説明

改変されたFcRn結合部位を有する抗体融合タンパク質

改変されたFcRn結合部位を有する抗体融合タンパク質およびそれらをコードする核酸分子が開示される。本抗体融合タンパク質は2つのポリペプチド鎖を含み、その第1ポリペプチド鎖は、免疫グロブリン定常領域の少なくとも一部に連結した生物学的に活性な分子、好ましくは治療上活性な分子を含む。その第2ポリペプチド鎖は免疫グロブリン定常領域の少なくとも一部を含む。ポリペプチド鎖の1つは、FcRn結合の減少または低下をもたらすが前記抗体融合タンパク質の血清半減期の実質的減少をもたらさない、定常領域の変異を含む。好ましい実施形態において、本発明は、それぞれ構築されたFc-IFNβ分子に関する。融合タンパク質の製造方法および、融合タンパク質の投与によって緩和される疾患および状態を治療するための融合タンパク質の使用方法もまた開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改変されたFcRn結合部位を有する抗体融合タンパク質およびそれらをコードする核酸分子に関する。これらの抗体融合タンパク質は2つのポリペプチド鎖を含み、その第1ポリペプチド鎖は、免疫グロブリン定常領域の少なくとも一部に連結した生物学的に活性な分子、好ましくは治療上活性な分子を含む。その第2ポリペプチド鎖は免疫グロブリン定常領域の少なくとも一部を含む。ポリペプチド鎖の1つは、FcRn結合の減少または低下をもたらすが前記抗体融合タンパク質の血清半減期の実質的減少をもたらさない、定常領域の変異を含む。好ましい実施形態において、本発明は、それぞれ構築されたFc-IFNβ融合タンパク質に関する。
【背景技術】
【0002】
目的とするタンパク質を免疫グロブリン定常領域に連結させた抗体融合タンパク質は、連結させたタンパク質の生物活性のみならず、免疫グロブリン部分の存在と関連する利点をも有する。このような融合タンパク質の作製により、目的とするタンパク質の効率的な産生および分泌を確実にするのに役立つ。さらにまた、これらの融合タンパク質は、多くの場合、循環半減期の増加などの、治療上著しく有利な新規な特性を示す。
【0003】
成体の哺乳動物においては、FcRnは、新生児Fc受容体としても知られ、IgGアイソタイプ抗体に結合し、それを分解から守る保護受容体(protective receptor)として機能することによって血清抗体レベルを維持するのに重要な役割を果たしている。IgG分子は、内皮細胞によってエンドサイトーシスされるが、FcRnと結合したとき、循環中にリサイクルされる。対照的に、FcRnと結合していないIgG分子は内皮細胞に取り込まれ、リソソーム経路に導かれ、そこで分解される。His435がアラニンに変異したバリアントIgG1では、FcRn結合の選択的低下および血清半減期の著しい減少が生じる(Firan et al. 2001 , International Immunology 13:993)。
【0004】
IgG分子のFc部分は、2つの同じポリペプチド鎖を含み、各ポリペプチド鎖は、そのFcRn結合部位を介して1つのFcRn分子と結合する(Martin et al., 1999, Biochemistry 38:12639)。以前の研究により、血清持続性のためには、各Fc部分は、両方のFcRn結合部位を必要とすることが示されている。野生型FcRn結合ポリペプチド鎖および変異した非FcRn結合ポリペプチド鎖を含むヘテロ二量体Fcフラグメントは、ホモ二量体野生型Fcフラグメントと比較して血清半減期が著しく減少している(Kim et al., 1994, Scand. J. Immunol. 40:457-465)。FcRn結合部位を1つしか含まないこのようなヘテロ二量体Fcフラグメントは、ホモ二量体野生型Fcフラグメントよりもリサイクルされる効率が低く、リソソームに選択的に移動し、分解される(Tesar et al., 2006, Traffic 7:1127)。これらの所見は、IgG抗体またはそのFc部分を含むFcRn結合パートナーを含む治療薬の効果的な応用に直接的な関わりを持つ。例えば、米国特許第7,348,004号は、血清半減期の増加およびバイオアベイラビリティーの向上などの改善された生物学的特性のために、特に、無傷のFcRn結合を必要とし、あるいは増強されたFcRn結合までも必要とする融合タンパク質を記載している。
【0005】
より最近の研究により、食細胞におけるFcRnの発現が明らかにされ、IgG媒介性食作用におけるFcRnの新規な役割が示唆された(Vidarsson et al. 2006, Blood 108:3573)。IgGによってオプソニン化された病原体は、FcRnによってファゴソームに取り込まれるので、食細胞による取り込みおよび破壊のために病原体を標識化する効果的な手段を提供する。H435A変異を有するIgG1バリアントは、オプソニン化活性が著しく低下している。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、一部分において、FcRnへの結合を減少または低下させる、その構成免疫グロブリン定常領域ポリペプチド鎖の1つの変異を有する抗体融合タンパク質が、変異を有さない対応する融合タンパク質と比較して長期の循環半減期などの同等の生物学的特性を示すという驚くべき発見に基づく。さらにまた、IgG媒介性食作用におけるFcRnの役割を考慮すれば、FcRn結合を減少させる変異を有する抗体融合タンパク質は、免疫原性の低下をもたらす低オプソニン化活性を有することができると考えられる。
【0007】
本発明は、FcRnへの結合を減少させるFcRn結合部位の変異を有する可溶性の生物活性抗体融合タンパク質を発現させるための方法および組成物を提供する。この融合タンパク質は2つのポリペプチド鎖を含む。第1ポリペプチド鎖は、免疫グロブリン定常領域の少なくとも一部に連結した生物学的に活性な分子を含み、第2ポリペプチド鎖は、免疫グロブリン定常領域の少なくとも一部を含む。ポリペプチド鎖の1つの免疫グロブリン定常領域の一部のアミノ酸配列は、第2ポリペプチド鎖の免疫グロブリン定常領域の一部のアミノ酸配列とは、それがFcRn結合部位の変異を含むという点で異なる。相違は、アミノ酸の欠失、挿入、置換または改変であることができる。一実施形態において、相違は、免疫グロブリンの定常領域内の特定の位置、例えば386、388、400、415、433、435、436および439におけるアミノ酸置換である。好ましい実施形態において、アミノ酸置換は位置435におけるアミノ酸置換であり、好ましくはH435Aである。
【0008】
本発明は、免疫グロブリン定常領域の少なくとも一部に生物学的に活性な分子が連結した融合タンパク質に関する。生物学的に活性な分子は、免疫グロブリン定常領域のアミノ末端に連結していてもよい。あるいは、生物学的に活性な分子は、免疫グロブリン定常領域のカルボキシ末端に連結していてもよい。他の実施形態において、融合タンパク質は、免疫グロブリン定常領域の少なくとも一部の2つのポリペプチド鎖に連結した2つの生物学的に活性な分子を含むことができる。
【0009】
本発明は、免疫グロブリン定常領域の少なくとも一部を含む融合タンパク質に関する。免疫グロブリン定常領域の一部はFcフラグメントであることができると考えられる。種々の実施形態において、Fcフラグメントは、IgG1、IgG2、IgG3またはIgG4のFcフラグメントである。他の実施形態において、融合タンパク質は、ポリペプチド鎖の少なくとも1つにおいて免疫グロブリン可変領域を含む。本発明による好ましいFc融合タンパク質は、CH2-CH3鎖の1つまたは両方のCまたはN末端を介して、治療上有効な分子、好ましくはサイトカイン、増殖因子もしくは成長ホルモンなどのタンパク質もしくはポリペプチド、他の治療上有効なポリペプチド、小化学分子または核酸にFc部分が融合された分子であり、各免疫グロブリン鎖のFcRn結合、好ましくは、完全融合タンパク質のFcRn結合を減少または低下させるためにCH2-CH3鎖の1つのみが変異される。融合タンパク質の性質によって、生物学的に活性な分子が融合した免疫グロブリン鎖を変異させることがより有利である場合もあり、裸の(naked)免疫グロブリン鎖を変異させることが有利である場合もある。本発明のこれらのFc融合タンパク質は、それぞれ、ホモ二量体(2つの生物学的に活性な分子を、抗体のFc部分に、抗体の一部の各重鎖に対し1分子融合させた場合)であることもできるし、ヘテロ二量体(抗体またはFc部分の2つの重鎖の1つに、1つの生物学的に活性な分子のみを融合させた場合)であることもできる。
【0010】
本発明は、本発明の治療分子として任意の生物学的に活性な分子の使用を考える。例えば、生物学的に活性な分子は、インターフェロンβ(IFNβ)などのヒトインターフェロンであることができる。フォールディングを改善し、凝集を抑制するために、インターフェロンβ配列は、天然成熟インターフェロンβに対応する位置17、50、57、130、131、136、および140の少なくとも1つのアミノ酸改変を含むことができる。この改変は、アミノ酸置換であることができる。一実施形態において、アミノ酸置換は、C17S、C17A、C17V、C17M、F50H、L57A、L130A、H131A、K136A、H140AおよびH140Tからなる群から選択される。他の実施形態において、生物学的に活性な分子は、ヒトエリスロポエチンなどの他のサイトカインまたは増殖因子である。好ましい実施形態において、それぞれのFcRn変異免疫グロブリンのFc部分のNまたはC末端にIFNβ分子が融合される。特に好ましい実施形態は(二量体)Fc-IFNβ融合タンパク質であって、1つの、場合により改変されたIFNβ分子が、第1免疫グロブリンCH2-CH3鎖の定常領域のC末端または場合によりN末端、好ましくはC末端に融合され、第2CH2-CH3免疫グロブリン鎖がIFNβを欠き、FcRn結合を抑制または減少させる変異が第1または第2CH2-CH3鎖、好ましくは裸の鎖に位置し、変異が位置435で行われ、特にH435Aである前記(二量体)Fc-IFNβ融合タンパク質である。このような好ましいFc融合分子はヘテロ二量体である。さらに、さらに好ましいFc-IFNβ融合タンパク質は、これらの構造的特徴の他に、IgG2またはIgG4のCH2-CH3領域に連結されたIgG1ヒンジ領域を有する。
【0011】
本発明はまた、本発明の融合タンパク質をコードし発現する方法を提供する。例えば、本発明の一側面は、生物学的に活性な分子および、FcRnへの結合を減少させる変異を含む免疫グロブリン定常領域の少なくとも一部を含むポリペプチド鎖をコードする核酸に関する。他の側面において、本発明は、生物学的に活性な分子および、免疫グロブリン定常領域の少なくとも一部を含むポリペプチド鎖をコードする一方の核酸ならびに免疫グロブリン定常領域の少なくとも一部を含む第2ポリペプチド鎖をコードする第2核酸の組成物に関する。核酸配列の1つはFcRn結合部位の変異を含む。一実施形態において、変異は、定常領域、例えば位置386、388、400、415、433、435、436および439における1以上の位置でのアミノ酸置換であり、残基の番号付けは、KabatによるEUインデックスの番号付けである。さらに好ましい実施形態において、アミノ酸置換は位置435におけるアミノ酸置換であり、好ましくはH435Aである。他の側面において、本発明の核酸分子または核酸組成物は、複製可能な発現ベクターに組み込まれることができるが、次いでそれは宿主細胞に導入され、宿主細胞ゲノムに組換えられ、組み込まれることができる。複製可能な 発現ベクターは、前述の核酸または核酸組成物を含むことができる。他の実施形態において、本発明は、前述の核酸または核酸組成物を含む宿主細胞を含む。
【0012】
本明細書において、本発明は、前述の融合タンパク質および薬学的に許容される担体を含む医薬組成物を提供する。使用目的または投与方法に応じて、固体または液体の薬学的に許容される担体を医薬組成物に用いることができる。
【0013】
本発明のさらなる側面は、前述の融合タンパク質のいずれかの投与によって緩和される疾患または傷害を有する哺乳動物の治療方法に関する。一実施形態において、疾患または傷害はウイルス感染である。他の実施形態において、疾患または傷害は貧血症であり、さらに他の実施形態において、疾患または傷害は多発性硬化症である。
【0014】
要約すれば、本発明は以下の主題に関する:
・第1ポリペプチド鎖が生物学的に活性な分子および免疫グロブリン定常領域の少なくとも一部を含み、第2ポリペプチド鎖が免疫グロブリン定常領域の少なくとも一部を含み、前記ポリペプチド鎖の1つがFcRn結合部位の変異を含む、2つのポリペプチド鎖を含むタンパク質。
・各ドメインが免疫グロブリン定常領域の少なくとも一部を含む第1および第2重鎖ドメインを含む抗体融合タンパク質であって、前記第1または第2重鎖ドメインの少なくとも1つが生物学的に活性な分子に融合され、前記第1または第2重鎖ドメインの1つのみが定常領域内のアミノ酸配列の変異を含み、その変異がFcRnへの結合の部分的または完全な低下をもたらし、融合タンパク質の血清半減期の減少または実質的減少をもたらさない前記抗体融合タンパク質。抗体融合タンパク質の血清半減期の実質的減少は、本発明によれば、1以上の位置で、好ましくは位置386、388、400、415、433、435、436、439および447で、最も好ましくは位置435でFcRn結合部位変異を有さない融合タンパク質の血清半減期の10%を超える減少、好ましくは5%を超える減少、最も好ましくは3%を超える減少である。
・生物学的に活性な分子が免疫グロブリン定常領域のアミノ末端または免疫グロブリン定常領域のカルボキシ末端に連結した、上記のタンパク質または抗体融合タンパク質。
・第1および第2重鎖ドメインが生物学的に活性な分子を含む、上記のタンパク質または抗体融合タンパク質。
・抗体Fcフラグメントである上述のタンパク質または抗体融合タンパク質であって、第1および第2重鎖ドメインがヒンジ領域を含むCH2およびCH3ドメインであり、従って前記Fcフラグメントを構成する前記タンパク質または抗体融合タンパク質。
・あるいはまた、第1および/または第2重鎖ドメインが抗体可変ドメインを含み、従って抗原標的の結合を可能にする完全抗体を形成する抗体融合タンパク質。
・免疫グロブリンがIgGであり、好ましくはIgG1、IgG2またはIgG4である、それぞれのタンパク質または抗体融合タンパク質。
・Fcフラグメントまたは抗体の一部である好ましい抗体融合タンパク質であって、(i)第1および第2重鎖ドメインがヒンジ領域を含むIgGのCH2およびCH3ドメインであり、Fcフラグメントを構成し;(ii)第1重鎖ドメインがそのC末端を介して生物学的に活性な分子に融合され;(iii)第2重鎖ドメインが生物学的に活性な分子に融合されず、従ってFcヘテロ二量体融合タンパク質を形成する前記抗体融合タンパク質。この実施形態において、FcRn結合の低下または減少をもたらす変異は、生物学的に活性な分子に融合される重鎖ドメインに位置することもでき、生物学的に活性な分子に融合されない重鎖ドメインに位置することもできる。
・生物学的に活性な分子および治療上有効な分子がインターフェロンまたはインターロイキンなどのサイトカイン、ヒトインターフェロン、エリスロポエチンなどの増殖因子、またはヒト成長ホルモンなどの成長ホルモンである、上述のタンパク質または抗体融合タンパク質。本発明による最も好ましいものは、Fc分子の重鎖の1つのみに融合され、好ましくはFc分子のC末端に融合されるインターフェロンβ(IFNβ)分子を含むそれぞれのFc融合タンパク質である。
・ヒトIFNβのアミノ酸配列が改変され、好ましくは1以上の位置で置換され、好ましくは天然成熟ヒトIFNβに対応する位置17、50、57、130、131、136および140で置換される、上述の抗体融合タンパク質、好ましくはFc融合タンパク質。好ましくは、Fc-IFNβは、IFNβ配列の1以上の位置で、C17S、C17A、C17V、C17M、F50H、L57A、L130A、H131A、K136A、H140A、およびH140Tのように置換される。
・天然または改変されたIFNβに融合されない重鎖におけるFcRn変異を含む上記のFcフラグメント、あるいは逆に、天然または改変されたIFNβに融合される鎖においてFcRn変異が行われるそれぞれのFcフラグメントであって、両方の選択肢において、Fc融合タンパク質のヒンジ領域が、IgG 重鎖とは異なるIgG由来のそれぞれのFc融合分子(例えばヒンジ領域がIgG1由来であり、CH2-CH3 重鎖がIgG2またはIgG4由来である)である前記Fcフラグメント。
・(i)IgG定常領域の少なくとも一部に融合させた生物学的に活性な分子を含む第1重鎖ドメインをコードする核酸および(ii)生物学的に活性な分子に融合されないIgG定常領域の少なくとも一部を含む第2重鎖ドメインをコードする核酸を含む本明細書記載の抗体融合タンパク質の製造に適した核酸組成物であって、前記IgG定常領域またはその一部の1つのみがFcRnへの結合の部分的または完全な低下をもたらす変異を含む前記核酸組成物。
・前述のそれぞれのタンパク質または抗体融合タンパク質、好ましくはそれぞれのFc融合タンパク質、最も好ましくはFc-IFNβ融合タンパク質および薬学的に許容される担体、賦形剤または希釈剤を含む医薬組成物。
・疾患、例えばウイルス感染、貧血症、癌または多発性硬化症の治療に使用するための、前述のそれぞれのタンパク質または抗体融合タンパク質、好ましくは各Fc融合タンパク質、最も好ましくはFc-IFNβ融合タンパク質または前記医薬組成物。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1A〜1Dは、抗体のFcサブユニット(ここではヒンジ(小さい長方形)、CH2ドメインおよびCH3ドメイン(大きい長方形)として示されている)に生物学的に活性な分子(丸)がどのように連結されうるかを示す概略図である。Fcサブユニットの1つはFcRn結合部位の変異(菱形)を含む。生物学的に活性な分子は、FcサブユニットのN末端(図1Aおよび1B)またはC末端(図1Cおよび1D)に連結していてよい。
【図2】図2A〜2Fは、2つの生物学的に活性な分子が抗体のFcサブユニットに連結されうる方法のサブセットを示す。Fcサブユニットの1つはFcRn結合部位の変異を含む。2つの生物学的に活性な分子は同一であることもできるし、異なることもできる(黒丸または白丸)。
【図3】図3A〜3Hは、重鎖の定常領域(長方形)および可変領域(小さな斑点で覆われた長方形)を含む抗体に生物学的に活性な分子がどのように連結されうるかを示す。抗体融合タンパク質は単一の可変領域を含むこともできるし(図3A〜3D)、あるいは抗体融合タンパク質は2つの可変領域を含むこともできる(図3E〜3H)。重鎖の1つはFcRn結合部位の変異を含む。
【図4】図4A〜4Fは、重鎖の定常領域(長方形)および可変領域(小さな斑点で覆われた長方形)を含む抗体に2つの生物学的に活性な分子がどのように連結されうるかを示す。2つの生物学的に活性な分子は同一であることもできるし、異なることもできる(黒丸または白丸)。重鎖の1つはFcRn結合部位の変異を含む。
【図5】図5A〜5Dは、生物学的に活性な分子が無傷の免疫グロブリン、例えばIgGに連結されうる方法のサブセットを示す。重鎖および軽鎖の定常領域は長方形で示し、可変領域は小さな斑点で覆われた長方形で示す。重鎖の1つはFcRn結合部位の変異を含む。生物学的に活性な分子は重鎖に連結していてもよい(図5Aおよび5B)、軽鎖に連結していてもよい(図5Cおよび5D)。
【図6】図6A〜6Fは、2つの生物学的に活性な分子が、どのように無傷の免疫グロブリン、例えばIgGに連結されうるかを示す。重鎖の1つはFcRn結合部位の変異を含む。生物学的に活性な分子は重鎖に連結していてもよいし(図6Aおよび6B)、軽鎖に連結していてもよい(図6Cおよび6D)。あるいは、生物学的に活性な分子の1つが重鎖に連結しており、他の生物学的に活性な分子が軽鎖に連結していてもよい(図6Eおよび6F)。
【図7】図7A〜7Fは、2つの異なる生物学的に活性な分子が無傷の免疫グロブリン、例えばIgGにどのように連結されうるかを示す。重鎖の1つはFcRn結合部位の変異を含む。
【図8】図8は、還元条件下(左パネル)および非還元条件下(中央パネル)で、293T細胞内でヒトFcγ4h鎖およびヒトFcγ4h-リンカー-DI-IFNβ鎖の一過性同時発現によって産生されたhuFcγ4h-モノ-L-DI-IFNβのSDS-PAGE分析を示す。左パネルにおいて、レーン2はFcγ4h鎖およびFcγ4h-リンカー-DI-IFNβ鎖の両方が発現されたことを示し、レーン1は、Fcγ4h単独の発現を示す対照である。中央パネルにおいて、非還元条件下で、ヒトFcγ4h鎖およびヒトFcγ4h-リンカー-DI-IFNβ鎖の一過性同時発現を分析した。Fcγ4h鎖の2連試料(1a、1bと書かれた2つのレーン)またはFcγ4h鎖およびFcγ4h-リンカー-DI-IFNβ鎖の同時発現(2a、2bと書かれた2つのレーン)を分析した。右パネルは、2つの安定的にトランスフェクトされたクローン(3、4と書かれた2つのレーン)からのFc鎖およびFc-IL-2鎖の同時発現が、非還元条件下でのSDS-PAGEにおいて、通常の予想される裸のFcホモ二量体:Fc/Fc-IL2ヘテロ二量体:Fc-IL2ホモ二量体の比率を与えたことを示す。
【図9】図9は、Fcγ4h鎖およびFcγ4h-リンカー-DI-IFNβ鎖を同時発現するいくつかの安定NS0クローンからの馴化培地の、非還元条件下でのSDS-PAGE分析を示す。すべてのクローンは、Fcγ4hホモ二量体およびFcγ4h/Fcγ4h-IFNβヘテロ二量体を産生したが、Fcγ4h-IFNβホモ二量体をほとんど又は全く産生しなかった。
【図10】図10は、細胞変性効果(CPE)阻害アッセイにおける、精製されたFcγ4h-モノ-L-DI-IFNβ(正方形)およびH435A置換を含むFcγ4h-モノ-L-DI-IFNβバリアント(三角形)の生物活性を示す。脳心筋炎ウイルス(EMCV)の宿主としてヒト上皮肺癌株A549を用いた。陽性対照としてレビフ(丸)を用いた。
【図11】図11において、静脈内に投与された、huFcγ4h-モノ-L-DI-IFNβ(菱形)および、huFcγ4h(H435A)/huFcγ4h-L-DI-IFNβヘテロ二量体の形でH435A置換を含むhuFcγ4h-モノ-L-DI-IFNβバリアント(正方形)の薬物動態学的プロフィールを比較する。マウス(n=3)に、総タンパク質25μg/マウスを静注した。種々の時点で、注入されたタンパク質の血清濃度を抗hu Fc ELISAによって測定した。
【図12】図12において、静脈内投与されたhuFcγ4h-モノ-L-DI-IFNβ(菱形)および、huFcγ4h(H435A)/huFcγ4h-L-DI-IFNβヘテロ二量体の形でH435A置換を含むhuFc4h-モノ-L-DI-IFNβバリアント(正方形)の薬物動態学的プロフィールを比較する。マウス(n=3)に、総タンパク質25μg/マウスを静注した。種々の時点で、注入されたタンパク質の血清濃度を、抗hu(H&L)捕捉および抗hu IFNβ検出からなるELISAによって測定した。
【図13】図13において、皮下投与されたhuFc4γh-モノ-L-DI-IFNβ(菱形)および、huFcγ4h(H435A)/huFcγ4h-L-DI-IFNβヘテロ二量体の形でH435A置換を含むhuFcγ4h-モノ-L-DI-IFNβバリアント(正方形)の薬物動態学的プロフィールを比較する。マウス(n=3)に、総タンパク質50μg/マウスを皮下注した。種々の時点で、注入されたタンパク質の血清濃度を抗hu Fc ELISAによって測定した。
【図14】図14において、皮下投与されたhuFcγ4h-モノ-L-DI-IFNβ(菱形)および、huFcγ4h(H435A)/huFcγ4h-L-DI-IFNβヘテロ二量体の形でH435A置換を含むhuFcγ4h-モノ-L-DI-IFNβバリアント(正方形)の薬物動態学的プロフィールを比較する。マウス(n=3)に、総タンパク質50μg/マウスを皮下注した。種々の時点で、注入されたタンパク質の血清濃度を、抗hu(H&L)捕捉および抗hu IFNβ検出からなるELISAによって測定した。
【図15】図15において、huFcγ4h-モノ-L-DI-IFNβ(丸)または、H435A置換を含むhuFcγ4h-モノ-L-DI-IFNβバリアント(菱形)で免疫し、次いでブースト注射を行ったマウスの抗体価を比較する。マウス抗体価はELISAによって測定した。
【図16】図16は、静脈内薬物動態学試験からのマウス血清試料の、還元条件下でのウェスタンブロット分析である。上部左:抗hu FcでプローブされたhuFcγ4h-モノ-L-DI-IFNβ;下部左:抗hu Fcでプローブされた、H435A置換を含むhuFcγ4h-モノ-L-DI-IFNβバリアント;上部右:抗hu IFNβでプローブされたhuFcγ4h-モノ-L-DI-IFNβ;下部右:抗hu IFNβでプローブされた、H435A置換を含むhuFcγ4h-モノ-L-DI-IFNβバリアント。
【図17】図17は、皮下薬物動態学試験からのマウス血清試料の、還元条件下でのウェスタンブロット分析である。上部左:抗hu FcでプローブされたhuFcγ4h-モノ-L-DI-IFNβ;下部左:抗hu Fcでプローブされた、H435A置換を含むhuFcγ4h-モノ-L-DI-IFNβバリアント;上部右:抗hu IFNβでプローブされたhuFcγ4h-モノ-L-DI-IFNβ;下部右:抗hu IFNβでプローブされた、H435A置換を含むhuFcγ4h-モノ-L-DI-IFNβバリアント。
【発明を実施するための形態】
【0016】
発明の詳細な説明
定義
本明細書により考えられる治療薬または組成物の"有効量"または"薬学的に有効な量"は、所望の効果、例えば、疾患症状の重症度の軽減を得るために十分な量である。薬学的に有効な量は、治療される被験者および病状、被験者の体重および年齢、病状の重症度、投与方法などに左右されるであろう。例えば、本発明の特定の組成物は、このような治療に適用可能な合理的な便益/リスク比を得るのに十分な量で投与できる。
【0017】
本明細書において、用語"核酸"は、一本鎖または二本鎖形のいずれかで少なくとも2つのデオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドを含むポリマーのことをいい、DNAおよびRNAを含む。DNAは、例えば、プラスミドDNA、プレ凝縮DNA(pre-condensed DNA)、PCR産物、ベクター(P1、PAC、BAC、YAC、人工染色体)、発現カセット、染色体DNAまたはこれらの群の誘導体および組み合わせの形態であることができる。RNAは、mRNA、tRNA、rRNA、tRNA、vRNAおよびそれらの組み合わせの形態であることができる。核酸は、合成核酸、天然に存在する核酸および天然に存在しない核酸であって、参照核酸と同様な結合特性を有する既知のヌクレオチドアナログまたは修飾骨格残基もしくは結合を含む。このようなアナログの例は、限定するものではないが、ホスホロチオエート、ホスホルアミデート、メチルホスフェート、キラル-メチルホスホネート、2'-O-メチルリボヌクレオチドおよびペプチド核酸(PNA)を含む。"ヌクレオチド"は、デオキシリボース(DNA)またはリボース(RNA)、糖、窒素塩基およびリン酸基またはそのアナログを含む。ヌクレオチドは、リン酸基を介して互いに結合される。塩基はプリンおよびピリミジンを含み、これらはさらに、天然化合物であるアデニン、チミン、グアニン、シトシン、ウラシル、イノシンおよび天然アナログならびに、限定するものではないが、新規反応性基、例えば限定するものではないが、アミン、アルコール、チオール、カルボキシレートおよびアルキルハライドなどを配置する改変を含むプリンおよびピリミジンの合成誘導体を含む。
【0018】
用語"小分子"とは、1kDa未満の分子量を有する分子のことを言う。小分子は、天然に存在するするかまたは合成された種々の分子のいずれかであることができる。生物学的に活性な分子は有機小分子、無機小分子、糖分子、脂質分子などであることができる。小分子は薬物であることができる。
【0019】
用語"薬学的に許容される賦形剤"は、医薬品の製剤化に用いられる薬学的に許容される物質、組成物またはビヒクル、例えば液体もしくは固体の充填剤、希釈剤、賦形剤または溶媒のことを言う。各賦形剤は、対象組成物およびその成分と適合し、患者に有害ではないという意味で"許容され"なければならない。薬学的に許容される賦形剤として役に立つことができる物質の例は(1)糖、例えばラクトース、グルコースおよびショ糖;(2)デンプン、例えばコーンスターチおよびポテトスターチ;(3)セルロースおよびその誘導体、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロースおよび酢酸セルロース;(4)トラガント末;(5)モルト;(6)ゼラチン;(7)タルク;(8)賦形剤、例えばカカオバターおよび座薬ワックス;(9)油、例えば落花生油、綿実油、ベニバナ油、ゴマ油、オリーブ油、コーンオイルおよび大豆油;(10)グリコール、例えばプロピレングリコール;(11)ポリオール、例えばグリセリン、ソルビトール、マンニトールおよびポリエチレングリコール;(12)エステル、例えばオレイン酸エチルおよびラウリン酸エチル;(13)寒天;(14)緩衝化剤、例えば水酸化マグネシウムおよび水酸化アルミニウム;(15)アルギン酸;(16)パイロジェンフリー水;(17)等張生理食塩水;(18)リンゲル液;(19)エチルアルコール;(20)リン酸緩衝液;ならびに(21)医薬製剤に用いられる他の無毒の適合する物質を含む。
【0020】
抗体融合タンパク質
目的とするタンパク質を免疫グロブリン定常領域、例えば、免疫グロブリンFc領域に連結させた抗体融合タンパク質は、連結させたタンパク質の生物活性のみならず、免疫グロブリン部分の存在と関連する利点をも有する。このような融合タンパク質は、生物学的に活性な分子単独と比較して、安定性の向上およびバイオアベイラビリティーの向上を示す。さらに、Fcフラグメントの存在により、タンパク質産生が顕著に改善されることができる。このことは、一部分において、融合タンパク質のFc部分が融合タンパク質の効率的な分泌のために設計されるからであり、一部分において、融合タンパク質が、免疫グロブリンを天然に発現する宿主細胞内で産生され、そこから分泌され、そのため融合タンパク質が宿主細胞から容易に分泌されることができるからであると考えられる。最後に、Fcフラグメントは、さらに、融合ポリペプチドの精製を助けるために利用することができる。
【0021】
成体の哺乳動物においては、FcRnは、IgGに結合し、それを分解から守る保護受容体として機能する。FcRn結合の親和性と抗体の血清半減期との相関を多くの研究が裏付けている。驚くべきことに、本発明は、FcRn結合を減少させる変異を有する抗体融合タンパク質が、変異を有さない対応する融合タンパク質のような長期の循環半減期などの同等の生物学的特性を示すことを提供する。さらにまた、IgG媒介性オプソニン化におけるFcRnの役割を考慮すれば、FcRnに対する親和性を減少させる変異を有する抗体融合タンパク質は、免疫原性の低下を示すことができると考えられる。
【0022】
従って、本発明は、2つのポリペプチド鎖を含む抗体融合タンパク質を提供する。第1ポリペプチド鎖は、免疫グロブリン定常領域の少なくとも一部に連結した生物学的に活性な分子を含み、第2ポリペプチド鎖は、免疫グロブリン定常領域の少なくとも一部を含む。ポリペプチド鎖の1つの免疫グロブリン定常領域の一部アミノ酸配列は、第2ポリペプチド鎖の免疫グロブリン定常領域の一部のアミノ酸配列とは、それがFcRn結合部位の変異を含むという点で異なる。
【0023】
本発明はまた、FcRn結合を減少させる、FcRn結合部位の変異を有する可溶性の生物活性抗体融合タンパク質を発現させるための方法および組成物を提供する。特に、本発明は、生物学的に活性な分子および、FcRn結合を減少させる変異を含む免疫グロブリン定常領域の少なくとも一部を含むポリペプチド鎖をコードする核酸分子を提供する。他の側面において、本発明は、生物学的に活性な分子および、免疫グロブリン定常領域の少なくとも一部を含むポリペプチド鎖をコードする一方の核酸ならびに免疫グロブリン定常領域の少なくとも一部を含む第2ポリペプチド鎖をコードする第2核酸の組成物に関する。核酸配列の1つはFcRn結合部位の変異を含む。
【0024】
本発明はまた、本発明の抗体融合タンパク質の有効量を哺乳動物に投与することによる抗体融合タンパク質の投与によって緩和される疾患または傷害の治療方法を提供する。
【0025】
抗体融合タンパク質の構造バリアント
本発明は、2つのポリペプチド鎖を含む抗体融合タンパク質を開示する。第1ポリペプチド鎖は、免疫グロブリン定常領域の少なくとも一部に連結した生物学的に活性な分子を含み、第2ポリペプチド鎖は免疫グロブリン定常領域の少なくとも一部を含む。ポリペプチド鎖の1つはFcRn結合の変異を含む。
【0026】
図1は、生物学的に活性な分子を抗体の免疫グロブリン定常領域、例えばFcサブユニットに連結しうる方法のサブセットを示す。生物学的に活性な分子は、免疫グロブリン定常領域のN末端(図1Aおよび1B)または免疫グロブリン定常領域のC末端(図1Cおよび1D)に連結することができる。生物学的に活性な分子は、FcRn結合の変異を有する免疫グロブリン定常領域に連結してもよいし、変異を有さない免疫グロブリン定常領域に連結していてもよい。
【0027】
抗体融合タンパク質は、少なくとも2つの生物学的に活性な分子を含むことができる。図2に示すように、生物学的に活性な分子は、免疫グロブリン定常領域のN末端(図2A)に連結していてもよいし、免疫グロブリン定常領域のC末端(図2B)に連結していてもよいし、あるいは、生物学的に活性な分子の1つが免疫グロブリン定常領域のN末端に連結し、第2生物学的に活性な分子が免疫グロブリン定常領域のC末端に連結していてもよい(図2C)。2つの生物学的に活性な分子は同一であっても異なっていてもよい。図2D〜2Fは、2つの異なる生物学的に活性な分子が免疫グロブリン定常領域にどのように連結しうるかを示す。
【0028】
本発明はまた、2つのポリペプチド鎖を含む抗体融合タンパク質であって、ペプチド鎖の少なくとも1つが抗体可変ドメインを含む前記抗体融合タンパク質を考える。図3は、生物学的に活性な分子が、抗体可変ドメインを含む免疫グロブリン領域に連結されうる方法のサブセットを示す。生物学的に活性な分子は、抗体可変ドメインを含むポリペプチド鎖の1つのN末端またはC末端のいずれかに連結することができる(図3A〜3D)。あるいは、両方のペプチド鎖が抗体可変ドメインを含むこともできる(図3E〜3H)。
【0029】
図4は、2つの生物学的に活性な分子が、重鎖の定常領域および可変領域を含む抗体にどのように連結されうるかを示す。生物学的に活性な分子は、免疫グロブリン領域のN末端、C末端またはN末端およびC末端に連結していてよい(図4A〜4C)。異なる生物学的に活性な分子が免疫グロブリン領域に連結していてもよい(図4D〜4F)。
【0030】
本発明の融合タンパク質は、無傷の抗体、例えばIgGに連結した生物学的に活性な分子を含むことができる。図5は、生物学的に活性な分子が抗体に連結されうる方法のサブセットを示す。生物学的に活性な分子は、免疫グロブリン重鎖のN末端またはC末端に連結することができる(図5Aおよび5B)。あるいは、生物学的に活性な分子は、免疫グロブリン軽鎖のN末端またはC末端に連結することができる(図5Cおよび5D)。
【0031】
図6は、2つの生物学的に活性な分子が、どのように無傷の抗体に連結されうるかを示す。生物学的に活性な分子は、免疫グロブリン重鎖のN末端またはC末端に連結していてよい(図6Aおよび6B)。あるいは、生物学的に活性な分子は、免疫グロブリン軽鎖のN末端またはC末端に連結することができる(図6Cおよび6D)。生物学的に活性な分子の1つは免疫グロブリン重鎖に連結していてよく、第2生物学的に活性な分子は免疫グロブリン軽鎖に連結していてよい(図6Eおよび6F)。図7は、異なる生物学的に活性な分子が無傷の抗体にどのように連結しうるかを示す(図7A〜7F)。
【0032】
抗体融合タンパク質の生物学的特性
前述のように、本発明の抗体融合タンパク質は、変異を有さない対応する融合タンパク質と同等な、長期の循環半減期などの生物学的特性を示すことができる。例えば、図11〜15は、H435A変異を有するヒトFcγ4-IFNβが、in vivoで、変異を有さないヒトFcγ4-IFNβと同様な血清安定性を示したことを明らかにしている。マウスに静注された、H435A変異を有するFcγ4-IFNβは、変異を有さない抗体融合タンパク質と同様な循環半減期を示した(図11および12)。同様に、マウスに皮下注した、H435A変異を有するFcγ4-IFNβは、変異を有さない抗体融合タンパク質と同様な循環半減期を示した(図13および14)。
【0033】
本発明の抗体融合タンパク質の誘導体が考えられ、機能的に同等な分子を生じる、置換、付加、および/または欠失/短縮化によるそれらのアミノ酸配列の改変、または化学修飾の導入によって製造することができる。任意のタンパク質の配列中の特定のアミノ酸を、そのタンパク質の活性に悪影響を及ぼすことなく他のアミノ酸に置換できることは、当業者には明らかであろう。このような変換から得られた誘導体、アナログまたは変異体ならびにこのような誘導体の使用は本発明の範囲に含まれる。
【0034】
FcRn結合部位の変異
本発明は、Fcを含むポリペプチド鎖の1つのFcRn結合部位の変異を有する抗体融合タンパク質を提供する。Fcを含む他のポリペプチド鎖は、FcRnに対するその固有の結合親和性を保持するが、この変異は、FcRn受容体に対する抗体融合タンパク質の結合アビディティの増加をもたらす。結合の減少は、106M-1未満の親和定数KAを有する低い親和性を特徴とする。必要に応じて、結合条件を変えることによってFcRn結合を減少させることができる。当業者は、分子の濃度、溶液のイオン強度、温度、結合を可能にする時間などの結合条件を決定することができる。
【0035】
FcRn受容体に結合するIgGのFc部分の領域は、X線結晶学に基づいて記載されている(Burmeister et al., 1994, Nature 372:379)。FcRnに対する結合に関与するIgG残基は、Fc領域のCH2-CH3ドメインの界面に位置する。主要な接触部位は、CH2ドメインのアミノ酸残基248、250〜257、272、285、288、290、291、308〜311および314ならびにCH3ドメインのアミノ酸残基385〜387、428および433〜436を含む。
【0036】
この知識を用いて、FcRnに対する親和性が低下した改変された抗体融合タンパク質を作製するために、公知の手順、例えば部位特異的変異導入法に従って、抗体融合タンパク質のFcフラグメントを改変することができる。改変は、置換、付加、および/または欠失/短縮化であることができる。例えば、抗体融合タンパク質の免疫グロブリン定常領域は、天然IgG1 Fcフラグメントのヒスチジンに対応する位置435における改変を含むことができる。当該技術分野で公知の方法を用いて、アミノ酸改変によって、ヒスチジンをアラニンに置換(H435A)することができる。
【0037】
位置435における改変に加えて、本発明はまた、他の改変残基を有する抗体融合タンパク質を考える。例えば、抗体融合タンパク質は、位置233、234、235、236、252、253、254、255、288、309、386、388、400、415、433、435、436、439および447の1以上における改変であることができる。ここで、IgG Fc領域の残基の番号付けは、Kabatら(Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed., Public Health Service, National Institute of Health, Bethesda, MD (1991))に記載されているEUインデックスの番号付けである。FcRnに対する結合を減少または排除する改変の例は、限定するものではないが、E233A、L234A、L235A、G236A、I253A、S254A、R255A、K288A、S415A、H433A、H435A、Y436Aを含む。上記以外のさらなるアミノ酸残基もまた、FcRn結合を減少させるために変異させうると考えられる。さらにまた、アラニンに加えて、上記の位置で野生型アミノ酸を他のアミノ酸残基に置換することができる。変異は、単独で導入することもできるし、このような変異の2つまたは3つ以上の組み合わせを一緒に導入することもできる。さらにまた、FcRn結合を減少させるために、抗体融合タンパク質のポリペプチド鎖の1つを変異させることもできるし、両方のポリペプチド鎖を変異させることもできる。生物学的に活性な分子が何であろうと、本明細書記載の任意の変異を用いることができる。
【0038】
免疫グロブリン領域
本発明の抗体融合タンパク質は、免疫グロブリン定常領域の少なくとも一部を含む。無傷の免疫グロブリンは、共有結合で結合する4つのタンパク質鎖(2つの重鎖および2つの軽鎖)を含む。各鎖は、さらに、1つの可変領域および1つの定常領域を含む。免疫グロブリンアイソタイプ次第により、重鎖定常領域は、3つまたは4つの定常領域ドメイン(例えばCH1、CH2、CH3、CH4)およびヒンジ領域を含む。ドメインは、順次CH1-ヒンジ-CH2-CH3(-CH4)のように名付けられる。
【0039】
免疫グロブリン定常領域の一部は、IgG、IgA、IgM、IgDまたはIgEの一部を含むことができる。一実施形態において、免疫グロブリンはIgGである。他の実施形態において、免疫グロブリンはIgG1である。他の実施形態において、免疫グロブリンはIgG2である。他の実施形態において、免疫グロブリンIgG3であり、さらに他の実施形態において、免疫グロブリンはIgG4である。適切な免疫グロブリン重鎖定常領域の選択については、米国特許第5,541,087号および第5,726,044号で詳細に説明されている。特定の結果を得るための、特定の免疫グロブリンクラスおよびサブクラスからの特定の免疫グロブリン重鎖定常領域配列の選択は、当業者のレベルの範囲内であると考えられる。
【0040】
免疫グロブリン定常領域の一部は、重鎖定常領域全体またはそのフラグメントもしくはアナログを含むことができる。一実施形態において、免疫グロブリン定常領域の一部はFcフラグメントである。例えば、免疫グロブリンFcフラグメントは、1)CH2ドメイン;2)CH3ドメイン;3)CH4ドメイン;4)CH2ドメインおよびCH3ドメイン;5)CH2ドメインおよびCH4ドメイン;6)CH3ドメインおよびCH4ドメイン;または7)免疫グロブリンヒンジ領域および/またはCH2ドメインおよび/またはCH3ドメインおよび/またはCH4ドメインの組み合わせを含むことができる。一実施形態において、免疫グロブリンFc領域は、少なくとも免疫グロブリンヒンジ領域を含み、他の実施形態において、免疫グロブリンFc領域は、少なくとも1つの免疫グロブリン重鎖定常領域、例えば、CH2ドメインまたはCH3ドメインおよび、Fc領域を作製するために用いられる免疫グロブリンのタイプに応じて場合によりCH4ドメインを含む。他の実施形態において、Fc領域は、ヒンジ領域、CH2ドメインおよびCH3ドメインを含み、好ましくはCH1ドメインを欠く。他の実施形態において、Fc領域はヒンジ領域およびCH2ドメインを含む。さらに他の実施形態において、Fc領域はヒンジ領域およびCH3ドメインを含む。
【0041】
免疫グロブリンFcフラグメントは、任意の免疫グロブリンクラス由来であってもよい。例えば、免疫グロブリンクラスはIgG(IgGγ1)(γサブクラス1、2、3または4)であることができる。免疫グロブリンの他のクラス、例えばIgA(Igα)、IgD(Igδ)、IgE(Igε)およびIgM(Igμ)もまた使用できる。適切な免疫グロブリン重鎖定常領域の選択は、米国特許第5,541,087号、および第5,726,044号に詳細に説明されている。特定の結果を得るための、特定の免疫グロブリンクラスおよびサブクラスからの特定の免疫グロブリン重鎖定常領域の選択法は当業者に明らかであることは言うまでもない。
【0042】
融合タンパク質の作製に使用するFcフラグメントを、特定の用途に適合させることができると考えられる。例えば、Fcフラグメントは、免疫グロブリンγ1アイソタイプまたはそのバリアント由来であることができる。Fcフラグメント配列としてのヒトγ1の使用は、いくつかの利点を有する。例えば、免疫グロブリンγ1アイソタイプ由来のFcフラグメントは、融合タンパク質を肝臓にターゲッティングすることが所望される場合に使用することができる。さらに、抗体融合タンパク質がバイオ医薬品として使用される場合、Fcγ1ドメインは、融合タンパク質にエフェクター機能の活性を付与することができる。エフェクター機能の活性は、生物活性、例えば胎盤通過能および血清半減期の増加を含む。免疫グロブリンFcフラグメントはまた、抗Fc ELISAによる検出およびプロテインA(Staphylococcus aureus protein A("Protein A"))に対する結合による精製もまた提供する。
【0043】
あるいは、抗体融合タンパク質のFcフラグメントは、免疫グロブリンγ4アイソタイプに由来する。免疫グロブリンγ4アイソタイプは、エフェクター機能の媒介に効果はなく、Fcγ受容体に対する結合は大変減少しているので、Fc領域として免疫グロブリンγ4を有する抗体融合タンパク質は、哺乳動物に投与される場合、免疫エフェクター機能の低下および循環半減期の増加を示すことができると考えられる。
【0044】
免疫グロブリンFcフラグメントは、複数の免疫グロブリンクラスまたはサブクラスを組み合わせることができる。例えば、該フラグメントは、IgG1のヒンジ領域とIgG2のCH2およびCH3ドメインとを組み合わせることができる(例えば、米国特許第7,148,326号参照)。いくつかの実施形態において、米国特許出願公開第2007/0287170号に記載されているように、異なるアイソタイプ由来のドメインの一部が組み合わされて、二量体化特性が変化した鎖交換操作ドメイン(strand exchange engineered domain("SEED"))が作製される。
【0045】
一実施形態において、抗体融合タンパク質は少なくとも1つの抗体可変ドメインを含む。抗体可変ドメインは重鎖可変ドメインであることもできるし、軽鎖可変ドメインであることもできる。
【0046】
本発明に使用する免疫グロブリン定常領域の一部は、変異体またはそのアナログを含むこともできるし、化学修飾した免疫グロブリン定常領域(例えばPEG化)またはそのフラグメントを含むこともできることは言うまでもない。当業者は、公知の分子生物学の技術を用いて、このようなバリアントを製造することができる。
【0047】
生物学的に活性な分子
本発明は、2つのポリペプチド鎖を含む抗体融合タンパク質に関する。第1ポリペプチド鎖は、免疫グロブリン定常領域の少なくとも一部に連結した生物学的に活性な分子を含み、第2ポリペプチド鎖は免疫グロブリン定常領域の少なくとも一部を含む。生物学的に活性な分子は、免疫グロブリン定常領域のアミノ末端に連結していてよい。あるいは、生物学的に活性な分子は、免疫グロブリン定常領域のカルボキシ末端に連結していてもよい。一実施形態において、第2ポリペプチド鎖は生物学的に活性な分子を含むこともできる。
【0048】
本発明は、哺乳動物に投与したとき、生物学的作用を発揮することができる任意の生物学的に活性な分子の使用を考える。生物学的に活性な分子は、限定するものではないが、ポリペプチド、核酸、小分子を含むことができる。生物学的に活性な分子の他の例は、限定するものではないが、ホルモン、抗ウイルス剤、止血薬、ペプチド、タンパク質、化学療法剤、ビタミン、補因子、ヌクレオシド、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、酵素核酸、アンチセンス核酸、三本鎖形成性オリゴヌクレオチドおよびアプタマーを含む。
【0049】
サイトカイン
一実施形態において、生物学的に活性な分子はサイトカインである。サイトカインは、リンパ球を含む細胞の増殖および成熟を支える因子である。サイトカインの例は、限定するものではないが、インターロイキン-l(IL-1)、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-11、IL-12、IL-13、IL-14、IL-15、IL-16、IL-17、IL-18、リンホカイン阻害因子、マクロファージコロニー刺激因子、血小板由来増殖因子、幹細胞因子、腫瘍壊死因子、顆粒球コロニー刺激因子および顆粒球マクロファージコロニー刺激因子を含む。
【0050】
特定の実施形態において、生物学的に活性な分子はヒトインターフェロン、例えばインターフェロンβを含むことができる。インターフェロンβ部分は、野生型成熟ヒトインターフェロンβタンパク質であることもできるし、野生型成熟ヒトインターフェロンβと少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%または95%同一である配列であることもできる。例えば、生物学的に活性な分子は、例えば融合タンパク質のタンパク質フォールディング特性を改善するために、凝集を抑制するために、あるいはタンパク質発現を改善するために、1以上の変異を有するヒトインターフェロンβ部分を組み込むことができる。例えば、抗体融合タンパク質のインターフェロンβ部分は、天然成熟インターフェロンβに対応する位置17、50、57、130、131、136および140の1、2、3または4以上における改変を含むことができる。これらの位置におけるアミノ酸改変は、当該技術分野で公知の方法を用いて、アミノ酸置換、アミノ酸欠失またはアミノ酸改変によって行うことができる。これらの残基において導入した改変は、非共有結合的凝集を抑制すると考えられる。1例において、位置17のシステインは、セリン(C17S)、アラニン(C17A)、バリン(C17V)またはメチオニン(C17M)のいずれかで置換される。いくつかの実施形態において、位置50のフェニルアラニンはヒスチジン(F50H)で置換される。いくつかの実施形態において、位置57のロイシンはアラニン(L57A)で置換され、他の実施形態において、位置130のロイシンはアラニンで置換される(L130A)。いくつかの実施形態において、位置131のヒスチジンはアラニンで置換され(H131A)、他の実施形態において、位置136のリジンはアラニンで置換される(K136A)。いくつかの実施形態において、位置140のヒスチジンは、アラニン(H140A)またはトレオニン(H140T)のいずれかで置換される。特定のアミノ酸置換を列挙してきたが、本発明はこれらの改変に限定されない。融合タンパク質に適切な特性を付与することができる任意の適切なアミノ酸を、天然成熟インターフェロンβの位置17、50、57、130、131、136および140の元のアミノ酸残基の代わりに置換することができる。本発明はまた、本明細書に記載の位置17、50、57、130、131、136および140における1、2、3、4、5、6または7つの改変の組み合わせを有する抗体融合タンパク質のインターフェロンβ部分を考える。
【0051】
増殖因子
一実施形態において、生物活性剤は増殖因子である。この生物学的に活性な分子は、細胞増殖および増殖を誘導することができる任意の薬剤であることができる。増殖因子の例は、限定するものではないが、肝細胞増殖因子、線維芽細胞増殖因子、角化細胞増殖因子、神経成長因子、腫瘍増殖因子-α、上皮増殖因子、VEGF、インスリン増殖因子ならびにインスリン様増殖因子IおよびIIを含む。
【0052】
特定の実施形態において、生物学的に活性な分子は、赤血球の増殖を誘導することができる任意の薬剤である。従って、本発明により考えられる生物学的に活性な分子の一例はヒトエリスロポエチンである。
【0053】
ホルモン
一実施形態において、生物学的に活性な分子はホルモンである。ホルモンは、細胞増殖、機能および代謝を改変する。ホルモンの例は、限定するものではないが、下垂体ホルモン、例えば絨毛性ゴナドトロピン、コシントロピン、メノトロピン、ソマトトロピン、イオルチコトロピン、プロチレリン、チロトロピン、バソプレシン、リプレシン;副腎ホルモン、例えばジプロピオン酸ベクロメタゾン、ベタメタゾン、デキサメタゾン、トリアムシノロン;膵ホルモン、例えば、グルカゴン、インスリン;副甲状腺ホルモン、例えば、ジヒドロキステロール;甲状腺ホルモン、例えば、カルシトニン、サイログロブリン、酢酸テリパラチド;ステロイドホルモン、例えば、グルココルチコイド、エストロゲン、プロゲスチン、アンドロゲン、テトラヒドロデスオキシカリコステロン;消化管ホルモン:コレシストキニン、エンテログリカン、ガラニン、ガストリン、ペンタガストリン、テトラガストリン、モチリン、ペプチドYY、およびセクレチンを含む。特定の実施形態において、生物学的に活性な分子はヒト成長ホルモンである。
【0054】
核酸
一実施形態において、生物学的に活性な分子は核酸、例えばDNAまたはRNAである。例えば、生物学的に活性な分子は、RNA干渉に用いられる核酸分子、例えばアンチセンスRNA、短い干渉RNA(siRNA)、二本鎖RNA(dsRNA)、マイクロRNA(miRNA)および短いヘアピンRNA(shRNA)であることができる。これらの核酸分子は約6〜約60ヌクレオチド長でなければならない。例えば、いくつかの実施形態において、これらの核酸分子は約15〜約50、約25〜約45または約30〜約40ヌクレオチド長である。
【0055】
オリゴヌクレオチドは、一本鎖または二本鎖のDNAもしくはRNAまたはそれらの混合物もしくは誘導体もしくは改変バージョンであることができる。オリゴヌクレオチドは、例えば、分子の安定性、ハイブリダイゼーションなどを改善するために、塩基部分、糖部分またはリン酸骨格において改変されることができる。オリゴヌクレオチドは、他の付随基(appended group)、例えばポリペプチド(例えば、in vivoでの宿主細胞受容体のターゲッティングのために)、または細胞膜輸送(例えば、Letsinger et al. (1989) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86:6553; Lemaitre et al. (1987) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84:648; および WO 88/09810参照)もしくは血液脳関門(例えば、WO89/10134参照)を促進する薬剤、ハイブリダイゼーションにより引き起こされる切断剤(例えば、Krol et al. (1988) BioTechniques 6:958 参照)またはインターカレート剤(例えば、Zon (1988) Pharm. Res. 5:539 参照)を含むことができる。この目的のために、オリゴヌクレオチドは、他の分子、例えば、ポリペプチド、ハイブリダイゼーションにより引き起こされる架橋剤、輸送剤またはハイブリダイゼーションにより引き起こされる切断剤に結合されることができる。
【0056】
小分子
本発明はまた、生物学的に活性な分子として、任意の治療用小分子または薬物の使用を考える。生物学的に活性な分子は、例えば脂質分子であることができる。生物学的に活性な分子は糖分子であることができる。生物学的に活性な分子は、有機小分子または無機小分子であることができる。
【0057】
改変された抗体融合タンパク質の産生
本発明は、本発明の実施に有用な抗体融合タンパク質を製造するために、従来の組換えDNA法を活用できることは言うまでもない。好ましくは、抗体融合構築物はDNAレベルで製造され、得られたDNAは発現ベクターに組み込まれ、発現されて、本発明の融合タンパク質を産生する。
【0058】
本発明は、FcRn結合部位の変異を含む免疫グロブリン定常領域の少なくとも一部に連結した生物学的に活性な分子をコードする核酸を提供する。一実施形態において、変異は、免疫グロブリン定常領域の位置435のヒスチジンをアラニンに置換する(H435A)コドン置換である。本発明はまた、核酸組成物:生物学的に活性な分子および、免疫グロブリン定常領域の少なくとも一部をコードする第1核酸;免疫グロブリン定常領域の少なくとも一部をコードする第2核酸を提供する。核酸の1つは、FcRn結合に影響を及ぼす変異を有する免疫グロブリン定常領域をコードする。一実施形態において、変異は、免疫グロブリン定常領域の位置435のヒスチジンをアラニンに置換するコドン置換(H435A)である。核酸はまた、当該技術分野で公知のさらなる配列または領域(例えば、プロモーター、エンハンサー、ポリA配列またはアフィニティタグ)を含むことができる。
【0059】
本発明記載の核酸および核酸組成物は、当該分野で公知の組換え技術を用いて容易に合成できる。例えば、核酸は、標準法、例えばDNA自動合成装置の使用によって合成できる。
【0060】
組換えタンパク質産生のために、核酸または核酸組成物は、適切な発現ビヒクル、すなわち挿入されたコード配列の転写および翻訳に必要な領域を含むベクターに挿入される。本明細書において、用語"ベクター"は、エピゾームとして、宿主細胞に取り込まれ、組換えられて宿主細胞ゲノムに組み込まれることができるか、あるいは自律的に複製することができるヌクレオチド配列を含む任意の核酸を意味すると解される。このようなベクターは、線状核酸、プラスミド、ファージミド、コスミド、RNAベクター、ウイルスベクターなどを含む。限定するものではないが、ウイルスベクターの例は、レトロウイルス、アデノウイルスおよびアデノ関連ウイルスを含む。
【0061】
有用な発現ベクターはpdCs(Lo et al. (1988) Protein Engineering 11 :495)であり、その転写はヒトサイトメガロウイルスのエンハンサー/プロモーターおよびSV40ポリアデニル化シグナルを利用する。用いられるヒトサイトメガロウイルスのエンハンサーおよびプロモーター配列は、Boshart et al. (1985) Cell 41 :521 で示されている配列のヌクレオチド-601〜+7に由来する。このベクターはまた、選択マーカーとしてジヒドロ葉酸還元酵素変異遺伝子を含む(Simonsen and Levinson (1983) Proc. Nat. Acad. Sci. USA 80:2495)。
【0062】
適切な単離された宿主細胞を、本発明のDNA配列によって形質転換またはトランスフェクトし、標的タンパク質の発現および/または分泌に利用することができる。本発明に使用する典型的な単離された宿主細胞は、不死化ハイブリドーマ細胞、NS/0骨髄腫細胞、293細胞、チャイニーズハムスター卵巣細胞、HeLa細胞、およびCOS細胞を含む。
【0063】
抗体融合タンパク質の使用方法
本発明はまた、FcRn結合部位の変異を有する抗体融合タンパク質および薬学的に許容される担体または賦形剤を含む医薬組成物を提供する。用語"薬学的に許容される賦形剤"は当業者には明らかであり、医薬品の製剤化に用いられる薬学的に許容される物質、組成物またはビヒクル、例えば液体もしくは固体の充填剤、希釈剤、賦形剤または溶媒のことを言う。各賦形剤は、対象組成物およびその成分と適合し、患者に有害ではないという意味で"許容され"なければならない。適切な医薬担体の例は、Remington's Pharmaceutical Sciences by E. W. Martin に記載されている。賦形剤の例は、(1)糖、例えばラクトース、グルコースおよびショ糖;(2)デンプン、例えばコーンスターチおよびポテトスターチ;(3)セルロースおよびその誘導体、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロースおよび酢酸セルロース;(4)トラガント末;(5)モルト;(6)ゼラチン;(7)タルク;(8)賦形剤、例えばカカオバターおよび座薬ワックス;(9)油、例えば落花生油、綿実油、ベニバナ油、ゴマ油、オリーブ油、コーンオイルおよび大豆油;(10)グリコール、例えばプロピレングリコール;(11)ポリオール、例えばグリセリン、ソルビトール、マンニトールおよびポリエチレングリコール;(12)エステル、例えばオレイン酸エチルおよびラウリン酸エチル;(13)寒天;(14)緩衝化剤、例えば水酸化マグネシウムおよび水酸化アルミニウム;(15)アルギン酸;(16)パイロジェンフリー水;(17)等張生理食塩水;(18)リンゲル液;(19)エチルアルコール;(20)リン酸緩衝液;ならびに(21)医薬製剤に用いられる他の無毒の適合する物質を含むことができる。
【0064】
本発明の組成物は、特定の分子と適合する任意の経路で投与することができる。本発明の組成物は、任意の適切な手段によって、哺乳動物に直接に(注射、移植もしくは組織部位への局所投与などで局所に)または全身に(例えば、非経口または経口で)投与することができると考えられる。組成物が非経口投与で、例えば静脈内、皮下、眼内、腹腔内、筋肉内、頬内、直腸内、膣内、眼窩内、脳内、頭蓋内、髄腔内、脳室内、鞘内、大槽内、嚢内、鼻腔内またはエアゾール投与で投与される場合、組成物は、好ましくは水性または生理学的に適合した流体の懸濁液または溶液の一部を含む。従って、担体またはビヒクルは生理学的に許容され、それによって、患者への所望の組成物を送達すること以外には、患者の電解質および/または体積バランスに悪影響を及ぼさない。従って、薬剤のための流体媒体は、通常の生理食塩水を含むことができる。
【0065】
本発明は、種々の癌、ウイルス病、他の疾患、関連健康状態およびそれらの原因の治療方法であって、このような健康状態を有する哺乳動物に、本発明のDNA、RNAまたはタンパク質を投与することによる前記治療方法を提供する。関連健康状態は、限定するものではないが、炎症状態または自己免疫疾患、例えば多発性硬化症、関節炎、乾癬、エリテマトーデス;種々の悪性腫瘍、例えば急性骨髄性白血病、多発性骨髄腫、ホジキン病、基底細胞癌、子宮頚部異形成および骨肉腫;ウイルス肝炎、帯状疱疹、陰部疱疹、乳頭腫ウイルス、ウイルス性脳炎およびサイトメガロウイルス肺炎を含む種々のウイルス感染;貧血症;ならびに止血障害を含むことができる。
【0066】
本発明の融合タンパク質の最適投与量は、治療される疾患および副作用の存在によって左右される。最適投与量はルーチン試験を用いて決定することができる。一投与当たりの投与量は、0.1mg/m2〜100mg/m2、1mg/m2〜20mg/m2および2mg/m2〜6mg/m2の範囲で変化することができる。融合タンパク質の投与は、間欠的ボーラス注射によることもでき、外部リザーバー(例えば静注バッグ)または内部(例えば生体浸食性インプラント)からの持続静脈内または腹腔内投与によることもできる。さらにまた、本発明の融合タンパク質はまた、複数の異なる生物学的に活性な分子と共に被提供者に投与されることができると考えられる。しかしながら、融合タンパク質および他の分子の最適の組み合わせ、投与方法、投与量は、十分に当業者の技術レベル内であるルーチン試験によって決定することができると考えられる。
【0067】
本発明の抗体融合タンパク質はまた、前記疾患または傷害を治療するための少なくとも1つの他の既知薬剤と組み合わせて、疾患または傷害を有する哺乳動物を治療するために使用することができると考えられる。
【実施例1】
【0068】
huFcγ4h-モノ-L-DI-IFNβの発現のためのDNA配列の構築
huFcγ4h-モノ-L-DI-IFNβ(huFcγ4ヒンジ変異体-リンカー脱免疫化インターフェロンβモノマー)抗体融合タンパク質は、ヒトFcγ4h鎖およびヒトFc-γ4h-リンカー-DI-IFNβ鎖からなるヘテロ二量体である。このタンパク質は、哺乳動物細胞内でヒトFcγ4h鎖およびヒトFc-γ4h-リンカー-DI-IFNβ鎖(これらの転写ユニットは、1つのプラスミドまたは2つの異なるプラスミドに含まれる)を同時発現させることによって産生させた。
【0069】
huFcγ4h(huFcγ4ヒンジ変異体)をコードするDNAは、ヒトIgG4ゲノム配列由来であり、次いで、半分子の形成を最小限にするために、改変されたγ1ヒンジ領域を含むように操作した。ヒンジ領域でジスルフィド共有結合を形成しないIgG4半分子の形成は以前報告されている(Angal et al. (1993) Mol. Immunol. 30:105)。
【0070】
ヒト免疫グロブリンγ4(Fcγ4)のFcフラグメントをコードするDNA配列の構築
HeLa細胞から単離された細胞内DNAから、ヒトIgG4をコードするゲノム配列を得た。この配列は、CH3領域のアミノ酸残基3つの相違を除いて、公表されたIgG4配列-Locus HUMIGCD2(GenBank登録番号K01316)が高度に保存されている。公表された配列はR409、E419、V422を含むが、我々の配列はK409、Q419、I422を含む。興味深いことに、K409およびQ419は、ヒトIgG1、IgG2およびIgG3においても見られ、I422はヒトIgG3において見られる。他のIgGサブクラスからのアミノ酸置換からなるこのようなアロタイプ決定基はイソアロタイプとして知られ、ヒトIgG4遺伝子のイソアロタイプはすでに報告されている(Brusco et al. (1998) Eur. J. Immunogenetics 25:349-355)。Fcγ4フラグメントのアミノ酸配列を配列番号1に示す。
配列番号1:huFcγ4のペプチド配列(γ4ヒンジ領域には下線を施し、K409、Q419、I422は太字で示した)

【0071】
Fcγ4のヒンジ領域の改変
半分子の形成を最小限にするために(米国特許第7,148,321号)、アミノ酸配列"ESKYGPPCPSCP"(配列番号7)を有するγ4ヒンジ領域を、アミノ酸配列"EPKSSDKTHTCPPCP"(配列番号8)を有する改変されたγ1ヒンジ領域で置換した (Lo et al. (1998) Protein Engineering 11 :495-500)。
【0072】
Fcγ4のヒンジ領域を改変するために、天然γ4ヒンジエクソン(太字)を含むAflII-StuIフラグメント

を、通常軽鎖と対を形成するCys残基を除去するためにCysをSerに置換した(下線部)改変されたγ1ヒンジエクソン(太字)を含む対応するAflII-StuIフラグメント

で置換した。γ1およびγ4エクソンの両方において、StuI部位はC-メチル化されており、StuI制限エンドヌクレアーゼはメチル化感受性であるため、StuI酵素で消化される前に、DNAシトシンメチラーゼ(DCM)陰性菌株から両方のプラスミドを単離しなければならなかった。得られた改変されたγ1ヒンジ領域を有するFcγ4をFcγ4h(γ4h:γ4ヒンジ変異体)と呼んだ。
【0073】
IFN-βのクローニングおよび脱免疫化
成熟IFN-βのコード配列を、ヒト胎盤DNA(Sigma社、イギリス・プール)からPCR増幅した。IFN-βクローンを同定するために、クローン化PCR産物を配列決定した。そのアミノ酸配列は、公表された野生型IFN-β配列-Locus XM_005410(GenBank)と完全に一致する。
【0074】
脱免疫化IFN-β(DI-IFNβ)は、潜在的ヘルパーT細胞エピトープを除去するための3つのアミノ酸置換(L57A、H131A、H140A)および共有結合的凝集を最小限にするための1つのアミノ酸置換(C17S)を含む。DI-IFNβをコードするDNAを、哺乳動物の発現ベクターpdCs-huFc(Lo et al. (1998) Protein Engineering 11 :495-500)にクローニングしたが、これはアミノ酸配列G4SG4SG3SGを有する15アミノ酸の柔軟なリンカーを介してヒトFcγ4hのC末端にIFN-β配列を融合させるように改変された。リンカー-DI-IFNβはL-DI-IFNβで表した。その配列を配列番号2に示す(リンカーには下線を施し、C17S、L57A、H131AおよびH140Aは太字で示した)。
配列番号2:L-DI-IFNβのペプチド配列

【0075】
分泌シグナルペプチドとしてのゲノムリーダーの適合
huFcγ4h鎖およびhuFcγ4h-L-DI-IFNβ鎖の両方の分泌のために、マウス免疫グロブリン軽鎖遺伝子からのゲノムシグナルペプチド配列(438bp)を用いた。このシグナルペプチドの末端をコードするDNAがCTTAAGCであるように(CTTAAGがAfIII部位(Lo et al. (1998) Protein Engineering 11 :495-500)を形成する)、このシグナルペプチドの-2アミノ酸残基(-1アミノ酸はシグナルペプチドのC末端残基である)をコードする遺伝子配列をセリン残基からロイシン残基(AGCからTTA)に変異させた。さらに、ATGでの翻訳開始のための最適のリボソーム結合のために、Kozakコンセンサス配列CCACCATGGを導入した(Kozak et al. (1986) Cell 44:283-292)。このことは、開始コドンの後の最初のアミノ酸残基をAAGからGAGに変異させて、配列TCTAGACCACCATGGAG(配列番号11)を得ることによって達成した。Kozakコンセンサス配列は下線部であり、TCTAGAはXbaI部位である。従って、このシグナルペプチドは、開始コドンの後の最初のアミノ酸残基での置換および-2位置のアミノ酸残基におけるもう1つの置換を含む。このシグナルペプチドは、細胞内のシグナルペプチダーゼによって切除され、分泌タンパク質中には現れないので、これらの変異は、Fcγ4hおよびFcγ4h-L-DI-IFNβ産物のアミノ酸組成には影響しない。
【0076】
huFcγ4h鎖およびhuFcγ4h-L-DI-IFNβ鎖のペプチドおよびDNA配列
全huFcγ4h鎖およびhuFcγ4h-L-DI-IFNβ鎖のコード領域を完全に配列決定した。huFcγ4h鎖およびhuFcγ4h-L-DI-IFNβ鎖のペプチド配列およびDNA配列を配列番号3〜配列番号6に示す。huFcγ4hおよびL-DI-IFNβをコードするDNAフラグメントの連結反応を容易にするために、ヒトIgG4(Locus CAC20457(GenPept))において見られ、IgG1およびIgG2においても見られるPGK配列(Lo et al. (1998) Protein Engineering 11 :495-500)を用いてSmaI部位を作成し、さらに、接合部における潜在的切断を最小限にするために、CH3のC末端残基においてリジンをアラニンに置換した。重要なことに、CH3-L-DI-IFNβ接合部において生成された配列は、何ら潜在的T細胞エピトープを形成しない。
配列番号3:huFcγ4hのペプチド配列(シグナルペプチドには下線を施した)
MELPVRLLVLMFWIPASLSEPKSSDKTHTCPPCPAPEFLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSQEDPEVQFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQFNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKGLPSSIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSQEEMTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSKLTVDKSRWQQGNIFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSPGK
配列番号4:翻訳開始コドンから翻訳終止コドンまでのhuFcγ4h鎖のDNA配列(コード配列は大文字で示し非コード配列は小文字で示した)
ATGGAGTTGCCTGTTAGGCTGTTGGTGCTGATGTTCTGGATTCCTGgtgaggagagagggaagtgagggaggagaatggacagggagcaggagcactgaatcccattgctcattccatgtattctggcatgggtgagaagatgggtcttatcctccagcatggggcctctggggtgaatacttgttagagggaggttccagatgggaacatgtgctataatgaagattatgaaatggatgcctgggatggtctaagtaatgcctagaagtgactagacacttgcaattcactttttttggtaagaagagatttttaggctataaaaaaatgttatgtaaaaataaacatcacagttgaaataaaaaaaaatataaggatgttcatgaattttgtgtataactatgtatttctctctcattgtttcagCTTCCTTAAGCGAGCCCAAATCTTCTGACAAAACTCACACATGCCCACCGTGCCCAGgtaagccagcccaggcctcgccctccagctcaaggcgggacaggtgccctagagtagcctgcatccagggacaggccccagccgggtgctgacgcatccacctccatctcttcctcagCACCTGAGTTCCTGGGGGGACCATCAGTCTTCCTGTTCCCCCCAAAACCCAAGGACACTCTCATGATCTCCCGGACCCCTGAGGTCACGTGCGTGGTGGTGGACGTGAGCCAGGAAGACCCCGAGGTCCAGTTCAACTGGTACGTGGATGGCGTGGAGGTGCATAATGCCAAGACAAAGCCGCGGGAGGAGCAGTTCAACAGCACGTACCGTGTGGTCAGCGTCCTCACCGTCCTGCACCAGGACTGGCTGAACGGCAAGGAGTACAAGTGCAAGGTCTCCAACAAAGGCCTCCCGTCCTCCATCGAGAAAACCATCTCCAAAGCCAAAGgtgggacccacggggtgcgagggccacatggacagaggtcagctcggcccaccctctgccctgggagtgaccgctgtgccaacctctgtccctacagGGCAGCCCCGAGAGCCACAGGTGTACACCCTGCCCCCATCCCAGGAGGAGATGACCAAGAACCAGGTCAGCCTGACCTGCCTGGTCAAAGGCTTCTACCCCAGCGACATCGCCGTGGAGTGGGAGAGCAATGGGCAGCCGGAGAACAACTACAAGACCACGCCTCCCGTGCTGGACTCCGACGGCTCCTTCTTCCTCTACAGCAAGCTCACCGTGGACAAGAGCAGGTGGCAGCAGGGGAACATCTTCTCATGCTCCGTGATGCATGAGGCTCTGCACAACCACTACACGCAGAAGAGCCTCTCCCTGTCCCCGGGTAAATGA
配列番号5:huFcγ4h-L-DI-IFNβのペプチド配列(シグナルペプチドおよび、CH3の末端でのKからAへの置換には下線を施し、L-DI-IFNβは太字で示した)

配列番号6:翻訳開始コドンから翻訳終止コドンまでのhuFcγ4h-L-DI-IFNβ鎖のDNA配列(コード配列は大文字で示し、非コード配列は小文字で示した)
ATGGAGTTGCCTGTTAGGCTGTTGGTGCTGATGTTCTGGATTCCTGgtgaggagagagggaagtgagggaggagaatggacagggagcaggagcactgaatcccattgctcattccatgtattctggcatgggtgagaagatgggtcttatcctccagcatggggcctctggggtgaatacttgttagagggaggttccagatgggaacatgtgctataatgaagattatgaaatggatgcctgggatggtctaagtaatgcctagaagtgactagacacttgcaattcactttttttggtaagaagagatttttaggctataaaaaaatgttatgtaaaaataaacatcacagttgaaataaaaaaaaatataaggatgttcatgaattttgtgtataactatgtatttctctctcattgtttcagCTTCCTTAAGCGAGCCCAAATCTTCTGACAAAACTCACACATGCCCACCGTGCCCAGgtaagccagcccaggcctcgccctccagctcaaggcgggacaggtgccctagagtagcctgcatccagggacaggccccagccgggtgctgacgcatccacctccatctcttcctcagCACCTGAGTTCCTGGGGGGACCATCAGTCTTCCTGTTCCCCCCAAAACCCAAGGACACTCTCATGATCTCCCGGACCCCTGAGGTCACGTGCGTGGTGGTGGACGTGAGCCAGGAAGACCCCGAGGTCCAGTTCAACTGGTACGTGGATGGCGTGGAGGTGCATAATGCCAAGACAAAGCCGCGGGAGGAGCAGTTCAACAGCACGTACCGTGTGGTCAGCGTCCTCACCGTCCTGCACCAGGACTGGCTGAACGGCAAGGAGTACAAGTGCAAGGTCTCCAACAAAGGCCTCCCGTCCTCCATCGAGAAAACCATCTCCAAAGCCAAAGgtgggacccacggggtgcgagggccacatggacagaggtcagctcggcccaccctctgccctgggagtgaccgctgtgccaacctctgtccctacagGGCAGCCCCGAGAGCCACAGGTGTACACCCTGCCCCCATCCCAGGAGGAGATGACCAAGAACCAGGTCAGCCTGACCTGCCTGGTCAAAGGCTTCTACCCCAGCGACATCGCCGTGGAGTGGGAGAGCAATGGGCAGCCGGAGAACAACTACAAGACCACGCCTCCCGTGCTGGACTCCGACGGCTCCTTCTTCCTCTACAGCAAGCTCACCGTGGACAAGAGCAGGTGGCAGCAGGGGAACATCTTCTCATGCTCCGTGATGCATGAGGCTCTGCACAACCACTACACGCAGAAGAGCCTCTCCCTGTCCCCGGGTGCAGGGGGCGGGGGCAGCGGGGGCGGAGGATCCGGCGGGGGCTCGGGTATGAGCTACAACTTGCTTGGATTCCTACAAAGAAGCAGCAATTTTCAGAGTCAGAAGCTCCTGTGGCAATTGAATGGGAGGCTTGAATATTGCCTCAAGGACAGGATGAACTTTGACATCCCTGAGGAGATTAAGCAGCTGCAGCAGTTCCAGAAGGAGGACGCCGCAGCCACCATCTATGAGATGCTCCAGAACATCTTTGCTATTTTCAGACAAGATTCATCTAGCACTGGCTGGAATGAGACTATTGTTGAGAACCTCCTGGCTAATGTCTATCATCAGATAAACCATCTGAAGACAGTCCTGGAAGAAAAACTGGAGAAAGAAGATTTCACCAGGGGAAAACTCATGAGCAGTCTGCACCTGAAAAGATATTATGGGAGGATTCTGGCCTACCTGAAGGCCAAGGAGTACAGTGCCTGTGCCTGGACCATAGTCAGAGTGGAAATCCTAAGGAACTTTTACTTCATTAACAGACTTACAGGTTACCTCCGAAACTGA
【実施例2】
【0077】
γ4にH435A置換を含むhuFcγ4h-モノ-L-DI-IFNβバリアントの発現のためのDNA配列の構築
γ4にH435A置換(Kabat番号付け)を含むhuFcγ4h-モノ-L-DI-IFNβバリアントの発現のためのDNA配列を構築した。これらは、ヘテロ二量体であるhuFcγ4h(H435A)/huFcγ4h-L-DI-IFNβ、huFcγ4h/huFcγ4h(H435A)-L-DI-IFNβおよびhuFcγ4h(H435A)/huFcγ4h(H435A)-L-DI-IFNβをコードするDNA配列を含む。裸のhuFcγ4h鎖またはhuFcγ4h-L-DI-IFNβ融合タンパク質鎖でのCACコドンからH435A置換をコードするGCGへの変異を、順方向プライマー5'-GGCTCTGCACAACGCGTACACGCAGAAGAG(配列番号12)(式中、GCGはアラニン置換をコードする)および逆方向プライマー5’-CTCTTCTGCGTGTACGCGTT GTGCAGAGCC(配列番号13)(式中CGCは、アラニン置換のアンチコドンである)を用いる変異プライマーによるオーバーラッピングPCR(Daugherty et al. (1991 ) Nucleic acids Res. 19:2471 -2476)によって導入した。
【実施例3】
【0078】
融合タンパク質の発現
huFcγ4h-モノ-L-DI-IFNβヘテロ二量体は、哺乳動物細胞内で、ヒトFcγ4h鎖およびヒトFcγ4h-リンカー-DI-IFNβ鎖(これらの転写ユニットは、1つだけのプラスミドまたは2つの異なるプラスミドに含まれる)を同時発現させることによって産生させた。タンパク質発現の迅速分析のために、リポフェクタミン(Invitrogen社、カリフォルニア州カールスバート)を用いる一過性トランスフェクションによって、プラスミドであるpdCs-Fcγ4hおよびpdCs-Fc Fcγ4h-リンカー-DI-IFNβまたはバリアントをヒト腎臓293T細胞(GenHunter社、テネシー州ナッシュヴィル)に導入した。
【0079】
マウス骨髄腫NS/0細胞およびチャイニーズハムスター卵巣細胞を用いてhuFcγ4h-モノ-L-DI-IFNβヘテロ二量体を発現する安定的にトランスフェクトされたクローンを得た。高レベル発現のために、エレクトロポレーションによってマウス骨髄腫NS/0細胞にヒトFcγ4h鎖およびヒトFcγ4h-リンカー-DI-IFNβ鎖転写ユニットの両方を含むプラスミドpdCsを導入した。10%熱不活性化ウシ胎児血清、2mMグルタミンおよびペニシリン/ストレプトマイシンを添加したダルベッコ変法イーグル培地中でNS/0細胞を増殖させた。約5x106個の細胞をPBSで1回洗浄し、PBS0.5mlに再懸濁した。次いで、Gene Pulser Cuvette(電極ギャップ0.4cm、BioRad社)において氷冷しながら、線状化されたプラスミドDNA10μgを細胞と共に10分間インキュベートした。Gene Pulser(BioRad社カリフォルニア州ハーキュリーズ)を用い、0.25V、500μFの設定でエレクトロポレーションを行った。細胞を氷冷しながら10分間回復させ、次いでそれを増殖培地に再懸濁し、2つの96ウェルプレート上にプレーティングした。100nMメトトレキサート(MTX)の存在下での増殖により、安定的にトランスフェクトされたクローンを選択し、トランスフェクション2日後にこれを増殖培地に加えた。3日ごとに2〜3回以上細胞に補給して、2〜3週間以内にMTX耐性クローンが出現した。クローンの上清を抗Fc ELISAでアッセイして、高産生クローンを同定した。高産生クローンを単離し、100nM MTXを含む増殖培地中で増殖させた。一般的には、増殖培地には、H-SFM培地またはCD培地(Invitrogen社、カリフォルニア州カールスバート)を用いた。
【0080】
ゲル電気泳動によるルーチン解析のために、培地中に分泌されるhuFc-IFNβ融合タンパク質をプロテインAセファロースビーズ(Repligen社、マサチューセッツ州ケンブリッジ)で捕捉し、還元剤、例えばβ-メルカプトエタノールの有り無しで、タンパク質試料緩衝液中で試料を煮沸することによって溶出した。試料をSDS-PAGE(ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動)によって分析し、クマシー染色によってタンパク質バンドを視覚化した。図8は、293T細胞内でヒトFcγ4h鎖およびヒトFcγ4h-リンカー-DI-IFNβの一過性同時発現によって産生されたhuFcγ4h-モノ-L-DI-IFNβを示す。還元条件下でのSDS-PAGE分析(左パネル)のレーン2は、Fcγ4h鎖およびthe Fcγ4h-リンカー-DI-IFNβ鎖の両方が発現され、裸のFcが融合タンパク質よりも高レベルで発現されていることを示している。これらの2本鎖がこれらのレベルで同時発現される場合、非還元ゲルは、二項式a2+2ab+b2(式中、aおよびbは、それぞれ、還元ゲルで見られる裸のFc鎖と融合タンパク質鎖の相対的発現レベルである)に従った裸のFcホモ二量体:Fc/Fc-IFNβヘテロ二量体:Fc-IFNβホモ二量体の比率を示すと予想されるだろう。驚くべきことに、非還元条件下でのSDS-PAGE分析(中央パネル)は、Fc-IFNβホモ二量体("(Fc-X)2")がほとんど産生されなかったことを示し、これは、同様に非還元条件下で分析されたFcおよびFc-IL-2の同時発現(右パネル)で得られたより通常のパターン(a2+2ab+b2に従った比率)とは際立って対照的である。Fcγ4h鎖およびFcγ4h-リンカー-DI-IFNβ鎖を同時発現する安定クローンは、Fc-IFNβホモ二量体の同様な減少を示した(図9)が、これは、IFNβ自体が凝集する傾向を示すため、おそらくはタンパク質のフォールディングによって、細胞内でのFc-IFNβホモ二量体の産生が不利であることを示唆している。
【実施例4】
【0081】
huFcγ4h-モノ-L-DI-IFNβの精製
Fcタンパク質部分のプロテインAに対する親和性に基づいて、Fc含有融合タンパク質の精製を行った。簡潔に言えば、融合タンパク質を含む細胞上清を予め平衡化させたプロテインAセファロースカラムに添着し、このカラムを同じ緩衝液(150mMリン酸ナトリウム、100mM NaCl、中性のpH)で十分に洗浄した。低いpH(pH2.5〜3)の同じ緩衝液で結合タンパク質を溶出し、溶出液分画を直ちに中和した。Cibacron Blue 3GA(ブルーセファロースファーストフローカラム;Pharmacia社)に対するIFNβタンパク質の親和性に基づいて、huFcγ4h-モノ-L-DI-IFNβヘテロ二量体をFcγ4hホモ二量体から容易に分離できた。発現された融合タンパク質を含む培養上清を1M NaClに調節し、緩衝液A(緩衝液A:20mMリン酸ナトリウム(pH7.2)、1M NaCl)で予め平衡化させたブルーセファロースファーストフローカラムに添着した。このカラムをカラム体積の10倍量の緩衝液Aで洗浄し、カラム体積の15倍量の緩衝液A:緩衝液B(緩衝液B:20mMリン酸ナトリウム(pH7.2)、50%(v/v)エチレングリコール)の1:1混合物で洗浄した。ヘテロ二量体を100%緩衝液Bで溶出し、緩衝液A0.5mlを含むチューブに1ml分画を採取した。精製されたhuFcγ4h-モノ-L-DI-IFNβをサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)で分析し、抗IFNβ抗体でプローブされたウェスタンブロットによってさらに確認した。
【実施例5】
【0082】
FcRn結合を排除する単一の置換を含む免疫グロブリン-およびhuFc-モノ-リガンドバリアントの発現
huFc-AG2(H435A)/huFc-GA2-L-DI-IFNβの形でFc-SEED(WO2007/110205参照)由来のhuFc-モノ-L-DI-IFNβバリアントを産生した。産生したさらなるバリアントは、IgGサブクラスおよびリガンドバリアント、例えばhuFcγ1(H435A)/huFcγ1-IL2および、免疫サイトカインとして知られる全IgG融合タンパク質のクラスである脱免疫化KS-γ1(H435A)/KS-γ1-IL2(Davis et al. (2003) Cancer Immunol. Immunother. 52:297-308)を含む。
【0083】
H435に加えて、H310もまたFcRn結合に関与することが報告されている(Kim et al. (1999) Eur. J. Immunol. 29:2819-2825)。従って、huFcγ4h(H310A)/huFcγ4h-L-DI-IFNβヘテロ二量体の形でH310A置換を含む他のhuFcγ4h-モノ-L-DI-IFNβバリアントを産生した。
【実施例6】
【0084】
細胞ベースのバイオアッセイにおけるhuFc-IFNβタンパク質の活性
Fc-IFNβ融合タンパク質の活性を抗ウイルスアッセイで測定した。ウイルス複製は、多くの場合、細胞には有毒であり、細胞変性効果(CPE)として知られる効果である細胞溶解を引き起こす。インターフェロンは、ウイルス増殖を抑制する経路に作用し、CPEから細胞を保護する。IFNβの抗ウイルス活性は、M.J. Clemens, A.G. MorrisおよびAJ. H. Gearin 編集の"Lymphokines and Interferons: A Practical Approach"(I.R.L. Press, Oxford, 1987) に記載されているように、CPE低下の程度(CPER)を測定することによってアッセイできる。脳心筋炎ウイルス(EMCV;ATCC#VR 129B)の宿主としてヒト上皮肺癌株A549(ATCC#CCL-185)を用い、精製されたFcγ4h-モノ-L-DI-IFNβおよび、H435A置換を含むFcγ4h-モノ-L-DI-IFNβバリアントの抗ウイルス活性をレビフ(Rebif)と比較した。感染していない対照細胞に対して測定して、50%CPER(すなわち50%の細胞が保護される)を引き起こすタンパク質の量を有効量(ED50)とした。このCPEアッセイにおいて、Fcγ4h-モノ-L-DI-IFNβおよびFcγ4h-モノ-L-DI-IFNβバリアントの両方とも、モルベースで、少なくともレビフと同等な効果を有することが見いだされた(図10)。
【実施例7】
【0085】
huFc-IFNβタンパク質の薬物動態学
huFc-IFNβヘテロ二量体融合タンパク質およびバリアントの薬物動態学(PK)は、Balb/cマウス(n=3)で測定した。静注のために、各マウスの尾静脈にヘテロ二量体融合タンパク質25μgを注入した。注入直後(t=0分)ならびに注入後30分、1時間、2時間、4時間、8時間、24時間、48時間、72時間および96時間に後眼窩採血によってヘパリンコーティングチューブに血液を採取した。皮下投与のために、マウス一匹当たりヘテロ二量体融合タンパク質50μgを注入した。注入後1、2、4、8、24、48、72および96時間に後眼窩採血によってヘパリンコーティングチューブに血液を採取した。遠心分離(12,500gで4分間)で細胞を除去し、血漿中の融合タンパク質の濃度を抗(H&L)(AffiniPureヤギ抗ヒトIgG(H+L)、Jackson Immuno Research Laboratories社、ペンシルベニア州ウエストグローブ)捕捉および抗Fc(HRP標識(Fab')2二量体ヤギ抗ヒトIgG Fc、Jackson Immuno Research Laboratories社、ペンシルベニア州ウエストグローブ)検出からなる抗huFc ELISAならびに抗(H&L)捕捉および抗hulFNβ(ビオチン化ヤギ抗ヒトIFNβ、R&D Systems社、ミネソタ州ミネアポリス)検出からなる抗huFc-IFNβELISAによって測定した。さらにまた、循環している融合タンパク質の完全性を、抗huFc抗体または抗hulFNβ抗体でプローブされたPK血清試料のイムノブロットで確認した。
【0086】
図11および12において、それぞれ、抗huFc ELISAおよび抗huFc-IFNβELISAで測定した、静脈内投与されたhuFcγ4h-モノ-L-DI-IFNβおよび、huFc4h(H435A)/huFcγ4h-L-DI-IFNβヘテロ二量体の形でH435A置換を含むhuFcγ4h-モノ-L-DI-IFNβバリアントの薬物動態学的プロフィールを比較する。huFcγ4h-モノ-L-DI-IFNβは48時間の循環半減期を有するが、これは分単位であるIFNβの循環半減期よりも何倍も大きい。驚くべきことに、H435A置換を含むhuFcγ4h-モノ-L-DI-IFNβバリアントは46時間の循環半減期を有し、これは本質的にhuFcγ4h-モノ-L-DI-IFNβの循環半減期と実験誤差内で本質的に同一である。このH435Aバリアントは、野生型のAUC(曲線下面積)と比較して約3分の2のAUCを有し、これはIFNβのAUCの数百倍である。抗huFc-IFNβELISAは融合タンパク質を特異的に検出し、N末端FcまたはC末端IFNβ部分を含まない切断フラグメントを何ら検出しなかった。さらにまた、プローブとして抗huFc抗体または抗hulFNβ抗体のいずれかを用いる還元条件下での静脈内PK試料のウェスタンブロット分析により、融合タンパク質がin vivoで無傷のままであることが確認された(図17)。図17の左上部において、上部の矢印はhuFcγ4h-L-DI-IFNβポリペプチド鎖を意味し、下部の矢印はhuFcγ4h鎖を意味する。同様に、図17の左下部において、上部の矢印はhuFcγ4h-L-DI-IFNβポリペプチド鎖を意味し、下部の矢印はhuFcγ4h(H435A)鎖を意味する。
【0087】
図16および13において、同じ2つの分子を皮下に投与した場合の薬物動態学的プロフィールを比較する。huFcγ4h-モノ-L-DI-IFNβおよびH435A置換を含むhuFcγ4h-モノ-L-DI-IFNβバリアントは同様な循環半減期を有し、これはIFNβの循環半減期よりは何倍も長い。驚くべきことに、H435A置換を含むhuFcγ4h-モノ-L-DI-IFNβバリアントは46時間の循環半減期を有し、これは本質的にhuFcγ4h-モノ-L-DI-IFNβの循環半減期と実験誤差内で同一である。このH435Aバリアントはまた、野生型のAUC(曲線下面積)と比較して約3分の2のAUCを有し、これはIFNβのAUCの数百倍である。抗hu Fc ELISAおよび抗hu IFNβELISAは、融合タンパク質分子の2つの末端を検出した。さらにまた、プローブとして抗huFc抗体または抗hulFNβ抗体のいずれかを用いる還元条件下での皮下PK試料のウェスタンブロット分析により、融合タンパク質がin vivoで無傷のままであることが確認された(図15)。図15の左上パネルにおいて、上部の矢印はhuFcγ4h-L-DI-IFNβポリペプチド鎖を意味し、下部の矢印はhuFcγ4h鎖を意味する。同様に、図15左下部パネルにおいて、上部の矢印はhuFcγ4h-L-DI-IFNβポリペプチド鎖を意味し、下部の矢印はhuFcγ4h(H435A)鎖を意味する。
【実施例8】
【0088】
FcRn結合を排除する単一の置換を含む免疫グロブリン-およびhuFc-モノ-リガンドバリアントの免疫原性の低下
ポリペプチド鎖の1つのみのFcRn結合を排除する単一の置換を含む免疫グロブリン-またはhuFc-モノ-リガンドバリアントの免疫原性の低下を明らかにするために、huFcγ4h-モノ-L-DI-IFNβまたはH435A変異を含むhuFcγ4h-モノ-L-DI-IFNβバリアントでマウスを免疫した。免疫後、適切な時点で抗体価を比較した。
【0089】
8週齢の雌Balb/Cマウス2群(1群あたりマウス5匹)に、それぞれ、33μg/マウスのhuFcγ4h-モノ-L-DI-IFNβまたはH435A変異を含むhuFcγ4h-モノ-L-DI-IFNβバリアントを皮下注した。15日目に、33μg/マウスのhuFcγ4h-モノ-L-DI-IFNβまたはH435A変異を含むhuFcγ4h-モノ-L-DI-IFNβバリアントの皮下ブースト注射をマウスに行った。26日目に、ELISAによってマウスの抗体価を測定した。これは、以下のように行った。ヤギ抗マウスIgG(H+L)(Jackson ImmunoResearch Laboratories社、ペンシルベニア州ウェストグローブ、カタログ番号115-005-062)1μgのPBS溶液を用いて、4℃で終夜インキュベートして96ウェルプレートのウェルをコーティングし、次いでPBS 0.05%ツイーンで4回洗浄した。次いで、ヤギ抗マウスIgG(H+L)でコーティングしたプレートを1%ミルクでブロックし、PBS 0.05%ツイーンで4回洗浄し、乾燥し、-20℃で保存した。マウス抗体を捕捉するために、PBS 0.05%ツイーンで血清を初めに1:1000に希釈し、次いで1:2の連続希釈液で希釈し、ヤギ抗マウスIgG(H+L)でコーティングしたウェルに37℃で1時間加えた。次いでウェルをPBS 0.05%ツイーンで4回洗浄した。免疫原である0.5μg/mlのhuFcγ4h-モノ-L-DI-IFNβまたはH435A変異を含むhuFcγ4h-モノ-L-DI-IFNβバリアントおよびF(ab)2ヤギ抗hu-IgG-Fc-HRP(Jackson ImmunoResearch Laboratories社、カタログ番号109-036-098)のPBS 0.05%ツイーンでの1:20,000希釈液を加えることによって捕捉された抗体を検出した。室温で1時間プレートをインキュベートし、次いでPBS 0.05%ツイーンで4回洗浄した。3',3',5',5'-テトラメチルベンジジン(TMB)100μlを用いてシグナル検出を行い、15分後、2N H2SO4 100μlで反応を停止させた。
【0090】
図15において、huFcγ4h-モノ-L-DI-IFNβまたはH435A変異を含むhuFcγ4h-モノ-L-DI-IFNβバリアントで免疫したマウスの抗体価を比較する。H435A変異を含むhuFcγ4h-モノ-L-DI-IFNβバリアントを投与したマウス(菱形)は、huFcγ4h-モノ-L-DI-IFNβで免疫したマウス(丸)よりも低い力価を示したが、これはバリアントが低下した免疫原性を有することを示している。対応の有るt-検定を用いて、Sigma-Plotにより群間の比較を行った。2つの群の相違は統計的に有意であった(正規性の検定:p=0.288、t=5.422、自由度7で(p=<0.001))。
【実施例9】
【0091】
in vitroでのT細胞アッセイによる免疫原性の測定
H435A変異を含むhuFc-モノ-リガンドバリアントが、その野生型カウンターパートよりも免疫原性が弱いことを示すために、我々は、単球由来樹状細胞(DC)の培養および成熟、DCへの抗原の負荷および提示ならびにCD4+T細胞における抗原誘発反応の測定を含むヒトT細胞増殖アッセイを用いる。健常ドナーからのヒト末梢血単核細胞(PBMC)は、DCおよび自己T細胞の供給源として役立つ。一般的には、PBMCは、ロイコパック(leukopack)試料からフィコール・ハイパック勾配によって単離され、単球はMACS CD14単離キット(Miltenyi Biotec社、カリフォルニア州オーバーン)を用いて精製され、GM-CSFおよびIL-4を用いて5日間培養される。異なる抗原、例えばhuFcγ4h-モノ-L-DI-IFNβ、H435A変異を含むhuFcγ4h-モノ-L-DI-IFNβバリアントおよび破傷風トキソイドで未熟DCを負荷する。IFNβは大変強い免疫抑制効果を有するので、huFcγ4h-モノ-L-DI-IFNβおよびhuFcγ4h-モノ-L-DI-IFNβバリアントは、より熱感受性の高いIFNβ部分は不活化され、より熱に安定なFcはその天然型のままであるように中程度に高い温度で熱処理されなければならない。この選択的不活化のための有用な温度範囲は56℃〜65℃である。その代わりに、アミノ酸置換による組換えにより、不活性なIFNβ部分を含む融合タンパク質を製造することもできる。
【0092】
抗原とDCを24時間インキュベートした後、これをTNF-α、IL-1β、IL-6およびPGE2で24時間刺激してDCの成熟を誘導する。MACS CD4単離キット(Miltenyi Biotec社、カリフォルニア州オーバーン)を用いて、同じヒトPBMCから自己CD4+T細胞を調製し、CellTrace CFSE細胞増殖キット(Invitrogen社)を用いてカルボキシフルオレセインジアセタートおよびスクシンイミジルエステル(CFSE)で標識する。次いで、6〜7日間、DCとT細胞を共培養し、その後、FACSで分裂T細胞の百分率を測定する。DCによって提示されたhuFcγ4h-モノ-L-DI-IFNβバリアントからのペプチドによって刺激された自己T細胞増殖は、対応する野生型Fc融合タンパク質に対するものよりは弱いと予想される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1および第2重鎖ドメインを含む抗体融合タンパク質であって、各ドメインが免疫グロブリン定常領域の少なくとも一部を含み、前記第1または第2重鎖ドメインの少なくとも1つが生物学的に活性な分子に融合しており、前記第1または第2重鎖ドメインの1つのみが定常領域内のアミノ酸配列の変異を含み、前記変異がFcRn結合の部分的または完全な低下をもたらす前記抗体融合タンパク質。
【請求項2】
変異が、位置386、388、400、415、433、435、436、439および447の1以上におけるアミノ酸残基の置換である、請求項1記載の抗体融合タンパク質。
【請求項3】
変異が、少なくともH435の置換である、請求項2記載の抗体融合タンパク質。
【請求項4】
変異がH435Aである、請求項2記載の抗体融合タンパク質。
【請求項5】
生物学的に活性な分子が免疫グロブリン定常領域のアミノ末端に連結した、請求項1〜4のいずれかに記載の抗体融合タンパク質。
【請求項6】
生物学的に活性な分子が免疫グロブリン定常領域のカルボキシ末端に連結した、請求項1〜4のいずれかに記載の抗体融合タンパク質。
【請求項7】
第1および第2重鎖ドメインが生物学的に活性な分子を含む、請求項1〜6のいずれかに記載の抗体融合タンパク質。
【請求項8】
第1および第2重鎖ドメインが、ヒンジ領域を含むCH2およびCH3ドメインであり、Fcフラグメントを構成する、請求項1〜7のいずれかに記載の抗体融合タンパク質。
【請求項9】
第1および/または第2重鎖ドメインが抗体可変ドメインを含み、従って完全抗体を形成する、請求項1〜8のいずれかに記載の抗体融合タンパク質。
【請求項10】
免疫グロブリンがIgGである、請求項1〜9のいずれかに記載の抗体融合タンパク質。
【請求項11】
IgGがIgG1、IgG2またはIgG4である、請求項10記載の抗体融合タンパク質。
【請求項12】
(i)第1および第2重鎖ドメインが、ヒンジ領域を含むIgGのCH2およびCH3ドメインであり、Fcフラグメントを構成し;
(ii)第1重鎖ドメインが、そのC末端を介して生物学的に活性な分子に融合され;
(iii)第2重鎖ドメインが生物学的に活性な分子に融合されない、
請求項1〜4のいずれかに記載のヘテロ二量体抗体融合タンパク質。
【請求項13】
FcRn結合の低下または減少をもたらす変異が、生物学的に活性な分子に融合されない重鎖ドメインに位置する、請求項12記載の抗体融合タンパク質。
【請求項14】
FcRn結合の低下または減少をもたらす変異が、生物学的に活性な分子に融合される重鎖ドメインに位置する、請求項12記載の抗体融合タンパク質。
【請求項15】
生物学的に活性な分子が、サイトカイン、増殖因子、成長ホルモンおよび治療上有効なポリペプチドからなる群から選択される、請求項1〜14のいずれかに記載の抗体融合タンパク質。
【請求項16】
生物学的に活性な分子がヒトインターフェロンまたはヒトエリスロポエチンである、請求項15記載の抗体融合タンパク質。
【請求項17】
ヒトインターフェロンがインターフェロンβ(IFNβ)である、請求項16記載の抗体融合タンパク質。
【請求項18】
ヒトIFNβのアミノ酸配列が改変される、請求項15記載の抗体融合タンパク質。
【請求項19】
IFNβ配列が、天然成熟ヒトIFNβに対応する位置17、50、57、130、131、136および140の1以上におけるアミノ酸置換を含む、請求項18記載の抗体融合タンパク質。
【請求項20】
アミノ酸置換が、C17S、C17A、C17V、C17M、F50H、L57A、L130A、H131A、K136A、H140AおよびH140Tからなる群から選択される、請求項19記載のタンパク質。
【請求項21】
請求項1〜20のいずれかに記載の融合抗体をコードする核酸分子。
【請求項22】
(i)IgG定常領域の少なくとも一部に融合させた生物学的に活性な分子を含む第1重鎖ドメインをコードする核酸;および
(ii)生物学的に活性な分子に融合されないIgG定常領域の少なくとも一部を含む第2重鎖ドメインをコードする核酸
を含む、請求項1〜20のいずれかに記載の抗体融合タンパク質を製造するのに適した核酸組成物であって、前記IgG定常領域またはその一部の1つのみが、FcRn結合の部分的または完全な低下をもたらす変異を含む前記核酸組成物。
【請求項23】
請求項21記載の核酸を含む複製可能な発現ベクター。
【請求項24】
請求項23記載の発現ベクターまたは、請求項22(i)記載の核酸を含む第1発現ベクターおよび請求項22(ii)記載の核酸を含む第2発現ベクターを含有する単離された宿主細胞。
【請求項25】
請求項1〜20のいずれかに記載の抗体融合タンパク質および薬学的に許容される担体、賦形剤または希釈剤を含む医薬組成物。
【請求項26】
癌、ウイルス感染、貧血症または多発性硬化症の治療に使用するための、請求項1〜20のいずれかに記載の抗体融合タンパク質または請求項25記載の医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図3E】
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【図3F】
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【図3G】
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【図3H】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【図4E】
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【図4F】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図6D】
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【図6E】
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【図6F】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図7D】
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【図7E】
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【図7F】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図8】
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【公表番号】特表2012−524528(P2012−524528A)
【公表日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−506384(P2012−506384)
【出願日】平成22年4月19日(2010.4.19)
【国際出願番号】PCT/EP2010/002377
【国際公開番号】WO2010/121766
【国際公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(591032596)メルク パテント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (1,043)
【氏名又は名称原語表記】Merck Patent Gesellschaft mit beschraenkter Haftung
【住所又は居所原語表記】Frankfurter Str. 250,D−64293 Darmstadt,Federal Republic of Germany
【Fターム(参考)】