説明

改変ダニ主要アレルゲン含有医薬組成物

【課題】遺伝子組換え技術により得られる改変ダニ主要アレルゲンを有効成分とする安定な医薬組成物を提供する。
【解決手段】ダニアレルギー疾患を処置するための医薬組成物の製造方法であって、有効成分として遺伝子組換え技術により得られる改変ダニ主要アレルゲン、添加剤としてマクロゴール4000及び/又はポリソルベート80、及び場合によっては、スクロースを配合し、これを凍結乾燥することからなる前記製造方法、及び当該製造方法により得られる医薬組成物を見出した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子組換え技術により得られた改変ダニ主要アレルゲンを有効成分として含有する医薬組成物に関する。より詳細には、ダニ主要アレルゲンDer f2の8位及び119位の両システイン残基をセリン残基に置換した改変ダニ主要アレルゲンDer f2に安定剤及び賦型剤を配合してなる、ダニアレルギー疾患を処置するための医薬組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アレルギー性喘息、アレルギー性鼻炎、アレルギー性皮膚炎あるいはアレルギー性結膜炎などのアレルギー疾患を治療する方法としては、抗アレルギー剤や抗ヒスタミン剤を投与して患者のアレルギー症状を抑える、いわゆる対症療法を用いることが多いが、この方法ではアレルギーを根治することは難しい。
一方、最近注目されている治療方法に「減感作療法」がある。減感作療法とはアレルギー患者にその原因となっているアレルゲンを少量づつ注射し、生体のアレルギー反応をなくす治療法である。その有効率は70%以上といわれており、アレルギー疾患を根治できる唯一の方法と考えられている。
現在、減感作療法に使用されているダニアレルゲン製剤は、ハウスダストアレルゲン(鳥居薬品)だけである。ハウスダストアレルゲンは、室内埃よりダニアレルゲンを抽出する方法で製造されている。当該方法により製造されたダニアレルゲン製剤は、(1)ダニ以外の例えばカビや細菌など種々の抗原を含んでおり、その生物活性(力価)を明確に定義することができない、(2)これらの抗原が原因で、別のアレルギーを発症してしまうことがある、(3)皮膚を侵すことが知られているフェノールが安定剤として添加されており、投与量が制限される、(4)原料が限られているため、大量のアレルゲンを安定供給することが困難である、などの問題を含んでいるためその改良が求められている。
【0003】
このような問題の解決策として、遺伝子組換え技術により得られる組換えダニアレルゲンを使用する方法が試みられている。これまでに、コナヒョウヒダニ(Dermatophagoides farinae, 略名:Der f)及びヤケヒョウヒダニ(Dermatophagoides pteronyssinus, 略名:Der p)から多数のダニ主要アレルゲン(例えば、Der f1,Der f2,Der p1,Der p2)が抽出・同定され、数種のグループに分類されている。そのうち、グループ1に属するDer f1は、分子量約25kDの分子内に一つのアスパラギン型糖鎖付加シグナルを持つタンパク質で、システインプロテアーゼ活性を有することが報告され、グループ2に属するDer f2は、分子量約14〜15kDの蛋白質で分子内に3箇所のジスルフィド結合を有することなどが明らかにされている(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
遺伝子組換え技術によるこれらの製造方法については、例えば、大腸菌を宿主としてダニ主要アレルゲンDer f2を大量に生産させる方法が結城らにより報告されている(例えば、特許文献1参照)。さらに、アナフィラキシーショックに代表される減感作療法の副作用の発現が少ないダニ主要アレルゲンの製造方法として、ダニ主要アレルゲンDer f2のシステイン残基をセリン残基に置換した改変型のDer f2を大腸菌で生産させる方法が報告されている(例えば、特許文献2参照)。
このような遺伝子組換え技術によって製造されるダニ主要アレルゲンは、単一のタンパク質として調製することができるので力価を明確に定義することは可能であるが、単独では不安定であり、特に改変型のダニ主要アレルゲンは、水溶液中で容易に凝集するため安定化させることが難しい。
【0005】
このような不安定な改変型のダニ主要アレルゲンを医薬品として供給可能にするには、これを安定に保存する方法を見出すことが重要である。一般に凍結保存することで安定性を確保することは可能であるが、医薬品として供給する剤型としては、輸送時の温度保証の問題、保管場所の確保、融解方法による品質低下の可能性など、取り扱い上コントロールすべき点が多々あり、その保証が難しくなるために、適当ではない。
タンパク質製剤を安定化させる他の手段として、凍結乾燥する方法が挙げられるが、タンパク質溶液を単独で凍結乾燥すると、溶解性の低下や性状の変化がしばしば観察される。凍結乾燥工程においてタンパク質を安定に保つために、種々の添加剤が試されているところであるが、安定化効果を最大限に引き出すには、凍結乾燥する蛋白質に対して添加剤を適切に配合するなどの工夫を行う必要がある。
【0006】
【特許文献1】特許第2657861号公報
【特許文献1】特開平06−253851号公報
【非特許文献1】Platts-Millsら, J. Allergy Clin. Immunol. 80, 755-775, 1987
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、遺伝子組換え技術によりアナフィラキシーショックを低減させた改変型のダニ主要アレルゲンは、大量且つ安定的に供給できるダニアレルギーの治療薬として有望であるが、医薬品として供給可能なダニ主要アレルゲン製剤とするには、その溶液中での不安定な性質に係る問題を解消しなければならない。
本発明は、安定剤及び賦型剤を適切に配合することにより長期間安定的に保存することを可能にした、改変型のダニ主要アレルゲンを主成分とする、ダニアレルギー疾患を処置するための医薬組成物及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記技術的問題を解決すべく鋭意検討した結果、遺伝子組換え技術を応用して得られた改変ダニ主要アレルゲンに種々の添加剤を加えることにより当該改変ダニ主要アレルゲンが安定化することを発見し、本発明を完成するに至った。
添加剤としては、通常ヒトに投与されており、その安全性が確立されているものが望ましく、具体的には、既知の種々の添加剤と改変ダニ主要アレルゲンを組み合わせて製剤の安定性について検討した。
【0009】
その結果、安定剤としてマクロゴール4000及びポリソルベート80を単独で添加又は適当な割合で配合することにより、溶液中における該ダニ主要アレルゲンの重合体形成が抑制されること、さらに賦型剤としてスクロース、マンニトール、ソルビトールの何れか一つを添加することにより凍結乾燥後の外観、溶状がともに良好に保たれ、かつ凍結乾燥したダニ主要アレルゲンの安定性が長期間保持されることを発見した。
したがって、本発明は、以下に示す、遺伝子組換え技術により得られたダニアレルゲンを有効成分とする医薬組成物を提供するものである。
1.ダニアレルギー疾患を処置するための医薬組成物であって、有効成分として遺伝子組換え技術により得られる改変ダニ主要アレルゲン、添加剤としてマクロゴール4000及び/又はポリソルベート80、及び場合によっては、スクロースを配合してなる医薬組成物。
2.改変ダニ主要アレルゲンがDer f2又はDer p2の改変体である上記1の医薬組成物。
3.Der f2又はDer p2の改変体の単量体含量比が99%以上、かつ100%以下である上記2の医薬組成物。
4.改変ダニ主要アレルゲンを50〜1000μg/mL含有する上記1又は2の何れかの医薬組成物。
5.添加剤として下記(1)〜(6)の何れかを配合してなる上記1ないし3の何れかの医薬組成物。
(1)0.1〜1%マクロゴール4000及び/又は0.1〜1%ポリソルベート80
(2)0.1〜1%マクロゴール4000及び/又は0.1〜1%ポリソルベート80、及び2〜5%スクロース
(3)0.5%マクロゴール4000及び0.1〜0.5%ポリソルベート80
(4)0.1〜1%マクロゴール4000、0.1〜1%ポリソルベート80及び2〜5%スクロース
(5)0.5%マクロゴール4000、0.2%ポリソルベート80及び2〜5%スクロース
(6)0.5%マクロゴール4000、0.2%ポリソルベート80及び5%スクロース
6.凍結乾燥品である上記1ないし4の何れかの医薬組成物。
また、本発明は、上記のダニアレルギー疾患を処置するための医薬組成物の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本願発明の方法によれば、有効成分として遺伝子組換え技術により得られる改変ダニ主要アレルゲンと、添加剤として安定剤及び/又は賦型剤を含有する医薬組成物並びにその製造方法が提供される。本発明の製造方法により、改変ダニ主要アレルゲンを安定化させることが可能であり、医薬品として供給可能なダニアレルゲン製剤が提供される。本願発明の製造方法により得られた医薬組成物は、1年間冷蔵保存しても純度、浸透圧及び水素イオン濃度に全く変化が認められず、非常に安定である。また本発明の医薬組成物は、アレニウス(Arrhenius)の式を用いて算出した値から室温で3年間安定であることが推定され、医薬品として具備すべき性状を有するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の方法は、改変ダニ主要アレルゲン含有溶液に、安定剤又は賦型剤を単独若しくは両者を適切な割合で配合した後、これを凍結乾燥することからなる改変ダニ主要アレルゲン製剤の製造方法及び当該製造方法により得られる改変ダニ主要アレルゲン製剤によって特徴付けられる。
【0012】
1.遺伝子組換えによる改変ダニ主要アレルゲン含有培養物の調製
本願発明に使用される改変ダニ主要アレルゲン含有溶液は、ダニ主要アレルゲンをコードする遺伝子の一部に変異を加えた改変ダニ主要アレルゲン遺伝子を発現ベクターに組込み、該発現ベクターで形質転換された改変ダニ主要アレルゲン産生宿主を培養し、改変ダニ主要アレルゲンを含む培養物を種々の方法で精製することにより得られる。
本願発明に使用できる改変ダニ主要アレルゲンとしては、特許文献2に記載の、ダニ主要アレルゲンDer f2の8位及び119位のシステイン残基をともにセリン残基に置換した改変ダニ主要アレルゲンDer f2が挙げられるが、これ以外にも、ダニ主要アレルゲンの立体構造を改変してIgE抗体との結合性を低下させた他の改変型ダニ主要アレルゲンを使用することもできる。
【0013】
また、ダニ主要アレルゲンをコードする遺伝子として、これまでに同定されたDer f1, Der f2, Der p1及びDer p2が使用できる(非特許文献1参照)。好ましくは、Der f2又はDer p2である。これらのダニ主要アレルゲンをコードする遺伝子は、コナヒョウヒダニ(Dermatophagoides farinae, 略名:Der f)又はヤケヒョウヒダニ(Dermatophagoides pteronyssinus, 略名:Der p)から抽出したmRNAまたはゲノムDNAを出発材料として、Sambrookらが述べている一般的な遺伝子組換え技術(Molecular Cloning, A Laboratory Manual Second Edition. Cold Spring Harbor Laboratory Press, N.Y., 1989)に従って調製することができる。
実際には、市販のキットが使用される。例えば、RNAの抽出には、TRIzol試薬(インビトロジェン社)、ISOGEN(ニッポンジーン社)、StrataPrep Total RNA Purification Kit(東洋紡)などの試薬、mRNAの精製には、mRNA Purification Kit(アマシャムバイオサイエンス社)、Poly(A) Quick mRNA Isolation Kit(東洋紡)、mRNA Separator Kit(クロンテック社)などのキット、cDNAへの変換には、SuperScript plasmid system for cDNA synthesis and plasmid cloning(インビトロジェン社)、cDNA Synthesis Kit(宝酒造)、SMART PCR cDNA Synthesis & Library Construction Kits(クロンテック社)、Directionary cDNA Library Construction systems(ノバジェン社)などが使用される。
【0014】
改変ダニ主要アレルゲンは、かかる改変ダニ主要アレルゲン遺伝子を適当な宿主に導入することによって生産することができる。このような宿主として、例えば、動物細胞、植物細胞、昆虫細胞、または大腸菌、酵母、枯草菌、などの微生物が挙げられる。本願発明に使用される改変ダニ主要アレルゲン含有物は、遺伝子操作を経て調製されたものであれば特に限定されず、既に公知となっているもののほか、今後開発されるものであっても適宜利用することができる。
実際には、改変ダニ主要アレルゲン遺伝子は、特許文献2公報に開示された方法に従って、改変ダニ主要アレルゲンのcDNAを保持しているプラスミドを作製し、これを鋳型としてPCR法を実施することにより取得される改変ダニ主要アレルゲン遺伝子を含む核酸断片を、大腸菌を宿主とする発現ベクターに組み込むことにより行われる。
【0015】
より具体的にはトリプトファンプロモーターとpCU由来の複製開始点で構成される発現プラスミドに改変主要ダニアレルゲン遺伝子を組み込み、該発現プラスミドで大腸菌を形質転換し、改変ダニ主要アレルゲンを発現する組換え大腸菌を得て、グリセリンストックを作製する。該グリセリンストックを種菌として、培養温度を低温(25〜32℃)で十分に培養して菌体を増殖させた後、高温(37〜38℃)にシフトして改変ダニ主要アレルゲンを発現させる二段階培養を行うことにより、発現誘導剤を含まない改変ダニ主要アレルゲン含有培養物を取得することができる。
【0016】
例えば、組換え大腸菌(pWU11-C8/119S/HB101)のグリセリンストック10mLを約1Lの培地に接種し、32℃で6〜10時間振盪培養して菌液を培養する。この菌液を200〜300Lの培地に接種し、25℃で12〜17時間培養する。その後37℃に温度を上げて、さらに8〜16時間培養することにより、湿重量で約7〜10g/Lの改変ダニ主要アレルゲンからなる封入体が生産される。
【0017】
2.改変ダニ主要アレルゲンの精製
前記改変ダニ主要アレルゲン含有培養物から改変ダニ主要アレルゲンを精製する際には、一般的に蛋白質化学において使用される精製方法、例えば、塩析法、限外ろ過法、等電点沈殿法、電気泳動法、イオン交換クロマト法、ゲルろ過クロマト法、アフィニティークロマト法、疎水クロマト法、ハイドロキシアパタイトクロマト法などの方法が用いられる。実際には、細胞由来の多種類の夾雑物が混在するため、ダニ主要アレルゲンの精製は、上記方法の複雑な組み合わせにより行われる。
例えば、封入体の回収・リフォールディング・限外濾過・イオン交換体処理・疎水クロマトグラフィー処理等の過程を経て精製する方法が取られる。
【0018】
(1)培養液の前処理(封入体の回収)
培養液をMF膜(マイクローザ 膜孔サイズ0.1〜0.25μm;旭化成社製)で濃縮して菌体を回収する。回収した菌体を脱イオン水(以下DWと略す。)で希釈濃縮して残存する培地成分及び菌体の代謝産物等を除去した後、適当な緩衝液及びリゾチームを加え、低温で一晩静置して菌体の細胞壁を溶解し、フレンチプレス(マントンゴーリン社製)にかけ菌体を破砕する。例えば、20mMのpH8.5のトリス緩衝液を加え、0.6g/Lになるようにリゾチームを添加して、4℃で一晩静置して菌体の細胞壁を溶解する。500〜600kg/cm2の条件でフレンチプレスにかけて菌体を破砕した後、DWとMF膜でこの破砕液の希釈と濃縮を繰り返すことにより大部分の菌体成分が除去される。封入体は、濃縮した封入体含有溶液を遠心分離することにより、沈殿させて回収する。
【0019】
(2)リフォールディング
回収した封入体は一旦、還元剤及び変性剤を含有する溶液で溶解される。例えば、20mMシステインと8M尿素を含有するpH8.5のトリス緩衝液に溶解される。溶解時の温度は、40℃以下であれば特に制限する必要はない。また溶解時間は、封入体の状況を見ながら設定すれば良く、通常30分から1時間撹拌される。次に、この溶解液に10〜20倍量の酸化還元緩衝液を加えることにより、改変ダニ主要アレルゲンのリフォールディング、すなわち酸化的条件下でSS結合を再構成して正常な立体構造の構築が行われる。例えば、3mMのシステインと0.3mMのシスチンを含むpH8.5のトリス緩衝液を用いて、変性剤を希釈または除去することによりリフォールディングが行われる。リフォールディング時の温度は、室温以下であれば特に制限する必要はない。リフォールディングは1〜7日間静置することにより行われる。本反応は、30%酢酸でpH7に滴定して停止させる。
【0020】
(3)限外濾過
リフォールディング処理後の改変ダニ主要アレルゲン含有液は、濃縮と低分子成分除去のために、分画分子量6000〜10000の限外濾過膜処理に供される。得られた濃縮液に、終濃度が30〜100mMとなるように塩化ナトリウムを加えた後、アルカリ溶液でpHを8〜9に調整する。このとき生じる沈殿物はφ45μmのフィルターで除去される。好ましくは、終濃度が50mMになるように塩化ナトリウムを添加し、5Nの水酸化ナトリウム水溶液でpH8.5に調整する。当該限外濾過処理は室温以下で行われる。
【0021】
(4)弱陰イオン交換体処理による非吸着画文の回収
限外濾過処理後の改変ダニ主要アレルゲンの含有溶液を陰イオン交換体カラムに通し、素通り画分に改変ダニ主要アレルゲンを回収する。当該操作は5〜10℃で行われる。
陰イオン交換体としては、ジエチルアミノエチル(DEAE)基型、四級アミノエチル(QAE)が例示される。DEAE基型としては、DEAE-アガロース(商品名DEAE-セファロース、アマシャム社製)、DEAE-デキストラン(商品名DEAE−セファデックス、アマシャム社製)、DEAE-ポリビニル(商品名DEAE−トヨパール、東ソー社製)等が例示される。また、QAE基型としては、QAE-アガロース(商品名QAE-セファロース、アマシャム社製)、QAE-ポリビニル(商品名QAE−トヨパール、東ソー社製)等が例示される。本精製工程においては支持体にかかる制限は特にないが、官能基は、弱陰イオン交換体を使用するのが好ましい。使用する緩衝液の種類については特に制限されないが、改変ダニ主要アレルゲンをカラムに接触させるときのpHは、7〜10の範囲、塩濃度は、0.03M〜0.1Mの範囲で使用される。本精製工程で、大部分の不純蛋白質は除去される。
【0022】
(5)疎水クロマトグラフィー
前記の陰イオン交換体の素通り画分を、2〜3Mの塩化ナトリウムを含む緩衝液にバッファー交換した後、同緩衝液で平衡化した疎水カラムに接触させ、改変ダニ主要アレルゲンを吸着させる。緩衝液の種類については特に制限されないが、濃度は5〜50mMの範囲、pHは7〜8の範囲で使用される。疎水ゲルとして、フェニル基型、ブチル基型、オクチル基型等が例示される。支持体としては、アガロース(アマシャム社製)、デキストラン(アマシャム社製)、ポリビニル(東ソー社製)等が例示される。本精製工程においても支持体にかかる制限は特にないが、官能基は、ブチル基を使用するのが好ましい。
次に平衡化に用いたのと同じ緩衝液でカラムを十分に洗浄した後、塩濃度を下げることにより、改変ダニ主要アレルゲンを疎水カラムから溶出させる。当該塩濃度を下げる方法として、濃度勾配を使用する方法及び段階的に塩濃度を下げる方法(ステップワイズ法)が挙げられるが、何れの方法を使用しても良い。また、塩濃度を変える物質として、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム、酢酸カリウム、塩化カリウム、塩化ナトリウム、酢酸ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウムなどが挙げられるが、何れも使用可能である。本願発明では、ステップワイズ法が用いられる。溶出時の塩濃度は、0〜1Mである。当該疎水クロマト処理における一連のカラム操作は、5〜10℃で行われる。
【0023】
(6)強陰イオン交換クロマトグラフィー
前記の疎水カラムの溶出画分を、0.5〜5Mの尿素を含む緩衝液にバッファー交換した後、同緩衝液で平衡化した陰イオン交換体にカラムに接触させ、改変ダニ主要アレルゲンを吸着させる。緩衝液の種類については特に制限されないが、濃度は5〜50mMの範囲、pHは8〜10の範囲で使用される。本精製工程においても支持体にかかる制限は特にないが、官能基は、強陰イオン交換体を使用するのが好ましい。
次に平衡化に用いたのと同じ緩衝液でカラムを十分に洗浄した後、塩濃度を上げることにより、改変ダニ主要アレルゲンを陰イオン交換体カラムから溶出させる。当該塩濃度を上げる方法として、濃度勾配を使用する方法及び段階的に塩濃度を上げる方法(ステップワイズ法)が挙げられるが、何れの方法を使用しても良い。また、塩濃度を変える物質として、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウムなどが挙げられるが、何れも使用可能である。本願発明では、濃度勾配法が用いられ、かかる濃度勾配は、カラムの平衡化に用いたのと同じ緩衝液中に塩化ナトリウムを溶解して調整される。溶出時の塩濃度勾配は、0〜0.5Mである。当該陰イオン交換体処理における一連のカラム操作は、5〜10℃で行われる。溶出液をPBSに透析した後、φ0.22μmのフィルター(ミリポア社製)で無菌濾過して精製改変ダニ主要アレルゲン溶液として保存される。
【0024】
こうして得られた改変ダニ主要アレルゲン含有溶液を、一般に、蛋白質の分析に使用される方法、例えば、特異抗体を用いるEIA及びウェスタンブロット、還元・非還元状態におけるSDS-ポリアクリルアミド電気泳動(SDS-PAGE)、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、エンドトキシン試験、吸光度測定、等電点電気泳動などの分析にかけることにより、改変ダニ主要アレルゲンの性状が明らかにされる。本願発明の改変ダニ主要アレルゲンは、分子量約15kD、等電点pI6.6〜7.2なる特徴を有し、且つ(1)SDS-PAGE分析で単一バンド、(2)宿主由来の不純蛋白質量が0.1%以下、(3)改変ダニ主要アレルゲンの重合体含量が検出限界以下、(4)立体構造の異なる改変ダニ主要アレルゲン含量が10%以下、(5)500μg/ml改変ダニ主用アレルゲン溶液のエンドトキシン含量が、注射用水の規格である0.25EU/ml未満(第十四改正 日本薬局方)を満たす高純度に精製された組換え蛋白質である。
【0025】
3.製剤(改変ダニ主要アレルゲン含有溶液)の調製
得られた精製改変ダニ主要アレルゲンは、一般に用いられる添加剤、例えば、安定剤、賦型剤、界面活性剤、緩衝剤などを添加し、無菌濾過、分注、凍結乾燥等の処理を行い製剤化される。製剤の安定性の評価は以下の方法で行われる。一定のダニ主要アレルゲン含有溶液に安定剤又は賦型剤を添加し、凍結乾燥する。得られた標品を適当な温度で保管し、経時的にサンプリングし、注射用水で溶解した後、ゲルクロマトグラフィー、SDS-PAGE、逆相クロマトグラフィー等に供され、ダニ主要アレルゲンの重合体含量や分解物が測定される。
【0026】
本願発明に使用する安定剤、賦型剤は、注射剤として通常ヒトに投与されておりその安全性が確立されているものが望ましい。このような安定剤として、アルギニン、ポリソルベート80、マクロゴール4000及びグリシン、アラニン、カプリル酸ナトリウム、クエン酸、グリセリンなどが挙げられるが、好ましくは、ポリソルベート80及びマクロゴール4000である。ポリソルベート80及びマクロゴールは、それぞれ0.05〜5%及び0.05%〜5%の濃度範囲において、単独で又は両者を混合した形態で使用される。賦型剤としては、マンニトール、ソルビトール、スクロース、キシリトール、デキストラン40、ラクト−ス、グルコースなどを挙げることができるが、スクロール及びマンニトールが好ましく、1〜10%の濃度範囲で使用可能である。
【0027】
これらの添加剤はリン酸緩衝液(PBS)で5倍から10倍の濃度に調製して無菌ろ過する。精製改変ダニ主要アレルゲン溶液に適量の濃縮添加溶液を加え、最後にPBSで製剤の濃度を調製する。ダニ主要アレルゲン含有溶液として、上記の性状を有する50〜1000μg/mlの精製改変ダニ主要アレルゲンが使用できるが、本発明では400〜500μg/mlの濃度で使用される。安定剤及び賦型剤の最適濃度は、安定化させる試料の種類や量により適宜調製すれば良く、本願発明においては、下記(1)〜(6)の何れかで使用するのが好ましい。
(1)0.1〜1%マクロゴール4000及び/又は0.1〜1%ポリソルベート80
(2)0.1〜1%マクロゴール4000及び/又は0.1〜1%ポリソルベート80、及び2〜5%スクロース
(3)0.5%マクロゴール4000及び0.1〜0.5%ポリソルベート80
(4)0.1〜1%マクロゴール4000、0.1〜1%ポリソルベート80及び2〜5%スクロース
(5)0.5%マクロゴール4000、0.1〜0.5%ポリソルベート80及び2〜5%スクロース
(6)0.5%マクロゴール4000、0.2%ポリソルベート80及び5%スクロース
こうして調製された改変ダニ主要アレルゲン製剤は、凍結乾燥後の外観、注射用水に対する溶解性が良好で、且つ、長期に亘って安定性が持続するので、注射剤としてあるいは経粘膜的に投与(経鼻、経口、舌下)される製剤としてダニアレルゲンエキスやハウスダストエキスと同様に臨床製剤として用いることができる。
以下に、実施例を挙げて本願発明を具体的に説明するが、本願発明はこれら実施例に何等限定されるものではない。
【調製例】
【0028】
(1)培養
生産株のグリセリンストック10mLを1.5LのLB培地に接種し、35℃で8時間振盪培養して菌液を調製した。この菌液を250LのLB培地に接種し、25℃で一晩通気培養した。37℃に温度を上げて、菌体の増殖に合わせてアミノ酸、グルコースを添加しながら、さらに8〜12時間通気培養して改変ダニ主要アレルゲンを菌体内に封入体として生産させた。
【0029】
(2)培養液の前処理(封入体の回収)
約300Lの培養液をMF膜(マイクローザ;旭化成社製)で約100Lまで濃縮して回収した。回収した大腸菌は、DWで4倍希釈した後、MF膜で約100Lまで濃縮した。同様にDWで希釈、MF膜濃縮を合計3回繰り返して、培地成分を除去した。更に、20mMのpH8.5のトリス緩衝液で1回希釈濃縮してバッファー交換した。これに、終濃度が0.6g/Lになるようにリゾチームを添加して、30分間攪拌した後、低温作業室(10℃以下)に移して、一晩静置して菌体の細胞壁を破壊した。リゾチーム処理液は、粘性がなくなるまでフレンチプレス(マントンゴーリン社製)にかけて菌体を破砕した。破砕時は発熱するため、処理液は熱交換器を用いて18℃以下になるように冷却した。菌体破砕液は、菌体成分を除去するためにDWで400Lまで希釈した後、MF膜で100Lまで濃縮する操作を3回繰り返した。濃縮した封入体溶液を3000rpmで3時間遠心して、封入体を沈殿させて回収した。
【0030】
(3)リフォールディング
封入体約100gを、10Lの8Mの尿素と10mMのシステインを含むpH8.5の20mMトリス緩衝液に投入し、室温で30分間攪拌して溶解した。この溶解液を150Lの3mMのシステインと0.3mMのシスチンを含むpH8.5のトリス緩衝液に希釈した。希釈液は、低温作業室に移して、4日間静置して、リフォールディング反応させた。
【0031】
(4)限外濾過
前記溶液は、30%酢酸でpH7に滴定して、反応を停止させた。この溶液を、分画分子量10Kの限外濾過膜(ザルトリウス社製)を用いて約10Lまで濃縮した。濃縮した溶液は、終濃度が50mMになるように塩化ナトリウムを添加した。その後、5Nの水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH8.5に滴定した。φ0.45μmのフィルター(ザルトリウス社製)で不溶性物質等を除去して、リフォールディング液とした。
【0032】
(5)弱陰イオン交換クロマトグラフィー
2LのDEAEトヨパール650M(東ソー社製)を詰めたφ14cmのカラム(アミコン社製)を、50mMの塩化ナトリウムを含むpH8.5の20mMトリス緩衝液で平衡化した後、リフォールディング液をカラムに通液し、素通り画分を約10L回収した。線速は30cm/hr以下に設定した。この工程で不純タンパク質のほとんどが除去できた。
回収した素通り画分は、2Mの尿素を含むpH8.5の20mMトリスバッファーにバッファー交換した後、φ0.22μmのフィルターで濾過した。
【0033】
(6)疎水クロマトグラフィー
2Lのブチル-セファロース FF(アマシャム社製)を詰めたφ14cm(アミコン社製)を、3Mの塩化ナトリウムを含むpH7.2の20mMのPBSで平衡化した後、前記濾過液をカラムに通液して、改変ダニ主要アレルゲンを吸着させた。平衡化に使用したバッファーでカラムを充分洗浄した後、pH7.2の20mMのPBSで改変ダニ主要抗原を溶出させ、溶出画分約2Lを分取した。線速は60cm/hr以下に設定した。回収した溶出画分は、2Mの尿素を含むpH8.5の20mMトリス緩衝液にバッファー交換した後、φ0.22μmのフィルターで濾過した。
【0034】
(7)強陰イオン交換クロマトグラフィー
2LのQAEトヨパール550C(東ソー社製)を詰めたφ14cmのカラム(アミコン社製)を、2Mの尿素を含むpH8.5の20mMとリスバッファーで平衡化した後、前記濾過液をカラムに通液して、改変ダニ主要アレルゲンを吸着させた。平衡化に使用した緩衝液でカラムを充分洗浄した後、塩化ナトリウムの線形濃度勾配(0→200mM、20カラムボリューム)をかけて、改変ダニ主要抗原を溶出させ、溶出画分約3Lを分取した。線速は30cm/hr以下に設定した。
【0035】
改変ダニ主要アレルゲン溶出画分を140mMの塩化ナトリウムを含むpH7.2の10mMのPBSに透析した後、φ0.22μmのフィルター(ミリポア社製)で無菌濾過して精製改変ダニ主要アレルゲン溶液(約500μg/mlで約4L)を得た。
【実施例1】
【0036】
添加剤のスクリーニング
本実施例では、前述の調製例に従って調製した組換え改変ダニ主要アレルゲンを使用した。
【0037】
改変ダニ主要アレルゲンは、非常に重合しやすいタンパク質であるので、改変ダニアレルゲンの重合を抑制する効果を指標として、添加剤のスクリーニングを行った。
製剤の調製に用いる添加剤は、PBSで5倍から10倍の濃度に調製して無菌ろ過した。精製改変ダニ主要アレルゲン溶液に適量の濃縮添加溶液を加え、最後にPBSで濃度を調製して製剤を調製した。処方は表1に示した。この製剤中の改変ダニ主要アレルゲンの含量は500μg/mLである。
【0038】
【表1】

【0039】
これらの製剤を調製し、37℃の恒温槽中に静置した。経時的にサンプリングし、重合体の形成状況をゲルろ過HPLC分析にて確認した。さらに非還元状態でSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動し、重合体のバンドの有無を確認した。
【0040】
(1)分析方法
i)ゲルろ過クロマトグラフィー
分析カラムは、G3000SWXL(東ソー社製)を用いた。移動相には、0.1%トリフルオロ酢酸を含む60%アセトニトリルを使用した。流速は1mL/minとし、分析時間は20分間とした。サンプル量は、50μLを分析した。分析の8分以降は、添加物由来のピークが検出されるために、解析時間は8分までとし、8分間の積分値から単量体含量比を算出した。
ii)SDS-PAGE分析
サンプルは非還元状態で、レーン当り、2μg相当量をSDS-ポリアクリルアミドゲル(フナコシ社製)に添加して電気泳動し、銀染色(第一化学社製)して、重合体のバンドの有無を確認した。
各製剤の重合体含量の経時的変化をグラフに示した(図1)。また、37℃で24時間加温した後、製剤をSDS-PAGE分析した結果を図2に示した。改変ダニアレルゲンの重合体形成を抑制する効果を示した添加剤は、ポリソルベート80とマクロゴール4000であった。
【実施例2】
【0041】
添加剤の組み合わせの効果
調製例に従って調製した改変ダニ主要アレルゲン含有溶液を用いて、添加剤の組み合わせによる重合体形成の抑制効果を確認した。処方は表2に示した。溶媒はPBS、改変ダニアレルゲンの含量は500μg/mLである。
【0042】
【表2】

【0043】
これらの製剤を調製し、37℃の恒温槽に静置して、経時的にサンプリングし、重合体の形成状況をゲルろ過HPLC分析にて確認した。その結果を図3に示した。また、37℃の恒温槽で24時間静置した製剤のSDS-PAGE分析の結果を図4に示した。分析の方法は、実施例1に従った。
添加剤を加えた全ての処方で、添加剤なしの製剤に比べ、重合体形成の抑制効果が確認された。最も抑制効果が高かった組み合わせは、0.5%マクロゴール4000と0.1〜0.5%ポリソルベート80を添加する組み合わせであった。
【実施例3】
【0044】
賦型剤のスクリーニング
調製例に従って調製した改変ダニ主要アレルゲン含有溶液を用いて、凍結乾燥するための賦型剤のスクリーニングを実施した。賦型剤として、マンニトール、ソルビトール、スクロースを選択して検討した。
処方は表3に示した。溶媒はPBS、改変ダニアレルゲンの含量は400μg/mLである。
【0045】
【表3】

【0046】
上記の製剤1mLをバイアル瓶(2mL)に分注し、凍結乾燥した。凍結乾燥後の製剤の外観を確認した。また、それぞれのバイアルに注射用水1mLを添加して溶解した後の製剤の性状を確認した。結果を表4に示した。
【0047】
【表4】

【0048】
凍乾直後は、賦型剤を添加していない製剤でも、外観、性状は良好であった。
賦型効果は、5%スクロース、5%マンニトールが良好な結果であった。溶状はスクロース、ソルビトールが良好であった。
【実施例4】
【0049】
製剤の安定性評価
凍結乾燥した製剤の安定性を確認した。製剤の処方は実施例3の表3のとおりである。これらの製剤を25℃及び40℃の恒温室に保管し、経時的にサンプリングし、品質の変化を確認した。
分析は、ゲルろ過HPLCにて行った。なお分析の方法は前述の方法に従った。品質の変化は、単量体含量比を求め、これを指標としてダニ主要アレルゲンの安定性を評価した。指標にして。25℃保存の結果を表5に、40℃保存の結果を表6に示した。
【0050】
【表5】

【0051】
【表6】

【0052】
賦型剤としてスクロースを添加した製剤の安定性は良好であった。
【実施例5】
【0053】
最適製剤の品質試験
実施例3、4の結果から、外観、性状を含め最も安定性が高いと考えられた添加剤の組成は、0.5%マクロゴール4000と0.2%ポリソルベート80と5%スクロースの配合であった。この組成からなる添加剤と改変ダニ主要アレルゲンを含有する組成物を、2mLバイアルに1mL分注して凍結乾燥し、製剤番号:FF-001を調製した。安定性試験及び品質試験は、バイアル1本に注射用蒸留水を1mL添加し溶解して溶液について行った。製剤の処方は表7に示した。溶媒はPBS、改変ダニ主要アレルゲンの含量は400μg/mLである。
【0054】
【表7】

【0055】
製剤番号:FF-001の単量体含量比は、99.3%であった。図5にゲルろ過クロマトグラフィーを示した。
SDS-PAGE分析は、前述の方法で実施した。製剤番号:FF-001は分子量約15kDa付近に単一のバンドとして検出された。図6にSDS-PAGEの写真を示した。それぞれ分析の方法は、実施例1に従った。
【0056】
(1)純度試験方法
i)逆相クロマトグラフィー
分析カラムは、資生堂社製のCAPCELL PAK C1 を用いた。移動相には、A液に0.1%トリフルオロ酢酸、B液に0.1%トリフルオロ酢酸を含む70%アセトニトリルを使用し、B液の混合量比を60分間で30%から50%に変化させて分析した。流速は1mL/minとし、分析時間は60分間とした。サンプル量は100μLとして分析した。積分時間は13〜60分までとし、積分値から、改変ダニアレルゲンの純度を算出した。
ii)エンドトキシン含量測定(日局の試験法)
測定には生化学工業社製の測定試薬キットを使用し、測定方法は試薬添付の説明資料に従って実施した。本エンドトキシン試験の検出限界は、0.002EU/mLであった。
その結果、製剤番号:FF-001の純度は94.2%であった。図7に逆相クロマトグラフィーを示した。また、製剤番号:FF-001のエンドトキシン含量は0.114EU/mLであった。日局生理食塩液の規格である0.5EU/mL未満を充分クリアする品質であった。
【0057】
また、製剤の浸透圧比、及び水素イオン濃度はそれぞれ日局、一般試験法に記載の方法に従って測定した。製剤の注射時の疼痛は、製剤の浸透圧比と水素イオン濃度の影響を強く受ける。一般に浸透圧比が1に近いほど、また水素イオン濃度が中性に近いほど、疼痛は弱いと言われている。その結果浸透圧比は1.58、水素イオン濃度はpH7.05であった。このことより、本製剤は注射時の疼痛が弱いと考えられる。
以上の製剤の品質についての結果を表8にまとめた。
【0058】
【表8】

【実施例6】
【0059】
最適製剤の安定性試験
単量体含量比を指標に、冷蔵(凍結をさけて10℃以下)保存での製剤番号:FF-001の安定性を確認した。分析の方法は、実施例1に記載の方法に従った。表9にその結果を示した。
【0060】
【表9】

【0061】
その結果、保存1年間まで、純度の変化は観察されていない。
【0062】
さらに、製剤番号:FF-001を用いて、加温試験による安定性の推定を行った。30℃、40℃、50℃の恒温室にそれぞれ保管し、経時的にサンプリングして重合体の形成の状況をゲルろ過HPLC分析にて確認した。分析の方法は、実施例1記載の方法に従った。
【0063】
【表10】

【0064】
アレニウスの式を用いて重合体の形成時間を以下の方法で算出することで、安定性の推定を行った。

減衰曲線の直線回帰
回帰式;log (残存率) = a Kt*t/2.303


アレニウスの式による安定性の推定

ln Ktと1/Tの関係の直線回帰式は、
ln Kt = 54.379−19221*1/T

上記の計算式の結果より、保存温度10℃、25℃での安定性を推定すると、
10℃及び25℃保存における製剤番号:FF-001のモノマー含量が95%に低下するのに要する時間は下記の通りである。

【0065】
室温で3年間は安定と推定される結果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本願発明により、遺伝子組換え技術により得られる改変ダニ主要アレルゲンに、最適な安定剤・賦型剤を加えることで、防腐剤としてのフェノール無添加化で長期保存できる、安定性の高い、ダニアレルギー疾患の治療に効果的な製剤を得ることを可能にした。
当該ダニ主要アレルゲン製剤は、注射剤としてあるいは経粘膜的に投与(経鼻、経口、舌下)される製剤として、ダニにより引き起こされるアレルギーの治療薬の材料として使用でき、また、遺伝子組換え技術を利用して製造されるため、一定の性状を有する高品質の製品として安定的に供給することが可能である。当該ダニ主要アレルゲン製剤の提供により、従来の、室内埃よりアレルゲンを抽出する方法で製造されるハウスダストアレルゲンが有する問題、すなわち、(1)その生物活性(力価)を明確に定義することができない、(2)これらの抗原が原因で、別のアレルギーになってしまうことがある、(3)皮膚を侵すことが知られているフェノールが、防腐剤として添加されており、投与量が制限される、などの問題が解決される。したがって、本発明のダニ主要アレルゲン製剤は、次世代のダニアレルギー治療薬として有望な製剤である。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】図1は、各製剤を37℃に加温したときの単量体含量比をゲルろ過HPLC分析から求め、その経時的な変化をグラフ化したものである。(1):0.5%アルギニン添加、(2):1%アルギニン添加、(3):0.5%ポリソルベート80添加、(4):1%ポリソルベート80添加、(5):0.5%マクロゴール4000添加、(6):1%マクロゴール4000添加、(7):0.5%グリシン添加、(8):1%グリシン添加、control:添加剤なし
【図2】図2は、37℃で24時間加温した各製剤をSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動にかけた結果を示す写真である。レーン1:0.5%アルギニン添加、レーン2:1%アルギニン添加、レーン3:0.5%ポリソルベート80添加、レーン4:1%ポリソルベート80添加、レーン5:0.5%マクロゴール4000添加、レーン6:1%マクロゴール4000添加、レーン7:0.5%グリシン添加、レーン8:1%グリシン添加、レーン9:添加剤なし(コントロール)
【図3】図3は、各製剤を37℃に加温したときの単量体含量比をゲルろ過HPLC分析から求め、その経時的な変化をグラフ化したものである。(1):1%マクロゴール4000+0.5%ポリソルベート80添加、(2):1%マクロゴール4000+0.2%ポリソルベート80添加、(3):1%マクロゴール4000+0.1%ポリソルベート80添加、(4):0.5%マクロゴール4000+0.5%ポリソルベート80添加、(5):0.5%マクロゴール4000+0.2%ポリソルベート80添加、(6):0.5%マクロゴール4000+0.1%ポリソルベート80添加、(7):0.2%マクロゴール4000+0.5%ポリソルベート80添加、(8):0.2%マクロゴール4000+0.2%ポリソルベート80添加、(9):0.2%マクロゴール4000+0.1%ポリソルベート80、control:添加剤なし
【図4】図4は、37℃で24時間加温した各製剤をSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動にかけた結果を示す写真である。レーン1:1%マクロゴール4000+0.5%ポリソルベート80添加、レーン2:1%マクロゴール4000+0.2%ポリソルベート80添加、レーン3:1%マクロゴール4000+0.1%ポリソルベート80添加、レーン4:0.5%マクロゴール4000+0.5%ポリソルベート80添加、レーン5:0.5%マクロゴール4000+0.2%ポリソルベート80添加、レーン6:0.5%マクロゴール4000+0.1%ポリソルベート80添加、レーン7:0.2%マクロゴール4000+0.5%ポリソルベート80添加、レーン8:0.2%マクロゴール4000+0.2%ポリソルベート80添加レーン9:0.2%マクロゴール4000+0.1%ポリソルベート80、レーン10:添加剤なし(コントロール)
【図5】図5は、凍結乾燥製剤FF-001をゲルろ過HPLC分析して得られたクロマトパターンを示す図面である。保持時間8分以降に出現するピークは添加物由来である。
【図6】図6は、凍結乾燥製剤FF-001と内部標準物質であるSF-01をSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動にかけた結果を示す写真である。レーン1:SF-01の還元処理、レーン2:FF-001の還元処理、レーン3:SF-01の非還元処理、レーン4:FF-001の非還元処理
【図7】図7は、凍結乾燥製剤FF-001を逆相HPLC分析して得られたクロマトパターンを示す図面である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダニアレルギー疾患を処置するための医薬組成物であって、有効成分として遺伝子組換え技術により得られる改変ダニ主要アレルゲン、添加剤としてマクロゴール4000及び/又はポリソルベート80、及び場合によっては、スクロースを配合してなる前記医薬組成物。
【請求項2】
改変ダニ主要アレルゲンがDer f2又はDer p2の改変体である請求項1記載の医薬組成物。
【請求項3】
Der f2又はDer p2の改変体の単量体含量比が99%以上、かつ100%以下である請求項2記載の医薬組成物。
【請求項4】
改変ダニ主要アレルゲンの含有量が50〜1000μg/mLである請求項1ないし3の何れか一項記載の医薬組成物。
【請求項5】
添加剤として下記(1)〜(6)の何れかを配合してなる請求項1ないし4の何れか一項記載の医薬組成物。
(1)0.1〜1%マクロゴール4000及び/又は0.1〜1%ポリソルベート80
(2)0.1〜1%マクロゴール4000及び/又は0.1〜1%ポリソルベート80、及び2〜5%スクロース
(3)0.5%マクロゴール4000及び0.1〜0.5%ポリソルベート80
(4)0.1〜1%マクロゴール4000、0.1〜1%ポリソルベート80及び2〜5%スクロース
(5)0.5%マクロゴール4000、0.1〜0.5%ポリソルベート80及び2〜5%スクロース
(6)0.5%マクロゴール4000、0.2%ポリソルベート80及び5%スクロース
【請求項6】
凍結乾燥品である請求項1ないし5の何れか一項記載の医薬組成物。
【請求項7】
ダニアレルギー疾患を処置するための医薬組成物の製造方法であって、有効成分として遺伝子組換え技術により得られる改変ダニ主要アレルゲン、添加剤としてマクロゴール4000及び/又はポリソルベート80、及び場合によっては、スクロースを配合し、これを凍結乾燥することからなる前記製造方法。
【請求項8】
改変ダニ主要アレルゲンがDer f2又はDer p2の改変体である請求項7記載の製造方法。
【請求項9】
Der f2又はDer p2の改変体の単量体含量比が99%以上、かつ100%以下である請求項8記載の製造方法。
【請求項10】
改変ダニ主要アレルゲンの含有量が50〜1000μg/mLである請求項7ないし9の何れか一項記載の製造方法。
【請求項11】
添加剤として下記(1)〜(6)の何れかを配合してなる請求項7ないし10の何れか一項記載の製造方法。
(1)0.1〜1%マクロゴール4000及び/又は0.1〜1%ポリソルベート80
(2)0.1〜1%マクロゴール4000及び/又は0.1〜1%ポリソルベート80、及び2〜5%スクロース
(3)0.5%マクロゴール4000及び0.1〜0.5%ポリソルベート80
(4)0.1〜1%マクロゴール4000、0.1〜1%ポリソルベート80及び2〜5%スクロース
(5)0.5%マクロゴール4000、0.1〜0.5%ポリソルベート80及び2〜5%スクロース
(6)0.5%マクロゴール4000、0.2%ポリソルベート80及び5%スクロース

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−277094(P2007−277094A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−191428(P2004−191428)
【出願日】平成16年6月29日(2004.6.29)
【出願人】(000173555)財団法人化学及血清療法研究所 (86)
【Fターム(参考)】