、性的行為、および/または支持的精神療法を提案することもできる。
【0009】
提案された追加的な処置プロトコルは、患者が行うかまたは他者が補助する(例えば、週2〜3回の)直腸経由の反復的前立腺マッサージ、フィトセラピー、経尿道的マイクロ波高温度(熱)治療、あるいは根治的な前立腺経尿道的切除術、根治的なオープン前立腺摘除術および膀胱頸部手術さえも含む。残念ながら、前立腺炎のこれらの処置は、惨めな治癒率と、受け入れ難く高い再発もしくはぶり返し率とをもたらす。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Collinsら、J.Urology(1998)159:1224〜1228
【非特許文献2】Nickelら、Urology(1999)54(2);229〜233
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
以上のことを考慮すると、慢性前立腺炎に対する改善されたおよび/または代わりの処置を提供することが依然として必要である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示の要旨
本明細書に開示されるのは、前立腺炎および同様の疾患および/または病気を処置するための改変された孔形成性タンパク質を使用する方法である。いくつかの実施形態において、改変された孔形成性タンパク質は、被験体における前立腺サイズ(体積)を、例えば、処置を受けていない同じ状況の被験体と比較して減少させる。
【0013】
本開示の方法は、1つ以上の改変された孔形成性タンパク質の使用を含む。これらの改変されたタンパク質は、典型的に、1つ以上の前立腺選択的改変を備える孔形成性タンパク質のような天然に存在する孔形成性タンパク質から得られる。
【0014】
いくつかの実施形態は、被験体における前立腺サイズを減少させるため、および/または前立腺炎もしくは同様の疾患または病気を処置するために、改変された孔形成性タンパク質を薬剤の調合に使用することを含む。
【0015】
いくつかの実施形態は、被験体における前立腺サイズを減少させる方法を含み、該方法は、改変された孔形成性タンパク質を備える組成物の治療有効量を上記被験体に投与することを含む。本開示のいくつかの実施形態において、本方法は、慢性前立腺炎のような前立腺炎、ならびに関連する疾患および病気を処置することを含む。
【0016】
いくつかの実施形態は、前立腺に特有の病気および/または疾患、特に(慢性前立腺炎のような)前立腺炎の処置のために改変されたプロアエロリシン(proaerolysin)・タンパク質を用いる方法を含む。例えば、例となる改変されたプロアエロリシン・タンパク質は、配列番号4によって提示されるアミノ酸配列を持つ。一例において、該組成物は、配列番号4によって提示されるアミノ酸配列を持つ改変されたプロアエロリシン・タンパク質、およびポリヒスチジンタグ(例えば、6−ヒスチジンC末端タグ)を含む。
【0017】
配列表
添付の配列表に列挙された核酸およびアミノ酸配列は、ヌクレオチド塩基に対する標準的な文字略語、およびアミノ酸に対する3文字コードを用いて示されている。それぞれの核酸配列の1本鎖のみが示されるが、表示された鎖を任意に参照することにより、相補鎖が含まれることが理解される。
【0018】
配列番号1および2は、野生型プロアエロリシンのそれぞれ核酸配列およびアミノ酸配列を示す。
【0019】
配列番号3および4は、プロアエロリシンのフューリン部位が、PSA切断部位で置換えられた(本明細書ではPRX302と呼ばれる)変異プロアエロリシンのそれぞれ核酸配列およびアミノ酸配列を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本開示の詳細な説明
本明細書に開示されるのは、改変された孔形成性タンパク質を用いて、前立腺炎および同様の疾患および/または病気を処置するための方法である。本方法は、前立腺の炎症または感染に起因する前立腺サイズの増加を伴う、任意の前立腺疾患および/または病気を処置するのに特に有用である。これらの実施形態において、本方法の使用は、炎症および結果として生じるニューロパシーの十分な低減をもたらし、患者にとって有益な結果、例えば、症状の軽減または除去を提供する。
【0021】
本開示のいくつかの実施形態は、被験体における前立腺炎および/または同様の疾患もしくは病気を処置するための方法を含み、該方法は、改変された孔形成性タンパク質の有効量を上記被験体に投与することを含む。
【0022】
いくつかの実施形態は、前立腺炎および/または同様の疾患もしくは病気の処置のための薬剤の調合に、改変された孔形成性タンパク質を使用することを含む。
【0023】
いくつかの例において、本方法は、慢性前立腺炎を含む前立腺炎のような、いくつかの前立腺に特有の病気および/または疾患の処置のために、改変されたプロアエロリシン・タンパク質を用いる。改変されたプロアエロリシン・タンパク質は、大葉結合領域における1つ以上の変異、および/または前立腺細胞を選択的に標的とすることが可能な前立腺特異的標的化ドメイン、および/または前立腺特異的プロテアーゼによって切断可能な活性化配列から選択される、1つ以上の前立腺特異的改変を含むことができ、上記改変されたプロアエロリシンは、選択的に前立腺細胞を殺傷することができる。
【0024】
本開示の方法は、1つ以上の改変された孔形成性タンパク質(MPP:modified pore−forming protein)を含む。これらの改変されたタンパク質は、典型的に天然に存在する孔形成性タンパク質(nPP:naturally−occurring pore−forming protein)から得られ、1つ以上の前立腺選択的改変を典型的に含む。これらの改変は、前立腺特異的切断部位を提供するための様々なメカニズムの1つ以上を含むことができる。本開示の例となる実施形態において、これらの改変は、前立腺特異的プロテアーゼによって切断可能な活性化配列、および/または前立腺細胞を選択的に標的とすることが可能な1つ以上の前立腺特異的標的化ドメインから選択される。一例において、該改変は、前立腺細胞を選択的に標的とすることができ、続いて1つ以上の機能に影響を及ぼすべく前立腺細胞を処置することができる改変された孔形成性タンパク質またはコンストラクトをもたらす。
【0025】
特定の実施形態において、組成物は、孤立したMPP、およびMPP機能を阻害しないポリヒスチジンタグのようなアフィニティタグを含む。一例において、ポリヒスチジンタグは、連続的な6ヒスチジン残基を含み、MPPのC末端および/またはN末端に付けられる。例えば、ポリヒスチジンタグ(例えば、6−Hisタグ)は、配列番号4によって提示されるアミノ酸配列を含むMPPのC末端に付けることができる。
【0026】
上述のように、MPPは、天然に存在する孔形成性タンパク質(nPP)から得られる。特定の作用様式に限定される意図は持たないが、MPPは、標的細胞の細胞膜に入って膜に孔またはチャンネルを形成し、細胞死を引き起すことによって細胞を殺すと考えられている。一実施形態において、MPPは、不可逆的に細胞膜に入り、それ故にバイスタンダー細胞は影響を受けない。MPPは、前立腺選択的改変を含むことができ、結果として、他の組織からの細胞と比較して、前立腺細胞を選択的に標的とするMPPの能力がもたらされる。MPPは、前立腺細胞をin vivoで選択的に殺傷することができ、前立腺の重さまたは体積をin vivoで減少させることができる。かくして、本開示のMPPは、単独で、あるいは(閉塞性排尿に対する)アルファ遮断薬、抗生物質、抗炎症剤、ライフスタイルの変化、例えば食事制限(カフェイン摂取の削減など)、運動、性的行為、および/または支持的精神療法もしくは「対処メカニズム」を含むが、それらには限定されない前立腺炎の処置のための他の治療と組み合わせて用いることができる。これは、限局性または転移性前立腺癌を処置するための改変された細胞溶解タンパク質の使用について記載する米国特許出願第20040235095号に記載される方法とは対照的である。
【0027】
用語
別に定義されない限り、本明細書で使用される技術用語および科学用語は、本開示が属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を持つ。
【0028】
技術および手技は、当分野における従来法および様々な一般参考文献(一般的にSambrookら、 Molecular Clonig:A Laboratory Manual,2d ed.(1989) Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.、および蛍光技術についてLakowicz,J.R. Principles of Fluorescence Spectroscopy,New York:Plenum Press(1983)を参照)に従って、一般的に行なわれる。化学合成、化学分析、およびバイオアッセイには標準的な技術が用いられる。本開示を通じて用いられる通り、以下の用語は、他に指示されない限り、以下の意味を持つと理解されるべきである。
【0029】
本明細書では、用語「約」は、公称値から+/−10%の変化を意味する。当然のことながら、かかる変化は、具体的に言及されるか否かに関わらず、本明細書に提供されるどの任意の値にも常に含まれる。
【0030】
用語「寛解させる」は、一時的および長期的の両方で処置される疾患または障害の1つ以上の症状、兆候、および特徴の抑止、予防、減少、または改善を含む。
【0031】
用語「動物」は、本明細書では、ヒト、および哺乳動物、鳥類および魚類を含むがそれらには限定されない非ヒト動物の両方を意味する。
【0032】
本開示のタンパク質の投与に関する語句「1つ以上の追加的な治療薬または処置と組み合わせて」は、同時(併用)投与および連続投与を含むことが意図される。連続投与は、様々な順序および様々な経路での被験体への治療薬(単数または複数)の投与、または追加的な処置の実施、および本開示の化合物(単数または複数)の投与を包含することが意図される。
【0033】
用語「前立腺特異的」は、本明細書では、他の細胞タイプではなくむしろ前立腺細胞に選択的な物質、もしくは成分または物質の部分を意味する。例えば、前立腺特異的実体/部分は、前立腺細胞によって選択的に発現されること、前立腺細胞と選択的に関連付けられること、前立腺細胞によって選択的に活性化されること、前立腺細胞に選択的に結合することなどができる。
【0034】
用語「前立腺特異的活性化配列」は、本明細書では、1つ以上の前立腺特異的プロテアーゼ切断部位を組込んだアミノ酸残基の配列を意味する。これらの部位は、典型的に、前立腺特異的プロテアーゼによって選択的に切断または加水分解される。
【0035】
用語「前立腺特異的標的化ドメイン」は、本明細書では、他の細胞タイプではなくむしろ前立腺細胞に選択的に結合することができるペプチド、リガンド、毒素、また抗体のような分子を意味する。
【0036】
用語「選択的にハイブリダイズする」は、本明細書では、核酸が第2の核酸に特異的に結合する能力を意味する。ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、およびそれらのフラグメントは、非特異的核酸への検出可能な相当量の結合を最小限に抑えるハイブリダイゼーションおよび洗浄条件下において、標的核酸鎖と選択的にハイブリダイズする。当分野で知られ、かつ本明細書で議論されるように、選択的なハイブリダイゼーション条件を実現するために、高ストリンジェンシー条件を用いることができる。典型的に、ハイブリダイゼーションおよび洗浄条件は、従来のハイブリダイゼーション技術に従って高ストリンジェンシーにおいて実行される。
【0037】
用語「被験体」または「患者」は、本明細書では、処置を必要とする動物を意味する。
【0038】
用語「治療」および「処置」または「処置すること」は、被験体の状態を改善する意図を持って行われる介入を意味する。達成されるいかなる有益な結果も、これらの用語の範囲内に含むことが意図される。改善は、主観的であっても客観的であってもよく、処置される疾患または障害に係る症状を寛解させること、進行を予防すること、または病状を変化させることに関係する。かくして、用語「治療」および「処置」は、(本明細書で同義に用いられるように)最も広い意味で用いられ、様々な段階における疾患または障害の予防、(予防法)、緩和、軽減、および/または治癒を意味する。被験体の状態の劣化を予防することも本用語に包含される。治療/処置を必要とする被験体は、かくして疾患または障害を既に持つもの、ならびに疾患または障害の傾向があるもの、あるいは発症する恐れのあるもの、および疾患または障害を予防すべきものを含む。
【0039】
用語「治療有効量」は、所望の生物学的効果を達成するために十分な組成物の量、例えば、前立腺の炎症または感染に起因する前立腺サイズの増加を伴う任意の前立腺疾患および/または病気と関連する1つ以上の徴候または症状を軽減するために有効な量である。例えば、治療有効量は、炎症、および結果として発生するニューロパシーの十分な低減をもたらし、患者にとって有益な結果、例えば、症状の軽減または除去を提供する組成物の量である。
【0040】
一例において、治療有効量は、前立腺圧出分泌物または液、前立腺マッサージ後の尿、または精液中に存在する白血球の減少(例えば処置前と比較して、あるいは非細菌性慢性前立腺炎を持つが治療を受けていない被験体と比較して、例えば、検出可能な白血球の少なくとも10%、20%、30%、50%、70%、80%、90%、または95%の減少)のような、(タイプIIIA前立腺炎のような)非細菌性慢性前立腺炎と関連する1つ以上の症状を軽減または阻止する量である。他の例において、治療有効量は、(例えば処置前と比較して、あるいは非細菌性慢性前立腺炎を持つが治療を受けていない被験体と比較して)少なくとも10%、20%、30%、50%、70%、80%、90%、95%のサイズ減少のように、前立腺サイズ(例えば、体積)を減少させ、それによって変動的排尿、性的機能不全および/または心理的変化(特に抑鬱)のような、病気と関連する1つ以上の症状を軽減する量である。
【0041】
MPPの有効量は、処置の経過中に単一用量または数用量で、例えば毎日、投与することができる。しかしながら、の有効量は、処置される被験体、処置される病気の重症度およびタイプ、ならびに投与の仕方に依存するであろう。例えば、MPPの治療有効量は、静脈内投与される場合、70kg体重当たり約1〜10mg、例えば約2.8mgから、前立腺内投与される場合、70kg体重当たり約10〜100mg、例えば約28mgと変化しうる。加えて、炎症の抑制をもたらすためにMPPによって溶解される前立腺細胞の治療有効量は、約10から10細胞まで変化しうる。
【0042】
用語「タイプIII前立腺炎」は、本明細書では、標準的な微生物学的方法論によって検出される尿路病原性細菌が存在しない状態での尿生殖器の痛みと一般に関連付けられる、非細菌性慢性前立腺炎を意味する。タイプIII前立腺炎は、タイプIIIA(炎症性)またはIIIB(非炎症性)前立腺炎を含む。前立腺炎のこれらのタイプは、前立腺圧出分泌物または液、前立腺マッサージ後の尿、または精液中の白血球の存在(タイプIIIAに対して)、あるいは同様の検体中の検出可能な白血球の不在(タイプIIIBに対して)を含めて、当業者に知られる方法によって特定することができる。前立腺炎のこのタイプは、変動的排尿、性的機能不全、および/または心理的変化と関連付けることができる。
【0043】
本明細書に列挙されるすべてのGenBank Accession番号は、2009年12月14日に提供されたものとして参照により組み込まれる。
【0044】
I.改変された孔形成性タンパク質(MPP)
本開示の方法で用いることができる改変された孔形成性タンパク質(MPP)は、天然に存在する孔形成性タンパク質(nPP)から得られ、他の正常組織からの細胞と比較して、前立腺細胞を選択的に殺傷することができるように1つ以上の前立腺選択的改変を含むべく改変されたものである。他の組織からの細胞と比較して、前立腺細胞を選択的に殺すことは、MPPが、例えば肺、脾臓、血液の細胞のような他のタイプの細胞に比べて、前立腺細胞をより効果的に殺傷することができることを意味する。適切なMPPは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、米国特許出願第20040235095号に記載されているものを含む。
【0045】
1.天然に存在する孔形成性タンパク質(nPP)
本開示のMPPが得られる適切なnPPは、標的細胞の膜に孔もしくはチャンネルを形成して細胞死を招くことができる様々な細菌毒素を含む。適切な細菌毒素は、プロトキシンとして生成され、その後タンパク質分解的切断によって活性化されるもの、ならびに活性からで生成され、追加的な処理を必要としないものを含む。一実施形態において、nPPは、プロトキシンとして合成される大きい細胞毒性タンパク質であり、これが、活性化配列におけるプロテアーゼ切断により活性化されて、標的細胞の細胞膜に孔またはチャンネルを形成し、かくして急速な細胞溶解によって細胞死をもたらす。
【0046】
この実施形態における適切なnPPは、次の特徴を有する:プロテアーゼ切断を用いた阻害ドメインの除去によって活性化される孔形成活性、および1つ以上の結合ドメインを介して細胞膜上に存在する受容体に結合する能力。多くのかかるnPPがクローニングされ、組換え型が形成されてきた(例えば、Imagawaら、FEMS.Microbiol.Lett.17:287−292,1994;Mezaら、FEMS Microbiol.Lett.145:333−339,1996参照)。
【0047】
一実施形態において、MPPは、アエロリジンまたはアエロリジン関連のポリペプチドのようなnPPから得られる。例は、以下には限定されないが、エロモナス・ハイドロフィラ、エロモナス・トロータおよびエロモナス・サルモニシダからのプロアエロリシンのようなアエロリジンの同族体、およびクロストリジウム・セプティカムからのアルファ毒素(Ballardら、Infect.Immun.63:340−344,1995;Gordonら、J.Biol.Chem.274:27274−27280,1999;Genbank Accession番号S75954)ならびに以下のポリペプチド:バチルス・アントラシス防御抗原、ビブリオ・コレラエVCC毒素、クロストリジウム・パーフリンジェンスからのイプシロン毒素、およびバチルス・チューリンゲンシスのデルタ毒素(Genbank Accession番号D00117)を含む。
【0048】
上述のエロモナス種からのプロアエロリシン(PA:Proaerolysin)ポリペプチドは、キャラクタライゼ−ションがなされている。これらのポリペプチドは、相互に80%超のペアワイズ配列同一性を提示する(Parkerら、Progress in Biophysics & Molecular Biology 88:91−142,2005)。これらのPAのポリペプチドのそれぞれは、およそ470アミノ酸残基を持つ約52kDaのプロトキシンである。天然に存在する多くのnPPに対するヌクレオチドおよびタンパク質配列が当分野で知られている。非限定の例が、以下の表に列挙される:
【0049】
【表1】

エロモナス・ハイドロフィラのPAタンパク質は、ポリペプチドのいわゆる小葉にあって本明細書では小葉結合ドメイン(SBD:small lobe binding domain)と呼ばれる結合ドメイン(およそアミノ酸1〜83)と、活性化配列におけるプロテアーゼ切断によって除去されてPAを活性化するC末端阻害性ペプチド(CIP:C−terminal inhibitory peptide)ドメイン(おおよそアミノ酸427〜470)とを含む。CIPドメインを除去するための活性化配列における切断は、フューリンおよびトリプシンを含めて、多くの遍在性プロテアーゼによって実行することができる。およそ84〜426のアミノ酸残基がPAのポリペプチドの大葉として知られ、毒素ドメインと、本明細書では大葉結合ドメイン(LBD:large lobe binding domain)と呼ばれる第2の結合ドメインを含む、他の機能ドメインとを含む。PAタンパク質のこれらおよび他の特性は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、国際公開第06133553号に記載されている。
【0050】
クロストリジウム・セプティカムからのアルファ毒素は、有意な配列同一性および他の類似性(Parkerら、上記を参照)を根拠として、プロアエロリシンの同族体であると考えられている。アルファ毒素のこれらおよび他の特性は、国際公開第06133553号に記載されている。
【0051】
バチルス・チューリンゲンシスのデルタ毒素の活性化配列は、いくつかの昆虫の中腸にあるプロテアーゼによって切断され、活性な内毒素を生成する(Mirandaら、Insect Biochem.Mol.Biol.31:1155−1163,2001)。デルタ毒素のこれらおよび他の特性は、国際公開第06133553号に記載されている。
【0052】
一実施形態において、本開示によるMPPは、エロモナス・ハイドロフィラからのプロアエロリシン・ポリペプチドのようなプロアエロリシン・ポリペプチドから得られる。ある特定の例では、MPPは、配列番号4で示されるアミノ酸配列を持つプロアエロリシン・ポリペプチドから得られる。かかる例において、遺伝子組換えプロアエロリシンに含まれるのは、配列番号2の残基427から432のフューリン認識および活性化配列が、配列番号4の残基427から432に示されるような前立腺特異抗原(PSA:prostate specific antigen)によって認識かつ活性化される配列によって置換えられたものである。さらなる例では、プロアエロリシンにアフィニティタグが付けられる。例えば、6つのヒスチジンを含むHisタグのようなポリヒスチジンタグが、プロアエロリシンのCまたはN末端に付けられる。ある特定の例では、アフィニティタグは、プロアエロリシンのC末端に付けられる。いかなる特定の理論にも捉われることなく、配列番号4のC末端への6つのヒスチジン(Hisタグ)の付加は、タンパク質の高純度化を促進して発現を増強すると思われる。このMPPは、公知であり、本明細書ではPRX302またはPSA−PAH1と呼ばれる。他の例では、MPPは、配列番号3に記載される核酸配列によってコードされるプロアエロリシン・ポリペプチドである。
【0053】
本開示の別の実施形態において、MPPは、アルファ毒素のポリペプチドから得られる。クロストリジウム・セプティカムからのアルファ毒素は、有意な配列同一性および他の類似性(Parkerら、上記を参照)を根拠として、プロアエロリシンの同族体であると考えられている。アルファ毒素は、C末端阻害性ペプチド(CIP)ドメインを除去するための活性化配列におけるプロテアーゼ切断によって活性化される、46,450Daのプロトキシン(およそ443アミノ酸)として分泌され、グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI:glycosyl−phosphatidylinositol)アンカー型タンパク質にも結合する。アルファ毒素は、しかしながら、PAの小葉に対応する領域を持たない。このポリペプチドの活性化は、フューリン切断部位におけるプロテアーゼ切断によって生じる(Gordonら、Infect.Immun.65:4130−4134,1997)。クロストリジウム・セプティカムのアルファ毒素の核酸配列の例は、GenBankTM Accession番号S75954に提供され、クロストリジウム・セプティカムのアルファ毒素のタンパク質配列の例は、GenBankTM Accession番号AAB32892に提供されている。配列相同性を根拠として、アルファ毒素は、GPIアンカー型タンパク質に結合するための同様の構造および同様の能力を有すると考えられる。
【0054】
さらなる実施形態において、MPPは、活性化のためにプロテアーゼ切断を必要としない、従って活性化配列を持たないnPPから得られる。これらのnPPを改変して前立腺特異的プロテアーゼ切断部位を該nPPに挿入することができ、結果として前立腺細胞を殺すために選択的に活性化されうるMPPがもたらされる。かかるnPPの例は、スタフィロコッカス・アウレウスのγ溶血素を含む。このnPPの場合、当分野で知られるように、活性化配列は、孔形成ドメインの中心部に挿入される(Panchalら、Nat.Biotech.14:852−856,1996)。
【0055】
本開示は、nPPの生物学的に活性なフラグメントから得られるMPPをさらに含む。nPPの生物学的に活性なフラグメントは、孔を形成して細胞を殺傷することができるフラグメントである。適切なフラグメントは、CIPドメインの除去によって、標的細胞に孔を形成するように活性化することができるフラグメントを含む。例えば、PAの場合には、適切なフラグメントは、タンパク質の結合ドメインならびにCIPドメインおよび活性化配列を含むフラグメントであろう。かくして、本開示の一実施形態において、MPPは、結合ドメイン、CIPドメインおよび活性化配列を含んだプロアエロリシンのフラグメントから得られる。別の実施形態において、MPPは、結合ドメイン、活性化配列を含むが、CIPドメインの一部しか含まないプロアエロリシンのフラグメントから得られる。
【0056】
2.前立腺特異的改変
本開示に従って、選択されたnPPが、1つ以上の前立腺特異的改変を含むことによってMPPを形成するように改変される。例となる前立腺特異的改変は、前立腺特異的活性化配列の組込み、1つ以上の結合ドメインの(機能置換えを含む)機能削除、前立腺特異的標的化ドメインの付加、またはそれらの組み合わせを含む。
【0057】
一実施形態において、MPPは、前立腺細胞におけるMPPの選択的な活性化を可能にする前立腺特異的活性化配列を含む。前立腺特異的活性化配列は、nPPの天然に存在する活性化配列の改変によって発生させることができ、あるいは天然に存在する活性化配列を持たないnPPへの前立腺特異的活性化配列の付加によって発生させることもできる。別の実施形態において、MPPは、前立腺特異的活性化配列および1つ以上の前立腺特異的標的化ドメインを含む。別の実施形態において、MPPは、前立腺特異的活性化配列、およびSBDに対する改変を含む。別の実施形態において、MPPは、前立腺特異的活性化配列、およびLBDに対する改変を含む。
【0058】
一実施形態において、MPPは、前立腺細胞におけるMPPの選択的な活性化を可能にする1つ以上の前立腺特異的標的化ドメインを含む。別の実施形態において、MPPは、1つ以上の前立腺特異的標的化ドメイン、およびSBDに対する改変を含む。別の実施形態において、MPPは、前立腺特異的標的化ドメイン、およびLBDに対する改変を含む。
【0059】
また別の実施形態において、MPPは、前立腺特異的活性化配列、1つ以上の前立腺特異的標的化ドメイン、およびLBDに対する改変を含む。別の実施形態において、MPPは、前立腺特異的活性化配列、1つ以上の前立腺特異的標的化ドメイン、およびSBDに対する改変を含む。
【0060】
一実施形態において、MPPは、前立腺特異的活性化配列、および天然の結合ドメインに対する1つ以上の改変を含む。別の実施形態において、MPPは、前立腺特異的標的化ドメイン、および天然の結合ドメインに対する1つ以上の改変を含む。また別の実施形態において、MPPは、前立腺特異的活性化配列、前立腺特異的標的化ドメイン、および 天然の結合ドメインへの1つ以上の改変を含む。
【0061】
プロアエロリシンに加えうる前立腺特異的改変の組み合わせの代表的な非限定の例は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、国際公開第06133553号に開示されている。
【0062】
活性化配列の改変
上述の通り、前立腺特異的活性化配列を提供するための天然に存在する活性化配列の改変によって、前立腺特異的活性化配列が組み込まれるようにnPPを改変することができ、あるいは天然に存在する活性化配列を持たないnPPに、前立腺特異的活性化配列を付加することができる。本開示による前立腺特異的活性化配列は、1つ以上の前立腺特異的プロテアーゼ切断部位を組み込んだアミノ酸配列である。前立腺特異的プロテアーゼ切断部位は、前立腺特異プロテアーゼによって認識され、選択的かつ効率的に加水分解される(切断される)アミノ酸配列である。一実施形態において、前立腺特異的プロテアーゼは、他の細胞タイプに比べて、前立腺細胞でより高レベルに発現されるプロテアーゼである。前立腺特異的プロテアーゼの例は、以下には限定されないが、PSA(前立腺特異抗原)、PSMA(前立腺特異膜抗原:prostate−specific membrane antigen)、およびHK2(ヒト腺性カリクレイン2:human glandular kallikrein 2)切断配列を含む。これらの前立腺特異的プロテアーゼによって認識される切断部位の多くの例が、当分野で知られている。
【0063】
前立腺特異的プロテアーゼ活性化配列を提供するための天然に存在する活性化配列に対する改変は、当分野で知られる方法を用いて発生させることができる。天然に存在する活性化配列の改変は、天然の活性化配列の機能削除をもたらす。機能削除は、天然に存在する活性化配列に加えられてそれを不活性化する変異、部分的もしくは完全な削除、挿入、または他の変化によって達成することができる。
【0064】
一実施形態において、nPPの天然に存在する活性化配列が、前立腺特異的活性化配列の挿入によって機能削除される。別の実施形態において、天然に存在する活性化配列の機能削除は、天然の活性化配列の1つ以上のアミノ酸残基における変異、すなわち前立腺特異的活性化配列を生成する変異を通じて達成される。代わりの実施形態において、nPPの天然に存在する活性化配列は、該活性化配列の天然のプロテアーゼ切断部位を、前立腺特異的プロテアーゼ切断部位で置換えることによって機能削除される。
【0065】
一実施形態において、1つ以上の前立腺特異的プロテアーゼ切断部位が、MPPの天然のプロテアーゼ切断部位を機能的に置換える。例えば、前立腺特異的プロテアーゼ切断部位は、PAの天然のフューリン切断部位を機能的に置換えることができる。この置換えは、PSA、PSMA、またはHK2のような、酵素的に活性な前立腺特異的プロテアーゼの存在下において細胞溶解活性を持つMPPをもたらす。適切なPSA、PSMA、またはHK2切断部位は、当分野で知られており、参照によりその全体が組み込まれる、国際公開第06133553号に記載されている。
【0066】
別の実施形態において、MPPは、nPPの天然のプロテアーゼ切断部位を削除して、前立腺特異的活性化配列を挿入することによって発生させることができる。例えば、PAのフューリン切断部位(アミノ酸427〜432)を削除して、そこにPSA切断部位のような前立腺特異的プロテアーゼ切断部位挿入をすることができる。
【0067】
さらなる実施形態において、nPPの天然のプロテアーゼ切断部位がもはや機能的でないように変異し、前立腺特異的活性化配列が変異したプロテアーゼ切断部位に挿入されるか、あるいは天然のプロテアーゼ切断部位のNまたはC末端に付加される。例えば、PAのフューリン切断部位を変異させることができ、PSA切断部位のような前立腺特異的プロテアーゼ切断部位が、変異したフューリン部位に挿入されるか、またはそのNまたはC末端に付加される。
【0068】
また別の実施形態では、前立腺特異的活性化配列が、天然に存在する活性化配列を持たないnPPに加えられる。例えば、活性化されて細胞を殺すためにプロテアーゼ切断を必要としないスタフィロコッカス・アウレウスのα溶血素は、1つ以上の前立腺特異的プロテアーゼ切断部位を含むように、延いては選択的に活性化されて前立腺細胞を殺傷することができるように操作されることができる。
【0069】
前立腺特異的切断部位
上述の通り、様々な前立腺特異的プロテアーゼと、それらが認識するプロテアーゼ切断部位とが当分野で知られている。例は、PSA、PSMAおよびHK2を含むが、これらには限定されない。一実施形態において、MPPは、PSAに特異的な切断部位を含む前立腺特異的活性化配列を含むように改変される。PSAに特異的な切断部位は、前立腺特異抗原(PSA)によって認識されて、選択的かつ効率的に加水分解される(切断される)アミノ酸配列である。PSAは、特定のペプチド配列を認識して加水分解する能力を持つセリン・プロテアーゼである。それは、前立腺細胞により酵素的に活性な形で分泌され、血液循環に入ると不活化される。血液も前立腺以外の正常組織も酵素的に活性なPSAを含まないので、PSAのタンパク分解活性を利用して、前立腺でMPPを活性化することができる。
【0070】
PSAに特異的な様々な切断部位が当分野で知られている。例は、米国特許第5,866,679号、第5,948,750号、第5,998,362号、第6,265,540号、第6,368,598号、および第6,391,305号に開示されるものを含むが、これらには限定されない。
【0071】
さらなるPSAに特異的な切断部位が、ヒト精液タンパク質蛋白質セメノゲリンIおよびIIのPSA切断マップ、およびセルロース膜に基づく試験法(Denmeadeら、Cancer Res.,57:4924−4930,1997参照)に基づいて知られており、改変されたMPPを生成するために用いることができる。例えば、当分野で知られるように、プロアエロリシンの野生型フューリン・プロテアーゼ活性化部位(アミノ酸427〜432)を置換えることができるPSA切断部位の1つを含むように、MPPを改変することができる。
【0072】
一実施形態において、MPPは、PSA切断部位を含んだ活性化配列を含むアミノ酸配列を持つ。別の実施形態において、MPPは、PSMAに特異的な切断部位を含んだ前立腺特異的活性化配列を含む。PSMAに特異的な適切な切断部位の例は、当分野で知られており、例えば、参照によりその全体が組み込まれる国際公開第02/43773号に見出すことができる。一般的に言って、PSMA切断部位は、少なくともジペプチドXを含む。該ジペプチドは、位置Xにアミノ酸GluまたはAspを含む。Xは、Glu、Asp、Gln、またはAsnとすることができる。トリペプチドXも適切であり、XおよびXは先の通り、XはGlu、Asp、Gln、またはAsnと定義される。テトラペプチドXも適切であり、X1〜3は先の通り、XはGlu、Asp、Gln、またはAsnと定義される。ペンタペプチドXも適切であり、X1〜4は先の通り、XはGlu、Asp、Gln、またはAsnと定義される。ヘキサペプチドXも適切であり、X1〜5は先の通り、XはGlu、Asp、Gln、またはAsnと定義される。より長い配列長のさらなるペプチドも、同じやり方で構築することができる。一般に、ペプチドは、次の配列のものである:X...X、ここでnは、2から30、2から20、2から15、または2から6であり、XはGlu、Asp、GlnまたはAsnである。一実施形態において、Xは、GluまたはAspであり、X〜Xは、Glu、Asp、GlnおよびAsnから独立に選択される。他の可能なペプチド配列は、X〜Xn−1がGluおよびAspから独立に選択され、XがGlu、Asp、GlnおよびAsnから独立に選択されることを除いて、上記の通りである。PSMA切断部位の例は、Asp−Glu、Asp−Asp、Asp−Asn、Asp−Gln、Glu−Glu−Glu、Glu−Asp−Glu、Asp−Glu−Glu、Glu−Glu−Asp、Glu−Asp−Asp、Asp−Glu− Asp、Asp−Asp−Glu、Asp−Asp−Asp、Glu−Glu−Gln、Glu−Asp−Gln、Asp−Glu−Gln、Glu−Glu−Asn、Glu−Asp−Asn、Asp−Glu−Asn、Asp−Asp− Gln、およびAsp−Asp−Asnである。
【0073】
追加的な実施形態において、MPPは、HK2に特異的な切断部位を含んだ前立腺特異的活性化配列を含む。HK2に特異的な切断部位の例も、当術分野で知られており、例えば、参照によりその全体が組み込まれる国際公開第01/09165号に記載されている。HK2によって認識される切断部位には、少なくともアミノ酸配列Xが隣接する。このアミノ酸配列は、位置Xにアミノ酸のアルギニン、ヒスチジンまたはリジンを含む。Xは、アルギニン、フェニルアラニン、リジン、またはヒスチジンとすることができる。Xは、リジン、セリン、アラニン、ヒスチジンまたはグルタミンとすることができる。Xは、0から20個のさらなるアミノ酸からとすることができ、少なくとも2個のさらなるアミノ酸とすることができる。ある実施形態において、HK2切断部位は、野生型セメノゲリンIまたはセメノゲリンIIの配列における20個のアミノ酸、すなわち認識されるセメノゲリン切断部位のN末端側に対して4から24番目のアミノ酸と実質的に同一である、Xに対する配列を含む。アミノ酸配列は、アミノ酸配列X−1を作り出すためにXのカルボキシ末端に連結されるXをさらに含むことができる。Xは、さらに10個までのアミノ酸であり、様々なアミノ酸を含むことができる。Xは、Xのカルボキシ末端に連結されたロイシン、アラニンまたはセリンを持つことができる。X−1は、LまたはDアミノ酸を含むことができる。HK2切断部位は、Xのカルボキシ末端側に位置する。
【0074】
前立腺特異的標的化ドメインの付加
一実施形態において、MPPは、前立腺細胞を選択的に標的とすることを可能にするために、1つ以上の前立腺特異的標的化ドメインを含む。前立腺特異的標的化ドメインは、MPPを前立腺細胞に向かわせることができ、MPPはそこで活性化されて、結果として前立腺細胞を殺傷することができる。標的化ドメインは、MPPのN末端またはC末端、あるいは両方に位置することができる。代わりに、標的化ドメインは、MPPの孔形成活動を阻害しない限り、MPPの別の領域に位置することもできる。
【0075】
適切な前立腺特異的標的化ドメインの例は、以下には限定されないが、他の細胞タイプに対してより前立腺細胞に高い特異性を持つペプチド リガンド、毒素、または抗体のような分子を含む。一実施形態において、前立腺組織に特異的な結合ドメインは、前立腺組織または細胞において他の細胞タイプより低いK、例えば、少なくとも20分の1、50分の1、75分の1、100分の1、さらには200分の1と低いKのように、少なくとも10分の1と低いKを持つ(すなわち、他の正常組織に比べて前立腺組織に選択的に結合する)。かかる分子は、前立腺をMPPの標的とするために用いることができる。例は、以下には限定されないが、PSA、PSMA、HK2、プロスタシン、およびヘプシンのような、相対的に前立腺に特異的なタンパク質を認識する抗体;天然または合成の黄体形成ホルモン放出ホルモン(LHRH:luteinizing hormone releasing hormone)のような前立腺に特異的な受容体を持つリガンド;および(同系のエンドセリン受容体に結合する)エンドセリンを含む。
【0076】
一実施形態において、前立腺特異的標的化ドメインの付加は、nPPの天然の結合ドメインの機能削除をもたらす。別の実施形態において、プロアエロリシンの天然の非特異的GPIアンカー型タンパク質結合ドメインは、機能削除されて前立腺特異的標的化ドメインに置換えられる。
【0077】
1つ以上の前立腺組織特異的結合ドメインを、MPPの1つ以上のアミノ酸に連結することができるが、理想的には該ドメインは、MPPが細胞膜に孔を形成する能力、あるいは該当する場合には、PSAのような前立腺特異的プロテアーゼによって活性化される能力を著しくは阻害しない。タンパク質またはペプチドをMPPに結合させる方法は、当分野で知られており、例えば、前立腺組織特異的結合ドメインのMPPへの連結を助けるために、前立腺組織特異的結合ドメインを付ける前に、改変すべきタンパク質のN末端のアミノ酸をCysまたは他のアミノ酸に変えることを含む。
【0078】
一実施形態において、前立腺組織特異的結合ドメインは、プロアエロリシンから得られたMPPのNおよび/またはC末端に連結されるかまたは挿入される。いくつかの例では、プロアエロリシンの天然の結合ドメインが削除される。他の例では、プロアエロリシンの天然の結合ドメインに、より小さい削除または点変異が導入される。
【0079】
前立腺特異的標的化ドメインとしての抗体
一実施形態において、前立腺特異的標的化ドメインは、前立腺細胞と関連する抗原に特異的に結合し、かくして前立腺細胞をMPPの標的とする抗体または抗体フラグメントである。かかる前立腺特異的標的化ドメインに特異的に結合することができる、前立腺細胞と関連する抗原は、前立腺細胞で発現が増強されるPSA、およびPSMA、ならびにLHRH受容体を含む。抗体は、当分野でよく知られる遺伝子融合法を用いて、MPPのNまたはC末端に付けることができる(例えば、Debinski and Pastan,Clin.Cancer Res.1:1015−22,1995を参照)。代わりに、抗体は、共有結合性の架橋によってMPPに付けることもできる(例えば、Wooら、Arch.Pharm.Res.22(5)459−63,1999、およびDebinski and Pastan,Clin.Cancer Res.1(9):1015−22,1995)。架橋は、例えば、ホモ二官能性のリジン反応性架橋剤を用いることにより非特異的であってもよく、あるいは例えば、抗体上のアミノ基およびMPP中に位置するシステイン残基と反応する架橋剤を用いることにより特異的であってもよい。一実施形態において、改変されたプロアエロリシン分子に抗体を架橋するために、配列番号2のアミノ酸Cys19、Cys75、Cys159、および/またはCys164のようなプロアエロリシンのアミノ酸を用いることができる。例えば、抗体は、改変すべきnPPの天然の結合ドメインを置換えることができるか、あるいは抗体は、天然の結合ドメインに既に変異を有するMPPに付加されることができるであろう。かかるMPPは、特異性を向上させるために、前立腺特異的活性化配列を含むこともできる。一実施形態において、抗体は、PAの毒素ドメインに融合された、PSMAに対する一本鎖抗体である。
【0080】
適切な抗体は、完全な抗体、ならびに例えば、(i)VL、VH、CLおよびCH1ドメインからなるFabフラグメント;(ii)VHおよびCH1ドメインからなるFdフラグメント;(iii)抗体の単一アームのVLおよびVHドメインからなるFvフラグメント;(iv)VHドメインからなるdAbフラグメント(Wardら、Nature 341:544−6,1989);(v)孤立した相補性決定領域(CDR:complementarity determining region);および(vi)F(ab’)2フラグメント、ヒンジ領域においてジスルフィド架橋によって連結された2つのFabフラグメントを備える二価フラグメントのような抗体フラグメントを含む。適切な抗体は、遺伝子組換え法によって調製され、合成リンカーで連結されたFvフラグメントの2つのドメインを生じた一本鎖Fv抗体(Birdら、Science 242:423−6,1988;Hustonら、Proc.Natl.Acad.Sci.85:5879−83,1988)、およびラクダ化された抗体(例えば、Tanhaら、J.Biol.Chem.276:24774−80,2001を参照)を含む。
【0081】
別の実施形態において、抗体フラグメントは、その標的抗原、例えば、F(ab’)2フラグメントのような二価フラグメントを架橋することができる。代わりに、自らはその標的抗原(例えば、Fabフラグメント)を架橋しない抗体フラグメントを、該抗体フラグメントを架橋し、それによって標的抗原を架橋するのに役立つ第二の抗体とともに用いることもできる。抗体は、従来の技術を用いてフラグメント化することができ、フラグメントは、完全な抗体について記載され、かつ当分野で知られるのと同じやり方での利用のためにスクリーニングすることができる。抗体は、ナノ抗体、ならびに標的抗原を特異的に結合する二重特異性分子およびキメラ分子を含むことがさらに意図される。
【0082】
「特異的に結合する」は、抗体に関して用いるときには、特異抗原と特異的に免疫反応を生じる個々の抗体の能力を意味する。結合は、抗体分子と抗原の抗原決定基とのランダムでない結合反応である。所望の結合特異性は、抗体が、特定の無関係な抗原を差次的に結合し、従って2つの異なった抗原を、特に2つの抗原が固有のエピトープを持つ場合に、区別する能力の基準点から典型的に決定される。特定のエピトープに特異的に結合する抗体は、「特異的抗体」と呼ばれる。
【0083】
前立腺特異的標的化ドメインとしての低分子ペプチド・リガンド
一実施形態において、前立腺特異的標的化ドメインは、前立腺細胞の膜上に発現する同系の前立腺特異的受容体に結合する低分子ペプチド・リガンドである。例は、LHRH受容体と高親和性をもって結合する天然または合成の黄体形成ホルモン放出ホルモン(LHRH)アゴニスト・ペプチド(例えば、Genbank Accession番号CAA25526を参照)、およびPSMAと選択的に結合しうるペプチドを含むが、これらには限定されない。LHRH受容体は、前立腺細胞および他のごくわずかの細胞によって呈示される。この差次的発現が結合特異性を提供する。
【0084】
MPPへの付着を容易にするために、低分子ペプチド・リガンドを当分野で知られるように改変することができる。例えば、6番目の位置におけるGly(Gly6)のようなLHRHのいくつかの残基を、受容体の結合親和性を低下させることなく、置換えることができる(Janakyら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:972−976,1992;Nechushtanら、J.Biol.Chem.,272:11597−11603,1997)。それ故に、精製されたLHRH D−Lys6に(このリジンのイプシロンアミンにおいて)共有結合した、(天然の結合ドメインが機能削除された)MPPを生成することができる。
【0085】
前立腺特異的標的化ドメインを持つMPPを提供するために、LHRH D−Lys6をnPP内の様々な位置に付けることができる。上述の通り、低分子ペプチド・リガンドの付着は、膜に入って孔を形成する毒素の能力を著しくは阻害しないであろう。例えば、D−Lys6類似体のイプシロンアミンを、例えば、ジカルボン酸リンカーによるなど、当分野で知られる方法を用いてMPPのアミノ末端に連結することができる。活性化配列の切断によってMPPが活性化されると、毒素は、LHRH受容体に結合されたままであるのに対して、C末端の阻害性部分は放出されることになろう。
【0086】
代わりにまたは加えて、低分子ペプチド・リガンドをMPPのC末端に直接連結することもできる。例えば、MPPのC末端にCysを付加し、次にこのCysをLHRHのD−Lys6類似体のイプシロンアミンに架橋することによって、MPPのC末端のカルボキシルにLHRHのD−Lys6類似体のイプシロンアミンを直接連結することができる。この連結によって、C末端の阻害性ドメインにLHRHペプチドが付いたMPPが生成されるであろう。活性化配列の切断によってMPPが活性化されると、MPPは遊離し、阻害性フラグメントはLHRH受容体に結合したままとなろう。加えて、改変されたLHRHペプチドがMPPのNおよびC末端の両方に融合された組換え融合タンパク質を生成することもできる。
【0087】
低分子ペプチド・リガンドを、ジスルフィド架橋によってMPPに付けることが可能であることも考慮される。例えば、LHRHペプチドの6番目の位置にシステイン残査が導入され、該ペプチドがジスルフィド架橋によってMPPに付けられる。ジスルフィド架橋を形成するためにペプチドが用いるシステインは、天然のnPP配列中に存在することもあり、あるいはシステイン残基を含むようにnPPを変異させることもできる。一実施形態において、PAから得られたMPPは、例えば、配列番号2のアミノ酸215および/または300に導入された、すなわちアミノ酸215および/または300がシステインに変異したシステイン残基を持つことができる。
【0088】
別の実施形態において、MPPのアミノ末端にLHRHペプチドが融合された組換えタンパク質が生成される。代わりにまたは加えて、MPPの他のアミノ酸に1つ以上の前立腺特異的標的化ドメインを付けるかまたは連結することによって、MPPを生成することができる。例えば、プロアエロリシンから得られるMPPでは、配列番号2または4のアミノ酸215または300のようなアミノ酸を用いて、1つ以上の前立腺特異的標的化ドメインを付けることができる。いくつかの例では、Cysアミノ酸が、天然のアミノ酸をその位置で置換える。例えば、配列番号2または4に、次の変化:Tyr215CysまたはAla300Cysを加えることができる。代わりに、nPPの天然の配列に存在するシステイン残基を利用することもできる。プロアエロリシンから得られるMPPでは、配列番号2のアミノ酸Cys19、Cys75、Cys159、および/またはCys164のようなアミノ酸が、この目的に適している。
【0089】
MPPの天然の結合ドメインに対する改変
本開示の方法で用いることができるMPPは、当分野で知られるように、1つ以上の結合ドメインを含むnPPからビディライブすることができる。本開示の文脈において、nPPが1つの結合ドメインを含むとき、それは「大葉結合ドメイン」であると考えられる。本開示によるMPPは、適用可能であれば、1つ以上の結合ドメインに対する改変を含むことができる。例えば、エロモナス種からの天然のプロアエロリシンは、2つの結合ドメイン、小葉結合ドメインおよび大葉結合ドメインを含む。対照的に、クロストリジウム・セプティカムからの天然のアルファ毒素は、大葉結合ドメインのみを含む。一実施形態において、結合ドメインの改変は、結合ドメインの機能削除を含む。MPPにおける機能削除された結合ドメインは、その細胞表面受容体に結合する能力は減衰しても、依然として孔形成能力を保持したMPPをもたらす。
【0090】
機能削除は、MPPの1つ以上の結合ドメインを削除するか、または変異させることによって行うことができる。一実施形態において、結合ドメイン全体またはその部分を削除することができる。さらなる実施形態において、結合ドメインを機能削除するために、結合ドメインへの異種配列の挿入を用いることもできる。これらの異種配列の付加は、MPPに追加的な機能性(すなわち、結合ドメインの機能的置換え)を授けることもありうる。例えば、異種配列の付加は、本明細書に記載されるように、前立腺特異的標的化ドメインとして機能しうる領域の付加をもたらすことができる。また別の実施形態において、結合ドメインが受容体に結合する能力を低めるために、nPPの天然の結合ドメインのアミノ酸配列に点変異を加えることもできる。これらの改変に関するさらなる詳細が、以下で記載される。
【0091】
結合ドメインのないMPPは、細胞溶解活性を保持するが、細胞膜における毒素の濃度を確保するためにより高い用量の投与が必要なこともある。結合ドメインが機能削除されたMPPは、当分野で知られる方法を用いて調製することができる。これらの方法は、Sambrook et al,上記を参照、に記載されるような組み換えDNA技術の使用を含む。代わりに、結合ドメインの機能削除は、例えば、タンパク質分解によりMPPのフラグメントを発生させて、次にそれらを化学的に結合することができるなど、当分野で知られる方法によるタンパク質自体の直接的な改変によっても達成することができる。
【0092】
一実施形態において、MPPは、その小葉結合ドメイン(SBD)の機能削除によって改変することができる。例となるSBDの機能削除は、エロモナス・ハイドロフィラのポリペプチドでは次のように行うことができる。配列番号2のアミノ酸1〜83に対応する全SBDを削除することができ、あるいはこの領域の部分、例えば、配列番号2のアミノ酸45〜66を削除することができる。代わりに、点変異を次のようにW45A、I47E、M57A、Y61A、K66Q(アミノ酸番号は、配列番号2または配列番号4を参照する)、およびMackenzieら、J.Biol.Chem.274:22604−22609,1999に記述されるように加えることができる。
【0093】
一実施形態において、nPPは、その大葉結合ドメイン(LBD:large lobe binding domain)の機能削除によって改変することができる。MPPを提供するために行うことができる(配列番号2のおよそアミノ酸残基84〜426に含まれる)プロアエロリシンのLBDの例となる機能削除は次の通りである。プロアエロリシンのLBD全体が削除されてもよい。代わりに、プロアエロリシンから得られるMPPは、LBDのアミノ酸残基Y162、W324、R323、R336、および/またはW127に対する1つ以上の点変異を含む。本開示の別の実施形態において、プロアエロリシンから得られるMPPは、位置W127および/またはR336に1つ以上の点変異を含む。また別の実施形態において、プロアエロリシンから得られるMPPは、点変異Y162Aおよび/またはW324Aを含む。さらなる実施形態において、プロアエロリシンから得られるMPPは、点変異R336A、R336C、および/またはW127Tを含む。また別の実施形態において、MPPは、GPIタンパク質リガンドと直接に相互作用する他の残基に対する変異を含む。
【0094】
MPPのさらなる改変
本開示は、前立腺細胞を選択的に標的とするMPPの能力に影響を及ぼさないMPPのさらなる改変を考慮する。かかる改変は、アミノ酸の置換、挿入または削除、抗原性を低減するための改変、およびMPPの安定性を高めるか、または薬物動態を改善するための改変を含む。一実施形態において、MPPに対するさらなる改変は、MPPとは少数のアミノ酸のみが異なるポリペプチドをもたらす。かかる改変は、正常な前立腺細胞を選択的に標的として殺すMPPの能力を阻害しない(例えば、1〜3またはより多くのアミノ酸の)削除、(例えば、1〜3またはより多くの残基の)挿入、あるいは置換を含む。一実施形態において、MPPに対するさらなる改変は、(配列番号3または4のような)MPPに対する少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、またはより大きな配列同一性を保持し、かつ正常な前立腺細胞を選択的に標的として殺すMPPの能力を維持するポリペプチドをもたらす。
【0095】
MPPは、アミノ酸配列における少なくとも1つの残基が除去されて、代わりに異なった残基が挿入される置換によって改変することができる。一実施形態において、置換は、同類置換である。同類置換は、1つ以上のアミノ酸(例えば2、5または10残基)が、同様の生化学的特性を有するアミノ酸残基で置換えられる置換である。典型的に、同類置換は、結果として生じるポリペプチドの活性にほとんどまたは全く影響しない。例えば、理想的には、1つ以上の同類置換を含んだMPPは、対応するnPPの活性を保持する。タンパク質における元のアミノ酸を置換えることができて同類置換と見做しうるアミノ酸の例は、Alaに対するSer;Argに対するLys;Asnに対するGlnまたはHis;Aspに対するGlu;Cysに対するSer;Glnに対するAsn;Gluに対するAsp;Glyに対するPro;Hisに対するAsnまたはGln;Ileに対するLeuまたはVal;Leuに対するIleまたはVal;Lysに対するArgまたはGln;Metに対するLeuまたはIle;Pheに対するMet、LeuまたはTyr;Serに対するThr;Thrに対するSer;Trpに対するTyr;Tyrに対するTrpまたはPhe;および Valに対するIleまたはLeuを含む。
【0096】
例えば、部位特異的変異誘発法またはPCRのような標準的な手順を用いて、そのポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を操作することによって、1つ以上の同類置換を含むようにMPPを改変することができる。同類置換に関するさらなる情報は、他の箇所でも見出されるが、特にBen−Bassatら、(J.Bacteriol.169:751−757,1987)、O’Reganら、(Gene 77:237−251,1989)、Sahin−Tothら、(Protein Sci.3:240−247,1994)、Hochuliら、(BioTechnology 6:1321−1325,1988)、国際公開第00/67796号(Curdら、)ならびに遺伝学および分子生物学の標準的な教科書に見出すことができる。
【0097】
別の実施形態において、置換は、許容置換である。許容置換は、非同類アミノ酸置換ではあるが、同様にMPP活性を著しく変化させない。例は、プロアエロリシン・ポリペプチドの配列番号2または4の位置300におけるAlaに対するCysの置換である。一実施形態において、MPPは、単一残基の1つ以上のアミノ酸置換を含むように改変される。別の実施形態において、MPPは、1つのアミノ酸置換を含むように改変される。別の実施形態において、MPPは、約2から約10のアミノ酸置換を含むように改変される。また別の実施形態において、MPPは、約3から約5のアミノ酸置換を含むように改変される。
【0098】
プロアエロリシンから得られるMPPに対するさらなる改変の非限定の例が表2にリストされる。同様の変異を配列番号4に加えることができる。
【0099】
【表2】

ペプチドミメティックおよびオルガノミメティックな実施形態も考慮される。かかるペプチドおよびオルガノミメティックスの化学成分の3次元配置が、ポリペプチド中のポリペプチド主鎖および成分アミノ酸側鎖の3次元配置を模倣し、結果として前立腺細胞を溶解する能力を持つMPPのペプチドおよびオルガノミメティックスがもたらされる。ファーマコフォアは、コンピュータモデリングを適用するために、生物活性に必要な構造上の条件を理想化して3次元的に定義したものである。ペプチドおよびオルガノミメティックスは、それぞれのファーマコフォアに適合するように(コンピュータ支援薬物デザインすなわちCADD(computer assisted drug design)を用いて)最新のコンピュータモデリング・ソフトウェアによってデザインすることができる。CADDに使用される技術の説明については、Walters,”Computer−Assisted Modeling of Drugs”,Klegerman & Groves,eds.,1993,Pharmaceutical Biotechnology,Interpharm Press:Buffalo Grove,Ill.pp.165−174、およびPrinciples of Pharmacology(ed.Munson,1995),chapter 12を参照。
【0100】
MPPに加えうる他の改変は、例えば、カルボキシ末端かまた側鎖かに関わらず、MPPのカルボン酸基に対する修飾を含み、これらの基は、医薬として許容される陽イオンの塩形態で存在するか、またはC〜C16エステルを形成すべくエステル化されるか、あるいは式NRのアミドに変換される。ここで、RおよびRは、それぞれ独立にHまたはC〜C16アルキルであるか、または5もしくは6員環のような複素環を形成するように結合される。ポリペプチドのアミノ基、アミノ末端か側鎖のいずれかは、HCl塩、HBr塩、酢酸塩、安息香酸塩、トルエンスルホン酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩および他の有機塩のような、医薬として許容される酸付加塩の形態とすることができ、あるいはC〜C16アルキルもしくはジアルキルアミノへ修飾されるか、またはさらにアミドに変換されてもよい。
【0101】
他の修飾は、よく認識された技術を用いて、ポリペプチド側鎖のヒドロキシル基をC〜C16アルコキシまたはC〜C16エステルへ変換することを含む。ポリペプチド側鎖のフェニルおよびフェノール環は、F、Cl、BrもしくはIのような1つ以上のハロゲン原子、またはC〜C16アルキル、C〜C16アルコキシ、カルボン酸およびそれらのエステル、あるいはかかるカルボン酸のアミドと置換することができる。ポリペプチド側鎖のメチレン基は、同族のC〜Cアルキレンへ伸長させることができる。チオールは、アセトアミド基などのよく認識された多くの保護基のいずれか1つを用いて保護することができる。当業者は、構造に安定性の向上をもたらす立体配座上の制約を選択して提供すべく、本明細書に記載されるポリペプチドに環状構造を導入する方法も認識するであろう。例えば、ポリペプチドが酸化されるとジスルフィド結合を含むようになって環状ペプチドが生じるように、ポリペプチドのカルボキシ末端またはアミノ末端にシステイン残基を付加することができる。他のペプチド環化法は、チオエーテル類、ならびにカルボキシルおよびアミノ末端のアミド類およびエステル類の形成を含む。
【0102】
本発明は、ビーズなどの表面にMPPが連結もしくは固定化される、MPPに対するさらなる改変も考慮する。前立腺細胞への標的化を強めるために、ビーズは、前立腺特異的リガンドを含むこともできる。固定化は、固体表面などの表面への結合を意味する。固体表面は、ポリスチレンまたはポリプロピレンなどのポリマーとすることができる。固体表面は、ビーズの形態であってもよい。一実施形態において、該表面は、固定化されたMPPを含み、他の実施形態において、LHRHペプチド、PSMA抗体、およびPSMA一本鎖抗体のような、1つ以上の前立腺特異的結合リガンドをさらに含む。別の実施形態において、MPPは、ビーズが前立腺細胞標的に到達したときにビーズから遊離する。ペプチドを固体表面上に固定化する方法は、当分野で知られており、国際公開94/29436、および米国特許第5,858,358号に見出すことができる。
【0103】
本開示は、MPPが被験体に投与されたときに分子の薬物動態特性を改善するように意図された、追加的な改変を含みうることもさらに考慮する。免疫原性を低減するため、および/または治療用タンパク質の半減期を改善するための様々な改変が、当分野で知られている。例えば、MPPは、当分野で知られる標準的な方法に従って、糖鎖付加、異性化、または糖鎖除去されることができる。同様に、MPPは、自然には発生しない共有結合修飾、例えば、ポリエチレングリコール部分の付加(ペグ化)もしくは脂質化によって修飾することができる。一実施形態において、MPPは、その薬物動態プロファイルを改善するために、ポリエチレングリコールにコンジュゲートされる(ペグ化される)。コンジュゲートは、当業者に知られる技術によって行うことができる(例えば、Deckertら、Int.J.Cancer 87:382−390,2000;Knightら、Platelets 15:409−418,2004;Leongら、Cytokine 16:106−119,2001;Yangら、Protein Eng.16:761−770,2003を参照)。一実施形態において、抗原性エピトープを同定し、変異誘発法によって変化させることができる。抗原性エピトープを同定する方法は、かかる抗原性エピトープを変異させる方法と同様に当分野で知られている(例えば、Setteら、Biologicals 29:271−276を参照)。
【0104】
II.医薬組成物
本開示は、前立腺炎を処置するために本開示の方法とともに用いることができるMPP、および1つ以上の無毒性の医薬として許容される担体、希釈剤、添加剤および/またはアジュバントを備える医薬組成物を提供する。必要に応じて、本組成物は、他の活性成分も含むことができる。1つ以上のMPPと組み合わせて行うことができる他の治療の例は、以下には限定されないが、(閉塞性排尿に対する)アルファ遮断薬、抗炎症剤、抗生物質、ライフスタイルの変化、例えば食事制限(カフェイン摂取の削減など)、運動、性的行為、および/または支持的精神療法もしくは「対処メカニズム」を含む。一例において、MPPは、抗生物質と組み合わせて投与されない。
【0105】
本医薬組成物は、約1%から約95%のMPPを含むことができる。単回用量形態での投与のために製剤された組成物は、例えば、約20%から約90%のMPPを含むことができるのに対して、単回投与形態ではない組成物は、例えば、約5%から約20%のMPPを含むことができる。最終的な製剤におけるMPPの濃度は、0.01μg/mLと低くすることができる。例えば、最終的な製剤における濃度は、約0.01μg/mLおよび約1,000μg/mLの間とすることができる。一実施形態において、最終的な製剤における濃度は、約0.01μg/mLから約100μg/mLの間にある。単位用量形態の非限定の例は、糖衣錠、錠剤、アンプル、バイアル、坐剤およびカプセルを含む。
【0106】
ある実施形態において、医薬組成物は、配列番号4、およびいくつかの例では、C末端にポリヒスチジンタグ(6−His)を持つ配列番号4によって提示されるアミノ酸配列を持つMPPを含む。70kgのヒトに対するかかる組成物の有効静注用量の例は、約1〜10mgのMPP、例えば約1〜5mg、例えば約1〜3mg、例えば約2.8mgである。70kgのヒトに対するMPPの有効前立腺内用量の例は、約10〜100mgの改変されたPA毒素、例えば約10〜50mg、例えば約10〜30mg、例えば約28mgである。
【0107】
細胞における核酸の発現を可能にするために核酸を用いる例において、核酸は、(例えば、核酸ベクターからの発現によって、あるいは受容体を介するメカニズムによって)細胞内に送達される。一実施形態において、核酸は、(追加的なヌクレオチド、例えば6ヒスタジン残基をコードする5’末端の配列を含むことができる)配列番号3の核酸配列のように、配列番号4によって提示されるアミノ酸を持つMPPをコードする。
【0108】
核酸またはタンパク質を投与するための様々な送達システムが知られており、リポソーム、微粒子、マイクロカプセルにおけるカプセル化、受容体を介するエンドサイトーシス(Wu and Wu,J.Biol.Chem.262:4429−4432,1987)、およびレトロウイルスもしくは他のベクターの部分としての治療用核酸の構築を含む。導入法は、以下には限定されないが、前立腺内、皮内、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、鼻腔内および経口経路を含む。化合物は、任意の使い易い経路によって、例えば、点滴もしくはボーラス注射によって、上皮層または粘膜皮膚層(例えば、口腔粘膜、直腸、腟および腸粘膜など)を経由する吸収によって投与することができ、他の生物学的に活性な薬剤と一緒に投与することもできる。投与は、全身的であって局所的であってもよい。
【0109】
リポソームは、標的部位と融合して管腔の内容物を細胞内に送達する。リポソームは、分離および結合剤のような接触を維持するための様々な手段を用いて、融合が生じるために十分な時間にわたって標的細胞との接触が維持される。リポソームは、センダイウイルスまたはインフルエンザウイルスのような膜融合を仲立ちする精製タンパク質を用いて調製することができる。脂質は、ホスファチジルコリンのような陽イオン性脂質を含んだ、既知のリポソーム形成脂質の任意の有用な組み合わせであってもよい。他の可能な脂質は、コレステロール、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロールなどの中性脂質を含む。リポソームを調製するために、Katoら、(J.Biol.Chem.,266:3361,1991)によって記載される手順を用いることができる。
【0110】
治療用分子が核酸である場合、投与は、治療用分子が細胞内に至るように投与される然るべき核酸発現ベクターによって、例えば、レトロウイルスベクターの使用によって(米国特許第4,980,286号を参照)、もしくは直接注入によって、または微粒子照射(例えば、遺伝子銃)の使用によって、あるいは脂質もしくは細胞表面受容体または形質移入試薬のコーティングによって、または核に入ることが知られているホメオボックス様ペプチドと連鎖して治療用分子を投与することによって(Joliotら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88:1864−1868,1999)など、達成することができる。代わりに、核酸を細胞内に導入し、相同組換えによって発現用ホスト細胞のDNA内に組込むことができる。
【0111】
ベクターpcDNAは、発現を促進する強力なウイルスプロモーター(CMV)の制御下で外来cDNAを細胞に導入する方法の例である。しかしながら、(pRETRO−ON,Clontechのような)他のベクターを用いることもできる。これらも、同じくこのプロモーターを用いるが、形質移入助剤がなくても細胞に入る利点があり、標的細胞が分裂中でベクターが制御されているときにのみ標的細胞のゲノムに統合される。これらのプラスミドを用いるときにテトラサイクリンを投与することによって、核酸の発現をオンにすることも可能である。pMAM−neo(Clontech)またはpMSG(Pharmacia)などの他のプラスミドベクターは、(ステロイドで制御することができる)MMTV−LTRプロモーター、もしくはSV10後期プロモーター(pSVL、Pharmacia)、またはメタロチオネイン応答性プロモーター(pBPV、Pharmacia)およびレトロウイルスを含めて、他のウイルスベクターを用いる。他のウイルスベクターの例は、アデノウイルス、AAV(アデノ随伴ウイルス:adeno−associated virus)、遺伝子組換えHSV、ポックスウイルス(ワクシニア)および(HIVのような)遺伝子組換えレンチウイルスを含む。これらのベクターは、標的細胞中にcDNA配列と転写に必要な調節要素とを送達する基本的な目標を達成する。本開示は、ゲノムに統合されるか否かに関わらず、合成オリゴ、裸のDNA、プラスミドおよびウイルスを含めて、核酸送達のすべての形態を含む。
【0112】
本組成物は、溶液、懸濁剤、乳剤、錠剤、丸薬、カプセル、徐放性製剤、または粉末とすることができる。固体組成物(例えば、粉末、丸薬、錠剤、またはカプセル形態)では、通常の無毒性の固体担体は、例えば、医薬品グレードのマンニトール、ラクトース、澱粉、サッカリン・ナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウム、またはステアリン酸マグネシウムを含むことができる。組成物は、従来の結合剤およびトリグリセリドなどの担体を用いて、座剤として製剤することができる。
【0113】
本医薬組成物は、動物またはヒトへの投与のために、様々な経路による投与用に製剤することができる。例えば、本組成物は、経口、局所、経直腸、経尿道、経会陰、前立腺内、もしくは非経口投与、あるいは吸入または噴霧による投与用に製剤することができる。本明細書では、用語非経口は、皮下注射、静脈内、筋肉内、くも膜下腔内、胸骨内の注射または点滴技術を含む。経直腸超音波のような画像ガイダンスを用いた、前立腺内への直接的な注射または点滴も考慮される。タンパク質毒素用の標準的な投与技術である対流により強化された送達も本開示において考慮される。製剤は、例えば、注射によるかまたはカテーテル経由で投与されたときに製剤の逆流を防ぐ機能を果たす1つ以上の粘度向上剤も含むことができる。かかる粘性向上剤は、生体適合性グリコールおよびスクロースを含むが、これらには限定されない
MPPは、医薬として許容される賦形剤とともに送達することができる。かかる賦形剤は、安定性および/または送達特性を向上させることができる。かくして、本開示は、(リポソーム、ノイソーム、ナノソームなどを含む)人工膜ベシクル、微粒子またはマイクロカプセルのような適切な賦形剤を持つMPPの製剤も提供し、あるいは医薬として許容されるポリマーを含んだコロイド状製剤として提供する。かかる賦形剤/ポリマーの使用は、MPPの徐放を達成するために役に立つことがある。代わりに、または加えて、MPP製剤は、当分野で知られるタンパク質治療薬用の安定剤を含めて、in vivoでタンパク質を安定化するための添加物を含むことができる。
【0114】
経口用の医薬組成物は、例えば、錠剤、トローチ、薬用キャンディ、水性または油性懸濁剤、分散性パウダーまたは顆粒、乳剤のハードまたはソフトカプセル、あるいはシロップまたはエリキシル剤として製剤することができる。かかる組成物は、医薬組成物の製造分野に知られる標準的な方法に従って調合されることができ、医薬として洗練された口当たりのよい調合剤を提供するために、甘味剤、香味剤、着色剤および保存剤の群から選択される1つ以上の薬剤を含むことができる。錠剤は、例えば、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、乳糖、リン酸カルシウムまたはリン酸ナトリウムのような不活性希釈剤;コーンスターチ、またはアルギン酸のような造粒および崩壊剤;澱粉、ゼラチンまたはアカシアのような結合剤;ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸またはタルクのような潤滑剤を含む、適切な非毒性の医薬として許容される添加剤と混合された活性成分を含む。錠剤は、コーティングされなくてもよく、あるいは消化管における分解および吸収を遅らせることにより長時間にわたる持続作用を提供するように、既知の技術を用いてコーティングされてもよい。例えば、グリセリルモノステアラートまたはグリセリルジステアレートのような時間遅延材料を用いることもできる。
【0115】
経口用の医薬組成物も、活性成分が、例えば、炭酸カルシウム、リン酸カルシウムまたはカオリンのような不活性の固形希釈剤と混合されたハードゼラチン・カプセルとして、あるいは活性成分が、水、またピーナツ油、流動パラフィン、またはオリーブ油のような油媒体と混合されたソフトゼラチン・カプセルとして、提供されることができる。
【0116】
水性懸濁剤として製剤される医薬組成物は、1つ以上の添加剤、例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロプロピルメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピル−α−シクロデキストリン、トラガカント・ゴムおよびアカシア・ゴムのような、懸濁化剤;レシチンなどの天然に存在するリン脂質、またはポリオキシエチレンステアラートなどのアルキレンオキシドと脂肪酸類との縮合生成物、またはヘプタデカエチレンオキシセタノールなどのエチレンオキシドと長鎖脂肪族アルコール類との縮合生成物、またはポリオキシエチレンソルビトールモノオレアートなどのエチレンオキサイドと脂肪酸類およびヘキシトール由来の部分エステル類との縮合生成物、またはポリエチレンソルビタンモノオレアートなどのエチレンオキシドと脂肪酸類およびヘキシトール無水物類由来の部分エステル類との縮合生成物のような、分散または湿潤剤;と混合状態にある活性化合物(単数または複数)を含む。水性懸濁剤は、1つ以上の保存剤、例えば、エチルまたはn−プロピルp−ヒドロキシベンゾアート、1つ以上の着色剤、1つ以上の香味剤、またはスクロースもしくはサッカリンのような1つ以上の甘味剤も含むことができる。
【0117】
医薬組成物は、活性化合物(単数または複数)を植物油、例えば、ラッカセイ油、オリーブ油、ゴマ油または椰子油に、あるいは流動パラフィンのような鉱油に懸濁することによって、油性懸濁剤として製剤することができる。油性懸濁液は、増粘剤、例えば、蜜蝋、固形パラフィン、またはセチルアルコールを含んでもよい。上記の説明のような甘味剤および/または香味剤は、口当たりのよい経口調合薬を提供するために加えることができる。これらの組成物は、アスコルビン酸のような酸化防止剤を加えることによって保存することができる。
【0118】
本医薬組成物は、分散性の粉末または顆粒として製剤することができ、その後これに水を加えることによって水性懸濁剤を調合するために使用することができる。かかる分散性の粉末または顆粒は、1つ以上の分散または湿潤剤、懸濁剤および/または保存剤と混合された活性成分を提供する。適切な分散または湿潤剤、および懸濁剤は、既に上述の通り例示されている。追加的な添加剤、例えば、甘味剤、香味剤および着色剤も、これらの組成物に含めることができる。
【0119】
本開示の医薬組成物は、水中油型乳剤としても製剤することができる。油相は、植物油、例えばオリーブ油もしくはラッカセイ油、または鉱油、例えば、流動パラフィンとすることができ、あるいはこれらの油の混合物であってもよい。これらの組成物に含むのに適した乳化剤は、天然ゴム、例えば、アカシア・ゴムまたはトラガカント・ゴム;天然ホスファチド類、例えば、大豆、レシチン;または脂肪酸類およびヘキシトール、無水物類からのエステル類または部分エステル類、例えば、ソルビタンモノオレアート、および上記部分エステル類とエチレンオキシドとの縮合生成物、例えば、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレアートを含む。乳剤は、甘味剤および香味剤を随意的に含むこともできる。
【0120】
医薬組成物は、活性成分(単数または複数)を、1つ以上の甘味剤、例えばグリセロール、プロピレングリコール、ソルビトールまたはスクロースと混合することによって、シロップまたはエリキシル剤として製剤することができる。かかる製剤は、1つ以上の粘滑薬、保存剤、香味剤および/または着色剤も随意的に含むこともできる。
【0121】
本医薬組成物は、上述のような、適切な1つ以上の分散または湿潤剤および/または懸濁剤を用いて、当分野で知られる方法に従って、無菌の注射可能な水性懸濁剤あるいは油性懸濁剤として製剤することができる。無菌の注射可能な調合薬は、例えば、1,3−ブタンジオールの溶液のように、無毒性の親として許容される希釈剤または溶媒の無菌の注射可能な溶液または懸濁剤とすることができる。使用しうる許容可能な賦形剤および溶媒は、以下には限定されないが、水、リンゲル液、乳酸リンゲル液および等張食塩水を含む。他の例は、溶媒または懸濁化媒質として従来から用いられる無菌の固定油、および、例えば、合成モノグリセリドまたはジグリセリドを含む、様々な無刺激性の固定油を含む。オレイン酸のような脂肪酸も注射剤の調合に用いることができる。
【0122】
他の医薬組成物、および医薬組成物を調製する方法は、当分野で知られており、例えば、”Remington:The Science and Practice of Pharmacy”(以前は”Remingtons Pharmaceutical Sciences”);Gennaro,A.,Lippincott,Williams& Wilkins,Philidelphia,PA(2000)に記載されている。
【0123】
上述の本開示の医薬組成物は、意図された目的を達成するために有効な量の1つ以上のMPPoを含む。従って、用語「治療有効用量」は、前立腺炎の症状または特性を寛解させるMPPの量を意味する。化合物の治療有効用量の測定は、十分に当業者の能力の範囲内にある。例えば、治療有効用量は、本明細書に記載されるような、細胞培養アッセイ、または動物モデルのいずれかで初めに推定することができる。動物モデルは、適切な濃度範囲および投与経路を決定するために用いることもできる。かかる情報は、当業者に知られる標準的な方法を次に用いて、ヒトを含む他の動物における有用な用量および投与経路を決定するために用いることができる。
【0124】
治療の有効性および毒性も、例えば、半有効量もしくはED50(すなわち、母集団の50%で治療として有効な用量)、および半致死量もしくはLD50(すなわち、母集団の50%に致死的な用量)の測定によるなど、標準的な薬学的手順によって測定することができる。治療効果と毒性効果との間の用量比は、「治療指数」として知られ、LD50/ED50比として表現することができる。細胞培養アッセイおよび動物試験から得られるデータは、ヒトまたは動物への使用について投薬量の範囲を明確にするために用いることができる。かかる組成物に含まれる投薬量は、通常はED50を含む濃度範囲内にあり、毒性をほとんどあるいは全く示さない。投薬量は、使用される剤形、被験体の感受性、および投与経路などに依存してこの範囲内で変化する。
【0125】
被験体に投与すべき正確な投薬量は、処置を必要とする被験体と関連する因子の観点から、医師によって決定されうる。投薬量および投与は、十分なレベルのMPPを提供するため、および/または所望の効果を維持するために調整される。適切な投薬量を決定するときに考慮されるとよい因子は、病状の重篤度、被験体の全体的な健康、被験体の年齢、体重、および性別、食事、投与の時間および頻度、複合薬(単数または複数)、反応感受性、および治療に対する耐性/反応を含む。投与計画は、上記の因子、ならびに特定の製剤の半減期およびクリアランス率のような因子に依存して医師によってデザインされることができる。
【0126】
医薬として有効な量のMPPは、従来の方法による非経口、経口、経鼻、経直腸、経尿道、経会陰、前立腺内、局所、経皮投与などのために医薬として許容される担体を用いて、従来の方法に従って製剤することができる。製剤は、1つ以上の希釈剤、充填剤、乳化剤、保存剤、緩衝剤、添加剤などをさらに含むことができ、例えば、液体、粉末、乳剤、坐剤、リポソーム、経皮的パッチおよび錠剤などの形態で提供することができる。MPPの連続的もしくは長期的な供給源を提供するために、多くのバイオポリマーのいずれかを含んだ徐放または持続放出送達システム(生物学ベースのシステム)、リポソームを用いたシステム、およびポリマー送達システムも、本明細書に記載される組成物とともに利用することができる。かかる徐放システムは、例えば、経口、局所および非経口用の製剤に適用することができる。
【0127】
用語「医薬として許容される担体」は、活性成分の生物活性の有効性を阻害しない、しかもホストまたは患者に有毒でない担体媒体を意味する。当業者は、適切なやり方で、かつRemington:The Science and Practice of Pharmacy, Gennaro,ed.,Mack Publishing Co.,Easton Pa.,19th ed.,1995に開示されるような慣行に従って、本開示の化合物を製剤することができる。
【0128】
一実施形態において、MPPは、例えば、安定性または循環半減期を増加させるため、あるいは免疫原性を低減するために水溶性ポリマーにコンジュゲートされる。臨床的に許容される水溶性ポリマーは、以下には限定されないが、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリエチレングリコールプロピオンアルデヒド、カルボキシメチルセルロース、デキストラン、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリプロピレングリコールホモポリマー(PPG)、ポリオキシエチル化ポリオール(POG)(例えば、グリセロール)、および他のポリオキシエチル化・ポリオール、ポリオキシエチル化ソルビトール、またはポリオキシエチル化グルコース、および他の炭水化物ポリマーを含む。ポリペプチドをPEGのような水溶性ポリマーにコンジュゲートする方法は、例えば、米国特許公開第20050106148号、およびそこに引用される参照文献に記載される。
【0129】
III.前立腺炎の処置のためのMPPの使用
MPPは、他の組織からの細胞と比較して、前立腺細胞を選択的に標的とする。従って、MPPは、前立腺の処置または予防に有用である。
【0130】
一実施形態において、前立腺炎の処置は、尿生殖器および骨盤の痛み、排尿症状、ならびに実証しうる前立腺の炎症の減少を意味する。前立腺サイズは、例えば面積測定、扁長楕円体積計算(HWL法)および楕円体体積測定技術を含む当分野で知られる方法を用いて、その体積について測定することができる。前立腺サイズは、直接的に、例えば、直腸指診、または直腸超音波もしくは細胞検査によって、あるいは間接的に、例えば、血液PSAのレベルの変化もしくは血液中の遊離および総PSAの比率の変化を測定することによって、測定することもできる。
【0131】
一実施形態において、MPPの投与は、被験体における前立腺の体積を減少させる。例えば、本開示の方法は、前立腺体積を、処置前の前立腺体積、または前立腺炎を患う被験体における前立腺体積を示すことが知られている標準的基準と比較して、約10%から約70%パーセント、約20%から約50%を含めて、約5%から約90%(例えば、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%または90%)のように、例えば、少なくとも10%、少なくとも20%、もしくは少なくとも30%少なくとも40%、または少なくとも50%減少させることができる。
【0132】
別の実施形態において、前立腺炎の処置は、前立腺炎の1つ以上の症状における重症度の度合いの減少を意味する。前立腺炎の症状は、例えば、躊躇、途絶または尿勢減弱、切迫感および失禁もしくは滴下、または特に夜のより頻繁な排尿など、排尿に係る変化または問題と関連して活動および全般的なクオリティ・オブ・ライフに著しい影響を及ぼす、尿生殖器および/または骨盤の痛みを含む。これらの症状は、前立腺炎様症状としても知られている。前立腺炎様症状は、当分野で知られるように、国立衛生研究所・慢性前立腺炎症状インデックス(NIH−CPSI:National Institutes of Health−Chronic Prostatitis Symptom Index)ならびにIPSSを用いて測定することができる。
【0133】
別の実施形態において、前立腺炎の処置は、前立腺の組織学的炎症の予防または阻止を意味し、上述のように、炎症インデックスの増加率の減少または前立腺炎の症状の軽減によって測定することができる。
【0134】
いくつかの実施形態において、1つ以上の治療薬の投与後に前立腺炎(例えば、慢性前立腺炎)を持つ被験体がモニターされ、治療薬に対する彼らの前立腺の反応が測定される。例えば、治療が、前立腺サイズの減少、白血球レベルの変化、および/または前立腺炎と関連する1つ以上の兆候または症状の軽減、例えば、排尿に係る変化または問題と関連する尿生殖器および/または骨盤の痛みの軽減をもたらしたかどうか測定するために、被験体がモニターされる。特定の例では、被験体は、処置の7日後から始めて1回以上分析される。被験体は、直腸指診、もしくは直腸超音波または細胞検査を含む当分野で知られる任意の方法を用いて、あるいは間接的に、例えば、血液PSAのレベルの変化、または血液中の遊離および総PSAの比率の変化を測定することによってモニターされることができる。
【0135】
特定の例では、もし被験体に変化がないか、処置の反応が些細で紛らわしいか、または部分的であれば、再評価後に、彼らは、前回受けた同じスケジュールおよび組成物の調合で、所望の時間、例えば、少なくとも3カ月、少なくとも6カ月、少なくとも12カ月、または少なくとも24カ月の全処置にわたって再処置を受けることができる。例えば、部分的な反応は、前立腺サイズの減少が観察されるが、依然として被験体が排尿に痛みを経験する反応である。
【0136】
前立腺炎に関する被験体の選択またはスクリーニング
いくつかの実施形態において、治療の被験体が予め選択される。例えば、本明細書に開示される前立腺炎を処置する方法は、慢性前立腺炎のような前立腺炎の処置を必要とする被験体を選択することを含む。一例では、被験体をスクリーニングし、慢性前立腺炎を含めて、彼らが前立腺炎と関連する1つ以上の症状を持つかどうか判定することによって、被験体は、本開示の治療が必要であると特定される。例えば、被験体は、白血球の発現を測定することによって慢性前立腺炎に対してスクリーニングされる。タイプIIIA(炎症性)前立腺炎は、前立腺分泌物または液、前立腺マッサージ後の尿、または精液中に発現した白血球を、前立腺炎を患っていない被験体における白血球の既知の値と比較したときの増加(例えば、少なくとも10%の増加)の検出に基づいて特定される。処置を必要とする被験体を選択することは、例えば、躊躇、途絶または尿勢減弱、切迫感および失禁もしくは滴下、あるいはより頻繁な排尿、性的機能不全、および/または心理的変化(特に抑鬱)など、排尿に係る変化または問題と関連する尿生殖器および/または骨盤の痛みを含む、前立腺炎と関連する1つ以上の症状を経験する被験体を特定することも含むことができる。
【0137】
いくつかの例では、処置の被験体は、例えば面積測定、扁長楕円体積計算(HWL法)、および楕円体体積測定技術を含む、当分野で知られる方法によって前立腺サイズを体積について測定することによって選択される。前立腺サイズは、直接的に例えば、直腸指診、または直腸超音波もしくは細胞検査によって、あるいは間接的に、例えば、血液PSAのレベルの変化、もしくは血液中の遊離および総PSAの比率の変化を測定することによって測定することもできる。標準化体積(例えば、前立腺炎を持たない被験体における前立腺体積)と比較して、前立腺体積が20%から70%増加、30%から60%増加、40%から50%増加のような、少なくとも20%増加(例えば、25%、30%、45%、50%、60%、70%、80%、90%、95%増加)した被験体は、本開示の治療から恩恵を受けるであろうことを示唆する。しかしながら、本明細書に開示される治療用組成物の投与前にかかる予備選択は必要とされない。
【0138】
併用療法
MPPは、単独で、或いは前立腺炎に対する1つ以上の追加的な処置と組み合わせて用いることができる。前立腺炎に対する追加的な処置は、以下には限定されないが、α−1−アドレナリン作用性受容体拮抗薬、神経修飾物質、筋弛緩剤、抗生物質、抗炎症剤、5−αレダクターゼ阻害剤のような薬物の投与、フィトテラピー(phytotherapy)、外科的手技、および低侵襲技術など、または前立腺に対する任意の最新の治療を含む。
【0139】
α−1−アドレナリン作用性受容体拮抗薬の例は、アルフゾシン/プラゾシン、タムスロシン、テラゾシンおよびドキサゾシンである。5−αレダクターゼ阻害剤の例は、フィナステリドおよびデュタステリドである。フィトセラピーの例は、ノコギリヤシの果実/矮性ヤシ(Serenoa repens)、アフリカプラムの樹皮(Pygeum africanum)、南アフリカスター草/β−シトステロール(Hipoxis rooperi)、パープルコーンフラワー(Echinacea purpurea)、カボチャの種(Cucurbita pepo)、ライ麦(Secale cereale)、およびイラクサ(Urtica dioica)を含む。
【0140】
外科手技の例は、前立腺の経尿道的切除術(TURP:transurethral resection of the prostate)、経尿道的ニードルアブレーション(TUNA:transurethral needle ablation)、前立腺の経尿道的切開術(TUIP:transurethral incision of the prostate)、経尿道的マイクロ波高温度治療(TUMT:transurethral microwave thermotherapy)、レーザー前立腺摘除術、バルーン拡張術、電気的蒸気療法およびオープン前立腺摘除術である。
【0141】
MPPに対する全身性免疫反応を減少させることが必要であれば、MPPと組み合わせて免疫抑制治療薬を投与することができる。免疫抑制治療薬の例は、以下には限定されないが、全身性または局所性コルチコステロイド類(Sugaら、Ann.Thorac.Surg.73:1092−1097,2002)、シクロスポリンA(Fangら、Hum.Gene Ther.6:1039−1044,1995)、シクロホスファミド(Smithら、Gene Ther.3:496−502,1996)、デオキシスパガリン(Kaplanら、Hum.Gene Ther.8:1095−1104,1997)、ならびにT細胞および/またはB細胞に対する抗体(例えば、抗CD40リガンド、抗CD4抗体、抗CD20抗体(リツキシマブ)(Manningら、Hum.Gene Ther.9:477−485,1998)を含む。かかる薬剤は、MPP投与の前、間、または後に投与することができる。本開示のMPPは、上述の処置と別に、連続的に、または同時に投与することができる。一例において、前立腺炎を処置するために日常的に与えられるフルオロキノロンまたはトリメトプリム・スルファメトキサゾール合剤のような抗菌剤が投与される。
【0142】
治療有効量のMPPの投与
治療有効量のMPP、またはMPPをコードする核酸を、当分野で知られる方法を用いて、前立腺炎を持つ被験体に局所的または全身的に投与することができる。
【0143】
一実施形態において、MPPは、前立腺炎を持つ被験体における前立腺中に(前立腺内に)注射される。例えば、小線源療法の複数注入手法と同様の投与手法を使用することができる。この手法では、組成物もしくは製剤として適合され適切な剤形の精製ペプチド類の複数のアリコットを会陰を通じて針を用いて注入することができる。
【0144】
加えて、または代わりに、MPPを、前立腺炎を持つ被験体に、全身的に、例えば、静脈内、筋肉内、皮下、または経口的に投与することができる。MPPの治療有効量は、所望の生物学的効果を達成するために十分な量、例えば、前立腺サイズ(例えば、体積および/または重量)を減少させる、もしくは前立腺のさらなる増殖を抑える、あるいは前立腺炎の症状を軽減するために有効な量を意味する。一実施形態において、それは被験体における前立腺炎の徴候または症状を低減するために十分な量である。特定の例において、それは前立腺の体積および/または重量を少なくとも10%、20%、30%、40%、または50%減少させるために有効な量である。別の実施形態において、それは前立腺の体積または重量のさらなる増加を防ぐために十分な量である。有効用量は、in vitroまたは動物モデル試験システムから得られる用量反応曲線から外挿することができる。
【0145】
MPPの有効量は、処置の経過中に単一用量または数用量で、例えば毎日、投与することができる。しかしながら、MPPの有効量は、処置される被験体、処置される病気の重症度およびタイプ、ならびに投与方法に依存するであろう。一実施形態において、前立腺内に投与されるMPPの治療有効量は、前立腺の重量1グラム当たり約0.01から50μgまで変化しうる。別の実施形態において、前立腺内に投与されるMPPの治療有効量は、前立腺の重量1グラム当たり約0.02から40μgまで変化しうる。別の実施形態において、前立腺内に投与されるMPPの治療有効量は、前立腺の重量1グラム当たり約0.02から35μgまで変化しうる。別の実施形態において、前立腺内に投与されるMPPの治療有効量は、前立腺の重量1グラム当たり約0.03から25μgまで変化しうる。別の実施形態において、前立腺内に投与されるMPPの治療有効量は、前立腺の重量1グラム当たり約0.04から20μgまで変化しうる。別の実施形態において、前立腺内に投与されるMPPの治療有効量は、前立腺の重量1グラム当たり約0.04から10μgまで変化しうる。
【0146】
一実施形態において、70kgのヒトに対するMPPの有効静注用量は、約1mgから約10mgのMPPである。別の実施形態において、有効静注用量は、約1mgから約5mgである。別の実施形態において、有効静注用量は、約1mgから約3mgである。また別の実施形態において、有効静注用量は、約2.8mgである。一実施形態において、70kgのヒトに対するMPPの有効前立腺内用量は、約10mgから約100mgのMPPである。別の実施形態において、70kgのヒトに対するMPPの有効前立腺内用量は、約10mgから約50mgのMPPである。別の実施形態において、70kgのヒトに対するMPPの有効前立腺内用量は、約10mgから約30mgのMPPである。別の実施形態において、MPPの有効前立腺内用量は、70kgのヒトに対して約28mgである。
【0147】
MPPのin vivoでの発現
前立腺炎を処置するためのMPPの投与の代わりとして(またはそれに加えて)、MPPをコードする核酸をin vivoで発現させることによって、タイプIII前立腺炎のような前立腺炎の長期的または全身的な処理を達成することができる。
【0148】
MPPをコードする核酸
本開示は、前立腺炎の治療のためのMPPをコードする核酸またはDNA分子の使用を考慮する。かかるDNA分子は、分子生物学の標準的な実験技術、および本明細書に開示される配列情報を通じて得ることができる。
【0149】
適切なDNA分子およびヌクレオチドは、それらが機能性MPPをコードすることを条件として、ストリンジェントな条件下で、(配列番号3のような)開示されたDNA配列、またはそのフラグメントにハイブリダイズするものを含む。特定の度合いのストリンジェンシーをもたらすハイブリダイゼーション条件は、ハイブリダイゼーション法の特質、ならびにハイブリダイゼーションに用いられるDNAの組成および長さに依存して変化する。一般に、ハイブリダイゼーションの温度およびハイブリダイゼーション緩衝剤のイオン強度(特にNa濃度)が、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーを決定する。特定量のストリンジェンシーを実現するために必要なハイブリダイゼーション条件に関する計算は、Sambrookら、(Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor,N.Y.,1989、Chapters 9 and 11)に議論されている。
32P]−dCTPで標識された標的プローブを用いたハイブリダイゼーションは、一般に、6×SSCのような高イオン強度の溶液中において融解温度Tより約5〜25℃低い温度で実行される。ストリンジェントな条件の例は、短いプローブ(例えば、10から50ヌクレオチド)ではpH7.0から8.3および少なくとも約30℃の温度において少なくとも約0.01から1.0M Naイオン濃度(または他の塩)である。ストリンジェントな条件は、ホルムアミドのような不安定化剤の添加によって達成することもできる。例えば、対立遺伝子特異的なプローブ・ハイブリダイゼーションでは、25〜30℃における5×SSPE(750mM NaCl、50mM リン酸ナトリウム、5mM EDTA、pH 7.4)の条件が適している。
【0150】
遺伝コードの縮重は、コードされたタンパク質のアミノ酸配列を維持する一方で、DNA分子のヌクレオチド配列における変動をさらに許容する。例えば、アミノ酸Alaは、ヌクレオチドコドン・トリプレットGCT、GCG、GCC、GCAによってコードされる。かくして、ヌクレオチド配列は、コードされたタンパク質のアミノ酸組成あるいはタンパク質の特性に影響を及ぼすことなく変化することができる。遺伝子コードの縮重に基づいて、上記のように、標準的なDNA変異誘発技術を用いて、あるいはDNA配列の合成によって参照DNA分子から変異DNA分子を得ることができる。遺伝コードの縮重に基づく配列の変動故に、ストリンジェントな条件下では、開示されたDNA配列にハイブリダイズしないDNA配列もこの開示に包含される。
【0151】
本開示は、MPP、例えば、改変されたプロアエロリシン・ポリペプチドをin vivoの細胞または組織中に発現させる方法を提供する。一例では、細胞または組織の形質移入がin vitroで生じる。この例では、細胞または組織(例えば、移植片)が、被験体から除去されて、その後目的のMPPタンパク質をコードするcDNAを含んだ発現ベクターを用いて形質移入される。形質移入された細胞は、機能タンパク質を生成するようになり、被験体に再導入されることができる。別の例では、目的のMPPタンパク質をコードする核酸が、直接被験体(例えば、静脈内、または前立腺内)に投与されてin vivoで形質移入が生じる。
【0152】
ヒト細胞の形質移入に必要な科学的および医学的手技は、日常的なものである。遺伝子をドナー細胞中に移入する一般的な方策は、米国特許第5,529,774号に開示されている。通常は、治療上望ましい効果を持つタンパク質をコードする遺伝子が、ウイルスの発現ベクター中にクローン化されて、次にそのベクターが標的微生物中に導入される。ウイルスは、細胞に感染してin vivoでタンパク質配列を生成し、そこで所望の治療効果を持つ(Zabnerら、Cell 75:207−16,1993)。
【0153】
DNAまたはタンパク質要素を特定の細胞または組織、例えば、前立腺中に導入しさえすればよいこともある。しかしながら、いくつかの事例では、例えば、血管内(i.v.:intravascular)または経口投与によって、被験体のすべての細胞を処置するか、あるいはより広くベクターを播種する方が治療上より有効で簡単なこともありうる。
【0154】
MPPをコードする核酸配列は、適切なプロモーターの制御下にある。使用できる適切なプロモーターは、次のプロモーターを含むが、これらには限定されない:遺伝子本来のプロモーター、レトロウイルスのLTRプロモーター;アデノウイルスの主要後期プロモーターのようなアデノウイルスのプロモーター;CMVプロモーター;RSVプロモーター;MMTVプロモーターのような誘導性プロモーター; メタロチオネインプロモーター;熱ショックプロモーター;アルブミンプロモーター;ヒストンプロモーター;TKプロモーター;B19パルボウイルスのプロモーター;およびApoAIプロモーター。一例では、プロモーターは、プロバシンプロモーターのような前立腺に特異的なプロモーターである。しかしながら、本開示は、特定の外来遺伝子またはプロモーターには限定されない。
【0155】
組換え核酸が然るべき細胞に到達することを可能にする既知の方法によって、組換え核酸を被験体に投与することができる。これらの方法は、注射、点滴、デポジション、移植、あるいは局所投与を含む。注射は、皮内であっても皮下であってもよい。以下にさらに記載されるように、組換え核酸は、アビポックスウイルス、組換えワクシニアウイルス、複製欠損性アデノウイルス株もしくはポリオウイルスのようなウイルスベクターの部分として、あるいは裸のDNAまたはリポソーム封入DNAのような非感染型として送達されることができる。
【0156】
アデノウイルス・ベクターは、完全なアデノウイルス・ゲノムを基本的に含み(Shenkら、Curr.Top.Microbiol.Immunol.111:1−39、1984)、MPPをコードする核酸を発現させるために用いることができる。代わりに、アデノウイルス・ベクターは、アデノウイルス・ゲノムの少なくとも一部が削除された改変アデノウイルス・ベクターである。一例において、該ベクターは、以下を含む:アデノウイルスの5’ITR;アデノウイルスの3’ITR;アデノウイルスのキャプシド形成シグナル;治療薬をコードするDNA配列;および治療薬をコードするDNA配列発現のためのプロモーター。該ベクターは、アデノウイルスのE1およびE3のDNA配列の少なくとも大部分がないが、必ずしもE2およびE4のDNA配列のすべて、およびアデノウイルスの主要後期プロモーターによって転写されるアデノウイルス・タンパク質をコードするDNA配列がないわけではない。別の例では、該ベクターは、米国特許第4,797,368号(Carterら、)およびMcLaughlinら、(J.Virol.62:1963−73,1988)に記載されるようなアデノ随伴ウイルス(AAV:adeno−associated virus)、およびAAVタイプ4(Chioriniら、J.Virol.71:6823−33,1997)、ならびにAAVタイプ5(Chioriniら、J.Virol.73:1309−19,1999)である。
【0157】
かかるベクターは、5’末端で始まって以下を含むシャトルプラスミドを用いて、標準的な技術により構築することができる:アデノウイルスの5’ITR;アデノウイルスのキャプシド形成シグナル;E1エンハンサー配列;プロモーター(アデノウイルスのプロモーターでも外来プロモーターでもよい);三連リーダー配列;多重クローニング部位(本明細書に記載される通りであってもよい);ポリAシグナル;およびアデノウイルス・ゲノムのセグメントに対応するDNAセグメント。該DNAセグメントは、改変または変異されたアデノウイルスを用いた相同的組換えの基質として機能し、塩基3329から6246の長さを超えないアデノウイルス5’ゲノムのセグメントを含むことができる。プラスミドは、選択可能なマーカーおよび複製開始点も含むことができる。複製開始点は、細菌の複製開始点であってもよい。MPP治療薬をコードする所望のDNA配列をプラスミドの多重クローニング部位に挿入することができる。本明細書に開示される方法を実施するために使用できるベクターの例は、以下には限定されないが、Wooらへの国際公開第95/27512号;Walshらへの国際公開第01/127303号、Coutoらへの米国特許第6,221,349号、Highらへの米国特許第6,093,392号に開示されるものを含む。
【0158】
IV.臨床試験
前立腺炎を処置するためのMPPの使用に対する規制認可を得るために、臨床試験が行なわれる。当分野で知られるように、臨床試験は、フェーズI、II、III、IVとして示される検査フェーズを通して進行する。
【0159】
初めに、MPPは、フェーズI試験において評価されることになる。典型的に、フェーズI試験は、化合物に対して(例えば、丸薬によるかまたは注射による)投与の最良の様態、投与の頻度、および毒性を決定するために用いられる。フェーズI試験は、患者の体内で有望な治療物質の効果を評価するために、しばしば血液検査および生検のような臨床検査を含む。フェーズI試験では、前立腺炎を持つ少人数の患者のグループが、特定の用量のMPPで処置される。フェーズI試験の間に、化合物と関連する最大耐用量(MTD:maximum tolerated dose)および用量制限毒性(DLT:dose−limiting toxicity)を測定するために、通常はグループごとに用量が増やされる。この過程で、次のフェーズII試験で用いるのに適した用量が決定される。
【0160】
フェーズII試験は、MPPの有効性および安全性をさらに評価するために行うことができる。フェーズII試験では、フェーズI試験で有効なことがわかった投薬量を用いて、MPPが前立腺炎を持つ患者のグループに投与される。
【0161】
フェーズIII試験では、標準的または最も広く受け入れている治療と比較してMPPはどうかを判断することに焦点が絞られる。フェーズIII試験では、患者が二つ以上の「治療群」の1つに無作為に割り当てられる。二つの治療群を用いた試験では、例えば、一方の治療群が標準的処置を受け(対照群)、他方の治療群がMPP処置を受けることになる(治験群)。
【0162】
フェーズIV試験は、MPPの長期にわたる安全性および有効性をさらに評価するために用いられる。フェーズIV試験は、フェーズI、II、およびIII試験より一般的でなく、MPPの標準的な使用が認可された後に行われる。
【0163】
臨床試験に対する患者の適格性
参加者の適格基準は、概要(例えば、年齢、性別、疾患のタイプ)から詳細(例えば、前処置のタイプおよび数、疾患の特性、血球数、臓器機能)に及びうる。一実施形態において、適格なのは前立腺炎と診断された患者である。適格基準は、試験フェーズとともに変化することもある。臨床試験に適格な患者は、前立腺炎に関する客観的な測定結果、および他の前立腺炎処置に反応しないことに基づいて選ぶこともできる。例えば、フェーズIおよびフェーズII試験では、基準は、異常な臓器機能または他の要因故に治験中の治療から危険にさらされる可能性のある患者をしばしば除外する。フェーズIIおよびIII試験では、疾患のタイプおよび病期ならびに前処置の数およびタイプに関する追加的な基準がしばしば含まれる。
【0164】
フェーズI試験は、通常、他の治療オプションが有効ではなかった15から30人の参加者を含む。フェーズII試験は、典型的に、すでに薬物治療または外科手術を受けたが治療が有効でなかった最大100人までの参加者を含む。
【0165】
フェーズII試験への参加は、以前に受けた治療に基づいてしばしば制限される。フェーズIII試験は、通常、数百から数千人の参加者を含む。この多数の参加者は、MPPおよび標準的処置の有効性の間に真の違いがあるかどうか判断するために必要である。フェーズIIIは、新たに前立腺炎と診断された患者から、再発性前立腺炎または抗生物質による治療に反応しなかった前立腺炎を持つ患者までを含むことができる。
【0166】
臨床試験は、できるだけ包含的であるようにデザインしなくてはならないが、研究母集団が多様になりすぎて、処置がより狭く定義された母集団に対するのと同様に有効でありうるか判断できなくならないようにする必要があることを当業者は理解するであろう。試験に含まれる母集団が多様になるほど、特にフェーズIII試験において、結果は一般集団に適用されやすくなるであろう。臨床試験の各フェーズにおける適切な参加者の選択は、当業者の通常技術の範囲内にあると考えられる。
【0167】
処置前の患者の評価
研究の開始前に、最初に患者を分類するために、当分野で知られるいくつかの計測を利用することができる。例えば、NIH慢性前立腺炎症状インデックス(NIH−CPSI)、あるいは7つの質問に関する国際前立腺症状スコア(IPSS)によって、患者を最初に評価することができる。患者の疾患のタイプおよび/または病期に従って、および/または前立腺サイズによっても彼らを分類することができる。
【0168】
臨床試験におけるMPPの投与
MPPは、典型的に、注射によって試験参加者に投与される。一実施形態において、MPPは、前立腺内注射によって投与される。MPPの様々な用量をテストすることができる。前臨床検査からの情報が提供されれば、熟練した医師は、臨床試験に用いる然るべきMPP投薬量を容易に決定することができるであろう。一実施形態において、用量範囲は、約0.01μg/g前立腺から約50μg/g前立腺である。一実施形態において、用量範囲は、約0.02μg/g前立腺から約40μg/g前立腺である。一実施形態において、用量範囲は、約0.02μg/g前立腺から約35μg/g前立腺である。一実施形態において、用量範囲は、約0.03μg/g前立腺から約25μg/g前立腺である。一実施形態において、用量範囲は、約0.04μg/g前立腺から約20μg/g前立腺である。一実施形態において、用量範囲は、約0.04μg/g前立腺から約10μg/g前立腺である。一実施形態において、用量範囲は、約0.1μg/g前立腺から約5μg/g前立腺である。一実施形態において、用量範囲は、約0.2μg/g前立腺から約3μg/g前立腺である。一実施形態において、用量範囲は、約0.5μg/g前立腺から約2μg/g前立腺である。
【0169】
薬物動態モニタリング
フェーズI試験の基準を満たすために、例えば、定期的に採取される血液または尿のような検体の化学的分析によって、MPPの分布がモニターされる。例えば、検体は、点滴の開始後約72時間まで定期的に採取することができる。
【0170】
分析をすぐに行わない場合、検体を採取後にドライアイス上に置き、その後冷凍庫に移して分析できるようになるまで−70℃で保存することができる。検体は、当分野で知られる標準的な技術を用いて分析用に調製することができ、MPPの存在量は、例えば、高速液体クロマトグラフィー(HPLC:high−performance liquid chromatography)によって測定することができる。熟練した臨床薬理学者と協力して、薬物動態データを生成かつ分析することができ、例えば、クリアランス、半減期および最大血漿濃度を決定するためにこれを用いることができる。
【0171】
患者アウトカムのモニタリング
臨床試験のエンドポイントは、評価における化合物の有効性を示す測定可能なアウトカムである。エンドポイントは、試験の開始前に設定されるが、臨床試験のタイプおよびフェーズに依存して変化することになろう。エンドポイントの例は、例えば、前立腺体積の減少、血液PSAレベルの低下、尿路症状の改善、尿流の改善、急性尿閉の低減を含む。他のエンドポイントは、毒性およびクオリティ・オブ・ライフを含む。少なくとも10%の前立腺体積の減少またはPSAの低下は、患者が処置に反応したことを示す。
【0172】
V.医薬キット
本開示は、前立腺炎の処置に用いるための1つ以上のMPPもしくは1つ以上のMPPを含んだ医薬組成物を含んだ医療キットまたはパックをさらに提供する。MPPは、キット中に単位剤形で提供することができる。キットの個々の成分は、別々の容器に詰めることができる。適用可能な場合には、これらの容器に医薬品もしくは生物学的製剤の製造、使用または販売を規制する政府機関によって規定された形式の注意書きを添付することができる。注意書きは、ヒトまたは動物への投与のための製造、使用または販売に関する政府機関の承認を反映する。キットは、本開示のMPPと併用するための1つ以上の他の治療薬を随意的にさらに含むことができる。キットは、MPPおよび/または追加的な治療薬の使用方法または投与計画を略述した使用説明書または指示書を随意的にさらに含んでもよい。キットの成分が1つ以上の溶液で提供される場合、該溶液は、水溶液、例えば、滅菌水溶液とすることができる。この場合、容器手段は、それ自体から組成物を患者に投与するか、あるいはキットの他の成分に加えて混合することができる吸入器、シリンジ、ピペット、点眼器、または他のかかる器具であってもよい。
【0173】
キットの成分は、乾燥または凍結乾燥された形態で提供されてもよく、キットは、凍結乾燥された成分の再構成のための(生理食塩水のような)適切な溶媒を追加的に含むことができる。容器の数またはタイプに関わらず、本開示のキットは、患者への組成物の投与を助けるための器具も含む。かかる器具は、吸入器、シリンジ、ピペット、鉗子、計量スプーン、点眼器、または同様の医学的に認可された送達手段であってもよい。
【0174】
以下の非限定の例によって、本開示がさらに説明される。いくつかの具体例の開示は、他の実施形態を排除することを意図するものではない。加えて、本明細書に記載されるいかなる処置も、他の処置を必ずしも排除するものではなく、他の生物活性剤または治療法と組み合わせることができる。
【実施例】
【0175】
実施例1
前立腺炎を処置するためのPRX302の経会陰前立腺内注射に関する無作為化二重盲検プラセボ対照臨床試験
この実施例は、前立腺炎の処置のための超音波誘導下でのPRX302の経会陰前立腺内注射に関する無作為化二重盲検プラセボ対照研究について記載する。
【0176】
前立腺炎と関連する1つ以上の症状(例えば、TRUS測定により30から100mLと見積もられた前立腺体積;α遮断薬または5−αレダクターゼ阻害剤に対して不耐性または不応性;PSA値4〜10ng/mL;および少なくとも15のIPSSスコア)を提示する患者が選択される。すべてのスクリーニング手順および研究に参加するための被験体の適格性の確認の完了後に、電子的な無作為化プロセスが各被験体に対する無作為化番号を発生させる。被験体は、PRX302群およびプラセボ群間の比率2:1で、無作為に2つの処置群のうちの1つに割り当てられ、ベースライン時の前立腺サイズおよびIPSSによってそれぞれが階層化される。
【0177】
PRX302は、3μg/mLの一定濃度で前立腺体積の20%に等しい体積が投与される。プラセボ処置は、標準的な0.9%生理食塩水を含み、前立腺体積の20%に等しい体積が投与される。処置は、経直腸超音波(TRUS:trasrectal ultrasound)誘導下における前立腺の左右葉の移行域中への単回注射を通じて行われる。各デポジション・ポイントに最低1.0mLを送達する各注射の針の軌道に沿って、最低2つのデポジションが行われる。PRX302を受ける被験体では、予測総用量範囲は18から60μgの間である。
【0178】
尿路感染を予防するために、予防的抗生物質治療(Cipro(登録商標)XL(商標)、または相当物)が、投薬の前日から投薬の翌日まで行われる。来診/評価は、スクリーニング時、処置後0日目、3〜5日目、14日目、1カ月目、3カ月目、6カ月目、9カ月目および12カ月目に実行される。すべての3カ月データが利用できる時点で主要エンドポイントが解析されるが、治験依頼者、治験責任医師、および被験体は、研究全体を通じて、個々の被験体への処置の割り当てについて知らされないままである。有効性評価用パラメータは、次の通りである:(i)3カ月目のIPSSのベースラインからの変化;これは主要エンドポイントである;(ii)処置後1、6、9および12カ月目のIPSSのベースラインからの変化;(iii)各フォローアップ時点でのIPSSレスポンダーの割合; (iv)IPSS閉塞性および刺激性についてのサブスコアに関するベースラインからの変化、および各フォローアップ時点での各サブスコアにおけるレスポンダーの割合;ならびに(v)QoL、Qmaxおよび前立腺体積保持率がベースラインからの変化として表現され、処置後3、6および12カ月目に評価され、処置後3および6カ月目に前立腺体積が評価される。PRX302の安全性および耐容性の評価用パラメータは、重篤有害事象(SAE:serious adverse event)を含む有害事象、身体検査、バイタルサイン(心拍数、血圧、呼吸速度および体温)、心電図、臨床検査(血液学、血液生化学検査、尿検査およびPSA)、ならびに国際勃起機能スコア(IIEF:International index for erectile function)を含むことになろう。国際前立腺症状スコア(IPSS)は、過去1カ月の症状を代表する以下の症状の頻度を評価するもので、被験体によって0から5段階で報告され、0が最も望ましい反応を表す:(1)残尿感;(2)頻尿;(3)尿線途絶;(4)切迫感;(5)尿勢減弱;(6)腹圧排尿;および(7)夜間頻尿。
【0179】
IPSSスコアは、全体として、さらに刺激性および閉塞性分野に関して解析されることになろう。刺激性分野は、切迫感、頻尿および夜間頻尿スコアの合計として計算され、閉塞性分野は、残尿感、尿線途絶、尿勢減弱および腹圧排尿スコアの合計として計算される。IPSSの総スコアならびに刺激性および閉塞性分野のそれぞれに対して、被験体が、処置後の各時点で、レスポンダーかまたは非レスポンダーとして分類される。3つのスコアすべてについてベースライン・スコアと比較して30%減少した被験体が、レスポンダーとして定義される。
【0180】
クオリティ・オブ・ライフ・アンケート(QOL:Quality of Life Questionnaire)は、泌尿器症状に起因する生活の質に関する1つの質問、すなわち「もしあなたが今のような泌尿器の状態で残りの人生を過ごすとすれば、どう感じますか?」を含む。回答は、0〜6段階で提供され、ゼロが最も好ましい(例えば、喜ばしい)回答であり、6が最も好ましくない(例えば、酷い)。レスポンダーは、自らのQOLを3以下(例えば、満足とも不満足とも言えない)と評価する被験体として定義されることになろう。
【0181】
実施例2
ヒトにおける前立腺炎の処置
この実施例は、前立腺炎を患うヒトにおける前立腺炎を処置するために用いることができる特定の方法を記載する。
(躊躇、途絶または尿勢減弱、切迫感および失禁もしくは滴下、またはより頻繁な排尿、性的機能不全および/または心理的変化のような)排尿に関わる変化または問題と関連する尿生殖器および/または骨盤の痛みを含む、前立腺炎と関連する1つ以上の症状を経験するか、あるいは標準化体積と比較して前立腺体積が少なくとも20%増加した男性が、前立腺炎の処置のために選択される。
【0182】
PRX302が、3μg/mLの一定濃度で総用量が約30μgの前立腺体積の20%に等しい体積が投与される。処置は、経直腸超音波(TRUS)誘導下における前立腺の左右葉の移行域中への単回注射を通じて行われる。
【0183】
前立腺サイズは、最初の処置の7日、14日および30日後に直腸指診、または直腸超音波もしくは細胞検査によって、あるいは間接的に、例えば、血液PSAのレベルの変化もしくは血液中の遊離および総PSAの比率の変化を測定することによって測定される。PRX302による処置前標準化体積と比較して、前立腺体積および/またはPSAレベルが少なくとも20%減少した被験体は、前立腺炎の処置が成功したことを示唆する。処置は、所望通りに、追加的な前立腺炎用薬剤の存在下で再度行うことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体における前立腺炎を処置する方法であって、前記方法は、
治療有効量の改変された孔形成性タンパク質を前記被験体に投与する工程を包含し、前記改変された孔形成性タンパク質は、天然に存在する孔形成性タンパク質から得られ、かつ前立腺特異的プロテアーゼによって切断可能な活性化配列および/または前立腺細胞を選択的に標的とすることが可能な1つ以上の前立腺特異的標的化ドメインから選択される1つ以上の前立腺選択的改変を含み、前記改変された孔形成性タンパク質は、前立腺細胞を選択的に殺傷することができ、それによって、前立腺炎と関連する1つ以上の症状を軽減または阻止する、方法。
【請求項2】
前記天然に存在する孔形成性タンパク質が、プロアエロリシン・タンパク質またはアルファ毒素である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記プロアエロリシン・タンパク質が、配列番号4に記載されるアミノ酸配列を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記改変された孔形成性タンパク質が、アフィニティタグをさらに含む、請求項1〜3のいずれか1つに記載の方法。
【請求項5】
前記アフィニティタグが、ポリヒスチジンタグである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記ポリヒスチジンタグが、6つのヒスチジン残基を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記改変された孔形成性タンパク質が、静脈内、前立腺内、筋肉内、皮下、または経口的に投与される、請求項1〜6のいずれかの1つに記載の方法。
【請求項8】
前記改変された孔形成性タンパク質が、70kg体重当たり1mg〜10mgで静脈内に投与される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記改変された孔形成性タンパク質が、70kg体重当たり約3mgで静脈内に投与される、請求項1〜8のいずれか1つに記載の方法。
【請求項10】
前記改変された孔形成性タンパク質が、70kg体重当たり1mg〜100mgで前立腺内に投与される、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記改変された孔形成性タンパク質が、70kg体重当たり25mg〜30mgで前立腺内に投与される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記改変された孔形成性タンパク質が、3μg/mLの一定濃度で前立腺体積の20%に等しい体積で前立腺内に投与され、ここで、総用量は前立腺1グラム当たり約30μgである、請求項7に記載の方法。
【請求項13】
投与が、前立腺体積の減少をもたらす、請求項1〜12のいずれか1つに記載の方法。
【請求項14】
投与が、前立腺体積の少なくとも10%の減少をもたらす、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
投与が、前立腺体積の少なくとも50%の減少をもたらす、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前立腺炎と関連する少なくとも1つ以上の症状を有する被験体を選択する工程をさらに包含する、請求項1〜15のいずれか1つに記載の方法。
【請求項17】
前立腺炎と関連する前記1つ以上の症状が、30mL〜100mLの前立腺体積、4ng/mL〜10ng/mLの前立腺特異抗原の血液レベル、またはそれらの組み合わせを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記前立腺炎は、慢性前立腺炎である、請求項1〜17のいずれか1つに記載の方法。
【請求項19】
前立腺炎を処置するための追加的な治療薬を投与する工程をさらに包含する、請求項1〜18のいずれか1つに記載の方法。
【請求項20】
前記追加的な治療薬が、α−1−アドレナリン作用性受容体拮抗薬、抗生物質、抗炎症剤、5−αレダクターゼ阻害剤、フィトテラピーまたはそれらの任意の組み合わせを含む、請求項19に記載の方法。

【公表番号】特表2012−512183(P2012−512183A)
【公表日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−541043(P2011−541043)
【出願日】平成21年12月15日(2009.12.15)
【国際出願番号】PCT/CA2009/001837
【国際公開番号】WO2010/069060
【国際公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【出願人】(511146048)プロトックス セラピューティクス インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】