説明

改変ヨウ化ナトリウム共輸送体タンパク質及びその使用

【課題】改変ヨウ化ナトリウム共輸送体(NIS)タンパク質を提供する。
【解決手段】この改変NISタンパク質は、SEQ ID NO. 1のアミノ酸配列において1つ以上のアミノ酸残基が変えられたアミノ酸配列を含む。この改変NISタンパク質は向上した輸送機能を有し、細胞内における該改変NISタンパク質の発現は同量の野生型NISタンパク質の発現よりNISタンパク質の基質の細胞内レベルを高くする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改変ヨウ化ナトリウム共輸送体タンパク質及びその使用、特に試験管内又は生体内で細胞内のヨウ化ナトリウム共輸送体タンパク質の基質(substrate)を増加させるための改変ヨウ化ナトリウム共輸送体タンパク質の使用に関する。
《関連する出願への相互参照》
本出願は、2010年7月28日付で出願した台湾特許出願第099124881号の優先権を主張する特許出願である。
【背景技術】
【0002】
人体内の甲状腺ホルモンの主機能は、生理機能を調節し、代謝を促進することである。例えば、甲状腺ホルモンは細胞の酸素消費量、呼吸数、体温、心拍、血流などを調節することが出来、また脂肪、タンパク質、及び炭水化物の代謝を促進することが出来る。ヨウ素(I)は甲状腺ホルモンに必須の元素である。甲状腺ホルモンは甲状腺により生成され、甲状腺の細胞膜上のヨウ化ナトリウム共輸送体(NIS)タンパク質を介して血液中のヨウ化物イオン(I-)は甲状腺細胞に能動輸送により輸送され、甲状腺ホルモンが合成される。
【0003】
甲状腺癌は首の部位に一般的に発生する悪性の新生物である。甲状腺癌は長い潜伏期間と速い転移速度とを有し、近年、台湾において女性に最も多い癌の1つとなっている。放射性ヨウ素療法が甲状腺癌の治療に通常使用される。ヨウ化物イオンを輸送するNISタンパク質の特異性をこの療法に適用し、放射性I‐131同位体を甲状腺癌細胞内に輸送して癌細胞を殺す効能を実現する。従って、放射性ヨウ素療法において、ヨウ化物イオンを甲状腺癌細胞内に輸送するNISタンパク質の機能は治療の重要な要素となっている。NISタンパク質が十分な濃度の放射性ヨウ化物イオンを甲状腺癌細胞内に敏速に輸送できないと、癌細胞を効果的に殺して癌治療を促進することが出来ない。
【0004】
特許文献1は野生型NISタンパク質の正電荷数を増加させることでI-イオンに対する輸送機能を向上させた改変NISタンパク質を開示する。この出願は、置換法(即ち、野生型NISタンパク質中の中性非荷電アミノ酸または負荷電アミノ酸を正荷電アミノ酸で置換する)、又は追加法(即ち、野生型NISタンパク質に正荷電アミノ酸を追加する)を使用して、NISタンパク質を改変し、野生型NISタンパク質中の正荷電アミノ酸の量を増加させることが出来ると記述している。開示された例によれば、輸送能力を向上させるために10個の正荷電アミノ酸が野生型NISタンパク質に追加される。
【0005】
実際には、特許文献1が主張するようにNISタンパク質中の中性非荷電アミノ酸または負荷電アミノ酸を正荷電アミノ酸で置換して改善結果を達成することはそれほど容易ではない。また、特許文献1の開示に基づいて、意図的に多数の正荷電アミノ酸を野生型NISタンパク質に追加して正荷電アミノ酸の数を増加させた場合、改善結果を達成するために十分な量の正荷電アミノ酸が必要であるので、NISタンパク質の製造コストが増加する。その結果、NISタンパク質の輸送機能を向上させるために正確で効率的な改変方法が要望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許出願公開第2006/0004191号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の要望に基づいて本発明の研究が行われた。本発明の発明者はNISタンパク質のヨウ化物イオンを輸送する能力は、NISタンパク質中の1つ以上のアミノ酸残基を改変することで大きく向上しうることを発見した。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の1つの目的は、SEQ ID NO. 1のアミノ酸配列において1つ以上のアミノ酸残基が変えられたアミノ酸配列を含む改変ヨウ化ナトリウム共輸送体(NIS)タンパク質を提供することである。
【0009】
本発明の別の目的は、上記の改変NISタンパク質をエンコードするポリヌクレオチドと、該ポリヌクレオチドを含む発現ベクターとを提供することである。
【0010】
本発明の更に別の目的は、試験管内の細胞内のNISタンパク質の基質(substrate)を増加させる方法を提供することである。この方法は
a)該改変NISタンパク質を試験管内の細胞内に導入するステップと、
b)該細胞をNISタンパク質の1つ以上の基質と接触させるステップとを含む。
【0011】
本発明の更に別の目的は、試験管内の細胞内のNISタンパク質の基質を増加させる方法を提供することである。この方法は
I)該改変NISタンパク質を試験管内の細胞内に導入するステップと、
II)該細胞を動物の体内に移植するステップと、
III)該動物の体内の該細胞をNISタンパク質の1つ以上の基質と接触させるステップとを含む。
【0012】
本発明の詳細な技術と好適な実施形態を、当業者が本発明の特徴を良く理解できるよう下記に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】野生型ヨウ化ナトリウム共輸送体タンパク質(NIS‐wt)及び変異型NISタンパク質のヨウ素輸送機能を示す統計棒グラフである。
【図2】マウス体内のI‐131を示す生体内分子像である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
上述したように、臨床医学では、放射性I-イオンを特異的に輸送するヨウ化ナトリウム共輸送体(NIS)タンパク質の特性により甲状腺癌細胞を殺す放射性ヨウ素療法が甲状腺癌治療に使用されてきた。放射性ヨウ素療法は甲状腺癌細胞に対して高い特異性を有するので、効果的な甲状腺癌療法の1つになっている。しかし、この方法は甲状腺癌患者自身のNISタンパク質の輸送能力に依存している。もしNISタンパク質がI-イオンを効果的に輸送できないなら、治療効果は限定されるであろう。NISタンパク質を改変して輸送能力を向上させる方法を提案する文献が存在するが、その方法はNISタンパク質を正確かつ効果的に改変することがまだ出来ない。
【0015】
NISタンパク質は約650個のアミノ酸からなる内在性膜タンパク質である(アミノ酸配列をSEQ ID NO. 1に示す)。このタンパク質は13の膜貫通領域を有し、イオンポンプとして働き1つのヨウ化物イオン(I-)と2つのナトリウムイオン(Na+)とを甲状腺細胞内に同時に輸送する。本発明の発明者はNISタンパク質の輸送機能はNISタンパク質中のアミノ酸を改変することで向上しうることを発見した。
【0016】
本発明は向上した輸送機能を有する改変NISタンパク質を提供する。本発明のNISタンパク質は、その基質(substrate)を輸送する機能を向上させるよう野生型NISタンパク質のアミノ酸配列(SEQ ID NO. 1)内の1つ以上のアミノ酸残基を変えることで作製され、従って、細胞内のNISタンパク質の基質の量を増加させるために使用できる(即ち、細胞内における本発明のNISタンパク質の発現は、同量の野生型NISタンパク質の発現よりNISタンパク質の基質の細胞内レベルを高くする)。
【0017】
本発明によれば、NISタンパク質の改変は、NISタンパク質中の正荷電又は中性非荷電アミノ酸残基を負荷電アミノ酸残基で置換してNISタンパク質中の負電荷数を増加させて輸送能力を向上させることを含む。例えば、アスパラギン酸(負荷電)を、NISタンパク質中のセリン残基(中性非荷電)319を置換するために使用できる。従って、本発明では、改変NISタンパク質はSEQ ID NO. 1のアミノ酸配列を含み、このアミノ酸配列内の1つ以上のアミノ酸残基は負荷電アミノ酸に変えられている。
【0018】
本発明によれば、NISタンパク質の改変は、NISタンパク質中の負荷電又は中性非荷電アミノ酸残基を正荷電アミノ酸残基で置換してNISタンパク質中の正電荷数を増加させて輸送機能を向上させることを含む。例えば、グルタミン残基(中性非荷電)218をアルギニン(正荷電)で置き換えるか、又はスレオニン残基(中性非荷電)308をリシン(正荷電)で置き換えることが出来る。本発明の1つの実施形態では、NISタンパク質のグルタミン残基218をアルギニンで置き換える。
【0019】
好ましくは、本発明のNISタンパク質は、SEQ ID NO. 1のアミノ酸配列において、次の条件、(1)グルタミン残基(Q)218はアルギニン(R)で置き換えられている、(2)スレオニン残基(T)308はリシン(K)で置き換えられている、(3)セリン残基(S)319はアスパラギン酸(D)で置き換えられている、のうち1つ以上を満たしているアミノ酸配列を含む。本発明の発明者は、理論によって制限されず、上記3つのアミノ酸残基のうち任意の1つを改変することで、細胞膜上のNISタンパク質の3D構造を変えることが出来、それに応じて、その輸送機能が向上しうると考えている。
【0020】
本発明の1つの実施形態では、部位特異的突然変異誘発法によりNISタンパク質中の、グルタミン残基218をアルギニンで置き換え(以下、NIS-Q218Rと略記する)、スレオニン残基308をリシンで置き換え(以下、NIS-T308Kと略記する)、及び/又はセリン残基319をアスパラギン酸で置き換えて(以下、NIS-S319Dと略記する)、輸送機能を大幅に向上させる。細胞内のNISタンパク質の構造に関して、上記3つのアミノ酸残基全てが細胞膜上の細胞外位置に存在する。下記の実施例に例示するように、本発明のNISタンパク質の輸送能力は、野生型NISタンパク質(以下、NIS-wtと略記する)に比べて約200%向上させることが出来る。
【0021】
本発明の改変NISタンパク質を得るために、NISタンパク質を任意の適切な手法で改変することが出来る。例えば、本発明のNISタンパク質をアミノ酸合成機により合成することが出来る。アミノ酸合成機はアミノ酸残基218、308、及び/又は319の合成が実行される時、置換だけを実行する。或いは、分子生物工学により部位特異的突然変異誘発のためのプライマーの組みを設計し、アミノ酸残基218、308、及び/又は319の核酸をコドン表を参照して改変することが出来、次に、発現が宿主細胞内で実行されて本発明のNISタンパク質が得られる。
【0022】
NISタンパク質はNa+とI-とを細胞外に排出する以外に、他の基質、例えばパーテクネートイオン(TcO4-)、パーレネートイオン(ReO4-)、アスタチドイオン(At-)等も輸送できることはよく知られている。従って、本発明のNISタンパク質は、次のイオン:Na+、I-、TcO4-、ReO4-、At-、及びこれらの組合せからなるグループから選択される基質に対して向上した輸送機能を有する。好ましくは、NISタンパク質はI-イオンに対して向上した輸送機能を有する。
【0023】
上記にように、放射性ヨウ素療法はNISタンパク質の放射性I-イオンを輸送し甲状腺癌細胞を殺して甲状腺癌を治療する能力に基づいている。本発明のNISタンパク質のI-イオンに対する向上した輸送機能によって、このNISタンパク質が放射性I-イオンの輸送に適用された場合、甲状腺癌に対するヨウ化物イオンの治療効果を向上させることが出来る。また、NISタンパク質は甲状腺以外の他の組織(鼻粘膜、胃、唾液腺等)にも存在する可能性があるが、非甲状腺組織に存在するNISタンパク質の量は相対的に少ない。体内のNISタンパク質を含む他の組織に癌細胞が現れた時、本発明のNISタンパク質の向上した輸送機能をこの組織を治療するために使用でき、甲状腺組織に限定されない。
【0024】
放射性I-イオンは癌治療に適用できるだけでなく、分子撮像にも適用できる。放射性I-イオンの放射能に基づいて、単光子放出コンピュータ断層撮影(SPECT)又はガンマ線スキャナーを体内の放射性I-イオンの活動及び状態を検出又は追跡するために使用して、癌治療のためのリアルタイム検出効果を実現できる。本発明のNISタンパク質は放射性I-イオンを癌細胞内に効果的に輸送できるので、放射性I-イオンが癌細胞を殺す過程を完全に観察することが出来る。従って、本発明のNISタンパク質は分子撮像に適用された時、特に有利である。
【0025】
本発明は、本発明のNISタンパク質をエンコードするポリヌクレオチドも提供する。このポリヌクレオチドはSEQ ID NO. 2、SEQ ID NO. 3、SEQ ID NO. 4、SEQ ID NO. 5、SEQ ID NO. 6、SEQ ID NO. 7、又はSEQ ID NO. 8の核酸配列を含む。好ましくは、このポリヌクレオチドはSEQ ID NO. 2の核酸配列を含む。
【0026】
本発明は上記ポリヌクレオチドを含む発現ベクターも提供する。この発現ベクターを使用して宿主細胞内で発現を実行すると、本発明のNISタンパク質が生成される。従って、該発現ベクターを癌治療、分子撮像、又はこれらの組合せに適用できる。これらの用途は上記で説明されている。
【0027】
複製可能で宿主細胞内で機能できさえすれば、任意の既知の又は販売されているベクターを本発明の発現ベクターを作製するために使用できる。例えば、原核生物を宿主細胞として使用する時、米国Stratagene社のpBluescript(登録商標) II KS (+/-)ファージミドベクター又はpUC18などのベクターを使用できる。真核生物を宿主細胞として使用する時、pcDNA3.1、pSV40/neo、又はウイルスベクターなどのベクターを使用できる。
【0028】
本発明の改変NISタンパク質は向上した輸送機能を有するので、細胞内のNISタンパク質の基質の量を増加させるために使用できる。従って、本発明は試験管内又は生体内で細胞内のNISタンパク質の基質の量を増加させるための方法も提供する。
【0029】
試験管内で細胞内のNISタンパク質の基質の量を増加させるための本発明の方法は、a)本発明のNISタンパク質を試験管内の細胞内に導入するステップと、b)この細胞をNISタンパク質の1つ以上の基質と接触させるステップとを含む。生体内の細胞内のNISタンパク質の基質を増加させるための方法は、I)本発明のNISタンパク質を試験管内の細胞内に導入するステップと、II)この細胞を動物の体内に移植するステップと、III)動物の体内でこの細胞をNISタンパク質の1つ以上の基質と接触させるステップとを含む。
【0030】
本発明の方法は細胞内のNISタンパク質の基質の量を増加させることが出来る。該基質は、例えばNa+、I-、TcO4-、ReO4-、又はAt-イオンであってよい。好ましくは、該方法は細胞内のI-イオンの量を増加させるために使用される。
【0031】
本発明の上記方法のステップa)又はステップI)において、本発明のNISタンパク質を試験管内の細胞内に任意の適切な手法で導入できる。例えば、これに限定されないが次のステップ、a1)本発明のNISタンパク質をエンコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクター(即ち、本発明の発現ベクター)を試験管内の細胞内に導入する、a2)細胞を培養してNISタンパク質を発現させる、により実行できる。
【0032】
ステップa1)において、発現ベクターを既知のトランスフェクション法により細胞内に導入することが出来る。例えば、PEG原形体法、化学法、電気穿孔法、遺伝子銃移入等を使用できる。1つの実施形態では、電気穿孔法を形質転換に使用する。このプロセスでは、細胞を電流で刺激した時、細胞膜の透過性が突然増加し、異種の遺伝子(例えば、発現ベクター)が細胞内に入るのを可能にする。電気穿孔法は操作が容易で簡単であるので有利であり、様々な種類の細胞に適しており、かつ形質転換の成功率が高い。
【0033】
ステップa1)において、ポリヌクレオチドはSEQ ID NO. 2、SEQ ID NO. 3、SEQ ID NO. 4、SEQ ID NO. 5、SEQ ID NO. 6、SEQ ID NO. 7、又はSEQ ID NO. 8の核酸配列を含む。好ましくは、このポリヌクレオチドはSEQ ID NO. 2の核酸配列を含む。
【0034】
ステップa2)において、該細胞を培養して本発明のNISタンパク質を発現させる。次に、NISタンパク質は、輸送機能を実行する細胞生理機構により細胞膜へ輸送される。次に、本発明のNISタンパク質は該細胞内に導入される。
【0035】
本発明のNISタンパク質が試験管内の細胞内に導入された後、ステップb)を実行して、該細胞をNISタンパク質の1つ以上の基質と接触させる。或いは、生体内で細胞内のNISタンパク質の基質を増加させたい場合は、ステップII)を実行して、先ず該細胞を動物の体内に移植する。次に、ステップIII)を実行して、動物の体内で該細胞をNISタンパク質の1つ以上の基質と接触させる。ステップII)では、任意の適切な方法を使用して該細胞を動物の体内に移植することが出来る。例えば、腹腔内注射、静脈注射等を細胞接種に使用できる。
【0036】
ステップb)又はステップIII)において、任意の適切な方法を使用して該細胞を基質と接触させることが出来る。例えば、該細胞を含む培地に基質を単に加える、又は細胞移植された動物が基質を取り込むことで、該細胞を基質と接触させることが出来る。向上した輸送機能を有するNISタンパク質が該細胞の細胞膜上に存在するので、基質は該細胞内に容易に輸送され該細胞内の該基質の量を増加させることが出来る。
【0037】
本発明の方法は、試験管内又は生体内で細胞内のI-イオンの量を増加させることが出来るので、試験管内又は生体内分子撮像に適用できる。例えば、本発明の方法は、試験管内又は生体内細胞又は組織試験に適用できる。放射性I-イオンと単光子放出コンピュータ断層撮影(SPECT)又はγ放射スキャナーとを使用して細胞又は組織内の放射性I-イオンの活動及び状態を検出又は追跡することで、試験管内又は生体内分子撮像を実行できる。
【0038】
以下、本発明を下記の実施例を用いて更に例示する。しかし、下記の実施例は例示するためだけに提供され、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例1】
【0039】
変異型ヨウ化ナトリウム共輸送体(NIS)タンパク質の調製
実験A:一本鎖ファージミドDNAの調製
プラスミド、pBluescript(登録商標) II KS(+)-5’hNIS(野生型ヨウ化ナトリウム共輸送体タンパク質(NIS‐wt)のポリヌクレオチド)を含む大腸菌(CJ236、米国New England BioLabs社から購入)を15μg/mLのクロラムフェニコールを含む培地(1リットル当りトリプトン10g、酵母エキス5g、及び塩化ナトリウム10gを含む)に入れ、培養器内で37℃で振とう培養した。次の日、ブロスを50μg/mLのアンピシリン(米国Sigma-Aldrich)と15μg/mLのクロラムフェニコールとを含む2xYT培地(1リットル当りトリプトン16g、酵母エキス10g、及び塩化ナトリウム5gを含む)に加えた。ブロスのO.D.600値が0.3に達するまで、該細菌を培養器内で37℃で振とう培養した。次に、M13KO7ヘルパーファージ(米国New England BioLabs社から購入)を該ブロスに加え、培養器内で37℃で1時間振とう培養し、次に70μg/mLのカナマイシンを該ブロスに加え、培養器内で37℃で6時間振とう培養した。該ブロスを遠心分離管に入れ、12000rpmで15分間遠心分離した。上澄み液を収集し、別の遠心分離管に入れ、再び遠心分離した。上澄み液を収集し、10U/μLのDNase I(デオキシリボヌクレアーゼI)と10μg/mLのRNase Aとを加えた。この混合物を37℃で15分間反応させ、次に1/4体積のファージ沈降液(20%PEG-8000、3.75M酢酸アンモニウム)を混合物に加えた。この混合物を氷の上に30分間置き、16000rpmで15分間遠心分離した。
【0040】
遠心分離後、上澄み液を取除き、トリス緩衝液を使用して沈澱物を溶かした。次にフェノール/クロロホルムで沈澱物を数回抽出した。上澄み液を収集し、アルコール沈澱で一本鎖ファージミドDNAを沈澱させた。最後に、一本鎖ファージミドDNAを水で溶かした。
【0041】
実験B:部位特異的突然変異誘発
NISタンパク質の細胞膜外に位置する中性(非荷電)非高度保存アミノ酸を選択し、このNISタンパク質のアミノ酸の配座と重要な機能部位とに基づいて部位特異的突然変異誘発法で変異NISタンパク質を調製した。
【0042】
先ず、実験Aにおいて調製した一本鎖ファージミドDNA(1μL)と、SEQ ID NO. 9の核酸配列を含むプライマー(1.25μL)と、10倍アニーリング緩衝液(1μL;500mM塩化ナトリウム、200mMトリス塩酸(pH8.0)、及び20mMのMgCl2を含む)とを2次脱イオン水(6.75μL)に加え、試験管内で混合した。次に鉱油を加え、水の蒸発を防いだ。この混合物を水中で99℃で5分間加熱し、次に1分当り1℃の割合で徐々に30℃まで冷却して一本鎖ファージミドDNAと該プライマーとをアニールした。次にこの混合物を氷の上で冷却した。
【0043】
次に合成緩衝液、T4DNAリガーゼ、T4DNAポリメラーゼ、及びT4遺伝子32タンパク質(米国Invitrogen社から購入)を該試験管に加え、該試験管を氷の上に5分間置き、次にこの混合物を25℃で5分間反応させ、最後に37℃で90分間反応させてPCRを実行した。反応完了後、得られた生成物をフェノール/クロロホルムで数回抽出し、次にアルコールでDNAを沈澱させた。沈澱したDNAを水で溶かし、電気穿孔法により大腸菌NM522(Stratagene社から購入)内に導入した。大腸菌NM522のブロスをアンピシリンを含む培養皿に塗布し、培養器内で37℃で16〜24時間培養した。選別を実行し、変異NISタンパク質NIS‐Y81D(NISタンパク質のチロシン残基(Y)81がアスパラギン酸(D)で置換された)のポリヌクレオチドを含むプラスミドDNAを含む大腸菌NM522を得た。
【0044】
大腸菌NM522の1つのコロニーを選択し、50μg/mLのアンピシリンを含むLB培地(1リットル当りトリプトン10g、酵母エキス5g、及び塩化ナトリウム10gを含む)に入れ、培養器内で37℃で24時間振とう培養した。この細菌のプラスミドDNAを抽出し制限酵素で切断し、部位特異的突然変異誘発の結果をDNA塩基配列決定法で確認した。上記実験方法はKunkel, 1985, ”Rapid and efficient site-specific mutagenesis without phenotypic selection”, Proc. Natl. Acad. Sci. 米国, 82: 488-492を参照した。この文献を本明細書に援用する。
【0045】
上記手順を、SEQ ID NO. 10、SEQ ID NO. 11、SEQ ID NO. 12、SEQ ID NO. 13、SEQ ID NO. 14、SEQ ID NO. 16、又はSEQ ID NO. 17の核酸配列を含むプライマーを使用して繰り返し、変異NISタンパク質NIS‐Y81R、NIS‐Q218R、NIS‐T221R、NIS‐S240R、NIS‐T308D、NIS‐T308K、NIS‐L315D、又はNIS‐S319Dのポリヌクレオチドを含むプラスミドDNAを含む大腸菌NM522を作製した。本実験の部位特異的突然変異誘発に使用したプライマー配列を表1に示す。
【0046】
【表1】

【実施例2】
【0047】
ヨウ素輸送試験
SuperFect(QIAGEN社から購入)を使用して、実施例1で得た変異NISタンパク質NIS‐Y81Dのポリヌクレオチドを含むプラスミドDNAを人肝臓癌細胞株HepG2(ATCCから購入)に輸送し、この変異NISタンパク質を発現させた。24時間後、10.2μCi(マイクロキュリー)/mLのヨウ素125(I‐125)を含む1mLのDMEM(Dulbecco’s Modified Eagle Medium)を細胞培地に加えた。培養器内で37℃で1時間培養した後、細胞を収集し、Cobra II 自動ガンマ計数器(独国Packard BioScience)を使用してI‐125の放射能を測定しNISタンパク質のヨウ素輸送能力を求めた。
【0048】
上記手順を、実施例1で調製した変異NISタンパク質NIS‐Y81R、NIS‐Q218R、NIS‐T221R、NIS‐S240R、NIS‐T308D、NIS‐T308K、NIS‐L315D、又はNIS‐S319Dのポリヌクレオチドを含むプラスミドDNAを使用して繰り返した。結果を図1と表2に示す。
【0049】
【表2】

* P<0.05、野生型NISタンパク質と比較して有意差がある。
【0050】
図1と表2から分かるように、野生型NISタンパク質と比較すると、変異型NISタンパク質NIS‐Q218R、NIS‐T308K、及びNIS‐S319DはI-イオンを輸送する有意により高い能力を示した。NIS‐Q218Rが最も高い輸送能力を有する。従って、本試験は、野生型NISタンパク質の細胞外アミノ酸を改変することで得られるNISタンパク質は向上した輸送機能を有することを示した。
【0051】
また、本試験は、野生型NISタンパク質内の中性又は負荷電アミノ酸を正荷電アミノ酸で置き換えてNISタンパク質の輸送機能を向上させることはそれほど簡単ではなく(例えば、NIS‐Y81R、NIS‐T221R、及びNIS‐S240Rの試験結果に示されている)、NISタンパク質の輸送機能を向上させる効果を得るために、NISタンパク質のアミノ酸配列の特定の位置に対して置換えを行わなければならないことを示した。一方、NIS‐S319Dの試験結果は、中性(非荷電)アミノ酸を負荷電アミノ酸で置き換える(即ち、NISタンパク質の負電荷の数を増加させる)ことでも、NISタンパク質の輸送機能を向上させうることを示した。
【実施例3】
【0052】
ヨウ素輸送運動試験
SuperFectを使用して、変異型NISタンパク質(NIS‐Q218R、NIS‐T308K、又はNIS‐S319D)のポリヌクレオチドを含むプラスミドDNAを人肝臓癌細胞株HepG2に輸送し、このNISタンパク質を発現させた。24時間後、該細胞を6.25μM(0.390625μCi/mLのI‐125を含む)、12.5μM(0.78125μCi/mLのI‐125を含む)、25μM(1.5625μCi/mLのI‐125を含む)、50μM(3.125μCi/mLのI‐125を含む)、100μM(6.25μCi/mLのI‐125を含む)、200μM(12.5μCi/mLのI‐125を含む)、400μM(25μCi/mLのI‐125を含む)、800μM(50μCi/mLのI‐125を含む)、又は1600μM(100μCi/mLのI‐125を含む)のヨウ化ナトリウムを含む培地に入れた。4分間培養した後、HepG2細胞を収集し、Cobra II 自動ガンマ計数器を使用してI‐125の放射能を測定した。得られた値を下記の式に入力して、Vmax値とKm値をLineweaver-Burkプロットにより計算した。
v=Vmax×[I]/(Km+[I])+0.0156×[I]+2.4588
ヨウ化ナトリウムを加えてない野生型NISタンパク質を含むHepG2細胞からの値(0.0156×[I]+2.4588)をバックグラウンド値として使用した。結果を表3に示す。
【0053】
【表3】

【0054】
表3は野生型NISタンパク質のVmax値と比べて変異型NISタンパク質NIS‐Q218R、NIS‐T308K、及びNIS‐S319DのVmax値は明らかに高く、変異型NISタンパク質はI-イオンを輸送する能力がより高いことを示した。また、NIS‐Q218Rが最も高い輸送能力を示した。従って、本試験は本発明のNISタンパク質は向上した輸送機能を実際に有することを示した。NIS‐Q218Rを下記の試験に使用した。
【実施例4】
【0055】
動物試験‐生体内I-イオン輸送試験
SuperFectを使用して、変異型NISタンパク質NIS‐Q218R、又は野生型NISタンパク質NIS‐wtのポリヌクレオチドを含むプラスミドDNAを人肝臓癌細胞株HepG2に輸送し、このNISタンパク質を発現させた。24時間後、該細胞(8.4×104個の細胞)をBalb/cマウス(国立研究所動物センターから購入)の腹腔に腹腔内注射で注射した。先ず、マウスに150μg/kg体重のプリスタン(増感剤;Sigma-Aldrich社から購入)を2週間注射してマウスの免疫力を低下させた。接種から3日後、マウスに20Ci/kg体重のI‐131を与え、2日後、単光子放出コンピュータ断層撮影(SPECT)を使用して生体内撮像の能力評価を行い、マウス体内に残る残留I‐131の量を測定し、更に変異型NISタンパク質NIS‐Q218Rのマウス体内でI‐131を吸収/輸送する能力を求めた。生体内撮像の能力評価の結果を図2と表4に示す。
【0056】
【表4】

【0057】
図2と表4から、野生型NISタンパク質を接種したマウスと比較すると、変異型NISタンパク質NIS‐Q218Rを接種したマウスでは、I‐131の放射能はかなり高かったことが分かる。この結果は、本発明のNISタンパク質はマウス体内で細胞がI‐131を保持し放射性ヨウ素の量を増加させるのを可能にしうることを示す。従って、本発明のNISタンパク質を癌治療又は分子撮像に使用できる。
【実施例5】
【0058】
動物試験‐細胞毒性試験
実施例4において変異型NISタンパク質NIS‐Q218Rまたは野生型NISタンパク質NIS‐wtを接種したマウスを9日間飼育した後、屠殺した。リン酸緩衝生理食塩水(PBS)液を使用してマウスの腹腔を洗浄し、腹部すすぎ液(腫瘍細胞を含む)を収集した。Cobra II 自動ガンマ計数器を使用して腹部すすぎ液内のI‐131の放射能強度を測定し、腫瘍細胞を殺すI‐131の能力を向上させる変異型NISタンパク質NIS‐Q218Rの効果を観察した。上記のプロセスにおいて、腫瘍細胞に輸送されなかったI‐131はマウス体外へ排泄された。従って、放射能が減少したことは、腫瘍細胞の数が減少し、本NISタンパク質は腫瘍細胞を殺すI‐131の能力を向上させるより高い能力を有していたことを示す。結果を表5に示す。
【0059】
【表5】

* cpm、1分当りのカウント数/8.4×104個の細胞
【0060】
表5は変異型NISタンパク質NIS‐Q218Rを接種したマウスの腹部すすぎ液内の放射能は、野生型NISタンパク質を接種したマウスのそれより明らかに低く、NIS‐Q218Rタンパク質は腫瘍細胞に対するI‐131の細胞毒性力を向上させたことを示す。従って、NIS‐Q218Rは、マウス体内で腫瘍細胞によるI‐131の吸収を増加させることで、腫瘍細胞を殺すI‐131の効果を増大させることが出来る。
【0061】
この実施例は、本発明のNISタンパク質を放射性ヨウ素療法に適用することで、癌細胞の放射性ヨウ化物イオン吸収能力を向上させ癌細胞に対する細胞毒効果を増大させうることを証明している。
【0062】
上記の実施例は、本発明の範囲を限定するためではなく、本発明の原理と効果を例示するために提供されている。当業者は上記の開示に基づいて本発明の原理と思想から逸脱することなく様々な変更と置換えを想到する可能性がある。従って、本発明の範囲は下記の請求項により実質的に定義される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SEQ ID NO. 1のアミノ酸配列において1つ以上のアミノ酸残基が変えられたアミノ酸配列を含む改変ヨウ化ナトリウム共輸送体タンパク質であって、細胞内における該改変ヨウ化ナトリウム共輸送体タンパク質の発現は同量の野生型ヨウ化ナトリウム共輸送体タンパク質の発現よりヨウ化ナトリウム共輸送体タンパク質の基質(substrate)の細胞内レベルを高くする、改変ヨウ化ナトリウム共輸送体タンパク質。
【請求項2】
SEQ ID NO. 1の1つ以上のアミノ酸残基が負荷電アミノ酸に変えられている請求項1に記載の改変ヨウ化ナトリウム共輸送体タンパク質。
【請求項3】
SEQ ID NO. 1のアミノ酸配列において、次の条件、
(1)グルタミン残基(Q)218はアルギニン(R)で置き換えられている、
(2)スレオニン残基(T)308はリシン(K)で置き換えられている、
(3)セリン残基(S)319はアスパラギン酸(D)で置き換えられている、のうち1つ以上を満たしているアミノ酸配列を含む請求項1に記載の改変ヨウ化ナトリウム共輸送体タンパク質。
【請求項4】
SEQ ID NO. 1のアミノ酸配列においてグルタミン残基218はアルギニンで置き換えられたアミノ酸配列を含む請求項1又は3に記載の改変ヨウ化ナトリウム共輸送体タンパク質。
【請求項5】
細胞内における該改変ヨウ化ナトリウム共輸送体タンパク質の発現は、ナトリウムイオン(Na+)、ヨウ化物(I-)、パーテクネート(TcO4-)、パーレネート(ReO4-)、アスタチド(At-)、及びこれらの組合せからなるグループから選択される基質の細胞内レベルを上昇させる請求項1〜4のいずれかに記載の改変ヨウ化ナトリウム共輸送体タンパク質。
【請求項6】
細胞内における該改変ヨウ化ナトリウム共輸送体タンパク質の発現は、ヨウ化物(I-)の細胞内レベルを上昇させる請求項1〜5のいずれかに記載の改変ヨウ化ナトリウム共輸送体タンパク質。
【請求項7】
癌治療、分子撮像、又はこれらの組合せにおいて使用される請求項1〜6のいずれかに記載の改変ヨウ化ナトリウム共輸送体タンパク質。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の改変ヨウ化ナトリウム共輸送体タンパク質をエンコードするポリヌクレオチドであって、SEQ ID NO. 2、SEQ ID NO. 3、SEQ ID NO. 4、SEQ ID NO. 5、SEQ ID NO. 6、SEQ ID NO. 7、又はSEQ ID NO. 8の核酸配列を含むポリヌクレオチド。
【請求項9】
SEQ ID NO. 2の核酸配列を含む請求項8に記載のポリヌクレオチド。
【請求項10】
請求項8又は9に記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
【請求項11】
試験管内の細胞内のヨウ化ナトリウム共輸送体タンパク質の基質を増加させる方法であって、
a)請求項1〜7のいずれかに記載の改変ヨウ化ナトリウム共輸送体タンパク質を試験管内の細胞内に導入することと、
b)該細胞をヨウ化ナトリウム共輸送体タンパク質の1つ以上の基質と接触させることとを含む方法。
【請求項12】
前記改変ヨウ化ナトリウム共輸送体タンパク質は前記細胞内に
a1)請求項1〜7のいずれかに記載の改変ヨウ化ナトリウム共輸送体タンパク質をエンコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターを試験管内の該細胞内に導入するステップと、
a2)該細胞を培養して該改変ヨウ化ナトリウム共輸送体タンパク質を発現させるステップとにより導入され、
該ポリヌクレオチドはSEQ ID NO. 2、SEQ ID NO. 3、SEQ ID NO. 4、SEQ ID NO. 5、SEQ ID NO. 6、SEQ ID NO. 7、又はSEQ ID NO. 8の核酸配列を含む請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記ポリヌクレオチドはSEQ ID NO. 2の核酸配列を含む請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記基質はナトリウムイオン(Na+)、ヨウ化物(I-)、パーテクネート(TcO4-)、パーレネート(ReO4-)、又はアスタチド(At-)である請求項11〜13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記基質はヨウ化物(I-)である請求項11〜14のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−29674(P2012−29674A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−249668(P2010−249668)
【出願日】平成22年11月8日(2010.11.8)
【出願人】(509075457)中國醫藥大學 (11)
【Fターム(参考)】